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論文 長野県工技センター研報
No.11, p.M1-M4 (2016)
金属電解回収用複合セラミックス電極材料の開発*
畔上達紀* 1 古畑 肇* 2 小林 聡* 1
Development of a Ceramic Composite Electrode for Metal Recovery Tatsunori AZEGAMI, Hajime FURUHATA and Satoshi KOBAYASHI
導電フィラーに炭素繊維(CF)と多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を併用した炭素―アルミナ
複合セラミックス材料を作製し,金属電解回収用電極材料としての実用化に向けて諸特性を調査した。
CFを用いることで,高電流密度条件下における還元反応中でもフィラーの脱落が認められなくなっ
た。さらにCFおよびMWCNTの添加量,焼結圧力が開気孔率と導電率に与える影響を検討し,緻密か
つ高い導電性を示す複合セラミックス材料を作製するための条件を得た。作製した複合セラミックス
材料をモザイク状に複数枚組み合わせ,実証試験サイズのセラミックス電極を作製した。これを用い
たニッケル(Ni)めっき液中からのNi電解回収実験を行い,析出形状および良好な剥離性を確認した。
キーワード:炭素繊維,多層カーボンナノチューブ,セラミックス電極,電解回収
1 緒 言
昨今,めっき業界は環境問題への対応や技術の継承・高
度化など様々な課題に直面している。特にめっき工程から
発生する廃棄物の減量化および再資源化は重要な課題であ
り,関連する技術開発が各所で活発に行われている。めっ
き廃液は主に専門業者に委託して産業廃棄物として処理さ
れているが,自社内で有価金属を回収・再利用する技術が
確立できれば,めっき企業にとって大きなメリットが期待
できる。
こうした中,過大な設備投資が不要で金属回収処理の制
御が容易な電解析出法が注目されているが,回収操作の効
率化まで考慮した金属回収専用の電極材料はいまだ開発さ
れていない。そこで,我々は電解回収に適した電極材料の
開発を目的として,α-アルミナ(Al2O3)をベースに,導電フ
ィラーとしてグラファイト(GP)とMWCNTを複合化した導
電性複合セラミックス材料を開発した1)。これを用いて電
極を試作し,電気Niめっき液からの電解回収実験を行っ
た結果,析出金属の剥離性に優れるなど,通常の金属材
料を用いた電極とは異なる利点が確認できた。しかし,
電解試験後の電極表面を観察すると,電極表面のGPが脱
落したことによると思われる凹凸形状が発生した。今
後,実用化を目指すためには,高電流密度に対する耐久
性の向上,導電率の向上,電極面積の大型化そして電極
構造の最適化等の課題を解決することが求められる。
そこで,これらの課題を解決し実用化のための機能向
上と部材化を図るため,主たる導電フィラーの形状をGP
からCFに変更し,Al2O3粒子との絡み合いの強化による脱
落防止と組成の最適化を試みた。本報では,表1に示す
開発目標値を達成するための各種の検討結果について報
告する。
2 実験方法
2.1 電極原料
電極の基材となるAl2O3にはTM-DARを使用した,導電
フィラーにはMLD-300を使用した。MWCNTはCM-95ま
たはFlotube9000,SES Research社製を個別に使用した。
2.2 装置
原料の混合には遊星ボールミル((有)伊藤製作所製
LA-PO.4)を用いた。焼結には放電プラズマ焼結装置(SPS
シンテックス(株)製SPS-515L)を用いた。評価にはポテ
ンシオスタット(北斗電工(株)製HZ-3000),電子比重計
(ミラージュ貿易(株)製SD-200L)と,材料試験機(インス
トロン社(米国)製5567)を用いた。
2.3 混合粉末の調製
所定の混合比にて原料を調合し,分散媒にエタノール,
