23
223 1. 理学療法の目的  1)二次的障害(廃用症候群)の予防 2)随意運動の促進(機能回復) 3)基本動作の確立 4)残存能力の開発→ ADL 自立の促進 5)環境調整(補装具の調整含む) 6)患者・家族の教育・指導 2. 評 価  1. 理学療法遂行上、特に必要な情報 血圧、脈拍、呼吸等の生命徴候 CT 所見 心機能検査所見(虚血所見、危険な不整脈) 高次脳機能所見 言語機能検査所見 使用薬剤とその副作用 臨床検査値結果(血糖値、肝機能、出血傾向等) 既往歴、現病歴、合併症、併存疾患、病前の状況 2. 評価項目 筋緊張 深部腱反射、病的反射 感覚検査 脳神経検査(視野欠損) 関節可動域検査(肩の疼痛、亜脱臼の評価を含む) 片麻痺運動機能テスト(Brunnstrom Test筋力検査(非麻痺側) バランステスト 姿勢 ・ 動作パターン分析 歩行分析 日常生活活動検査 8 脳血管障害 SAMPLE

国試の達人 PT・OTシリーズ 理学療法編人体の構造と機能及び心身の発達,解剖学,発生,骨格系,骨の構造と分類,骨吸収と骨形成,関節の構造と分類,筋,筋の構造と形態,各部の筋,腱,靱帯,神経,中枢神経,末梢神経,脈管,心臓,動脈,静脈,リンパ,内臓諸器官,消化器,呼吸器,泌屜㽖栰ŵὫ陖栀ⱑ蕒٬챜稀ⱡᾉ

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223

1. 理学療法の目的 

1)二次的障害(廃用症候群)の予防2)随意運動の促進(機能回復)3)基本動作の確立4)残存能力の開発→ ADL自立の促進5)環境調整(補装具の調整含む)6)患者・家族の教育・指導

2. 評 価 

1. 理学療法遂行上、特に必要な情報① 血圧、脈拍、呼吸等の生命徴候② CT所見③ 心機能検査所見(虚血所見、危険な不整脈)④ 高次脳機能所見⑤ 言語機能検査所見⑥ 使用薬剤とその副作用⑦ 臨床検査値結果(血糖値、肝機能、出血傾向等)⑧ 既往歴、現病歴、合併症、併存疾患、病前の状況

2. 評価項目① 筋緊張② 深部腱反射、病的反射③ 感覚検査④ 脳神経検査(視野欠損)⑤ 関節可動域検査(肩の疼痛、亜脱臼の評価を含む)⑥ 片麻痺運動機能テスト(Brunnstrom Test)⑦ 筋力検査(非麻痺側)⑧ バランステスト⑨ 姿勢 ・動作パターン分析⑩ 歩行分析⑪ 日常生活活動検査

第8章 脳血管障害

SAMPLE

224 8章 脳血管障害

1)観察(1) バイタルサイン血 圧: 正常血圧 最大血圧 100~ 130 mmHg 注)女性は男性より5~ 10 mmHg低い 。 最小血圧 50~ 80 mmHg 40歳以上になると年齢と共に多少上昇 脈  圧 30~ 40mmHgの上昇をみる。脈拍数: 75拍/分 学 童 80~ 90拍/分 幼 児 110~ 130拍/分 新生児 120~ 140拍/分 ※脈拍の異常 徐脈 60拍/分以下 頻脈 100拍/分以上呼吸数: 14~ 18回/分 ※呼吸の異常 頻呼吸 24回/分以上 徐呼吸 11回/分以下

(2) 意識障害JCS(3-3-9度方式)覚醒レベルの確認

(3) その他浮腫、疼痛

2)機能(1) 身体計測体格:身長、体重骨関節系の障害があれば、四肢長など計測浮腫などがあれば、周径を測定

(2) 運動機能① 関節可動域 拘縮・変形の有無、肩関節亜脱臼の有無② 筋力 健側の徒手筋力テスト 患側:Br stage V以上の場合③ バランス(立ち直り、平衡反応)座位・立位 Fugl-Meyer Assessment(CVA) 運動機能、バランス、感覚、可動域、疼痛の評価。3段階・合計 226点 運動機能は 100点  50点未満 重度  50- 84 顕明  85- 94 中程度  95- 99 わずか④ 協調性⑤ 耐久性(基本動作)⑥ 運動機能回復段階(Brunnstrom test)

SAMPLE

2258章 脳血管障害

● Brunnstrom test【上肢】

I :随意運動なし(弛緩) II :連合反応の出現、共同運動(表 8-1)またはその要素の最初の出現(痙性発現) III :共同運動またはその要素を随意的に起こしうる(痙性著明) IV :基本的共同運動から逸脱した運動(痙性やや弱まる)① 手を腰の後ろに持って行く② 上肢を前方水平位に挙上③ 肘関節 90 ゚屈曲位での前腕回内・回外

V :基本的共同運動から独立した運動(痙性減少)① 上肢を横水平位まで挙上② 上肢を頭上まで挙上③ 肩関節 90 ゚屈曲位、肘関節伸展位での回内・回外

VI :協調運動ほとんど正常(痙性最小になる)

【下肢】 I :随意運動なし(弛緩) II :連合反応の出現、共同運動(表 8-1)またはその要素の最初の出現(痙性発現) III :共同運動またはその要素を随意的に起こしうる(痙性著明) IV :基本的共同運動から逸脱した運動(痙性やや弱まる)① 座位で足底を床から離さず膝関節 90 ゚以上屈曲② 座位で踵を床から離さず随意的足関節背屈(③ 座位で膝伸展)

