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有限責任監査法人トーマツ 金融機関のためのIFRS最新連続セミナー(第19回) 20207貸倒引当金算定における COVID-19の影響を含む将来予測情報の反映

貸倒引当金算定における COVID-19の影響を含む将来予測情報の … · さらには貸倒引当金の見積方法について、日本の会計基準の枠内でどのように見直しをしていくことが考えられるの

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有限責任監査法人トーマツ

金融機関のためのIFRS最新連続セミナー(第19回)

2020年7月

貸倒引当金算定における

COVID-19の影響を含む将来予測情報の反映

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目次

1. 本セミナー資料の概要 3

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務 5

3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映 18

4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映 23

5. COVID-19の影響の反映を踏まえた今後の対応可能性 28

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討 30

出典 42

執筆者経歴 46

本資料の意見に関する部分は執筆者の私見であり、有限責任監査法人トーマツの公式見解ではありません。

本資料は皆様への情報提供として一般的な情報を掲載するのみであり、その性質上、特定の個人や事業体に具体的に適用される個別の事情に対応するものではあり

ません。また、本資料の作成または発行後に、関連する制度その他の適用の前提となる状況について、変動を生じる可能性もあります。個別の事案に適用するためには、

当該時点で有効とされる内容により結論等を異にする可能性があることをご留意いただき、本資料の記載のみに依拠して意思決定・行動をされることなく、適用に関す

る具体的事案をもとに適切な専門家にご相談ください。

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凡例

CF(Cash flow) キャッシュ・フロー

DCF(Discount cash flow) ディスカウント・キャッシュ・フロー

EAD(Exposure at default) 債務不履行時のエクスポージャー

ECL(Expected credit losses) 予想信用損失

GAAP(Generally Accepted Accounting Principles) 一般に公正妥当と認められる会計基準

GDP(Gross domestic product) 国内総生産

IFRS(International financial reporting standards) 国際財務報告基準

IMF(International Monetary Fund) 国際通貨基金

IRB(Internal rating based approach ) 内部格付手法

LGD(Loss given default) 債務不履行時損失率

PD(Probability of default) 債務不履行の確率

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1. 本セミナー資料の概要

3

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本セミナー資料の目的と構成

1. 本セミナー資料の概要

本セミナー資料の目的

金融庁は、2019年12月18日に金融検査マニュアルを廃止すると共に、ディスカッション・ペーパー「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」を公表した。この中で、 貸倒引当金の見積りに関しては、経営陣の適

切な判断により、各金融機関のポートフォリオの特性を把握・分析し、他の債権と異なる特異なリスク特性を有する債

権群を別グループとした上で、過去実績に加えて、外部や内部の環境変化など足元や将来の情報を集合的に引当に

反映することも考えられる旨、言及されている。貸倒実績率が低下してきた昨今の状況も踏まえ、ディスカッション・ペーパーを根拠に将来予測情報の考慮を含めた引当の見直しを検討する動きが見られている。

一方、足元では、COVID-19の影響等により個別債務者の業績が悪化しつつあり、将来の経済状況の先行きの不透明感も相俟って、融資ポートフォリオの信用リスクの悪化が想定される。COVID-19の影響は不確実性が高く、どのような仮定(シナリオ)を置くかによって予想損失に大きな相違が生まれる。特にCOVID-19による長期的な景気悪化シナリオを想定した場合、債務者毎の信用リスク評価に織り込むことの他、過去実績だけでなく景気の悪化等の将来予測を織り込んだ貸倒引当金の見直しも視野に入れる必要性が高まることになる。

このような状況を踏まえ、本セミナー資料では、海外金融機関及び国内金融機関がCOVID-19の影響を貸倒引当金の見積りにどのように考慮したのかを開示例を踏まえて分析するとともに、当該分析を踏まえ、国内金融機関における貸倒引当金の見積方法の見直しの可能性について考え方を示すことを主たる目的としている。

本セミナー資料の構成

① まず、セクション2「IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務」において、IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務を説明する。

② その上で、セクション3「海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映」、セクション4「国内金融機関における

COVID-19の影響の反映」において、海外金融機関及び国内金融機関がCOVID-19の影響を貸倒引当金の見積りにどのように織り込んだのか開示例を踏まえて説明する。

③ 最後に、海外金融機関との比較を踏まえ、国内金融機関は貸倒引当金の見積りにあたりどのような課題があるか、

さらには貸倒引当金の見積方法について、日本の会計基準の枠内でどのように見直しをしていくことが考えられるのか、セクション5「COVID-19の影響の反映を踏まえた今後の対応可能性」、セクション6「貸倒引当金見積方法の見直しの検討」で説明する。

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2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務

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2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(1/12)

IFRS上、具体的なECLの測定方法は明示されておらず、特定の方法によることを強制されていないため、 IFRS第9号の減損の要求事項に従った方法であればさまざまな方法が採用可能である。

日本における実務では貸倒実績率による方法が採用される場合が多いが、IFRSではEAD×PD×LGDによる方法又はDCF法が採用される場合が多い。

一般的に想定される見積り方法 備考

EAD×PD×LGDによる方法

以下の点において基準の要求事項を満たしやすく、採用している金融機関が多い。

ステージ2の判定にPDが必要である。

LGDに時間価値が考慮されている(デフォルトまでの時間価値は別途考慮が必

要)。

パラメータを細分化しておく方が将来予測が考慮しやすい。

銀行であれば、バーゼル規制に基づく自己資本比率の算定で使用するパラメータを出発点にすることが考えられるが、IFRS用に修正すべき点は多く見受けられる。

DCF法

基本的にはEAD×PD×LGDによる方法とメリットおよび計算結果は同じであるが、より

個別性を考慮する必要がある場合に採用される場合が多い。

総額での帳簿価額(引当前償却原価)の算定にCFの見積りが必要であり、そちらとの親和性が高い。

ECLの測定方法

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2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(2/12)

以下は、将来予測を反映した予想信用損失の測定にあたっての検討ステップの一例であるが、一般的なアプローチと考えられる。なお、回帰分析の結果、モデル化ができない場合には、過去実績を利用することが一般的である。

Step 1 パラメータ推計モデルの構築 Step 2 ECLへの反映

パラメータの実績値を算定した上で将来予測の反映が必要となる。

パラメータへの将来予測の反映に関しては以下の手順で検討を行うことになる。

Step1で検討したパラメータ推計モデルに基づきECLを算出する必要があるが、以下の手順でECLの算出を行うことになる。

① 実績値の算定(P. 8)

銀行であれば、バーゼル規制に基づく自己資本比率の算定で使用するパ

ラメータを出発点としてIFRS用に必要な修正を行う手法が一般的である。

② マクロ経済指標の選択(P. 9)

将来のパラメータを直接予想することは困難であるため、マクロ経済指

標の予測を通じて将来のパラメータを推計することが一般的である。

検討対象とすべき経済指標に関しては、ストレステストや経営計画、予

算において既に考慮されている指標が第一の候補となるが、それ以外

に相関が高い指標がないかを検討する必要がある。

③ モデル化(P. 10)

将来予測のモデルで経済指標とパラメータの相関関係を利用する場合、マ

クロ経済指標と各パラメータの相関分析を行い、モデル化を行うことになる。

実際には、以下の手順で相関分析を行うことになる。

相関分析の粒度の決定

相関分析の実施

① 確率加重の反映(P. 12)

基準の要求事項である「確率加重」を満たすためには、複数の将来予測

シナリオを見積もり、それぞれにECLを算出した上で、シナリオの発生確率により加重平均する必要がある。したがって、例えば以下の点について検討

が必要となる。

シナリオの数

発生確率

シナリオの設定方法(マクロ経済指標の予測)

② 将来予測の予測期間(P. 15)

詳細な将来予測を検討する期間をどの程度に設定し、その後の期間につ

いてどのような見積もりを行うかを検討する必要がある。

③ マネジメント・オーバーレイ(P. 17)

標準的なモデルでは反映されない事象を考慮するために、マネジメント・

オーバーレイとしてモデルの外でECLの調整を行う必要がないか検討が必要となる。

将来予測反映の概要

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実績値の算定

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(3/12)

実績値は次頁以降の将来予測の回帰分析のために算定が必要となる。

銀行であれば、バーゼル規制に基づく自己資本比率の算定で使用するパラメータを出発点としてIFRS用に必要な調整を行う手法が一般的である。IFRS用に必要な調整としては例えば以下のような点を考慮することが考えられる。

