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JPMA NEWS LETTER 2015 No. 167 Topicsトピックス 長崎大学熱帯医学研究所における感染症研究およびフィールド研究の現状 1/7 当日の司会進行は、製薬協 広報委員会 コミュニケーション推進部会の古賀貞一郎広報委員が務め、冒頭の髙田義博広 報委員長のあいさつと謝辞の後、長崎大学熱帯医学研究所 所長の森田公一氏を皮切りに、下記の先生方から、それぞれ の専門分野について講演いただき、講演後、同研究所の施設を見学しました。 以下に、その概要を紹介します。 (1)長崎大学熱帯医学研究所の研究および活動概要 長崎大学熱帯医学研究所 所長 森田 公一 主な沿革 1942年(昭和17年) 長崎医科大学附属東亜風土病研究所として設立。 1967年(昭和42年) 熱帯医学研究所に改称。 1993年(平成5年) 世界保健機関(World Health Organization, WHO)研究協力セン ターに指定。 2009年(平成21年) 全国共同利用・共同研究拠点:熱帯医学研究拠点に認定。 基本認識 熱帯地域に存在する複雑な自然・社会環境が、熱帯病をはじめとする錯綜した健康問題を引き起こし続けています。国際 2014年度の製薬協プレスツアーは、2015年2月27日、「科学的な発見と応用で世界の保健医療問題を解決する」を標 榜する長崎大学熱帯医学研究所を訪れ、同研究所における感染症研究およびフィールド研究に関する最新情報を取 材しました。なお、本ツアーは、先に(2015年2月5日)開催された製薬協メディアフォーラム「熱帯感染症と製薬企業 の取り組み顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、NTDs)、エボラ出血熱、三大感染症」との連携 を図った企画です。このプレスツアーには業界紙や一般紙の記者11名と製薬協関係者20名が参加しました。 Topics |トピックス 2015年5月号 No.167 J P M A N E W S L E T T E R 長崎大学熱帯医学研究所における 感染症研究およびフィールド研究の現状 館銘板

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JPMA NEWS LETTER 2015 No. 167 Topics|トピックス 長崎大学熱帯医学研究所における感染症研究およびフィールド研究の現状 1/7

 当日の司会進行は、製薬協 広報委員会 コミュニケーション推進部会の古賀貞一郎広報委員が務め、冒頭の髙田義博広報委員長のあいさつと謝辞の後、長崎大学熱帯医学研究所 所長の森田公一氏を皮切りに、下記の先生方から、それぞれの専門分野について講演いただき、講演後、同研究所の施設を見学しました。  以下に、その概要を紹介します。

(1)長崎大学熱帯医学研究所の研究および活動概要長崎大学熱帯医学研究所 所長  森田 公一 氏

主な沿革1942年(昭和17年) 長崎医科大学附属東亜風土病研究所として設立。1967年(昭和42年) 熱帯医学研究所に改称。1993年(平成5年) 世界保健機関(World Health Organization, WHO)研究協力セン

ターに指定。2009年(平成21年) 全国共同利用・共同研究拠点:熱帯医学研究拠点に認定。

基本認識 熱帯地域に存在する複雑な自然・社会環境が、熱帯病をはじめとする錯綜した健康問題を引き起こし続けています。国際

2014年度の製薬協プレスツアーは、2015年2月27日、「科学的な発見と応用で世界の保健医療問題を解決する」を標榜する長崎大学熱帯医学研究所を訪れ、同研究所における感染症研究およびフィールド研究に関する最新情報を取材しました。なお、本ツアーは、先に(2015年2月5日)開催された製薬協メディアフォーラム「熱帯感染症と製薬企業の取り組み̶顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、NTDs)、エボラ出血熱、三大感染症̶」との連携を図った企画です。このプレスツアーには業界紙や一般紙の記者11名と製薬協関係者20名が参加しました。

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交流の進展が著しい今日、これらの問題は世界的な視野に立って解決されなければなりません。

ミッション 熱帯病の中でも最も重要な領域を占める感染症を主とした疾病と、これに随伴する健康に関する諸問題を克服することを目指し、関連機関と協力して以下の項目の達成を図ります。1. 熱帯医学および国際保健における先導的研究2. 研究成果の応用による熱帯病の防圧ならびに健康増進への国際貢献3. 上記に係る研究者と専門家の育成

