29
海馬回路演算の機能と意義 ―― 基礎から最新の知見まで ―― 圭・坂 也・池 東京大学 Hippocampal circuit computation : basic and advanced research topics Nobuyoshi MATSUMOTO, Tetsuya SAKAGUCHI, and Yuji IKEGAYA The University of Tokyo The hippocampal formation is crucial for memory, learning, and spatial navigation. Historically, the anatomical and histological features of the hippocampus were first uncovered. Subesequently, studies on hippocampal damage in humans and rodents revealed that the hippocampus is of importance for certain forms of cognitive ability. Moreover, behavioral and electrophysiological experiments shed light on the significance of the hippocampal formation, including the entorhinal cortex and subiculum. Such research, however, did not reveal the spatiotemporal patterns of hippocampal activities online. Such mesoscopic neural activity can be visualized using functional multineuron calcium imaging. This optical technique has also allowed us to discover the property of synaptic inputs, the role of hippocampal neurons as logical operators, and the relationship between the neuronal firing and sharp-wave ripple complexes. Here, we review recent findings on the mesoscopic computation of hippocampal circuitry. Key words : sharp-wave ripple, Ca 2+ imaging, mesoscopic computation, ROTing, synaptic inputs キーワード:リップル波,カルシウムイメージング法,メゾスコピック演算,回路マッピング, シナプス入力 海馬は,哺乳類の記憶・学習や空間探索に重要 な脳部位であり,同時に,哺乳類の中枢神経系で ももっとも生理学的な研究が進んでいる脳部位の ひとつでもある。理由のひとつは,解剖学的にも 組織学的にも,ひと目で見分けのつく明確な構造 を持っていることである。 本稿では,まず海馬体の基本的な解剖学的・組 織学的特徴について概説する。続いて,近年報告 されてきた海馬の機能を解説する。そして,最後 に,当研究室で行われた研究を中心にメゾスコ ピックな視点,すなわち,ミクロでもマクロでも なく,その中間階層から眺めた回路情報処理を紹 介する。 1.海馬体の構造と神経細胞の特徴 1. 1 海馬体の層構造 ヒトの海馬 (hippocampus) は,小指よりも一 回り小さいサイズである。神経科学者にとって海 馬が魅力である理由は,解剖学的な特徴である。 海馬の内部は明瞭な層構造を形成している。すな わち,ニューロンの細胞体と,その神経網の領域 が層状に並んでいるのである。海馬はバナナのよ うに細長く延ばされた構造をしている。その構造 の長軸方向が C 字型に湾曲している。軸の吻側 は中隔核 (septal nucleus) 付近から始まり,間 脳を巻き込むように伸び,外尾側の側頭葉 (tem- poral lobe) へと伸びている。海馬の長軸のこと を,中隔側頭軸 (septotemporal axis),短軸方 向を横断軸 (transverse axis) と呼ぶ。 2013,Vol. 56, No. 2, 157 - 185 Japanese Psychological Review 157

海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

海馬回路演算の機能と意義

――基礎から最新の知見まで――

松 本 信 圭・坂 口 哲 也・池 谷 裕 二

東京大学

Hippocampal circuit computation :

basic and advanced research topics

Nobuyoshi MATSUMOTO, Tetsuya SAKAGUCHI, and Yuji IKEGAYA

The University of Tokyo

The hippocampal formation is crucial for memory, learning, and spatial navigation.

Historically, the anatomical and histological features of the hippocampus were first uncovered.

Subesequently, studies on hippocampal damage in humans and rodents revealed that the

hippocampus is of importance for certain forms of cognitive ability. Moreover, behavioral and

electrophysiological experiments shed light on the significance of the hippocampal formation,

including the entorhinal cortex and subiculum. Such research, however, did not reveal the

spatiotemporal patterns of hippocampal activities online. Such mesoscopic neural activity can be

visualized using functional multineuron calcium imaging. This optical technique has also allowed

us to discover the property of synaptic inputs, the role of hippocampal neurons as logical

operators, and the relationship between the neuronal firing and sharp-wave ripple complexes.

Here, we review recent findings on the mesoscopic computation of hippocampal circuitry.

Key words : sharp-wave ripple, Ca2+ imaging, mesoscopic computation, ROTing, synaptic inputs

キーワード:リップル波,カルシウムイメージング法,メゾスコピック演算,回路マッピング,

シナプス入力

は じ め に

海馬は,哺乳類の記憶・学習や空間探索に重要

な脳部位であり,同時に,哺乳類の中枢神経系で

ももっとも生理学的な研究が進んでいる脳部位の

ひとつでもある。理由のひとつは,解剖学的にも

組織学的にも,ひと目で見分けのつく明確な構造

を持っていることである。

本稿では,まず海馬体の基本的な解剖学的・組

織学的特徴について概説する。続いて,近年報告

されてきた海馬の機能を解説する。そして,最後

に,当研究室で行われた研究を中心にメゾスコ

ピックな視点,すなわち,ミクロでもマクロでも

なく,その中間階層から眺めた回路情報処理を紹

介する。

1.海馬体の構造と神経細胞の特徴

1. 1 海馬体の層構造

ヒトの海馬 (hippocampus) は,小指よりも一

回り小さいサイズである。神経科学者にとって海

馬が魅力である理由は,解剖学的な特徴である。

海馬の内部は明瞭な層構造を形成している。すな

わち,ニューロンの細胞体と,その神経網の領域

が層状に並んでいるのである。海馬はバナナのよ

うに細長く延ばされた構造をしている。その構造

の長軸方向が C 字型に湾曲している。軸の吻側

は中隔核 (septal nucleus) 付近から始まり,間

脳を巻き込むように伸び,外尾側の側頭葉 (tem-

poral lobe) へと伸びている。海馬の長軸のこと

を,中隔−側頭軸 (septotemporal axis),短軸方

向を横断軸 (transverse axis) と呼ぶ。

2013,Vol. 56, No. 2, 157-185

Japanese Psychological Review

157― ―

Page 2: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

海馬は,海馬体 (hippocampal formation) と呼

ばれる大脳辺縁系の一部である。海馬体は,歯状

回 (dentate gyrus),海馬,海馬支脚 (subiculum),

前海馬支脚 (presubiculum),傍海馬支脚 (para-

subiculum),嗅内皮質 (entorhinal cortex) に分

けられる (図 1)。このうち,歯状回および海馬

は単層構造をしており,その上下を低細胞密度の

層 (あるいは無細胞層) が挟んでいる。現在まで

に知られている中枢神経系のシナプス伝達に関す

る知見の多くは,歯状回や海馬を標本としている。

歯状回は 3層から成る。主要な層は顆粒細胞層

(granule cell layer) である。顆粒細胞層の,直

上および直下には,きわめて低い細胞密度の分子

層 (molecular layer) と,細胞が疎らに散見され

る多形細胞層 (polymorphic cell layer) が,それ

ぞれ位置している。多形細胞層は門 (hilus) と

呼ばれることもある。

海馬にも中心となる層が存在し,錐体細胞層

(pyramidal cell layer) と呼ばれている。錐体細

胞層の上下にはさらに細かい層 (stratum) が

走っている。海馬の層構造については後述したい。

海馬支脚は海馬から続く単層構造をしており

(OʼMara, 2005),前海馬支脚,傍海馬支脚および

嗅内皮質は古典的な 6層構造を形成している。た

だし,前海馬支脚の 6層構造は明瞭ではなく,海

馬と傍海馬支脚との遷移領域とみなすべきである

(Amaral & Lavanex, 2006)。

ここで,シナプス (synapse) について簡単に

触れたい。シナプスとは,ニューロン間に形成さ

れるシグナル伝達などの神経活動に特有な接合部

位のことである。シグナルを伝える方のニューロ

ンをシナプス前細胞,シグナル受け取る方の

ニューロンをシナプス後細胞と呼ぶ。シナプスは,

化学シナプス (小胞シナプス),電気シナプス

(無小胞シナプス),混合シナプス (化学シナプス

と電気シナプスが混在する) に分類される。

シナプス膜の直下で,細胞質側に存在するタン

パク質の複合体をシナプス後肥厚 (postsynaptic

density : PSD) と呼ぶ。Gray は,シナプス後肥

厚がシナプス後ニューロンにのみ認められる非対

称シナプス (Gray I 型シナプス) のみならず,

シナプス前ニューロンにもシナプス後肥厚が認め

られる対称シナプス (Gray II 型シナプス) が存

在することを発見した (Gray, 1959)。現在では,

非対称シナプスが,グルタミン酸作動性興奮性シ

ナプス,対称シナプスが GABA作動性抑制性シ

ナプスであるとされており,電子顕微鏡を用いて

観察されたシナプスの機能を推定する手がかりと

なっている。

1. 2 海馬体の主要細胞

歯状回と海馬の主要な細胞はそれぞれ顆粒細胞

(granule cell) および錐体細胞 (pyramidal cell)

である。錐体細胞層は,細胞の大きさと形状から,

さらにCA1 野,CA2野,CA3 野と 3つに分類さ

れる (Fairen, 2007 ; Lorente de Nó, 1934)。CA

は,フランスの解剖学者 Garengeot が 1742 年に

アンモン角 (cornu ammonis) と名付けたことに

由来している。

顆粒細胞の細胞体は直径約 10 μm の小さなラ

グビー球形であり,細胞体層の厚みの方向に

4〜6 個並んでいる。げっ歯類の顆粒細胞層は V

字または U字型をしている。V字型か U字型か

は,中隔−側頭軸に沿って異なる (中隔核側がよ

り V字型)。顆粒細胞の樹状突起は細胞体層と垂

直の方向 (分子層の方向) に伸び,そこで数種の

細胞からシナプス入力を受けている。樹状突起は

ラグビー球状の細胞体の尖頂部から通常一方向に

伸びるため,顆粒細胞は単極細胞 (monopolar

neuron) と呼ばれることもある。顆粒細胞の軸

索はそのシナプス終末の独特な外見から「苔状線

維 (mossy fiber)」と呼ばれる。苔状線維は細胞

心理学評論, Vol. 56, No. 2

158― ―

図 1 海馬体の模式図海馬体は,歯状回 (dentate gyrus),海馬 (hippo-campus),海馬支脚 (subiculum),前海馬支脚(presubiculum),傍海馬支脚 (parasubiculum),嗅内皮質 (entorhinal cortex) に分けられる。さらに,海馬は,CA1 野,CA2野,CA3 野に分けられる

Page 3: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

体の基底部 (樹状突起とは反対の方向) から起始

し,歯状回門内へと伸長している。苔状線維は苔

状細胞 (mossy cell) など,いくつかのニューロ

ンに投射している。苔状線維は歯状回門を出ると

束になり,CA3 野の透明層 (stratum lucidum)

に入り込む。歯状回門のニューロンは全て歯状回

内に局所投射するインターニューロン (inter-

neuron) のみである。

海馬錐体細胞の細胞体は錐体細胞層の厚みの

方向に約 3〜6個,同じ向きに並んでいる。錐体細

胞は細胞体層を挟んで両方向に樹状突起を伸ばし

ているため,多極細胞 (multipolar neurons) と

呼ばれることもあったが,現在ではあまり一般的

でない。尖端樹状突起 (apical dendrite) は細胞

体の尖頂側 (錐体細胞の形は円錐形である) から

起始し,海馬の中心方向 (歯状回側) へと伸びて

いる。CA3 野において,尖端樹状突起は,透明

層,放線状層 (stratum radiatum),網状分子層

(stratum lacunosum-moleculare) の 3 領域を縦

に貫いている。一方,尖端樹状突起よりも短い基

底樹状突起 (basal dendrite) は細胞の底辺から

上昇層 (stratum oriens) に伸びている。

海馬は,歯状回からの距離と構成する錐体細胞

の大きさによって,2 つの主要部位に明瞭に分け

られる。歯状回に近い側であり,大きな錐体細胞

がある領域 regio inferior と,遠い側であり,よ

り小さな錐体細胞がある領域 regio superiorであ

る。この名称はRamón y Cajal によって命名され

た。現在では,ほとんどの場合,海馬をCA3 野,

CA2野,CA1 野の 3つの亜領域に分ける。この

名称は Lorente de Nóによって命名された。彼は

当初,CA4 野という単語も用いたが,これは現

在の歯状回門に相当する。Ramón y Cajal の分類

では CA3 野および CA2野が regio inferiorに相

当し,CA1 野が regio superiorに相当する。CA3

野と CA1 野に存在する錐体細胞は,細胞の大き

さのみならず,神経回路網も異なっている。例え

ば,CA3 野の錐体細胞は歯状回から,苔状線維

からの入力を受けている。その一方で,CA2 野

と CA1 野の錐体細胞は苔状線維からの入力を受

けていない。

CA1 野の錐体細胞は,存在する層やカルビン

ジン (カルシウム結合タンパク質のひとつ) に対

する免疫標識によって 3つのサブタイプに分類さ

れる (Baimbridge &Miller, 1982 ; Bullis, Jones, &

Poolos, 2007 ; Gulyas et al., 1998 ; Maccaferri &

McBain, 1996 ; van Groen & Wyss, 1990)。

CA2野は,Lorente de Nóによって定義された

ように,CA3 野と CA1 野に挟まれた狭い遷移領

域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

的・機能的にも,入力及び出力特性の観点からも,

海馬のそのほかの部位とは異なる (Jones &

McHugh, 2011 ; Piskorowski & Chevaleyre, 2012)。

CA2野錐体細胞は,CA3 野錐体細胞のように大

きな細胞体を持つ。一方,CA1 野錐体細胞と同

様に,シャッファー側枝 (Schaffer collateral) か

らの弱い入力と嗅内皮質からの強い入力を受け

ているが,苔状線維からの入力は受けていない

(Bartesaghi & Gessi, 2004 ; Bartesaghi, Migliore,

& Gessi, 2006 ; Chevaleyre & Siegelbaum, 2010 ;

Ding, Haber, & Van Hoesen, 2010 ; Sekino et al.,

1997)。嗅内皮質から CA2 野へのシナプスの刺

激によって長期増強 (long-term potentiation :

LTP) が引き起こされる一方で,シャッファー

側枝の刺激によって LTP は引き起こされない

(Chevaleyre& Siegelbaum, 2010 ; Lee et al., 2010 ;

Simons et al., 2009 ; Zhao et al., 2007)。また,CA2

野はCA3 野やCA1 野に比べ,てんかん発作によ

る,錐体細胞の細胞死がそれほど起こらず,抵抗

区域 (resistant sector) とさえ呼ばれることもあ

る (Corsellis & Bruton, 1983 ; Sashindranath et

al., 2010)。しかし,てんかん状態において,CA2

野におけるパルバルブミン (parvalbumin : PV)

陽性インターニューロンの減少により,GABA

性回路は崩壊していくようである (Wittner et al.,

2009)。上昇層,錐体細胞層,放線状層における

GAD67 発現インターニューロンの有意な減少と,

錐体細胞層におけるパルバルブミン陽性インター

ニューロンの減少は統合失調症をはじめとした機

能不全に関連している (Nullmeier et al., 2011)。

近年,CA2野の錐体細胞は嗅内皮質からの強い

入力によって興奮し,この興奮は CA1 錐体細胞

を活性化させることが分かっている。

興奮性入力は,錐体細胞の樹状突起を覆うスパ

イン (spine) の上にシナプスを作る。中でも,苔

状線維がシナプスを作る CA3 錐体細胞の近位樹

状突起上の棘状瘤 (thorny excrescence) は,中

枢神経系でもとりわけ巨大なスパインである。棘

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

159― ―

Page 4: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

状瘤は複雑に枝分かれしており,棘状瘤 1 個は

苔状線維ブートン 1 個で覆われている (Amaral,

1978 ; Fitch, Juraska, & Washington, 1989 ;

