8
(26) 大腸癌に対するマルチスライス CT の活用 ―スクリーニングから術前シミュレーションまで― 要旨:マルチスライス CT の登場により時間分解能,空間分解能が飛躍的に向上し,得られた大量の薄 いスライスデータから再構成される 3 次元画像は,さまざまな領域の診断,治療支援に多くの恩恵が もたらされた.大腸領域では,CT colonography(CTC)の精度が目覚しく向上し,欧米を中心に大 腸癌のスクリーニング法として開発され,最近本邦においても注目されている.さらに大腸癌に対して 腹腔鏡下手術の適応が拡大している今日,マルチスライス CT によって精度の増した 3D-CT angio- graphy(3D-CTA)は,バリエーションに富む動静脈を非侵襲的に描出し,腹腔鏡下大腸癌手術前の マッピングとして活用されている. 索引用語:大腸癌,マルチスライス CT,3 次元画像,CT colonography,3D-CT angiography はじめに マルチスライス CT の登場により時間分解能, 空間分解能が飛躍的に向上し,得られた大量の薄 いスライスデータから再構成される 3 次元画像 は,さまざまな臨床の場で広く活用されている. 大腸癌に対する3次元画像の主な活用にCT colonography(CTC)と 3D-CT angiography(3D- CTA)のふたつがある.CTcolonography(CTC) は,1994 年に Vining ら によって最初に報告さ れて以降,欧米で開発され,最近,米国において American College of Radiology Imaging Network (ACRIN 6664)による 15 施設,2531 症例を対象 とした大規模臨床試験(National CT colonogra- phy Trial) によって,10mm 以上,7~10mm 大 のポリープに対する CTC の検出感度がそれぞれ 90%,84% で,内視鏡検査に匹敵する診断能で あることが示され,本邦においても注目されて いる. また,大腸癌に対する腹腔鏡下手術は,低侵襲 手術として,その適応は拡大している.しかし, 腹腔鏡下の操作のため術野全体を捉えることが困 難で,直接臓器に触ることができないといった欠 点を有し,解剖学的誤認による血管,周囲臓器へ の損傷を引きおこす危険性がある.よって,バリ エーションに動静脈を非侵襲的に描出する 3D- CT angiography を大腸癌の術前マッピングとし て有用である.本稿では,大腸癌に対するCT colonography と CT angiography の活用の現状 と将来展望について述べる. I CT colonography について 1.CTC の基本 前処置の腸管洗浄の方法として,① X 線注腸 造影検査前に行われる低残渣食と下剤の内服によ る方法(ブラウン変法)あるいは ②大腸内視鏡 今月のテーマ●消化器疾患診療の新しいモダリティー 1)大阪医科大学放射線医学教室 Utilization of multislice CT for the colorectal cancer―from screening to preoperative simulation― Mitsuru MATSUKI, Shuji KANAZAWA, Yuki INADA, Go NAKAI, Fuminari TATSUGAMI and Yoshifumi NARUMI 1)Department of Radiology, Osaka Medical College Corresponding author:松木 充([email protected]日消誌 2010;107:718―725

大腸癌に対するマルチスライスCTの活用 ―スクリーニングか …221.114.158.246/~bunken/CTCdaityougan.pdf90%,84%で,内視鏡検査に匹敵する診断能で

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大腸癌に対するマルチスライスCTの活用

―スクリーニングから術前シミュレーションまで―

松 木 充 金 澤 秀 次 稲 田 悠 紀中 井 豪 立 神 史 稔 鳴 海 善 文1)

要旨:マルチスライスCTの登場により時間分解能,空間分解能が飛躍的に向上し,得られた大量の薄いスライスデータから再構成される3次元画像は,さまざまな領域の診断,治療支援に多くの恩恵がもたらされた.大腸領域では,CT colonography(CTC)の精度が目覚しく向上し,欧米を中心に大腸癌のスクリーニング法として開発され,最近本邦においても注目されている.さらに大腸癌に対して腹腔鏡下手術の適応が拡大している今日,マルチスライスCTによって精度の増した3D-CT angio-graphy(3D-CTA)は,バリエーションに富む動静脈を非侵襲的に描出し,腹腔鏡下大腸癌手術前のマッピングとして活用されている.

