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三河湾の貧酸素水塊発生抑制に向けて ~豊饒 ほうじょう な宝の海を取り戻すために~ 平成 23 年1月 17 日 伊勢湾再生海域検討会 三河湾部会

三河湾の貧酸素水塊発生抑制に向けて ~豊饒な宝の海を ......2 2)検討経緯 はじめに、三河湾の環境改善を検討していく上で基礎となる、三河湾の現状を「利

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三河湾の貧酸素水塊発生抑制に向けて

~豊 饒ほうじょう

な宝の海を取り戻すために~

平成 23 年1月 17 日

伊勢湾再生海域検討会 三河湾部会

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目 次

1.伊勢湾再生海域検討会三河湾部会の概要 .............................. 1

1)設置目的 ........................................................ 1

2)検討経緯 ........................................................ 2

2.三河湾の現状 ...................................................... 4

1)三河湾の利用 ................................................... 4

2)貧酸素化のメカニズム ........................................... 6

3)干潟・浅場の現状 ............................................... 7

4)TN、TP、クロロフィル aの経年変動................................ 8

5)底質の状況 ..................................................... 9

6)三河湾の貧酸素化の状況 ........................................ 10

7)赤潮、苦潮の発生 .............................................. 11

8)漁獲量の変遷 .................................................. 12

9)深掘跡の現状 .................................................. 13

10)深掘跡修復の事例 .............................................. 20

11)現状に関する見解及び対策の方向性............................... 20

3.浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果 ......................... 21

1)現状のモニタリング結果による効果確認........................... 22

2)数値シミュレーション等による浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の

効果確認 ..................................................... 24

4.干潟・浅場造成の検討 ............................................. 28

1)干潟・浅場造成候補地の検討 .................................... 28

2)数値シミュレーションによる効果検討............................. 30

3)干潟・浅場造成を優先的に検討する範囲........................... 33

5.深掘跡修復の検討 ................................................. 34

1)数値シミュレーションによる深掘修復効果......................... 34

2)深掘跡修復計画(大塚地区北側)................................... 35

6.広報資料の作成 ................................................... 36

1)作成の背景と目的 .............................................. 36

2)概要 .......................................................... 36

7.推進プログラムの実現に向けて ..................................... 40

8.今後の課題 ....................................................... 41

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1.伊勢湾再生海域検討会三河湾部会の概要

1)設置目的

平成 19 年 3 月に「伊勢湾再生行動計画」が取り纏められ、以降、陸域及び海域で

各種検討会等による検討が進められてきた。

中部地方整備局港湾空港部においては、「伊勢湾再生海域検討会」(以下「海域検討

会」という)を設立し、平成 20 年 3 月に「伊勢湾再生海域推進プログラム」*(以下「推

進プログラム」という)を取り纏めた。

海域検討会では伊勢湾及び三河湾を一括りとして各種検討を進めているが、両湾は

海域環境、環境への取り組みなどが異なることから、その専門部会として、三河湾の

環境改善対策の検討を目的とした「伊勢湾再生海域検討会三河湾部会」(以下「三河

湾部会」という)を平成 21 年 7 月に設立した。

三河湾部会においては、推進プログラムに位置付けられた「多様な生物がいきづく

うみの保全」の実現に向け、三河湾において大きな懸念材料である「貧酸素水塊」の

抑制に効果が期待できる具体的方策及びそのモニタリングについて検討を行った。

表 1-1 構成メンバー(平成 23 年 1 月現在)

氏 名 所 属 ・ 肩 書

部会長 中田 喜三郎 東海大学 海洋学部 環境情報工学科 教授

青木 伸一 豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 教授

鈴木 輝明 名城大学 大学院 総合学術研究科 特任教授

中村 由行 (独)港湾空港技術研究所 研究主監

石田 基雄 愛知県水産試験場 副場長

和出 隆治 愛知県漁業協同組合連合会 代表理事常務

小田 正宣 東三河懇話会 専任理事

大竹 英文 三河湾浄化推進協議会 事務局長

委員

永田 桂子 NPOシーブリーズ三河湾 代表

*:推進プログラムにおいては、以下の考えから、伊勢湾を目指すべき姿に再生するための

中心的な取り組みとその具体的な目標を設定している。

①伊勢湾を「豊富で多様な生物を産み出す海」にするためには、貧酸素水の抑制と生物資源

量の回復により、伊勢湾の多様性を取り戻していく必要がある。また、生物資源量の回復

と併せて、それらを漁獲として系外へ取り出すための仕組み(=漁業など)も健全な姿と

すべきである。

②「ごみが少なく人々が利用しやすい海」にするためには、現時点でボトルネックとなって

いる箇所が明確となっていないことから、まずはこの点から明らかにしていく必要がある。

③「人々が親しみやすい海の姿」にするためには、ニーズにあった場の整備とともに、質の

向上や伊勢湾民の目を海に向けるための施策が必要である。

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2)検討経緯

はじめに、三河湾の環境改善を検討していく上で基礎となる、三河湾の現状を「利

用」、「貧酸素化のメカニズム」、「水底質の環境」、「漁獲量」等、様々な視点から把握

した。

これらの現状を踏まえ、推進プログラムに位置付けられた「多様な生物がいきづく

うみの保全」の実現に向け、三河湾において大きな懸念材料である「貧酸素水塊」の

抑制に効果が期待できる方策(干潟・浅場造成、深掘跡修復、貧酸素水塊への直接的

な対策、流況改善等)について検討を行った。

このうち、「干潟・浅場造成」及び「深掘跡修復」については、三河湾全体の環境

改善に効果的であり、優先して実施する必要がある施策として、通算 6回の三河湾部

会を通じて検討を進めた。一方、「貧酸素水塊への直接的な対策」、「流況改善」及び

「藻場の造成」については、局所的な効果が見込まれる施策であること、あるいは、

先の2つの施策を実施し三河湾の水質環境が改善された後、有効な施策であることか

ら、基礎的な検討に留めた。

また、数値シミュレーションにより、施策の環境改善効果を定量的に把握すること

で、干潟・浅場造成候補地の検討等を行った。

以下に、各回の三河湾部会における検討内容・主な意見を示す。

第 1 回三河湾部会(平成21年7月17日)

<検討内容>

・三河湾の現状

・貧酸素水塊の抑制に対する各種施策

<主な議事・意見>

・河川からの流入負荷を減らすことよりも、海の底生生物を増やし、植物プランクトンを

消化する力を回復させることが重要。

・干潟・浅場造成の適地選定は、アサリの生息地及び浮遊幼生供給等を考慮しつつ、中山

水道航路浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業(以下、「浚渫砂を活用した干潟・浅場

再生事業」という)で実施していない場所で行うべき。

・総合的な土砂管理の構築が必要。

第 2 回三河湾部会(平成22年10月23日)

<検討内容>

・干潟・浅場造成候補地の検討条件

・干潟・浅場造成材

・深掘跡の現状

・深掘跡修復材

・各施策の効果を検証する数値シミュレーションの検討ケース

<主な議事・意見>

・干潟・浅場造成、深掘跡修復を優先。

・干潟・浅場造成候補地の検討条件を了解。

・深掘跡修復材について、表面は生物が生息するのに適した材料で覆砂すべき。

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第 3 回三河湾部会(平成22年3月3日)