Hamlyn, 1962 ; Stirling & Bliss, 1978)。1 つの

CA3 錐体細胞あたり,平均 41 個の棘状瘤が存在

すると見積もられている (Gonzales et al., 2001)。

1 個の棘状瘤はただ 1 個の苔状線維ブートンと

接触しているが,1 個の苔状線維ブートンは複数

の棘状瘤と接触することができる (Chicurel &

Harris, 1992)。このほかの CA3 錐体細胞のスパ

インと,CA1 錐体細胞のスパインは,大脳皮質

に似た標準的なスパインを作っている。スパイン

は興奮性の非対称シナプスを形成している。

海馬錐体細胞の樹状突起の定量的な解析の結果,

CA3ニューロンの樹状突起は個々にかなりばら

ついていることが見出された (Ishizuka, Cowan,

& Amaral, 1995)。CA3c 野 (CA3 野の中でも歯

状回に近い側) の錐体細胞は,樹状突起の総計長

が短く,CA1 野に近づくほど長くなる。CA1 錐

体細胞では場所によらず樹状突起はほぼ一定で,

平均すると全長は約 12,000〜13,000 μm である

(Ishizuka et al., 1995 ; Megias et al., 2001)。平均

的な CA1 錐体細胞は興奮性入力を 30,000,抑制

性入力を 1,700 ほど持っていると見積もられてい

る (Megias et al., 2001)。抑制性入力は尖端樹状

突起の近位に多く,スパインを介さずに軸

(shaft) に直接入力している (Papp et al., 2001)。

錐体細胞層以外の層に存在するニューロンはイ

ンターニューロン (interneuron) と推定される

が,必ずしもこの限りではない。例えば,CA1 野

の放線状層からは,樹状突起にスパインを有する

大きな細胞を見出している。このニューロンの軸

索は海馬采 (fimbria) に向かい,ミエリン化さ

れていて太い (Gulyas et al., 1998)。

1. 3 海馬体のインターニューロン

インターニューロンは古来,局所に集中した軸

索叢 (plexus) を持ち,GABA (抑制性神経伝達

物質のひとつ) を放出し,樹状突起にスパインが

ない神経細胞として定義されている。細胞標識法

や電気生理学的な記録法が進歩し,インター

ニューロンは従来考えられていたよりもずっと多

様であることがわかり,伝統的な定義だけでは,

どれも必ず例外が現れる (Buckmaster& Soltesz,

1996)。しかし実質上は,歯状回や海馬のインター

ニューロンのほとんどは,シナプス標的を局所に

持ち,スパインを欠き,GABA 作動性であると

大雑把に捉えて問題はない (Freund & Buzsáki,

1996)。

歯状回において,もっとも重要なインター

ニューロンは籠細胞 (basket cell) である。籠細

胞は,顆粒細胞層と歯状回門の境界付近に存在し,

顆粒細胞の細胞体に投射している。籠細胞には

少なくとも 5つの亜種 (錐体籠細胞 (pyramidal

basket cell),紡錘籠細胞 (fusiform basket cell),

水平籠細胞 (horizontal basket cell),逆紡錘籠細

胞 (inverted fusiform basket cell),分子層籠細

胞 (molecular layer basket cell)) に分類される

とされる (Ribak & Seress, 1983)。分子層にもイ

ンターニューロンは存在する。その中でも,軸索

軸索間細胞 (axo-axonic cell) は興味深い。軸索

が顆粒細胞の軸索起始部に投射するために,こう

呼ばれている (Kosaka, 1983)。歯状回門にも多

種のインターニューロンが存在する。歯状回門の

中だけに投射するインターニューロンもあれば,

顆粒細胞層や分子層に投射するインターニュー

ロンも存在する。この中に,苔状細胞 (mossy

cell) と呼ばれるインターニューロンがある

(Amaral, 1978)。これは興奮性ニューロンであり,

同側および対側の歯状回の分子層だけに投射する。

これを「興奮性インターニューロン」などと呼ぶ

研究者もいるが,両側の海馬に投射するその長い

軸索は,いわゆるインターニューロンの古典的定

義には反する。実際に,苔状細胞は局所的に投射

すると言うよりも,歯状回の中隔−側頭軸方向の

遠くに投射する傾向がある。したがって,苔状細

胞は,伝統的な意味では,インターニューロンの

定義にも主要細胞の定義にも属さないことになる。

海馬 CA1 野のインターニューロンには,存在

する場所やシナプス標的によって,少なくとも 21

種の亜種が存在するとされている (Klausberger

& Somogyi, 2008)。本稿では,その中でも 5つの

亜種について取り上げる。すなわち,軸索軸索間

細胞,籠細胞,重層状細胞 (bistratified cell),上

昇−網状分子細胞 (oriens lacunosum-moleculare

cell : OLM cell),蔦細胞 (ivy cell) である。

軸索軸索間細胞は,その名前が示すように,錐

体細胞の軸索起始部にシナプスを形成していて,

心理学評論, Vol. 56, No. 2

160― ―

Page 5: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

活動電位の発生に強い影響を及ぼしている。軸索

軸索間細胞の働きは,興奮性であるという主張

(Szabadics et al., 2006) と抑制性であるという主

張 (Glickfeld et al., 2009) が混在している。また,

軸索軸索間細胞の働きによって,軸索が細胞体や

樹状突起から機能的に独立して活動しうる可能性

が,近年示唆されている (Dugladze et al., 2012)。

籠細胞は,錐体細胞の細胞体にシナプスを形成

している。ひとつの錐体細胞に対して,多数のシ

ナプスを形成しており,その神経網が錐体細胞の

細胞体を包む「籠」のようになっていることから

この名が付いている。籠細胞は発現しているタン

パク質によって,2種類に分けられる。すなわち,

パルバルブミン陽性籠細胞とコレシストキニン

(cholecystokinin : CCK) 陽性籠細胞である。パ

ルバルブミン陽性籠細胞の活動異常と統合失調症

との関連が示唆されている (Lewis et al., 2012)。

さらに,パルバルブミン陽性籠細胞は動物の移動

中や睡眠中,覚醒しているが動かない時 (quiet

wakefulness) に発火率を変えることが知られ

ており,これは,籠細胞が動物の状態に依存した

様式で細胞集団を調和させることを示唆している

(Lapray et al., 2012)。

重層状細胞は,錐体細胞の尖端樹状突起と基底

樹状突起の両方に投射している。つまり,この 3

種のインターニューロンの軸索出力の標的には領

域的にほとんど重なりはないが,樹状突起につい

ては,3 種のいずれも放線状層や上昇層に投射し

ており,シャッファー側枝 (Schaffer collaterals)

や交連連合線維 (commissural-associational fi-

bers) や,近傍の錐体細胞からの局所入力を受け

ているようである (Buhl et al., 1996 ; Halasy et al.,

1996)。

上昇−網状分子細胞は,その細胞体が上昇層

(stratum oriens) に存在し,かつその軸索が網状

分子層 (stratum lacunosum-moleculare) で終止

することから名づけられた。発達に伴う,上昇−

網状分子細胞への抑制性入力のプロパティの変化

には a5-GABAA受容体サブユニットのシナプス

取り込みが関与するとされている (Salesse et al.,

2011)。また,上昇−網状分子細胞は,CA3 野お

よび嗅内皮質第 3層から CA1 野への情報伝達を

制御しているとされている (Leao et al., 2012)。

近年報告された蔦細胞は,錐体細胞の,主に基

底樹状突起に軸索を投射し,その軸索の投射が

「蔦」のように密であることから,この名がつい

た。蔦細胞は,上述のパルバルブミン陽性籠細胞,

軸索軸索間細胞,重層状細胞よりも数が多い。ま

た,一酸化窒素合成酵素 (nitric oxide synthase :

NOS) や神経ペプチド Y (neuropeptide Y : NPY),

高レベルの GABAA受容体 α1サブユニットを発

現していることが特徴である (Fuentealba et al.,

2008)。蔦細胞の持続した発火は,神経ネット

ワークの興奮性や恒常性を制御していると考えら

れている (Lapray et al., 2012)。

インターニューロン同士の間に,相互に抑制

を掛ける回路が存在する。相互抑制回路は,イ

ンターニューロンの活動を同期させ,シータ波

(5 Hz) やガンマ波 (40 Hz) など,様々な周波

数の振動 (oscillation) を発生させる役割をし

ていると考えられている (Jefferys, Traub, &

Whittington, 1996)。多くの GABA 作動性イン

ターニューロンは,神経伝達物質のみならず,蔦

細胞のように神経ペプチドを含んでおり,時には

放出することも知られている。インターニューロ

ンは,形態学的 (形態,存在位置など),電気生

理学的 (発火特性など),分子生物学的 (特異的

なタンパク質発現など) の観点から様々なものが

発見されてきている。例えば,近年報告された,

海馬 CA2 野の錐体細胞層−放線状層インター

ニューロン (SP-SR interneuron) は,細胞体が

錐体細胞層に位置し,軸索や尖端樹状突起が放線

状層で終止し,基底樹状突起は,上昇層 (時に海

馬白板) まで伸びている。また,CA2 野の重層

状細胞とは異なり,パルバルブミン陰性かつコレ

シストキニン陰性である一方で,籠細胞や重層

状細胞と同様の発火特性を示す (Mercer et al.,

2012)。

2.海馬と記憶

2. 1 海馬の損傷と記憶

海馬の機能に関するもっともよく知られていて,

かつ今でも有効な説は,記憶との関係であろう

(Bechara et al., 1995 ; Bunsey & Eichenbaum,

1996 ; Cohen & Squire, 1980 ; Eichenbaum, 2000 ;

Milner, Squire, & Kandel, 1998)。ある脳部位が損

傷されると,非可逆的に完全な (あるいは重度

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

161― ―

Page 6: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

の) 順向性健忘が生じることは百年近く前から知

られてきたが,現在では海馬の損傷のみで,こう

した健忘が引き起こされることが解っている。患

者は,毎日の生活で起こった物事の記憶を呼び起

こすことができない。

もっともよく知られた例は,男性患者 HM で

ある。彼は若い頃,生命が危ぶまれるほどのひど

いてんかんを煩っていた。1953 年,HM は両半

球の海馬体とその周辺の脳部位を切除する手術を

受けた。この手術はてんかん発作が軽減したもの

の,劇的な副作用が現れた。彼は手術後からずっ

と,新しい情報を長期間保持しておくことができ

なくなった。それ以外の点においては,彼の精神

状態はおおむね正常であった。

その後も,両側の海馬に損傷がある患者の例

が続々と報告された。1986 年,患者 RB の症例

が,Zola-Morgan らによって報告された (Zola-

Morgan, Squire, & Amaral, 1986)。RB は冠動脈

バイパス手術の最中,脳虚血に陥った。事故発生

から 5 年後に RB は心理学的な試験を受けた。

HMの場合と同様に,RBは顕著な順向性の記憶

障害を生じたが,手術前の記憶に関しては,ほと

んど,あるいはまったく記憶障害が見られなかっ

た。RBの死後,脳を解剖したところ,記憶障害

に関係していそうな病理的な変異は,海馬 CA1

野の錐体細胞の完全な脱落のみであった。RBの

健忘は HM よりも症状が軽かったので,記憶障

害の程度は,海馬体や周辺の皮質がどの程度の範

囲まで損傷を受けたかに依存していると考えられ

た。いずれにしても,海馬に限局された脳障害の

みで,臨床上ひどい健忘症を引き起こすのに十分

であることは明らかである。Zola-Morgan らは,

サルにおいても,海馬に限局した脳損傷によって

記憶が傷害されることを報告している (Zola-

Morgan & Squire, 1986)。

2. 2 エピソード記憶とエピソード的記憶

現在,記憶は長期記憶,短期記憶,感覚記憶に

分けられるとされる。さらに,長期記憶のひとつ

である宣言的記憶は,エピソード記憶 (episodic

memory) と意味記憶 (semantic memory) に分

けられる。海馬はエピソード記憶に重要とされる。

歴史的に俯瞰すると,Tulving は自身の著書の中

で,エピソード記憶を「時間的に限局した出来事,

および出来事の間の時間的・空間的な関係性につ

いての情報を受け取り保存する」記憶として定義

している。しかし,その後エピソード記憶の定義

は変容し,「3 つの糸口 (主観的時間,自己作用

的意識,そして自己についての感覚) が,心的時

間旅行を可能にする認知的な〈心と脳〉システム

の 3つの中心的要素を示す」とも定義されている。

この定義では,エピソード記憶を持つことで心

的時間旅行 (mental time travel) が可能になる

ことが提言されている。これによって,過去の出

来事を想起することのみならず,未来を想像し,

起こりうる事象を予測して,企図や準備を行える。

以上の定義の変遷を総括すると,エピソード記

憶とは,「いつ」「どこ」で「何」が起きたか,と

いう個人的な経験の記憶を意識的に想起した上で,

さらに,その記憶を追体験できる認知的システム

と言えるだろう。すなわち,現在のエピソード記

憶の定義では,記憶される内容 (「いつ」「どこ」

「何」) に基づいた古典的な側面よりも,記憶した

情報を自ら想起し,能動的に利用していくメタ認

知 (認知していることを認知している) 的な側面

が際立ってきている。このような観点に基づき,

エピソード記憶はヒト特有のものであって,動物

においてエピソード記憶は存在しないという主張

が強くなった。

動物における心的時間旅行については,いく

つかの報告が存在する。主に鳥類 (ハト,アメリ

カカケス) を用いた実験から,動物も過去のイベ

ントを振り返り,未来の状態を想像している (よ

うに見える) 行動を示すことが報告されている。

自己を認識する能力は,自己鏡映像認知 (鏡で自

分自身を見た時に,それが自分だと認知できる

こと) に代表されるが,チンパンジー (Gallop,

1970),イルカ (Reiss & Marino, 2001),ゾウ

(Plotnik, deWaal, & Reiss, 2006) をはじめとした

認知的能力が高いとされる動物において,完全で

はないものの,自己認識能力が認められるとされ

ている。群れをなして社会的な行動様式をとる動

物が多いのは興味深い。他にも,シャチ,オキゴ

ンドウ,カリフォルニアアシカといった海洋生物

(Delfour & Marten, 2001) やカササギ (Prior,

Schwarz, & Gunturkun, 2008) が自己鏡映像認知

を示すとされている。

しかし,その一方で,ヒトしか心的時間旅行

心理学評論, Vol. 56, No. 2

162― ―

Page 7: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

を行えないという主張も当然根強く残っている

(Suddendorf & Busby, 2003 ; Tulving, 2002)。例

えば,近年,ヒトを対象とした実験で,核磁気共

鳴画像法 (magnetic resonance imaging : MRI)

