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インフラ長寿命化・強靱化のための構造材料技術 36 研究開発の目的 発信位置及び発信時刻が未知な弾性波の到達時刻のみを利用して対象領域内の弾性波速度分布を同定するAET [Acoustic Emission Tomography] の社会実装に向けて、①現場レベルでの簡易解析及び大規模なモデルを対象とした 詳細解析を可能とするための解析手法の最適化及び効率の向上、②解析手法の改良による弾性波速度分布の同定精度の 向上を行う。 研究開発の内容 AET とは ・発信点と発信時刻が不明な弾性波の受信点における到達時刻を使って弾性波速度分布を同定する。 ・弾性波速度トモグラフィ法と異なり、初動走時を計算するための弾性波の発信時刻と波線経路を決定するための弾性波 の発信位置が未知のため、弾性波速度分布の同定を行う前に弾性波の発信位置と発信時刻の推定を行う。この際、発 信位置の分解能を向上させるために中継点を設置する。 ・推定された弾性波の発信位置と発信時刻を使い、一般的な弾性波速度トモグラフィ法と同じように弾性波速度分布の同 定を行う。 ①解析手法の最適化及び効率の向上 ・波線情報を記憶するデータベースの構造を見直すことにより、解析を実行するために必要なメモリ量を 30% 程度まで低 減した。 ・AE の発生位置の標定及び弾性波速度構造の再構成において、解析手続きを見直すことによって、解析時間がイベント 数にほぼ依存しないようにすることができた。AET の社会実装においては、イベント数が非常に大きくなることが予想さ れるが、この解析手法の改良によってこれらの解析を効率的に実施できるようになった。これにより、従来の解析プログ ラムに対して、解析時間を 1/ イベント数以下に短縮することが達成され、節点及び中継点の総数が 10000 点程度のモ デルにおけるイベント数が 30 の問題で、解析に必要な時間を 1/100 程度に低減できることを確認できた。 実装を見据えた AET[Acoustic Emission Tomography] の改良 日本大学 小林 義和 E-mail : [email protected] 真の弾性波速度分布 三次元 AET による弾性波速度分布同定例 AET のフローチャート 同定された弾性波速度分布 イベント数と解析時間の比較 節点及び中継点の総計と要求 メモリ量の関係 節点及び中継点の総計と解析 時間の比較

実装を見据えたAET[Acoustic Emission Tomography]の改良実装を見据えたAET[Acoustic Emission Tomography]の改良 担当者名小林義和 E-mail : [email protected]

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  • インフラ長寿命化・強靱化のための構造材料技術

    36

    研究開発の目的

     発信位置及び発信時刻が未知な弾性波の到達時刻のみを利用して対象領域内の弾性波速度分布を同定する AET [Acoustic Emission Tomography] の社会実装に向けて、①現場レベルでの簡易解析及び大規模なモデルを対象とした詳細解析を可能とするための解析手法の最適化及び効率の向上、②解析手法の改良による弾性波速度分布の同定精度の向上を行う。

    研究開発の内容

    AET とは・ 発信点と発信時刻が不明な弾性波の受信点における到達時刻を使って弾性波速度分布を同定する。・ 弾性波速度トモグラフィ法と異なり、初動走時を計算するための弾性波の発信時刻と波線経路を決定するための弾性波

    の発信位置が未知のため、弾性波速度分布の同定を行う前に弾性波の発信位置と発信時刻の推定を行う。この際、発信位置の分解能を向上させるために中継点を設置する。

    ・ 推定された弾性波の発信位置と発信時刻を使い、一般的な弾性波速度トモグラフィ法と同じように弾性波速度分布の同定を行う。

    ①解析手法の最適化及び効率の向上・ 波線情報を記憶するデータベースの構造を見直すことにより、解析を実行するために必要なメモリ量を 30% 程度まで低

    減した。・ AE の発生位置の標定及び弾性波速度構造の再構成において、解析手続きを見直すことによって、解析時間がイベント

    数にほぼ依存しないようにすることができた。AET の社会実装においては、イベント数が非常に大きくなることが予想されるが、この解析手法の改良によってこれらの解析を効率的に実施できるようになった。これにより、従来の解析プログラムに対して、解析時間を 1/ イベント数以下に短縮することが達成され、節点及び中継点の総数が 10000 点程度のモデルにおけるイベント数が 30 の問題で、解析に必要な時間を 1/100 程度に低減できることを確認できた。

    実装を見据えた AET[Acoustic Emission Tomography] の改良

    日本大学 小林 義和E-mail : [email protected]

