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宇宙航空研究開発機構 航空技術部門航空技術部門 航空システム研究ユニット FQUROH+チーム長
山本 一臣
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム
機体騒音低減技術の研究開発~より静かな旅客機を実現する低騒音化技術の確立に向けて~
1
発表の内容
1. 航空機騒音の現状と機体騒音低減技術の課題2. FQUROH(フクロウ)プロジェクトの概要
Flight Demonstration of Quiet Technology to Reduce Noise from High-lift Configurations3. 研究開発のためのキー技術4. JAXA実験用航空機「飛翔」による飛行実証5. 設計技術の検証6. 旅客機の低騒音化技術確立に向けて7. まとめ
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 2
1. 航空機騒音の現状 航空機騒音は現在でも空港周辺地域に対して最も明示的な影響を与える環境問題
今後の航空輸送の増大から特に都市圏の空港において離発着の増加 航空機の低騒音化がさらに必要
離陸上昇側:50年間で約15 dBの騒音低減を実現 ー 2010年代から新型のファンエンジン搭載による低騒音化 着陸進入側:50年間で約10 dBの騒音低減後,1990年代から停滞
空港周辺の進入経路に沿った長い騒音フットプリントの原因. 機体騒音が卓越する傾向
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 3
-10
-5
0
5
10
15
201960 1970 1980 1990 2000 2010 2020
Mar
gin
(EPN
dB) r
elat
ive
to C
hap.
3
Cirtification Year
ApproachICAO Noise Standards
MTOW < 55 ton
MTOW = 55 - 100 ton
MTOW = 100 - 250 ton
MTOW = 250 - 350 ton
MTOW > 350 ton
Data source: ICAO/dgac NoisedB Ver.2.10 and FAA AC36-1H
Chap. 2
ICAO Chap. 3
Chap. 4相当
Chap. 14相当
着陸進入時の騒音の推移 (ICAO基準に対する差分)
50年間で10dBの低減で停滞
成田国際空港騒音区域関係図を基に作成
成田空港周辺で環境騒音基準(Lden 62dB)を超えている第1種騒音区域
1. 機体騒音 (Airframe Noise)
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 4
➡ 飛行実証による技術の確立フラップ端の渦流れ
Side brace
Lock link
Unlock actuator
Uplock pin
Door rod
Tire
Wheel cap with cooling holes
Brake caliper
Torque-link
Wire and electric tubes
Doors
Shock strut
主脚周辺の剥離流れ
Cuspからのせん断層
Cusp
剥離の再付着
逆流(剥離)域
音波
音波
スラット内部の剥離流れ
高揚力装置,降着装置まわりの剥離した乱流せん断層が引き起こす広帯域の空力騒音. 進入時にエンジン騒音よりも卓越 今後の低騒音化のボトルネック.
基礎研究では様々な低騒音化のアイデアが提案されるが,実用化に課題. 数値流体力学(CFD)や風洞試験による設計技術の信頼性 飛行試験による実機の騒音評価の精度 低騒音化と構造強度・重量、空力性能、作動機構・冷却等とのトレードオフ
課題を解決し、実機の騒音低減を確実に行える「設計技術」の獲得が必要.
2. 機体騒音低減技術の飛行実証FQUROHの目的と実施体制 飛行試験による機体騒音低減技術の技術実証を通じて,設計技術の確立を目指す.
機体騒音の基礎研究を基に,2015年より低騒音化の設計技術確立を目指してFQUROHプロジェクトを開始. 航空機開発への適用に見通しが得られる段階(TRL6)までの技術実証を行う.
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実用的な技術を確立するために,国内航空産業との共同研究体制により実施.共同研究
川崎重工業 航空宇宙システムカンパニー 住友精密工業
航空技術部門
TRL4基盤技術の研究開発2005~2014
TRL5~6実用化に必要な設計技術の確立を目指す研究開発プロジェクト 2015~
> TRL7実機開発への適用(企業の活動)
実用
化のレベル
Year
Slat/ Flap noise reduction modifications
Landing gear noise reduction modifications
低騒音化のコンセプト,数値解析・実験技術
© Mitsubishi Aircraft Corporation
FQUROH プロジェクト改造した航空機を用いた機体騒音低減技術の飛行実証
2. 飛行実証の3段階のステップ
JAXA実験用航空機「飛翔」を用いた飛行実証 2016年9月:1回目の飛行実証により実証試験のプロセスを確立.世界初のフラップ低騒音化実証. 2017年9月:2回目の飛行実証を実施し,改良した低騒音化設計の効果を実証. 飛行試験データを用いた設計技術検証により,低騒音化の設計基盤技術を獲得.
