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英国における規制の政策評価に関する 調査研究 平成 28 年3月 株式会社富士通総研

英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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英国における規制の政策評価に関する

調査研究

報 告 書

平成 28 年3月

株式会社富士通総研

Page 2: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

目 次

序章 本調査研究の目的・概要 1

A) 本調査研究の目的 1

B) 本調査研究の概要 2

第1章 英国における規制策定プロセスの概要 3

A) 英国の規制策定プロセスにおける各機関の役割と流れ 3

① 規制策定プロセスにおける各機関の役割 3

② 規制策定プロセスの流れ(概要) 6

B) 規制政策委員会の役割 6

① 影響評価の精査機能(第三者評価) 6

② ファストトラックの判断機能(規制トリアージ評価) 13

C) 新規規制の表明のタイミング 18

D) ONE-IN, TWO-OUT(OITO)制度の運用実態 20

E) 影響評価の対象の決定方法 24

F) ビジネスイノベーション職業技能省及び個別規制所管省庁における取組状況 26

① ビジネスイノベーション職業技能省・規制政策委員会における取組状況 26

② 個別規制所管省庁における特徴的な取組状況 30

G) 近年の影響評価の質の変化と規制意思決定に果たす役割・影響の変化 33

第2章 英国における 1998 年以来の改革の歴史的経緯 37

A) 担当部局の変遷(内閣府から BIS へ) 37

B) 評価指針の改訂 38

C) 会計検査院による第三者評価の実施 40

D) 規制政策委員会の設置 41

E) ONE-IN, ONE-OUT(OIOO)制度の開始 42

F) BEHAVIOURAL INSIGHT TEAM との関係 42

① BEHAVIOURAL INSIGHT TEAM の概要と役割 42

② 環境食糧農村地域省における非規制的手段の活用 43

③ エネルギー気候変動省における非規制的手段の活用 43

Page 3: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

G) RIA から IA への名称変更の背景や影響 43

第3章 英国における規制の影響評価の優良事例 45

A) 規制の影響評価の優良事例収集の観点 45

① 影響評価における定量・定性評価の質が高い事例 45

② 影響評価における規制政策委員会の差戻し機能が有効に機能している事例 45

B) 規制の影響評価の優良事例 45

① 自動車税の自動車本体表示義務の廃止(運輸省) 45

② トラクターの重量・速度規制の緩和(運輸省) 46

③ たばこパッケージの表示規制の強化(保健省) 48

④ 薬剤師の処方誤りの免責(保健省) 49

⑤ 薬局における HIV 家庭用検査キット販売の解禁(保健省) 50

第4章 日本における規制の事前評価の課題と英国からの示唆 52

A) 日本の現状・課題と英国からの示唆 52

① 規制改革方針 53

② 規制策定プロセス 53

③ 組織の権限設定 54

④ 職員スキル 54

⑤ インセンティブ 55

⑥ 留意点 55

B) 日本に求められる規制の政策評価プロセスの改善点 55

別添資料1 英国現地調査インタビュー議事概要 58

A) 規制政策制度所管部門①(より良い規制事務局) 58

B) 規制政策制度所管部門②(規制政策委員会) 60

C) 規制政策制度所管部門③(より良い規制運用事務局) 62

D) 個別規制所管省庁①(環境食糧農村地域省) 64

E) 個別規制所管省庁②(運輸省) 67

F) 個別規制所管省庁③(保健省) 70

G) 個別規制所管省庁④(エネルギー気候変動省) 73

H) 個別規制所管省庁(独立規制当局)⑤(食品基準庁) 75

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I) 政治家 77

J) シンクタンク 79

K) 大学教員①(ロッジ教授) 83

L) 大学教員②(ボールドウィン教授) 86

別添資料2 IMPACT ASSESSMENT CALCULATOR の概要 89

別添資料3 用語集 93

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序章 本調査研究の目的・概要

A) 本調査研究の目的

日本における規制の事前評価は、平成 16(2004)年 10 月から試行的に実施し、さら

に平成 19(2007)年 10 月からその実施が義務付けられたところであるが、その実施実

態は必ずしも質の高い評価内容となっていないのが現状である。

規制の事前評価は、大きく分けて(a)規制策定プロセスを効率化すること、(b)規制の

質を高めること、(c)規制の妥当性を説明することの3つの目的があるが、現状の規制の

事前評価が果たす役割は(c)の規制の妥当性を若干説明する程度にとどまり、(a)規制策

定プロセスを効率化すること、(b)規制の質を高めることを目的とした規制の事前評価の

利活用については検討の余地がある。

これまで、総務省においても規制の事前評価の質の向上等に向けて取り組んできたと

ころであるが、現状では課題解決に至っていない。そのため本調査研究では、規制に係

る政策評価の先進国である英国の取組を調査し、日本における規制の事前評価の改善に

つなげる要素を発見することを目的とする。

あわせて、平成 27 年度から政策評価審議会が発足し、その下部組織として、有識者に

よる規制評価ワーキング・グループ(以下「規制評価WG」という。)が設置されたこと

から、規制評価WGと綿密に連携の上、本調査を実施し、規制評価WGにおける規制の

事前評価に係る改善方策の検討に寄与することとする。

なお本調査研究では、規制の事前評価の改善課題の仮説を以下の3点としてとらえ、

調査研究を進めた。

(a)規制対象(法律・政令)の範囲と簡易評価基準・除外基準等と費用便益分析(定量

化度合い:完全でなくても定量化度合いを高める努力)の整理

(b)各規制所管省庁が実施する規制の事前評価に対する評価機能(差戻し機能)の追加

や規制の事前評価制度そのものに対するメタ評価機能の拡充

(c)立案段階・オプション検討段階から始まる規制の事前評価プロセスの規制政策プロ

セス全体への組込みの実施

以上の改善課題の仮説を検証するため、以下の観点を踏まえ調査研究を進めた。

(a)本調査の対象国である英国の影響評価(IA)の見直し前後の状況及び見直しの背

景・経緯を丁寧にたどること

(b)日本の規制の事前評価制度と(a)の結果を照らし合わせた際に、どのような部分が

参考となり、どのような部分が参考とならないのかを仕分けること

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(c)参考となる内容を仕分けた結果を踏まえ、規制影響評価の対象範囲や規制所管省庁

以外の組織による評価機能(差戻し機能)やメタ評価の在り方、規制政策プロセス

全体の見直しに向けた要素を検討すること

B) 本調査研究の概要

本調査研究では、文献やインターネット等で関係資料を収集・分析した上で、書面で

は把握できない部内の事情や問題の根幹、参考となる所見などの側面的な情報を現地の

政府関係機関からのインタビューにより把握した。英国での現地調査日程は以下図表の

とおりである。

なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

政策大学院の岸本充生特任教授とともに実施した。

図表 1:英国現地調査日程

調査日 調査対象機関

平成 27

(2015)年

11 月9日

・ロンドンスクールオブエコノミクス(マーティン・ロッジ教授)

・環境食糧農村地域省(Department for Environment, Food

and Rural Affairs: DEFRA)

11 月 10 日

・より良い規制事務局(Better Regulation Executive: BRE)

・より良い規制運用事務局(Better Regulation Delivery Office: BRDO)

・規制政策委員会(Regulatory Policy Committee: RPC)

・運輸省(Department for Transport: DfT)

11 月 11 日

・保健省(Department of Health: DH)

・英国議会上院(リンジー伯爵)、規制政策委員会(ヴィール委員)、キン

グスカレッジロンドン(ラグナー・ロフシュタッド教授)

・食品基準庁(Food Standard Agency: FSA)

11 月 12 日

・Reform(シンクタンク:リチャード・ハリーズ氏)

・エネルギー気候変動省(Department of Energy & Climate Change:

DECC)

・ロンドンスクールオブエコノミクス(ロバート・ボールドウィン教授)

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第1章 英国における規制策定プロセスの概要

A) 英国の規制策定プロセスにおける各機関の役割と流れ

① 規制策定プロセスにおける各機関の役割

まず、規制策定プロセスに関係する各機関の役割を整理すると、以下図表 2左側のよ

うになる。規制策定プロセスは、(a)課題設定、(b)対応策の検討、(c)影響評価、(d)規

制導入、(e)事後評価に分けることができる。

(規制所管省庁)

そのうち、各規制を所管する規制所管省庁は、(a)課題設定~(e)事後評価の規制策定

プロセスを進める役割を持つ。各規制所管省庁内には、影響評価など規制策定プロセス

を管理するより良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)がある。

規制所管省庁の規制所管権限の大きさによって、より良い規制ユニットの体制は異な

るが、おおむね5~10 人程度の人員規模である。各省庁のより良い規制ユニット職員と

して、一般公務員や経済学者、社会調査学者などが在籍する。経済学者などの専門家は、

各規制所管部門から提出された影響評価書の計算方法を精査する。精査の甘さが出ない

ように重要な評価書は相互レビューを行う。例えば運輸省では、4~5年前に規制政策

委員会への提出時に 60%だった「青色」(良好の評価結果)の割合は、相互レビューを

導入した近年は 90%に上昇している。一般公務員は、代替手段を考慮しているか、自ら

の良識に従い評価結果に違和感がないかを判断する。その上で、規制政策委員会と規制

所管部門の間を取り持つ。

各省庁のより良い規制ユニット間の連絡会議も週に1度実施されており、新たな考え

方である OI3O(One-In, Three Out:ある規制を導入する場合には、その企業への費用

増分の3倍の費用削減を伴う規制緩和を行う考え方)や困難な課題に対する解決策など

緊密な情報交換を行っている。

先進的な省庁は、イントラネット上に規制改革の方針や省庁独自の規制改革評価プロ

セスを掲載し、職員が情報を閲覧できるようにしている。例えば、環境食糧農村地域省

では、「Regulatory Evidence Portal」と呼ばれるポータルサイト(対外非公開)を構築

し、暗黙知となっていた環境食糧農村地域省における全ての規制改革プロセスを 2015

年に形式知化した。運輸省でも同様のポータルサイトがある。

(より良い規制事務局)

より良い規制事務局は、(a)課題設定~(e)事後評価全体に関係し、規制策定プロセス

の流れや各機関の役割の決定など、規制政策制度全体を所管している。より良い規制事

務局は新規規制の評価を担当し、内閣府の Cutting Red Tape では既存規制の評価を担当

している。より良い規制事務局は各省庁の影響評価を支援しているほか、各省庁と同様

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に自省の規制評価を監督するより良い規制ユニットがある。より良い規制事務局の人数

は 70 人程度であり、全て公務員で規制当局からの出向者も所属している。より良い規制

事務局は、ビジネスイノベーション職業技能省と内閣府との共同設置であり、ビジネス

イノベーション職業技能省から2人、内閣府から2人の大臣が任命されている(共同設

置であるが、ビジネスイノベーション職業技能省の影響力が強いと考えられる)。より良

い規制事務局職員は全員内閣府との兼務である。70 人は省庁ごとの担当制を敷いている。

2010 年以降の緊縮財政の影響を受けて、人員体制は減少傾向にあるが、それは多くの他

部署の状況と同様の傾向にある。

(規制政策委員会)

規制政策委員会は、主に(c)影響評価に関係し、各省庁が実施した影響評価に対する第

三者評価と、その結果に基づき影響評価の前提や手法に疑義がある場合、各省庁に対す

る影響評価の見直し勧告を行っている。規制政策委員会は、独立した組織であるが、よ

り良い規制事務局の助言に基づき、全省庁の影響評価(EU 規制を除く国内規制のみ)の

審査を行っている。

規制政策委員会は、より良い規制事務局の作成したフレームワークに基づき行動して

おり、仮にフレームワークどおり行動しなければ、より良い規制事務局は規制政策委員

会の人事異動を行い、介入することも可能な仕組みとなっている(事実上、半独立機関

としての位置付け)。

規制政策委員8名は公募で選ばれ、規制政策委員会事務局職員 15 人は全てビジネスイ

ノベーション職業技能省出身の公務員である。

より良い規制事務局は評価の観点として企業視点が極めて強い一方、規制政策委員会

は各専門分野を持つ委員が8名いるため、社会的な影響も考慮に入れている。規制政策

委員会は、規制所管省庁の費用と便益の計算が正しいか否かを確認し、内閣府及び各規

制所管省庁に評価結果を「青色」(良好)・「黄色」(軽微な修正)・「赤色」(要修正)の形

で返す。中小企業に対する影響を減らすための措置を行っているかどうかも確認する。

(規制削減小委員会)

規制削減小委員会は、主に(c)影響評価に関係し、政府の規制枠組みの運用状況を監視

するために設置されている内閣府の小委員会である。規制削減小委員会による影響評価

書の承認がなければ、規制策定プロセスの次のステップに進むことができない強力な権

限を有している。

(より良い規制運用事務局)

より良い規制運用事務局は、主に(d)規制導入に関係し、規制の運用監査に責任を持つ

職員 50 人の組織である。規制の運用において、リスク評価に基づく重要度を踏まえ、規

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制の運用状況が大企業や中小企業にどのような影響を与えるのかを監査する。企業負担

を減らすよう、規制以外の方法の活用についても検討している。企業規制は、国と地方

の規制が複雑に入り組んでいる。英国には、433 の地方政府があり、規制の運用を行っ

ている。地方政府によって運用されている規制の影響についても、より良い規制運用事

務局が監査する。

より良い規制運用事務局では、規制所管省庁のより良い規制水準を維持するための人

材育成にも取り組んでいる。より良い規制運用事務局で数年間かけて作成した共通の人

材能力基準(Professional Standards for Competency)がある。4,000 以上の規制所管

部門での活用実績があり、この基準やそれに基づく教材は無料で利用できる。職員は、

自分の保有している知識を恒常的に伸ばすためにこの基準を活用する。人材能力基準に

ついて、資格制度や認証制度はなく、職員による自己評価が行われている。

またより良い規制運用事務局では、主管当局(Primary Authority)制度を所管してい

る。主管当局制度とは代表となる政府機関を定めた上で、中小企業等に対する規制の負

担を減らす仕組みである。各地方政府などが主管当局の収集したデータなどを活用でき

る仕組みとなっている。例えば、食品業界で冷蔵庫の温度管理基準を満たしているか監

査をする場合、主管当局が監査を行えば、他の政府機関はそのデータを活用し監査を行

う必要がなくなる仕組みである。

図表 2:英国における規制策定プロセスに関係する各機関の役割と

各省庁の規制策定プロセスの流れ(概要)

(a)課題設定

(b)対応策の検討

(c)影響評価

(d)規制導入

(e)事後評価

規制所管省庁(各規制を所管)

ビジネスイノベーション職業技能省より良い規制事務局(規制政策制度全体を所管)

ビジネスイノベーション職業技能省より良い規制運用事務局(規制運用時の情報収集・監視)

(a)立案段階

(b)オプション検討段階

(c)-1コンサルテーション段階

(c)-2最終提案段階

(d)法律策定段階

(e)事後評価段階

規制策定プロセスに関係する各機関の役割 各省庁の規制策定プロセスの流れ(概要)

規制政策委員会意見

規制削減小委員会承認

影響評価書

規制政策委員会意見

規制削減小委員会承認

影響評価書

規制政策委員会意見

規制削減小委員会承認

影響評価書

規制所管省庁(各規制を所管)

規制政策委員会(各省庁影響評価に対する第三者評価・差止めを実施)

規制削減小委員会(政府の規制枠組みの運用状況を監視する内閣府小委員会)

出典:英国政府インタビュー時提供資料等を参考に富士通総研作成

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② 規制策定プロセスの流れ(概要)

規制策定プロセスの流れ(概要)を整理すると、以上図表 2右側のようになる。規制

策定プロセスは、(a)立案段階、(b)オプション検討段階、(c)-1 コンサルテーション段

階、(c)-2 最終提案段階、(d)法律策定段階、(e)事後評価段階に分けることができる。

規制策定プロセスはそれぞれの(a)~(e)ごとにおおむね対応している。(c)-1 コンサル

テーション段階と(c)-2 最終提案段階では、規制所管省庁が作成した影響評価書に対し

て、規制政策委員会が 30 営業日以内を目途に精査(第三者評価)を行い、その意見を踏

まえ、内閣府規制削減小委員会が9営業日以内を目途に承認し、影響評価書が確定する

プロセスを経る。

(c)-1 のコンサルテーション段階では、利害関係集団とのコンサルテーション(対話)

を行う。規制策定プロセスの初期であるため、情報収集が限定的となり定性情報が主体

の影響評価書を用いる。

一方(c)-2 の最終提案段階では、再度利害関係集団とのコンサルテーションを行う。

規制策定プロセスの最終段階であるため、情報収集も一定程度済んでおり定量情報も含

んだ影響評価書を用いる。

なお、定量情報収集のためには、利害関係集団から取得した情報も活用する必要があ

る。利害関係集団から得る情報は一定の偏りが生じている可能性もある。一方、例えば

第3章 英国における規制の影響評価の優良事例の保健省の薬局における HIV 家庭用検

査キット販売の解禁で見られるように、規制政策委員会による第三者評価では、米国の

類似市場などの動向も踏まえ、影響評価の前提条件や推計方法が確認されるため、前提

条件の偏りがそのまま影響評価結果とならないよう、一定の補正がかかる仕組みとなっ

ている。

B) 規制政策委員会の役割

① 影響評価の精査機能(第三者評価) 1

(規制政策委員会意見書:影響評価の精査)

影響評価書が規制所管省庁内で承認された後、精査を受けるためにその影響評価書を

規制政策委員会に提出する。この規制所管省庁内の手続きは、規制所管省庁内のより良

い規制ユニットに相談する必要がある。影響評価書に使用する数値などは、英国政府に

おける全ての政策やプログラム、プロジェクトの事前及び事後評価のための枠組みであ

る「The Green Book」 2に計算方法が例示されている(図表 3)。影響評価書のフォーマ

1 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” 2015.3, pp20-22 2 HM Treasury“The Green Book―Appraisal and Evaluation in Central Government” 2003, p20,62,64,66,pp97-99

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/220541/green_

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ットと記載内容は、図表 4のとおりである。

規制所管省庁が規制削減小委員会の承認を求める際には、関係する影響評価書ととも

に規制政策委員会意見書を添付する必要がある。そのため、影響評価がコンサルテーシ

ョン段階・最終段階・事後評価段階で規制削減小委員会の承認を得るには、規制政策委

員会の意見書が必要となる。

規制所管省庁は、最終段階の規制政策委員会意見書を、関係する影響評価書と同時に

公表することが求められる。

図表 3:「The Green Book」に例示されている計算方法・基準

計算方法

の例示

○労働時間

・従業員の労働時間のコストを見積もる場合には正規職員単価を使用

し、基本給のほかに年金保険料、国民健康保険料及び諸手当を含む。

数値の例示

○割引率

・割引は、様々な時点で発生する費用と便益を比較するために用いる手

法であり、人々は一般に財やサービスを将来よりも現在受け取る方を好

むという原則に基づいている。

・割引率は、全ての費用と便益を「現在価値」に換算するために用いら

れ、割引率を用いることによって費用と便益の比較が可能となる。英国

で推奨されている割引率は、3.5%である。

○長期割引率

・提案する事前評価が実質的に超長期における影響の割引に依存して

いる場合、超長期間(30 年超)に適用する割引率は、より低い数値を用

いるべきである。英国では、超長期間の割引率として下に掲載されてい

る割引率を用いることが推奨されている。

3.5%(0-30 年) ・3.0%(31-75 年) ・2.5%(76-125 年)

2.0%(126-200 年) ・1.5%(201-300 年) ・1.0%(301 年以上)

単位の例示

○死亡リスク

・防止された死亡1人当たり 114.5 万ポンド(2000 年価格)

○ケガのリスク

・路上重傷事故 12 万 8,650 ポンド、路上軽傷事故 9,920 ポンド、報告不

要のケガ 150 ポンド(2000 年価格)

○温室効果ガスの排出

・温室効果ガスの排出に関する新たな政策、プロジェクトまたはプ

ログラムの効果は、炭素節減量または 100 万トン-二酸化炭素換

算値(MtCo2)で測定した追加排出量で示す。

○騒音

・平均デシベル(dB(A))で測定される騒音レベルの上昇若しくは低下によ

って影響を受ける人々/世帯の数に基づき定量化することができる。

・おおむね1世帯1デシベル当たり年間 23.5 ユーロ(2001 年価格)

○森林のレクリーエーション価値

・支払意思額調査によると、1 訪問当たり 0.6 ポンド~1.74 ポンド(大まか

な推定値であれば 1 訪問あたり 1 ポンド(1992 年評価額))

book_complete.pdf

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図表 4:英国における影響評価書のフォーマットと記載内容(破線枠:ファストトラックの任意項目)

表題:

IA No.:

主管省 /庁:

その他の省/庁

影響評価( IA)

日付:2011 年 1 月 1 日

段階:立案/オプション

介入源:国内

措置の種類:第 1 次立法

照会先:

要約:介入及びオプション RPC 意見書:RPC 意見書ステータス

好ましい(又は実施する可能性がより高い)オプションの費用

正 味 現 在 価

値合計額

£m

企 業 の 正

味 現 在 価

£m

企業が年間に負担

する正味費用(2009

価 格 に 基 づ く

EANCB)

OITO の 範 囲 内

か?

はい/いいえ

どの要件を満 たす

措置?

IN/OUT/ 純 ゼ ロ コ

スト

検討中の問題は何か?政府介入はなぜ必要か?

最大 7 行以内

政策の目標及び意図する効果はどのようなものか?

最大 7 行以内

どのような政策オプション(規制の代替手段を含む)を検討したか?好ましいオプションの論拠を記

述されたい(詳細はエビデンスベースに記述)

最大 10 行以内

政策は事後検証されるのか?政策は事後検証される/されない。該当する場合、事後検証日を記

入:年/月

実施は EU の最低要件を超えるのか? はい/いいえ/該当せず

右記の企業のいずれが対象範囲内に

入るのか?零細企業が適用除外となら

ない場合、エビデンスベースに理由を記

述されたい。

零 細 企

はい /い

いえ

従業員 20

名以内

はい / いい

小企業

は い /

いいえ

中企業

は い /

いいえ

大企業

は い /

いいえ

温室効果ガス排出量の CO2 換算変化量はいくらか?

(百万トン単位 CO2 換算量)

取引されて

いる

取引されてい

ない

私は、影響評価書を読了し、利用できるエビデンスを踏まえれば、影響評価書が第 1 候補のオプションを選定する

ことにより生じる可能性が高い費用及び便益並びに当該オプションが及ぼす可能性ある影響に関する合理的な

見解を示していることに納得している。

所管省庁の代表者による署名:_____________ 日付:__________

*企業及び市民社会組織 **対象となる内の影響がない場合、企業に及ぼす全ての影響を含め、政策が OITOの対象でないと記述してください。*** OITO の対象となる EU 措置の場合、OITO の対象外の影響を受ける企業

の NPV(正味現在価値)及び EANCB(企業年間負担正味費用)を算出し、エビデンスベースに内容を整理してください

政策策定を主導

する省 または庁

の名称を記入

理解しやすく、関連する法律また

は規制とつながりがあるタイトルを

記入します。「影響評価」という文

言は使用しないでください

影響評価書が

公表された日 図 表 2のプロ

セスを参照 国 内 : 政 府 提

案、EU:EU 義務

の履 行 、国 際 :

国 際 的 な 義 務

(EU を除く)

氏 名 ・ 電 話 番

号・メールアドレ

赤色、黄色、青色

イン、アウト、純

ゼロコスト

対象:本マニュア

ルの OITO(ある

規制を導入する

場合、その企業

への費用増分の

3倍の費用削減

を伴う規制緩和

を行うこと)項目

に説明されてい

る適用免除区分

のいずれかに該

当しない限り、企

業 * に対 して直

接影響を及ぼす

法律

最 終 段 階 で 事

後評価日を記入

(通常 、実 施 後

から3~5年後)

提案が EU の最

低要件を超える

場合、エビデンス

ベースにおいて

正当化してくださ

日付自動表示、

編集は可能

政策に責任を負

う大臣、最高責

任者または委員

長が公表された

影響評価に署名

します

省固有の頭文字

+nnnn

グリーンブック指

針 に従 い、金 銭

価 値 化 された便

益合計額から金

銭 価 値 化 された

費 用 合 計 を差 し

引いた金額(割り

戻した金額)

金銭価値化され

た企業*の直接

便益合計額から

金銭価値に換算

された企業*の直

接費用合計を差

し引いた金額

(OITO**の対象

の影響のみを含

めます)。

OITO の対象外に

ある EU 措置につ

いて、EU 措置が

範囲内***にある

かのように記入す

べきです(EANCB

も同様)

企業が負担する

年間正味費用相

当 額 ( EANCB )

( 2009 年価格で

表示)

これらの区分の

適用免除につい

ては慎重な検討

を加える必要が

あります(SaMBA

指針を参照)

炭素予算に関

する指 針 を参

照してください

関 係 する影 響

評 価 の段 階 に

適 切 な文 言 が

選択されている

ことを確認してく

ださい

これらのグループ

が政策の範囲内

に入るかどうかを

記述してください

エビデンスを提示し、問題の性質(規模及び内容、発生の確率及び考

えられる頻度、誰に影響を及ぼすか、誰が問題を管理/解決するのに

最も適しているかを含む)を記述してください

政策の目的及び意図する効果、政策は何を達成することを目指してい

るかを明確に記述してください

この情報は政策策定過程及び影響評価書が公表される段階を通じて

変わる可能性があります。最初から非規制的オプションを検討すること

が重要です

Page 13: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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要約:分析及びエビデンス 政策オプション 1

説明:

全体経済評価

価格

基準年

PV

基準年

期間

正味便益(現在価値(PV))(£m)

低:任意 高:任意 最良推定値

費用(£m) 移行費用合計

(実質価格) 年数

年間平均費用

(移行費用を除く)(実質価格)

総費用

(現在価値)

低 任意 任意 任意

高 任意 任意 任意

最良の推定値

「影響を受ける主要なグループ」が被る金銭価値化された重要な費用の説明及び規模

最大 5 行以内

「影響を受ける主要なグループ」が被る金銭価値化されないその他の重要な費用

最大 5 行以内

便益(£m) 移行費用合計

(実質価格)年数

年間平均費用

(移行費用を除く)(実質価格)

総便益

(現在価値)

低 任意 任意 任意

高 任意 任意 任意

最良推定値

「影響を受ける主要なグループ」が受け取る金銭価値化された重要な便益の説明及び規模

最大 5 行以内

「影響を受ける主要なグループ」が受け取る金銭価値化されないその他の重要な便益費用

最大 5 行以内

重要な仮定 /感度・リスク 割引率(%)

最大 5 行以内

企業評価(オプション 1)

企業に対する直接影響(年額相当)(£m) OITO の対象内? 措置が該当するか?

