KAJIMA CSR REPORT 2013 KAJIMA CSR REPORT 2013 06 07 Special contents 01 建造物を 次世代に 使い継ぐ 使Special contents 01  Special contents 01  今日の私たちの社会を支えている社会資本や、さまざまな 活動の基盤となる建造物は建設されてから長い年月を経 ているものが少なくありません。社会資本の機能を常に発 揮させていくためには適切な維持管理が不可欠であると ともに、近い将来、高度成長期に整備されてきた大量のス トックが物理的に更新時期を迎えることから、更新投資も 急激に増加していくものと思われます。 鹿島はこれまでそれぞれの時代の要請に応えて、最新かつ 最善の技術や蓄積してきた経験や知見に基づき、高品質な 社会資本や豊かで快適な空間を創造し、その時々の「現在」 から「未来」へ向けた社会的使命を担ってきました。 そして今、社会が要請する維持更新投資の観点から、すで に使われている建造物をより効率的にそして安全・安心に 長く使い続けられるようにすることに、 「過去」から「未来」へ 向かっての責務として取り組んでいます。 既存の建造物を維持管理しながら更新し機能を高め、さら に次世代に大切に使い継いでいくこと。 その多くの試みに積極的に取り組んでいます。

鹿島建設株式会社 - 建造物を 使い継ぐ Special contents 01 次世代に · 2017-09-07 · より効率的に次世代へ 新しい 放流管 洪水時最高水位 洪水調節容量

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Page 1: 鹿島建設株式会社 - 建造物を 使い継ぐ Special contents 01 次世代に · 2017-09-07 · より効率的に次世代へ 新しい 放流管 洪水時最高水位 洪水調節容量

KAJIMA CSR REPORT 2013 KAJIMA CSR REPORT 201306 07

Special contents 01建造物を次世代に使い継ぐ

建造物を

次世代に使い継ぐ

Special contents 01 Special contents 01 

今日の私たちの社会を支えている社会資本や、さまざまな活動の基盤となる建造物は建設されてから長い年月を経ているものが少なくありません。社会資本の機能を常に発揮させていくためには適切な維持管理が不可欠であるとともに、近い将来、高度成長期に整備されてきた大量のストックが物理的に更新時期を迎えることから、更新投資も急激に増加していくものと思われます。鹿島はこれまでそれぞれの時代の要請に応えて、最新かつ最善の技術や蓄積してきた経験や知見に基づき、高品質な社会資本や豊かで快適な空間を創造し、その時々の「現在」から「未来」へ向けた社会的使命を担ってきました。そして今、社会が要請する維持更新投資の観点から、すでに使われている建造物をより効率的にそして安全・安心に長く使い続けられるようにすることに、「過去」から「未来」へ向かっての責務として取り組んでいます。既存の建造物を維持管理しながら更新し機能を高め、さらに次世代に大切に使い継いでいくこと。その多くの試みに積極的に取り組んでいます。

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Special contents 01建造物を次世代に使い継ぐ

の作業が連動して進められています。その先頭を切るのが鹿島JVで行っている工事であり、既存のダム機能に影響を与えず全体工程を守るためにも、さまざまな配慮のもとで進めています。近年、新設ダムを施工する場所が少なくなる中、新たな用地確保を必要としない今回のダム再開発事業は、巨大な土木構造物であるダムをより効率的に、その能力を高めながらより長く使い続けるためにも非常に意義のあるものとされています。日本の国土は河川が急峻で昔から治水・利水は大きな課題であり、さらに近年の気候変動による集中豪雨の増加、昨今のエネルギー問題を考えると、

治水能力増強とともに水力発電の効率化という点においても注目度が高い工事です。鹿島は、地元からの期待に応え

るべく、次世代に使い継がれるダムへと変身させる事業の一端を担います。

社会資本ストックを使い継ぐということ

 鹿島は、高度成長期に建設された構造物の維持管理・更新について、早くからその重要性に着目しており、2002年には、維持管理技術の開発と並行してアセットマネジメントシステムの研究に着手しました。2005年には、橋梁の大量更新時代の到来に備えたい青森県から、橋梁アセットマネジメントシステムの構築業務を受託。翌年、青森県は完成したシステムを用いてシミュレーションを行い、それまでの事後保全対応から戦略的維持管理にシフトすることにより、50年間の維持管理費を最大約1,200億円削減可能との試算を明らかにしました。