<検討内容>

・数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果

・数値シミュレーションによる新たな干潟・浅場造成及び深掘跡修復の効果

<主な議事・意見>

・深掘跡修復の効果は硫化水素及び苦潮のリスクの減少による周辺干潟の持続的な生物生

息環境の維持である。

・数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果検証について、

三河湾の現状と比べて過小評価となっている。干潟造成あるいは深掘跡修復後、複数年

かけて明確な効果が現れてくると考えられるため、複数年分の計算を行うことが望まし

い。

第 4 回三河湾部会(平成22年7月28日)

<検討内容>

・数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果

・大塚地区深掘跡修復

<主な議事・意見>

・数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果検証について

概ね了解。

・数値シミュレーション結果から既存の干潟に追加して造成するよりも、エサが豊富であ

るが、干潟・浅場が無い湾奥部に造成することが効果的。

・広報資料の必要性。

・大塚地区深掘跡の修復について了解。

第 5 回三河湾部会(平成22年10月27日)

<検討内容>

・数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果(精度向上)

・数値シミュレーションによる新たな干潟・浅場造成及び深掘跡修復の効果

・広報資料

・大塚地区深掘跡修復の施工及びモニタリング方法

<主な議事・意見>

・干潟・浅場造成適地選定は、漁業者等の意見を参考にしながら総合的に検討することが

必要。

・広報資料については今後さらに作り込みが必要。

・大塚地区深掘跡修復の施工及びモニタリング方法の了解。

第 6 回三河湾部会(平成23年1月17日)

<検討内容>

・広報資料(コンセプト版)

・これまでの三河湾部会で議論した内容のまとめ

<主な議事・意見>

・広報資料(コンセプト版)について了解。今後は、使用目的別に改良していく。

・三河湾の環境改善に向けては、干潟・浅場を造成した場所で増加した二枚貝等を移植放

流し、それら栄養塩類を最終的に漁獲として海域から効率的に取り出すことが出来る場

所の造成も重要。

・三河湾流域圏の環境改善に関連した同様な委員会が有機的に連携し、効率化していくこ

とが必要。

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2.三河湾の現状

1)三河湾の利用

三河湾一円は、三河湾国定公園に、渥美半島は県立自然公園に指定されており、温

泉や沿岸各地のお祭り、水族館、キャンプ場、海水浴場など、観光地として恵まれ、

豊かな地域資源を有している。

図 2-1 潮干狩り 図 2-2 ヨットレース

出典:三河港湾事務所 出典:「三河湾データブック 2010」

図 2-3 海苔養殖 図 2-4 亀崎の潮干祭り

出典:「愛知県の水産業」(愛知県) 出典:尾張の山車まつり HP

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また、三河湾には、11 の港があり、

それらは輸出・輸入等の貿易や貨物

(荷物)の運搬等において、地域経済活

動に対し重要な役割を担っている。

図2-5 三河湾内の港湾

図 2-6 三河港での自動車積み出し・卸し状況 出典:三河港湾事務所

三河港における完成自動車の推移

師崎港

河和港 吉田港

東幡豆港

倉舞港

馬草港

泉港 福江港

伊良湖港

平成21年

〔輸入自動車〕 2,217億円 81,907台 台数・金額共に17年連続 全国1位

〔輸出自動車〕 13,059億円 668,944台 台数・金額共に全国2位

(輸出金額はH10~15、H17~18、全国1位)

0

50

100

150

200

250

300

350

400

H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

輸入金額 輸出金額 輸入全国比 輸出全国比

0 20 40 60 80

100 120 140 160

H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21

0.0

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

輸入台数 輸出台数 輸入全国比 輸出全国比

図 2-7 完成自動車輸出入

(

図 2-8 完成自動車輸出入

0

50

100

150

200

250

300

350

400

H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21

0.

10.0

20.0

30.0

40.0

50.0

60.0

輸入金額 輸出金額 輸入全国比 輸出全国比

( 万台 ) (%)

台数の推移

十億円) ( )

額の推移

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2)貧酸素化のメカニズム

現状の三河湾は、以下のように生態系のバランスが乱れており、夏季を中心として

貧酸素水塊が発生している。

図 2-9 貧酸素化のメカニズム

①埋立等によって干潟・浅場が減少。

②植物プランクトンが干潟・浅場等に生息する生物に取り込まれなくなり急激に増加。

場合によっては赤潮を引き起こす。

③植物プランクトンの大量の死骸が海底に堆積。

④大量の死骸をバクテリアが分解。

分解の際に酸素を消費するため、分解量が多いとそれだけ海水中の酸素を消費。

特に夏季は上層と底層の海水が混合しにくい状態となるため、底層を中心に貧酸素

化が進行。

⑤貧酸素化により、魚や二枚貝等が呼吸できなくなり死亡。

入り口の

狭い海

海底

海底海底

干潟浅場

二枚貝

栄養

バクテリア

動物プランクトン

小魚

貧酸素化 魚

><

漁業

干潟・浅場減少

栄養

赤潮発生

酸素

入り口の

狭い海

海底海底

海底海底

干潟浅場

二枚貝二枚貝

栄養栄養

バクテリアバクテリア

動物プランクトン

小魚

動物プランクトン動物プランクトン

小魚小魚

貧酸素化貧酸素化 魚魚魚

><

漁業

><><><

漁業漁業

干潟・浅場減少

干潟・浅場減少

栄養栄養

赤潮発生赤潮発生

酸素酸素

① ②

③ ④

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3)干潟・浅場の現状

戦後、埋立及び航路・泊地等の港湾整備によって干潟、浅場が失われた。

図 2-10 三河湾の干潟・浅場

ここで浅場とは、「水深5m以浅の最干潮時にも露出しない地形」と定義する。

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

1951年時の干潟・浅場

埋立などにより無くなった干潟・浅場(2010年)

航路・泊地などの整備により無くなった干潟・浅場

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4)TN,TP,クロロフィル aの経年変動

三河湾における窒素の推移をみると、変動は大きいが全窒素(TN)、無機溶存態窒素

(DIN)ともに減少傾向にある。さらに、全窒素に占める無機溶存態窒素の比(DIN/TN)

も低下傾向にある。(図 2-11)

三河湾におけるリンの推移をみると、全リン(TP)、リン酸態リン(PO4-P)ともに

低下傾向にあり、全リンに占めるリン酸態リンの比(PO4-P/ TP)は大きく低下してい

る。(図 2-12)

一方、植物プランクトンの指標であるクロロフィル a はやや増加し、植物プランク

トンの死亡量の指標であるフェオフィチンは減少している。 (図 2-13)

このことは植物プランクトンに対する動物による摂食圧が年々低下している可能性

を示唆している。つまり、全窒素、全リンが減少しているにも関わらず植物プランク

トンが増加しているのは、植物プランクトンを食べる底生性の懸濁物食者が干潟・浅

場の減少につれて減ったためと考えられる。

出典:愛知県水産試験場

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

40.0

1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

クロ

ロフ

ィル

a(m

g/L

)

クロロフィル-a(mg/m3) フェオフィチン(mg/m3)

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

0.70

0.80

1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

TN

,DIN

(m

g/L

)

0

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10

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20

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40

45

DIN

/T

N(%

)

DIN TN DIN/TN

図2-11 三河湾における窒素の推移

0.00

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

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0.10

1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

TP

,PO

4-P

(mg/

L)

