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膏薬療法の実験的研究 膏薬基剤の皮膚機能に及ぼす影響に就て 夫* Experimental studies on Ointment Treatment : On the Influences of Ointment Bases upon Skin Functions TetsuoTsuii* 本邦に於て,戦後皮膚科治療に於ける大きな変革とし て,皮膚科独特の膏薬療法に従来の油脂性基剤に加えて 新たに乳剤性及び水溶性基剤が使用されるようになっ た.これはこの種新基剤の可洗性,浸透性等の価値に注 目してのことであるが,この新種類基剤の登場を契機と して斯等新型式基剤をも含めて膏薬療法の理論が改めて 盛に研究されるようになった. 膏薬基剤の使用目的は本来,各種薬剤をこれに溶解さ せ,又はこれと混和して皮膚に接着作用させ,その吸 収,惨透に依ってその治療作用を発揮させるにあるが, 又基剤そのものが病変皮膚を保護し,その健常復帰を促 進させることもその使用目的の1つとなっている.これ 等作用をも含めてLane & Black"は膏薬基剤の主なる 作用として,L 薬剤を皮膚に送る作用,2.これを 皮膚に漆透させる作用,8.皮膚表面からの水分蒸発 に及ぼす影響,4.皮膚粘滑作用,6.皮膚保護作用, 6. 皮膚分泌物の除去作用,を挙げている.これ等作用 は薬剤が単独に,又は互に合作して皮膚疾患の皮膚病変 に対して治療的効果を及ぼすと見て差支なく,又そうで なけれぱならないが,その半面,膏薬を皮膚に塗擦,塗 布,貼付する場合,膏薬が半固形体として持つ物理学的 性質,又基剤成分及び添加物質の化学的性質が皮膚の各 種の機能,即ちその不可視呼吸,その分泌を始めとして 多くの機能に影響を与えることを当然考慮しなくてはな らない. 既に古く,Unna2)は膏薬基剤の条件として安定性, これに加える化学薬品への無影響性,高い吸水性,伸展 性,そして不変性を, Golodetz''亦略々同じ項目を,そ して近くはEhrenstein"も皮膚親和性,安定性,不変 性,粘滑性,無刺戟性,含有薬物への無影響性,吸水性, そして薬物運搬能力を挙げているが,膏薬の種類を問 わず,その一定の量を相当長時間に亘って皮膚表面へ接 着させるのが膏薬療法の通則とすれば,その物質が皮膚 機能に及ぼす影響は大いに考えなくてはならない.基剤 の成分及び添加剤の刺戟に因る急性薬物性皮膚炎を別と しても,長期に亘る膏薬療法か皮膚に治療効果以外,む しろ逆効果を及ぼし,引続いての膏薬療法の効果を減弱 する,かく考えざるを得ないような事例に我々は屡々遭 遇する.泥膏類の長期使用か呈する,皮膚の浸軟,肥厚 した,所謂Salbenhautの状態の如き夫れであるが,薬 物皮膚吸収の研究には本邦にあっても古く宮崎5),近く 小堀6)等の夫れの如く,多くの優れた業績が公表されて いるのに反し,又膏薬の目的として薬剤の皮膚惨透に重 きを置き, Goodmanの所謂diadermic Ointment の性 能を新らしい乳剤性基剤に求めるに急なるに反し,膏薬 療法又は基剤そのものが皮膚機能に及ぼす影響に関して は,臨床的,実地的に各種の膏薬,特にその添加剤の刺 戟作用が問題となっている以タトには,膏薬,特にその基 剤が皮膚機能の如何なるものに如何に影響して,それが 膏薬療法の本来の目的である皮膚疾患,皮膚病変の治癒 に如何に有効に,或は逆に如何に有害に働らくかは,多 く不明のま岫こ残されている.茲に著者はこの点を少し でも明かにするため,代表的な油脂性,乳剤性及び水溶 性基剤を取り上げ,その一定期間の皮膚貼用が皮膚機能 に及ぼす影響を実験的に検索した次第である. *東京医科大学皮膚科学教室(主任 北村包彦教授) From the Department of Dermatology (Director: Prof. Dr. K. Kitamura), Toky Medical College, Tokyo. -980-

膏薬療法の実験的研究 · 2011-04-28 · ソル・ペース Solbase. (大日本製薬)(以下S.と略 記) 処方:ポリエチレングリコール(P.E.G.) 400 50.0,

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膏薬療法の実験的研究

膏薬基剤の皮膚機能に及ぼす影響に就て

    辻   哲  夫*

   Experimental studies on Ointment Treatment :

On the Influences of Ointment Bases upon Skin Functions

          ` TetsuoTsuii*

 本邦に於て,戦後皮膚科治療に於ける大きな変革とし

て,皮膚科独特の膏薬療法に従来の油脂性基剤に加えて

新たに乳剤性及び水溶性基剤が使用されるようになっ

た.これはこの種新基剤の可洗性,浸透性等の価値に注

目してのことであるが,この新種類基剤の登場を契機と

して斯等新型式基剤をも含めて膏薬療法の理論が改めて

盛に研究されるようになった.

 膏薬基剤の使用目的は本来,各種薬剤をこれに溶解さ

せ,又はこれと混和して皮膚に接着作用させ,その吸

収,惨透に依ってその治療作用を発揮させるにあるが,

又基剤そのものが病変皮膚を保護し,その健常復帰を促

進させることもその使用目的の1つとなっている.これ

等作用をも含めてLane & Black"は膏薬基剤の主なる

作用として,L 薬剤を皮膚に送る作用,2.これを

皮膚に漆透させる作用,8.皮膚表面からの水分蒸発

に及ぼす影響,4.皮膚粘滑作用,6.皮膚保護作用,

6. 皮膚分泌物の除去作用,を挙げている.これ等作用

は薬剤が単独に,又は互に合作して皮膚疾患の皮膚病変

に対して治療的効果を及ぼすと見て差支なく,又そうで

なけれぱならないが,その半面,膏薬を皮膚に塗擦,塗

布,貼付する場合,膏薬が半固形体として持つ物理学的

性質,又基剤成分及び添加物質の化学的性質が皮膚の各

種の機能,即ちその不可視呼吸,その分泌を始めとして

多くの機能に影響を与えることを当然考慮しなくてはな

らない.

