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kpmg.com/jp/fas 将来に向けた革新的なコンプライアンス戦略の構築 金融犯罪対策における インテリジェント・ オートメーション

金融犯罪対策における インテリジェント・ オートメーション€¦ · 人間が処理しきれないような膨大なデータを解釈して、人間の 論理的思考と意思決定の仕組みを模倣します。コグニティブ・

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将来に向けた革新的なコンプライアンス戦略の構築

金融犯罪対策におけるインテリジェント・オートメーション

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© 2018 KPMG FAS Co., Ltd., a company established under the Japan Company Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

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イノベーションが欠けていたようだ映画『暴力脱獄』における刑務所長の有名な「意思の疎通が欠けていたようだ」というセリフは、多くの方の記憶に残っているかもしれません。さて、技術革新が著しい今日においては、昨日インストールしたものが今日には既に古くなり、「イノベーションが欠けていたようだ」というわけにはいかないのです。金融機関も日進月歩の技術革新に直面し、競争力を保つためには、そんなことは言っていられません。ビジネスにおけるイノベーションだけではなく、コンプライアンスにおけるイノベーションも非常に重要です。金融機関は、新しい技術を取り入れ、より機敏な組織であるための手立てを見つけなければなりません。さもないと、事業が立ち行かなくなる可能性さえあるのです。

コンプライアンスの指す領域がより一層広くなり、コンプライアンス責任者は、戦略的なコンプライアンス目標を達成しようとしたり、コンプライアンスに係るコストを更に削減しようとしたり、規制変更に効率的に対応しようとしたりと、その手腕が問われています。新しい技術によってコンプライアンス業務を自動化することが、こうした目標の達成につながり、それと同時に効率性とコスト削減にもつながるという認識を、当然のことながら、コンプライアンス責任者はますます強くしてきています。

金融機関が、事務作業からコンプライアンス業務に至るまで、インテリジェント・オートメーションの活用の幅を広げるにつれて、金融犯罪コンプライアンス・プログラム1には、自動化できる領域が増え、プログラムに自動化を取り入れていくことで、コンプライアンス・リスクをより効率的かつ効果的に管理することができます。

2018年の戦略を策定するにあたって、コンプライアンスへの取り組みや目標の達成のために、どのように、どの程度まで、顧客確認(KYC: Know Your Customer)や取引のモニタリング/スクリーニング、コンプライアンス・テスト等にインテリジェント・オートメーションを活用するかを金融犯罪対策責任者が検討するには今が絶好のタイミングです。

1 金融コンプライアンス・プログラム:一般的に、アンチ・マネーロンダリング(AML)、米国OFAC規制、贈収賄/汚職防止(ABC)、インサイダー取引、人身売買およびその他監視対象のコンプライアンス領域を含みます。

3金融犯罪対策におけるインテリジェント・オートメーション© 2018 KPMG FAS Co., Ltd., a company established under the Japan Company Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

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インテリジェント・オートメーションのレベル今日においてイノベーションとは、テクノロジーを用いて、コンプライアンスに係る問題やコストを軽減するための新しいアプローチを検討することを意味します。テクノロジーが組織内で果たす役割が増えるにつれ、インテリジェント・オートメーションを始め、ロボティクス、機械学習、コグニティブ、AI等、様々な用語を目にするようになりました。本レポートでは、インテリジェント・オートメーションという用語を、金融犯罪プログラムに影響する可能性がある一連のイノベーションに対して使用します。

インテリジェント・オートメーションの各レベルにおける特性は以下の通りです。

ロボットによる業務自動化(RPA)は、自動化の入り口であり、既存の複数のシステムやアプリケーションをまたいで、反復性が高い機械的作業を行うようにプログラムされたソフトウェアです。ロボット(バーチャル・ワーカーもしくは �ボット�)は、一貫性や正確性を向上させ、人間が付加価値とリスクが高い業務に専念することを可能にします。

