8
谷澤 克治 Abstract of the Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation by TANIZAWA Katsuji Abstract The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers conducted a project entitled “The Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation” in 2016. The project was sponsored by the Ministry of Economy, Trade, and Industry. The main contributor of this project, the National Maritime Research Institute (NMRI) worked in conjunction with three shipyards, KOA industry Co. Ltd., Miura Shipbuilding Co. Ltd., and Hongawara Ship Yard Co. Ltd. to develop two groups of 30 energy saving hull forms for 499-ton chemical tankers and 749-ton general cargo ships. KOA constructed a chemical tanker “Koreimaru” using one of the developed hull forms, and its capabilities were demonstrated in a sea trial. This ship was subsequently put into service by Aono Marine Group in 2019. NMRI has decided to publish a special issue of their papers from this project. This article is a brief report of the R&D activities that were conducted. The contents are as follows: Project planning: Survey of domestic shipping companies and organizations prior to drafting the R&D plan Development of energy saving hull forms: Hull form optimization by CFD, propeller design, tank experiment Basic design created by shipyards 今治造船株式会社(研究当時,国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所) 原 稿 受 付 令和2年7月17日 日 令和2年9月 9日 (255) 1 海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2 号(令和 2 年度)総合報告 特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み」

内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2 号 (令和 2 年度)総合報告 特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み

内内航航海海運運ののたためめのの省省エエネネルルギギーー船船型型群群のの研研究究開開発発のの概概要要

谷澤 克治*

Abstract of the Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation

by

TANIZAWA Katsuji

Abstract

The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers conducted a project entitled “The Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation” in 2016. The project was sponsored by the Ministry of Economy, Trade, and Industry. The main contributor of this project, the National Maritime Research Institute (NMRI) worked in conjunction with three shipyards, KOA industry Co. Ltd., Miura Shipbuilding Co. Ltd., and Hongawara Ship Yard Co. Ltd. to develop two groups of 30 energy saving hull forms for 499-ton chemical tankers and 749-ton general cargo ships. KOA constructed a chemical tanker “Koreimaru” using one of the developed hull forms, and its capabilities were demonstrated in a sea trial. This ship was subsequently put into service by Aono Marine Group in 2019.

NMRI has decided to publish a special issue of their papers from this project. This article is a brief report of the R&D activities that were conducted. The contents are as follows: ・ Project planning: Survey of domestic shipping companies and organizations prior to drafting the R&D plan ・ Development of energy saving hull forms: Hull form optimization by CFD, propeller design, tank

experiment ・ Basic design created by shipyards

* 今治造船株式会社(研究当時,国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所)

原 稿 受 付 令和2年7月17日

審 査 日 令和2年9月 9日

海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2 号 (令和 2 年度)総合報告 特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み

内内航航海海運運ののたためめのの省省エエネネルルギギーー船船型型群群のの研研究究開開発発のの概概要要

谷澤 克治*

Abstract of the Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation

by

TANIZAWA Katsuji

Abstract

The Japan Society of Naval Architects and Ocean Engineers conducted a project entitled “The Development of Energy Saving Hull Forms for Domestic Marine Transportation” in 2016. The project was sponsored by the Ministry of Economy, Trade, and Industry. The main contributor of this project, the National Maritime Research Institute (NMRI) worked in conjunction with three shipyards, KOA industry Co. Ltd., Miura Shipbuilding Co. Ltd., and Hongawara Ship Yard Co. Ltd. to develop two groups of 30 energy saving hull forms for 499-ton chemical tankers and 749-ton general cargo ships. KOA constructed a chemical tanker “Koreimaru” using one of the developed hull forms, and its capabilities were demonstrated in a sea trial. This ship was subsequently put into service by Aono Marine Group in 2019.

