52
雑草の分類・同定 その基礎 * 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗 1. 現場から研究へ:まずは現地の情報を正しく伝える 1.1.雑草の情報を伝える 雑草分野の専門研究チームには不明雑草に関する同定やその防除に関する問い合わせが地域を越え てしばしば届き,可能な限りそれらに応じている。そうした場合にはまず,問い合わせ元の状況を確認 した上で,1.押し葉標本の郵送,2.宅配便による現物の生存輸送;到着後,移植栽培して確認,3. 実物等倍コピーのファクス送信またはデジタル画像の電子メール添付,のいずれかを依頼している。1 →3の順に情報の伝達が早まるが,得られる情報量は減少する。写真は精密な同定には不十分な場合も あるが,現地の発生状況を伝えるのに有用である。 写真で情報を伝える場合,次の3点が揃っているのが理想的である。 生育地の写真 個体の全体写真 同定の要となる部位の拡大写真 農耕地に雑草が繁茂している場合,①の写真により,その雑草と作物との関係や問題の大きさが一目 瞭然となる。②では現場から抜き取った1個体(地下部も含めて)を均質な背景の写真に収めるとよい。 ③は多くの場合,花器や果実である。分類群によって注視すべき部位は異なり,その部位を見当づける にはそれなりに植物の分類同定に関する知識と経験を要する。拡大写真を撮る場合,屋外でデジタルカ メラを用いて撮影しても焦点が合わないことが多い。採集した実物を室内に持ち帰り,スキャナで直接 取り込むとよい。スキャナは巨大なデジカメであり,被写界深度の深い対象を高い解像度で撮影するの に適している。 1.2.現地の状況を伝える 写真だけではなく,どのような現場でそれが問題となっているのか,を探る周辺情報も同じように重 要である。極端な例をあげると“××が生えている。その防除策は?”とだけ尋ねられても,それに対 して答えられるのは“抜くしかない”だけだ。なぜなら,どのような防除策ならそこで採用可能なのか, を考えるための情報が提示されていない。 必要な情報とは,栽培体系(直播/移植,慣行の除草体系,中間の管理,収穫時期),問題雑草の出 芽時期,開花時期(図鑑にある一般的な特性ではなく,現地の栽培条件での),現地での雑草発見から 蔓延に要した期間,当該作物を栽培する期間以外の圃場管理法などである。このような現場の情報をと もなってこそ,そこに内在する“蔓延すべき要因”や“選択可能な代替除草手段”が検討できる。問い 合わせによってどの程度有効な情報が得られるか,は現地の具体的な情報を調べ伝えた努力に比例する と言ってよい。 1.3.記録を残し,積み重ねる その場での回答は期待しないこと,それも心に留めてほしい。国内で初事例の場合もあるのだから。 ただし,一度問い合わせがあった事柄に対しては,その専門分野の研究者であればその後ずっと関心を * 本稿は種生物学会編 浅井元朗・芝池博幸責任編集「農業と雑草の生態学 侵入植物から遺伝子組換え作物まで」(2007 年,文一総合出版)に収録された「雑草を見分け,調べる」から発展的な記述等を削除し,一部新たな情報を加えて再構 成したものである。

雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

  • Upload
    others

  • View
    7

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

雑草の分類・同定 その基礎*

中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

1. 現場から研究へ:まずは現地の情報を正しく伝える

1.1.雑草の情報を伝える

雑草分野の専門研究チームには不明雑草に関する同定やその防除に関する問い合わせが地域を越え

てしばしば届き,可能な限りそれらに応じている。そうした場合にはまず,問い合わせ元の状況を確認

した上で,1.押し葉標本の郵送,2.宅配便による現物の生存輸送;到着後,移植栽培して確認,3.

実物等倍コピーのファクス送信またはデジタル画像の電子メール添付,のいずれかを依頼している。1

→3の順に情報の伝達が早まるが,得られる情報量は減少する。写真は精密な同定には不十分な場合も

あるが,現地の発生状況を伝えるのに有用である。

写真で情報を伝える場合,次の3点が揃っているのが理想的である。

① 生育地の写真

② 個体の全体写真

③ 同定の要となる部位の拡大写真

農耕地に雑草が繁茂している場合,①の写真により,その雑草と作物との関係や問題の大きさが一目

瞭然となる。②では現場から抜き取った1個体(地下部も含めて)を均質な背景の写真に収めるとよい。

③は多くの場合,花器や果実である。分類群によって注視すべき部位は異なり,その部位を見当づける

にはそれなりに植物の分類同定に関する知識と経験を要する。拡大写真を撮る場合,屋外でデジタルカ

メラを用いて撮影しても焦点が合わないことが多い。採集した実物を室内に持ち帰り,スキャナで直接

取り込むとよい。スキャナは巨大なデジカメであり,被写界深度の深い対象を高い解像度で撮影するの

に適している。

1.2.現地の状況を伝える

写真だけではなく,どのような現場でそれが問題となっているのか,を探る周辺情報も同じように重

要である。極端な例をあげると“××が生えている。その防除策は?”とだけ尋ねられても,それに対

して答えられるのは“抜くしかない”だけだ。なぜなら,どのような防除策ならそこで採用可能なのか,

を考えるための情報が提示されていない。

必要な情報とは,栽培体系(直播/移植,慣行の除草体系,中間の管理,収穫時期),問題雑草の出

芽時期,開花時期(図鑑にある一般的な特性ではなく,現地の栽培条件での),現地での雑草発見から

蔓延に要した期間,当該作物を栽培する期間以外の圃場管理法などである。このような現場の情報をと

もなってこそ,そこに内在する“蔓延すべき要因”や“選択可能な代替除草手段”が検討できる。問い

合わせによってどの程度有効な情報が得られるか,は現地の具体的な情報を調べ伝えた努力に比例する

と言ってよい。

1.3.記録を残し,積み重ねる

その場での回答は期待しないこと,それも心に留めてほしい。国内で初事例の場合もあるのだから。

ただし,一度問い合わせがあった事柄に対しては,その専門分野の研究者であればその後ずっと関心を

*本稿は種生物学会編 浅井元朗・芝池博幸責任編集「農業と雑草の生態学 侵入植物から遺伝子組換え作物まで」(2007

年,文一総合出版)に収録された「雑草を見分け,調べる」から発展的な記述等を削除し,一部新たな情報を加えて再構

成したものである。

Page 2: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

払って関連情報の収集に努めるものである。たとえ問い合わせたその時には満足のいく技術指針が得ら

れなかったとしても,その後に他所から同じ問い合わせが届いた場合にはより踏み込んだ回答になるだ

ろう。それが集まればより迅速で的確な回答に繋がってゆく。問い合わせるのは後続のため,でもある。

だからこそ現場の状況を正確に把握し,伝えておくことが重要である。国内では情報の少ない草種で

あった場合には,同定結果や防除対策等の情報を得たらそれでよしとせず,引き続き現地の状況を継続

して観察・記録し,他地域の参考となるように事例や情報を公表することが望まれる。限られた地域の

断片的な事例を学会誌などに公表するのは憚られるのであれば,地域誌などをその媒体として活用する

のがよい。現地情報をとりまとめる場合,遠慮せずに専門家の助言を受ければ,その過程で関連情報や

その後の対応についての意見交換もできるだろう。

2.雑草を見分ける

雑草を調査・研究するために,雑草とその種類をどの程度知っておくことが望まれるだろうか? そ

れは,“文献上のデータを見て,植生の見当がつく”ことであろう。雑草の種名とその量を示す数値あ

るいは図を見て,現地の状況を脳裏に再現し,そのうえで結果の解釈について議論ができる能力である。

‘雑草を知っている’とは,各生育段階における雑草のすがたかたちを識別し,現場での雑草の生活

様式を見きわめ,その地(地域と立地環境)での生態が頭に入っている状態,あるいは初見の草種につ

いても同様のことが識別,類推できる状態だといえる。これが研究材料として雑草を扱うために求めら

れる素養である。雑草とその現場へのつきあいを重ね,科学的に立証された知見とデータにならない雑

多な見聞をも蓄積し,これらを日々熟成・統合させていくことで,‘雑草を見る目’が養われる。

2.1.雑草は現場で見て覚える

図鑑をいくら眺めても雑草を理解することにはならない。雑草はそれが生えている現場で,その種の

すがたかたち(形態)といきざま(生態)の全体像を認識して理解していくべきものである。

形態-どんな姿をしているのか?いつそのような姿になるのか?-としては,以下が挙げられる。

・葉の形質:長さ,幅,単葉,複葉,葉柄,葉脈の配列,鋸歯,巻きひげや棘など付属物の有無

・個体の外観とその構成要素:葉の配列,分枝パターン,直立,叢生,匍匐,ロゼット

・繁殖器官の形質:花序の位置,花序の形態,花器の構造,花の色,果実の形態

生態-いつ,どこでどのように生活しているか?-については,次のようなことがらが着眼点となる。

・生育立地とその環境:主に水分環境,光環境 -水田,畑,法面,日陰,水際,芝生,道端,等々-

・群落の様相:群生,単生,階層性(作物を庇陰,作物に庇陰等),集団の密度や構成個体の生育のば

らつき

・季節消長(phenology):休眠,発芽,栄養成長,開花,結実,等々の季節スケジュール

・繁殖方法:有性繁殖(種子),栄養繁殖(塊茎,根茎,匍匐茎,珠芽,creeping root(伊藤・森田,

1999),等々)

2.2.変異・変化の幅もつかむ

雑草はその生育環境によってしばしばすがたを変え,見た目に異なった印象を与える。作物の草冠下

で庇陰された個体と,栄養条件のよい放棄畑で生育した個体とではまるで別種のように見えるほどの可

塑性を示す。野積み堆肥の上に生育した個体は図鑑に記載されている標準的なサイズを逸脱することも

珍しくない。また,刈取後の再生個体や,除草剤の影響を受けた個体は,しばしば健全個体と異なる姿

Page 3: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

を示す。温度や日長に感応して開花・結実するタイプの一年生植物では,出芽時期の異なる成熟個体の

サイズが数百倍の違いを見せることもごくふつうである。また幼植物と成植物とでは葉形が異なるなど,

生育段階によってもそのすがたはしばしば大きく異なる。

このように雑草は同じ種であっても必ず個体ごとに形や形質の違いがあり,個体によってその見かけ

(表現型)はずいぶんと違っている。多くの図鑑類には1種類の植物について,ある場所で生育した花

期の写真しか掲載されていない場合が多い。そしてその写真がその種の典型的な姿や代表的な生育地を

捉えているとは限らない。

現実に一つの個体を手にしたとき,その個体のかたちが遺伝的な変異なのか,あるいは環境による変

化なのか,どのような要因によって強く影響されているのかを判断することは不可能である。しかし,

そうした変異・変化の幅を含めて,変異・変化しやすい形質と安定した形質とに注意してその種のあり

ようを覚えることが必要である。

2.3.“攪乱”を見定める

形態,生態に加えて,雑草の研究に求められる特有の視点がある。それは,“攪乱”に対する反応,

である。農耕地ならば,攪乱を“農作業”と言いかえてもよい。農耕地には耕起,湛水,刈取,焼却,

被覆による遮蔽,放牧,除草剤処理といった,さまざまな攪乱が存在する。攪乱の種類と頻度,強度に

よってその場に生育可能な草種が限定される。作物生産という目的を持った攪乱の総体が作付体系であ

る。各々の草種が個々の攪乱にどう反応するのか,その草種が生えているのはどういった攪乱のある場

所なのか,という視点とその蓄積とが雑草を見る眼を肥やしていく。

ある程度雑草の種類を覚えてくると,図鑑には‘いたるところに生える’と書かれている雑草が決し

てどこにでも生えているわけではなく,草種ごとに生える立地が少しずつ異なること,一方で同じ立地

に共存する傾向の強い種群が存在すること,季節とともに草種が変遷することなどがわかるだろう。

2.4.基本的な種を徹底して覚える

笠原(1954)によれば,日本の雑草は水田,畑雑草あわせて 450 種であり,畑地に生育するものは

53科 302種である。これには近年侵入・定着した帰化種は含まれていない。榎本は日本の雑草として,

111科 1037種をリストアップしている1。

しかし,農耕地に対象を絞れば,それほど多くの種を実際に目にすることはむしろ困難である。調査

対象とする立地に生育する草種の種数は限られる。さらに,時期によっても生育する種類は絞り込まれ

る。一筆の圃場内(周縁部を除く)に生育する草種は通常 10 数種であろう。それらの多くは広い範囲

に生育する普通種である。第1表,第2表にそれぞれ水田,畑の主要雑草のリストを挙げた。表中の草

種の8割は,どの生育段階であっても調べずともその場で識別できるようにしておきたい。

ここに挙げた,‘どこにでも生えている’‘基本的な’種をまず覚える。そういった草種は試験場内に

普通に生育しているはずである。常日ごろ,現場に出て,目にした草種を片っ端から覚えていくのが一

番よい。身近に植物をよく知っている先輩がいれば,可能な限り現地を同行して名前を教えてもらい,

その種が,いつ,どんな場所に,どんな状態で生育しているのかを確認していく。見るだけではなく,

実際に手にとって触り,手触りや臭いも一緒に覚える。

2.5.採集し,標本を作る

現場で雑草を観察する際には,地下部も含めて植物体全体を採集するとよい。地下部にもしばしば種

を識別する重要な形質が含まれる。採集したら,図鑑でその種を確認し,解説と実物を逐一照合する。

1 www.rib.okayama-u.ac.jp/wild/zassou_table.htm

Page 4: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

第1表 主要な日本の水田雑草とその区分

一年生雑草 多年生雑草

和名 属 和名 属

イネ科 タイヌビエ,イヌビエ,ヒメタイヌビエ

Echinochloaエゾノサヤヌカグサ,サヤヌカグサ,アシカキ

Leersia

アゼガヤ Leptochloa キシュウスズメノヒエ,チクゴスズメノヒエ

Paspalum

ウキガヤ,ムツオレグサ,ドジョウツナギ

Glyceria

ギョウギシバ Cynodon

チゴザサ Isachne

ハイコヌカグサ Agrostis

カヤツリグサ科 タマガヤツリ,コゴメガヤツリ,ヒナガヤツリ

Cyperusミズガヤツリ

Cyperus

ヒデリコ Fimbristylis マツバイ,クログワイ,ハリイ

Eleocharis

コウキヤガラ,ウキヤガラ Bolboschenus

シズイ,イヌホタルイ,タイワンヤマイ

Schoenoplectus

広葉 単子葉 コナギ,ミズアオイ Monochoria オモダカ,アギナシ,ウリカワ

Sagittaria

ヒロハイヌノヒゲ,ホシクサ

Eriocaulon ヘラオモダカ,サジオモダカ Alisma

イボクサ Murdannia ウキクサ Spirodela

ミズオオバコ Ottelia アオウキクサ Lemna

クロモ Hydrilla

ヒルムシロ Potamogeton

双子葉 キカシグサ Rotala セリ Oenanthe

アゼナ,アメリカアゼナ類 Lindernia アゼムシロ Lobelia

アブノメ Dopatrium ミズハコベ Callitriche

オオアブノメ Gratilola

アゼトウガラシ,スズメノトウガラシ類

Vandellia

ミゾハコベ Elatine

チョウジタデ,ヒレタゴボウ

Ludwigia

ヒメミソハギ,ホソバヒメミソハギ

Ammannia

タカサブロウ類 Eclipta

タウコギ,アメリカセンダングサ

Bidens

キクモ Limnophila

ヤナギタデ Persicaria

クサネム Aeschynomne

シダ,コケ植物 デンジソウ Marsilea

ミズワラビ Ceratopteris

アカウキクサ,オオアカウキクサ

Azolla

サンショウモ Salvinia

イチョウウキゴケ Ricciocarpus

藻類 シャジクモ Chara

アオミドロ Spirogyra

アミミドロ Hydrodictyon

フシマダラ Pithophora

(表層剥離)

下線は水田内ではおもに種子で繁殖する草種

Page 5: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

第2表 主要な日本の畑地雑草とその類別

夏生

冬生

単立型

地上匍匐型

地下器官拡大型

アキメヒシバ(Digitaria)

コヌカグサ(Agrostis)

シバムギ(Elymus)

アキノエノコログサ(Setaria)

広葉双子葉合弁ナギナタコウジュ2(Elsholtzia)

ジシバリ類1(Ixeris)

ハチジョウナ1(Sonchus)

エゾノキツネアザミ1(Breea)

オトコヨモギ,エゾヨモギ1(Artemisia)

離弁スカシタゴボウ4(Rorippa)

エゾノギシギシ,スイバ6(Rumex)

キレハイヌガラシ4(Rorippa)

シロザ7(Chenopodium)

ツメクサ5(Sagina)

オオツメクサ5(Spergula)

タニソバ6(Persicaria)

ソバカズラ6(Fallopia)

メヒシバ(Digitaria)

スズメノカタビラ(Poa)

イヌムギ(Bromus)

イヌビエ,タイヌビエ(Echinochloa)

ネズミムギ(Lolium)

カモジグサ(Elymus)

広葉単子葉

ツユクサ(Commelina)

カラスビシャク(Pinellia)

双子葉合弁イヌホオズキ類8(Solanum)

ハハコグサ*1(Gnaphalium)

タンポポ類1(Taraxacum)

ヘクソカズラ#(Paederia)

ハルジオン1(Erigeron)

アメリカセンダングサ1(Bidens)

ヒメジョオン*1(Stenactis)

オオバコ(Plantago)

セイタカアワダチソウ1(Solidago)

ヒメムカシヨモギ*1(Conyza)

ヨモギ1(Artemisia)

ノゲシ類1(Sonchus)

オオイヌノフグリ11(Veronica)

離弁イヌタデ,ハルタデ,オオイヌタデ6(Persicaria)

ナズナ4(Capsella)

イヌガラシ4(Rorippa)

シロツメクサ3(Trifolium)

イタドリ6(Reynoutria)

ミチヤナギ6(Polygonum)

タネツケバナ4(Cardamine)

ギシギシ6(Rumex)

カタバミ(Oxalis)

ヒメスイバ6(Rumex)

イヌビユ,ホナガイヌビユ9(Amaranthus)

オランダミミナグサ5(Cerastium)

エノキグサ10(Acalypha)

ノミノフスマ,コハコベ5(Stellaria)

コアカザ7(Chenopodium)

シダ類

ワラビ(Preridium)

スギナ(Equisetum)

オヒシバ(Eleusine)

スズメノテッポウ(Alopecurus)

キシュウスズメノヒエ(Paspalum)

チガヤ(Imperata)

エノコログサ(Setaria)

カズノコグサ(Beckmannia)

アゼガヤ(Leptochloa)

カラスムギ(Avena)

カヤツリグサ,コゴメガヤツリ(Cyperus)

ハマスゲ,ショクヨウガヤツリ(Cyperus)

ヒデリコ(Fimbristylis)

ヒメクグ類(Kyllinga)

広葉双子葉合弁ブタクサ1(Ambrosia)

オオアレチノギク*1(Conyza)

ヨメナ1(Aster)

トキンソウ1(Centipeda)

ノボロギク*1(Senecio)

コヒルガオ,ヒルガオ#(Calystegia)

タカサブロウ類1(Eclipta)

ホトケノザ2(Lamium)

ワルナスビ7(Solanum)

ウリクサ11(Vandellia)

ヤエムグラ(Galium)

離弁スベリヒユ(Portulaca)

コイヌガラシ4(Rorippa)

ムラサキカタバミ(Oxalis)

チドメグサ(Hydrocotyle)

ドクダミ(Houttuynia)

ザクロソウ(Mollugo)

カラスノエンドウ#3(Vicia)

ヘビイチゴ(Duchesnea)

ヤブガラシ#(Cayratia)

ニシキソウ,コニシキソウ10(Chamaesyce)

アメリカフウロ(Geranium)

ホソアオゲイトウ,ハリビユ9(Amaranthus)

チョウジタデ(Ludwigia)

上付き文字は,1キク科,2シソ科,3マメ科,4アブラナ科,5ナデシコ科,6タデ科,7アカザ科,8ナス科,9ヒユ科,10トウダイグサ科,11ゴマノハグサ科.

下線は転換畑で出現が多い草種.*は風散布型の種子を持つ一年生植物で,群落の永続性が小さいもの.#はつる性植物

一年生

関 東 ~ 九 州

イネ科

多年生

全 国北 海 道 ・ 東 北分 布 地 域

生態

カヤツリグサ科

イネ科

イネ科

分類群

Page 6: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

用いる図鑑として 4.1.1に挙げるものが適している。重要な耕地雑草はほとんど掲載されているはずで,

それらは覚える必要性が高い。分類群の特徴がよく反映されている繁殖器官を分解して観察するのがさ

らに効果的である。こうしたことを最低1シーズン継続するのが,最も効果的な覚え方である。

雑草を採集したら,押し葉標本をつくることを勧める。標本の作成は手間がかかるが利点は多い。標

本をつくっておけば,後でまとめて調べることができる。つくっていくことでよりいっそう植物を覚え

ていく。よく作られた一枚の標本が持つ情報量はたいがいの図鑑よりもはるかに多い。つくった標本を

整理,保管しておけば,野外に生育していない時期にも実物を参照することができる。標本の枚数が増

えていけば,同じ場所,時期に生育していない種をいくつか並べてその形態の違いを比較することがで

きる。さらに,自力では同定が困難な場合も,標本にしておけば専門家へ同定を依頼できる。現地圃場

などで採集した標本を系統立てて整理,保管しておけば資料としても教材としても価値が高い。

通常の場内圃場や日帰り調査での採集品を扱う程度であれば,標本づくりに特殊な技術は必要ない。

その日のうちに新聞紙に挟み,重しをする。以後一般的な方法として,はじめの2日間は2回/1日の

割合で吸湿紙の交換と植物の整形をおこない,その後乾燥器に入れて仕上げる(水草や軟弱なものは,

直接台紙上で乾燥することもある)。標本は採集データ,防虫剤,防湿剤とともに密封容器に入れて保

管しておく。詳しくは以下を参考にするとよい。 冨永達 2001.雑草標本の作製・保存方法 日本雑草学会(編)雑草科学実験法 p13-17.全国農村教育協会

三浦励一 1994.雑草標本の作製と名前の調べ方 草薙得一・近内誠登・芝山秀次郎(編)雑草管理ハンドブック p573-576.