物性 現行 目標
耐電流密度 20mA/cm2 200mA/cm2
導電率 100mS/cm 200mS/cm
面積 φ10 mm 50 mm×50 mm
表1 開発目標
* 国立研究開発法人科学技術振興機構 平成 26年
度研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プ
ログラム 探索タイプ
* 1 材料化学部
* 2 材料化学部(現 環境・情報技術部門環境技術部)
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分散剤に100倍に希釈したアクリル酸系高分子分散剤
A-6114を加えた後,遊星ボールミルにて混合を行った。
混合後スラリーを乾燥し,アルミナ乳鉢と目開き150µm
の篩を用いて混合粉末を調製した。
2.4 複合セラミックス材料の作製と評価
焼結は内径φ20mmのグラファイトダイとパンチを用
いて,真空雰囲気下,所定の圧力を加えながら1350℃で3
分間のパルス通電焼結(PECS)を行って実施した。焼結
後,粒径3µmのダイヤモンドスラリーを用いて表面を研
磨して複合セラミックス材料を得た。得られた複合セラ
ミックス材料の評価は,開気孔率はアルキメデス法によ
り,導電率は交流インピーダンス法により行った。
2.5 電極の作製と評価
複合セラミックス材料に給電板と樹脂製の外装ケース
を取り付け,反応面積が0.75cm2のセラミックス電極を作
製した。セラミックス電極の電気化学的特性は,サイク
リックボルタメトリ(CV)測定を行って調査した。また,
耐電流密度の評価は,白金板を陽極に,セラミックス電
極を負極に用いた0.5M硫酸ナトリウム水溶液の電気分
解にて行った。
2.6 大型電極の作製と電解回収操作
炭 素 分 を 12.4mass%(CF80%, MWCNT20%, 以 下
MWCNT量のみ表記)とした原料と,内径φ40mmのグラフ
ァイト型を用いて,焼結圧力は100MPaにてPECSを実施
した。得られた焼結体を1辺が25mm,厚さ2mmに整えた
ものを4枚組み合わせ,導電ペーストを用いて市販のアル
ミナ基板に接着・固定し,50mm×50mmの面積を有する
大型セラミックス電極を作製した。Ni電解回収実験は,
電気Niめっき液を対象に,作製した電極を陰極に,陽極
には十分な大きさのNi板を用いて,極間距離5mm,電流
密度40mA/cm2での定電流電解にて実施し,析出量および
析出金属の形態を調査した。
3 結果と考察
3.1 高電流密度に対する耐性の向上
CFの含有率が9.1mass%の複合セラミックス材料を電
極に用いて,0.5M硫酸ナトリウム水溶液中でのCV測定
により酸化還元挙動を調べた結果を図1に示す。ここに
示すように,水の酸化還元反応に伴うファラデー電流が
観測され,GPの場合と同様に電気化学反応が起きる事が
確認できた。さらに,水の電気分解を電流密度200mA/cm2
にて20時間連続で行った際のセラミックス電極の表面電
位変動を記録した結果を図2に示す。図2において,セ
ラミックス電極の電位が変動しているのは,電解に伴っ
て発生した水素ガスが,電極表面に滞留した影響と考え
られる。ここに示すように,200mA/cm2の高い電流密度
条件下でも20時間以上に渡って電気分解反応が安定して
起きていることを確認した。加えて,電解後の溶液中に
はCFの脱落物が認められなかったことから,セラミック
ス電極の耐久性は高いと考えられる。
図1 CV 測定結果
図2 定電流-電位変化測定結果
図3 CF添加による物性への影響
図4 MWCNT 置換による物性への影響
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3.2 体積抵抗率低減
はじめに,CF含有率が5.9mass%,9.1mass%,12.4mass%,
19.6mass%および27.5mass%となるようにCFとAl2O3と混