V :基本的共同運動から独立した運動(痙性減少)① 立位、股関節伸展位での膝関節屈曲② 立位で膝関節伸展位のまま足関節背屈(③ 座位で股内旋)

VI :協調運動ほとんど正常(痙性最小)① 立位で股関節外転② 座位で下腿の内外旋が可能(足内外反を伴う)(③ 立位で足踏み)

【手指】 I :随意運動なし(弛緩) II :自動的手指屈曲わずかに可能 III :全指同時握り(集団屈曲)可能 IV : ① 半不随意的手指集団伸展一部可能 ② 横つまみ可能、鉤握り V : ① 随意的手指集団伸展十分可能 ② 対向つまみ、筒握り、球握り可能 VI :指分離運動(各指ごとの屈伸、手指内外転)可能

● SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)CVA対象、上下肢、腱反射、筋緊張、ROM感覚など22項目の検査 合計 76点

SAMPLE

226 8章 脳血管障害

表 8-1 共同運動パターン

【上肢】屈 筋 伸 筋

肩甲帯 挙上、後退 前方突出肩関節 屈曲 ・外転 ・ 外旋 伸展 ・ 内転 ・ 内旋肘関節 屈曲 伸展前 腕 回外 回内手関節 掌屈 背屈手 指 屈曲 伸展

【下肢】屈 筋 伸 筋

股関節 屈曲 ・外転 ・ 外旋 伸展 ・ 内転 ・ 内旋膝関節 屈曲 伸展足関節 背屈 ・内反 底屈 ・ 内反足 指 伸展(背屈) 屈曲(底屈)

(3) 神経機能腱反射病的反射上肢:ホフマン反射、トレムナー反射、ワルテンベルグ反射下肢:バビンスキー反射

その他の反射:・ 原始反射・ 立ち直り反射・ レイミスト反射:健側の股関節内・外転に抵抗を加えると患側の股関節が内・外転する。

・ シュトリュンペル反射:座位で患側の股関節屈曲(抵抗加える)により足関節が背屈する。

筋の緊張:痙縮、固縮、固縮痙縮、弛緩など(4) 感覚機能表在感覚深部感覚:足底覚、複合覚など含む聴  覚視  覚:視野(同名半盲の有無)

(5) 呼吸循環代謝機能(6) 高次脳機能① 失認② 失行③失語(言語機能障害)

(7) 精神機能認知症の有無:長谷川式簡易知能検査

(8) 運動・動作分析起居動作(運動パターン、所要時間)歩行分析(表 8-2参照)

SAMPLE

2278章 脳血管障害

(9) 検査データ① CT所見脳実質 → 灰色(この色を基準とする)高吸収域→ 白色(X線吸収値が高い部位)=血腫(出血部位) ※時間とともに X線吸収値が下がり、約 4週間もすると脳

実質と同じ程度の濃度(等吸収域)に変化する低吸収域→ 黒色(X線吸収値が低い部位) 脳浮腫・脳梗塞 ※脳梗塞が発生してすぐには低吸収域は出現しない

発症後 24時間… 淡い低吸収域が出現(病巣の脳浮腫を意味する) 48時間… 低吸収域がより鮮明となる(脳浮腫が著明に現

れたことを示す)↓

低吸収域の鮮明化、X線吸収値は脳室とほぼ同程度を示す

3)活動(1) ADL(2) 活動指数(3) ICFの Brief core set

脳卒中 ICF Brief Core Set(18項目)身体機能 認知機能

見当識機能筋力言語における精神機能注意機能記憶機能

身体構成 脳上肢

活動と参加 歩行会話排泄食事洗体身支度会話によるコミュニケーション

環境要因 身近な家族医療従事者医療サービス・システム・ポリシー

4)社会参加(1) 家屋状況(2) 環境評価(3) 地域事業の状況

SAMPLE

228 8章 脳血管障害

その他左片麻痺1)半側空間無視2)病態失認3)着衣失行4)動作維持困難

右片麻痺1)失語、失書、失認、ゲルストマン症候群2)観念失行、観念運動失行

脳の可塑性のメカニズム1)脳地図の書き換え2)領野間の機能代行3)神経側芽4)アンマスキング経路の活動

損傷 アンマスキング

自然治癒 細胞移植

側芽形成 神経細胞の移植

中枢神経損傷後の回復機序アンマスキング:元来、存在していたが抑制されていたシナプス結合により顕在化すること。アンマスキングは代償性経路の構築によって運動機能が改善する。

SAMPLE

2298章 脳血管障害

表 8-2 歩行分析表

氏 名 年齢   歳 性別:男・女

診断名 体重   kg 身長   cm

条件など歩行場所: 監視状況: 履き物: 補助具:

歩行パターン:       (前型,揃型,後型) 歩行条件:(普通,早足,最大歩行,    )

基礎的な測定項目など

歩行速度  m/min 歩行率  steps/min

歩幅 右  cm 左   cm 足隔 cm

足角 右    左 連続歩行可能距離 m 上肢

安定性 実用性

異常の出現に○,コメント欄に左右および出現時期などを記入

頭 部:

体 幹:伸展,側屈,肩降下,上肢振り無

骨 盤:回旋無,引き上げ,Trendelenburg,後傾,前傾

股関節:分回し,内転,鋏,外転,こわばり,伸展無,過屈曲

足関節:尖足,内反足,下垂足,ホイップ,引きずり,背伸び,踵足,    接地状態(踵接地,足底同時接地,足指接地)