NMRI has decided to publish a special issue of their papers from this project. This article is a brief report of the R&D activities that were conducted. The contents are as follows: ・ Project planning: Survey of domestic shipping companies and organizations prior to drafting the R&D plan ・ Development of energy saving hull forms: Hull form optimization by CFD, propeller design, tank

experiment ・ Basic design created by shipyards

* 今治造船株式会社(研究当時,国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所)

原 稿 受 付 令和2年7月17日

審 査 日 令和2年9月 9日

(255)

1海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2号(令和 2年度) 総合報告

特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み」

Page 2: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

目 次

1. まえがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 2. 事業計画 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 3. 調査事業 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 4. CFD による省エネルギー船型群の探索 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

4.1 CFD による船型最適化 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 4.2 プロペラ設計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 4.3 水槽試験による性能確認と CFD の相関係数の導出 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 4.4 船型群の探索 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

5. 基本設計 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 6. おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

1. まえがき

本報は,経済産業省資源エネルギー庁の補助事業,平成 28 年度「輸送機器の実使用時燃費改善事業費補助金

(海上輸送機器の実使用時燃費改善事業(標準的省エネルギー船舶開発調査))」により海技研が実施した「内航

海運のための省エネルギー船型群の研究開発」の成果について報告するものである.この補助事業は,公益社団

法人日本船舶海洋工学会(以下学会)が,株式会社三浦造船所,興亜産業株式会社,本瓦造船株式会社(以下造

船三社と称する)と共同研究体を組んで応募し採択されたもので,学会に設置されたプロジェクト研究委員会

「P51:内航海運のための省エネ母船型の研究開発委員会(委員長:日野孝則教授)」を運営委員会とし,海技研

と造船三社が実施母体として研究開発を実施した. 本事業は内航船舶の建造を担う中小造船所で低コストかつ容易に省エネルギー内航船舶が建造可能となるよう,

標準的な船型の開発を行い,建造を希望する造船所に幅広く提供することで内航海運の燃費効率のボトムアップ

を図り,もって,内外の経済的社会環境に応じた安定的かつ適切なエネルギーの需給構造の構築を図ることを目

的としている. 対象船は,499 トン型ケミカルタンカーと 749 トン型一般貨物船で,省エネルギー目標として,共に比較対象

船舶から 16 %以上の省エネルギー効果を有した船型(以下「省エネルギー内航船舶」という.)の開発を掲げて

実施した.

2. 事業計画

図 1 に本事業計画の全体像を示す.本事業では 499 トン型ケミカルタンカーと 749 トン型一般貨物船の

船型開発を始めるにあたり,内航船主等を対象としたヒアリング調査を行い,その結果を踏まえて主要目と

設計船速を設定,造船所から提供された原船型から CFD を活用して省エネルギー船型群の開発し,造船所

による船型検討を経て実用船型としての成立性を確認した上で,その代表船型について水槽試験により性

能を確認,最後に造船所にて基本設計を実施して建造可能な船型群を完成させる計画で事業を推進した. 499 トン型ケミカル船及び 749 トン型一般貨物船の省エネルギー船型群の開発に先立ち,これら船舶を運航す

る大手船主,オペレータの各々数社に対して,運航の実態や船舶の性能,機能等についての要望,意見等につい

て聞き取り調査を実施し,その結果を船型開発に反映することにより,海運業界等関係業界でより望まれる省エ

ネルギー船型群の開発に資することとした. 調査にあたっては,船速,主機等の船型開発に直接資すると思われる事項にとどまらず,居住設備など当該船

型を基に造船所において基本設計等を行う際の指標や参考となると思われる事項についても聞き取った.

(256)

2

Page 3: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

図1 事業計画の全体像

3. 調査事業

また,船種は異なるが,499 トン型及び 749 トン型の船舶を多数運航するコンテナ船の船主,オペレータ及び

セメント船の船主,オペレータに対する聞き取りも併せて実施し,499 トン型及び 749 トン型船舶に全般的,共

通的事項についての情報を得た.