0

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20

25

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50

PO

4/T

P(%

)

PO4-P(mg/L) TP(mg/L) PO4/TP

図2-12 三河湾におけるリンの推移

図2-13 三河湾におけるクロロフィルaの推移

0.00

0.10

0.20

0.30

0.40

0.50

0.60

0.70

0.80

1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

TN

,DIN

(m

g/L

)

0

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15

20

25

30

35

40

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DIN

/T

N(%

)

DIN TN DIN/TN

図2-11 三河湾における窒素の推移

0.00

0.01

0.02

0.03

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1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

TP

,PO

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(mg/

L)

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PO

4/T

P(%

)

PO4-P(mg/L) TP(mg/L) PO4/TP

図2-12 三河湾におけるリンの推移

図2-13 三河湾におけるクロロフィルaの推移

図2-11 三河湾における窒素の推移

0.00

0.01

0.02

0.03

0.04

0.05

0.06

0.07

0.08

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1979 1982 1985 1988 1991 1994 1997 2000 2003 2006

TP

,PO

4-P

(mg/

L)

0

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15

20

25

30

35

40

45

50

PO

4/T

P(%

)

PO4-P(mg/L) TP(mg/L) PO4/TP

図2-12 三河湾におけるリンの推移

図2-13 三河湾におけるクロロフィルaの推移

クロ

ロフ

ィル

a(m

g/m

3)

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5)底質の状況

三河湾の底質 COD の平均分布をみると 1985 年の湾奥の底質 COD は 60(mg/g 乾泥)

と非常に高かった。2001 年の湾奥の底質 COD は 40(mg/g 乾泥)以下に低下している

ものの、依然として高い値を示している。

三河湾の底質(表層泥 0~5cm)の COD 平均分布

図 2-14 三河湾の底質 COD の分布

出典:「三河湾データブック 2010」(三河港湾事務所)

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6)三河湾の貧酸素化の状況

三河湾では、夏季になると毎年、貧酸素水塊が発生している。

平成 13 年、平成 14 年、平成 20 年に底層から貧酸素水塊の湧昇による大規模な苦潮

が発生し、水産生物に多大な被害を及ぼした。

図 2-15 三河湾底層貧酸素化の状況【平成 13 年 8 月 2,3 日】

図 2-16 三河湾底層貧酸素化の状況【平成 14 年 8 月 5,6 日】

図 2-17 三河湾底層貧酸素化の状況【平成 20 年 9 月 11 日】

出典:愛知県水産試験場

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7)赤潮、苦潮の発生

三河湾では、夏季になると三河港付近で赤潮や苦潮の発生頻度が高くなる。

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

50

1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

三河湾

伊勢湾

総計

図 2-18 赤潮発生件数の推移

0

2

4

6

8

10

12

1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

三河湾

伊勢湾

総計

図 2-19 苦潮発生件数の推移

出典:愛知県水産試験場

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8)漁獲量の変遷

多くの漁業生物の成育場である三河湾において、貧酸素水塊や苦潮が発生すると、

海底で生息する水産生物は悪影響を受け、漁獲が低下することとなる。底生性魚介類

及び貝類漁獲量の変遷から、えび・かに類など底生性魚介類は減少、あさり類を除く

貝類にいたっては激減している。

図 2-20 底生性魚介類漁獲量の変遷

図 2-21 貝類漁獲量の変遷

出典:愛知県水産試験場

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13

9)深掘跡の現状

三河湾奥部には、三河港大塚地区、大崎地区及び田原地区に深掘跡が存在し、苦潮

の原因となる貧酸素水塊の発生原因の1つと考えられている。

〔深掘跡の容量〕 大塚地区: 15 万 m3

大崎地区: 60 万 m3

田原地区:390 万 m3

図 2-22 三河湾奥部の深掘跡

大塚地区

大崎地区

田原地区

豊川市

大塚地区

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14

・ 各深掘跡の状況

大塚地区

大塚地区の深掘跡内では、夏季の溶存酸素飽和度が 10%を下回り、極度に貧酸素化

しており、底生生物の生息が確認できなかった。

図 2-23 大塚地区深掘跡 溶存酸素飽和度観測結果(平成 22 年 7 月 22 日)

図 2-24 大塚地区の底質状況(平成 22 年 12 月 6 日調査)

溶存酸素(%)

溶存酸素(%)

底質写真(調査日:平成22年12月6日)

No.2

No.3

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15

表 2-1 大塚地区深掘跡底生生物調査結果(平成 22 年 7 月 22 日)

№4

№1

№5

№2

№3

:調査地点

N

№1 №2 №3 №4 №5

軟体動物門 1

環形動物門 7 8

節足動物門 1

その他 1 1

合 計 0 0 0 10 9

軟体動物門 1

環形動物門 23 73

節足動物門 1

その他 24 3

合 計 0 0 0 49 76

軟体動物門 2.0

環形動物門 46.9 96.1

節足動物門 2.0

その他 49.0 3.9

合 計 0 0 0 100.0 100.0

軟体動物門 0.19

環形動物門 0.15 0.36

節足動物門 0.06

その他 1.38 0.42

合 計 0 0 0 1.78 0.78

出現種なし 出現種なし 出現種なし イソギンチャク目 Scoletoma sp.

24(49.0) 49(64.5)

Scoletoma sp. シノブハネエラスピオ

11(22.4) 8(10.5)

注:1.主要種は各調査点で個体数組成比10%以上のものを示す。

  2.個体数及び湿重量(g)は0.15m2当たりで示す。

種類数

個体数

個体数

組成比

(%)

湿重量

(g)

項目

主要種

個体数

( )内は組成比:%

「+」は 0.01g 未満の場合を示す。

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16

大崎地区

大崎地区の深掘跡とその周辺では、水深約 2mから底層まで夏季の溶存酸素飽和度

が 10%を下回り、極度に貧酸素化しており、深掘跡内において、底生生物の生息が確

認できなかった。

図 2-25 大崎地区深掘跡 溶存酸素飽和度観測結果(平成 21 年 8 月)

図 2-26 大崎地区深掘跡 底質状況(平成 21 年 8 月 27 日調査)

120

110

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

t

DO(%)

120

110

100

90

80

70

60

50

40

30

20

10

0

DO の調査結果(8月 27 日)

0

5

10

15

20

25

dept

h(m

)

St.6St.4 St.7 St.8 St.9 St.12 St.13 St.14St.3

【DO(%)】

六条干潟

沖合

豊川河口

沖合

航路泊地

浚渫窪地 深掘跡

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表 2-2 大崎地区底生生物調査結果(左:個体数、右:湿重量)(平成 21 年 8 月 27 日調査)

「+」は 0.01g 未満の場合を示す。

単  位   :個体/0.15m2

番号 学名 和名 St.1 St.2 St.3 St.4 St.5 St.6 St.71 EDWARDSIIDAE ムシモドキギンチャク科2 ACTINIARIA イソギンチャク目 23 POLYCLADIDA ヒラムシ目4 NEMERTINEA 紐形動物門5 Stenothyra edogawensis エドガワミズゴマツボ6 Iravadia elegantula カワグチツボ7 Batillaria cumingii ホソウミニナ8 Batillaria sp. 19 Crepidula onyx シマメノウフネガイ 4

