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英語による発信力の向上を目指したスピーキングの指導 質より量のスピーキング活動 千葉県立 ○○○○ 高等学校 ○○ ○○(外国語) 1 研究の背景と目的 「英語ができるようになりたい」とは,英語学習者の誰もが持っている欲求であろう。 では,「英語ができる」とは,どのようなことなのだろうか。それを本校生徒に尋ねると, 「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能の中で「話すこと」が第1位 として挙げられた。また4技能のうちで,一番身につけたい技能も「話すこと」であっ た。生徒がなりたいと思っている「英語ができる人」のイメージは,「英語が話せる人」 なのである。ところが実際には「話すこと」をもっとも苦手とする生徒が多いのが現状 である(4~5ページ【表2】)。その原因は,スピーキングの活動量の少なさにあるの ではないだろうか。 伊東(2008)は「What to communicate How to communicate にこだわるあまり, How much to communicate への配慮が不足しがちであったことは否めない」と指摘し ている。また,小松(2003)は「外国語をマスターしようと思ったら“talkative”(口 数の多い)になることが必要だ」「できるだけたくさん言葉を並べよ」としている。 一方,平成 25 年度入学生から年次進行により実施される新学習指導要領では,「四つ の領域の言語活動の統合」とともに「発信力の向上」が謳われ,これまで以上に生徒が 実際に発信する機会を持つことが強く求められている。 これらを踏まえて本研究では,生徒になるべく多く英語による発話の機会を提供する ことを主眼にスピーキング活動を行い,その効果を検証する。その際スピーキング活動 によってスピーキング力,コミュニケーション能力が向上することを生徒が実感できれ ば,さらにそのモチベーションを高めることができると考え,このテーマを設定した。 2 研究仮説 発話量に重点を置き,できるだけたくさんのスピーキング活動を行うことにより, スピーキングへの抵抗感が少なくなるとともに発信力を高め,コミュニケーション 能力の向上につながるであろう。 3 研究方法 3.1 文献研究・事前調査 3.2 授業実践 (1) 試行実施(スピーキングに慣れるための活動・スピーキング力を伸ばすための活動) (2) 本実施(スピーキングに慣れるための活動・スピーキング力を伸ばすための活動) 3.3 仮説検証 (1) スピーキングテストによる効果の検証 (2) アンケートによるスピーキングに対する意識の調査 英-2-1

英語による発信力の向上を目指したスピーキングの …...Speaking Marathon を行うにあたって,考える時間はとらず,また原稿も作らない。

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  • 英語による発信力の向上を目指したスピーキングの指導

    ― 質より量のスピーキング活動 ―

    千葉県立 ○○○○ 高等学校 ○○ ○○(外国語)

    1 研究の背景と目的

    「英語ができるようになりたい」とは,英語学習者の誰もが持っている欲求であろう。

    では,「英語ができる」とは,どのようなことなのだろうか。それを本校生徒に尋ねると,

    「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の4技能の中で「話すこと」が第1位

    として挙げられた。また4技能のうちで,一番身につけたい技能も「話すこと」であっ

    た。生徒がなりたいと思っている「英語ができる人」のイメージは,「英語が話せる人」

    なのである。ところが実際には「話すこと」をもっとも苦手とする生徒が多いのが現状

    である(4~5ページ【表2】)。その原因は,スピーキングの活動量の少なさにあるの

    ではないだろうか。

    伊東(2008)は「What to communicate や How to communicate にこだわるあまり,

    How much to communicate への配慮が不足しがちであったことは否めない」と指摘し

    ている。また,小松(2003)は「外国語をマスターしようと思ったら“talkative”(口

    数の多い)になることが必要だ」「できるだけたくさん言葉を並べよ」としている。

    一方,平成 25 年度入学生から年次進行により実施される新学習指導要領では,「四つ

    の領域の言語活動の統合」とともに「発信力の向上」が謳われ,これまで以上に生徒が

    実際に発信する機会を持つことが強く求められている。

    これらを踏まえて本研究では,生徒になるべく多く英語による発話の機会を提供する

    ことを主眼にスピーキング活動を行い,その効果を検証する。その際スピーキング活動

    によってスピーキング力,コミュニケーション能力が向上することを生徒が実感できれ

    ば,さらにそのモチベーションを高めることができると考え,このテーマを設定した。

    2 研究仮説

    発話量に重点を置き,できるだけたくさんのスピーキング活動を行うことにより,

    スピーキングへの抵抗感が少なくなるとともに発信力を高め,コミュニケーション

    能力の向上につながるであろう。

    3 研究方法

    3.1 文献研究・事前調査

    3.2 授業実践

    (1) 試行実施(スピーキングに慣れるための活動・スピーキング力を伸ばすための活動)