項目 IFRS用の必要な調整における主な考慮事項

EAD

1年以上先のEADの推計

月次や四半期次で見積りを行うか年次で見積りを行うか

年次の場合はデフォルトの時点は期末とするか、期首とするか、期央とするか

「約定+期限前償還等」をベースに見積りを行うか、過去実績をベースとして見積りを行うか

PD

デフォルトの定義

グルーピング(業種別、地域別等の考慮)

算定のタイミング(年度末以外)

保守的調整の排除

Point in Time(以下「PiT」という)への修正

長期間の期間構造を保有したPDの推計

LGD

デフォルトの定義

当局設定値を使用している場合は推計が必要

グルーピング(担保種別等の考慮)

保守的調整の排除

間接経費の控除

PiTへの修正

割引率の変更

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マクロ経済指標の選択

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(4/12)

ストレステストや経営計画、予算等、すでに内部で活用されている指標が第一候補となると思われるが、すでに内部で活用されている指標以外に相関の高い経済指標がないかをどう検討するかが1つのポイントとなる。その際に、政府や規制当局が公表しているマクロ経済予測等(以下のデータは例示)が検討候補となり得ると考えられる。

内閣府の景気動向指数: https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/menu_di.html

IMF等の公表データ

アメリカのストレステストの規制であるCCAR(The Federal Reserve’s annual Comprehensive Capital Analysis and Review)で考慮することとされている指標:https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/files/bcreg20200304a3.pdf

経済指標の候補から実際に使用するものを選定する場合には、相関が高いことはもちろんであるが、最終的には選定した経済指標の予測を行い、それによりPD等のパラメータが算出されることとなるため、企業が合理的かつ裏付け可能な証拠に基づいて「予測可能であること」が重要である。

その他、例えば失業率と新規求人数のような類似した指標の相関がいずれも高いと言った場合には、先行指標とした方が将

来予測がしやすい(一方で、確率加重の反映は難しくなる)といった点、また公的機関の公表データの方が継続的な入手可能性が高いことやデータの入手頻度等を考慮し選定を行うことが考えられる。

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将来予測のモデル(1/2)

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(5/12)

将来予測を反映したパラメータの推計に当たっては、マクロ経済指標と各パラメータの相関分析を行った上でモデル化を行うことになり、実際には、以下の手順で相関分析を行う。なお、将来予測的な情報の考慮は、ECL測定に関わる全てのパラメータにおいて検討が必要となるが、以下では基本的にPDを対象として将来予測に関する説明を行う。

① 相関分析の粒度の決定

相関分析は統計的な解析であることから、有意な分析を行うためには一定のデータ量が必要となる。

例えば、1年PDとマクロ経済指標の相関を例にとった場合、PDは自己資本比率規制においては年次単位の推計と

なっていることから、これとマクロ経済指標の相関分析を行うとすると、過去20年分のPDとマクロ経済指標を母集団に分析したとしても母集団は20しかない。そのため、例えばマクロ経済指標が月次や四半期次で取得できる場合には、

月次や四半期次でPDを算出して相関分析を行うことにより、統計的に有意な分析を行いやすくすることが考えられる。 また、マクロ経済指標が年1度しか公表されない等、月次や四半期次で取得することが出来ない場合には、年に1度

公表されるマクロ経済指標から内挿により月次や四半期次のマクロ経済指標を算定するといったことも考えられる。

② 相関分析の実施

相関分析の実施にあたり、選定したマクロ経済指標について、マクロ経済指標自体の他、変化率、変化幅、log等への変換を行う。これは、例えば、PD等の各パラメータとGDP自体とは相関がない場合でもGDP成長率とは高い相関が見られるということがあるためである。

モデルには右記の通り、単回帰モデル(シングルファクターモ

デル)および重回帰モデル(マルチファクターモデル)等がある。

単回帰モデル(シングルファクターモデル)

Y

重回帰モデル(マルチファクターモデル)

Y

パラメータと相関の高い複数のマクロ・ファクターを選択Ex) GDP・失業率…

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将来予測のモデル(2/2)

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(6/12)

基準日 完全失業率 完全失業率_変化率 完全失業率_Log 完全失業率_・・・・ ・・・・ 基準日 PD PD_変化率・・・・

・・・・

2003/03 ・・・・ 2003/03

2004/03 ・・・・ 2004/03

2005/03 ・・・・ 2005/03

2006/03 ・・・・ 2006/03

2007/03 ・・・・ 2007/03

2008/03 ・・・・ 2008/03

2009/03 ・・・・ 2009/032010/03 ・・・・ 2010/032011/03 ・・・・ 2011/032012/03 4.8% -4.0% (3.172) ・・・・ ・・・・ 2012/03 0.28% ・・・・2013/03 4.3% -10.4% (3.270) ・・・・ ・・・・ 2013/03 0.21% ・・・・2014/03 4.2% -2.3% (3.348) ・・・・ ・・・・ 2014/03 0.22% ・・・・2015/03 3.8% -9.5% (3.377) ・・・・ ・・・・ 2015/03 0.15% ・・・・2016/03 3.6% -5.3% (3.400) ・・・・ ・・・・ 2016/03 0.12% ・・・・2017/03 3.5% -2.8% (3.380) ・・・・ ・・・・ 2017/03 0.10% ・・・・2018/03 3.0% -17.4% (3.330) ・・・・ ・・・・ 2018/03 0.07% ・・・・

PDとの相関係数 0.9400 0.7200 0.9900 ・・・・ ・・・・

その他の経済指標 【相関分析の実施例:単回帰モデルを前提にした場合】

完全失業率のlogと非常に高い相関が見られたことから重回帰を含めた分析は行っていない例となっている。

そのため、予測する経済指標は完全失業率となり、完全失業率のlogとPDの回帰式で将来予測を反映したPDを推計することになる。

上の例は単回帰モデルを前提としているが、理論的には、重回帰モデルと単回帰モデルの片方を前提にするのではなく、自己相関についても考慮の上、選定したマクロ経済指標、その変化率、変化幅、log等とPD等の各パラメータの全ての組み合わせの相関を分析し、最も相関が高いものを選定するという作業を行うことになる。

この作業は大量のデータで大量の計算を行う必要があることから、非常に負荷の高い作業になる。そのため、例えば、あるPDと非常に相関が高いマクロ経済指標が想定される場合には、まず単回帰を前提とした分析を行い、0.99…等、1に近い相関が見られる場合には他の要素の影響は僅少である(重回帰の分析に進む意義は大きくない)として単回帰のモデル化を行うことが考えられる。一方で、それほど高い相関関係がある経済指標が発見されなかった場合には重回帰の分析に進むという手順が考えられる。

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確率加重の反映:複数シナリオの考慮方法

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(7/12)

基準の要求事項である「確率加重」を満たすためには、複数の将来予測シナリオを見積る必要がある。

基準上、将来予測の考慮方法について具体的な記載はないが、銀行が検討している、将来予測の考慮方法には、以下に要約した通り様々な方法がある。

複数シナリオを用いた

ECL算定

モンテカルロ・タイプの

アプローチ

選定した複数シナリオから

算定される確率加重平均のECL基本シナリオに基づく

ECLの算定と追加補正

1. 経済シナリオの分布の生成

2. 各シナリオに係るリスク・パラメータの算定

3. ECL分布の算定

4. 最終的な平均ECLを決定するため

の適切な分布の選択

1. 定量化された発生確率を含む経済シナリオの定義

2. 各シナリオに係るリスク・パラメータの算定

3. 確率加重平均のECLの算定

1. 基本シナリオの定義

2. 代替的な経済シナリオの定義

3. 基本シナリオに基づくECLの算定

4. 代替的シナリオに基づく追加補正の算定

基本シナリオECL

+ 他のシナリオによる影響の加減算

+ マネジメント・オーバーレイ

i

iECLiPECL

確率加重平均のECLを算定

+マネジメント・

オーバーレイ

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確率加重の反映:設例

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(8/12)

IFRS第9号の測定では、偏りのない確率加重金額が求められており、ECLの測定は最頻値ではなく、最も発生確率の高いシナリオ以外のシナリオを確率加重で考慮する必要がある。