朝倉書店.

本田正次・矢野佐 1977.植物の観察と標本の作り方(グリーンブックス 24)ニュー・サイエンス社.

近田文弘・秋山忍・門田裕一 2003 維管束植物 松浦啓一(編著)標本学 p115-133.東海大学出版会.

2.6.育てれば覚える

種子で繁殖する雑草は,種子から幼植物を育成して観察すると覚えやすい。各生育段階での写真も撮

っておくとよい。自ら育成し,生活史全体を観察した植物はめったなことで忘れはしない。ただし,多

くの雑草種子がある程度の休眠性をもち,発芽には特有の環境条件を必要とする。ある草種の成熟した

種子を全て発芽させる,ことは実際には難しい。その方法の確立自体がひとつの研究である(鷲谷,1996)。

3.雑草を整理する -学名は記憶の道具-

いくつかの草種を覚えていくと,同じ科・属に分類されている草種に共通する形態的特徴もみえてく

る。そうすると,名前のわからない草種に出会っても,自分にとって既知の草種に似ている,という見

当がつくようになる。多くの種類を覚えていくためには,似た性質を持つものをまとめて類別化してい

くと効率的である。雑草防除の世界では,一年生雑草と多年生雑草,そしてそれらをイネ科雑草,カヤ

ツリグサ科雑草およびその他広葉雑草に分けるのが一般的である。それ以上の細分化・類別化の有用な

ツールとして分類体系と学名について説明する。

植物分類学の体系を利用した類別化は記憶術としても有用である。生物にはラテン語による万国共通

の学名がつけられ,下記のような分類体系のなかに位置づけられる。

被子植物(モクレン)門(division) Magnoliophyta モクレン(双子葉)綱(class) Magnoliopsida ナデシコ亜綱(subclass) Caryopyllidae タデ目(order) Polygonales タデ科(family) Polygonaceae タデ属(genus) Persicaria イヌタデ(species) Persicaria longiseta (De Bruyn) Kitag.

Page 7: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

学名は国際植物命名規約に従って,厳密に命名の仕方が決まっている。学名は属名(genus name)と種

形容語(specific epithet)からなっている。学名の最後にはこの植物を正式に記載発表した命名者の名を記

す。シロザの学名は Chenopodium(ガチョウの小さい足) album(白い) L.で,Chenopodiumが属名,

albumが種形容語,L.は命名者 Linnaeusの略である。

また,ヒメイヌビエの学名は Echinochloa crus-galli (L.) Beauv. var praticola Ohwi である。はじめ

Linnaeus が発表したイヌビエの学名 (Panicum crus-galli L.)を Beauvois が属を組み換えたものが

Echinochloa crus-galli (L.) Beauv.であり,Ohwiがこのイヌビエの種内分類群として変種 var. praticolaを

認めて発表したことを示す。

植物の分類体系で科 family の下位の分類単位である属 genus は,記憶の単位として適当な群であり,

覚えていくと便利である。属名が同じで種形容語が異なる植物は互いに近縁と考えてよい。たとえばケ

アリタソウの学名は Chenopodium ambrosioides(種形容語はブタクサ Ambrosia artemisiaefoliaに似たと

いう意味) L.で,学名を見ればシロザと同属であることがわかる。また,ソラマメ Vicia fabaとカラス

ノエンドウ Vicia angustifoliaや,ジャガイモ Solanum tuberosumとワルナスビ Solanum carolinenseとい

うように,身近な栽培植物の学名とあわせて覚えると類縁関係を理解しやすく,同じ科・属に分類され

る草種に共通する形態的特徴もみえてくる。

和名,とは日本で広く認知されている名前のことであり,その命名に関して取り決めはない。また,

系統関係が反映されているとも限らない。例えば以下のように,狭義のヒエ類とは遠縁の種にも‘ヒエ’

と名付けられている。

‘ヒエ’と名のつく植物 イヌビエ (ヒエ属) Echinochloa crus-galli (L.) Beauv. タイヌビエ (ヒエ属) Echinochloa oryzicola Vasing. コヒメビエ (ヒエ属) Echinochloa colonum (L.) Link ナルコビエ (ナルコビエ属) Eriochloa villosa (Thunb.) Kinth スズメノヒエ (スズメノヒエ属) Paspalum thunbergii Kunth ヤマスズメノヒエ (イグサ科スズメノヤリ属) Luzula multiflora Lejeune

同じ和名でも図鑑によって異なる学名が記されている場合がある。これは,学名そのものが分類学上

の見解を担っていて,新たな見解が認められることによって学名も変更されることによる。研究が進ん

でその種の実態が明らかにされてくると,それを反映した学名が採用される(新たな学名が提案される

こともある)。近年では DNA 情報を用いた系統関係の解析結果にもとづいて,従来の外部形態による

分類体系が変更されることも少なくない。

新しい図鑑ほど,新たに採用された見解が記載されている。一般向けの古い図鑑類にはこうした情報

が取り込まれていないことが多い。最新の日本の植物の学名については,一部未完ではあるが,Iwatsuki

et al. (1993~)の「Flora of Japan」や,インターネット上で公開されている BGPlants作成グループによる

「BG Plants 和名−学名インデックス2」(YList)が広範囲に網羅している。

4.雑草を調べる

覚えた雑草の種類が増えてくると,やがて必ず,身近な人に聞いてもわからない草種に出会う。その

場合,まずは自力で図鑑などを用いて調べることになる。自力で同定するには,図鑑の記載を理解する

必要がある。ここでは形態用語と検索表について簡単に説明し,雑草を調べるのに適した図鑑類や Web

2 bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html

Page 8: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

サイトの特長と利用法について解説する。

4.1.図鑑の特長に応じて使い分ける

さまざまな種類の植物図鑑,雑草図鑑が刊行されており,それぞれに特長がある(第3表)。図鑑ご

との特長を知って,自分のレベルと目的に応じて使い分ける。携行に向く図鑑は掲載種数が少なく,情

報の豊富な図鑑は重い。また,出版年の新しい図鑑ほど帰化植物の掲載数が多い。図鑑によっては改訂

の度に内容が追加・修正されている(例えば保育社の原色日本植物図鑑)ので,できるだけ新しい版を

用いた方がよい。

4.1.1.とりあえず絵あわせをする

あくまで「絵あわせ」であり,同定作業とはほど遠いが,おおよその見当をつけるには有効な手段で

ある。耕地雑草を中心に掲載され,さほど厚くないものが使いやすい。 廣田伸七 1996.ミニ雑草図鑑 雑草の見分け方 全国農村教育協会.

岩瀬徹・川名興 1998.野外観察ハンドブック 新・校庭の雑草 全国農村教育協会.

草薙得一編 1986.雑草の診断 農山漁村文化協会.

岩瀬徹 2007.形とくらしの雑草図鑑 全国農村教育協会.

林弥栄(監修) 1989.野に咲く花 山と渓谷社.

長田武正 1973.カラー自然ガイド 人里の植物Ⅰ・Ⅱ 保育社.

岩槻秀明 2006.街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本 秀和システム.

牧野富太郎(著).小野幹雄・大場秀章・西田誠(編) 1989.改訂増補牧野新日本植物圖鑑 北隆館.

類似雑草の識別ポイント

絵あわせだけでは,一見似ている草種と誤認してしまうことがある。間違えやすい草種群の識別点を

整理したものに以下がある。 浅野貞夫・廣田伸七(編著) 2002.日本雑草学会ブックレット図と写真で見る 似た草 80 種の見分け方 全国農

村教育協会.

三浦励一 1995.類似雑草の識別 草薙得一・近内誠登・芝山秀次郎(編集) 雑草管理ハンドブック,p569-572,

朝倉書店.

沼田真・吉沢長人(編) 1975.新版 日本原色雑草図鑑 全国農村教育協会.

絵あわせでおおよその見当がつたら,Webで画像検索をするとよい。インターネットとデジタルカメ

ラの普及により,植物写真を掲載した Web サイトは日々増加している。一般的な草種であれば,和名

で画像検索すれば相当数の写真が閲覧できる。ただし,その草種の同定には不確かなものもあることに

注意する必要がある。検索キーに学名を追加すれば,それよりやや確かな情報が得られることが多い。

4.1.2.形態用語と検索表

ある程度覚えた雑草の種類が増えてくると,既に覚えた草種との形態的類似性から,調べたい草種が

どの分類群に属するか,おおよその見当がつくようになる。また,分類群ごとに共通する形態的特徴が

わかってくる。例えば,

キク科:頭状花序と果実の冠毛,1種子性の痩果

シソ科:唇形花と四角い茎,四分果 ・・・・・・合弁花類

ウリ科:つる性,巻きひげ

マメ科:蝶形花と莢果,複葉,托葉

アブラナ科:4枚の花弁と隔壁により2室化した角果 ・・・・・・離弁花類

ナデシコ科:5枚の花弁,葉は対生

さらに,形態用語を理解していれば,検索表を用いて種を同定することができる。「毛の有無」,「葉

の鋸歯の有無」など異なる形質を対比させて,yes-no方式で順次目標にたどりつくようにした表を検索

Page 9: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

第3表 日本の主要な雑草図鑑等とその特長*

図鑑名

携帯性写真雑草農業的観点幼植物種子検索表類似草種の識別外来植物

価格**

出版年

ミニ雑草図鑑

○○

○○

○2,200

1996

新・校庭の雑草

○○

○○

1,905

1998

形とくらしの雑草図鑑

○○

○○

○1,400

2007

街でよく見かける雑草や野草がよーくわかる本

○○

○1,600

2006

雑草の診断

○○

○○

3,600

1986

野に咲く花

○◎

○2,816

1989

人里の植物I,II

○各700

1973

似た種80種の見分け方

○○

○1,000

2002

写真で見る外来雑草

○○

○◎

-1994

牧野新日本植物圖鑑

20,000

1989

山渓ポケット図鑑1,2,3

○○

各2,6211994-1995

原色野草観察検索図鑑

○○

○5,100

1982

検索入門野草図鑑(1)~(8)

○○

各1600

1984

原色日本植物図鑑I,II,III

○5,600~6,2001957-1964

日本の野生植物・草本(全3冊)

○○

計49,8001982-1989

増補日本イネ科植物図譜

○○

○○

20,000

1993

カヤツリグサ科入門図鑑

○○

○○

2,800

2007

日本水草図鑑

○○

○○

15,450

1994

日本のスゲ

○◎

○○

○4,800

2005

日本植物誌 顕花編 改訂増補新版

○-

1992

日本草本植物総検索誌単子葉篇

○○

-1973

増補改訂日本草本植物総検索誌双子葉篇

○○

-1978

日本帰化植物圖鑑

○○

◎-

1972

原色日本帰化植物図鑑

○◎

5,000

1976

日本帰化植物写真図鑑

○○

○○

◎4,300

2001

牧草・毒草・雑草図鑑

○○

○○

○2,800

2005

神奈川県植物誌2001

○◎

9,800

2001

日本の帰化植物

○○

◎14,000

2003

千葉県植物誌

○○

◎-

2003

日本雑草図説

○○

○○

○-

1968

新版日本原色雑草図鑑

○○

○○

○9,800

1975

新装版原色図鑑芽生えとたね-植物3態

◎○

○9,000

2005

原色日本植物種子写真図鑑

○○

28,000

1994

日本植物種子図鑑(増補改訂版)

○○

21,000

2004

*:○掲載あり,優れる,◎特に優れる,**:価格は2007年12月時点¥,-は絶版等で入手困難

Page 10: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

表という。通常「科」や「属」のなかの種を対象に作られることが多い。花,果実,地下部など各器官

の揃った完全な標本があれば,検索表によって種名が確定できる。図鑑によっては,巻頭や巻末に形態

とその用語を掲載しているが,それとは別に用語集を一冊持っておくと便利である。 岩瀬徹・大野啓一 2004.写真で見る植物用語 全国農村教育協会.

清水建美 2001.図説植物用語事典 八坂書房.

石戸忠 1990.目で見る植物用語集 研成社.

大場秀章監修 清水晶子著 2004.絵でわかる植物の世界 講談社.

絵あわせの段階から,すぐに本格的な図鑑で検索表を活用して同定することは難しい。以下は初心者

が植物形態用語を覚えながら,草本植物を検索できるように編集されている。 長田武正 1981.原色野草観察検索図鑑 保育社.

長田武正(著)・長田喜美子(写真) 1984-1985.検索入門 野草図鑑①~⑧ 保育社.

4.1.3.形質を調べて自力で検索する

ある程度慣れてきたら,次に挙げる図鑑を使うとよい。なお,花や果実がないと検索できず,花期の

記載はあっても出芽時期の記載はない等々,雑草分野に必要な情報が必ずしも記載されてはいない。し

かし,こうした図鑑の検索表を活用し,植物を同定できる能力とともに形態学的,分類学的素養を身に

つけて困ることはない。 北村四郎・村田源・小山鐵夫 1957.原色日本植物図鑑,上 保育社(現在は改訂版).

北村四郎・村田源・小山鐵夫 1961.原色日本植物図鑑,中 保育社(現在は改訂版).

北村四郎・村田源・小山鐵夫 1964.原色日本植物図鑑,下 保育社(現在は改訂版).

佐竹義輔・大井次三郎ほか 1982.日本の野生植物,草本 I 平凡社

佐竹義輔・大井次三郎ほか 1989.日本の野生植物,草本 II 平凡社

佐竹義輔・大井次三郎ほか 1989.日本の野生植物,草本 III 平凡社

長田武正 1993.増補日本イネ科植物図譜 平凡社.

谷城勝弘 2007.カヤツリグサ科入門図鑑 全農教.

角野康郎 1994.日本水草図鑑 文一総合出版.

勝山輝男 2005.ネイチャーガイド日本のスゲ 文一総合出版.

4.1.4.帰化植物?

これまで挙げた図鑑類で該当種が見つからない場合,帰化植物である可能性がある。その場合には, 長田武正 1972 日本帰化植物圖鑑 北隆館.

長田武正 1976 原色日本帰化植物図鑑 保育社.

清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七 2001.日本帰化植物写真図鑑 全国農村教育協会.

清水矩宏・宮崎茂・森田弘彦・廣田伸七 2005.牧草・毒草・雑草図鑑 全国農村教育協会.

清水建美(編) 2003.日本の帰化植物 平凡社.

以下は地方の植物誌であるが,図鑑としても活用でき,初めて取り上げられた帰化植物も少なくない。

いずれもかなり重厚だが,関東・東海地域の低地・陽地の植物であればほぼ間違いなく下記2冊で調べ

ることができる。

神奈川県植物誌調査会(編) 2001.神奈川県植物誌 2001 神奈川県立生命の星・地球博物館.

財団法人千葉県史料研究財団(編) 2004.千葉県の自然史 別編 千葉県植物誌 千葉県

帰化植物の情報収集ではインターネットが威力を発揮する。情報源は英語圏に偏りはするが,草種の

英名または学名を検索サイトに入力すると,瞬時に多くのサイトが抽出される。生態や防除に関する情

報に加えて,イメージ検索などを利用すればタイプ標本や原産地の生育状況を伝える鮮明な画像が得ら

れることも少なくない。中には同定を誤った画像も掲載されていることもあるので情報の正確さは利用

者が判断しなくてはいけない。防除に関しては,あまたの情報の内容を吟味して,日本でも通用する情

報を選別することがむしろ難しい。

4.1.5.幼植物・種子を同定

Page 11: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

ここまでは,検索のキーとなる繁殖器官が存在する場合の調べ方である。花も果実もない植物を同定

するときには,現地で近くに花や果実のついた同種と思われる個体をまず探す。それが見あたらない場

合,とりあえず仮称のまま記録を取り,1)開花期に再び採集する,または2)採取,移植し開花を待

つ,ことで一般の図鑑による検索ができる。

雑草の場合,名前を調べたい植物の繁殖器官が存在しない時点でも識別が求められる。幼植物は成植

物に比べて情報量が少なく,この段階での同定は困難な場合が多い。幼植物が掲載されている図鑑には

以下がある。幼植物の同定能力を高めるには,親植物から種子を採種し,発芽させ幼植物を育て,スケ

ッチや写真を撮り続けるなどして覚えていくのがもっとも効果的かつ確実である。 笠原安夫 1968.日本雑草図説 養賢堂.

沼田真・吉沢長人(編) 1975.新版 日本原色雑草図鑑 全国農村教育協会.

草薙得一(編著) 1986.雑草の診断 農山漁村文化協会.

浅野貞夫 2005.新装版原色図鑑 芽ばえとたね-植物3態/芽ばえ・種子・成植物 全国農村教育協会.

日本語による既存の刊行物から幼植物を検索,同定することは困難である。水田雑草幼植物,畑雑草

幼植物については本研修テキスト関連章を参照されたい。幼植物の鑑定能力を身につけるには,実際に

親植物から種子を採種し,発芽させ幼植物のスケッチや写真を撮るなどして覚えるのがもっとも確実な

方法であり,それらを Web上に公開することも勧めたい。

4.2.有用な Webサイト

Web上のほとんどのサイトがここまでに紹介した出版物の記載を引用しているので,現時点で雑草分

野において出版物以上の知見が得られるサイトは数少ない。

雑草関係で有用なものとしては,2008 年 7 月時点で,岡山大学資源生物科学研究所の「種子画像デ

ータベース3」,畜産草地研究所の「写真で見る外来雑草4」,動物衛生研究所の「写真で見る有毒植物5」,

森林総研四国支所の「芽ばえ図鑑6」(林地の雑草木類が中心),全農の「農耕地の雑草7」,「四季の里地

里山の植物8」,「北海道の耕地雑草9」があげられる。

識別の厄介なイネ科植物については,水田に生育するイネ科多年生雑草の検索表10(),麦作で問題と

なる冬緑型イネ科草の検索表11が公開されている。

将来的には各地域,各県単位の Web 雑草図鑑が蓄積され,それを用い現地から携帯端末によって同

定作業を進められるようになれば望ましい。

引用文献(本文中で紹介した図鑑類を除く)

浅井元朗 2007. 雑草を見分け,調べる. 種生物学会編「農業と雑草の生態学 –侵入植物から遺伝子組換え作物まで-」文一総合出版,東京.297-329

伊藤操子・森田亜貴 1999. 「地下で拡がる多年生雑草たち」京都大学大学院農学研究科雑草学分野 pp.113. 笠原安夫 1954. 本邦雑草の種類及び地理的分布の研究 第5報. 農学研究 42 97-113. 鷲谷いづみ 1996. 保全「発芽生態学」マニュアル 休眠・発芽特性と土壌シードバンク調査・実験法. 保全生態学研究 1 89-98.