10 Hinia festiva アラムシロガイ 411 PYRAMIDELLIDAE トウガタガイ科12 ACTEONIDAE オオシイノミガイ科13 Retusa sp. 714 HAMINOEIDAE ブドウガイ科 1415 Decorifer matusimana マツシマコメツブガイ16 Philine argentata キセワタガイ17 PHILINIDAE キセワタガイ科18 egg of GASTROPODA マキガイ綱の卵19 Scapharca subcrenata サルボウガイ 120 Musculista senhousia ホトトギスガイ 6221 Mytilus galloprovincialis ムラサキイガイ22 Pillucina pisidium ウメノハナガイ 123 Mactra chinensis バカガイ24 Macoma contabulata サビシラトリガイ25 Macoma incongrua ヒメシラトリガイ26 Macoma tokyoensis ゴイサギガイ27 Nitidotellina nitidula サクラガイ 328 Theora fragilis シズクガイ29 Solen strictus マテガイ30 Alvenius ojianus ケシトリガイ 231 Phacosoma japonicum カガミガイ 1132 Ruditapes philippinarum アサリ 11033 PETRICOLIDAE イワホリガイ科34 Mya arenaria oonogai オオノガイ35 MYIDAE オオノガイ科 636 Eumida sp.37 Micropodarke sp.38 Gyptis sp.39 Sigambra sp. 140 Ceratonereis erythraeensis コケゴカイ41 Hediste sp.42 Neanthes succinea アシナガゴカイ43 Nectoneanthes latipoda 144 Platynereis bicanaliculata ツルヒゲゴカイ45 Glycera sp.46 Glycinde sp. 247 Nephtys sp. 148 Scoletoma longifolia カタマガリギボシイソメ 349 Aonides oxycephala50 Paraprionospio patiens シノブハネエラスピオ 28 151 Polydora sp.52 Prionospio japonica ヤマトスピオ53 Prionospio pulchra54 Pseudopolydora sp.55 Scolelepis sp.56 Spio filicornis マドカスピオ57 Spiochaetopterus costarum アシビキツバサゴカイ58 Cirriformia tentaculata ミズヒキゴカイ59 Capitella sp.60 Heteromastus sp.61 Mediomastus sp.62 Notomastus sp.63 CAPITELLIDAE イトゴカイ科64 Owenia fusiformis チマキゴカイ65 Lagis bocki ウミイサゴムシ 166 Potamilla sp.67 Hydroides sp.68 Balanus amphitrite タテジマフジツボ69 Balanus improvisus ヨーロッパフジツボ70 Grandidierella sp.71 Upogebia major アナジャコ72 Scaphechinus mirabilis ハスノハカシパン

種類数 0 0 21 0 0 0 1合 計 0 0 265 0 0 0 1

単  位   :g/0.15m2

St.1 St.2 St.3 St.4 St.5 St.6 St.7

0.05

0.41 0.10 1.21

0.02 0.07

0.06 0.90

+

0.40

+ 0.05 6.79

0.04

+

+

0.02 +

0.03

0.24 +

0.03

0 0 21 0 0 0 10.00 0.00 10.42 0.00 0.00 0.00 +

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田原地区

田原地区では、水深約 10m から底層まで夏季の溶存酸素飽和度が 10%を下回り、極度

に貧酸素化し、底生生物の生息が確認できなかった。

図 2-27 田原地区深掘跡 溶存酸素飽和度観測結果(平成 20 年 9 月)

図 2-28 田原地区の底質状況(平成 20 年 8 月調査)

表 2-3 田原地区底生生物調査結果(平成 20 年 8 月 19 日調査)

111111

111

110

90

85

81

70

57

18

118

109109

109

107

92

80

66

59

46

20

6

4

2

2

1

1

1

11

113112

111

109

89

74

69

63

59

37

4

2

0

0

0

00

115115

115

112

91

73

63

56

54

31

5

111112

111

106

83

70

60

51

48

24

4

3

1

0

0

0

0

00

113114

115

112

88

66

60

55

45

10

4

0

0

00

114116

117

115

82

65

63

6262

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

10%以下

10~30%

30~50%

50%以上

水深(m)

111111

111

110

90

85

81

70

57

18

118

109109

109

107

92

80

66

59

46

20

6

4

2

2

1

1

1

11

113112

111

109

89

74

69

63

59

37

4

2

0

0

0

00

115115

115

112

91

73

63

56

54

31

5

111112

111

106

83

70

60

51

48

24

4

3

1

0

0

0

0

00

113114

115

112

88

66

60

55

45

10

4

0

0

00

114116

117

115

82

65

63

6262

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 No.7

10%以下

10~30%

30~50%

50%以上

水深(m)

No.2:深掘内h=-18m No.3:深掘内h=-16m No.5:深掘内h=-19m No.6:深掘内h=-14m

No.1:深掘外h=-10m No.4:深掘外h=-10m No.7:深掘外h=-7.5m

凡例 ● :窪地内地点 ● :周辺地点

凡例 ● :深掘内地点 ● :周辺地点

「+」は 0.01g 未満の場合を示す。

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・深掘跡における海底の状況(田原地区)

貧酸素化している海底では、バクテリアを除き底生生物は生存できない。

図 2-29 田原地区の海底の状況(平成 20 年8月)

凡例 ●:深掘内地点

●:周辺地点

No.3:深掘内h=-16m No.5:深掘内h=-19m

No.2:深掘内h=-18m

深掘内は水中を漂う有機

懸濁物が多い。

No.6:深掘内h=-14m

深掘内は酸素が少なく、こ

のような条件下で増えるバ

クテリアが繁栄、白いカビ

状のマットを形成。底生生

物はみあたらない

No.4:深掘外h=-10m

No.1:深掘外h=-10m No.7:深掘外h=-7.5m

深掘外は冬季に生

き延びた貝類(死

骸)がみられる

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10)深掘跡修復の事例

・御津地区

平成14年度から平成16年度にかけて埋戻し(浚渫土砂)を実施した御津地区では、

貧酸素化の傾向が強くなる夏季において、溶存酸素飽和度の改善傾向が特にみられ

る。

図 2-30 深掘跡修復の効果 出典:愛知県水産試験場

11)現状に関する見解及び対策の方向性

三河湾における夏季、底層の貧酸素化の拡大は漁業生産に深刻な影響を与えている。

その原因はこれまで陸域負荷の増大と言われ、三河湾をはじめとした日本の主たる内

湾は閉鎖性海域と定義され、窒素、リンの環境基準設定と基準達成のための総量負荷

削減が実施されてきた。しかし、その貧酸素化に対する抑制効果は不明瞭であるだけ

でなく、逆に無機態栄養塩の低下によりノリ養殖を含む漁業生産に悪影響を及ぼして

いる可能性もある。近年の三河湾における研究では、赤潮、貧酸素化の主たる要因は

地形的閉鎖性や流入負荷増大ではなく、埋め立てによる干潟・浅場の喪失であること

が明らかにされてきた。そもそも陸域からとエスチュアリー循環に伴う湾口下層から

の栄養塩供給による高い基礎生産は内湾の基本的特徴であり、問題はこれら豊かな基

礎生産が底生生物を含むより高次の生物へ転化されずに、無効に海底へ沈降すること

で貧酸素化が助長され、結果として湾全体の物質循環が大きく変化し、水質悪化のス

パイラルに嵌り込んだということである。*

そこで、三河湾全体の環境改善に効果的であり、優先して実施する対策として、「干

潟、浅場造成」「深掘跡修復」を挙げ、以降、これらの対策について検討した。

*:田中他、水産の 21 世紀(京都大学学術出版会)、2010 年 8 月、p296 を改変して引用

0

20

40

60

80

100

120

140

160

4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012

大塚地区

御津地区

-80

-60

-40

-20

0

20

40

60

80

4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012 2 4 6 8 1012

H14         H15       H16         H17         H18

溶存

酸素

飽和

度の

差(

%)

