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151 臨床報告 〔烈女鴨華62押東和騨馳 急性脳脊髄炎の後遺症として長期持続性priapismを認めた1例 東京女子医科大学 小児科学教室(主任: アライ カネマツ サチコ イズミ 新井 ゆみ・兼松 幸子・泉 アワヤ ユタカ フクヤマ ユキオ 粟屋 豊・福山 幸夫 (受付 昭和62年2月27日) 福山幸夫教授) タツロウ 達郎 はじめに Priapismとは性欲とは関係なく,長時間持続す る異常勃起状態のことであるが,小児では極めて 稀ながら白血病1>,鎌状赤血球症2)などに合併する ことが知られている.本邦では土屋ら3)が過去に おけるpriapism 159例をまとめているが,このう ち19歳未満は6.9%で,その病因は白血病,血管炎, 腰椎麻酔,カリエス,外陰腫瘍などであった.成 人例ではてんかん発作後,アルコール中毒4),頭蓋 内動脈瘤5)など神経性の報告が若干認められた が,小児でしかも原発性の中枢神経障害に併発し たpriapismの例は,我々の調べた範囲では認め られなかった.今回我々は,脳脊髄炎の後遺症と してpriapismを呈した1男児例を経験したの で,若干の考察を加えて報告する. 患児:S.S.8歳9ヵ月,男児. 主訴:意識障害,全身性強直性間代性痙李重積 状態. 家族歴:父,父方祖父母,父方叔父に高血圧を 認める.他に特記すべきことなし. 既往歴:妊娠,分娩正常.出生時体重2,050g,発 達正常.6歳6ヵ月時(今回発病2年3ヵ月前) 約2m高のすべり台より転落し,左側頭部陥没骨 折をおこした.受傷3時間後に10分間の全身性痙 李があったが,観血的骨折整復術では脳挫傷は認 めなかったとのことである.その後抗痒李剤を半 年間服用していたが,脳波上異常を認めないとい うことで中止され,以降今回まで痙李は認めてい ない. 現病歴:8歳9ヵ月時(昭和57年4月13日)3 日間の発熱,食思不振,嘔吐を認め,その後傾眠 傾向となった.近医にて点滴施行中,瞬目→開眼 →眼球上転→無呼吸となる発作が出現し,約12時 間持続した.この間diazepam, phenobarbi 投与されたが効果なく,thiamylal sodiumが開 され,又挿管,人工呼吸管理が行なわれた.髄液 検査では細胞数99/3,蛋白33mg/d1であった.昏 睡状態は持続したが,痙李重積があった翌日より, 下肢の伸展や接触刺激によりmyoclonusが出現 し,容易に全身性痙李様に進展,同時に顔面紅潮 を伴うようになった.種々の治療にてもこの全身 性1茎李様のmyoclonusがコントロールされない 為,第15病日当科転院となった. 入院時所見:体格普通.体重26kg.挿管中で人 工換気下.除脳硬直肢位・瞳孔散大.対光反射, 角膜反射ともに消失.人形の眼現象(一).腱反射 下肢で充進.わずかな体位変換,下肢の伸展や接 触刺激により容易に全身性痙李様に進展する律動 性myoclonusが誘発された.胸部異常なし.腹部 平坦.外陰より膀胱にカテーテル留置中.外陰部 に腫脹はないが亀頭部に発赤を認めた. 検査所見(表1):入院時一般検査では軽度貧 血,低蛋白血症,低K血症,蛋白尿,顕微鏡的血 Yumi ARAI, Sachiko KANEMATSU, Tatsuro IZUMI, Yutata 〔Department of Pediatrics(Director;Prof. Yukio FUKUYAMA)Toky case of persistent priapism as a sequal of acute encephalomyelitis. 一625

急性脳脊髄炎の後遺症として長期持続性priapismを認めた1 …Yumi ARAI, Sachiko KANEMATSU, Tatsuro IZUMI, Yutata AWAYA and Yukio FUKUYAMA 〔Department of Pediatrics(Director;Prof.

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Page 1: 急性脳脊髄炎の後遺症として長期持続性priapismを認めた1 …Yumi ARAI, Sachiko KANEMATSU, Tatsuro IZUMI, Yutata AWAYA and Yukio FUKUYAMA 〔Department of Pediatrics(Director;Prof.