そしてシステムの本格運用を開始し、算出された工事計画を実行したことで「適切なメンテナンス」を「適切な時期」に受けた県内橋梁の健全度が向上してきました。青森県は2巡目の定期点検を行い、2012年度に改めて維持管理費を試算し、新たな橋梁長寿命化修繕計画を発表しました。費用は当初計画より大幅に縮減できることが明らかになり、システムの有用性が改めて実証されました。システムは、橋梁技術者やプログラム開発会社、運用支援コンサルタントなどからなる「BMSコンソーシアム」から

「BMStar®」として普及展開されており、現在約20の自治体に採用されています。維持管理は、一過性のものではなく、継続して行われていくものであり、システムと、橋梁管理者による運用体制

が連携することにより、最大限の効果を生み出すと考えます。 今後、鹿島はシステム開発者として、劣化診断などの先端技術やこれまで培ってきた建設技術を活かした改良を重ね、安全で安心な社会基盤の継続に寄与したいと考えています。

KAJIMA CSR REPORT 2013 KAJIMA CSR REPORT 201308 09

作業終了時潜水士居住空間(船上減圧室)

水中エレベーター

飽和潜水士

作業時最大65m

ベル

BMStarを用いた定期点検

台座コンクリート

工事運用水位標高133m

標高133m

標高160m以下

概ね標高120m

天端構台設置

STEP ① STEP ② STEP ③ STEP ④

上流仮締切設置

仮締切撤去

制水ゲート設置

ベルマウス設置堤内管設置堤体削孔堤内管設置

堤体の削孔(穴空け)とダム上流での工事の進め方

完成イメージパース図着工前

増設減勢工

付替発電管増設放流設備

既設減勢工改造

発電管既設放流設備

既設減勢工

大水深下での潜水作業をする飽和潜水士

飽和潜水士の1日の作業時間は6時間、1クルーの作業期間は実作業24日と減圧4日の合計28日です。また、潜水士は減圧後1か月間潜水作業に従事させないなど安全対策が行われています。ダイバー3人は、リビングと寝室を兼ねたチャンバーで共同生活をし、その様子は、チャンバーコントロールで飽和潜水管理者が24時間モニターしています。また、作業を行う際にはベルで水中に降下し、3名のうち2名が水中に出て作業を行い、1名が潜水補助を行う仕組みとなっています。

 鶴田ダム(鹿児島県)は、鹿児島県北西部から東シナ海に注ぐ一級河川である川

せんだいがわ

内川のほぼ中央に位置するダムで、1966年に完成し、1976年から洪水調節と発電を目的として供用されています。現在、鹿島では、このダムで洪水調節容量を増やすための大規模な施設改造工事を行っています。2006年の記録的豪雨により川内川流域が甚大な洪水被害を受けたことをきっかけに河川激甚災害対策特別緊急事業に採択され、これとあわせて川の増水時に備えてダムの貯水容量を増やし、流域の洪水被害を軽減するための鶴田ダム再開発事業が進められています。 この事業は、既存ダムを活用した治水能力向上を主目的としたもので、既存の放流管よりも低い位置に、新たな放

流管を設けることによって平時の貯水水位を下げ、集中豪雨時はこれまでの洪水時最高水位を保ったまま貯水容量を増やすことができるようになります。 一方で、このダムの水は発電にも用いられ、施工中も治水とともに機能を維持することが求められます。つまり、ダム湖の水位を保ったまま、コンクリートの堤体に穴を開けて放流設備などを増設しなければならず、ダム湖側では水中での作業が発生します。通常のダム新設工事とは大きく異なった特徴を有しており、さらに堤体に放流用3か所を含む合計5か所の削孔を行うという過去に例を見ない工事です。 この堤体の削孔(穴空け)は下流側から開始しますが、貫通時に水が流れ込まないように一時的に締め切るため、

基礎となる台座コンクリートを構築し(STEP①)、その後上流側の仮締切を設置したうえで、削孔作業を開始します

(STEP②)。削孔完了後、制水ゲートを設置し、仮締切を撤去(STEP③)した後、放流管を設置していきます(STEP④)。ダム湖側では最大65mという深さでの潜水作業が必要となり、潜水士の安全確保と作業の効率化を図るため「飽和潜水」という方式を採用。これは潜水作業における時間制限、減圧時間の増大、呼吸ガスの管理などの制約条件と、何よりも急激な気圧の変化による潜水士の健康影響を減らすために、約1か月間の作業期間を通じて作業水深と同じ高圧環境で生活と作業を行うものです。 5か所ある仮締切のうち1か所は、台座コンクリートが不要な浮体式仮締切という新たに開発した工法を採用します。これは、水中作業が削減でき、工期短縮、安全性向上、コスト縮減に貢献します。さらに水中コンクリートの品質向上や河川の濁水対策、そして削孔時に想定される振動については、それぞれ技術研究所とITソリューション部がシミュレーションを支援し、まさに鹿島の総合力がこの事業遂行に発揮されています。 今回のプロジェクトは、5つの企業体

