4
*1 東北地方整備局 東北技術事務所 維持管理技術課 (〒985-0842 宮城県多賀城市桜木 3 丁目 6-1) 橋台 鋼橋上部 伸縮装置 645 343 344 413 455 119 121 72 173 19 10 41 114 81 8 10 47 0 100 200 300 400 500 600 700 沿路線名 路線別の管理橋梁数 桁端部 桁端部(始点側) 中間部 中間支点部 桁端部(終点側) 0% 5% 10% 15% 20% 外桁 中桁 外桁 19% 15% 19% 14% 10% 14% 5% 4% 5% 20% 16% 19% 損傷発生割合 鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について 田村 正樹* 1 ・加藤 保* 1 ・千葉 洋* 1 1.はじめに 東北地方は、その大半が積雪寒冷地に指定され、また 自動車依存度が高い地域である。冬季の路面管理におい ては、昭和63年のスパイクタイヤ製造中止~平成5年 の同使用禁止に伴い、路面凍結時の走行安全性を確保す るための凍結抑制剤の散布が必要不可欠となっている。 凍結抑制剤は主に塩化ナトリウムが散布されているが、 それを含んだ融雪水、水しぶき等の影響を受け、道路橋 をはじめとする鋼構造物においては、腐食への対応が課 題となっている。 こうした中で近年、鋼道路橋の桁端部においては、上 記の影響による著しい減肉腐食、主桁の孔食などの損傷 を受けた橋梁が増えてきている。(写真-1、図-1) 本稿では、鋼道路橋の凍結抑制剤による付着塩分及び 腐食に関する実態をふまえ、維持管理面での対策として、 桁端部の洗浄とその効果について報告するものである。 (桁中間部) (桁端部-下フランジ孔食) 写真-1 鋼橋における主桁端部の損傷事例 図-1 鋼道路橋の桁端部(位置) 2.管内の鋼橋の現状と凍結抑制剤の散布実態 2.1 管内の鋼橋の現状について 東北地方整備局では、3,015橋(橋長2m以上、 平成27年6月末時点)の道路橋を管理している。この うち約5割が鋼橋を占める。(図-2、図-3) 管内の橋梁は5年に1度定期点検が実施されているが、 これまでの点検結果をもとに損傷傾向を整理した結果、 鋼橋の腐食損傷は、一般的な桁中間部に比べ、桁端部に おいて進行し易い傾向が判明している。(図-4) 図-2 東北地方整備局管内の橋梁 図-3 管内の橋梁の上部構造形式 図-4 鋼橋上部の損傷傾向 (橋長 2m 以上、平成 27 年 6 月末時点) 備考1.損傷発生割合=損傷程度 b 以上の部材数÷全部材数 2.H15~H24 に実施した定期点検結果。(鋼橋 1,344 橋)

鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について - mlit.go.jp参考(50mg/m2) ①上フランジ下面 ②ウェブ ③下フランジ上面 ④下フランジ下面 mg/m2

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Page 1: 鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について - mlit.go.jp参考(50mg/m2) ①上フランジ下面 ②ウェブ ③下フランジ上面 ④下フランジ下面 mg/m2

*1 東北地方整備局 東北技術事務所 維持管理技術課 (〒985-0842 宮城県多賀城市桜木 3丁目 6-1)

橋台

鋼橋上部

伸縮装置

645

343 344

413455

119 121

72

173

19 1041

11481

8 1047

0

100

200

300

400

500

600

700

4号

6号

7号

13号

45号

46号

47号

48号

49号

101号

104号

108号

112号

113号

283号

東北横断道

日沿道

橋梁数

路線名

路線別の管理橋梁数

桁端部

桁端部(始点側)

中間部

中間支点部

桁端部(終点側)

0%

5%

10%

15%

20%

外桁中桁

外桁

19%

15%

19%14%

10%

14%

5%

4% 5%

20%

16%

19%

損傷

発生

割合

鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について

田村 正樹*1・加藤 保*1・千葉 洋*1

1.はじめに

東北地方は、その大半が積雪寒冷地に指定され、また

自動車依存度が高い地域である。冬季の路面管理におい

ては、昭和63年のスパイクタイヤ製造中止~平成5年

の同使用禁止に伴い、路面凍結時の走行安全性を確保す

るための凍結抑制剤の散布が必要不可欠となっている。

凍結抑制剤は主に塩化ナトリウムが散布されているが、

それを含んだ融雪水、水しぶき等の影響を受け、道路橋

をはじめとする鋼構造物においては、腐食への対応が課

題となっている。

こうした中で近年、鋼道路橋の桁端部においては、上

記の影響による著しい減肉腐食、主桁の孔食などの損傷

を受けた橋梁が増えてきている。(写真-1、図-1)

