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2013.12 国民生活 18 生活知識情報 北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化 と高齢化の現状分析と対策について研究している。著書に『「時代診断」の社会学』 (ミネルヴァ書房)『少子化する高齢社会』(日本放送出版協会)などがある。 金子 勇 Kaneko Isamu 少子高齢化が進む日本。 その現状と私たちや社会 ができる対策を考えます。 12 高齢者の生きがいと人間関係 ~高齢者の生活実態に関する調査から~ との交流に生きがいを強く感じるために、男女 間の生きがい感に差異が生じるようです。 次に、家族類型ではかなりの違いが得られま した(図1)。生きがいを感じるのは「夫婦二人」 90.1%と「三世代同居」88.9%であり、 「核家族」 でも85.5%でしたが、相対的に「単身世帯」は 77.1%と低く出ました。すなわち「生きがい」 を感じない「単身世帯」が22.9%もいたのです。 日本の人口分布をみてみると、高齢者の男女 比率では、高齢期になるほど女性比率が高まり ます。女性は家族との交流に強い生きがいを感 じやすいため、親や夫が亡くなったり子どもが 独立して「単身」になると、単身の男性も含め て家族との交流が乏しいだけ、生きがいを喪失 しがちなのでしょう。 近所づき合いにも差異 この傾向は「近所づき合い」にも現われてい るようです(図2)。高齢者全般としては同じ地 域に長く住むので、個々の「近所づき合い」は 生きがい調査 「生きがい」を「生きる喜び」と定義した高齢 者の調査が、各方面で行われています。例えば 内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関す る意識調査」(2010年11月実施)では、全国の 60歳以上の男女3,000人を対象に「生きがい」 に関する調査が行われ、有効回収率68.7%が得 られました。公表された調査結果の二次分析 *1 を行うと、統計学的にも幾つかの特徴が読み取 れます。その特徴をここで紹介します。 まず性別では、女性が男性よりも生きがいを 強く感じているようです(女性89.4%、男性 84.2%)。一般に男性の大半は仕事が生きがい であり、女性の多くは家族との交流を生きがい とする傾向があるようです。男性は65 ~ 69歳 でもその49%が再雇用などで仕事を持っていま すが *2 、同時に責任ある地位からは遠ざかるこ ともあるため、生きがいが薄れがちです。反対 に女性では、同居別居を問わず、もともと家族 感じる 感じない その他 三世代同居 核家族 夫婦二人 単身世帯 22.9 86.5 13.5 88.9 11.1 85.5 14.5 90.1 9.1 77.1 図1 家族類型別「生きがい」 χ =31.58 df=4 p<0.001 「感じる」は「十分に感じる」「多少感じる」の合計。「感じ ない」は「あまり感じない」「まったく感じていない」の合計。 親しい あいさつ程度 ほとんどつき合いなし その他 三世代同居 核家族 夫婦二人 単身世帯 56.5 40.1 3.3 57.4 38.8 3.8 45.6 50.2 4.2 50.3 44.5 5.1 51.9 37.6 10.5 図2 家族形態別「近所づき合い」 χ =36.2 df=8 p<0.001

高齢者の生きがいと人間関係2013.12 国民生活 18 第 回 生活知識情報 北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化

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Page 1: 高齢者の生きがいと人間関係2013.12 国民生活 18 第 回 生活知識情報 北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化

2013.12国民生活

18

第 回

生活知識情報

北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化と高齢化の現状分析と対策について研究している。著書に『「時代診断」の社会学』(ミネルヴァ書房)『少子化する高齢社会』(日本放送出版協会)などがある。

