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2019 May SMBCマネジメント+ 5 SMBCマネジメント+ 2019 May 4 イラスト/Getty Images 自動運転が拓く未来 特 集 自動運転の実用化が間近に迫っている。 実用化の方向は大きく分けて2つある。 1つは、限定した範囲や速度などの条件下で、 無人運転車のサービス開始を目指すもの。 もう1つは、制限なく走る有人運転車両への、 自動運転支援技術の段階的な導入だ。 高齢化に伴う買い物弱者・外出難民の増加や、 交通・運輸業界の人手不足など、 社会課題の解決に役立つと期待される 自動運転の技術開発の最前線をレポートする。 Interview 森川高行 名古屋大学未来社会創造機構教授 に聞く 完全無人運転には時間が必要 条件限定で早期実用化を目指す Case1 ラストワンマイルの移動を助ける 自動運転ゴルフカートを実用化へ 愛知県春日井市 Case3 公道を走る大型路線バスに 運転支援技術を段階的に導入 内閣府 Case2 空港の地上支援業務で 自動運転車両の実用化見込む 株式会社ZMP

自動運転が拓く未来 - SMBCコンサルティング · 2019. 4. 18. · 4 SMBCマネジメント+ 2019 May イラスト/Getty Images 2019 May SMBCマネジメント+

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Page 1: 自動運転が拓く未来 - SMBCコンサルティング · 2019. 4. 18. · 4 SMBCマネジメント+ 2019 May イラスト/Getty Images 2019 May SMBCマネジメント+

2019 May SMBCマネジメント+ 5SMBCマネジメント+ 2019 May4 イラスト/Getty Images

自動運転が拓く未来特 集 自動運転の実用化が間近に迫っている。

実用化の方向は大きく分けて2つある。1つは、限定した範囲や速度などの条件下で、無人運転車のサービス開始を目指すもの。もう1つは、制限なく走る有人運転車両への、自動運転支援技術の段階的な導入だ。高齢化に伴う買い物弱者・外出難民の増加や、交通・運輸業界の人手不足など、社会課題の解決に役立つと期待される自動運転の技術開発の最前線をレポートする。

I n terv iew

森川高行 名古屋大学未来社会創造機構教授 に聞く完全無人運転には時間が必要条件限定で早期実用化を目指す

Case1

ラストワンマイルの移動を助ける自動運転ゴルフカートを実用化へ愛知県春日井市

Case3

公道を走る大型路線バスに運転支援技術を段階的に導入内閣府

Case2

空港の地上支援業務で自動運転車両の実用化見込む株式会社ZMP

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2019 May SMBCマネジメント+ 7SMBCマネジメント+ 2019 May6 取材・文/菅野 武 写真/上野英和