    (2) 本実施(スピーキングに慣れるための活動・スピーキング力を伸ばすための活動)

    3.3 仮説検証

    (1) スピーキングテストによる効果の検証

    (2) アンケートによるスピーキングに対する意識の調査

    英-2-1

  • 4 研究内容

    本研究では,スピーキングの活動において内容の質よりも発話量に重点を置き活動を

    積むことが,失敗を恐れずに話そうとする態度や失敗に寛容な雰囲気を醸成し,もって

    「発信力の向上」につながることを確認する。そのうえで,より多くの発話を引き出す

    にはどのような方法が効果的であるのかを探るものとする。そのために試行実施,本実

    施ともに次のプロセスでスピーキング活動を行い,スピーキングテストやアンケート調

    査等により,その効果の検証を行う。

    なお,本研究におけるスピーキング活動のことを「Speaking Marathon」と呼ぶ。

    4.1 スピーキングに慣れるための活動

    授業開始から5~10 分間で,特定のテーマに沿って英語のみでできるだけ長く発話する。

    ペアワークで実施し,一人はスピーカー,もう一人はリスナーである。リスナーは計時も行

    う。Speaking Marathon を行うにあたって,考える時間はとらず,また原稿も作らない。

    じゃんけん等で,はじめにスピーキングをする生徒を決定し,すぐにスタートする。スピー

    カーが“That’s all.”などの表現でスピーキングを終えた場合,または 10 秒以上の沈黙が続

    いた場合はそこで終了とし,時間を記録する。

    1人目の発話が終わったら,スピーカーとリスナーを入れ替える。

    4.2 スピーキング力を伸ばすための活動

    スピーキングに慣れるための活動が回数を重ねてからは,リスナーからスピーカーに発

    話内容に関する質問を最低1つすることを課した。スピーカーは発言時には内容の取捨選択

    ができ,自分のペース・語彙で発話することができるが,リスナーからの質問に対応するた

    めには,それができない場合もあるため,より実際のコミュニケーションに近い場面を作る

    ことができるのではないか,と考えてのことである。一方リスナーは,スピーカーへの質問

    をするために,内容をよりきちんと理解する必要がある。それはアウトプットをするうえで

    不可欠な,より密度の高いインプットの機会となるものである。

    さらに本実施においては,実際のコミュニケーションの場面を設定して,双方向の対話を

    できるだけ長く行う活動(Small Talk)も取り入れた。

    4.3 スピーキングテスト

    兵庫教育大学 HOPE 開発プロジェクト(2007)が開発した,中高生の英語のスピー

    キング力を評価するインタビューテスト「High school Oral Proficiency Examination」

    (HOPE)を参考に,2つのセクションからなるスピーキングテストを実施した(詳細

    は8~9ページ)。各セクションの概要は次のとおりである。

    Section 1:絵を見て,それについて制限時間内にできるだけたくさん話す。その絵か

    らイメージされることを付け加えたり,ストーリーを組み立てたりすることも可とする。

    Section 2:与えられた場面・状況に応じたスピーキングを行う。場面設定のなかには,

    相手に理由を述べたり,約束したり,交渉したりといった内容が含まれている。

    スピーキングテストでの生徒の発話を,HOPE(2007)の基準一覧表を参考に,本研

    究でのデータ収集に必要な項目のみを取り上げ,Step 1 (1点)~Step 7(7点)で評

    価した(9ページ【表6】)。

    4.4 アンケート調査

    試行実施前に行ったアンケート調査で,生徒のニーズや意識の調査をした。また,本

    実施後にもアンケート調査を行い,生徒の意識や実践の効果を分析した。

    英-2-2

  • 5 研究計画【表1】

    6 研究実践

    6.1 文献研究

    スピーキングをはじめとするアウトプットについては,多くの文献や先行研究において

    スウェイン(1995)のアウトプット仮説(output hypothesis)が背景理論として位置づけ

    られている。それによると,アウトプットには ①「気づき(noticing)」,②「仮説の形成と

    検証(hypothesis formulation and testing)」,③「意識的な振り返りによる統語処理などの

    認知プロセスの促進(metalanguage)」の3つの機能がある。これを実際のスピーキングの