を用いて海馬 CA1 野のニューロンが心的時間

旅行に重要であることを示した知見が存在する

(Bartsch et al., 2011)。加えて,連続再認記憶課

題を行っているてんかん患者 (ヒト) の側頭葉か

らシングルニューロン記録を行い,心的時間旅行

の傍証を得たという知見も存在する (Howard et

al., 2012)。

以上の現状から,動物の「エピソード記憶」に

ついては,ヒトのエピソード記憶と似て非なる記

憶という意味で,「エピソード的記憶 (episodic-

like memory)」と呼ぶことが多い。そして,動

物を対象として,エピソード的記憶を評価するた

めの様々な実験系が考案されてきた。以下では,

いくつかの実例を見ていきたい。

2. 3 エピソード的記憶を評価する試験法

エピソード的記憶研究の草分けとなったのは,

アメリカカケスを用いた Clayton らの研究だろう

(Clayton & Dickinson, 1998)。彼らは,カケスが,

余った食糧を隠しておく貯食の性質があることを

利用した。事前トレーニングで,カケスは,好物

であるハチミツガの幼虫が,隠してから長時間

(124時間) 経つと腐り,食べられなくなることを

学習する。また,隠してから間もなければ (4時

間),幼虫は腐ることなく,食べられるというこ

とを学習する。一方,幼虫以外の食糧としてピー

ナッツを用いた。ピーナッツは,少なくともパラ

ダイムの間は腐らない。しかし,カケスにとって

のピーナッツに対する嗜好性は,幼虫よりも低い。

すなわち,ピーナッツと腐っていない幼虫であれ

ば,カケスは迷うことなく幼虫を選択する。

事前トレーニングを経た後,テストでは,2種

類の試行を行った。試行 1では,2 つのプレート

のうち左のプレートにピーナッツを隠させた (第

1段階)。右のプレートには覆いを被せ,プレー

トの存在しかわからないようにする。その 120時

間後,今度は左のプレートを覆いで隠し,右のプ

レートにハチミツガの幼虫を隠させた (第 2 段

階)。その 4時間後,プレート自体とその位置は

全く変えずに (砂は入れ替え,においも消し,プ

レートの中にピーナッツ及び幼虫は無い),2 つ

のプレートをカケスに呈示する。そして,カケス

がどちらのプレートをより探るか調べることで,

カケスの記憶を評価した。試行 2では,ピーナッ

ツとハチミツガの幼虫を隠すタイミング,及びプ

レートの位置を逆転させた。結果,食糧を隠して

から 4時間経過した場合,カケスは幼虫を隠した

プレートを掘り起こした。しかし,食糧を隠して

から 124時間経った場合,カケスはピーナッツを

隠したプレートを掘り起こした。この実験結果は,

カケスが,「いつ」 (4 時間前か 124 時間前か),

「どこ」に (右のプレートか左のプレートか),

「何」を (ハチミツガの幼虫かピーナッツか) 隠

したか記憶していたことを示している。

さらに,類似した研究に,アメリカコガラを用

いた研究が存在する (Feeney, Roberts, & Sherry,

2009)。この実験からは,課題を行う環境がより

広く,食糧を探すために手数をより多く踏まなけ

ればならないような自然に近い状況では,アメリ

カコガラが,「いつ」エサを隠したかという情報

を使えないことが示された。

鳥類ではなく,げっ歯類を用いた研究も多く存

在するが,その一例は,複数の匂いを用いた課題

である。この研究によって,海馬を損傷したラッ

トも,何らかの方法で「何」情報 (匂いの手がか

り) と「どこ」情報 (空間的な手がかり) とを知

覚し記憶していられる一方で,それらの手がかり

を適切に用いることは不可能になることが示され

ている (Ergorul & Eichenbaum, 2004)。

2. 4 動物の再認記憶

再認とは,直接の手がかりによって,以前に呈

示された刺激と,呈示されたことのない刺激を

弁別する能力のことである。その弁別を保持し

ておくことを再認記憶という。そして,再認記憶

は 2つの成分から成るとされている。それは,回

想 (recollection) と親近性 (familiarity) である。

回想は,意識を伴って,以前にあったエピソード

を思い出すことである。つまり,その時点にあっ

たことを追体験する心的時間旅行であると言え,

意識の関与が不可欠である。一方,親近性は,そ

のエピソードがいつあったかを正確に想起するこ

とはできないものの,見覚えがあり,知っている,

初めて見たわけではない,ということをもとにし

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

163― ―

Page 8: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

た判断である (Squire, Wixted, & Clark, 2007)。

回想と親近性を測定する方法はいくつかあるが,

そのひとつに,二重過程−信号検出モデルがある

(Yonelinas, 1994)。回想は閾値モデル,親近性は

信号検出理論モデルの二過程に従うとする数学的

なモデルを立て,再認記憶課題によって得られた

受信者操作特性 (receiver operating characteris-

tic : ROC) 曲線にモデルをフィットさせ,回想と

親近性の値を推定する。このモデルを動物に応用

した実験を紹介したい。

Fortin らは,匂いを用いた再認記憶課題を

動物 (ラット) に課した (Fortin, Wright, &

Eichenbaum, 2004)。実験者は,あらかじめ,匂

いのついた砂で満たしたカップに食糧を埋めてお

き,ラットに食糧を掘り起こす課題を行わせた。

砂の匂いの新旧判断 (新旧のカップはランダムに

呈示される) と報酬を組み合わせ,再認記憶課題

を行った。ROC曲線を描くために,カップの深さ

(深いほど掘り起こしにくい) や報酬量を操作し

た。結果,ラットにおける ROC 曲線は,ヒトの

ROC 曲線と同様の非対称性を示した。このこと

は,ラットにも回想と親近性の二過程が存在す

ることを示唆した。また,海馬を損傷したラット

を用いて同様の実験も行った。海馬の損傷によ

り,直線的成分 (回想) が消失し,対称的な ROC

曲線 (親近性) になることを示した。すなわち,

回想は海馬依存であると主張した。この主張は,

ヒトの健忘症患者が示す結果と類似していた

(Yonelinas et al., 1998)。また,ヒトにおいて,

低酸素症患者は回想に傷害を受け,側頭葉 (海

馬及び海馬傍回) を損傷した患者は回想と親近

性の両方に傷害を受けることが示されている

(Yonelinas et al., 2002)。海馬は回想に必要で

あり,嗅周皮質 (perirhinal cortex) は親近性に

基づいた再認に必要であるとされている

(Eichenbaum, Yonelinas, & Ranganath, 2007)。

この主張には反論もあり,海馬は回想と親近性の

両方を担うという主張もある (Smith, Wixted, &

Squire, 2011 ; Wais et al., 2006)。

さらに,ラットを対象とした同様の実験系を

用いて,扁桃体 (情動を司る脳部位) の損傷によ

り,親近性が傷害されることが示されている

(Farovik et al., 2011)。

2. 5 動物の心的時間旅行

Fortin らの研究によって,動物も回想しうる,

すなわち過去を振り返りうることが示された。

ここで,Tulving による,エピソード記憶の定

義に立ち返ってみたい。それによれば,「過去の

出来事を振り返るというエピソード記憶を裏付け

るためには,『偶然』起きた出来事を後から『意

識的』に思い出していることを示す必要がある」

とある。換言すると,エピソード記憶を実証する

ならば,被験体が事象を記銘した時点においては,

その事象を「後で想起する必要がある」と意識さ

せてはならない。

この条件を満たす実験をふたつ紹介したい。ひ

とつは,Zentall らの研究である。Zentall らは,

ハトを用いた象徴見本合わせ課題により,ハトが,

課題を解く上では記憶しておく必要のない,過去

の自身の行動の記憶を利用できることを示した

(Zentall et al., 2001)。これは,動物が逆行性に記

憶を処理できることを示唆する。さらに,Raby

らの研究では,「朝食プランニング」実験により,

アメリカカケスが,未来を順行的に予測すること

で現在の行動を変化させられることを示した

(Raby et al., 2007)。これは,現在の自身の行動

が,予測される未来の状態によって決められてい

るひとつの例である。

2. 6 記憶を評価する他の試験法

動物モデルで記憶を評価する試験法は,ヒト

の試験法とはずいぶんと本質的に異なっている

が,海馬体の破壊でヒトと類似した記憶障害が

生じることが知られている。空間記憶を評価する

試験としてよく使用されるものにモリスの水迷路

(Morris water maze) がある。この試験では,

ラットを乳白色の水を満たした小さなプールにい

れて強制的に泳がせる。プールには動物からは見

えないように小さなプラットホームを沈めておく。

このプラットホームは動物が水泳から回避できる

ための浅瀬となっている。ラットは試験を繰り返

すうちに,実験室の風景の手がかりにプラット

ホームがどこにあるかを学習していく。そして,

水泳開始点からプラットホームへ到達する時間は

どんどんと短縮されていく。海馬を破壊された動

物では,この試験の成績が劇的に低下する。実質

上まったくプラットホームの位置を覚えることが

心理学評論, Vol. 56, No. 2

164― ―

Page 9: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

できなくなる。

海馬の記憶機能を探求している研究者たちが好

んで使用する試験は他に,文脈的恐怖条件付け

(contextual fear conditioning) 学習や,遅延非見

本合わせ (delayed non-match to sample) 課題や

空間交替 Y 字迷路 (spatial alternation Y-maze)

課題などがある。文脈的恐怖条件付け学習は古典

的なパブロフ型の条件づけパラダイムであり,動

物は状況や環境を嫌悪ショックに結びつけること

を学習する。この試験はシンプルな実験系で,

データに悪影響を与える行動変数が少ない (たと

えば,水迷路では水泳能力や水泳へのモチベー

ションが試験結果に影響を与えてしまう)。遅延

非見本合わせ課題は,特定の物体や臭いを様々な

期間,動物に覚えさせる試験であり,ヒトを含む

様々な種に対して有用に活用されている。Y 字

迷路課題は,動物を左右の枝分かれ道を選ばせて

順番の記憶を評価する試験である。これらの試

験はいずれも海馬依存性の試験であり,とりわ

け遅延非見本合わせ課題と Y 字迷路課題は,海

馬が「イベントの順番」を記憶するのに重要な部

位であることを証明するのに使われた (Fortin,

Agster, & Eichenbaum, 2002 ; Lisman, 1999)。

2. 7 海馬体ニューロンの活動と記憶

海馬体のニューロンは,様々に活性化される

ユニットの組み合わせ,つまり「アセンブリー

(assembly)」として働くことで,現在の経験

を内部表象している,と考えることもできる

(Buzsáki, 2010 ; Harris, 2005)。おそらく,こう

した海馬の内部表象と,大脳皮質にあるより詳細

な経験情報が相互作用することによって,長期的

な記憶が形成されるのだろう (McHugh et al.,

1996 ; Wilson & McNaughton, 1993, 1994)。これ

らの電気生理学的なデータが示唆することは,海

馬体のニューロンがある特定の情報に選択的に反

応するわけではなく,むしろ,行動のすべてを表

す内象を一時的に記憶しておく,いわば,短期記

憶バッファーとして働いているということである。

この内部表象が後に再生されることで,ゆっくり

と大脳皮質の長期的な記憶に置き換えられてい

くのだろう (Eichenbaum, 2000 ; Haist, Bowden

Gore, & Mao, 2001)。実際,徐波睡眠 (slow-wave

sleep) 中に海馬で,覚醒時での行動が内部再生

されることはすでに示唆されている (Hoffman &

McNaughton, 2002)。

海馬は非常に特徴的な電場の揺らぎ活動を示

すが,これが記憶・学習に関与している可能性が

ある。動物が環境を探索するときには,5-10 Hz

(シータ) 周期の脳波が記録される (Buzsáki,

2002 ; OʼKeefe, 1979)。探索をやめ,静かにして

いるときは,シータの代わりに,大きな振幅で不

規則に生じる「鋭波 (sharp wave)」が記録され

る。これら 2つのタイプの脳波は,相互に排他的

であって,同時には生じない。シータ波を出して

いるときには,海馬は環境の新しい内部表象を獲

得しており,一方,鋭波を出しているとき (また

は徐波睡眠中) には,海馬は皮質への記憶の固定

を促進していると考える説もある (Jarosiewicz,

McNaughton, & Skaggs, 2002 ; Sutherland &

McNaughton, 2000)。

3.海馬体と時空間表象

3. 1 海馬における空間表象

電気生理学的実験によって,海馬のニューロ

ンが環境内に置かれた何らかの刺激によって活

性化されることが示された。1971年,OʼKeefe と

Dostrovsky は,自由行動下のラットの海馬

ニューロンから神経活動を記録し,特定の細胞が

環境中の特定の場所を走り抜けるときに活動する

ことを発見した (OʼKeefe & Dostrovsky, 1971)。

これは場所細胞 (place cell) と呼ばれる海馬の

ニューロンである。発見当時,彼らは,場所細胞

の発火パターンが外部環境にのみ依存し,内部情

報とは独立していると主張した。こうしたデータ

から,心理学者Tolman が予想していた,外界を

認識する地図,「認知地図 (cognitive map)」が

海馬において形成されているものと推察された

(OʼKeefe, 1979 ; Tolman, 1948)。しかしながら,

近年,場所細胞の研究は急激に進展し,その詳細

が次々に解明され「認知地図」仮説にはいくつか

の修正が加えられている。

場所細胞が発火する特定の場所は,場所受容野

(place field) と呼ばれる。また,場所細胞は背側

海馬に特に多く存在する。また,海馬 CA1 野お

よび CA3 野の錐体細胞と,歯状回の顆粒細胞が

場所細胞の特性を示す (Jung & McNaughton,

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

165― ―

Page 10: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

1993)。

場所受容野の形成に関する仮説に,経路積分

(path integration) 仮説がある (Gothard, Skaggs,

& McNaughton, 1996)。経路積分仮説とは,動物

が,自身の出発位置を初期位置として,方向と移

動速度を積分することで,現在位置を推定しなが

ら目標とする位置に辿り着くというものである。

この推定された位置をもとに,場所受容野が形成

される。しかしながら,自身の方向と移動速度は

極めて内的な情報であり,経路積分のみでは,推

定された位置と本当の動物の位置には誤差が生じ,

蓄積しうる。その誤差は,外界のランドマークに

よって補正される。

1993年,Oʼkeefe と Recce は,場所細胞の発火

タイミングが,海馬のシータ波の位相と相関して

いることを報告した (OʼKeefe & Recce, 1993)。

すなわち,動物が場所受容野の中心に接近するに

つれて,シータ波に対する場所細胞の発火タイミ

ングの位相が先行する。この現象をシータ位相歳

差 (theta phase precession) と呼ぶ。シータ位相

歳差を逆に用いることで,海馬のシータ波の位相

と場所細胞の発火タイミングの関連性から,動物

が場所受容野に接近するのか,または場所受容野

から離れていくのかを評価できる。このことから,

シータ位相歳差は,発火タイミング符号化 (tem-

poral coding) の一種と考えられている。その一

方で,場所受容野内での場所細胞の発火は,受容

野内での急激な発火率の上昇による符号化を担う

という意味で,発火率符号化 (rate coding) と考

えられる。このような両形態の符号化はしばしば

比較されている (Harris et al., 2002 ; Mehta, Lee,

& Wilson, 2002)。インターニューロンと場所細

胞の関連も近年報告されている。パルバルブミン

陽性インターニューロンは錐体細胞の発火率と発

火タイミングの調節に関与し,ソマトスタチン陽

性インターニューロンは錐体細胞のバースト発火

の調節に関与している (Royer et al., 2012)。

場所受容野は,外部環境に応じて動的かつ瞬時

に再配置 (remapping) される (Muller & Kubie,

1987)。たとえば,環境の大きさ,形,色,明暗と

いった,様々な要素のわずかな変化が再配置を引

き起こすことが知られている (Bostock, Muller,

& Kubie, 1991 ; Quirk, Muller, & Kubie, 1990)。再

配置は,その規模により部分再配置 (partial re-

mapping) と完全再配置 (complete remapping)

に分けられる。また再配置の様式は,場所受容野

そのものと発火率が共に変化する大局的再配置

(global remapping) と,場所受容野は変わらな

いが発火率のみ変化する頻度再配置 (rate re-

mapping) とに分けられ,海馬の CA1 野,CA3

野,歯状回で,再配置の様式が異なる (Leutgeb

et al., 2005 ; Leutgeb et al., 2004)。CA1 野の場所

細胞の受容野は経時的に変化する一方で,CA3

野のそれは経時的に変化しないことも,近年明ら

かになった (Mankin et al., 2012)。そして興味深

いことに,再配置は環境の変化を必要とせず,そ

のときに従事している課題依存的にも生じ得る

という報告がなされている。たとえば Wood ら

は,ラットに T 字型迷路上で連続空間交代課題

(continuous spatial alternation task) を行わせる

ことで,同じ場所を通過しているにも関わらず場

所細胞の活動パターンがラットの軌道依存的に変

化するという現象を見出した (Wood et al., 2000)。

さらに Ferbinteanu らは,ラットがどこを通って

きたのか,あるいはどこへ向かっていくのかとい

う情報に依存して場所細胞の活動様式が変化する

ことを示した (Ferbinteanu & Shapiro, 2003)。

これらの結果は,場所細胞がそれまでのエピソー

ドを想い出す「回想記憶 (retrospective memo-

ry)」やこれから行おうとしている行動を想い出

す「展望記憶 (prospective memory)」に関与し

ていることを示唆している。つまり,場所細胞の

活動は外的な情報のみならず,内的な状態の変化

を反映していると考えられる。この性質こそが,

場所細胞が動物の意思の研究モデルとして注目さ

れる所以となっている。

ラットにおいて,場所細胞は,生後 16日齢程

度で観察される (Langston et al., 2010 ; Wills et

al., 2010)。場所細胞は加齢による影響も受ける。

老齢ラット (28ヶ月齢) の場所受容野は,若齢

ラット (12ヶ月齢) のそれに比べ小さい (Barnes

et al., 1997)。

近年,場所細胞の細胞内動態 (発火メカニズ

ム) が,生体動物を対象としたパッチクランプ記

録により明らかとなった (Harvey et al., 2009)。

また,ある錐体細胞が場所受容野を持つか持たな

いか,すなわち,場所細胞となるかならないかは,

細胞の内因的特性によって予め決まっていること

心理学評論, Vol. 56, No. 2

166― ―

Page 11: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

が知られている (Epsztein, Brecht, & Lee, 2011)。

そして,海馬 CA1 錐体細胞は,脱分極性および

過分極性電流の注入により,可逆的に場所細胞へ

と変化することが知られている (Lee, Lin, & Lee,

2012)。

霊長類においては,サルとヒトを対象とした研

究が存在する。ヒトを対象とした電気生理学的記

録によって,場所細胞様のニューロンが発見さ

れている (Ekstrom et al., 2003)。また,サルか

らは,場所ではなく,景観 (view) に反応する

ニューロンが発見されており,このニューロン

は景観細胞 (spatial view cell) と呼ばれている

(Rolls & OʼMara, 1995 ; Rolls, Robertson, &

Georges-François, 1997)。げっ歯類においては,

場所細胞の場所受容野が安定するために,自身

が実際にその位置を訪れることは必須である

(Rowland, Yanovich,& Kentros, 2011)。しかし霊

長類は,げっ歯類と異なり,実際にその位置を訪

れなくとも,場所の情報を想起したり仮想的に探

索したりすることができる。それは,霊長類の視

覚系や動眼制御系が,げっ歯類のそれよりも発達

しているからである。このために,サルでは,現

在見ている景色に反応するニューロンが存在して

いるのだと考えられている。これについては,後

にまた触れる。

3. 2 海馬以外の脳部位における空間表象

海馬の 1シナプス上流であり,海馬への入出力

を担う内側嗅内皮質 (medial entorhinal cortex)