なお,内航船舶明細録等から,現存船舶の船型バリエーションについても調査した.

4. CFDによる省エネルギー船型群の探索

499 トン型ケミカルタンカーならびに 749 トン型一般貨物船について,最適船型とその派生船型を生成し,比

較対象船舶(0.01212 l/t・NM)(A 重油換算)から 16 %以上の省エネルギー効果を有した 499 トンケミカルタン

カー及び比較対象船舶(0.01208 l/t・NM)(A 重油換算)から 16 %以上の省エネルギー効果を有した 749 トン一般

貨物船の省エネルギー船型群を探索した.

4.1 CFD による船型最適化

造船三社から提供された 499 トン型ケミカルタンカーならびに 749 トン型一般貨物船の原船型を参考に,初期

船型を開発した.

これら初期船型から CFD を船型開発のツールとして活用し,抵抗・推進性能を評価して最適船型を求めた.船

型を定義するための設計変数の設定においては,与えられた船型バリエーション範囲を参考にすると共に,アン

カー,バウスラスタ,主機減速歯車等の実際的な制約条件も考慮した.

内内航航海海運運ののたためめのの省省エエネネ船船型型群群のの開開発発

4.水槽試験による性能確認

船船 種種

・・449999GGTT タタンンカカーー・・774499GGTT 一一般般貨貨物物船船調調査査項項目目・・使使用用実実態態・・近近年年のの船船型型・・船船 のの傾傾向向

設設定定・・LL,,BB,,dd,,CCbb等等ののババリリエエーーシショョンン・・設設計計船船

3.船型検討

最適船型群

船型バリエ

ション

2.CFDによる省エネ船型群の探索1.調査

5.基本設計

線図・オフセット一式

・国内 船所への線図の無償供与

・派生船型の開発許諾・バリエーション範囲の性能保証

内内航航船船のの省省エエネネ化化促促進進

CCFFDDにによよるる

船船型型最最適適化化

社会還元 成 果

・船舶としての成立性確認

(257)

図 1 事業計画の全体像

3. 調査事業

また,船種は異なるが,499 トン型及び 749 トン型の船舶を多数運航するコンテナ船の船主,オペレータ及びセメント船の船主,オペレータに対する聞き取りも併せて実施し,499 トン型及び 749 トン型船舶に全般的,共通的事項についての情報を得た.

なお,内航船舶明細録等から,現存船舶の船型バリエーションについても調査した.

4. CFDによる省エネルギー船型群の探索

499 トン型ケミカルタンカーならびに 749 トン型一般貨物船について,最適船型とその派生船型を生成し,比較対象船舶(0.01212 l/t・NM)(A 重油換算)から 16 %以上の省エネルギー効果を有した 499 トンケミカルタンカー及び比較対象船舶(0.01208 l/t・NM)(A重油換算)から 16 %以上の省エネルギー効果を有した 749トン一般貨物船の省エネルギー船型群を探索した.

4.1 CFDによる船型最適化

造船三社から提供された 499トン型ケミカルタンカーならびに 749トン型一般貨物船の原船型を参考に,初期船型を開発した.

これら初期船型から CFDを船型開発のツールとして活用し,抵抗・推進性能を評価して最適船型を求めた.船型を定義するための設計変数の設定においては,与えられた船型バリエーション範囲を参考にすると共に,アン

カー,バウスラスタ,主機減速歯車等の実際的な制約条件も考慮した.