 既に古く,Unna2)は膏薬基剤の条件として安定性,

これに加える化学薬品への無影響性,高い吸水性,伸展

性,そして不変性を, Golodetz''亦略々同じ項目を,そ

して近くはEhrenstein"も皮膚親和性,安定性,不変

性,粘滑性,無刺戟性,含有薬物への無影響性,吸水性,

そして薬物運搬能力を挙げているが,膏薬の種類を問

わず,その一定の量を相当長時間に亘って皮膚表面へ接

着させるのが膏薬療法の通則とすれば,その物質が皮膚

機能に及ぼす影響は大いに考えなくてはならない.基剤

の成分及び添加剤の刺戟に因る急性薬物性皮膚炎を別と

しても,長期に亘る膏薬療法か皮膚に治療効果以外,む

しろ逆効果を及ぼし,引続いての膏薬療法の効果を減弱

する,かく考えざるを得ないような事例に我々は屡々遭

遇する.泥膏類の長期使用か呈する,皮膚の浸軟,肥厚

した,所謂Salbenhautの状態の如き夫れであるが,薬

物皮膚吸収の研究には本邦にあっても古く宮崎5),近く

小堀6)等の夫れの如く,多くの優れた業績が公表されて

いるのに反し,又膏薬の目的として薬剤の皮膚惨透に重

きを置き, Goodmanの所謂diadermic Ointment の性

能を新らしい乳剤性基剤に求めるに急なるに反し,膏薬

療法又は基剤そのものが皮膚機能に及ぼす影響に関して

は,臨床的,実地的に各種の膏薬,特にその添加剤の刺

戟作用が問題となっている以タトには,膏薬,特にその基

剤が皮膚機能の如何なるものに如何に影響して,それが

膏薬療法の本来の目的である皮膚疾患,皮膚病変の治癒

に如何に有効に,或は逆に如何に有害に働らくかは,多

く不明のま岫こ残されている.茲に著者はこの点を少し

でも明かにするため,代表的な油脂性,乳剤性及び水溶

性基剤を取り上げ,その一定期間の皮膚貼用が皮膚機能

に及ぼす影響を実験的に検索した次第である.

*東京医科大学皮膚科学教室(主任 北村包彦教授)

 From the Department of Dermatology (Director: Prof. Dr. K. Kitamura), Toky Medical College,

 Tokyo.

                           -980-

昭和36年9月20日

 代表的な膏薬基剤として油脂性のウィルソン泥膏及び

硝酸亜鉛華軟膏,乳剤性の親水軟膏及び吸水軟膏,水溶

性のソルペースの5種を選び,その一定期間貼用が,皮

膚機能試験としてその部皮膚に実施した,所謂機能的皮

膚反応のQ.R.ZべQuaddelresorptionszeit,膨疹吸収時

間),血管収縮反応,同拡張反応,淋巴溶出反応,メチレ

ン青皮内反応,トリパン青拡散試験に及ぼす影響を観察

した.

 この6種基剤の処方,性質,用法,作用及び適応は皮

膚科の常織で,改めて述べるを要しない.それで夫々

一,二の点だけ簡単に記すと,

 ウイルソソ泥膏Wilsonsche Pasta.(以下W.と略記).

 処方:亜鉛華5.0,安息香酸1.0,豚油30.0.処方中

の安息香酸は防腐を目的とする.主に新旧各種の皮膚浸

潤の吸収を目的として,乾燥性の紅斑,丘疹,落屑に使

月する.

 棚酸亜鉛華軟膏Borzinksalbe. (土肥)(以下B.Z.S.

,と略記).

 処方:亜鉛華10.0,棚酸末10.0,単軟膏100.0.作用

は皮膚の保護と消炎,特に分泌物及びその凝固した節皮

・の軟化,吸収にあり,廉爛,結痴,潰瘍面に使用する.

 親水軟膏Hydrophic Ointment. (以下H.O.と略

記).

 処方:白色ワセリン250.0, Xテアリールアル3-ル

250.0,ダリtリン120.0,ラウりレ硫酸ナトリウム10.0,

゛ラオキシ安息香酸ノチル0.25,パラオキシ安息香酸ゴ

づール0.25,水370.0.親水軟膏は水中油型O/Wの乳

剤性膏薬で,乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウムを含

む.成分中多量の水は連続相として作用する.乳化剤と

してラウリル硫酸ナトリウムが含まれる他,ステアリー

ルアルコールは硬度を維持するため加えられ,又その蝋

様の性質から皮膚面に1種の滑沢性を与える.紅斑,丘

疹,落屑面に使用する.

 吸水軟膏Absorption Ointment. (以下A.O.と略

記)

 処方:白色ワセリン400.0,ステアリールアルつール

180.0,白蝋20.0,エフzレゲン408, 50.0,水350.0.吸

水軟膏は油中水型W/Oだが,精確にはW/Oと0/W

とを混じた二重乳化型とされる.処方中のエー・ルゲソ

 408は乳化剤である.紅斑,丘疹,落屑面に使用する.

 ソル・ペース Solbase. (大日本製薬)(以下S.と略

記)

 処方:ポリエチレングリコール(P.E.G.) 400 50.0,

981

カーボワックス4000 50.0.水溶性軟膏り本剤は吸湿性

強く,湿潤,廳爛,潰瘍面に使用される.