からは,場所受容野が格子状に複数存在する格

子細胞 (grid cell) が発見された (Fyhn et al.,

2004)。格子細胞の場所受容野は,場所細胞のそ

れと同じく再配列 (realignment) が起こること

が報告されている (Hafting et al., 2005)。通常,

格子細胞からの電気生理学的記録は平面上を探索

するげっ歯類から行うが,螺旋階段を昇降するよ

うに訓練したラットから記録を行った研究も存在

する。この研究からは,格子細胞の場所受容野は

3次元空間内において垂直に延びていることが示

されている (Hayman et al., 2011)。格子細胞は,

マウス (Fyhn et al., 2008) やコウモリ (Yartsev,

Witter, & Ulanovsky, 2011) からも発見されてお

り,脳部位としても前海馬支脚や傍海馬支脚か

ら発見されている (Boccara et al., 2010)。仮想空

間探索課題 (virtual navigation task) を行ってい

るヒトの内側嗅内皮質からユニット記録を行った

最近の知見では,ヒトにおける格子細胞の存在が

示唆されている (Jacobs et al., 2013)。場所細

胞と同様に,生体動物を対象としたパッチクラ

ンプ記録により,格子細胞の細胞内動態 (発火メ

カニズム) が近年明らかとなった (Domnisoru,

Kinkhabwala, & Tank, 2013 ; Schmidt-Hieber &

Häusser, 2013)。内側中隔野にリドカイン (ナト

リウムチャネル阻害薬) やムシモール (GABAA

受容体阻害薬) を投与し,内側嗅内皮質のシータ

波を減弱させると,格子細胞の受容野の規則的な

配置が消失することが知られている (Brandon et

al., 2011 ; Koenig et al., 2011)。また,ノックアウ

トマウスを用いた実験により,場所細胞や格子細

胞の場所受容野の大きさや安定性には,HCN1

チャネルが関わっていることが示されている

(Giocomo et al., 2011 ; Hussaini et al., 2011)。

内側嗅内皮質のニューロンは他にも興味深い性

質を持つ。ラットが探索環境の境界付近に位置す

る時に特異的に活動するニューロンはそのひとつ

である。このようなニューロンは境界細胞 (bor-

der cell) と呼ばれているが,細胞内動態はいま

だ明らかになっていない (Solstad et al., 2008)。

ヒトの内側嗅内皮質からは,経路細胞 (path

cell) と呼ばれるニューロンも発見されている

(Jacobs et al., 2010)。経路細胞は,仮想空間にお

いて,ヒトが時計回りまたは反時計回りに動く時

に特異的に活動するニューロンである。さらに最

近,サルがモニター画面を見ている時,その眼球

運動の軌跡履歴とは無関係に,画面上において等

間隔の格子状に反応するニューロンが内側嗅内

皮質から発見された (Killian, Jutras, & Buffalo,

2012)。画面上をサルの視線が動いていくことと,

水平面上をげっ歯類が移動することは対応してい

るかもしれない。これは先述の景観細胞とも関連

するだろう。

このように見ていくと,場所細胞は点を,格子

細胞は座標を表しているように思えるが,海馬体

には,動物の「方向」を符号化するニューロンも

存在していることが知られている。1984 年,

Ranck はラットの前海馬支脚から,自身の頭部

が向いている方向に受容野を持つニューロンを発

見した。このようなニューロンは,頭部方向細胞

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

167― ―

Page 12: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

(head direction cell) と呼ばれている (Taube,

Muller, & Ranck, 1990a, 1990b)。現在では,頭部

方向細胞は,視床前核 (anterior thalamus),膨

大後部皮質 (retrosplenial cortex),外側乳頭体

核 (lateral mammillary nucleus),背側被蓋核

(dorsal tegmental nucleus),線条体 (striatum),

嗅内皮質 (entorhinal cortex) にも存在すること

が明らかになっている (Taube, 2007)。背側視床

前核の頭部方向細胞は,動物が能動的に動いて

いる時も,人為的に動かされている時も同じよう

に方向を符号化していることが知られている

(Shinder & Taube, 2011)。ラットが脳内で経路

積分を行い,誤差が蓄積してきた時に,頭部方向

細胞は 2通りの補正過程を踏むとされている。そ

れは,初期化 (resetting) と再配置 (remapping)

である。誤差が蓄積しても,ほとんどの場合,初

期化を行うが,あまりにも大きな誤差が蓄積し

た場合は,新たな参照方向をもとに再配置を行う

(Valerio & Taube, 2012)。

3. 3 海馬における「時間」の表象

海馬には,場所には依存せずにある特定の遅

延時間だけを表象するニューロンが存在する

(MacDonald et al., 2011)。これは時間細胞 (time

cell) と呼ばれる。訓練課題に遅延期間を設定

すると,ある特定の遅延時間が経過した時に,時

間細胞は発火する。時間細胞に着目した近年の

研究から,海馬には「距離」の情報を符号化する

ニューロンも存在することが示唆されている

(Kraus et al., 2013)。

4.最新イメージング法による海馬研究

4. 1 イメージング技術を用いた海馬研究

上記の知見を踏まえて本章では,当研究室にお

ける最新のイメージング技術を用いた海馬研究の

一部を紹介する。

海馬は入力された情報を処理して出力する,い

わば情報処理演算システムである。無数のニュー

ロンが協調的にシステムとして作動することで,

多様な演算を可能としている。こうした高次な演

算は,興奮性および抑制性の特殊な微小回路が複

雑に絡み合った多シナプス回路により実現される。

しかしながら,従来の研究の多くは,個性ある要

素から成る回路システムの要素を無視して一様に

扱ったり,逆に要素をシステムから切り離して単

独に扱ったりしていた。これらの研究は脳機能の

理解において多くの示唆を与えるものであるが,

現実にはシステムの要素は一様でなく,その出力

も単純な線形和となっていない。

この意味において,複雑な脳の情報処理システ

ムを理解するための有用な手法のひとつとして,

近年著しく研究が進んでいるイメージング技術が

挙げられる。イメージングとは,ニューロンの電

気的な活動を光学的なシグナルに変換する手法

であり,様々なアプローチが考案されている。そ

の中で特に注目を集めるのが,機能的多ニュー

ロンカルシウム画像法 (functional Multineuron

Calcium Imaging : fMCI 法) である。この手法に

より,単一細胞レベルの解像度を保ちつつ,同時

に数百個から時には一万個以上に及ぶニューロ

ンの活動を記録することができる (Ikegaya, Le

Bon-Jego, & Yuste, 2005 ; Takahashi et al., 2007)

(図 2)。

fMCI 法の原理はシンプルである。ニューロン

が発火すると細胞膜上の電位依存性カルシウムイ

オンチャネルから細胞体にカルシウムが流入し,

細胞内カルシウム濃度が一過的に上昇する。この

一過性のカルシウム濃度変動を可視化することで

ニューロンの発火活動を視覚的にモニターするこ

とが可能となる。カルシウム変動に伴う蛍光強度

変化は,あらかじめ神経組織にカルシウム感受性

の蛍光指示薬を負荷することにより記録できる。

単一の発火活動でも十分に検出できる程の蛍光強

度変化が惹起されるため,試行を平均化すること

なく,単一試行で発火を捉えることが可能である。

4. 2 多シナプス回路の演算様式

fMCI 法を用いた海馬多シナプス回路の情報演

算様式に関する研究成果について紹介する。海馬

には歯状回からCA3 野を経てCA1 野へと至る比

較的単純なトリシナプス回路が存在する。これに

加え,CA3 錐体細胞同士の興奮性再帰型シナプ

ス回路や,各領域に含まれるフィードバック型お

よびフィードフォワード型抑制回路などの局所微

小回路が内在している。では,これらの微小回路

がどのように組み合わされることで複雑な情報

処理が可能となるのだろうか。我々はこの疑問に

心理学評論, Vol. 56, No. 2

168― ―

Page 13: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

迫るため,システムとして機能する多シナプス回

路をひとつの巨大な演算子として捉え,人工刺激

により情報を入力し,出力としての発火活動を

fMCI 法で観察する実験系を導入した (Kimura

et al., 2011)。

培養海馬切片標本に最適な切り込みを入れるこ

とにより分離した 2カ所の刺激部位を,海馬ネッ

トワークへの入力部位にあたる歯状回に設けた

(図 3A)。この 2 つの単独刺激を A,Bとし,さ

らに A と Bの同時刺激 (A & B) を加えた全 3

種の刺激による CA1 錐体細胞の発火パターンを

検討した。その結果,細胞ごとに発火確率の組み

合わせは多様であり,結果として多彩な演算子が

観察された。発火確率を統計的に評価することで,

1) 同時刺激時A & Bで,単独刺激による発火確

率から期待される発火確率よりも低い確率で発火

する排他的論理和様の演算子 (XOR),2) 逆に,

同時刺激 A & Bで,期待発火確率よりも高い確

率で発火する論理積様の演算子 (AND),3) 単

独刺激 A にも Bにも反応する論理和様の演算子

(OR),4) 単独刺激 A に選択的に反応する演算

子,5) 単独刺激 Bに選択的に反応する演算子な

どが,海馬ネットワークに並行して存在している

ことが明らかとなった (図 3B)。つまり海馬ネッ

トワークは並列分散型の情報処理を行っていると

いえる。

次に歯状回を刺激して CA3 野,CA1 野の

ニューロンの発火潜時をパッチクランプ記録によ

り調べた。単純な伝達を想定すれば,潜時が長く

なるにしたがって時間精度は低下し,下流領域の

ニューロンの活動タイミングのばらつきは大きく

なると予想される。ところが実際には,CA3 野,

CA1 野いずれの領域においても,長い潜時が必

ずしもばらつきの増大につながるわけではないこ

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

169― ―

図 2 fMCI による多ニューロン活動の観察A.左;蛍光指示薬 OGB-1 AMが負荷された CA3 野錐体細胞層のカルシウ

ムイメージング像。中;イメージング後,ニューロンマーカーである蛍光 Nissl で染色した。右;重ね合わせ画像。Nissl との共局在をみることで,観察細胞がニューロンであることを確認できる。

B.上;細胞体より観察されるニューロンのカルシウム蛍光変化。下;セルアタッチ記録された同ニューロンの発火パターン。ニューロンの発火に伴って,一過性のカルシウム蛍光上昇が発生する。

C.fMCI によって記録された 20 個のニューロンの発火活動パターン。それぞれのニューロンの配置,および蛍光変化トレースを示す。

Page 14: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

とが分かった。つまり,海馬ネットワークは発火

タイミングを正確に保つ性質を有していることが

示唆された。

さらに我々は,演算様式が 2種類の入力の時間

差情報を変化させることにより一時的に変化する

こと,そして可塑性誘導によって入力依存的に長

期的な変化を示すことを実験から明らかとしてい

る。この海馬のもつ柔軟性こそが,多様な入力に

対する情報演算を可能とする基盤となっていると

考えられる。そのほか,生体海馬においては,パ

ターン補完やパターン分離に代表される非線形

的な演算の存在が確認されている (Wills et al.,

2005) が,上記の海馬多シナプス回路の演算子が

重要な役割を果たしていると考えられる。

4. 3 神経伝達物質と海馬ニューロンの集団的

挙動

さらに fMCI 法は,ニューロン集団の同期的挙

動を反映する脳波と,個々の細胞の活動パターン

との関係性を明らかにする上でも有用なツールと

なり得る。たとえば,安静時や睡眠時の動物の海

馬から脳波を記録すると,sharp wave-ripples

(以下,リップル波) と呼ばれる特徴的な高周波

がしばしば観察される。このリップル波は,記

憶の固定化への関与が示唆されており (Ego-

Stengel & Wilson, 2010 ; Girardeau et al., 2009),

多くの研究者の注目を集めている。しかしながら,

その発生や調節のメカニズム,およびリップル波

発生時の個々の神経活動パターンの詳細について

は未知な点が多い。そこで我々は,fMCI 法と細

胞外記録法を組み合わせることにより,リップル

波発生時の海馬の神経活動の時空間パターンと,

それらの薬理学的処置に対する応答性について明

らかにした (Norimoto et al., 2012)。

実験には海馬急性スライス標本を用いた。まず,

我々はスライス標本作製時の切断角度や細胞外液

の温度,灌流速度などといった条件を適切に設定

することで,スライス標本においても自発的に

リップル波が生じることを確認した。続いて,細

胞外記録法により集合的な電位変化を記録しなが

ら,ニューロンの活動を fMCI 法により可視化し

たところ,リップル波発生中には複数のニューロ

ンが同期的活動を示す様子が観察された。このと

き,興味深いことに,リップル波発生時に活動に

参加する細胞集団の組み合わせは一定でなく,そ

の規模も一定ではないことが明らかとなった。こ

の結果は,リップル波発生時には回路全体で同期

活動が起こるのではなく,ごく一部の限られた細

胞集団においてのみ同期活動が起こるということ,

そしてリップル波は常に同じ細胞集団の活動を反

映しているのではなく,個々のリップル波が異な

る細胞集団により担われるということを示唆して

いる。

さらにこの実験系を用いることで,神経伝達物

質と脳波との関連に迫ることができる。まず,自

発的にリップル波を発生するスライス標本に対し,

アセチルコリン受容体の一種 (ムスカリン型受容

体) に作用するピロカルピンを適用し,カルシウ

心理学評論, Vol. 56, No. 2

170― ―

図 3 各種論理演算子の空間分布A.刺激実験の概略図。切り込みによって分離した 2つの刺激部位を歯状回に設けた。B.各種論理演算子は,歯状回刺激で誘発される CA1 錐体細胞の発火パターンによって定義される。錐体細胞の位置を表した地図上に,論理演算子の種類を色で示した。

Page 15: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

ムイメージングを行った (図 4)。その結果,ピ

ロカルピンの濃度依存的にリップル波の発生頻度

が減少することが分かった。ただし,ピロカルピ

ン処置の前後において,個々の細胞の 10分間あ

たりの総発火数,およびスライス標本ごとの平均

発火率に差は見られなかった。一方で,そのばら

つきの指標となる標準偏差において有意な差が認

められた。そこで,この影響をさらに検証するた

めに,全スライスにおける個々のニューロンに着

目し,ニューロン同士の同期性についてピロカル

ピンの処置前後で比較したところ,相関はほぼ皆

無であった。つまり,ピロカルピンの適用により

異なる細胞集団がリップル波発生時の活動にリク

ルートされたと考えられる。以上の結果は,神経

伝達物質による特定の受容体の活性化が細胞集団

の活動パターンに影響を与え,そして脳波の切り

替えに寄与していることを示唆するものであり,

記憶の獲得,固定のメカニズムに迫る上でも重要

な知見であると考えられる。

4. 4 高速イメージング法による同期活動の観

上記の例のように,fMCI 法は神経回路に着目

する研究者にとって有用な手法である。しかし

ながら,従来の同技法の時間分解能は数十 Hz

(frames/s) 程度に制限されており,一般的な電

気生理学的手法におけるサンプリング周波数が数

kHz以上であるのに比べ著しく低いことが分か

る。ところが,それに対し,脳波振動や同期活動

に観察されるように個々のニューロンの活動は正

確なタイミングに従うことが知られており,本手

法の時間分解能の改善は必要不可欠である。そこ

で我々は,視野全体に一斉にレーザーを照射する

ニポウ版方式の共焦点スキャナに高速 CCDカメ

ラを組み合わせることで,最大 2000 Hz に達する

高速イメージングに成功した (Takahashi et al.,

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

171― ―

図 4 ムスカリン受容体の活性化が海馬の神経活動に与える影響A.ピロカルピン適用前と適用 10分後におけるラスタープロット。灰色の点は

リップル波の発生タイミングを表す。B.記録した個々の細胞のピロカルピン適用前後における平均発火率の比較。C.各スライスにおける,リップル波発生時とピロカルピン適用時における平均活動率とその標準偏差の比較 (*p<0.05, paired t-test)。