足 指:母指伸展,clawing 

膝関節:膝折れ,こわばり,弛緩,過伸展,反張膝,過屈曲

コメント

コメント

コメント

コメント

コメント

コメント

コメント

立脚相 遊脚相

骨盤

股関節

膝関節

足関節

分析結果

回旋(角度記入)側方傾斜

(角度記入)屈曲伸展

(角度記入)内転外転

(角度記入)内旋外旋

(角度記入)屈曲伸展

(角度記入)背屈底屈

(角度記入)

HC (0%) FF (15%) MS (30%) HO (45%) TO (60%)

4°in

4°in 4° in

0°0°

0° 0°

5° (5°)

5°add 5°add

4°ex

4°ex

4°ex4°ex

25°f 25° f

65°f

5°d 5°d15°p 20°d2~3°d 20°p

15°f

20° f

40°f

20°e 10°e

ACC MID DECSAMPLE

230 8章 脳血管障害

3. リスクと問題点 

1. 使用薬剤とその副作用1)降圧薬[作 用]

(1) 脳浮腫の抑制(2) 脳梗塞では出血性梗塞の予防、脳出血では血腫増大の抑制 クモ膜下出血では出血の停止ならびに再発作の予防(3) 心負荷の軽減

[副作用]→表 8-3参照

表 8-3 降圧薬の副作用

利尿薬 サイアザイド系 及びループ利尿薬

低カリウム血症,低マグネシウム血症,低ナトリウム血症,高尿酸血症,高血糖症,高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,性機能障害,脱力感

 カリウム保持性利尿薬 高カリウム血症,女性化乳房,乳房痛,生理不順, 男性の性欲減退

β遮断薬 気管支痙攣,末梢循環不全の増悪,疲労感,不眠, うっ血性心不全の増悪,低血糖症状のマスキング, 高トリグリセリド血症,HDLコレステロールの低下

ACE阻害薬 咳,発疹,高カリウム血症,味覚異常カルシウム拮抗薬 ジヒドロピリジン系薬剤 頭痛,目眩,浮腫,頻脈,歯肉増殖 ジルチアゼム 頭痛,目眩,歯肉増殖,便秘,房室ブロック,徐脈

α1遮断薬 起立性低血圧,失神,脱力感,動悸,頭痛末梢性交感神経抑制薬 ラウオルフィア・アルカロイド 嗜眠,鼻充血,抑うつ

中枢性交感神経抑制薬 嗜眠,鎮静,口渇,疲労感,起立性目眩,中断時反跳現象,時に肝障害,発熱,溶血性貧血

直接作用型血管拡張薬 頭痛,頻脈,体液貯留,抗核抗体反応陽性『わかりやすい内科学』井村裕夫・他 編集:文光堂

SAMPLE

2318章 脳血管障害

2. 合併症1)拘縮定義: 皮膚、筋などの関節構成体以外の軟部組織(軟部関節構成体)の病変に

よって起こる関節の固定または運動の制限。持続的に関節が強制位をとり、軟部組織収縮(短縮)のため関節機能が減少するか、全く消失したもの。

種類:皮膚性拘縮…火傷、創傷、炎症などによる皮膚の瘢痕による拘縮が大部分結合組織性拘縮… 皮下軟部組織、靱帯、腱などの結合織の収縮による拘縮 例)Dupuytren拘縮筋性拘縮…筋の短縮・萎縮によって起こる拘縮

長期間の関節固定による筋の短縮、また筋疾患の筋の損傷後の瘢痕による拘縮例)Volkman阻血性拘縮、三角筋拘縮、殿筋拘縮症、大腿四頭筋

拘縮症など神経性拘縮… 疼痛を回避するために反射性に強制肢位を長くとるため起

こる拘縮① 反射性拘縮② 痙性拘縮:中枢神経系の疾患や損傷によって痙性麻痺をきたし、筋の緊張亢進のために起こる

③ 弛緩性麻痺拘縮:脊髄、末梢神経の炎症や損傷によって起こる

拘縮を生じやすい肢位上肢 肩関節…内転、内旋 肘関節…屈曲 手関節…屈曲 指関節…屈曲下肢 股関節…屈曲、内転、外旋 膝関節…屈曲、伸展 足関節…底屈

2)異所性骨化定 義: 解剖学的に骨が存在してはならない部分に新生骨形成を見る場合

を言う。完成した骨化部分は、ハバース管や骨髄腔を備えた正常な骨組織であり、筋肉への石灰沈着とは区別される。

誘 因: 関節部の乱暴な取り扱いによる外傷(内出血→慢性炎症)好発部位: 股関節>膝関節>肩関節>肘関節予防法: 早期より麻痺側の愛護的関節可動域運動やマッサージを行い、

関節や筋の拘縮を防ぎ、局所の循環をよく保つ。

SAMPLE

232 8章 脳血管障害

3)肩手症候群(表 8-4)定  義: 肩と手の疼痛性運動制限と手の腫脹(発赤を伴う)・疼痛を主徴と

する、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)の一種。原因の明らかでない特発性のものもあるが、臨床的にみられる本症候群の多くは、片麻痺、心疾患、頸部脊椎症、上肢の外傷などに続発する。重症例は廃用肩、廃用手となる。

