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商学研究論集 第18号 2003.2 金融負債の測定と報告エンティティーの信用状態 FASB概念報告書第7号をてがかりにして The Measurement of Financial Liabilities and th 博士後期課程 商学専攻 2001年度入学 Watanabe Masao 目次 1.問題の所在 2.予備的見解の提案とその特徴 3.SFAC 7号における負債の測定 4.現在価値を用いた負債の測定に関する数値例 5.むすびに 1.問題の所在 アメリカ合衆国(以下,米国と略す。)の財務会計基準審議会(以下,FASBと略す。)は,長年 にわたって金融商品の会計処理について議論を行ってきた。FASBは,金融商品の測定問題につい て,財務会計基準書第115号「負債証券及び特定の持分証券への投資に関する会計処理」(1993年3 月公表),財務会計基準書第133号「デリバティブ及びヘッジ活動に関する会計処理」(1998年6月公 表)を公表し,一部の金融資産について公正価値評価を導入した。 その後,FASBは,1999年12月に予備的見解「金融商品並びに関連する特定の資産及び負債の公 正価値報告に関する主要な問題についての予備的見解」(以下,予備的見解と略す。)を公表し,すべ ての金融商品を公正価値で報告することを提案している。予備的見解の特徴点の一つとして,公正価 値が出口価格として定義されている点を指摘できる。公正価値は,市場価格又は将来キャッシュ・フ ローの現在価値を用いて測定される。 ここで,特に金融負債の公正価値測定において現在価値が用いられる場合には,負債を負う報告エ ソティティーのデフォルト・リスク(一般には,単にエンティティーの信用状態と呼ばれる。本稿で 一333一

金融負債の測定と報告エンティティーの信用状態 - …...値が出口価格として定義されている点を指摘できる。公正価値は,市場価格又は将来キャッシュ・フ

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商学研究論集

第18号 2003.2

金融負債の測定と報告エンティティーの信用状態

    FASB概念報告書第7号をてがかりにして

The Measurement of Financial Liabilities and the Entity’s Credit Standing

博士後期課程 商学専攻 2001年度入学

   渡  辺  雅  雄

        Watanabe Masao

目次

1.問題の所在

2.予備的見解の提案とその特徴

3.SFAC 7号における負債の測定

4.現在価値を用いた負債の測定に関する数値例

5.むすびに

1.問題の所在

 アメリカ合衆国(以下,米国と略す。)の財務会計基準審議会(以下,FASBと略す。)は,長年

にわたって金融商品の会計処理について議論を行ってきた。FASBは,金融商品の測定問題につい

て,財務会計基準書第115号「負債証券及び特定の持分証券への投資に関する会計処理」(1993年3

月公表),財務会計基準書第133号「デリバティブ及びヘッジ活動に関する会計処理」(1998年6月公

表)を公表し,一部の金融資産について公正価値評価を導入した。

 その後,FASBは,1999年12月に予備的見解「金融商品並びに関連する特定の資産及び負債の公

正価値報告に関する主要な問題についての予備的見解」(以下,予備的見解と略す。)を公表し,すべ

ての金融商品を公正価値で報告することを提案している。予備的見解の特徴点の一つとして,公正価

値が出口価格として定義されている点を指摘できる。公正価値は,市場価格又は将来キャッシュ・フ

ローの現在価値を用いて測定される。

 ここで,特に金融負債の公正価値測定において現在価値が用いられる場合には,負債を負う報告エ

ソティティーのデフォルト・リスク(一般には,単にエンティティーの信用状態と呼ばれる。本稿で

                   一333一

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も以下,単にエソティティーの信用状態という。)をその測定に反映させるかどうかが問題となって

いる。そこで本稿では,金融負債の公正価値測定における現在価値の利用に関するFASBの見解を

整理したい。

 本稿ではまず,予備的見解の提案の概要を整理し,特に公正価値測定について考察する。しかし,

金融負債の現在価値とエンティティーの信用状態について,予備的見解では,金融負債の現在価値に

エンティティーの信用状態を反映させなければならないと結論付けるだけであり,その論拠は明確に

されていない。現在価値を用いた負債の測定については,2000年2月に財務会計概念報告書第7号

「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報及び現在価値の使用」(以下,SFAC 7号と略す。)が公

表され,その中で負債の測定とエンティティーの信用状態について議論がなされている。そこで本稿

では概念報告書の観点から金融負債に限定されない負債全般について,その測定とエンティティーの

信用状態についての議論を考察する。SFAC 7号も,負債の測定においてエンティティーの信用状態

を反映させなければならないと結論付けている1。ところが,SFAC 7号の叩き台となった1997年の

公開草案「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報の利用」(以下,1997年公開草案と略す。)で

は必ずしもSFAC 7号のように結論付けられていない2。本稿は,両者を比較検討することにより

SFAC 7号における負債の測定の特徴を明らかにする。また, FASBのスタッフはSFAC 7号公表後

にその内容を理解するための「諸論点の理解」という連載を公表している。その第4回「信用状態

と負債の測定」の連載で,エンティティーの信用状態は負債の公正価値測定にどのように反映される

かについて数値例が示されている。そこで本稿では,その数値例を考察することによって,SFAC 7

号における負債の測定についての理解を深める。最後に,金融負債の公正価値測定における現在価値

の利用について,予備的見解とSFAC 7号とを対比し, FASBの見解を整理する。

2.予備的見解の提案とその特徴

 (1)予備的見解の提案

 先に述べたように,予備的見解は,すべての金融商品を公正価値で測定することを提案し,金融商

品の測定属性として公正価値を採用することの長所,金融商品の範囲,公正価値の測定方法,公正価

値の変動の報告という論点を扱っている。

 金融商品の測定属性として公正価値を採用することの長所として,公正価値は,あるエンティテ

ィーの異なる年度間でバイアスのない測定値を表し,そして同じ市場にアクセスする,または同じ信

用状態の異なるエソティティー間でバイアスのない測定値を表すとしている(FASB(1999),par.

