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1 N2018.04.22 鉄道車両の動力性能 ブルートレインの歴史などの記事を読んでいると,「牽引機を C57 から C60 に換装す ることにより,牽引定数は 250t から 260t となり,ナハネ 20 1 輌増結した」等の表現が ある.この表現には,幾分正確でない点があるので,鉄道車両の動力性能についてまとめ てみた. 牽引定数 機関車が,上り 10勾配において,特急,急行,各駅停車などの列車種別によって定め られた速度種別で牽引可能な最大重量.ton または換算輌数で表される.速度の高い特急 列車の牽引定数は小さく,速度の高くない普通列車の牽引定数は大きい. 電車列車の場合は, 比で表される.1962 6 月,山陽本線広島電化の際,6M6T 153 系は瀬野・八本松間の 22.6‰勾配を自力走行できなかったが, 比を 6M4T に変更 し自力走行が可能になった. 換算輌数 車両は種類により重量が異なるので,列車牽引などには重量 10t の車両に換算した換算 輌数が使われる.単位は 5t 刻みの 0.5 輌としている.旅客列車や貨車は空車と積車で重量 が異なるので,空車換算と積車換算がある.たとえば,オハネフ 25 の場合,自重 32t,乗 客や水など 5t を積んで,積車重量は 37t になるから,空車換算 3.0 輌,積車換算 3.5 輌と なる.代表的な客車,貨車の換算輌数を表 1 および 2 に示す. 1 ボギー客車換算輌数 総重量 空車 積車 42.5t 以上 4.0 4.5 37.5t 以上 42.5t 未満 3.5 4.0 32.5t 以上 37.5t 未満 3.0 3.5 27.5t 以上 32.5t 未満 2.5 3.0 2 貨車の換算輌数 記号 空車 積車 ワム 80000 1.0 2.2 コキ 5500 1.6 4.0 セキ 3000 1.6 4.5 タキ 43000 1.6 6.0 1 に基づき代表的な列車の換算輌数を求めてみると,例えば「つばめ」は, スハニ 35,スハ 44 3 輌,スロ 60 2輌,マシ 35,スロ 60 3輌,マイテ 39,ス級 9 + マ級 2 輌の 11 両編成だから,換算輌数:4.0 9 4.5 2 45450t 牽引. かつて,夕張や芦別などの炭鉱地域から,積出港の小樽や室蘭などに向けてセキ 3000 50 輌程連結した運炭列車は,換算輌数:4.5 50 2252400t 牽引.「たから」,「北た から」などのコンテナ特急は,コキ 5500 25 両編成だから,換算輌数:4.0 25 1001000t 牽引となる. このようにして求めた代表的な列車の換算輌数を表 3 に示す.

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1

□NE

A2018.04.22

鉄道車両の動力性能

ブルートレインの歴史などの記事を読んでいると,「牽引機を C57 から C60 に換装す

ることにより,牽引定数は 250t から 260t となり,ナハネ 20 を 1 輌増結した」等の表現が

ある.この表現には,幾分正確でない点があるので,鉄道車両の動力性能についてまとめ

てみた. 牽引定数 機関車が,上り 10‰勾配において,特急,急行,各駅停車などの列車種別によって定め

られた速度種別で牽引可能な最大重量.ton または換算輌数で表される.速度の高い特急

列車の牽引定数は小さく,速度の高くない普通列車の牽引定数は大きい. 電車列車の場合は,𝑀𝑀 𝑇𝑇⁄ 比で表される.1962 年 6 月,山陽本線広島電化の際,6M6T の

153 系は瀬野・八本松間の 22.6‰勾配を自力走行できなかったが,𝑀𝑀 𝑇𝑇⁄ 比を 6M4T に変更

し自力走行が可能になった. 換算輌数 車両は種類により重量が異なるので,列車牽引などには重量 10t の車両に換算した換算

輌数が使われる.単位は 5t 刻みの 0.5 輌としている.旅客列車や貨車は空車と積車で重量

が異なるので,空車換算と積車換算がある.たとえば,オハネフ 25 の場合,自重 32t,乗

客や水など 5t を積んで,積車重量は 37t になるから,空車換算 3.0 輌,積車換算 3.5 輌と

なる.代表的な客車,貨車の換算輌数を表 1 および 2 に示す.