3 www.rib.okayama-u.ac.jp/wild/okayama_kika_v2/Seed-image-database-J.html 4 www.nilgs.affrc.go.jp/db/weedlist/title.html 5 www.niah.affrc.go.jp/disease/poisoning/plants/index.html 6 www.ffpri-skk.affrc.go.jp/mebaezukan/index.html 7 www.agri.zennoh.or.jp/visitor/appines/zassou/default.asp 8 members3.jcom.home.ne.jp/u-plant2/ 9 daisetsuzan.sakura.ne.jp/ 10 www.affrc.go.jp/ja/research/seika/data_narc/h09/narc97S050 11 www.affrc.go.jp/ja/research/seika/data_narc/h12/narc00S078

Page 12: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

麦作のイネ科雑草の同定

中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

1.はじめに

カラスムギやネズミムギ(イタリアンライグラス)の被害が関東・東海地域(浅井・與語,2005)

をはじめ,長野県(青木・酒井,2004)など,本州以南の麦作で顕在・常態化している。被害圃場では

もちろん,その周囲の圃場でも,蔓延を未然に防ぐために毎年,抜き取り作業に相当の労力が費やされ

ている。また,被害が著しい場合には,麦類の収穫放棄や次作の作付断念を余儀なくされている。地域

によってはこうした雑草の問題が麦作振興上の一大阻害要因となっている。

このため,被害地域ではその防除対策の確立が強く求められている。こうした草種の発生実態を把

握するための現地調査(木田ら,2007)や被害実態の簡易査定(鈴木ら,2007)とともに,有効な除草

剤選択のための現地試験も行われている。その際に幼植物段階での草種の識別が必要となる。

ここでは,麦類と麦圃場およびその周縁に生育する冬緑型のイネ科草種約 20 種について,その識別

点と生態について概説する。草種はおもに関東・東海地域を対象としたアンケート調査結果および既存

の文献による知見を総合し,必要に応じて各地域で現地を確認した情報にもとづいて選んだ。

本稿では可能な限り国内の冬作麦のイネ科雑草を網羅するように努めたが,関東地域における情報が

中心となっている。また,北海道の一部で夏作としておこなわれている麦作に関しては,情報収集が及

ばなかったため除外する。

2.「冬緑型」イネ科草種について

本稿では「冬緑型」という用語を用いる。生活史による雑草の分類は,一年生,越年生,二年生,多

年生とすることが一般的である。一年生は夏生一年生,越年生は冬生一年生ともいう。本稿で対象とす

るのは主に冬生一年生草種であるが,夏期を根茎または越夏株の状態で過ごし,秋期に新たなシュート

を抽出して越冬し,春期から初夏にかけて出穂・開花する短年生(寿命の短い多年生)の草種も含む。

短年生の草種では種子あるいは株による越夏,どちらを主体として繁殖しているかは草種や立地によっ

て異なる。潜在的に多年生であっても,麦圃内では種子で繁殖する一年生植物としてふるまう草種も多

い。そこで,冬生一年生と冬生短年生の両者を包括した用語として「冬緑型」を用いる。

なおスズメノカタビラなどのように,同一種内でも,低緯度地域では冬緑型(冬生),高緯度地域で

は夏緑型(夏生)の生活環をとるものもある。イネ科以外にも,コハコベ,ナズナなど,冷涼な地域が

原産のこのような種を cool season annual,それに対して純粋な?夏生一年生を warm season annual

とする。

麦作に発生するイネ科雑草としてはスズメノテッポウ,スズメノカタビラが従来から全国的に問題

であった。北海道において多年生のシバムギ,コヌカグサ(レッドトップ)がコムギ連作圃場で問題と

なる。関東以西ではカラスムギ,カズノコグサが問題となっている。さらに近年,ネズミムギ(平野ら,

2000;西脇・寺本,2002)が東北以南の広範囲で,オオスズメノカタビラ(藤田ら,2004)が北陸~西

日本にかけて問題が報告されている。

一方,麦圃場周囲の農道や法面には,イヌムギ,ネズミムギ,オニウシノケグサ(トールフェスク),

カモガヤ(オーチャードグラス),オオアワガエリ(チモシー),ナガハグサ(ケンタッキーブルーグラ

ス),ホソムギ(ペレニアルライグラス),といったおもに外来牧草に由来する草種が優占することが多

Page 13: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

い。また,カモジグサ,アオカモジグサといった在来野草も生育している。そうした草種はしばしば圃

場の周縁部から内部へ侵入し,一部は麦類の害草となる。

3.イネ科植物の穂の形態

出穂後のイネ科植物は穂の形態で識別できる。イネ科植物の穂の基本形はカラスムギの構造がわか

りやすい。穂はいくつもの小穂 spikelet からなり,小穂の最下部は苞穎 glume がある。2枚ある苞穎

のうち,外側に重なる方を第一苞穎(first glume, lower glume),内側の方を第二苞穎(second glume,

upper glume)とよぶ。苞穎の内側に小花 floret がある。カラスムギの場合,通常1小穂内に2~3の

小花があり,基部側から第1小花,第2小花,とよぶ。小花は護穎(外穎,lemma)とその内側に包ま

れた内穎(palea)がその内側のりん皮 lodicule,葯,柱頭などを包み,これが1つの花,である。こ

れを基本構造として,その変化型がイネ科のさまざまなグループの穂の形態を特徴づける。イネ科植物

の穂の形態に関しては,長田(1993)を参考にするとよい。

4.イネ科植物の葉の形態

麦作で問題となる雑草種の多くが,秋期に出芽し,越冬後に開花結実するという冬緑型の生活環を

もつ。したがって,防除上重要となる麦播種後から冬期は栄養生長期にあたり,形態的特徴が乏しい。

イネ科は非常に種数が多く,冬緑型の草種も少なくない。多年生の草種であっても,麦圃内では種子に

由来する幼植物の多い。そのため従来の図鑑(長田,1993)等で用いられている,根茎などの地下部形

態による検索は雑草防除を目的とした調査や診断においてはあまり有用ではない。

このように,出穂前のイネ科植物は形態的特徴が乏しく,その同定は困難である。しかし乏しいと

いえども,種ごとに特徴的な葉の構造がある。それを認識すれば,その違いに着目した草種の識別があ

る程度まで可能である。

識別の着眼点は葉(葉身)の付け根(葉節部)にある。イネ科植物の葉は上半部が細長い葉身

leaf-blade となり,下半部は葉鞘 leaf-sheath とよばれる。葉鞘と葉身の連結部が葉節部である。葉

鞘は円筒形の鞘となって桿 culm を包んでいる。幼植物の場合は桿が未発達である。新たな葉は古い葉

の内側から抽出する。

葉身と葉鞘の連結部の内側に葉舌liguleという扁平でうすい膜質の付属物がある。その大きさ,色,

毛の有無などが種によってさまざまに異なり,識別に役立つ。ノビエ類(Echinochloa spp.)は葉舌が

ないことが特徴である。代表的な夏生一年生雑草のエノコログサ類(Setaria spp.)ではこれが毛状と

なる。葉身の下端の両部が三日月型や半円形に突きだしたものを葉耳 auricle とよぶ。コムギ,オオム

ギは葉耳がよく発達するが,これが発達した雑草種は少ないので有用な識別点である。

長田(1993),Hubbard(1984)等の文献から,前述した種について葉の形態に関する記載を整理し

た。さらに,植物体を種子から育成して,葉身の抽出様式,葉耳・葉舌の有無とその形態といった葉節

部の特徴を詳細に観察・調査し,文献情報と照合した。そうして,リストした草種を冬期に野外で識別

す る た め に 必 要 な 形 態 情 報 を 図 ̶ 1 に と り ま と め た 。 各 草 種 の 葉 節 部 の 画 像 は ,

www.affrc.go.jp/ja/research/seika/data_narc/h12/narc00S078に掲載されている。

ただし,4葉期以前では,植物体が小さく肉眼での観察が難しいこと,また,葉耳や葉舌が十分に

発達していないことなどから,この段階での同定が困難な草種もある。5葉期以降で分蘖のある個体で

あれば,特徴がほぼ明瞭になる。

地上部のみでは種の判別が困難な場合でも,根に穎果が残っていれば,その形態を参考にすればよ

Page 14: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

り確実に識別できる。穎果の形態は既存の文献(長田,1993)を参照するとよい。

図̶1では全国的に草種を網羅した。そのため,地域によってはほとんど出現しない草種も含んでい

る。実際に一地域で対象となる草種は麦類を含めて 10 種程度であろう。そこで必要に応じて図1を簡

略化すれば,識別の着目点はより少なくなる。

5.主要草種の特徴と麦圃場での生態

図̶1にしたがって,ここでは冬緑型イネ科草種を,葉が二つ折りで抽出するもの,葉が巻いて抽出

し葉耳があるもの,葉が巻いて抽出し葉耳のないもの,の3グループに分けて解説する。

<葉が二つ折りで抽出する>

葉の先端がボート状になっていればスズメノカタビラの仲間(Poa 属)またはドジョウツナギ属

(Glyceria)である。後者は麦作圃場にはほとんど生育しない。

スズメノカタビラ(Poa annua L.):葉舌が明瞭で,葉は柔らかい。出穂期間は幅広く関東以西であ

!"#$%&'()*+ !,#-./01#23 !4567896:;<

!4=>#?=@

!,AB<) !4AB<)

CDEFGHIJKLMNOMPQ

RSTUVGWXYZX[OMPQ

!\#]+/(3

!\#=^_`a3

!,-. !4AB<) bTcOdVGefghiXjLXOMPQ

!,AB<)

!,-.

!45678

PklmRgnM

WWPklmRgnM

!"$`

!"op

!"#q3rstuvwx(y

!"#z{|}~o�

!"#z{|)rq3

!"#z{|}�wxy^$�

!\#]+/�3 !,-.�0123!49601xy

5678!wAB<) WJ��meOd

G�XL��P�Q

!,#-./0123 !4-.�5678�k�EFGNg�KfMNOMPQ

!,-. !4-. !4#��`x��� !!"#

!,#�y��#(y !4AB<) !4#��`x��� $"#

!"#z{|) !,#(�y{�� !4AB<) !wAB<) ��EFV

!"#�@ !,#�yr�y�� !4AB<) KWRS�Od��RS�Od

!"#���x$` !,#�y !496AB<}56-.�y��#�y

!4#��`x��� %&"#

!,#�y��

!,#y B

!,#-.

!\#=_`�¡¢�ayw !4£6�y�!wAB<) N¤EF

!\#=_`�¡¢

!401¥¦xy BAB<)

!4#§�`x���

¨©#ª^a3�«¨¬6�y

¨©#�ª��#­®¯ª

RMPEF

«¨¬6�y

'()*°±²³´� µ¶·¸¹ºµ´

!\#]+/�3 !4!wAB<)96:;<

!\#»+r=_�

WWPklm¼h½�V

!4AB<)

!4-.

!\w#¾wr¿À@

!\w#¡¢Áo�

!496:;<!w#Â)AB<)

WWKÃTÄ�VGYS�XQ

ŤROdVGIh[�hÆQ

!4ÇÈÉ/ÊÊËÌ�Í#�É

!4ÈÉ/ÊÊËÎ3�Í#2ÏÉ{ÐÑ�

RkmÅOd

Pklm¼h½�

!4=>#?=@xoBo3

!"op

'()*°±²³´� µ´¶¸±´

«¨¬6�y/Ò$`

+,-./01234567&89:;<=>?@?ABC2DEFGÓÔ#ÕÖ×Ø�GÙQÚ#ÛÜ�Ý#Þßàáâxã3äå�5æ#ãç��èæ1é#ê¯+ë

ìí!#î<ï`/ðñò

ìí!#ó3&ðñò

Page 15: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

れば冬期でも出穂する。高緯度地域では夏生一年草の生活環をもつ。草丈が低いので目につかず,麦類

の収穫期には枯死している場合が多い。そのためあまり害草とはみなされていないが,発生量が多いと

麦類の減収をもたらすことは各地の無除草区の結果が示している。また,麦類への追肥を収奪して品質

面にも影響を及ぼしている可能性が高い。

オオスズメノカタビラ(Poa trivialis L.):牧草,芝生として栽培されるナガハグサ(ケンタッキ

ーブルーグラス,Poa pratensis L.)に似るが,葉舌の長さが異なり,オオスズメノカタビラは長く,

ナガハグサはごく短い。また植物体全体がざらつくこと,葉鞘が赤褐色を帯びることが多い点がスズメ

ノカタビラと異なる。さらに,出穂期間が限られ,出穂時の草高はオオムギを上回る。出穂直後の穂は

緑色だが,開花,結実が進むとともに紫色を帯びる。

帰化雑草と考えられており,路傍に多い。路傍,畦畔では多年生,麦圃内では冬生一年生として生育

していると考えられる。これまで,北海道で記録されていたのみだったが,香川県の麦作での問題が報

告されている(藤田ら,2004)。また,北陸地域でも路傍からの侵入事例を確認している。本草種の動

向については今後,注意を要する。

その他,二つ折りで抽出し,わずかでも葉耳があり葉に光沢があればホソムギ(Lolium perenne L.),

葉耳がなく全草ざらついていればカモガヤ(Dactylis glomerata L.)の可能性が高い。両種とも多年

生で,牧草として導入されて北日本で広く自生し,農地周辺に多いが,麦圃場の内部まで侵入すること

は少ない。ホソムギについてはネズミムギの項であわせて解説する。

<葉が巻いて抽出し,葉耳のあるグループ>

葉耳の大きさと葉鞘の毛で識別できる。麦類ではオオムギ(Hordeum vulgare L.),コムギ(Triticum

aestivum L.)の葉耳は大きく発達して茎を抱くが,オオムギの葉耳は特に発達し,相互に重なり合う。

ライムギ(Secale cereale L.)の葉耳はあっても目立たず,葉鞘に毛が密生する。

雑草では,シバムギの葉耳が明瞭で茎を抱くが,他の草種ではそれほど発達せず,痕跡程度のものも

ある。

オニウシノケグサ(Festuca arundinacea Schreb.):葉耳の縁にごく短い毛があり,葉の縁はざら

つく。牧草および緑化用に全国各地に導入された多年生草種で,ネズミムギ,イヌムギなどと混生する

ことが多い。農道,法面に普通にあるが,圃場内に侵入することは少ない。

ネズミムギ(イタリアンライグラス,Lolium multiflorum Lam.):葉鞘および葉身背面に光沢がある

ことが特徴である。典型的なホソムギとは葉が二つ折りで抽出することで識別できるが,自生するライ

グラス類はかなりの頻度でホソムギ,ネズミムギ両者の中間的な形質をもっており(山下,2002),DNA

レベルでの雑種はごく普通である(Tobina et al., 2008)。ライグラス類は自家不和合性をもつ他殖性

で相互に交雑可能であることから,連続的な変異の両極がネズミムギ,ホソムギである,とみなした方

がよいかもしれない。

全国各地に自生している。また,法面緑化資材として導入,定着したものが麦圃へ侵入する場合が少

なくない。東北以南の麦作で近年,その被害が年々増加傾向にあると思われる。

シバムギ(Elymus repens (L.) Gould.):コムギほどではないが,葉耳が明瞭に発達する。葉鞘に短

い毛を密生することが多いが,その密度には変異がある。東北地方以北で,地下茎由来のクローンが主

に問題となる。

シバムギと同じ Elymus属に分類されるカモジグサ(E. tsukushiensis Honda var. transiens (Hack.)

Page 16: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

Osada),アオカモジグサ(E. racemifer (Steud.) Tsvel.)は農道,法面に多い多年生の在来植物で

ある。葉耳はあるが爪状でごく小さい。カモジグサは栄養生長期の葉の広げ方が他草種と比べてやや乱

雑で‘寝乱れた’印象を受けるのも特徴といえる。カモジグサが畦などの湿った,硬い土地に主に生育

するのに対し,アオカモジグサは乾いた草地に生える傾向がある。

<葉が巻いて抽出し,葉耳はない>

葉鞘に毛があるものにはカラスムギとイヌムギがある。

カラスムギ(Avena fatua L.):葉鞘から葉身基部にかけてまばらに毛があるが,その密度は種内の

変異が大きい。幼植物の葉は幅,長さともにコムギ,オオムギ並みで,種子由来の葉ではここに挙げた

草種のうちで最も大きい。葉身の捻れ方向がコムギ,オオムギと異なり,カラスムギでは左(反時計)

回り,コムギ,オオムギでは右(時計)回りに捻れる。また,コムギ,オオムギに比べてやや葉身が灰

色を帯びた印象がある。

カラスムギとよく混同さていれる‘エンバク’には,飼料として栽培される6倍体種(Avena sativa

L.)と,ヘイオーツとして知られる緑肥用の2倍体種(A. strigosa Schreb.)が含まれる。後者は紛

らわしいことに“野生エンバク”とも称される。両種ともにカラスムギに比べて葉鞘の毛が少ない場合

が多いが,穂の形態を確認しないと識別は難しい。

カラスムギは麦作の世界的な雑草で,日本でも温暖地以西の畑地,固定転作圃場で大きな被害を及ぼ

している(浅井,2007)。

イヌムギ(Bromus unioloides H. B. K.):葉鞘に白毛が密生する。本州以南の路傍にネズミムギ,

オニウシノケグサとともに優占草種となっている。農道,路傍では株で越夏している。関東地域では農

道際から麦圃周縁部にイヌムギが侵入した圃場をしばしばみかける。同属のスズメノチャヒキ(Bromus

japonicus Thunb.)が関東地域内のムギ圃場で近年散見されるようになった。これも葉鞘に白毛が密生

するが,イヌムギは葉鞘が扁平であるのに対し,スズメノチャヒキは円筒型である。

以下の草種は葉耳がなく葉鞘が無毛である。コヌカグサ,オオアワガエリ,オオスズメノテッポウは

東北以北に多く,葉身がざらつく。

コヌカグサ(Agrostis gigantea Roth):シバムギと同様,東北以北で問題となる。葉耳の有無でシ

バムギと区別がつく。地下茎由来のクローンが主に問題と思われるが,麦圃内でどちらがどの程度寄与

しているのか不明である。北海道でオオスズメノテッポウ(Alopecurus pratensis L.)がときおり圃

場内に侵入する。穂の外見はオオアワガエリ(チモシー,Phleum pratense L.)に似るが,葉舌の形状

が異なることで識別できる。オオスズメノテッポウの葉舌は切形(途中で切りおとしたたように平ら)

で他の草種に比べて厚みがある。オオアワガエリの葉舌は波打つかなめらかだが,コヌカグサの葉舌は

距歯となる。

スズメノテッポウ類とカズノコグサは葉鞘,葉身ともざらつかない。カズノコグサはスズメノテッポ

ウと比べてやや葉身が幅広く,葉色が明るいが,幼植物段階で葉の形質のみでスズメノテッポウと識別

するのは困難で,根の色が異なる(森田ら,1990)。

スズメノテッポウ(Alopecurus aequalis Sobol.):日本の麦作では従来,最も問題になっていた草

種である。広義のスズメノテッポウを「水田型」「畑地型」の2変種に分類する考えがあり,両者はそ

の形態,生態に明瞭な差異がある(松村,1967)。前者を狭義のスズメノテッポウ Alopecurus aequalis

Sobol. var. amurensis (Kom.) Ohwi とし,畑地型に対してはノハラスズメノテッポウ var. aequalis

とする見解がある。

Page 17: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

スズメノテッポウに極めて近縁な種にセトガヤ(Alopecurus japonicus Steud.)がある。穂が大き

く,葯の色が白色であることが橙色のスズメノテッポウと異なる。関東地方以西で見られ,西日本では

麦作の雑草となる。その麦圃内での発生実態,スズメノテッポウとの生態的差異はよくわかっていない。

セトガヤ,スズメノテッポウ,ノハラスズメノテッポウは穎果のサイズが明らかに異なり,セトガヤ

が最も大きく,ノハラスズメノテッポウが最も小さい。それに相応して幼植物の葉のサイズも異なる。

したがって,同じ葉齢であっても草種ごとに除草剤に対する感受性が異なると考えられる。例えば,一

般にスズメノテッポウ5葉期までとされているチフェンスルフロンメチル剤の処理葉齢限界は実際に

は草種毎に異なる可能性が高い。

カズノコグサ(Beckmannia syzigachne (Steud.) Fernald):排水不良な転換田など土壌水分条件の

高い立地で発生が多い。特に西日本で問題となっている。スズメノテッポウとの成長点深度の違いがジ

ニトロアニリン系除草剤による効果の差をもたらすことが解明されている(森田,1994)。

スズメノテッポウ,カズノコグサについては本研修テキストの関連稿を参照いただきたい。

葉が巻いて抽出し,葉耳はないグループでは近年,ヒゲガヤ(Cynosurus echinatus L.)が青森県の麦

圃場で,ヒエガエリ(Polypogon fugax Nees ex Steud.)が暖地の麦圃場での蔓延が確認されている。

また,樹園地の草生栽培に利用され,道路法面に自生している帰化植物ナギナタガヤ(Vulpia myuros

(L.) C.C.Gmel.)もしばしば麦圃場内でも見つかる。

6.今後に向けて

このような,麦作のイネ科雑草の問題は近年,各地で増加していると思われる。‘思われる’とした

のは,発生動向を全国統一して経年的に観測する体制が存在しないので,増加を裏付けるデータがほと

んど存在しないためである。しかし,現地の実状を知る各地の担当者の多くが問題の増加を感じている。

筆者の見解だが,ある程度以上の栽培規模をもつ固定化された麦の転作団地には,かなりの割合でイネ

科雑草の問題が既に生じているか,今後生じる可能性が高いと考えている。

イネ科雑草の防除が困難である理由の一つは,麦類生育期に処理可能なイネ科用除草剤が日本では

2008 年時点で登録されていないことである。そのため,発生圃場ではジニトロアニリン系等,イネ科

植物に効果が高い有効成分を含む土壌処理剤に加えて,一部の草種にある程度の効果が認められている

スルホニルウレア剤,IPC を含む混合剤の体系処理等によって,かろうじて増加を抑えている場合が多

い。今後,担い手を主体とする麦作経営の規模拡大と省力化が進むならば,現状のイネ科雑草の防除手

段はそれに応えるものとは言いがたい。

麦作に発生するイネ科の難防除雑草に対する診断と防除対策の策定は,次のような段階で現場と研究

が連携・協力して取り組みを進めることが望ましい。詳しくは浅井(2006)を参照されたい。

1)草種を正確に同定する。出穂前の幼植物であっても葉節部等の形態から識別できる。

2)麦播種前,越冬前,越冬後のいずれの時期に出芽した個体が減収をもたらすかを特定する。それぞ

れの時期ごとに実施可能な防除手段を絞り込む。特に雑草害の主因が麦播種前から生えていた個体であ

った場合は,播種前の耕起または非選択性茎葉処理剤による防除を徹底する必要がある。

3)麦類播種後の出芽個体による雑草害も大きい場合,その出芽パターンを経時的・定量的に把握する。

出芽の観測には幼植物の識別が必須である。そして既登録の土壌処理型除草剤の効果を確認し,効果の

高い除草剤を選抜する。少なくとも現地で防除が必要な草種群に対して最も効果の高い除草剤が何かが

答えられる必要があるだろう。

Page 18: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

土壌処理剤の効果確認は,現地での出芽パターンが再現される条件での試験が望ましい。ポット試験

や種子を播き込んだほ場試験では雑草の出芽が揃ってしまうことが多い。そのため,実圃場に比べて剤

の効果が過大に評価されがちである。現地試験の場合は,無処理対照区において定期的な出芽観測を行

い,出芽パターンのデータが得られれば,試験結果の解釈を補助し,防除技術の適用範囲がより明確に

なる。試験場内の試験結果と現地の結果とのズレを正しく認識し,そのズレが何によって生まれ,それ

をいかに技術的に評価・解決するのかという視点が常に必要である。

4)既存除草剤を用いても防除が不十分な場合,栽培体系の改変など,耕種的対策も検討する。場合に

よっては集団ぐるみの土地利用体系の調整などが必要となる。

文献

青木政晴・酒井長雄 2004 小麦栽培ほ場におけるイネ科牧草類(ネズミムギ)の被害発生実態と防除対策. 北陸作物学会

報 40(別): 23.