    場面に当てはめると,おおよそ次のような流れになると考えられる。まず英語を発話するに

    あたり,日本語と英語との構造上・音韻上の違いや,自分が言いたいことと実際に言える

    こととの違いに気づき(①),それでもとにかく英語を話してみる。それが相手に伝わった

    か否かで,自分が発話した英文が適切かどうかを確かめることができる(②)。もちろん

    英語で発話をするためには,英文の構造などを意識して統語処理を行わなければならないの

    で,それまでに学習したことを総動員して,この作業を行うことになる(③)。

    伊東(2008)はアウトプットの役割として「たとえ教室の中とはいえ,英語でのアウト

    プットは,日本人英語学習者が共有している英語コンプレックス,特に英語を話すことに対

    する劣等感を解消とまではいかなくても,かなりの程度軽減できると思われる」とし,その

    うえで「まずは英語でのアウトプットの機会を増やして,英語コンプレックス,英会話コン

    プレックスを少なくしていく必要がある」と結んでいる。それは失敗を恐れるあまり,言葉

    が出なくなってしまう日本人に,失敗を恐れずにたくさんのアウトプット(=スピーキング

    活動)をする必要性を説いたものと言えよう。

    英-2-3

    期 間

    平成 23 年6月 ~ 平成 25 年3月

    段 階

    第1段階 (平成 23 年 6 月~9 月)

    第2段階(試行実施) (平成 23 年 10 月~24 年 3 月)

    第3段階(本実施) (平成 24 年 4 月~10 月)

    ①アウトプットやスピーキ

    ングに関する先行研究,

    指導実践についての情報

    収集

    ②効果的な導入方法や評価

    方法の検討

    ①スピーキングに慣れるた

    めの活動の実践

    ②スピーキング力を伸ばす

    ための活動の実践,必要

    に応じた指導方法の修正

    ③効果の検証

    ①スピーキングに慣れるた

    めの活動の実践

    ②スピーキング力を伸ばす

    ための活動の実践,必要

    に応じた指導方法の修正

    ③効果の検証

    対象生徒

    国際科2年生3クラス

    (分割クラス 20 人×3=60 人)

    国際科3年生3クラス

    (39/40 人×3=118 人)

    科目 ・ 教 材

    『英語理解』(4単位)

    Voyager English CourseⅡ

    (第一学習社)

    『異文化理解』(3単位)

    WORLD ENGLISH 2

    (CENGAGE Learning)

  • スピーキングの指導では「正確さ」(accuracy)を評価基準に入れる研究も多い。また,

    英語でスピーチをするように言うと,多くの生徒が辞書を引きながら原稿を書こうとする。

    もちろん正確な英文を作ることができれば,誤った仮説を立てることはなくなり,相手に

    きちんと意図や考えを伝えることはできるだろう。しかし白畑ほか(2010)は「仮説検証の

    結果,仮説が誤っていたり,または不十分であったりすれば,そこで仮説の修正が行われる。

    修正が行われた場合,それは第二言語能力が伸びた瞬間と考えられ,アウトプットはこの

    ような伸びを促している」としている。失敗を恐れずに,原稿に頼ることなしに,たくさん

    アウトプットを行い,たくさん仮説修正の経験を積むことこそ,第二言語習得の伸長を図る

    うえで欠かせないことなのである。

    これらの観点から,Speaking Marathon では,発話量(時間)を重視し,また評価では

    インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦労するほどのエラーを除いては

    「正確さ」を評価の重要な要素とはしないこととした(9ページ【表6】)。

    6.2 事前調査

    研究テーマの策定にあたり,生徒のニーズをつかみ,生徒が持っている意識を確認するた

    めのアンケート調査を行った。その結果が次の【表2】である。この結果から,生徒が英語

    を話せるようになりたいと思いながらも,話すことを最も苦手としていることが確認できた。

    【表2】試行実施前のアンケート調査結果(回答数 59)

    ①「英語ができる」ようになりたい。

    強く思う 思う どちらでもない 思わない 全く思わない

    43(72.9%) 12(20.3%) 3( 5.1%) 1( 1.7%) 0( 0.0%)

    ②「英語ができる」とは?