費用: 便益: 正味: はい/いいえ IN/OUT/純ゼロコスト

現在価値基準

年:通常は推定

が行われる、また

は政策決定がな

される年

政策の有効期間

(年単位) 金銭価値化され

た便益合計額か

ら金 銭 価 値 化 さ

れた費用合計を

差し引いた金額

金銭価値化された費用・便益は£m で表

示すべきです

各政策オプションでは、1つの「分析及びエビデンス」ページを使用してください。1つの法案のうち複数の部分

を対象とする影響評価については、全体を要約する「分析及びエビデンス」ページを作成するのが良いでしょう

実質価格年

不確実性を反映

させるため、便益

と費用の推定値

に幅を設けてくだ

さい

これらは通常、措

置の実施に関係

して発 生 する一

過性若しくは一度

限 りの費 用 また

は便益です

最良の推定値を提供する必要があります。これは幅の

中で実際の結果となる確率が最も高い値となります

これらの枠では、「影響を受ける主要なグループ」が必ず

特定されるようにします

通常は市場価格に基づきます。状況に応じて定量化そ

の他の手法が用いられます

特定の産業、セクター、企業規模、社会集団、地域が関

係する可能性があります

貴省庁の最終勧告に用いられる費用・便益の推定値が特定の仮定によって

導き出されていないことを保証するために内容を精査する必要があります

これらは政 策 が

有効である間、毎

年反 復して発生

する費 用 と便 益

です(ただし、影

響の規模は時間

の経過とともに変

化)。これらは(政

策の有効期間全

体にわたり)年平

均 額 で表 示 され

ます

政策の有効期間

全 体 にわたって

発 生 する全 ての

費 用 ・便 益 を金

銭 価 値 化 し、現

在 価値に割り戻

した金 額 が記載

されます

上記の費用に関

するコメントを参

デフォルト割引率

は 3.5%

One-In, Two-Out 方法論に従います:直接的影響には、単なる直接的支

出以上のものが含まれます。制限を課すこと/機関の行動や提案(例え

ば、労働時間規則などを決定付ける)規則は、必ずしも直接的支出につ

ながりませんが、直接費用(何か異なる方法で行うことによって生じる機

会費用)を生じさせる影響があります

各政策オプションに関してこの情

報を提供し、表紙には最も好まし

い/選ぶ可能性が最も高いオプシ

ョンのみを反復して記入すべきで

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エビデンスベース(要約シート用)

省庁及び独立規制機関はエビデンスベースの構築方法について裁量権を有しています。しかしながら、

以下に掲げるポイントを含めることが望まれます。

□検討中の問題

□介入の論拠

□政策目標

□検討するオプション(何もしないというオプションを含む)の説明

□各オプションの金銭価値化した費用・便益及び金銭価値化しない費用・便益(管理負担を含む)

□影響評価に用いる分析のレベルを正当化する論拠とエビデンス(均整のとれたアプローチ)

□リスク及び前提条件

□企業が直接被る費用・便益の算出(OITO に従う)

□OITO の対象となる EU 措置については、OITO の対象外である EU 措置から得られる企業の NPV 及び

EANCB の数値

□広義の影響(提案が及ぼす影響を検討してください。影響評価ツールキットに記載されている質問が有

用です。本項目に関係する影響を文書化し、関係する特定の影響分析書(例:小規模・零細企業評価

及び公平性)を本テンプレートの別表として添付してください。)

□要約及び実施計画の説明書を添付した好ましいオプション

本セクションに挿入するテキスト(文章)

本ページの注記をエビデンスベース向けの文書に置き換えてください。

一貫したフォーマットを維持するため、スタイルをツールバーから選択してください。現在のスタイルで他の

文書からテキストを貼付けるためには、「フォーマットなしで貼付け」ツールバーボタンを使用することができま

す。

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” pp80-82, 2015.3

エビデンスベースでは、金銭価値化された費用・便益及び金銭価値化されない費用・便益の分析内容が正

当化される明確なエビデンスを記載することが特に重要です。費用と便益が用いられた数値と前提条件の

明確かつ透明性のある提示によって、どのようにして生成されたを明らかにしてください。

エビデンスベースでは、政策について詳細な知識を持たない利害関係者が容易に理解できるように作成す

べきです。

実行可能な全てのオプションを明確に説明し、好ましいオプションがある場合は、その明確な論拠を提供す

べきです。採用されないオプションを排除する理由を含めることは有用かもしれません。

分析の比例性に関する決定(例:特定の分析が実施されなかった理由)の要約を加えてください。

関係する法律や刊行物(以前に公表された影響評価書)のリンクを加えてください。

最大でも 30 ページを超えないようにすることを推奨します。

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(影響評価の精査の具体的な実施内容 3)

規制所管省庁の規制所管部門は、「Better Regulation Framework Manual」や財務省の

「The Green Book」などを踏まえた規制政策委員会意見書のエビデンス基準を理解し、

その基準に影響評価書が対応していることを確認する。また、規制所管省庁内のより良

い規制ユニットや規制政策委員会による影響評価の精査経験がある部署に相談すること

が必要である。

規制政策委員会は、影響評価の精査経験を踏まえ、共通テーマに基づく勧告を以下の

ように提示している。

□勧告1:規制を導入することが解決策だと思い込まないこと

□勧告2:全てのオプションを検討するために、時間と労力を惜しまないこと

□勧告3:実質的なエビデンスを確保すること

□勧告4:費用と便益の信頼できる推定値を提示すること

□勧告5:非金銭的影響を徹底的に評価すること

□勧告6:評価結果を明確に説明し、提示すること

□勧告7:規制が企業に及ぼす実際の費用を理解すること

規制所管省庁から規制政策委員会に影響評価書が提出されると、多段階評価プロセス

により精査を受けることになる。影響評価書は、規制政策委員メンバーと少なくとも2

人の事務局員(一般公務員と経済学者)に割当てられる。この体制により、提出された

影響評価書が「Better Regulation Framework」にしたがって作成されているかの共通理

解を作る。この内部の相互レビュープロセスを経て意見素案が作られる。

相互レビュープロセス後に、意見素案は全ての規制政策委員の同意を得る前に、委員

長と事務局長により署名される。

規制政策委員長は、規制政策委員会のコンサルテーション段階を経て、意見素案を正

式な意見とする。

「Better Regulation Framework」に示される各プロセスの段階は、2011 年から 2014

年当初に提出された 2,000 近くの規制政策委員会意見に基づき開発された仕組みであり、

規制所管省庁が規制措置について公正かつ一貫して検討することを意図している。

(影響評価の精査のタイミング)

規制政策委員会は、30 営業日以内に影響評価の精査を完了することを目指している。

しかしながら、規制政策委員会は提出される影響評価書の分量を管理することはできな

いため、取扱件数が最多となる(例えば、議会休会期、共通開始日または新規規制に関

3 Regulatory Policy Committee, ”The Regulatory Policy Committee scrutiny process” https://www.gov.uk/guidance/the-regulatory-policy-committee-scrutiny-process

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する報告書の公表時期が近付くタイミングなど)場合は遅延することもある。

影響評価書が複雑な分析を含んでいる場合、または複数の影響評価書(相互に関係し

ている)がほぼ同時期に提出される可能性が高い場合、規制所管省庁は影響評価書に関

する事前通知を提出することで、規制政策委員会は精査業務処理の見通しを立てること

ができる。例外的な場合として、規制所管省庁の提案書や影響分析が複雑となる可能性

が高い場合、影響評価書の提出に先立ち、当該提案書や焦点となる問題・分析内容を規

制政策委員会に通知するため、規制政策委員会事務局員との打合せを行うことも検討可

能である。

(「赤色」・「黄色」・「青色」評価の基準)

規制政策委員会は、影響評価の全ての側面に対するコメントを提示するが、影響評価

の実施段階に応じて、特定の基準に基づいて評価を行うよう、規制削減小委員会から要

請されている。

協議段階において影響評価は、全体の質に基づいて「赤色」、「黄色」、「青色」の評価

を受ける。

最終段階において影響評価は、「赤色」または「青色」の評価を受ける。この評価は企

業が負担する直接費用の評価(One-In, Two-Out(OITO:ある規制を導入する場合には、

その企業への費用増分の2倍の費用削減を伴う規制緩和を行う考え方)分類(該当する

場合)及び小規模・零細企業評価を含む)に基づき行われる。「青色」評価の場合でも、

規制政策委員会はその意見書の中で、影響評価の全体的な質について、目的に適合させ

るために対処すべき事項をコメントすることがある。これら規制政策委員会からのコメ

ントに対して、規制所管省庁は、規制削減小委員会に申請する前に対応することが求め

られる。

(規制政策委員会から「赤色」評価意見書を受領した場合)

規制政策委員会事務局員は、規制政策委員会が提示した意見書に関する規制所管省庁

からの質問に対して、電子メールまたは打合せにより回答する。規制政策委員会の「赤

色」評価意見書に対応した影響評価書を再提出する場合は、変更点が明確になるように

配慮することが求められる。

(規制政策委員会から「黄色」評価意見書を受領した場合)

規制政策委員会の審査結果が「黄色」となる場合は、影響評価書の技術的な小さな誤

りや記載内容に明確性が足りない場合である。規制政策委員会事務局員は、規制政策委

員会が提示した意見書に関する規制所管省庁からの質問に対して、電子メールまたは打

合せにより回答する。

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「黄色」評価意見書を受領した影響評価書は、意見書の中で提示された課題に対応す

ることを条件として「目的に適合している」評価としている。「黄色」評価意見書を受領

した場合、規制所管省庁は、規制政策委員会が提示した課題を検討し、影響評価書を修

正する必要がある。規制所管省庁が規制削減小委員会に承認を求めるレターを書く場合

には、意見書で提示された課題に対する対応方法をレターで説明することが求められる。

(規制政策委員会の精査(第三者評価)機能の効果 4)

規制政策委員会の精査(第三者評価)結果により、規制所管省庁が提出した費用との

差分が 5 億 8500 万ポンド(約 1,088 億円。1 ポンド=186 円で換算)となり、適正な費

用便益分析結果の導出に寄与している。精査にあたっては、人的資源や資金が必要とな

るため、資源を無駄遣いしないように重点分野を定め、担当者数及びランクを変更し精

査を行っている。影響が小さければ、若手経済学者1人だけで精査を担当することもあ

る。評価書の検証を行うためには経済学者の専門知識が極めて重要である。

規制政策委員会が精査した約 1,200 件の評価書(2011 年から 2014 年に実施されたフ

ァストトラックを除く完全な影響評価が精査対象)のうち、評価結果が「赤色」のまま

次の段階に進んでしまった 14 件は、政治的に前もって決定がなされていた案件である。

これら 14 件は、マスメディアに報道されて大きな問題となった。基本的に評価結果が「赤

色」になれば各規制所管省庁により修正され、再度規制政策委員会の審査を受けること

になる。

② ファストトラックの判断機能(規制トリアージ評価) 5

(ファストトラックの概要)

ファストトラックとは、規制緩和措置の迅速化や規制所管省庁の負担軽減を目的に、

規制政策委員会の措置に対する精査プロセスが軽減されるとともに、小規模・零細企業

評価や事後評価が免除される仕組みである。

ファストトラックは、図表 5の対象判定フローチャートにより利用可否が決定される。

その適用要件として、措置が(a)Red Tape Challenge(既存規制の見直し)に関係するこ

と、(b)年間の企業負担費用が 100 万ポンド(約1億 8,600 万円。1 ポンド=186 円で換

算)未満であること、(c)措置が EU の最低要件を超えないこと、などが挙げられる。(b)

に関して規制政策委員会は、規制トリアージ評価を通じて、OITO の対象となる全ての措

置に関する企業負担費用を認証する。

規制所管省庁は、Red Tape Challenge に該当する措置の場合、自動的にファストトラ

ックの対象となるため、規制政策委員会の確認書は不要であり、規制削減小委員会には

4 規制政策委員会インタビュー結果(別添資料) 5 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” 2015.3, pp22-24

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Red Tape Challenge に該当する措置であることを明示すれば良い。

規制所管省庁は、協議段階で規制政策委員会に規制トリアージ評価書(後述)を提出

する。規制政策委員会は、規制所管省庁にファストトラックの対象か否かを判断した結

果を確認書として戻す。その上で規制所管省庁は、規制トリアージ評価書と確認書を規

制削減小委員会に提出する。

ファストトラックの対象で、かつ OITO の対象となる措置は、年間正味費用相当額

(Equivalent Annual Net Cost to Business:EANCB)算出と OITO 確認のため、最終段

階で規制政策委員会に対して影響評価書(小規模・零細企業評価項目や事後評価項目の

検討は不要:図表 4の破線部分が免除)の提出が必要となる。その上で、規制所管省庁

は、影響評価書を規制削減小委員会に提出する。

ファストトラックの要件に当てはまらない措置は大規模な規制措置である。こうした

措置には、より多くのより良い規制フレームワーク(影響評価に関するエビデンスの収

集や小規模・零細企業の扱いに関する検討を含む)が適用される。

図表 5:ファストトラック対象判定フローチャート

措置は企業規制/規制緩和/企業規制に関係するか

措置は閣議合意を要求するか

措置はRed Tape Challengeの決定を実行するものか

各年において、企業負担費用は100万ポンド未満が

見込まれるか

措置はEUの最低要件を超えるものか

措置はファストトラックではなく、完全な影響評価を作成し、規制削減小委員会承認(コンサル

テーション段階・最終提案段階)を得る前に規制政策委員会意

見を取得する

措置はファストトラックの対象となり、規制政策委員会

確認書は不要

規制政策委員会はファストトラック対象として適切か

確認したか

措置はファストトラックの対象となり、規制削減小委員会承認(コンサルテーション段階)を得る前に規制政策委員会に対する規制トリアージ評価書の提出

と確認書の取得が必要

措置は規制緩和か

はい

いいえ

規制改善要件は非適用いいえ

はい

いいえ

いいえ

はい

いいえ

いいえ

はい

はい

はい

いいえ

はい

措置はOITOの範囲内か(詳細はOITOの対象範囲

フローチャート参照)

措置はEANCB算出とOITO確認のため、規制削減小委員会承認(最終提案段階)を得る前に、規制政策委員会に対する影響評価書(小規模・零細企業評価・事後評価の検討は不要)の

提出が必要

はい

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” p17, 2015.3 に

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ファストトラックプロセスにおいて提出すべき書類を富士通総研が追記

(規制政策委員会確認書:規制トリアージ評価の精査)

規制改革に関する措置がファストトラックの要件を満たしている可能性が高いと規制

所管省庁が考える場合には、規制政策委員会の確認書を取得する必要がある。この手続

きは、政策立案の早い段階で、かつ、閣議合意を求めるよりもずっと前に行う必要があ

る。

規制政策委員会の確認書は、ファストトラック手続が正確かつ一貫性を持って適用さ

れていることを第三者機関である規制政策委員会が保証するものである。規制改革に関

する措置がファストトラックの要件を満たしていることを規制政策委員会が同意しない

場合、規制所管省庁は、規制削減小委員会の承認を求める前に、完全な影響評価と規制

政策委員会の意見書が必要となる。

(規制トリアージ評価の具体的な実施内容)

規制所管省庁は、ファストトラック向けに提出された規制改革措置に関する詳細を規

制トリアージ評価フォーマット(図表 6)に基づき、規制政策委員会に提出することが

求められる。規制トリアージ評価確認書の一部として、規制政策委員会は、規制改革措

置が OITO の対象となる可能性が高いか否か、また後に規制政策委員会の認証を得る必要

があるか否か意見を提示する。

規制トリアージ評価は影響評価と異なり、通常は影響評価で取り上げられる問題を全

て含める必要はない。規制トリアージ評価の目的は、規制所管省庁の検討している規制

改革措置が、規制削減小委員会が設定したファストトラック基準を充足するか否かを規

制政策委員会が評価することにある。規制所管省庁は、ファストトラック基準に従い、

提案する規制改革措置が規制緩和に関係している、または低費用の規制であることを規

制トリアージ評価で示すことが重要である。

規制緩和措置の場合、規制トリアージ評価は現規制の対象範囲と効果及び提案してい

る措置によって発生する変化を定性的に説明する。規制トリアージ評価では、費用・便

益の詳細を提示する必要はない。規制所管省庁は、規制トリアージ評価プロセス後の段

階で企業が負担する EANCB 認証を申請する際に費用・便益の詳細情報を提供すれば良い。

低費用の措置の場合、提案が低費用となることを示した規制所管省庁の規制トリアー

ジ評価を裏付けるために、規制トリアージ評価には影響に関する評価を記載することが

規制所管省庁に求められる。規制トリアージ評価では、発生する可能性のある費用の規

模とともに、影響を受ける可能性がある企業の数を特定することが規制所管省庁に求め

られる。また規制所管省庁は、直接・間接費用を問わず総費用の合計額が低費用のしき

い値を超える可能性が低い理由を明確に提示することが必要である。規制政策委員会は

このしきい値を超える可能性が低いことを確認する。そのため、規制所管省庁は、エビ

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デンスとなる分析の一部と費用見積の説明書を提示するとともに、考慮すべき誤差の範

囲について提示することが求められる。100 万ポンドのしきい値に近い費用を伴う規制

改革措置については、費用が 1,000 ポンド単位の範囲にとどまる措置の場合よりも詳細

な説明とエビデンス情報が必要となる。

規制トリアージ評価では、 規制改革措置の OITO 分類に関する規制所管省庁の見方に

ついて説明することが求められる。

なお、無関係または不必要な情報が記載された規制トリアージ評価は、規制政策委員

会の処理時間がかかるため規制所管省庁への回答が遅くなり、制度全体の効率性を悪化

させてしまう。そのため、規制所管省庁内のより良い規制ユニットは、良質の規制トリ

アージ評価の事例を提供するよう求められている。

図表 6:英国における規制トリアージ評価フォーマット

規制トリアージ評価

規制改革提案名

代表する省/庁

実施予定日

対象となる法範囲 国内/EU/国際

日付

代表する省/庁連絡先

省庁による規制トリアージ評価 規制緩和(ファストトラック)/低費用規制(フ

ァストトラック)/些細な・機械的な(対象外)

介入するエビデンス/期待する効果のエビデンス ・簡単に、新たな規制案により介入するエビデンスと期待する効果のエビデンスをまとめてくだ

さい。

政策のオプション(規制の代替案を含む)

・積極的に検討されているオプションを設定します。ここには「何もしない」オプションを含ま

ないようにしてください。

初期の企業影響評価

・企業や市民セクターに対して、好影響または悪影響を与える見込みについて、以下の観点を踏

まえ説明してください。 □いくつかの影響範囲の定量化(例:影響を受けた企業の種類・数、課される追加的義務)

□影響は1回限りか継続するか

□影響に関連する費用見積(金銭価値化・非金銭価値化費用含む)

□全体費用の大きさ(可能であれば便益の大きさ)

One-in, Two-out の状態 ・提案が One-In, Two-Out 対象となる可能性があるか否かを説明してください。もし One-In,

Two-Out の対象外であることが期待されている場合、簡単に正統性を提示してください。

トリアージ評価のエビデンス ・ファストトラック評価ルートを選択する省/庁のエビデンスの概要を提示してください。

省庁署名: 日付:

経済学者署名(上級経済学者): 日付:

より良い規制ユニット署名: 日付:

支持するエビデンス

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以下の文章では、概要テンプレートの情報を支持するエビデンスを提供する必要があります。

多くの提案のため、約2~3ページで最大6ページを超えない範囲で支持するエビデンス情報を

提示してください。この文章は、以下の項目を含める必要があります。

1.政府が介入する政策課題とエビデンス

規制緩和提案は、その規制が現在存在する理由と影響について説明する必要があります。また

削除・廃止、簡略化された場合についてもその理由と影響について整理する必要があります。

低費用の提案は、対処しようとしている政策課題を設定してください。

2.政策の目的と意図する効果

規制や規制緩和の意図する効果を簡潔に説明してください。

3.考慮すべき政策オプション(規制の代替案を含む)

このセクションでは、積極的に検討されている主要な実行可能な政策のオプションを提示する

必要があります。任意の規制のオプションだけではなく、費用を最大化する規制のオプションを

含める必要があります。ここでは、「何もしない」オプションを含めるべきではありません。

4.予想される企業への影響水準

このセクションでは、企業や市民セクターに対して、好影響または悪影響を与える見込みにつ

いて説明しなければなりません。新しい提案が影響を与える対象範囲を明確にする必要がありま

す。

実行可能な政策のオプションの範囲があり、低費用規制措置については、企業に最も大きな費

用があるオプションを評価対象とすべきです。

積極的に検討されている主要な実行可能な政策のオプションを提示する必要があります。任意

の規制のオプションだけではなく、費用を最大化する規制のオプションを含める必要があります。

ここでは、「何もしない」オプションを含めるべきではありません。

特にこのセクションでは、以下の分析を行うための前提が含まれている必要があります。

□いくつかの影響範囲の定量化(例:影響を受けた企業の種類・数、課される追加的義務)

□影響は1回限りか継続するか

□影響に関連する費用見積(金銭価値化・非金銭価値化費用含む)

□全体費用の大きさ(可能であれば便益の大きさ)

□提案の可能性が高いOne-In, Two-Out状況の早期評価

定量化は、初期の段階では困難であり、またあいまいな精度で提供する試みとなります。影響

が確実に金銭価値化できない場合には、影響の定性的な説明が行われるべきです。鍵となる評価

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指標は、影響を受ける企業数です。

出典:Department for Business, Innovation and Skills“Regulatory triage assessment [form]”

https://www.gov.uk/government/publications/regulatory-triage-assessment-form

(規制トリアージ評価のタイミング)

規制政策委員会は、規制トリアージ評価書を受理してから 10 営業日以内に対応するこ

とを目指している。しかしながら、規制政策委員会は提出される評価書の分量を管理す

ることはできないため、取扱件数が最多となる(例えば、議会休会期、共通開始日また

は新規規制に関する報告書の公表時期が近付くタイミングなど)場合は遅延することも

ある。

(規制政策委員会の認証:ファストトラック措置に基づく EANCB 認証)

OITO の対象となるファストトラック措置に基づき最終段階の影響評価書を規制所管

省庁が作成した場合、最終段階の規制削減小委員会の承認前、または平行して認証を受

けるため、影響評価書を規制政策委員会に提出すべきである。規制政策委員会は、EANCB

と OITO ステータスを認証するために影響評価書に含まれている情報を利用する。規制政

策委員会は、影響評価書の他の部分にコメントすることはなく、正式な「目的に適合し

ている」旨の意見書を提出することもない。

最終段階の影響評価書をまだ作成しておらず、かつ提案措置が OITO の対象となる場合、

最終承認を求める前に「認証段階」の影響評価書の簡略版を作成する必要がある。認証

段階の影響評価書は、企業の費用と便益に関するエビデンス分析及び EANCB 算出を伴っ

た提案措置の概要を記載したもので、最終段階の影響評価書の簡略版である。この評価

書は、最終段階の影響評価書と同様の方法で認証を受けるために規制所管省庁から規制

政策委員会に提出することが求められる。

影響評価書を公表する場合、OITO ステータスと EANCB は規制政策委員会の認証を受け

る必要がある。

ファストトラック措置について相談し、最終段階での承認は不要であることに規制削

減小委員会が同意した場合、正式な協議期間が終了してから1か月以内に最終(または

認証)段階の影響評価書を規制政策委員会に提出し、承認を受ける必要がある。

C) 新規規制の表明のタイミング 6

(新規規制の表明の対象範囲)

新規規制に関する報告書(Statement of New Regulation:SNR)は、企業に規制変更

についての情報を与え、その規制緩和目標に関する政府の取組状況を追跡するための資

6 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3, pp12-15

Page 23: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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料である(なお、2015 年1月に公表された第9回で新規規制の表明は終了しており、今

後は議会に対する Annual Report を公表する予定である)。各報告書には、各規制所管省

庁が公表する前に規制政策委員会による認証を求めるべき費用とともに、規制削減小委

員会が各報告書期間内に含めることに同意した全ての規制改革措置を掲載している。各

規制所管省庁は、各報告書に含まれる措置の正確かつ完全な報告に責任を持つ。

報告書には、以下の項目が含まれる。

□One-In, Two-Out の対象となる全ての措置

□撤廃または改善された全ての Red Tape Challenge(既存規制の見直し)措置

□企業に対する規制または規制緩和全ての EU 由来の措置

□規制主体の政策に関する説明責任(Accountability for Regulator Impact Policy)

に基づき評価された規制所管省庁によって行われた変更の要約

(新規規制の表明に関する具体的な実施内容)

報告書に関する情報は、規制所管省庁ごとに提供される。提供義務のあるデータやタ

イミングは、規制所管省庁の規制所管部門に助言できるより良い規制ユニットによって

管理される。また、補足文書として規制政策委員会の意見書や影響評価書、主管委員会

からの最終政策承認レターを提供する必要がある。

各規制所管省庁が報告書に含めようとする措置は、通常の精査プロセス及び閣議合意

の対象となる。すなわち、措置を報告書内に含める前に、関係する内閣府委員会(通常

は経済問題委員会または内政問題委員会)から最終段階での政策承認を得る必要がある。

ただし、この承認を得ないで措置を報告書内に含めることができる明示的合意がある場

合はこの限りでない。

規制所管省庁は、全ての規制措置について、報告書の公表時点までに措置導入の準備

を整えておかなければならない。この一環として、影響評価書に関し、規制政策委員会

から「目的に適合している」という最終段階意見書を受領する必要がある。

その上で、措置を報告書に含めようとするために、規制所管省庁の規制改善担当大臣

は、当該規制所管省庁が報告書の対象期間内に導入しようとする全ての措置を掲載した

レターを規制削減小委員会に提出する必要がある。

影響評価書は規制削減小委員会が設定したその他の規制改善要件を遵守することが求

められる。規制削減小委員会は、規制負担の緩和に関する政府目標が達成されているこ

とを保証するため、英国政府全体の利益に重点を置いて承認を行う。

(新規規制の表明のタイミング)