 皮膚機能の検索を目的として実施したQ.R.Z.以下の

皮膚反応に就て記すると,

 Q.R.Z.即ち生理食塩水を皮内に注射して生ずる膨疹

の消失する迄の時間を測定して,水分及び食塩代謝の状

況を窺わんとする試みは, McClure a. Aldrich"に創ま

るが,これと全く無関係にGuggenheimer及びHirsch"

も亦膨疹吸収時間の測定が浮腫及び浮腫傾向の発見に役

立つことを見ている,皮膚科の領域では, Leszczynski,

Blatt"の痙唐,Perutz,Guttmannlo)のDuhring庖

疹状皮膚炎及び乾癖, Klimmeck'", Ribadeau'^の湿

疹に於ける何れもQ.R.Z.短縮の所見を報告するあり,

本邦では荒川1町ま痙癒,脱毛症にQ.R.Z.は延長するが,

急性湿疹,尊麻疹,皮膚炎,エリテマトーデス,多形惨

出性紅斑では短縮すると,中村14)は未加療の癩腫癩患者

では延長するとしている.湿疹に就てぱ多数の発表あ

り,笹川15)は乳児,幼小児の湿疹患者にQ.R.Z.の短縮

を,二伸16)は湿疹患者の玉乃至半数に湿疹好発部位の

或るものに絶対的,且つ相対的に,皮膚健常者に比し

てより高度の短縮を,大久保17)亦急性湿疹,多形惨出性

紅斑,皮膚炎にその短縮を認めている.なお,最近教室

の廻伸18),木村1,),馬場2町まアトピー性皮膚炎,小児及

び成人湿疹に於ける同様Q.R.Z.の短縮を記している.

二神はQ.R.Z.を左右するものとして,特に局所的な意味

では皮膚構造の解剖組織学的粗憲度と食塩及び水分含有

量,更に血管,細網内皮系,自律神経等の状態か相寄っ

て構成するところの皮膚の局所生理学的な性質,一言に

して云えば局所性のHydrophilie,或は浮腫傾向とも云う

べきものが問題となるとしている.

 血管収縮反応,血管拡張反応及び淋巴惨出反応

 これ等はGrOer-Hecht^"の創案に係り,一次性機能

的皮膚反応,又狭義の薬理学的皮膚反応と看倣されてい

る.笹川15)は小児湿疹に血管収縮反応は一般に微弱,血

管拡張反応及び淋巴溶出反応に増強すると云い,亦蕭22)

は血管収縮反応,淋巴溶出反応の減弱するのを認めてい

る.教室の廻伸,馬場,木村は湿疹及びアトピー性皮膚

炎に於ける血管収縮反応の減弱傾向,湿疹に於ける淋巴

惨出反応の増強傾向を指摘している.

 メチレン青皮内反応

 本法はPetersen u.Appelman23)に創まり,皮内注

射されたメチレン青が還元されて無色となる.従ってそ

の生ずる青色斑が終に消失する,それに要する時間の長

982

短から皮膚の還元能力を窺うものであるか,永石門ま尋

常性白斑及び色素性母斑に於ける成績として.青色斑消

失所要時間は白斑部では健康部に比して例外なく延長

し,母斑部でジよ逆にその短縮するのを認め,表皮細胞の

還元能が本反応を左右するとし,亀#25)は乾廊に於て同

じくメチレン青斑消失に要する時間の短縮を認めてい

る.かな幹26Jは家兎に微量の亜砥酸ソーダを注射すると

メチレン青斑消失時間は短縮すると云い,これを皮膚機

能の充進に帰した.

 トリパン青拡散試験

 トリパン青液皮内注射に依って生ずる青色斑の拡大度

から皮膚組織透過性を窺うもので,本法に依って高瀬,')

は慢性エリテマトーデス,膿皮症,皮膚炎,急性湿疹に

於ける皮膚組織透過性の増強を認めている,教室の廻

肺,馬場及び木村はアトピー性皮膚炎及び湿疹に於ける

皮膚組織透過性の増強を挙げている.

            実験方法

 先づ予備実験として,健常成人男女の左右前臆屈側中

央の健常皮膚に,左右同時に各種皮膚反応を実施,左右

の反応,を比較して,のちに本実験に於て左側に膏薬基剤

を一定期間貼用,これを除去後左右同時に皮膚反応を実゛

施,左右の反応を比較して,基剤貼用が皮膚反応に影響

するところを観察するのに参考とした.

 本実験には,健常成人男女の左右前譚屈側中央部の健

常皮膚を使用,左側に膏薬基剤々1種約10gを8×14C1

のリントに伸ばしたものを貼布,が一一ゼを以て掩い,絆

創膏で固定すること原則として,5日,時に8~6日間,

但し同一人に就て左右は常に同数,次でこれを除去,ペン

ヂンを以て十分に清拭後,その部及び右前博屈側中央の

健常皮膚に左右同時に皮膚反応を実施し,左右反応を比

較した.膏薬基剤の皮膚反応に及ぼす影響を求めるのに

膏薬基剤を一定期間貼布の前後その貼布部位に反応を実

施し,これを前後比較することをなさず,上述の如く左

前腫に基剤貼布後,左右同時に皮膚反応を実施,左右反

応を比較したのは個体乃至皮膚の置かれる同一条件下に

於て,基剤貼布後のその部位の反応と対称無処置部位の

反応とを比較するのをより適当と考えたからである.

 予備実験,本実験に何れにおっても6種皮膚反応は原

則としてこれを同時に,左右前謔屈側中央の健常皮膚に

縦に2列に,各反応間に2.3CI11の距離を置き,且つ同一反

応を左右対称地点に実施した.実験に供したのは健常成

人男女で,予備実験には21~54歳の男女各7~10名,本

実験では基剤1種毎に18~86歳の男女各3~5名を供用

日本皮膚科学会雑誌 第71巻 第9号

した.但しすべて同一人を予備実験と本実験とに,又本

実験に於て二種以上の基剤の実験に兼用せぬ様にした・

 各皮膚反応の実施方法は次の如くである.・

 Q.R.Z.:生理食塩水0. Iceをツペルタリソ注射筒及

び針を以て前勝屈側中央部の皮膚に精確に皮内注射し,

その地点に生じた膨疹の全く吸収するに要する時間(分)

を計測する.

 血管収縮反応S 1 :10゛塩化アドレナリソ生理食塩水

溶液の0. Iceをツベルクリン注射筒及び針を以て前勝屈

側中央部の皮膚に精確に皮内注射し,6分後その地点に

生じた貧血斑に就て注射針穿刺地点を通過,前勝長軸に

平行する縦径(n)と,同地点を通過,これと直角に交

る横径(n)との積を求め反応値とする.