    強く思う そう思う ある程度は 思わない 全く思わない

    聞くこと 28(47.5%) 26(44.1%) 4( 6.8%) 1( 1.7%) 0( 0.0%)

    話すこと 47(79.7%) 8(13.6%) 3( 5.1%) 0( 0.0%) 1( 1.7%)

    読むこと 13(22.0%) 27(45.8%) 18(30.5%) 1( 1.7%) 0( 0.0%)

    書くこと 22(37.3%) 24(40.7%) 12(20.3%) 0( 0.0%) 1( 1.7%)

    ③ 一番伸ばしたい技能

    強く思う そう思う ある程度は 思わない 全く思わない

    聞くこと 25(42.4%) 26(44.1%) 7(11.9%) 1( 1.7%) 0( 0.0%)

    話すこと 43(72.9%) 14(23.7%) 1( 1.7%) 1( 1.7%) 0( 0.0%)

    読むこと 11(18.6%) 33(55.9%) 12(20.3%) 3( 5.1%) 0( 0.0%)

    書くこと 12(20.3%) 26(44.1%) 17(28.8%) 4( 6.8%) 0( 0.0%)

    ④ 一番得意な技能

    強く思う そう思う ある程度は 思わない 全く思わない

    聞くこと 15(25.4%) 19(32.2%) 18(30.5%) 6(10.2%) 1( 1.7%)

    話すこと 3( 5.1%) 8(13.6%) 21(35.6%) 24(40.7%) 3( 5.1%)

    読むこと 3( 5.1%) 21(35.6%) 23(39.0%) 11(18.6%) 1( 1.7%)

    書くこと 6(10.2%) 15(25.4%) 19(32.2%) 17(28.8%) 2( 3.4%)

    英-2-4

  • ⑤ 一番苦手な技能

    強く思う そう思う ある程度は 思わない 全く思わない

    聞くこと 9(15.3%) 9(15.3%) 20(33.9%) 16(27.1%) 5( 8.5%)

    話すこと 20(33.9%) 25(42.4%) 9(15.3%) 4( 6.8%) 1( 1.7%)

    読むこと 2( 3.4%) 24(40.7%) 24(40.7%) 8(13.6%) 1( 1.7%)

    書くこと 11(18.6%) 22(37.3%) 17(28.8%) 7(11.9%) 2( 3.4%)

    6.3 試行実施

    試行実施は,平成 23 年度後期に国際科2年生3クラス(1クラスを2分割した 20 人×

    3クラス=60 人)について実施した。Speaking Marathon の効果的な導入方法の模索,

    発話時間の変化の追跡,スピーキングテストによる効果の検証が主な目的である。

    6.3.1 スピーキングに慣れるための活動(1)

    スピーキングのトピックと平均発話時間は,次の【表3】のとおりである。授業(教科

    書)と関連のある内容をトピックに選ぶことを基本としつつ,行事や身の回りの出来事な

    ども取り入れた。Speaking Marathon の回を重ねるに従って発話時間が長くなることを

    期待したが,実際には内容にもっとも左右されたようで,修学旅行のことなど,生徒にと

    って話しやすい内容のものは長く話す傾向がみられた。

    【表3】試行実施・Speaking Marathon トピックと平均発話時間(その1)

    回 トピック 平均発話時間(秒)

    1 What I Learned in Lesson 4 (“The Power of Smell”) 129.57

    2 My Future Dream 118.71

    3 About the School Trip (Before) 141.18

    4 About My Hair 140.78

    5 My Childhood Memories 162.75

    6 About the School Trip (After) 213.31

    Speaking Marathon は,基本的には原稿を用意せずに自由に発話する形式だが,活動の

    はじめの時期には簡単なワークシートを使用した。これは,Speaking Marathon の進め方

    を周知するとともに,キーワード等を提示することによって発話を促すヒントにしたり,

    学習事項の定着を図ったりすることを目指したものである。また,このワークシートに

    よって発話の内容や難易度をある程度コントロールすることも可能である。ワークシートを

    使う際,リスナーは,スピーカーが使ったキーワードに○印をつけてチェックをする。

    これはリスナーの集中力をスピーカーに向けるためのものである。

    次のページのワークシートは,スピーキングに慣れるための活動(1)の第1回目に使

    用したものである。教科書 Lesson 4“The Power of Smell”で,全体の内容理解をした後に

    「まとめ」として行ったものである。最初ということもあり,Lesson 4 で扱った新出単語や

    表現のうち,発話につながりやすい,比較的平易なものを盛り込んでいる。

    英-2-5

  • Speaking Marathon

    Let’s talk as much as we can!