内内航航海海運運ののたためめのの省省エエネネ船船型型群群のの開開発発

44..水水槽槽試試験験にによよるる性性能能確確認認

船船 種種

・・449999GGTT タタンンカカーー・・774499GGTT 一一般般貨貨物物船船調調査査項項目目・・使使用用実実態態・・近近年年のの船船型型・・船船 のの傾傾向向

設設定定・・LL,,BB,,dd,,CCbb等等ののババリリエエーーシショョンン・・設設計計船船

33..船船型型検検討討

VLCC

最適船型群

船型バリエ

ション

22.CFDFFFFDにによよるる省省エエネネ船船船船船型型群群のの探探索索11..調調査査

55..基基本設計

線線図図・・オオフフセセッットト一一式式

・・国国内内 船船所所へへのの線線図図のの無無償償供供与与

・・派派生生船船型型のの開開発発許許諾諾・・ババリリエエーーシショョンン範範囲囲のの性性能能保保証証

内内航航船船のの省省エエネネ化化促促進進

CCFFDDにによよるる

船船型型最最適適化化

40

Continue

Fr = 0.229 , Vs = 11.0 [knot]

Fr = 0.239 , Vs = 11.5 [knot]

Fr = 0.249 , Vs = 12.0 [knot]

社会還元 成 果

・・船船舶舶ととししててのの成成立立性性確確認認

3海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2号(令和 2年度) 総合報告

特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み」

Page 4: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

上記最適船型は,造船三社が基本計画との整合性を吟味し,実船への適用可能性を検討して必要な修正を加え

た. 4.2 プロペラ設計

499 トン型ケミカルタンカーならびに 749 トン型一般貨物船のそれぞれについて,プロペラを設計し,模型を

製作してプロペラ単独試験を実施した.図 2, 図 3 に製作したプロペラの写真を示す.-5 %の展開面積をもつ小展

開面積プロペラはより高い効率を有し,キャビテーション試験を実施して実用的に使用できることを確認した.

MP701 MP699 MP698 MP700 (自航試験用プロペラ) (小展開面積プロペラ) (自航試験用プロペラ) (小展開面積プロペラ)

図2 499トン型ケミカルタンカー用プロペラ 図 3 749トン型一般貨物船用プロペラ

4.3 水槽試験による性能確認とCFDの相関係数の導出

CFDで求めた 499トン型ケミカルタンカーならびに 749トン型一般貨物船の最適船型の省エネルギー性能を確

認するため,499 トン型ケミカルタンカー,749 トン型一般貨物船のそれぞれについて1隻ずつ模型船を製作し,

海技研の 400m 試験水槽にて抵抗・自航試験を実施した. 模型船は,計測精度を確保するため,499 トン型ケミカルタンカー,749 トン型一般貨物船のどちらについても

LPPで 6mクラスの大きさとした.模型船の写真を図 4 に示す. 400m 試験水槽での試験を含む海技研における推進性能試験は,品質マネージメントシステムの登録証書

(ISO9001)を認証機関から得ている.

499 トン型ケミカルタンカーの模型船(5.91m 模型)

749 トン型一般貨物船の模型船(6.77m 模型)

図 4 模型船

(258)

4

Page 5: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

図 5 に模型船の船側波形の一例を示す.この図より,どちらの船型についても船側波形が滑らかで小さく,造

波抵抗が抑えられていることが分かる.本水槽試験にて 499 トン型ケミカルタンカーでは 19.4 %,749 トン型一

般貨物船では 38.1 %の省エネルギー性能を確認した. また,この水槽試験で求めた抵抗および自航要素を用いて,模型試験と CFD 計算との相関係数を求めた.

499 トン型ケミカルタンカーの波紋ならびに船速波形(11.5kt 相当)

749 トン一般貨物船の波紋ならびに船側波形(12kt 相当)

図5 水槽試験の様子

4.4 船型群の探索

最適船型の船長:L,船幅:B,喫水:d等の主要目について,主要目が一部変更されるケースの類型化に従い

設定されたバリエーションの範囲内で,排水量等を保って変形させた派生船型を 30 船型,再現性のある数理的手

法を用いて生成した. それらの派生船型の性能を CFD 計算で推定し,水槽試験で求めた相関係数を用いて水槽試験相当の性能に換

算して,16 %以上の省エネルギー目標を満たす船型群を探索した. また,船型バリエーションは造船三社と相談して基本計画との整合性を検討し,実船として成立することを確