3)。つまり,同じものを同じものとして表現し,かつ異なるものを異なるものとして表現するとい

う比較可能性3を長所としている。

 金融商品を公正価値で測定するうえで,金融商品の定義及び予備的見解の適用範囲が鍵となる。予

備的見解は,次の4つのうちいずれかに該当するものを金融商品としている(FASB(1999),par.14)。

 (a)現金

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 (b)エンティティーに対する所有主持分

 (c)一方のエンティティーが他方のエンティティーに金融商品を引き渡す当該一方のエンティテ

   ィーの契約上の義務,及びこれに対応する当該他方のエンティティーが当該一方のエンティテ

   ィーに金融商品の引渡しを要求する,当該他方のエソティティーの契約上の権利

 (d)一方のエンティティーが他方のエンティティーと金融商品を交換する当該一方のエンティテ

   ィーの契約上の義務,及びこれに対応する当該他方のエンティティーが当該一方のエンティテ

   ィーに金融商品の交換を要求する,当該他方のエンティティーの契約上の権利

 (c)の金融商品を引き渡す契約上の義務及びこれに対応する金融商品の引渡しを要求する権利とは,

例えば,売掛金・買掛金,受取手形・支払手形,借入金・貸付金,債務証券,要求払預金・定期預

金,保険請求権の未収金・未払金,そして決済金額が固定された後のデリバティブの決済ような項

目4をいう。本稿で考察する,現在価値を用いて公正価値測定する金融負債としては,この種の義

務,つまり金融商品(特に現金)を引き渡す契約上の義務が中心となる。

 (d)の金融商品を交換する契約上の義務及びこれに対応する金融商品の交換を要求する契約上の権利

とは,具体的にはクレジットカードにおけるカード保有老のオプション(カード保有者は,支払手形

又は支払債務とカード発行者からの現金又は為替手形を交換する権利を有し,カード発行者は,現金

とカード保有者からの支払手形又は支払債務を交換する義務を有している(FASB(1999),par.25.

a)。)のような項目5をいう。

 なお,金融商品でも,連結子会社への投資,持分法で会計処理される投資などは,予備的見解の範

囲から除外されている(FASB(1999),par.37)。なぜならば,連結子会社への投資を示す株式は金

融商品であるが,当該投資がエソティティーの支配をもたらすからである(FASB(1999), par.38)。

このようなことから,予備的見解は,金融商品のうち最終的に現金の受け取り又は支払いに結びつく

項目を対象としているといえるだろう。

 金融商品を公正価値測定する場合の公正価値としては,出口価格が採用されている。なぜならば,

資産又は負債の出口価格が,期待将来キャッシュ・フローの現在価値についての市場の見積値を表

し,資産を保有する,あるいは負債を引き受ける企業の将来キャッシュ・フローの金額,時期,不確

実性を反映するためである(FASB(1999),par.48)。公正価値は,次のように定義されている。「公

正価値とは,エンティティーが通常の事業において考慮すべき事柄を動機として行われる独立第三老

間取引で,報告日に資産を売却したとすれば受け取ったであろう価格又は負債から解放されたとすれ

ば支払ったであろう価格の見積値である。すなわち,公正価値は,市場の相互作用によって決定され

る出口価格の見積値である。(FASB(1999),par.47)」出口価格は,市場価格と将来キャッシュ・フ

ローの現在価値を用いて見積られる。

 金融商品を公正価値で報告する場合の公正価値の変動は,実現しているか否かにかかわらず発生時

の純利益に計上される(FASB(1999),par.85)。そして,金融商品をヘッジ対象とするヘッジの会

計処理は行われないことになる(FASB(1999),par.93)6。

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 (2)予備的見解における公正価値の特徴

 このような予備的見解の特徴として,本稿は特に公正価値を出口価格として定義している点を指摘

しておきたい7。そこで,ここでは予備的見解における公正価値について考察する。

 先にも述べたように,予備的見解では,出口価格は市場価格と将来キャッシュ・フローの現在価値

を用いて見積られる。具体的には,活発な市場で取引されている項目には,その期間の最終取引日に

おける終値から手数料を控除した金額が用いられる(FASB(1999),par.53)8。測定項目と類似項目

の直近の市場価格が入手可能である場合には,類似項目の市場価格に基づいて出口価格が見積られ

る。測定項目と同一項目について市場価格情報が入手できない場合には,同一又は類似のキャッシ

ュ・フロー・パターンをもつ項目の直近の市場価格に基づいて出口価格が見積られる(FASB

(1999),par.61)9。市場価格情報が入手できない場合には,将来キャッシュ・フローの現在価値10を

計算し,出口価格を見積ることになる(FASB(1999),par.73)。

 現在価値の計算は,契約上の権利及び義務に直接関連するキャッシュ・フローを見積り,当該キャ

ッシュ・フローについて次の要素の修正を行う(FASB(1999),pars.75,78)。

a、DC.

d.

