10
143 3.1.3.3 鉄骨系高層建物柱部材の崩壊余裕度解析 (1) 業務の内容 (a) 業務の目的 企業の本社機能の多くを占める高層鉄骨事務所建物や都心のマンションに多用される 鉄筋コンクリート(以下、RC と称す)建物が、特に長周期地震動または直下地震を受け たときの損傷の進展と崩壊に至るまでの余裕度を、部分構造物に対する構造実験、建物に 対する大型振動台実験、高度数値解析から明らかにする。また、獲得されたデータを用い て、揺れの大きさと被害の関係に対する定量的評価法を整備する。 (b) 平成26年度業務目的 崩壊余裕度評価法の構築のために、平成 25 年度に実施した鉄骨造高層建物を対象 とした大型振動台実験の解釈、鉄骨造に用いられる部材の変形特性の把握、および 溶接条件の違いが変形性能に与える影響の確認を目的として、要素実験と材料試験 を実施する。 (c) 担当者 所属機関 役職 氏名 メールアドレス 京都大学 教授 中島 正愛 [email protected] 非常勤研究員 林 和宏 JSPS 研究員 白 涌滔 大学院生 西 亮祐 大学院生 稲益 博行 (2) 平成26年度の成果 (a) 業務の要約 ・高層鉄骨造建物の下層階柱部材を対象とし、縮小試験体による準静的載荷から崩壊余裕 度評価のための破壊解析検証用実験を実施した。実験では、同一断面形状の試験体を用 い、正負交番漸増繰り返し載荷における、繰り返し回数を実験変数とした。これは、繰 り返し回数が少ない載荷は直下型の強震動を、繰り返し回数が多い載荷は海溝型の長周 期地震動を意図したもので、地震動の違いが鉄骨系建物における柱部材の局所的な破壊 挙動と、建物全体の変形性状に与える影響についての実験データを蓄積した。 ・高層鉄骨造建物の耐震部材として用いられる、H 形鋼ブレースおよび座屈拘束ブレース を対象とし、縮小試験体による準静的載荷から崩壊余裕度評価のための破壊解析検証用 実験を実施し、部材の破壊挙動に関する実験データを蓄積した。 ・有限要素法解析により、鉄骨造柱部材、およびブレース部材の破壊シミュレーションを 実施した。 (b) 業務の成果

崩壊余裕度評価法の構築のために、平成25年度に実施した鉄 …...図6 に示す構成則は、Ramberg-Osgood やMenegotto-Pinto1)に基づく。当該モデルは、繰返し

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143

3.1.3.3 鉄骨系高層建物柱部材の崩壊余裕度解析

(1) 業務の内容

(a) 業務の目的

企業の本社機能の多くを占める高層鉄骨事務所建物や都心のマンションに多用される

鉄筋コンクリート(以下、RC と称す)建物が、特に長周期地震動または直下地震を受け

たときの損傷の進展と崩壊に至るまでの余裕度を、部分構造物に対する構造実験、建物に

対する大型振動台実験、高度数値解析から明らかにする。また、獲得されたデータを用い

て、揺れの大きさと被害の関係に対する定量的評価法を整備する。

(b) 平成26年度業務目的

・崩壊余裕度評価法の構築のために、平成 25 年度に実施した鉄骨造高層建物を対象

とした大型振動台実験の解釈、鉄骨造に用いられる部材の変形特性の把握、および

溶接条件の違いが変形性能に与える影響の確認を目的として、要素実験と材料試験

を実施する。

(c) 担当者

所属機関 役職 氏名 メールアドレス

京都大学 教授 中島 正愛 [email protected]