浅井元朗 2002 麦圃に侵入するイネ科雑草の生態と葉による識別. 植調 36: 131-137.

浅井元朗 2006 植調麦作難防除雑草の現状と課題-現場の問題と研究を繋ぐために-. 植調 40(2): 61-70.

浅井元朗 2007 麦畑に侵入するカラスムギ:出芽の不斉一性という生き残り戦略. 種生物学会編「農業と雑草の生態学̶

侵入植物から遺伝子組換え作物まで」, 文一総合出版, pp71-93.

浅井元朗・與語靖洋 2005 関東・東海地域の麦作圃場におけるカラスムギ,ネズミムギの発生実態とその背景. 雑草研

究 50(2): 73-81.

藤田究・宮下武則・村上優浩 2004 香川県の麦ほ地におけるオオスズメノカタビラの発生とその防除. 雑草研究 49(別),

66-67

平野亮・亀山忠・平野裕二 2000 静岡県中遠地域の麦作におけるイタリアンライグラスの侵入状況と被害の拡大要因,

雑草研究 45(別),154-155.

Hubbard, C. E. 1984Grasses 3rd Ed. Penguin books, 476pp.

木田揚一・稲垣栄洋・浅井元朗・市原実・鈴木智子・山下雅幸 2007 静岡県中遠地域の転作圃場における夏期の管理条

件とネズミムギ及びヒロハフウリンホオズキの発生の関係. 雑草研究 52(別)22-23

西脇亜也・寺本めぐみ 2002 九州地域の麦作におけるイタリアンライグラス・カラスムギの発生実態-農業改良普及セン

ターへのアンケート結果-. 日草九支報 32:17-21.

松村正幸 1967 雑草スズメノテッポウの種生態学的研究. 岐阜大学農学部研究報告 25 129-208.

森田弘彦 1994 カズノコグサとスズメノテッポウにおける中胚軸の伸長特性とジニトロアニリン系除草剤に対する反応

の差異,雑草研究 39(3), 165-170 . 森田弘彦・川名義明・中山壮一 1990. 水田裏作雑草カズノコグサとスズメノテッポウの幼植物の簡易識別法と除草剤に

対する反応の差異,雑草研究35 (4), 373-376.

長田武正 1993 増補日本イネ科植物図譜,平凡社,777pp.

鈴木智子・市原実・山下雅幸・澤田均・稲垣栄洋・木田揚一・浅井元朗 2007 コムギ作におけるネズミムギの雑草害と

その達観調査精度. 雑草研究 52(別),18-19.

Tobina, H., Yamashita M., Koizumi A., Fujimori M., Takamizo T., Hirata M., Yamada T., Sawada H. 2008

Hybridization between perennial ryegrass and Italian ryegrass in naturalized Japanese populations. Grassland

Science 54, 69-80

Page 19: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

麦作の広葉雑草および抵抗性雑草の同定

九州沖縄農業研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 大段秀記

Ⅰ.麦作の広葉雑草の同定

Ⅰ-1.はじめに

麦作の雑草防除では、ネズミムギやカラスムギ、カズノコグサといった除草剤での選択的防除

が難しいイネ科雑草が問題となることが多い。広葉雑草は生育期に処理できる選択性除草剤があ

ることから問題視されることは少ないが、近年になって一部の草種が蔓延し、重大な被害を及ぼ

している。広葉雑草に対する選択性除草剤といっても、すべての広葉雑草に対して卓効を示すわ

けではなく、効果をほとんど期待できない草種も存在することから、問題となっている雑草の草

種を識別し、効果の高い除草剤を選択することが重要となる。本稿では発生面積が増加傾向にあ

り、問題となっているカラスノエンドウ、ヤエムグラ、さらに現在のところ局地的に蔓延してお

り、将来的に発生面積の拡大が予想されるタデ類とアメリカフウロについて解説する。

Ⅰ-2.カラスノエンドウ(Vicia angustifolia)1,2,3,4)

マメ科の雑草でヤハズエンドウとも呼ばれる。本州から九州にかけて広く分布している。発生

深度は深く、子葉は地上には出てこない。葉は互生で、第1葉は1対の2小葉である、線状の長

楕円形成植物体では小葉が 12~14 枚の偶数羽状複葉である。先端には巻ひげがあり、麦圃内で

は麦に巻きつきながら、麦に這うように生長する。莢は熟すと黒色で、種子も熟すと黒色になる。

種子の大きさは3mm 程度と大きく、千粒重も 14~15g と重いことから、麦収穫物に混入すると

選別が困難で、味噌などの麦製品に混入し、大きな問題となっている。似た草種にスズメノエン

ドウやカスマグサがあるが、カラスノエンドウはこれらの草種に比べて植物体や種子のサイズが

明らかに大きく、容易に識別できる。 防除は播種直後土壌処理剤ではペンディメタリンが比較的高い除草効果を示すが、前述のとお

り出芽深度が深いことからそれだけでの防除は困難である。生育期茎葉処理剤ではアイオキシニ

ルが高い除草効果を示し、チフェンスルフロンメチルは中程度、ピラフルフェンエチルはほとん

ど除草効果を示さないことから、カラスノエンドウが問題となる圃場ではアイオキシニル剤を使

用するようにする。

Ⅰ-3.ヤエムグラ(Galium spurium)5,6)

アカネ科の雑草で、全国に普通に見られる。子葉の先端がわずかにくぼんでいることで識別で

きる。第1葉は4枚の葉が輪生し、まれに5枚のものもある。生育が進むと6~8枚の葉が輪生

する。茎は四角柱状で、稜に沿って逆向きの棘がある。葉縁にも棘があり、麦圃内では麦にこれ

らの棘をひっかけながら這うようにして上へ生長する。種子の表面には鉤状の毛が生えており、

動物などにくっついて拡散する。 麦圃では発生が遅く不斉一なことから、播種直後土壌処理剤だけでは完全な防除は難しい。生

育期茎葉処理剤では、ピラフルフェンエチルが生育の進んだ個体でも高い除草効果を示す。

Page 20: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

Ⅰ-4.タデ類 1,2,5)

タデ類の中でも麦作で問題となるのは花期が早いハルタデかサナエタデであろう。いずれも全

国に分布する草種であるが、九州北部では収穫前の麦圃を真っ赤に染め上げるほど蔓延すること

がある。タデ類は似ているものが多く識別が難しいが、以下の点で識別する。 ○ハルタデ:葉の表面に「八の字」状の黒斑がある、托葉鞘の縁に短い毛がある ○サナエタデ:托葉鞘に毛がない、節があまり膨らまない ○イヌタデ:葉の表面に黒斑がない、托葉鞘の縁に長い毛がある ○オオイヌタデ:托葉鞘に毛がない、節全体が大きく膨らむ

Ⅰ-5.アメリカフウロ(Geranium carolinianum)1,7)

フウロソウ科の雑草で本州~九州の荒れ地や道端などに普通に見られる。畑では畦もしくは本

圃内の畦に近いところに見られる程度であったが、 近になって全体に蔓延している圃場が見ら

れるようになった。麦圃内では、草丈が麦と同程度までに生長する。葉は掌状に5~7に深く切

れ込み、さらにそれぞれが分かれる。葉柄は赤色に帯び、葉の縁も紅色に帯びていることが多い。

この赤色は、やせ地に生育するものほど濃くなる傾向にある。花が終わる頃には、葉が紅葉する。

果実の基部は袋状で、5つの種子が入っており、熟すと黒褐色になる。

Ⅰ-6.カズノコグサとスズメノテッポウ 8,9,10,11,12,13)

広葉雑草ではないが、水田裏作麦では主要問題雑草となっているカズノコグサについて若干触

れておきたい。形態の特徴については別稿を参照されたい。カズノコグサは水稲跡で発生が多く、

大豆跡で少ないと言われている。しかし、 近では大豆跡でも蔓延している圃場も多い。このこ

とには暗渠の劣化等により、圃場の排水性が悪くなっていることが関係しているのではないかと

考えられる。 カズノコグサはスズメノテッポウに比べて除草剤の効果が低い。出芽深度はスズメノテッポウ

に比べて深く、生長点深度も深いことが明らかにされており、このことが土壌処理剤の効果が低

い要因になっていると考えられている。また、スズメノテッポウの5葉期まで卓効を示す茎葉処

理剤のチフェンスルフロンメチルについては、3葉期以上のカズノコグサには効果が低く、土壌

処理剤との体系処理で1~3葉期に処理すると、高い防除効果を得られる。 以上のことから、十分な防除効果を得るためには、ごく初期にカズノコグサとスズメノテッポ

ウの判別をする必要がある。生育の進んだ個体では葉身や根の色で両種の判別が可能であるが、

ごく初期では植物体の形態の違いで判別することは極めて困難である。したがって、ごく初期で

は実生を掘り起こし、基部についている種子で判別するのが確実である。

Ⅱ.抵抗性雑草の検定法

Ⅱ-1.はじめに

除草剤抵抗性雑草が発生した圃場では、その圃場の被害防止のための対策除草剤への切り替え

や周辺圃場への拡散防止のための予防対策を講じる必要がある。しかし、除草剤処理後の落水や

オーバーフローなどの不適切な水管理なども残草の原因となりうることから、残草した雑草が抵

抗性雑草かどうかを確認する必要がある。そこで水稲作で問題となるスルホニルウレア系除草剤

Page 21: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

(以下 SU 剤)抵抗性水田雑草と麦作で問題となる SU 剤抵抗性およびジニトロアニリン系除草

剤抵抗性スズメノテッポウの検定法を紹介する。

Ⅱ-2.水稲作の SU 剤抵抗性雑草の検定法

水稲作の SU 剤抵抗性雑草の検定には、土耕法、迅速検定法、発根法、地上部再生法が利用され

ている。

Ⅱ-2-1) 土耕法 14)

ポット試験で圃場条件を再現し、残草するかどうかによって検定する方法。 <土耕法の手順>

①残草圃場より種子もしくは土壌を採取する。 ↓ ②種子もしくは土壌に休眠覚醒処理を施す。 ※越冬条件(湿潤・低温)にさらせば、ほとんどの草種は休眠覚醒する。 ※※翌年3月ぐらいには試験に供試できる。 ↓ ③オートクレーブ等で種子を殺した土壌をポットに充填し、上記の種子もしくは土壌を混合する。 ※採取土壌が十分量ある場合には、採取土壌だけを充填してもよい。 ※※可能ならば感受性とわかっている種子もしくは土壌についても同時に行う。 ↓ ④ポット土壌を代掻きする。 ※ポットは 1/10000~1/2000a ポットが適当である。 ※※ポットはハウス等の雨よけした場所に置く。 ↓ ⑤対象草種が子葉期~1葉期程度になったら SU 剤単剤を処理する。 ※処理時期が遅くならないように気を付ける。 ※※SU 剤以外の成分の影響を排除するために極力 SU 剤単剤を使用する。 ・ベンスルフロンメチル(単剤は国内で販売していないのでメーカーに相談する) ・ピラゾスルフロンエチル(商品名シリウス、製造を中止しているのでメーカーに相談する) ・イマゾスルフロン(商品名テイクオフ) ※※※SU 剤の処理濃度は標準処理量を×1として、感受性区;×0、×1/2、×1、検定区;×

0、×1/2、×1、×2程度の処理区を設ける。 ↓ ⑥処理後3週間程度で残草状況を観察する。

土耕法は検定する草種を選ばず、複雑な手順や操作も不要であるが、結果が出るまでに時間が

かかり、多検体を検定するには労力や場所を必要とする。

Page 22: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

Ⅱ-2-2) 迅速検定法 15,16,17,18,19,20)

SU 剤の作用酵素である ALS(アセト乳酸合成酵素)の活性阻害を比色分析により検定する方

法。

<分岐鎖アミノ酸の合成経路と迅速検定法の原理>

SU 剤 CPCA(KARI 阻害剤) ↓ ↓ ピルビン酸→(ALS)→アセト乳酸→(KARI)→→→→バリン、ロイシン ↓(酸、60℃処理) アセトイン(比色分析で赤色に発色)

※KARI:ケトール酸リダクトイソメラーゼ

感受性では SU 剤によって ALS が阻害されアセト乳酸が合成されず、アセトインも生成されない

ことから赤色に発色しない。一方、抵抗性では SU 剤を処理しても ALS は正常に機能することか

ら、アセト乳酸が合成され、アセトインが生成されて赤色に発色する。 <迅速検定法の手順> (1)除草剤・試薬処理

①6cm シャーレに KARI 阻害溶液(注1参照)を4mL 入れる。 ↓ ②+SU 区(SU 剤処理区)には ALS 阻害溶液(注2参照)を、-SU 区(SU 剤無処理区)には

蒸留水を 0.4mL 添加する。 ↓ ③検定試料(詳細は後述)を 50mg程度刻んで処理液に入れる。 ↓ ④30℃、明条件の培養器で 24~48 時間培養する。 ↓ ⑤試料をシャーレから取り出し、アルミ箔に包んで、冷凍保存する。 ※一旦、冷凍保存したほうがアセト乳酸の抽出効率が高くなり、数ヶ月間冷凍保存が可能である。

注1 KARI 阻害溶液の作成(使用直前に調整する) 終濃度が 25%MS 培地用混合塩類,500μMCPCA(1,1-cyclopropanedcarboxylic acid),10mM

ピルビン酸ナトリウムとなるように蒸留水に溶解する。この処理溶液は冷凍保存できるので、あ

らかじめ調整しておき、小分けしたものを冷凍保存しておくと便利である。 注2 ALS 阻害溶液の作成 ハーモニー75DF 水和剤一粒の重量(約 1mg)を測定して、蒸留水 10mL に溶解する。さらに、

ハーモニー一粒がx(mg)だった場合、この溶液 0.2/x(mL)をとって、蒸留水で 20mL に希

釈したものを ALS 阻害溶液とする。

Page 23: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

(2)アセト乳酸の抽出・アセトインへの変換・比色分析

①1.5mL マイクロチューブに 300μL の蒸留水を入れ、試料を入れる。 ↓ ②60℃で 5 分間、インキュベートする。 ↓ ③25℃で 45 分間静置(15 分おきにボルテックスで攪拌する)したものを抽出液とする。 ↓ ④新しい 1.5mL マイクロチューブに抽出液 100mL を分注する。 ↓ ⑤5%(v/v)H2SO4 を 10μL 添加し、ボルテックスで攪拌後、60℃で 30 分間静置する。 ↓ ⑥0.5%(w/v)クレアチン溶液を 50μL(注1参照)、5%(w/v)1-ナフトール溶液を 50μL(注

2参照)添加し、60℃で 30 分間静置する。 ↓ ⑦赤色の発色程度で抵抗性を検定する。

注1 クレアチンは水に溶けにくいので⑤と⑥の間に調整しておく(50mg/10mL 水)。 注2 1-ナフトールは 2.5N NaOH に溶かす(500mg/NaOH10mL)。すぐに溶けるので直前に溶

かす。 <迅速検定法の注意点> ①迅速検定法で検定可能な草種は、イヌホタルイ、コナギ、アゼトウガラシ属植物(アゼナ、ア

メリカアゼナ、タケトアゼナ、アゼトウガラシ)である。 ②イヌホタルイでは花茎の上部約 5cm を 1~3 本、コナギでは抽出中の未展開葉 1~2 枚、アゼト

ウガラシ属植物では成長点を含む茎頂部及び上位葉 2~4 枚を検定試料として供試する。検定試

料は生育の旺盛な個体から採取することが必要で、採取後すぐに除草剤・試薬処理を行うよう

にする。 ③-SU 区で発色が認められ、+SU 区でも発色が認められた場合に抵抗性と判断する。-SU 区

で発色が認められない、もしくは発色が薄い場合は再度検定する。アゼナは感受性でも薄く発

色することがあるので、薄い発色が認められた場合は別の方法でも検定する。

Ⅱ-2-3) 発根法 21,22,23)

SU 剤溶液中での不定根の発生・伸長程度によって検定する方法。発根法を行うには、デュポ

ン社が提供している発根法 ITO(Instant Test in Office)キットを利用すると便利である。発根

法で検定可能な草種は、イヌホタルイ、タイワンヤマイ、コナギ、ミズアオイ、アゼトウガラシ

属植物(アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナ、アゼトウガラシ)である。

Page 24: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

<発根法の基本的な手順>

①50mL 容のプラスチックチューブに SU 剤の溶液(後述)と無処理区には水を入れる。 ↓ ②検定したい個体を土ごと掘り出し、土を洗い流す。 ↓ ③根を1cm 程度に切りそろえ、茎基部がチューブ内の液に浸漬するように入れる。 ↓ ④25℃~30℃の培養器、もしくは室内で蛍光灯スタンド下に設置し、24 時間日長条件下で培養す

る。チューブ内の液が減少したら、減水分の水を加える。

↓ ⑤7~14 日間後に SU 剤処理区と無処理区の発根状況を比較する。

<SU 剤溶液の調整>

キットを利用する場合は、すでに薬剤(ベンスルフロンメチル)がチューブ内に付着している

ので、12.5mL の水を加えてフタをしてよく振る。処理翌日に 30mL まで水を加える。キットが

ない場合は、ハーモニー75DF 水和剤 0.5mg を 1L の蒸留水に溶かしたものを処理液とする。 <結果の判断の仕方> ○SU 剤処理区で明らかな発根が認められる→抵抗性 ○無処理区で発根が認められ、SU 剤処理区では発根が認められない→感受性 ○無処理区、SU 剤処理区ともに発根が認められない→判断できないので再検定 <イヌホタルイを検定するときの注意点>

大の花茎が約 20cm 以上で、分げつが 4 本以上の個体であれば検定可能である。開花から結

実期の個体が適してるが、根が茶色に変色しているものは適さない。花茎はチューブから出ない

ように 10cm 程度に切り揃え、花茎が多い場合は3本程度になるようにハサミで基部を傷つけな

いように株分けする。 <コナギを検定するときの注意点> 皮針形葉が2枚以上水面から立ち上がった個体で検定可能である。大きな個体ほど適している。

地上部はチューブから出ないように 10cm 程度に切り落とす。また枯死したり腐敗した部分も取

り除く。腐敗した根は、基部を傷つけないように気を付けて手で取り除ける部分を簡単に取り除

く。 <アゼトウガラシ属植物を検定するときの注意点>

5cm 以上に生育した個体で開花結実期までの個体で検定可能である。大きな個体ほど適してい

るが、枯れそうな個体は供試できない。アゼトウガラシ属植物を検定するときは根を掘り出すの

ではなく、2~3節以上(4-8cm 程度)残し切り取った地上部の先端を利用する。

Page 25: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

Ⅱ-2-4) 地上部再生法 24,25)

オモダカやウリカワは、発根法では検定が難しいことから、SU 剤を処理した個体の地上部の

再生状況から抵抗性かどうかの判断をする方法。 <地上部再生法の手順>

①検定する個体の茎葉部と根部を切る。 ※オモダカの場合 矢尻葉1枚~4枚程度の個体→茎葉部と根部を 2cm の長さに切る 矢尻葉4枚~8枚程度の個体→茎葉部と根部を 4cm の長さに切る ウリカワの場合

線形葉4枚~9枚程度の個体→茎葉部と根部を 2cm の長さに切る ↓ ②ワグネルポットに土壌を充填し、代掻き後に検定個体を移植する。 ↓ ③地上部の再生を確認後(3~7日後)に、ベンスルフロンメチルを5~7.5g a.i./10a 処理す