 「自動運転」というと、どこでも完全

に無人の自動運転で走る「レベル5(次

ページ右上の表を参照)」のことを想像

されると思いますが、これはかなり遠

い未来のことだと考えています。

 例えば今、世界で最も長い走行距離

を走っている自動運転車両は、米グー

グルの開発部門が分社化した米ウェイ 動サービスを走行範囲限定、低速とい

う制限ありでまず実用化して、制限を

段階的に緩めていくことを計画してい

ます。それを「ゆっくり自動運転」と

名付けました。

 現在は、車体の屋根の上にLiDAR(ラ

イダー)というレーザーセンサー・ス

キャナーを取り付け、測定したデータ

を高精度3次元地図とマッチングさせ

てルートを正確に走行するとともに、

LiDARが障害物検知をして避ける自動

運転ゴルフカートを実験中です。

 一方、COIは高齢者が元気になるよ

うなモビリティー社会づくりにも取り

組んでいます。高齢化が進む中山間地

域など、それぞれの地域特性に応じた、

暮らしを支援するサービスを実装して

いこうという構想です。この構想には、

相乗りタクシー、コミュニティーバス、

ボランティア輸送などの要素を組み合

わせた「モビリティーブレンド」が必

要です。その一つの要素として、ゆっ

くり自動運転が役立つと考えています。

モの車両です。既に数百万マイルも

走っていますが、レベル5には到達し

ていません。自動車業界では数億マイ

ルの走行実験が必要と言われています。

 障害物や人を感知・判断するAI(人

工知能)の開発でも、どのくらいの走

行実験が必要なのかということはまだ

見えていません。将棋や囲碁のように完全自動運転社会には社会制度の整備も必要

 先ほどお話した2つの方向の技術開

発の目指すゴールは同じ、制限なくレ

ベル5の自動運転車を走らせることに

あります。この完全自動運転社会が実

現すればどんなメリットがあるかはか

なり明確になっています。

 まず自動車事故の約9割はヒューマ

ンエラーに起因するといわれています

から、9割の事故がなくなることが期

待できます。またマイカーが自動運転

になると、「セカンダリータスク」と呼

ぶ運転以外のこと、例えば仕事、電話、

食事をしたり、テレビを見たりと時間

を有効に使うことができます。

 駐車場もほとんど不要になります。

クルマは動いている時間(稼働率)が

5%ぐらいと言われ、95%は自宅や街

の駐車場で止まっています。自動運転

でマイカーをシェアするようになると、

この稼働率がどんどん上昇して止まっ

ルールがあり、打ち手が有限であるク

ローズド問題に対して、自動車が走る

社会はすべてオープン問題で、一寸先

で何が起こるかが分からないからです。

 事故を起こさないようにするために

は事故のデータを学習させる必要があ

るのですが、事故はめったに起きない

ので、データが不足しています。人間

は並行して走っている車が数センチ動

いただけで、次は車線変更してくるか

もしれないという先読み運転をして、

事故を未然に防いでいます。これを

AIができるようになるには、まだかな

りの時間がかかるでしょう。

 そこで自動運転の技術開発は2つの

方向に分かれています。1つは、公道

を普通に有人運転走行することを前提

として、レベル1からレベル2と、自

動運転支援技術を段階的に導入してい

く方向です(次ページ左上の図を参

照)。一方、私たち名古屋大学COI*で

は、レベル4程度の自動運転による移

ている時間がなくなります。

 完全自動運転社会の実現に向けた課

題として、有人運転車との混在があり

ます。例えば自動運転車同士は「加速

する」「停止する」という情報を通信で

やりとりして車間距離を詰めることが

できます。しかし、何をするか分から

ない人間が運転する車が混在すると、

安全を考えて自動運転車も距離を取ら

なければいけません。そういう意味で

は、自動運転車専用の道路や、専用地

域をつくった方が自動運転の実用化は

早いでしょう。

 ジュネーブ交通条約で定められてい

る「自動車とは運転者がいて、運転者

がすべて安全に運行する責任を持つも

の」という法制度をどう解決するかも

課題です。現在の走行実験は「遠隔監

視・遠隔操作をしている人を運転者と

見なす」という解釈で進められていま

す。しかし、大量のマイカーが自動運

転になったとき、持ち主や利用者が

ずっと遠隔監視をするのでは自動運転

のメリットが失われます。社会制度を

どう定めるかも、今後並行して検討さ

れていくでしょう。

特 集 自動運転が拓く未来

I n terv iew

公道を制限なく、無人で走行する「レベル5」の実現は未来の話だが、地域・速度限定での実用化や、自動運転支援技術の導入は近い。「運転者がいない」車両を受容する社会制度の整備も必要になる。

完全無人運転には時間が必要条件限定で早期実用化を目指す

森川高行 名古屋大学未来社会創造機構教授 に聞く

(もりかわ・たかゆき)京都大学工学部交通土木工学科卒業、同大学院修士課程修了。マサチューセッツ工科大学大学院博士課程修了。京都大学助手、名古屋大学助教授を経て、2000年5月に名古屋大学大学院教授(工学研究科)、14年6月から現職。専門は、先進モビリティ、交通計画、都市計画。著書に『道路は、だれのものか』(ダイヤモンド社)など。

Profile

自動運転技術開発の方向性自動運転のアプローチ・出口戦略

*SAE(Society of Automotive Engineers):米国の標準化団体注:内閣府SIP-adus資料に森川教授加筆

SAE*自動運転レベル

(地域、道路、環境、交通状況、速度、ドライバーなど)制限付き

レベル5

レベル1

レベル2

レベル3

レベル4

制限無し

自動運転技術の開発は、地域や速度を制限してレベル4を実用化し、制限を緩めていく方向(上側の曲線)と、制限がない環境で部分的な技術を導入する方向(下側の曲線)の2通りがある

究極の自動運転社会

(工場無人搬送車)

(ゴルフ・カート)

(ペダル踏み間違い制御)(自動ブレーキ)

・過疎化対策・高齢化社会対策 → ✓社会的課題解消・移動の自由

✓国際連携✓経済的発展

・事故減少・渋滞軽減    → ・産業競争力維持

ゆっくり自動運転のターゲット

物流/移動サービス

オーナー・カー

自動運転の定義

レベル5: 完全自動運転場所の限定なくシステムがすべてを操作

レベル4: 自動運転特定の場所でシステムがすべてを操作

レベル3: 自動運転特定の場所でシステムがすべてを操作、

緊急時はドライバーが操作

レベル2: 運転支援システムがステアリング操作、加減速の両方をサポート

レベル1: 運転支援システムがステアリング操作、加減速のどちらかをサポート

レベル0: ー ドライバーがすべてを操作

出典:内閣府

*COI: Center of Innovation

Page 3: 自動運転が拓く未来 - SMBCコンサルティング · 2019. 4. 18. · 4 SMBCマネジメント+ 2019 May イラスト/Getty Images 2019 May SMBCマネジメント+