報告書は、半年ごとの日程で、毎年7月初旬と 12 月中旬に公表される。これにより規

制所管省庁は、企業に影響を及ぼす措置について共通開始日(Common Commencement

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Date:CCD) 712 週間前に指針を公表する政府誓約を遵守できるようになる。

報告書は企業に6か月間(7月~12 月及び1月~6月)に遵守しなければならない

OITO の対象となる規制の変更に関する情報を提供する。

各報告書は、2011 年1月1日に開始された One-In, One-Out(OIOO)及び 2013 年1月

1日に開始された OITO の経緯情報を提供している。

D) One-In, Two-Out(OITO)制度の運用実態 8

(OITO の概要)

OITO 制度は、企業規制あるいは規制緩和などの新たな措置によって企業に課される新

たな正味費用1ポンドごとに、規制所管省庁は規制緩和措置によって得られる正味節減

額を2ポンド分作り込まなければならない仕組みである。

なお、2015 年5月に OITO は終了し、現在は実施されていない。

(OITO の対象範囲)

OITO は、規制削減小委員会の承認を必要とする措置の全ての変更・導入・撤廃・失効

に適用される。この規則は、以下図表 7のような適用免除措置がある。

7 新たな国内措置(規制強化・規制緩和に関係するものいずれも含む)は、毎年4月6日または

10 月1日を基準に施行する時期を定めたもの。規制変更について企業やその他利害関係者に通知

し、企業やその他利害関係者が新たな措置に備えて計画し、予算を立てるとともに、追加費用を最

小限に抑える支援機能を果たす。また、各大臣は政府の規制プログラムを一覧的に確認することが

できるようになる。 8 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3, pp41-48

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図表 7:OITO の対象範囲フローチャート

措置は企業規制/規制緩和/企業規制に関係するか

措置は閣議合意を要求するか

措置はEU規制・決定・指令を実施する(またはその他

国際義務を履行する)ものか

措置は緊急事態または金融システムリスクに関係しているか

措置の適用期間は12ヶ月未満か

措置はEUの最低要件を超えるものか

OITOの対象

企業に対する影響は純粋に間接的なものか

はい

いいえ

いいえ

はい

いいえ

いいえ

はい

はい

いいえ

いいえ

OITOの対象外

はい

はい

はい

措置は規制活動範囲内にある変更に関係しない料金・手数料

に関係しているか

措置は既存制度に対して行われる定期的調整に

関係しているか

措置は現行の「横出し上乗せ措置」を撤廃するものか

措置は早期に実施されているか

OITOの対象外

いいえ

いいえ

はい

はい

はい

はい

いいえ

いいえ

いいえ

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3, p43

(OITO に基づく措置の区分)

OITO には、イン・アウト・純ゼロコストという3つの措置区分がある。措置を区分す

る基準となるもので、各区分の概要は以下図表 8のとおりである。

図表 8:OITO に基づく措置区分

イン ・ある措置により、企業が負担する直接増分経済コストが企業の享受す

る直接増分経済便益を超過すること

アウト ・変更が規制緩和に関係しており、かつ企業が享受する直接増分経済

便益が企業の負担する直接増分経済コストを超過すること

純ゼロコスト

(いずれか)

・措置が規制に関係しており、企業が享受する直接増分経済便益が、企

業の負担する直接増分経済コストを超過すること

・措置により企業が負担する直接増分経済コストが、企業の享受する直

接増分経済便益に等しくなること

・企業が負担する直接増分経済コストも、企業が享受する直接増分経済

便益も、最終段階で金銭価値化できないこと

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3, pp43-44

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(OITO に基づく措置の記録時点)

規制(第1次立法(日本の法律にあたるもの)及び第2次立法(委任立法:日本の政

省令にあたるもの)に関するものを含む)の変更によるイン・アウト・純ゼロコストは、

関係法が施行・失効・撤廃される日から OITO に基づき記録される。

(競争重視措置)

競争を高める措置は、経済成長を推進し経済に便益を与える見込みがあるため、措置

が競争促進を目的とする場合、措置のうち競争に関係する影響は純ゼロコストとして記

録できる。

規制所管省庁が競争重視措置と分類するためには、影響評価書の中で以下の項目に肯

定的な回答を示す必要がなる。

□措置は競争を促進すると見込まれるか(以下例)

・持続可能な供給業者の数または範囲を直接的または間接的に増加・拡大する

・供給業者の競争力を強化する

・供給業者の競争を促進するインセンティブを高める

□純粋に競争の促進を見込むことができるか(すなわち、措置が基準の一部を満たす

としても、他に弱い部分を作らないか)

□措置の主要な効果は競争の促進か

□全ての効果が金銭価値化できない場合でも、純便益を期待することは可能か

競争重視措置の影響は、規制所管省庁が影響評価書を規制政策委員会に送付する際に、

影響評価書の中で競争重視措置とそうでない措置の影響について分けて整理する必要が

ある。その影響評価書の影響整理結果に基づき、規制政策委員会は、競争重視措置の影

響や措置を競争重視措置として認めるか否かを認証することが求められる。

競争重視措置として認証された影響は、影響評価書及び新規規制に関する報告書に記

録されている OITO の数値から除外される。

(企業が負担する年間正味費用相当額(EANCB))

規制所管省庁は、OITO に基づくインとアウトの価値を「企業が負担する年間正味費用

相当額(Equivalent Annual Net Cost to Business:EANCB)」を用いて算出する。

措置の EANCB は、現在価値に換算された企業が負担する年間正味費用現在価値を整理

する。EANCB は、措置が施行された日から適用され、影響評価の一環として算出される。

規制所管省庁は財務省の「The Green Book」に従い影響を定量化することが求められる。

なお EANCB やその他の影響評価書で必要な数値の導出にあたっては、表計算ソフトを

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用いた影響評価の計算フォーマットである「Impact Assessment Calculator」 9を活用す

ることで、簡便に計算が可能となっている(図表 9及び別添資料2参照)。

図表 9:Impact Assessment Calculator のイメージ Percentage Direct impact Option 5 Description of cost or benefit FIGURES SHOULD BE ENTERED IN £M BASED ON CALENDAR YEARS (i.e. 12 months to 31 December in each year)

impact on business? Year 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10on business YES/NO

Transition Costs Nominal Total Present Value Total100% YES Transition Cost - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Annual Costs100% YES Annual Cost 1 - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% YES Annual Cost 2 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 3 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 4 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 5 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Transition Benefits Nominal Total Present Value Total100% YES Transition Benefit - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Annual Benefits100% YES Annual Benefit 1 - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% YES Annual Benefit 2 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 3 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 4 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 5 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

出典:Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

(OITO による EANCB の削減効果の実態 10)

図表 7の OITO の対象範囲フローチャートを見ると、EU 規制を代表例として、多くの

適用除外規定がある。シンクタンク Reform のリチャード・ハリーズ氏は、2011 年から

2012年にかけて実施された年金制度改革及びこれら適用除外規定が EANCBの数値に大き

な影響を与えていると指摘している。

具体的には、図表 10のとおり、政府が公表している EANCB が破線であり、企業への

負担は減少しているとされているのに対し、1 つの法規制で大きな費用節約を達成した

年金制度改革を取り除き、対象外とされている EU 規制を追加し EANCB を計算すると実線

の水準となり、企業への負担は増加しているという指摘である。OITO 自体は一定の基準

としての意味を持つものの、大規模な制度改革や適用除外規定の要素を加味すると、総

量としての企業負担の緩和に必ずしも結びついていないと言える。

9 Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment

Calculator”https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3 10 Reform インタビュー結果(別添資料)及び Richard Harries and Katy Sawyer“How to run a country

the burden of regulation”,2014.12,pp16-20, http://www.reform.uk/publication/how-to-run-a-country-a-collection-of-essays/

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図表 10:政府による年間正味費用相当額の推計と年金改革を取り除き

EU 規制を追加した EANCB の推計(横軸:年、縦軸:EANCB(10 億ポンド))

出典:Richard Harries and Katy Sawyer“How to run a country the burden of regulation”, 2014.12, pp16-20,

http://www.reform.uk/publication/how-to-run-a-country-a-collection-of-essays/

(今後の OITO の位置付けの変化 11)

英国では前政権のもとで「One In, Two Out」(OITO)の方針に基づいて規制評価を実

施していたが、規制の遵守費用の削減目標は示していなかった。

現政権では OITO に代わって、5年間で 100 億ポンド(約 18.6 兆円。1 ポンド=186

円で換算)の企業における規制の遵守費用の削減目標(=Business Impact Target)を

打ち出している。この 100 億ポンドの目標は、前政権による規制の遵守費用の削減効果

が 100 億ポンド程度であったことを前提とした数値である。現政権では、削減目標の達

成手段として「One In, Three Out」(OI3O)を原則としている。ただこの OI3O はあくま

でも手段であり、実施が義務付けられているわけではない。

企業における規制の遵守費用の削減目標の実現に向けて、各規制所管省庁が所管する

規制の数や内容に応じて規制の遵守費用の削減目標を割り振っている。

E) 影響評価の対象の決定方法 12

(より良い規制フレームワークによる対象決定)

影響評価の対象の決定方法は、以下図表 11(国内措置)・図表 12(EU 措置)のフレ

ームワークに従う必要がある。より良い規制フレームワークは、企業規制・規制緩和、

企業規制に関係する措置に適用される。それ以外の場合、フレームワークは適用されな

い。企業規制・規制緩和、企業規制に関係する措置は全て規制削減小委員会の承認を必

11 より良い規制事務局インタビュー結果(別添資料) 12 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3,pp4-7

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要としており、その上で、措置は「新規規制に関する報告書」の中で公表されていた(2015

年1月の第9回まで)。

図表 11:国内規制措置におけるより良い規制フレームワーク

措置は企業規制/規制緩和/企業規制に関係するか

いずれかの年において、企業負担費用は100万ポンド未満が見

込まれるか

ファストトラック(詳細はファストトラック判定チャート参照)

はい

いいえ

規制改善要件は非適用

はい

いいえ

新規規制に関する報告書

共通開始日

One-In, Two-Out(OITO)(詳細はOITOの対象範囲

フローチャート参照)

規制政策委員会の認証

規制削減小委員会の承認

小規模・零細企業評価

サンセット及び検証条項

影響評価

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” 2015.3, p6

Page 30: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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図表 12:EU 規制措置におけるより良い規制フレームワーク

措置は企業規制/規制緩和/企業規制に関係するか

いずれかの年において、企業負担費用は100万ポンド未満が見

込まれるか

ファストトラック(詳細はファストトラック判定チャート参照)

はい

いいえ

規制改善要件は非適用

はい

いいえ

新規規制に関する報告書

EU規制の国内法化に関する原則

規制政策委員会の認証

措置はEU/国際要件を超えるか

規制削減小委員会の承認

サンセット及び検証条項

影響評価

One-In, Two-Out(OITO)(詳細はOITOの対象範囲

フローチャート参照)

いいえ

はい

出典:Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual” p7,2015.3

F) ビジネスイノベーション職業技能省及び個別規制所管省庁における取組

状況

① ビジネスイノベーション職業技能省・規制政策委員会における取組状況

(より良い規制に向けた全体方針 13)

先にも示したとおり、現政権では OITO に代わって、5年間で 100 億ポンド(約 18.6

兆円。1 ポンド=186 円で換算)の企業における規制の遵守費用の削減目標(=Business

Impact Target)を打ち出している。この達成手段として「One In, Three Out」(OI3O)

を原則としている。ただこの OI3O はあくまでも手段であり、実施が義務付けられている

わけではない。

(影響評価の効果と留意点 14)

影響評価を通じて費用や便益を企業や消費者に示し、オプションを提示できると考え

ている。より良い規制事務局では影響評価は企業における規制の遵守費用の削減を重視

しているが、社会的な便益は規制政策委員会が考慮している(ビジネスイノベーション

職業技能省における影響評価のプロセスは図表 13参照)。

13 より良い規制事務局インタビュー結果(別添資料)

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図表 13:ビジネスイノベーション職業技能省における影響評価プロセス

より良い規制ユニットがピアレビューによる評価実施

影響が5000万ポンドより大

規制所管部門との初期会議

規制所管部門との中盤会議

許可に向けた影響評価のより良い規制ユニット受取

政策形成会議

より良い規制ユニットによる影響評価番号の取得と影響評価管理表記録

ローカル上級経済学者の許可

より良い規制ユニットがチェックボックスによる評価実施

影響が5000万ポンドより小

主席経済学者の許可

より良い規制ユニットが規制政策委員会に影響評価を提出

規制政策委員会意見

より良い規制ユニットがコメント確認・会議設定

出典:National Audit Office”Submission of evidence:controls on regulation” p30,2012.9

https://www.nao.org.uk/wp-content/uploads/2012/09/controls_on_regulation_2012.pdf

費用便益分析の強みは、(a)統一的な単位を用いて異なる政策を比較可能であること、

(b)価値判断とは別に独立したエビデンスとして利用可能なこと、(c)複数の政策効果を

簡便に計算できること、などが挙げられる。一方、費用便益分析の弱みは、(a)便益を推

計するより費用を推計する方が容易であり、金融システムリスクなど特定の措置の阻害

要因となること、(b)間接的な効果をとらえることが困難なこと、(c)不確実性の考慮が

困難なこと、などが挙げられる。

費用便益分析の代替手段として、(a)要因の重み付けの導入や(b)質的分析の導入、(c)

感度分析・シナリオ分析の導入、(d)重要な利害関係者に対する影響を考慮することなど

に規制政策委員会として取り組んでいる。

金銭価値化について規制政策委員会は、人的資源や資金が必要となるため、資源を無

駄遣いしないように重点分野を定めた上で実施している。影響の大きさにより担当者及

び担当者数を変更している。影響がそれほど大きくなければ、経済学者一人だけで担当

14 より良い規制事務局・規制政策委員会インタビュー結果(別添資料)

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することもある。最低賃金の改定など大きな影響を与えるものは規制政策委員会事務局

でも合議で実施する。いずれにせよ、影響評価書の検証を行うためには経済学者の専門

知識が極めて重要である。

(規制運用管理の取組 15)

より良い規制運用事務局が担当する規制の運用管理では、様々な取組を通じて、規制

所管省庁の文化を変えることを重視している。良い規制を生み出すためには、リスクに

対して、企業界・市民に対し規制所管省庁が適切な手法で介入を行うことで、経済的・

社会的・環境的価値を生み出すことが重要である。

近年の英国での規制改革では、規制所管省庁の行動を規定する「Regulators’ Code」

の策定や非経済的規制所管省庁の行動を規定する「Growth Duty」の策定、規制所管省庁

の人材育成、リスク評価手法の共通化、企業を支援するため、信頼性のある助言を行い

企業からの相談を受け付ける主管当局制度や Business Reference Panel、 Better

Business for All などの企業の課題解決に向けた地域的アプローチなどを行っている。

「Regulators’ Code」は 2014 年4月6日に執行されており、関連する規制所管省庁

はこの内容に準拠した取組を行う必要がある。Regulators’ Code では、フレームワー

クやフォーマット、優良事例を提示している。この要素は、(a)成長を促すこと、(b)対

話を行うこと、(c)リスク管理を行うこと、(d)企業等からのデータ提供の極小化を図る

こと、(e)企業支援を行うためのガイダンスを活用すること、(f)全体を通じた透明性を

確保することなどである。ワークショップを行うことで、職員知識の向上を図っている。

「Growth Duty」では成長を促すための規制の重要性を明確化している。金融危機があ

ったことにより、説明責任や透明性を高めながら成長力を高めることの重要性を認識し

た。成長の要素は中小企業の従業員数などが指標として挙げられる。指標が乏しい分野

でも、どのように企業を支援できるかを検討している。

規制所管省庁は裁量が大きいため、より良い規制水準を維持することが重要である。

その た めに も 人 材 育 成 が 重 要 で、 数 年間 か けて 作成 し た共 通 の人 材能 力 基準

(Professional Standards for Competency)がある。4,000 以上の規制所管部門の活用

実績があり、この基準やそれに基づく教材は無料で利用できる。より良い規制運用事務

局が担当しており、各省庁の分野に応じた専門知識と助言方法や計画策定方法、IT スキ

ルなどのコアスキルを伸ばすための基準である。自分の保有している知識を恒常的に伸

ばすためにこの基準を活用することが重要である。人材能力基準について、資格制度や

認証制度はなく、自己評価が行われている。ただ、1年間でどの程度の研修を受けるか

は定められている。

リスクベースの評価に基づき、高いリスクに位置付けられた企業規制を中心に取り組

15 より良い規制運用事務局インタビュー結果(別添資料)

Page 33: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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んでいる。リスクによりモニタリングのタイミングが規定される。原子力などリスクの

高い分野は継続的なモニタリングを行うのに対して、リスクが低い分野は5年に1度の

モニタリングのタイミングになる。

企業の課題解決に向けた地域的アプローチについては、企業界の声を聞き、意見を反

映させる取組を行っている。61%の企業が、地方政府の規制による企業への影響の地方

政府の認識が不足しているとの調査結果が出ている。また7社のうち1社は、企業規制

が企業活動の最も大きな課題であると認識している。さらに、80%の企業が規制に従わ

ないとお客様との関係に影響があると認識している。

主管当局を定めた上で、中小企業等に対する規制の負担を減らしている。各地方政府

などが主管当局の収集したデータなどを活用できる仕組みとなっている。例えば、食品

業界で冷蔵庫の温度管理基準を満たしているか監査をする場合、主管当局が監査を行え

ば他の政府機関はそのデータを活用し監査を行わなくても良くなる仕組みである。

Business Reference Panel は、130 の企業・団体が関与し、全ての業界分野を網羅し

ている。この 130 の企業・団体は、全国 100 万の企業・団体を代表している。1年に4

回ワークショップ形式の会議を行う。

(既存規制の見直し・事後評価の重視 16)

既存規制の見直しに関しては、規制の数を減らすことを目的に、「Cutting Red Tape」

という活動を行っている。連立政権では、816 の規制を確認し、365 の規制を変更した。

「Cutting Red Tape」も含め、今後5年間で 100 億ポンド(約1兆 8,600 億円。1ポン

ド=186 円で換算)の規制費用の削減を目指している。

企業における規制の遵守費用の削減目標の実現に向けて、各規制所管省庁が所管する

規制の数や内容に応じて規制の遵守費用の削減目標を割り振っている。近年は事前評価

以上に事後評価(Post Implementation Reviews:PIRs)が重視されている。事後評価は、

規制導入時の目的が3~5年後にも所期の目的どおりに効果を発現しているか、予想外

の結果が発生していないかを判断する仕組みである。2011 年以降にファストトラック以

外で導入した規制に関しては、強制的に事後評価が行われる仕組みとなっており、1度

のみならず継続的に事後評価を実施することが定められている。現在、各省庁で実施に

向けた準備が進められている。10 月に発表された経済協力開発機構(Organization for

Economic Co-operation and Development:OECD)の規制アウトルックでは、英国の事前

評価は世界の中で最も優れたものと評価されているが、事後評価だけは2番目に位置付

けられている。事後評価でも1番となるべく取組をさらに進める予定である。

16 より良い規制事務局・運輸省・保健省インタビュー結果(別添資料)

Page 34: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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② 個別規制所管省庁における特徴的な取組状況

(環境食糧農村地域省 17)

環境食糧農村地域省が導入している他省庁と異なる仕組みは、規制の検討を行う前に

規制所管部門や経済学者、より良い規制ユニットが会議に参加する評価会議(Initial

Policy Appraisal Meeting)である。

規制所管部門からより良い規制ユニットに連絡があり評価会議を設定する。評価会議

を経なければ規制プロセスは次の段階に進むことができない仕組みとなっている(環境

食糧農村地域省における影響評価のプロセスは図表 14参照)。

図表 14:環境食糧農村地域省における影響評価プロセス

許可に向けた影響評価のより良い規制ユニット受取

規制所管部門公務員は影響評価が必要かアドバイス依頼

上級政策責任者と主席経済学者または次長または上級経済学者

のサイン

規制所管部門が規制政策委員会に影響評価を提出

規制政策委員会意見

必要に応じて、より良い規制ユニットが規制政策委員会と規制所管部門との会議設定

より良い規制ユニットによる影響評価のレビュー

規制所管部門による規制マネジメントツールのアップデートと

より良い規制ユニットによる影響評価番号の取得

出典:National Audit Office”Submission of evidence:controls on regulation” 2012.9, p29

https://www.nao.org.uk/wp-content/uploads/2012/09/controls_on_regulation_2012.pdf

イントラネット上には、環境食糧農村地域省における規制改革の方針や環境食糧農村

地域省独自の規制改革評価プロセスを掲載し、職員が情報を閲覧できるようにしている

(環境食糧農村地域省職員だけが見ることができる「Regulatory Evidence Portal」)。

他の省庁はこのような長いプロセスを経ていない。暗黙知となっていた環境食糧農村地

域省における全ての規制改革プロセスが形式知化されており、2015 年に構築した。

17 環境食糧農村地域省インタビュー結果(別添資料)

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規制所管部門が規制政策委員会に評価書を送付する前に4名の Regulation Manager

がチェックを行う。代替手段があるのか、全てのオプションが意味をなしているのかを

チェックする。

影響評価の第三者評価で「赤色」となった場合には、規制政策委員会と会議を行い、

何が問題なのか、修正可能か否かを話し合う。簡単な誤りであれば修正時間を確保する。

環境食糧農村地域省内で規制政策委員会に提出するまでの全てのプロセスで約9ヶ月

かかる。コンサルテーションは約2ヶ月かかることがある。コンサルテーションの主な

対象は利害関係者である。インターネットを通じて誰にでも開かれた形でコンサルテー

ションを行う場合(日本のパブリックコメントのようなイメージ)と、利害関係者と話

し合う場合がある。利害関係者と話し合うことでオプションが作られることもある。主

な利害関係者の話し合いが終わって、成案化の方向性が形成される。利害関係者間で利

害が対立することもある。海洋関係は特に利害関係が複雑であり、バランスをとること

に腐心した経験がある。

(運輸省 18)

運輸省の Better Regulation Reference Group は、陸上交通・海上交通・航空などの

各分野の専門家が集まって評価方法等を議論する会議体である。半年ごとに開催されて

いるが、必要に応じて打合せを行っている。この打合せは2段階に分かれており、上級

レベルと中級レベルに分けられる。上級レベルの打合せでは、法的課題や困難な課題を

中心に議論が行われる。このように強力な議論の仕組みを用いている省庁は他にないと

想定される。

運輸省では、企業や市民社会などを対象とした規制政策分野の全てを影響評価の対象

としている。中央政府の要件より高い水準となっており、重要と考えている。

規制政策委員会は外部の団体として影響評価をチェックする。内部のより良い規制ユ

ニットでも影響評価を確認するタイミングがある。政策担当者・経済学者・法律家など

が影響評価書を確認している。

運輸省の場合は一般の経済学者が実施し、重要度の高い案件を主任経済学者が担当し

ている。この仕組みはうまく回っている。批判の声が上がれば、相互レビューを行い、

影響評価の確認が徹底的に行われているかを検証する。これらの取組により、4~5年

前に規制政策委員会への提出時に 60%だった「青色」の割合は、近年は 90%に上昇して

いる(運輸省における影響評価のプロセスは図表 15参照)。

18 運輸省インタビュー結果(別添資料)

Page 36: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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図表 15:運輸省における影響評価プロセス

許可に向けた影響評価のより良い規制ユニット受取

規制所管部門公務員は影響評価が必要かアドバイス依頼

より良い規制ユニットによる影響評価番号の取得

より良い規制ユニットが規制政策委員会に影響評価を提出

規制政策委員会意見

より良い規制ユニットが規制政策委員会と規制所管部門との会議設定

より良い規制ユニットによる影響評価のレビューとサイン

より良い規制ユニットによる相互レビューのための経済学者割当

より良い規制ユニットが

コメントを確認

出典:National Audit Office”Submission of evidence:controls on regulation”2012.9, p31

https://www.nao.org.uk/wp-content/uploads/2012/09/controls_on_regulation_2012.pdf

影響については、交通という政策分野ということもあり、経済的側面や社会的側面か

らの評価も重視している。評価の方法については、省庁統一の「The Green Book」に加

え、運輸省独自の「Transport Appraisal Guidance」もある。影響評価の専門性は一定

程度高まったと考えており、現在改善を図っている対象は、事後評価に関する内容であ

る。ただ運輸省でも、影響評価において代替案が1つしか記載されていない問題を抱え

ている。

ファストトラックのケースは、より良い規制ユニットと経済学者の議論によって選別

している。初期の段階ではあまり情報がないため、基準となる 100万ポンド(約1億 8,600

万円。1ポンド=186 円で換算)よりずっと低い費用であることが確認できないとファ

ストトラックの対象とはなりづらい。以前はファストトラックの判定を規制政策委員会

が行っていたが、今は省内での専門性が高まったため自ら判定し承認を求めることがで

きる。

数値がなくてもファストトラックを使う場合もある。影響を受ける対象が少ない場合

など、例を出せる場合には規制政策委員会に 100 万ポンドに満たないことを証明する。

(保健省 19)

保健省では、一定の基準に基づいて影響評価を実施している。3年間合計の企業への

19 保健省インタビュー結果(別添資料)

Page 37: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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規制負担が 5,000 万ポンド(約 93 億円。1ポンド=186 円で換算)または年間 3,500 万