機械学習は、アルゴリズムを備えたソフトウェアで、入力されたデータに基づいて結果を予測したり影響を導き出したりします。アルゴリズムは、導き出された新たな結果から自動的に学習

し、分析が必要な場合に、ボットの有効性を大幅に増すことができます。機械学習は、予測機能を備えた主要コンポーネントの1つであ り、コグニティブ・システムの中核をなす基盤となっています。

コグニティブは、自ら学習するプラットフォームのことを指し、人間が処理しきれないような膨大なデータを解釈して、人間の論理的思考と意思決定の仕組みを模倣します。コグニティブ・システムは、構造化データ、非構造化データのいずれであっても、深層学習を利用して、自然言語処理(NLP)を用いながら文書から意味を読み取り、複雑で膨大なデータセットから隠れたパターンを見つけ出します。

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― 反復性が高い手動のアラート解決業務を自動化

― バーチャルロボットが自律的に作業を完了 

― 既存システムと直接連携

― 比較的少ない投資と支出で迅速に設計・テスト・運用が可能

― 人的要因を大幅に削減

― 機械学習モデルを用いて、予想されるリスク要因の定型処理に係る既存の取引モニタリングルールを改善

― モデルを用いて、アラートの検知(true positive)か誤検知(false

positive)かの確率を算出することで、人間による分析を迅速化し、より効率的なアラートの評価やエスカレーションを実現

― モデルリスク管理を合理化し、一般的に認められた実証済みのモデルを用いて規制要件を単純化

― 自己学習の要素を整備するために、構造化データ及び非構造化データの双方の利用が可能なより高度なモデルを導入

― 高度な自己学習機能と自然言語処理(NLP)を備え非構造的内容を解釈する先進的な意思決定支援アルゴリズムによって、取引のモニタリングを自動化

― 人間が処理しきれないような膨大なデータを取り込んで、考え、解釈して、仮説を形成

― パターンや事象、要因を考慮して、対象範囲を広げて新たなリスクを検出、未検知(false

negative)を削減

― ソリューションを構築する前にドメイン・ナレッジベースを構築、機械が回を追うごとに学習するようにフィードバックの仕組みを構築

インテリジェント・オートメーションの一連のプロセス

RPA 機械学習 コグニティブ

コグニティブRPA 機械学習

コグニティブが RPAと連携した時に、インテリジェント・オートメーションの一連のプロセスが成熟したと言えます。

18か月6か月スタート 36か月

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インテリジェント・オートメーションがRPAからコグニティブへと段階的に展開するにつれて、得られるメリットが増える一方で、コストや導入するまでの時間、より高度なテクノロジーを使用することによるリスクも増すことを覚えておく必要があります。

RPAは、多くの金融機関にとって、機械学習やコグニティブと比べて、より廉価で短期間に導入が可能で、最も早期に効率性を発揮します。一方、機械学習とコグニティブは、RPAに比べて、より複雑で導入に時間を要しますが、その分、より大きなメリットを提供することができます。

85%のCEOがAIやコグニティブ・プロセスを利用して、ビジネスプロセスにインテリジェント・オートメーションを導入する重要性を認識しています。(出典:KPMGグローバルCEO調査2016)

インテリジェント・オートメーションの各レベルにおける適用例ロボットによる業務自動化RPAボットは、アンチ・マネーロンダリング(AML)のアラート調査で必要とされる情報の収集に役立ちます。事前に手順を定めてコーディングすることができれば、ボットは、社内システムや外部サイト、インターネットの検索結果から、顧客及び取引先のデータを抽出することができます。RPAボットは、データを抽出すると自動的に、そのデータを社内のケース・マネジメントシステムにアップロードするようにプログラムすることが可能です。これにより、アナリストは事前に必要な情報を入手できます。こうしたシンプルで反復性が高いプロセスを自動化することで、より高い効率性を実現し、調査プロセスを合理化することができます。