2019 May SMBCマネジメント+ 9SMBCマネジメント+ 2019 May8 写真/上野英和取材・文/菅野 武 写真/上野英和

 自動運転の実証実験に先立って、ス

マートフォンの予約アプリを使った乗

合タクシーの実験や、ガソリン代など

の実費を受け取って自家用車で住民が

住民を運ぶボランティア輸送の実験も

行っている。

 ラストワンマイルの移動手段として

はボランティア輸送にも期待をしたが、

思ったより応募者が少なかった。あら

ゆる地域から集まった、地縁のない人

が多く住むニュータウンなので、運ぶ

方も乗る方も、住民が互いに遠慮がち

なのがその原因とみている。その分、

自動運転カートにかかる期待は大きく

なっている。

 現在は自家用車で移動する住民も多

いが、5年後、10年後には高齢化が進

んで状況が変わってくる。また路線バ

スは多いとはいえ、ピーク時の1995

年と比べると台数で3/4程度に減少し

ているという。「2020年度までに自動

運転カートや乗合タクシーをニュータ

ウン内の一部で実用化して、住民がた

くさんの選択肢の中から、外出の目的

に適した移動手段を選べるようにする

のが目標」と津田主査は言う。

 複数の移動手段間の乗り継ぎをス

ムーズにすることで移動手段それぞれ

の利用者を増やし、交通ネットワーク

全体を活性化したいという構想だ。

 愛知県春日井市は、最初の入居から

約50年が経った高蔵寺ニュータウン

の再生事業の一環として、名古屋大学

教授の森川高行氏らが開発した「ゆっ

くり自動運転」(前ページ参照)カート

の導入を検討している 。 早ければ

2020年度にも、一部地域で実用化し

たい考えだ。

 同市の北東部にある高蔵寺ニュータ

ウンは丘陵地に造成されていて、独立

行政法人都市再生機構(UR都市機構)