当該キャッシュ・フローの金額又は時期に関する起こりうる可能性についての予測

貨幣の時間価値

市場参加者が資産又は負債に固有の不確実性を負担する結果,受け取ることができる価格(リ

スクプレミアム)

その他の要因。これには流動性,市場の不完全性,予想利潤が含まれる。

 また,金融負債の現在価値の計算には,エンティティーの信用リスクの影響を含めなければならな

い(FASB(1999),par.83)。

 将来キャッシュ・フローの現在価値の測定技法としては,伝統的なアプローチによる現在価値法又

は期待キャッシュ・フロー・アプローチによる現在価値法が適用される(FASB(1999), pars.79,

80)。伝統的なアプローチによる現在価値法では,上述した要因の修正は割引率に組み込まれる。た

だし,キャッシュ・フローの時期の不確実性は反映されない。そして,キャッシュ・フローは見込ま

れるもののうち単一の最善の見積値(best estimate)が用いられる。これに対して,期待キャッシュ・

フロー・アプローチでは,貨幣の時間価値のみが割引率に組み込まれ,その他のリスク及び不確実性

は期待キャッシュ・フローの修正によって反映される(FASB(1999),par.80)。

3.SFAC 7号における負債の測定

 前章では,予備的見解における金融商品の公正価値測定の特徴を考察したが,予備的見解では,金

融負債の公正価値測定にエソティティーの信用状態を反映させなければならないと結論付けるだけ

で,その論拠は明確ではない。FASBの見解を明らかにするために,本章ではSFAC 7号を中心に

考察する。

一 336一

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 (1)負債の測定における現在価値

 SFAC 7号は,負債の公正価値を見積るために現在価値法を用いるときの測定目標として,(a)債権

者に対する負債を弁済するために必要な資産の価値と(b)信用状態が同程度のエンティティーに負債を

譲渡するために必要な資産の価値を示している(FASB(2000),par.75)。

 (a)債権者に対する負債を弁済するために必要な資産の価値は,次のように説明されている。「ある

エンティティーが保有する支払手形又は社債の公正価値を見積るために,会計専門家は,そのエンテ

ィティーの負債を他のエンティティーが資産として保有するときの価格を見積ろうとする。そのプロ

セスには,資産の測定において直面するのと同じ技術上及び計算上の問題がある。例えば,ある借入

金からの収入は,貸し手が将来キャッシュ・フローに関する借り手の約束を資産として保有するため

に支払った価格である。同様に,社債の公正価値は,当該証券が資産として市場で売買される価格で

ある。(FASB(2000),par.76)」

 また,(b)信用状態が同程度のエンティティーに負債を譲渡するために必要な資産の価値について

は,次のように説明される。「負債には,他の資産を売却するように自分自身の権利を売却しない部

類の個人に対して負っているものがある。例えば,エンティティーが製品を保証付きで販売すること

はよくあることである。その製品の購入者は,その保証請求権を保証の付された資産とは別個に売却

する能力又は意図を持つことはまれである。しかし,それにもかかわらず彼らは保証請求権という資

産を保有している。エソティティーの負債のなかには,環境浄化義務のような特定の個人の資産では

ないものもある。しかし,そのような負債も,第三者の引き受けによって決済されることもある。こ

のような負債の公正価値を見積る場合には,会計専門家は,エンティティーがその負債を引き受ける

第三者に対して支払わなければならない価格を見積ろうとしている。(FASB(2000),par.77)]

 (2)負債の測定と信用状態

 負債の測定にエンティティーの信用状態を反映させなければならないかどうかについて,FASB

は,負債の測定にエンティティーの信用状態を反映させなければならないと結論付けている。まず,

あるエンティティーの負債を他のエンティティーが資産として保有するときの価格を見積ろうとする

ならば,エンティティーの信用状態が反映される。SFAC 7号は次のように述べている。「最も目的

適合的な負債の測定値は,通常,支払義務を負うエンティティーの信用状態を反映する。エンティテ

ィーの債務を資産として保有する者は,支払いに応じる価格を決定するときに,そのエンティティー

の信用状態を織り込んでいる。エンティティーが,現金と交換で負債を負うときに,そのエンティテ

ィーの信用状態の役割を容易に観察することができる。固定した金額を支払う約束に関していえば,

信用状態が良好なエンティティーは,信用状態が悪化しているエンティティーよりも多くの現金を受

け取ることになる。…(略)…それぞれのエンティティーは,それぞれの負債を公正価値で,つまり受

領した現金の価額で,すなわちそのエンティティーの信用状態が織り込まれた価額で原初記録を行

う。(FASB(2000),par.78)」

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 エンティティーがその負債を引き受ける第三者に対して支払わなければならない価格を見積ろうと