特徴1. アジア・アフリカに研究拠点をもっていること。● ケニア・ナイロビ市のケニア中央医学研究所(Kenya Medical Research Institute、KEMRI) 「共同利用・共同研究拠点制度による国際的展開」 ● ベトナム・ハノイ市の国立衛生疫学研究所(National Institute of Hygiene and Epidemiology, NIHE) 「J-GRID(感染症研究国際ネットワーク推進プログラム)」 ※2015年4月「感染症研究国際展開戦略プログラム」に移行2. 病原体管理区域に設置した先進の解析装置を所有していること。● 感染症分子イメージング基盤システム 

11年間(2003年~2014年)の取り組み 熱帯感染症教育研究拠点構築へ1. グローバルスタンダードによる人材育成システムの構築● 21世紀COEプログラム:熱帯病・新興感染症の地球規模制御戦略拠点● グローバルCOEプログラム:熱帯病・新興感染症の地球規模統合制御戦略拠点● リーディング大学院プログラム:熱帯病・新興感染症のグローバルリーダーの養成コース2. 海外教育研究拠点と全国共同利用研究所機能の充実● ベトナム拠点● ケニア拠点● 全国共同利用・共同研究拠点:熱帯医学研究拠点

将来整備構想1. 熱帯医学校構想2015年10月1日 熱帯医学・グローバルヘルス研究科開校(学生受入)予定

(基本理念)● 21世紀、地球規模の健康課題が「グローバルヘルス」という統合課題領域として浮上してきた。● グローバルヘルス領域の課題を解決し、国際的に活躍できる人材を養成することが急務となっている。● これに対応するために、熱帯医学・グローバルヘルス研究科を設置。

(代表的な研究成果)● 東南アジアから東アジア、日本本土へ日本脳炎ウイルスが長距離移動していることを発見した。● インド洋ダイポールモード現象(気候変動)によりアフリカで熱帯病(マラリア、リフトバレー熱、コレラ)の増加● ナノボールDNAワクチン技術の開発

研究の展開(1) アフリカにおける熱帯病大型研究プロジェクト(社会実装を目指す) 研究の展開(2) 産学国際組織が連携したNTDs創薬研究コンソーシアム

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2. 高度安全実験(BSL-4)施設を含む世界レベルの熱帯病・新興感染症研究拠点の構築 病原体・感染症研究に実績のある10研究機関で、日本学術会議における学術大型研究計画に申請し、2014年2月にマスタープランの重点大型研究計画に採択され、同年8月には文部科学省におけるロードマップ2014の新たなロードマップとして掲載する10計画に選定されました。

(2)熱帯医学研究所のフィールドにおける活動1. 「ケニアにおける黄熱病およびリフトバレー熱に対する迅速診断法の開発と  そのアウトブレイク警戒システムの構築プロジェクト」 (SATREPS事業)長崎大学熱帯医学研究所 ウイルス学分野 教授  森田 公一 氏

背景 アルボウイルス感染症は熱帯地域の重大な健康問題であり、その多くはNTDsです。デング熱は年間1億人が発症しています。 黄熱、リフトバレー熱は熱帯アフリカの国際感染症であり、交通・貿易拡大・気候変動により域外への拡大が懸念されます。 これらは、人獣共通感染症であるため制圧は難しく、早期封じ込めが費用対効果の

面から現実的であり、簡易迅速診断手法の開発と対応システムの構築が必要な状況にあります。  相手国のニーズ NTDsには商業ベースで供給される安価なPoint Of Care testing(POC testing)がないことに加え、熱帯アフリカには、先進国モデルの警戒システム導入に対応できるインフラがありません。 そのため、適正技術に基づく安価で特異度・感度に優れた診断手法の普及と開発途上国の社会インフラに沿った持続可能な警戒システムモデルが必要となります。

研究の目的1. 長崎大学に蓄積された科学技術(シーズ)を応用し、ケニアで社会的ニーズの高い、安価でフィールドや地方の診療所でも利用できる適正技術で生産できる簡易迅速手法、ベッドサイドで使えるキットを開発する。2. 利用可能なインフラで運用できる、自立/持続的なアウトブレイク早期警戒システムを、アフリカで普及している携帯電話網を利用して構築することにより、熱帯アフリカのアルボウイルス感染症対策モデルを提唱する。