表 1 ボギー客車換算輌数 級 総重量 空車 積車

マ 42.5t 以上 4.0 4.5

ス 37.5t 以上 42.5t 未満 3.5 4.0

オ 32.5t 以上 37.5t 未満 3.0 3.5

ナ 27.5t 以上 32.5t 未満 2.5 3.0

表 2 貨車の換算輌数

記号 空車 積車

ワム 80000 1.0 2.2

コキ 5500 1.6 4.0

セキ 3000 1.6 4.5

タキ 43000 1.6 6.0

表 1 に基づき代表的な列車の換算輌数を求めてみると,例えば「つばめ」は, スハニ 35,スハ 44× 3 輌,スロ 60× 2輌,マシ 35,スロ 60× 3輌,マイテ 39,ス級 9 輌+マ級 2 輌の 11 両編成だから,換算輌数:4.0 × 9 + 4.5 × 2 = 45,450t 牽引. かつて,夕張や芦別などの炭鉱地域から,積出港の小樽や室蘭などに向けてセキ 3000 を

50 輌程連結した運炭列車は,換算輌数:4.5 × 50 = 225,2400t 牽引.「たから」,「北た

から」などのコンテナ特急は,コキ 5500 の 25 両編成だから,換算輌数:4.0 × 25 = 100,1000t 牽引となる. このようにして求めた代表的な列車の換算輌数を表 3 に示す.

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表 3 代表的な列車の換算輌数 つばめ はつかり ニセコ あさかぜ はくつる ゆうづる トワイライト