浚渫土砂による埋戻し 良質砂による覆砂御津地区

大塚地区 浚渫土砂による埋戻し

H14         H15       H16         H17         H18

埋戻し未施工

埋戻し未施工

溶存

酸素

飽和

度(

%)

埋戻し後の御津地区では、溶存酸

素が低くなる夏でも酸素飽和度が

高くなることが多くなりました。御津地区や大塚地区が存在する三河

湾の湾奥は、夏季になると溶存酸素が

低下する傾向が強い場所ですが、低下

の程度は気象等によって毎年大きく

変動します。埋戻しによる効果をみる

ためには、変動の大きい経年的な比較

ではなく(下のグラフ参照)、同じ年

の中で埋戻した場所とそうでない場

所との比較が必要です。そこで、埋戻

し時期が異なる御津地区と大塚地区

の差を表現したのが上のグラフです。

なお、生物の生息には最低でも 30%以

上の溶存酸素飽和度が必要となりま

す。

御津地区大塚地区

深掘箇所 容量:約140万m3

容量:約180万m3

御津地区大塚地区

深掘箇所 容量:約140万m3

容量:約180万m3

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3.浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果

中部地方整備局と愛知県が連携して平成 10~16 年度に中山水道航路事業で発生し

た砂質系浚渫土砂(以下「浚渫砂」という)を活用し 、約 620ha(ナゴヤドーム約 130

個分)の干潟・浅場造成、覆砂を行った。その結果、造成区域では、周辺海域と比べ

DO 値が高くなるなど水質、底質の改善や、底生生物の増加、多様化といった効果が見

られた。

図 3-2 浚渫砂 図 3-3 浚渫砂の粒度分析結果

図 3-1 浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の実施箇所(平成 10~16 年度実施)

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22

1)現状のモニタリング結果による効果確認

御津地区の造成干潟では、周辺区域(st.15)で溶存酸素量が 2~3mg/L まで低下

する夏季においても、造成した干潟区域(st.3)では貧酸素化が低減している。

図 3-4 御津地区干潟造成後の溶存酸素量の変化

西浦地区の造成干潟では、底生生物の種類が増えており、特に二枚貝が多種になっ

ていることが分かった。

図 3-5 西浦地区造成干潟における底生生物の種類数の推移

0 250 500   750 10 00 m

豊 川

御津 2区

0m

-5m

-2m

st.1

st .3

st .15( 周辺 区域 )

st.6

s t.18 (既存 干潟 )干 潟区 域

豊川 河口 干潟

御津地区2区

ST.3

ST.15

干潟造成

0 250 500   750 10 00 m

豊 川

御津 2区

0m

-5m

-2m

st.1

st .3

st .15( 周辺 区域 )

st.6

s t.18 (既存 干潟 )干 潟区 域

豊川 河口 干潟

御津地区2区

ST.3

ST.15

干潟造成

0

2

4

6

8

10

12

14

H10.9

H11.2 8

H12.2 8

H13.2 8

H14.2 8

H15.2 8

H16.2

(㎎

/L)

st.3 (干潟区域)

st.15(周辺区域) 御津地区

0

2

4

6

8

10

12

14

H10.9

H11.2 8

H12.2 8

H13.2 8

H14.2 8

H15.2 8

H16.2

(㎎

/L)

st.3 (干潟区域)

st.15(周辺区域) 御津地区

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アサリの漁獲量の変化を見ると、浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の終了後、

数年経ってから増加傾向が見られる。これは干潟・浅場の造成効果だけでなく、漁業

者によるアサリ稚貝放流等、資源管理の効果もあるものと考えられる。

図 3-6 アサリの漁獲量の変化

あさり類漁獲量

-

10,000

20,000

30,000

40,000

50,000

60,000

1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009

年度

漁獲

量(ト

ン)

三河湾

全国(愛知県除く)

干潟・浅場再生← 事業期間 →

事業完了!

愛知県の漁獲量

全国の漁獲量(愛知県以外)

愛知県アサリ類漁獲量

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2)数値シミュレーション等による浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果確認

浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果を確認するため、数値シミュレーショ

ンモデル上で事業を実施した場合(以下「事業後」という)と実施しなかった場合(以

下「事業前」という)を計算し、それぞれの場合の水質及び底質、底生生物の予測を

行った。モデルの与条件として、三河湾において 1999~2007 年度中、もっとも貧酸

素水塊の発生頻度が多くなっている 2006 年度と貧酸素水塊の発生が平均的であった

2001 年度における環境条件を想定し、各年度の環境条件を 5回繰り返して計算を実施

した。

数値シミュレーションの予測結果は、三河湾の湾口部よりも湾奥部において、浚渫

砂を活用した干潟・浅場再生事業によって干潟を造成した場所で二枚貝が増加する結

果となった。(図 3-7)

一方、一色干潟周辺において二枚貝の現存量が増加しなかったのは、植物プランク

トン濃度が事業後に低くなる(図 3-8)ことから、餌となる植物プランクトンを十分に

取れなかったことが原因であると考えられる。

湾奥部は豊川から流入する栄養塩を元に植物プランクトンが豊富にある反面、海水

が滞留しやすいため、比較的赤潮、苦潮が発生しやすく、底生生物の生存に対するリ

スクが高い。したがって、アサリ等の底生生物群集を効果的に育成するためには、赤

潮や苦潮のリスクが回避できれば、餌となる植物プランクトンが豊富にある湾奥部に

干潟・浅場を造成することが望ましいと考えられる。

図 3-7 事業前後の二枚貝現存量予測結果

:1つでアサリ100個相当(1m2あたり)

干潟を造成した場所

元々干潟がある場所

ほとんど干潟が無い場所

元々干潟がある場所

干潟を造成した場所

ほとんど干潟が無い場所

事業前

事業後

約330個

約350個

約3個

約3個

事業前

事業後

約190個

約280個

事業前

事業後

事業前

事業後

約70個

約70個

約5個

約5個

事業前

事業後

増加

増加

2

事業前

事業後

約10個

約70個

:1つでアサリ100個相当(1m2あたり)

:1つでアサリ100個相当(1m2あたり)

干潟を造成した場所

元々干潟がある場所

ほとんど干潟が無い場所

元々干潟がある場所

干潟を造成した場所

ほとんど干潟が無い場所

事業前

事業後

約330個

約350個

約3個

約3個

事業前

事業後

約190個

約280個

事業前

事業後

事業前

事業後

約70個

約70個

約5個

約5個

事業前

事業後

増加増加

増加

2

事業前

事業後

約10個

約70個

2

事業前

事業後

約10個

約70個

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25

図 3-8 一色干潟周辺での事業前後の底層植物プランクトン(PHYc)及び DO 予測結果

(上:事業前、下:事業後、2001 年度環境条件)