索引用語:大腸癌,マルチスライスCT,3次元画像,CT colonography,3D-CT angiography

はじめにマルチスライスCTの登場により時間分解能,

空間分解能が飛躍的に向上し,得られた大量の薄いスライスデータから再構成される 3次元画像は,さまざまな臨床の場で広く活用されている.大腸癌に対する 3次元画像の主な活用にCTcolonography(CTC)と 3D-CT angiography(3D-CTA)のふたつがある.CT colonography(CTC)は,1994 年に Vining ら1)によって最初に報告されて以降,欧米で開発され,最近,米国においてAmerican College of Radiology Imaging Network(ACRIN 6664)による 15 施設,2531 症例を対象とした大規模臨床試験(National CT colonogra-phy Trial)2)によって,10mm以上,7~10mm大のポリープに対するCTCの検出感度がそれぞれ90%,84%で,内視鏡検査に匹敵する診断能であることが示され,本邦においても注目されて

いる.また,大腸癌に対する腹腔鏡下手術は,低侵襲

手術として,その適応は拡大している.しかし,腹腔鏡下の操作のため術野全体を捉えることが困難で,直接臓器に触ることができないといった欠点を有し,解剖学的誤認による血管,周囲臓器への損傷を引きおこす危険性がある.よって,バリエーションに動静脈を非侵襲的に描出する 3D-CT angiography を大腸癌の術前マッピングとして有用である.本稿では,大腸癌に対するCTcolonography と CT angiography の活用の現状と将来展望について述べる.

I CT colonography について1.CTCの基本前処置の腸管洗浄の方法として,①X線注腸

造影検査前に行われる低残渣食と下剤の内服による方法(ブラウン変法)あるいは ②大腸内視鏡

今月のテーマ●消化器疾患診療の新しいモダリティー

1)大阪医科大学放射線医学教室Utilization of multislice CT for the colorectal cancer―from screening to preoperative simulation―Mitsuru MATSUKI, Shuji KANAZAWA, Yuki INADA, Go NAKAI, Fuminari TATSUGAMI and Yoshifumi NARUMI1)

1)Department of Radiology, Osaka Medical CollegeCorresponding author:松木 充([email protected]

日消誌 2010;107:718―725

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平成22年 5 月 719

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Figure 1. fly through法とvirtual gross pathology:視点を自動的に管腔のセンターラインに選択し,オートパイロットで観察するfly through法(a)と大腸の内腔表面をMercator法のように展開するvirtual gross pathology(c)によって2型大腸癌が指摘され,内視鏡(b)にて同様の所見が確認される.

c

a b

Figure 2. a:fly through法. b:band-view法:視点を腸壁に対して90度の垂直な角度に設定し,回転しながら大腸の内腔をパノラマ状に展開する方法で,ポリープは歪みなく,描出される. 

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720 日本消化器病学会雑誌 第107巻 第 5号

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Figure 3. CAD(computer-aided detection;コンピュータ支援検出):I Ia+I Ic表面隆起型病変がCAD解析によって緑色のポイントで検出され(a),内視鏡によって確認される(b). ※症例は国立がんセンター中央病院放射線診断部/飯沼 元先生のご厚意による.

a b

検査前に行われる腸管洗浄液(polyethylene gly-col(PEG)electrolyte lavage solution;ニフレック)の内服による方法に分けられる.また検査直前に大腸内腔を拡張させる方法として,エネマシリンジを用いて経肛門的に空気を用手的に注入してきた.しかし,この方法では一度にまとまった量の空気が注入されるため腹痛が生じ,また検査後も拡張が持続するため腹満や腹痛が持続し,被検者の検査へのコンプライアンスを低下させる要因となっていた.そこで,最近では腸管からの吸収の早い炭酸ガスを自動注入器によって一定圧で緩やかに持続注入する方法が注目されている.撮影は,通常仰臥位および腹臥位の 2体位にて行われ,得られたスライスデータを横断像,multipla-nar reformation(MPR)像といった 2次元画像あるいは仮想内視鏡画像に代表される 3次元画像で読影を行う.仮想大腸内視鏡には,主に 2パターンあり,ひとつは観察する視点を自動的に管腔のセンターラインに選択し,オートパイロットで観察する fly through 法がある(Figure 1a,2a).しかし,この方法は,襞裏の病変を検出するため直腸から口側方向への観察と盲腸から肛門側方向への観察の 2方向が必要で,読影に時間がかかり,折れ曲がっている部分,襞と襞の間といった観察しにくい部位が生じ,病変の見逃しの原因となる.もうひとつは大腸の内腔表面をMercator法のように展開する virtual gross pathology,vir-