する場合にも,エソティティーの信用状態が反映されることになるが,その根拠は少し複雑である。

FASBは次のように考えている(FASB(2000),pars.80,81)。決済取引には,決済を行うエソティ

ティー,そのエソティティーが義務を負っている相手及び第三者が関係する。決済取引の価格には,

それぞれの当事者による競合する利害関係が反映されている。例えば,エソティティーAがエソテ

ィティーBに3年後に500ドル支払う義務を負っているとする。エソティティーAは,信用格付け

が低く,そのために12%の利子率で借入を行っている。決済取引においてエンティティーBは,エ

ンティティーAよりも低い信用状態のエンティティーとエンティティーAを替えることを決して承

諾しないだろう。他の条件がすべて同じであるならば,エンティティーBは,エンティティーAと

同じ信用状態にあるエンティティーとエンティティーAを替えることを承諾するかもしれないし,

エソティティーAよりも良好な信用状態にあるエンティティーとエンティティーAを替えることを

承諾する可能性は高い。エソティティーCは,良好な信用状態にあり,そのため6%の利子率で借入

を行う。エソティティーCは,エソティティーAの義務を$420(6%での現在価値)ならば進んで

引き受けるかもしれない。エンティティーCは,$500を支払うという同一の約束と引き換えに$420

を受け取ることができるので,6%で借り入れることができるならば,$420未満でそのi義務を引き受

ける誘因は全く持たない。しかし,もしエンティティーAは,エソティティーCに支払いをするた

めに現金を借り入れるならば,$590(12%の複利で3年後に返済期日となる$420)の支払を約束し

なければならない。この場合に,エソティティーAの負債の公正価値は,$420ではなく約$356(12

%による3年後の$500の現在価値)でなければならない。エンティティーCにより要求される価格

である$420は,エンティティーAの負債の公正価値($356)に負債に関する信用の質における上昇

分の価格を加えたものであるとされる。この結果,エンティティーがその負債を引き受ける第三老に

対して支払わなければならない価格を見積ろうとする場合にも,エンティティーの信用状態と同じ信

用状態が反映されることになる。負債を譲渡する相手方として負債を負うエソティティーと同程度の

信用状態にあるエンティティーを想定することにより,エソティティーの信用状態を反映させようと

していると考えることもできる11。

 また,SFAC 7号では,フレッシュ・スタート測定においても負債の測定にエンティティーの信用

状態を反映させなければならないとされている。SFAC 7号は,次のように述べている。「当初測定

又はフレッシュ・スタート測定において,負債に記録金額が,市場で存在するであろう価格以外のも

のを反映すべきであるとする理由の根拠も存在しない。公正価値に関するFASBの結論と整合して,

FASBは資産又は負債の当初認識時の測定に適するものとは異なる考え方を,それらの資産又は負

債の次期以降のフレッシュ・スタート測定において採用する根拠を見出していない。(FASB(2000),

par.85)」

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 (3)SFAC 7号における負債の測定の特徴

 ここでは上述したようなSFAC 7号における負債の測定の特徴について考察する。1997年公開草

案における負債の測定との比較を行うことによって,SFAC 7号における負債の測定の特徴を明らか

にしたい。

①負債の測定における現在価値

 1997年公開草案は,負債の当初測定及び事後測定において現在価値を用いる場合の測定目標を3

つ識別している。資産としての公正価値,決済における公正価値,エソティティーによる決済におけ

る価値である。

 資産としての公正価値は,次のように説明されている。「ある負債の記録金額は,他のエンティテ

ィーが当該エソティティーの負債を資産として保有しようと欲する価格である。例えば,ある借入金

からの収入は,貸し手が将来キャッシュ・フローに関する借り手の約束を資産として保有するために

支払った価格である。同様に,発行社債の公正価値は,しばしば帳簿価額とは異なるけれども,当該

有価証券が資産として市場で売買される価格である。(FASB(1997), par.52)」

 次に,決済における公正価値は,次のように説明されている。「ある負債の記録金額は,当該エン

ティティーが第三者に負債を肩代わりさせるために支払わなければならないであろう価格を表す。負

債の第三者による決済はまれである。なぜならば,当該負債の所有者が通常,当該取引を承諾しなけ

ればならないからである。しかし,会計公式見解の中には,決済における公正価値を公正価値の測定

値とみるものがある(FASB基準書第125号「金融資産の移転とサービス業務及び負債の消滅の会計」

が,その一例である。)。決済における公正価値は,現在の取引を想定したものである。それゆえ,決

済における公正価値を見積るために用いられる仮定キャッシュ・フローは,独立第三者が当該義務を

肩代わりするために要求するであろう価格を設定するときに想定するであろう金額を反映しなければ

ならない。不確実性を反映させるための修正は,キャッシュ・フローの金額及び時期における潜在的

変動に関する第三者による査定と整合していなければならない。(FASB(1997),par.53)」

 最後に,エンティティーによる決済における価値は,次のように説明されている。「ある負債の記

録金額は,エンティティーがその義務を決済する際に支払うと予測する金額を表す(負債に関するエ

ンティティー独自の測定値)。当該エソティティーによる決済は,当該義務の存続期間にわたる決済

を想定する。それゆえ,仮定キャッシュ・フローは,当該エソティティーが負担すると予測するであ

ろう金額を反映しなければならない。不確実性に対する修正は,キャッシュ・フローの金額及び時期

における潜在的変動に関する当該エソティティーによる査定と整合していなければならない。

(FASB(1997),par.54)」

 ここで,これら3つの測定目標を整理しておくことにする。資産としての公正価値と決済におけ

る公正価値の両者が,公正価値であるのに対して,エンティティーによる決済における価値は,エソ

ティティー独自の価値(entity-speci丘c value)である。公正価値とは,1997年公開草案によれば,

一339 一

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「自発的な当事老間での現在の取引,すなわち強制的な売却又は清算による売却ではない取引におい

て資産(又は負債)が購入されうる(又は負われる)若しくは売却されうる(又は決済されうる)で

あろう金額(FASB(1997),par.73)」と定義され,エソティティー独自の価値は,「エソティティー

がある項目をその経済的耐用年数にわたって使用し(あるいは決済し),最終的に処分することを通

じて実現する(あるいは支払う)と予測する将来キャッシュ・フローの現在価値である。概念的には,

エンティティーの見積将来キャッシュ・フローについて同じ情報及び仮定を共有する独立した自発的

な当事者が取引に同意するであろう金額(FASB(1997), par.73)」と定義される。公正価値とエン

ティティー独自の価値の違いは,見積キャッシュ・フローに関する仮定が,市場が行うであろう仮定

であるか,主体となるエソティティーが行うであろう仮定であるかにある(FASB(1997),par.