 血管拡張反応:3%安息香酸曹途カフェイソ生理食塩

水溶液0. Iceをツベルクリン注射筒及び針を以て前勝屈

側中央部の皮膚に精確に皮内注射し,15分後その部に

皮内出血及び注射針穿刺孔より,血液の漏出を認めないも

のに0,軽度の皮内出血のみを認め,血液の漏出ないも

のに1,皮内出血は著明だが,血液の漏出ないか,或は

あっても軽微なものに2,血液漏出の梢々著しいものに

3,血液漏出極めて著明なものに4の判定規準を与え

る.

 淋巴溶出反応: 1 : 10s 塩酸モルフィン生理食塩水溶

液のO.lccをツベルクリン注射筒及び針を以て前腕屈側

中央部の皮膚に精確に皮内注射し,6分後生ずる膨疹

に就て注射針穿刺地点を通過,前鱒長軸に平行する縦径

 (皿)と,同地点を通過,これに直角に交る横径(皿)

の積を求める.

 メチレン青皮内反応z 工:2 xlO' ノチレソ青生理食

塩水溶液0. 05ccをツベルクリソ注射筒及び針を以て前勝

屈側中央部の皮膚に精確に皮内注射し,生ずる青色斑の

消失するまでの時間(分)を測定する.

 トリパソ青拡散試験:1 : 5000 トリパソ青生理食塩水

溶液のO.lccをツベルクリン注射筒及び針を以て前鱒屈

側中央部の皮膚に精確に皮内注射し,注射直後その地点

に生ずる青色斑に就て注射針穿刺地点を通過,前鱒長軸

に平行する縦径(n)と,同地点を通過,これと直角に

交る横径(mm)の積を求め,次いで24時間後.拡大した

斑に就て同様にして縦横径の積を求め,最初の数値で後

の数値を除し,その商を反応値とする.

 全実験は通じ,女子に於ては月経期間内を避けた.又

検査時間は常に午後1~4時とし,検査前12時間は各種

薬剤の内服及び注射を中止した.血管拡張反応には予備

昭和36年9月20日

実験,本実験を,又各基剤を通じ左右間に著しい差な

く,反応の上に基剤の影響を認め難かったので,これを

観察から除いた.

 各基剤を上記の如く5日間貼用後,健常成人男女の前

賢屈側中央の皮膚部位には基剤除去後乱皮膚表面の油

性光沢が多少減じ,且つ極めて僅かに浸軟して見える他

には肉眼的に特に記すに足る変化は認められなかった.

又貼用期間中自覚的にも癈犀,疼痛等を訴へる者はなか

った.その組織学的所見を求かべく,健常成人男子或は

女子のその部位皮膚を,無処置のまし或は1例1基剤

の割でW.以下5種基剤を8日間貼用後,切除,型の如

く処理してヘマトキシリン.エオジン複染色組織標本を

作製,これを検査した.その所見には仝6例問に組織学

的に認むべき差異なく,何れも正常皮膚の表皮及び真皮

血管その他の所見を呈するに止まった.

    第1表 予備実験左右無処置前鱒月側皮膚

        に於けるQ. R. Z.

男  子 : 女  子 :

右   左 石左 右   左 丿 右左

68―61 -7 52―43  1 -9

40-49 +9 80-75 -5

50-56 +6 20-20 -一 一

61―54 -7 59―65 +6

45-52 +7 58-47 -11

63―65 +2 39一37   - 2

67-69 +2 47-41   -6

52-57 +5 70-73 +3

85-78 -7 35-42 +7

平均59.0―60.1 +1.1 51.1―49.2 ― 1.S

第2表 予備実験左右無処置前具屈側皮

    膚に於ける血管収縮反応

男  子 ; 女  子

右  左 右左 右 圧 右左

152-140 -12

210- 210 一一 160― 143 -17

180― 169 -11 135- 110 -25

90- 60 -3C 192― 195 +3

no- 80 -3G 145― 120 ―25

132― 154 +22 72- 64 -8

99- 120 +21 77- 88 +11

88- 72 -16 90- 90 一一

132" 143 +11 165― 168 +3

132― 176 +44 81- り2 +11

平均130.3―131.5 +1.2 126. 9―12ユ.0 ― 5.9

第3表 予備実験左右無処胃前蒔屈側皮

膚に於ける淋巴惨出反応

983

               |が  子 :   | 女  子 :

右  左 右左 右 左 右ノlミ

132一 160 +28 180― 195 十]5

143― 150 +7 169- 132 -37

204- 195 -9 i 280― 288 +8

240- 260 +20 132- 143 +11

234― 224 -10 154― 130 -24

240- 220 -20 208― 220 +12

238― 250 +12 165― 192 +27

210― 195 -15 195- 182 -13

平均205.2-206.7 +1.5 185.3- 185.2 一一0.1

第4表 予備実験左右無処置前濤屈側皮

    膚に於けるノチレソ青皮内反応

男  子 : 女  子 :

,右 左 右左 右 左 右足

17-11 -6

40-40 一一

11-18 +7

35-38 +3 20-25 +5

28一一25 -3 30-20 -10

30-35 +5 20-23 +3

20-22 +2 12-22 +10

30一一23 -7 27―23 -4

26―24 -2 20-20 一一

41一一40 -1 30-33 十3

平均30.0―29.5 ― n.5 22.7一一23.5 + 0.8

第5表 予備実験左右無処置前蒔屈側皮

    膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : i 女  子 :

右 左 右圧 右 左 右ノTミ

6.9- 6.6 -O。3 7淳一6.9 -0.8

3.1- 4.5 + 1.4 10.1― 8,8 ― 1.3

2.2- 3.6 +1.4 12.2―13.8 +1.6

13.1-12.0 -]..1 15.3―17.3 -ト2.0

6.9- 4.5 -2.4 18.0―16.3 十1.7

4.5一 4,6 +0,I 10.0―12.8 +2.8

3.3- 6.9 +3,6 17.3―15.0 -2.3

9.8-!1.2 +1.4 6.6- 4.8 ― 1.8

9.8- 9.7 -0.1 6.8― 8.1 +1.3

3、6一2.4 一一1.2 10.2― 9.8 ― 0.4

平均6. 3-6. 6 +0.3 11.4―11.4 一一

984

第6表 本実験.左w.貼用後,右無処置

    前鱒屈側皮膚に於けるQ.R.Z.