非常勤研究員 林 和宏

JSPS 研究員 白 涌滔

大学院生 西 亮祐

大学院生 稲益 博行

(2) 平成26年度の成果

(a) 業務の要約

・高層鉄骨造建物の下層階柱部材を対象とし、縮小試験体による準静的載荷から崩壊余裕

度評価のための破壊解析検証用実験を実施した。実験では、同一断面形状の試験体を用

い、正負交番漸増繰り返し載荷における、繰り返し回数を実験変数とした。これは、繰

り返し回数が少ない載荷は直下型の強震動を、繰り返し回数が多い載荷は海溝型の長周

期地震動を意図したもので、地震動の違いが鉄骨系建物における柱部材の局所的な破壊

挙動と、建物全体の変形性状に与える影響についての実験データを蓄積した。

・高層鉄骨造建物の耐震部材として用いられる、H 形鋼ブレースおよび座屈拘束ブレース

を対象とし、縮小試験体による準静的載荷から崩壊余裕度評価のための破壊解析検証用

実験を実施し、部材の破壊挙動に関する実験データを蓄積した。

・有限要素法解析により、鉄骨造柱部材、およびブレース部材の破壊シミュレーションを

実施した。

(b) 業務の成果

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144

崩壊余裕度評価のための破壊解析検証用柱試験体の準静的載荷実験

1) 準静的載荷実験

図 1 に試験体断面を、図 2 に試験体立面図と載荷計測システムを示す。試験体は同一鋼

材同一断面の 2 体とし、曲げ圧縮載荷による正負交番載荷における繰り返し回数を変数と

した。試験体名は、繰り返し回数が 2 回のものを SC-2、20 回のものを SC-20 とする。試

験体に用いた鋼材は、通常軟鋼 SM490 で、鋼板を冷間形成した後、2 シームの溶接を施し

鋼管とした。図 3 に、鋼材の引張試験結果を示す。

試験体は、下端固定の片持ち柱形式とし、H-300×300×15×10 の基礎梁を鉄骨柱部材に

溶接接合した。試験体柱部高さは、危険断面位置から水平外力作用位置までの距離で、

1,100mm とした。試験体基礎梁は反力床に剛接合し、柱頭部はピン治具を介して鉛直ジャ

ッキおよび水平ジャッキと接続した。実験では、試験体の降伏軸力に対し 25%にあたる

454kN を保持するよう鉛直ジャッキをコントロールしつつ、水平ジャッキを用いて正負交

番漸増繰返曲げ圧縮載荷を実施した。正負交番載荷のステップは、部材変形角 0.25%、0.5%、

1%、2%、3%、4%、6%、8%、10%とし、各ステップを正負 2 サイクルずつまたは 20 サ

イクルずつとした。ここに部材変形角は水平ジャッキの水平変位を柱頭ピン治具から基礎

梁上部までの距離(1,100mm)で除した値と定義する。

図 1 試験体断面図(単位: mm) 図 2 載荷計測システム(単位: mm)

図 3 鋼材の応力-ひずみ関係

0

200

400

600

0 0.1 0.2 0.3

応力(MPa)

ひずみ

DT1

DT2

15

0

132 9 9

R = 18

載荷方向

溶接箇所

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145

2) 有限要素解析

有限要素解析により、準静的載荷実験に対応する数値解析を実施した。解析モデルの柱

断面を図 4 に、立面を図 5 に示す。解析モデル断面はファイバー要素で構成し、角形断面

の分割数はウェブ部分を 8 分割、フランジ部分を 2 分割とした。また、材軸方向は 8 分割

とし、分割寸法は断面幅と同じ 150mm とした。下端の 1 要素に対し、図 6 に示す鋼材材

料構成則を用い、上部の 7 要素には線形材料構成則を用いている。

図 4 解析モデル断面 図 5 解析モデル立面

図 6 に示す構成則は、Ramberg-Osgood や Menegotto-Pinto1)に基づく。当該モデルは、繰返し

による部材耐力の低下や、圧縮側での局部座屈を考慮している。図中の E はヤング係数を、

lbは局部座屈発生時ひずみ量を、lbは局部座屈発生時応力を、rはlbに対する耐力低下勾配比を、

lb はヤング係数 E に対する低下勾配を、re はヤング係数 E に対する二次残存ヤング係数

比を示している。

E

lb

Elb E E

lb

Compression

Tension

Onset ofL.B.

Post L.B.S.D.