研究の概要1. 科学技術開発(キットの開発)適正技術を用いて産生できる診断用可溶化抗原の開発2. 社会技術開発携帯電話網を利用したアウトブレイク時の早期警戒ネットワークの構築(mHealth)(アフリカでは、電気が引かれていない家でも、最寄の店で充電することで、携帯電話を使える環境にあるため、2013年3月末時点の携帯端末の人口カバレッジは約95%、2013年9月末時点の普及率は72.8%と高い)

SATREPS事業の実施項目Output-1 : 迅速診断法の開発(大腸菌発現系による可溶化抗原の開発)      →援助ベースから商業ベースの供給を図る。それに向けたISO取得。Output-2 : レファレンス機能の強化      →技術移転、診断法の開発。ケニア人がケニアで解析できるようにする。Output-3 : 携帯電話網により早期警戒システムモデルの構築(mSOS)

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      →紙ベースでなく、即時にデータを双方向で送信。サイエンスのエビデンスを付加してフィードバックする(どこで何が起こっているのかすぐわかるシステム)。

(想定外の波及効果)1.日本で発生した類似ウイルス感染症である重症熱性血小板減少症候群(Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus、SFTS)について血清診断法の確立のため、リフトバレー熱ウイルスの組み換えNタンパクを用いたELISA法の成果を応用。  2. mSOSのエボラ対策への緊急応用ケニアの空港や病院で使えるように改良し、実際に運用を開始。 

将来展望 理解者、協力者の連携のもと、市場での展開、社会実装や普及を図り、PPP東アフリカ同盟地域でのPOC testing販売について、KEMRI関連会社への委託を目指します。

2. 「アフリカのマラリアおよびデング熱媒介蚊の生態と対策」長崎大学熱帯医学研究所 病害動物学分野 教授  皆川 昇 氏

気候変動とマラリア流行の関係 1990年代に、東アフリカの標高1500mの高地を中心にマラリアが流行した当時は、温暖化、エルニーニョが原因と考えられていました。その後、日本海洋研究開発機構(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology、JAMSTEC)が西インド洋の海水面の温度が上がるダイポールモード現象を発見し、東アフリカでは、亜熱帯ダイポールモード現象の影響によって水蒸気が多く発生し、雨を降らせ、洪水が起こるという一連の気候変動が、マラリアの流行に影響していることを解明しました。 これまでも、雨が降れば、マラリアが流行することは、経験的にわかっていました

が、発展途上国では、1ヵ月程度の経験値による予測では、短すぎるし、信頼性にも問題がありました。その点を補うべく、気候変動予測モデルをもとに、もっと前から感染症流行の長期予測ができるようになれば、余裕をもって、薬の備蓄や配布が可能となり、対象地域に対応措置を取れるようになります。

新型オリセット蚊帳を使った介入研究 殺虫剤付き蚊帳は、効果があることがわかっていましたが、媒介蚊のほうで殺虫剤に対する抵抗性をもつようになり、その効果が損なわれる可能性が出てきました。そこで、蚊の殺虫剤抵抗性を損なうような成分を含んだ新しいオリセット蚊帳を使った介入試験を行い、子どものマラリア感染を減らす効果があることを確かめました。ところが、現地の生活環境を調べると、年齢とともに、親から離れて床に寝るようになり、蚊帳の外に出てしまうことで、感染率が高くなることが問題となっています。そこで、蚊が天井で休む習性を利用した天井に取り付けられるオリセット蚊帳を開発して介入試験を行ったところ、従来の蚊帳の外で寝る子どもの感染を長期に低く抑えることができました。

デングウイルス媒介蚊研究 昨年、東京で発症が確認され、大きな騒ぎとなったデング熱の媒介蚊といわれるヒトスジシマカは、日本でも生息しています。60年前には関東が北限でしたが、近年、青森まで生息地を広げており、温暖化の影響であると考えられています。アジア起源ですが、物流のグローバル化により世界各地に分布を広げています。 一方、ネッタイシマカは、アフリカ起源ですが、人の移動で熱帯地方を中心に世界各地に分布を広げており、台湾の南部にまで定着しています。東南アジアでは、ヒトスジシマカよりも都市環境に適応しており、人口密集地に生息し、感染能力も高く、より危険な蚊といわれています。そのため、ウイルスをもって日本に入った場合のリスクなどを想定しています。なお、国内ではすでに空港で発見されています。