tual colon dissection がある(Figure 1c).この方法にも欠点があり,腸管が折れ曲がった部分に隠れた見えない領域があること,また管腔構造を平面に無理やり展開することによって歪みが生じ,病変の形態,サイズに誤差が生じ,病変の見逃しの原因となる.そこで,最近,多くの表示法が開発され,その

ひとつに band-view 法(Figure 2b)といわれる新しい表示法がある3).従来の fly through 法は,視点が管腔のセンターラインに選択し,腸壁に対して平行で進んでいたが,band-view 法は,視点が腸壁に対して 90̊ の垂直な角度で回転しながら大腸の内腔をパノラマ状に観察することによって展開し,歪みは全くなく,さらに一方向のみで観察することができ,読影時間の短縮に貢献することができる3).2.fecal tagging(残渣マーキング),electroniccleansing(電子洗浄法)

通常の腸管洗浄では,残便と病変の鑑別が困難になる場合,あるいは残液により病変が埋没し,認識できない場合がある.そのため検査前に陽性造影剤を飲用することにより,腸管内容液を高吸収域として標識し(=タグを付ける),標識されないポリープ,癌といった病変と区別する fecaltagging が行われている.良好な fecal tagging を行うためには,如何にして残液を均一な高吸収として描出するかである.これにはバリウムあるい

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平成22年 5 月 721

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Figure 4. 3D-CT angiograpy(a)と術中写真(b) a:3D-CT angiographyは,上腸間膜静脈(SMV)の腹側を走行する回結腸動脈(ICA)(type A)を明瞭に描出する. b:3D-CT angiographyをもとにして回結腸動脈の背側を走行する回結腸静脈枝や上腸間膜静脈本幹を注意して回結腸動脈を分離し,根部で結紮する. MCA;中結腸動脈,MCA-rt;中結腸動脈右枝,GCT;ヘンレの胃結腸静脈幹,ICV;回結腸静脈,ARCV;副右結腸静脈.

b

a

はイオン性ヨード造影剤(ガストログラフィンなど),非イオン性ヨード造影剤を服用させる方法など多く検討されている.最近では,高吸収域として標識された腸管内容

液を画像処理し,消去することによって腸管内腔の粘膜面を観察するといった electronic cleansingが開発されている.この処理を行えば,腸管内容液に埋没した病変も仮想内視鏡によって検出することができる.3.CAD(computer-aided detection;コンピュータ支援検出)

CTCでは大量の 3次元画像を読影するため,読影に時間を要すること,診断医による病変の検出能にばらつきがあることが,問題視されている.よって,診断能を保ちながら効率的に検出する方法としてCADが注目されている.CTCにおけるCADの手順は,fecal tagging によって認識された残液を electronic cleansing で除去した後,大腸壁を抽出し,内腔に突出する構造物である半月襞,残渣,大腸ポリープなどを検出し,特殊な画像解析アルゴリズムによって大腸ポリープのみを検出する.さまざまな画像解析アルゴリズムが開発されているが,たとえば大腸の粘膜面の

カーブをベクトル解析し,spherical index(球形度)と呼ばれる画像解析アルゴリズムによって,半球状のポリープのみを自動検出する方法がある.CADにおけるポリープの検出能は,10mm以上では約 90~95%,8mm以上では約 85~90%,6mm以上では約 75~80%であり4),前述のACRINによる大規模臨床試験の結果とほぼ同等であった.CADを用いることによって読影時間が短縮するという報告,またCADの結果をセカンドリーダーとして用いた場合,ポリープの検出能が向上し,特にCADを用いることによって非熟練者による検出能が熟練者のレベルまで達するという報告がみられる.欧米では,腺腫癌化説(adenoma-carcinoma se-

quence)に基づき,大腸癌スクリーニングの対象は,主に大腸ポリープとされ,CTCによるポリープの検出が検討されてきた.今まで表面平坦型,表面陥凹型といった表面型大腸癌は日本特有の病変として軽視されてきたが,Soetikno ら5)が2008 年に雑誌The Journal of the AmericanMedical Association(JAMA)にて表面型病変を取り上げ,米国でも決してまれな病変でなく,特に既往歴,家族歴に大腸腫瘍を有する患者に多く