本稿では、鋼道路橋の凍結抑制剤による付着塩分及び

腐食に関する実態をふまえ、維持管理面での対策として、

桁端部の洗浄とその効果について報告するものである。

(桁中間部) (桁端部-下フランジ孔食)

写真-1 鋼橋における主桁端部の損傷事例

図-1 鋼道路橋の桁端部(位置)

2.管内の鋼橋の現状と凍結抑制剤の散布実態

2.1 管内の鋼橋の現状について

東北地方整備局では、3,015橋(橋長2m以上、

平成27年6月末時点)の道路橋を管理している。この

うち約5割が鋼橋を占める。(図-2、図-3)

管内の橋梁は5年に1度定期点検が実施されているが、

これまでの点検結果をもとに損傷傾向を整理した結果、

鋼橋の腐食損傷は、一般的な桁中間部に比べ、桁端部に

おいて進行し易い傾向が判明している。(図-4)

図-2 東北地方整備局管内の橋梁

図-3 管内の橋梁の上部構造形式

図-4 鋼橋上部の損傷傾向

(橋長 2m 以上、平成 27 年 6 月末時点)

備考1.損傷発生割合=損傷程度 b 以上の部材数÷全部材数

2.H15~H24 に実施した定期点検結果。(鋼橋 1,344 橋)

Page 2: 鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について - mlit.go.jp参考(50mg/m2) ①上フランジ下面 ②ウェブ ③下フランジ上面 ④下フランジ下面 mg/m2

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0 100 200 300 400 500

付着塩分量(平均)

凍結抑制剤散布レベル(km/t)×散布影響経過年数

凍結抑制剤散布(累積)と付着塩分量

一般橋梁

側歩道橋

mg/m2

299

144165

914

253

773

516

809

1912

1103

20 15 19 2 130

500

1000

1500

2000

平均 ① ② ③ ④

付着塩分量

測定部材箇所

鋼桁端部の付着塩分量

全橋平均

最大値

最少値

参考(50mg/m2)

①上フランジ下面

②ウェブ

③下フランジ上面

④下フランジ下面

mg/m2

(床版)

 主桁(桁端部)

2.2 凍結抑制剤の散布実態について

冬季の道路交通の安全確保のため、交差点や急カーブ

区間、路面が凍結し易い橋梁区間やトンネル出入り口な

どを中心に凍結抑制剤が散布されている。

管内の凍結抑制剤の散布箇所では、冬期間1シーズン

で平均14.5t/km当り散布されているが、冬季の

気象条件の厳しい地区では、30t/kmを上回る凍結

抑制剤が散布されている。(図-5)

なお、管内の鋼橋の平均延長は88.4m/橋であり、

1橋当り平均約1.3tの凍結抑制剤が冬期間に散布さ

れていることになる。

図-5 除雪工区毎の凍結抑制剤の散布量

写真-2 冬季の凍結抑制剤散布(橋梁部)

3.鋼橋桁端部の付着塩分の実態

塗装歴、凍結抑制剤散布量をもとに管内の橋梁を抽出

し、付着塩分の実態調査を行った。

日常の維持管理において、付着塩分に対して特に対策

していない橋梁については、塗装歴がごく若いものを除

き、大半が管理目安としている付着塩分量50mg/m2を

大幅に超えていた。(図-6)

気象状況、橋梁構造、桁下風通し、橋梁の長期の使用

による伸縮装置や排水装置の止水機能低下(漏水)の影

響など、様々な条件で付着塩分量は異なると考えられる

が、全体的には凍結抑制剤散布量(累積)の多い橋梁は、

付着塩分量が高い傾向であった。

また、通常は凍結抑制剤を散布していない側歩道橋に

おいても高い付着塩分量が見られており、これらは車道

橋と側歩道橋の間の隙間からの漏水、走行車両による水

しぶき等により飛散した影響によるものと考えられる。

(図-7)