例えば、住宅ローンのステージ1のECLの測定に際し、PDに相関の高いマクロ経済指標が完全失業率であり、来年の完全失業率が3.0%になると予測した場合を想定する。この場合に、完全失業率が3.0%であるという予測に基づくPDを使用して計算したECLは、最も発生確率の高いシナリオ

(以下、「ベースシナリオ」という)に基づくECLであり、基準の要求事項である確率加重の要件を満たしていない。そのため、完全失業率が3.0%以外の失業率となるシナリオを考慮し、発生確率により確率加重してECLを測定する必要がある。

以下では、確率加重を考慮したECL測定の計算を設例を用いて確認する。

【前提】

• シナリオ数:ベースシナリオおよび景気拡張シナリオ、景気後退シナリオの3本

• ベースシナリオ:完全失業率3.0%、その場合のECL 100、発生確率50%

• 景気拡張シナリオ:完全失業率2.0%、その場合のECL 70、発生確率20%

• 景気後退シナリオ:完全失業率4.0%、その場合のECL 250、発生確率30%

• 完全失業率とECLは非線形の相関を有している

• マネジメント・オーバーレイで考慮すべき要素はない

シナリオ 完全失業率の予測 ECL 発生確率 発生確率考慮後ECL

景気拡張 2.0% 70 20% 14

ベース 3.0% 100 50% 50

景気後退 4.0% 250 30% 75

発生確率考慮後ECLの合計139が確率加重した将来予測反映後のECLとなる。

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確率加重の反映:シナリオの設定

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(9/12)

シナリオの数

• どのようなシナリオを設定するか、また、その発生確率をどのように見積るかにも影響を受けることから、何本のシナリオが適切であるか、シナリオ数をどのように決定することが適切であるかは非常に難しい。

• モンテカルロで多数のシミュレーションを行う方法の他、ベースシナリオとアップサイドおよびダウンサイドのN本シナリオによる方法が考えられる。

シナリオの設定方法

以下はN本シナリオにおけるシナリオ設定方法の例示である。なお、モンテカルロ・シミュレーションの場合にはシミュレーション・

モデルに基づく。

シナリオの発生確率

N本シナリオの場合、過去の予測値と実績値の乖離率や、ベースシナリオと上方・下方シナリオの乖離を基礎として決定することが考えられる。なお、モンテカルロ・シミュレーションの場合にはシミュレーション・モデルに基づく。

基準の要求事項である「確率加重」を満たすためには、複数の将来予測シナリオを見積もり、それぞれにECLを算出した上で、シナリオの発生確率により加重平均する必要がある。

シナリオ シナリオの設定方法

ベースシナリオ財務諸表における他の見積り、予算、戦略上の計画および資本計画、銀行が管理・報告に使用する内部情報や外部のアナリストが予測している経済指標を利用することが考えられる。

ベースシナリオ以外ベースシナリオの設定の仕方や過去のマクロ経済指標の推移や予測値からの乖離状況を考慮し設定すること等が考えられる。

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見積期間およびそれを超えた期間への対応(1/2)

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(10/12)

基準上、将来予測について以下のような記載がある。実務上長期にわたる詳細な将来予測を行うことは困難であるが、詳細な将来予測を行う期間をどの程度に設定し、それを超えた期間のECLをどのように見積もるかが論点となる。

ECLの見積りは、遠い将来の期間についての詳細な見積りは必要としない(IFRS9.B5.5.50)。そうした期間については、企業は利用可能な詳細情報からの予測を延長することができる。

まず、詳細な将来予測を行う期間について、IFRSには明示的な記載はないが、米国のストレステストの規制(前述のCCARやDFAST:Dodd-Frank Act stress test)においては、9四半期又は13四半期の将来予測を行うこととされていることから、当該期間を参考に決定することも考えられる。なお、英国のGlobal Systemically Important Banks(G-SIBs)のTransitionreport※によれば全ての銀行が必ずしも将来予測の予測期間を明示しているわけではないが、全ての銀行が将来予測で考慮しているマクロ経済指標として2018年から2022年までの5年間の経済指標の値を開示している。

次に、詳細な将来予測を行う期間を超えた期間のECLをどう見積もるかであるが、長期平均的なパラメータを使用することも1つの方法であると考えられる。

加えて、例えば3年目まで詳細な将来予測を行うとした場合、4年目から急に長期平均的な見積もりとするのか、一定の方則で緩やかに長期平均に収斂させるのかについても検討が必要である。

なお、USGAAPの引当に関する新基準であるFinancial Instruments—Credit Losses(Topic 326)では、これについて次頁のような考え方が示されている。

詳細な将来予測を検討する期間をどの程度に設定し、その後の期間についてどのような見積もりを行うかを検討する必要がある。

※ Transition report :2018年1月から3月にかけて公表された英国金融機関のTransition reportを対象としている。英国では、金融当局の要請を受けた一部の金融機関が報告書を作成し、IFRS第9号、特に減損領域に係る会計処理の枠組みや移行による影響を開示している。以下同様。

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見積期間およびそれを超えた期間への対応(2/2)

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(11/12)

Topic326のガイダンス(326-20-30-9)によれば、ローンの存続期間を以下3つの概念上の期間と考えることができる。

1. 合理的で裏付け可能な予測期間(” Reasonable & Supportable” Forecast Period)2. 過去の損失実績へ回帰する期間(Reversion Period)3. 過去の損失実績を反映する期間(Post- reversion Period)

ガイダンスでは、合理的で裏付け可能な予測期間がローンの残存続期間となり得るが、一部の金融資産については、契約期間が合理的で裏付け可

能な予測期間を超える可能性があり、合理的で裏付け可能な予測期間を超える期間については、過去の損失情報に回帰するアプローチを使用することが可能である。

入力レベルで、又は損失見積り全体に基づき、過去実績に回帰することができる

定額法又は他の合理的かつ規則的なアプローチを用いて、直接的に回帰することができる

Note: Timelinerepresentation is for illustrative purposes only to show relative periods in time (not shown to scale).

Exp

ecte

dLo

anLo

ssFo

reca

stb

yQ

uar

ter

合理的で裏付け可能な予

測期間

過去の損

失実績へ

回帰する

期間 過去の損失実績を反映する期間

Example 2

Comments:

Example 1: Expected

losses must be

increased to the

historical average.

Example 2: expected

losses must be

decreased to the

historical average.

Reversion should use a

"rational and systemic

basis." Examples include

curved or straight-lined.Remaining Contractual Portfolio Life

Example 1

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マネジメント・オーバーレイの反映

2. IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務(12/12)

論点 論点の概要 適用事例

どのような場

合にマネジメ

ント・オーバーレ

イとして調整を行うか

標準的なモデルでは反映されない事象を考慮す

るために、モデルの外でマネジメントが行う調整がマネジメント・オーバーレイである。

例えば、天災や地政学リスクなどの事象に対して

マネジメントによるモデル外の調整を実施する方針

とし、事象の発生が見込まれる場合には、影響を

受ける債務者又はポートフォリオを特定し、ステー

ジ判定の見直しおよび予想信用損失の算定に織り込むかどうかを検討することが考えられる

なお、マネジメント・オーバーレイが必要となる事象

としては、例えば、地震のような天災や政治的な

混乱による影響等が挙げられる。金融商品の減損に関するIFRS移行リソース・グループの議論では、

2014年9月28日のスコットランドの国民投票やギ

リシャのユーロ圏離脱の可能性などが例として挙げられている。

英国のGlobal Systemically Important Banks(G-SIBs)のTransition reportによれば、標準的なモデルでは反映されない非常に稀な事象が生じ

た場合には、マネジメント・オーバーレイとして調整を行う旨、また、Brexitに起因する英国経済の不確実性について、マネジメント・オーバーレイとして調整を行っている旨、開示している銀行がある。

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3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映

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海外金融機関における概要

3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(1/4)

① COVID-19の影響は大きいか

② COVID-19の影響はどの程度続くか

③ 格付/債務者区分

⑤ マネジメント・オーバーレイ

定量的・定性的調整にあたっての考慮要素として、借手の信用スコアに言及している金融機関がある

モデルでは反映できないCOVID-19の影響をマネジメント・オーバーレイとして反映している旨開示している金融機関がある

見積方法

仮定

多くの金融機関がCOVID-19の影響による経済指標の悪化に起因して貸倒引当金が増加している旨開示している(影響は軽微としている金融機関はない)