認した.このようにして探索した船型群から,16 %以上の省エネルギー性能を有し,設計者の観点で有意な船型

差を有すると判断した 30 個体を選択し,これを最終的な船型群として定義した. 499 トン型ケミカルタンカーでは設計の制約条件が厳しいため,船型バリエーション探索では2次元設計空間

的手法を用いた.すなわち,2次元設計空間を L/B-CB 空間として定義し,マーケット調査の結果を基に 5.75 ≤L/B≤ 6.2,0.68 ≤ CB ≤ 0.75 の設計空間の4角の船型を基本 4 船型と定義し,その中で 16 %以上の省エネルギー

性能を有するバリエーション船型を探索した. 499 トン型ケミカルタンカーのバリエーション船型の要目と省エ

ネルギー率を表 1 に示す.表中の省エネルギー率は 1000 PS の主機を 75%MCR で運転し,MP699 小展開面積プ

ロペラで推進した場合の値で,その時の船速は 12.2 kt で設計船速の 11.5 kt より速いが,どの船型も 19.5%程度の

省エネルギー率を有し,目標の 16 %を上回っている. 749 トン型一般貨物船では,マーケット調査の結果を基に,船長,船幅,喫水の 3 つを設計変数としてバリエー

ション船型を開発した. 設計空間は 73 m ≤ LPP ≤ 83 m, 12.8 m ≤ B ≤ 14.5 m, 3.8 m ≤ d ≤ 4.8 m である.総トン数が

749 に制限されていることを考慮し,排水量一定の条件を船型に課した.この場合,方形係数CBが要目に応じ変

化する.本請負では船型変形の試行錯誤により,実現性のある CB の範囲を 0.68 から 0.80 に設定してバリエー

ション船型を探索した.

(259)

5海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2号(令和 2年度) 総合報告

特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み」

Page 6: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

表1 499トン型ケミカルタンカーのバリエーション船型の省エネルギー率

id Lpp B d

design Output

(75%MCR) Vs

(75%MCR) Emission

CO2 FOC

Energy Saving Ratio

m m m kW knot gCO2/(t*mile) l/(t*mile) %

0 (最適船型) 60.70 10.00 4.20 551 12.16 26.46 0.00976 19.4 1 60.80 10.00 " " 12.16 26.45 0.00976 19.4 3 60.90 10.00 " " 12.16 26.45 0.00976 19.5 4 61.00 10.00 " " 12.17 26.44 0.00976 19.5 7 61.20 10.00 " " 12.17 26.44 0.00976 19.5 13 61.40 10.00 " " 12.17 26.43 0.00975 19.5 14 61.50 10.00 " " 12.17 26.44 0.00976 19.5 16 61.60 10.00 " " 12.18 26.42 0.00975 19.6 20 61.70 10.00 " " 12.18 26.42 0.00975 19.6 22 61.80 10.00 " " 12.18 26.41 0.00974 19.6 23 61.90 10.00 " " 12.18 26.42 0.00975 19.6 24 62.00 10.00 " " 12.18 19.6 0.00975 19.6 25 61.10 10.00 " " 12.16 26.44 0.00976 19.5 26 61.20 10.10 " " 12.17 26.44 0.00976 19.5 27 61.30 10.00 " " 12.17 26.43 0.00975 19.5 28 61.50 10.10 " " 12.17 26.43 0.00975 19.5 30 62.10 10.00 " " 12.17 26.42 0.00975 19.5 31 62.30 10.00 " " 12.16 26.46 0.00976 19.4 32 60.30 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 33 60.40 10.10 " " 12.16 26.46 0.00976 19.5 34 60.50 10.10 " " 12.16 26.46 0.00976 19.5 35 61.30 10.10 " " 12.17 26.46 0.00976 19.5 36 61.40 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 37 61.60 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 39 61.70 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 40 61.80 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 41 61.90 10.10 " " 12.17 26.46 0.00975 19.5 42 62.10 10.10 " " 12.16 26.46 0.00976 19.4 43 62.20 10.10 " " 12.16 26.46 0.00977 19.4 44 62.40 10.10 " " 12.16 26.46 0.00977 19.4