図-6 鋼桁端部の付着塩分量

図-7 鋼桁端部の付着塩分量

備考 1.塗装歴、凍結抑制剤散布量をもとに管内より38橋を抽出、側歩道橋

13橋を含む(平成25年度調査)

2. 大・ 小値データは外桁と内桁、及び桁外面・内面側の各データ

の平均値のそれぞれ 大、 小を示す。

3.測定は電気伝導率方式の機器を使用。機器性能より 1,999mg/m2 を

超える際は、その測定上限値を計測値としている。

備考 1.橋梁の桁端部主桁で、各部位の測定平均値である。

2.凍結抑制剤散布の影響経過年数は、現塗装の経過年数とした。

(ただし平成5年度以降とした。)

3.平成 25 年度調査結果である。(桁端洗浄をしていない橋梁である。)

Page 3: 鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について - mlit.go.jp参考(50mg/m2) ①上フランジ下面 ②ウェブ ③下フランジ上面 ④下フランジ下面 mg/m2

備考:主要機材 高圧洗浄機、水タンク、機材運搬トラック

0

100

200

300

400

500

600

700

800

900

0 100 200 300 400 500 600 700

付着塩分量(平均)

凍結抑制剤散布レベル(km/t)×散布影響経過年数

凍結抑制剤散布(累積)と付着塩分量

洗浄なし

洗浄あり

mg/m2

洗浄なし

洗浄あり

橋座清掃

桁端洗浄

維持塗装

塵埃、土砂の撤去による湿気環境の改善(作業時の濁水の低減)

水による洗浄。高圧洗浄機等を使用

軽微な腐食箇所の簡易防錆材による塗装(ワイヤブラシ等による簡易ケレン+タッチ アップ塗装)

(必要箇所)

4.付着塩分対策としての桁端洗浄とその効果

4.1 付着塩分対策としての桁端洗浄の概要

東北地方整備局では、鋼橋の延命化の対策として、桁

端部の腐食実態をふまえ、平成20年度より鋼橋の桁端

部の洗浄による付着塩分除去(以下、「桁端洗浄」とい

う。)に取り組んでいる。

桁端洗浄は、トンネル清掃などと同様に「水」による

構造物清掃を行い、桁端部の汚れ・付着塩分を除去する

ものである。ただし清掃用の専用車両等によらず、汎用

的な器具類で簡単にできることを目指しており、これに

関するマニュアルも整備されて、現地条件等をふまえ可

能なところから実施されてきている。

(図-8、写真-3、写真-4)

図-8 桁端洗浄の作業フロー

写真-3 桁端洗浄の作業状況

写真-4 桁端洗浄の機材例

4.2 桁端洗浄における効果

(1) 付着塩分の除去効果

桁端洗浄では、洗浄後の付着塩分量の目標を50mg

/m2以下として実施している。作業直後の測定値はこ

の値を下回るものの、路面等に残留した塩分と雨天等の

影響により徐々に塩分が付着し、冬期間~春の融雪期に

かけて急速に付着塩分量が増加すると考えられる。

平成20年度より隔年サイクルで実施してきている出

張所(酒田管内)の橋梁の桁端部を対象に、洗浄前の付

着塩分量について、前項で述べた調査橋梁と比較した。

(図-7をベースに比較)

当該出張所における路線の橋梁は、 大積雪深5mに

及ぶ積雪寒冷地に位置し、凍結抑制剤は年間28.8t

/km散布されているが、桁端洗浄の効果により全体的

に付着塩分量が低い傾向であった。(図-9)

図-9 鋼桁端部の付着塩分量の比較

(2) 桁端部の腐食抑制効果

桁端洗浄を実施している橋梁及び未実施橋梁について、

橋梁定期点検結果及び現地調査に基づき、桁端部の腐食

傾向を整理した。対象は青森管内及び酒田管内の橋梁

(32橋)とし、比較対象として、気象状況及び凍結抑

制剤の散布状況より同一県内の桁端洗浄を実施していな

い橋梁(42橋)を併せて整理した。

整理比較の結果、付着塩分除去を行っていない橋梁に

比べ、定期的に桁端洗浄をしている橋梁の多くは、腐食

進行が抑制されている傾向であった。(図-10)