多くの金融機関がベースシナリオにおいては2020年末には回復に向かうシナリオを描いている

④ 引当方法i. すべての金融機関がマクロ経済シナリオの予測を通してCOVID-19の影響を

貸倒引当金の見積りに反映している

ii. 一部の金融機関は基本シナリオを重視する形で発生確率を見直している

海外金融機関がCOVID-19の影響を貸倒引当金の見積りにどのように織り込んだのかを把握することを目的として、米国、カナダ、欧州のG-SIBsを中心に、銀行業が主要な業態である10の金融機関の開示例を調査した。なお、国内金融機関は20年3月期(期末)が調査対象である一方、海外金融機関は20年3月期(*)は四半期であり、かつ四半期が任意開示の国も存在する。このため、四半期においても開示が充実している米国、カナダ、英国等を中心に調査した。

調査対象

(*)カナダは10月決算であるため20年4月期

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①影響の程度/②影響期間/④引当方法に関する開示例(1/2)

3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(2/4)

項目 HSBC BARCLAYS

シナリオの内容

(①影響の程度、

②影響期間、④引当方法)

COVID-19の発生と原油価格の下落の影響により貸倒引当金が増加。

COVID-19の経済的影響の深刻さと期間に応じて、上方シナリオ、中間シナリオ、

下方シナリオの3つのシナリオを設定。

上方シナリオ:ほとんどの主要市場における短期的な景気後退とそれに続く長期的な低成長をモデル化。各経済指標は概ね20年3Qから4Qにかけて回復に向かう。

中間シナリオ:主要市場全体にわたる深刻で長期の景気後退をモデル化。2020年にはいくつかの主要市場で失業率が大幅に上昇し、株式市場と住宅価格が大幅に下落。各経済指標は概ね20年4Qから21年1Qにかけて回復に向かう。

下方シナリオ:主要市場の回復が遅く、深刻で長期の景気後退をモデル化。活

動の制限と景気後退の長期化は、主要市場全体の失業率の急激な上昇をもたらす。各経済指標は概ね21年2Qにかけて回復に向かう。

マクロ経済変数の予測悪化を反映したベ ー ス ラ イ ン ・ シ ナ リ オの修正

(COVID-19 のシナリオ) による貸倒引当金が増加。

ベースラインシナリオは、20年にGDP、失業率が大幅に悪化する一方、21年は指標は回復に向かうと予測している。

シナリオに用いる

マクロ経済指標

(④引当方法)

主要な経済指標としてGDP成長率、失業率、住宅価格上昇率等を考慮。 ベースラインシナリオの主要な経済指標としてGDP、失業率、住宅価格指

数、金利等を考慮。

シナリオの

発生確率

(④引当方法)

上方シナリオと中間シナリオを重視。 上方シナリオ②:10.1%⇒5.0%上方シナリオ①:23.1%⇒20.8%ベースラインシナリオ:40.8%⇒46.7%下方シナリオ①:22.7%⇒21.0%下方シナリオ②:3.3%⇒6.5%(19/12⇒20/3)

(※)P.19における言及箇所を青字としている

①影響の程度/②影響期間/④引当方法について、比較的明確な開示を行っている金融機関の開示例を抽出

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①影響の程度/②影響期間/④引当方法に関する開示例(2/2)

3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(3/4)

項目 JP Morgan Royal Bank of Canada UBS

シナリオの内容

(①影響の程度、

②影響期間、④引当方法)

COVID-19 のパンデミックおよび原油

価格の下落の影響によりマクロ経済環境が悪化し貸倒引当金が増加。

基本シナリオ、緩やかな下方シナリ

オ、極端な下方シナリオ、緩やかな

上方シナリオ、極端な上方シナリオの5つのマクロ経済シナリオ。

このマクロ経済予測には、20年2Qに米国の実質GDPが約25%減少し、

失業率が10%を超える水準まで上

昇した後、20年後半には堅調な回

復が見込まれることが含まれている。

COVID-19の経済的影響を各シナリ

オの経済見通しに反映。

基本シナリオ:20年2Qの経済活動の急激な落ち込み、およびその後の緩和策の段階的な進展に伴う20年下半期の部分的な回復を反映。

上方シナリオ:最初の2年間は基

本シナリオよりも強い経済成長を反映。

下方シナリオ:最大2年間の状況

悪化の後、残りの期間の回復を反映。

貸倒損失発生の要因はCOVID-19等の影響

を受けた融資ポジションに伴うものとシナリオ及び発生確率の変化に伴うもの。

経済状況に伴うかなりの不確実性を考慮する

と代替的なシナリオの設定は適切ではないと判断。

基本シナリオ:主要な経済指標が悪化するものの20年後半からは緩やかな回復を見込む。

深刻な下方シナリオ:主に世界的な貿易緊

張と欧州における債務持続性への懸念によって引き起こされる深刻な景気後退を反映。

シナリオに用いる

マクロ経済指標

(④引当方法)

主要な経済指標としてGDP、失業

率、失業保険金、住宅価格指数、株価、長短金利等を考慮。

主要な経済指標として失業率、実質GDP、石油価格、住宅価格指数等を考慮。

主要な経済指標として失業率、GDP、住宅

価格等を考慮。

シナリオの

発生確率

(④引当方法)

― 基本シナリオを重視するよう確率加重を再評価。

上方シナリオ:7.5%⇒0%基本シナリオ:42.5%⇒70%緩やかな下方シナリオ:35%⇒0%深刻な下方シナリオ:15%⇒30%(19/12⇒20/3)

①影響の程度/②影響期間/④引当方法について、比較的明確な開示を行っている金融機関の開示例を抽出

(※)P.19における言及箇所を青字としている

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③格付・債務者区分/⑤マネジメント・オーバーレイに関する開示例

3. 海外金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(4/4)

項目 HSBC Standard Chartered Toronto Dominion

③格付・債務者

区分

― ― 現在の環境は急速に変化する可能性があり、 COVID-19 の一定の影響がモ

デル計算に十分に組み込まれていない

限り、一時的な定量的・定性的調整

が考慮されている。これには、借り手の信用スコア、産業や地域に特有の

COVID-19 の影響、国際機関や各国

政府が導入した支援策、経済封鎖の

継続が含まれるが、その影響はまだ定

量的モデルには十分に反映されていない。

⑤マネジメント・オーバーレイ

3つのシナリオ(P.20参照)を適用した場合でも、直近の信用状況を十分反

映できていないと判断した一部の市場

やポートフォリオに対してマネジメント・オーバーレイとして追加的な引当を実施。

貸倒引当金増加の約半分はモデルの

結果によるものであり、残りの半分はモ

デルの結果には反映されていないマクロ

経済見通しの悪化を反映したマネジメント・オーバーレイによるものである。

③格付・債務者区分/⑤マネジメント・オーバーレイについて、言及している金融機関の開示例を抽出

(※)P.19における言及箇所を青字としている

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4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映

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国内金融機関における概要

4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(1/4)

① COVID-19の影響は大きいか

② COVID-19の影響はどの程度続くか

③ 格付/債務者区分

⑤ マネジメント・オーバーレイ

影響を受けると考えられる特定のポートフォリオ(業種等)に対して直近の業績

悪化の影響を反映し、格付/債務者区分を調整したと推測される金融機関が散見される。

明確に読み取れる開示を行っている金融機関はなかった。

(日本基準では想定されていない)

見積方法

仮定

開示情報からは、どの金融機関も相応の影響を見込んでいると推測される。

引当計上額が最も大きいのはみずほフィナンシャルグループ(804億円)、ふくおかフィナンシャルグループが相対的に多額の引当を計上(貸出金残高比0.31%)。

多くの金融機関が2020年末以降は回復に向かうシナリオを描いている。

④ 引当方法景気予測に基づいたデフォルト率の推計モデルにより、予想損失率に反映していると推測されるケースもある。

国内金融機関がCOVID-19の影響を貸倒引当金の見積りにどのように織り込んだのかを把握するため、有価証券報告書(20年3月期)からCOVID-19の影響を踏まえて「必要な修正」を加えていると考えられる以下の金融機関の公表情報を調査した。<対象>三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ、三井住友トラスト・ホールディングス、ふくおかフィナンシャルグループ、新生銀行、あおぞら銀行、武蔵野銀行、商工組合中央金庫(いずれも日本基準)