症  状: 急性期→手部の腫脹・熱感・発赤、手指の運動時痛、肩の自発痛 慢性期→手指の関節拘縮と筋萎縮 肩甲骨:内転下方回旋 MP伸展拘縮発症時期: 発病から 3日目~ 6か月(7割程度は 3か月までに発症) ブルンストロームステージ 3以下治  療:自律神経の遮断→患側の星状神経節ブロック ステロイド理学療法: 温熱療法(パラフィン浴、ホットパックなどの伝導熱が効果的) マッサージ 自動他動運動 ※他動運動は、疼痛を生じさせないのが原則(痛みを伴わない範囲) 手指機能回復 ADL練習 ※患側の固定(同一肢位をとる)は厳禁 !! TENS(鎮痛)(p. 127)

表 8-4 肩手症候群の各時期の症状

4)起立性低血圧症 状: 臥位から座位あるいは立位に体位を変換する際、脳血流を一定に

保てず循環器症状を起こし、高度の場合は失神をきたす。循環器症状 →顔面蒼白、頭痛、めまい、立ちくらみ、冷汗、生欠伸(なまあくび)

など対処方法: 早期より体位変換、ギャッジベッド、バックレストなどを用いた

座位練習を実施する。傾斜起立台を用いた漸進的起立運動の実施

※ 傾斜起立台での立位訓練は下肢の筋収縮を伴わないため、筋パンピングによる下肢循環の促進は起こらず下半身への血液貯留が起こりやすいため好ましくない。しかし、立位への順応を獲得する点では適応となると考えられる。

痛み 皮膚症状 関節 骨第 1期

(急性期)激しい疼痛

allodynia hyperalgesia発赤、腫脹発汗過多

肩、手関節の屈曲制限 斑点状の脱灰

第 2期(亜急性期) 激しい疼痛 蒼白、乾燥

光沢を帯びる関節拘縮

MP軽度伸展位 斑点状骨萎縮

第 3期(慢性期) 疼痛の軽度減少 乾燥、萎縮

菲薄化関節拘縮の悪化 びまん性骨萎縮

SAMPLE

2338章 脳血管障害

5)肩関節亜脱臼定 義: 関節を構成する骨の関節面がずれて正常な位置関係ではないが、一部

はなお接触を保っている。原 因: 三角筋のみでなく棘上筋の筋力低下が原因とされる。予 防: 早期からの関節可動域運動とポジショニング、アームスリングが重要。 ※麻痺筋の緊張が低下している状態では程度の差はあれ肩関節は亜脱

臼位にある。発病初期はアームスリングでできるだけ整復位に保持しておく。ただし肩関節は拘縮を起こしやすい関節なので passiveな可動域維持の運動が必要である。

治 療: 消炎鎮痛剤、ステロイド関節内注入、温熱療法、関節可動域運動

6)Pusher症候群非麻痺側で麻痺側の方に強く押す。安定した抗重力姿勢をとることができない。対 処: 非麻痺側の荷重を心がける 坐位の場合、足底を床から離すと安定 杖は身体の前方へ 鏡を利用 歩隔を広く 垂直棒など垂直指標

7)半側空間無視麻痺側に注意をむける麻痺側のブレーキレバーに目印PTは麻痺側に立つ麻痺側への回旋をうながす鏡による視覚刺激は使用しない非麻痺側後頸部へ振動刺激

8)注視麻痺中脳出血、進行性核上性麻痺時に示す(垂直方向)水平方向または垂直方向に両眼を動かすことができない症状動眼神経、外転神経、滑車神経 

3. アンダーソン・土肥の改訂基準1)運動を行わない方がよい場合

(1) 安静時にすでに脈拍 120/分以上(2) 拡張期血圧 120 mmHg以上(3) 収縮期血圧 200 mmHg以上(4) 動作時しばしば狭心痛を起こす(5) 心筋梗塞発作後 1か月以内(6) うっ血性心不全の所見の明らかなもの(7) 心房細動以外の著しい不整脈(8) 安静時すでに動悸、息切れがある

SAMPLE

234 8章 脳血管障害

2)途中で運動を中止する場合(1) 運動中、中等度の呼吸困難、めまい、嘔気、狭心痛が出現した場合(2) 運動中、脈拍が 140/分以上になった場合(3) 運動中、1分間 10個以上の不整脈が出現した場合(4) 運動中、収縮期血圧 40 mmHg以上または拡張期血圧 20 mmHg以上上昇 した場合

3)運動を一時中断し、回復を待って再開する(1) 脈拍数が運動前の 30%以上増加した場合(2) 脈拍数が 120/分を越えた場合(3) 1分間 10個以下の不整脈の出現(4) 軽い息切れ、動悸が出現した場合

4. 歩行阻害因子

1)重度の運動障害(長期の弛緩性麻痺、両側、重複麻痺)2)屈曲拘縮(膝 15°以上、尖足、内反足、股屈曲など)3)高次脳機能障害(重度の失語、失行、失認、半盲)4)精神障害(障害受容の不良、意識の低下、意欲の低下)5)重度感覚障害(深部覚鈍麻、脱失、麻痺側の激しい疼痛)6)認知症7)排尿排便障害(長期の便失禁)8)合併症(心不全)9)高年齢(80歳以上)

SAMPLE

2358章 脳血管障害

4. PT プログラム(治療) 

1. 急性期目的: 二次的障害(廃用症候群)の予防   褥瘡予防:ベッド上体位変換   四肢の関節変形・拘縮予防:良肢位および関節可動域運動

1)体位変換・良肢位(図 8-1)目的:① 褥瘡予防② 関節拘縮の予防③ 変形の予防④ 浮腫の予防⑤ 排痰の促進と沈下性肺炎の予防(体位変換は 2~ 3時間毎に行う)⑥ 痙性の軽減⑦ 姿勢の正しい感覚を与える⑧ ある目的の動きを出させ易くする⑨ 環境の正しい知覚・認知に役立てる⑩ 運動開始の基準とする