る。 ※ベンスルフロンメチルの入手はメーカーに相談する。 ↓ ④処理後3週間程度経過したら地上部の再生を観察する。

Ⅱ-3.スズメノテッポウの抵抗性検定法

スズメノテッポウには SU 剤(チフェンスルフロンメチル)抵抗性とジニトロアニリン系除草

剤(トリフルラリン、ペンディメタリン)抵抗性が確認されており、土耕法、迅速検定法、発根

法、発芽試験法がある。

Ⅱ-3-1) 土耕法

基本的な手順は水稲作の SU 剤抵抗性雑草の検定法と同じである。種子は 25℃~30℃、湿潤条

件に 30 日間さらす、もしくは夏季風乾貯蔵することで休眠覚醒する。チフェンスルフロンメチル

抵抗性を検定するときは、3~4葉期に処理する。ジニトロアニリン系除草剤抵抗性を検定する

ときは出芽前に処理する。ジニトロアニリン系除草剤は畑作の土壌処理剤であるので、土壌水分

や出芽深度など不安定要因が多いことから、感受性でも残草が若干認められることがある。

Ⅱ-3-2) 迅速検定法

チフェンスルフロンメチル抵抗性の検定に利用できる。ジニトロアニリン系除草剤抵抗性の検

定には利用できない。基本的な手順は水稲作の SU 剤抵抗性雑草の検定法と同じであるが、KARI阻害溶液に界面活性剤である Triton-X を 0.025%(v/v)となるように添加すると明瞭な結果を得や

すい。

Page 26: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

Ⅱ-3-3) 発根法 26,27)

基本的な原理は水稲作の SU 剤抵抗性雑草の検定法と同じである。 <発根法の手順>

①50mL 容のプラスチックチューブに処理区には対象薬剤の溶液(後述)、無処理区には蒸留水を

10mL 入れる。 ↓ ②検定したい個体を土ごと掘り出し、土を洗い流す。 ↓ ③根をすべて切り落とし、茎基部がチューブ内の液に浸漬するように入れる。 ↓ ④チューブは雨よけしたハウス内に静置する。

↓ ⑤およそ 20 日後に処理区と無処理区の発根状況を比較する。

<供試個体の調整> 4葉期以上の個体が適する。生育が進み、分げつが多く発生している個体は、2本程度になる

ように株分けしたものを供試すると明瞭な結果が出やすい。出穂期以降の個体は発根力が低下す

るので、さけたほうがよい。生育の違いや個体の大きさによって発根程度に差が生じるので、処

理区と無処理区で、できるだけ同じ生育量のものを供試する。 <薬液の調整> チフェンスルフロンメチルは、ハーモニー75DF 水和剤を 10g/100L 水の割合で溶解した液を

1000 倍希釈(0.075ppm)したものを処理溶液とする。トリフルラリンは、トレファノサイド乳剤

を 20 万倍(2.28ppm)~40 万倍(1.14ppm)に希釈したものを処理溶液とする。ペンディメタリ

ンは、ゴーゴーサン乳剤を 80 万倍(0.375ppm)に希釈したものを処理溶液とする。 <結果の判断の仕方>

処理区の個体が無処理区の個体と同程度に発根・伸長していれば抵抗性と判断する。チフェン

スルフロンメチルでは、感受性個体でも明確な不定根の発生が認められるが、その伸長は無処理

区に比べて強く抑制される。ジニトロアニリン系除草剤では、感受性個体でも不定根は発生する

が、1~2mm 程度しか伸長しない。

Ⅱ-3-4) 発芽試験法 27)

薬液を利用した発芽試験を行い、実生の生育状況から抵抗性を検定する方法。ジニトロアニリ

ン系除草剤の抵抗性の検定に適する。

Page 27: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

<発芽試験法の手順>

①濾紙を2重に敷いた6cm シャーレに処理液(後述)を4mL 添加する。また、蒸留水を添加し

た無処理区を設定する。 ↓ ②シャーレに休眠覚醒させた種子を 20 粒播種し、パラフィルム等で密封する。 ↓ ③15℃/25~30℃の変温、12 時間日長条件に設定した培養器内で培養する。 ※15℃定温でも発芽するが、変温のほうが速やかに揃って発芽する。 ↓ ④15~20 日後に幼葉の伸長程度を比較する。

<薬液の調整> トリフルラリンは、トレファノサイド乳剤を 10 万倍(4.55ppm)に希釈したものを処理溶液と

する。ペンディメタリンは、ゴーゴーサン乳剤を 80 万倍(0.375ppm)に希釈したものを処理溶液

とする。 <結果の判断の仕方> 処理区の個体が無処理区の個体と同程度に伸長していれば抵抗性と判断する。感受性個体では、

発芽はするものの、幼葉が1~2mm 程度しか伸長しない。

Ⅲ.引用文献

1) 笠原安夫 1968 日本雑草図説.養賢堂. 2) 浅野貞夫・廣田伸七 2002 図と写真で見る似た草 80 種の見分け方.全国農村教育協会. 3) 大段秀記・住吉正・小荒井晃 2005 カラスノエンドウに対する播種直後土壌処理型除草剤の防

除効果と出芽深度の影響.日作九支報 71:36-38. 4) 大段秀記・住吉正・小荒井晃 2006 カラスノエンドウに対する数種茎葉処理除草剤の除草効果.

日作九支報 72:54-55. 5) 浅野貞夫 1995 原色図鑑 芽ばえとたね.全国農村教育協会. 6) 大段秀記・住吉正・小荒井晃 2003 暖地の小麦早播き栽培におけるヤエムグラの発生の特徴.

雑草研究.48(別):68-69. 7) 清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七 2001 日本帰化植物写真図鑑.全国農村教育協会. 8) 森田弘彦 1994 カズノコグサとスズメノテッポウにおける中胚軸の伸長特性とジニトロアニ

リン系除草剤に対する反応の差異.雑草研究 39:165-170. 9) 森田弘彦・川名義明・中山壮一 1990 水田裏作雑草カズノコグサとスズメノテッポウの幼植物

の簡易識別法と除草剤に対する反応の差異.雑草研究 35:373-376. 10) 佐藤寿子・今林惣一郎・真鍋尚義 1989 水田裏作麦圃雑草カズノコグサの発生の特徴と防除

法.日作九支報 56:117-120. 11) 大段秀記・住吉正・小荒井晃・児嶋清 2003 カズノコグサの葉齢進展とチフェンスルフロン

Page 28: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

メチル剤の除草効果.日作九支報 69:45-47. 12) 大段秀記・住吉正・小荒井晃・児嶋清 2003 カズノコグサの発生量に及ぼす夏作の土壌水分

条件と小麦播種時期の影響.日作九支報 69:48-49. 13) 大段秀記・住吉正・小荒井晃 2004 カズノコグサとスズメノテッポウの出芽深度と土壌処理

除草剤の効果.日作九支報 70:16-18. 14) 汪光煕 2001 ポット試験法.日本雑草学会編「雑草科学実験法」.362-363. 15) 内野彰・尾形茂・渡邊寛明 2007 数種水田雑草におけるスルホニルウレア系除草剤抵抗性迅

速検定法の改良.東北の雑草 7:27-31. 16) Gerwick,B.C., L.C.Mireles and R.J.Eilers 1993 Rapid diagnosis of ALS/AHAS- resistant weeds. Weed Technol.7:519-524. 17) 内野彰 1999 スルホニルウレア抵抗性水田雑草の迅速検定法.植調 33:354-360. 18) Uchino,A. and H.Watanabe 2007 Effects of pyruvate and sucrose on acetolactate synthase activity in Lindernia spp. and Schoenoplectus juncoides in an in vivo assay.Weed Biol. Manag. 7:184-187. 19) 内野彰・渡邊寛明 2007 アゼトウガラシ属水田雑草 (Lindernia spp.) 及びイヌホタルイ

(Scirpus juncoides var. ohwianus)におけるアセト乳酸合成酵素活性の生育ステージ及び部位

による差異.雑草研究 52:11-16. 20) Uchino,A., H.Watanabe, G-X.Wang and K.Itoh 1999. Light requirement in rapid diagnosis of sulfonylurea-resistant weeds of Lindernia spp. (Scrophulariaceae).Weed Technol.13:680-684. 21) 村岡哲郎 2000 イヌホタルイの発根への影響を利用したスルホニルウレア抵抗性の簡易検定

法.植調 34:67-71. 22) Hamamura,K., T.Muraoka, J.Hashimoto, A.Tsuruya, H.Takahashi, T.Takeshita and K.Noritake 2003 Identification of sulfonylurea-resistant biotypes of paddy field weeds using a novel method based on their rooting responses.Weed Biol. Manag. 3:242-246. 23) 吉田修一・伊藤健二・権田重雄 2008 水田雑草のスルホニルウレア系除草剤抵抗性簡易検定

キットの開発.雑草研究 53(別):6-9. 24) 大野修二・柳沢克忠・花井涼・村岡哲郎 2004 スルホニルウレア系除草剤抵抗性簡易検定法

としての地上部再生法の確立.雑草研究 49:277-293. 25) 内野彰・大野修二・角康一郎・平岩確・永田信彦・仁木理人・天笠正 2008 多年生水田雑草

オモダカおよびウリカワにおけるスルホニルウレア系除草剤抵抗性およびその地上部再生法によ

る抵抗性検定.雑草研究 53(別):12. 26) 大段秀記・住吉正・小荒井晃・保田謙太郎 2007 不定根の発生を利用したスズメノテッポウ

の除草剤抵抗性簡易検定法.雑草研究 52(別):58-59. 27) 大段秀記・住吉正・小荒井晃・保田謙太郎 2008 発根法と発芽法によるペンディメタリン抵

抗性検定法.雑草研究 53(別):17.

Page 29: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

1

大豆作雑草の同定法 農研機構 東北農業研究センター カバークロップ研究チーム(福島) 小林浩幸

植物の名前を覚えるということ

植物の名前の覚え方には大きくわけて二つのやり方があると思う。一つは,特定の雑草に特定

の名前を結びつけて覚えるやり方。初めて自然に興味を持った子どもの覚え方はそういういうも

のだろう。「大型で軟弱なロゼット葉を持ち,引っこ抜くと白くて長大な直根がある草」は「ダイ

コン」。「春,すっと伸びた花茎に,三角形で平たい果実を鈴なりにつける草」は「ナズナ」。子ど

ものころ,昼間に見たお花の姿を思い出しながら図鑑を繰るのが楽しみだったという人も多いこ

とだろう。子どもはそうやってたくさんの植物の名前を正確に覚え,大人たちを驚かせることが

ある。もう一つは,「ダイコン」も「ナズナ」も「アブラナ」のなかま,と類縁関係に基づいて大

ぐくりに覚えるやり方。これは,単純な記憶力の衰えの見返りに,論理的な思考法を身につけた

大人の覚え方である。 私は,植物の名前の記憶について,神経細胞の伸張をイメージすることがある。それぞれの植

物の外見とその名前がくっつきあったものがバラバラと散在している状態,これは植物の名前を

覚え始めた子どもの頭の中である。普通の大人は,こうした組み合わせの数は子どものときから

さほど増えてはいないが,名前と映像の組み合わせだけでなく,「ダイコン」と「アブラナ」など,

別の種類同士が結びつくなど,構造化がいくらか進んでいるのだと思う。 植物の外見や生態などの知識と名前が組みになった記憶は植物の名前についての個々人の知識

体系の基本をなすものである。これまでに形成された記憶は大切にしたら良いし,名前を知らな

い植物を見かけたら,おっくうがらずに調べて記憶を増やす努力を続けたい。しかし,年齢とと

もに記憶力は衰えるので,こうした単純な記憶に必要な精神力は大変なものである。そこで私が

薦めたいのが大人の覚え方である。ちょっとしたこつで,名前がよく覚えられるようになる。ま

た,後述するように,類縁関係に基づくおおざっぱな覚え方は実用的でもある。 大豆栽培で生える雑草の名前とその同定の仕方をいちいち全部説明していたのでは,本が一冊

できてしまうほどの分量が必要だし,私自身,あまり記憶力が良い方ではないので,たくさんの

種類の区別点についていちいち覚えてはいない。次善の策としては,特に重要な雑草にしぼって

個別に詳しく説明するやり方と,同定の仕方の原理・原則を説明するやり方が考えられる。この

研修では,その2つの折衷,つまり重要な畑雑草を例にして,原理・原則に基づいておおざっぱ

に把握する大人の覚え方のちょっとしたこつについて,私の経験と知識の範囲でぽつぽつとお話

しようと思う。 さて,この研修を受けられる方々は雑草の名前を知る必要があって参加されたわけだから,な

ぜ名前を知る必要があるのかを説明する必要はないかもしれない。しかし,技術者・研究者が名

前を知る意味について,私なりの考え方を少しだけお話ししたい。上述したように,雑草の名前

と実物(形態)と生態や分布などの特性は,それぞれ固有の組みになっている。生えている雑草

がなにものか分からないうちは,ただ「雑草」が生えているというだけで防除に使える情報はな

んら得ることができない。名前を知って初めて人に聞いたり,文献などから特性を知ることがで

きる。知られていない雑草の特性を調べようとする研究者にとっては,名前を知らなければ得ら

れた知見を人に伝えることができないだろう。逆に,特性が名前を知る決め手になることもある。

大豆畑のノビエ類について細かく種を知りたいと思うとき,その畑が転換畑でなく,昔からの畑

だったとすれば,それはたぶんタイヌビエの可能性はなく,イヌビエである。エノコログサ属で

あることまでは分かっても,出穂前なのでまだ種が確定できない場合でも,その畑が東北で,良

く耕されている場所ならアキノエノコログサだろう。 (1)実物(形態),(2)特性と(3)名前はクロスワードパズルのようなものだ。そのうちの一つだ

けでは他が分からないこともあるが,二つが分かっていればもう一つの空欄を埋めるのはたやす

Page 30: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

2

い。世界に自分1人しかいないのなら,名前を付けたり調べたりせずに,実物と特性についての

知識を直接組み合わせて知識を増やしていくやりかたもできるかもしれない。しかし,実際には

ずっと昔から植物の研究をしてきた人が数多いて,膨大な知識が蓄積されている。その知識を活

用するのは,名前を介してでないと難しい。名前を介することで,大勢の人が関わって,ある時

は特性にあいたマスを,ある時は名前にあいたマスをうめ,そうやってクロスワードパズルを完

成させていく作業が名前を調べ,特性を調べる作業だと思う。

学名,特に属名を覚える

一般的な畑雑草には日本人が長く慣れ親しんできたものが多く,名前がよく知られたものも多

い。イヌビユは大豆畑で普通な雑草で,その名前を知る人も多いだろう。それでは,ホソアオゲ

イトウはどうだろう。これも大豆の重要な雑草だ。「ケイトウ」と呼ばれる園芸品を知っている人

には,穂が青くて細長いケイトウのなかまだろうと想像がつくかもしれない。もう一つ,「アマラ

ンサス」とよばれる新しい雑穀がある。植物体を見たことは無くても名前や穀粒を知っている人

は多いと思う。実はイヌビユ,ホソアオゲイトウ,ケイトウ,アマランサス,いずれもヒユ科の

一年草で,さらにケイトウ以外は属まで一緒の植物である(ヒユ属である)。アマランサスは

Amaranthusの日本語読みで,これがヒユ属の学名。作物としてのアマランサスは,それが属する

属名を日本語読みにしただけのものである。和名だけを覚えていては,類縁関係を類推するのは

なかなか難しいが,学名を知っていれば,これらがごく近縁の植物であることがすぐにわかる。

学名を覚えることを薦める一番の理由はここにある。 ご存じの方も多いと思うが,植物の学名は,種名はラテン語で記載されることになっており,

それが属する属名(名詞である)とそれを形容する形容語から構成する決まりになっている。2

つの単語で種名を表す決まりなので,二名法という。学名を覚えておくと類縁関係がわかるのは

そのためである。形容語まで組みで覚えるのは大変だが,属名だけなら数も限られるし,それま

でに覚えた雑草と共通の属が増えてくると,思わぬ類縁関係に感心させられることも多くなる。

何かに感心をすると,記憶はさらに定着しやすくなる。和名がわかったら,属名もぜひ確認して

ほしい。 大豆の重要な雑草の一つであるメヒシバを例に,もう少し学名の話をしよう。日本産のメヒシバの学名は

Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler ということになっている。Digitariaが属名で「ゆび」とか「てのひら」を

意味する名詞,ciliarisはそれを形容する形容語で,「縁毛のある」という意味である。つまり,メヒシバの学名

を無理やり和訳すれば「縁毛のあるてのひら」というような意味になる。「てのひら」は何本かに分枝した穂を,

縁毛は小穂の縁に並んだ毛を表したものだろう。学名に使われるラテン語は,それが指し示す植物を正確に言い

表さなければならないという決まりがあるわけではない。実際,標本の産地や人名にちなんだものもあるし,著

者の誤謬によってなづけられたものさえある(仮に著者がラテン語の意味を間違って命名したとしても,それを

理由にその学名が不適法であるとされることはない)。しかし,ラテン語の意味を知ると,命名のいきさつや,近

縁他種との区別点として著者が重要視した形質が想像できたりして案外おもしろいし,記憶の手がかりにもなる。

属名と形容語の後ろに続いているのは著者(命名者)である。

Digitaria ciliaris (Retz.) Koeler

属名 形容語 著者

メヒシバの場合,かっこ書きの部分があり,少々複雑だが,これについては後述する。よく目にする L.は分類

学の父と呼ばれるリンネ(Linnaeus)の略号であり,彼が名付けた学名であることを示している。

Digitaria ciliarisは最初,Retzius(1786)によって,Panicum属(キビ属)として記載された。学名は Panicum

ciliare Retz.。ちなみに Retz.は Retzius の略号で,この学名の著者(名前をつけた人)である。著者はどのよ

うに省略されてもよいわけでなく,例えば,International Plant names Index (http://www.ipni.org/)に標準

的な略号が示されている。その後,Panicum ciliare Retz.は 1802 年,Koeler によって Digitaria属に移された。

このような場合,もともとの著者をかっこ書きにして前に置き,学名を変更した著者をその後ろに置くのが決ま

りになっている。ちなみに,Digitaria属に移されたときに ciliareから ciliarisへと語尾が変化したのは,属

Page 31: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

3

名の性が中性から女性に変わったからである(ラテン語には名詞と形容詞の両方に性があり,一致させる必要が

ある。この場合,Panicum は中性なので,それを形容する形容語としては中性である ciliare が用いられたが,

Digitariaは女性なので,Digitaria に移す際に,女性である ciliarisに変化させた)。

科の特徴を覚える 除草剤をイネ科剤,広葉剤などと言うことがある。また,広葉雑草のなかでも,除草剤の効き

は科ごとに比較的まとまりのあることが多い。生態的特性も同じである。だから,生えている雑

草の科を知るだけでも,防除に役立つことも多い。まとまりが良いのは形態も同じであり,この

ことは,科までなら外見を見て比較的簡単に知ることができるということを意味する。科がわか

れば,さらに細かい同定も効率的になる。それは,図鑑類では植物の種類はあいうえお順ではな

く,分類体系に沿って,科ごとにまとめて配列されているからで,調べようとする未知の雑草の

科に目星がついていると,繰らなければいけないページ数はぐっと減る。私は,種の学名や名前

を覚えると同時に,主要な科の特徴も覚えておくことを薦めたい。 図1は,主要な畑雑草の分類学的な位置づけを示したものである。同じ畑雑草でも,互いに遠

縁な種の集まりであることがわかる。これらの種の畑地への適応様式は必ずしも一様ではないが,

同じ場所に生育しているからには,多少とも似通った部分があるはずで,例えば草本であること

のほか,短い生活環,強い種子休眠性などを通じた生活史の栽培暦への同調などがあげられる。

しかし,当然,(「畑雑草」という生態上のなかまでなく)もともと属する分類学上のなかまに共

通する特性はそれぞれに有しているはずで,このように互いに遠縁であることは,名前を調べる

のには都合がよい。 そこで,主要な大豆畑雑草について,それらが属する科に共通する特徴を中心に,肉眼による

観察でも分かりやすい形質にしぼって説明をしたい。科についての説明は,大豆畑雑草にかぎら

ず,科全体について共通のものとし,決定的な特徴がある場合には,その説明を優先した。ただ,

科は(属でもおなじ),個別の形質について構成種ですべて一致するとは限らない。例えば,図鑑

の科の説明には「草本,ときに木本。葉は対生または互生」などいう表現が随所でみられるが,

それではその科の特徴は一体何なのか,と言いたくなる。しかし,あるグループが分化した後に,

そのグループに属するある種で特定の形質がさらに分化して違ったものになってしまうことはあ

りうることである。いろいろな形質がまとまって違っていればそれは別のグループとされるが,

1つ2つの違いはあっても他がまとまっていれば同じグループにまとめるのが妥当だろう。その

ような少しの違いを科全体で積み上げると,先に例示したようなよく分からない表現になってし

まうこともある。結局は,説明の全部を良く読み,吟味しなければその科の特徴は見えてこない

ということなのだが,それでは図鑑の記載そのものになってしまうので,できるだけ分かりやす

い特徴だけを抽出するようにした。こうすると,科としての特徴があまりきれいに描けないこと

もあり,そのような場合には,科以下の,特徴的な属や種の特徴を個別に書かざるを得なかった。

良く描き切れていない説明は私の能力不足によるところが大きいが,そのような事情もあること

を理解していただけたらありがたい。科の説明のあとには,主な大豆畑雑草について,種の区別

の仕方を概説したが,網羅はされていない。どちらにしても実際の場面では自分で文献をひもと

いて調べる必要があるのだから,このテキストは,その際の基本的な考え方の例示に過ぎないと

考えて欲しい。なお,私はかねがね作付前の埋土種子の量は種構成を知ることが,合理的な雑草

防除を考える上で重要だと思っている。また,発生してしまった後であっても,できるだけ早い

時期に分かった方が防除に役立つ。その意味で,種子や幼植物の形質についても説明を加えた草

種があるが,網羅的ではない。このように説明が不十分なのは,これも私の能力不足による。お

許しいただきたい。

双子葉植物(モクレン綱)