調査対象

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2020年3月期における貸倒引当金の状況

4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(2/4)

金融

機関

見積方法(※1)

有価証券報告書(20年3月期)における追加情報格付/

債務者区分率の調整

三菱UFJフィナンシャル・

グループ〇 -

当行及び当行の一部の連結子会社では、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大による取引先の経営状況及び経済環境全体に及ぼされる影響を考慮し、取引先の財務情報等に未だ反映されていない信用リスクに対する影響額を見積り、貸倒引当金を45,347百万円計上しております。この算定プロセスには、重要な影響が見込まれる取引先の範囲の選定(特定の業種や地域)、特定のシナリオに基づく将来の経済状態の想定、当該業種や地域に属する

取引先の将来の内部信用格付の下方遷移の程度に関する集合的な見積り等が含まれます。感染症の広がり方や

収束時期等に関しては、参考となる前例や統一的な見解がないため、当行及び当行の一部の連結子会社は、収束時期を2020年12月末頃と想定する等、一定の仮定を置いた上で、入手可能な外部情報や予め定めている内部規程に則った経営意思決定機関の承認等に基づき、最善の見積りを行っております。

みずほ

フィナンシャル

グループ△ 〇

当社グループは、「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」(金融庁 令和元年12月18日)の趣旨を踏まえ、一部の与信に対して、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を貸倒引当金に反映しております。具体的には、新型コロナウイルス感染症の拡大による影響が大きい業種・債務者属性を特定し、債務者ごとの事業環境が回復するのに要する期間及び本邦GDP成長率の予測等の仮定をもとに予想損失額を見積っております。

三井住友

フィナンシャル

グループ〇 〇

新型コロナウイルス感染症の影響拡大に係る貸倒引当金の見積りについては、次の方法により財務諸表に反映してお

ります。債務者の業績や資金繰りの悪化等、個別の債務者に関連して発生することが予想される損失については、入手可能な直近の情報に基づき、必要に応じて債務者区分の見直しを行うことにより貸倒引当金に計上しております。

また、個社の債務者区分に反映しきれない、特定のポートフォリオにおける蓋然性の高い将来の見通しに基づく予想損

失については、新型コロナウイルス感染症等を起因とした原油価格等のマーケット指標の変動が及ぼす影響等、総合的な判断を踏まえて必要と認められる金額を貸倒引当金に計上しております。

(※1)調整方法の分類については、有価証券報告書における記載から推測したものであり、各行の算出方法等を個別に確認したものではない。

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2020年3月期における貸倒引当金の状況

4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(3/4)

金融

機関

見積方法(※1)

有価証券報告書(20年3月期)における追加情報格付/

債務者区分率の調整

三井住友

トラスト・

ホールディングス〇 ‐

新型コロナウイルス感染症の拡大が債務者に与える影響に鑑み、当社及び一部の連結子会社において、貸倒実績

率に必要な修正を加えて計上しております。具体的には新型コロナウイルス感染症の拡大による業績悪化の影響が懸

念される業種及び商品(以下、「業種等」)を特定し、当該業種等に属する一部の与信について、内部格付制度

上の内部格付が一定程度低下すると仮定した場合に将来発生すると予想される信用損失に対して追加的な貸倒引当金を計上しております。

新生銀行 〇 〇

新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )の感染拡大やそれに伴う経済活動停滞による影響は今後1年程度続くものと想定し、特に当行及び一部の連結子会社の特定業種向け貸出金等の信用リスクに大きな影響があるとの仮定

を置いております。こうした仮定のもと、当該影響により予想される損失に備えるため、特定債務者の債務者区分を足

許の業績悪化の状況を踏まえて修正するとともに、特定業種ポートフォリオの貸倒実績に予想される業績悪化の状況に基づく修正を加えた予想損失率によって、貸倒引当金7,011百万円を追加計上しております。なお、当該金額は現時点の最善の見積りであるものの見積りに用いた仮定の不確実性は高く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19 )の感染状況やその経済環境への影響が変化した場合には、翌年度の連結財務諸表において当該貸倒引当金は増減する可能性があります。

あおぞら銀行 〇 -

新型コロナウイルスの感染拡大が比較的早期に収束するものの、経済、企業活動へ及ぼす影響が継続し、一部の債

務者について、翌期以降の業績悪化により債務者区分の格下げが発生するとの仮定に基づき、当該債務者については、格下げを織り込んだ債務者区分に基づいて貸倒引当金を算定しております。

(※1)調整方法の分類については、有価証券報告書における記載から推測したものであり、各行の算出方法等を個別に確認したものではない。

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2020年3月期における貸倒引当金の状況

4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映(4/4)

金融

機関

見積方法(※1)

有価証券報告書(20年3月期)における追加情報格付/

債務者区分率の調整

ふくおか

フィナンシャル

グループ〇 〇

当社の銀行業を営む連結子会社は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による業績や資金繰りの悪化等影響が出ている債務者について、債務者区分の見直しを行うことにより8,742百万円貸倒引当金を追加計上しております。

また、貸倒引当金の見積り方法を、景気予測に基づきデフォルト率を推計する方法に変更したことから41,784百万円貸倒引当金を追加計上しており、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による景気悪化についても一定程度織込まれた見積りとなっております。なお、新型コロナウイルス感染症の収束時期については、概ね2020年度上期中を想定しており、2020年度下期から徐々に経済が回復すると仮定しておりますが、当該金額算定の見積りに用いた仮定の不確実性は高く、新型コロナウイルス感染症の影響が想定の範囲を超えた場合には、翌事業年度において当該貸倒引当金は増減する可能性があります。

武蔵野

銀行 〇 ‐

新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、その影響について調査を行い、影響を受けていると認めた債務者に係る債権については、信用リスクが高まっているものと仮定しております。

こうした仮定のもと、予め定めている償却・引当基準に則り、当該債務者の債務者区分を引下げたものとみなし貸倒実績率に必要な修正を加え見積る方法により貸倒引当金を追加計上しております。

商工組合

中央金庫 ‐ 〇

正常先債権及び要注意先債権に相当する一定の債権については、新型コロナウイルス感染症による経済環境の著し

い変化を踏まえ、将来の経済見通し等を分析・検討した上で、連結決算日時点における個々の取引先区分には反

映されていない信用リスクに関する諸情報を多面的に考慮し、リーマンショック発生時の実績を基礎として、連結決算

日以降の取引先区分変動リスクを織り込むことで、将来見込み等必要な修正を加えた貸倒引当金を算出しております。

(※1)調整方法の分類については、有価証券報告書における記載から推測したものであり、各行の算出方法等を個別に確認したものではない。

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5. COVID-19の影響の反映を踏まえた今後の対応可能性

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国内金融機関における今後の対応可能性

5. COVID-19の影響の反映を踏まえた今後の対応可能性

海外金融機関

における実務

調査対象としたすべての金融機関がマクロ経済シナリオの予測を通してCOVID-19の影響を貸倒引当金の見積りに反映している。また、多くの金融機関がCOVID-19の影響による経済指標の悪化が貸倒引当金の見積りに影響を与えていることを経済指標の推移を示すことで又は定性的に開示しており、影響は軽微としている金融機関はない。

国内金融機関

における実務

① 「4. 国内金融機関におけるCOVID-19の影響の反映」で調査対象としている大手金融機関を中心に、開示を必要とする程度に格付・債務者区分の調整や予想損失率の調整によりCOVID-19の影響を反映している金融機関は一部にとどまっている

② 格付・債務者区分の調整においても、個別債務者毎に将来の資金繰り・業績を予測して調整する方法、特定の業種を格下げする方法など、対応方法にはバラつきがあると考えられる

国内金融機関

における

今後の対応可能性

① 過去情報に基づいた貸倒引当金の見積りでは足元の経済環境等に即した見積りが困難な場合も想定され、特に、今回のCOVID-19の世界的流行のような状況においては見積りが一層困難になると考えられる。したがって、予想損失率の見積りにおいて将来予測情報を考慮するなど、過去情報のみでなく将来予測情報も考慮に入れた貸倒引当金見積りのモデルを構築しておくことが有用と考えられる。