40)12。また,公正価値たる資産としての公正価値と決済における公正価値は,前者が入口価値に属

するのに対して,後者が出口価値に属するという違いがある。

 SFAC 7号と対比すれば, SFAC 7号における債権者に対する負債を弁済するために必要な資産の

価値,すなわちあるエソティティーの負債を他のエンティティーが資産として保有するときの価格は,

1997年公開草案における資産としての公正価値に対応すると考えられる。また,SFAC 7号におけ

る信用状態が同程度のエンティティーに負債を譲渡するために必要な資産の価値,すなわちエンティ

ティーがその負債を引き受ける第三者に対して支払わなければならない価格は,1997年公開草案に

おける決済における公正価値に対応すると考えられる。エソティティーによる決済における価値であ

るが,SFAC 7号では,現在価値は,公正価値を見積るために会計測定において用いられることとされ,

エンティティー独自の価値を計算するためには用いられないこととされたために,負債の測定におい

てもエンティティー独自の価値に該当するエンティティーによる決済における価値は排除されている。

②負債の測定とエンティティーの信用状態

 負債の測定とエソティティーの信用状態については,1997年公開草案でも取り上げられている。

負債の3つの測定目標とエンティティーの信用状態についてそれぞれ説明している。まず,資産と

しての公正価値が,エソティティーの信用状態を反映するかどうかについて次のように述べている。

「エンティティーの信用状態がどの程度考慮されるかは,測定によって描写される取引に依存する。

もし当該負債を資産として保有する他老にとっての公正価値を測定することが目的であれば,デフォ

ルト・リスクに対する修正は常に必要である。エンティティーの義務を資産として保有する者は,自

分が支払おうとする価格を決定する際にデフォルト・リスクを織り込む。それらの価格の見積りを試

みる測定は,同じことをしなければならない。(FASB(1997),par.55)」

 次に,決済における公正価値とエンティティーによる決済における価値が,エソティティーの信用

状態を反映するかどうかについて次のように述べている。「これに対して,エンティティーの信用状

態は,第三者が当該エンティティーの義務を肩代わりするために課すであろう価格に対して限定され

た影響しか有していない。決済における公正価値は,エンティティーが他者にその義務を引き受ける

一340一

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気を起こさせるために支払わなければならない資産(現金)の価値である。第三者がひとたびその義

務を肩代わりすれば,そのエンティティーの支払能力は関係なくなる。同様に,エソティティーによ

る決済の測定値は,デフォルトに対する修正はいかなるものも反映しない。その測定値は,そのエソ

ティティーがその義務を決済するのに支払うと予測する資産の価値を描写する。エンティティーの信

用状態が,その金額を変化させることはない。(FASB(1997),par.56)」

 ここから,次のようなことが理解できる。資産としての公正価値には,エソティティーの信用状態

が常に反映されるのに対して,決済における公正価値とエンティティーによる決済における価値に

は,反映されないという違いがある。

 SFAC 7号と対比すれば,1997年公開草案では,決済における公正価値には,エンティティーの

信用状態が反映されないとされているのに対して,SFAC 7号では決済に紅ける公正価値に対応する

信用状態が同程度のエソティティーに負債を譲渡するために必要な資産の価値についても信用状態が

反映されるという特徴がある。これは,負債を譲渡する相手方として負債を負うエンティティーと同

程度の信用状態にあるエンティティーを想定することにより,エソティティーの信用状態が反映され

るためである。

4.現在価値を用いた負債の測定に関する数値例

 本章では,現在価値を用いた負債の公正価値測定において,エソティティーの信用状態はどのよう

に反映されるのかという点についてFASBのスタッフであるクルーチとアプトンによる数値例を考

察する。

 (1)当初認識時の測定とエンティティーの信用状態

 次のような例(Crooch=Upton(2001),p.2)を仮定して,負債の当初認識時の測定におけるエン

ティティー信用状態の影響について考察する。

例1

 A社は,ゼロクーポン,期限前償還なし,期間10年,$10,000の割引による手形借入を貸し手に発行する。

A社の格付けAAの信用状態にあわせて,当該手形は年利7%で割り引かれ, A社は$5,083の現金を受け取る。

 同日に,B社は,ゼロクーポソ,期限前償還なし,期間10年,$10,000の割引による手形借入を発行する。

B社の格付けBの信用状態にあわせて,当該手形は年利12%で割り引かれ,B社は$3,220の現金を受け取る。

 同日における同等の米国財務省証券の金利は,5.8%である。

 このような場合に,現行のGAAPのもとでは次のように会計処理される(Crooch=Upton

(2001),p.2)。

A社 (借) 現金 $5,083 (貸) 支払手形 $5,083

B社 現金 3,220 支払手形 3,220

一341一

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 A及びBが受け取った現金収入額は,明らかに各々の会社の信用状態を反映し,かつ各々の負債

の(入口価値に基づく)公正価値を明らかに示している。こうした会計処理と対比される考え方とし

て,信用状態の影響を除外して当初認識時の測定を行うという考え方がある。この場合には,リス

ク・フリー・レートによる現在価値で負債を測定することになる。それによれば次のように会計処理

される(Crooch = Upton(2001),p.2)。

A社(借) 現金

リ入損失

$5,083

@607

(貸) 支払手形 $5,690

B社(借) 現金

リ入損失

3,220

Q,470

(貸) 支払手形 5,690

 クルーチ=アプトンは,「現在の金利で現金を借り入れるという単純な行為は,損益を引き起こす

事象ではない。通常の商環境のもとでは,エソティティーは,契約(手形又は社債という金融商品)