Page 16: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

2007)。

この高速 fMCI 法の確立により,海馬 CA3 野

の自発活動の時空間内部構造を詳細に記録および

再構築することが可能となった。そこで我々は,

個々の細胞について蛍光トレースより発火活動の

タイミングを同定し,ネットワーク活動の時空間

パターンの再構築を行い,記録時間内において

10ミリ秒の時間幅で同時に活動するニューロン

の数を評価した。その結果,観察されたニューロ

ンの過半数が参加するような大規模な同期活動が

時折生じること,そして同期サイズの頻度分布は

べき乗則に従うことが明らかとなった (図 5)。

また,海馬 CA3 野における自発活動パターン

内には,上記のような集団レベルでの同期活動に

対して多数の 2 細胞間の同期活動も観察された。

そこで,この 2細胞間同期活動に着目し,それら

が有する時間精度の検討を行った。同期活動を許

容する時間幅を変化させながら,抽出される 2細

胞間同期活動数を計測した。その結果,同期活動

の時間スケールは数ミリ秒という高い時間精度を

有することが明らかとなった。さらに記録時間中

に繰り返される 2細胞間同期活動の回数に注目し

たところ,それらもまたべき乗則に従うことが分

かった。つまり,海馬ネットワーク上において,

一部の限られた細胞ペアが頻繁に同期発火してい

ることが示唆される。また,ここで観察された同

期活動の時間スケールは,発火活動のタイミング

に依存した可塑性 (spike timing dependent plas-

ticity : STDP) が生じる時間窓とも一致している

(Bi & Poo, 1998 ;Magee & Johnston, 1997)。この

ことから,こうした時間スケールでの同期活動は

局所回路における情報伝達および保持に最適であ

ると考えられる。

では,この同期活動は海馬の神経回路内におい

てどのように生み出されるのであろうか。同期活

動はしばしばニューロン間の「機能的な結合」と

称される。この機能的結合性は,シナプス結合な

どの「解剖学的な結合」と対比して扱われている。

神経活動がニューロン間に張り巡らされたシナプ

ス回路網から生まれる以上,機能的結合性と解

剖学的結合性に密接な関係があることは明らか

である。ところが,これまでの多くの研究はこれ

ら 2 つの結合性を個別に究明したものが多く

(Kampa, Letzkus, & Stuart, 2006 ; Otsuka &

Kawaguchi, 2008 ; Sasaki, Matsuki, & Ikegaya,

2007),神経回路における両者の関係については

ほとんど分かっていない。その主たる理由の 1つ

に,両結合性を同時に検討する実験系が欠如して

いたことが挙げられる。そこで我々は,当研究室

で開発された大規模シナプスマッピング法を用い

て上記の課題に取り組んだ (Sasaki et al., 2009)。

同手法を用いれば,fMCI 法や多細胞同時パッチ

クランプ記録法によって神経活動を観察した後に,

同じ領域内のシナプス結合パターンを網羅的に同

定することができる。以下に紹介する研究では,

海馬 CA3 野のニューロン間の同期発火性とその

シナプス回路構造とを直接比較し,「同期発火は

どのようなシナプス回路パターンから生まれるの

心理学評論, Vol. 56, No. 2

172― ―

図 5 自発活動下における回路全体の同期活動性A.上;高速 fMCI 法によって観察された 96 個のニューロンの発火パターンを表すラス

タープロット。下;各時刻で同時に活動したニューロンの割合を表すヒストグラム。B.A のヒストグラムより,同期活動サイズ (同時に活動したニューロンの割合) の頻度分布を求めた。両対数グラフ上で直線に近似されることから,そのサイズ分布はべき乗則に従うことが分かる。

Page 17: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

か」という疑問に迫った (Takahashi et al., 2010)。

まず,海馬培養スライスを用いて,無作為に選

んだ CA3 錐体細胞ペアから同時にパッチクラン

プ記録を行った。一方のニューロンを発火させた

場合に,他方のニューロンでシナプス入力応答が

生じるかを指標に,CA3 野内でのシナプス結合

性を検証した。その結果,驚くべきことに,理論

的に予測される値の 1.9倍にもおよぶ双方向性の

シナプス結合ペアが観察された。このことから,

CA3 野のシナプス回路が局所での結合性を増大

するように編成されていることが示唆される。次

に,それらニューロンペアの自発的な発火活動を

観察したところ,しばしば同期発火する様子が観

察された。そこで,それらの同期発火性の強度を

定量化したところ,シナプス結合をもつニューロ

ンペアは非結合ペアに比べて有意に高い同期性を

示すことが明らかとなった。

しかしながら,ペア間のシナプス結合のみに

よって,それらニューロンの同期発火が惹起され

ているとは考えにくい。なぜなら通常,単一のシ

ナプス入力の大きさは 1mVにも満たず,それだ

けでは投射先のニューロンの膜電位は発火閾値に

は達しないからである。では,同期発火はどのよ

うにして生じるのだろうか。ニューロンが発火す

るためには,限られた時間内に複数のシナプス入

力を受けとり,それらを加算して発火閾値に到達

しなければならない。そのため,ニューロンペア

の同期発火を理解するためには,それらのニュー

ロンに投射するプレシナプス細胞群からの入力を

考える必要がある。ここでひとつの仮説が立てら

れる。それは,複数の共通したプレシナプス細胞

がシナプス結合ペアに投射し,共通したシナプス

活動を生み出すことで同期発火を誘導するという

ものである (Kazama &Wilson, 2009)。この仮説

を検証するためには,まず回路内の複数のニュー

ロン間のシナプス結合パターンを明らかにしなく

てはならない。

そこで我々は,CA3ニューロン間のシナプス

結合パターンを同定するため,新規の大規模シナ

プスマッピング法 (reverse optical trawling :

ROTing) を確立した (Sasaki et al., 2009) (図 6)。

まず 2つのニューロンから同時にパッチクランプ

記録を行い,興奮性シナプス後電流 (excitatory

postsynaptic current : EPSC) を記録する。その

状態で,周囲のニューロンに対してグルタミン酸

を局所的に暴露し,発火活動を惹起した。このと

き活動したニューロンの位置およびその発火のタ

イミングは fMCI 法によって確認することができ

る。そして周囲ニューロンの発火のタイミングと

パッチクランプ記録されたニューロンの EPSC

のタイミングとを比較することで,それらニュー

ロン間のシナプス結合の有無を判定することが可

能となる。

この ROTing 法を CA3 野に適用した結果,シ

ナプス結合をもつニューロンペアはより多くの共

通のプレシナプス細胞から投射を受けることが見

出された。さらに,同期発火するニューロンペア

から同時にパッチクランプ記録を行ったところ,

それらのペアは強く相関した興奮性シナプス入力

を受けることが明らかとなった。これら 2つの結

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

173― ―

図 6 Reverse optical trawling (ROTing) によるシナプス結合パターンの探索A.左;2 つのポストシナプス細胞からパッチクランプ記録を行い,シナプス入力を記録した (青)。次にそれらの細胞に投射しうる周囲のプレシナプス細胞をグルタミン酸(Glu) によって発火させ (赤),fMCI によって発火パターンを観察した。パッチクランプ記録細胞の EPSC と周囲細胞の発火タイミングとを比較することで,シナプス結合パターンを同定した。右;ROTing 法による EPSC応答の代表例。EPSC をプレシナプス細胞の発火タイミングで整列した。プレシナプス細胞 #38 はパッチクランプ記録細胞 #1にのみ,#39は#1と #2 の両細胞にシナプスを形成していることがわかる。これらの細胞の空間配置は Bに示す。

B.同定された結合パターンの代表例。ここでは 9 個のポストシナプス細胞に投射する 63個の結合が示されている。各ポストシナプス細胞およびそれらに投射する結合を異なる色で表示した。

Page 18: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

果は,先の仮説と一致する。では,共通した入力

は,同期発火を誘起するのに十分な条件であると

いえるのだろうか。

同期発火における共通入力の十分性を検討する

ため,ダイナミッククランプ実験によって人工的

に作成した相関シナプス入力をニューロンに注入

した際の発火応答を観察した。その結果,予想に

反して,共通入力だけでは同期発火を誘起するの

に不十分であることが分かった。すなわち,実際

にニューロンが同期発火する際には,共通入力の

ほかに別の要因が存在することが暗示される。で

は,その別の要因とは何であろうか。その示唆は,

ROTing実験により得られた。ROTing実験の結

果を精査したところ,あるニューロンペアに共通

して投射するプレシナプス細胞らは,自発活動中

において頻繁に同期発火していることが見出され

たのである。そこで我々は,この結果にもとづい

て,共通のプレシナプス細胞群がランダムに発火

するのではなく,同期することを仮定して再度ダ

イナミッククランプ実験を行った。その結果は,

実際のニューロンの同期発火性を十分に説明し得

るものであった。

以上の結果から,ニューロンの同期発火は,同

期発火した共通のプレシナプス細胞群からの高い

相関をもった入力によって生じていることが示唆

された。一方で,このことは,共通のプレシナプ

ス細胞群もまた上流のプレシナプス細胞からの共

通した投射を受けて同期発火していることを意味

する。すなわち,同期発火の起源もまた同期発火

であるという結論に至る。このニワトリと卵のよ

うな関係性は,CA3 野の発火活動を支えるシナ

プス回路基盤の本質であると考えられる。CA3

野は再帰性回路であることが知られ,同じ領野内

でニューロン同士が結合し合っている。そのため,

神経活動がこの再帰性回路を巡ることで,必然的

にニューロンの同期発火活動が導かれていると推

察される。

最後に,クラスタリング法によって同期活動を

示すニューロン集団をグループ化したところ,同

一グループに属する各ニューロンは回路全体に散

在していた。ここで,もっとも興味深いのは,こ

のようにニューロンがランダムに配置しているに

も関らず,グループ内のニューロン同士は高いシ

ナプス結合率で内部結合していたことである。こ

のことから,発火活動は回路内でより高密度に結

合したニューロングループの間で増幅され,最終

的に同期発火として伝播していくものと考えられ

る。すなわち,あらかじめ回路内で保持されてい

たシナプス結合パターンの局在性が,同期活動の

構造基盤となって特定の同期性グループを形成し

ていると考察される。加えて,CA3 野−CA1 野

間で行った ROTing 実験では,同期発火する

CA3ニューロン群が同一の CA1ニューロンにシ

ナプス投射することを見出している。このことか

ら,CA3 野のグループ性同期活動が特定の CA1

ニューロン群へとそれぞれに独立して伝播してい

ることが示唆される。

5.イメージング法による

シナプス結合の解析

5. 1 大規模スパインイメージング法

上記の高速 fMCI 法により,多数のニューロン

の活動を高い時間分解能にて記録することで,従

来見逃されてきた現象を観察することが可能と

なった。しかしながら,シナプス結合パターンの

ような神経回路のより詳細な特性に迫るためには,

個々のニューロンを単純なノードして扱うのでな

く,さらにその細部構造にも目を向ける必要があ

る。

ニューロンの細胞体から伸びる樹状突起上に

はスパインとよばれる多数の後シナプス構造が

存在する。上流のニューロンからの情報はシナプ

ス入力としてスパインを介し受容され,樹状突起

において統合されるが,このとき,入力は単純に

加算されるわけではない。複雑に分岐した突起の

形態やそこに発現する種々のイオンチャネルや受

容体により,加算様式は非線形となるのである

(London & Häusser, 2005)。したがって,「どの

スパインが,いつ,どこで入力を受けたか」とい

う入力の時空間パターンが,受け手となるニュー

ロンの発火活動のパターンに大きく影響する

(Branco, Clark, & Häusser, 2010 ; Larkum, Zhu, &

Sakmann, 1999)。しかし,実際にニューロンが

どのようなパターンのシナプス入力を受けている

のかについてはほとんど分かっていない。

そこで我々は,イメージングの空間解像度の向

上に焦点を当て,光透過性の高い光学レンズと超

心理学評論, Vol. 56, No. 2

174― ―

Page 19: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

高感度のデジタルカメラを用いるなど多くの改良

を行い,新規の撮影技術である「大規模スパイン

イメージング法」を開発した (図 7)。その結果,

多数のシナプスから一斉にカルシウム活動を計

測することができるようになった。我々はこの手

法の特徴を生かすことにより,ニューロンが

1/1000 mmレベルで局所に集中した回路を正確

に編んでいることを証明し,数十年に及んだ神経

科学界の重要な議論にひとつの目処をつけた

(Takahashi et al., 2012)。以下にその研究内容を

示す。

5. 2 大規模スパインイメージング法を用いた

シナプス結合パターンの解明

これまでに,統合の過程を大きく左右する同期

したシナプス入力の空間パターンについて 2つの

モデルが提唱されている (図 8)。1つ目は,同期

した入力は樹状突起において局所に収束するとい

うクラスター入力モデルである。2 つ目は,同期

した入力は樹状突起において全体に分布するとい

う分散型入力モデルである。クラスター入力モデ

ルはニューロンの一部を局所的に強く活動させる

のに有利とされる。一方,分散型入力モデルは情

報の損失が少ないという利点があると考えられて

いる。いずれのモデルが正しいのかという問題は

数十年来の議論の的となっているものの,これを

検証するための実験技法がなかったため,これま

でに明確な解答は得られていなかった。そこで

我々は,独自に開発した大規模スパインイメージ

ング法を適用することで,この問題に対するアプ

ローチを試みた。

まず,海馬培養切片における自発的なシナプス

入力に着目しその時空間パターンの解明に取り組

んだ。CA3 野の錐体細胞からパッチクランプ記

録を行い,ガラス電極を通じ細胞体にカルシウム

蛍光指示薬である Fluo-5F を注入した。シナプ

ス入力をうけたスパインではNMDA受容体を介

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

175― ―

図 7 大規模スパインイメージング法によるシナプス活動の観察A.イメージングされた CA3 錐体細胞の樹状突起。細胞体よりパッチクランプ記録を行い,カルシウム蛍光指示薬である Fluo-5F を負荷した。