    ・発信点と発信時刻が不明な弾性波の受信点における到達時刻を使って弾性波速度分布を同定する。 ・弾性波速度トモグラフィ法と異なり、初動走時を計算するための弾性波の発信時刻と波線経路を 決定するための弾性波の発信位置が未知のため, 弾性波速度分布の同定を行う前に弾性波の発信 位置と発信時刻の推定を行う。この際、発信位置の分解能を向上させるために中継点を設置する。 ・推定された弾性波の発信位置と発信時刻を使い, 一般的な弾性波速度トモグラフィ法と同じように 弾性波速度分布の同定を行う

    発信位置及び発信時刻が未知な弾性波の到達時刻のみを利用して対象領域内の弾性波速度分布を同定するAET[Acoustic Emission Tomography]の社会実装に向けて、①現場レベルでの簡易解析及び大規模なモデルを対象とした詳細解析を可能とするための解析手法の最適化及び効率の向上、②解析手法の改良による弾性波速度分布の同定精度の向上を行う。

    ■ 実装を見据えたAET[Acoustic Emission Tomography]の改良 担当者名 小林義和 E-mail : [email protected] 参画研究者名 :小田憲一(日本大学)

    研究開発の内容

    研究開発の目的

    三次元AETによる弾性波速度分布同定例

    真の弾性波速度分布 同定された弾性波速度分布

    AETのフローチャート

    AETとは

    ①解析手法の最適化及び効率の向上 ・波線情報を記憶するデータベースの構造を見直すことにより、解析を実行するために必要なメモリ 量を30%程度まで低減した。 ・AEの発生位置の標定及び弾性波速度構造の再構成において、解析手続きを見直すことによって、 解析時間がイベント数にほぼ依存しないようにすることができた。AETの社会実装においては、 イベント数が非常に大きくなることが予想されるが、この解析手法の改良によってこれらの解析 を効率的に実施できるようになった。

    イベント数と解析時間の比較 節点及び中継点の総計と要求メモリ量の関係

    節点及び中継点の総計と解析時間の比較

    ・発信点と発信時刻が不明な弾性波の受信点における到達時刻を使って弾性波速度分布を同定する。 ・弾性波速度トモグラフィ法と異なり、初動走時を計算するための弾性波の発信時刻と波線経路を 決定するための弾性波の発信位置が未知のため, 弾性波速度分布の同定を行う前に弾性波の発信 位置と発信時刻の推定を行う。この際、発信位置の分解能を向上させるために中継点を設置する。 ・推定された弾性波の発信位置と発信時刻を使い, 一般的な弾性波速度トモグラフィ法と同じように 弾性波速度分布の同定を行う

    発信位置及び発信時刻が未知な弾性波の到達時刻のみを利用して対象領域内の弾性波速度分布を同定するAET[Acoustic Emission Tomography]の社会実装に向けて、①現場レベルでの簡易解析及び大規模なモデルを対象とした詳細解析を可能とするための解析手法の最適化及び効率の向上、②解析手法の改良による弾性波速度分布の同定精度の向上を行う。

    ■ 実装を見据えたAET[Acoustic Emission Tomography]の改良 担当者名 小林義和 E-mail : [email protected] 参画研究者名 :小田憲一(日本大学)

    研究開発の内容

    研究開発の目的

    三次元AETによる弾性波速度分布同定例

    真の弾性波速度分布 同定された弾性波速度分布

    AETのフローチャート

    AETとは

    ①解析手法の最適化及び効率の向上 ・波線情報を記憶するデータベースの構造を見直すことにより、解析を実行するために必要なメモリ 量を30%程度まで低減した。 ・AEの発生位置の標定及び弾性波速度構造の再構成において、解析手続きを見直すことによって、 解析時間がイベント数にほぼ依存しないようにすることができた。AETの社会実装においては、 イベント数が非常に大きくなることが予想されるが、この解析手法の改良によってこれらの解析 を効率的に実施できるようになった。

    イベント数と解析時間の比較 節点及び中継点の総計と要求メモリ量の関係

    節点及び中継点の総計と解析時間の比較

    真の弾性波速度分布

    三次元 AET による弾性波速度分布同定例 AET のフローチャート

    同定された弾性波速度分布

    イベント数と解析時間の比較 節点及び中継点の総計と要求メモリ量の関係

    節点及び中継点の総計と解析時間の比較

  • インフラ長寿命化・強靱化のための構造材料技術

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    ②解析手法の改良(AE 位置標定法の改良)・ 従来法で AE 発信位置の凡その位置を推定し、その周囲に発信点候補を中継点の配置間隔の半分の間隔で配置し、その

    状態で AE 発信位置の標定を行うと、より高い分解能で AE 発信位置を標定することが可能になる。これを繰り返して実行することにより、従来の手法に対して、大幅に低い計算負荷で高い AE 位置標定の分解能を達成することを可能にした。