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

DO

濃度

(mg/L)

PH

Yc濃

度(m

gC

/L)

12 DO

底層植物プランクトン(PHYc) DO

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

20

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

2

DO

濃度

(mg/L)

PH

Yc濃

度(m

gC

/L)

底層植物プランクトン(PHYc) DO

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26

浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業により、造成した干潟で二枚貝が増えた理由

のひとつとして、貧酸素水塊からの影響の低減が考えられる。

数値シミュレーション予測結果をみると、干潟・浅場を造ったところでは、地盤が

高くなったことで、底生生物の呼吸に十分な酸素量となることが分かった。

予測断面

A(岸側)

この色が貧酸素

シーブルー事業で造成された干潟・浅場

この色が貧酸素

ちょっと

苦しいなぁ

ここなら

快適♪

A(岸側)

この色が貧酸素この色が貧酸素

シーブルー事業で造成された干潟・浅場

この色が貧酸素この色が貧酸素

ちょっと

苦しいなぁ

ちょっと

苦しいなぁ

ここなら

快適♪

ここなら

快適♪

B(沖側)

図 3-9 夏季(8 月平均)の底層 DO 濃度(2001 年度環境条件下)

左:事業なし、右:事業あり(○:事業場所)

-10 0 10 2045

50

55

60

65

70

75

80

DO: 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

-10 0 10 2045

50

55

60

65

70

75

80

DO: 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

(mg/l)(mg/l)

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27

図 3-10 夏季(8 月平均)の底層 DO 濃度(2006 年度環境条件下)

左:事業なし、右:事業あり(○:事業場所)

-10 0 10 2045

50

55

60

65

70

75

80

DO: 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

-10 0 10 2045

50

55

60

65

70

75

80

DO: 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

(mg/l) (mg/l)

図 3-11 三河湾の貧酸素水塊の面積変化(2001 年度環境条件下)

(□内は貧酸素水塊の面積が事業実施により減っている)

図 3-12 三河湾の貧酸素水塊の面積変化(2006 年度環境条件下)

(□内は貧酸素水塊の面積が事業実施により減っている)

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4.干潟・浅場造成の検討

浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果より、干潟・浅場造成が三河湾の環境

改善に効果的であること及び環境改善に効果的な干潟・浅場造成地は三河湾奥部であ

ることを確認した。そこで、更なる環境改善に向けて、新たに干潟・浅場を造成した

場合の環境改善効果(底生生物の増加量等)を確認するため、数値シミュレーション

により検討を行った。

1)干潟・浅場造成候補地の検討

干潟・浅場造成候補地の検討条件としては、①現在干潟・浅場が存在しない場所を

中心に、②地形が安定する可能性が高く、③人による利用が少ない、④アサリの幼生

供給源として付加価値があるとされている場所を検討していく必要がある。

表 4-1 干潟・浅場造成候補地の検討条件

愛知県水産試験場による既往の研究(市川・桃井・鈴木・石田、平成 20 年度日本水産工

学会秋季シンポジウム、リセプターモードモデルを利用した造成適地選定手法)により三河

湾のアサリ浮遊幼生ネットワークについて、以下のことがわかっている。

「主要なアサリ漁場(図 4-1)への各海域からのアサリの供給は、吉良町及び幡豆町沿岸海

域(地区 6)からの供給数が最も多く、次いで汐川河口海域(地区 11)、田原市東部沿岸海域

(地区 12、地区 13)が多くなっている(図 4-2、4-3)。三河湾においては、三河湾最奥部に

位置する豊川河口ではほとんど浮遊幼生の供給はみられないものの、豊川の両側沿岸海域でア

サリ浮遊幼生の供給が比較的多くなっており、その範囲は一色干潟東部及び福江湾東部周辺ま

で及んでいる。

以上から、アサリ幼生の供給源としては、渥美湾の中部から奥部にかけての海域が中心とな

っていることが想定される。このような供給源により多くの干潟・浅場を創出することによっ

て、さらに多くの浮遊幼生を三河湾全体へ供給することが可能となることが考えられる。また、

貧酸素水による影響が大きい湾奥部に、貧酸素水による影響を受けにくい干潟・浅場のような

浅海域を増やすことは、貧酸素水の影響が強い夏季に貧酸素水から生物を守る場を作ることに

もなる。」

条件 条件の意味

① 干潟・浅場が存在しな

い場所

・ 現在干潟・浅場(水深 5m以浅)がない場所を選ぶ。

② 地形の安定性が高い

場所

・ かつて干潟・浅場が存在していた場所は、他の海域と比較

して造成後の地形的な安定性が高い場所と考えられる。

③ 人の利用が少ない場

・ 航路・泊地・漁港など人の利用が多い場所は、造成にあた

って様々な調整が必要になる。

④ アサリの幼生供給源

として付加価値があ

るとされている場所

・ 浄化能力をより向上させるためには、湾内の栄養を取り込

む生物を増加させることが必要であり、さらに栄養を取り

込んだ生物を三河湾外へ取り出せれば、さらに効果的であ

る。

・ 三河湾の浄化能力を支え、三河湾外への取り出しが多い生

物の代表的な生物として、日本有数の漁獲量を誇るアサリ

が挙げられる。

・ アサリが生息するだけでなく、湾内のアサリ幼生供給源と

して付加価値の高い場所を増加させ、幼生ネットワークを

強化できる場所が望ましい。

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図 4-1 三河湾における主要なアサリ漁場

図 4-2 三河湾におけるアサリ幼生供給源 図 4-3 主要なアサリ漁場への地区別幼生供給数

条件①~④を考慮し、さらに、浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の効果確認

結果を踏まえて、以下の 4ヶ所において、干潟・浅場を造成した場合を仮に設定し、

数値シミュレーションを用いて効果検討を行った。干潟・浅場の地盤高は、基本的

に D.L.±0m になるよう設定した。

表 4-2 数値シミュレーションにおける干潟・浅場設定場所

Box No. 区分 面積(ha)

32 東幡豆 約 20

18 蒲郡(竹島東部) 約 14

35 御津地区 約 80

39 豊川河口 約 98

合計 約 212

備考:地盤高は基本的に D.L.±0m になるよう設定。

1

23

4(矢作川河口)

5(一色干潟)

67

9(豊川河口)10

11(汐川河口)

1213

1516

14(福江湾)

0

5,000

10,000

15,000

20,000

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16

供給源として区分した地区

各地区への供給数

一色干潟 矢作川河口 豊川河口 汐川河口 福江湾初期配置として設定した主要なアサリ生息海域

矢作川河口

一色干潟

福江湾

豊川河口

汐川河口

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2)数値シミュレーションによる効果検討

・新たな干潟・浅場造成の効果を堆積物食者・懸濁物食者の現存量から検討した。

<湾奥東部>

BOX35、BOX39 では、新たな干潟・浅場造成によって、貧酸素化による堆積物

食者・懸濁物食者の死亡が減少し、大きく底生生物の現存量が増加した。

また、BOX18 では、新たな干潟・浅場造成によって、夏季の底生生物現存量が

若干増加した。

六条潟(BOX22)においても懸濁物食者の現存量が増加していた。これは、隣接

する BOX39 を干潟として水深 5m から 0m に地盤高を上げたため貧酸素リスクが

低減されたことが理由として推定される。

<湾奥西部>

BOX32 では、新たな干潟・浅場造成によって夏季の底生生物現存量が若干増加

した。

図 4-4 検討箇所位置図

BOX39

BOX35

BOX22

BOX32

BOX18

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31

図 4-5 検討箇所毎の生物現存量

BOX22の堆積物食者現存量 BOX22の懸濁物食者現存量 (2001年度環境条件下、黒線が現況、赤線が対策あり)