を提供し,その契約の価値に見合う価値を有する資産を受け取る。(Crooch=Upton(2001),p.2)」

と述べ,現行GAAPのもとでの信用状態を反映した負債の測定を行うべきであるとしている。

 (2)事後のフレッシュ・スタート測定と信用状態

 次のような例(Crooch=Upton(2001),pp.3,4)を仮定して,事後のフレッシュ スタート測定

におけるエソティティーの信用状態の影響について考察する。

例2

 B社の信用状態は,3年目の初日に格付けBから格付けAへ変化する。格付けAの債務に対する金利は,

9%であると仮定する。6年目の初日に,B社の信用状態が,格付けAAに改善されたとする。 B社は,新た

な割引による手形借入,期限前償還なし,期間5年,$10,000を発行する。B社の新しい改善された信用状

態にあわせて,手形借入は,7%の年利で割り引かれる。B社は,$7,130の現金を受け取る(イールド・カー

ブがフラットであると仮定する)。

現行のGAAPのもとでは,信用状態の変化は負債の測定に影響せず,表1のように会計処理され

る (Crooch=Upton(2001),p.3)。

一342一

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表1

貸借対照表 借方(貸方) 損益計算書 借方(貸方)

現金収入額 支払手形 利息費用 信用状態の変化

手形借入1

1年度の初日

@当初収入額 $3,220 $(3,220)

1年目 (386) $386

2年目 (433) 433

3年目の初日

@格付けがBからAに上昇する 一 一

3年目 (485) 485

4年目 (543) 543

5年目 (608) 608

6年目の初日

@格付けがAからAAに上昇する 一

手形残高 $(5,675)

手形借入2

6年目の初日

@当初収入額 $7,130 $(7,130)

 こうした会計処理に対して,クルーチ=アプトンは「B社の2つの手形は,経済的に同一である。

2つの手形は,B社が5年後に$10,000を支払うことを要求している。しかし, B社の信用状態の変

化を除外することは,2つの手形が異なっているように,それらを表現することになる。…(中略)…

信用状態の変動を除外することは,必然的に2つの同一の負債を異なる金額で測定することにな

る。こうしたことは,確実に不正確な理解を提供してしまう。(Crooch=Upton(2001),p.3)」と述

べている。そして,公正価値測定システムは,経済的に同じ資産又は負債に異なる測定値を付しては

ならないということを強調し,信用状態の変化を組み込む測定システムを示している。その場合の会

計処理は表2のとおりである(Crooch=Upton(2001),p. 4)。

 こうした信用状態の変化を反映した測定は,株主持分の減少(損失)を生ずるのである。クルーチ

=アプトソは,エンティティーの信用状態をそのエソティティーの負債の測定に組み込むことを議論

の余地の多い問題として認識している。一般的に,負債測定のパラドックスと呼ばれる問題である。

エンティティーの信用状態の低下により,記録された負債の減少が生じ,その貸方に利得が生ずる。

エンティティーは,財政状態の悪化から利益を得ているようにみえる。一方,エンティティーの信用

状態の上昇は,記録された負債の増加をもたらす。エンティティーは,信用状態の改善の結果として

財政状態が悪化しているようにみえる。

 しかし,クルーチ=アプトンは,それこそが,経済的現実であると主張する。貸借対照表の貸方を

一343一

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表2

貸借対照表 借方(貸方) 損益計算書 借方(貸方)

現金収入額 支払手形 利息費用 信用状態の変化

手形借入1

1年度の初日

@当初収入額 $3,220 $(3,220)

1年目 (386) $386

2年目 (433) 433

3年目の初日

@格付けがBからAに上昇する (980) $980

3年目 (452) 452

4年目 (492) 492

5年目 (537) 537

6年目の初日

@格付けがAからAAに上昇する (630) 630

手形残高 $(7,130)

手形借入2

6年目の初日

@当初収入額 $7,130 $(7,130)

エンティティーの資産に対する2種類の請求権,つまり債権者の権利と所有主の権利と考えること

ができる。そして,信用状態が改善することにより,債権者の所有老に対する「相対的な」ポジショ

ンが増加するといえる。

 負債の測定に信用状態を反映させる場合に,なじみにくい結果がもたらされる理由について,ク

ルーチ=アプトソは,次のように述べている。「貸借対照表は3つの要素からなる。すなわちエンテ

ィティーの経済資源(資産),非所有主によって所有されている当該経済資源に対する請求権(負債)

及び所有主の残余請求権(持分)である。株式会社の場合には,所有主の残余請求権は,ゼロ以下に

減少しない。すなわち,株主は追加的な資産の払込みを強いられない。エンティティーの信用状態が

変化するときに,資産に対する請求権の相対的な価値が変化する。残余持分,つまり株主持分は,ゼ

ロに近づくことはあるが,それ以下にはならない。債権者の請求権の価値は,デフォルト・リスクの

ない状態に近づくことはあっても,おそらくそこに達することは決してないだろう。伝統的な財務諸

表は,こうした経済的かつ法的公理を無視してきたので,現実の経済関係とより整合する測定は,違

和感をもって迎えられてしまう。(Crooch=Upton(2001),p.6)」

5.むすびに

これまで考察した内容を整理し,予備的見解とSFAC 7号とを対比し,金融負債の公正価値測定

一344一

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における現在価値の利用に関するFASBの見解を整理する。