Unloading andBsg. curves

u

y

lb

r lb re

Rini

Ru

図 6 鋼材料構成則

解析では、危険断面位置から高さ方向 1,100mm の点に強制変位を与える変位制御解析

を行い、実験と同様の載荷条件を再現した。

y

xB

t

変位制御 軸力

線形モデル

非線形モデル

lasticegion

clicding

Axial load

olumnmodel

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3) 実験結果と有限要素法解析

図 7 に試験体 2 体の曲げモーメント-部材変形角関係を示す。図は横軸に部材変形角を、

縦軸に試験体危険断面位置に作用した曲げモーメントを取る。ここで、曲げモーメントは

水平ジャッキ荷重に危険断面位置までの距離(1,100mm)を乗じた値,鉛直ジャッキ荷重の

鉛直成分に柱頭部の水平変位を乗じた値(P-効果分),鉛直ジャッキ荷重の水平成分に

1,100mm を乗じた値を足し合わせている。図中の実線は正負交番繰返載荷実験結果を、破

線は有限要素法解析結果を示している。

2 回サイクル試験体 SC-2 は、部材変形角 1.2%で鋼管の塑性化を確認した。部材変形角

6.0%で最大曲げ耐力(115kN.m)を迎えた後は、局部座屈による耐力低下を示し、部材変

形角 10%では、最大曲げ耐力の 52%となった。しかし、鋼管に破断や亀裂は発生しなかっ

た。図 8 に、各試験体の実験終了後の柱脚部写真を示す。一方、20 回サイクル試験体 SC-20

は部材変形角 1.7%で鋼管の塑性化を確認した。その後、部材変形角 4.0%1 サイクル目で

最大曲げ耐力(115kN.m)を迎えた。部材変形角 4.0%20 サイクル中に、局部座屈による

耐力低下を示し、部材変形角 6%3 サイクル目に引張側鋼管にわずかな亀裂が発生した。そ

の後も載荷を続けたところ、破断は断面全体に渡り、曲げ耐力を喪失した。

なお、試験体が最大耐力を迎えるまでの変形挙動は、両試験体とも実験結果と数値解析

結果の対応が良好である。しかし、最大耐力を迎えた後は両者に差が生じており、特に繰

り返し回数の多い試験体 SC-20 における耐力劣化性状の違いが大きい。

図 9 は、両試験体における各載荷ステップでの耐力の推移を比較したものである。図縦

軸は各載荷ステップ 1 サイクル目と最終サイクル(2 サイクル目または 20 サイクル目)で

(a) SC-2 (b) SC-20

図 8 載荷終了後柱脚部

-150

-100

-50

0

50

100

150

-0.1 -0.05 0 0.05 0.1

-150

-100

-50

0

50

100

150

‐0.1 ‐0.05 0 0.05 0.1

(a) SC-2 (b) SC-20

図 7 曲げモーメント‐部材変形角関係

Drift Angle (rad) Drift Angle (rad)

Mo

me

nt

(kN

.m)

Mo

me

nt

(kN

.m)

解析

実験

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の試験体耐力を、横軸は部材変形角をとる。両試験体とも、曲げ耐力の算定値(85kN.m)

までの挙動では、載荷サイクル数の影響による差は見られない。しかし、最大曲げ耐力を

迎えた後は、載荷サイクル数により両試験体の挙動には差が見られる。2 回サイクル試験

体 SC-2 では、部材変形角 10%まで局部座屈が緩やかに進行し続け(図 8(a)参照)、耐力が

最大値の 52%まで低下したものの、鋼管に破断は発生しなかった。一方、20 回サイクル

試験体 SC-20 では、部材変形角 4%のサイクル中に急激な耐力低下が発生し、局部座屈形

状がそれほど大きくない(図 8(b)参照)部材変形角 6%サイクル中に鋼管が破断した。

崩壊余裕度評価のための破壊解析検証用ブレース試験体の準静的載荷実験

1) 準静的載荷実験

H 形鋼ブレース試験体および座屈拘束ブレース試験体(新日鉄住金エンジニアリング株

式会社より設計・製作に関してご支援をいただきました)の、実験概要と使用鋼材一覧を

表 1 および図 10 に示す。試験体は、1/2 スケールを想定した寸法で、図 10(a-III),(b-III)

に示すように、階高 1748mm のピン支持フレームに 45 度で取り付け、油圧ジャッキによ

り水平方向に載荷した。載荷は正負交番漸増繰返載荷とし、正負交番載荷ステップは、層

間変形角 0.1、0.25、0.5、0.75、1.0、1.5、2.0、3.0、4.0%とし、各ステップを正負 2 サ

イクルずつとした。ここに層間変形角はブレースの軸方向変形量を水平方向成分と鉛直方

向成分に分解し、そのうちの水平方向成分を階高の 1748mm で除した値と定義する。

実験では、図 10(a-II),(b-II)に示すように、座屈変形量測定のため変位計 DT1~DT5 を

設置し、また軸方向変形量算定のため、変位計 DT6 を設置した。さらに、H 形鋼ブレー

スと座屈拘束ブレースには、図 10(a-II),(b-II)に示すようにひずみゲージを貼付した。

表 1 使用鋼材一覧

試験体 部位 鋼種 板厚 降伏応力度 引張強さ 伸び

H 形鋼ブレース フランジ SS400 9mm 340MPa 436MPa 29%

ウェブ SS400 6mm 279MPa 427MPa 26%

座屈拘束ブレース 芯材 LY225 6mm 236MPa 314MPa 59%

0

20

40

60

80

100

120

0.25 0.5 1 2 3 4 6 8 10

S-CS-2S-CS-20

Mo

me

nt

(kN

.m)