同様に、金融機関は、確定していない法令や自社とそのコンプライアンスに係る取り組みに適用される規則に関する公開データベースやソースを検索させるようRPAボットをコーディングすることができます。フォーミュラやパラメーターを用いることで、検索結果は、潜在的な関連性によってランク付けされ、ボットは、事前に定められたパラメーターに従って、コンプライアンスのアラートを生成することができます。

機械学習機械学習モデルは、過去のアラートやその他データ結果、社内外から得られる情報(KYCデータや公開ソースからの外部情報等)を利用して、蓄積されたデータを基準値とすることで、リスクを検出できるように訓練されています。回を重ねるごとに、フィードバックから学習し、検出すべきリスクへの理解を更に深めていきます。

コグニティブ金融機関が、確定的な規則に基づくシナリオを脱却して、膨大なデータやソース(取引業務、オンボーディング業務、追加の取引時確認、過去のアラート/ソリューション、否定的な報道やFactivaやWorld Checkといった外部ソース等)を解釈するよう機能的にプログラムされたシステムへと発展すれば、コグニティブが新たに発生するリスクを検出するキードライバーとなるかもしれません。

膨大な情報集積と人間の判断や意思決定の仕組みを模倣する能力によって、機械は、レベル1のアラートを即時クローズするかエスカレーションするかを判断することができます。アラートの判断が不確かな場合には、人間に解決が委ねられます。

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変化を促す要因

金融機関をインテリジェント・オートメーションの導入に駆り立てる主要因は3つあります。それは、規制当局による監視、コスト削減のプレッシャー、イノベーション競争です。

規制当局による監視:過去、金融機関は、規制当局による監視とそれにより課された罰金や措置に労働集約的に対応してきました。しかしこの方法は、とりわけコスト削減が叫ばれる環境の中で、継続可能なアプローチではありません。規制当局の監視が弱まる兆しはなく、金融機関は自動化を導入することで、コンプライアンスに対するアプローチを転換しています。

コスト削減のプレッシャー:金融機関がインテリジェント・オートメーションを金融犯罪コンプライアンス・リスク管理に革新的に導入する方法を検討している要因として、コスト削減のプレッシャーも挙げられます。経営層や取締役会が求める株主価値の向上は、規制当局の厳しい監視に対応しようとしている人にとって固有の課題です。金融犯罪対策責任者は、社内の利害関係者から「なるべく少ない投資で、なるべく多くの成果を出せますか?」としばしば問われます。その結果、金融犯罪対策責任者は、コンプライアンス義務を果たすと同時に社内からの要求を満たすために、革新的な方法を探すようになるのです。

イノベーション競争:イノベーション競争もまた、多くの金融機関にとって課題になっています。金融犯罪対策責任者は誰しも、各業務部の責任者から電話がかかってきて「あなたが私のビジネスの邪魔をしているのですよ。競合他社で、こうした厄介な要求があるところは1社もありませんよ。」などと不平を言われることを恐れています。実際、各業務部の責任者の言うことは的を射ています。イノベーション競争により、顧客に直接的且つ厄介な影響を及ぼすことなく、規制要件に応える新たな方法が生まれています。それには、法令対応の義務を果たしながらも、顧客体験を向上させる方法も含まれています。金融犯罪対策責任者は、イノベーションに係る社内の取り組みに関与し、競合他社から自社を差別化しながら規制要件を満たしていかなければなりません。

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独自戦略の構築金融犯罪対策に関わる人は、どのクラスのインテリジェント・オートメーションを導入するのかを合理的に判断するために、まずは、インテリジェント・オートメーション戦略を構築する必要があります。そしてその戦略は、どういった投資をするつもりがあるのか、内在するリスクは何なのか、また見込まれる効率性や迅速性の向上も含めた上でのベネフィットは何なのか、に基づいて構築される必要があります。インテリジェント・オートメーション戦略は、その金融機関の規模、業務範囲及びリスク許容度に即していることが重要です。一部の金融機関にとっては、少なくとも現時点もしくは直近では、コグニティブまでは必要ないかもしれません。