 予備的見解では,すべての金融商品を公正価値で報告することが提案され,公正価値が出口価格と

して定義されている。公正価値は,市場価格又は将来キャッシュ・フローの現在価値を用いて測定さ

れる。そして,金融負債の現在価値の計算には,エンティティーの信用状態を反映させる。

 SFAC 7号では,現在価値を用いて見積られる負債の公正価値としては,当初測定及び事後のフレ

ッシュ・スタート測定のいずれにおいても,エンティティーの負債を他のエンティティーが資産とし

て保有するときの価格(資産としての公正価値)とエソティティーがその負債を引き受ける同じ信用

状態の第三者に支払わなければならない価格(決済における公正価値)とがある。前者が入口価値に

属し,後者は出口価値に属すると考えられる。そして,その両者ともにエンティティーの信用状態を

反映する。

 クルーチとアプトンの数値例では,現在価値の計算により入口価値に基づく公正価値が測定され,

エンティティーの信用状態は,割引率として追加借入利子率を用いることによって反映されている。

 こうしたSFAC 7号における現在価値を用いた負債の公正価値測定を考察すると,予備的見解が

提案するように金融負債の公正価値は出口価値に限定されていないと考えられる。

 またクルーチ=アプトソ(2001)からは,負債の事後測定を公正価値で行った場合に,負債測定

のパラドックスと呼ばれる問題が依然残されていることが確認される。これに対しては,債権者の所

有主に対する相対的なポジショソが変化するためであると説明されが,こうした問題は,未だ十分に

解決されていない。引き続き議論の展開を見てゆきたい。

 本稿では,FASBの負債の公正価値測定に関する見解について整理を行うことを主たる目的とし

てきた。負債の測定については,ローレンセンが多様な測定属性について議論を行っている13。こう

した見解についても今後検討しなければならない。また,割引現在価値を用いて会計測定を行う目的

として,1997年公開草案では公正価値を見積るという目的とエソティティー独自の価値を計算する

という目的があったが,SFAC 7号では公正価値を見積るという目的に限定されている。会計測定に

おけるエンティティー独自の価値の役割についても今後検討しなければならない。

(引用文献)

1.American Accounting Association’s Financial Accounting Standards Committee,‘‘Response to the FASB

 Preliminary Views:Reporting Financial lnstruments and Certain Related Assets and Liabilities at Fair Value”,

 、4ccounting Horizons, Vol.14 No.4(December 2000),pp.501-508.

2.Financial Accounting Standards Board, EXPOSURE DRAFT, Proposed Statement of Financial Accounting

 ConcePts,‘‘Using Cash Flow Information in Accounting Measurments”,(June 1997).

3.  , PRELIMIIVAR Y VIE WS on〃matior issues related to RePorting Financial lnstrztments and Certain Related

 Assets and Liabilities at Fair Value,(December 1999).

4.  ,Statement of Financial Accounting Concepts No,7‘‘ Using Cash Flow lnformation and Present Value in

 Accounting Measurments”,(February 2000).(平松一夫・広瀬義州訳『FASB財務会計の諸概念〈増補版〉』

 中央経済社(2002年)409~488頁。)

一345一

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5.G. Michael Crooch and Wayne S. Upton,‘‘Understanding the lssues, Credit Standing and Liabilily Measure-

 ment”, Financial Accounting Standards Board,(June 2001),Volume 4, Series 1.(澤 悦男・佐藤真良訳「<連

 載>FASB概念フレームワークの論点⑤・信用度と負債の測定」r企業会計』第54巻第11号(2002年11月)

  105~113頁。)

6.International Accounting Standards Committee,1)iscussion PaPer.Accountingfor FinancialAssets and Financinl

 Liabilities,(March 1997).(日本語訳については,日本公認会計土協会国際委員会訳を参照した。)

7.Joint Working Group of Standard-setters,Financial lnstrztmen ts and Similar ltems,(December 2000),(日本語

 訳については,日本公認会計士協会国際委員会訳を参照した。)

8.Mary E. Barth and Wayne R. Landsman,‘‘Fundamental lssues Related to Using Fair Value Accounting for

 Financial Reporting”,Accounting、Horizons, Vol.9No.4(December 1995),pp.97-107.

9.赤城諭土「会計測定における現在価値の利用について一米国FASBの動向を中心として一」『商学研究論集

  (明治大学)』第11号(1999年9月)33~51頁。

10.川村義則「FASB概念書第7号「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報と現在価値の利用」の概要」

  『COFRIジャーナル』第38号(2000年3月)29~40頁。

11.佐藤信彦「負債の測定と割引現在価値計算の本質」『會計』第147巻第5号(1995年5月)15~29頁。

12.佐藤信彦「会計測定における割引現在価値  SFAC 7号r会計測定におけるキャッシュ・フロー情報と現

  在価値の使用』を中心に  」『経済集志(日本大学経済学研究会)』第70巻第2号(2000年7月)229~247

 頁。

13.田中 勝「負債の時価評価の展開に関する一考察一FASB概念ステートメント第7号を中心に 」『商経論集

  (九州産業大学)』第41巻第3号(2000)127~156頁。

14.徳賀芳弘「負債の公正価値評価  測定値の比較可能性という視点を中心として一」中野勲,山地秀俊編

  著『21世紀の会計評価論』動草書房(1998年)45~59頁。

15.藤井秀樹・金森絵里・境 宏恵・山田康裕「会計測定におけるキャッシュ・フロー情報の利用

  FASB1997年概念書公開草案の内容と論点  」『経済論叢別冊 調査と研究(京都大学)』第15号(1998年

 4月)1~17頁。

1SFAC 7号の内容については,川村(2000),佐藤(2000)で詳細に検討されている。

21997年公開草案の内容については,藤井・金森・境・山田(1998),赤城(1999)で詳細に検討されている。

3徳賀(1998)では,比較可能性概念に変質がみられることを明らかにしている。伝統的に論じられてきた比較

 可能性では,会計の認識対象となる個別事象について,異なる会計事象を異なるように,同一の会計事象を同

 じように示すことが求められているが,測定値において論じられている比較可能性では,「事象」ではなく

 「状態」が問題とされている。例えば,市場利子率の変化に伴う負債の状態の変化を認識・測定しようとする

 ときの比較可能性である(50,51,56頁)。

4この他にも次の項目が予備的見解では示されている。

 ・借入有価証券の返還義務及びそれに対応する返還を要求する権利,支払いを受けた代わりに金融商品を引き

  渡す義務及びそれに対応する引渡しを要求する権利

 ・現金で決済される予定の保険契約,保証契約

 ・現金で決済される予定の再保険契約

 ・現金又はその他の金融商品で純額決済を要求するデリバティブ

 ・ウェザー・デリバティブ

 ・金融保証

5この他にも次の項目が予備的見解では示されている。

 ・ローソ・コミットメソト(当該コミットメントの保有者は,支払手形と与信者からの現金を交換する権利を

一346一

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  有し,与信老は,現金と借り手からの支払手形を交換する義務を有している(FASB(1999),par.25. b)。)