最終目標である旅客機の低騒音化技術を獲得するために,SpaceJet M90を実証機に用いた飛行実証に向け研究開発を実施中.
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予備実証飛行実証プロセスの確立
飛行実証(1)低騒音化設計の基盤技術の確立
飛行実証(2)旅客機のための設計技術の獲得
改造設計・製造低騒音改良設計 設計技術検証
設計技術検証
改造設計・製造低騒音化設計
改造設計・製造低騒音化設計
© Mitsubishi Aircraft Corporation技術の成熟
2017年9月
2016年9月
FQUROH (2015~2019) FQUROH-2 (準備・計画中)
3. キー技術 (1):「飛翔」に適用した低騒音化コンセプト
主音源のフラップと主脚に,2005年からの研究によって得られた低騒音化コンセプトを適用騒音発生の物理現象の理解に基づく独自の低騒音化コンセプトフラップの端部(全12か所):3種類の方法を組み合わせて適用主脚:車間に騒音源周囲の流れを減速する多孔カバー,扉に多孔質材など,4種類の方法を適用
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JAXA 実験用航空機「飛翔」
Vortex Generators
Vortex Generators
Flow
Murayama, et al., AIAA Paper 2013-2067
Protruding Rounded Lower-edge (PRLE)
Small Barriers
Isotani et al, AIAA2013-2064
Murayama, et al., AIAA Paper 2012-2279
Porous-plate Cover
Murayama, et al., AIAA Paper 2017-4030
Main gear
Flap side edges
Nose gear
1kHz
3. キー技術 (2):先進CFD技術と風洞試験を活用した低騒音化設計(フラップ)
非定常CFD技術を活用して低騒音化コンセプトを実機に適用する設計を実施. 騒音発生の物理現象の理解の下に低騒音形状を最適化.
風洞試験により定量的に低騒音効果を評価し,最終形状を確定2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 8
渦度分布
音源計測用フェーズド・アレイマイクロホン96本で構成
Flow
18%スケール模型による空力騒音風洞試験@鉄道総合技術研究所 大型低騒音風洞
ベースライン形状
Max. Max-7dB
800Hz
低騒音化設計形状
800Hz1kHz 1kHz
ベースライン形状 低騒音化設計形状
0.5k-1kHzにおける表面圧力変動(騒音源)のレベル
Flow
非定常CFD技術により,ポラスカバーの低騒音化コンセプトによって騒音源を大きく減らせることを確認.
いくつかのポラスカバー形状とその支持構造の組み合わせなどを風洞試験によって評価し,最終的な設計形状を選定.
3. キー技術 (2):先進CFD技術と風洞試験を活用した低騒音化設計(主脚)
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実スケール模型による空力騒音風洞試験@ JAXA 2m×2m 低速風洞
ベースライン形態 低騒音化設計形態
1.6 kHz
音響透過壁(ケブラーシート)の背後でフェーズドマイクロホンアレイにより音源計測
FlowFlow
Flow
1.6kHz
大きな圧力変動(騒音源)
Front viewBack view
圧力変動の低減
速度分布 700~1400Hz の表面圧力変動分布
140
130
120
110
100
90
80
dB
低騒音化設計形態
ベースライン形態
3. キー技術(3):飛行試験における騒音源計測
直径30m, 195本のマイクロフォンを放射状に設置したフェーズド・マイクロホン・アレイにより高精度な音源計測 ナビゲーションシステム ”Tunnel-In-the-Sky”(TIS) により,飛行条件の再現性を高めた. 2台のラインセンサーカメラ,Kinematic GPSの組み合わせによる飛行経路・速度のクイック計測と高精度計測.
騒音源の騒音レベルを±0.5 dBの精度で計測する技術を確立.