ポンド(約 65 億 1,000 万円。1ポンド=186 円で換算)未満のものは、影響評価を実施

するか否かは保健省で決定することができる。これらの基準を上回る場合には、完全な

影響評価を行わなければならない。ただ、費用が低くても国民の関心が高い規制であれ

ば、影響評価を実施することもある。

保健省内のイントラネットを使用し、規制所管部門等に対して情報提供を行っている。

規制所管部門の職員の研修などは、ビジネスイノベーション職業技能省等からの情報を

活用しながら実施している。保健省全体で政策の質向上を目指している。

(食品基準庁 20)

食品基準庁の場合、EU の規制が 90%の割合を占めており、独自で規制内容を決められ

る範囲は極めて小さいことが組織的特徴として挙げられる。求められる成果と一定の手

段は既に決まっているため、影響評価を行ってもあまり意味がない規制もある。エビデ

ンスをどのような形で収集するかが極めて重要である。影響評価を行う段階は、食品基

準庁が独立規制当局(Independent Regulator)ということもあり、影響評価は任意であ

り、政策議論が行われた後ということもある。経済学者や社会調査学者のチェックを加

えることで、より良い規制の品質を担保しようとしているが、必ずしも影響評価という

手段を活用しているわけではない。

EU 規制が大きな影響を及ぼすため、食品基準庁は中央省庁として英国を代表して交渉

する。英国の立場を影響評価により定量的に表明することも行っている。影響評価によ

るアプローチで議論をリードしており、EU 内で英国の提案は高く評価されている。90%

が EU 規制であるが、規制の実施方法はもう少し改善可能性があるため、影響評価を活用

する意義があると感じる。特に食品基準庁の影響評価では、社会的影響、特に消費者保

護や持続可能性の観点を重視している。

G) 近年の影響評価の質の変化と規制意思決定に果たす役割・影響の変化

(規制政策委員会による影響評価の質の評価)

近年の影響評価の質の変化は、規制政策委員会による精査結果から確認することがで

きる。初回影響評価時に「目的に適合している」旨の評価が得られた割合は、2010 年に

は 56%であったのに対し、2011 年には 72%、2012 年には 81%へと急増しており、その

後は微増減を繰り返している(図表 16)。

評価の質が 2012 年以降改善されていない理由を明確にすることは困難であるが、おお

よそ考えられる理由は以下の4点である 21。

20 食品基準庁インタビュー結果(別添資料) 21 Regulatory Policy Committee“Securing the evidence base for regulation Regulatory Policy Committee scrutiny during the 2010 to 2015 parliament”, 2015.3, p25

Page 38: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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□いくつかの省庁ではより良い規制原則が浸透していないこと

□困難な政策課題とオプションが増えていること

□2012 年から始まったファストトラックなどプロセス変更があったこと

□より良い規制プロセスにかける十分な時間がないこと

図表 16:当初段階における「目的に適合している」影響評価の割合

56%

72%

81%76% 78% 77%78%

83%80%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

2010 2011 2012 2013 2014 2011-2014

完全な影響評価 ファストトラック

出典:Regulatory Policy Committee“Securing the evidence base for regulation

Regulatory Policy Committee scrutiny during the 2010 to 2015 parliament” 2015.3, p25

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/

file/415102/2015_03_03_RPC_Annual_Report_2014_website_copy_revised_2015_03_19.pdf

なお、規制所管省庁別の結果を確認すると図表 17のとおりである。例えば、保健省

は初回影響評価時に「目的に適合している」旨の評価が得られた割合が 2011 年に 43%、

2014 年に 73%と急増しているのに対し、財務省は、2011 年に 89%、2014 年に 67%と急

減している。

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/415102/2015_0

3_03_RPC_Annual_Report_2014_website_copy_revised_2015_03_19.pdf

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図表 17:規制所管省庁別の当初段階における「目的に適合している」影響評価の割合

出典:Regulatory Policy Committee“Securing the evidence base for regulation

Regulatory Policy Committee scrutiny during the 2010 to 2015 parliament”2015.3, p27

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/

file/415102/2015_03_03_RPC_Annual_Report_2014_website_copy_revised_2015_03_19.pdf

(影響評価による規制意思決定の変化)

□意思決定に役立っているという指摘 22

影響評価による規制意思決定の変化については、英国では影響評価は政策の企画立案の

プロセスに組み込まれており、意思決定に役立っているという指摘がある。影響評価によ

り議会での議論も大きく変わっている。現在、議員が規制に関する議論をする際には、法

案と影響評価を両方見ながら議論しており、大臣だけでなく議会にも情報提供を行うこと

で、新しい議会の動きや文化を作っていくことも重要であるという意見があった。

□意思決定に役立っていないという指摘 23

一方、影響評価には(a)政策決定に影響を与えるもの、(b)形式的で時間の無駄のもの、

(c)政策決定にほとんど影響はないが透明性を高めるものという3つの種類があり、ほと

んどの影響評価は(c)に位置付けられ、現在も同様の課題を抱えているという指摘もある。

政治家の公約と影響評価の内容が異なると関心を持たなくなる。影響評価の内容を不服

と思えば無視する方法もある。大臣は、推量が多いことが課題と捉えているという。

英国においても影響評価は異なるオプションを比較するためには実施されていないと

いう。理想的には異なるオプションを比較すべきであるが、それを実現するための十分な

資源もないため、あまり実施されておらず、実施されたとしても省庁は導入したい規制案

22 リンジー伯爵インタビュー結果(別添資料) 23 ロッジ教授・ボールドウィン教授インタビュー結果(別添資料)

適合割合 数 適合割合 数 適合割合 数 適合割合 数 適合割合 数 適合割合 数 適合割合 数

安全衛生庁 91% 11 93% 15 86% 7 100% 4 100% 6 90% 10 92% 53

エネルギー気候変動省 82% 28 88% 25 100% 15 79% 14 73% 15 90% 10 85% 107

運輸省 77% 91 88% 50 89% 37 85% 47 83% 24 80% 45 83% 294

ビジネスイノベーション職業技能省 77% 75 84% 92 75% 36 84% 25 88% 49 84% 25 82% 302

財務省 89% 20 87% 15 66% 9 82% 11 67% 18 75% 12 79% 85

労働年金省 42% 12 83% 18 75% 4 100% 6 80% 5 100% 8 77% 53

環境食糧農村地域省 70% 69 84% 61 48% 19 71% 45 91% 11 91% 46 77% 251

教育省 86% 7 84% 37 67% 3 46% 13 50% 2 86% 14 76% 76

文化メディアスポーツ省 76% 34 82% 17 66% 9 67% 6 75% 8 80% 10 76% 84

コミュニティ地方政府省 69% 32 76% 29 60% 5 74% 34 100% 3 82% 23 75% 126

司法省 69% 32 76% 14 100% 4 80% 5 43% 7 78% 9 71% 71

その他府省 60% 10 63% 8 0% 0 86% 14 60% 5 70% 20 70% 57

内務省 50% 24 68% 31 61% 13 86% 14 50% 8 86% 14 66% 104

保健省 47% 19 68% 31 72% 7 73% 11 73% 11 69% 13 65% 92

合計 72% 464 81% 443 76% 168 78% 249 78% 172 83% 259 78% 1755

府省

2011年 2012年 2013年 2014年合計

完全な影響評価 完全な影響評価 完全な影響評価 ファストトラック 完全な影響評価 ファストトラック

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に誘導する傾向があるという。影響評価の便益部分は、最も重要なオプションのみに適用

しているのが実態という。

このようにインタビューでは、意思決定に役立っているという指摘と役立っていないと

いう指摘があったものの、少なくとも英国の影響評価が規制意思決定プロセスの中心に位

置付けられており、かつ議会での議論でも活用されているという意見からは、一定程度影

響評価が規制意思決定に役立っていると言える。

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第2章 英国における 1998 年以来の改革の歴史的経緯

A) 担当部局の変遷(内閣府から BIS へ) 24

1997 年に政権を獲得した労働党政権は、ブレア首相の下で、「規制緩和」の用語を使

用することをやめ、「より良い規制」という用語を使用するようになった。「規制緩和」

は不要な規制を撤廃することを意味するが、本来重要なことは「良い規制」は多くの人

の便益となる一方、「悪い規制」は多くの人の負担になることであり、後者を改めること

を強調する「より良い規制」という用語が使用されるようになった。

これを受け、内閣府の「規制緩和ユニット(Deregulation Unit)」は、「より良い規制

ユニット(Better Regulation Unit:BRU)」と組織名称を改めた。しかし、この1年後に

は「規制影響ユニット(Regulation Impact Unit:RIU)」という組織名称となっている。

このユニットは、(a)公平性と効率性のバランスは良いか、(b)規制ではなく目的が達成

できる代替案を考慮しているか、(c)関係団体へのコンサルテーションを広く実施してい

るかを明らかにする新しいプログラムを始めた。この取組は、大企業代表・中小企業代

表・市民団体代表・消費者団体代表等の外部委員で構成される「より良い規制タスクフ

ォース(Better Regulation Task Force:BRTF)」により支援されている。

この規制影響ユニットの設置とともに、規制所管省庁が新しい規制の提案を検討する

場合には必ず規制影響評価の実施を義務付ける仕組みを導入した。その過程で、遵守コ

スト評価(Compliance Cost Assessment:CCA)は規制影響評価に取って代わられた。

さらに説明責任を高めるため、1999 年には内閣府大臣を代表として、企業界の代表も

加わる「規制説明責任のための委員会(Panel for Regulatory Accountability)」が設

立され、より良い規制の達成状況についての報告が内閣府大臣に求められた。

2006 年1月に、より良い規制タスクフォースは、不要な規制や行政負担の削減、比例

性・責任・整合性・透明性・対象などの観点(以下 B)評価指針の改訂で詳述)を省庁

に助言する「より良い規制委員会(Better Regulation Commission:BRC)」に改組され

た。より良い規制委員会は、2008 年1月に閉鎖されると同時に、リスク規制諮問委員会

(Risk Regulation Advisory Council:RRAC)が 2009 年4月までの 16 ヶ月の期限で設

置された。また規制影響ユニットは、2005 年により良い規制事務局に置き換えられ、影

響評価の所管だけではなく、英国政府全体の「より良い規制」を推進するための役割を

与えられた。

2007 年、影響評価の審査は内閣府からビジネス企業規制改革省に移管された。1992

年当時の経済産業政策の所管省庁である貿易産業省から内閣府に審査担当が移管された

24 Richard Harries and Katy Sawyer“How to run a country the burden of

regulation”,2014.12,pp10-13, http://www.reform.uk/publication/how-to-run-a-country-a-collection-of-essays/

山本哲三『規制影響分析(RIA)入門』NTT 出版、2009 年、39-45 ページ。

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ことに対して、逆の流れの移管となっている。

ビジネス企業規制改革省は 2009 年にイノベーション大学技能省と統合され、ビジネス

イノベーション職業技能省と名称変更された。英国の企業環境をより効率化するための

規制等の在り方へと影響評価審査対象が移行した。これにより、規制以外のガイドライ

ンや行動規範も対象範囲となった。

その後の大きな変化は、2010 年総選挙前に設置された規制政策委員会である。規制政

策委員会は、リスク規制諮問委員会を引継ぎ、経済学者や企業経営者、市民社会代表な

どにより構成され、独立して影響評価の精査を行い、規制所管省庁に質の高い評価を促

すために作られた組織である。

B) 評価指針の改訂 25

英国における影響評価の焦点は主として、企業に対する官僚的形式主義を撤廃するこ

とにあるが、その「企業」で重視する観点は政権により異なる。

1998 年に、より良い規制タスクフォースは、より良い規制に関する一連の規制原則を

発表し、英国政府はこの規制原則を承認・奨励した。この規制原則とは、「比例性」・「責

任」・「整合性」・「透明性」・「対象」を指す。

「比例性」とは、規制所管省庁は規制が必要なときにのみ介入し、たとえ介入する場

合にもリスクやコストを特定し、最小限にすることを指す。「責任」とは、正しい決定を

行うことと多くの人たちのために見直しを行わなければならないことを指す。「整合性」

とは、既存の政府規則や基準に合致した公平な規制を導入することを指す。「透明性」と

は、広く開かれた単純で利用者に優しい規制の仕組みを維持することを指す。「対象」と

は、問題の要因に焦点を絞り、副作用を最小限にすることを指す。

そのほか、「より良い規制タスクフォース」は、非規制的手段を評価するスペクトラム

(分布範囲)を示した。このスペクトラムは、「何もしない」・「広報キャンペーンや教

育」・「市場活用」・「金融的誘因」・「自主規制」・「規範的な規制」の下位から上位の順に

並んでおり、上位スペクトラムの手段の検討の前には、下位スペクトルの手段の検討を

行うことが要請されている。

25 Richard Harries and Katy Sawyer“How to run a country the burden of

regulation”,2014.12,pp10-13,

http://www.reform.uk/publication/how-to-run-a-country-a-collection-of-essays/

京都大学経済研究所「規制評価に関する経済学的分析に関する研究報告書」、2010 年3月、182-183

ページ。http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou056/hou56.pdf

Better Regulation Executive“Reducing Regulation Made Simple”,2010.12,p5,

http://mbsportal.bl.uk/secure/subjareas/mgmt/bis/11999210-1155-reducing-regulation-made

-simple.pdf

Regulatory Policy Committee“Securing the evidence base for regulation Regulatory Policy

Committee scrutiny during the 2010 to 2015 parliament”, 2015.3, pp35-38

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/415102/2015_0

3_03_RPC_Annual_Report_2014_website_copy_revised_2015_03_19.pdf

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導入された規制影響評価では、企業への影響だけではなく、慈善団体や市民団体など

の影響も考慮するよう示された。規制所管省庁は、規制のリスクとともに、何もしない

ことや非規制的手段を含む利用可能なオプション、経済・社会・環境に対する費用・便

益を整理することが求められた。

2000 年には、英国政府が新しい規制影響評価のガイドラインを発表した。規制プロセ

スで中小企業への配慮がなされるよう、中小企業を規制負担から守るため、中小企業サ

ービス庁が創設された。

2001 年規制改革法により、規制相互の矛盾を発生させている第1次立法の見直しが可

能となり、2003 年末までに 240 の規制緩和が実現した。

2005 年にはより良い規制タスクフォースが「Regulation- Less is More」というレポ

ートを政府に提出した。このレポートでは、(a)規制影響ユニットは規制の影響を受ける

企業やその他利害関係者からの「より良い規制」提案を受け付ける仕組みを開発すべき

であること、(b)One-In, One-Out 原則と呼ばれる1つの規制導入の際には、それに相当

する規制緩和を実施すべきであること、が重要な推奨事項として挙げられた。

2005 年には Hampton Review により「中小企業は依然として不釣合いな規制負担に直

面しており、各種手続き等規制の企業負荷を限定的にすべき」との勧告を受け、英国政

府は、同年に規制改革プログラムを開始した。企業や市民セクターに課する行政からの

負担を 2010 年3月までに 25%削減することを約束し、年約 33 億ポンド(約 6,138 億円。

1 ポンド=186 円で換算)の節減を目標とした。

規制影響評価は、英国商業会議所等からの累次の制度変更により評価の対象範囲が拡

大していった。そのため、対象範囲の拡大等に伴う規制影響評価の有効性に対する批判

に対応し、2006 年に影響評価プロセスを見直した。

2007 年には、より透明性を促進し、政府による新規の介入が規制等の費用よりも優る

ことを確保する目的に合致した以下のプロセスの改善が図られた。

□意思決定に関する更なる説明責任と透明性を促進する評価書テンプレートの導入

□ガイダンス項目の短縮化

□3つの政策オプションの提示を要件とすることを撤廃

□各省庁大臣と首席エコノミストの評価書への署名

□政策の費用便益に関連する以外の事業面、社会面、環境面に係るインパクトを盛り

込む義務を撤廃

□規制影響評価(Regulatory Impact Assessment)から影響評価(Impact Assessment)

への変更

2010 年 12 月には、より良い規制事務局が「Reducing Regulation Made Simple」を発

表し、英国全体の経済成長や個人の自由と公平性の担保をより持続可能なものとするた

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め、包括的な規制の見直しを行うことを表明した。その方針は以下のとおりである。現

状の規制の政策評価に関する大枠はこの段階で形成された。

□EU 法も含めた規制の検証実施

□規制課題に関する決定に規律と透明性を担保する意思決定構造の構築

□既存規制に対する厳しくより効果のある精査方法の実施

□第三者による精査と会計監査による規制の質向上の担保

これを踏まえ 2010 年には、全ての規制提案に対する規制政策委員会の精査制度導入と

ともに、One-In, One-Out 制度が導入された。2011 年には、規制政策委員会の「赤色」

「黄色」「青色」の採点システムが導入されるとともに、中小企業への猶予や Red Tape

Challenge も開始された。

一方、規制の政策評価改革の矢継ぎ早の流れに対して、規制所管省庁は規制政策委員

会による影響評価書の精査を受けるため必要となる膨大な時間コストに関する懸念を表

明した。これを踏まえ、重要な規制提案に焦点を絞るファストトラック制度が 2012 年8

月に導入された。

2013 年には、One-In, One-Out 制度に代わり、One-In, Two-Out 制度が導入されると

ともに、規制の事後評価(Post Implimentation Reviews:PIRs)が導入された。規制の

事後評価は、規制導入時の目的が3~5年後にも所期の目的どおりに効果を発現してい

るか、予想外の結果が発生していないかを判断する仕組みである。また中小企業に対す

る 規 制の 影 響 緩 和 に 向 けた 小 規 模 ・ 零 細 企業 評 価 ( Small and Micro Business

assessment:SaMBA)も導入された。

C) 会計検査院による第三者評価の実施 26

会計検査院では、過去に年次的に影響評価書を数件程度抽出してケーススタディを報

告していた。会計検査院による第三者評価(メタ評価)の実施という意味では、2009 年

に実施された調査が該当する。この調査は、2006 年と 2008 年に公表された影響評価書

全体の傾向を整理・分析し、2007 年の影響評価ガイドライン改正の効果を確認するため

に実施されたものである。その結果の概要は以下のとおりである。

□結論の明確性や規制運用時の課題の検討、費用便益の分析(定量化)は改善傾向

・費用に関して定量化(金銭価値化を含む)した影響評価書の割合は、56%(2006 年)

から 67%(2008 年)に増加し良化傾向

26 National Audit Office“Delivering High Quality Impact Assessment”, 2009.1, pp5-6 https://www.nao.org.uk/wp-content/uploads/2009/01/0809128.pdf 及びボールドウィン教授イ

ンタビュー結果(別添資料)

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・便益に関して定量化(金銭価値化を含む)した影響評価書の割合は、40%(2006 年)

から 60%(2008 年)に増加し良化傾向

□小規模事業者への影響の考慮やコンサルテーションの利用はそれほど変化なし

□適切なオプションの考慮は悪化傾向

・代替案において費用分析を実施している割合は、42%(2006 年)から 19%(2008

年)に低下し悪化傾向

・代替案において便益分析を実施している割合は 30%(2006 年)から 19%(2008 年)

に低下し悪化傾向

なお、会計検査院は 2009 年以降、影響評価に対するメタ評価を実施していない。その

理由は、政府全体が影響評価を改善することよりも、影響評価という手法にこだわらず

規制緩和を行うことを重視したためであり、会計検査院の影響評価に対するメタ評価の

役割が低下したと言える。政府全体の方針とともに、会計検査院自体も影響評価自体に

はそれほど関心がなくなったと言える。

その後、影響評価に関する第三者評価は、規制政策委員会により実施されている(第

1章 G)近年の影響評価の質の変化と規制意思決定に果たす役割・影響の変化に詳述)。

D) 規制政策委員会の設置 27

規制政策委員会は、2009 年 11 月に設置されており、2009 年 12 月から 2010 年5月ま

での間、規制政策委員会は、コンサルテーションの対象となった規制提案の影響評価を

選択的に精査しており、分析方法やエビデンスに関する主要な課題について意見を提示

していた。

その後、2010 年の総選挙後に、英国政府は規制政策委員会の影響評価の精査の役割を

強化した。2010 年8月から、内閣の規制削減小委員会への規制提案の承認を求める前提

として、全ての規制提案の影響評価書を精査し、「目的に適合している」旨の第三者評価

を実施する役割が付与された。

加えて、規制政策委員会は、規制提案に関係する費用と便益の見積を検証する役割を

与えられた。この役割は、One-In, One-Out 制度や One-In, Two-Out 制度のエビデンス

データを検証するものであり、これらの制度導入にあたって、必要不可欠な役割となっ

ている。

2011 年には、「赤色」「黄色」「青色」の採点システムが導入され、規制政策委員会の

第三者評価がより分かりやすく表明されるようになった。

27 Regulatory Policy Committee“Securing the evidence base for regulation Regulatory Policy

Committee scrutiny during the 2010 to 2015 parliament”, 2015.3, pp34-35

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/415102/2015_0

3_03_RPC_Annual_Report_2014_website_copy_revised_2015_03_19.pdf

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2012 年に規制政策委員会は、諮問型政府外独立公共機関( independent advisory

non-departmental public body: NDPB)となり、独立性を高めている。

E) One-In, One-Out(OIOO)制度の開始 28

2010 年に保守党と自由民主党の連立政権が発足し、連立政権の協約を作成した。過去

には中央政府の規制や規則によってのみ人々の行動を変えることができるとの前提があ

ったが、連立政権では、規制や規則が経済成長や市民社会に対する大きな障壁となって

いることを認識し、人々により良い選択を促すための賢い規制緩和を行うことが重要な

テーマとなることを確認している。その戦略は以下のとおりである。

□成長を妨げる不必要な既存規制の削除や簡素化の実施

□規制は最終手段であることを前提とした新規規制導入の総量減少

□残りの新規規制導入時の規制の質向上

□対象の明確化やリスクを踏まえた利害関係者への負担の少ない省庁執行体制の確立

これらの具体的手段の1つとして開始された OIOO 制度は、規制を導入するときには等

価のアウト(費用を帳消しにするだけの規制緩和)が求められる仕組みである。その後

2012年には OITO制度が開始された(One-In, Two-Out 制度については、第1章 D)One-In,

Two-Out(OITO)制度の運用実態で詳述)。

F) Behavioural Insight Team との関係

① Behavioural Insight Team の概要と役割 29

Behavioural Insight Team(行動洞察チーム)は、行動科学を起点とした調査研究及

び関連するフレームワークを政府に提供する世界初の研究ユニットであり、開設4年目

にして、内閣府から外部機関(社会目的企業)へと移行し、世界各地の政府・関係機関

のコンサルティングを実施している(内閣府とは現在も連携している)。

Behavioural Insight Team が実施している調査対象は小さいが、公務員の考え方を変

えることに成功している。今までの公務員の考え方は、資金を提供するか規制するかで

あった。現状は、資金を提供せず規制をせず目的を達成するという考え方が浸透してき

た。賢い規制(Intelligent Regulation)も関連しており、法律ではなく技術を活用し

目的を達成する考え方である。

非規制的手段は、影響評価の対象外ではない。これまでは行動を予測することを公務

28 HM Government“One-in, One-out: Statement of New Regulation”, 2011.4, p3

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/31617/11-p96a

-one-in-one-out-new-regulation.pdf 29 Reform インタビュー結果(別添資料)

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員は恐れてきた。例えば税制によって勤労意欲が変化するか否か、行動洞察チームが実

際に実験を実施し、エビデンスを出していることが重要である。数値を「3」などの定

数として言い切るのではなく、「2.5-3.5」の範囲として示すことが重要である。

② 環境食糧農村地域省における非規制的手段の活用 30

環境食糧農村地域省では、他の省庁と比較し EU 規制が極めて多いため非規制的手段

(ナッジ:行動科学の知見の活用)を活用することは難しい。もちろん可能性がある場

合には規制所管部門に戻している。漁業規制は自主規制などを優先し、それで対応不可

能であれば規制となる。他省庁で言えば、労働年金省(Department for Work and Pension:

DWP)や運輸省などでは活用可能性がある。例えば、駐車違反の罰金の通知書に違反車両

の写真を合わせて掲載することで、罰金の支払を促す可能性がある。保健省は、病院を

予約していたにもかかわらず診察に行かない場合の費用を明示することで、病院予約を

慎重に行うよう促す可能性がある。

規制がポジティブな側面に働く場合もある。例えば、労働年金省が企業規制として雇

用に関する規制を撤廃しようとした際に大企業は否定的だった。雇用規制を緩和すれば、

長時間労働の恒常化など悪影響が大きくなるおそれもあり、長期的な利益を考慮すると

規制緩和はマイナスになるのではないかという理由だった。

③ エネルギー気候変動省における非規制的手段の活用 31

規制は市場の失敗を補うものであり、最終的な方法であると認識している。このため、

エネルギー気候変動省のより良い規制ユニットでは自主規制など非規制的な方法が重要

であると考えている。

G) RIA から IA への名称変更の背景や影響 32

名称変更は、英国の企業環境をより効率化するための規制以外のガイドラインや行動

規範も対象範囲化したことにより、Regulatory の文言を除外した。

RIA から IA へと変更されたことによる影響評価プロセスの変更(影響)は、以下の5

点に集約できる。

(a)要約書の作成

政策のエビデンスや政府介入の理由、費用便益について、RIA では 150 ページにも

及ぶ膨大な書類準備が必要とされ分かりづらくなっていた評価書に対して、IA では要

30 環境食糧農村地域省インタビュー結果(別添資料) 31 エネルギー気候変動省インタビュー結果(別添資料) 32 山本哲三『規制影響分析(RIA)入門』NTT 出版、2009 年、39-45 ページ。及び(財)農林水産

奨励会農林水産政策情報センター「規制影響評価に関する調査研究最終報告書」、2008 年、24-26

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約書の作成を義務付け、透明性の高い凝縮された情報提供を促した。