また戦略には、前回の“テクノロジーの波”からの教訓、及びデータ・ケイパビリティ等の自社の現状における知識レベルも考慮に入れる必要があります。金融犯罪対策責任者は、ビジネスパートナーやITパートナーと連携して戦略を構築し、実行する中で、戦略を都度評価していく必要があります。

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インテリジェント・オートメーションの金融犯罪コンプライアンスへの導入金融犯罪対策責任者が、金融犯罪コンプライアンス・プログラムにおいて、コスト削減や効率性及び有効性の向上に、インテリジェント・オートメーションが役立つと考える領域が3つあります。

1. 取引のモニタリング

2. 顧客確認(KYC: Know Your Customer)

3. コンプライアンス・テスト

金融犯罪コンプライアンス業務を自動化するための前提条件

金融犯罪対策責任者は、金融犯罪対策に係るプロセス及び業務の自動化に、一定の前提条件があることに気が付くかもしれません。最終的には、この必要条件によって、短期間で何を達成できるかが決まります。例えば、ある金融機関にKRI(Key Risk Indicator:重要リスク指標)に必要なデータ、もしくはどの取引アラートがより簡単に誤検知(false positive)としてクリアできるかをコーディングするのに役立つデータが存在しない、またはそれらのデータに整合性がないとします。

その場合、まずそのデータを修正して基礎データを作成します。更に、様々なレベルの自動化を支援する社内の既存のITインフラや集積データを評価し、どの自動化であれば追加のインフラ投資をすることなく、オペレーション上で実現可能なのかを把握します。

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1. 取引のモニタリング(TM: Transaction monitoring)

取引のモニタリングは、金融犯罪コンプライアンスが先進テクノロジーの恩恵を受けられる領域として良い例です。アンチ・マネーロンダリング(AML)業務の典型的なモニタリング・プラットフォームは、規則に基づいた類型とシナリオに基づいて構築されており、調整や更新を頻繁には必要としません。しかし、規則に基づき且つシンプルであるからこそ、多くのリスク要因を考慮しそびれてしまう可能性があります。その結果として、誤検知(false positive)が多くなり、人間はその対応に追われることになるのです。

RPA:金融機関は、ボットに、インターネットや特定の公開デューデリジェンス・サイトを検索させたり、社内ソースや自社が妥当と考えるソースから関連したデータを収集させたりすることができます。ボットは、デューデリジェンス結果を電子データファイルに集積することもでき、アナリストはそれを参照することができます。ボットにこうしたリサーチやデータ集積をさせることで、アナリストは貴重な時間を有効活用することができます。

機械学習:機械学習をRPAと連携させることで、人間の意思決定を効率化できます。この段階では、機械学習を調査プロセスにおいて疑わしい取引の精査に用いることで、精査プロセスの一部のオペレーションを自動化することができます。機械は、過去の調査結果を精査、検証する中で、統計モデルを構築することができます。そのモデルには、収集されたデータが蓄積され、取引がクローズかエスカレーションかの確率を計算することが可能になります。エスカレーションの確率が高い取引は、人間が分析した上で判断を下し、解決することになります。その後、その判断は、今後モデルをどのように更新すべきか、という観点で評価されます。取引のモニタリング・システムにおいて、必ず誤検知(false positive)は存在するので、機械学習モデルが、論理的根拠に基づいて、アラートを迅速にクローズと判断できることは、金融機関にとって大きなメリットになります。 

コグニティブ:RPAや機械学習と異なり、コグニティブは、金融機関が現在基盤としている規則に基づいた取引のモニタリング・システムに依存しません。効果的にコグニティブに移行するためには、ある程度、過去のアラートや事例と何らかの機械学習モデルが既に社内に存在している必要があります。そうすれば、これらをドメイン・ナレッジベースとしてコグニティブ・プラットフォームに利用することができます。