機 C62 C60+C61 C62+C62 C62 C60+C61 C62 DD51+DD51

1 スハニ 35 スハニ 35 オユ マニ 20 カニ 21 カニ 21 カニ 24

2 スハ 44 スハ 44 マニ ナロネ 20 ナロネ 21 ナロネ 21 オハネフ 25

3 スハ 44 スハ 44 マニ ナロネ 22 ナシ 20 ナロネ 21 オハネ 25

4 スハ 44 スハ 44 マニ ナロネ 21 ナハネ 20 ナハネ 20 オハネ 25

5 スロ 60 オシ 17 スハフ 44 ナロネ 21 ナハネ 20 ナハネ 20 オハネ 25

6 スロ 60 ナロ 10 スロ 52 ナロ 20 ナハネ 20 ナシ 20 オハネ 25

7 マシ 35 ナロ 10 スハ 45 ナシ 20 ナハネ 20 ナハネ 20 オハ 25

8 スロ 60 スハフ 43 スハ 45 ナハネ 20 ナハネ 20 ナハネ 20 スシ 24

9 スロ 60 スハ 45 ナハネ 20 ナハネ 20 ナハネ 20 スロネ 25

10 スロ 60 スハ 45 ナハネ 20 ナハ 20 ナハネ 20 スロネ 25

11 マイテ 39 スハフ 44 ナハネ 20 ナハフ 20 ナハネ 20

12 ナハ 20 ナハネ 20

13 ナハフ 20 ナハフ 20

11 輌 450t 8 輌 295t 11 輌 450t 13 輌 405t 11 輌 345t 13 輌 405t 11 輌 375t

シリンダー牽引力 蒸気エンジンでピストンが 1 往復する際

にする仕事𝑊𝑊𝑝𝑝は,

𝑊𝑊𝑝𝑝 = 𝟐𝟐𝜋𝜋4𝑑𝑑2𝑃𝑃𝑚𝑚𝑙𝑙𝑙𝑙

ここで,𝑑𝑑[𝑚𝑚]:シリンダー直径, 𝑙𝑙[𝑚𝑚]:ピ

ストン行程,𝑃𝑃𝑚𝑚[𝑃𝑃𝑃𝑃]:シリンダー内平均有

効圧力,n:シリンダー数である. 動輪が 1 周する際にする仕事𝑊𝑊𝑤𝑤は, 𝑊𝑊𝑤𝑤 = 𝜋𝜋𝜋𝜋𝑇𝑇 ここで,𝑇𝑇[𝑁𝑁]:牽引力, D[𝑚𝑚]:動輪径であ

る. 𝑊𝑊𝑝𝑝 = 𝑊𝑊𝑤𝑤だから,牽引力𝑇𝑇[𝑁𝑁]は,

𝑇𝑇 = 𝑙𝑙𝑑𝑑2𝑙𝑙2𝜋𝜋

𝑃𝑃𝑚𝑚

シリンダー平均有効圧力𝑃𝑃𝑚𝑚は,加減弁*1 満

開,カットオフ*2 最大の場合,ボイラー圧

力𝑃𝑃𝐵𝐵の 85%程度だから,最大牽引力𝑇𝑇𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚は

𝑇𝑇𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚𝑚 = 0.85𝑙𝑙𝑃𝑃𝐵𝐵𝑑𝑑2𝑙𝑙2𝜋𝜋

表 4 蒸機の牽引力

型式 軸重 粘着

牽引力

シリンダ

牽引力

C51 14.61 11.0 11.6

C53 15.44 11.6 13.5

C55 13.62 10.2 11.6

C59 16.17 12.1 13.8

C60 15.00 11.2 13.8

C61 13.70 10.3 12.0

C62 16.08 12.1 13.8

C62 軽 14.96 11.2 13.8

D51 15.11 14.9 18.1

D52 16.56 16.6 19.4

D62 15.00 14.8 17.0

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*1 加減弁 ボイラーで発生した蒸気をシリンダーに送る開閉装置で,蒸気の供給量を加減でき,出

力・牽引力の調整は加減弁の開度と蒸気エンジンの弁装置のカットオフ比(締切比)によ

って行う. *2 カットオフ 蒸気エンジンでは,膨張行程のある比率のみ蒸気を供給し,残りの行程は蒸気の膨張を

利用する.蒸気を供給する行程比率を締切比(cut off ratio)と言い,%で表す.カットオ

フは,発車時は最大で約 80%,通常の運転時は 20~40%としている.カットオフが大き

ければ牽引力を高められるが,蒸気消費量も増加する. 粘着牽引力 鉄道車両は,車輪とレールの間の摩擦力(粘着力)によって加速・減速を行っている.

摩擦力(粘着力)は車輪とレールの間の摩擦係数(粘着係数)と軸重の積で表わされる.

鉄道車両ではこの摩擦力のことを,粘着牽引力という.動輪の回転力,すなわち,シリン

ダー牽引力を粘着牽引力以上にしても空転を起こすだけである.したがって,従台車を 1軸から 2 軸にして,軸重軽減を行った場合,シリンダ直径を小さくするのは,そのためで

ある. 蒸気機関車の動力性能 C61 および C62 の動力性能曲線を図 1 および 2 に示す.横軸が走行速度,縦軸が牽引重

量を示し,各勾配における均衡速度の関係を示したものである.

図 1 C61 の動力性能 図 2 C62 の動力性能

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例えば,400t 牽引の場合,縦軸の 400t ラインを右方向にスライドし,各勾配における均

衡速度曲線との交点が均衡速度となる.牽引重量は,起動時から35 𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ までの速度では

シリンダー牽引力により,それ以上の速度では,ボイラー出力によって決まる.約3𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄以下の低速では,出発抵抗が加わるために,牽引重量は低下する. C61 が 400t 牽引する場合,上り 15‰勾配における均衡速度は約 30𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ ,上り 10‰勾

配における均衡速度は 52𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ となる. 表 3 に示したように,「はつかり」は現車 8 輌,換算 29.5 輌である.東北本線の最大の