方法: 下肢は股関節伸展、膝関節軽度屈曲位、足関節直角、上肢は肩関節外転位、肘関節やや屈曲位、手関節背屈位を基本に、いくつかを組み合わせて筋トーヌスの偏りを防ぐ。

◆ 背臥位 → できるだけ左右対称な姿勢を取らせたり、非麻痺側の上下肢や視線の動きが身体の正中線を越えるようにすることで麻痺側の認知を促す。

◆ 背臥位 → 緊張性頸反射や迷路反射の影響を受けやすいので、筋緊張の変化に注意する。

頸部の健側方向への回旋は、非対称性緊張性頸反射による麻痺側の上下肢の屈曲を引き起こす。

枕の高さは低くする。

◆ 側臥位(麻痺側下)→ 麻痺側肩の疼痛の原因になりやすく、感覚障害のある場合には肩の二次的損傷を増悪させることもあり、急性期では避けた方がよい。

◆ 腹臥位 → 股・膝関節が伸展位に保持されることが利点とされ、呼吸器系、心疾患、骨関節疾患が認められない場合に適応となる。

高齢者では困難。

SAMPLE

236 8章 脳血管障害

図 8-1 基本的な良肢位

2)ROM運動(図 8-2)目 的:① 正常な筋緊張の維持② 軟部組織の癒着防止③ 関節拘縮の防止④ 局所の循環改善⑤ 覚醒水準の改善(脳幹網様体賦活系への刺激)⑥ 機能的動作実施のための準備⑦ 関節痛の軽減(不動性関節炎の防止)⑧ 固有受容器の刺激による筋再教育

背臥位

足首はスプリントで直角に保つ。

膝の下には枕を入れて軽度屈曲させ、外旋も防止する。

臀部には、枕を入れて股関節伸展位に。

肩甲骨を十分に引き出して小枕を入れる。

腕を外上方に曲げた肢位をとらせる。

患部を上にした側臥位

麻痺側の方を前方に出し、両腕を伸ばして、大きな枕を抱かせる。両足の間に枕を入れる。

肩の亜脱臼防止のため腕を枕で支える。

肘を伸ばしてテーブルの上にのせる。ベッドが高いときは足台を置く。

坐位

SAMPLE

2378章 脳血管障害

開始時期: 呼吸や心臓が安定・落ち着きしだい 脳出血→発症後数日以内 脳梗塞→発作直後

注意事項:① 非麻痺側から行って安心させてから、麻痺側の運動を行う。必ず左右とも行う。

② 体幹に近い方の関節を固定し、痛みが起こらない範囲内でゆっくり行う。③ 関節の全可動域にわたり行うのが原則であるが、発症直後意識の低下しているときは、その約 2/3程度の範囲にとどめるのがよい。

④ 各運動動作は 1関節 5~ 6回行い、1日に 2~ 3回実施する。⑤ ある程度指示が分かるようになったら、できるだけ早く非麻痺側の四肢の助けを借りて自己他動運動をすすめる。

■肩関節の屈曲(前挙)弛緩期には肩関節の他動的屈曲(前挙)は 90度まで。肩甲骨を固定し、それを前上方に持ち上げるようにしながら上肢を屈曲(前挙)させる。肩関節の亜脱臼を防止するため、肩甲骨の関節窩に上腕骨頭を軽く押し付けるようにして動かす。

■肩関節の外転外転も 90度程度まで。正常の随意的な外転の時は、肩甲上腕関節(狭義の肩関節)と肩甲自体の動きをほぼ 2対 1の比率で伴うように(scapulo-humeral rhythm)動かす。

■肩関節の内外旋弛緩期においては、亜脱臼損傷を避けるため、正常の半分程度の可動域にとどめる(内、外旋とも約 45度)。上腕を関節窩に対して軽く押し付けぎみにする。

■前腕の回内・回外前腕は回内位での拘縮(回外の制限)を起こしやすい。手首と上腕の肘近くを固定して、前腕を正常可動域の範囲でゆっくりと動かす。

SAMPLE

238 8章 脳血管障害

■ MP関節の屈曲中手指節(MP)関節は伸展位拘縮を起こしやすい。弛緩期に、図のように十分他動的な屈曲を行う。近位・遠位の指節間(PIP、DIP)関節の屈曲も同様に重要である。

■ MP・IP関節の伸展前記の屈曲と同時に指の関節の伸展を行う。特に屈筋の筋緊張が高まってきたら、指伸展と同時に手関節の背屈も十分に行う。

■母指の運動母指は屈曲、伸展、掌側外転、橈側外転(図)、対立などの運動をする。中手指節(MP)関節および手根中手(CM)関節を十分に動かすよう母指球をしっかり固定して動かす。

■股関節の伸展背臥位では腰が沈んで股関節は多少屈曲位を示す。健側の下肢を十分に屈曲させ、腹部に押し付けるようにすると骨盤が固定され(Thomasの肢位)、この肢位で麻痺側の膝を下に押すと股関節が十分伸展される。

■ハムストリング筋の伸長(1)ハムストリング筋(Hamstrings)は股伸展と膝屈曲の二つの作用を持つ関節筋であり、膝伸展位のまま股関節を屈曲させる(straight leg raising: SLR)。