② 仮に、個別債務者の状況に応じた将来予測情報の考慮により、格付・債務者区分の調整を行う実務が構築されていないとする。このような状況においては、例えば、COVID-19のような信用リスク悪化事象が発生した際に、個別債務者毎の将来の業績に与える影響を勘案することは困難であるとして、格付・債務者区分の調整において、特定の地

域・業種について保守的に一律格下げを行うことも考えられる。ただし、この場合、格下げ時に多額の貸倒引当金繰

入額が生じる一方、(景気後退期に保守的な格下を行ったことに起因して)景気回復期には多数の格上げが発

生し多額の貸倒引当金戻入益が生じる可能性がある。したがって、損益のボラティリティーの低減といった観点からも、個別債務者の状況に応じた将来予測情報の考慮により、格付・債務者区分の調整を行うことが有用と考えられる。

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6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討

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「格付/債務者区分判断」における将来予測情報等の反映

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(1/7)

債務者の信用リスク評価において最も重要視されるのが資金繰りを含むキャッシュ・フローの評価と考えられる。

したがって、将来予測情報等を反映したキャッシュ・フローを予測することが債務者の信用リスク評価においても重要となる。

現行の実務

① キャッシュ・フローを重視して債務者の信用リスクを評価する実務は定着を見せている。

② しかし、キャッシュ・フローが前期までの実績にのみ基づいており将来キャッシュ・フローではないケースが多く、将来予測情報の

考慮に関しては、個別債務者や業界に重要な信用リスク悪化事象が発生し、キャッシュ・フローの減少が確実に見込まれる

ケースなど限定的である

将来予測情報等の考慮の重要性

① 「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」においては、以下の点が指摘されている

• 融資ポートフォリオの信用リスクに関して、金融機関の個性・特性を基礎として、過去実績や個社の定量・定性情報に限られない幅広い情報から、将来を見据えて適切に特定・評価することが重要である旨

• 債務者区分(格付)判断に当たってはキャッシュ・フローを重視すべきである旨

②地震、台風やCOVID-19の世界的な流行など、債務者の信用リスク評価において考慮すべき将来にわたる信用リスク悪化事象の発生が増加してきている

将来CFの予測

検討の方向性

① 将来キャッシュ・フローの予測においては、需要と供給の2つの観点からの検討が重要となる

② キャッシュ・フローの算定において特に重要な構成要素となるのが、売上高と売上原価である。したがって、需要と供給の2つの観点で売上高と売上原価を予測することを通じて、将来キャッシュ・フローを予測することが重要となる

需要の減少/回復をいかにして予測するか

(例えば、該当する地域・業種の経済指標の予測を通じた予測が考えらえる)

供給の維持/回復をいかにして評価するか

(例えば、信用リスク悪化事象が生じた際の債務者毎の事業継続性の評価が考えられる)

売上高

売上原価

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(参考)「格付/債務者区分判断」に関する当法人のサービス

需要については、各種経済指標の予測を通じて

業種別の売上高変動率を予測するモデルを構

築しており、これに経済指標の予測値を入力す

ることで当該業種の債務者の売上高の変動を

予測します。

供給については、BCPチェックリストに基づき事業

継続の維持や回復と需要減少への対応の観

点で各債務者の評価を実施します。例えば、供

給の維持が難しい場合には売上高の予測を下

方修正するなど、BCPチェックリストの評価結果

を踏まえて、売上高または粗利、販売管理費

等を調整します。

このように、売上高等の予測を通じて将来予

測・事業継続性を反映した将来キャッシュ・フ

ローを予測します。この将来キャッシュ・フロー予測

に基づき、将来予測・事業継続性を反映した

格付・債務者区分の判定を行います。

売上高

売上原価

販売管理費

その他

将来予測・事業継続性を

格付・債務者区分に反映

需要の減少/回復をいかに

して予測するか

供給の維持/回復をいかに

して評価するか

売上高予測モデル

BCPチェックリスト

信用リスク調整ツール

将来予測・事業継続性を反映債務者の信用リスク評価

売上高等の予測を通じて

将来予測・事業継続性を反映した

将来キャッシュ・フローを予測

各種経済指標の予測を通じて業種別の

売上高変動率を予測

供給力の維持や需要減への対応を

チェックリスト形式で評価

需要と供給の2つの軸から将来予測情報 事業継続性を反映した債務者の将来キャッシュ フローを予測します

「格付/債務者区分判断」に関する当法人のサービスの紹介

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「貸倒引当金の見積り」における将来予測情報の反映(1/4)

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(2/7)

金融商品会計基準の見直し

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2020年7月14日に、現在開発中の会計基準に関する検討状況及び今後の計画を

公表している。その中で、「金融商品に関する会計基準」について、以下のような方針を提示している。

① 金融資産の減損:予想信用損失モデルに基づく金融資産の減損についての会計基準の開発に着手

② 金融資産・負債の分類及び測定:今後、会計基準の開発に着手するか否かについて判断する予定

金融検査マニュアルの廃止

① 金融検査マニュアルが廃止された後も、金融商品会計基準や銀行等金融機関の貸倒引当金等の監査上の取扱いに

ついて定めた「銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針」(銀行等監査特別委員会報告第4号)(以下、「第4号」という)は残るため、貸倒引当金に対する規制は変化しない。しかしながら、金融当局による検査の手引きであり、実務上の指針となっていた金融検査マニュアルが参考資料と位置付けられることによって、見積方法再検討の機運が高まっている。

② 金融検査マニュアル廃止と共に公表された「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」にお

いて、貸倒引当金の見積りに関しては、経営陣の適切な判断により、各金融機関のポートフォリオの特性を把握・分析

し、他の債権と異なる特異なリスク特性を有する債権群を別グループとした上で、過去実績に加えて、外部や内部の環境変化など足元や将来の情報を集合的に引当に反映することも考えられる旨、言及されている。

金融検査マニュアルの廃止や会計基準の見直し、足元の社会情勢等、将来予測情報の考慮の必要性が高まっている

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「貸倒引当金の見積り」における将来予測情報の反映(2/4)

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(3/7)

将来予測情報を考慮しない単純な過去実績に基づき貸倒引当金の見積りを行うことにより、見積と実績の差異が拡大す

る、すなわち損益のボラティリティーが拡大する可能性がある。ボラティリティーが拡大する要因として例えば以下のような点が考えられる。

① 例えば、COVID-19のような信用リスク悪化事象を背景にデフォルトが増加するが、今期で影響が出尽くしたと予想している場合には、本来は高い引当率では見積らないが、3算定期間の平均値を使用する場合には、直近期の高い実績が引当率に反映されてしまう⇒多額の貸倒引当金繰入額が発生

② 景気の回復期であるにも関わらず、例えば不況期の貸倒実績が算定期間に含まれた貸倒実績率により貸倒引当金を

計上することで、見積りよりも実績が過少となる⇒多額の貸倒引当金戻入益が発生

常に将来予測情報を考慮するのか、状況に応じて将来予測情報を考慮するのかの判断はあるものの、

将来予測情報を考慮する手法を確立しておくことが必要と考えられる

(第4号においても、将来見込等必要な修正及び過去の実績率の補正について以下の通り言及されている)

地震、台風やCOVID-19の世界的

な流行

P.33に記載の通り、地震、台風やCOVID-19の世界的な流行など、債務者の信用リスク評価において考慮すべき信用リスク悪化事象の発生が増加してきている

金融機関の保有する債権の信用リスクが毎期同程度であれば、将来発生する損失の見積りに当たって、過去の実績率を用いることが適切であるが、期末日現在に保有す

る債権の信用リスクが、金融機関の債権に影響を与える外部環境等の変化により過去に有していた債権の信用リスクと著しく異なる場合には、過去の実績率を補正することが必要である(金融商品会計に関する実務指針第111項参照)。金融機関が信用リスクをより的確に引当に反映するため、上記の将来見込み等必要な修正及び過去の実績率の補正を行う場合、現状は、会計基準等において具体的に明示された方法がないことから、経営者の判断によることになる。この場合、例えば以下の点に留意が必要である。

・金融機関に貸倒引当金の見積プロセスや見積結果の承認を行う仕組みが導入されているか。

・金融機関の経営陣に偏りのない情報が提供される体制が整備されているか。

第4号 Ⅵ貸倒償却及び貸倒引当金の計上に関する監査上の取扱い (注3)貸倒実績率又は倒産確率による貸倒引当金の計上方法

③貸倒実績率又は倒産確率による貸倒引当金の計上における将来見込み等必要な修正及び貸倒実績率又は倒産確率の補正(抜粋)