    ・ この方法を使った場合には、1イベント当たりの処理時間が長くなることから計算負荷へのイベント数の影響が大きくなる。このため、計算資源に余裕があり、中継点を密に配置することが可能であれば、この手法の利用は避けることが望ましい。

    研究開発された技術・成果(まとめ)

    ・ 解析手法の効率化及び最適化によって、解析実行に必要なメモリと解析時間を大幅に低減することができ、解析時間がイベント数にほぼ依存しないようになった。これにより、従来の解析プログラムに対し、解析時間を 1/ イベント数以下に短縮することが達成され、節点及び中継点総数が 10000 点程度、イベント数が 30 の問題において、解析に必要な時間を 1/100 程度に低減されることが確認された。

    ・ AE 位置標定法の改良によって、AE 位置標定の分解能を限られた計算リソースの増加によって実行できるようになった。

    実用化イメージ

    ・ 解析に必要な時間がイベント数にほぼ依存しなくなったため、弾性波速度分布を同定する際に、多数のイベントを利用することが可能となった。これにより、長時間の計測によって蓄積された、多数の計測データを利用して弾性波速度分布を同定しうる見通しをえた。

    ・ 要求メモリ、解析時間ともに従来と比較して大幅に低減することができたため、節点と中継点の総計が 1000 程度であれば市販の可搬型 PC でも現実的な時間で解析することが可能となった。これにより計測データの処理を完全に自動化することができれば、現場で簡易な評価をすることが可能になった。

    ・ AE 位置標定法の改良については、大規模なモデルにおいて十分な中継点を設置できず、かつあまりイベント数が多くない場合に有用であると考えている。

    未来への展望

    ・ 弾性波の発信位置及び発信時刻が不明な弾性波の到達時刻のみを利用して、弾性波速度分布を同定しうる手法であり、その応用範囲は広い。今後、より積極的な解析効率の向上と、その詳細な性能評価を行うことによって、社会基盤施設の維持管理に資することができる技術であると考えている。

    参画研究者  小田 憲一(日本大学)

    ・弾性波の発信位置及び発信時刻が不明な弾性波の到達時刻のみを利用して、弾性波速度分布を同定 しうる手法であり、その応用範囲は広い。今後、より積極的な解析効率の向上と、その詳細な性能 評価を行うことによって、社会基盤施設の維持管理に資することができる技術であると考えている。

    実用化イメージ

    未来への展望

    ・解析に必要な時間がイベント数にほぼ依存しなくなったため、弾性波速度分布を同定する際に、多数 のイベントを利用することが可能となった。これにより、長時間の計測によって蓄積された計測デー タを利用し、弾性波速度分布を同定しうる見通しをえた。 ・要求メモリ、解析時間ともに従来と比較して大幅に低減することができたため、節点と中継点の総計 が1000程度であれば市販の可搬型PCでも現実的な時間で解析することが可能となった。これにより 計測データの処理を完全に自動化することができれば、現場で簡易な評価をすることが可能になった。 ・AE位置標定法の改良については、大規模なモデルにおいて十分な中継点を設置できず、かつあまり イベント数が多くない場合に有用であると考えている。

    ・解析手法の効率化及び最適化によって、解析実行に必要なメモリと解析時間を大幅に低減することが でき、解析時間がイベント数にほぼ依存しないようになった。 ・AE位置標定法の改良によって、AE位置標定の分解能を限られた計算リソースの増加によって実行で きるようになった。

    研究開発された技術・成果(まとめ)

    ②解析手法の改良(AE位置標定法の改良) ・従来法でAE発信位置の凡その位置を推定し、その周囲に発信点候補を中継点の配置間隔の半分の 間隔で配置し、その状態でAE発信位置の標定を行うと、より高い分解能でAE発信位置を標定する ことが可能になる。これを繰り返して実行することにより、従来の手法に対して、大幅に低い計算 負荷で高いAE位置標定の分解能を達成することを可能にした。 ・この方法を使った場合には、1イベント当たりの処理時間が長くなることから計算負荷へのイベント 数の影響が大きくなる。このため、計算資源に余裕があり、中継点を密に配置することが可能で あれば、この手法の利用は避けることが望ましい。

    発信点候補の設置 発信点候補の設置間隔と発信位置の標定精度

    発信点候補点間隔0.250mにおける位置標定結果 発信点候補点間隔0.0156mにおける位置標定結果 発信点候補点間隔 0.250m における位置標定結果

    発信点候補の設置 発信点候補の設置間隔と発信位置の標定精度

    発信点候補点間隔 0.0156m における位置標定結果