B.3次元構築された樹状突起形態。Aの黄色枠の部位に相当する。観察した共焦点面内に存在する 137 個のスパインの空間配置を示す。

C.スパインでの自発的なカルシウム活動の時系列変化。Bの黄色枠の部位に相当する。2 つのスパインにおいて同時にカルシウム活動が観察される。

D.Bに示す 137 個のスパインの活動パターンを表わすラスタープロット。各点が個々のカルシウムイベントを示す。

図 8 同期シナプス入力の空間パターンにおける 2つの仮説A.クラスター入力モデル。同期するニューロン集団が相手のニューロンの繊維の局所

に集中して投射している。B.分散型入力モデル。同期するニューロン集団の投射位置に秩序は見られない。

Page 20: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

したカルシウム流入が生じ,それをスパインに限

局した蛍光強度の上昇としてとらえることができ

る。そして,複数のスパインについて同時にその

蛍光強度の変化を観察することで,どのスパイン

が,いつ,どこで入力を受けたのかというシナプ

ス入力の様式を知ることができる。この研究では,

同時に数百個ものスパインから活動パターンを計

測することに成功している。観測されたスパイン

の配置は,実験ののち再構築された樹状突起の形

態にもとづいて三次元的に同定した。

まず,それぞれのスパインの空間位置と入力頻

度との関係を検討した。細胞体より尖端側および

基底側,もしくは近位および遠位でのそれぞれの

スパインの入力頻度を比較したが,それらに有意

な違いは観察されなかった。興味深いことに,ス

パイン間での入力頻度の偏りは大きく,20% の

スパインが全体の入力数のうち 80%程度を占め

ていることがわかった。つまり,一部のシナプス

が大部分の情報を伝達していると考えられる。

大規模スパインイメージング法により海馬

CA3 野におけるニューロンのシナプス活動を観

察していると,しばしば同期したシナプス入力に

伴い複数のスパインが同時に活動する様子が見ら

れた。そこで,それら同時に入力をうけたスパイ

ンの空間分布を検討した。100ミリ秒以内に同期

したスパイン間の樹状突起にそった距離を測定し

たところ,8 μm以内に近接したスパインペアで

は有意に高い頻度で同期した入力を受けているこ

とを見出した。

以上の結果はクラスター入力モデルの考えに矛

盾しない。そこで以下では,同期した入力を受け

て活動する近傍 (10 μm以内) のスパイン群をア

センブレット (assemblet) と定義し,その特性

についてより詳細な検討を行った。

まず,局在化した同期入力の成因を探った。ク

ラスター入力が観察される理由として,次の 3つ

の可能性が考えられる。1) 同期発火したニュー

ロン群からの投射が近傍のスパインの間で収束し

ている。2) 同一の軸索が近傍のスパイン群に対

し複数のシナプスを形成している。3) 単一のシ

ナプスから放出されたグルタミン酸があふれ出る

ことにより近傍のスパインが同時に活性化される。

この 3つの可能性のうち,どれが正しいだろうか。

はじめに我々は,2) および 3) の妥当性を検

証するため,電気刺激により同時に活動させたス

パインの空間分布を調べた。2) および 3) が正

しいと仮定すると,海馬 CA3 野のニューロンの

入力層である放線状層を刺激した場合にも同期入

力の局在化が見られるはずである。ところが,刺

激により同期したスパインの局在化は観測されな

かった。さらに,2) については,シナプス結合

したニューロンペアの形態を可視化することによ

り結合構造を精査したが,同一の軸索が複数の近

傍スパインに連続して投射することはまれであっ

た。以上の結果から,自発入力でみられた局在性

は 2) や 3) に起因するとは考えにくく,1) の

同期発火するニューロン群からの収束性のシナプ

ス投射を反映しているものと考えられた。

では,同期した入力を樹状突起において局在化

させるようなシナプス回路はどのように形成され

るのであろうか。観測したスパインのサイズを定

量化したところ,アセンブレットに参加するスパ

インはほかのスパインと比較して有意に大きいこ

とが見出された。スパインの大きさはそのシナプ

スがうける入力強度と相関し,その変化は長期増

強 (long term potentiation : LTP,NMDA受容体

に依存したシナプス可塑性の一種で,記憶の素過

程と考えられている) と関連することが知られて

いる (Matsuzaki et al., 2004)。そこで,海馬の切

片を NMDA受容体の遮断薬である AP5の存在

下で培養したところクラスター入力は観察されな

かった。同様に,培養日数の短い標本 (3〜4 日

間) を用いた場合にもクラスター入力は観察され

なかったことから,クラスター入力の形成には

NMDA受容体に依存したシナプス回路の編成が

関与していることが推察された。

最後に,シナプス可塑性の樹状突起における空

間パターンについての検討を行った。経験や学習

にともない新規に合成される AMPA受容体は,

直前に活性化されたスパインに輸送され長期増強

を導くことが知られている。そこで,AMPA受

容体の GluR1サブユニットに緑色蛍光タンパク

質 (GFP) を結合した遺伝子改変マウスを用いて

その空間局在パターンの検討を行った (Matsuo,

Reijmers, & Mayford, 2008)。この遺伝子改変マ

ウスは Tet-On/Off 系により時期特異的に c-fos

遺伝子プロモーターのもと GFP-GluR1融合タン

パク質の発現を制御することができ,特定の行動

心理学評論, Vol. 56, No. 2

176― ―

Page 21: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

課題において活動したニューロンにおける GluR1

の細胞内局在を観察することが可能である。この

遺伝子改変マウスを新しい環境において 500 秒

間にわたり自由に探索させたところ,約 25%の

ニューロンにおいて GluR1の発現が確認された。

そして,ニューロンの樹状突起において GluR1

をもつスパインの空間配置を検討した結果,8

μm以内に局在化していることを見出した。つま

り,長期増強は近傍のスパインの間で生じやすい

ことがわかった。局所的な長期増強の分子機構に

ついてはいくつかの in vitroでの研究により局所

的な脱分極や可塑性に関連する分子の拡散が寄与

するというモデルが提唱されている (Feuerstein

et al., 2005 ; Harvey & Svoboda, 2007 ; Losonczy,

Makara, &Magee, 2008)。今回,得られた結果に

もこうした分子機構が関与しているものと解釈さ

れた。

以上のように,我々は同期した入力が近傍の

スパインの間で選択的に集束することを明らかに

した。これは,クラスター入力モデルの考えに一

致する結果であった。培養切片標本という外部入

力から単離された系において観察されたことや

薬理学的な実験の結果から,クラスター入力は

NMDA受容体に依存した活動の履歴により獲得

され,ニューロンの情報処理のプロセスに備わっ

た本質的な特性であるものと考えられた。また,

遺伝子改変マウスにより示された局所的なシナプ

ス可塑性の機構の存在から,神経回路は自律的に

クラスター入力を形成する性質を有していると推

測された。ここで,筆者らが提案するクラスター

入力の形成過程を示す (図 9)。初期過程ではラ

ンダムに結合したシナプスは,しだいに刈り込ま

れていく。その際,局所的な長期増強がはたらく

ことで近傍に投射する同期性のシナプスがより選

択的に保持され,そのほかのシナプスは刈り込ま

れる。この一連のプロセスを繰り返すことで最終

的にクラスター入力が形成される。

今回,見出されたクラスター入力は樹状突起

における非線形的な入力の加算を促し,個々の

ニューロンがもつ演算能力を高めているものと考

えられる。また,近年,近接したスパインが異な

る情報を中継しているという報告がなされており

(Chen et al., 2011 ; Varga et al., 2011),局所での

同期がそれらの情報を統合するような関連学習に

寄与している可能性もある。この研究では,スパ

インのイメージングでの時間解像度が 20 Hz 程

度に制限されていたため,アセンブレットのより

詳細な内部構造,すなわち,スパインが活性化さ

れる順番を決定することはできなかった。海馬で

観測されるリップル波では一部のニューロンが特

定の順番で一斉に発火することが知られている。

これらはミリ秒オーダーの時間精度で生じており,

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

177― ―

図 9 クラスター入力を生じる回路形成の 3つのステップステップ 1;初期の神経回路では結合相手の選定は無秩序に行われる。ステップ 2;偶然近くに同期した入力を与えるような結合が出来ると長期増強が

生じ強化される。ステップ 3;強化されなかったシナプスが退縮し,クラスター入力をもつ回路が

残存する。

Page 22: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

事実,このレベルでの入力の時間差が樹状突起に

おける入力の加算に大きく影響することが報告さ

れている (Branco et al., 2010)。現在,我々はこ

のイメージング技術の時間分解能の向上に取り組

んでおり,今後はより詳細なシナプス入力の時空

間特性に迫っていきたい。

6.生体海馬からのイメージング

以上に示したように,当研究室では主に in vi-

troの実験系の特長を生かし,最新のイメージン

グ技術に電気生理学的手法や薬理学的処置などと

いった多様なアプローチを組み合わせることによ

り,海馬の神経回路の複雑な情報処理機構を紐解

く手掛かりを得てきた。一方,ここ数年の技術的

な進歩により,従来は困難とされてきた生体動物

の海馬からカルシウムイメージングを行い,個体

の行動と関連した神経活動を記録した報告も相次

いでなされている。

従来,生体動物の海馬からのイメージングが困

難とされてきた理由のひとつとして,海馬が一般

的な顕微鏡の撮影限界を超える脳の深部に存在し

ていることが挙げられる。この問題に対し,

Dombeckらは海馬の上部に存在する大脳皮質の

一部を吸引除去することで海馬を露出させるとい

う手法を用いているが (Dombeck et al., 2010),

当研究室ではこの皮質吸引処置が海馬の機能に影

響を及ぼさないことを行動試験により確認してい

る (Sakaguchi et al., 2012)。

また,生体特有の心拍や呼吸による撮影標本の

揺れはイメージングのデータ解析を煩雑なものと

し,神経活動の正確な検出の妨げとなるが,当研

究室では標本動物への人工呼吸器の装着,および

開胸法の導入により,この影響の軽減に成功して

いる (Matsumoto et al., 2011)。さらに近年,カ

ルシウム感受性蛍光タンパク質をニューロンに発

現した遺伝子改変動物が開発されつつあり,これ

らの動物を用いれば,カルシウム蛍光指示薬の負

荷やウイルス導入といった処置を省略できるとい

う利点がある。このように,標本作製や撮影条件

の工夫により,イメージング法の適用範囲は拡張

可能であり,神経回路の特性のさらなる解明が期

待されている。

実際に生体海馬からのイメージングを用いた最

近の報告としては,次のようなものがある。たと

えば Dombeckらは,マウスの頭部を固定した状

態でトレッドミルの上を歩かせるという手法をと

ることで,スクリーンに映し出された仮想空間を

探索中の海馬の神経活動の記録に成功している。

その結果,類似した受容野をもつ場所細胞群がク

ラスターを形成している可能性が示された。これ

まで,場所細胞の空間配置とそれらの受容野の位

置との関係性については統一した見解が得られて

いなかった (Nakamura et al., 2010 ; Redish et al.,

2001) が,この研究により,直接的に両者の相関

が示されたのである。

さらに近年では,Ziv らが,マウスの頭部に小

型の二光子顕微鏡を固定することにより,自由行

動下における海馬の神経活動を 1カ月以上という

長期間にわたり記録することに成功している

(Ziv et al., 2013)。慢性的に場所細胞の活動を観

察することで,個々の場所細胞のもつ受容野は長

期的に安定して存在するが,一方で,マウスは毎

日同じ場所を通っているにも関わらず活動する細

胞集団の組み合わせは日々動的に変化するといっ

た興味深い結果が得られている。これらの報告は

空間情報の符号化様式,さらには空間記憶のメカ

ニズムについて理解する上で重要な知見であると

考えられる。

お わ り に

本稿では,まず海馬体のミクロスコピックな解

剖学的特徴について概説した。次いで,海馬の重

要な機能である記憶・学習・空間探索について,

近年の知見を中心に紹介した。海馬の解剖学的な

特性と,行動に現れる海馬の機能の関連を回路レ

ベルで検討するには,カルシウムイメージング法

をはじめとしたメゾスコピックな視点が必要であ

る。

文 献

Amaral, D., & Lavanex, P. (2006).Hippocampal neuro-

anatomy. In P. Andersen, R. Morris, D. Amaral, T.

Bliss, & J. OʼKeefe (Eds.), The hippocampus book

(pp. 37-114).Oxford, New York : Oxford Univer-

sity Press.

Amaral, D. G. (1978).A Golgi study of cell types in the

hilar region of the hippocampus in the rat. Journal

心理学評論, Vol. 56, No. 2

178― ―

Page 23: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

of Comparative Neurology, 182, 851-914.

Baimbridge, K. G., & Miller, J. J. (1982).Immuno-

histochemical localization of calcium-binding pro-

tein in the cerebellum, hippocampal formation and

olfactory bulb of the rat. Brain Research, 245,

223-229.

Barnes, C. A., Suster, M. S., Shen, J.,&McNaughton, B. L.

(1997).Multistability of cognitive maps in the

hippocampus of old rats. Nature, 388, 272-275.

Bartesaghi, R.,& Gessi, T. (2004).Parallel activation of

field CA2 and dentate gyrus by synaptically elicited

perforant path volleys. Hippocampus, 14, 948-963.

Bartesaghi, R., Migliore, M., & Gessi, T. (2006).Input-

output relations in the entorhinal cortex-dentate-

hippocampal system : evidence for a non-linear

transfer of signals. Neuroscience, 142, 247-265.

Bartsch, T., Dohring, J., Rohr, A., Jansen, O., & Deuschl,

G. (2011).CA1 neurons in the human hippocam-

pus are critical for autobiographical memory,

mental time travel, and autonoetic consciousness.

Proceedings of the National Academy of Sciences of

the United States of America, 108, 17562-17567.

Bechara, A., Tranel, D., Damasio, H., Adolphs, R.,

Rockland, C., & Damasio, A. R. (1995).Double

dissociation of conditioning and declarative knowl-

edge relative to the amygdala and hippocampus in

humans. Science, 269, 1115-1118.

Bi, G. Q., & Poo, M. M. (1998).Synaptic modifications

in cultured hippocampal neurons : dependence on

spike timing, synaptic strength, and postsynaptic

cell type. The Journal of Neuroscience, 18, 10464-

10472.

Boccara, C. N., Sargolini, F., Thoresen, V. H., Solstad, T.,

Witter, M. P., Moser, E. I., & Moser, M. B. (2010).

Grid cells in pre- and parasubiculum. Nature Neuro-

science, 13, 987-994.

Bostock, E., Muller, R. U., & Kubie, J. L. (1991).

Experience-dependent modifications of hippocam-

pal place cell firing. Hippocampus, 1, 193-205.

Branco, T., Clark, B. A., & Häusser, M. (2010).Den-

dritic discrimination of temporal input sequences in

cortical neurons. Science, 329, 1671-1675.

Brandon, M. P., Bogaard, A. R., Libby, C. P., Connerney,

M. A., Gupta, K.,& Hasselmo, M. E. (2011).Reduc-

tion of theta rhythm dissociates grid cell spatial

periodicity from directional tuning. Science, 332,

595-599.

Buckmaster, P. S., & Soltesz, I. (1996).Neurobiology of

hippocampal interneurons : a workshop review.

Hippocampus, 6, 330-339.

Buhl, E. H., Szilagyi, T., Halasy, K., & Somogyi, P. (1996).

Physiological properties of anatomically identified

basket and bistratified cells in the CA1 area of the

rat hippocampus in vitro. Hippocampus, 6, 294-305.

Bullis, J. B., Jones, T. D., & Poolos, N. P. (2007).Re-

versed somatodendritic I (h) gradient in a class of

rat hippocampal neurons with pyramidal morphol-

ogy. The Journal of Physiology (London), 579,

431-443.

Bunsey, M., & Eichenbaum, H. (1996).Conservation of

hippocampal memory function in rats and humans.

Nature, 379, 255-257.

Buzsáki, G. (2002).Theta oscillations in the hippocam-

pus. Neuron, 33, 325-340.

Buzsáki, G. (2010).Neural syntax : cell assemblies,

synapsembles, and readers. Neuron, 68, 362-385.

Chen, X., Leischner, U., Rochefort, N. L., Nelken, I., &

Konnerth, A. (2011).Functional mapping of sin-

gle spines in cortical neurons in vivo. Nature, 475,

501-505.

Chevaleyre, V., & Siegelbaum, S. A. (2010).Strong

CA2 pyramidal neuron synapses define a powerful

disynaptic cortico-hippocampal loop. Neuron, 66,

560-572.

Chicurel, M. E., & Harris, K. M. (1992).Three-dimen-

sional analysis of the structure and composition of

CA3 branched dendritic spines and their synaptic

relationships with mossy fiber boutons in the rat

hippocampus. Journal of Comparative Neurology,

325, 169-182.

Clayton, N. S., & Dickinson, A. (1998).Episodic-like

memory during cache recovery by scrub jays.

Nature, 395, 272-274.

Cohen, N. J., & Squire, L. R. (1980).Preserved learning

and retention of pattern-analyzing skill in amnesia :

dissociation of knowing how and knowing that.

Science, 210, 207-210.

Corsellis, J. A., & Bruton, C. J. (1983).Neuropathology

of status epilepticus in humans. Advances in Neu-

rology, 34, 129-139.

Delfour, F., & Marten, K. (2001).Mirror image pro-

cessing in three marine mammal species : killer

whales (Orcinus orca), false killer whales

(Pseudorca crassidens) and California sea lions

(Zalophus californianus).Behavioural Processes,

53, 181-190.

