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保育の質評価スケールおよび保育環境のセンシング技術の開発発達保育実践政策学センター(Cedep)での取り組み
高橋翠東京大学大学院教育学研究科附属
発達保育実践政策学センター 特任助教
資料2
アウトライン1. 保育の質評価スケールについて2. 保育環境のセンシング研究について
1.保育の質評価スケールについて
質の側面 内容 具体的な説明・例
志向性の質 政府や自治体が示す方向性 法律、規制、政策等
構造の質 物的・人的環境の全体的な構造物的環境(園舎や園庭、遊具や素材・教材等)人的環境(保育者の養成と研修、保育者と子どもの人数比率、クラスサイズ、労働環境等)
教育の概念と実践 ナショナル・カリキュラム等で示される教育(保育)の概念や実践
(日本では、幼児教育要領、保育所保育士審、幼保連携型認定こども園教育・保育要領に示される保育のねらいや内容にあたる)
相互作用あるいはプロセスの質
保育者と子どもたち、子どもたち同士、
保育者同士の関係性(相互作用)子どもたちの育ちをもたらす、安心感や教育的意図等を含み込む、保育者や子どもたちの関係性
実施運営の質 現場のニーズへの対応、質の向上、効果的なチーム形成糖のための運営
園やクラスレベルの保育計画、職員の専門性向上のための研修参加の機会、実践の観察・評価・省察の確保、柔軟な保育時間等
子どもの成果の質あるいはパフォーマンスの基準
現在の、そして未来の子どもたちの幸せ(well-being)につながる成果
何をもって成果とするかは、各々の価値観等によって異なる
• 保育の質の諸側面OECD(2006)「Starting Strong Ⅱ」(pp.127-128);秋田・淀川, 2016より
質の側面 目的 対象 方法
サービスの質
• サービスの質向上• 政策策定のための情報提供• 一般の人々への情報提供• 明確な指導介入や報酬のため
の説明責任等
• 安全基準スタッフの最低限の資格• 健康や衛生上の規制• スタッフ:子どもの比率• 屋内/屋外の面積• 遊びや学びの素材• 教材の使用等
• 省察• 第三者評価• 自己評価• 保護者調査
スタッフの質
• サービスの質向上• 政策策定のための情報提供• スタッフの学びのニーズの把
握• スタッフの質向上• 子どもの発達の促進等
• カリキュラムの実施• スタッフと子どもの関係と
かかわり• 保育/幼児教育の全体的な質• 保育/幼児教育の方法• スタッフ間の協働等
• 視察• 第三者評価• 自己評価• ピアレビュー
子どもの発達と成果
• 子どもの学びのニーズの把握• 子どもの発達の促進• サービスの質向上• スタッフのパフォーマンスの
向上• 政策策定のための情報提供等
• 運動スキル• 社会情緒的スキル• 言葉や読み書きのスキル• 数のスキル• 自主性• 創造力• 安定や安心(well-being)等
• 観察(チェックリストや評価尺度)
• ナラティブ評価(ポートフォリオや物語を話すこと)
• 直接の評価(テストやスクリーニング)
1.保育の質評価スケールについて• Starting Strong Ⅳで注目されている保育の質と
OECD諸国のモニタリングの実施内容 ※参考OECD(2015)「Starting Strong Ⅳ」;秋田・淀川, 2016より
尺度 保育環境構成 かかわりECERS-R「保育環境評価スケール」
室内空間、日常のケアと遊びのための家具、安心して落ち着ける空間、室内構成、子どもに関係する展示、微細運動、粗大運動、造形他
遊びと学びの見守り、仲間どうしのやりとり、保育者と子どものやりとり、望ましい態度・習慣の育成、自由遊び、集団活動他
SSTEW「保育プロセスの質評価スケール」
子どもの選択と自立した遊びの支援、社会情緒的な安定・安心、子ども同士の会話を支えること、感受性豊かな応答、好奇心と問題解決の支援他
CLASS(Classroom Assessment Scoring System)
ポジティブな雰囲気、保育者の敏感性、子どもの視点への配慮、行動の指導、概念発達の支援 他
日本版SICS「子どもの経験から振り返る保育プロセスの質」
豊かな環境 子どもの主体性(自由と参加)、支援の方法(保育者の感性とふりかえり)、クラスの雰囲気(集団内の心地よさ)
1.保育の質評価スケールについて• 専門家による保育の質評価スケール;環境構成とかかわり
※SICSは保育者評価
1.保育の質評価スケールについて
