Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
はじめに
炭素繊維複合材料用耐熱ポリイミド樹脂の分子設計指針、NASAとJAXAを中心とした開発経緯、JAXAと カ ネ カ で 共 同 開 発 し た ポ リ イ ミ ドTriA-Xの真空ホットプレス成形で得た複合材の高温強度特性、および宇部興産PETI-340M複合材の長期熱安定性などについて、2016年8月号の本誌1)で紹介した。それから約3年半がたち、内閣府主導のプロジェクトSIP革新的構造材料の中で熱硬化性ポリイミドCFRP(A03ユニット)、および熱可塑性ポリイミドCFRP(A01ユニット)の研究開発が2014 ~ 2018年で実施されたこともあり、技術的な進歩が見られている。また、ポリイミドCFRP関連企業にも動きがあり、本稿では最近の展開について述べる。
TriA-X複合材(熱硬化性ポリイミド)の研究開発2)
JAXA/カネカで開発した熱硬化性ポリイミドTriA-X3)は、ベースとなる化学組成において最低溶融粘度が154 Pa・s、ガラス転移温度(Tg)がDMA測定で356℃、破断伸びが約11 %と成形性、耐熱性、靱性のいずれも優れている。また、多くのポリイミド樹脂は、イミド化後は有機溶媒への溶解性が乏しいため、プリプレグにはイミドの前駆体であるモノマー原料もしくはアミド酸を含浸
させているが、この方法では複合材成形中150 ~250℃でイミド化による水が副生する。一方、TriA-Xは 有 機 溶 剤 のN-メ チ ル-2-ピ ロ リ ド ン
(NMP)に対する溶解性が33 wt.%以上と非常に高いため、成形中に水を発生しないイミド樹脂溶液プリプレグを製作できることが特徴である。
ポリイミド複合材用プリプレグは、タック性(プリプレグ表面のべたつき)およびドレープ性(曲面成形可能なしなやかさ)を持たせるために有機溶媒を意図的に残している。TriA-Xは先に述べたように成形中の水の発生はないが、202℃と高沸点の溶媒NMPを除去する必要がある。オートクレーブ成形でエポキシ系複合材と同様に真空バギングを行いながら溶媒除去と硬化を連続して行うと、疑似等方32層(厚さ約4 mm)を超えるとボイドが発生し、一見ボイドレスに見える疑似等方16層(厚さ約2 mm)のCFRPでもTgが300℃程度と、樹脂単体(Tg = 356℃)に比べ50℃程度低いものとなった。すなわち、厚板の成形はできず、薄板も高圧で複合材内部に抑え込んだNMPが可塑剤として働き熱特性を低下させていた。バッグフィルムを用いた真空バギングでは板厚方向に真空引きによる圧力がかかるため面内方向への揮発分の抜け道が塞がれ、高温で保持しても実用的な時間内で揮発分を完全に除去できなかった。
一方、真空ホットプレスではほぼ同一の温度・圧力プロファイルでもボイドレスでTg=約350℃
特集•拡大する CFRP の適用分野と可能性•
国立研究開発法人 宇宙航空開発機構 石Ishida田 雄
Yuichi一
*航空技術部門 構造・複合材技術研究ユニット 主任研究開発員〒181-0015 東京都三鷹市大沢6-13-1☎050-3362-4006
••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••
高耐熱性ポリイミド樹脂 /炭素繊維複合材料(ポリイミドCFRP)の最近の展開
解 説
40
と、樹脂単体とほぼ同じTgを持つ積層板が得られている。これは、溶媒除去工程ではプレス圧をかけていないためプリプレグ層間に隙間があり、面内方向への溶媒の揮発が容易なためである。ただし、真空ホットプレス成形では大きさ、形状に制限があり、実用化に向けてはオートクレーブ成形への適用が求められる。そこで、揮発分を完全に除去する目的で、溶媒除去工程と成形工程を分割した二段階成形法を採用した。第一段階では、真空圧で積層体に圧力がかからないようにステンレスボックスを用いて、真空引きしながら加熱して溶媒を除去する。その後いったん取り出し、オートクレーブにて硬化成形を行う。その結果、直交積層64層の積層板(厚さ約8.8 mm)においてもボイドやクラックのない品質良好のポリイミド複合材を得ることができた(図 1 )。また、得られた積層板のTgは365℃と樹脂単体とほぼ同じであり、残留溶媒の影響を取り除いた。さらに、1/4円筒
(R=200 mm、長さ210 mm、擬似等方32層:図 2 )・厚板〔300 mm角、厚さ13.2 mm (96 層)〕・大型平板(500 mm角、擬似等方16 層)をそれぞれ試作し、TriA-Xポリイミド複合材の基本的な成形プ
ロセスを確立した。上記二段階成形法で得られたTriA-X複合材の
高温無孔圧縮強度を図 3 に示す。縦軸は室温強度に対する強度保持率であるが、300℃でも約70%の強度を維持している。また、長期熱安定性評価を行ったところ、図 4 に示すように、空気中250℃で3000時間熱曝露後も強度はほとんど低下しないことが確認された。一方、270℃や300℃では徐々に強度が低下していくことがわかった。TriA-X樹脂単体において、真空中では、270℃3000時間熱曝露後でも重量減少はほとんど起きていない。このことから、当該温度での劣化の主要因は熱酸化であり、表面に耐酸化コーティングを施すことで使用時間の延長、または使用温度の向上を図れる可能性がある。
高温試験技術の検討2)
CFRPの高温での強度試験法は標準化されておらず、耐熱CFRPを実用化するためには、高温強度の信頼性を確保できる高温試験法の標準化が求められる。SIP革新的構造材料 A03ユニットでは、高温での引張試験、面内せん断試験、無孔圧
図 1 TriA-Xポリイミド複合材([0/90]16S, 64層)の断面顕微鏡写真
図 2 TriA-X複合材の1/4円筒試作品
試験温度(℃)
直交積層材(16プライ、FY28)疑似等方積層材(16プライ、FY28)
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
00 50 100 150 200 250 300 350
圧縮強度保持率
図 3 オートクレーブ二段階法で成形しTriA-X複合材の高温無孔圧縮強度保持率
熱暴露時間(hr)
1000800
600400200
00 1000 2000 3000 4000
無孔圧縮強度(
MPa)
図 4 空気中250℃熱暴露後の無孔圧縮強度
412020年3月号(Vol.68 No.3)