Ding, S. L., Haber, S. N., & Van Hoesen, G.W. (2010).

Stratum radiatum of CA2 is an additional target of

the perforant path in humans and monkeys. Neuro-

Report, 21, 245-249.

Dombeck, D. A., Harvey, C. D., Tian, L., Looger, L. L., &

Tank, D.W. (2010).Functional imaging of hippo-

campal place cells at cellular resolution during

virtual navigation. Nature Neuroscience, 13, 1433-

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

179― ―

Page 24: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

1440.

Domnisoru, C., Kinkhabwala, A. A., & Tank, D.W.

(2013).Membrane potential dynamics of grid

cells. Nature, 495, 199-204.

Dugladze, T., Schmitz, D., Whittington, M. A., Vida, I., &

Gloveli, T. (2012).Segregation of axonal and

somatic activity during fast network oscillations.

Science, 336, 1458-1461.

Ego-Stengel, V., & Wilson, M. A. (2010).Disruption of

ripple-associated hippocampal activity during rest

impairs spatial learning in the rat. Hippocampus,

20, 1-10.

Eichenbaum, H. (2000).A cortical-hippocampal sys-

tem for declarative memory. Nature Reviews

Neuroscience, 1, 41-50.

Eichenbaum, H., Yonelinas, A. P., & Ranganath, C.

(2007).The medial temporal lobe and recognition

memory. Annual Review of Neuroscience, 30, 123-

152.

Ekstrom, A. D., Kahana, M. J., Caplan, J. B., Fields, T. A.,

Isham, E. A., Newman, E. L., & Fried, I. (2003).

Cellular networks underlying human spatial naviga-

tion. Nature, 425, 184-188.

Epsztein, J., Brecht, M., & Lee, A. K. (2011).Intra-

cellular determinants of hippocampal CA1 place

and silent cell activity in a novel environment.

Neuron, 70, 109-120.

Ergorul, C., & Eichenbaum, H. (2004).The hippocam-

pus and memory for “what,” “where,” and “when”.

Learning & Memory, 11, 397-405.

Fairen, A. (2007).Cajal and Lorente de No on cortical

interneurons : coincidences and progress. Brain

Research Reviews, 55, 430-444.

Farovik, A., Place, R. J., Miller, D. R., & Eichenbaum, H.

(2011).Amygdala lesions selectively impair famil-

iarity in recognition memory. Nature Neuroscience,

14, 1416-1417.

Feeney, M. C., Roberts, W. A., & Sherry, D. F. (2009).

Memory for what, where, and when in the black-

capped chickadee (Poecile atricapillus).Animal

Cognition, 12, 767-777.

Ferbinteanu, J., & Shapiro, M. L. (2003).Prospective

and retrospective memory coding in the hippocam-

pus. Neuron, 40, 1227-1239.

Feuerstein, S., Fortunati, F., Morgan, C. A., Coric, V.,

Temporini, H., & Southwick, S. (2005).The insan-

ity defense. Psychiatry (Edgmont), 2, 24-25.

Fitch, J. M., Juraska, J. M., & Washington, L.W. (1989).

The dendritic morphology of pyramidal neurons in

the rat hippocampal CA3 area. I. Cell types. Brain

Research, 479, 105-114.

Fortin, N. J., Agster, K. L., & Eichenbaum, H. B. (2002).

Critical role of the hippocampus in memory for

sequences of events. Nature Neuroscience, 5, 458-

462.

Fortin, N. J., Wright, S. P., & Eichenbaum, H. (2004).

Recollection-like memory retrieval in rats is de-

pendent on the hippocampus. Nature, 431, 188-191.

Freund, T. F., & Buzsáki, G. (1996).Interneurons of

the hippocampus. Hippocampus, 6, 347-470.

Fuentealba, P., Begum, R., Capogna, M., Jinno, S., Marton,

L. F., Csicsvari, J., Thomson, A., Somogyi, P., &

Klausberger, T. (2008).Ivy cells : a population of

nitric-oxide-producing, slow-spiking GABAergic

neurons and their involvement in hippocampal

network activity. Neuron, 57, 917-929.

Fyhn, M., Hafting, T.,Witter, M. P., Moser, E. I.,&Moser,

M. B. (2008).Grid cells in mice. Hippocampus,

18, 1230-1238.

Fyhn, M., Molden, S.,Witter, M. P., Moser, E. I., &Moser,

M. B. (2004).Spatial representation in the ento-

rhinal cortex. Science, 305, 1258-1264.

Gallop, G. G., Jr. (1970).Chimpanzees : self-recogni-

tion. Science, 167, 86-87.

Giocomo, L. M., Hussaini, S. A., Zheng, F., Kandel, E. R.,

Moser, M. B., & Moser, E. I. (2011).Grid cells use

HCN1 channels for spatial scaling. Cell, 147, 1159-

1170.

Girardeau, G., Benchenane, K., Wiener, S. I., Buzsáki, G.,

& Zugaro, M. B. (2009).Selective suppression of

hippocampal ripples impairs spatial memory. Na-

ture Neuroscience, 12, 1222-1223.

Glickfeld, L. L., Roberts, J. D., Somogyi, P., & Scanziani,

M. (2009).Interneurons hyperpolarize pyramidal

cells along their entire somatodendritic axis. Na-

ture Neuroscience, 12, 21-23.

Gonzales, R. B., DeLeon Galvan, C. J., Rangel, Y. M., &

Claiborne, B. J. (2001).Distribution of thorny ex-

crescences on CA3 pyramidal neurons in the rat

hippocampus. Journal of Comparative Neurology,

430, 357-368.

Gothard, K. M., Skaggs, W. E., & McNaughton, B. L.

(1996).Dynamics of mismatch correction in the

hippocampal ensemble code for space : interaction

between path integration and environmental cues.

The Journal of Neuroscience, 16, 8027-8040.

Gray, E. G. (1959).Axo-somatic and axo-dendritic syn-

apses of the cerebral cortex : an electron micro-

scope study. Journal of Anatomy, 93, 420-433.

Gulyas, A. I., Toth, K., McBain, C. J., & Freund, T. F.

(1998).Stratum radiatum giant cells : a type of

principal cell in the rat hippocampus. European

Journal of Neuroscience, 10, 3813-3822.

Hafting, T., Fyhn, M., Molden, S., Moser, M. B., & Moser,

心理学評論, Vol. 56, No. 2

180― ―

Page 25: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

E. I. (2005).Microstructure of a spatial map in the

entorhinal cortex. Nature, 436, 801-806.

Haist, F., Bowden Gore, J., & Mao, H. (2001).Consoli-

dation of human memory over decades revealed by

functional magnetic resonance imaging. Nature

Neuroscience, 4, 1139-1145.

Halasy, K., Buhl, E. H., Lorinczi, Z., Tamas, G.,& Somogyi,

P. (1996).Synaptic target selectivity and input of

GABAergic basket and bistratified interneurons in

the CA1 area of the rat hippocampus. Hippocam-

pus, 6, 306-329.

Hamlyn, L. H. (1962).The fine structure of the mossy

fibre endings in the hippocampus of the rabbit.

Journal of Anatomy, 96, 112-120.

Harris, K. D. (2005).Neural signatures of cell assem-

bly organization. Nature Reviews Neuroscience, 6,

399-407.

Harris, K. D., Henze, D. A., Hirase, H., Leinekugel, X.,

Dragoi, G., Czurko, A., & Buzsáki, G. (2002).Spike

train dynamics predicts theta-related phase preces-

sion in hippocampal pyramidal cells. Nature, 417,

738-741.

Harvey, C. D., Collman, F., Dombeck, D. A., & Tank, D.

W. (2009).Intracellular dynamics of hippocampal

place cells during virtual navigation. Nature, 461,

941-946.

Harvey, C. D., & Svoboda, K. (2007).Locally dynamic

synaptic learning rules in pyramidal neuron den-

drites. Nature, 450, 1195-1200.

Hayman, R., Verriotis, M. A., Jovalekic, A., Fenton, A. A.,

& Jeffery, K. J. (2011).Anisotropic encoding of

three-dimensional space by place cells and grid

cells. Nature Neuroscience, 14, 1182-1188.

Hoffman, K. L., & McNaughton, B. L. (2002).Sleep on

it : cortical reorganization after-the-fact. Trends in

Neurosciences, 25, 1-2.

Howard, M.W., Viskontas, I. V., Shankar, K. H., & Fried,

I. (2012).Ensembles of human MTL neurons

“jump back in time” in response to a repeated

stimulus. Hippocampus, 22, 1833-1847.

Hussaini, S. A., Kempadoo, K. A., Thuault, S. J.,

Siegelbaum, S. A., & Kandel, E. R. (2011).In-

creased size and stability of CA1 and CA3 place

fields in HCN1 knockout mice. Neuron, 72, 643-653.

Ikegaya, Y., Le Bon-Jego, M., & Yuste, R. (2005).

Large-scale imaging of cortical network activity

with calcium indicators. Neuroscience Research,

52, 132-138.

Ishizuka, N., Cowan, W. M., & Amaral, D. G. (1995).A

quantitative analysis of the dendritic organization of

pyramidal cells in the rat hippocampus. Journal of

Comparative Neurology, 362, 17-45.

Jacobs, J., Kahana, M. J., Ekstrom, A. D., Mollison, M. V.,

& Fried, I. (2010).A sense of direction in human

entorhinal cortex. Proceedings of the National

Academy of Sciences of the United States of Amer-

ica, 107, 6487-6492.

Jacobs, J., Weidemann, C. T., Miller, J. F., Solway, A.,

Burke, J. F., Wei, X. X., Suthana, N., Sperling, M. R.,

Sharan, A. D., Fried, I., & Kahana, M. J. (2013).

Direct recordings of grid-like neuronal activity in

human spatial navigation. Nature Neuroscience, 16,

1188-1190.

Jarosiewicz, B., McNaughton, B. L., & Skaggs, W. E.

(2002).Hippocampal population activity during

the small-amplitude irregular activity state in the

rat. The Journal of Neuroscience, 22, 1373-1384.

Jefferys, J. G., Traub, R. D., &Whittington, M. A. (1996).

Neuronal networks for induced ʻ40 Hzʼ rhythms.

Trends in Neurosciences, 19, 202-208.

Jones, M.W., &McHugh, T. J. (2011).Updating hippo-

campal representations : CA2 joins the circuit.

Trends in Neurosciences, 34, 526-535.

Jung, M.W., & McNaughton, B. L. (1993).Spatial se-

lectivity of unit activity in the hippocampal granular

layer. Hippocampus, 3, 165-182.

Kampa, B. M., Letzkus, J. J., & Stuart, G. J. (2006).

Cortical feed-forward networks for binding differ-

ent streams of sensory information. Nature Neuro-

science, 9, 1472-1473.

Kazama, H., & Wilson, R. I. (2009).Origins of corre-

lated activity in an olfactory circuit. Nature Neuro-

science, 12, 1136-1144.

Killian, N. J., Jutras, M. J., & Buffalo, E. A. (2012).A

map of visual space in the primate entorhinal

cortex. Nature, 491, 761-764.

Kimura, R., Kang, S., Takahashi, N., Usami, A., Matsuki,

N., Fukai, T., & Ikegaya, Y. (2011).Hippocampal

polysynaptic computation. The Journal of Neuro-

science, 31, 13168-13179.

Klausberger, T.,& Somogyi, P. (2008).Neuronal diver-

sity and temporal dynamics : the unity of hippocam-

pal circuit operations. Science, 321, 53-57.

Koenig, J., Linder, A. N., Leutgeb, J. K., & Leutgeb, S.

(2011).The spatial periodicity of grid cells is not

sustained during reduced theta oscillations. Sci-

ence, 332, 592-595.

Kosaka, T. (1983).Axon initial segments of the

granule cell in the rat dentate gyrus : synaptic

contacts on bundles of axon initial segments. Brain

Research, 274, 129-134.

Kraus, B. J., Robinson, R. J. 2nd., White, J. A.,

Eichenbaum, H., & Hasselmo, M. E. (2013).Hippo-

campal “time cells” : time versus path integration.

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

181― ―

Page 26: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

Neuron, 78, 1090-1101.

Langston, R. F., Ainge, J. A., Couey, J. J., Canto, C. B.,

Bjerknes, T. L., Witter, M. P., Moser, E. I., & Moser,

M. B. (2010).Development of the spatial repre-

sentation system in the rat. Science, 328, 1576-

1580.

Lapray, D., Lasztoczi, B., Lagler, M., Viney, T. J., Katona,

L., Valenti, O., Hartwich, K., Borhegyi, Z., Somogyi,

P., & Klausberger, T. (2012).Behavior-depen-

dent specialization of identified hippocampal inter-

neurons. Nature Neuroscience, 15, 1265-1271.

Larkum, M. E., Zhu, J. J., & Sakmann, B. (1999).A new

cellular mechanism for coupling inputs arriving at

different cortical layers. Nature, 398, 338-341.

Leao, R. N., Mikulovic, S., Leao, K. E., Munguba, H.,

Gezelius, H., Enjin, A., Patra, K., Eriksson, A., Loew,

L. M., Tort, A. B., & Kullander, K. (2012).OLM

interneurons differentially modulate CA3 and

entorhinal inputs to hippocampal CA1 neurons.

Nature Neuroscience, 15, 1524-1530.

Lee, D., Lin, B. J., & Lee, A. K. (2012).Hippocampal

place fields emerge upon single-cell manipulation of

excitability during behavior. Science, 337, 849-853.

Lee, S. E., Simons, S. B., Heldt, S. A., Zhao, M., Schroeder,

J. P., Vellano, C. P., Cowan, D. P., Ramineni, S., Yates,

C. K., Feng, Y., Smith, Y., Sweatt, J. D.,Weinshenker,

D., Ressler, K. J., Dudek, S. M., & Hepler, J. R.

(2010).RGS14 is a natural suppressor of both

synaptic plasticity in CA2 neurons and hippo-

campal-based learning and memory. Proceedings of

the National Academy of Sciences of the United

States of America, 107, 16994-16998.

Leutgeb, S., Leutgeb, J. K., Barnes, C. A., Moser, E. I.,

McNaughton, B. L., & Moser, M. B. (2005).Inde-

pendent codes for spatial and episodic memory in

hippocampal neuronal ensembles. Science, 309,

619-623.

Leutgeb, S., Leutgeb, J. K., Treves, A., Moser, M. B., &

Moser, E. I. (2004).Distinct ensemble codes in

hippocampal areas CA3 and CA1. Science, 305,

1295-1298.

Lewis, D. A., Curley, A. A., Glausier, J. R., & Volk, D.W.

(2012).Cortical parvalbumin interneurons and

cognitive dysfunction in schizophrenia. Trends in

Neurosciences, 35, 57-67.

Lisman, J. E. (1999).Relating hippocampal circuitry to

function : recall of memory sequences by reciprocal

dentate-CA3 interactions. Neuron, 22, 233-242.

London, M., & Häusser, M. (2005).Dendritic computa-

tion. Annual Review of Neuroscience, 28, 503-532.

Lorente de Nó, R. (1934).Studies on the structure of

the cerebral cortex. II. Continuation of the study of

the ammonic system. Journal für Psychologie und

Neurologie, 46, 113-177.

Losonczy, A., Makara, J. K., & Magee, J. C. (2008).

Compartmentalized dendritic plasticity and input

feature storage in neurons. Nature, 452, 436-441.

Maccaferri, G., & McBain, C. J. (1996).Long-term po-

tentiation in distinct subtypes of hippocampal

nonpyramidal neurons. The Journal of Neurosci-

ence, 16, 5334-5343.

MacDonald, C. J., Lepage, K. Q., Eden, U. T., &

Eichenbaum, H. (2011).Hippocampal "time cells"

bridge the gap in memory for discontiguous events.

Neuron, 71, 737-749.

Magee, J. C., & Johnston, D. (1997).A synaptically

controlled, associative signal for Hebbian plasticity

in hippocampal neurons. Science, 275, 209-213.

Mankin, E. A., Sparks, F. T., Slayyeh, B., Sutherland, R. J.,

Leutgeb, S., & Leutgeb, J. K. (2012).Neuronal

code for extended time in the hippocampus. Pro-

ceedings of the National Academy of Sciences of the

United States of America, 109, 19462-19467.