    【Procedure】

    ① Get in pairs.

    ② 1st turn

    Student A (Speaker) :

    (1) Talk about what you have learned in Lesson 4.

    (2) Use key words & expressions listed below.

    Key words & expressions for Student A:

    smell(s) / scientists / fake / experiment / lead ~ by the nose

    Student B (Listener) :

    (1) Listen to your partner and time with a timer.

    (2) Circle the key words & expressions (listed above) that you heard.

    ③ 2nd turn

    Student B (Speaker) :

    (1) Talk about what you have learned in Lesson 4.

    (2) Use key words & expressions listed below.

    Key words & expressions for Student B:

    scent(s) / store owners / brainwashing / proof / a whole lot of ~

    Student A (Listener) :

    (1) Listen to your partner and time with a timer.

    (2) Circle the key words & expressions (listed above) that you heard.

    ④ Recording : Fill in your Progress Chart.

    【Important Rule】 Your turn will end with a silence of 10 seconds !

    Speaking Marathon を行うにあたって,発話時間と累積発話時間を内容やコメントなど

    とともに記録する,次のページのような進度一覧表(Progress Chart)を作成した。この

    Progress Chart によって,自分のスピーキングの課題を確認し,次回のスピーキング活動へ

    のフィードバックになることを期待した。なお,試行実施時は何分何秒で記入する様式だっ

    たが,本実施時は集計をしやすくするために,何分何秒を秒の単位に直したうえで記入する

    様式に改めた。

    英-2-6

  • 6.3.2 スピーキングに慣れるための活動(2)

    このスピーキング活動は,実用英語技能検定(英検)の2次試験を控えた頃に実施した。

    絵や写真について,できるだけたくさんのことを英語で話す活動である。はじめに,英検

    2級2次試験の第2問の絵を使った。英検では,ある程度の発話量の目安があるが,この

    活動では絵に描かれているあらゆる情報を使ってできるだけ長く発言することを求めた。

    続いて教科書の写真について話す活動も行った。写真の描写だけでなく,想像力を働かせ

    てストーリーを組み立てることも可とした。

    【表4】試行実施・Speaking Marathon トピックと平均発話時間(その2)

    回 トピック 平均発話時間(秒)

    7 2nd Grade Eiken Test (1) 128.38

    8 2nd Grade Eiken Test (2) 114.26

    9 Explaining the Photograph on Page 55 125.14

    6.3.3 スピーキング力を伸ばすための活動

    リスナーが最低1つの質問をするタスクを加えた活動である。質疑応答の時間は,発話

    時間には含めていない。8ページ【表5】にある第 12 回は,スピーキングに慣れるため

    の活動(2)で行った,写真についてできるだけたくさん話す活動である。絵や写真の説

    明をするほうが,長く話しやすいのではないかとも考えたが,【表4】【表5】の結果を見

    る限り,あまり関係がなかったようである。

    英-2-7

  • 【表5】試行実施・Speaking Marathon トピックと平均発話時間(その3)

    回 トピック 平均発話時間(秒)

    10 About Cellphones 165.08

    11 Self Introduction with the New Partner 138.50

    12 About the Photograph on Page 85 104.90

    13 How I Studied English 140.16

    14 New Year ’s Resolutions 108.83

    15 My Wilderness Experience 140.41

    16 What I Learned in Lesson 8 (“Languages in Danger”) 120.55

    17 The Greatest Invention 113.50

    6.3.4 スピーキングテスト

    試行実施の成果を検証するために,平成 24 年1月に HOPE(2007)を参考にした,2つ

    のセクションからなるスピーキングテストを実施した。各セクションの内容は,次のとおり

    である。また,評価基準は次ページの【表6】のとおりである。

    【スクリプト】

    The speaking test consists of two sections. For the first section, you have 10 seconds

    to prepare and one minute to speak. For the second section, you have 20 seconds to

    prepare and one minute to speak.

    Section 1 : Please look at this picture.

    Please describe as much as you can about

    this picture within one minute.

    Thinking time is 10 seconds from now.

    (After 10 seconds) Now, please begin.