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 これらに対し、日本および現地での対策に活かすための、J-Grid拠点ネットワークを利用し、世界各地に生息するデング熱ウイルス媒介蚊の分布、殺虫剤抵抗性、蚊細胞内でのウイルスの繁殖度、遺伝情報など、その特性に関する観測を実施しています。

3. 「複数の顧みられない熱帯病に対する一括診断技術開発と広域的監視網の整備」長崎大学熱帯医学研究所 生態疫学分野 教授  金子 聰 氏

顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases、NTDs)とは 熱帯地域の貧困層を中心に蔓延している感染症のことであり、世界で10億人以上がその脅威にさらされています。WHOの統計では、現在、149の国と地域で流行しており、少なくとも100の地域で2つ以上のNTDsが、30ヵ国で6つ以上のNTDsが蔓延しているといわれています。 1998年にイギリス・バーミンガム市で開催されたG8サミットでの橋本龍太郎首相(当時)による国際寄生虫対策イニシアチブ(橋本イニシアチブ)の提唱を契機に、問題解決に向けた国際的な取り組みが始まりました。

対策の進展状況 対策は進みつつありますが、その評価のためのモニタリングシステムが確立していません。いくつかのNTDsは、地理的分布も重複して発生していることから、1度にまとめて、複数の感染症をモニターできないものだろかということで、2009(平成21)年度~2011(平成23)年度、科学技術戦略推進費「アジア・アフリカ科学技術協力の戦略的推進」(国際共同研究の推進プログラム)として、さらには、2012(平成24)年度~2016(平成28)年度、先導的創造科学技術開発費補助金「途上国におけるイノベーションを促進する国際協力の戦略的推進プログラム」に採択されたアフリカにおけるNTDs対策に資する多重感染症の一括診断法の開発と監視網の整備に関する研究を行っています。

MULTIPLEX ASSAY(マルチプレックス・アッセイ) 一括診断法の原理は、1つのたんぱく質(抗原)を1つのビーズに固定するものであり、 血清中の抗体とビーズ上の抗原の結合、洗浄、蛍光抗体との結合、洗浄によって、抗体をたくさんもつ血清と、抗体をもたない血清を作り出し、レーザービームの照射によって、赤いビームでビームの色を、緑のビームで蛍光量を測定し、診断を行うものです。 実践の模様として、ケニア共和国のスバ地区ならびにクワレ地区におけるヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)やフィラリアなど、代表的な6つの感染症の感染割合に関する実地調査と評価について紹介がありました。

MULTIPLEX ASSAYのPhase IIの事業デザイン1. 一括同時診断技術開発のアフリカ・ラボ拠点の整備● ナイロビに分子生物学的開発を可能とするラボ整理完了● 対象病原体の追加● 1病原体複数抗原化とその評価の実施2. 開発技術を用いた網羅的監視体制の確立と運用の準備● 採血用フィルター紙を用いた調査体制の確立● 地域代表性のある調査システムの確立● 調査の実施(ケニア保健省を主体に実施:ケニア人によるケニア人のための)● 検体の一括同時測定● ケニア以外での調査実施(留学生のネットワークを活用)3. 学校保健を基盤とした村落レベルでの統合的啓発活動の準備● JICA(国際協力機構)の草の根事業地域での学校保健と一括診断の実施

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継続性・拡張性、そのビジョン● 長崎大学の恒常的拠点● 一括診断センター設置(郵送による各地からの検体の受け付け)● アフリカ各国の地域保健対策との連携● 衛星による地球観測データ(DIASなど)との連携により、アフリカ感染症マップの作成を検討

4. 「エボラ出血熱」長崎大学熱帯医学研究所 新興感染症学分野 教授  安田 二朗 氏

西アフリカにおけるエボラウイルス病のアウトブレイクの状況 2014年2月以降、ギニアで59名以上の原因不明死があり、2014年3月22日にエボラ出血熱であることが判明、2014年8月8日WHOによる緊急事態宣言が出されました。2015年2月15日現在の感染者数は2万3253名、死者数は9380名に上っています。 この感染症の初期症状は、インフルエンザ様(発熱、倦怠感、筋肉痛、頭痛)であり、その後顔面・胸部の紅潮、点状出血、浮腫、低血圧、ショック、嘔吐、下痢などの症状が現れ、重症化すると多臓器不全や出血性ショックなどにより死に至ります。感染経路は空気感染ではなく、一般に血液、体液、排泄物への直接接触によって感染しま

