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47 Vol.54 2013No.2 SOKEIZAI シリーズ  よくわかるRPの活用法 新たな製造法 アディティブマニュファクチャリング(AM) その使い所と勘所 ㈱ NTT データエンジニアリングシステムズ 酒 井 仁 史 (第16回) 1.はじめに 三次元 CAD データから直接三次元形状の造形が可 能である積層造形技術(Rapid Prototyping, RP)は、 1987 年に実用化されてから四半世紀が経つ。 ラピッド・プロトタイピングは、製品の開発期間短 縮および開発コスト低減の有力な手段として自動車、家 電、医療等、幅広い業界において広く認知、活用されて おり、試作部品を早く作ることができる技術という点に おいて、その手法は既に一般的なものとなっている。 元来、試作品の造形が主な利用目的であったラピッ ド・プロトタイピングであるが、造形技術の発展に 伴い試作品だけではなく、実際の製品を直接製造す るためのラピッドマニュファクチャリング(Rapid Manufacturing, RM)のツールとしての利用が急速に 拡大してきた。 マニュファクチャリングツールとしての利用が進む につれ、技術の呼称も最終製品を直接作るという視点 から “Rapid Manufacturing, RM” や、切削等の除去 加工に対して、積層造形技術は付加的に形状を成形し ていくことから、“Additive Fabrication, AF” とも呼 ばれるようになってきたが、2009 年に ASTM におい て F42 委員会が設置され、それまで RP、RM、AF と 呼ばれてきた積層造形技術の名称を今後は “Additive Manufacturing, AM” と統一することが決定された。 レーザ焼結型 AM 技術は造形物の機械特性、経時 的な安定性、生産性の面で製品製造の手段として適し ており、最終製品への応用が最も進んでいる AM 技 術の一つである。 また、従来工法では製造できなかったデザイン(設 計)も作ることが可能であり、マニュファクチャリ ング - ドリブン - デザインからデザイン - ドリブン - マニュファクチャリングへのパラダイムシフトをもた らす可能性を持つ。 本稿では、AM の優位点を活かすための使い所(ア プリケーション)、デザイン - ドリブン - マニュファ クチャリングを実現するために必要な勘所(AM 的設 計思想)を、独 EOS 社のレーザ焼結型 AM システム、 「EOSINT シリーズ」を例にレーザ焼結(溶融)によ る AM システムのマニュファクチャリングへの活用 状況と併せて述べる。 2.レーザ焼結型 AM システムの仕組みと 種類 2.1 レーザ焼結型 AM システムの仕組み レーザ焼結型 AM システムでは、三次元形状を多 数の積層面にスライスし、一層毎に粉末材料を撒き、 形状断面部にレーザビームを照射しその熱でレーザ照 射された部分を硬化させる。これを繰り返すことによ り三次元形状を積層的に造形するものである(図1)。 最近各種メディア等で、日常的に 3D プリンティングに関する情報を目にするようになり、一般消費 者が購入できるような価格帯の商品も登場している。一方ハイエンド機、特にレーザ焼結型造形装置 では、本技術を試作用途でなく最終製品の生産に活用しようという動きが活発化している。本稿では、 新たな製造法 Additive Manufacturing の現状と、その使い所と勘所を事例を交えて紹介する。 1 レーザ焼結型 AM システムの仕組み レーザビーム

新たな製造法 “アディティブマニュファクチャリン …sokeizai.or.jp/japanese/publish/200706/201302sakai.pdf48 SOKEIZAIVol.54(2013)No.2 EOSINT M280は金属材料専用のシステムで200W

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47Vol.54(2013)No.2 SOKEIZAI

シリーズ よくわかるRPの活用法

新たな製造法“アディティブマニュファクチャリング(AM)”

その使い所と勘所㈱NTTデータエンジニアリングシステムズ 酒 井 仁 史

(第16回)