金子 勇 Kaneko Isamu

少子高齢化が進む日本。その現状と私たちや社会ができる対策を考えます。

12

高齢者の生きがいと人間関係~高齢者の生活実態に関する調査から~

との交流に生きがいを強く感じるために、男女

間の生きがい感に差異が生じるようです。

次に、家族類型ではかなりの違いが得られま

した(図1)。生きがいを感じるのは「夫婦二人」

90.1%と「三世代同居」88.9%であり、「核家族」

でも85.5%でしたが、相対的に「単身世帯」は

77.1%と低く出ました。すなわち「生きがい」

を感じない「単身世帯」が22.9%もいたのです。

日本の人口分布をみてみると、高齢者の男女

比率では、高齢期になるほど女性比率が高まり

ます。女性は家族との交流に強い生きがいを感

じやすいため、親や夫が亡くなったり子どもが

独立して「単身」になると、単身の男性も含め

て家族との交流が乏しいだけ、生きがいを喪失

しがちなのでしょう。

近所づき合いにも差異この傾向は「近所づき合い」にも現われてい

るようです(図2)。高齢者全般としては同じ地

域に長く住むので、個々の「近所づき合い」は

生きがい調査「生きがい」を「生きる喜び」と定義した高齢

者の調査が、各方面で行われています。例えば

内閣府による「高齢者の住宅と生活環境に関す

る意識調査」(2010年11月実施)では、全国の

60歳以上の男女3,000人を対象に「生きがい」

に関する調査が行われ、有効回収率68.7%が得

られました。公表された調査結果の二次分析*1

を行うと、統計学的にも幾つかの特徴が読み取

れます。その特徴をここで紹介します。

まず性別では、女性が男性よりも生きがいを

強く感じているようです(女性89.4%、男性

84.2%)。一般に男性の大半は仕事が生きがい

であり、女性の多くは家族との交流を生きがい

とする傾向があるようです。男性は65~ 69歳

でもその49%が再雇用などで仕事を持っていま

すが*2、同時に責任ある地位からは遠ざかるこ

ともあるため、生きがいが薄れがちです。反対

に女性では、同居別居を問わず、もともと家族

感じる 感じない

その他

三世代同居

核家族

夫婦二人

単身世帯 22.9

86.5 13.5

88.9 11.1

85.5 14.5

90.1 9.1

77.1

図1 家族類型別「生きがい」χ2=31.58 df=4 p<0.001

※�「感じる」は「十分に感じる」「多少感じる」の合計。「感じない」は「あまり感じない」「まったく感じていない」の合計。

親しい あいさつ程度 ほとんどつき合いなし

その他

三世代同居

核家族

夫婦二人

単身世帯

56.5 40.1 3.3

57.4 38.8 3.8

45.6 50.2 4.2

50.3 44.5 5.1

51.9 37.6 10.5

図2 家族形態別「近所づき合い」χ2=36.2 df=8 p<0.001

Page 2: 高齢者の生きがいと人間関係2013.12 国民生活 18 第 回 生活知識情報 北海道大学大学院文学研究科特任教授。「都市の少子高齢化」を中心に、少子化

2013.12国民生活

19

生活知識情報

高齢者の「親しい友人・仲間」最後に高齢者の「親しい友人・仲間」の現状

をみておきましょう。「親しい友人・仲間」を「た

くさん」持っているとの回答は小都市と大都市

が多く、「少ない」は中都市、町村では「普通」

が多いことが分かります(図4)。その他では、

男女間に差異がありませんが、世代間の相違は

顕著に認められました。「親しい友人・仲間を

たくさん持っている」は70歳代が一番多くて、

少ないのは80歳代以上でした。60歳代は、前

半よりも後半が多くなるようです。家族形態別

では親しい友人・仲間の有無についての有意差

は出ませんでした。

この調査では、中都市で暮らす単身の80歳代

以上の男性が、生きがいや人間関係で一番厳しい

現状にあるという結果が出ました。総人口に占

める高齢者の人口推計の高齢化率が25%超*4

となった日本社会では、今後の高齢者支援策で

も心がけておきたい結果です。

確実に予想される「おひとりさまの老後」を

考える際には、子育てを終えて、現在は子と別

居している「おひとりさま」と、シングルを通

してきた「おひとりさま」、さらには大都市や

過疎地域の「おひとりさま」などに類別した細

やかな対応が求められます。*1 「わからない」「答えない」を除き、再集計した。

*2 総務省統計局『平成24年就業構造基本調査結果の概要』

*3 �大都市は東京都区部と指定都市、中都市は人口10万人以上の市(大都市を除く)、小都市は人口10万人未満の市。

*4 総務省『人口推計』(2013年9月)

深くなります。同調査結果から、「夫婦二人」と

「核家族」と「三世代同居」の高齢者は、「親しい」

と「あいさつ程度」を合わせれば90%に達する

ことが分かります。ただ、例外はここでも「単

身世帯」の高齢者です。10%の「単身世帯」が

「つき合いなし」とあるように、「単身だから」

消極的になる高齢者がいる一方、「単身だから」

近所づき合いに熱心になる高齢者(「親しい」が

51.9%)に二分されることが考えられます。

では、どのような規模の都市で「近所づき合

い」が親しくなされているのでしょうか。図3か

ら、小都市と町村で「親しい」の比率が高いこと

が分かります*3。「あいさつ程度」は大都市と中

都市に多く、「なし」は中都市に多いようです。

またその他では、女性が男性よりも「近所づき

合い」は豊かでした。一方、年齢別では、80歳

代以上、70歳代、60歳代後半、60歳代前半の順

で親しさが乏しくなる傾向にありました。ただ

し、「ほとんどつき合いなし」も80歳代以上と

70歳代に多く、「生きがい」同様の二極化が認

められます。

さらに、同調査による大都市、中都市、小都

市、町村という都市規模別および、60歳代前半、

60歳代後半、70歳代、80歳代以上の世代間比較

においては、生きがい感の違いはなく、平均し

て85%くらいの生きがい感が示されました。都

市規模ごとの近所づき合いの差異はあるのです

が、それが生きがいの相違には反映されなかっ

たようです。

親しい あいさつ程度 ほとんどつき合いなし

町 村

小都市

中都市

大都市

57.7 38.3 4.0

63.2 32.0 4.8

46.1 47.9 5.9

43.4 52.1 4.4

たくさん 普通 少ない

町 村

小都市

中都市

大都市

29.0 48.8 21.4

39.5 44.0 16.5

31.1 43.9 25.1

33.9 43.4 22.7

図3 都市規模別「近所づき合い」χ2=57.47 d=6 p<0.001

図4 都市規模別「親しい友人・仲間」χ2=19.91 df=6 p<0.01

※�「少ない」は「少し持っている」と「持っていない」の合計。