    Section 2 : This is your card. Suppose you are in this situation.

    In 20 seconds, I will ask you to speak.

    (After 20 seconds) Now, please begin.

    英-2-8

    あなたは生徒です。試験官は先生です。あなたは宿題をやってきませんでした。

    できなかった理由を先生に説明し,いつまでに提出するかを約束してください。

  • 【表6】Speaking Test 評価基準(HOPE(2007)基準一覧表・抜粋一部改)

    Step 発話の複雑さ 発話の理解度/流暢さ

    7

    ・複文を含めたさまざまな文の種

    類を用いて発話し,発話量にか

    なりのまとまりがある。

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーは単語レベルも含めてほぼなくなる。

    ・まとまりのある話を展開するときに,多少考えたり,言

    いよどんだりすることもあるが,ほぼ自然なスピード・

    リズムで話を続けることができる。

    6

    ・接続詞などを用いて,ある程度

    まとまりのある発話ができる。

    ・When や If などの接続詞や関係

    詞などを用いた複文で話すケ

    ースが見られる。

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーはなくなり,単語レベルでのエラーも文意

    を損ねるほどの大きなものはなくなる。

    ・言いよどむ場面が少なくなり,おおむね自然なリズムで

    発話ができるようになる。

    5

    ・単文での発話が中心ではある

    が,and や but などの接続詞を

    使って文をつないで話す。

    ・When などの従属接続詞を使っ

    た文が発話されることもある。

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーはなくなるが,まだ単語レベルでのエラ

    ー,時制の誤りがみられる。

    ・流暢さが増し,多少遅いが安定したリズムで会話ができ

    るようになる。

    4

    ・単文で話すことができるが,単

    語や句による発話もある。

    ・聞かれたこと以上の情報を加え

    て 話 そ う と す る 。( Step4 ~

    Step7 共通)

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーはほとんどなく,あっても言い換える等し

    て解消できる。

    ・言いよどみや発話の繰り返しもあるが,自然なリズムの

    会話もある。

    3

    ・単語や句による発話もあるが,

    単文による発話もできる。

    ・聞かれた以上の事を加えて発話

    することはできない。(Step1~

    Step3 共通)

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーはあっても1カ所。

    ・長い沈黙は少なくなるが,言いよどんだり,発話を途中

    で止めたりすることもあり,会話のリズムをとることが

    難しい。

    2

    ・単語や句による発話が多いが,

    限られた種類の単文による発

    話も見られる。

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するエラーが複数回見られる。

    ・長いポーズがしばしば見られ,発話はゆっくりで途切れ

    途切れであることが多い。

    1 ・物,人,事を列挙したり,挨拶

    などの定型句でのみ応答した

    りすることができる。

    ・インタビューアーが発話の意味・意図を理解するのに苦

    労するほどエラーが多い。

    ・非常に長い沈黙や言いよどみが多い。

    6.4 本実施

    本実施は,平成 24 年度前期に,国際科3年生3クラス(118 人)に対して実施した。

    どのようにしたら平均発話時間を延ばせるか,トピックやスピーキングの方法に変化を

    持たせながら,スピーキング力のさらなる向上につながる指導法を模索するとともに,

    生徒の意識を確認することが主な目的である。

    【表7】本実施・Speaking Marathon トピックと平均発話時間

    回 トピック 平均発話時間(秒)

    1 The Country I Want to Visit 138.1 Small Talk の前

    4回の平均

    147.9

    2 My G.W. 155.0

    3 About the Examination 175.1

    4 Rain 123.4

    5 Small Talk (1) 394.6 (Small Talk)

    6 Small Talk (2) 534.2

    7 About the School Festival 209.6 Small Talk の後

    3回の平均

    194.4

    8 My Hometown 181.9

    9 My Promise for the Vacation 191.6

    英-2-9

  • 本実施での新たな試みとして,対話を導入した。9ページ【表7】“Small Talk”が

    それである。これは教科書の4つの場面設定(① Waiting in line in the office cafeteria,

    ② Walking in the park,③ At a welcome party for new students,④ At the airport)