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722 日本消化器病学会雑誌 第107巻 第 5号

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Figure 5. 3D-CT angiography(a)と術中写真(b) a:3D-CT angiographyは,第1S状結腸動脈(S1)が左結腸動脈(LCA)と共通幹を形成し,S1がS状結腸進行癌を支配しているのを良好に描出する. b:3D-CT angiography の所見のもと第1S状結腸動脈(S1)根部のみを的確に処理することによって左結腸動脈(LCA)および上直腸動脈(SRA)を温存することができる. IMA;下腸間膜動脈.

a

b

みられ,癌の合併率が高いと報告された.それ以降,表面型病変は欧米でも注目され始め,CTCによる表面型病変の検出も重要視されてきた.国立がんセンターとロンドン大学の共同研究では早期大腸癌 30 病変に対してCADの検出能が検討された6).その結果では,隆起型(Ip,Isp,Is)の検出率は 100%であったが,表面隆起型は 70%程度であり(Figure 3),検出アルゴリズムのさらなる改良が必要と思われた.II 腹腔鏡下大腸癌手術前の 3D-CT angio-graphy の活用

1.背景腹腔鏡下手術は,開腹手術に比べ低侵襲であ

り,胆囊摘出術を中心に普及してきた.内視鏡による拡大視効果によって細かい作業が可能になり,小さな術創のため術後疼痛や運動制限を軽減し,美容上も優れているといった利点を有する.さらに,病変部以外の腸管露出がほとんどないことも加わって,腸蠕動が術後早期に回復し,経口摂取も早く開始でき,癒着のリスクも減少する.これらによって,入院期間の短縮と早期の社会復帰といった大きな恩恵がもたらされた.しかし一方,腹腔鏡下の操作のため術野全体を捉えることが困難で,直接臓器に触ることができないといった欠点を有し,解剖学的誤認による血管,周囲臓

器への損傷を引きおこす危険性がある.よって,バリエーションに富んだ動静脈を非侵襲的に描出する 3D-CT angiography は,大腸癌の術前マッピングとして有用である.適応は一般的に結腸癌およびRS直腸癌に対するD2以下とされているが,当院では癌手術の基本を遵守しながら適応を徐々に拡大し進行癌に対してもD3を含めた腹腔鏡下結腸切除術を施行している.2.CT撮影方法マルチスライスCTを用い,造影剤を急速注入

後に動脈相,静脈相を撮影し,場合によっては排泄相を追加する.これによって得られたスライスデータより 3D-CT angiography を作成する7)8).対応すべき血管である上腸間膜動脈,下腸間膜動脈およびそれらの分枝にはバリエーションが多く,同時に上腸間膜静脈,下腸間膜静脈,性腺静脈,尿管との多彩な位置関係が腹腔鏡下での動脈根部,静脈の処理,リンパ節郭清を困難なものとする.よって,術前に 3D-CT angiography によって大腸に関与する動脈,静脈,尿管の位置関係を知ることは,安全かつ迅速な手術の遂行に有用である.2.3D-CT angiography の活用法の実際1)盲腸癌,上行結腸癌に対して進行癌の 3群リンパ節郭清では surgical trunk

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平成22年 5 月 723

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Figure 6. 大腸癌に対するUSPIOを用いたリンパ節診断 a:USPIO静注前T2*強調画像,b:USPIO静注後T2*強調画像. USPIO静注前T2*強調画像(a)にて,結腸傍リンパ節(矢印)を認め,USPIO静注後(b)にリンパ節の信号低下を認めず,転移と診断する.一方,大動脈周囲リンパ節(矢頭)の信号低下を認め(b),非転移と診断する.