難所は奥中山の上り 23.8‰勾配である.C61 が上り 23.8‰勾配で45 𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ で走行可能な牽

引重量は 150t だから,重連運転をすれば 300t 牽引が可能となる. 「はくつる」は現車 11 輌,換算 34.5 輌である.C61 が上り 23.8‰勾配で40 𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ で走

行可能な牽引重量は約 180t だから,重連運転をすれば 360t が可能となる. 「つばめ」は,現車 11 輌,換算 45 輌である.東海道本線の最大難所関ヶ原の上り 10‰勾配である.C62 は単機で,上り 10‰勾配を60 𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ で走行可能である. 一方,「ニセコ」は現車 11 輌,換算 45 輌である.函館本線の最大の難所は上目名付近

の 20‰勾配である.C62 が上り 20‰勾配で 45𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ で走行可能な牽引重量は 250t だから,

重連運転をすれば 500t が可能となる. 久保田博著「追憶の蒸気機関車」には,以下のような記述がある. ”いよいよ東海道線の最大の難所とされる関ヶ原の迂回線 10‰連続勾配にいどむ.14 両

編成の定数一杯の 550t(名古屋電化で増加)牽引は,だんだん速度を低下し60𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ 前後

になる.カットオフを 55%に伸ばし,ドラフトは咆哮して古戦場の山野にこだまする.構

内で勾配が緩くなっている新垂井駅の通過でやや加速するが,短いトンネルを通過して関

ヶ原駅手前の陸橋にさしかかる頃には,水面計の水位も最低近くに下がり,速度も50𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄に落ちて,さすがの C62 も喘ぐほどである.

D51 の動力性能曲線を図 3 に示す.先に

述べたように,「北たから」はコキ 5500 の

現車25両,換算100輌である(1000t牽引).

これを D51 が牽引する場合,上り 23.8‰勾

配が連続する奥中山における均衡速度が

20𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ となる牽引重量は 400t だから,「北

たから」の運行には,補機が 2 輌必要とな

る. よく知られているように,DD51 は,速度

では C61 を,牽引力では D51 を上回る性能

を開発コンセプトに設計された. 久保田博著「追憶の蒸気機関車」には,

DD51 開発秘話として,以下のような記述

がある.”鋭意の苦心の末の 1962 年春に完

成した DD51 の試作 1 号機は,東北線での

図 3 D51 の動力性能

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10‰勾配テストで800tしか牽き出せない不

成績に終わったときは,D51 が牽引してい

た定数 1100t はまことに偉大に思えた. このままの劣性能では到底量産を始める

わけにはゆかないため,徹底した改良に努

め,翌年第 2 号試作機により,東北線北上

~村崎野間の 10‰勾配テストで 1270t の牽

き出しに成功し,これで文句なしに D51 の

バトンを継げると確信し,量産に移行した.” このように非電化区間のエースとして登

場した DD51 だが,後術するように,急勾

配区間における重量列車牽引時の速度が電

気機関車に比べて著しく劣ることが指摘さ

れている. このように,運行する路線区間と速度種

別,牽引機の牽引定数により列車編成が決

定される.

図 4 DD51 の動力性能

電機車の動力性能 直流直巻電動機は,直流車両のみなら

ず,交流・交直流車両にも主電動機とし

て使用されてきた.起動時に強いトルク

が出せること,速度制御が容易であるこ

となどがその理由である. EF60,65,81,ED75 などの国鉄新性

能電気機関車に採用されていた直流直

巻電動機 MT52 の性能曲線を図 5 に示

す.直流直巻電動機は,次のような特性

がある: 1)回転数は電流に反比例する,2)トル

クは電流の 2 乗に比例する,3)回転数

は電動機の端子電圧に比例する,4)電動

機の磁束を弱めると回転数が増加する.