    の中から1つを選び,初対面という設定で対話(Small Talk)をできるだけ長時間続

    けるという活動である。1回目は通常の座席で隣の生徒とペアを作って,2回目はペア

    を変え1回目とは別の場面設定を選ぶようにして実施している。2人分の対話が発話時

    間として記録されるので,それまでと比べて平均発話時間が長くなるのは当然であるが,

    1人分の2倍以上の大幅な伸びを記録している点が注目される。実際,それまでにない

    ほど話が弾んだため,この日は対話の継続を優先し,「授業開始から5~10 分」という

    目安を撤廃した。この日の Progress Chart には「楽しかった」「たくさん話せて良か

    った」などの肯定的な書き込みが多数見られた。また Small Talk の後には,Small Talk

    の前と比べて平均発話時間に顕著な伸び(147.9 秒→194.4 秒)が見られる。

    7 研究評価

    7.1 試行実施から得られた結果と考察

    試行実施では,教科書の内容に関連したトピックだけでなく,教科書とは離れた身近

    なトピックを選んだり,キーワードを示したり,絵や写真の説明を取り入れるなどの試

    行錯誤を繰り返した。トピックによる平均発話時間の差異に注目しながら,全体として

    Speaking Marathon の回を重ねるごとに平均発話時間が長くなることを確認しようと

    したが,今回の研究では回数に比例した伸びを示すデータは得られなかった。発話時間

    にもっとも影響を与えるのは,トピックの内容や相手が誰か,であると考えられる。

    一方,試行実施の評価として実施したスピーキングテストでは,Speaking Marathon

    の平均発話時間とスピーキング力とを関連づけるデータが得られた。スピーキングテス

    トの平均点は Section 1 が 4.7 点(7点満点),Section 2 が 4.9 点(7点満点),合計

    の平均点は 9.6 点(14 点満点)であった。合計最高点は 13 点,最低点は5点であった。

    この結果を普段の Speaking Marathon の平均発話時間と関連させてまとめたのが

    下の【表8】である。これによると,スピーキングテストで高得点をとった生徒は,普

    段の Speaking Marathon での発話時間が長いという傾向がうかがえる。これをさらに

    成績上位層(合計点 10~13 点)と,下位層(合計点 4~9 点)とに分けて,Speaking

    Marathon での発話時間の長さと比較すると,上位層の生徒は1回あたりの平均発話時

    間が 146.8 秒,下位層は同 123.4 秒であった。このことから英語をたくさん話すこと

    により表現力や発信力のみならず,問題対処能力までも含めたスピーキングの力,すな

    わち英語によるコミュニケーション能力の向上に一定の効果があると言えよう。

    【表8】スピーキングテスト結果と Speaking Marathon 平均発話時間との相関(n=58)

    スピーキングテスト 得点(14 点満点)

    人 数 平均発話時間(秒) 上位層/下位層

    人 数 上位層/下位層 平均発話時間(秒)

    4 1 76.4

    27 123.4

    5 0 -

    6 1 60.7

    7 6 114.9

    8 7 124.8

    9 12 136.1

    10 15 149.1

    31 146.8 11 7 139.4

    12 8 152.7

    13 1 124.2

    英-2-10

  • 7.2 本実施から得られた結果と考察

    本実施では,試行実施で得られた知見をもとに,いかに発話を長続きさせるかに重点

    を置いた。その結果わかったことは次の2つである。①場面を設定した対話(Small

    Talk)は平均発話時間に大幅な伸びが見られた。②Small Talk の後には Speaking

    Marathon の平均発話時間に大幅な伸びが見られた。これらの原因解明も視野に,本実

    施後の平成 24 年 10 月に生徒の意識を調査した。その結果が次の【表9】である。

    【表9】本実施後の生徒の意識調査(回答数 106)

    ・Small Talk で長く話せたのはなぜだと思いますか?(複数回答可)

    選 択 肢 回答数

    相手が良かったから 30

    一方通行のスピーチの形式ではなく,対話の形式だったから。 85

    話す内容を自由に選べたから。 33

    頑張ってみようと思ったから。 16

    【その他(自由記述)】一方的に話すより楽しいから,話を色々な話題につなげられたから

    ・Small Talk の後に長く話せるようになったのはなぜだと思いますか?(複数回答可)