• 背景
従来の保育の質評価スケール(環境構成、かかわり)→専門家による第三者評定
→認知・非認知能力の発達との関連が明らかにされており、重要な観点を把握できるものと言える(例. 英国EPPE調査)
→しかし、従来のスケールには、1.園や保育者が大切にしている観点や意図が反映されにくい2.評価を実践に生かすことが難しい という課題があった
保育者自身が保育プロセスの質(環境構成・かかわり)を自己評価/相互評価することのできるスケールの開発
「保育の質評価スケールの開発」は淀川裕美・野澤祥子・秋田喜代美(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実戦政策学センター)、佐川早季子(奈良教育大学)による共同研究に基づく発表である
1.保育の質評価スケールについて
1.保育の質評価スケールについて
1.保育の質評価スケールについて
2.保育環境のセンシングについて
• IoTデバイスを用いた保育環境の情報取得・解析
背景1)保育所等における事故• 「教育・保育施設等における事故報告」によると、負傷等574件、死亡事故13件(内閣府, 平成29年5月12日)※死亡事故のうち7件が0歳児
• 保育者による労働・心理的負担へ例)午睡時の呼吸確認(0歳児は5分、1歳児は10分ごと)
本報告は「スマート保育への挑戦: センシング技術を活用した保育環境の調査」山﨑俊彦・大渕友暉(東京大学大学院情報理工学系研究科)鳥海哲史・林幹久(株式会社フューチャースタンダード)野澤祥子・高橋翠・遠藤利彦・秋田喜代美(東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実戦政策学センター)による共同研究に基づく発表である
人と機械の≪二重の目≫を設けることによって、より安全・安心な保育環境を構築すると共に、保育者の負担軽減を図る
2.保育環境のセンシングについて• 背景2)環境・衛生基準のモニタリングの重要性
<空気環境に関わる基準>
建築物環境衛生管理基準(厚生労働省)• 温度17~28℃、湿度40~70% →感染症• 二酸化炭素濃度 1000ppm以下 →集中力や眠気
<音環境に関わる基準>
騒音に係る環境基準(環境省)• 昼間は50~60デシベル以下室内環境基準における騒音基準(WHO)• 室内で言葉を理解するには35デシベル以下である必要
→騒音問題、保育者の聴力低下(志村洋子ほか, 2014)
2.保育環境のセンシングについて
• IoTデバイス
2.保育環境のセンシングについて
2.保育環境のセンシングについて
2.保育環境のセンシングについて
Cedepが取り組んでいる子育て保育分野のSociety5.0
課題
保育環境のセンシング 人工知能(AI)
解析・フィードバック 保育環境の質音、光、気温、湿度、CO2物の配置、動線
子どもの様子顔認証、活動ログ、交友関係表情認識、発話記録
保育者のかかわり動線、活動量
保育者や専門家の解釈・意味づけ 安全管理
• 睡眠中の呼吸確認• 在園児確認(外出等検出)• 騒音や空気悪化等の検出• 室内の動線確認• 園児の体温・体調検出と
保護者への通知・連絡• 保育者の疲労度検出
保育の質の向上とデータの活用
保育者の物理的・心理的負担の軽減と保育の可視化
安全安心で質の高い保育・幼児教育の実現、保育者の職能開発支援へ
×
• 個々の子どもの一日の要約動画の自動作成と通知
• いざこざや夢中場面の検出、振り返りへの活用
• アプリ等を利用した食・睡眠や発達に関するログの収集とビッグデータ化、発達基礎科学での活用
保育者の多忙と人手不足ノーコンタクト・タイム不足、マルチタスク
→ヒヤリハット、安全管理の穴→事務作業時間確保できず残業
アナログ文化過去記録の保存と検索や共有に限界
引用文献• 「平成 28 年教育・保育施設等における事故報告集計」の公表及び事故防止対策について」内閣府子ども・子育て本部(平成29年5月12日).
• イラム・シラージ , デニス・キングストン, エドワード・メルウィッシュ(著), 秋田喜代美・淀川裕美(訳). 2016. 「保育プロセスの質」評価スケール―乳幼児期の「ともに考え、深めつづけること」と「情緒的な安定・安心」を捉えるために. 明石書店.
• 志村洋子, 藤井弘義, 奥泉敦司, 甲斐正夫, & 汐見稔幸. (2014). 保育室内の音環境を考える (2): 音環境が聴力に及ぼす影響< 教育科学. 埼玉大学紀要. 教育学部, 63(1), 59-74.