 ・クレジットラ・イソ(潜在的な借り手は,手形と与信者からの現金を交換する権利を有し,与信者は,現金と

  借り手からの支払手形を交換する義務を有している(FASB(1999),par.25. c)。)

 ・証券オプション(プット・オプションは,保有者に有価証券と現金を交換する権利を付与し,発行者に現金

  と有価証券を交換する義務を負わせ,コール・オプションは,保有老に現金と有価証券を交換する権利を付

  与し,発行者に有価証券と現金を交換する義務を負わせる(FASB(1999),par.25. d)。)

 ・証券先渡契約(先渡契約は,契約両当事者に金融商品の交換を要求する権利と金融商品を交換する義務を負

  わせる(FASB(1999),par.25. d)。)

6ただし,棚卸資産のような非金融項目をヘヅジ対象とする公正価値ヘッジなど一部のヘッジは認められること

 を提案している(FASB(1999),par.92)。

7こうした予備的見解とは,異なる主張もみられる。AAA財務会計基準委員会は, FASBの予備的見解に対す

 るレスポソスを公表し,金融商品が流動性の低い市場で取引されている場合には,使用価値(value-in-use)が

 目的適合的な測定属性となるとしている(AAA(2000),p.506)。このような使用価値を測定属性として用いる

 主張は,Barth = Landsmanの主張にもみられる(Barth=Landsman(1995),pp.97-107.)。しかし, Barth=

 Landsmanは,金融商品に限定せず,資産及び負債全般を公正価値で測定することを主張している。

8予想される手数料に関して,いくつかの仮定が必要になるけれども,出口価格は全体としては市場の情報にも

 とついていると主張される(FASB(1999),par.53)。これに対して, IASC(1997),JWG(2000)では,取引

 コストは除外しないこととされている(IASC(1997),Ch.5, pars,2.2.3~5, JWG(2000),pars. 72,73)。

9測定項目と類似項目が類似キャッシュ・フロー・パターンを有するかどうかは下記の手順で決定される

 (FASB(1999),par,61)。

 a.問題となる項目について期待キャッシュ・フローを識別する。

 b.類似する特徴を有すると思われる別の資産あるいは負債を識別する。

 c.二つの項目が類似していることを保証するために,二つの項目から生ずる期待キャッシュ・フローを比較

   する。例えば,それらが契約において明らかにされているか,仮にそうでなければ,蓋然性の範囲(the

   rages of probabilities)が同じであるかを比較する。

 d.ある項目の要素で他の項目にはないものがあるかどうかを評価する。例えば,様々なリスクの水準が異な

   るかどうかである。

 e.変化する経済条件のもとで,二組のキャッシュ・フローが同様に変化する可能性があるかどうかを評価す

   る。

ユo佐藤(1995)及び徳賀(1998)では,期待キャッシュ・フローの現在価値の計算において割引率を選択するこ

 とによって,実際現金収入額,現在現金収入額,現在現金支出額,期待現金支出額が測定されることが明らか

 にされている(佐藤(1995)18~21頁,徳賀(1998)49頁)。

llこれについては,田中(2000)で明らかにされている(田中(2000)148頁)。

121997年公開草案では,公正価値とエンティティー独自の価値との違いを次のように要約されている。

公 正 価 値 エソティティー独自の価値

仮定されるキャ

bシュ・フロー

資産の使用又は負債の決済に関する市場の見積りに

薰テいて市場が仮定するであろうもの

エンティティーが資産又は負債の期待耐用年数にわ

スって資産を使用し,負債を決済することから期待

オ,当該使用又は決済におけるエンティティーの所

L者の能力の役割を反映するもの

リスク修正 市場によるキャッシュ・フローの期待に適用した,

ッ様のリスクを有するキャヅシュ・フローに対して

s場が要求する修正

エンティティーによるキャッシュ・フローの期待に

K用した,同様のリスクを有するキャッシュ・フ

香[に対して市場が要求する修正

 エソティティー固有の価値を計算するためのリスク修正は,本来はエソティティーによるキャッシュ・フ

ローの期待に適用した,同様のリスクを有するキャッシュ・フローに対してエソティティーが要求する修正と

一347一

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 なる。

  しかし,エンティティー固有のリスク修正の概念はなじみのあるものではなく,エンティティーが不確実性

 を負う代わりに要求するであろう金額に関するエンティティーの主張は,実証することができないかもしれな

 い。エンティティー固有のリスク修正は,魅力的な概念であるが,実行可能ではないかもしれないという懸念

 があった。

  FASBは,こうした懸念を考慮して,エソティティー独自の価値の概念に市場に基づくリスク修正を組み込

 んだ。エソティティー独自の価値を計算するためには,エンティティーは,キャッシュ・フローの見積り,そ

 の可変性(variability)の査定,リスクのない利子率,そして市場が見積キャッシュ・フローに固有のリスク

 を負う代わりに要求するであろう金額を用いる。その結果,エンティティー独自の価値は,市場がエンティテ

 ィーによって予測されるキャッシュ・フローを評価するであろう金額となる(FASB(1997),pars.43-45)。

13Leonard Lorensen,“Accounting for Liabilities”, Accounting Research Monograph 4, American lnstitute of Certi-

 fied Public Accountants,1992.

一348一