Matsumoto, N., Takahara, Y., Matsuki, N., & Ikegaya, Y.

(2011).Thoracotomy reduces intrinsic brain

movement caused by heartbeat and respiration : a

simple method to prevent motion artifact for in vivo

experiments. Neuroscience Research, 71, 188-191.

Matsuo, N., Reijmers, L., & Mayford, M. (2008).Spine-

type-specific recruitment of newly synthesized

AMPA receptors with learning. Science, 319,

1104-1107.

Matsuzaki, M., Honkura, N., Ellis-Davies, G. C., & Kasai,

H. (2004).Structural basis of long-term potentia-

tion in single dendritic spines. Nature, 429, 761-

766.

McHugh, T. J., Blum, K. I., Tsien, J. Z., Tonegawa, S., &

Wilson, M. A. (1996).Impaired hippocampal rep-

resentation of space in CA1-specific NMDAR1

knockout mice. Cell, 87, 1339-1349.

Megias, M., Emri, Z., Freund, T. F., & Gulyas, A. I.

(2001).Total number and distribution of inhibi-

tory and excitatory synapses on hippocampal CA1

pyramidal cells. Neuroscience, 102, 527-540.

Mehta, M. R., Lee, A. K., & Wilson, M. A. (2002).Role

of experience and oscillations in transforming a rate

code into a temporal code. Nature, 417, 741-746.

Mercer, A., Botcher, N. A., Eastlake, K., & Thomson, A.

M. (2012).SP-SR interneurones : a novel class of

neurones of the CA2 region of the hippocampus.

Hippocampus, 22, 1758-1769.

Milner, B., Squire, L. R., & Kandel, E. R. (1998).Cogni-

tive neuroscience and the study of memory. Neu-

ron, 20, 445-468.

心理学評論, Vol. 56, No. 2

182― ―

Page 27: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

Muller, R. U., & Kubie, J. L. (1987).The effects of

changes in the environment on the spatial firing of

hippocampal complex-spike cells. The Journal of

Neuroscience, 7, 1951-1968.

Nakamura, N. H., Fukunaga, M., Akama, K. T., Soga, T.,

Ogawa, S., & Pavlides, C. (2010).Hippocampal

cells encode places by forming small anatomical

clusters. Neuroscience, 166, 994-1007.

Norimoto, H., Mizunuma, M., Ishikawa, D., Matsuki, N.,&

Ikegaya, Y. (2012).Muscarinic receptor activa-

tion disrupts hippocampal sharp wave-ripples.

Brain Research, 1461, 1-9.

Nullmeier, S., Panther, P., Dobrowolny, H., Frotscher, M.,

Zhao, S., Schwegler, H., & Wolf, R. (2011).Region-

specific alteration of GABAergic markers in the

brain of heterozygous reeler mice. European Jour-

nal of Neuroscience, 33, 689-698.

OʼKeefe, J. (1979).A review of the hippocampal place

cells. Progress in Neurobiology, 13, 419-439.

OʼKeefe, J., & Dostrovsky, J. (1971).The hippocampus

as a spatial map. Preliminary evidence from unit

activity in the freely-moving rat. Brain Research,

34, 171-175.

OʼKeefe, J., & Recce, M. L. (1993).Phase relationship

between hippocampal place units and the EEG

theta rhythm. Hippocampus, 3, 317-330.

OʼMara, S. (2005).The subiculum : what it does, what

it might do, and what neuroanatomy has yet to tell

us. Journal of Anatomy, 207, 271-282.

Otsuka, T., & Kawaguchi, Y. (2008).Firing-pattern-

dependent specificity of cortical excitatory feed-

forward subnetworks. The Journal of Neurosci-

ence, 28, 11186-11195.

Papp, E., Leinekugel, X., Henze, D. A., Lee, J., & Buzsáki,

G. (2001).The apical shaft of CA1 pyramidal cells

is under GABAergic interneuronal control. Neuro-

science, 102, 715-721.

Piskorowski, R. A., & Chevaleyre, V. (2012).Synaptic

integration by different dendritic compartments of

hippocampal CA1 and CA2 pyramidal neurons.

Cellular and Molecular Life Sciences, 69, 75-88.

Plotnik, J. M., de Waal, F. B., & Reiss, D. (2006).Self-

recognition in an Asian elephant. Proceedings of

the National Academy of Sciences of the United

States of America, 103, 17053-17057.

Prior, H., Schwarz, A.,& Gunturkun, O. (2008).Mirror-

induced behavior in the magpie (Pica pica) : evi-

dence of self-recognition. PLoS Biology, 6, e202.

Quirk, G. J., Muller, R. U., & Kubie, J. L. (1990).The

firing of hippocampal place cells in the dark

depends on the ratʼs recent experience. The

Journal of Neuroscience, 10, 2008-2017.

Raby, C. R., Alexis, D. M., Dickinson, A., & Clayton, N. S.

(2007).Planning for the future by western scrub-

jays. Nature, 445, 919-921.

Redish, A. D., Battaglia, F. P., Chawla, M. K., Ekstrom, A.

D., Gerrard, J. L., Lipa, P., Rosenzweig, E. S.,Worley,

P. F., Guzowski, J. F., McNaughton, B. L., & Barnes,

C. A. (2001).Independence of firing correlates of

anatomically proximate hippocampal pyramidal

cells. The Journal of Neuroscience, 21, RC134.

Reiss, D., & Marino, L. (2001).Mirror self-recognition

in the bottlenose dolphin : a case of cognitive con-

vergence. Proceedings of the National Academy of

Sciences of the United States of America, 98, 5937-

5942.

Ribak, C. E., & Seress, L. (1983).Five types of basket

cell in the hippocampal dentate gyrus : a combined

Golgi and electron microscopic study. Journal of

Neurocytology, 12, 577-597.

Rolls, E. T., & OʼMara, S. M. (1995).View-responsive

neurons in the primate hippocampal complex. Hip-

pocampus, 5, 409-424.

Rolls, E. T., Robertson, R. G., & Georges-François, P.

(1997).Spatial view cells in the primate hippocam-

pus. European Journal of Neuroscience, 9, 1789-

1794.

Rowland, D. C., Yanovich, Y., & Kentros, C. G. (2011).

A stable hippocampal representation of a space

requires its direct experience. Proceedings of the

National Academy of Sciences of the United States of

America, 108, 14654-14658.

Royer, S., Zemelman, B. V., Losonczy, A., Kim, J., Chance,

F., Magee, J. C., & Buzsáki, G. (2012).Control of

timing, rate and bursts of hippocampal place cells

by dendritic and somatic inhibition. Nature Neuro-

science, 15, 769-775.

Sakaguchi, T., Ishikawa, D., Nomura, H., Matsuki, N., &

Ikegaya, Y. (2012).Normal learning ability of mice

with a surgically exposed hippocampus. Neuro-

Report, 23, 457-461.

Salesse, C., Mueller, C. L., Chamberland, S., & Topolnik,

L. (2011).Age-dependent remodelling of inhibi-

tory synapses onto hippocampal CA1 oriens-

lacunosum moleculare interneurons. The Journal

of Physiology (London), 589, 4885-4901.

Sasaki, T., Matsuki, N., & Ikegaya, Y. (2007).Meta-

stability of active CA3 networks. The Journal of

Neuroscience, 27, 517-528.

Sasaki, T., Minamisawa, G., Takahashi, N., Matsuki, N., &

Ikegaya, Y. (2009).Reverse optical trawling for

synaptic connections in situ. Journal of Neurophys-

iology, 102, 636-643.

Sashindranath, M., McLean, K. J., Trounce, I. A., Cotton,

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

183― ―

Page 28: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

R. G., & Cook, M. J. (2010).Early hippocampal

oxidative stress is a direct consequence of seizures

in the rapid electrical amygdala kindling model.

Epilepsy Research, 90, 285-294.

Schmidt-Hieber, C., & Häusser, M. (2013).Cellular

mechanisms of spatial navigation in the medial

entorhinal cortex. Nature Neuroscience, 16, 325-

331.

Sekino, Y., Obata, K., Tanifuji, M., Mizuno, M., &

Murayama, J. (1997).Delayed signal propagation

via CA2 in rat hippocampal slices revealed by

optical recording. Journal of Neurophysiology, 78,

1662-1668.

Shinder, M. E., & Taube, J. S. (2011).Active and pa-

ssive movement are encoded equally by head di-

rection cells in the anterodorsal thalamus. Journal

of Neurophysiology, 106, 788-800.

Simons, S. B., Escobedo, Y., Yasuda, R., & Dudek, S. M.

(2009).Regional differences in hippocampal calci-

um handling provide a cellular mechanism for

limiting plasticity. Proceedings of the National

Academy of Sciences of the United States of Amer-

ica, 106, 14080-14084.

Smith, C. N., Wixted, J. T., & Squire, L. R. (2011).The

hippocampus supports both recollection and famili-

arity when memories are strong. The Journal of

Neuroscience, 31, 15693-15702.

Solstad, T., Boccara, C. N., Kropff, E., Moser, M. B., &

Moser, E. I. (2008).Representation of geometric

borders in the entorhinal cortex. Science, 322,

1865-1868.

Squire, L. R., Wixted, J. T., & Clark, R. E. (2007).Re-

cognition memory and the medial temporal lobe : a

new perspective. Nature Reviews Neuroscience, 8,

872-883.

Stirling, R. V., & Bliss, T. V. (1978).Hippocampal

mossy fiber development at the ultrastructural

level. Progress in Brain Research, 48, 191-198.

Suddendorf, T., & Busby, J. (2003).Mental time travel

in animals? Trends in Cognitive Sciences, 7, 391-

396.

Sutherland, G. R., & McNaughton, B. (2000).Memory

trace reactivation in hippocampal and neocortical

neuronal ensembles. Current Opinion in Neuro-

biology, 10, 180-186.

Szabadics, J., Varga, C., Molnar, G., Olah, S., Barzo, P., &

Tamas, G. (2006).Excitatory effect of GABAergic

axo-axonic cells in cortical microcircuits. Science,

311, 233-235.

Takahashi, N., Kitamura, K., Matsuo, N., Mayford, M.,

Kano, M., Matsuki, N., & Ikegaya, Y. (2012).

Locally synchronized synaptic inputs. Science, 335,

353-356.

Takahashi, N., Sasaki, T., Matsumoto,W., Matsuki, N., &

Ikegaya, Y. (2010).Circuit topology for synchro-

nizing neurons in spontaneously active networks.

Proceedings of the National Academy of Sciences of

the United States of America, 107, 10244-10249.

Takahashi, N., Sasaki, T., Usami, A., Matsuki, N., &

Ikegaya, Y. (2007).Watching neuronal circuit

dynamics through functional multineuron calcium

imaging (fMCI).Neuroscience Research, 58, 219-

225.

Taube, J. S. (2007).The head direction signal : origins

and sensory-motor integration. Annual Review of

Neuroscience, 30, 181-207.

Taube, J. S., Muller, R. U., & Ranck, J. B., Jr. (1990a).

Head-direction cells recorded from the postsubicu-

lum in freely moving rats. I. Description and quan-

titative analysis. The Journal of Neuroscience, 10,

420-435.

Taube, J. S., Muller, R. U., & Ranck, J. B., Jr. (1990b).

Head-direction cells recorded from the postsubicu-

lum in freely moving rats. II. Effects of environ-

mental manipulations. The Journal of Neurosci-

ence, 10, 436-447.

Tolman, E. C. (1948).Cognitive maps in rats and men.

Psychological Review, 55, 189-208.

Tulving, E. (2002).Episodic memory : from mind to

brain. Annual Review of Psychology, 53, 1-25.

Valerio, S., & Taube, J. S. (2012).Path integration :

how the head direction signal maintains and cor-

rects spatial orientation. Nature Neuroscience, 15,

1445-1453.

van Groen, T., & Wyss, J. M. (1990).Extrinsic projec-

tions from area CA1 of the rat hippocampus :

olfactory, cortical, subcortical, and bilateral hippo-

campal formation projections. Journal of Compara-

tive Neurology, 302, 515-528.

Varga, Z., Jia, H., Sakmann, B., & Konnerth, A. (2011).

Dendritic coding of multiple sensory inputs in single

cortical neurons in vivo. Proceedings of the Na-

tional Academy of Sciences of the United States of

America, 108, 15420-15425.

Wais, P. E., Wixted, J. T., Hopkins, R. O., & Squire, L. R.

(2006).The hippocampus supports both the

recollection and the familiarity components of

recognition memory. Neuron, 49, 459-466.

Wills, T. J., Cacucci, F., Burgess, N., & OʼKeefe, J. (2010).

Development of the hippocampal cognitive map in

preweanling rats. Science, 328, 1573-1576.

Wills, T. J., Lever, C., Cacucci, F., Burgess, N., & OʼKeefe,

J. (2005).Attractor dynamics in the hippocampal

representation of the local environment. Science,

心理学評論, Vol. 56, No. 2

184― ―

Page 29: 海馬回路演算の機能と意義neuronet.jp/pdf/J_020.pdfように,CA3野とCA1野に挟まれた狭い遷移領 域と考えられてきた。しかし,CA2野は解剖学

308, 873-876.

Wilson, M. A., & McNaughton, B. L. (1993).Dynamics

of the hippocampal ensemble code for space. Sci-

ence, 261, 1055-1058.

Wilson, M. A., & McNaughton, B. L. (1994). Reactiva-

tion of hippocampal ensemble memories during

sleep. Science, 265, 676-679.

Wittner, L., Huberfeld, G., Clemenceau, S., Eross, L.,

Dezamis, E., Entz, L., Ulbert, I., Baulac, M., Freund,

T. F., Magloczky, Z., & Miles, R. (2009).The

epileptic human hippocampal cornu ammonis 2

region generates spontaneous interictal-like activity

in vitro. Brain, 132, 3032-3046.

Wood, E. R., Dudchenko, P. A., Robitsek, R. J., &

Eichenbaum, H. (2000).Hippocampal neurons

encode information about different types of memo-

ry episodes occurring in the same location. Neuron,

27, 623-633.

Yartsev, M. M., Witter, M. P., & Ulanovsky, N. (2011).

Grid cells without theta oscillations in the entorhinal

cortex of bats. Nature, 479, 103-107.

Yonelinas, A. P. (1994).Receiver-operating character-

istics in recognition memory : evidence for a dual-

process model. Journal of Experimental Psychol-

ogy : Learning, Memory, and Cognition, 20, 1341-

1354.

Yonelinas, A. P., Kroll, N. E., Dobbins, I., Lazzara, M., &

Knight, R. T. (1998).Recollection and familiarity

deficits in amnesia : convergence of remember-

know, process dissociation, and receiver operating

characteristic data. Neuropsychology, 12, 323-339.

Yonelinas, A. P., Kroll, N. E., Quamme, J. R., Lazzara, M.

M., Sauve, M. J., Widaman, K. F., & Knight, R. T.

(2002).Effects of extensive temporal lobe damage

or mild hypoxia on recollection and familiarity.

Nature Neuroscience, 5, 1236-1241.

Zentall, T. R., Clement, T. S., Bhatt, R. S., & Allen, J.

(2001).Episodic-like memory in pigeons. Psycho-

nomic Bulletin & Review, 8, 685-690.

Zhao, M., Choi, Y. S., Obrietan, K., & Dudek, S. M. (2007).

Synaptic plasticity (and the lack thereof) in hippo-

campal CA2 neurons. The Journal of Neuroscience,

27, 12025-12032.

Ziv, Y., Burns, L. D., Cocker, E. D., Hamel, E. O., Ghosh, K.

K., Kitch, L. J., Gamal, A. E., & Schnitzer, M. J.

(2013).Long-term dynamics of CA1 hippocampal

place codes. Nature Neuroscience, 16, 264-266.

Zola-Morgan, S., & Squire, L. R. (1986).Memory im-

pairment in monkeys following lesions limited to

the hippocampus. Behavioral Neuroscience, 100,

155-160.

Zola-Morgan, S., Squire, L. R., & Amaral, D. G. (1986).

Human amnesia and the medial temporal region :

enduring memory impairment following a bilateral

lesion limited to field CA1 of the hippocampus. The

Journal of Neuroscience, 6, 2950-2967.

― 2013. 4. 30 受理―

松本・坂口・池谷:海馬回路演算の機能と意義

185― ―