双子葉植物は子葉が2枚であることからそう呼ばれるが,他にも比較的まとまった特徴があり,

Page 32: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

4

葉はふつう網状脈(中央脈から側脈が,側脈からさらに細脈が別れて互いにつながり,網の目状

になっている脈),単子葉植物に比べて幅広く,基部は鞘にならない。また,托葉がみられる。花

は4または5数性のことが多い。ソメイヨシノはバラ科サクラ(Prunus)属の園芸品だが,花弁

は5枚である(バラ科の雄しべの数は基本的には 5 の倍数だが,多数で,必ずしも安定していな

い)。また,初生根はしっかりとした主根となる。大豆栽培の重要な雑草の多くは双子葉植物であ

る。なお,防除の場面で「広葉雑草」という言葉が使われることがあるが,これは普通,線形(細

長い)葉を持つイネ科との区別のために使われる言葉で,分類学上の双子葉植物とは一致しない。 キク科 ASTERACEAE アメリカセンダングサなど

キク科の最大の特徴は頭状花序(頭花)を持つことである。ヒマワリやタンポポを思い浮かべ

ると良い。花茎の先端に着いている円盤状の大きな「花」が頭花で,全体が一つの花,ではなく,

実はたくさんの花が集まったものである。そして,頭花の下側を取り囲む緑色の萼のように見え

る器官は,萼ではなく,総苞と呼ばれる(一枚一枚は総苞片)。萼は一つ一つの花(小花)の構成

要素であるから,花序全体を取り囲む総苞とは区別するということである。 キク科の小花には,筒状花(管状花)と舌状花があり,前者しかない種,後者しかない種,両

方のある種があって,キク科のなかでのなかま分けで重要視されている。ちなみに,ヒマワリの

頭花をぐるりと囲む黄色い大きな花びらは一つ一つが舌状花の一部で,中心に密集しているのが

筒状花である。タンポポは全てが舌状花からなり,アザミの仲間は全てが筒状花からなっている。

遠目に見たときの花の印象は,こうした小花の構成によって決まっている。 さて,転換畑の大豆栽培でもっとも重要な草種はアメリカセンダングサだろう。他に,オオオ

ナモミやメナモミが繁茂する圃場がしばしばみられる,これらは今のところ分布が限られる。ア

メリカセンダングサの頭花はヒマワリに比べると小さく,花序という感じがしないが,よく見て

みると,やはり筒状花が集まっており,キク科であることを納得する(舌状花も混じるようだが,

小さくてよく見えない)。アメリカセンダングサの頭花には,ヒマワリなどと同じ総苞がみられる

が,その外側に,さらに特徴的な長い葉(苞葉)がみられる。水田雑草のタウコギは転換大豆畑

でも見られるが,アメリカセンダングサと同じ Bidens属に属する。アメリカセンダングサと同じ

く立派な苞葉が印象的で,近縁種であることが納得される(ただし,立派な苞葉は Bidens属に共

通の特徴ではない。あくまでも記憶の助けに)。ちなみにタウコギとアメリカセンダングサとは,

タウコギの葉が深く切れ込むものの単葉であるのに対して,アメリカセンダングサは複葉である

ことで,花が咲かなくても区別できる。 ご存じの通りアメリカセンダングサの種子(正確には痩果;薄い果皮が種子とくっついて離れ

ないもの)には2本のとげがあって,動物や人間に付着したり,あるいは水に浮かんで散布され

るが,キク科雑草としては,タンポポのように冠毛で風に乗って種子を散布する草種の方が典型

的である。そのような生態を示す畑雑草としてはヒメムカシヨモギやオオアレチノギク,ハルジ

オン,ヨモギがあげられる。これらはいずれも生活環がやや長いため,普通の大豆畑で繁茂する

ことはない。しかし不耕起栽培や,冬の間耕さず,大豆の播種時も一部は不耕起で残される有芯

部分耕では問題になることがある。これらの草種は土中の埋土種子から発生してくるのではなく,

その年に散布された種子が地表面にあるうちに発芽が始まるのが普通で,大豆の生育期間中に発

生が見られる。その作期中には雑草害を与えるほどには生育せず,大豆の収穫後に耕起されない

場合にのみ年を越えて大きく生育し,次年度の作で問題になる。幼植物の生育の進展は緩やかで,

その形態はナズナなどのアブラナ科雑草にやや似るものがあるが,毛が見られたり,表面の質感

が異なることで区別する。ヨモギは地下茎からの萌芽の場合が多く,実生についても本葉が全縁

でなく,特有の切れ込みが見られるので区別が容易である。東北の大豆畑で普通に見られるノボ

ロギクも全縁でないが,切れ込みはやや浅い。 なお,キク科には栽培ギク,シュンギクなどと共通する特有の芳香のあるものがあり,何の仲

間かよく分からない時には葉をもんで,においをかぐと同定の助けになることがある。 トウダイグサ科 EUPHORBIACEAE エノキグサなど

花は放射相称(整正)で単性(雄しべか雌しべのどちらかしかない花)。葉は普通互生,単葉で

托葉がある。トウダイグサ科のうち,コニシキソウなどのニシキソウ(Chamaesyce)属や,トウ

Page 33: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

5

ダイグサなどのトウダイグサ(Euphorbia)属は杯状花序(さかずきの形をした総苞)をもち,体

を切ると白い液が出る。杯状花序はこれらのなかま以外では見られない特殊な花序である。 トウダイグサ科の大豆の雑草として最も重要なエノキグサにはこうした特徴は見られないが,

花序はやはり特殊で,あみがさ状の総苞をもつ。エノキに似た鋸歯のある葉がエノキグサの名前

の由来だが,この特徴は第 1 葉にも現れる。子葉はまるく,先がわずかにくぼむことと合わせれ

ば,幼植物の段階でも見誤ることはない。 ヒルガオ科 CONVOOLVULACEAE アサガオ類など

花は常に放射相称(整正)で,環状となるが,これはもともとは5枚の花弁がくっつきあった

ものである。萼片は5枚で,離生する(つまりくっつきあわない)ことが多い。多くはつる性で

ある。葉は互生し,単葉。 従来から畑雑草として認識されてきたのは多年生のヒルガオやコヒルガオなどのヒルガオ類

(Calystegia 属,Convolvulus 属)だが,これらはどちらかといえば飼料作でよくみられる雑草

である。これとは別に近年,特に関東以西の大豆栽培でアサガオ類(サツマイモ(Ipomoea)属)

の発生が問題になっている。東北地方でも繁茂が見られる圃場が認められているが,分布は今の

ところ限られる。アサガオ類の多くは帰化種で,ヒルガオ類とは異なり,一年生である。生活史

の大豆栽培に対する親和性のほか,ベンタゾンがあまり効かないことが近年の繁茂の一因になっ

ている面がある。アサガオ類の種は,主に葉や花の形態で区別される。子葉が大きく,先がくぼ

むのはこれらのなかまの良い特徴である。

ナス科 SOLANACEAE イヌホオズキ類など

花は常に放射相称(整正)で,ヒルガオ科と同じく環状となり,先端はふつう5裂する(5つ

に切れ込む)。萼片も同様に環状で5裂する。萼片も環状であることはヒルガオ科との相違点であ

る。進化の過程を考えれば,5枚の花弁と5枚の萼片がそれぞれくっつきあって環状になる,と

表現する方が正確かもしれない。ナス科にはつる性の種もあるが,大豆畑に入りそうなものとし

ては顕著なつる性の雑草は見られず,どちらかといえば分枝して横に広がるものが多い。 最近はあまり強調されないが,双子葉植物を合弁花類と離弁花類に分類することがある。花弁

がナス科,ヒルガオ科のようなラッパ状や,ゴマノハグサ科のように,より複雑なかたちになっ

たものが合弁花である。これはもともと別々の花弁だったのが,進化の過程でくっつきあったも

ので,より分化の進んだ形質であると考えられる。 さて,ナス科の花は葉腋(葉が茎につく場所の上側)につく。葉は互生し,托葉はない。多く

の種類は毒(アルカロイド)を持ち,薬として用いるものもある(例えば,タバコ,チョウセン

アサガオ,コンフリー(ヒレハリソウ),ジャガイモの芽)。ナス科は毒草であることをまず疑っ

た方が良い。 ダイズの雑草として重要なのはイヌホオズキのなかま(ナス(Solanum)属)だろう。これらは発

生密度が高くなく,収量への影響が軽微でも,汚損粒が発生すれば経済的な被害は甚大である。

草地などで重要な多年生雑草ワルナスビも同属だが,イヌホオズキのなかまはとげがなく,球形

の果実が紫~黒色に熟すものが多い。また,関東以西ではホオズキ(Physalis )属の帰化雑草の

繁茂も見られ,難防除雑草とされている。ホオズキ市で売られるホオズキと同様,丸い果実(液

果)を肥大した萼がゆるく包む。いずれも上述のアサガオ類と同様,ベンタゾンが効きづらいの

は系統的に近縁であることを考えると記憶しやすい。

タデ科 POLYGONACEAE オオイヌタデなど

単葉(葉身が1枚でできている葉。複数の葉でできているのを複葉という。)の葉が互生(茎の

一つの節に葉が1枚ずつ互い違いに着いていること。同じ節の左右に1枚ずつ着いているのを対

生,3枚以上,ぐるりと着いているのを輪生という。)し,節,つまり葉の付け根の茎のまわりに,

膜質のさや状のもの(托葉鞘)があるのはタデ科である。 作物栽培上,特に重要で普通なタデ科草本をタデ類と総称することがあるが,これは普通,タ

デ科の中のタデ(Persicaria)属を指す。タデ科の重要な雑草としてはこれ以外にもギシギシや

スイバのなかま(Rumex 属)があるが,これらはもともとは草地や畦畔の要素で,普通の大豆畑

Page 34: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

6

に入ることはない。ギシギシのなかまは牛糞堆肥などに混じって持ち込まれることがあるが,多

くの場合,栄養繁殖体からの萌芽のため,サイズもタデ類よりもずっと大きく,また引き抜くと

栄養繁殖体(根片)がくっついてくるので,生育初期でも区別はできる。 タデ属雑草の中でも大豆栽培で特に重要なのはオオイヌタデやハルタデ,イヌタデである。第

一の分類点は托葉鞘の縁に生える毛の有無と長さである。オオイヌタデは毛を欠くことが多く,

節がふくれる。ハルタデは短く(1-2mm 程度),イヌタデは長い(5-10mm 程度)。托葉鞘は,ごく

初期の本葉にも見られるので,幼植物のうちでもよく観察すれば見分けがつくことが多い。 子葉は,上述のヒユ類やシロザよりも幅広の場合が多い。また,左右にまっすぐではなく,や

やハの字型につく傾向がある。オオイヌタデはその傾向が明らかでないが,幅がせまく緑白色で

毛があるのが特徴である。イヌタデの子葉は他に比べて丸みを帯びる。 このほか,転換畑に特有の草種としてヤナギタデがあげられる。これは芽生え,いわゆるスプ

ラウトを刺身のつまにする草種で,葉を噛むと辛い。幼植物は,なれないと形態的には微妙なこ

ともあるが,噛めばわかる。転換まもなくの畑では高い密度で発生することがあるが,オオイヌ

タデほど大型にはならない。 タデ属の種子(実際は果皮をかぶった痩果である)は褐色または黒色,表面はなめらかで光沢

があるものが多い。サイズは畑雑草としては大きい方で,2-2.5mm ほどある。かたちは円形で扁

平(オオイヌタデ,ハルタデ)か,3 稜形(イヌタデ)が典型である。ヤナギタデはこれらとは

趣が異なり,やや扁平だが一方の面の中央に鈍い稜(かど)があり,光沢がない。 オオイヌタデは開花が遅く,種子散布も遅いが,植物体が大きく,大豆の草冠を突き抜けるの

で残草すれば害は著しい。ハルタデは開花が速く,種子散布が速いので種子を落とさせないため

には早めの防除が必要である。イヌタデはさほど大きくはならないが花期が長く,大豆が葉を落

とした後も青々としても種子を散布し続ける。 スベリヒユ科 PORTURACACEAE スベリヒユ

葉は多肉質で全縁(縁がなめらかで,切れ込みがないこと)。スベリヒユ科の雑草はスベリヒユ

だけである。ちなみに園芸品のマツバボタンはスベリヒユと同属。全縁,無毛でぷっくりとした

葉は,スベリヒユと共通の特徴である。スベリヒユは子葉も多肉質で赤みを帯び,他の畑雑草と

の区別はたやすい。種子は 0.6mm 程度と主要な畑雑草のなかではもっとも小さな部類に入る。丸

く,やや扁平で,へそがあり,へその近くで両面がややくぼむ。また,種皮には突起が密生する。

こうした特徴はコハコベなどナデシコ科の草本と共通するもので,ナデシコ科と近縁であること

を認識させられる。スベリヒユは転換畑では少なく,もともとの畑地に多い。初期生育は遅いが

地力の高い畑ではがっしりと横に広がって大きく育ち,養水分競合が問題になる。 ヒユ科 AMARANTHACEAE ホソアオゲイトウなど

葉は単葉で全縁。花は小さく,花弁はない。萼片はふつう 5 個,乾いた膜質で,同じく乾いた

膜質の苞が付属する。花は多数が密集して穂になるか,葉腋に密生する。アカザ科ときわめて近

縁だが,膜質の萼片を持つ点で異なる。子葉はやや長く,わずかに肉質を帯びる点でシロザに似

るが,シロザよりもやや幅広。葉の中央に脈が見られることがシロザとの明らかな区別点である。 ヒユ類で重要な畑雑草はいずれもヒユ(Amaranthus)属で,中でも重要なのは大型になって大

豆の草冠を突き抜けるホソアオゲイトウで,他にイヌビユ,ホナガイヌビユなどがある。イヌビ

ユはホソアオゲイトウほど大きくならないが,がっしり大きく育つ場合にはスベリヒユのように

養分競合が強く生じるかもしれない。これらの種は国内の地理的分布がいくらか異なるとされる

が,重要な雑草の割には案外よくわかっていない。これは,確実な同定には萼片や苞の形態をル

ーペか実体顕微鏡観察する必要があり,面倒な面があるのでヒユ類とひとまとめにした報告が多

いためである。開花前は,葉の先のくぼみの有無が目のつけどころといわれるが,幼植物ではど

れもいくらかくぼむので区別は難しい。ただ,逆に,花を丹念に調べれば比較的確実に区別がで

きるグループということもできる。 種子は小さく,1mm 程度,円形でやや扁平(凸レンズ状)。褐色~黒色で,光沢がある。近縁の

シロザとよく似ており,これらが近縁であることが知られるが,ヒユ類の種子はシロザよりわず

かに小さい場合が多く,また,シロザの種子が黒いのに対して,褐色がかるものが多い。また,

Page 35: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

7

顕微鏡で観察すると,レンズの縁にあたる部分はぐるりとわずかにくびれ,アダムスキー型円盤

の上面側のようにも見えるが,シロザにはそれは見られない。 ヒユ科は赤道を中心に,南北半球に分布する。近縁で良く似るアカザ科が南北半球の温帯を中

心に分布するのと好対照をなす。畑のヒユ類の発芽適温はシロザに比べて高く,発生がやや遅い

のは,このような地理的分布と関連があるかもしれない。

アカザ科 CHENOPODIACEAE シロザなど

塩性湿地や乾燥地に分布することから,乾燥への適応が見られる。例えば,根が深く,葉が小

型で表面が粉状ないし毛に覆われ,また,多肉質のものもある。雑草ではないが,北海道厚岸な

どの海岸にみられ,赤く色づく多肉植物として有名なアッケシソウ(Salicornia europaea L.)

はアカザ科である。アカザ科で最も重要な雑草であるシロザは水田から転換してまもなくの大豆

畑に発生することはなく,畑地化が進んで土壌の乾燥とともに増えてくる。つまりシロザは草種

としては(転換畑でなく)畑地的な要素であり,このことは,本来,乾燥地に適応したグループ

の一員であることを考えると理解しやすい。なお,上に説明したシロザと比較的近縁のヒユ類も,

多少とも多肉的な形態を示し,畑地的な要素であることは組にして覚えておくとよい。

シロザの子葉はわずかに肉質を帯び,細く長い。中央脈が見られない点で,ヒユ類とは確実に

区別できる。発芽適温はヒユ類よりも低く,大豆の播種期よりもずっと前に出芽が始まっており,

播種の時にはすでにかなり大きな個体になっていることもある。ヒユ科の項でも述べたように,

このことは,本来の分布が南北の極側にいくらか偏っていることと一緒に理解すると良いかもし

れない。

単子葉植物(ユリ綱)

単子葉植物は子葉が1枚であることからそのように呼ばれるが,他にもよくまとまった特徴が

ある。同定に役立ちそうな特徴を言えば,葉は平行脈(途中から枝わかれせず,葉の付け根から

先端までほぼ平行に通っている脈)で,かたちはふつう線形か長楕円形,つまり細長い。また,

花は3数性(花弁,おしべなど,花の構成要素が3か3の倍数個からなること)。バナナの実をや

さしく崩すと,きれいに3つに分けられるのをご存じだろうか。これはバナナが3数性をとるこ

とに由来する。ちなみにバナナは単子葉植物であるバショウ科(MUSACEAE)の植物である。双子

葉植物である大豆とは遠縁で,除草剤の効きをはじめとしていろいろな特性が違っているので防

除は比較的簡単な場合も多い。しかし,転換畑での大豆栽培では水稲栽培との兼ね合いから見過

ごすことができない。また,長い目で見れば,今後,不耕起栽培など,より土壌攪乱の少ない栽

培法が指向されると考えられるが,そうした栽培法では,イネ科雑草が優占しやすい傾向がある。

イネ科 POACEAE イヌビエなど

葉は細長く(線形),並行脈をもち,茎に沿って左右2列にならんで,節で茎と付着する。葉が

葉身と葉鞘からなるのはイネ科の際だった特徴である。葉鞘は茎を包み込んで茎を補強する。イ

ネ科の花の呼び方は特殊である。花の集合体は穂とよばれるが,穂は小穂という部品からなって

いる。イネ科の同定,特に近縁種間の区別にあたっては,この小穂の形態,特にそれを構成する

部品の,他との相対的な大きさ(長さ)の違いが決め手になることが多い。こうした花に関する

用語を知らないと図鑑を読むことさえできないので,簡単に説明をするが,残念ながら,図鑑に

よって用語の使い方がいくらか異なる。ここでは長田(1989)にしたがう。これは,大井(1983)