1.はじめに      三次元 CADデータから直接三次元形状の造形が可能である積層造形技術(Rapid Prototyping, RP)は、1987 年に実用化されてから四半世紀が経つ。 ラピッド・プロトタイピングは、製品の開発期間短縮および開発コスト低減の有力な手段として自動車、家電、医療等、幅広い業界において広く認知、活用されており、試作部品を早く作ることができる技術という点において、その手法は既に一般的なものとなっている。 元来、試作品の造形が主な利用目的であったラピッド・プロトタイピングであるが、造形技術の発展に伴い試作品だけではなく、実際の製品を直接製造するためのラピッドマニュファクチャリング(Rapid Manufacturing, RM)のツールとしての利用が急速に拡大してきた。 マニュファクチャリングツールとしての利用が進むにつれ、技術の呼称も最終製品を直接作るという視点から “Rapid Manufacturing, RM” や、切削等の除去加工に対して、積層造形技術は付加的に形状を成形していくことから、“Additive Fabrication, AF” とも呼ばれるようになってきたが、2009 年にASTMにおいてF42 委員会が設置され、それまでRP、RM、AFと呼ばれてきた積層造形技術の名称を今後は “Additive Manufacturing, AM” と統一することが決定された。 レーザ焼結型AM技術は造形物の機械特性、経時的な安定性、生産性の面で製品製造の手段として適しており、最終製品への応用が最も進んでいるAM技術の一つである。 また、従来工法では製造できなかったデザイン(設計)も作ることが可能であり、マニュファクチャリング - ドリブン - デザインからデザイン - ドリブン -

マニュファクチャリングへのパラダイムシフトをもたらす可能性を持つ。 本稿では、AMの優位点を活かすための使い所(アプリケーション)、デザイン -ドリブン -マニュファクチャリングを実現するために必要な勘所(AM的設計思想)を、独 EOS 社のレーザ焼結型AMシステム、「EOSINT シリーズ」を例にレーザ焼結(溶融)によるAMシステムのマニュファクチャリングへの活用状況と併せて述べる。

2. レーザ焼結型AMシステムの仕組みと種類

     2.1 レーザ焼結型AMシステムの仕組み レーザ焼結型AMシステムでは、三次元形状を多数の積層面にスライスし、一層毎に粉末材料を撒き、形状断面部にレーザビームを照射しその熱でレーザ照射された部分を硬化させる。これを繰り返すことにより三次元形状を積層的に造形するものである(図 1)。

最近各種メディア等で、日常的に 3Dプリンティングに関する情報を目にするようになり、一般消費者が購入できるような価格帯の商品も登場している。一方ハイエンド機、特にレーザ焼結型造形装置では、本技術を試作用途でなく最終製品の生産に活用しようという動きが活発化している。本稿では、新たな製造法Additive Manufacturing の現状と、その使い所と勘所を事例を交えて紹介する。

図 1 レーザ焼結型 AMシステムの仕組み

リコータ

スキャナ レーザ

金属製造形コンテナ

未焼結のパウダー

パウダー造形物

レンズ

レーザービームレーザビーム

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48 SOKEIZAI Vol.54(2013)No.2

 EOSINT M280 は金属材料専用のシステムで 200Wまたは 400Wのイットリビウム・ファイバレーザを搭載する。アルミニウム、チタン等の活性金属を造形する場合はアルゴンガスの供給装置が必要となる。 AMの活用は、金属材料を用いるアプリケーションでの実績が際立っており、本稿でも後段において、EOSINT-M280/ 金属積層造形にフォーカスしてAMの現状をご紹介する。 写真 1にEOS 社のレーザ焼結型AMシステムの一部を示す。

3. 材料      EOS 社が提供するプラスチック材料を表 2に、同じく金属材料を表 3に示す。プラスチック、金属とも広範囲な産業用途に対応できる部品の製作が可能である。コバルトクロムやチタンの一部は医療用として日本の薬事認証を受けている。