ba

に沿って回結腸動脈根部から中結腸動脈根部までのリンパ節を郭清して血管を処理する必要がある.その郭清時に注意すべきポイントとして,a)上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈の有無と b)回結腸動脈と上腸間膜静脈の位置関係がある.つまり上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈を認めない場合(Figure 4a)は,回結腸動脈根部を郭清した後,上腸間膜動脈に沿って中結腸動脈根部まで迅速に郭清を進めることができる.しかし上腸間膜動脈より直接分岐する右結腸動脈を認める場合,回結腸動脈,右結腸動脈分岐部を同定,切離した後,中結腸動脈根部まで enbloc に郭清する.また回結腸動脈が上腸間膜静脈の腹側を走行する場合(type A),回結腸動脈根部の処理の際,その背側を走行する回結腸静脈枝や上腸間膜静脈本幹の損傷に注意して正確に回結腸動脈根部を処理する必要がある.しかし,回結腸動脈が上腸間膜静脈の背側を走行する場合(type B),上腸間膜静脈背側の回結腸動脈に沿った綿密なリンパ節郭清が必要となる.3D-CTangiography は,上腸間膜動脈から直接分岐する右結腸動脈の有無,回結腸動脈と上腸間膜静脈の位置関係の把握に有用である.2)横行結腸癌に対して左側結腸曲進行癌は通常中結腸動脈左枝より栄

養を受けているため,左半結腸切除に際し中結腸動脈,中結腸動脈左枝を結紮,処理する.しかし,

まれに副左結腸動脈によって支配されている場合,副左結腸動脈のみを処理することによって中結腸動脈を温存することができる.3D-CT angio-graphy は副中結腸動脈の同定に有用である.3)S状結腸~直腸進行癌に対してS状結腸~直腸進行癌の 3群リンパ節郭清の際

し,本邦では S状結腸が長い人が多く,正常腸管を長く温存しつつ残存腸管や吻合部への血流を維持して縫合不全を予防するため,われわれは左結腸動脈などを温存したリンパ節郭清を行っている.S状結腸動脈の本数,分岐パターンにはバリエーションがあり,a)S状結腸動脈が左結腸動脈より分岐するパターン,b)左結腸動脈と同時に下腸間膜動脈より分岐するパターン,c)上直腸動脈より分岐するパターンに分類される.たとえば S状結腸進行癌 3群リンパ節郭清症例(Fig-ure 5)で,第 1S状結腸動脈が左結腸動脈(LCA)より分岐し,腫瘍を支配していることを術前に把握することができれば,中枢側リンパ節郭清を下腸間膜動脈根部より第 1S状結腸動脈まで en blocに行い,第 1S状結腸動脈根部のみを処理し,左結腸動脈,上直腸動脈を温存することができる.さらに下腸間膜静脈を処理する際,近傍を走行する左結腸動脈を損傷させないよう注意する必要がある.また S状結腸動脈根部処理の際,近傍を走行する尿管を,下腸間膜動脈に沿った 2群リンパ節を郭清する際,近傍を走行する性腺静脈を損

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724 日本消化器病学会雑誌 第107巻 第 5号

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Figure 7. virtual CT laparoscopy with individual lymph nodes dissection:進行癌症例で,通常では下腸間膜根部までの3群リンパ節郭清が必要である.しかし,MRIによって精度の高いリンパ節診断が可能になれば,3D-CT angiographyに転移リンパ節(赤:結腸傍リンパ節,青:第1S状結腸リンパ節)の情報を付加することにより個々の症例に合ったテーラーメードのリンパ節郭清を可能にし,3D-CT angiographyはより低侵襲な腹腔鏡下手術に寄与するものとして期待される.

a

b

傷させないように注意する必要がある.3D-CTangiography は腫瘍の支配血管,S状結腸動脈の分岐パターンを明瞭に描出し,さらに下腸間膜動脈,その主要分枝と下腸間膜静脈,性腺静脈,尿管との位置関係を明瞭に描出する.