749 トン型一般貨物船のバリエーション船型の要目と燃費を表 2 に示す.表中の省エネルギー率は 1600 PS の

主機を 75%MCR で運転し,MP700 小展開面積プロペラで推進した場合の値で,その時の船速は 12.6 kt~12.8kt で設計船速の 12 kt より速いが,どの船型も約 38 %の省エネルギー率を有し,目標の 16 %を大幅に全て上回ってい

る. 因みに,749 トン型一般貨物船で標準的に用いられている 2000 PS の主機を搭載し,75%MCR で運転した場合

は,船速は 13.36 kt となり設計速力の 12 kt を大幅に上回るが,その場合でも省エネルギー率は約 28 %で目標を

(260)

6

Page 7: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

表2 749トン型一般貨物船のバリエーション船型の省エネルギー率

id Lpp B d

design Output

(75%MCR) Vs

(75%MCR) Emission

CO2 FOC

Energy Saving Ratio

m m m kW knot gCO2/(t*mile) l/(t*mile) %

0 (最適船型) 79.00 13.00 4.689 883 12.61 20.27 0.00748 38.1 4 76.50 14.30 4.40 " 12.37 20.75 0.00766 36.6 9 76.50 14.20 4.50 " 12.56 20.47 0.00755 37.5 10 75.00 14.40 4.50 " 12.50 20.39 0.00752 37.7 16 76.50 14.00 4.60 " 12.64 20.30 0.00749 38.0 17 76.50 14.20 4.60 " 12.71 20.32 0.00750 37.9 18 74.50 14.20 4.60 " 12.51 20.22 0.00746 38.2 20 79.00 13.00 4.70 " 12.63 20.25 0.00747 38.1 22 78.00 13.20 4.70 " 12.56 20.29 0.00749 38.0 24 78.00 13.50 4.70 " 12.84 20.07 0.00740 38.7 25 75.50 13.80 4.70 " 12.57 20.18 0.00745 38.4 27 74.00 14.10 4.70 " 12.60 20.01 0.00739 38.8 28 76.50 14.00 4.70 " 12.78 20.18 0.00745 38.4 29 75.00 14.20 4.70 " 12.67 20.17 0.00744 38.4 31 78.00 13.20 4.80 " 12.69 20.18 0.00745 38.3 32 77.50 13.30 4.80 " 12.68 20.16 0.00744 38.4 34 76.00 13.40 4.80 " 12.60 20.05 0.00740 38.7 35 77.00 13.60 4.80 " 12.77 20.12 0.00742 38.5 37 74.50 13.70 4.80 " 12.56 20.01 0.00738 38.9 38 76.50 13.90 4.80 " 12.83 20.13 0.00743 38.5 39 74.00 13.70 4.80 " 12.51 20.01 0.00738 38.9 40 76.00 13.50 4.80 " 12.60 20.16 0.00744 38.4 41 76.50 13.50 4.80 " 12.67 20.17 0.00744 38.4 42 77.50 13.50 4.80 " 12.84 20.13 0.00743 38.5 44 74.00 14.30 4.70 " 12.65 20.14 0.00743 38.5 45 75.50 13.50 4.70 " 12.26 20.55 0.00758 37.2 46 75.50 13.60 4.70 " 12.40 20.39 0.00752 37.7 47 76.00 13.60 4.70 " 12.50 20.34 0.00751 37.8 48 77.00 13.90 4.60 " 12.69 20.37 0.00752 37.8 49 77.00 13.80 4.60 " 12.62 20.42 0.00754 37.6 51 75.50 14.30 4.60 " 12.68 20.38 0.00752 37.7

上回っている.また開発した船型は 2000 PS の主機を搭載できる機関室スペースを確保できることを造船所によ

り確認していることを書き添えておく.