男  子 : 女  子 :

右 左 右左 右 ヤ 安八

68一一75 十7 42-50 +8

40-56 +16 75-60 -!5

50-63 十13 40-40 -- -

80一70 -10 43一圈 +37

47-60 +13 55-60 +5

平均57.0-64.8 +7.8 51.0―58.0 +7.0

第7表 本実験 左W.貼用後,右無処置前

鱒屈側皮膚に於ける血管収縮反応

男  子 : 女  子 :

右  左 右左 右 左 右左

64- 121 +57 42― 110 +68

80- 80 一一 63一 122 +59

90- 110 +20 64- 136 +72

180― 169 -11 120- 142 +22

平均103.5一132.4 +28.9 72.2一 124.0 +51.8

第8表 本実験.左W.貼用後,右無処置

   前鱒屈側皮膚に於ける淋巴溶出反応

男  子 : 女  子 こ

右  左 右左 右 左 右左

286- 320 +34 192-215 +23

143一 192 +49 90― 142 ′ +52

204- 221 +17 195-280 +85

186― 184 -2 221― 240 +19

168- 179 十11 210- 110 -100

平均197.4―219.2 十21.8 181. 6― 197.4 +15.8

第9表 本実験左W.貼用後右無処置前

鱒屈側皮膚に於けるタチレソ青皮内反応

男  子・ z 女  子j こ

右 左 右左 右 左 右左

36-46 +10 42―33 -9

28-32 +4 17-30 +13

16―24 +9 25-20 -5

50-28 -22 20-45 +25

24―41 十17 15-20 +5

平均31. 0―34.2 +3.2 23.8―29.6 +5.8

日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第9号

第10表 本実験左W.貼用後,右後処置前回

  川側皮膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : 女  子 :

右 左 右左 右 左 右左

6.9- 9.6 +2.7 4.8一 5.1 +0.3

3.1― 3.5 十〇痢 8.8- 9.4 +0.6

2.2― 4.7 +2.5 13.8一 9.8 ― 4.0

6.6-12.6 +6.0 8.1一10.5 +2.4

平均4.7-8.0 + 3.3 8.9― 9.4 +0.5

第II表 本実験.左B.Z.S.貼用後,右無

 処置前鱒屈側皮膚に於けるQ.R.Z.

男  子 : 女  子 :

右  左 右左 右 左 右左

61―76 +15 36-45 +9

73-90 +17 65-65 一一

45-4り 一一 42―40 -2

72―88 +16 29一郎 +31

50-56 +6 55―70 +15

平均60.2―75.6 +15.4 45.4―56. 0 +10.6

第12表 本実験,左B.Z.S.貼用後,右無

 処置前鱒屈側皮膚に於ける血管収縮反応

男  子 :   | 女  子 :

右  左 右左 右  左 右左

no― 100 -10

132― 170 +38 90-100 +10

132― 143 +11 72- 釦 +8

154― 154 一一 195― 234 +39

平均132.0―153.4 十■21.4 119.0― 140.0 +21.0

第13表 本実験,左B.Z.S.貼用後,右無処置

    前鱒屈側皮膚に於ける淋巴溶出反応

男  子 こ 女  子 こ

右  左 右左 右  左 右左

221- 238 +17 273― 300 +27

210- 340 +130 165― 224 +59

280- 240 -40 192― 182 -10

165一 140 -25 132― 156 +24

161- 180 +19 122- 132 +10

平均200. 7―227.7 +26.9 176.8― 198.8 +22.0

昭和36年9月20日

第14表 本実験 左B.Z-S.貼用後,右処置

 前佩鱒側皮膚に於けるタフーレソ青皮内反応

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 | 右 た 右一左

20-20 一一 14―19 十5

43-43 = | 45-30 -15

49―49 一一 20-21 +1

23-30 +7 23―23 --

25―30 +5 18一37 +19

平平32.0―34.4 + 2.4 24.0―26.0 +2.0

第15表 本実験 左B.Z.S.貼用後,右無処置

  前鱒屈側皮膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : 女  子 :

右 左 右左 右 左 右左

16.1―20.7 +4.6

13.1―14.1 +1.0 15.1―23.3 +8.3

19.8―22.5 +2.7 4.8一一9.0 +4.2

6.9- 6.9 一一 16.3― 8.1 -8.2

平均13.3―13.0 ― 0.3 13.1一一15.3 + 2.2

第16表 本実験 左H.O.貼用後,右無処置

 前鱒屈側皮膚に於けるQ.R.Z.

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 右 左 右一左

52―53 十1 35-77 +42

85―95 +10 35―54 +19

69-100 +31 65―47 -18

47―69 +22 68-73 +5

94―130 +36 50-64 +14

平均69.4―89.4 +20.0 50. 6―63. 0 +12.4

第17表 本実実 左H.O.貼用後,右無処置

  前蒔屈側皮膚に於ける血管収縮反応

男  子 : 女  子 :

右  左 右一左 右  左 右一左

132― 150 +18

72一 130 +58 165― 160 -5

210― 169 -41 81- 110 +29

100― 120 +20 110― 148 +38

204- 220 +16 192- 175 -17

平均143.6―157.8 +14.2 137.0- 145.6 +8.6

第18表 本実験 左H.O.貼用後,右無処置

前鱒別側皮膚に於ける淋巴溶出反応

985

男  子 : 女  子 :

右  左 有一左 右  左 右一左

238一364 +66 165一 250 +85

247― 225 -22 195― 320 +125

154― 156 +2 143- 130 -14

168― 252 +84 234― 160 -74

126― 143 +17 130― 174 +44

平均185.6―228.0 十41.4! 173.4― 206.8 +33.4

第19表 本実験 左H.O.貼用後,右無処置

 前鱒屈側皮膚に於けるjチレソ青皮内反応

男  子 : 女  子 =

右 左 右左 右 左 右左

26―31 +5

41-50 +9 20―30 +10

47-64 十17 30-15 -15

24一24 一一 33-60 +27

30―32 +2 23―32 +9平均33.6―40.2 +6.6 26.5―34.4 +7.9

第20表 本実験 左H.O.貼用後,右無処置

 前房屈側皮膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 右 左 右一左

4.0―16.5 +12.5

3.6― 5.3 +1.7

12.0―16.3 +4.3 16.6―26.8 十10.2

6.6" 6.2 - 0.4 12.8-15.9 +3.1

11.2―11.2 一一 9.6―11.3 十1.7

平均7.5―11.1 +3.6 13. 0―20.3 +7.3

第21表 本実験 左A。o,貼用後,右無処置

 前鱒屈側皮膚に於けるQ.R.Z.