(b)大臣署名回数の増加

RIA では、担当大臣の署名は議会への法案提出前の最終段階のみであったが、IA で

は、利害関係者とのコンサルテーション前にも担当大臣の署名を求めた。その理由は、

コンサルテーション前に担当大臣が IA 内容を理解していることを明確にするためで

ある。

(c)省庁経済学者の関与

専門家による相互レビューとして、担当大臣に IA 案を説明する前段階から、省庁所

属の経済学者に相談することを義務付け、大臣への適切な助言を促し、エビデンスに

基づいた政策形成を意図した。

(d)IA 作成段階の増加

RIA では、初期・中間・最終の3段階で影響評価書の作成が義務付けられていたが、

IA では、立案段階・オプション検討段階・コンサルテーション段階・最終提案段階・

事後評価段階の5段階で作成することを求めた。事後評価段階は政策実施後の事後評

価段階で当初想定していた費用便益や政策の意図する効果が発現しているかを確認す

る仕組みであり、RIA にはなかった新たな考え方である。

(e)政策の施行についてのハンプトンの原則の考慮

2005 年に発表されたハンプトンの原則は、企業負担を減らしながら規制効果を保つ

ことができるかを整理した原則であり、RIA での言及はなかったが、IA ではリスクア

セスメントの利用や利害関係者との協議を重視すること、企業からの情報提供、新規

規制の運用方法に関する考慮、介入原則などについて言及されており、考慮すること

が求められた。

ページ。http://www.maff.go.jp/primaff/kenkyu/gaiyo/pdf/146.pdf

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第3章 英国における規制の影響評価の優良事例

A) 規制の影響評価の優良事例収集の観点

規制の影響評価の優良事例収集にあたっては、以下の観点を基本として整理を行った。

① 影響評価における定量・定性評価の質が高い事例

多くのエビデンスに基づいて金銭価値化を行うなど、影響評価における定量評価の質

が高い事例は、影響評価手法自体の優良事例として位置付けることができる。

また、安全性など定量化が困難な指標に対して、事故件数など可能な限り定量化を行

うとともに柔軟に定性評価を取り入れるなど、影響評価における定性評価の質が高い事

例は、影響評価手法自体の優良事例として位置付けることができる。

② 影響評価における規制政策委員会の差戻し機能が有効に機能している事例

規制政策委員会から代替案がオプションとしての意味をなさないとの指摘を受けた規

制所管省庁がオプションの再検討を行った事例は、第三者機関である規制政策委員会の

差戻し機能が有効に機能している優良事例として位置付けることができる。

また、規制政策委員会から算定した便益が過剰であるとの指摘を受けた規制所管省庁

が便益の再推計を行った事例は、第三者機関である規制政策委員会の差戻し機能が有効

に機能している優良事例として位置付けることができる。

B) 規制の影響評価の優良事例 33

① 自動車税の自動車本体表示義務の廃止(運輸省) 34

(本事例の概要)

影響評価における定量・定性評価の質が高い事例として、運輸省と運転車両免許庁

(Driver and Vehicle Licensing Agency: DVLA)が実施した自動車税の自動車本体表示

義務の廃止の影響評価を挙げることができる。自動車税の自動車本体表示義務は、過去

には車両が「課税された」ことを示す迅速かつ透明性の高い方法であった。しかし、2004

年以降、運転車両免許庁はカメラとオンライン情報システムを利用した仕組みを導入し

たことにより、自動車課税状況を毎月情報システム上で確認できるようになっている。

そのため、自動車税の自動車本体表示義務は、自動車所有者や企業に対して不要な負担

を課す形となっており、2013 年秋に廃止が表明された。

政府が実施可能なオプションは、(a)自動車税の自動車本体表示義務を廃止する、(b)

何もしない、の2つであった。影響評価の結果によると、10 年間の正味現在価値合計は、

33 運輸省・保健省インタビュー結果(別添資料参照) 34 Abolition of the Tax Disc (IA No: DfT00289) http://www.legislation.gov.uk/ukia/2014/426/pdfs/ukia_20140426_en.pdf

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228.59 百万ポンド(約 425 億円。1 ポンド=186 円で換算)、企業に対する正味現在価値

は 73.53 百万ポンド(約 137 億円。1 ポンド=186 円で換算)、1年間に企業が負担する

正味費用はマイナス 6.72 百万ポンド(約 12.5 億円。1 ポンド=186 円で換算)と推計さ

れた。この影響評価結果から、自動車税の自動車本体表示義務を廃止することにより、

社会全体及び企業の効用を高め、企業に対する負担削減につながることが判明し、規制

廃止が決定した。

(本事例の優良要素)

この優良事例は、政府全体が紙の削減に取り組んでいる規制改革の方向性とも合致し

ている。また多くのコンサルテーションを行い、企業以外の対象にも影響を与えた事例

として位置付けられる。コンサルテーションでは、全体の中で大きな割合を占める英国

車両レンタル・リース協会(British Vehicle Rental and Leasing Associattion: BVRLA)

に対する効果を中心に整理している。英国車両レンタル・リース協会は、200 万台の車

両を保有し、車両レンタル・リース業界の 95%を占める団体であった。この義務の廃止

により、英国車両レンタル・リース協会では会員企業全体で 7.5 百万ポンド分(約 14

億円。1 ポンド=186 円で換算)の管理費用を削減できると推計した。

影響評価においては、金銭価値化も実施し、多くのエビデンスを盛り込んでいる。例

えば、政府の便益では、(a)納税表示の印刷・管理費用や(b)郵送費用、(c)職員人件費、

(d)郵便局人員費用などが計上されている。また、英国車両レンタル・リース協会の便益

では、(a)会員企業への納税表示郵送費用・職員人件費や(b)車両消費税の還付のための

納税表示郵送費用・職員人件費、(c)郵送過程で失われた納税表示再取得・郵送費用・職

員人件費などが計上され、それぞれの対象台数や単価が示されている(その他企業や市

民社会に対する便益も同様の手順で計上されている)。

② トラクターの重量・速度規制の緩和(運輸省) 35

(本事例の概要)

影響評価における定量・定性評価の質が高い事例として、運輸省が実施したトラクタ

ーの重量・速度規制緩和の影響評価を挙げることができる。農業用トレーラーの最大総

重量は 18.29 トンであり、トラクター・トレーラー・積荷を合わせた最大総重量は 24.39

トンであった。またトラクターの公道上の制限速度は、毎時 20 マイル(約 32 キロ)で

あった。農家は重量制限が厳しい中で重い積荷を載せるため、小さな軽いトラクターを

使用していた。また制限速度の低さが農家に不要な負担を引き起こすことが想定された。

35 Increasing the agricultural tractor and trailer speed and combination weight limits (IA No: DfT00299)

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/402574/final-

impact-assessment-tractor-speeds-weights.pdf

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そのため、重量・速度規制緩和による費用便益を分析する必要があった。

政府が実施可能なオプションは、(a)重量制限を 31t に引き上げるとともに、制限速度

を毎時 25 マイル(約 40 キロ)に引き上げる、(b)何もしない、の2つであった(なお、

この重量制限・制限速度は EU 規制を参照している)。影響評価の結果によると、10 年間

の正味現在価値合計は、591.96 百万ポンド(約 1,101 億円。1 ポンド=186 円で換算)、

企業に対する正味現在価値は 656.34 百万ポンド(約 1,221 億円。1 ポンド=186 円で換

算)、1年間に企業が負担する正味費用はマイナス 57.13 百万ポンド(約 106 億円。1 ポ

ンド=186 円で換算)と推計された。この影響評価結果から、トラクターの重量・速度

規制を緩和することにより、社会全体及び企業の効用を高め、企業に対する負担軽減に

つながることが判明し、規制緩和が決定した。

(本事例の優良要素)

この優良事例では、企業にとってトラクターの重量・速度規制緩和は好ましい規制緩

和内容であるが、安全性が問題となる。金銭価値化可能な費用便益分析として、便益は

規制緩和に伴う農家の時間節減効果、費用はトラクター重量増に伴う道路補修費用の増

加を整理している。

一方、重量・速度規制緩和により大きな影響を受ける安全性に対する定量化が困難で

あったため、定性分析で影響評価を実施した。重量に関しては、重量規制を緩和するこ

とで、過積載が減少することやトラクターとトレーラーの重量バランスが改善しブレー

キの制動力が高まること、トラクターの移動量が平均 11%(最大月 18%)減少すること

などが想定されるため、安全性は高まるとしている。速度に関しては、速度規制緩和を

行っても実際の速度上昇は時速 0.94 マイル(約 1.5 キロ)と推定されることや一般車と

の速度制限の差が小さくなることで一般車が無理な追越しを避けるようになることが想

定されるため、安全性は高まるとしている。その中でも事故件数など定量化できる部分

はできるだけ定量化を行っている。具体的には、トラクターの交通死亡事故件数は過去

5年間で 85 人(交通死亡事故件数全体の1%)であり、2000 年以前の5年間と比較し

トラクターによる交通死亡事故が 30%減少していることを示している。

トラクターの重量・速度規制緩和は、企業にとって生産性が向上するため、コンサル

テーションでも全体的に規制緩和に前向きな意見が多く見られた。運輸省では、規制緩

和に関する影響評価で最も優良な事例として位置付けている。

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③ たばこパッケージの表示規制の強化(保健省) 36

(本事例の概要)

影響評価における定量・定性評価の質が高い事例として、保健省が実施したたばこパ

ッケージの表示規制の影響評価を挙げることができる。喫煙は英国全体の公衆衛生の最

も重要な課題の1つであり、英国人の早期死亡の主要原因となっている。若者の喫煙の

防止や受動喫煙の防止のための成人喫煙者の禁煙は困難な課題となっている。ある研究

の成果によると、たばこ製品の標準化されたパッケージは、たばこ製品の魅力を減らし、

健康警告の有効性を増加させることが示唆されている。また喫煙に対処することで社会

経済的・健康格差を縮めることができると想定される。そのため、たばこパッケージの

表示規制導入を前提に費用便益を整理した。

最終段階で示された政府が実施可能なオプションは、(a)2016 年の EU たばこ製品指令

を導入する(英国政府として何もしないオプション)、(b)固有のブランド表示を撤廃し、

健康警告や税スタンプなど標準化されたパッケージの色や形状、書体でブランド名を表

示する、(c)オーストラリアで実施された簡素パッケージ導入のエビデンスがより多く提

示されるまで表示規制の決定を延期する、の3つであった。最終段階の影響評価の結果

によると、(b)固有のブランド表示を撤廃し、健康警告や税スタンプなど標準化されたパ

ッケージの色や形状、書体でブランド名を表示する場合の 10 年間の正味現在価値合計は、

250 億ポンド(約4兆 6,500 億円。1 ポンド=186 円で換算)、企業に対する正味現在価

値はマイナス 400 百万ポンド(約 744 億円。1 ポンド=186 円で換算)、1年間に企業が

負担する正味費用は 36.78 百万ポンド(約 68.4 億円。1 ポンド=186 円で換算)と推計

された。先にも示したとおり、2015 年 10 月現在、本事例は最終段階の影響評価書公表

の段階にある。

(本事例の優良要素)

禁煙を促すことにより企業に対する費用がかさむことに加え、たばこ会社の利益が減

少することも懸念された。この懸念に対しては正確な影響評価を行うことで対応した。

正確な影響評価を行うために、将来的なトレンド分析や国際調査を活用して、影響評価

に反映させた。例えばトレンド分析として、安価なたばこ製品から中級・高級たばこ製

品の市場シェアを過去 10 年にわたり整理し、今後のトレンドがどのように推移するかを

分析している。具体的には、2001 年から 2009 年まで中級・高級たばこ製品の市場シェ

アは、2001 年に 50.1%であったのに対し、2009 年には 29.3%に低下している。また国

際調査として、オーストラリアで実施されたたばこ簡素パッケージ導入の分析データを

喫煙率や市場規模などの参照基準として活用している。具体的には、表示規制により成

36 Standardised packaging of tobacco products (IA No: DH3080) http://www.legislation.gov.uk/ukdsi/2015/9780111129876/impacts なお、本事例は 2015 年 10

月現在、最終段階の影響評価書公表の段階にあることに留意する必要がある。

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人の喫煙率は中央値でマイナス1%程度が見込まれるのに対し、未成年の喫煙率は中央

値でマイナス3%程度が見込まれると条件設定を行っている。

その他、中小企業に対する規制の執行タイミングを中小企業に委ね、企業と政府の双

方の利益を作り出すよう検討した良い事例として保健省では位置付けている。

④ 薬剤師の処方誤りの免責(保健省) 37

(本事例の概要)

影響評価における規制政策委員会の差戻し機能が有効に機能している事例として、保

健省が実施した薬剤師の処方誤りの免責に関する影響評価を挙げることができる。なお、

保健省インタビューを実施した 2015 年 11 月現在、本事例は最終段階の影響評価書作成

の段階にあった。薬剤師の処方誤りの犯罪化は、患者の最善の利益を促進する医薬品の

供給の問題に対処するものである。しかし、薬剤師の処方誤りの犯罪化は、薬剤師と薬

局が規制所管部門に処方誤りを報告しづらくする悪影響があると想定される。処方誤り

を報告しなければ、薬剤師と薬局が処方誤りに関する完全な情報を保有できなくなるた

め、患者のリスクにつながるおそれがある。そのため、薬剤師の処方誤りの免責により、

処方誤りの報告を促すことが検討された。

コンサルテーション段階で示された政府が実施可能なオプションは、(a)1968 年薬事

法から処方誤りに関する刑事責任を免除する、(b)薬剤師従事時に不注意による処方誤り

が発生した場合の刑事責任を免除する、(c)刑事責任が問われるおそれがある事象をより

明確に説明するためのガイダンスを強化する、(d)何もしない、の4つであった。コンサ

ルテーション段階の影響評価の結果によると、(b)薬剤師が従事時に不注意による処方誤

りが発生した場合の刑事責任を免除した場合の 10 年間の正味現在価値合計は、0.96 百

万ポンド(約 1.8 億円。1 ポンド=186 円で換算)、企業に対する正味現在価値は 0.17

百万ポンド(約 0.3 億円。1 ポンド=186 円で換算)、1年間に企業が負担する正味費用

はマイナス 0.02 百万ポンド(約 370 万円。1 ポンド=186 円で換算)と推計された。先

にも示したとおり、2015 年 11 月現在、本事例は最終段階の影響評価書作成の段階にあ

る。

(本事例の優良要素 38)

この優良事例では、規制所管部門から影響評価書内で先にも示した3つのオプション

を提示した。それは、(a)1968 年薬事法から処方誤りに関する刑事責任を免除する、(b)

薬剤師従事時に不注意による処方誤りが発生した場合の刑事責任を免除する、(c)刑事責

37 Rebalancing medicines legislation and pharmacy regulation programme: Dispensing errors (IA No: - ) なお、本事例は 2015 年 11 月現在、最終段階の影響評価書作成の段階にあり、今後

数値などが変更する可能性があることに留意する必要がある。 38 具体的な規制政策委員会意見は公開されていないため、保健省インタビュー結果に基づく整理

を行った。

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任が問われるおそれがある事象をより明確に説明するためのガイダンスを強化する、で

ある。これらのオプションは違いがなくオプションとしての意味をなさないと規制政策

委員会から指摘されたため、規制所管部門で企業への影響が強いと想定される2つのオ

プションに絞り再度政策を考え直し影響評価書を提出した。このオプションを絞った検

討を行ったことで、規制政策委員会から承認を受けた。また、利害関係者とのコンサル

テーションも丁寧に実施し、絞った2つのオプションの内容も丁寧に整理した。

⑤ 薬局における HIV 家庭用検査キット販売の解禁(保健省) 39

(本事例の概要)

影響評価における規制政策委員会の差戻し機能が有効に機能している事例として、保

健省が実施した薬局における HIV 検査キット販売を可能にする規制緩和に関する影響評

価を挙げることができる。HIV 家庭用検査キットの販売は、「HIV 検査キットとサービス

規則」に基づき 1992 年に禁止された。この規則により、HIV の検査を希望する場合、か

かりつけ医などの専門家の診察を受けることが求められるようになった。この規制のエ

ビデンスは、HIV 家庭用検査キットの品質が低かったことと陽性反応時の心理的影響を

考慮したことによるものである。しかし、HIV 検査キットの品質は大幅に改善されてお

り、2012 年に HIV 家庭用検査キットの販売を承認した米国では、HIV 家庭用検査キット

が HIV の効果的な治療に結び付き、寿命の延伸に貢献している。そのため、規制が時代

遅れになっていることを前提に費用便益を整理した。

政府が実施可能なオプションは、(a)「HIV 検査キットとサービス規則」を廃止し、薬

局における HIV 家庭用検査キットの販売を認めること、(b)何もしない、の2つであった。

影響評価の結果によると、10 年間の正味現在価値合計は、52.1 百万ポンド(約 97 億円。

1 ポンド=186 円で換算)、企業に対する正味現在価値は 52.1 百万ポンド(約 97 億円。1

ポンド=186 円で換算)、1年間に企業が負担する正味費用はマイナス 6.05 百万ポンド

(約 11.3 億円。1 ポンド=186 円で換算)と推計された。この影響評価結果から、「HIV

検査キットとサービス規則」を廃止し、薬局における HIV 家庭用検査キットの販売を認

めることにより、社会全体及び企業の効用を高め、企業に対する負担削減につながるこ

とが判明し、規制廃止が決定された。

(本事例の優良要素 40)

この優良事例で保健省の規制所管部門は、HIV 家庭用検査キットの販売を認めること

に関して、企業界に対して大きな便益が発生すると推計し、規制政策委員会に影響評価

39 The HIV testing kits and services (revocation) regulations 2014 (IA No: DH3129) http://www.legislation.gov.uk/uksi/2014/451/impacts なお、本事例のインタビュー結果と影

響評価書の数値が対応しておらず、影響評価書の数値を前提に整理した。 40 具体的な規制政策委員会意見は公開されていないため、保健省インタビュー結果に基づく整理

を行った。

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書を提出した。しかし、規制政策委員会から米国の類似市場の例から便益が大きすぎる

と指摘され、影響評価書の差戻しを受けた。

そこで再度米国の類似市場などを参考に便益を推計し直し、規制政策委員会と合意し

た。具体的には、HIV 家庭用検査キット価格は、米国で 39 ドルの価格を為替レートと消

費者物価指数を加味した 23 ポンド(4,278 円。1ポンド=186 円で換算)として設定し

た。また、HIV 家庭用検査キットの市場として、米国の類例から、(a)現在病院で HIV 検

査を受けている集団の需要や(b)現在 HIV 検査を受けていない集団が新たにキットを購

入する需要、(c)研究及び臨床試験で使用する公的組織など政府機関や慈善団体などによ

る需要を設定した。特に、米国を参考にした人種による感染率の違いや HIV 感染リスク

が高いとされる同性愛者などの割合も考慮した需要設定となっている。

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第4章 日本における規制の事前評価の課題と英国からの示唆

A) 日本の現状・課題と英国からの示唆

日本における規制の事前評価の課題と英国における規制の政策評価事例から得られる

示唆との対応関係を整理するため、規制改革方針面・規制策定プロセス面・組織の権限

設定面・職員スキル面・インセンティブ面の観点から以下図表のとおり整理した。

図表 18:日本における規制の事前評価の課題と英国からの示唆

観点 日本における現状・課題 英国からの示唆

① 規 制

改 革 方

政治的特定テーマが挙げられ、その

中で規制改革方針が決定

企業規制の徹底的緩和が大前提

(例:100 億ポンドの規制負担削減)

各省庁の特性や第三者評価機関で

ある規制政策委員の専門性により、

一定の社会的・環境的観点等による

規制改革方針が導入

② 規 制

策定プロ

セス

規制策定プロセスにおける評価書活

用の不在

研究会・審議会等による検討時や利

害関係者からの意見聴取時に評価

書の活用なし

途中段階の差戻し機能なし

規制策定プロセスにおける評価書活

用の存在

利害関係者からのコンサルテーション

時には評価書を活用し検討

途中段階の規制政策委員会審査に

より強力な差戻し機能が付加

事前評価と事後評価の連動

規制所管省庁による、より良い規制

プロセスを管理するための情報が一

元化されたポータルサイトやプロセス

管理システムの導入

Impact Assessment Calculator など

の表計算ソフトフォーマットや The

Green Book に示される基準となる数

値の存在によるガイダンス機能の充

③組織の

権 限 設

特定テーマの規制改革は内閣府の

規制改革会議が担当

規制の事前評価制度全体は総務省

行政評価局が担当

各省庁規制所管部門は評価書作

成、総務省行政評価局は事後に評

価書を確認(メタ評価)

実際に実施されている規制の運用

監査は総務省行政評価局(評価監

視機能で一部フォロー)

規制政策制度全体は内閣の規制削

減小委員会が担当(内閣のガバナン

ス)

規制の事前評価制度を含む全体をよ

り良い規制事務局が担当、既存規制

改革は Cutting Red Tape が担当

各省庁規制所管部門は評価書作

成、より良い規制ユニットは省庁内検

証、規制政策委員会は第三者評価

(差戻し機能)を実施

実際に実施されている規制の運用監

査はより良い規制運用事務局が実施

Page 57: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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④職員

スキル

規制所管省庁内に影響評価の検証

スキルを保有した職員の不在

規制の事前評価制度全体を所管す

る総務省行政評価局内に影響評価

の検証スキルを保有した職員の不

総務省行政評価局の政策評価研修

による研修メニューあり

規制所管省庁内に影響評価の検証

スキルを保有した経済学者・社会調

査学者の存在

第三者評価機関である規制政策委

員会内に影響評価の検証スキルを

保有した経済学者・社会調査学者の

存在

影響評価をはじめとするより良い規

制に向けた人材スキル定義と研修メ

ニューの存在

各省庁の情報共有や共通課題解決

のため、より良い規制ユニット会

議を週1度実施

⑤インセ

ンティブ

法律の場合、閣議決定までに評価

書を公開すれば良いため、評価書を

早く作成するインセンティブなし(規

制の新設審査や機構・定員査定とも

連動なし)

各規制所管省庁内の政策評価課の

ガバナンスも乏しく、早く作成するイ

ンセンティブなし

プロセス上、利害関係者とのコンサル

テーションの前後で2回評価書を作

成・活用することが定められており、

そのタイミングまでに作成するインセ

ンティブあり

省庁内のより良い規制ユニットや第

三者評価機関の規制政策委員会に

よる差戻し機能があり、早く質の高い

評価書を作成するインセンティブあり

重点的に実施する影響評価と簡易

的に実施する影響評価を分けるファ

ストトラック制度があり、重点的に実

施する影響評価に注力可能

出典:英国政府提供資料・インタビュー結果・その他各種資料に基づき富士通総研作成

① 規制改革方針

規制改革における方向性を示す規制改革方針は、日本では政治的に特定テーマが挙げ

られ、その中で規制改革方針が決定される構図となっている。近年では、医療・農業・

教育・雇用などの分野で問題の解決が後回しになっているいわゆる「岩盤規制」と呼ば

れる規制に焦点を絞ることが規制改革方針として位置付けられている。

英国では、現政権が示しているように、「100 億ポンドの規制負担を削減する」目標を

掲げており、企業規制の徹底的緩和が規制改革方針の大前提となっている。ただし、各

省庁の特性に応じた影響評価を行うことや第三者評価機関である規制政策委員会の委員

に多様な観点を持つ専門家を任命しており、一定の社会的・環境的観点等が加わった規

制改革方針が導入されている。

② 規制策定プロセス

日本の規制策定プロセスにおいて影響評価書を活用することは見られない。また、学

識経験者などを交えた研究会・審議会等による規制検討時や利害関係者からの意見聴取

時にも影響評価書を議論の土台として活用することは見られない。加えて、規制策定プ

Page 58: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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ロセス上、影響評価書を途中段階で第三者評価機関が確認し、規制所管省庁に差し戻す

機能もないため、影響評価書は事後的な説明資料として提示されることがほとんどとな

っている。

英国の規制策定プロセスにおいては、影響評価書を活用することが不可欠となってい

る。また、利害関係者からのコンサルテーション時には影響評価書を活用して検討する

ことが義務付けられている。加えて、規制政策委員会による影響評価書の審査を途中段

階で挟むことにより、規制所管省庁に対する強力な差戻し機能が働き、影響評価書の質

が担保されている。

その他、事前評価と事後評価の連動性を高める Post Implimentation Reviews の存在

や規制所管省庁独自のより良い規制プロセスを管理するためのポータルサイトやプロセ

ス管理システムの導入、Impact Assessment Calculator などの表計算ソフトフォーマッ

トや「The Green Book」で示される基準値などによるガイダンス機能の充実も、より洗

練された規制策定プロセスの構築に役立っている。

③ 組織の権限設定

日本における規制改革組織の権限設定は、特定テーマの規制改革は内閣府規制改革会

議が主に担当している。規制の事前評価制度全体は総務省行政評価局が担当している。

各省庁規制所管部門は影響評価書作成、総務省行政評価局は事後に影響評価書を確認(簡

易なメタ評価)している。実際に実施されている規制の運用監査は、総務省行政評価局

(評価監視機能)が特定テーマを対象に実施している。

英国における規制改革組織の権限設定は、規制政策制度全体は内閣の規制削減小委員

会が担当し内閣としてのガバナンスを確保するとともに、より良い規制事務局も規制政

策制度全体を担当している。既存規制改革は Cutting Red Tape が担当している。各省庁

規制所管部門は影響評価書作成、より良い規制ユニットは省庁内検証、規制政策委員会

は第三者評価(差戻し機能)を実施している。実際に実施されている規制の運用監査は、

より良い規制運用事務局が実施しており、影響評価を起点とした統合的なガバナンス確

保が実現できている。

④ 職員スキル

日本における影響評価担当職員スキルという観点からは、規制所管省庁内に影響評価

の検証スキルを保有した職員が存在しないことが挙げられる。また、規制の事前評価制

度全体を所管する総務省行政評価局内に影響評価の検証スキルを保有した職員が存在し

ないことが挙げられる。一方、総務省行政評価局では、政策評価研修による影響評価研

修メニューは一部用意している。

英国における影響評価担当職員スキルという観点からは、規制所管省庁内に影響評価

の検証スキルを保有した経済学者や社会学者が存在することが挙げられる。また、第三

Page 59: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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者評価機関である規制政策委員会内にも影響評価の検証スキルを保有した経済学者や社