SAMPLE

2398章 脳血管障害

図 8-2 ROM運動

■ハムストリング筋の伸長(2)ハムストリング筋の伸長(stretching)のもう一つの方法は非麻痺側の膝を片手で押さえる代わりに大きな砂のうで固定する。片手で膝を押さえて伸展させる(SLR)。

■股関節外転非麻痺側の膝を大きな砂のうで固定し、患側の下肢を両手で支え、ゆっくりと股関節を外転させる(下肢を開く)。

■股関節内旋股関節外旋拘縮は非常に起こりやすいので、毎日股関節屈曲位で膝を両手で支えつつ股関節内旋させる。

■足関節背屈(尖足の予防)尖足は非常に起こりやすい拘縮で、歩行への影響も大きい。必ず手で踵部をつかみ、アキレス腱を下に引き下げ、前腕部で足底の前部を上に押しつけるようにする。この時他側の手で足首を固定する。反張膝および扁平足に注意を要する。

■足指の屈伸足指の屈曲拘縮、槌指(hammer toe)、鷲爪変形(toe clawing)なども起こりやすい。他動的に MP、IP各関節を屈伸させて拘縮を防ぐ必要がある。

SAMPLE

240 8章 脳血管障害

2. 回復期・生活期目的

1) 随意運動の促通(種々の facilitation)2) 関節可動域の維持・改善(疼痛の緩和)3) 筋力の維持・強化(特に健側上下肢、体幹)4) 基本動作の獲得(バランス、耐久性を含む)

1)座位練習目  的:座位保持能力(安定性、耐久性)の強化開始時期:座位耐性運動の基準(表 8-5)

表 8-5 座位耐性運動の基準

運動順序(1) バックレストやギャッジベッドを用いた他動的座位(2) 自力座位(3) 静的バランス(座位保持)(4) 動的バランス(左右前後)の獲得(5) 上肢の動作の組み合わせ

運動方法(1) 他動的座位保持運動 バックレストまたはギャッジベッドを使用 ※膝関節は屈曲位とし、腰が谷間に安定するようにする  起立性低血圧の症状が出現したら、すぐに頭低位へ戻す  1週間~ 10日で座位保持 30分、約 90°を目標とする(2) 能動的座位保持運動 ベッドの柵やロープを使用、またはセラピストによる介助 →坐面に手を置くのみで座位保持が可能となる

開始基準 1.障害(意識障害、運動障害、ADLの障害)の進行が止まっていること2.意識レベルが 1桁であること3.全身状態が安定していること

施行基準 1.開始前、直後、5分後、15分後、30分後に血圧と脈拍を測定する2.30°、45°、60°、最高位(80°)の 4段階とし、いずれも 30分以上可能となったら次の段階に進む

3.まず 1日 2回、朝食・昼食時に施行し、安定したら食事ごととする4.最高位で 30分以上可能となったら車椅子座位運動を開始する

中止基準 1.血圧の低下が 10 mmHg以上のときは 5分後の回復や自覚症状で判断 30 mmHg以上なら中止

2.脈拍の増加が開始前の 30%以上、あるいは 120拍/分以上3.起立性低血圧症状(気分不良など)がみられた場合

SAMPLE

2418章 脳血管障害

2)立位運動(1) 他動的立位(介助立位) 起立台(tilt table)の使用※ 直立位(80 ゚)で 30分保持可能を目標とする 同時に圧迫包帯などは少しずつ外していく 麻痺部分に流入する血液を最小限にとどめ低血圧の発生を防ぐ

(2) 能動的立位 開始時期① 椅子座位が十分に安定していること② 非麻痺側下肢に十分な力があること③ 非麻痺側上肢に十分な力があること※初めての立位では支持物を用いる(支持物:平行棒、歩行器、手すり、椅子の背、テーブル、ベッドなど)

注意 ① 膝折れ ② 骨盤の後退 ③ 麻痺側への骨盤の回旋運動 ① できるだけ左右対称に保持する→支持基底面をやや大きくとる   姿勢矯正用鏡の使用 ② 股(腰部)・膝の過屈曲、過伸展に注意する ③ 5分以上の静止保持は苦痛なことが多いので避ける ④ 指導は必ず麻痺側の下肢(膝)を中心に、脚をコントロールする

3)立ち上がり運動運動高い坐面から開始し、徐々に低い高さで可能になるように進める足の位置 非麻痺側をひく ....非麻痺側支持の立ち上がりとなる 理学療法開始初期に行う 麻痺側をひく ........麻痺側支持の立ち上がりとなる 麻痺側の支持性改善の運動として行う 両足をひく ............両足支持により体重を均等にかけて立ち上が

ることが可能※患者は重心を正中位に保持することが困難  →姿勢矯正用鏡の使用

セラピストの誘導により正中位を意識させる介助側 前方 .............膝折れの防止 (前方から患者の膝を介助者の膝で固定) 側方 .............正常人の立ち上がるタイミングの体得 (患者の麻痺側に体を密着させ、一緒に立ち上がる)

起立方法① 椅子に浅く腰掛ける② 足を引く(足の位置は上述した通り)③ 上半身を十分に前傾させ、重心を下肢にのせる④ 臀部を持ち上げる⑤ 腰と膝を伸展させ、体幹を起こす

SAMPLE

242 8章 脳血管障害

4)歩行練習(表 8-6)歩行時の障害と補装具を用いた矯正例膝折れ内反尖足反張膝分回し歩行(尖足が原因の場合)