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 右 左 右一左

63―75 +12 47-61 +14

67―67 一一 48--62 +14

97’130 +33 48―58 十10

50―86 +36 32-28 -4

62―85 +23 55―65 +10

平均67.8―88.6 +20.8 46.0―54.8 + 8.8

986

第22表 本実験 左A、0.貼用後、右無処匠

 前鱒屈側皮膚に於ける血管収縮反応

男  子 こ 男  子 :

右  左 右左 右  左 右左

90- 130 十40 182― 143 -39

99― 162 +63 165一185 +20

88-150 十62 no― 145 十35

平均92.3― 156.0 十63. 7l 152.3- 143.4 ― 8.9

第23表 本実験左A.O.貼用後,右無処置前

   興屈側皮膚に於ける淋膠巴出反応

男  子 : 女  子 :

右  左 右一左 右 左 右一左

234― 238 十4 150― 190 +40

336- 351 +15 252一284 +32

240一 234 -6 168― 132 -36

124― 160 +36 164― 182 +18

120一120 一一 180― 250 +70

平均210.8―220.6 +9.8 182.8― 207.6 +24.8

第24表 本実験 左A、0.貼用後、右無処置

 前鱒利側皮膚に於けるjチレソ青皮内反応

男  子 : 女  子 :

右 左 利一左 石 趾 有一左

26一28 +2 58―53 -5

15―15 一一 36-60 +24

52―24 -28 11-11 一一

40-70 +30 15-20 +5

28-36 +8 15-19 +4

平均32.2一34.6 4- 2.4 27.0一32.6 4- 5.6

第25表 本実験 左A.O.貼用後,右無処置

 前鱒屈側皮膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : | 女  子 :

右 左 右一左 右 左 有一左

2.4一2.8 +0.4 9.8―14.9 +5.1

3.3一6.8 +3.5 6.9一一7.2 +0.3

9.8一一9.8 一一 16.3―25.3 +9.0

平均5.1" 6.6 +1.5 11.0-19.7 + 8.7

日本皮膚科学会雑詰 第71巻 第9号

第26良 本実験 左s.貼用後,右無処置前

    興朝側皮膚に於けるQ.R.Z.

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 右 左 右一左

46一41 -5 47-40 -7

48―65 +17 75一85 +10

32-55 +23 70-83 +13

84―96 +12 35-38 +3

65-65 一一 30-34 +4

平均55.0一64.4 十9.4 51.4―56.0 + 4.6

第27表 本実験 左S.貼用後,右無処置前

 鱒屈側皮膚に於ける血管収縮反応

男  子 : 女  子 :

右  左 右一左 右  左 右一左

169一158 -11

60一178 +118 77―99 +22

49- 90 +41 168- 169 +1

143― 143 一一 90-110 +20

300-200 -100 143― 143 一一

平均144. 2―153. 8 +9.6 119.5一 143.2 +23.7

第28表 本実験 左S.貼用後,右無処置前

 鱒屈側皮膚に於ける淋巴惨出反応

男  子 : 女  子 :

右  左 右一左 右  左 右一左

312- 238 -74 266一221 -45

368― 304 -64 130- 192 +62

154― 208 +54 208― 252 +44

110― 162 +52 120― 120 一一

128- 182 十54 220-240 +20

平均214.4―218.8 + 4.4 188.8一205.0 +16.2

第29表 本実験 左S.貼用後,右無処置前

 剪屈側皮膚に於けるタチレソ青皮内反応

男  子 : 女  子 :

右 左 右一左 右 左 右一左

39-39 一一 12-17 +5

22-35 +13 40―51 +11

12-30 十18 27-27 一一

22-25 +3 20―20 一一

38-40 十2 15-25 十10

平均26.4―33.6 +7.2 22.8-28 0 +5.2

昭胞36年9月20日

第30表 本実験,左S.貼川=後右無処置前凹

 属側皮膚に於けるトリパソ青拡散試験

男  子 : |i 女  子 :

右 左 右足 ! 右 .呈 右左

4.5―11.0 十6.5 17.3一11.9 ― 5.4

2.ユー5、0 +2.9 17.3一一こ3.1 ― 4.2

j2.2- 6.8 ― 5.4 fi.6― 7.5 +0,9

9.6― 9.1 -0.5 i 15.0―16.5 + 1.5

平均7.1- 8.5 4- 1.4 14.1-14.0 ― 0.1

         実験成績

 予備実験 第1-5表参照.

 健常成人男女各7 -10名の左右前脚屈側中央の無操作

健常皮膚に5種皮膚反応を実験,左右の成績を比較する

に,本実験に準じ右側を対照としてこれに左側を比較す

ると,各反応とも反応数値か右>左のものと右く左のも

のとは略々相半ばする.

 本試験 第6 -30表参照.

 健常成人男子女子各3-5名を1群とし,男子1群,

女子1群を1基剤に宛て,左前脚屈側中央の健常皮膚に

基剤を前述の如くして貼用,その除去後左右同時に5種

皮膚反応を実施,上記予備試験の成績を対照として左右

の成績を比較した.

 それによれば5種基剤,5種皮膚反応の2つの組合せ

を通じて先づ知られることは,予備実験では左右の比較

で,右<左のものと右>左のものとか略々相半ばするの

・に,本試験では多くの場合その何れか一方に偏すること

で,即ち基剤の貼用か基剤及び反応の種類によって皮膚

反応に一定方向への影響を及ぼすことか先づ窺われる.

次に知られることは,今予備実験に於ける左右を合わ

せての反応値の分布範囲をその健常動揺範囲とすると,

本実験に於ける左側,即ち基剤貼用後の反応値は屡々こ

・の範囲は逸脱する他,左右差は予備試験に於ける左右差

を凌駕するものが齢くない.即ち全体的に観て基剤貼用

第1図

 男子:

予備実験及び本実験に於けるQ.R.Z.