部材変形角 (%) 図 9 荷重変形角関係骨格線

SC-2 SC-20

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図 10 各試験体実験概要(単位:mm)

2) 有限要素解析

汎用非線形有限要素解析プログラムを用い、準静的載荷実験検証に対応する数値解析を

実施した。解析モデルの詳細を図 11 に示す。解析モデル断面はファイバー要素で構成し

た。

H 形鋼ブレースでは図 11(a-I)に示すように、ウェブ板厚方向を 2 分割、ウェブせい方向

を 4 分割、フランジ板厚方向を 2 分割、フランジ幅方向を 4 分割とし、ウェブ、フランジ

に表 1 に示す値に基づく異なる降伏応力を持つ材料を割り当てた。軸方向では図 11(a-II)

に示すように、ブレースを 8 分割した。両端部は材長の 1/10 の長さを剛領域とし、節点

には十分に高い剛性を有するバネを割り当てた。残りの部分は等分割し、図 11(a-I)に示す

断面を割り当てた。また軸方向と直交する方向に、ブレース中央部で材長の 1/500 に相当

する長さを有する余弦曲線の初期不整を与えることで、座屈挙動を模擬した。解析に用い

る材料構成則は、移動硬化成分のみを有するバイリニアモデルとし、等方硬化成分は割り

(II) 計測システム ひずみゲージ

216

147

12

207

モルタル芯材 鋼管

90

6

100

99

82

フランジ ウェブ

(a) H 形鋼ブレース

(b) 座屈拘束ブレース

17482763

400

400

17482763

400

400

368 368 368 368

368 368 368 368

(III) 載荷システム

(I) 断面構成

(I) 断面構成

(III) 載荷システム (II) 計測システム

ピン支持フレーム H 形鋼ブレース試験体 剛接合部

油圧ジャッキ

ピン支持フレーム 座屈拘束ブレース試験体 剛接合部

油圧ジャッキ

DT6

DT1 DT2 DT3 DT4 DT5

DT6

DT1 DT2 DT3 DT4 DT5

ひずみゲージ

水平方向載荷

水平方向載荷

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当てていない。

座屈拘束ブレースでは図 11(b-I)に示すように、板厚方向を 2 分割、幅方向を 3 分割とし、

表 1 に基づく材料を割り当てた。軸方向では図 11(b-II)に示すように、ブレースを分割し

ていない。ブレースに初期不整を与えないことで、座屈が生じず座屈拘束と同様の効果が

得られるようにした。芯材に用いている LY225 はひずみ硬化のうち等方硬化の成分を大き

く有する鋼材であることから、本解析モデルでは、ひずみ 1%の振幅に対して 25%の応力

上昇が生じる振幅依存モデルを採用し、移動硬化成分をバイリニアモデルとした。

解析では、ブレース頂部節点の変位制御とし、実験システムと同様の条件を再現してい

る。

図 11 各ブレース解析モデル

芯材用鋼材

(I) ファイバー要素断面

(II) 解析モデル立面

(b) 座屈拘束ブレース解析モデル

L

変位制御

ブレース下方支持端固定

ブレースファイバー要素

: 節点

L/500

L

L/10

L/10

剛要素

剛バネ要素

変位制御

ブレース下方支持端固定

ブレースファイバー要素

: 節点

ウェブ用鋼材 フランジ用鋼材

(I) ファイバー要素断面 (II) 解析モデル立面

(a) H 形鋼ブレース解析モデル

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3) 実験結果と有限要素法解析

図 12 に各ブレースの実験(黒実線)と解析(赤破線)から得られた水平外力-層間変

形角関係を示す。図は横軸に層間変形角を、縦軸に水平外力を取る。

H 形鋼ブレースは、層間変形角 0.25%のサイクルまでは弾性を保持したが、0.5%のサイ

クルで鋼材が塑性化し、引張側では剛性の喪失、圧縮側では座屈が生じ耐力が大きく低下

した。図 13 に層間変形角 4%における H 形鋼ブレースの変形性状を示す。図(a)に示すよ

うに座屈変形は非常に大きいものの,部材中に局部座屈は発生せず,部材破断には至らな

かった。しかし、図(b),(c)に示すようにスチフナー端部や、ブレース端部フランジには亀

裂が発生していた。また、数値解析結果は、H 形鋼ブレース試験体の初期剛性、降伏耐力、

最大耐力だけでなく、座屈に伴う耐力と剛性の劣化を、精度よく追跡できている。

‐600‐500‐400‐300‐200‐100

0100200300400500600