す。治療法については、特効薬、ワクチンはなく、対症療法(経口補液、点滴、栄養剤、昇圧剤などの投与)で回復することもありますが、致死率は25~90%です。 エボラウイルスによる感染症で、エボラウイルス属にはザイール、スーダン、タイフォレスト、ブンディブギョ、レストン(ヒトに非病原性)の5種が存在します。形態は、糸状で直径80nm、長さ800~1,000nmです。自然宿主は、オオコウモリと考えられております。潜伏期間2~21日といわれています。

野生動物におけるエボラウイルスの感染 チンパンジー、ゴリラ、サル、レイヨウ、ヤマアラシなどの野生動物の感染例が報告されており、2002~2005年には、5,500頭の西ローランドゴリラが、エボラ出血熱で死んでいます。

エボラウイルス検出法 検出法には、血清学的検出法と病原学的検査法があります。遺伝子検出を原理とするRT-PCR (Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction)法やRT-LAMP (Reverse Transcription - Loop - mediated isothermal Amplification)法、抗ウイルス抗体を検出する間接蛍光抗体法が日本の研究者によって開発されています。特に、LAMP法は、簡便・迅速かつ安価に検査できます。

今、話題になっている開発中の抗エボラウイルス薬● ZMapp カナダ、アメリカのグループが開発した抗体医薬品で、タバコの葉の細胞で作った3種のヒト化モノクロナール抗体のカクテル。西アフリカで感染したアメリカ人医療従事者2名に投与。経静脈投与。現時点では未承認薬。

● ファビピラビル 日本の製薬メーカー富山化学工業が開発した抗インフルエンザウイルス薬。副作用、催奇形性あり。日本のみ抗インフルエンザ薬として承認。抗エボラウイルス薬としては未承認。

ウイルスの増殖機構 エボラウイルス、マールブルグウイルス、ラッサウイルスなど高病原性ウイルスの多くは同一の機構で感染細胞から放出

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されます。ウイルス増殖後期過程を標的とした薬剤としては、インフルエンザに対するオセルタミビルリン酸塩、ザナミビル水和物、ヒト免疫不全ウイルス1型(Human Immunodeficiency Virus-type 1、HIV-1)に対するプロテアーゼ阻害剤などの有効性が臨床レベルで示されています。 したがって、ウイルス増殖後期過程を標的とした抗ウイルス戦略は有効であると考えられることから、感染細胞からのウイルス放出機序の解析、ウイルス放出を阻害する薬剤の探索と治療法の開発を行っています。ウイルス出芽、多胞体エンドソーム(Multivesicular body、MVB)形成、細胞質分裂は、いずれも細胞質側から膜の反対側に小胞を形成するという点は位相学的には同じであり、多くの共通する細胞性因子を利用します。

エボラウイルス、ラッサウイルスの増殖を阻害する化合物の探索 長崎大学熱帯医学研究所は、同大学医歯薬学総合研究科 創薬研究教育センターとの間で、研究グループを組織し、同大学先端研究センターの創薬専門スーパーコンピュータDEGIMA-2(2009、2010年、ゴードン・ベル受賞)を駆使し、東京大学創薬オープンイノベーションセンターの化合物ライブラリーとの連携によって、対象となる化合物の探索を行っています。

(3)施設見学 長崎大学熱帯医学研究所 ウイルス学分野 助教の早坂大輔氏による「BSL-3研究室」の説明と長崎大学熱帯医学研究所 熱帯医学ミュージアム 教授の堀尾政博氏による「熱帯医学ミュージアム」の紹介と長崎大学BSL-4施設設置の試みについての説明がありました。

(広報委員会 コミュニケーション推進部会 中野 晴之)

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熱帯医学ミュージアム内部

BSL-3研究室を案内する早坂大輔氏

熱帯医学ミュージアム内を案内する堀尾政博氏