合した原料粉のPECSを行い,CF含有率が開気孔率と導
電率に与える影響を調査した。結果を図3に示す。ここ
に示すように,GPでは導電性が認められなかった
5.9mass%においてもCFはわずかに導電性が認められ,
GPと同様に添加量に応じて抵抗値は減少した。しかし,
開気孔率は早期から増大し,緻密化に課題があることが
判明した。これは,CFの形状および弾性が影響している
と考えられる。
つぎに,CF間における導電パスの増加を目的として
MWCNT添加による導電率向上と,CF量の減少による開
気孔率の低減効果を検討した。MWCNTにはCM-95を用い
て,炭素分(CF+MWCNT)を9.1mass%に固定し,CFに対
するMWCNTの質量比率が0%,5%,10%および20%の複
合セラミックス材料を作製した。置換率が導電率と開気
孔率に与える影響を調査した結果を図4に示す。この結
果からは,MWCNTへの置換による導電率向上への効果
はわずかであった。これは,導電率にはCFの総繊維数が
大きく影響するが,繊維数が少ないために隣り合うCF間
の距離が離れてしまい,MWCNTによる橋渡し効果が十
分に得られなかったためと考えられる。他方,開気孔率
はほぼ一定であるが,不安定に変動した。これは,CF繊
維数の減少と,MWCNT凝集体の量の変化が影響したた
めと思われる。
CF間の距離を縮め,導電率と開気孔率を改善するため
には,PECS時の圧力を大きくすることが有効だと考えら
れる。そこで,炭素分12.4mass%( MWCNT20%)の混合粉
末を用いて,焼結圧力を30MPa,60MPa,100MPaと変化
させたときの影響を調べた結果を図5に示す。ここに示
すように,圧力の増大により導電率は大きく向上し,炭
素分12.4mass%(MWCNT 20mass%)の組成では,80MPa
以上で焼結すれば導電率は目標値の200mS/cmを超える
と予想できる。また,開気孔率も圧力増加により大きく
改善した。
炭素分12.4mass%相当の組成では導電率の目標値を達
成したが,セラミックス表面からの炭素分の脱落を防止
する観点からは,含有する炭素量は少ない方が好ましい。
そこで,炭素分9.1mass%(MWCNT 20mass%)をベースに,
添加するMWCNTの種類を変えて複合セラミックス材料
を作製し,その物性を調べた結果を図6に示す。
試料Aは,MWCNTにCM-95を用いて,これまでの検討
で最も高い導電率を示した(炭素分12.4mass%(MWCNT
20mass%))材料であり,試料Bは直径および長さはCM-95
とほぼ同等だが,あらかじめ分散処理されたMWCNTス
ラリーであるFlotube9000を用いて作製した材料,試料C
はCM-95と比較して直径が約2倍(20-30nm),長さは約1.5
倍(15-30µm)のSES Research社製MWCNT粉末を,CM-95
の検討と同様に分散処理して作製した材料である。なお,
焼結圧力は100MPaで統一した。
この結果から,今回の検討で最も高い導電率を示した
のは試料Bであり,MWCNTのサイズや長さよりも,分散
性がCF間の導電パス形成に大きく影響していると考え
られる。
開発した複合セラミックス材料は,表面に分散した導
電点を有していることが予想される。導電点の分布状態
を明らかとするために,炭素分12.4mass%(CFのみ)の素
材を用いて,希薄な硫酸ナトリウム水溶液を用いた水の
図5 焼結時の圧力による物性への影響
図6 MWCNT 別による物性への影響
⊿mV
図7 導電点測定結果
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電気分解反応を行いつつ,走査型振動電極法(SVET)によ
りカソード領域の可視化を試みた結果を図7に示す。
SVETは,直径20µmの針状の電極を表面近傍でX-Y軸
に走査しつつ上下に振動させ,上点と下点の電位差を計
測することで,電気化学反応が起きている場所をin-situ