‐5 ‐4 ‐3 ‐2 ‐1 0 1 2 3 4 5

実験

解析

‐600‐500‐400‐300‐200‐100

0100200300400500600

‐5 ‐4 ‐3 ‐2 ‐1 0 1 2 3 4 5

Slippage

(a) H 形鋼ブレース (b) 座屈拘束ブレース

図 12 各ブレース水平外力-層間変形角関係

図 13 H 形鋼ブレース実験時変形状態

座屈拘束ブレースでは、引張側と圧縮側の挙動には基本的に差がなく、層間変形角 0.1%

のサイクルでは弾性を保持したものの、0.25%のサイクルで芯材が降伏して剛性を大きく

(a) 座屈形状(4%) (b) 端部スチフナー脇 GP の破断(4%) (c) 端部フランジの破断(4%)

La

tera

l lo

ad

(kN

)

La

tera

l lo

ad

(kN

)

Story drift (%) Story drift (%)

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151

喪失した。ただし、芯材降伏後の 2 次剛性は、引張側がほぼ 0 であるのに対し、圧縮では

一定程度を保持しており、変形の増大とともに耐力が上昇し続けた。図 14 は層間変形角

2%における座屈拘束ブレースの変形性状を示す。図に示すように座屈拘束ブレースでは、

局所的な変形、部材全体の変形、鋼材の亀裂や破断は、一切確認できなかった。数値解析

結果は、座屈拘束ブレース試験体の初期剛性、降伏耐力等は精度よく評価できているが、

芯材降伏後の圧縮側 2 次剛性を模擬していないため、実験結果に若干の乖離が確認できる。

図 14 座屈拘束ブレース実験時変形状態

(c) 結論ならびに今後の課題

・鉄骨造柱を模した試験体の準静的載荷実験を実施し、地震による繰り返し変形回数の

違いが、柱部材の弾塑性変形挙動および終局状態に与える影響を考察し、その詳細情

報を蓄積した。また、当該柱部材に関する有限要素法モデルを構築し、実験結果と比

較することでその妥当性を検証した。

・鉄骨造建物の耐震部材として用いられる、H 形鋼ブレースおよび座屈拘束ブレースを

模した試験体の準静的載荷実験を実施するとともに、数値解析に用いる有限要素法モ

デルを構築し、その妥当性を検証した。

・最終成果の一つである「(仮称)建物の崩壊余裕度評価のための技術資料」の取りま

とめでは、これまで本目「鉄骨系高層建物柱部材の崩壊余裕度解析」が明らかにした

知見を更に精査した上で、その内容の反映を図る。

(d) 引用文献

1) Menegotto, M., Pinto, P. E.,:Method of Analysis for Cyclically Loaded R. C. Frames

Including Changes in Geometry and Non-elastic Behavior of Elements under Combined

Normal Force and Bending, IABSE Congress Reports of the Working Commission, Band

13, 1973.

(a) 接合部(2%) (b) ブレース全体変形状態(2%)

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152

(e) 学会等発表実績

学会等における口頭・ポスター発表

発表成果(発表題目、口

頭・ポスター発表の別)

発表者氏名 発表場所

(学会等名)

発表時期 国際・国

内の別

コンクリート充填鋼管

構造柱の曲げ変形・破壊

性状に及ぼす鋼材種別

および断面形状の影響

その1 実験概要と設計

林和宏・西亮

祐・蕭博謙・

中島正愛

2014 年度日本建築

学会大会(近畿)

2014年8月 国内

コンクリート充填鋼管

構造柱の曲げ変形・破壊

性状に及ぼす鋼材種別

および断面形状の影響

その2 実験結果と考察

西亮祐・林和

宏・蕭博謙・

中島正愛

2014 年度日本建築

学会大会(近畿)

2014年8月 国内

学会誌・雑誌等における論文掲載

掲載論文(論文題目) 発表者氏名 発表場所

(雑誌等名)

発表時期 国際・国

内の別

なし

マスコミ等における報道・掲載

報道・掲載された成果

(記事タイトル)

対応者氏名 報道・掲載機関

(新聞名・TV名)

発表時期 国際・国

内の別

なし

(f) 特許出願、ソフトウエア開発、仕様・標準等の策定

1)特許出願

なし

2)ソフトウエア開発

なし

3)仕様・標準等の策定

なし

(3) 平成27年度業務計画案

・平成 27 年度計画なし