ドメイン・ナレッジベースのほとんどは、各金融機関に独自のものであり、自動的に学習し、その金融機関のリスクや結果、プロセス、手続きに適用されてきた基礎的な構造化モデルや非構造化モデルのすべてを含みます。こうした基礎があることで、機械は、金融機関が既に認識し、特定の規則や規則セットに基づいて発見、検出したリスクをモニタリングするにとどまらず、コグニティブを用いることで、データの中に存在するパターンを見て、それが以前にも存在したかを識別することができます。新たなパターンである場合、人間が内容を再度確認するように機械がフラグを立てます。

これが、コグニティブが新たに生じる金融犯罪リスクを検出する鍵となる所以です。真の意味でリスクに対応できるのは、このコグニティブだけなのです。

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2. 顧客確認(KYC: Know Your Customer)

金融機関は、オンボーディングや定期審査といった顧客確認業務に膨大な時間とリソースを費やしてします。金融機関の規模や年間の新規顧客数によっては、請負業者やコンサルタントを起用することもしばしばですが、それでも顧客確認業務に月に数百時間を費やしているかもしれません。各顧客に対して費やされる時間は、一般的に、リスクが低い顧客で数時間、リスクが高い顧客であれば24時間にまで及びます。

顧客確認は、一般的に、外部デューデリジェンスを実施するプロセスを含みます。まず、顧客やその関係者(実質的支配者や真の受益者等)の審査をおこないます。次に、抽出された否定的なニュースの内容を確認します。これには数百ページに渡る資料の閲覧が必要になることもあります。最後に、規制要件を満たすために、社内規則に基づき、フロントオフィスやミドルオフィスに何度も問い合わせて、必要な情報を入手します。定期審査においても同様のプロセスが必要となります。

RPA:顧客確認プロセスには反復性が高い業務が含まれるため、インテリジェント・オートメーションを用いて効率化、迅速化するのに適しています。そのため多くの金融機関では、顧客確認プロセスにおいてどの業務にRPAが活用できるかを既に認識しています。そうした業務には、事前に定義した検索条件に基づく公開ニュースソースからの文書検索、否定的なニュースのスクリーニング及びその結果の保存、並びに、文書から顧客確認システムへのデータの取り込み等が含まれます。

適切に設定さえすれば、RPAを用いることで膨大な時間を節約でき、顧客確認担当のアナリストは、より詳細な分析が必要とされる業務(一部の否定的なニュースの解明、得られた情報間の矛盾の分析、及び必要なドキュメンテーション等)により多くの時間をあてることができます。今後、ボットがより正確にデューデリジェンス情報を収集できるようになる可能性があります。そうすると、RPAの導入によって、顧客に何度も連絡する必要がなくなる、もしくは連絡自体が必要無くなり、結果として顧客満足も向上します。

顧客確認業務をインテリジェント・オートメーションで補完する場合、金融犯罪コンプライアンス対策の担当者は、機械の精度を把握するため、もしくは、正確性の更なる向上に向けてパラメーターを調整するため、自動化によって得られた結果について、対象を限定し継続してテストを実施するでしょう。回を重ね、正確性と一貫性が許容できるレベルまで向上することで、テストと品質保証(QA: Quality Assurance)レビューの回数を軽減できる可能性があります。

機械学習:顧客確認プロセスの更なる自動化を望む金融犯罪対策責任者には、機械学習に非構造化文書のデータの読み込みと抽出をさせることが有用かもしれません。機械学習をRPAと連携させることで、顧客のリスク格付けプロセスの信頼性と効率性を向上させることができます。顧客確認に必要な顧客ファイルやリスク格付けをより迅速に更新できれば、金融機関はリアルタイムでのリスク評価を実施することができ、顧客がその時点で抱えている真のリスクをより正確に分析することが可能になります。