151

臨床報告

〔烈女鴨華62押東和騨馳

急性脳脊髄炎の後遺症として長期持続性priapismを認めた1例

東京女子医科大学 小児科学教室(主任:

アライ カネマツ サチコ イズミ

新井 ゆみ・兼松 幸子・泉 アワヤ ユタカ フクヤマ ユキオ

粟屋 豊・福山 幸夫

(受付 昭和62年2月27日)

福山幸夫教授)

タツロウ

達郎

はじめに

Priapismとは性欲とは関係なく,長時間持続す

る異常勃起状態のことであるが,小児では極めて

稀ながら白血病1>,鎌状赤血球症2)などに合併する

ことが知られている.本邦では土屋ら3)が過去に

おけるpriapism 159例をまとめているが,このう

ち19歳未満は6.9%で,その病因は白血病,血管炎,

腰椎麻酔,カリエス,外陰腫瘍などであった.成

人例ではてんかん発作後,アルコール中毒4),頭蓋

内動脈瘤5)など神経性の報告が若干認められた

が,小児でしかも原発性の中枢神経障害に併発し

たpriapismの例は,我々の調べた範囲では認め

られなかった.今回我々は,脳脊髄炎の後遺症と

してpriapismを呈した1男児例を経験したの

で,若干の考察を加えて報告する.

症 例

患児:S.S.8歳9ヵ月,男児.

主訴:意識障害,全身性強直性間代性痙李重積

状態.

家族歴:父,父方祖父母,父方叔父に高血圧を

認める.他に特記すべきことなし.

既往歴:妊娠,分娩正常.出生時体重2,050g,発

達正常.6歳6ヵ月時(今回発病2年3ヵ月前)

約2m高のすべり台より転落し,左側頭部陥没骨

折をおこした.受傷3時間後に10分間の全身性痙

李があったが,観血的骨折整復術では脳挫傷は認

めなかったとのことである.その後抗痒李剤を半

年間服用していたが,脳波上異常を認めないとい

うことで中止され,以降今回まで痙李は認めてい

ない.

現病歴:8歳9ヵ月時(昭和57年4月13日)3

日間の発熱,食思不振,嘔吐を認め,その後傾眠

傾向となった.近医にて点滴施行中,瞬目→開眼

→眼球上転→無呼吸となる発作が出現し,約12時

間持続した.この間diazepam, phenobarbita1が

投与されたが効果なく,thiamylal sodiumが開始

され,又挿管,人工呼吸管理が行なわれた.髄液

検査では細胞数99/3,蛋白33mg/d1であった.昏

睡状態は持続したが,痙李重積があった翌日より,

下肢の伸展や接触刺激によりmyoclonusが出現

し,容易に全身性痙李様に進展,同時に顔面紅潮

を伴うようになった.種々の治療にてもこの全身

性1茎李様のmyoclonusがコントロールされない

為,第15病日当科転院となった.

入院時所見:体格普通.体重26kg.挿管中で人

工換気下.除脳硬直肢位・瞳孔散大.対光反射,

角膜反射ともに消失.人形の眼現象(一).腱反射

下肢で充進.わずかな体位変換,下肢の伸展や接

触刺激により容易に全身性痙李様に進展する律動

性myoclonusが誘発された.胸部異常なし.腹部

平坦.外陰より膀胱にカテーテル留置中.外陰部

に腫脹はないが亀頭部に発赤を認めた.

検査所見(表1):入院時一般検査では軽度貧

血,低蛋白血症,低K血症,蛋白尿,顕微鏡的血

Yumi ARAI, Sachiko KANEMATSU, Tatsuro IZUMI, Yutata AWAYA and Yukio FUKUYAMA〔Department of Pediatrics(Director;Prof. Yukio FUKUYAMA)Tokyo Women’s Medical College〕:A

case of persistent priapism as a sequal of acute encephalomyelitis.

一625

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表1 当科入院時(第15病日)検査所見

血液一般

WBC RBC

Hb Ht血清生化学

総蛋白

GOTGPTLDHCPKBUN総ビリルビン

血糖

Amylase

NaKCl

血液ガス

pHPaCO2

PaO2

HCOヨ

BE

12300/㎜3

365x104/mm3

10.5g/d且

31.4%

4.59/d1

39Unit

16 Unit

491mU/m1

100mU/m1

9mg/dl

O.6mg/d1

100mg/d1

861U

136mEq〃

2.6mEq〃

101mEq〃

7,510

28.5mmHg

100.3mmHg22.6mmo且〃

0.4mmo且〃

(40%02投与中)

血清

CRP検尿

pH

蛋白

アセトン

潜血

ビリルビン

沈渣

3(+)

RBC WBC髄液

総蛋白 30mg/dl以上

塘 100mg/d1以下

C1 38mg/dl以下

細胞 0/3μ1

髄液ウイルス抗体

7

(什)