表 8-6 片麻痺の歩容の問題とその対策

問題 原因 対策

立脚期

1. a)非麻痺側への体幹の傾き

b)麻痺側への体幹の傾き

a) 股外転筋の不十分なコントロール股伸筋膝伸筋足底屈筋

b) 身体像の障害

a) 筋力増強運動  骨盤水平位での左右への体重シフト

2. 非麻痺側骨盤の降下 不十分な股外転コントロール 外転筋強化:杖の使用

3. 股伸展が不十分 a) 股屈曲拘縮b) 股伸展のコントロールが不十分であるc) 固有感覚障害:固有感覚障害のため視覚 で代償

d) 足のフット・フラットに伴う足底屈に対しての代償

e) 膝伸展と足底屈筋の弱化による代償

a) 伸張:良肢位保持 b)と e) 筋力増強運動 c) 短下肢装具を使用(底屈制動つき) d)と e) 短下肢装具(90°固定位)

4. 股内転位 内転痙性:外転筋のコントロールが不十分 閉鎖神経ブロック,内転筋腱切除,閉鎖神経切除 (以上,必要に応じて)筋力増強運動:筋力緊張を除くテクニック

5. 膝の過伸展 a) 伸展筋が弱いための代償b) 固有感覚障害による代償c) 足底屈筋の痙性d) 足底屈拘縮

a) 筋力増強運動:短下肢装具(90°位固定) b) 短下肢装具(90°固定) c) アキレス腱の持続伸張 d) アキレス腱の持続伸張

6. 膝が十分に伸びない a) 股、膝,足伸筋のコントロールが不十分b) 不十分なヒラメ筋により 90°にならない足関節の背屈

c) 固有感覚の障害d) 膝屈曲拘縮e) ハムストリングスの痙性

a)と b) 筋力増強運動:麻痺側支持での股,膝の安定性 b) 短下肢装具を使っているための制約か,機能

的な底屈曲拘縮へ進んだもの c) 短下肢装具(背屈位) d) 伸張運動:良肢位保持 膝屈筋の緊張に対してのリラクセーション e) 選択的にハムストリングスを伸張させる

7. 膝の動揺 a) 固有感覚の障害b) 膝伸展筋の弱化/足底屈筋

a) 短下肢装具を 90°(直角位)に固定 b) 筋力増強運動,短下肢装具

8. 膝屈曲制限 (立脚後期)

a) 足底部の動きの制限b) 大腿四頭筋の痙性c) 足底屈曲の痙性d) 足底屈曲拘縮

a) 足底屈筋の強化:立位でのステップに腹臥位での足底部へのタッピング

b) 大腿直筋/内側広筋の緊張をとる c)と d) 下腿三頭筋の持続伸張 d) 伸張:良肢位保持

9. 過度の底屈位 a) 足底屈位拘縮b) 足底屈の痙性c) 膝伸筋の弱化、足底屈筋の弱化のための代償

a) 伸張:良肢位保持 b) 下腿増強運動 c) 筋力増強運動:短下肢装具

10. 内反 a) 内反筋の痙性b) 外反筋のコントロールが不十分

a) 痙性が軽度であれば短下肢装具:内反筋の緊張をとるテクニックか,前脛骨筋腱の移行

b) 機能的電気刺激法の使用:筋力増強運動

11. けり出し時の足底部の動きがない

a) 足底屈筋が不十分b) 股、膝伸筋の弱化c) 足指の Clawingd) 固有感覚の欠如

a)と b) 筋力増強運動:短下肢装具(直角位よりやや背屈)の使用

c) 足指屈筋の緊張をとる d) 短下肢装具

SAMPLE

2438章 脳血管障害

表 8-6 片麻痺の歩容の問題とその対策(つづき)

問題 原因 対策

遊脚期

1. 骨盤の前方回旋の欠如

a) 選択的コントロールの欠如 a) 骨盤回旋に対して抵抗あるいは介助運動により刺激し,感覚入力を増す

2. 股屈曲が不十分 a) 股屈筋の弱化/コントロールb) 固有感覚の障害/下肢の動きの感じが減少したもの

c) 大腿四頭筋の痙性

a) 筋力増強運動 b) 感覚入力を増すための抵抗を加えた歩行 c) 膝の選択的運動(腹臥位、立位) a)と c) 代償として股の分回し,対側の伸び上がり,

ヒップハイキングを教える場合もある

3. 分回し a) 不十分な股、膝屈曲b) 屈筋共同運動のみc) 大腿四頭筋の痙性

a) 股,膝の選択的運動(腹臥位,立位):立位でのステップ

b) ヒップ・ハイカーを抑えての患側への荷重 c) 立位での膝の選択的可動性

4. 膝のこわばり a) 膝屈曲の不十分なコントロールb) 大腿四頭筋の痙性

a)と b) 股伸展位での膝の選択的屈伸(腹臥位,立位)