0 0Q

■1-

a~)

t~~

女子

ノ ン

  ノこ

 け沢y

 ノサガに

ソ~と

ン///Tk I

ち左右左右左右左一一一一Bzs. H.O. A.O. S-

987

第2図 予備実験及び本実験に於ける血管収縮,反応

voレ 女子

/

rへりWχ ‘/\

    ゾyきんにに

    \//ΛにとツΛに

/     //

Zy

 右左右左右左右左尤左右左

 ----一-予備実験W Bzs、 H.O. A.O. S.

第3図 予備実験及び本実験に於ける淋巴溶出反応

/ 子 男

  /り丿たい

/がへχ /

∂腿レレレy  /にがyダにたに

徊     χ     /一

/ク〃/

ぐ八~/\

右左右左右左一一一

予備実験W. Bzs.

3叩

/ブyに↑

/χぐ入

20  励

ぷいと 。fが印yLLノ

3/鰯    k     /一

理ノLLgL~ドシ

rLLyLlaぱ~に  /fvい、

H。0. A.O.

第4図 予備実験及び本実験に於けるjチレソ青皮

    内反応

は皮膚反応を変動させることが窺われる(第1-6図参

照).

 以上は6種基剤,5種反応の計25の組合せを通じての

所見であるか,基剤では油脂性のW.と乳剤性のH.O.

及びA.O.に,皮膚反応ではQ.R.Z.とトリパン青拡散

988

3 巧

第5図 予備実験及び本実験に於けるトリパン青拡

    故試験

男子

  jΛに/

  {/

/4 トレ

 / 一

 /z

    yl

 //

///

試験とに,対照無操作皮膚に於けるに比較し,より一斉

に,且つ予備実験に於ける無操作の左右皮膚間の差を比

較的大幅に凌駕する変動が見られる.

 先づQ.R.Z.の変動としては各基剤を通じ,大多数の

試験例にその延長が見られた. Q.R.Z.は既にそれに関

する文献を紹介したように,特に局所的な意味では皮膚

のHydrophilieを,即ちその短縮はHydrophilieのより

高度なことを表現すると考えられている.

 今各種基剤の貼用か一様にQ.R.Z.の,対照無操作皮

膚に於けるものに比較して延長を示した点に就ては,第

1に油脂性.乳剤性,水溶性各基剤に共通の半固形的な物

理学的性質がこれを結果したことも考えなくてはならな

い.この種半固形的な基剤の貼用か皮膚の呼吸,分泌そ

の他あらゆる生理学的機能的現象の個々に如何なる影響

を与えるか,又その影響の合作か如何なる状態に皮膚を

置くかは濾かにこれと云い難いか,顛って湿疹その他の

炎症性皮膚疾患に,その皮膚病変の発生,展開に関与す

るであろう皮膚素因の1部を表現するものとして, Q.R.

Z.短縮の示す皮膚の浮腫傾向,或はHydrophilieの存

在することは,二神等先人の他近く教室に於ける廻伸,

馬場,木村,阿部2s)に依っても指摘されている.これ

を考慮に置く時,各種基剤の貼用かQ.R.Z.の延長を

来す著者の所見には,膏薬基剤の貼用か湿疹を始めとし

て,各種皮膚疾患の炎症性皮膚病変に,皮膚のHydrop-

hmeを低減させる意味で治療的に有効に作用すること

を示唆するものかあるとしても差支えないのではないか

と思われる.この場合,上に述べたように各種基剤に共通

する,物理学的に半固形的な性質,~斯る性質の基剤を皮

膚面へ貼用することの影響を先ず考えるが,著者が実験

に供した基剤中,乳剤性O/W型のH.O.,乳剤性W/0

型のA.O.及び水溶性のS.は吸水性の大きいものに属

する.これに対し脂油性膏薬基剤のW.及びB.Z.S.の

日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第9号・

吸水性は小さいのであるが,第16, 21表及び第1図に可

かなよ引こ吸水性の大きいH.O.及びA.O.ではQ.R.Z.

の特に大幅の延長か見られたことは注目してよい.

 Q.R.Z.の延長と共に,なお,1つ著しい変動として

トリパン青拡散試験の所見がある.第20, 25表及び第5

図に示すように各種基剤,特にW・, H.O.及びA.0・,粋

にH.O.及びA.O.にはその貼用後トリパン青斑拡大度

の大幅の,特に又H.O.及びA.O.では貼用後は予備実

験に於ける健常動揺範囲の上域を大きく抜くところの増

加か認められた.

 トリパン青斑の拡大度から窺われる皮膚組織透過性の

増強は是亦湿疹に於ける皮膚素因の表現として教室の大

村,馬場,廻神,阿部これを指摘している.皮膚組織透

過性の増強はその意味では皮膚病変の増悪を来すと考え

られるが,著者の場合,膏薬基剤の影響としてはそれか

膏薬添加薬剤の皮膚浸透に対しては大きな助長的役割を

演ずることを問題とすべく,この意味に於てそれは注目

に値し,特に膏薬基剤としてのH.O.及びA.O.の,従

来も認められている,添加薬剤の皮膚浸透を高度ならし

める特質を裏書するものかおる.

 他の反応では血管収縮反応がW。B.Z.S・, H.O・, A.O・

の貼用後,淋巴惨出反応はW.及びH.O.の貼用後増強

し,メチレン青皮内反応はW。H.O.及びS.の貼用後

メチレン青斑の消失時間の延長を示したが,これ等は上

記のQ.R.Z.及びトリパン青拡散試験の成績程に一斉的

でない.血管収縮反応は湿疹その他で屡々減弱し,淋巴

溶出反応は同じ場合に逆に増強し,メチレン青斑消失時

間は湿疹に就て屡々短縮して皮膚還元能の増強を窺わせ

るのは馬場,木村等の観察する如くである.

 膏薬基剤貼用後各皮膚反応のこれ等成績からは,皮膚

の炎症性病変に対して斯等膏薬基剤は治療的に有効に,

又は逆に有害に作用することか考えられる.凡そ膏薬の

作用機序には基剤及び添加剤のあらゆる物理学的及び化

学的物質が参加するので,そこには極めて複雑なものか

あるとせねばなるぬ.茲にはその解析に寄与するものと

してこれ等の反応の所見を挙げるものである.