(一)

(一)

(一)

(一)

60~70/視野

1~2/数視野

Influenza A, B

MumpsRSAdeno

Mycoplasma

Polio

CoxackieAg, B夏, B2, B3,

B4, B5, B6

日本脳炎

Herpes Simp且ex

Cytomegalo

Measles

Rubella

Parainnuenza 1, 2, 3

すべてCF抗体2×以下

尿を認めた.脳波検査では1~2分に1回位の頻

度で10~50μV低電位α波群発が数秒持続する

他は,ほぼ全誘導5μV以下の平坦波が持続性に認

められた.頭部CT scanでは大脳白質全汎に低吸

収域を認め,脳室は狭小化しており,脳浮腫が示

唆された(写真1).

入院後経過(図1):myoclonusは除脳硬直肢

位より下肢を屈曲するか,または弓なりに体を丸

める姿勢にすると消失することからspinal myo・

clonusと考えられ, myoclonusを伴なう無酸素性

脳症(Lance Adams症候群)が脳炎後に出現した

状態と考えられた.治療として痙蛮重積状態に対

するdiazepam, thiamyla1等の投与を中止し,筋

緊張状態を改善する目的で,末梢性の筋弛緩剤と

してmyoblockを持続点滴で用い,途中より

clonazepam投与に変更していったところ, myo・

clonusは3週間後にコントロールできる様に

く483病目》

写真1 当科入院時(第15四日)および第183病日の頭

部CT scan.15病日には側脳室の狭小化と白質全汎

性低吸収域が認められたが,第183病日目には大脳全

汎性に中等度萎縮を認めた.

なった.40病日抜管.約2ヵ月の経過で意識レベ

ルが回復し,認知障害(過去の人物名は簡単に思

い出せるが,発病後に会ったり見た人や物の名前

を間違い易いなど),動作性ミオクローヌス,てん

かんを残したが知能的にはIQ 70まで回復した.

また,回復期の頭部CT scanでは大脳の中等度び

まん性脳萎縮を認めた(写真1).

一方,当院入院後2週目頃より陰茎に発赤腫脹

を認める様になったが,膀胱カテーテル留置中併

発した尿路感染症,包皮亀頭炎の為と考えられて

いた.しかし2ヵ月目に自発的排尿が可能となり,

カテーテル抜去し,炎症所見が改善した後も,依

然として勃起状態が認められることに気付かれ,

priapismと診断された.勃起は,睡眠中はその程

度が軽くなるものの24時間認められ,膀胱充満時

やTh 10以下の皮膚刺激で容易にその程度は増強

一626一

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当院入院 退院

B24月 5月 6 7 8 9 10 11◎1鎗31月PB 0口PHTuPA

□□

DZP 口CZPCBZshyamilalrteroidlioblock

ロロ

0[====コ

ゥ人工呼吸→

〔=発 熱

自分の名前2桁の ひらがなを

意 識 障 害をいえ6 た頃可鮒てよめる

@l l l

全身けいれん ⑳ ② Ω

ミオクローヌス

自律神経症状顔面紅潮嘔吐・流涯

神経因性膀胱 「鰍R匿8窒亀.

Priapism

下肢Spasticity

尿路感染症一膀胱留置カテーテル

髄 液 細@蛋白(m呂ソ鵡)

倹エGOT(Unit@ GPT(Unit@LDH(m噺の

胞 99/339/30/3

R3 16V332531

3063 16

P06 12

T89 200

148144 115127 169157

臨床経過 Case S.S 8ygrn♂ 図1 入院後経過

した.皮膚刺激の際,挙睾筋反射は充進していた

が,その他睾丸,陰嚢には著変は認めなかった.

また,排尿が自立すると,かなり力んでとぎれと

ぎれにする排尿がみられ,cystometryにて緊張性

膀胱であることが示された.更に,上肢機能が回

復した後も下肢のみに強いrigospasticity,腱反

射充進が残っており,これら所見より腰髄下部の

障害が考えられた.針筋電図を,胸鎖乳突筋,上

腕二頭筋,腕擁骨筋,上腕三頭筋,広背筋,大腿

四頭筋,前脛骨筋,短指屈筋,大殿筋,腓腹筋に

ついて施行したところ,L4以下の神経支配である

短指屈筋,大殿筋および腓腹筋に,神経筋単位の

減少,3~4mVの高振幅電位を認め,同時に総脛骨

神経(L4~S2)における末梢神経伝導速度は43.8

m/secで正常であったため,脊髄においてL4~S

のレベルで前角障害が示唆された.他の筋の筋電

図は正常パターソであった.更に,メトリザマイ

ドを用いたミエログラフィーでは,脊髄矢状径が

通常この年齢では麟で7-8㎜であるところ6),4.6mm径であり,胸髄から腰仙髄全汎にか

けて萎縮像を認めた(写真2).