2.2  レーザ焼結型AMシステムの機器構成 EOS 社のレーザ焼結型 AM システムの機器構成を表1に示す。

 EOSINT S750 シリーズは鋳造専用システムで、材料にシェル砂を用いて鋳型(中子や主型)を製作するシステムである。 EOSINT-P シリーズはプラスチック材料用で造形領域の大きさに応じて 3種類に分類される。EOSINT P800 は高融点の PEEK 材料の造形用に開発されたシステムで高温下での造形が可能となっている。EOSINT P760/P800、S750 シリーズは 2本のレーザを搭載することで、造形領域の拡大と造形時間の短縮を両立している。

写真 1 EOS社のレーザ焼結型AMシステムの一例

表 1 レーザ焼結型積層造形システムの機器構成(EOS社の場合)

システム名称 レーザ 造形領域(mm) 積層厚(mm)

FORMIGA P100 CO2 30W 200×250×330 0.1

EOSINT P395 CO2 50W 340×340×620

0.06-0.18EOSINT P760 CO2 50W 700×380×580

EOSINT P800 CO2 50W×2 700×380×580

EOSINT M280 Yb:fiber 200W/400W 250×250×325 0.02, 0.03, 0.04,

0.05, 0.06, 0.08

EOSINT S750 CO2 100W×2 720×380×380 0.2

EOSINT S750Xtended CO2 100W×2 720×500×380 0.2

EOSINT P760 FORMIGA P110 EOSINT M280

表 2 レーザ焼結用プラスチック材料(EOS社の場合)

名 称 成 分 特 徴 主な用途

Almide アルミ入りポリアミド 12 高剛性、メタリック風、容易な後加工 風洞実験パーツ、メタリック調パーツ

CarbonMide カーボンファイバー入りポリアミド 12 高強度、高剛性、軽量 モータースポーツ用エアロパーツ

PA2200 ポリアミド 12 強度、剛性、耐薬品性に優れた汎用材料 機能部品、射出成形部品の代替

PA2201 ポリアミド 12 FDA、CFR21 177.1500 の規定に準拠 食品関係(高アルコール品は除く)

PA2202 黒色色素入りポリアミド 12 強度、剛性、耐薬品性に優れた汎用材料 傷や汚れの見込まれる部品

PA2210FR 非ハロゲン化学難燃材入りポリアミド 12

2mmを超える板厚で防火分類 UL94/V-0 を達成 難燃部品、航空

PA3200GF ガラス入りポリアミド 12 高剛性、高耐摩耗性、優れた耐熱性 エンジンルーム内の部品剛性を要する部品。

EOS PEEK HP3

ポリアリーエーテルケトン(PAEK)の仲間

高耐熱性、高耐摩耗性、耐薬品性EOSINT P800 で造形可能

医療(ステンレス、チタンの代替)、航空

PrimePart ポリアミド 12(純白色) PA2200 に比べて劣化が遅い 機能部品。射出成形部品の代替高品質を要求される部品。

PrimePart DC ポリアミド 11(純白色) 高弾性、高衝撃強度 大きな応力を受ける部品

PrimaCast 101 ポリスチレン なめらかな表面品質、消失パターンとしての十分な強度 ロストワックス鋳造用消失パターン

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シリーズ よくわかるRPの活用法

表 3 レーザ焼結用金属材料(EOS社の場合)

名 称 成 分 特 徴 主な用途Aluminium AL1Si10Mg アルミニウム合金 優れた機械特性(強度、硬度)、軽量 自動車、モーターレーシング、

航空CobaltChrome MP1

コバルト -クロム -モリブデン主体の超合金

優れた機械特性(強度、硬度)軽量、耐食性、耐熱性 タービン、医療用インプラント

CobaltChrome SP2

コバルト -クロム -モリブデン主体の超合金

生体適合性、歯科用に認証取得(CE0537) 歯科用(クラウン、ブリッジ等)