コグニティブ:RPAと機械学習によるソリューションが十分に機能していれば、機械はドメイン・ナレッジベースに基づいて判断することができます。例えば、セマンティック(意味論的)言語プロセスを使用して否定的なニュースを評価すると、往々にして多様なソースから記事を集めてしまいますが、コグニティブの場合は、最も関連性が高い記事を抽出することができます。時間の経過とともに、金融犯罪対策の品質保証担当者からのフィードバックが蓄積されることで、テクノロジーが洗練され、正確性と信頼性が向上します。コグニティブ・テクノロジーは、顧客確認において、リスク指標となりうる異常値の検出にも使用できます(例えば、ある顧客についてケイマン諸島といったタックスヘイブン地域で規制を受けていると記載されているが、現地当局経由では記録を入手できないケース等)。金融犯罪対策責任者は、高度な自動化機能、及び自主学習して再調整する機能を利用して、真のリスクを反映するように顧客確認業務や入手情報に優先順位をつけることができます。その上、分析に関する堅牢な監査証跡によって、いかなる変更についてもその妥当性を証明することが可能です。

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3. コンプライアンス・テスト

金融機関は、アンチ・マネーロンダリング(AML)のコンプライアンス・テストや制裁対応にも膨大な時間とリソースを費やしています。具体的には、データフィードのテストやシステムの検証から、第三者ベンダーもしくは外部委託先におけるプロセスや社内プロセスといった内容にまで及びます。テストに係る業務の中には反復性が高い業務もあり、ここでもインテリジェント・オートメーションが有用なツールとなります。更に、機械がテストを行う場合は、全量データがテスト対象となり、サンプリングが不要であるため、サンプリングによる誤差を排除することができます。

RPA:初期データ(文書も含む)から、人間がテスト作業の一環として精査すべき課題を迅速に検出するのに役立ちます。データの構造化の度合いによっては、RPAをデータの完全性を識別するテストにも使用できます。例えば、金融機関において顧客確認のコンプライアンス・テストを実施する際、ファイルに、住所や誕生日、国籍、資金の源泉等の必要な情報が含まれているかを、RPAが社内の規則に従って全ファイルを調べ、更なる原因究明が必要な異常値を検出することができます。

機械学習:構造化データ及び非構造化データの双方を取り込み、テスト用のライブラリを利用して自動的にデータを検証することができます。機械が集積されたデータを読み込み、例外が検出された場合は、人間が内容を精査します。第1線のモニタリングにおいて自動化が導入された場合、第2線(コンプライアンス部門)は、第1線が出した結論を検証し評価するよりも、第1線による品質保証レビューの有効性を検証し評価する方が、より効果的かもしれません。

コグニティブ:過去のコンプライアンスのモニタリングとテスト、内部監査、規制当局による検査及び行政処分の結果、その他公開情報、並びに社内の規制変更管理部門を通じて得られた情報を用いて、金融犯罪コンプライアンスのドメイン・ナレッジベースが構築されます。これが自社の顧客、ビジネスライン、商品、サービス、デリバリーチャネル及び取引に適用されて、パターンが検出され、そのパターンがドメイン・ナレッジベースと比較されます。その結果、単に特定の検査に不合格であるというよりも、人間が潜在的リスクを検証すべき異常値とし、課題として検出されます。その後、こうした課題は、ドメイン・ナレッジベースにフィードバックされます。

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コンプライアンス業務自動化の落とし穴に注意金融犯罪コンプライアンス業務を自動化する場合、インテリジェント・オートメーションのフレームワークは、複雑さのレベルに関わらず、透明性が高く簡単に説明できなければなりません。こうしたフレームワークは、自社がどのように自動化をコンプライアンス業務に取り入れているかを経営層や規制当局に説明する土台となり、また、自動化に係る取り組みを自社のリスク許容度に合わせるための基礎にもなります。透明性の高さは、結果を予測するモデルやアルゴリズムだけにとどまらず、予測のためにデータを提供するリスク要因に対しても必要となります。

