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高次脳機能障害のリハビリテーション 評価から就労支援まで 東京都リハビリテーション病院 作業療法士 倉持 2011.5.15 広島県作業療法士会 研修会

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  • 高次脳機能障害のリハビリテーション

    評価から就労支援まで

    東京都リハビリテーション病院

    作業療法士 倉持 昇

    2011.5.15 広島県作業療法士会 研修会

  • 高次脳機能障害の特徴

    ①外見上は障害が目立たない。

    ②本人自身も障害を十分認識できていない。

    ③診察・入院生活よりも在宅でのADLや社会活動

    (職場、学校、買物、交通機関の利用、役所・銀行)の

    場面で出現しやすい。

  • 高次脳機能障害の主症状

    平成11年高次脳機能者実態調査報告書(東京都)

    N=1,234

  • 日常生活の状態

    平成11年高次脳機能者実態調査報告書(東京都)

  • 高次脳機能障害者の 発症・受傷前後の就労状況

    発症・受傷後無職:45%

    発症前無職:3.7% 平成11年高次脳機能者実態調査報告書(東京都)

  • 高次脳機能障害者の リハビリテーション

  • 評価に基づいた包括的な支援

    機能障害

    心理反応

    ・遂行 ・注意 ・言語 ・認知 ・記憶 ・感情 ・意欲

    感覚

    運動

    能力代償型支援 (他機能による組織化)

    心理安定型支援 (気分の安定化)

    能力補填型支援 (補助手段の活用)

    行動改善型支援 (行動の形成・増加/低減・除去)

    環境調整型支援

    (生活環境に手がかりを導入)

    保護者支持型支援

    (障害の理解と対応・苦悩への支援)

    (坂爪一幸:2000,2007を一部改変)

    機能改善型治療介入

  • 半側空間無視のリハビリテーション

  • 半側空間無視 日常生活場面での評価

    食事を左半分残す

    歩行時左の壁にぶつかる。

    顔が右方向を向いている

    文章の左側を見落とす

  • 半側空間無視-病巣

    下頭頂小葉(IPL)

    39野(角回)+40野(縁上回)

    前頭葉性無視もあるが程度は低い

    道免 和久 兵庫医科大学 リハプロ2009セミナー

  • 病態

    1)方向性注意障害説

    左側に注意が向けられず、右側に

    引き付けられる

    2)方向性運動低下説

    左方向への運動計画がうまくできない

    3)表象障害説

    左側の空間のイメージが障害されている。

    道免 和久 兵庫医科大学 リハプロ2009セミナー

  • 半側空間無視のリハビリテーション

    1.トップダウンアプローチ

    ①視覚走査訓練:注意を左側に向けさせる

    ②機能的アプローチ(ADL訓練):更衣動作・車椅子移乗の反復

    ③Bon Saint Come’s device 体幹回旋走査訓練

    2.ボトムアップアプローチ

    ①前庭刺激(カロリック刺激)左外耳道に冷水 左に眼球向く

    ②プリズム順応(プリズム眼鏡:外界が右に10度シフト)

  • 記憶障害のリハビリテーション

  • 記 憶

    ・記銘・符号化・登録

    情報を憶えこむこと

    脳に書き込む

    「覚える」

    ・保持・貯蔵

    情報を保存しておくこと

    海馬から新皮質へ

    「覚えておく」

    ・想起・検索

    1)再生 2)再認 3)再構成

    前脳基底部の機能

    「思い出す」

    Papez回路 海馬、脳弓、乳頭体、帯状回 が関与 Papez回路で記銘 左脳は言語、右脳は 非言語的記銘

  • 記憶の分類

    意味記憶

    エピソード記憶

    記銘障害

    想起障害 健忘・認知症

    失語・失認・認知症

    失行・認知症

    宣言記憶

    (言語的処理)

    手続き記憶

    (身体的処理)

    短期・作動記憶 長期記憶

    (意識的・一時的) (非意識的・永続的)

    展望・メタ記憶

    (予定・約束・監視) 記銘

    保持

    想起

    文献)高次脳機能障害のリハビリテーション社会復帰支援ケーススタディー 坂爪一幸:高次脳機能障害について-若年から成人まで-

  • 前向性健忘と逆向性健忘 近時記憶障害と遠隔記憶障害の関係

    過去 現在 未来

    障害の発生

    前向性健忘 逆向性健忘

    遠隔記憶障害 近時記憶障害

    文献)高次脳機能障害のリハビリテーション社会復帰支援ケーススタディー 坂爪一幸:高次脳機能障害について-若年から成人まで-

  • 日本版リバミード行動記憶検査(RBMT)