DirectMetal 20 ブロンズ主体 微細形状の再現性、速い造形速度容易な後加工

小~中ロット射出成形金型機能試験用試作部品

MaragingSteel MS1 マレージング鋼 良好な機械加工性

熱処理で 54HRCまで硬化量産金型、アルミダイカスト金型高機能部品

NickelAlloy IN625 ニッケル -クロム合金 高い引張り /クリープ破断強度

耐食性、高耐熱性航空、モータースポーツ海洋関係、化学工業向け部品

NickelAlloy IN718 ニッケル -クロム合金 高い引張り /クリープ破断強度

耐食性、高耐熱性航空、モータースポーツ海洋関係、化学工業向け部品

StainlessSteel GP1

ステンレス鋼17-4/1.4542/SUS630 優れた機械特性(強度、硬度)、延性 機能試験用試作品、小ロット部品

耐久性や延性の必要な部品StainlessSteel PH1

ステンレス鋼15-5/1.4540 析出硬化状態で 45HRCの硬度 機能試作部品、小ロット製品

強度と硬度が必要な部品

Titanium Ti64 Ti6Al4V 軽合金 軽量、高強度、耐食性、生体適合性、生体結合性 医療用インプラント

Titanium TiCP 純チタン 軽量、高強度、耐食性、生体適合性、生体結合性

医療用インプラント、工業用部品、熱交換器、医療機器

 表には記載していないが、鋳造用の砂も EOS 社から提供されている。しかしながら、日本では各ユーザが自社の鋳造に適した砂を開発して使っているのが実情である。 金属積層造形を用いたAMを指向する場合、アプリケーションによっては、現状EOS社が提供する材料だけでは、顧客の要求を満たせないケースが出てきた。AMに取り組む企業が増えるにつれこういったケースは増えてくるであろうし、最終製品を作るAMでは、多様な材料の選択肢は非常に重要なファクターとなってきている。弊社では、そういった要求を満たすためにAMデザインラボという開発拠点を大阪に設け、アプリケーション開発の一環として、新規金属材料開発も積極的に推進し、成果を上げている。 EOS社においても新材料の開発は進んでおり、今後材料バリエーションの増加とともにマニュファクチャリングツールとしての適用分野も拡大されていくものと思われる。

4. 金属積層造形技術:DMLSとは      EOS 社では、自社の金属積層技術に対してDMLS(Direct Metal Laser Sintering)という呼称を用いている。 DMLSとは、レーザビームをフォーカスさせ、金属粒子を直接焼結 , 溶融させ造形する手法である。

 樹脂のバインダーを使わず、造形直後から十分な機械特性を持ち,後工程に焼成、溶浸等の収縮や変形を伴う処理が必要ないため精度の高い金属部品や金型が直接製作できることが特徴であり、最もAMへの活用が進んでいる技術である。

4.1 第1世代金属積層造形機:M250, M250Ext 金属積層造形技術の “今” を見ていく前に、簡単にその歴史をご紹介する。 1995 年の第一世代となる DMLS 装置「EOSINT M250」の発売以来、材料、装置共に改良が繰り返され、着実に進歩してきた。 DMLS 黎明期の材料はDMLSのプロセスに対して最適化させる事を主眼に置き開発された。ここでいう最適化された材料とは、工業分野における一般的な素材を粉末化した材料ではなく、DMLSという加工プロセスにマッチさせた独自の混合粉末という意味であり、いわばDMLSプロセスに特化させたテーラメードの材料である。当時のレーザ技術を鑑みると、金属をレーザで直接的に造形するために、レーザ焼結というプロセスに合わせた独自材料を開発するというアプローチは理解できる。しかしながら、第一世代の装置構成、材料では市場が要求する精度、機械特性を満足する事が難しく、本格的な普及には至らなかった。