 以上基剤療法に於ける基礎的な問題として膏薬基剤の

皮膚機能に及ぼす影響を各種皮膚反応の面から検討した

が,最も顕著な所見として各種基剤,特に乳剤性のH.0・,

A.O.貼用後に於けるQ.R.Z.の延長及びトリパン青拡

散試験に於けるトリパン青斑拡大度の増加を見ることが

出来た.このことから先づ斯等基剤は皮膚のHydrophilie

を低減することで炎症性病変に治療的効果を及ぼすこと

が考えられる.トリパン青斑拡大度の増加から窺われる

昭和36年9月20日

皮膚組織透過性の増強は,それ自身としては炎症性病変

を増悪させる可能性かおるが,一方膏薬療法の目的の1

つとされる薬剤の浸透に対してはこれを助長し,膏薬療

法本来の治療目的に寄与すと思われる.

          要   旨

 代表的膏薬基剤として油脂性のウィルソン泥膏(W.),

硝酸亜鉛華軟膏(B.Z.S.),乳剤性の親水軟膏(H.O.).

吸水軟膏(A.O.)及び水溶性ソルペース(S・)⑤6種を

選び,その貼用が皮膚機能に及ぼす影響を,無操作皮膚

部位を対照に基剤貼用皮膚部位に実施した各種機能的皮

膚反応の成績から検索し,膏薬基剤の皮膚病変に及ぼす

治療作用機序を窺わんとした・

 上記5種の基剤が夫々Q.R.Z・,血管収縮反応,淋巴漆

出反応,メチレン青皮内反応及びトリパン青拡散試験に

989

及ぼす影響を求めたが,顕著且つ一律的には5種基剤の

うち油脂性のW.と乳剤性のH.O.及びA.O.に,皮膚

反応ではQ.R.Z.とトリパン青拡散試験とに対照健常皮

膚に於けるに比し特に顕著な反応の変動を認めた.

 即ち,特に乳剤性基剤のH.O.及びA.0.の貼用が

Q.R.Z,の延長を来すこと,又同じくH.O.及びA.O.貼

用後トリパン青斑拡大度が増加することが知られ,この

ことから斯等基剤の貼用か皮膚の浮腫傾向を減弱させ,

組織透過性を増強させることが窺われたが,浮腫傾向の

減弱は湿疹その他その傾向を有する疾患に治療的効果を

与えることを,組織透巡泄

炎症性病変を増強させる可能性があるが,一方膏薬療法

の目的の1つとされる添加薬剤の浸透を助長することを

考えさせる.

                     ABSTRACT

  Influences of ointments upon skin functions were studied from the results of various

functional dermoreactions performed on the skin after the epicutaneous application of 5

ointment bases; oleaginous Wilson's paste a万ndboric acid-zinc oxide ointment, emulsion

hydrophilic and absorption ointments and water soluble Solbase。

  The application of both emulsions, hydrophilic and absorption ointments among others

caused in the majority of the persons submitted to the tests especially a prolongation of

Q.R.Z. and a more extensive d迂fusion of intracutaneously injected trypanblue as compared

with. the reactions made on the non-treated skin. It seems from this, that an applicatioa

of these ointment bases can weaken an edematous tendency of the skin and enhance its

tissue permeability. A decrease of edematous tendency of the skin may have good effect

upon eczematous and other edematous skin lesions. An increase of tissue permeability of

the skin may make worse inflammatory skin lesions, but would help meanwhile the

intracutaneous dispersion of drugs incorporated in these ointment bases。

  These results would confirm a practical usefulness of these both emulsion ointment

bases.

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  & Syph・, 54, 497, (1946).

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  1,昭27,最新医学, 6, 609,昭26.新しい膏

  薬療法,東京,日本医書,昭27.日本臨床,

  10, 42,昭27.日皮会誌, 62, 1,昭27.同誌,

  61, 302,昭26.同誌, 63, 388, 391,昭28.『可

  誌, 65, 410,昭30.

990

7) Me Clure, W.B・,a. Aldrich, C.A.: J.A.M.A・,

  81, 293, (1923).

8) Guggenheimer, H., u. Hirsch, P.:Klin. Wsc-

  hr。5, 704, (1926).

 9) V. Leszczynski, R., u. Blatt, O.: Arch. f.

  Dermat., 153, 307, (1927).

10) Perutz, A.,& Guttmann, S.:Ibid・, 158,587,

   759, (1929).

11) Klimmeck, W.: ref. V,Perutz, Zbl. Haut-

  krkht・, 44, 736, (1930).

12) Ribadeau-Dumas, Mac Levy, Dupuy& Mign・

  on: cited from Perutz, A. in Jadassohns-

  handbuch V/I, 113, (1930).

13)荒川忠良:目皮会誌, 62, 65,昭27.

14)中村喜和:レプラ, 24, 265,昭30.

15)笹川正二ご目皮会誌, 59, 72,昭24.

16)二神義清:長崎医学会誌, 19, 398, 413, 421,

   441,昭16‘.

日本皮膚科学会雑誌 第71巷 第9号

17)大久保茂夫:口皮会誌, 61, 130,昭26.

18)廻神輝家:同誌,71,607,昭36.

19)木村国夫:同誌, 71, 620,昭36.

20馬場隆:同誌, 71, 715,昭36.

21) Gr8er, Fr. u. Hecht, A.F.: Zsclir. f. Ges.

  exp. Med・,33, 1, (1923).

22)蕭秀河:長崎医学会誌, 29, 731,昭29,

23) Petersen, W.E. u. Appelm, B.: anProc. Soc・

  Exp. Biol. & Med・, 30, 712, (1933).

24)永井保:日皮会誌, 61, 37,昭26.

25)亀井義明:同誌, 68, 701,昭33.

26)幹滋:京府医大誌, 55, 661,昭29,

27)高瀬吉雄:日皮会誌, 66, 647,昭31.

28)阿部羊一郎:同誌, 71, 959,昭36.

29)樋口謙太郎,奥野勇喜,中山晴道:新らしい軟

  膏療法,第1版,東京,医学書院,昭33.

            (昭和36年1月11日受付)