会調査学者が存在することが挙げられる。

以上に加えて、影響評価をはじめとするより良い規制に向けた人材スキル定義と研修

メニューが存在しており、職員能力向上を図るための人材育成ガイドラインが確立して

いる。さらに、各省庁の情報共有や共通課題解決のため、より良い規制ユニット会議を

週1度実施し、密度の高い情報共有を行っている。

⑤ インセンティブ

日本の影響評価のインセンティブという観点からは、法律の場合、閣議決定までに影

響評価書を公開すれば良いため、影響評価書を早く作成するインセンティブはない。規

制の新設審査や機構・定員審査など総務省関連部門との連動もないため、他の審査機能

がインセンティブとなることもない。

英国の影響評価のインセンティブという観点からは、プロセス上利害関係者とのコン

サルテーションの前後で2回影響評価書を作成・活用することが義務付けられており、

そのタイミングまでに影響評価書を作成するインセンティブがある。また省庁内のより

良い規制ユニットや第三者評価機関の規制政策委員会による差戻し機能があり、早く質

の高い影響評価書を作成するインセンティブがある。加えて、重点的に実施する影響評

価と簡易的に実施する影響評価を分けるファストトラック制度があり、重点的に実施す

る影響評価に注力することが可能な仕組みとなっている。

⑥ 留意点

なお、英国における規制の政策評価の前提として、規制の受け手側に影響評価が政策

決定に向けたひとつの方法であることを理解させ、確かな答えを約束しているわけでは

ないことを示している点が留意点として挙げられる。このような前提がなければ、行政

組織は誤りを犯すことを恐れる「無謬性の原理」にとらわれ、規制検討の初期段階で影

響評価を行うことはリスクが大きくなる。

そのため、例えばであるが単位×数量の単純化した評価書フォーマットや第1章で示

した「The Green Book」にあるような一定の計算方法や基準を示すことも、この無謬性

の打破に向け重要であると言える。提示するフォーマットを変えることで、規制所管省

庁の行動を変えることも一定程度可能であると想定される。

B) 日本に求められる規制の政策評価プロセスの改善点

現状の日本の規制の政策評価プロセス(法律の場合)は、以下図表 19のとおりである。

影響評価書は閣議決定前の公表が定められているのみであり、総務省行政評価局に送付さ

れ、総務省行政評価局は事後的に影響評価書内容の評価・評価結果の公表を行う。

Page 60: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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図表 19:現状の日本の規制の政策評価プロセス(法律の場合)

①規制案検討~政府原案とりまとめ

②政府原案とりまとめ~政府案とりまとめ

③政府案とりまとめ~閣議決定

④閣議決定~成立

第三者との議論(審議会・研究会)

与党プロセス(部会等)

国会における審議・成立

法制局審査・各省協議(法制局・各省庁)

規制の新設審査(総務省行政管理局・自民党行革本部)

国会

与党

他省庁・機関

第三者機関

規制所管省庁

影響評価

閣議決定

内閣

影響評価書公表・総務省送付

各省庁における

規制案の検討(各省庁)

⑤見直し

規制のレビューシート

(規制改革会議)

出典:各種資料に基づき富士通総研作成

英国の仕組みを参考とした場合、日本で実施することが望まれる規制の政策評価プロセ

ス(法律の場合)は、以下図表 20のとおりになるものと想定される。

図表 20:英国の仕組みを参考とした日本の規制の政策評価プロセス(法律の場合)

①規制案検討~政府原案とりまとめ

②政府原案とりまとめ~政府案とりまとめ

③政府案とりまとめ~閣議決定

④閣議決定~成立

第三者との議論(審議会・研究会)

与党プロセス(部会等)

国会における審議・成立

法制局審査・各省協議(法制局・各省庁)

規制の新設審査(総務省行政管理局・自民党行革本部)

国会

与党

他省庁・機関

第三者機関

規制所管省庁

影響評価

閣議決定

内閣

完全影響評価書公表・規制の新設審査(・定員審査)等送付

ファストトラック(費用低・意思決定・裁量なし(条約・科学知見))

評価書概要作成・審議会(・利害関係者調整)

における評価書活用

各省庁における

規制案の検討(各省庁)

規制のレビューシート

(影響評価書項目の検証含む)

⑤見直し

規制のレビューシート

(規制改革会議)

出典:英国政府提供資料・インタビュー結果・その他各種資料に基づき富士通総研作成

Page 61: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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特に、影響評価実施の初期段階で、低費用となる規制の新設・改廃や国際条約など規制

所管省庁の意思決定がほとんど存在しない規制の新設・改廃、科学的知見に基づく規制所

管省庁に裁量がほとんど存在しない規制の新設・改廃などは、ファストトラックと呼ばれ

る簡易手続が可能となる仕組みを導入することが望まれる。これにより、注力すべき対象

のみに完全な影響評価書を作成する仕組みを構築する。ファストトラック対象案件は、各

規制所管省庁の申請に基づき、総務省行政評価局が判断する。

また、意思決定プロセス全体で影響評価書の活用を図るため、審議会や研究会での議論、

利害関係者調整においても影響評価書を活用することを前提とする。影響評価の実施タイ

ミングは何らかの形で規定することが望まれる。

さらに、規制の新設審査の段階では完全な影響評価書を作成し公表する。総務省行政管

理部門に属する規制の新設審査や機構・定員審査などに影響評価書を十分に活用すること

で、一定の統制力が働くことが想定できる。

最終的に、見直しの段階では、規制改革会議の規制のレビューシートに影響評価書を添

付または項目を合わせることで、影響評価時の評価項目がどのように効果として発現して

いるかを確認する仕組みを構築することなどが想定できる。

Page 62: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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別添資料1 英国現地調査インタビュー議事概要

A) 規制政策制度所管部門①(より良い規制事務局)

➀ より良い規制事務局(Better Regulation Executive:BRE)の概要

ビジネスイノベーション職業技能省( Department for Business, Innovation and

Skills:BIS)のより良い規制事務局(Better Regulation Executive:BRE)は新規

の規制の評価を担当し、内閣府の Cutting Red Tape では既存規制の評価を担当して

いる。BRE は各省庁の影響評価を支援しているほか、BIS には各省庁と同様に自省の

規制評価を監督するより良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)がある。

BRE の人数は 70 名程度であり、全て公務員で規制当局からの出向者もいる。 BRE は、

BIS と内閣府との共同設置であり、BIS から2人、内閣府から2人の大臣がいる。BRE

職員は全員内閣府との兼務である。70 人は省庁ごとに担当が分かれている。2010 年

以降の緊縮財政の影響を受けて、人員は減少傾向にあるが多くの他部署の状況と同様

の傾向にある。

規制政策委員会(Regulation Policy Committee:RPC)は独立した組織であるが、BRE

の助言に基づいて全ての省庁の影響評価を取りまとめている。独立機関ではあるが、

RPC は基本的に BRE の出しているフレームワークに従って動いている。もし、フレー

ムワークに従って動かないことがあれば RPC の人事異動を行う。BRE は企業視点が極

めて強い一方、RPC は委員もいるため社会的な影響も考慮に入れている。

② 規制評価の方針

英国では前政権のもとで「One In, Two Out」(OITO)の方針に基づいて規制評価を実

施していたが、規制の遵守費用の削減目標は示していなかった。現政権では OITO に

代わって、(5年間で)100 億ポンド(約 18.6 兆円。1 ポンド=186 円で換算)の企業

における規制の遵守費用の削減目標(=Business Impact Target)を打ち出している。

この達成手段として「One In, Three Out」(OI3O)を原則としている(これはあくま

でも手段であり、義務付けられているわけではない)。今後の「Better Regulation

Framework Manual」の更新時には OI3O の記載も加える予定である。企業における規

日 時 2015 年 11 月 10 日(火) 10:00~10:55

場 所 ウエストミンスターカンファレンスセンター会議室

参 加

BRE Mr. Cristian Denison(Business Impact Target Team)

Cutting

Red Tape Mr. Daniel Johns

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者 説明資料/BRE・Cutting Red Tape(別途、送付の予定)

Page 63: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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制の遵守費用の削減目標の実現に向けて、各省庁が所管する規制の数や内容に応じて

規制の遵守費用の削減目標を割り振っており、所管する規制が多い環境食糧農村地域

省(Department for Environment, Food and Rural Affairs:DEFRA)では削減目標

が多い一方、所管する規制が少ない内閣府では削減目標は少なくなっている。

③ 影響評価の効果

影響評価を通じて費用や便益を企業や消費者に示し、オプションを提示できると考え

ている。BRE では影響評価は企業における規制の遵守費用の削減を重視しているが、

社会的な便益は RPC が考慮している。

④ 既存規制の見直し

Cutting Red Tape として、分野ごとに順番に見直しを進めていくことになっている。

最初の6部門の見直しを、2015 年7月に開始して 12 月に終了予定である。

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B) 規制政策制度所管部門②(規制政策委員会)

日 時 2015 年 11 月 10 日(月) 12:10~12:30

場 所 ウェストミンスターカンファレンスセンター会議室

参 加

RPC Mr. Peter Juckes Mr. Yiannis Kokropoulous

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ 規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)の体制・活動

規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)は独立した外部機関として位

置付けられている。国内の規制のみを対象としており、EU 規制は対象外である。規制

政策委員と事務局職員がおり、事務局職員は 15 人全てが公務員でビジネスイノベー

ション職業技能省(Department for Business, Innovation and Skills:BIS)出身

である。

規制政策委員8名は公募で選出されており、雑誌に掲載された求人広告に応募し、議

員と内閣府及びビジネスイノベーション職業技能省の上級公務員によって選出され、

最終的にビジネスイノベーション職業技能省の大臣に任命される。

RPC では、費用と便益を検証する。具体的には、規制所管省庁の費用と便益の計算が

正しいか否かを確認し、内閣府及び各規制所管省庁に評価結果を返す。中小企業に対

する影響を減らすための措置を行っているかどうかも確認する。

各省庁には、より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)があり、省庁

内での規制プロセスを支援している。

② 費用便益分析など分析手法

費用便益分析の強みは、(1)統一的な単位を用いて異なる政策を比較可能であること、

(2)価値判断とは別に独立したエビデンスとして利用可能なこと、(3)複数の政策

効果を簡便に計算できること、などが挙げられる。一方、費用便益分析の弱みは、(1)

便益を推計するより費用を推計する方が容易であり、金融システムリスクなど特定の

措置の阻害要因となること、(2)間接的な効果をとらえることが困難なこと、(3)

不確実性の考慮が困難なこと、などが挙げられる。

費用便益分析の代替手段として、(1)要因の重み付けの導入や(2)質的分析の導入、

(3)感度分析・シナリオ分析の導入、(4)重要な利害関係者に対する影響を考慮す

ることなどに取り組んでいる。

金銭価値化については、人的資源や資金が必要となるため、資源を無駄遣いしないた

めに重点分野を定めた上で実施している。影響の大きさにより担当者及び担当者数を

変更している。影響がそれほど大きくなければ、経済学者一人だけで担当することも

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ある。最低賃金の改定など大きな影響を与えるものは事務局でも合議で実施する。い

ずれにせよ、評価書の検証を行うためには経済学者の専門知識が極めて重要である。

③ RPC の審査結果

RPC では、評価書を審査し、赤色、黄色、青色のランク付けを行っている。

RPC が審査した約 1,200 件の評価書のうち、評価結果が赤色のまま次の段階に進んで

しまった 14 件は、政治的に前もって決定がなされていた案件である。例えば、労働

組合に関する規制である。基本的には赤色のまま次のプロセスに進むことはできない

ため、報道されて大きな問題となった。

RPCの審査結果により、規制所管省庁が提出した費用との差分が 5億 8500万ポンド(約

1,088 億円。1 ポンド=186 円で換算)となり、適正な費用便益分析結果の導出に寄与

している。

RPC の審査結果が黄色となる場合は、影響評価書の技術的な小さな誤りや記載内容に

明確性が足りない場合である。

④ 影響評価の成功事例

RPC のガイダンス文書に特徴的な事例が記載されている。現在改訂版を作成中である。

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C) 規制政策制度所管部門③(より良い規制運用事務局)

日 時 2015 年 11 月 10 日(火) 11:00~12:00

場 所 ウエストミンスターカンファレンスセンター会議室

参 加

BRDO Ms. Heena Prajapati Mr. Ruth Trainer

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ より良い規制運用事務局(Better Regulation Delivery Office:BRDO)の体制

より良い規制運用事務局(Better Regulation Delivery Office:BRDO)は職員 50 人

の組織である。規制の運用に責任を持っている。より良い規制事務局( Better

Regulation Executive:BRE)と規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)

と協 力し 、 企 業 に 関 す る 規 制緩 和に 焦点 を当 てた 規制 改革 監査 プロ グラ ム

(Inspection Reform Program)を実施している。規制の運用において、規制の運用

状況が大企業や中小企業にどのような影響を与えるのかを監査する。企業負担を減ら

すよう、規制以外の方法を活用できないかについても検討している。

企業規制は、国と地方の規制が複雑に入り組んでいる。英国には、433 の地方政府が

あり、規制の運用を行っている。地方政府によって運用されている規制の影響につい

ても、BRDO が監査する。

規制政策サイクルの流れと担い手は、1.規制政策制度の立案(BRE)、2.問題の特

定(各省庁)、3.介入オプションの検討(各省庁)、4.影響評価結果の大臣に対す

る勧告(RPC)、5.規制の運用管理(BRDO)、6.事後評価(各省庁)となっている。

② BRDO の活動

規制の運用管理では、企業負担の軽減やリスクに応じた優先順位付け、主管当局制度

や「Regulators’ Code」などを用いた省庁の文化を変えることを重視している。良い

規制を生み出すためには、リスクに対して、企業界・市民に対し規制所管省庁が適切

な手法で介入を行うことで、経済的・社会的・環境的価値を生み出すことが重要であ

る。

近年の英国での規制改革では、規制所管省庁の行動を規定する「Regulators’ Code」

の策定や非経済的規制所管省庁の行動を規定する「Growth Duty」の策定、規制所管

省庁の人材育成、リスク評価手法の共通化、企業を支援するため、信頼性のある助言

を行い企業からの相談を受け付ける主管当局制度、Business Reference Panel、Better

Business for All などの企業の課題解決に向けた地域的アプローチなどを行っている。

「Regulators’ Code」は 2014 年4月6日に執行されており、関連する規制所管省庁は

この内容に準拠した取組を行う必要がある。Regulators’ Code では、フレームワーク

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やフォーマット、優良事例を提示している。この要素は、成長を促すこと、対話を行

うこと・リスク管理を行うこと・企業等からのデータ提供の極小化を図ること、企業

支援を行うためのガイダンスを活用すること、全体を通じた透明性を確保することな

どである。ワークショップを行うことで、職員知識の向上を図っている。

「Growth Duty」では成長を促すための規制の重要性を明確化している。金融危機が

あったことにより、説明責任や透明性を高めながら成長力を高めることの重要性を認

識した。成長の要素は中小企業の従業員数などが指標として挙げられる。指標が乏し

い分野でも、どのように企業を支援できるかを考えている。

規制所管省庁は裁量が大きいため、より良い規制水準を維持することが重要である。

そのためにも人材育成が重要で、数年間かけて作成した共通の人材能力基準

(Professional Standards for Competency)がある。4,000 以上の規制所管部門の活

用実績があり、この基準やそれに基づく教材は無料で活用できる。BRDO が担当してお

り、各省庁の分野に応じた専門知識と助言方法や計画策定方法、IT スキルなどのコア

スキルを伸ばすための基準である。自分の保有している知識を恒常的に伸ばすために

この基準を活用することが重要である。人材能力基準について、資格制度や認証制度

はなく、自己評価が行われている。ただ、1年間でどの程度の研修を受けるかは定め

られている。

リスクベースの評価に基づき、高いリスクに位置付けられた企業規制を中心に取り組

んでいる。リスクによりモニタリングのタイミングが規定される。原子力などリスク

の高い分野は継続的なモニタリングを行うのに対して、リスクが低い分野は5年に1

度のモニタリングのタイミングかもしれない。

企業の課題解決に向けた地域的アプローチについては、企業界の声を聞き、意見を反

映させる取組を行っている。61%の企業が、地方政府の規制による企業への影響の地

方政府の認識が不足しているとの調査結果が出ている。また7社のうち1社は、企業

規制が最も企業活動の課題であると認識している。さらに、80%の企業が規制に従わ

ないとお客様との関係に影響があると認識している。

主管当局を定めた上で、中小企業等に対する規制の負担を減らしている。各地方政府

などが主管当局の収集したデータなどを活用できる仕組みとなっている。例えば、食

品業界で冷蔵庫の温度管理基準を満たしているか監査をする場合、主管当局が監査を

行えば他の政府機関はそのデータを活用し監査を行わなくても良くなる仕組みであ

る。

Business Reference Panel は、130 の企業・団体が関与し、全ての業界分野を網羅し

ている。この 130 の企業・団体は、全国 100 万の企業・団体を代表している。1年に

4回ワークショップ形式の会議を行う。

Page 68: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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D) 個別規制所管省庁①(環境食糧農村地域省)

日 時 2015 年 11 月 9 日(月) 13:00~14:20

場 所 DEFRA 会議室

参 加

DEFRA Ms. Sarah Jones 他 1 名

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)の体制・活動

環境食糧農村地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs:DEFRA)

は英国政府内で最も大きなより良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)

を持っている(名称は Better Regulation Programme)。約 10 人の職員が勤務してい

る。職員数は一般的に緊縮政策のため減少傾向にあるが、他の部署と比較すると保護

されている。職員構成は経済学者が2名、社会調査学者が2名、その他が一般的な公

務員(ジェネラリスト)である。それぞれ役割が異なる。専門家は影響評価結果の計

算方法(Impact Calculator)の内容を精査するとともに、マクロ経済学・ミクロ経

済学・行動経済学の観点や悪影響がないかを精査する。また若手経済学者(Junior

Economist)が規制所管部門に対して政策ワークショップ(Policy Workshop)という

研修を実施している。ジェネラリストは、代替手段を考慮しているかどうかや一般の

良識を基準として影響評価結果に違和感がないかを確認する。規制所管部門と規制政

策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)との間を取り持つこともする。自身

(Ms. Sarah Jones)が評価書を通さなければ規制策定プロセスは先に進めることが

できず、差し止め権限がある。一般的にジェネラリストは平均3年で異動している。

ジェネラリストの異動が多いため研修費用などが無駄になるという批判もあるが、ベ

ストプラクティスを他部署に移転する意味でもメリットがある。なお、研修費用等は

中央政府が全体として予算を管理しているため、各省庁で負担することはない。

ビジネスイノベーション職業技能省( Department for Business, Innovation and

Skills:BIS)のより良い規制事務局(Better Regulation Executive:BRE)とは緊

密に連絡を取り、「Better Regulation Framework Manual」などの意見交換を行って

いる。各省庁とのより良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)会議も週

に1度あり、OI3O(One-In, Three-Out)や困難な課題などについて議論している。

なお、OI3O はまだ導入されていないが導入見込が高いと想定される。

② 影響評価の発展の経緯

DEFRA が影響評価を含む規制改革に積極的に取り組んでいるのは、政治的なリクエス

トがあったためである。特に規制改革に取り組むべきだと信じている大臣がいること

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が大きいだろう。もちろん、一般的な方針として、効率的な規制政策を展開すること

が継続的に検討され、エビデンスを基礎とした政策形成の流行もあったと言える。ま

た、DEFRA は幅広い範囲の政策責任を負っている。多くの規制が一般国民や大企業・

中小企業にかかわっており、規制そのものの量が多いことも影響している。

③ DEFRA における影響評価の特徴

DEFRA が導入している他省庁と異なる仕組みは、規制の検討を行う前に規制所管部門

や経済学者、BRU が会議に参加する評価会議(Initial Policy Appraisal Meeting)

である。

規制所管部門から BRU に連絡があり評価会議を設定する。評価会議を経なければ規制

プロセスは次の段階に進むことができない仕組みとなっている。イントラネット上に

DEFRA における規制改革の方針や DEFRA 独自の規制改革評価プロセスが見られるよう

になっている( DEFRA のメンバーだけが見ることができる Regulatory Evidence

Portal)。他の省庁はこのような長いプロセスを経ていない。暗黙知だった全ての

DEFRA における規制改革プロセスが形式知化されており、数ヶ月前に構築した。

規制所管部門が RPC に評価書を送付する前に4名の Regulation Manager がチェック

を行う。代替手段があるのか、全てのオプションが意味をなしているのかをチェック

する。

ファストトラックのトリアージは、DEFRA 内部で審査し、その後の影響評価プロセス

に乗らないため、低費用の仕組みである。RPC にファストトラックではないと評価書

の差戻しを受けたことはあった。基準である 100 万ポンド(約1億 8,600 万円。1ポ

ンド=186 円で換算)に近い評価結果であった。

現在はファストトラックの対象か否かについて、各省庁は RPCに判断を仰いでいるが、

今後は RPCを通すことなく、省庁内で判断することができるようになる見込みである。

DEFRA と RPC は良い関係にある。RPC は、規制緩和ではなく、規制改革でより良い規

制を目指している団体である。またエビデンスに基づき議論ができ改善できる団体で

ある。

影響評価の第三者評価で「赤」となった場合には、RPC と会議を行い、何が問題なの

か、修正可能か否かを話し合う。簡単な間違いもあり、少しの誤りであれば修正時間

を確保する。政策に詳しければ詳しいほど、外部者に分かるように説明できていない

こともある。

DEFRA 内で RPC に提出するまでの全てのプロセスで9ヶ月かかる。コンサルテーショ

ンは2ヶ月かかることがある。コンサルテーションの主な対象は利害関係者である。

インターネットを通じて誰にでも開かれた形でコンサルテーションを行うパターン

(日本のパブリックコメントのようなイメージ)と、利害関係者と話し合うパターン

がある。利害関係者と話し合うことでオプションが出てくることもある。主な利害関

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係者の話し合いが終わって、成案化する方向性が形作られる。利害関係者間で利害関

係が対立することもある。海洋関係は特に利害関係者が複雑化しており、バランスを

とることに腐心した経験がある。

④ DEFRA における非規制的手段の活用

DEFRA では、他の省庁と比較し EU 規制が極めて多いため非規制的手段(ナッジ)を活

用することは難しい。もちろん可能性がある場合には規制所管部門に戻している。漁

業規制は自主規制などを優先し、それで対応不可能であれば規制となる。労働年金省

(Department for Work and Pension:DWP)、運輸省(Department for Transport:

DfT)などでは活用可能性があると思う。例えば、駐車違反の罰金の通知書に違反車

両の写真を合わせて掲載することで、罰金の支払を促すことは可能性がある。保健省

は、病院を予約していたにもかかわらず診察に行かない場合の費用を明示することで、

病院予約を慎重に行うよう促すことは可能性がある。

規制がポジティブな側面に働く場合もある。例えば、労働省が企業規制として雇用に

関する規制を撤廃しようとした際に大企業は否定的だった。雇用規制を緩和すれば、

長時間労働の恒常化など悪い方に展開するおそれもあり、長期的な利益を考慮すると

よくならないのではないかという理由だった。

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E) 個別規制所管省庁②(運輸省)

日 時 2015 年 11 月 10 日(火) 14:00~15:20

場 所 ウエストミンスターカンファレンスセンター会議室

参 加

DfT

Mr. Scot Stevenson(BRU 責任者)

Ms. Laura Marquis(Economist)

Mr. Chris Simmer(Consultation)

Mr. Ben Walker(Evaluation Team)

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者 DfT’s approach to regulatory appraisal & evaluation

➀ より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)の体制・活動

運輸省(Department for Transport:DfT)のより良い規制ユニット(Better Regulation

Unit:BRU)は5人体制で活動している。経済学者は2名で航空や環境に対するバッ

クグランドを持っている。一般の公務員は2名で責任者と安全衛生庁(Health and

Safety Executive:HSE)原子力施設等を担当していた人間がいる。その他1名とな

っている。BRU の周辺には、その他にも経済学者など関係している人たちがいる。他

の EU 加盟国とも協力している、 BRU は影響評価を担当しており評価チーム

(Evaluation Team)は事後評価を担当する。Mr. Walker をはじめとして社会調査士

がおり、評価に詳しいメンバーが所属している。

各省庁によって BRU の規模は異なる。省庁の規制所管権限の大きさによる。規制改革

のモデルも省庁ごとで若干異なる。DfT に関係するエージェンシーはロンドン外にあ

り、各エージェンシーに研修を行い、より良い規制プログラムを展開している。電話

や会議によって打合せを行い、課題解決の支援に当たっている。

Better Regulation Reference Group は、陸上交通・海上交通・航空などの各分野の

専門家が集まって評価方法等を議論している。半年ごとに開催されているが、必要に

応じて打合せを行っている。この打合せは2段階に分かれており、上級レベルと中級

レベルに分けられる。上級レベルの打合せでは、法的課題や困難な課題を中心に議論

が行われる。このような強い議論の仕組みを用いている省庁は他にないかもしれない。

② DfT における影響評価の取組

DfT では、企業や市民社会などを対象とした規制政策分野の全てを影響評価の対象と

している。中央政府の要件より高い水準となっており、重要と考えている。

規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)は外部の団体として影響評価

をチェックする。内部の BRU でも影響評価を確認するタイミングがある。政策担当者・

経済学者・法律家などが影響評価書を確認している。別の経済学者が影響評価を調査

することもあり、仲間同士だと甘さが発生する懸念があるため、相互レビューを入れ

て批判的に確認する仕組みを導入している。これらの取組により、4~5年前には RPC

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への提出時に 60%だった「青」の比率は、近年は 90%が「青」となっている。