    選 択 肢 回答数

    英語を話す楽しさを感じたから。 47

    英語を話すことに自信がついたから。 18

    英語を話すことに抵抗を感じなくなった(ミスを恐れなくなった)から。 57

    自分の英会話の力が上達したと思った(効果を実感した)から。 1

    【その他(自由記述)】コツがわかったから(2),慣れたから,楽しいと思ったから

    話しやすいテーマだったから

    英-2-11

    9.4

    49.1

    11.3

    13.2

    4.7

    38.7

    34.0

    34.0

    48.1

    42.5

    50.0

    41.5

    50.0

    50.0

    47.2

    2.8

    39.6

    33.0

    47.2

    10.4

    10.4

    9.4

    0.0

    6.6

    3.8

    6.6

    0.9

    5.7

    0% 20% 40% 60% 80% 100%

    Progress Chart は振り

    返りに役立つ

    S.M.では原稿は無い方

    がよい

    S.M.で失敗を恐れなく

    なった

    S.M.で英語を話す抵抗

    感が少なくなった

    S.M.で英語を話すこと

    に自信がついた

    S.M.はスピーキング力の向

    上につながる

    スピーキングマラソン(S.M.)

    は楽しい

    強くそう思う ややそう思う あまりそう思わない 全くそう思わない

  • Speaking Marathon について,84%の生徒が「楽しい」と好意的に受け止めている。

    また約 89%の生徒が「Speaking Marathon がスピーキング力の向上につながる」と答

    えており,これが「英語でできるだけ長く話す」モチベーションになっていると考えら

    れる。「英語で話す」と聞くとすぐに原稿を書こうとしていた生徒だが,今ではほぼ全

    員が「間違いはあっても原稿無しで話したほうがよい」と答えるまでになった。一方,

    「英語を話すことへの抵抗感が少なくなった」とした生徒が 63%を超えたのに対し,

    「英語を話すことに自信がついた」とした生徒は約 45%にとどまった。実施回数の少

    なさも一因であろう。一定の効果は認められるものの,自信を持つに至るまでには今後

    もまだまだ長い道のりが必要であると考えられる。また Progress Chart については,

    もっときちんとその意義を伝えるべきであった。

    Small Talk で長く話せた理由は「一方通行のスピーチの形式ではなく,対話の形式

    だったから」という意見が圧倒的であった。特定のテーマについてのみ話すのではなく

    さまざまな話題について自由に話せる点が好評だった。コミュニケーションは言葉の

    やりとりであることを考えればもっともなことで,以後「1人のスピーチ×2」だけで

    なく,「双方向のやりとりをできるだけ長く続ける」活動も多く取り入れた。

    アンケートの最後に自由記述で Speaking Marathon による意識の変化を聞いたとこ

    ろ,63 人から「プラスの変化」の回答が返ってきた。それらをまとめると「文法が正

    確でなくても,辞書を使わなくても,自分が知っている簡潔な英語でも伝えられること

    を知った」それにより「英語を話すのが楽しくなった」という意見に集約される。なか

    には「Speaking Marathon をもっと増やすべき」との意見もあった。

    7.3 結論

    本研究により仮説「発話量に重点を置き,できるだけたくさんのスピーキング活動を

    行うことにより,スピーキングへの抵抗感が少なくなるとともに発信力を高め,コミュ

    ニケーション能力の向上につながるであろう」は支持されたと考える。

    しかし,あるペアが5分~10 分と発話が続く一方で,あるペアは3分ほどで発話が

    終了してしまうこともあるなどの問題点も指摘されよう。これについては,最短○分,

    最長○分のような制約を設けつつ,より長く話しやすい話題を探るなどの解決策が考え

    られる。試行錯誤の連続となった本研究であるが,今後も修正を重ねながら,より効果

    的なスピーキング指導のあり方について研究し,授業実践を続けていきたい。

    8 引用文献

    伊東治己(編著) 『アウトプット重視の英語授業』 (2008) 教育出版.

    今井裕之・吉田達弘 編著/兵庫教育大学 HOPE 開発プロジェクト著 『HOPE 中高

    生のための英語スピーキングテスト』 (2007) 教育出版.

    小松達也 『通訳の英語 日本語』 (2003) 文藝春秋.

    白畑知彦・若林茂則・村野井仁 共著 『詳説 第二言語習得研究』 (2010) 研究社.

    Swain, M. Three functions of output in second language learning.

    In G. Cook & B. Seidlhofer (Eds.) Principle & Practice in Applied Linguistics

    (pp.125-144) (1995) Oxford University Press.

    文部科学省 『高等学校学習指導要領』 (2009)

    文部科学省 『高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編』 (2010) 開隆堂.

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