    標準プロフィール

    7点以下:道順の学習困難

    7点以上:病院自室・訓練室を

    間違えない

    15点前後:一人の通院可能

    17点以上:計画的な買物可能

    Wilsonらにより開発、綿森ら日本版に標準化

    人名・約束事・用件などを覚えタイミングよく思い出す。

    患者の日常的な問題を捉え、リハビリのストラテジーを検討する上で有用

    原寛美監修:高次脳機能障害ポケットマニュアル.2008

  • 誤りをさせない学習法(errorless learning)

    Baddy,Wilson

    記憶障害患者にerrorless条件(誤り

    をさせない訓練設定)とerrorful条件

    (誤りを起こりうる学習)で単語学習させた。

    結果errorlessの方が学習効果は有意に

    良好であった。

    <臨床的応用>

    ・日付を正しく覚える

    「今日は何日でしたか?わからなければカレンダーを見てください。」

    ・病室-トイレの道順を覚える

    「トイレに行きます。間違えそうになったら私が止めます。」間違えそうになっ

    たら通り過ぎるのを制止し「ここを左でしたね」と誘導する。

    引用文献 原寛美:高次脳機能障害ポケットマニュアル, 2008

  • 記憶のグループ訓練 1.自己紹介 ・参加することとになった経緯を話す ・メンバーの話した内容をノートに書く 2.病態の意識づけ ・専門医からの障害の解説 ・記憶のリハビリの意識づけ 3.注意力訓練 ・覚えにくい図形を覚える 4.集中力訓練 ・1は◇、2は○で囲む。 一枚ずつ違う課題を5枚3分間 5.終了 ・一定時間に仕上げる時間感覚を刺激 ・他の人の感想を聞き、自分の記憶力 程度を認識できる

  • 遂行機能障害のリハビリテーション

  • 遂行機能

    <遂行機能>

    将来の予定を達成、計画性のある行動:必要

    ①目標を達成するための設定・評価・選択

    ②どういう行動を導くか:枠組みの検討

    ③複雑な行動:順序良く並べる

    ④目標を忘れず、今どのくらい目標が近づいているか

    <病巣> 主に前頭葉外側面

  • 遂行機能障害のアプローチ

    材料・分量

    調理時間の見通し

    必要な道具

    手 順

    文章説明のレシピでは、理解できない事例がOTと 一緒に絵入りの手順入りマニュアルを作成 ⇒ 調理が自立

    軽度の失名詞失語の事例

  • 高次脳機能障害の介入

    対象者 医療者

    障害の気づきの促し ニーズ把握

    ・知識を持つこと ・社会資源の可能性・限界を 知ること

    介 入

    よい機能を介入へ

    評価結果・介入計画 本人家族へ説明

    家族支援

    環境調整

    症状理解を促す

    対処ストラテジーを 見出せる

    種村留美:リハビリテーションの介入-高次脳機能 障害者に介入するとはどういうことかー 2006年

  • 暮らしぶり評価

    記入は家族

    15分おき

    起床から就寝まで

    記入していただく

    活動内容

    周囲からの促し

    制止に従えたか

    OTジャーナル vol36 No3 2002年3月 246-252 水品ら:暮らしぶり評価表」作成の試みー遂行機能障害・記憶障害を中心にー

  • 高次脳機能障害者の 就労支援事業(東京)

  • 東京都の高次脳機能障害への取組み

    H11.6月 高次脳機能障害者 実態調査研究会 発足

    H12.5月 10月

    実態調査結果報告

    東京都高次脳機能 リハビリテーション等調査研究会

    H13.5月 10月

    「高次脳機能障害の診断・ リハビリテーションマニュアル」 「高次脳機能障害の理解のために」

    H14.6月

    高次脳機能障害者社会復帰支援 マニュアル策定事業 平成14年度:休職者 平成15年度:失職者(就労経験あり) 平成16年度:失職者(就労経験なし)

  • 委員会の社会復帰支援のおもな流れ

    全体面接

    病状説明

    介入計画書

    職場へ提出

    家族への援助

    復職のための評価

    家庭・職場環境評価

    職場直接介入援助

    ・環境調整

    ・ナチュラルサポート

    の形成

    報告書提出と

    フェイディング

  • 具体的介入援助方法 業務内容を忘れやすい

    チェックシートの利用

    最終点検確認 チェックシート

  • 地域連携

  • 医療機関と地域施設の連携

    本人・家族

    ハローワーク

    医療機関 就労支援センター

    S社

    O社

    Oセンター

    1)就労支援

    2)求人情報の提供

    3)企業への就労指導

    1)障害評価 2)障害説明

    3)就労支援のアドバイス

    1)職場訪問指導 2)面接同行

    3)企業との連絡調整

    就労斡旋

  • 外来訓練の就労支援とその効果

  • 高次脳機能障害者の復職(先行研究)

    休職者 医療機関の かかわりで可能

    本田(2005)

    復職のかかわり 医療専門職の評価・診断

    患者・家族・職場へ 障害の理解を促す

    高橋・坂爪(2003)

