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術中肺血栓塞栓症への対応 SPP-31 山本麻里・加藤奈々子

術中肺血栓塞栓症への対応 - ntmc.go.jp · * 呼吸・循環の安定 n 呼吸:(酸素投与が基本 安定してSpO2>90%が得られなければ気管挿管) Ø

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術中肺血栓塞栓症への対応

SPP-31 山本麻里・加藤奈々子

*疫学:Ø周術期PTE発生率:3.4/1万手術Ø術前:18.2%,術中:4.7%<,術後:77.1% ⇒ 死亡率:11.8%

*手術部位別:脳神経・脳血管8.01人,四肢・股関節5.89人*塞栓源の約 90%以上は下肢/骨盤内静脈(DVT:deep vein thrombosis)

*手術侵襲によりVTE(venous thromboembolism)リスクは22倍に増加①サイトカイン・カテコラミンによる血液凝固亢進②骨格筋の弛緩・手術操作・体位による静脈血流のうっ滞③局所の血管壁障害

*肺塞栓によって死亡する患者の多くは右心不全が原因である.術中に発生したPTEには迅速な鑑別と早急な対応が必要であるが,標準的な治療戦略は確立されていない

肺血栓塞栓症(Pulmonary Thromboembolism:PTE)

参考文献1),2)

病態生理肺血管床の減少による急性の右心不全・呼吸不全の悪循環

参考文献3)

右室拡大

右室壁伸張

右室後負荷増大

三尖弁機能不全

神経ホルモン活性化

心筋活動↑

右室酸素消費量↑

右室梗塞

右室収縮力↓右室拍出量↓

左室前負荷↓

心拍出量↓

血圧↓

右室冠血流↓

右室酸素供給↓

心原性ショック

死亡

*まずはPTEを疑うことが重要!* 術中は胸痛や呼吸困難などの自覚症状が麻酔によりマスクされる

* 術中にPTEを疑う場合、多くは血圧低下やショック状態であることが多いため 迅速な鑑別と早急な初期治療が重要である

* PTEに特異的な所見はなく、麻酔中の血圧低下や酸素化不良は他の原因でも起こり得る(鑑別の重要性)

* 右心負荷所見として上室性不整脈や,心電図上V1-4のT派陰転化,V1のQRパターン,S1Q3T3,完全右脚ブロックの発生が診断につながる

* DVT/PTEのハイリスク群(高齢・長期臥床・癌・術式・肥満・DVT既往…)

診断

☆鑑別診断は??弁の機能不全 タンポナーデ心筋梗塞 大動脈解離など

ショック状態か?

NOYES予後不良の

ハイリスク予後不良の可能性は低い

l 精査• 造影CT• D-dimer• 心エコーなど

l CT撮影可能であれば実施

l 不可能の場合は心エコー

診断

TEE診断

*心エコーの有用性

*循環動態が不安定な場合やCTへの移動が困難な状況で診断に役立つ*直接的な血栓の検出感度は高くない4)(TEE: LPA17%,RPA35%, MPA26% )*右室負荷, 左室D-shapeなど特徴的な所見が得られる*鑑別疾患(右室梗塞・弁膜症・タンポナーデなど)の除外が可能

参考文献5)より転載

参考文献4)より転載

* 呼吸・循環の安定

n 呼吸:(酸素投与が基本 安定してSpO2>90%が得られなければ気管挿管)

Ø 一回換気量<6ml/kg(lean body weight),吸気ピーク圧<30cmH2Oさらなる右室負荷とそれに引き続く左室機能低下を防ぐ

n 循環: 循環虚脱ではPCPSを躊躇しないØ 原則,容量負荷は行わない( <500ml, 過剰輸液は右室負荷を増悪)Ø 循環作動薬

・NAD(心拍出量低下・低血圧時),DOA・DOB(心拍出量低下・正常血圧)・バソプレシン

・PDEⅢ阻害薬:理論的には肺血管抵抗低下+強心作用あるが血圧低下のリスク* 抗凝固療法:術野の出血の状態を考慮するがPTEを強く疑った時点で可能な限り投与

nヘパリン80U/kg( or 5000U)を静脈投与n以降18U/kg/h( or 1300U/h)で持続投与(目標APTT 1.5-2.5倍)

* 重症度と出血のリスクに応じて血栓溶解療法・カテーテルor外科的血栓除去術* 早期の抗凝固療法は致死的状況への移行を予防する

治療①肺血管床の減少により惹起される右心不全・呼吸不全の治療② 血栓源であるDVTからのPTE再発予防

参考文献2)3)

術中肺血栓塞栓症への対応

肺血栓塞栓症の疑い

ショック状態か

迅速な鑑別診断

CT

心エコー(TEE)

右心負荷所見

鑑別診断

PTEのリスク評価

Primary reperfusion

---sPESI---・年齢>80・HR>110・心不全

・慢性閉塞性肺疾患・収縮期圧<100mmHg・酸素飽和度<90%

Reperfusionを考慮 抗凝固を考慮

CT

心エコー

人員、緊急薬剤、静脈路確保

手術の縮小移動可能ならば

移動不可能であれば

sPESI>1 sPESI=0呼吸循環の安定を図る(別紙)

循環動態の安定が得られなければPCPSも考慮

Yes No

★ヘパリン5000U投与(活動性の出血や脳出血がないことを確認)

※早期の抗凝固療法は致死的状況への移行を予防する

★鑑別診断は??弁の機能不全タンポナーデ心筋梗塞大動脈解離その他の塞栓(空気、羊水)

sPESI:simplified Pulmonary Embolism Severity Index文献 6)

ü 症状:呼吸苦,胸痛,咳嗽ü 所見:酸素飽和度低下,血圧低下

ü 右心負荷所見…上室性不整脈,心電図上V1-4のT派陰転化,V1のQRパターン,S1Q3T3,完全右脚ブロック

1. 2013年 日本麻酔科学会 肺血栓塞栓症調査

2. 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)

3. 2014 ESC Guidelines on the diagnosis and management of acute pulmonary embolism. European Heart Journal 2014 Nov14;35(43)

4. Utility of intraoperative transesophageal echocardiography for diagnosis of pulmonary embolism. Anesthesia and analgesia 2004 Jul;99(1)

5. McConnell’s sign in acute pulmonary embolism. Anesthesia and analgesia 2013;116(5)

6. Management of pulmonary embolism: recent evidence and the new European guidelines.

参考文献