影響については、交通という政策分野ということもあり、経済的側面や社会的側面か

らの評価も重視している。評価の方法については、省庁統一の「The Green Book」に

加え、DfT 独自の「Transport Appraisal Guidance」もある。影響評価の専門性は一

定程度高まったと考えており、現在改善を図っている対象は、事後評価に関する内容

である。

現在も NAO(National Audit Office)の 2012 年報告書「Submission of evidence:

controls on regulation」の Appendix(Figure 13)に掲載された内部プロセスと同

様となっている。省庁によってプロセスは異なる。影響評価の確認を主任経済学者が

実施している場合もあれば、一般の経済学者が行っている場合もある。DfT の場合は

一般の経済学者が実施し、重要度の高い案件を主任経済学者が担当している。この仕

組みはうまく行っている。批判の声が上がれば、相互レビューを行い、影響評価の確

認が徹底的に行われているかを検証する。

DfT でも、影響評価において代替案が一つしか記載されていないとの問題を抱えてい

る。

ファストトラックのケースは省内(BRU)と経済学者の議論によって選別している。

早期の段階ではあまり情報がないため、基準となる 100 万ポンド(約1億 8,600 万円。

1ポンド=186 円で換算)よりずっと低いことが確認できないとファストトラックの

対象とはなりづらい。以前はファストトラックの判定を RPC が行っていたが、今は省

内での専門性が高まったため自ら判定し承認を求めることができる。ファストトラッ

クは3年目になる。ファストトラックにより、DfT は他省庁よりも多くの恩恵を受け

ている。DfT がファストトラック案件を初めて出している。今までに 70 件のファスト

トラック案件を出している。DfT で実施する半数以上がファストトラック案件であり、

年度改正が多い特徴がある。

数値がなくてもファストトラックを使う場合もある。影響対象が少ない場合など、例

を出せる場合には RPC に 100 万ポンドに満たないことを証明する。

③ 事後評価の発展の経緯

事後評価では、規制が目的を達成したかを確認している。2011 年以降、ファストトラ

ック以外のものは全て事後評価を行うように定めている。5年後に実施するためまだ

実績はなく,2016 年から結果を出し始めることになっているため現在は準備段階にあ

る。今後数年間で 95 規制をレビューする必要がある。

影響評価と事後評価結果を比較する。数字が異なる場合は、その理由を追跡する。影

響評価のときに自信を持って情報を出さなければならない。また、そうは言っても、

影響評価は見積に過ぎないことを産業界等に理解してもらう必要がある。すなわち、

いつも正しいと限らないことを明示することが求められる。数字を追跡されることは

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楽しいことではないが、今後の改善につながる誇りを持つべき取組である。

10 月に発表された経済協力開発機構(Organization for Economic Co-operation and

Development:OECD)の規制アウトルックでは、英国の事前評価は世界の中で最も優

れたものと評価されているが、事後評価だけは2番目に位置付けられている。これを

1番にしたい。ヨーロッパ各国がどのように規制改革に取り組んでいるかも常に研究

を行っている。

④ 影響評価の成功事例

DfT で近年実施した主な影響評価を資料として用意した。自動車税を払ったことを自

動車本体に表示する義務をなくした。多くのコンサルテーションを行い、企業以外の

対象にも影響を与える事例として位置付けることができる。金銭価値化も実施し、多

くのエビデンスを盛り込んでいる。政府全体として、紙の削減に取り組んでいる。

トラクターの速度規制緩和に関する内容は、企業にとっては良い内容であるが、安全

性は問題となる。企業に対する便益分析は簡単であるが、安全性に対する定量化が困

難であったため、定性分析で評価を実施した。一部定量化として、事故件数などを含

めることができた。生産性が向上するため、コンサルテーションでも全体的には前向

きな意見が多く見られた。規制緩和に関する影響評価では最も良い例である。5,700

万ポンド(約 106 億円。1 ポンド=186 円で換算)の費用削減につながった。なお、

速度上限は EU 規制を参照している。

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F) 個別規制所管省庁③(保健省)

日 時 2015 年 11 月 11 日(水) 10:00~10:55

場 所 DH 会議室

参 加

DH Mr. Tim Wouters(Manager)

Ms. Rachel Moton(Consultation)

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者 Better Regulation practices in the UK/DH

① 保健省の所管政策

保健制度はイングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの4つに分

かれている。ウェストミンスターにいる保健大臣はイングランドの国民保健サービス

(National Health Service:NHS)のみを所管している。国民保健サービスは、世界

一の資金を管理する保健制度であり、全国民に対して、無料の医療体制を整備してい

る。2012 年に国民保健サービスに関する大改革が行われた。保健省(Department of

Health:DH)には「NHS England」というイングランドの国民保険サービスを管理す

る部署がある。予算は約 10 億ポンド(約 1,860 億円。1ポンド=186 円で換算)であ

る。この組織の下に家庭医などの制度がある。現在は政府の緊縮政策が最も課題であ

り、制度をさらに効率化することが求められている。

規制所管部門は、医療機関等が一般患者を保護しているかどうかを確認している。

② より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)の体制・活動

保健省のより良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)は5名体制である。

規制緩和大臣に規制緩和に関する助言を行うこともより良い規制ユニットの仕事で

ある。保健省にとって規制の数そのものを減少させることは困難な課題となっている。

そもそも保健省では、企業のための費用削減を行うような政策分野を所管していない

ため、考え方を変えて対応する必要がある。

保健省のより良い規制ユニットでも、緊縮財政の結果、職員が1名減っている。いか

に賢く影響評価を行うかを考えており、リスクに応じた重要性などを判断し、重要性

の低い部分に対しては資源配分を減らしている。

より良い規制ユニットでは、保健省内の規制所管部門に対して、コンサルテーション

を行うべき対象についても助言している。キャメロン政権が打ち出した 100 億ポンド

(約1兆 8,600 億円。1ポンド=186 円で換算)の企業規制の削減に一丸となって取

り組んでいる。前政権でも既に企業費用は削減されており、これからさらに費用を削

減することは難しい。保健省では、2 億 9500 万ポンド(約 548 億 7,000 万円。1ポン

ド=186 円で換算)の削減を求められている。企業規制の緩和に向けて進捗状況を報

告しなければならない。これを達成する手段として OI3O という考え方も導入されて

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いる。

③ 保健省における影響評価の取組

一定の基準に基づいて影響評価を実施している。3年間合計の企業界への規制負担が

5,000 万ポンド(約 93 億円。1ポンド=186 円で換算)または年間 3,500 万ポンド(約

65 億 1,000 万円。1ポンド=186 円で換算)未満のものは、影響評価を実施するか否

かは保健省で決定することができる。これらの基準を上回る場合には、完全な影響評

価を行わなければならない。ただ、費用が低くても国民の関心が高い規制であれば、

影響評価を実施することもある。毎日ビジネスイノベーション職業技能省が作成した

マニュアルを使用している。

保健省内のイントラネットを使用し、規制所管部門等に対して情報提供を行っている。

規制所管部門の職員の研修などは、ビジネスイノベーション職業技能省等からの情報

を活用しながら実施している。保健省全体で政策の質向上を目指している。

規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)は各省庁を評価しているため、

より良い規制ユニットからは質の高い評価書を提出するよう留意している。

④ 保健省における事後評価の取組

事後評価(Post Implementation Reviews:PIRs)では、規制導入時の目的が3~5

年後にも所期の目的どおりに効果を発現しているか、予想外の結果が発生していない

かを判断する仕組みである。2011 年以降にファストトラック以外で導入した規制に関

しては、強制的に事後評価が行われる仕組みとなっており、1度のみならず継続的に

事後評価を実施することが定められている。保健省では、2017 年に初めて事後評価を

実施する。

規制の数を減らすことを目的に、「Cutting Red Tape」という活動を行っている。連

立政権では、816 の規制を確認し、365 の規制を変更した。現政権では、現在の規制

見直しを重視している。「Cutting Red Tape」では今後5年間で 100 億ポンド(約1

兆 8,600 億円。1ポンド=186 円で換算)の規制費用の削減を目指している。

⑤ 影響評価の成功事例

薬剤師が誤った処方を行った場合に政治責任を問わないという制度は成功事例とし

て挙げることができる。規制所管部門から提示した3つのオプションがオプションと

して意味をなさないと規制政策委員会から指摘されたため、規制所管部門で3つのオ

プションのうち、企業への影響の強い2つのオプションに絞り再度政策を考え直した。

もう一度やり直した影響評価は規制政策委員会から承認された。この事例では、利害

関係者とのコンサルテーションも丁寧に実施しており、オプションも丁寧に整理した

良い事例である。この事例は現在最終段階の影響評価を作成しているところである。

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薬局で HIV検査キットを販売できるようにする規制緩和も成功事例として挙げること

ができる。企業界に対しても 1,600 万ポンド(約 29 億 7,600 万円。1ポンド=186

円で換算)の利益があると推計し、規制政策委員会に評価書を提出した。しかし、規

制政策委員会の第三者評価では、米国の類似市場の例から利益が大きすぎると指摘さ

れた。再度推計し直し、270 万ポンド(約 5 億 220 万円。1ポンド=186 円で換算)

で規制政策委員会と合意した。この事例では、費用便益分析が正しいかを適切に判断

し再検討を行った良い事例である。

たばこ規制も成功事例として挙げることができる。禁煙を促すことにより企業費用が

かさむことに加え、たばこ会社の利益が減少することも懸念された。これは正確な影

響評価を行うことで整理した。正確な影響評価を行うために、将来的なトレンド分析

や国際調査を活用して、影響評価に反映させた。特に、中小企業に対する規制の執行

タイミングを中小企業に委ね、企業と政府の双方の利益を作り出すよう検討した良い

事例である。

その他、中小企業への配慮という観点からは、介護施設の安全性に関する監査をある

政府機関に一元化し、介護施設が入所者介護に充てる時間を極大化することなどに取

り組んでいる。この取組は、6,000 万ポンド(約 111 億 6,000 万円)の企業費用の削

減が見込まれている。

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G) 個別規制所管省庁④(エネルギー気候変動省)

日 時 2015 年 11 月 12 日(木) 12:30~13:30

場 所 エネルギー気候変動省会議室

参 加

DECC Mr. Antonio Civavolella, Head of Appraisal and Regulation Analysis

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)の体制

エネルギー気候変動省(Department of Energy & Climate Change:DECC)のより良

い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)には3名の職員がおり、2名がエ

コノミストである。DECC の BRU では DECC で規制を企画立案する関連部署の影響評価

を確認するとともに、規制政策委員会(Regulation Policy Committee:RPC)と関連

部署の調整を支援している。

また、DECC の BRU では DECC の関連部署の影響評価において、規制の目的や必要性を

明確にするように働きかけている。影響評価では費用と便益を明らかにして、費用対

便益が優れた規制を検討することが重要であると考えている。

なお、DECC の BRU の職員数は緊縮財政を受けて減少しているが、規制評価のフレーム

ワークが普及しているほか、DECC のイントラネットで影響評価の実施方法や事例等の

情報共有が進んでいるため、業務を効率化できている。ここで、RPC はさまざまな影

響評価の事例を取りまとめた「ケースヒストリー」を策定しているが、公開されてい

ない。また、DECC の BRU では外部の専門家と連携は少ないが、CO2 排出量の推計など

不確実性が高く、難しい便益の測定については外部の専門家に相談している。

② 影響評価の仕組み

英国の影響評価は規制のコンサルテーションの段階と、最終的に策定する段階の2回

実施することになっている。コンサルテーションの段階の影響評価では4つなどオプ

ションを示し、最終段階の影響評価では2つに絞って詳しく分析している。

③ 影響評価の事例

影響評価では費用と便益の適切なバランスを取ることが重要であるが、分析が複雑に

なり、判断が難しくなる場合がある。例えば、2028 年までの CO2 排出量の排出量の目

標値を定めた炭素予算の策定では、具体的な規制内容を検討するために影響評価を実

施しているが、評価期間が長期にわたるほか、さまざまな利害関係者が関係するため、

分析が複雑になっている。DECC の BRU では影響評価に当たって、利害関係者との調整

が重要であると考えている。

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なお、DECC では規制の事後評価を行う予定であり、事前の影響評価が適切であったか

を検討する予定であるが、まだ準備している段階である。

④ 影響評価に対する関連部署の抵抗

DECC では効果的でないと考えられる規制を企画立案したり、職員の業務が忙しい場合

には、関連部署は規制評価に抵抗することがある。しかし、英国では影響評価を実施

する強い政治的なリーダーシップがあり、関連部署が抵抗しても影響評価を実施して

いる。

⑤ 非規制的な方法の位置付け

規制は市場の失敗を補うものであり、最終的な方法であると認識している。このため、

DECC の BRU では自主規制など非規制的な方法が重要であると考えている。

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H) 個別規制所管省庁(独立規制当局)⑤(食品基準庁)

日 時 2015 年 11 月 11 日(水) 15:30~16:30

場 所 FSA 会議室

参 加

FSA Mr. Chris Harvey Ms. Alice Biggins

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

在英国日本

国大使館 大堀一等書記官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ より良い規制ユニット(Better Regulation Unit:BRU)の体制・活動

以前はもう少し規模が大きかったが小さくなり、現在のより良い規制ユニット

(Better Regulation Unit:BRU)の体制は4人である。ビジネスイノベーション職

業技能省(Department for Business, Innovation and Skills:BIS)等との連絡調

整役を行っている。以前は、食品基準庁(Food Standard Agency:FSA)内の経済学

者と連携して、規制所管部門の人材に対して分析方法や改善方法を教授する人材育成

機能を持っていたが、現在は人材育成に重きを置いていない。現在はより良い規制事

務局(Better Regulation Executive:BRE)の作成したマニュアルに準拠した FSA 独

自のガイダンスの作成に重点を置いている。

BRU の隣接組織として、Science Evidence Division がある。ここでは、経済学者や

社会調査学者などがより良い規制に対してアドバイスを行っている。

② FSA における影響評価の取組

FSA の関心事項は食品と消費者との関係のみである。FSA は歴史的には環境食糧農村

地域省(Department for Environment, Food and Rural Affairs:DEFRA)の一部で

あったが、BSE 問題の発生により食品安全の監督のみを切り出した組織である。

FSA の場合、EU の規制が 90%の割合を占めており、独自で規制内容を決められる範囲

は極めて小さいことが組織的特徴として挙げられる。求められる成果と一定の手段は

既に決まっているため、影響評価を行ってもあまり意味がない規制もある。エビデン

スをどのような形で収集するかが極めて重要である。影響評価を行う段階は、FSA が

独立規制当局(Independent Regulator)ということもあり、影響評価は任意であり、

政策議論が行われた後ということもある。経済学者や社会調査学者を活用して、より

良い規制の品質を担保しようとしているが、必ずしも影響評価を活用しているわけで

はない。

EU 規制が大きな影響を及ぼすため、FSA は中央省庁として英国を代表して交渉する。

英国の立場を影響評価により定量的に表明することも行っている。影響評価によるア

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プローチで議論をリードしており、EU 内で英国の提案は高く評価されている。90%が

EU 規制であるが、規制の実施方法はもう少し改善可能性があり影響評価を活用する意

義があると感じる。特に FSA の影響評価では、社会的影響、特に消費者保護や持続可

能性の観点を重視している。

現政権で提示された 100 億ポンド(約 18.6 兆円。1 ポンド=186 円で換算)はとても

困難な達成目標である。FSA は規制所管部門も持っているため、100 億ポンドの一部

の割当は正式には受け取らない。ただ関連する保健省が目標の割当を受け取っている

ため、FSA との議論により保健省(Department of Health:DH)の割当分の一部を非

公式的に割り当てられている。

FSA には規制緩和に賛同しない職員もいる。そもそも消費者保護を目的とした組織で

あり、規制緩和は整合性がとれない部分がある。BRU では規制所管部門に対して、規

制緩和だけではなく、様々な非規制手段を含め目的を達成するためのオプションを考

えるよう促している。影響評価を活用して政策決定に対するエビデンスを明示するこ

とが重要である。BRU では、リスクアセスメントが正確に行われたか否かを確認する。

答えが正しいかどうかは当該分野の専門家ではないため判断していない。

③ 事後評価の取組状況

事後評価は今後実施する予定である。もう少し丁寧に実施するべきであるが、EU 規制

がほとんどとなるので、事後評価を実施しても反映することが困難であった。EU 規制

は EU が事後評価を実施している。ただ 2011 年以降プロセスが変更され、法律で事後

評価が求められているが、まだ作成時期には到達していない。影響評価のようなプロ

セスを構築するため、テンプレートの作成など準備を開始している。

④ 影響評価の成功事例

未殺菌牛乳(Raw Drink Milk)の取扱いについての影響評価は成功事例と言える 41。

未殺菌牛乳の飲用はリスクが伴う。スコットランドは未殺菌牛乳の飲用は禁止されて

いる。FSA では、リスクを管理して未殺菌牛乳の飲用が可能と判断している。これは

リスクベースアプローチで判断している。影響評価を行い、未殺菌牛乳を飲用すると

何がリスクかを評価した。さらに販売量を増やすのか、禁止すべきなのかというオプ

ションを考慮に入れた。最終的な影響評価はまだ提出されていない。

41 https://www.food.gov.uk/news-updates/consultations/2014/rawmilk-consult

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I) 政治家

日 時 2015 年 11 月 11 日(水) 12:45~14:00

場 所 キングスカレッジロンドン Prof. Ragnar 研究室

参 加

キングス

カレッジ

ロンドン

Prof. Ragnar Lofstedt

United

Kingdom

Accreditation

Service

Lord Lindsay

Regulatory

Policy

Committee

Sara Veale (Committee member)

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

在英国日本国

大使館 大堀一等書記官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ 影響評価の発展の経緯

英国における影響評価は 1990~1992 年頃から始まり、約5年間ごとの政権交代の度

に変更が行われている。労働党のブレア政権では、より良い規制事務局( Better

Regulation Unit:BRU。2005 年に Better Regulation Executive:BRE に名称変更)

は内閣府に位置付けられており、直接ブレア首相に報告できるなど強い政治力を有し

ていた。しかし、2007 年に労働党のブラウン政権になると、より良い規制事務局はビ

ジネスイノベーション職業技能省( Department for Business, Innovation and

Skills:BIS)に位置付けられて、影響評価は企業の企業活動に配慮するようになり、

政治力が低下したと認識している。

より良い規制事務局が内閣府に位置付けられているときには、影響評価は企業だけで

はなく、消費者や社会などさまざまな利害関係者に配慮していたが、BIS に位置付け

られるようになると、規制評価における企業への配慮が強まったほか、他の省庁への

働きかけが難しくなったと考えている。

企業界も当初は BIS に位置付けられることを歓迎していたが、他の省庁が所管する規

制分野へのアクセス機能が弱くなったため、現在は懸念を示している。

② 影響評価の効果

英国では影響評価は政策の企画立案のプロセスに組み込まれており、意思決定に役立

っていると認識している。

英国の影響評価では最初に規制以外の代替方法を検討することになっているが、欧州

連合(European Union:EU)の規制についてはそのまま導入する必要がある。しかし、

Page 82: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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英国は EU が規制を企画立案する際に、独自に影響評価を行って英国に適した規制が

導入されるように働きかけている。なお、英国の規制の 65%程度が安全や環境、労働

等に関する EU の規制である。

③ 効果的な影響評価の導入・運用に向けた課題

効果的な影響評価を導入するためには、政治のリーダーシップが必要であり、英国の

場合、首相が影響評価の導入を打ち出し、大臣が各省庁において影響評価を推進して

いる。しかし、省庁では規制を増やして政治力を高めたいという文化があり、影響評

価の導入に抵抗する場合がある。

また、影響評価を効果的に運用するためには、独立的な監視機関が必要である。現在、

BIS に位置付けられている規制改革関係の権限は内閣府に移し、企業や消費者、社会

などさまざまな利害関係者に配慮した影響評価が行われるように監視することが適

切であると考えられる。

大きな事故が発生すると、規制強化が図られることもある。本来はリスクに対する規

制の正当性をしっかりと考慮すべきであるが、事故が発生するとそれが素通りされて

しまう。

議会での議論も大きく変わっている。現在議員が規制に関する議論をする際には、法

案と影響評価を両方見ながら議論している。大臣だけでなく議会にも情報提供を行う

ことで、新しい議会の動きや文化を作っていくことも重要な要素である。

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J) シンクタンク

日 時 2015 年 11 月 12 日(木) 10:00~11:00

場 所 CLAIR 会議室

参 加

Reform Mr. Richard Harries

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ 影響評価の取組経験

私(Mr. Richard Harries)は公務員として影響評価に取り組んでいたこともあれば、

政策形成にも携わっていた。そしてコンサルティング会社やシンクタンクでも働いて

いたことがある。

日本における規制評価の問題点は以前の英国でもよく発生していたことである。影響

評価は定量化されているが、そのエビデンスとなるデータは秘密裏に作られておりエ

ビデンスが不明確な部分がある。私自身も現実より影響評価結果の数字をよく見せよ

うと数字を作り込んだことがある。

例えば、3回罪を犯したら刑務所に収監される法律がある。刑務所に収監するにも費

用がかかるため、国民が罪を犯す前提をより少なくすれば、費用を節約することがで

きる。政策形成時には 90%の規制遵守率が達成できれば効果があると言える。しかし、

90%の規制遵守率の想定はどこから来たのかは必ずしもはっきりしていない。この数

字のエビデンスについては、規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)

が設置され、数字のエビデンスを規制当局に質問するようになり、質は向上している。

ただそれでも困難な課題であることは間違いない。

前の労働党政権で 1997 年に実施された職業年金の改革に携わった経験がある。この

職業年金の改革は年金額がインフレ率と連動すべきだとするものであった。インフレ

率には、小売物価指数(Retail Price Index:RPI)や消費者物価指数(Consumer Price

Index:CPI)という指標があるが、消費者物価指数に連動するようになった。消費者

物価指数は小売物価指数よりインフレ率が低いため、企業の負担という観点からは規

制費用が下がると言える。最終的な影響評価が承認を受けたときに、70 億ポンド(約

1 兆 3,020 億円。1ポンド=186 円で換算)の費用削減につながると提示した。その内

容を提示したところ、その費用削減額は正しくないという苦情があった。その後交渉

の期間があり、費用削減額は 35 億ポンド(約 6,510 億円)に低下した。

② 規制改革の経緯と課題

2010 年の保守党と自民党の連立政権では、規制緩和を政治公約とした。それにより規

制緩和が進んだ面があるが課題も残っている。現在は、地方政府や EU に関する規制

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は影響評価の計算外となっている。規制の受け手は規制主体が誰かということは関係

ない。EU 規制等も含めると、規制緩和が費用削減にはつながっていない。

政治的なリーダーシップ以外に、企業など産業界からの不満があったことも大きなき

っかけである。国から地方政府に対する法的な義務を課している。1,400 の法律によ

って地方政府に対する法的義務を規定している。法的義務で恩恵を受けている人たち

もいるため、義務が残ってしまった。

ビジネスイノベーション職業技能省( Department for Business, Innovation and

Skills: BIS)により良い規制を目指すより良い規制事務局( Better Regulation

Executive:BRE)が移り、より企業に焦点を当てるようになった。現政権のオリバー

レトウィン(Oliver Letwin)がリーダーとなったことにより、その傾向はより強ま

った。

規制政策委員会(Regulatory Policy Committee:RPC)のメンバーは政府から選ばれ、

事務局も公務員である。その意味では半独立機関だが良い成果を出しており重要度は

増している。

Red Tape Challenge は、Star Chamber との政策議論を行わなければならない。Star

Chamber Meeting は、公開ではなく非公開の会議体である。オリバーレトウィンがコ

ミットしており、様々な挑戦を行ってきた。非公開の会議体であるため、正直に問題

点を洗い出すことにつながった。Star Chamber が改善内容に納得しなければ何度も議

論を行った。Red Tape Challenge では、21,000 の規制を対象に規制緩和を図った。

5年間で 21,000 の規制のうち 1,000 の規制を緩和したと言われているが、実際に便

益があったのはそのうち 100 であり、あとの 900 はほとんど意味がなかったと言える。

結果的には 0.5%しか減少しなかったと言える。その間、新しい規制が増加している。

サンセット条項は良い仕組みであり、事後評価を行うことで徐々に規制の質向上につ

ながると考えられる。

③ 非規制的手段に関する取組と意義

行動洞察チーム(Behavioral Insight Team:BIT)が実施している調査対象は小さい

が、公務員の考え方を変えることに成功している。今までの公務員の考え方は、資金

を提供するか規制するかであった。現状は、資金を提供せず規制をせず目的を達成す

るという考え方が浸透してきた。賢い規制(Intelligent Regulation)も関連してお

り、法律ではなく技術を活用し目的を達成する考え方である。

非規制的手段は、影響評価の対象外ではない。これまでは行動を予測することを公務

員は恐れてきた。例えば税制によって勤労意欲が変化するか否か、行動洞察チームが

実際に実験を実施し、エビデンスを出していることが重要である。数値を「3」など

の定数として言い切るのではなく、「2.5-3.5」の範囲として示すことが重要である。

鉄道の推計モデルは英国政府が使用していた推計モデルに誤りがあったことがある。

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政府は問題ないと言っていたが、裁判になった。

④ 影響評価をはじめとする規制改革の課題

成果指標だけを見せるため、本来は明らかにならない部分であるが、次の段階の透明

性確保には推計モデルなどの信頼性は必要不可欠である。大学やシンクタンクがこれ

らの不透明さに光を当てて透明化することが可能となる。Linux のようにインターネ

ットオープンソースで何百万人が改善活動を実施しているからこそ透明性が高い。マ

イクロソフトとは異なる。政府規制も、同様の課題を抱えている。

エビデンスの留意点は、それぞれの主体が支持するエビデンスが違うことである。労

働党政権では、常に「エビデンスをもとに政策形成を行う」と言っていたがそうでは

なかった。例えば、マンチェスターでうまくいったものを、ロンドンに導入するよう

なエビデンスのあいまいなことが行われていた。

事前評価と事後評価のリンクが必要である。違う部署が実施していても問題はないが、

情報などの交流は必要不可欠である。正否を整理するのではなく、次代の新しいモデ

ルを作ることが重要である。もちろんその際には、金銭価値化が重要である。

1997 年からの労働党政権は、規制緩和からより良い規制に言葉を変えた。企業界と市

民団体とのコンサルテーションを行うようにしていたが企業に偏っていた。内閣府で

勤務しているときにはチャリティへの資金提供を削減することも行った。市民団体よ

りも企業界のほうがまとまっており、政府は企業界の意見を重視していた。理論的に

は市民団体の意見を導入することも重要である。

保守党と労働党を比較すると、労働党は伝統的に規制を重視し、保守党は規制緩和を

重視している。2010 年の連立政権では規制全体を見直す方向性を提示した。ここまで

の流れの中で全ての規制に問題があるわけではないことが整理されてきた。今年の総

選挙後の5月、(今後5年間で)100 億ポンドの規制緩和を行う約束をした。一方で、

より良い生活に向けた「最低賃金(minimum wage)」以上の「生活賃金(living wage)」

という概念を提示した。生活賃金は時間あたりの賃金が 10 ポンドになる。現政権で

はこの生活賃金が新しい規制になる。生活賃金のことを考えると 100 億ポンド(約

18.6 兆円。1 ポンド=186 円で換算)の規制緩和の達成は何らかのルールを変えなけ

れば難しい。揺り戻しが起きてしまう恐れもある。

現在の課題は、定量化や金銭価値化を行ったとしても国民が人生に満足しているかに

つながっているかどうかを計測していないことである。より暮らしやすい国にするた

めに、国民の生活の質を上げることが重要な課題となっている。

安倍首相が関心を持つかどうか分からないが、影響評価を活用して規制改革を行いた

いと思うかどうかが重要である。

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⑤ 英国公務員の人事異動や特徴、政府間関係

省庁の異動時にも辞職する必要はない。各省庁で文化が大きく異なるが、省庁間異動

はそれほど多くない。優秀な公務員は省庁間異動をしながら活躍する印象がある。

日本よりも省庁間の壁は低いと思う。省庁間の異動はあまりないが、省庁同士の協力

関係は充実している。省庁全体が緊縮財政下にあるため、自らの重要な仕事を考えた

上で、共通化できる仕事は共同実施している。ニュージーランドは、1つの建物に全

ての大臣がいて、省庁の壁を完全に撤廃している。

公務員が権限を守りたいという意識は世界共通して強い。規制を増やすことが直接的

なキャリアップにつながるわけではないが、キャリアアップのためには何を実施した

かが重要であり、規制を作ることは活動実績として分かりやすく、規制緩和は逆にわ

かりにくい。しかしその文化は変化している。

⑥ シンクタンクや大学との関係

英国は多様なシンクタンクが活動している。英国は小さなシンクタンクが多くあり、

それぞれ専門性が高い活動を行っている。大学に関しては、研究の社会的成果を考慮

して資金提供を行うようになったため、大学が政府の活動を支援するようになった。

ただ大学の基礎研究を実社会の応用に結びつけるには少し時間がかかりシンクタン

クのほうが早い。ただ、シンクタンクも大学も様々な場面で影響評価を支援している。

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K) 大学教員①(ロッジ教授)