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4.2 第2世代金属積層造形機:M270, M280 2004 年に現行システム「EOSINT M280」のベースとなった 「EOSINT M270」 が発売された。言及すべき点として、M270 では使用されるレーザが、CO2 レーザからイットリビウムファイバーレーザへと変更された点が挙げられる。このレーザ変更と、レーザ変更に伴うプロセス技術の改善が金属積層造形技術を大きく進化させた。 イットリビウムファイバーレーザの特徴は、CO2レーザと比較すると波長が短く(波長:10680µm)、ビーム径もCO2レーザの 0.4mmに対して 0.1mmまで絞り込める所にある。 小スポット径によるエネルギ密度の向上と、短波長によるエネルギ吸収率の向上により、従来機では造形困難であった合金粉末を完全に溶融させる事が可能となった。勿論それと併せて小スポット径の恩恵として、細部の表現力が向上し、表面粗度の向上に寄与した点も挙げられる。 M270 の登場以後、ステンレスやコバルトクロム、チタン合金といった一般的な工業素材をDMLS材料として適用するための材料開発が進められてきた。一般的な工業材料が、ほぼ 100%の相対密度と充分な機械強度で作成できるようになったことから、欧米を中心にDMLS装置を最終製品の製造に適用するAMの流れが加速し始めた。 様々な分野で金属積層造形技術のAM適用が始まったが、AMとは本技術を量産品の製造に用いることを意味するため、生産性の向上が非常に重要な技術課題となっている。 生産性向上への一つのアプローチとして、高出力レーザの採用による造形時間の短縮が挙げられる。EOSINT-Mシリーズの最新機種である「EOSINT M280」は従来の 200Wレーザを標準とし、オプションで 400Wが選択できるようになっている。200Wと400Wでは造形の挙動は大きく異なり、それに対応するためのプロセス制御技術の改善も図られている。400W機では、マルエージング鋼を例に取ると、M270 比 54%の造形時間短縮を実現している。 今後本技術のAM対応を進めるために、より高出力

なレーザの採用による生産性の向上、装置の大型化(造形エリアの拡大)が装置開発のトレンドとなっていくと推察する。 現在の技術をベースに生産性を大きく高めた装置が、本格的AM装置として第 3世代の金属積層造型機となっていくであろう。

4.3 テーラメード粉末と合金粉末 前項でも述べたとおり本技術にとって粉末材料は、非常に重要な技術要因である。CO2 レーザで使用するテーラーメード粉末と、イットリビウムファイバーレーザで用いられる合金粉末では、でき上がる造形物の密度、機械特性に大きな差異がある。レーザ焼結型 AM システムでの造形は厳密に言えば、焼結の場合もあるし、溶融の場合もあり得るが、焼結か溶融かは投入する熱エネルギと使用する材料に依存する。テーラメード材料の代表格であるブロンズ・ニッケル系(DM20)のような複数金属の混合粉末では液相焼結が、現在の主流であるコバルトクロム、ステンレス、チタンなどの単元素あるいは合金粉末の場合では投入エネルギ量に応じて液相焼結あるいは溶融再凝固が発生する(図 2)。 このプロセスの違いこそが、造形物の密度、機械強度を決定づけ、両者の間に決定的な違いを生んでいる。

4.4 DMLSの実力(機械的強度) DMLSで作成した造形物の機械特性を表 4に、造形物の光学分析写真を写真 2に示す。 実際に最終製品としての使用に耐えうる強度、密度を実現していることが理解頂けるのではないだろうか。

図 2 液相焼結と溶融再凝固

複数金属の混合粉末が液層焼結相を形

成した状態(DM20の例)

単元素金属又は合金粉末が完全溶融し

再凝固した状態(CoCrの例)  

写真 2 マルエージング鋼:光学分析写真

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シリーズ よくわかるRPの活用法

5. AMのアドバンテージ      昨今、製造業にとって、生産活動で発生する CO2排出量の削減はひとつの大きなテーマとなっているが、環境負荷低減の観点からも、AM技術は大きなアドバンテージを持つ。 AMを製造に活用することで、過剰な在庫を持たないオンデマンド製造の実現や、ある国で生産した製品を世界中に出荷する代わりに、各国に置かれた造形機に 3次元データを送り地産地消型製造を行うといったことも可能となる。また、除去加工と違い、AM技術は必要な部分だけを成形する工法であるため、材料使用量の削減も期待できる。これらはAMの持つアドバンテージのほんの一例であり、AMには環境的視点だけでなく、ものづくりのプロセス全体で、既存工法にはない様々なアドバンテージがある。図 3にその代表的なものをまとめる。