で局所的に観測する手法である2)。図7において,灰色
から黒色に色付けした場所で電気化学反応に伴う電位差
が検出されたことから,局在化した導電点が無数に点在
していることが確認できた。
3.3 電極面積の拡大
複合セラミックス材料を組み合わせて1辺が50mmの
実証試験サイズの電極を作製した。試作した大型電極の
外観写真を図8に示す。大型電極は,黒色の部分が複合
セラミックス材料であり,1辺が25mmの正方形の板を4
枚繋ぎ合わせた構造となっている。さらに本電極を用い
た電解回収操作によって析出したNiの外観写真を図9に
示す。ここに示すように,複合セラミックス材料の接続
部分で析出したNiの剥離が始まっているが,電極全面で
Ni析出が確認できた。先に実施したSVETの結果から,
Niの析出は局在化した導電点から始まり,粒子の成長と
ともに隣接する析出粒子と相互に接触し,最終的に板状
に析出したと考えられる。また,つなぎ目に沿って剥離
が始まっているのは,導電点の連続した欠損により析出
金属の橋渡しが強固にならず,析出したNiの内部応力に
よって電極表面から剥離が起きたためと考えられる。
この大型電極とは別に,反応面積が0.75cm2のセラミッ
クス電極を用いて析出したNiの密着強度について,電極
表面とのせん断方向での力を測定したところ,約
30N/cm2で電極表面からほぼ完全にNiの剥離が行えたこ
とから,容易に回収操作が行えることが確認できた。
4 結 論
金属電解回収用の電極材料として,導電フィラーにCF
とMWCNTを併用した炭素―アルミナ複合セラミックス
材料を作製し,実用化に向けて諸特性を調査した。研究
から得られた知見を以下に示す。
(1) 導電フィラーにCFを用いることで,高電流密度条件
下でもフィラーの脱落が認められなくなった。長時間
の連続電解試験においても電極特性の劣化が認められ
なかったことから,開発した複合セラミックス材料の
耐久性は高い。
(2) CFおよびMWCNTの添加量,焼結圧力が開気孔率と
導電率に与える影響を検討し,緻密かつ高い導電性を
示す複合セラミックス材料を得るための作製条件を得
た。
(3) 複合セラミックス材料をモザイク状に複数組み合わ
せ,実証試験サイズの複合セラミックス電極を作製し
た。これを用いたNiめっき液中からのNi電解回収実験
を行って,電極表面に析出したNiの良好な剥離性を確
認した。
5 おわりに
本研究により,電極表面に局在化した導電点を多数形
成した緻密な導電性セラミックスが新たに開発できた。
この成果を基に,剥離性と耐久性を兼ね備えるという特
徴を有する金属回収用電極材料として,特許を出願(特願
2015-245813)した。
今後の取組として,本電極を用いた電解セルユニット
の開発を行う予定である。電解セルには回収液の組成や
濃度に応じた構造が求められるとともに,実際の回収操
作を考慮した電極形状に加工する必要がある。開発した
複合セラミックス材料は,一般的なアルミナセラミック
スよりも機械加工が容易であるため,複雑形状への対応
も比較的容易と考えている。最終的には,開発した電解
セルを金属イオンの分離・濃縮プロセスと一緒に電解回
収装置に組み込み,実証試験へと進めたいと考えている。
謝 辞
本研究を実施するにあたり,剥離強度の測定にご協力
頂きました材料化学部の柏木研究員に感謝いたします。
加えまして,本研究は,平成26年度国立研究開発法人科
学技術振興機構 研究成果展開事業A-STEP 探索タイ
プにて実施したものであり,ご協力いただいた関係各位
に深く感謝いたします。
参考文献
1) 畔上達紀,宮澤正徳,小林聡. 有価金属回収用高耐久性
電極材料の開発 . 長野県工技センター研報 . No.8,
p.M1-M5(2013)
2) 畔上達紀,古畑肇. 走査型振動電極法によるクロメー
ト被膜のin-situ観察. 長野県工技センター研報.No.4,
p.M7-M9(2009)
図8 大型電極の外観
図9 析出 Ni の外観