日 時 2015 年 11 月 9 日(月) 11:00~12:15

場 所 ロンドンスクールオブエコノミクス会議室

参 加

LSE Prof. Martin Lodge

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ 影響評価の発展の経緯

英国では規制に関する企業の負担が大きく、企業が規制による負担の軽減を訴えたこ

とで政治課題として取り上げられ、規制の軽減に向けた影響評価が導入された。2008

~2010 年にかけて影響評価は活発になったが、多くの利害関係者が関与したため、仕

組みは複雑となり、影響評価を行う公務員の負担が増加した。なお、影響評価を所管

する内閣府(Cabinet Office)と規制を行う省庁では緊張関係にある。

内閣府とビジネスイノベーション職業技能省(Department for Business, Innovation

and Skills:BIS)が共同で開始した、既存規制ストックの見直しプログラムである

Red Tape Challenge(RTC)の取り組みは、実施の途中で内閣府と BIS の間で温度差

が生じ始め、RTC に積極的な保守党オリバー・レトウィン(Oliver Letwin)氏がいる

内閣府の方に主導権が渡った。また、規制政策委員会(Regulation Policy Committee:

RPC)と省庁の影響評価の取組を調整する BIS のより良い規制事務局( Better

Regulation Executives:BRE)は、独立した組織とされているが、政治的な動向の影

響を受けている。規制所管部門側にとっての問題があれば、RPC に恣意的に働きかけ

ることも行われている。BRE の職員は、約 30%減り、現在は 80 人程度ではないか。

特に優秀な人材が流出したと認識している。

日本やドイツと比較すると、英国は省庁の組織体系や改革に対して、極めて柔軟性が

あるように感じる。

なお、企業の規制遵守費用の試算では省庁は基準値を恣意的に調整しており、正確性

が低いと認識している 42。イメージとしては、10,000 の規制遵守費用を 9,000 に減ら

したが、事後的に規制遵守費用を 12,000 に増やし、25%の削減率を達成したと見せ

ている。

② 影響評価の特徴

内閣府は BRE や省庁の影響評価に関与できる強い権限を有している。

42 ブラウン政権による Administrative Burden Reduction Programme (ABRP)に関して、2005~2010

年に Business への手続き費用を 25%削減するという目標である。

https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/31630/10-1083

-simplification-plans-2005-2010-final-report.pdf

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根本的には政治主導なので、大臣の推進姿勢があれば重要度は高まる傾向にある。政

治主導の体制をどのように形成できるかが根本的に重要である。

英国の影響評価の主な目的は企業の負担の軽減であり、社会的な負担は重視されてい

ない。これは経済協力開発機構( Organization for Economic Co-operation and

Development:OECD)の勧告や企業の訴えによるもので、ドイツやカナダでも企業の

負担の軽減に向けた影響評価が行われている(ドイツは今年から OIOOを開始)。なお、

企業の負担の軽減に向けた影響評価には消費者から批判されているが、消費者の負担

を軽減する影響評価を導入するためには世論の高まりが必要である。

また、一定期間後に規制を無効とするサンセットでは、既得権を有する企業のみが関

心を持ち続ける一方、消費者の関心が低下するため、公平性に欠けると考えている。

それよりも,事後評価(Post Implementation Reviews:PIRs)の方が望ましい。

③ 影響評価の問題点

英国の影響評価は規制案の策定中と策定後の2回行うが、1回目の影響評価では定性

評価が中心であるほか、省庁は導入したい規制案に誘導する傾向がある。また、1回

目では定量的なものより、定性的なものが多く曖昧な記述になっている。どちらにせ

よ、策定中の段階から評価書を作るインセンティブはないので、ガイダンス(マニュ

アル)として定式化(プロセス化)することが重要である。日本も早い段階で評価書

を作ることを促す必要があるのではないか。

また、英国の影響評価では便益を測定することは難しいため、規制遵守費用の測定を

重視している。例えば、電力に関する影響評価において、料金体系が複雑で消費者が

理解して適切な料金体系を選択することが難しい場合、料金体系を分かりやすく4つ

に絞るなど消費者のオプションを減らすことが消費者の便益を増やすことも考えら

れる。

④ 影響評価の位置付け

英国では規制の目的は政策によって決まり、規制の方法が影響評価を通じて検討され

る。例えば、気候変動対策として温室効果ガスの排出量を削減する場合、温室効果ガ

スの排出量を削減するという目的は政策に基づいて決定する。しかし、温室効果ガス

の排出量を削減するために、太陽光発電システムの導入を促進することや、化石燃料

の補助金を増やすこと等の規制の方法は影響評価を通じて費用対便益が比較されて

優れた方法が選ばれる。

⑤ 影響評価の成功事例

英国における影響評価の成功事例は、影響評価を行う省庁に尋ねられたい。なお、影

響評価の成功を定義することは難しいため、どのように影響評価を実施して政策決定

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プロセスに活用したのかを尋ねると良いだろう。

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L) 大学教員②(ボールドウィン教授)

日 時 2015 年 11 月 12 日(木) 16:00~17:00

場 所 LSE 会議室

参 加

LSE Prof. Robert Baldwin

東京大学 岸本特任教授

総務省 高橋官

富士通総研 坂野・若生

受領資料/提供者

➀ 会計検査院のメタ評価

会計検査院に関与しているときに「Evaluation of Regulatory Impact Assessments

2005-06」を発行した。2006 年以降、会計検査院における影響評価に関する仕事は減

少している。政府の主要な検討課題が影響評価から規制緩和に移ったためである。政

府から業界に対する調査負担を減らそうとした。オランダが主導し経済協力開発機構

(Organization for Economic Co-operation and Development:OECD)も同様に続い

ている。また、大企業・中小企業を問わず実施に対する定量化が弱い課題がある。誰

が遵守して誰が遵守しないかが重要である。それを把握できていないことを会計検査

院は指摘した。これらの規制緩和に関する検討課題の移行は 2005 年のハンプトンレ

ビューが起点となっている。この頃の影響評価はコミュニケーションの質を上げる程

度しか役に立っていなかった。近年の影響評価の質は向上しているが、レポート発行

時に提示した課題は残存していると考えている。

会計検査院は 2009 年以降メタ分析を実施しなくなった。政府全体が、影響評価を改

善することよりも、規制緩和をすることに焦点を置いたためである。会計検査院自体

も影響評価自体にはそれほど関心がなくなったと考える。会計検査院はより良い規制

に焦点を当てている。あくまで影響評価はより良い規制を作り出すためのツールであ

る。

② 影響評価の意義と課題

Christopher Hodges「Law and Corporate Behavior」によると、影響評価には3つの

種類がある。①政策決定に影響を与えるもの、②形式的で時間の無駄のもの、③政策

決定にほとんど影響はないが透明性を高めるもの、である。ほとんどの影響評価は③

に位置付けられており、現在も同様の課題を抱えている。本来は、政策決定に影響評

価が影響を与えることが重要である。LSE のチームが調査を行い、政策決定に影響評

価が影響を与えないことや問題の発生要因を明らかにした。その内容は、 Robert

Baldwin「Is better regulation smarter regulation?」に詳細が記載されている。

政治家の公約と影響評価の内容が異なると関心を持たなくなる。大臣は、推量が多い

ことが課題と捉えている。影響評価の課題は、①技術的な困難さ、②政策決定に対す

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る影響の小ささ、③より企業に優しい規制の形成が課題である。非規制的手段を影響

評価で分析することは難しい一方、従来型の命令的な規制的手段を影響評価するほう

が分析しやすい。非規制的手段と規制的手段は緊張関係にある。

日本と同様で、英国でも影響評価は異なるオプションを比較するためには実施されて

いない。理想的には異なるオプションを比較すべきであるが、それを実現するための

十分な資源もないため、あまり実施されていない。影響評価の便益部分は、最も重要

なオプションのみに適用する。

近年の英国政府は事後評価に熱心である。OECD も同様である。事後評価の議論が先行

している反面、行動は伴っていない。過去を振り返る政治家は少なく常に新しいこと

に取り組んでいる。英国の影響評価は悪いわけではなく道具として使用すべきである。

多くの著者による影響評価に対する意見は、影響評価の成功の秘訣として、①経済的

な重要性を考慮して影響評価そのものに対する資源配分を変化させること、②不確実

性を考慮に入れること、である。危険なことは、不確実性が多いときに過剰な労力を

つぎ込むことである。これは6週間後の天気予報を行うようなもので、得られる情報

が限定的となる。

良い影響評価は、早く短く簡単なものである。影響評価の実施そのものに対して費用

がかかりすぎることは問題がある。英国では影響評価の実施方法は改善傾向にあり、

政府が影響評価を詳細化するのではなく簡素化するために努力している。影響評価の

スピードと信頼性のバランスが重要である。どのバランスが最も良いのかという判断

になる。説得力のある分析や推計のためには時間を使うものの、不確実性に対して時

間を使うことは避けるべきである。不確実性を最小限にすることが重要である。

ただ、大臣が影響評価の内容を不服と思えば無視する方法もある。また、EU 規制は

EU が規制を決めているため英国の大臣に権限がない問題もある。国際機関における決

定事項も同様である。

政府は、企業の事務負担を減少させるためにデータ取得を限定化する。一方で影響評

価にはデータが必要になるため、利害対立がある。特に中小企業は、政府からの調査

用紙の記入に貴重な仕事時間を使うことは避けたいと思うだろう。

影響評価を成功させるために重要なことは、政策決定に向けたひとつの方法であり、

確かな答えを約束しているものではないことを強調することである。会計検査院は留

意点として、①数値を書けなければ、数値を書けない理由を書くこと、②無理に確定

的な数値を書くのではなく上下範囲を示すことなどを提示した。

影響評価の最も大きな課題は、遵守率が予測できないことにある。基本的に、国民が

100%実施することを前提としている。もうひとつの大きな課題は、政策決定プロセ

ス改善に対する影響評価の効果は多くの国で期待ほどではないことにある。

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③ 目標設定の変化

影響評価からビジネスインパクトターゲットに目標が移っている。英国内でも影響評

価における費用便益分析を重視するか、遵守費用(コンプライアンスコスト)の減少

を重視するかについて議論が行われた。現状は、遵守費用の減少を重視し、手法とし

て目標値を定めるビジネスインパクトターゲットが重視されている。

④ より良い規制の要素

OECD のフレームワークでもより良い規制を示している。より良い規制に向けた政府の

行動要素は、①規制を改善する方針があること、②会計検査院などの機関が規制改善

を促す道具(影響評価や事後評価)を使用していること、より良い規制は、低費用で

効果の高い規制を生み出すことを意図している。

その意味では欧州委員会で使用される賢い規制(Smarter Regulation)も同様の考え

方である。Smarter Regulation における最も良い規制の要素は、①政府による規制か

ら自主規制の間までで良い組合せを考慮すること、②介入のために必要な費用をでき

る限り抑制することである。ただ、Smarter Regulation は一貫して使用されている用

語でもない。

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別添資料2 Impact Assessment Calculator の概要 43

「D)One-In, Two-Out(OITO)制度の運用実態」で整理したとおり、企業が負担する年間正味費用相当額や純便益等を算出するため、

英国政府では「Impact Assessment Calculator」という表計算ソフトを用いた影響評価の計算フォーマットを提供している。手順どお

り整理すると、まずは以下図表 21のフォーマットに数値を整理することで、政策オプションごとの基準年と影響評価期間の設定を行う。

図表 21:Impact Assessment Calculator による政策オプションごとの基準年と評価期間の設定フォーマット

Appraisal period in years Price Base Year Present Value Base Year Option 1: 10 2015 2015Option 2: 10 2015 2015Option 3: 10 2015 2015Option 4: 10 2015 2015Option 5: 10 2015 2015Option 6: 10 2015 2015

出典:Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

次に、以下図表 22のフォーマットに各費用名や各便益名を記載し、企業に対する各費用・便益の影響割合を設定する。各費用・便

益は、最も確からしい場合、数値が低くなった場合、高くなった場合を想定し 10 年間分の数値を整理する。これらの数値等の整理によ

り、政策オプションごとの移転費用・年間費用及び移転便益・年間便益の設定を行う。

43 Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

Page 94: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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図表 22:Impact Assessment Calculator による移転・年間費用及び移転・年間便益設定フォーマット

Percentage Direct impact Option 5 Description of cost or benefit FIGURES SHOULD BE ENTERED IN £M BASED ON CALENDAR YEARS (i.e. 12 months to 31 December in each year)impact on business? Year 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

on business YES/NOTransition Costs Nominal Total Present Value Total

100% YES Transition Cost - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Annual Costs100% YES Annual Cost 1 - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% YES Annual Cost 2 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 3 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 4 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Cost 5 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Transition Benefits Nominal Total Present Value Total100% YES Transition Benefit - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

Annual Benefits100% YES Annual Benefit 1 - Best Estimate 0.0 0.0

No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% YES Annual Benefit 2 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 3 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 4 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

100% NO Annual Benefit 5 - Best Estimate 0.0 0.0No Low 0.0 0.0No High 0.0 0.0

出典:Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

以上のフォーマットを設定すると、各費用・便益ごとに物価上昇率などの割引率を考慮した現在価値が以下図表 23のフォーマット

に算出される。

Page 95: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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図表 23:Impact Assessment Calculator による移転・年間費用及び移転・年間便益集計フォーマット

Direct impacts to Business

Year 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9Transition cost FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 1 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

Annual Cost 3 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 4 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 5 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 6 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 7 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 8 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 9 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Cost 10 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Total Costs to business 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0Discount Factor 1.0000 0.9662 0.9335 0.9019 0.8714 0.8420 0.8135 0.7860 0.7594 0.7337Discounted Costs 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0Transition Benefit FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

Annual Benefit 2 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 3 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 4 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 5 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 6 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 7 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 8 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 9 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Annual Benefit 10 FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE FALSE

Total Benefits to business 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0Discount Factor 1.0000 0.9662 0.9335 0.9019 0.8714 0.8420 0.8135 0.7860 0.7594 0.7337 PV Benefits to businessDiscounted benefits 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

NPV to business02014 prices 2015 Base Year

Business Costs 0.000 0.000 0.0000Business Benefits 0.000 0.000 0.0000Net Business Impact 0.000 0.000 0.0000Deflation Factor 1.016Discount factor 1.000

出典:Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

Page 96: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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最終的には、以下図表 24の推計結果表示フォーマットに算出される正味現在価値合計や企業に対する正味現在価値、1年間に企業

が負担する正味費用(EANCB)、シナリオごとの費用・便益の結果などを活用し、影響評価書を作成する。

図表 24:Impact Assessment Calculator による影響評価書記入数値の推計結果表示フォーマット

Total Net Present Business Net Net cost toValue Present Value business per year

(EANCB: 2014 prices; 2015 present value)

0.00 0.00 0.00

Cost of Option

Net Benefit (Present Value (PV)) (£m)Low: 0.00 High: 0.00 Best Estimate 0.00

CostsTotal Transition

(constant price) years

Average Annual (excl. Transition, constant price)

Total Cost (present value)

Low 0.0 0.0 0.0High 0.0 0.0 0.0

Best Estimate 0.0 0.0 0.0

BenefitsTotal Transition

(constant price) years

Average Annual (excl. Transition, constant price)

Total Benefit (present value)

Low 0.0 0.0 0.0High 0.0 0.0 0.0Best Estimate 0.0 0.0 0.0

Direct impact on business (Equivalent Annual) £m:Costs: 0.0 Benefits: 0.0 Net: 0.0

出典:Department for BusinessInnovation & Skills”Impact Assessment Calculator”

https://www.gov.uk/government/publications/impact-assessment-calculator--3

Page 97: 英国における規制の政策評価に関する 調査研究英国での現地調査日程は以下図表の とおりである。 なお英国での現地調査は、専門的な見地からのアドバイスを得るため、東京大学公共

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別添資料3 用語集 44

(規制の)代替手段:「命令と統制」による規制なしで政策目標を達成する方法であり、自主

規制、共同規制、情報及び教育、経済的手段及び現行規制のより良い活用などが挙げられる。

共通開始日(Common Commencement Date: CCD):企業に課される英国の規制は、限定され

た例外措置の適用のもとで、毎年 4 月 6 日と 10 月 1 日のみに施行されるという政府のコミ

ットメントを指す。

直接的影響:規制の実施または撤廃/簡素化に起因して直接もたらされるものとして特定

できる影響。

企業が負担する年間正味費用(Equivalent Annual Net Cost to Business: EANCB):反事

実的仮定を参照して算出されるもので、企業が負担する正味費用の現在価値を年換算した

価値。

EU 由来(措置): EU 指令及び EU 規則を実施する英国措置。

EU 指令:EU 指令は全ての加盟国内で達成しなければならない特定の最終成果を定める。

各国内当局は自国の法律をこの目標を達成するように適合させなければならないが、どの

ような方法でそれを達成するかを自由に決定することができる。EU 指令は1か国、複数の

加盟国、全加盟国に関係する可能性がある。

EU 規則:EU 規則は、国内法と同等に、全ての加盟国に拘束力のある法的効力を有してい

る。加盟国政府は EU 規則を施行するために自ら行動を起こなさくても良いが、直接適用さ

れる加盟国義務を履行または執行するために法律を導入する必要があるかもしれない。

ファストトラック:規制緩和措置及び低コスト規制措置に関して軽度の精査が適用される

制度。

「目的に適合している」:規制政策委員会から出される「青」または「黄」評価の意見書

で、政策の分析及び企業に及ぼす影響の算出が受入れ可能な基準を満たしていることを示

している(黄評価の場合、規制政策委員会意見書に明記される変更事項に対応することを

条件としている)。

企業が負担する総費用:措置によって企業が被る費用合計額で、便益を一切考慮していな

い。

影響評価(書)(Impact Assessment: IA):政策立案者が公共、民間及び第三セクターに

対する政府の実際のまたは考えられる介入による結果を熟考し、理解するのを支援するた

めの継続的プロセス及びそのような介入がもたらすプラス及びマイナスの影響に関するエ

ビデンスを政府が比較衡量(政策が実施された後に行われる政策が及ぼす影響についての

事後検証を含む)し、提示することができるようにするツールの両方を指す。

IN:企業の負担する直接増分費用が、企業の享受する直接増分経済便益を超過する措置(規

制措置または規制緩和措置であるかを問わない)。

間接的影響:企業が被る費用または便益であって、直接的影響の定義によっては捕捉され

ないもの。

44 Department for Business, Innovation and Skills “Better Regulation Framework Manual”, 2015.3, pp84-89 より抜粋

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措置:第1次立法若しくは第2次立法、法定指針または政策提案。

正味現在価値(Net Present Value: NPV):費用の流れの現在価値と便益の流れの現在価

値との差。

ワン・イン、ワン・アウト(One-in, One-out: OIOO):企業または市民社会組織に費用を

課すいかなる新たな措置も、その費用と同等の価値を持ち、撤廃することができる既存の

規制措置を特定することなく導入してはならないことを定める規則。OIOO は 2011 年1月

1日以降に施行される全ての措置に適用される。各省庁は 2011 年1月から議会会期末まで

に測定される OIOO を遵守していることを実証することが見込まれている(現在は非適用)。

ワン・イン、ツー・アウト(One-in, Two-out: OITO):企業及び市民社会組織に直接正味

費用を負担させることが見込まれる新たな規制措置は全て、その直接正味費用の少なくと

も2倍の金額の費用節減効果を企業にもたらす補償的規制緩和措置によって相殺されなけ

ればならないことを定める規則。OITO は 2013 年 1 月 1 日以降に施行される全ての措置に

適用される(現在は非適用)。

OUT:企業の享受する直接増分経済便益が、企業の負担する直接増分経済費用を超過する

規制緩和措置。OUT は、完全に撤廃される既存規制または負担を軽減させるために改変さ

れる既存規制を源とする場合がある。

現在価値(Present Value: PV):事前評価対象期間全体にわたって発生する価値を、割引

という方法を用いて現在地点まで割り戻した価値の合計額。

主管当局(Primary Authority):2008 年規制執行・制裁法(Regulatory Enforcement and

Sanctions Act 2008)に導入された制度で、一貫性のなさを改善し、費用を削減するため

に、規制遵守に関して適格企業と単一の地方自治体との間に法的に認識されたパートナー

シップを形成することを認めるもの。

レッドテープ・チャレンジ:現行規制の条件を検証するため、政府全体を対象として実施

するプログラム。規制はその正当性を十分に弁護することができない限り、撤廃すべきで

あるというのが考え方の出発点である。

レッドテープ・チャレンジ(Red Tape Challenge: RTC)措置:RTC プロセスを通じて正式

に検証され、規制削減小委員会によって同意され、レッドテープ・チャレンジの「テーマ」

の成果の一部として各省庁によって発表された規制改革。

規制:遵守しなければ、規制される側の事業体または人が法律に抵触することになり、継

続的な財政的支援、助成金及びその他の制度の適用を受ける資格がなくなるような規則ま

たは指針。これは、中央政府が課す法的効力を有したあらゆる措置及び中央政府が運用す

るその他の制度として要約することができる。租税または支出に関する決定は規制に含ま

れない。

規制政策委員会の確認(書):措置に関して実施する規制トリアージ評価及び規制削減小

委員会が設定した適格性基準に照らして実施する評価に基づき、その措置がファストトラ

ックの対象として適切かどうかを規制政策委員会が決定すること。

規制政策委員会の意見(書):影響評価が目的に適合しているかどうかを規制政策委員会

が決定すること。

規制政策委員会の認証:規制政策委員会が、ワン・イン、ツー・アウトの範囲内にあるフ

ァストトラック措置の EANCB 数値を調査し、それに同意するプロセス。これは通常、各省

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庁が作成する最終段階での影響評価書またはこれに代わる認証段階での影響評価書に基づ

いて行われる。認証は通常、最終段階での政策承認と平行して実施される。

規制トリアージ評価(Regulatory Triage Assessment: RTA):措置がファストトラックプ

ロセスの対象として適切であるという規制政策委員会の確認を得るために、各省庁が作成

して規制政策委員会に提出するファストトラック措置向けの書式。

第2次立法:従位立法の代替用語。

感度分析:重要な各変数の将来予想値を変えたとき、評価にどれだけの変化が生じるのか

を分析する手法。

法定指針:法律における権限または義務に従い、すなわち、議会の法律が明示的に大臣そ

の他の指針を発出することを定めている場合に立案される指針であり、その指針を遵守す

る義務を含む。

行政委任立法:英国において、大半の第2次立法が立案される形態。

従位立法:従位立法は 1978 年解釈法第 21 条第1項に定義されており、法律に基づき立案

されるまたは立案される予定の枢密院令、政令、規則、規制、制度、保証、細則及びその

他の法律文書を意味する。

新規規制に関する報告書(Statement of New Regulation: SNR):6か月ごとに公表され

る報告書で、次の6か月間に施行される措置が記載され、また、OIOO 及び OITO に基づく

進捗状況が報告される(現在は実施されていない)。

サンセット及び事後評価条項:法律の中に含められており、企業に大きな費用負担をもた

らす規制措置が必ず事後検証を受けなければならない(また、該当する場合、自動的に失

効する)ようにする条項。

金融システムリスク:ある機関がその債務を期日に履行することができないことに起因し

て他の機関もその債務を期日に履行することができなくなるリスク。そのような不履行は

重大な流動性または信用問題を引き起こす結果、市場の安定性または信頼性を脅かす恐れ

がある。

移行費用・便益:通常は措置の実施に伴って生じる一過性または一度限りの費用または便

益。

トリアージ:措置がファストトラックに適しているかまたは全面的な影響評価を必要とす

るかを決定する省庁による早期評価のプロセス。

純ゼロコスト:OITOに基づきゼロとして記録される措置。