(261)

7海上技術安全研究所報告 第 20 巻 第 2号(令和 2年度) 総合報告

特集号「内航海運のための省エネルギー船型群開発の取り組み」

Page 8: 内航海運のための省エネルギー船型群の研究開発の概要5.基本設計 線図・オフセット一式 ・国内 船所への線図の無償供与 ・派生船型の開発許諾

5. 基本設計

造船三社は,開発された船型群を用いて船舶が建造可能かを確認するため,総トン数,貨物槽容積,載貨重量,

主機と機関室,ポンプ類,バラストタンク等の配置を検討し,提案された船型群の中から表 1, 2 に示す船型群を

建造可能な船型群として採用した。

また,その内の1船型について各社で基本設計を行い、

・ 船型関係図面:甲板高さまでの船体線図,オフセットテーブル,排水量テーブル,排水量曲線図 ・ 一般図面:一般配置図,総トン数計算書,乾舷計算書,載貨重量計算書

・ 構造関係図:中央断面図,鋼材構造図

・ 復原性関係図書:非損傷時復原性計算書,損傷時復原性計算書,諸タンクテーブル,重量重心トリム計算書

・ 配置関係図面:諸室配置図,機関室全体配置図

を作成し,内航船として成立することを確認した.

6. おわりに

本事業では 499 トン型ケミカルタンカーと 749 トン型一般貨物船を対象に,造船所から提供された原船型を参

考に初期船型を設計し,CFD を活用して最適船型を求めた.また,最適船型に適したプロペラを設計し,プロペ

ラ単独試験とキャビテーション試験により特性を把握した. さらに,マーケット調査の結果等を基に設定した設計空間内に,多数のバリエーション船型を生成し,造船所

の視点からのスクリーニングを経て 30 船型を選び出し,CFD による性能評価を実施した.その結果,全ての船

型において目標の 16 %を上回る性能が得られた.この過程では,先に水槽試験で求めた相関係数を用いて計算結

果を修正することで,信頼性を確保した. 開発した 499 トン型ケミカルタンカーならびに 749 トン型一般貨物船のバリエーション船型 30 隻に模型船製

作レベルのフェアリングを施し,船型開発を完了した. これらの船型群から一部仕様を変更した船型についても,L, B, d, CB等のバリエーションの範囲内であれば,

船型ブレンディングにより船型を生成することが可能であり,そのための手引き書も作成した. 成果物である 499 トン型ケミカルタンカーと 749 トン型一般貨物船の省エネルギー船型群は広いバリエーショ

ンを持ち,多くのニーズに対応できるであろう. 最後に,本事業の成果は興亜産業株式会社が青野海運株式会社より受注して建造したケミカルタンカー「光令

丸」に活用されていることを追記しておく.本船は試運転解析で 19.1 %の省エネ性能が確認されており、2020 年

5 月には国土交通省の内航船舶省エネルギー格付制度の最高ランク五つ星を付与されている.

謝 辞

本事業は,経済産業省の平成 28 年度「輸送機器の実使用時燃費改善事業費補助金(海上輸送機器の実使用時燃

費改善事業(標準的省エネルギー船舶開発調査))」として実施したもので,この事業の実施にあたっては,公益

社団法人日本船舶海洋工学会に設置したプロジェクト研究委員会「P51:内航海運のための省エネ母船型の研究開

発委員会の日野孝則委員長をはじめとする委員の方々から 10 回にもわたり,ご指導,ご助言を賜った.また、本

事業の客観性と信頼性を確保するために設置した内航海運業界からの第 3 者による有識者会議の委員の方々から

も貴重なご意見を頂戴した。本事業の推進にご協力頂いたこれらの委員各位ならびに全ての関係者の皆様に深く

感謝申し上げます。

(262)

8