の用法とも同じである。イネ科の穂を形作る基本的な部品が小穂であると書いた。小穂は,外側

からまず,緑色で,後に退色して籾の色になる葉のようなもの,すなわち包穎で覆われている。

包穎は左右に2枚あり,外側を第一包穎,内側を第二包穎という。その内側には1個ないし複数

個の小花が入っている。それぞれの小花は一番外側の護穎,その内側の内穎とよばれる葉の変形

したものと,その中にある子房や雄しべ,雌しべなどからなる狭義の花から構成される。コムギ

とオオムギでは,穂のようすが何となく異なるが,オオムギは一つの小穂が一つの小花から,コ

Page 36: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

8

ムギは一つの小穂が複数の小花から成り立っているのが決定的な違いである。複数の小花から成

り立っている場合でも,一部の花が退化して稔らないことも多い。このような場合でも,小花の

部品の一部は立派なものが残っていることがある。例えば,下に,代表的な畑雑草としてノビエ

類,メヒシバ,エノコログサ属,クサキビの見分け方を説明するが,これらの草種の小穂はもと

もと2つの小花からなっている。そのうち下方の第一小花は退化して,実際に稔るのは上方の第

二小花だけである。しかし,退化した第一小花の部品である護穎はりっぱなものが残り,穎果の

裏側(平たい方の面)を覆っている。 さて,大豆栽培で問題になるイネ科の種類はそれほど多くはない。転換畑で最も普通に見られ

るのはノビエ類(ヒエ(Echinochloa)属雑草の総称)で,乾燥した畑だとメヒシバが多く,他に

はエノコログサ(Setaria)属,ヌカキビなどのキビ(Panicum)属の雑草が見られる。メヒシバ

は南方で多い傾向がある。北海道など北方ではアキメヒシバが比較的よく見られるらしい。これ

らの草種は,穂を見れば一目瞭然で,草種を大きく間違うことはない。ここでは幼植物の見分け

方をまじえて説明したい。ヒエ属は,イネ科の特徴となっている葉身と葉鞘の境目にあるべき葉

舌(小舌)がないことで他と見分けられる。これは他の属にはみられないヒエ属の決定的な特徴

である。また,地上部の地際付近がやや扁平なのもヒエ属の特徴である。ヒエ属内の種の区別は,

小穂によるのが確実である。大豆畑でもっとも普通で重要なイヌビエの小穂は 3mm ほどで,

4-5.5mm ほどのタイヌビエよりも明らかに小さい。また,第一包穎の長さは小穂全体の長さの 1/3

ほどで,タイヌビエは 1/2 かそれより長い。なお,タイヌビエは本来水田雑草であり,元々畑だ

った圃場には見られない。大豆畑で,他に比べて葉がやや幅広,軟弱で軟毛が密生するイネ科は

メヒシバ以外にはない。このような特徴は子葉にも見られるので出芽直後でも見分けられる。ヌ

カキビの子葉はやや幅広でメヒシバによく似るが,無毛で葉脈(平行脈)がはっきりと見える点

で区別できる。ヌカキビと同属の近縁種に帰化雑草であるオオクサキビがあるが,ヌカキビの小

穂が下向きにたれる一方,オオクサキビの小穂は穂の枝に圧着する(ぴったり寄り添う)ことな

どで区別できる。エノコログサ属は葉舌が退化し,1条の毛の列になっているのが他属との良い

識別点である。種の区別は,ヒエ属と同様,穎果のサイズや形態によるのが確実で,第二包穎が

小穂と同長で,小花(実際に稔る第二小花のことである)をほとんど頂きまで覆うのがエノコロ

グサ,第二包穎が小穂よりも短く,小花の上部が裸出するのがアキノエノコログサである。東北

では,大豆畑に入るのは普通アキノエノコログサで,エノコログサは路傍や果樹園くらいにしか

見られないが,関東以西ではエノコログサが畑に普通に入るという。 なお,イネ科は穎(種子を包んでいる皮)が土中に残るので,実生をしずかにほりあげて,そ

の形態から見分けることも可能である。穎が良く保存されていれば,実生では難しい種レベルの

同定もはっきりとできる場合が多い。この場合にはもちろん,小穂の形態が同定の決め手になる。 カヤツリグサ科 CYPERACEAE カヤツリグサなど

葉は細長く,イネ科と同様に葉身と葉鞘からなるが,普通,葉鞘は閉じて(切れ目なく)筒状

になる。花序の基本的な単位を小穂と呼ぶのもイネ科と同じである(小穂の構成部品の呼び方は

イネ科とは異なる)。このように,全体のようすはイネ科とよく似るが,茎が三角の横断面を持つ

ことはイネ科との大きな違いである。この特徴は,幼植物でもみられるので,イネ科とカヤツリ

グサ科の区別は比較的早いうちから可能である。両者は形態的にはよく似ているが,実はそれほ

ど近縁ではなく(形態的な類似は平行進化の結果であると考えられている),イネ科とカヤツリグ

サ科で除草剤の効きが異なるのは,両者が遠縁であることと無関係でない。今回は,カヤツリグ

サ科の具体的な草種についての説明は行わないが,生えてきた雑草がイネ科であるかカヤツリグ

サ科であるかを早めに見極めるだけでも,防除上重要な意味がある。 ツユクサ科 COMMELINACEAE ツユクサなど

葉は互生し全縁,基部は茎を完全に包む鞘になる。茎がないか,節のはっきりした多肉の茎を

持つ。6枚の花被片のうち,外側の3枚は緑色の萼片状,内側の3枚は花弁状である。 大豆の雑草として重要なのはツユクサで,転換畑ではイボクサが見られることもある。ちなみ

に庭で栽培され,学生実験で細胞の観察をするムラサキツユクサもツユクサ科だが,これらの3

Page 37: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

9

種は互いに属が異なる。 子葉はイネ科やカヤツリグサ科と比べて肉厚で光沢がある。特にツユクサは幅広で(楕円形)

大きい。種子は 2.5-3.5mm と大型で,灰褐色~灰黒色。ツユクサ,イボクサの種子の背面は丸み

を帯び,腹面は平らで,線形のへそがある。いずれも表面はでこぼこして,うっかりすると小石

とみまちがうが,へその線を見つけると,小石ではないとわかる。サイズはツユクサの方がひと

まわり大きい。

大豆栽培への応用(まとめにかえて)

大豆栽培の実際の場面では,雑草がいつ発生し,いつどれくらいの大きさになって,いつ種子

散布して枯死するのかを知るのがいちばん重要だろう。つまり生活史とサイズの問題である。た

とえば,発生密度がどんなに高くても,矮小なまま枯死したり,また,競合の影響が小さい時期

に最盛期を迎える雑草なら問題は少ない。もう一つ重要なのは,その雑草の属する大まかなグル

ープである。これは,除草剤の効きに関わってくることがあり,適切な除草剤の選択のために重

要である。近縁種間あるいは種内で生活史や除草剤の効きが異なることもないわけではないが,

それは個別におぼえるしかない。新しい栽培法や防除法の技術開発のためにとるデータとしては,

科や属レベルだけでは心許ないが,現場の防除だけを考えるのなら,種以下の同定は普通必要で

はないだろう。水稲栽培などに比べて総じて防除技術のレベルが低い段階に止まっている大豆栽

培では特にそうである。科または属のレベルの説明を主にしたのはそういう意味である。 そこで,一般的な大豆栽培で,雑草の同定が求められる場面と対応について,少しだけ想定練

習をしてみたい。ここでは秋耕をせずにそのままになっていた畑に,ハローシーダーで大豆を播

種することを考える。すでに雑草が相当繁茂していたとする。それが越年草(一年生冬雑草)で

あるのか,多年生雑草であるのか,あるいは夏雑草(一年生夏雑草)で対応は異なる。冬雑草で

あれば,事前にロータリー耕をしておけばよい。播種の支障になりさえしなければ,播種時のハ

ローだけですむこともある。これらは初夏の耕耘で効率よく防除できるし,残草したとしても早

めに枯死するからである。しかし,ヨモギやギシギシ類,あるいはイネ科の多年生雑草が繁茂し

ていたとすれば,非選択性除草剤の散布も考えるべきだろう。多年生雑草の生育が盛んなのは初

夏までのことが多く,大豆の初期生育が良くてその時期を乗り越えられるなら,当作への影響は

少ないことも多い。ただ,これらは次作ではさらに発生量が増える可能性が高いので,収穫後に

吸収移行型の非選択性除草剤の散布,プラウ耕も含めたていねいな耕起などで徹底的な防除を図

る必要がある。もっとも慎重な対応が必要なのは夏雑草の場合である。雑草量(乾物重)として

は少なくても,取り残しがないように,特にていねいな耕起が必要で,それでも残草があれば,

再度耕起する必要がある。 次に,播種後しばらくして,雑草の実生がびっしりと生えてきたとする(耕耘が引き金になっ

て一斉に発生するのは一年生の耕地雑草の特性である)。しかし,これがヒメムカシヨモギ,ハル

ジオンなどのキク科の越年~二年生,多年生雑草ならそう慌てることはない。栽培期間中の中耕

培土や,場合によっては収穫後の秋耕を少していねいに行うことでも対応可能かもしれない。冬

雑草の場合も同様である(ただし,東北以北や涼しい夏には生育中期に至るまで雑草害を生じさ

せる恐れがある)。一方,夏雑草の場合には,早めの除草剤処理や中耕が必要になる。当然,除草

剤の選択に当たっては,種構成をある程度知っておく必要がある。なお,一般的に,中耕の時期

が遅いほど,タデ類やシロザなどの広葉雑草は減り,その代わりイネ科雑草がやや増える傾向が

みられる。 大豆の開花期以降は,今のところ有効な防除手段はないので,大豆の草冠が閉じたとき,その

上に抜き出た雑草は手取りによるしかない。イネ科の場合には,収穫期には枯れて倒れているこ

とも多いので,残草による光や養分競合による大豆の生育抑制が我慢できる程度なら,放ってお

くという選択枝もある(新たな種子散布は覚悟しなければいけない)。しかし,残っているのがヌ

ホオズキ類など汚損粒を発生させる種類の広葉雑草の場合には念入りな防除が必要だし,収穫物

を全部捨てる覚悟がないかぎり,最終的には手取り除草もせざるを得ない。なお,上述したキク

科の越年~二年生,多年生雑草は草冠の下に入ってしまえば当作での影響は少なくても,大豆が

Page 38: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

10

落葉後に日光を浴びて急速に生育するので事後処理が重要である。 上の想定練習でも,種以下のレベルまで細かに草種を知る必要のある場面はそれほど多くはな

かった。まずは科,属のレベルでおおざっぱな同定ができることを目標にしよう。おおざっぱな

同定のためには,それらのグループに共通した特性を知る必要がある。しかし,すこし逆説的に

聞こえるかもしれないが,おおざっぱな同定のためには,そのグループに含まれる個別の草種に

ついての知識が役に立つ。始めに書いたように,個別の草種についての知識を少しずつ蓄え,あ

るいはすでに蓄えられている知識を基本にして,おとなの知恵で,知識の構造化をすこしずつ図

っていく,ということだろう。大変なエネルギーが必要というほどのことでもないが,一朝一夕

にというわけにもいかない。この研修が,皆さんが行うそうした知的な作業のほんのわずかな手

がかりでもなれば幸いである。

引用文献

1) 浅野貞夫 1995. 「原色図鑑 芽ばえとたね」, 全国農村教育協会, 東京. 2) Henrard JTH 1950. Monograph of the Genus Digitaria, Universitaire Pers Leiden, Leiden. 3) Heywood VH, Brummitt RK, Culham A. and Seberg O. 2007. Flowering Plant Families of the World,

Firefly Books, Ontario. 4) The International Plant Names Index 2008. http://www.ipni.org/ (2008年 7月 18日に確認) 5) 石戸忠 1985. 「目で見る植物用語集.」, 研成社, 東京. 6) Iwatsuki K, Bufford DE and Ohba H (eds) 1993, 1995, 1999, 2001, 2006. Flora of Japan Volume 1,

2a,2b, 2c, 3a, 3b, Kodansha, Tokyo. 7) 神奈川県植物誌調査会編 2001. 神奈川県植物誌 2001. 神奈川県立生命の星・地球博物館, 小田原. 8) 北村四郎・村田源・小山鐵夫 1964. 「原色日本植物図鑑」(3分冊), 保育社, 大阪. 9) Kobayashi H, Nakamura Y and Watanabe Y. 2003. Analysis of weed vegetation of no-tillage upland

fields based on the multiplied dominance ratio. Weed Biol. Manage. 3: 77–92. 10) Kobayashi H. and Oyanagi A. 2006. Soybean sowing date effects on weed communities in untilled and

tilled fields in north-eastern Japan. Weed Biol. Manage. 6: 177-181. 11) 中山至大・井之口希秀・南谷忠志 2000. 「日本植物種子図鑑」, 東北大学出版会, 仙台. 12) 長田武正 1993. 「増補 日本イネ科植物図譜」, 平凡社, 東京. 13) 日本植物分類学会 2006. 「国際植物命名規約(ウィーン規約)2006 日本語版」, 日本植物分類学会, 上越.

14) 沼田真・吉沢長人編 1975. 「新版日本原色雑草図鑑」, 全国農村教育協会, 東京. 15) 大澤雅彦監訳 2005.「ヘイウッド 花の大百科事典」, 朝倉書店, 東京. 16) 大井次三郎 1983.「新日本植物誌 顕花編 改訂版」, 至文堂, 東京. 17) 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・亘理俊次・冨成忠夫編 1982. 「日本の野生植物 草本」(3分冊), 平凡社, 東京.

18) 関根好次 1959. イネ科の小舌の諸型. 植物研究雑誌 34: 129-134. 19) 清水矩美・森田弘彦・廣田伸七 2001. 「日本帰化植物写真図鑑」, 全国農村教育協会, 東京. 20) 清水建美 2003. 「日本の帰化植物」, 平凡社, 東京. 21) 平智文・大川茂範・吉田修一 2007. 宮城県のダイズ栽培圃場における畑雑草の発生状況. 7: 42-38. 22) 豊国英夫編 1987. 「植物学ラテン語辞典」, 至文堂, 東京 23) 山口裕文・大江真道 2001. ヒエ属植物の基本形態と学名, 「ヒエという植物」,(藪野友三郎監修), 全国農村教育協会, 東京.

注)読むのに煩わしいので,本文中の引用箇所にはいちいち文献を記しませんでしたが,特に,

3),4),7),15),16)については多くの箇所で参考にさせていただきました。このほか,6),

8),12),17)は基本的な文献なので,雑草の名前を調べる際に参考にされると良いと思います。

ただし,帰化植物についてはこれらの他に 19)や 20)も併用する必要があります。

Page 39: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

PLANTAE植物界 EQUISETOPHYTAトクサ植物門 Equisetum arvense L. スギナ[多・畑] MAGNOLIOPHYTA被子植物(モクレン)門 MAGNOLIOPSIDAモクレン(双子葉植物)綱

ASTERALES キク目 Asteraceae キク科 Artemisia L.ヨモギ属 A. princeps Pampan. ヨモギ[多・畑] Bidens L. センダングサ属 B. frondosa L. アメリカセンダングサ[夏・田畑] B. tripartita L. タウコギ[夏・田] Conyza Less. イズハハコ属 C. canadensis (L.) Cronquist ヒメムカシヨモギ[冬/夏・畑]

EUPHORBIALES トウダイグサ目 Euphorbiacrae トウダイグサ科 Acalypha L. エノキグサ属 A.australis L. var. australis エノキグサ[夏・畑]

SOLANALES ナス目 Convolvulaceae ヒルガオ科 Calystegia R.Br. ヒルガオ属 C. sepium (L.) R.Br. var. japonica (Choisy) Makino ヒルガオ[多・畑] Ipomoea L. サツマイモ属 I. triloba L. ホシアサガオ Solanaceae ナス科 Solanum L. ナス属 S. nigrum L. イヌホオズキ[夏/多・畑] Physalis L. ホオズキ属 P. angulata L. var. angulata ヒロハフウリンホオズキ[夏・畑]

POLYGONALES タデ目 Polygonaceae タデ科 Persicaria Mill.イヌタデ属(いわゆるタデ類) P. longiseta (Bruijn) Kitag. イヌタデ[夏・畑] P. lapathifolia (L.) S.F.Gray オオイヌタデ[夏・畑] P. vulgaris Webb & Moq. ハルタデ[夏・畑] P. hydropiper (L.) Delarbre ヤナギタデ[夏・田]

CARYOPHYLLALES ナデシコ目 Portulacaceae スベリヒユ科 Portulaca oleracea L. スベリヒユ[夏・畑] (P. pilosa subsp. grandiflora マツバボタン) Amaranthaceae ヒユ科 Amaranthus L.ヒユ属 A. blitum L. イヌビユ [夏・畑] A. hybridus L. ホソアオゲイトウ[夏・畑] A. viridis L. ホナガイヌビユ[夏・畑] Chenopodiaceae アカザ科 Chenopodium L. アカザ属 C. album L. var. albumシロザ[夏・畑]

LILIOPSIDAユリ(単子葉植物)綱 POALESイネ目

Poaceae イネ科 Digitaria hallerメヒシバ属 D. ciliaris (Retz.) Koeler メヒシバ[夏・畑] Echinochloa P.Beauv.ヒエ属(いわゆるノビエ類) E. crus-galli P. Beauv. var. crus-galli イヌビエ[夏・田畑] E. oryzicola (Vasinger) Vasinger タイヌビエ[夏・田] Setaria P.Beauv.エノコログサ属 S. faberi Herrm. アキノエノコログサ[夏・畑]

CYPERALESカヤツリグサ目 Cyperaceae カヤツリグサ科 Cyperus L.カヤツリグサ属 C. microiria Steud. カヤツリグサ[夏・畑] Scirpus L. ホタルイ属 S. juncoides Roxb. イヌホタルイ[夏・田] S. maritimus L. コウキヤガラ[夏・田]

COMMELINALES ツユクサ目 Commelinaceae ツユクサ科 Commelina communis L. ツユクサ[夏・畑]

図1 日本の主な大豆畑雑草の分類体系上の位置づけ(モクレン門の配列は Cronquist (1988)による)

夏:一年生夏雑草,冬:一年生冬雑草,多:多年生雑草。 田,畑は主な生育地。

Page 40: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

水稲作で問題となる雑草とその同定

中央農業総合研究センター雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 内野彰

1.はじめに

日本の水田雑草の種類は210種前後と見積もられている1)が、強害草はこのうち30種である2)。

この中には寒冷地特有の雑草、温暖地特有の雑草も含まれており、現場で実際に見分けが必要と

なる草種はそれほど多くない。近年は一発処理剤による除草体系が水稲作に広く普及しており、

水田に残る雑草の種類も限られたものになっている。逆に問題となっている雑草種は、一発処理

剤を主体とした除草体系で残りやすい種であるともいえる。ここでは近年問題となる水田雑草に

ついて述べるとともに、幾つかの種について同定法を述べる

2.近年問題となる雑草

2.1.従来からの難防除雑草

(1)ノビエ:イネとノビエは形態だけでなく生理的にも非常によく似ているため、ノビエに有

効な除草成分はイネに対しても効果を示しやすい。このためノビエに対する有効成分の標準薬量

は薬害を考慮して比較的低めに設定される場合が多く、他の成分より除草効果が変動しやすい。

適切な水管理と散布適期を逃さなければノビエも防除可能であるが、不適切な水管理や散布時期

の遅れなどで残草しやすく、後次発生も問題となりやすい。

(2)難防除多年生雑草:クログワイ、オモダカといった多年生雑草は、塊茎から長期間にわた

って不斉一に出芽してくるため、1 回の除草剤散布ですべての出芽を抑えることが困難である。

除草剤散布を一回しか行わない水田では、これらの後次発生個体が問題となる。その防除にはベ

ンタゾンなどの有効成分を含む中期剤、後期剤との体系処理が必要となる。ただし塊茎などの栄

養繁殖体は種子に比べると土中での寿命が短いため、完全防除を数年間(1-5年)続ければかな

り発生を減らすことができる。

2.2.SU抵抗性バイオタイプ

ほとんどの一発処理剤にはスルホニルウレア系除草剤(SU 剤)という成分が含まれる。SU 剤は

ノビエ以外のほとんどの草種に高い効果をもち、効果持続期間も長いため、ノビエに効果のある

除草剤成分と組み合わせて商品化されている。しかし、1990年代半ばから SU剤に抵抗性をもつ

タイプ(SU抵抗性バイオタイプ)が出現している。抵抗性の事例は特にコナギ、ホタルイ類(イ

ヌホタルイとタイワンヤマイ)、アゼナ類(アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナ)で多い。

オモダカでも抵抗性があり、北海道ではミズアオイの抵抗性が出ている。事例は少ないがキクモ、

キカシグサ、ウリカワなどでも抵抗性がある。これらにはSU剤が全く効かないため、SU剤と異

なる有効成分を含む除草剤で対応する必要がある。

2.3.畦から侵入し、水田内でも多く見られる雑草

アシカキ、キシュウスズメノヒエ、サヤヌカグサ、イボクサなどは畦畔から水田に侵入し、侵

入してきた時には既に生育が進んでいるため、除草剤の効果が期待できない。畦畔の草刈りを頻

繁に行い、畦畔の生育を抑えることが最も重要である。

Page 41: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

2.4.畦畔際に多い大形の雑草

アメリカセンダングサ、タウコギ、クサネムなどは水田内の浅い場所、田面が露出した場所で

発生するため、除草剤の効果が低い。均平な代かき等で田面露出する場所をなくすことが重要。

2.5.その他の雑草

シズイとコウキヤガラも発生地域が限られてはいるが防除が困難な難防除多年生雑草である。

コウキヤガラは海岸に近い水田で強害雑草となっており、シズイは寒冷地や高冷地で問題となる。

またキクモ、藻類・表層剥離も水田によっては問題となっている。ミズガヤツリ、ウリカワやヘ

ラオモダカなどは、かつて問題となった雑草であるが、これらには一発処理剤の効果が高いため、

現在はあまり問題となることがない。しかし、SU 抵抗性バイオタイプが出現すれば今後問題と

なる可能性もある。その他、現在はあまり問題となっていないが、他の代表的な水田雑草として

セリ、ヒルムシロ、マツバイなどの多年生雑草、ヒメミソハギ類、アブノメ、タデ類などの一年

生雑草がある。

2.6.文献

1)森田弘彦1997「植物防疫講座第3版」日本植物防疫協会,P47-68.

2)伊藤操子2004「雑草学総論」養賢堂.