:欝囎1

写真2 メトリザマイドを用いた下部胸推部位のミエ

ログラフィー(背臥位).脊髄は椎管腔の約半分程に

細くなっている.

以上より,本症例の急性期には脳炎のみでなく

脊髄炎も合併していたことが明らかとなり,その

結果としてpriapismを呈したことが考えられ

た.入院6ヵ月後に退院し,以降徐々に平常時の

勃起の程度は改善する傾向にはあるが,現在13歳

6ヵ月時もなお,接触等の刺激で悪化し,経過観

察中である.

一627一

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謙乱.

(Weiss, HD.,1972)

図2 人におけるerectionのメカニズム

、。、、。・u笛 ひら ピリハ ロ こ ゆど び 。∬③,、9

逡 謙。。騒G亨f“5 「ectus

(る、..ジ×

大脳勃起中枢 とくに(1),(2)、(3):Dmbic sγstemが勃起に大切である

SEPT:sepヒum;MD=medial dQrsa!nucleu5;

MFB:medial forbrairL bund且e;

互TP:inferiorヒhalamic peduncle;AC:anterior cornmissure;

ATゴanしerbrヒhalamus;Mlmammmary bod【es (McLean, P,D、,1962 fこよる)

図3 exectionの大脳における中枢

考 察

Erectionのメカニズムに関して, Weiss7),

McLeanら8)によれば,大脳皮質中枢の他に大脳

辺縁系,胸腰髄中枢,仙髄中枢が考えられており,

大脳ではさらに扁桃核,梨状葉が抑制的に9),前頭

葉,皮質後帯状回,海馬の一部が興奮に関与して

いるといわれる10)11)(図2,図3).仙髄中枢は交

感神経を介して体性感覚等の刺激を受げ,副交感

神経を経てerectionをおこす反射弓を形成して

おり,この反射により反射性勃起がおこるが,こ

の中枢は又,大脳辺縁系や胸腰髄中枢とも間接的

に連絡しており,大脳中枢の刺激により心因性勃

起をおこす.この仙髄中枢は同時に膀胱排尿筋や

下部結腸,直腸の脊髄中枢でもあるため,本症例

においては,S2-4の脊髄反射弓の異常興奮でerec-

tionをおこすと共に,排尿筋緊張による

一628一

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detrusor-sphincter dyssynergia(排尿筋・括約筋

失調)により努力性,断続的排尿を認めたと考え

られた.臨床的およびミエログラフィー,筋電図

所見より明らかであった脊髄下部障害により,本

症例のpriapismは脊髄起源が強く疑われたが,

頭部CT scan上広汎な:大脳萎縮像を残しており,

大脳辺縁系等中枢の抑制障害又は異常興奮の関与

も否定できないと思われた.この様な脳脊髄炎を

起因としたpriapismの報告は今まで認められ

ず,小児におけるpriapism自体が極めて稀な為,

本症例を報告した.

結 語

急性脳脊髄炎時に極めて難治な痙変重積状態,

次いで,Lance Adams症候群を呈し,以降4年半

経過した現在もなおpriapismを残した1例を報

告した.患児は8歳男児,発熱,嘔吐後に意識障

害,痙李重積状態,脳波の平坦化,全身性ミオク

ローヌスを来し,Lance Adams症候群と診断さ

れた.意識障害は2ヵ月,痒李重積は3週間で軽

快したが,その経過中より下肢のみに強いrigospasticity,神経因性膀胱, pr玉apismを呈する

様になった.ミエログラフィーで胸髄より腰仙髄

に萎縮を認め脊髄障害の合併が示唆された.

Priapismは腰髄下部支配領域皮膚刺激により容

易に増悪することから,脊髄反射弓の障害による

ものと考えられたが,臨床経過や頭蓋CT scan上

の広汎性脳萎縮像より,大脳辺縁系の関与も無視

できないと思われた.

本論文の要旨は第91回日本神経学会関東地方会(昭

和59年!2月)にて発表した.

文 献

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10)MacLean PD, Ploog DW, Robinson BW: Circulatory effect of limbic stimulation with

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11)MacLean PD: Contrasting function of limbic

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relevance to psychophysiological aspect of

medicine. Amer J Med 25:611-625,1958

629