6. AMの使い所と勘所      現在AMで最も活用されている積層造型技術は金属造形技術であり、その取り組みが活発な代表的分野は、医療、航空宇宙分野であると言える。 彼らのAM活用事例を参考に、AMの使い所(アプリケーション)と勘所(AMを活用するための設計思想)を考察したい。

6.1 医療 医療は早くからAM に取り組んできた分野であり、非常にAMと相性の良い分野である。 インプラント(人工関節、人工骨)や歯科補綴物、手術用器具や治具等、個々の患者に合わせたカスタムメイド製品を安価に製造するのにAMは最適である。 また、生体親和性の向上、インプラントの長寿命化を狙い、製品表面にラティス構造を持つインプラントの開発も進められている。ラティスのような多孔質構造は、既存工法では実現できないAMならではの機能形状であり、製品に今までにない付加価値を与えている。こういった設計側からのアプローチは非常に興味深く、AMの特性を上手く活用した好例と言える。ラティス構造を備えたインプラントの事例を写真 3、4に示す。 先事例のようなラティス構造は、ラティスの多孔質構造を活かした生体親和性の向上が主な目的であるが、

図 3 AMの代表的アドバンテージ

写真 3 寛骨臼インプラント 写真 4 脛骨トレー (膝関節インプラント)

・軽量化

・新材料/新機能

・ 3次元水管

・機能形状/部品

・少量生産品

・機能部品の

 一体化

 (アセンブリ)

・開発から製品

 リリースまでの

 リードタイムの

 短縮

・個人に合わせた

 製品の生産

・カスタムメイド

機能形状の実現 オーダーメイド生産コスト

アドバンテージTime tomarket

表 4 DMLS造形品の機械強度特性

材料名 引張強度(MPa) 0.2%耐力(MPa) 伸び(%) 硬さ

MaragingSteel MS1(造形) 1100 ± 100 1000 ± 100 10 ± 4 33-37HRC

MaragingSteel MS1(時効処理) 2050 ± 100 1990 ± 100 4 ± 2(min2) 50-56HRC

StainlessSteel PH1(造形) 1050 ± 50 1000 ± 50 16 ± 4 30-35HRC

StainlessSteel PH1(H900 熱処理) 1450 ± 100 1300 ± 100 12 ± 2 min 40HRC

Titanium Ti64(造形) 1200 ± 50 1060 ± 50 10 ± 2 320 ± 12 HV5

Titanium Ti64(ヒートトリートメント) 1050 ± 20 1000 ± 20 14 ± 1(min10) -

NickelAlloy IN718(造形) 980 ± 50 634 ± 50 27 ± 5 approx. 30HRC

NickelAlloy IN718(AMS 5662) 1400 ± 100 1150 ± 100 15 ± 3 approx. 47HRC

Aluminium AlSi10Mg(造形) 405 ± 20 230 ± 10 3.5 ± 2 120 ± 5

Aluminium AlSi10Mg(ヒートトリートメント) 325 ± 20 220 ± 10 7 ± 2 -

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このようなラティス構造の工業部品への応用も進んでいる。図 4にその事例を示す。ソリッドモデルに対してラティス構造を適用し、必要な強度を確保しつつ、大幅な軽量化を実現している。 しかしながら、このようなラティス構造を既存のCADでモデリングすることは非常に困難である。 AMの発展と共に、そういった既存のソフトウェアでは対応できない部分を補完する新しいコンセプトのソフトウェアも登場し始めている。その一つにラティス構造の作成、最適化に特化した “Within” というソフトウェアがあるので紹介したい。 “Within” の特徴は、ラティスの密度を可変で設定でき、かつFEAシミュレーションとの組み合わせにより、必要な強度を確保しつつ、最も軽量となるようにラティス密度を自動最適化できる点である。Within で設計したモデルのサンプル事例を写真 5に示す。 今後も、ラティスのようなAMという工法だからこそ実現できる機能形状というものが引き続き創生されていくであろうし、その時に既存のソフトウェアでは対応できない部分を、AM特化の新たなソフトウェアソリューションが補完するという流れになっていくと思われる。そういう意味では、すでに限界点に達したと思われる 3次元 CADの世界にも、まだまだ大きな発展の余地がありそうである。