3.実用上の区分

現在の水田雑草の防除は除草剤に頼っており、除草剤効果の面から次のような区分がなされてい

る。

3.1.一年生と多年生

種子で繁殖する一年生雑草と、塊茎などの栄養繁殖体でも繁殖する多年生雑草に分ける。地表

浅いところから発生する一年生雑草には多くの除草剤が効果を示すが、比較的地中深くから発生

する多年生雑草には効果のある除草剤が限られる。ちなみに、ホタルイ類は越冬株から発生する

多年生雑草であるが、種子も数多く生産し、現場では種子発生の方が問題となる。

3.2.イネ科、カヤツリグサ科、広葉雑草

除草剤の適用草種の区分としてイネ科、カヤツリグサ科、広葉雑草が用いられる。イネ科はイ

ネに似た葉をもつ草種で、カヤツリグサ科は三角形の断面をもつ茎が特徴的である。明瞭な葉身

のない花茎が特徴的なクログワイやホタルイ類もカヤツリグサ科である。その他の広い葉をもつ

雑草はまとめて広葉雑草とされる。

3.3土壌水分適応性

発芽や萌芽時の土壌水分や酸素要求性に違いがあり、湿潤・畑条件で良好に発生する草種と湛

水条件で良好に発生する草種がある。

Page 42: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

水田雑草の実用的な区分

一年生雑草 多年生雑草

イネ科雑草タイヌビエ、ヒメタイヌビエ、イヌビエ、ヒメイヌビエ、アゼガヤ

キシュウスズメノヒエ、エゾノサヤヌカグサ、サヤヌカグサ、アシカキ、ハイコヌカグサ、ウキガヤ、ヨシ、マコモ

カヤツリグサ科雑草タマガヤツリ、コゴメガヤツリ、ヒナガヤツリ、ヒデリコ

マツバイ、ミズガヤツリ、クログワイ、コウキヤガラ、ウキヤガラ、シズイ、ハリイ、イヌホタルイ、タイワンヤマイ

単子葉コナギ、ミズアオイ、イボクサ、ホシクサ、ヒロハイヌノヒゲ、ミズオオバコ

オモダカ、アギナシ、ウリカワ、ヒルムシロ、ウキクサ、アオウキクサ、クロモ、ヘラオモダカ、サジオモダカ、ガマ

双子葉

キカシグサ、アゼナ、アメリカアゼナ、アブノメ、オオアブノメ、アゼトウガラシ、スズメノトウガラシ、キクモ、ミゾハコベ、チョウジタデ、ヒメミソハギ、タカサブロウ、タウコギ、アメリカセンダングサ

セリ、アゼムシロ、ミズハコベ

ミズワラビデンジソウ、アカウキクサ、オオアカウキクサ、サンショウモ、イチョウゴケ

藻類など シャジクモ、アオミドロ、アミミドロ、フシマダラ、表層剥離

広葉雑草

ウキクサ類、シダ、コケ植物

Page 43: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その1.従来からの難防除雑草

一発処理剤が有効だが、処理時期の遅れや残効切れ後の発生などで水田に残りやすい雑草。

●ノビエ(Echinochloa spp.)

全国的に発生が多い一年生イネ科雑草。一般にノビエと呼ばれ

るが、タイヌビエ、イヌビエ、ヒメタイヌビエ、ヒメイヌビエの

総称。色と形が水稲に似ているが、葉舌、葉耳が無い点で水稲と

異なる。

<防除法>

ほとんどの水稲用除草剤がノビエに有効だが、散布適期(有効

なノビエ葉令)を逃すと効果が大きく低下する。水管理に注意し

て適期に除草剤散布することが重要。水田に残った場合は、シハ

ロホップブチルやピリミノバックメチルを含む中期剤、後期剤が

有効。

●クログワイ(Eleocharis kuroguwai)

水田雑草の中では最も防除困難な多年生雑草の一つ。黒い塊茎を

地下に形成して増殖する。発生期間は非常に長く、10月まで発生が

見られる。塊茎は土壌表層から 30cm の心土層まで形成され、塊茎

の寿命は他の多年生雑草より長く、5〜7年とされる。

<防除法>

発生期間が長いため、一発処理剤だけで完全に防除するのは困難

である。完全防除には一発処理剤とベンタゾンを含む後期剤との体

系処理を数年間続ける必要がある。冬期に耕起・反転を行い、塊茎

を低温・乾燥状態にさらすと塊茎が死滅しやすい。

(←クログワイの塊茎)

●オモダカ(Sagittaria trifolia)

多年生の難防除雑草。矢尻葉が特徴的で白い花を咲かせる。白い

塊茎の他に種子も作るが、通常の水田では塊茎からの発生が問題と

なる。塊茎は2,3年でほぼ死滅するため、適切な防除を2,3年行え

ば塊茎からの発生が無くなる。オモダカの SU 抵抗性バイオタイプ

も見つかっている。

<防除法>

一発処理剤が有効だが、発生期間が長いため、完全防除にはベン

タゾンを含む後期剤との体系処理が必要。SU抵抗性の場合は、ベン

ゾフェナップを含む初期剤と MCPB を含む中期剤やベンタゾンを含

む後期剤との体系処理によって防除する。

Page 44: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その2.SU抵抗性バイオタイプが出ている雑草

従来はスルホニルウレア系除草剤(SU剤)を含む一発処理剤で防除できた雑草だが、これらの雑草

ではSU剤に抵抗性をもつバイオタイプが増えており、水田に残草する場合が目立つ。

●ホタルイ類(Scirpus spp.)

一般にホタルイ類と呼ばれるがいくつかの種の総称。全国的に

はイヌホタルイが多く東北ではタイワンヤマイも多い。多年生の

カヤツリグサ科雑草だが、多量の種子を生産するため、実際の水

田では種子発生が問題となる。

<防除法>

SU抵抗性の場合はブロモブチドの効果が高く、ベンゾビシクロ

ンやクロメプロップも高い効果を示す。SU抵抗性の場合はこれら

の有効成分を含む除草剤で対応する。

●コナギ(Monochoria vaginalis)

一年生広葉雑草で8月末頃に葉の間に紫色の花を咲かせる。生

育盛期の葉はハート型で、根は青紫色。種子によって繁殖し、水

田土壌中の種子の寿命は10年以上。

<防除法>

SU抵抗性の場合はクロメプロップの効果が高く、ベンゾビシク

ロン、ブロモブチド、ピラゾレート、ピラクロニルなども有効。

SU抵抗性の場合はこれらの有効成分を含む除草剤で対応する。

●アゼナ類(Lindernia spp.)

アゼナ、アメリカアゼナ、タケトアゼナなどの一年生広葉雑草

の総称。茎は四角柱状で 10〜20cm ほどの高さになる。白〜青紫

色の小さな花をつけ、大量の種子を生産する。アゼナの葉は3本

の葉脈が目立ち、葉の縁に鋸歯(ぎざぎざ)がない。アメリカア

ゼナの葉は明瞭な鋸歯があって基部が細く葉柄状になる。タケト

アゼナの葉は基部が茎を抱く形になっている。アゼトウガラシも

類似の小形雑草で茎が四角柱状。いずれも SU 抵抗性の場合があ

る。

<防除法>

SU抵抗性の場合は初期剤が有効。有効な成分は数多くあるが、

出芽後の処理時期では効かない場合がある。出芽後でもクロメプ

ロップの効果は高く、中期剤、後期剤も高い効果を示す。

Page 45: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その3.畦(あぜ)から侵入し、水田内でも多く見られる雑草

畦で生育してから水田内に侵入するため、一発処理剤だけで防除できない場合が多い。水田内での

発生も増えている。畦からの侵入に対しては、畦の雑草管理を徹底することが重要。

●イボクサ(Murdannia keisak)

ツユクサ科の一年生雑草で畦畔際に多い。耕起・代かき前に発

生し、切断されても切断茎から再生する。水稲に絡みつくため、

水稲の減収や倒伏の他、収穫作業の障害となる。

<防除法>

再生株が問題となるため丁寧な代かきが重要。耕起前の発生が

目立つ場合はイボクサに有効なグリホシネートを含む茎葉処理

除草剤を使う。グリホサートは効かないことに注意する。SU剤も

イボクサに効かないため、イボクサに有効なピラゾレートやクロ

メプロップなどを含む除草剤で対応する。ビスピリバックナトリ

ウム塩を含む茎葉処理剤も効果が高い。

●エゾノサヤヌカグサ(Leersia oryzoides)

寒冷地に多いイネ科の多年生雑草で、葉がざらつくのが特徴。

よく似た雑草にサヤヌカグサがある。水田では浅水条件で発生し、

畦からもほふくして侵入する。種子でも繁殖するが、越冬した根

茎からの発生が問題となる。

<防除法>

根茎からの発生個体の防除は難しく、スルホニルウレア系除草

剤とベンタゾンを含む後期剤による体系処理を続けることで減

少する。スルホニルウレア系除草剤は2葉期まで、ベンタゾン混

合剤は草丈 20cm 以下までの個体に効果を示す。畦の雑草管理を

十分に行って水田内への定着を未然に防ぐことが大切。

●アシカキ(Leersia japonica)

畦際に発生するイネ科の多年生雑草で、水田内にも発生する。

ほふくするイネ科多年生雑草の代表的な種で「ヤベズル」などと

もよばれ、サヤヌカグサ、エゾノサヤヌカグサと混同されている

場合もある。水田内では主に根茎や稈の切片で増える。

<防除法>

畦の雑草管理を十分に行って水田内への定着を未然に防ぐこと

が重要。代かきを丁寧に行って土中に埋め込むことも大切。多発

した場合はイネ刈り後に非選択性除草剤を茎葉処理する。

Page 46: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その4.畦畔際に多い大形雑草

種子が水に浮くため畦畔際に吹き寄せられて発生することが多く、水田内の浅いところでも発生す

る。湿地でも生育するため、転換畑で問題になる場合がある。

●クサネム (Aeschynomene indica)

マメ科の一年生雑草でネムノキによく似た葉をもつ。茎が直立

して 1m 以上の高さになるため、コンバイン収穫の邪魔になる。

また種子の大きさが米粒と似ているため、米に混入して問題とな

る。水田内の水深の浅いところ、畦畔際に多く発生する。

<防除法>

耕起・代かきを丁寧に行い、田面を水面から露出させないよう

にする事が大切。発生期間が長く田面の露出した部分で後から発

生する。本葉2枚までの時期に中期剤で枯殺し、残った個体を草

丈が30cmになる前に後期剤で防除する。草丈が30cmまでであれ

ばビスピリバックナトリウム塩も有効。

●アメリカセンダングサ (Bidens frondosa)

北アメリカ原産の帰化雑草で、高さ 1-2m になる大型のキク科

一年生雑草。水稲作、転換畑作のいずれでも問題となる。茎が木

質化して堅くなるため、機械収穫作業にも問題となる。種子は衣

服によく付く、いわゆる「ひっつき虫」の仲間。

<防除法>

耕起・代かきをていねいに行い、田面を水面から露出させない

ようにする事が大切。水深が5cm以上あれば生育しない。SU剤で

はベンスルフロンメチルとピラゾスルフロンエチルが高い効果

を示す。残った個体は本葉 1 葉期前後までにシメトリン・MCPB

を含んだ中期剤を使用して防除する。

●タウコギ(Bidens tripartita)

水田の浅いところや畦畔際に多く発生する高さ 1m 以上になる

大型のキク科一年生雑草。葉は深く 3〜5 裂するが、類似種のア

メリカセンダングサのように完全な複葉にはならない。種子は衣

服に良く付く「ひっつき虫」の一つ。

<防除法>

耕起・代かきをていねいに行い、田面を水面から露出させない

ようにする事が大切。SU剤ではピラゾスルフロンエチルが高い効

果を示す。残存個体は本葉 1 葉期前後までにシメトリン・MCPB

を含んだ中期剤を使用して防除する。

Page 47: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その5.その他の雑草1

発生面積は今のところ多くないが、場所によってはかなり繁茂して問題となっている。

●キクモ(Limnophila sessiliflora)

ゴマノハグサ科の多年生雑草で、直立したり横に伸びた

りして10-30cmの長さになる。地下茎が地中を横に伸びて節

から根を出す。SU 抵抗性が見つかっており、水田によって

は高い密度で群生する場合がある。

<防除法>

SU抵抗性の場合は、プレチラクロール、ビフェノックス、

クロメプロップ、MCPB が有効なので、これらを含む除草剤

で対応する。

●コウキヤガラ(Scirpus planiculmis)

カヤツリグサ科の多年生雑草で、耐塩性が強く、沿岸近

くや干拓地の水田に発生して問題となる。種子でも増殖す

るが、塊茎と株基部からの発生が主な発生源となる。塊茎

は低温や乾燥に強く、長い寿命を示す。

<防除法>

SU 剤を含む一発処理剤が有効だが、完全防除にはベンタ

ゾンを含む後期剤処理が必要。小さな個体にはベンタゾン

の効果が劣るので、SU 剤散布後に残るコウキヤガラについ

ては、20cm-40cmの高さになってからベンタゾン剤処理を行

う。

●藻類及び表土(表層)剥離

水田に発生する藻類にはラン藻類、珪藻類、緑藻類(ア

オミドロ)等の種類がある。表土剥離は水田の表土が膜状

になって日中水面に浮上する現象で、主に珪藻類によって

引き起こされる。低温、多肥などの条件で発生しやすく、

幼苗を押し倒したり浮き上がらせたりする。

<防除法>

側条施肥などの田面水中の養分濃度を低下させる施肥法

が発生を抑えるのに有効。除草剤ではACN、ジメタメトリン、

シメトリンが高い効果を示す。藻類にはSU剤も効果がある。

Page 48: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

近年問題となる雑草 その6.その他の雑草2

●シズイ(Scirpus nipponicus)

カヤツリグサ科の多年生雑草で、寒冷地以北や標高の高い場

所でよく発生する。地下茎を伸ばして分株をつくり、それぞれ

の株下に小さな塊茎を数多くつくる。種子もつくるが、水田で

は塊茎が発生源となる。蔓延すると非常に高い密度で発生する

が、塊茎の寿命が2年以内と短いため、3年間完全防除すると

次年度の発生が無くなる。

<防除法>

SU 剤は草丈 2-3cm まで,ベンタゾン剤で 20-30cm までであ

れば確実に防除できる。多発生の場合は,SU 剤とベンタゾン

剤の体系処理を行う。ペントキサゾンやベンゾビシクロンも有

効。

●ミズガヤツリ(Cyperus serotinus)

大型のカヤツリグサ科多年草で、種子も作るが、水田では主

に塊茎から発生する。塊茎には休眠性がなく、低温でもよく萌

芽するため、早くから発生する。塊茎は土中に埋め込まれると

ほとんど萌芽せず、低温乾燥にも弱い。出芽後は地下茎を伸ば

し、その先端に次々と子株を生じて繁殖するので非常に旺盛に

増殖する。

<防除法>

多くの初期剤や後期剤の効果が高く、SU 剤も有効。秋耕で

塊茎を低温乾燥にさらす、丁寧に代かきをするなどの方法も有

効。

●ウリカワ(Sagittaria pygmaea)

オモダカ科の多年生水田雑草だが、一発処理剤の普及により

近年はほとんど目立たない。10cm 程度の高さになり、地下茎

が横に走って 10cm 前後離れたところに子株をつくることを繰

り返して子株、孫株が増える。落水状態になると季節に関係な

く1株に数個の塊茎を形成する。白い花をつけて種子も作るが、

水田では主に塊茎で繁殖する。近年 SU 抵抗性バイオタイプの

存在が報告されている。

<防除法>

SU剤が有効で、一発処理剤による防除が可能。SU剤の他は、

ACN やピラゾレート、ピラゾキシフェン、ベンゾフェナップ、

ベンタゾンが有効。

Page 49: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

4.主な水田雑草の同定

イネ科、カヤツリグサ科、広葉雑草の区分は葉の形から類推する。一年生と多年生は、引き抜

いて地下部を観察すると類推が容易になる。ノビエやイヌホタルイは種子が着いている場合が多

く、多年生雑草であれば塊茎や太い地下茎が着いている場合が多い。種子や塊茎が見つかれば草

種の同定も容易になる。

4.1.コナギ

コナギの特徴はハート型の葉であり、似た葉を持つ草種にはミズアオイとアメリカコナギがあ

る。ミズアオイは北海道に多く、本州以南ではあまり見られない。またアメリカコナギも岡山な

ど西南暖地の限られた地域にしか見られていない。コナギは逆に北海道に無いため、発生地域だ

けでもおおかたの類推が着く。

ミズアオイはコナギよりやや大型で、花茎をまっすぐに伸ばして葉より高い位置に複数の花を

つける。これに対してコナギは葉の下に複数の紫色の花をつける。アメリカコナギは花茎がコナ

ギよりもやや長く、花を1個しかつけない。

コナギのもう一つの大きな特徴は根が青紫色を帯びていることである。特に線形葉の時期のコ

ナギはウリカワやオモダカと区別しにくいが、抜き取ると根が青紫色を帯びており、根の白い他

の雑草と区別することが出来る。子葉期では根の色が付いていない場合もあるが、多くの場合コ

ナギの子葉の先に種子が着いており、多年生雑草のウリカワやオモダカと区別できる。

コナギの幼植物は一見するとイヌホタルイの幼植物とも似ている。引き抜けばイヌホタルイは

地下に種子をつけているので簡単に見分けが付く。また、4-5葉期の頃であれば、上からみると

イヌホタルイがほぼ一直線上に葉が出ているのに対し、コナギは様々な方向に葉を出している。

4.2.イヌホタルイ

イヌホタルイは花茎の先に小穂が数個かたまって着く形態が特徴的であり、小穂が着く前はク

ログワイとよく似ている。クログワイとは小穂の有無で区別できるが、クログワイでは花茎内部

には隔壁があるため、花茎をつぶすとプチプチと音がする。またイヌホタルイの先端部(小穂が

着く部分より先)は花茎でなく苞葉にあたるため、よく見ると縦に白いスジが入っている。クロ

グワイにこの白いスジはない。基部をみるとイヌホタルイには線形葉があるが、クログワイの基

部には線形葉がなく、基部全体がやや白くなる傾向がある。引き抜いて地下部を見るとイヌホタ

ルイでは種子が着いている場合が多く、クログワイでは塊茎につながる太い地下茎を見つけるこ

とが出来る

イヌホタルイはホタルイ類として、似た雑草を含めた総称で呼ばれることが多いが、ホタルイ

そのものは水稲を作付けした水田内にみつかることがほとんど無い。ホタルイ類にはこの他、タ

イワンヤマイ、コホタルイ、ミヤマホタルイ、ヒメホタルイがある。ヒメホタルイは地下茎で繁

殖するため、種子で繁殖する他のホタルイ類と違って地下部で区別できる。タイワンヤマイ、コ

ホタルイ、ミヤマホタルイは小穂が着くまで区別が難しい。タイワンヤマイとコホタルイは北海

道・東北に多い。

実際に水田内で問題となっているホタルイ類はイヌホタルイとタイワンヤマイが多い。タイワ

ンヤマイはイヌホタルイと比べると小穂が細く先端が尖っており、緑黄色のまま登熟する。種子

の刺針状花被片の長さを見れば両者の区別は容易で、タイワンヤマイが種子の約2倍の長さであ

るのに対し、イヌホタルイは1倍程度の長さである。ホタルイの刺針状花被片の長さは約1.5倍

長である。

Page 50: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

左がコナギ、右がミズアオイ(原色日本植物図鑑1987、保育社)

左からイヌホタルイ、タイワンヤマイ、ホタルイ、コホタルイ、ミヤマホタルイ

左からタイワンヤマイ、イヌホタルイ、ホタルイの種子。矢印は刺針状花被片。

(原色日本植物図鑑・草本編III)

Page 51: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

4.3.アゼナ類

水田一年生雑草として広く見られるアゼナ類には,アゼナ(Lindernia procumbens (Krock)

Borbas),アメリカアゼナ(Lindernia dubia subsp. major Pennell),タケトアゼナ(Lindernia dubia

var. dubia Pennell)がある(文献 1,2,3)。このうち,アメリカアゼナとタケトアゼナは北アメ

リカ原産の帰化種である。アメリカアゼナとタケトアゼナは非常に良く似ているが,葉の基部が

細く葉柄状になっているのがアメリカアゼナ,葉の基部が丸く葉柄が見られないものがタケトア

ゼナであり,葉の形態で両者を区別することができる。アメリカアゼナをアメリカアゼナのCタ

イプ(cuneate[くさび状の]の頭文字)とし,タケトアゼナをアメリカアゼナのRタイプ(round[丸

い]の頭文字)として両者を区別している場合もある(文献4,5)。

文献

1)雑草研究(1992)37(別 1);124-125

2)雑草研究(1997)42(別); 164-165

3)写真で見る外来雑草(1994)p.19畜産技術協会編

4)農薬(1996)43(1):48-50

5)ミニ雑草図鑑 雑草の見分けかた(1996)p.14広田伸七編,全国農村教育協会

●アゼナ(Lindernia procumbens (Krock.) Borbás)

一年生の在来種。茎は四角柱。

葉は卵状楕円形で5本の平行脈が目立つ。

葉は葉柄がなく、全縁(鋸歯がない)。

●アメリカアゼナ(Lindernia dubia var. major Pennell)

一年生の帰化種。茎は四角柱。

葉の基部が葉柄状に細くなる。

葉に明瞭な鋸歯がある。

●タケトアゼナ(Lindernia dubia var. dubia Pennell)

一年生の帰化種。茎は四角柱。

葉の基部が丸く葉柄はない。

葉に鋸歯があるがやや上明瞭。

Page 52: 雑草の分類・同定 その基礎...雑草の分類・同定 その基礎* 中央農業総合研究センター 雑草バイオタイプ・総合防除研究チーム 浅井元朗

●葉の比較

1. アゼナ、2. アメリカアゼナ、

3. タケトアゼナ

5.参考文献

「ミニ雑草図鑑 雑草の見分け方」 廣田伸七編著 全農協 1996

「雑草の博物誌-水田雑草編-」 芝山秀次郎・森田弘彦著 全国農業改良普及協会 1994

「水田多年生雑草の生態」 宮原益次監修 デュポンジャパンリミテッド農薬事業部 1987

「最近水田で問題になってきた雑草」(財)日本植物調節剤研究協会,

http://www.japr.or.jp/ wadai/index.html#2

「原色日本植物図鑑・草本編III」 北村四郎・村田源・小山鐵夫著 保育社 1964.

「東北の主な水田雑草とその防除法」東北農業研究センター,

http://wsstj.ac.affrc.go.jp/paddyweeds/paddyweeds.html