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TIS DisplayMicrophonearray
Runway
Tunnel-In-the-Sky (TIS)のディスプレイ
JAXA 実験用航空機「飛翔」
フェーズド・マイクロホン・アレイ
Main gear
Flap sideedges
Nose gear
1kHz
0
10
20
30
40
50
60
100 1000 10000
PS
D [
dB/H
z]
Frequency [Hz]
Noise reduction conf. (2nd flight demonstration)
Baseline conf. (2nd flight demonstration)
4. 飛行実証に向けた飛翔の改造(2017年)
低騒音化設計を反映し,フラップ,主脚の改造のための構造設計を実施. 構造設計結果と飛行性能解析から飛行安全性を証明して,航空局より飛行試験の許可を取得.
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Vortex GeneratorsSmall Barrier
Protruding Rounded Lower Edge
Porous -plate coverHub
sealing
Deflector
Porous material
主脚の改造フラップの改造
フラップと主脚を改造したJAXA 実験用航空機「飛翔」
4. 飛行実証試験の実施(2017年)
実施場所: 石川県能登空港(のと里山空港)
期間: 8/21~9/2: 飛行安全性確認試験(地上滑走・飛行性能確認) 9/13~10/1:騒音源計測試験
試験方法: 滑走路横にフェーズド・マイクロホン・アレイを設置して騒音源を計測 計測点上空±2秒間にフライトアイドルで水平飛行.機体騒音を明確化
基準飛行速度 140kt (72m/s), 基準高度 200ft (61m) 3週間の間に17回の飛行により,222回の騒音源計測を行った.
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フェーズド・マイクロホン・アレイ直径30m, 195本のマイクロホンで構成
JAXA 実験用航空機「飛翔」
4. 飛行試験結果:音源マップの比較
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 13
前脚(低騒音化の対象外)
エンジンナセル(低騒音化の対象外)
主脚フラップ
低騒音化形態ベースライン形態
主脚フラップ
1kHz
Max
-5dB
-10dB
Max
-5dB
-10dB
前脚(低騒音化の対象外)
主脚フラップ主脚フラップ
4kHz
欧米の過去の実績を大きく超える低騒音化を達成フラップ: -2.1 EPNdB主脚:-4.0 EPNdB
5. 設計技術の検証(空力騒音風洞試験)
飛行試験と条件を合わせた風洞試験を実施し飛行試験データと詳細に比較. 騒音スペクトルが定量的に良い一致.風洞試験による騒音レベルと低減量の予測が信頼できることを確認.
一部の周波数で差が現れる原因を特定.2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 14
遠方場マイク
主脚模型
実スケール模型による主脚騒音の計測
•鉄道総研大型低騒音風洞により,高精度な比較データを取得
飛行試験と風洞試験の機体直下方向騒音スペクトルの比較
70
80
90
100
110
0.1 1.0 10.0
音圧レベル
[dB(
A)]
1/3オクターブバンド中心周波数 [kHz]
風洞試験ベースライン風洞試験 2017 主脚低騒音化2017 飛行試験ベースライン (左右平均)2017 飛行試験主脚低騒音化 (左右平均)
Flow
フラップ上面側:VGとSmall Barrier
フラップ下面側:PRLE
飛翔18%スケール模型によるフラップ騒音の計測
•鉄道総研大型低騒音風洞において,実機の詳細形状を正確に再現して比較データを取得
70
80
90
100
110
0.1 1 10
騒音レベル
[dB(
A)]
1/3 オクターブバンド中心周波数 [kHz]
風洞試験ベースライン風洞試験 2017低騒音化形態2017 飛行試験 ベースライン(左舷)2017 飛行試験 低騒音化形態(左舷)
エンジンナセルの発電機排気孔の音
Re数の違いによりキャビティ音発生に差異
翼下面との境界層厚さの違いによる差異
-10
-5
0
5
10
0.1 1 10
音圧レベル差分
[dB(
A)]
1/3オクターブバンド中心周波数 [kHz]
2017 飛行試験主脚低騒音化 (左右平均)
CFD 2017 主脚低騒音化
-15
-10
-5
0
5
0.1 1 10
音圧レベル差分
[dB(
A)]
1/3 オクターブバンド中心周波数 [kHz]
CFD 2017低騒音化形態
2017 飛行試験 低騒音化形態(左舷)
5. 設計技術の検証(数値流体力学(CFD))
飛行試験と条件を合わせたCFD解析により技術検証を実施. CPU 192コアを使い、1週間程度で騒音を予測する計算規模.
