1
19 Bloom! 医科歯科大 No.27 18 Bloom! 医科歯科大 No.27 Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A 90 Sema3A 使閉経後のエストロゲン欠乏と 骨粗鬆症のメカニズムを解明 大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野 中島友紀 教授 Research Worker Number 32 医療研究★最前線 なかしま・ともき 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 修了(薬学博士)。トロント大学オンタ リオ癌研究所、IMBA研究所研究員、 EUマリーキュリー財団国際特別研究 員などを経て、2006年より東京医科 歯科大学医歯学総合研究科勤務。 2016年より現職。ERATOプロジェク トグループリーダー、さきがけ研究代 表者、AMED-CREST研究開発代表 者なども兼任。専門分野は、骨代謝 学、骨生物学。 「骨細胞は、今まさに研究が花開こうとしているところです」と中島教授は語る。 Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A Sema3A 骨細胞のSema3Aを介した自己制御ループによる骨保護作用

閉経後のエストロゲン欠乏と 骨粗鬆症のメカニズムを解明/vol.27/research...19 Bloom! 医科歯科大 No.27Bloom! 18 しずつ溶ける骨吸収と、は、破骨細胞によって少

  • Upload
    others

  • View
    8

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 閉経後のエストロゲン欠乏と 骨粗鬆症のメカニズムを解明/vol.27/research...19 Bloom! 医科歯科大 No.27Bloom! 18 しずつ溶ける骨吸収と、は、破骨細胞によって少

19 Bloom! 医科歯科大 No.27 18Bloom! 医科歯科大 No.27

 は、破骨細胞によって少

しずつ溶ける骨吸収と、

骨芽細胞によって新しく作られ

る骨形成を繰り返し、常に新し

く生まれ変わっている。この過

程は骨リモデリングと呼ばれて

いる。

 

そのバランスが崩れ、骨吸収

のスピードに骨形成が追いつか

なくなり、骨密度が低下した状

態が骨粗鬆症だ。骨粗鬆症に

なって骨の強度が低下し、大腿

骨頸部や椎骨を骨折したことを

きっかけに寝たきりになる高齢

者も少なくない。そこから認知

機能やQOL(生活の質)の低下

を招くことにもなる。

 

骨粗鬆症は特に女性に多く、

閉経により女性ホルモンの一種

であるエストロゲンの分泌が低

下すると、骨密度が急激に下が

る。それはエストロゲンが骨吸

収の働きを抑制する一方で骨芽

細胞を活性化するからなのだが、

その具体的なメカニズムについ

ては不明なままだった。

骨形成を促すSem

a3A

エストロゲンの関係

 

この仕組みを解明したのが、

大学院医歯学総合研究科の中島

友紀教授。最初の転機となった

のは、破骨細胞を抑制して骨芽

細胞を活性化するSem

a3A

(セ

マフォリン・スリーエー)とい

う可溶性のタンパク質の発見

だった。中島教授は次のように

語る。

 「2012年のSem

a3A

の発

見以降、世界中がその制御機構

を解き明かそうとしてきました。

それから7年経って、私たちは

Sema3A

がエストロゲンによ

り制御されている仕組みを明ら

かにしたのです。その作用はヒ

トでも同様で、エストロゲンが

低下した閉経後女性は

Sema3A

の血中量が閉経前女

性に比べて有意に低いことが分

かりました」

加齢によっても

Sema3A

が低下する

 

さらに、Sem

a3A

はエスト

ロゲンだけでなく、加齢によっ

ても低下することが分かった。

骨芽細胞と骨細胞という2種類

の細胞でそれぞれ特異的に現れ

るSema3A

が欠損した高齢マ

ウスの骨を解析したところ、骨

細胞に特異的なSem

a3A

欠損

マウスが骨の減少が顕著だった

ことも大きな発見である。

 

骨細胞は、骨を構成する細胞の

90%を占める細胞で、骨細胞同

士で連携して力学的刺激やホル

モンを応答。破骨細胞や骨芽細

胞の司令塔的な役割を果たす。

 「骨細胞は骨の大部分を占め

ていながら、破骨細胞や骨芽細

胞に比べて扱いが難しく、長ら

くミステリアスな存在でした。

しかし、私たちは2011年に

世界で初めて骨細胞を取り出す

ことに成功しています。それが

今回の研究成果に繋がる第一歩

となりました」

世界の骨代謝学研究を先導

この成果を契機にさらに進展

 この研究成果からは、Sem

a3A

を使った骨粗鬆症の新たな治療

戦略や早期診断マーカーなどへ

の臨床応用が考えられる。

 

最近では、硬いものを噛むこと

でどのように顎の骨形成が促進

されるかを、分子レベルで解明。

さらに現在は、顎の骨が強く

なった場合の脳機能への影響を

明らかにしようとしている。

 「以前は骨に特異的な遺伝子

改変マウスを作ることも難し

かったのですが、近年それらが

一気に可能になり、骨研究は軟

組織臓器と同様の研究領域に発

展しつつあります」

 

中島教授らの骨代謝学研究は

世界を先導する意義を持つ。こ

れから骨疾患の研究が一層進展

することが期待されている。

閉経後のエストロゲン欠乏と骨粗鬆症のメカニズムを解明

大学院医歯学総合研究科 分子情報伝達学分野 中島友紀教授

R e s e a r c h W o r k e r Number 32

医 療 研 究 ★ 最 前 線

未 来 医 療 を 拓 くなかしま・ともき

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科修了(薬学博士)。トロント大学オンタリオ癌研究所、IMBA研究所研究員、EUマリーキュリー財団国際特別研究員などを経て、2006年より東京医科歯 科 大 学 医 歯 学 総 合 研 究 科 勤 務。2016年より現職。ERATOプロジェクトグループリーダー、さきがけ研究代表者、AMED-CREST研究開発代表者なども兼任。専門分野は、骨代謝学、骨生物学。

「骨細胞は、今まさに研究が花開こうとしているところです」と中島教授は語る。

 

中島教授は、Sem

a3A

遺伝

子が欠損したマウスの卵巣を摘

出して閉経後骨粗鬆症モデルと

なるマウスを作製。Sem

a3A

欠損していないマウスにエスト

ロゲンを投与するとSem

a3A

が増えて骨量も増えるが、

Sema3A

遺伝子が欠損したマ

ウスにエストロゲンを投与して

もSema3A

は増えず、骨粗鬆

症の症状も改善しなかった。こ

れにより、エストロゲンの影響

を受ける骨量維持に関して、

Sema3A

が重要な役割を果た

すことが明らかになった。

骨細胞のSema3Aを介した自己制御ループによる骨保護作用