構 造 物のリニューアル

より効率的に次世代へ

新しい放流管

洪水時最高水位

洪水調節容量(川の増水に備えダムを空にするスペース)

洪水調節容量(川の増水に備えダムを空にするスペース)

最低水位 標高115.6m

洪水時最高水位

今の放流管最低水位 標高130.4m

最大で7,500万m3

最大で9,800万m3

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耐震/制震/免震の違い

修理が完了した姫路城の五重屋根

 具体的には、制震装置として鹿島の技術力の粋ともいえる弁開閉型オイルダンパHiDAX®を24階に12か所計48台設置しました。HiDAXは、停電時も稼働し、メンテナンスが不要で、制震性能が高いこと、そして何よりも既存超高層ビルにも適用可能というのが特徴です。 2011年の東日本大震災発生時には建物の地震観測記録から、地震動による建物の揺れ幅は制震装置のない場合の3/4に低減され、大きく揺れる時間も短縮されていることが実証されました。 「超高層の鹿島」という自負のもと、その時代の要請に応えるべく技術の発展に努め、長周期地震動という新たな巨大地震の揺れに対策を行う構造リニューアルに関しても取組みをさらに強め、社会や顧客のニーズに応え、より安全で安心な社会に寄与していきます。

歴史的建造物を次世代へ

 オフィスビル等のリニューアルだけではなく、歴史的建造物についても、最新

の技術によって機能性や安全性を追求しながら創建時の姿を次世代に伝えていく技術の研鑽にもしのぎを削っています。 2012年10月に全面開業した東京駅丸の内駅舎は、1914年に辰野金吾の設計で完成した後、戦災で3階部分が焼失しましたが、2003年には国の重要文化財に指定されました。この建物に対して、鹿島は2007年から5年半の歳月をかけて、創建時の姿を保存・復原し、さらに免震化を行いました。南北のドームに用いられた銅板や屋根の天然スレート、外壁には擬石や化粧煉瓦、そしてドーム内部のレリーフ等は、現在使っている材料と全く異なるため、100年前に用いられた材料や道具などを研究し、日本独自の手法などをあらためて復活させ、伝統技術を次世代に継承することにもつながりました。 地下における工事は、駐車場として利用される地下躯体を構築し、全長335m、総重量7万tにおよぶ駅舎の荷重を松杭から免震装置に移動させるもので、最新技術とこれまでの経験な

どを駆使して成し遂げられました。 そして何よりもこの駅舎は、1日約76万人の乗降客がある交通の結節点。その役割・機能を止めることなく、総勢78万人の人々が工事に関わり、文化財の保存・修復とともに、その価値や利便性を向上させる形で、完成に至りました。 現在鹿島では、宮城県松島の瑞巌寺の保存修理や、世界遺産・姫路城の平成の大改修に携わっています。これまでも仙台城の石垣の大規模改修など様々な歴史的建造物の保存や修復に関わってきましたが、古き日本の文化財を後世に伝え残していくために、積極的な取組みを行っていきます。

 2013年3月に内閣府の中央防災会議が、「南海トラフ巨大地震」の被害について試算を発表しました。現在、これ以外にも首都直下型など巨大地震の発生が懸念されており、特に東日本大震災以降、超高層ビルにおける長周期地震動への考慮を含めた再検証が求められています。 鹿島は、1968年に日本初の超高層ビル・霞が関ビル竣工以来、多数の建設を手がけ「超高層の鹿島」と呼ばれてき

ました。これは、超高層ビル実現のために構造設計、耐震構造などさまざまな技術研究開発が行われ、日々進歩を遂げてきた結果でもあります。特に地震国である日本では、さまざまな地震の揺れに対して、どのように対策を行うのかというのが大きな課題ですが、鹿島では揺れの低減に有効とされる制震構造関連の特許はすでに50を超えています。 新宿パークタワー(東京都新宿区)は

1994年に竣工した地上52階、高さ約235mの超高層ビルで、オフィスやホテル、店舗などを備える複合施設。新築時から高い耐震性を確保し、主に強風時の揺れ抑制などを目的とした制震装置が設置されていましたが、南海トラフの巨大地震による長周期地震動対策として制震改修が計画され、2009年に鹿島が改修工事を行いました。

建 物のリニューアル

より安全に備える

新宿パークタワー

KAJIMA CSR REPORT 2013 KAJIMA CSR REPORT 201310 11

Special contents 01建造物を次世代に使い継ぐ