なお、洗浄を実施していない橋梁において腐食進行が

顕著に進んでいないものは、塗装歴が比較的新しかった

り、伸縮装置の止水対策が健全であるなど、他の良好な

条件が見られていた。

備考 1.橋梁の桁端部主桁で、各部位の測定平均値である。

2.凍結抑制剤散布の影響経過年数は、現塗装の経過年数とした。

(ただし平成5年度以降とした。)

3.洗浄実施橋梁は、平成 26~27 年度実施橋梁より抽出した。測定値は

洗浄前の値である。未洗浄橋梁は平成 25 年度調査結果である。

Page 4: 鋼道路橋の付着塩分に伴う対策について - mlit.go.jp参考(50mg/m2) ①上フランジ下面 ②ウェブ ③下フランジ上面 ④下フランジ下面 mg/m2

H18 H23 H26

H20 H25 H26

27

17

5

25

0% 20% 40% 60% 80% 100%

洗浄あり

洗浄なし

桁端洗浄と腐食進行

腐食進行無

腐食進行有

腐食進行無

腐食進行無

腐食進行有

腐食進行有

図-10 桁端部の腐食進行の比較

桁端洗浄を実施している個別の橋梁について、特徴の

あった2橋を事例として紹介する。

① 青森A橋

本橋は、平成23年の東日本大震災に伴う影響により、

予定した桁端洗浄できなかった橋梁である。洗浄間隔が

4年と空いたことから、防食機能の劣化e→腐食b(腐

食深さ-小、面積-小)に進んだものと考えられる。

なお、平成25年度に洗浄作業を再開された結果、現

在のところ特に変化は見られていない。(図-11)

図-11 桁端洗浄と腐食進行度(青森A橋)

② 酒田B橋

桁端洗浄は、腐食b程度までの損傷を対象として平成

20年度より行われてきているが、一方で経費高騰等に

より橋梁の塗替え塗装も遅くなってきている。こうした

状況で本橋は腐食bを超える損傷レベルにおいても、塗

替えまでの当面措置として桁端洗浄に取り組まれていた。

桁端洗浄に加えて維持塗装(錆安定化処理材)を併用

することで、腐食d(腐食深さ-大、面積-小)を維持

しているが、層状剥離錆などの急速な減肉腐食は生じて

いなかった。(図-12)

図-12 桁端洗浄と腐食進行度(酒田B橋)

なお、桁端洗浄コストを調査した結果、桁端部1か所

当り1.5~2.8万円(幅員10m程度、直接工事費、仮設

足場・保安費用含まず。H26実績)であった。

4.むすびに

鋼道路橋の凍結抑制剤による腐食及び付着塩分の実態、

及び腐食に関する対策とその効果について整理した結果

は以下のとおりである。

・ 鋼橋の腐食は桁端部に集中している。また凍結抑制

剤散布とその継続により、桁端部での付着塩分量は増

加する傾向が見られた。

・ 平成20年度より鋼橋の桁端洗浄に取組んできたが、

定期的(隔年)に実施している橋梁では、付着塩分量

及び腐食の進行について、ある程度抑制されている傾

向が見られた。

桁端洗浄はコスト的に安価であり、鋼橋腐食に対する

延命化に有益である。しかし、実施されている橋梁は全

体では未だ数は多くなく、高さを有する桁端部での作業

床確保(例:橋梁検査廊の整備活用が必要)、高圧洗浄

水の飛散抑制への要請(例:飛散防護や排水回収型洗浄

機の検討)など、個別に様々な作業制約を抱える場合も

多い。

今後は、橋梁毎にそれぞれの条件を考慮し、必要に応

じて上記のような制約への対応と、橋梁の損傷状況に応

じた他の対策(漏水、防錆対策の強化等)の実施など、

経費面も含め総合的に検討し、鋼橋の腐食対策と維持管

理を行っていく必要がある。

後に、本文をまとめるにあたり、東北地方整備局出

張所長建設監督官連絡会を通じて、関係者の方々に貴重

な記録・資料をご提供頂きました。本紙面を借りてここ

に感謝申し上げます。

以上

備考 1.橋梁定期点検結果及び現地調査結果より腐食状況を判定した。

2.洗浄実施橋梁は、青森及び酒田管内の橋梁を対象とした。

3.未洗浄橋梁は、同様の気象条件、凍結抑制剤散布量を考慮し、

同一県内より抽出した。