  • 高次脳機能障害者への 外来訓練と就労支援

    【調査対象】 脳血管障害により高次脳機能障害を有し

    当院で外来訓練を行なった48例

    【訓練期間】 1999年5月-2006年6月

    【診断内訳】クモ膜下出血21例、脳梗塞11例、脳出血8例、

    他8例

    【年齢・男女比】 44.3±10.7歳 男性39名 女性9名

    【障害内訳(重複)】:記憶障害32例、注意障害8例、

    遂行機能障害8例、半側空間無視3例

    その他

  • 調査方法

    【調査方法】

    外来訓練対象者48名のカルテより必要データ抽出

    【具体的抽出項目】

    1.一般情報:氏名、年齢、性別、診断名、家族構成、発症年月日

    入院年月日、職歴、終了年月日、など

    2.神経心理学的評価:WAIS、WMS、リバミード、WCST、

    PASAT、TMT、BADS

    3.外来訓練内容:PT、OT、ST、心理の具体的訓練内容、期間

    4.就労支援情報:職場スタッフ来院回数、内容、職場訪問回数

  • 調査結果 1)就労状況

    70.8% の就労率

    11例

    11例

    8 例 1例 3 例

    2例 1例

    4 例

    1例 6 例

  • 調査結果 2)就労者の職種の内訳

    前 職 現 職

    現職復帰 11例

    配置転換 11例 会社内通常業務 大学助教授、管理職

    パソコン入力業務(5)

    簡易組立作業(3)、他

    変則勤務 8例 印刷会社、事務職 タクシー運転手、歯科技工

    事務職(2)、サービス(3)

    簡易組立作業(2)、他

    転職 1例 公務員 簡易組立作業

    障害者雇用 3例 中学校用務 電車車両センター

    デパートシステム室

    簡易作業組立

    事務職(4)、熟練作業(2)、教育(2)

    販売・サービス業(1)、簡易組立作業(1)、その他

  • 調査結果 3)勤務体系による比較

    <3群分類>

    1)フルタイム群(43±10歳 男19名 女4名)

    現職復帰、配置転換、転職 23例

    2)パートタイム群(44.5±11.4 男10名 女1名)

    変則勤務、援助付き雇用、障害者雇用 11例

    3)未就業群(46.2±11 男10名 女4名)

    作業所、通所、職業訓練所通所、無職 14例

    1)神経心理学的評価

    2)外来訓練

    3)職場スタッフへの指導・職場訪問 比較分析

  • 3群の比較 1)神経心理学的評価

    <比較分析項目>

    1)知能:WAIS(VIQ、PIQ)

    2)記憶:WMS各項目(言語・視覚・一般・注意・遅延)

    リバミード記憶検査標準プロフィール

    3)注意:TMT(A)

    <統計解析> SPSS Vol.15使用

    Kruskal Wallis 検定による3群比較

    一元配置分散分析による等分散

    群間比較としてTukeyを用いた。

  • 3群 比較結果 神経心理学的評価

    3群比較

    Kruskal Wallis

    群間比較

    WAIS 言語性 P

  • 当院外来訓練の特徴 期間的側面

    発症ー外来初診 全対象者(48例)

    中央値100病日(28-7612病日)

    外来訓練後

    復職

    復職後のフォロー 全就労対象者(34名)

    平均 544±453日

    訓練期間

    作業療法 平均395±370日(33回)

    心理療法 平均452±473日(33回)

    ( )訓練回数

    (医師診察)

  • 調査結果 4)外来訓練内容

    (名)

    N メモ・スケジュール管理 パソコン 認知リハ 就労定着 携帯電話

    フルタイム群 23 16 12 20 17 1

    パートタイム群 11 7 1 8 4 0

    未就業群 14 5 1 13 1 1

    対象者の24名 記憶障害→メモ取り、スケジュール管理訓練は必項

    職場訪問・職場スタッフからの情報→就業定着訓練

  • 調査結果 5)職場スタッフへの指導、職場訪問

    フルタイム群

    N=23

    パートタイム群

    N=11

    未就業

    N=14

    職場スタッフ

    指導

    16 (70%) 延べ 25回

    5 (45%) 延べ 6回

    3 (21%) 延べ 3回

    職場訪問

    2 (8%)

    3 (21%)

    1 (7%)

    (名)

  • 考察 当院の就労成績

    外来での就労支援の結果、70.8%が仕事に復帰

    成功要因 ①高次脳機能障害の的確な診断

    ②障害の説明(本人・家族、職場)

    ③外来訓練 認知リハビリテーション

    代償補助手段習得訓練

    ④通勤訓練・職場訪問での問題の対応

    今後は、対象者・職場スタッフへの調査により、就労後の

    問題点をさらに、分析していきたい。