BOX18の堆積物食者現存量 BOX18の懸濁物食者現存量 (2001年度環境条件下、黒線が現況、赤線が対策あり)

BOX32の堆積物食者現存量 BOX32の懸濁物食者現存量(2001年度環境条件下、黒線が現況、赤線が対策あり)

BOX39の堆積物食者現存量 BOX39の懸濁物食者現存量 (2001年度環境条件下、黒線が現況、赤線が対策あり)

BOX35の堆積物食者現存量 BOX35の懸濁物食者現存量 (2001年度環境条件下、黒線が現況、赤線が対策あり)

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32

・数値シミュレーション計算結果から推定した新たな干潟・浅場造成によって増加

した懸濁物食者は三河湾内で 4,000 トン前後であった。

図 4-6 懸濁物食者資源量

図 4-7 懸濁物食者資源量(主に湾奥の地区)

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33

3)干潟・浅場造成を優先的に検討する範囲

4. 1),2)での検討結果及び以下のような条件から、新たな干潟・浅場造成を優先的

に検討する範囲は、三河湾奥東部(下図)とし、具体的な造成候補地については今後、

各関係者と調整を進めていく。

愛知県漁業協同組合連合会・愛知県沿岸漁業振興研究会、1997 年 8 月、「愛知県の漁

場環境修復策としての干潟・浅場の造成について」によれば、干潟・浅場造成適地の

条件として、以下の 5点が挙げられている。

①浄化能力がより高く機能するところ(湾奥部)。

②夏期の貧酸素や苦潮の被害を受けないところ。

③造成と維持経費があまり高くならないところ。

④現在漁場としてあまり利用されていないところ。

⑤採貝を行う漁業者が漁場管理者として存在するところ。

図 4-8 干潟・浅場造成を優先的に検討する範囲

<凡例>

干潟・浅場造成を 優先的に検討する範囲

現在の干潟

豊川市

豊川市

豊川市

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5.深掘跡修復の検討

深掘跡では、有機物、硫化物等が堆積し、夏季に貧酸素化していることをモニタリ

ング結果から確認した。貧酸素水塊抑制に向けて、深掘跡を修復した場合の環境改善

効果(硫化水素等酸素消費物質の体積の減少量)を確認するため、数値シミュレーシ

ョンによる検討を行った。

1)数値シミュレーションによる深掘跡修復効果

①深掘跡修復候補地

三河湾奥部に存在する以下の深掘跡をすべて修復した場合を数値シミュレーショ

ン検討ケースとして設定した。

表 5-1 深掘跡修復検討ケース

No. 区分 面積(ha) 容積(万 m3)

1 大塚地区北側 約 10 約 15

2 大崎地区 約 30 約 60

3 田原地区(5 箇所) 約 80 約 390

合計 約 120 約 465

②深掘跡修復の効果

・大塚地区北側において深掘跡修復を行った場合、全ての濃度区分において硫化水素

等酸素消費物質の体積が減少している。特に濃度が高いものについて体積の減少が

著しく、周囲への硫化水素リスクを大きく減じる結果になっている。

・田原地区において深掘跡修復を行った場合、全ての濃度区分において硫化水素等酸

素消費物質の体積が減少している。

・大崎地区において深掘跡修復を行った場合、環境条件、濃度区分によって硫化水素

等酸素消費物質の体積が減少しない場合もあるが、全体としては硫化水素等酸素消

費物質の体積の減少がみられる。

・深掘跡修復区域の酸素消費物質の体積変化は、修復した 3地区それぞれにおいて効

果の発現に差は見られるものの、現況に比べて酸素消費物質の体積は減少しており、

周辺海域への硫化水素暴露リスクを低下させる効果が確認できた。

図 5-1 酸素消費物質の体積

大塚地区

田原地区

大崎地区

大塚地区

田原地区

大崎地区

大塚地区

(北側)

田原地区

大崎地区

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2)深掘跡修復計画(大塚地区北側)

大塚地区北側の深掘跡は、アサリ等が生育する干潟・浅場に隣接しており、早期の

修復が求められている。

また、数値シミュレーションによると、大塚地区北側の深掘跡を修復することで、

高い濃度の硫化水素等酸素消費物質の体積が大きく減少し、周囲への硫化水素のリス

クを大きく減じる結果になっていることから、他の地区より優先して修復する計画を

策定した。

図 5-2 土砂採取箇所及び修復箇所位置図

図 5-3 土砂投入工イメージ図

蒲郡市

豊橋市

投入土砂採取予定箇所 (三河港神野地区航路泊地)

海上運搬

修復箇所

約-3m

約-5.5m

周辺地盤高より 約50cm低い高さまで修復

約50,000m3

土運船

押船

投入投入予定範囲

原地盤(深掘部)

周辺地盤

浚渫土

土運船

投入後の形状を確認し、

次回投入場所を検討する。

原地盤(深掘部)