更に、金融犯罪対策責任者は、テクノロジーベンダーがしばしば提案してくる“ブラック・ボックス化”されたソリューションに注意する必要があります。こうしたソリューションは、事前に定義されたリスク要因を基にしており、各金融機関の実際のリスク要因に合致しているとは限りません。また、必要以上に複雑なもしくは独自性が高いアルゴリズムを使用しており、利害関係者に対して有効な説明をすることが困難な場合もあります。

金融機関が金融犯罪コンプライアンス業務を自動化するための全ての意思決定と対策は、完全に監査可能、且つ “人間が読める” 言語で合理的に説明できることが前提です。また、そこから導き出される全ての結果は、十分に理解可能で、いかなる調査においても妥当性を説明できなければなりません。取引のモニタリングを例にとると、アラートが誤検知(false positive)の可能性ありというフラグになる度ごとに、金融犯罪対策責任者は、モデルがそう判断した理由をすぐに解明できなければなりません。それができない場合、自社を更なる潜在リスクに晒しているだけでなく、それ以降、そのモデルが導き出した結論と講じられた対策を信用することが困難になります。

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テクノロジーの準備は整ったさて、その次は?金融機関は、イノベーションが欠けていた、というわけにはいかないのです。きっかけが、規制当局による監視、膨大な人件費、イノベーション競争の何であれ、これまでの金融犯罪コンプライアンス管理のアプローチから一旦離れ、最大の結果を得るために、どのように、どのレベルまで、インテリジェント・オートメーションに投資するかを検討する必要があります。

インテリジェント・オートメーションは、金融犯罪コンプライスの分野において、急激に、重要なイネーブラかつアクセラレータになりつつあります。金融犯罪対策責任者は、自社の規模やビジネス目標に合わせてインテリジェント・オートメーションを導入することで、より高い効率性や有効性、リスクカバー範囲の拡大を実現することができ、更には、重要な付随的メリットとして、顧客満足の向上も実現できます。

こうした変革をどのように実行し、インテリジェント・オートメーションを金融犯罪コンプライアンスのどの業務に導入しようかと考え始めたばかりの段階においては、当然のことながら、骨の折れることと感じられるでしょう。例えば、金融犯罪対策責任者が、関係者間のコミュニケーションや取り組みをリードし、全社的に実行プロセスを推進しなければならない一方、責任者と共にインテリジェント・オートメーション導入に取り組む社内外の人材を会社が選出することが重要です。選出された人材は、より広範囲における一貫性を実現し、一連の変革から導き出されるリスク認識を浸透させるために、金融犯罪対策におけるインテリジェント・オートメーション戦略の策定と実行に関わり、利害関係者をその戦略のもとに取り纏めなければなりません。こうした取り組みには、社内のIT部門、各業務部門、リスク管理部門、内部監査部門に所属する人や、その他の戦略策定及び実行に携わる人が関わることになるかもしれません。

金融犯罪対策責任者は、一連のコミュニケーションや取り組みをリードする上で、可能な限り、ガバナンスやデータ品質、モデルリスク管理、変更管理、情報セキュリティに係る既存の組織インフラを利用するのが賢明です。

金融犯罪対策責任者は、意思の疎通が欠けないようにするだけでなく、イノベーションが欠けないようにしなければならないのです。

15金融犯罪対策におけるインテリジェント・オートメーション© 2018 KPMG FAS Co., Ltd., a company established under the Japan Company Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

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本冊子は、KPMG米国が2017年に発行した「Intelligent automation in financial crimes」を翻訳したものです。翻訳と英語原文間に齟齬がある場合は、当該英語原文が優先するものとします。

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