III 将来展望について大腸癌のリンパ節転移のCT診断は,結腸辺

縁,結腸傍リンパ節については ①長径 1~1.5cm以上のリンパ節,② 1cm以下でも 3個以上集合したものなどが挙げられる.また辺縁の不明瞭なリンパ節,短径�長径比の大きいものも転移を示唆する所見とされているが,これらの診断基準では感度はせいぜい約 45%と決して満足できるものではなく,サイズあるいは形態評価での診断能には限界がある.現在,欧米ではMRI のリンパ節特異性造影剤であるUSPIO(ultra-small super-paramagnetic iron oxide)の有用性が検討されている9).USPIOは,低分子量のデキストランで被覆された酸化鉄製剤で平均粒子径は 30nmより小さく,粒子径が小さいため,リンパ節に多く取り込まれるようになる9).取り込まれたリンパ節は,USPIOによってT2*強調画像で信号が低下し,転移によって貪食能が低下したリンパ節は信号の

低下が乏しく,リンパ節の質的診断に非常に有用である(Figure 6).USPIOを用いた精度の高いリンパ節転移の情報が得られれば,3D-CT angio-graphy に転移リンパ節の情報を付加することによって,個々の症例に合ったテーラーメードのリンパ節郭清も可能になり(virtual CT laparoscopywith individual lymph nodes dissection)(Figure7),より低侵襲な腹腔鏡下手術に寄与するものとして期待される.

おわりにCT colonography は,本邦においても大腸癌ス

クリーニング法として重要視されている.しかし,普及するためには fecal tagging(残渣マーキング),electronic cleansing(電子洗浄法),CAD(computer-aided detection;コンピュータ支援検出)の充実化が不可欠である.また,3D-CT angio-graphy は,腹腔鏡下大腸癌手術を安全かつ迅速に遂行する上で必要不可欠な情報となっている.今後,MRI による精度の高いリンパ節診断が 3D-CT angiography に付加されるとテーラーメードのリンパ節郭清も可能になり,より低侵襲な腹腔鏡下手術に寄与するものとして期待される.

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平成22年 5 月 725

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文 献

1)Vining DJ, Gelfand DW, Bechthold RE, et al:Technical feasibility of colon imaging with helicalCT and virtual reality. AJR 162(suppl) ; 104(abstr) : 1994

2)Johnson CD, Chen MH, Toledano AY, et al : Accu-racy of CT colonography for detection of largeadenomas and cancers. N Engl J Med 359 ; 1207―1217 : 2008

3)Lee SS, Park SH, Kim JK, et al : Panoramic endo-luminal display with minimal image distortion us-ing circumferential radial ray-casting for primarythree-dimensional interpretation of CT colonogra-phy. Eur Radiol 19 ; 1951―1959 : 2009

4)Yoshida H, Nappi J, Rockey DC, et al : Computeraided detection of polyps in CT colonography oflow-prevalence patient cohorts from two large-scale prospective, multi-center clinical trials. Ra-diological Society of North America Scientific As-sembly and Annual Meeting Program, RSNA,Chicago, 202 : 2006

5)Soetikno RM, Kaltenbach T, Rouse RV, et al :Prevalence of nonpolypoid (flat and depressed)colorectal neoplasms in asymptomatic and symp-

tomatic adults. JAMA 299 ; 1027―1035 : 20086)Taylor SA, Iinuma G, Saito Y, et al : CTcolonography : computer-aided detection of mor-phologically flat T1 colonic carcinoma. Eur Radiol18 ; 1666―1673 : 2008

7)Matsuki M, Okuda J, Kanazawa S, et al : VirtualCT colectomy by three-dimensional imaging us-ing multidetector-row CT for laparoscopiccolorectal surgery. Abdom imaging 30 ; 698―708 :2005

8)Kanamoto T, Matsuki M, Okuda J, et al : Preop-erative evaluation of local invasion, metastaticlymph nodes of colorectal cancer and mesentericvascular variations using MDCT before laparo-scopic surgery. J Comput Assist Tomogr 31 ;831―839 : 2007

9)Harisinghani MG, Barentsz J, Hahn PF, et al :Noninvasive detection of clinically occult lymph-node metastases in prostate cancer. N Eng J Med348 ; 2491―2499 : 2003

���論文受領,平成 22 年 3 月 19 日

受理,平成 22 年 3 月 20 日���