将来予測情報を考慮する上でこの2点が重要なポイントとなる

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[将来予測等のフォワードルッキングな要素を取り込む場合]

将来予測を中心として抜本的な見直しを検討したい場合、IFRSにおいて実務慣行となっている方法を検討することが考えられる。この場合、次頁のアプローチ①(バーゼルのデータを活用する方法)を採用する方が効率的となる。

あくまで、日本基準上の貸倒引当金をベースにフォワードルッキングな要素の取り入れを検討したい場合、次頁のアプローチ➁(会計データを出発点とする方法)を採用する方が効率的と考えられる。

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(4/7)

「貸倒引当金の見積り」における将来予測情報の反映(3/4)

IFRSにおける実務

具体的な計算方法は明示されていないため、さまざまな方法を採用可能だが、一般的にはEAD×PD×LGDによって計算する方法が採用される場合が多い。

なお、一般的な将来予測の考慮方法としては、セクション2「 IFRS第9号における将来予測情報反映の一般的な実務」に記載の通りであるが、バーゼルのモデルを出発点とするため、リスク管理と財務会計の一貫性が確保されるというメリットがある一方、適用にあたっての実務上の課題、負担が大きい。

日本基準における

現状のパラメータを基礎とする方法

(会計データを出発点とする方法)

前頁の第4号抜粋にもある通り、現状は、日本の会計基準等において具体的に明示された方法がないことから、EAD×PD×LGDによって計算する方法(バーゼルのデータを活用する方法)の他、貸倒実積率に将来予測を加味する方法、貸倒実積率を倒産確率とその他に分けて算出する方法など、会計データを出発点とする方法も考えられる

貸倒引当金 = 債権残高 × 貸倒実績率

貸倒引当金 = 債権残高 × 倒産確率 × (1-回収見込率)

IFRSにおいて実務慣行となっている方法は実務上の課題、負担が大きいため、日本基準における現状のパラメータを基礎とする方

法を採用することが考えられる

貸倒実績率/倒産確率に将来予測を反映

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[アプローチ➁]

会計データを出発点とする方法

[アプローチ①]

バーゼルのデータを活用する方法

「バーゼルのデータを活用する方法」と「会計データを出発点とする方法」の概要は以下の通りである

金融検査マニュアル廃止等を踏まえ、融資方針や融資ポートフォリ

オの分析を実施してグルーピングの在り方を検討した上で、実績率の

計算における損失見込期間や算定期間の見直しなどのオーソドック

スなものから将来予測の取り込みなどのフォワードルッキングな要素を

検討するものまで、現在の会計上の貸倒引当金データから出発し、

いろいろな方法の試算を行いながら最適な見積方法を探すアプロー

チ。

リスク管理及び自己査定・償却・引当の実務に一貫性を持たせるよ

うなパラメータへの将来予測の反映に向けた抜本的な見直しを行う

方法。

バーゼル自己資本比率計算上、内部格付手法を採用している銀行

の場合、当該手法で使用されているパラメータを出発点として、推

計ベースのECLを計算するために必要な調整を行う形で進めていくことが想定される。

項目 必要な調整の例

PD

デフォルトの定義

グルーピング

保守的調整の排除

Point in Timeへの修正

長期間の期間構造のPD推計 など

LGD デフォルトの定義

LGD推計の計算ロジック構築 など

概要 [イメージ]

例えば、将来予測の取り込みなどのフォワードルッキングな要素

を含む貸倒引当金の見積方法を検討する場合、過去の実績

率とリスク管理上で使用しているマクロ経済指標などを用いて

実施する回帰分析を軸に、景気循環の要素を取り入れて整

理する、などが考えられる。

メリット

• 先進的な手法で、過去実績によらない引当を行うことが可能

• リスク管理と財務会計の一貫性がとれる

• 将来、IFRSやUS-GAAPの予想損失モデルが日本基準の貸倒引当金にも導入されることになった場合、整合を取るのが容易

• 計算ロジックをモデル化する必要があり、複雑化する可能性あり

• IRBのパラメータを出発点とするにしても、モデルの体系化に相当の工数と期間を要する

デメリット

• 会計上の引当方法を出発点として考えるため、経理実務者にも

理解できる範疇での見直しが可能

• 工数は場合によるが、アプローチ①に比べると相当抑えられる

• 会計上の引当方法を出発点とするため、先進的なモデルを構築

するような抜本的な見直しは困難

• リスク管理と財務会計の一致は図ることは出来ない

6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(5/7)

「貸倒引当金の見積り」における将来予測情報の反映(4/4)

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6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(6/7)

「貸倒引当金の見積り」において検討すべき事項(1/2)

ポートフォリオ分析将来的な貸倒引当金の不足や安定性に関する課題へ対応するには、その課題がどのような融資方針や融資ポートフォリオを要因として発生したものかを正しく把握することが必要となる。従って、融資ポートフォリオを分解・分析し、特色のあ

るポートフォリオを識別することが必要となる。

見積方法の検討

ポートフォリオ分析等を踏まえ、ポートフォリオをどのように分割し、各ポートフォリオに対してどのような貸倒引当金の見積方法を適用するか検討することが必要となる。見積方法の検討にあたっては、例えば、以下のような検討が考えられる。

事業計画策定や信用リスク管理で使用されている様々な経済指標等から融資ポートフォリオと親和性のあるものを貸

倒実績との相関分析に基づいて抽出し、当該指標の直近推移や将来の予測を貸倒引当金の予想損失率に反映する手法を検討

正常先/要注意先の中でも特に残高の大きい大口与信先に対しては、当該大口先や大口先と経済的な相互依存関係が認められる者を含めた与信先群について、DCF法による引当金の見積手法を検討

各金融機関の融資ポートフォリオを分析した上で、適切な貸倒引当金の算定方法を検討することが必要となる

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6. 貸倒引当金見積方法の見直しの検討(7/7)

「貸倒引当金の見積り」において検討すべき事項(2/2)

一般貸倒引当金

倒産確率

貸倒実績率予想損失率による

引当金

DCF法による引当金

個別貸倒引当金

倒産確率

貸倒実績率予想損失率による

引当金

DCF法による引当金

CF控除法による引当金

貸倒引当金債権残高

(与信残高)

①貸倒実績率法

貸倒実績率

業種別

(製造業、卸売・小売等)

商品別

(住宅ローン、消費性ローン等)

②倒産確率法

債権残高

(信用残高)倒産確率 1-回収見込率 貸倒引当金

算定対象期間の長期化

(例:1年⇒3年)

算定期間数の拡大

(例:3期間⇒6期間)

算定期間の加重平均

(算定期間毎にウェイト付け)

平均残存年数の利用

(例:1年⇒平均残存年数)

特定の大口先

リテールローン

将来予測を踏まえたデフォルト率

外部データから得たデフォルト率

特定のポートフォリオ 計算式の工夫

特定のポートフォリオ 計算式の工夫

地域別

(特定エリア、遠隔地等)

融資方針

(経営改善支援先、専決案件)

様々な引当の見積手法のイメージ図

③DCF法

日本基準における引当金の類型

2項モデル(通常モデル) 複数シナリオによるモデル

計算式の工夫

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「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービスの紹介(1/3)

(参考)「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービス

将来的な貸倒引当金の不足や安定性に関する課題へ対応するには、その課題がどのような融資方針や融資ポートフォリオを要因として

発生したものかを正しく把握することが必要となります。 従って、ステップ1において各金融機関の融資ポートフォリオを分解・分析し、特色のあるポート

フォリオを識別します。

なお、 「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」においても、『各金融機関の経営陣の適切な判断により、各金融機