聴感感度が高い4kHzまでの騒音レベルと低減量の傾向を捉えられることを確認. 低騒音化設計のガイドラインとして十分に利用可能. 風洞試験と飛行試験に違いを生む騒音発生メカニズムも明らかにした.
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 15
2017低騒音化形態ベースライン形態飛翔フラップ端部(フラップ間のギャップ部分)における渦度分布の変化
ベースライン形態表面の圧力変動の分布 (700~1400 Hz 成分)の変化
2017低騒音化形態
飛行試験とCFDの機体直下方向騒音低減量の比較
飛翔 翼胴形態のCFD解析•フラップの非定常流を詳細に解析
飛翔 主脚のCFD解析
•主脚の詳細形状とすべての低騒音化形状を考慮した解析
6. 旅客機における技術の確立に向けて(騒音源計測)
SpaceJet M90試験機の着陸進入、離陸上昇を模擬した低空飛行により音源計測を実施. 2016年9月の「飛翔」による予備実証試験期間中
エンジン騒音とともに、主脚、前脚、スラット、フラップの音源を確認.
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 16
地上に設置したフェーズド・マイクロホン・アレイの上空を通過するSpaceJet M90 試験機(2016年9月 能登空港)
6. 旅客機における技術の確立に向けて(低騒音化設計)
SpaceJet M90 を技術実証機として、旅客機の高揚力装置と主脚の低騒音化技術の実用化を目指す. 低騒音性能とともに、旅客機において構造成立性および飛行性能の維持を実現する技術の確立を図る.
スラットは旅客機の主音源のひとつであり、低騒音化の重要な技術課題.
10%スケールの風洞試験により各音源の特性を分析. 「飛翔」による技術実証と同等レベルの低騒音化が可能なことを確認.
今後、構造、空力等との成立性を考慮した設計を進めていく.
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 17
SpaceJet M90 10%スケール模型による空力騒音風洞試験@鉄道総研米原風洞
7. まとめ
機体騒音低減技術の飛行実証プロジェクトFQUROHに関して紹介. 航空機騒音の現状と技術課題 キー技術とJAXA実験用航空機「飛翔」を用いた飛行実証 SpaceJet M90 を実証機とした技術の実用化に向けた活動
飛翔による飛行実証の成果 過去の欧米の飛行実証の実績を大きく超えた低騒音化を得た. CFD,風洞試験を飛行試験データと詳細に比較,予測が十分に信頼できることを確認. 技術実証を通じ,低騒音化設計手法,計測技術,飛行試験手法,データ処理等,一連の技術が確実に実用レベルまで高められ,設計基盤を確立することができた.
目標とする旅客機の低騒音化技術の確立を目指して 現在,SpaceJet M90を対象に低騒音化設計に取り組んでいる. 空力や構造の成立性を含め,実用性のある低騒音化技術の確立に向け研究開発を進めていく. SpaceJet M90試験機を用いた飛行実証へ.
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謝辞
ご紹介した成果は,FQUROHプロジェクトにおけるJAXA、川崎重工、住友精密、三菱航空機の共同研究体制の下で得られたものです.
飛翔による飛行実証試験を実施するにあたり,以下の企業,組織から多大なご支援,ご協力を頂きました.ここに関係各位への感謝の意を表します.
機体改造: Cessna (Textron Aviation Group),ダイヤモンドエアサービス(株),Calspan Aerospace 能登空港での試験実施:能登空港管理事務所, 日本航空学園, 大阪航空局, 東京航空地方気象台, 輪島市, 穴水町, 能登町
飛翔の運航:朝日航洋(株) , JAXA飛行技術研究センター 騒音源計測: 小林理研, (株)IHIエアロスペースエンジニアリング, AVEC, Inc. , JAXA推進技術研究ユニット
2019/09/05 JAXA 2019航空シンポジウム 19
ご清聴ありがとうございました。
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