6.2 航空宇宙 航空宇宙分野もAM活用が進んでいる分野であり、彼らの事例からは、他のアプリケーションにも適用できる好例が見てとれる。 航空宇宙分野がAMに取り組み始めた当初は、複雑な部品を一体で造形するという事例が多く見られた。複数部品の一体化はAMの代表的なアドバンテージの一つである。写真 6にその一例を示す。 AMならではの機能形状といえば、AM金型アプリケーションの代名詞でもある 3次元冷却水管が代表的であるが、航空宇宙分野でもタービンブレードやスワラー等で 3次元水管が用いられている。写真 7にタービンブレードの一例を示す。

図 4 サスペンションブラケット(従来比 75%の軽量化)

Project: Rennteam Stuttgart EOS, Within

写真 5 Within設計事例

写真 6 ジェットエンジンの燃料噴射ノズル

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シリーズ よくわかるRPの活用法

6.3 機能形状とAM設計思想 航空宇宙分野と医療分野の事例を紹介したが、どの事例も単純な既存工法との置き換えアプリケーションではないという点に着目して欲しい。AM最大のアドバンテージは、既存工法では作れない形状が作れる点にあり、その特徴こそが切削や鋳造といった既存工法での常識ともいえる “マニュファクチャリング -ドリブン -デザイン” から、“デザイン -ドリブン -マニュファクチャリング” へのパラダイムシフトをもたらす。AMを活用することで、設計者は工法による設計の制約から開放され、今までにない自由が与えられるのである。 設計者にはAMの持つアドバンテージ、特徴を理解した上で、切削や鋳造等の既存工法を活用したものづくりとは違う観点を持って、この技術に取り組んで頂きたい。 それこそが “AM的設計思想” をもつことに繋がり、そこからAMならではの機能形状が生まれ、今までにない付加価値をもつ製品へと繋がるはずである。

7. 最後に      本稿で示した活用事例以外にも、AMは欧米を中心に着実にスピード感を持って推進されている。 米国政府は、中国などの新興市場に流れた製造業を再び米国に取り戻すうえで、AMを重要技術として位置づけ、“国立アディティブマニュファクチャリング技術戦略推進機構、NAMII” を設立し 6000 万ドルを投じた。同様に英国でも、製造業(雇用)を自国に取り戻す施策の一つとして、AM関連事業に 700 万ポンド投じている。 また、欧米に留まらず、隣国中国でもAMに対する取り組みは始まりつつある。私は技術者として、日本企業のAMに対する取り組みを間近に見ているが、海外の取り組みと比較すると遅れている面があることは否めない。日本の発展は、高レベルなものづくり技術をバックボーンにした製造業が支えてきた。私はAM技術が、製造業に大きな技術革新をもたらし得る技術であると確信しているが故に、これ以上日本でのAMへの取り組みが遅れてしまうと、気がついた時には、日本企業が持つ技術優位性が損なわれ、取り返しのつかない所まで行き着くのではないかと危惧している。 弊社は、独製AM装置の代理店ではあるが、その技術は日本のものづくりに貢献できると信じてやまないし、今後も日本でのAM技術の発展と普及を通じて、日本の製造業を応援していきたい。

 参考文献1 ) 金属積層造形装置の現状と応用の可能性:酒井仁史,型技術 (2009)

2 ) レーザ焼結型AMシステムのマニュファクチャリングへの活用について:前田寿彦 :素形材,Vol. 53(2012)No. 2

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写真 7 3次元チャンネルを備えたタービンブレード

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