覆砂分を控え

周辺地盤より

50cm 低く修復

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6.広報資料の作成

1)作成の背景と目的

第 1回及び第4回三河湾部会において、『モニタリングデータだけではなく、施策

をはじめたことを子どもや一般市民に分かりやすく示すこと』、『分かりやすい言葉

で結果報告すること』との意見が出された。

そこで、『三河湾の環境改善に向けた取り組みを一般市民に理解してもらうこと』

を目的に、広報資料の作成を試みた。

本部会では、三河湾の環境改善に向け、浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業の

効果確認や干潟・浅場造成候補地等の検討、深掘跡修復の検討のために、数値シミ

ュレーションを用いた効果算定を行っている。ところが、数値シミュレーションの

概念や、そこに用いられている数式などは一般の人々にとって非常に難解なもので

ある。

数値シミュレーションやその算定結果を正しく理解してもらうためには、まず各

施策がどのように三河湾の環境を改善させることができるのか、その関係を理解し

てもらうことが必要である。これが理解できれば、なぜ三河湾の環境改善方策の評

価指標に溶存酸素量が用いられているのか、その数値がどのように影響するのかを

理解できるようになると考えられる。

また、専門用語の使用を避け、比較的平易な文章で示す工夫や、貧酸素水塊の発

生要因や干潟・浅場の機能などを説明する資料を冒頭に示すことで、資料の理解度

の向上に役立つと考えられる。

ただし、一般市民といっても、常日頃海に慣れ親しんでいる人とそうでない人で

は、当然理解度が異なる。また、大人と子ども、小学生と中学生というように、年

齢や教育課程の修了度合いによっても理解度が異なる。そこで、今回は基本となる

コンセプト版を作成した。

今後、使用目的別、対象市民層別の広報資料を、本資料に基づいて作成する。

2)概要

以下に示す作成の考え方を表現するために、Microsoft 社の PowerPoint2003 を用

いて作成した。

(1)作成の考え方

①数値シミュレーションの仕組みの伝え方

数値シミュレーションの概念を伝えるためには、既存の算定結果のように時間断

面で結果を示すだけではなく、アニメーション化や複数項目の同時表示等によって、

経時変化や他項目との関係性を分かりやすく示すことが有効であると考えられる。

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②数値シミュレーションの結果の伝え方

算定結果についても、各指標の数値をそのまま示すのではなく、一般の人々がイ

メージできる身近な指標や現象で示すといった見せ方の工夫が考えられる。例えば、

溶存酸素量(DO)ではなく、アサリやガザミといった三河湾を代表する生物の生息

限界濃度等を参考に影響の程度に変換して示すことで、環境改善効果を分かりやす

く示すことが挙げられる。

③資料の工夫

数値シミュレーションの結果だけを示すのではなく、まずは貧酸素水塊発生の原

因や、干潟・浅場が果たす役割を先に説明することで、後述するシミュレーション

の意図や結果が理解しやすくなると考えられる。

そこで平易な文章やイラストなどを用い、三河湾の環境の現状(栄養塩の流入、

貧酸素水塊の発生要因など)→干潟・浅場の機能(効果)→数値シミュレーション

の仕組み→数値シミュレーションの算定結果といったように順を追って説明するこ

とが有効と考えられる。

(2)広報資料(コンセプト版)の構成

広報資料(コンセプト版)の構成は以下のとおりである。詳細は、伊勢湾再生海域

検討会三河湾部会の HP を参照のこと。

(http://www.pa.cbr.mlit.go.jp/isewan/mikawa.html)

◆健康な三河湾

食物連鎖など、かつて健康であった三河湾の姿を

示した。

◆現在の三河湾

干潟・浅場が埋め立てられ、赤潮や貧酸素が発生

している現在の三河湾の様子を示した。

◆健康な三河湾に戻すための取り組み

浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業について説

明した。

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38

◆干潟・浅場を造ってみたら

干潟・浅場再生の取り組みによって、二枚貝の増

加や藻場再生の取り組みが始まったことを示した。

◆干潟・浅場を造ったから?

日本全国のアサリ漁獲量が減少するなか、愛知県

のアサリ漁獲量が増加していることが、干潟・浅場

再生の取り組みの効果として考えられることを示し

た。

◆数値シミュレーションとは?

数値シミュレーション結果の実例(アニメーショ

ン)を示し、概略を説明した。

◆数値シミュレーションの予測結果は?

数値シミュレーションによる浚渫砂を活用した干

潟・浅場再生事業の効果を、アサリの資源量に換算

して示した。

◆数値シミュレーション結果の評価

干潟・浅場再生の取り組みによる三河湾全体への

効果がおおよそ分かったことを示した。また、数値

シミュレーションの限界にも触れ、理解にあたって

の注意点を示した。

◆干潟・浅場を造ったのに・・・

浚渫砂を活用した干潟・浅場再生事業後も、時折、

貧酸素による被害が発生しており、未だ三河湾が健

康になっていないことを示した。

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◆さらに三河湾を健康にするために

数値シミュレーションを用いて、新たに干潟・浅

場を造成した場合の効果を検討し、先ほどと同様に

二枚貝が増えるであろうこと、干潟・浅場を造るの

であれば湾奥の特に東部で効果が高いであろうこと

を示した。

◆今後の課題

今後の干潟・浅場造成にあたっては、造成材料の

確保に加え、造成場所や施工方法などの検討が必要

となることを示した。

◆もっと詳しく数値シミュレーション結果を知りた

い方のために・・・

さらに詳細な内容を知りたい人向けの補足資料と

して、本編よりも詳細な検討結果と解説を示した。

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40

7.推進プログラムの実現に向けて

①取り組みの一つである貧酸素水塊の抑制に効果的な対策として、三河湾において

は「干潟・浅場造成」、及び苦潮の発生原因の一つであると考えられる「深掘跡」

の修復を重点的に実施する。

②干潟・浅場の造成実施箇所について、愛知県漁業協同組合他による干潟・浅場造

成についての提言及び検討結果から、湾口部よりも湾奥部、さらには湾奥東部に

おいて干潟・浅場を造成することにより、堆積物食者及び二枚貝をはじめとする

懸濁物食者の増加が明確に見られ、環境改善効果が期待できることが示された。

このため、三河湾奥東部(下図)を干潟・浅場造成を優先的に検討する範囲とし、

具体的な造成候補地については、今後、各関係者と調整を進めていく。

図 7-1 干潟・浅場造成を優先的に検討する範囲

③深掘跡修復施策については、検討結果から、検討条件として設定した3箇所の修

復海域では、隣接する六条潟への苦潮リスク低減を考慮すると、大塚地区北側が

最も効果が高く、優先して修復する。

<凡例>

干潟・浅場造成を 優先的に検討する範囲

現在の干潟

豊川市

豊川市

豊川市

Page 43: 三河湾の貧酸素水塊発生抑制に向けて ~豊饒な宝の海を ......2 2)検討経緯 はじめに、三河湾の環境改善を検討していく上で基礎となる、三河湾の現状を「利

41

8.今後の課題

①関係者との調整

干潟・浅場造成及び深掘跡修復の実施にあたり、材料となる土砂の確保、具体的

な施工場所、施工方法、施工時期等について、各関係者と調整していく必要がある。

②さらなる干潟・浅場造成の展開 干潟・浅場造成による環境改善効果を高めていくためには、造成した干潟・浅場

で増加した二枚貝を他の場所に移植放流し、更に増やして、最終的には海域から取

り出す(栄養塩の回収)ことが重要である。したがって、移植放流する場の造成等

を考慮した検討が必要である。

③情報公開の推進

干潟・浅場造成をPRしていくため、三河湾の現状と環境改善の取り組みをわか

りやすく説明した広報資料(コンセプト版)を作成した。今後は、この資料をPR対

象者毎に改良し、三河湾の環境改善の取り組みに関する情報を広く発信していく必

要がある。

④土砂管理に関する課題

三河湾流域における総合的な土砂管理システムの構築について、解決しなければ

ならない課題を具体的に明らかにし、システム構築までのロードマップを作成する

等、より踏み込んだ議論を展開していくことが必要である。

また、土砂の供給者と利用者が連携し、干潟・浅場を造成した際に発生する便益

については、適切に定量化することで総合的な事業として成立させることが必要で

ある。

⑤他委員会との連携

三河湾流域圏の環境改善に関連した同じような委員会が多々存在している。各委

員会が有機的に連携し、共有化出来るところは共有していく等、効率化させる必要

がある。

また、矢作川流域、豊川流域等に関係する各委員会に対して、干潟・浅場造成の

必要性等をPRし、協力関係を築いていくことが必要である。

⑥数値シミュレーションに関する課題

干潟・浅場再生事業等の効果を数値シミュレーションを用いて検証し、シミュレ

ーションの精度・再現性について概ね了解を得たところであるが、現時点の数値シ

ミュレーションでは、漁獲による取り上げ、湾奥からの稚貝の人為的分散、アサリ

の浮遊幼生ネットワーク、鳥による取出、物理的な酸素供給 等を考慮していない。

今後の数値シミュレーションによる検討では、必要に応じ、これらを考慮して行う

必要がある。