関のポートフォリオの状況に応じて集合的にその特性を把握・分析した上で、過去実積に加えて、外部や内部の環境変化など足元や将来の情報を

引当に反映することも考えられる。』とされており、各金融機関の融資方針や融資ポートフォリオを分析し、適切な貸倒引当金の算定方法を検討す

ることが必要になると想定されます。

識別されたポートフォリオにスコープを絞って、ステップ2として適用可能な貸倒引当金の新たな見積手法について、様々な案を検討します。また、ス

テップ3にて、俎上にあがった見積手法の試算を行いつつ、メリット・デメリットを検討し、整理を行います。

ステップ 2 ステップ 3ステップ 1

現状把握及びスコープの設定 貸倒引当金の新たな見積手法の検討 新たな見積手法の試算と決定

現状の融資方針から信用リスク管理の枠組

み、融資ポートフォリオ、償却・引当方法及び当該方法論決定の根拠等の把握

貸倒引当金の見積手法を検討する特定のポートフォリオを識別、スコープの決定

将来における融資方針やリスク管理の実態を

反映した適切な引当方法を検討するために

必要と想定されるデータについての保有状況の把握

ステップ1にて決定した特定のポートフォリオに

対する現行の会計基準で取り得る貸倒引当金の見積手法の検討

データ保有状況について長期的に取り組むべき課題の洗い出し

ステップ2にて俎上にあがった様々な貸倒引当金の見積手法の案について、影響額の試算

適用する新たな見積手法の決定

決定した見積手法を効率的かつ効果的に実

施する対応スケジュールの策定、規程・内部統制の見直し等

2020/AA/BB 2020/CC/DD 2020/EE/FF 2020/GG/HH

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「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービスの紹介(2/3)

(参考)「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービス

金融庁が策定した「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」では、『当局は、金融機関が、過去の実績率等や個社の定

量・定性情報に限らず、個社に帰属しない足元の情報、将来予測情報等、幅広い情報から信用リスクをどのように認識し、対応を検討してるかを評

価していく』とされています。

ステップ1においては、上記視点を踏まえ現状の融資方針や融資ポートフォリオの分析を実施します。

分析の結果を踏まえて、貸倒引当金の見積手法を検討する特定のポートフォリオのスコープを決定します。

中期計画や各年度の目標、ALM資料等、また、貴行の融資及びリスク管理規程に基づき、融資方針やリスク管理方針等の把握を実施

融資方針等の把握

勘定系データや融資明細等、償却・引当明細等を貴行から受領し、融資先の属性や残存期間の観点等から分析を実施

分析においては当法人で構築しているAnalytics tool等を活用し、分析結果に基づき貴行へ助言

融資ポートフォリオ分析

グルーピングの目線としては以下の

ような項目が考えられます。

債権の属性別(法人、個人(住宅ロー

ン)、個人(住宅ローン除く)、・・・)

業種別

地域別

ヴィンテージ別

資金使途別 ・・・など

貴行の融資ポートフォリオ

Analytics toolによる分析

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「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービスの紹介(3/3)

(参考)「貸倒引当金の見積り」の見直しに関する当法人のサービス

計算方法の洗い出し

ステップ2においては、各金融機関のポートフォリオの特性を踏まえ、各金融機関の状況に応じたあるべき貸倒引当金計算方法について検討を

実施し、計算方法の洗い出しを行いながら、現状の引当金額からのインパクトを試算します。

将来予測の組み込み

貸倒引当金の見積方法の検討においては、貴行の事業計画策定や信用リスク管理で使用されている様々な経済指標等から融資ポートフォ

リオと親和性のあるものを貸倒実績(金額、件数など)との相関分析に基づいて抽出し、当該指標の直近推移や将来の予測を貸倒引当金の

予想損失率に反映する手法も検討します。

<相関分析>

将来予測と貸倒のトレンドから簡便的な

モデルにより予想損失率を求める手法

将来予測から景況を判断し、過去の類似

した景況時における貸倒実績値を

利用して予想損失率を求める手法

y = 94.711x + 12.614R² = 0.917

Sample

複数シナリオにおける指標の将来予測と

対応する貸倒、発生確率のモデル化により

予想損失率を求める手法

<将来予測を反映した手法のイメージ>

Sample

Sample

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出典(1/4)

発行体と資料名およびリンク先(1/4)

< HSBC Holdings >1Q 2020 Earnings-Releasehttps://www.hsbc.com/investors/results-and-announcements

< Barclays>Q1 2020 Results Announcementhttps://home.barclays/content/dam/home-barclays/documents/investor-relations/ResultAnnouncements/2020Q1/20200429-B-PLC-Q1-2020-RA.pdf

< JPMorgan Chase & Co >

FORM 10-Q March 31, 2020

https://www.jpmorganchase.com/content/dam/jpmorganchase/en/legacy/corporate/investor-relations/document/1q20-10-q.pdf

< Royal Bank of Canada >

Second Quarter 2020

https://www.rbc.com/investor-relations/_assets-custom/pdf/2020q2_report.pdf

< UBS>

First quarter 2020 report

https://www.ubs.com/global/en/investor-relations/financial-information/quarterly-reporting.html

< Standard Chartered >

first quarter 2020 results

https://av.sc.com/corp-en/content/docs/standard-chartered-plc-1q-2020-results.pdf

< Toronto Dominion >

SECOND QUARTER 2020 • REPORT TO SHAREHOLDERS

https://www.td.com/document/PDF/investor/2020/2020-Q2_Report_to_Shareholders_F_EN.pdf

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出典(2/4)

発行体と資料名およびリンク先(2/4)

<三菱UFJ フィナンシャル・グループ>2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217023934&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217023651&s=S100J2L5

<みずほフィナンシャルグループ>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217151111&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217150924&s=S100J1VW

<三井住友フィナンシャルグループ>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217180229&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217180045&s=S100J1VI

<三井住友トラスト・ホールディングス>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217261549&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217261275&s=S100ITHH

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出典(3/4)

発行体と資料名およびリンク先(3/4)

<新生銀行>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217023934&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217023651&s=S100J2L5

<あおぞら銀行>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217537273&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217537089&s=S100IYP9

<ふくおかフィナンシャルグループ>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594217679397&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594217679218&s=S100J189

<武蔵野銀行>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594218217318&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594218217094&s=S100J02G

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出典(4/4)

発行体と資料名およびリンク先(4/4)

<商工組合中金>

2020年3月期有価証券報告書https://disclosure.edinet-fsa.go.jp/E01EW/download?1594218408634&uji.bean=ee.bean.parent.EECommonSearchBean&uji.verb=W0EZA104CXP001003Action&SESSIONKEY=1594218408434&s=S100ISNF

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執筆者経歴

〔経歴〕

監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)入社後、金融事業部に所属

大手金融機関(メガバンクを含む)の日本基準および米国基準財務諸表の会計監査、 地域金融機関、リース業の日本基準財務諸表

の会計監査、大手金融機関、地域金融機関のIFRS財務諸表の会

計監査に従事

国内金融機関に対するIFRS導入支援業務、資産査定管理態勢支

援業務、大手金融機関に対する海外子会社設立支援業務、政府系金融機関に対する会計アドバイザリー業務等に従事

〔主な著作、セミナー実績〕

『IFRS金融商品の減損 償却・引当の基本的な考え方から実務対

応まで』(共著)(中央経済社)

当法人主催:金融機関のためのIFRS最新連続セミナー、全国地方銀行協会、第二地方銀行協会、会計教育研修機構等のセミナー講師

吉村 拓人 (Hiroto Yoshimura)

有限責任監査法人トーマツ

監査・保証事業本部金融インダストリー

シニアマネジャー

公認会計士

問い合わせ先

有限責任監査法人トーマツ IFRSセミナー担当Tel: 03-6213-1515Email: [email protected]

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デロイトトーマツグループは、日本におけるデロイトアジアパシフィックリミテッドおよびデロイトネットワークのメンバーであるデロイトトーマツ合同会社ならびにそのグループ法人(有限責

任監査法人トーマツ、デロイトトーマツコンサルティング合同会社、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイトトーマツ税理士法人、DT弁護士法人およびデロ

イトトーマツコーポレートソリューション合同会社を含む)の総称です。デロイトトーマツグループは、日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各法人がそれぞ

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Deloitte(デロイト)とは、デロイトトウシュトーマツリミテッド(“DTTL”)、そのグローバルネットワーク組織を構成するメンバーファームおよびそれらの関係法人(総称して“デロイトネッ

トワーク”)のひとつまたは複数を指します。DTTL(または“Deloitte Global”)ならびに各メンバーファームおよび関係法人はそれぞれ法的に独立した別個の組織体であり、第三者に

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企業に対してサービスを提供しています。“Making an impact that matters”を自らの使命とするデロイトの約312,000名の専門家については、(www.deloitte.com )をご覧ください。

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