5. 膝の不十分な伸展 a) ハムストリングスの痙性b) 固有感覚障害c) 膝屈曲拘縮d) 四頭筋が十分に強くないe) 対側肢の弱化により立脚期が短いf) 歩行の速度低下

a) 伸張 b) 短下肢装具 c) 伸張/良肢位保持 d)と e) 筋力増強運動

6. 過度の足底屈曲(尖足)

a) 足底屈曲拘縮b) 足底屈曲痙性c) 足背屈曲のコントロール不十分d) 固有感覚の欠如e) 共同運動パターンによる足底屈筋の早すぎる活動

a) 伸張:良肢位保持:アキレス腱の引き伸ばし b) アキレス腱の引き伸ばし c) 筋力増強運動,短下肢装具,機能的電気刺激,

腱移行術 d)と e) 短下肢装具

『脳卒中最前線』 福井圀彦・他編集:医歯薬出版 

5)筋緊張異常の理学療法(1) 物理療法→表 8-7

表 8-7 物理療法の痙性抑制に対する効果

治療法 作用温熱療法 痙縮筋 ホットパック

赤外線パラフィン浴極超短波超音波

疼痛の軽減と筋トーヌスを低下させ痙性を緩らげる中枢→遠心性γ系の抑制

寒冷療法 痙縮筋 氷水コールドパック

長時間では、固有受容器や筋紡錘の求心性γ線維の抑制

水治療法 全体 ハバードタンク温泉療法

温熱的作用に加え、浮力、水圧などの静水力学的作用重力の軽減は痙性の抑制に有効で、抗重力筋に効果が大

振動 拮抗筋 バイブレーター 痙性拮抗筋に相反性抑制を及ぼし痙性を軽減筋紡錘→ CIa線維→脊髄後根→抑制介在シナプス→拮抗筋の抑制

低周波電気治療 痙縮筋 低周波 錘内筋線維の刺激閾値が錘外筋線維のそれより高いことを利用し、腱紡錘のみを興奮させ自原性抑制を誘発、前シナプスの抑制の復活

SAMPLE

244 8章 脳血管障害

(2) 運動療法① 姿勢のコントロール姿勢をコントロールすることにより全身の筋緊張を調節する→中枢神経の破壊によって活発になる各種の姿勢反射を利用して、同一姿勢による特定パターンのみの緊張増加を抑制する

② 筋の持続的伸張③ 神経生理学的方法④ 補助具装具やスプリントは変形の予防や矯正だけでなく、筋紡錘に持続的伸張を加えることで筋緊張を抑制することが可能

6)痛みの理学療法表 8-8 痛みの対策

7)生活指導① 階段昇降(坂も含む) 昇: 杖 → 非麻痺足 → 麻痺足 降: 杖 → 麻痺足  → 非麻痺足

② 敷居、小さな障害物(溝)のまたぎ  杖 → 麻痺足 → 非麻痺足

③ 広い溝 杖 → 非麻痺足 → 麻痺足

④ 浴槽の出入 入: 非麻痺足 → 麻痺足

⑤ 回転の場合 非麻痺足(麻痺足)を軸として回転

⑥ エスカレーター利用 上り、下りとも非麻痺足から乗る

① 評価 患者の全人格的な評価,疼痛の位置づけ

② 原因療法 内科的、外科的、整形外科的あるいは各科的に原因の除去

③理学療法および装具療法 各種温熱・寒冷療法、マッサージ、治療体操および各種装具(brace、splint、免荷装具ほか)など

④ 薬物療法 鎮静剤、消炎剤、循環促進剤、筋弛緩剤、精神安定剤、抗うつ剤、各種塗布湿布剤、また各種漢方薬の応用

⑤ ペインクリニックの応用 各種神経ブロック療法、針灸療法

⑥ 刺激鎮痛法 経皮的電気刺激(TENS)、硬膜外電気刺激、レーザー刺激療法など

⑦ 整形外科的手術の応用 関節形成術、固定術、腱移行術、腱延長あるいは切腱術など

⑧ 心理療法 自律訓練法、漸進的筋弛緩法、精神分析的な心理療法、行動療法などSAMPLE

2458章 脳血管障害

8)嚥下指導(1) 摂食、嚥下の過程① 先行期(認知期):何をどの位、何を食べるのか② 準備期:食塊を作る③ 口腔期:食塊を口腔→咽頭④ 咽頭期:咽頭→食道⑤ 食道期:蠕動運動で胃へ

(2) 姿勢 座位 90°嚥下反射の遅れ → 飲み込むときは顎を首につくまで引く食塊の咽頭への送り込み困難 → 体を後方に傾ける舌・唇の麻痺 → 頭と体を麻痺のない側に傾ける咽頭喉頭の麻痺 → 首を麻痺のある側に向ける

(3) 嚥下の原則交互嚥下:液体と個体を交互に息止め嚥下: 大きく息を吸って止めてから(口も閉じる)飲み込む その後、咳払いをする 一口量の制限:少量ずつ複数回嚥下: 一口について何度も飲み込む

(4) 食品好ましい食品: プリン状、ゼリー状、マッシュ状(ポテト、カボチャ)、と

ろろ状、粥状、ポタージュ、乳化状(ヨーグルト、牛乳)、ミンチ状

好ましくない食品: スポンジ状(カステラ、凍り豆腐)、練り食品(かまぼこ)、粘着製品(ワカメ、ノリ)、その他(大豆、ごま、こんにゃく)など

(5) 嚥下訓練① 頭部挙上訓練(シャキア・エクササイズ Shaker exercise)意義: 舌骨上筋群など喉頭挙上に関わる筋の筋力強化を行い、食道入口部

の開大、食道入口部の食塊通過を促進し、咽頭残留(特に下咽頭残留)減少。

具体的方法:1) 挙上位の保持(等尺性運動):背臥位で頸部屈曲「1分間挙上位を保持した後、1分間休む」を 3回。

2) 反復挙上運動:同じく背臥位で頭部の上げ下げ(up and down)を 30回を 1日 3回、6週間。

注意点:負荷が大きいので、症例によって適宜、強度や頻度を調節する必要がある。

9)その他CI療法(Constraint-induced movement therapy)・健側上肢を拘束する・患側上肢を使用する

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