そのために,速度が下がると電流が増加

し,トルクが急激に増加する,

図 5 MT52 の性能曲線

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抵抗制御 直流直巻電動機の速度制御は,抵抗を電動機と直列または並列に配置して,電動機

の端子電圧を変化させ,電動機の回転数を変化させることで行われる.起動時には抵

抗を大きくし電動機の端子電圧を小さくし,徐々に抵抗を小さくし電動機の端子電

圧を大きくする.(抵抗で消費される電力は熱となって放出され,仕事には変換され

ない.)抵抗が抜けて(ゼロとなる),電動機の端子電圧が最大となったとき,電動

機の出力は最大となる.EF65 では,6 基の MT52 が 2 直列 3 並列に配置されている

から,抵抗が抜けたとき,電動機一基あたりの端子電圧は750𝑉𝑉となる.そのとき567𝐴𝐴の電流が流れ,MT52 は最大出力425𝑘𝑘𝑊𝑊を発生し,回転数は 850rpm,トルクは約

4.9𝑘𝑘𝑁𝑁 ∙ 𝑚𝑚である.この時の電動機の定格回転数と減速比,動輪直径から求めた速度を

全界磁定格速度という.EF65 の減速比は,表 5 に示すように,3.83 だから,全界磁

定格速度は45𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ で,その時に 2550 kW の最大出力を発生し,牽引力は最大の 20.35tとなる.

表 5 電気車の性能 EF58 EF60 EF65 EF81 EF66

電動機 MT42 MT52 MT56

減速比 2.68 4.44 3.83 3.83 3.55

定格出力 kW 1900 2550 3900

定格牽引力 t 10.25 23.4 20.35 19.98 19.60

定格速度

𝑘𝑘𝑚𝑚 ℎ⁄ 全界磁 39 39 45 45 72

弱界磁 86 63 72 72 108

弱界磁制御 電気車で使用される直流直巻電動機は,電流が増加すると磁界が強くなり,逆起電

力が増加し,駆動電流を増やしても回転数は増加しなくなる.これ以上電動機の回転

数を上げるためには,界磁コイルの一部を短絡し電動機の界磁磁束を弱める.界磁磁

束を弱めると磁力線が減少してトルクが減少するが,電流が増加するため回転数が

増加する.これにより出力(=トルク×回転数)を一定に保ったまま、加速することが

できる.トルク(牽引力)は減少するが、速度向上という目的は達成できる.このよ

うな速度制御を弱め界磁速度制御という.一般に全界磁(弱め界磁を用いない状態)

の 40%程度にまで弱めることが限界とされる.MT52 では,40%弱界磁定格回転数は

1350 rpm となり,EF65 の 40%弱界磁定格速度は 72 km/h となる.しかしその場合,

牽引力は最大値の 64%となる.更に詳しい電気車の速度制御についてはこちらをご

参照下さい. 東海道新幹線開業前の昭和 30 年代後半,輸送力の相次ぐ増強で,ダイヤは限界に

達していた.特に東京駅では,朝・夕のラッシュ時には,これ以上列車を増発するの

は困難な状況であった.そこで,ブルートレインに関しては,東京~博多間の牽引定

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数を現車 13 輌,換算 40.5 輌から現車 15 輌,換算 48 輌に変更し,1 列車あたりの定

員を増やすことで輸送力を強化することとした.1962 年山陽本線広島電化時,電化

区間のブルートレインの牽引機は EF58 であった.この場合の最大の問題点は,EF58は瀬野・八本松間の 22.6‰勾配を登坂不能で,上り列車の広島・八本松間に後部補機

が必要なことであった.これを解消すると同時に,ブルートレインの現車 15 輛,換

算 48 輌運転のため,1963 年(昭和 38 年)12 月 20 日,東京~広島間の牽引機を EF60-500 番台に換装した.これに伴い,上り列車の後部補機も廃止された. しかし,一般貨物列車での大きな牽引力を重視した設計のEF60は定格速度が低く,

高速巡航が可能な EF58 と同等のダイヤ運行は困難で,特に連続高速運転時の弱め界

磁多用による故障や遅延が頻発した.