進められている。

 同市がゆっくり自動運転カートの導

入を考えているのは、自宅とバス停、

あるいは自宅とニュータウン内の交通

拠点や商業拠点を結ぶ“ラストワンマ

イル”の移動だ。

 短距離で利用頻度が少ないため、タ

クシーでは採算が合わない。しかし、

ここの移動が減少し、住民が外出を控

えるようになると、例えば路線バスの

利用者が減り、バス便が減る。あるい

は買い物客が減り、商業施設が撤退す

るなど、街全体が衰退に向かう。特に

ニュータウン内は坂道が多いため、高

齢者からは、自宅からバス停まで歩く

のが体力的に面倒になっているという

意見が多く挙がっている。これを解決

することを目的としている。

実証実験で技術面はほぼ確立 実用化へ、行動分析などに着手

 19年2月には、2台の自動運転カー

トを用いて公道で実証実験を実施した。

地域交流施設を拠点に2つのルートを

の賃貸・分譲集合住宅のほか、戸建て

も含めて約4万3,000人の人口がある。

 近年は人口の減少と少子高齢化が進

んでおり「春日井市全体の未来の社会

課題を先取りしている地域」でもある。

同市まちづくり推進部ニュータウン創

生課創生担当主査の津田哲宏氏は、「こ

こで地域リニューアルのモデルをつく

り、将来は市全体に横展開していきた

い」と言う。

 同市は2016年3月に「高蔵寺リ・

設定し、時速約12kmで市民モニター

を自宅まで迎えに行き、交流施設へ運

んだ。緊急時だけ運転者が操作するレ

ベル3の自動運転で、走行距離は1〜

2km程度。途中、一般車両とのすれ違

いや、車いすを自動で避けて走るとい

う課題も難なくクリア。運転者はほと

んど手を下すことはなかったという。

 今後は実際にどのくらいの利用ニー

ズがあるかを知るために、住民の行動

分析のための調査などを行い、運行

ルートや運行頻度の設定などを検討す

る考え。例えば、ニュータウン内に取

り付けたWi-Fiパケットセンサーで携

帯電話の信号を感知して、行動履歴を

トレースするといった調査を進めてい

る。

 交通量の多いところは路線バスや巡

回バス、バスのないところはタクシー

や乗合タクシー、それでもカバーしき

れないラストワンマイルの移動を自動

運転カートで、というのが春日井市の

描く新しい「快適移動ネットワーク」

の姿だ。

ニュータウン計画」を策定。その取り

組みの1つに「交通拠点をつなぐ快適

移動ネットワークの構築」を掲げ、自

動運転車両を含めた新しいモビリティ

サービスの実証実験を進めてきた。

 18年8月には、内閣府の「近未来技

術等社会実装事業」14事業の1つとし

て、同市の「高蔵寺ニューモビリティ

タウン構想事業」が選定された。愛知

県や市はもちろん、内閣府の調整のも

とで各省庁が連携する形で実証実験が

特 集 自動運転が拓く未来

ニュータウン内の限定範囲を低速で走る自動運転カート。高齢者の外出を支援する手段の1つとして実用化を目指す。自宅とバス停などを結ぶ、近距離移動手段として期待をかける。

ラストワンマイルの移動を助ける自動運転ゴルフカートを実用化へ

愛知県春日井市Case1

「自宅とバス停などを結ぶ、ラストワンマイルの移動手段として、『ゆっくり自動運転』に期待している」と話す津田哲宏春日井市まちづくり推進部ニュータウン創生課創生担当主査

今年2月に行われた高蔵寺ニュータウン内での実証実験の様子(上)。中央が坂道を走行中の自動運転カート。同カートは前面に2カ所(右上)、後方にも2カ所(右下)、カメラとLiDAR(レーザーセンサー・スキャナー)を備える

高蔵寺ニュータウンにおける自動運転の実証実験の経緯

❶2017年11月トヨタ自動車株式会社との連携による『歩行支援モビリティ

サービス実証実験』(トヨタ自動車、春日井市、

高蔵寺まちづくり株式会社)

❸2018年2月『自動運転デマンド交通実証実験』(春日井市、名古屋大学COI、愛知県、

アイサンテクノロジー株式会社)❷2018年2月愛知県との連携による『警察庁新ガイドライン対応遠隔型自動運転実証実験』

(愛知県、春日井市、アイサン テクノロジー株式会社)

❹2018年3月名古屋大学COIによる『ゆっくり自動運転

実証実験』(名古屋大学COI、春日井市)

❺2019年2月名古屋大学COIによる『ゆっくり自動運転

実証実験』(名古屋大学COI、春日井市)*新型車による複数台同時走行

春日井市では今回紹介した「ゆっくり自動運転」の実証実験(⑤)以前から、一人乗りの歩行支援モビリティや遠隔操作による自動運転など、様々な先導的モビリティサービスへの取り組みを行っている

Page 4: 自動運転が拓く未来 - SMBCコンサルティング · 2019. 4. 18. · 4 SMBCマネジメント+ 2019 May イラスト/Getty Images 2019 May SMBCマネジメント+

2019 May SMBCマネジメント+ 11SMBCマネジメント+ 2019 May10 右上の写真/花井智子取材・文/原 武雄

内で実績を積み上げていくことが、自

動運転の社会許容度を高め、公道での

無人自動運転への道が開けると同社は

みている。

 「東京オリンピック・パラリンピック

の開催までにレベル4の自動運転を必

ず実現させたい。前回の東京五輪の際

に、東海道新幹線や東名高速道路がで

きたように、今回も何とか未来に残す

ものを世に送り出したい」と谷口社長

は言う。

 一般車両や歩行者が存在せず、自動

運転車の早期実用化が期待できる“制

限された区域”として、空港が注目さ

れている。空港の数や、走行する車両

の多さを考えれば、市場としてもかな

り大きいうえ、海外への事業展開も期

待できるからだ。

 国土交通省は、空港地上支援業務の

省力化・自動化のため、システムがす

べての運転操作を行い、緊急時は同乗

する運転者が操作する、レベル3以上

の自動運転車両を2020年度までに導

入することを目指している。

 手荷物・貨物の積み下ろし、航空機

誘導、機内清掃などの地上支援業務を

手掛ける企業など、10社以上が参画

する国交省の実証実験の中で、主要な

役割を果たしている1社が、自動運転

技術を開発するベンチャー企業の株式

会社ZMPだ。

言わせたい」と意気込む。

 その目標を達成するための次のス

テップとして、制限区域内でシステム

がすべての運転操作を行う、レベル4

の実証実験を定期的に行い、検証を進

めていくよう、空港などに提案してい

るという。

 人だけでなくモノの輸送の無人運転

化も構想している。空港では例えば、

手荷物や貨物を積んだコンテナを曳い

て走るトーイングトラクターの無人化

を実現したいという。

自動運転プラットフォームをさまざまな制限区域で実用化へ

 ZM Pはもともとロボットベン

チャーとして2001年に設立した。培っ

たロボット技術をベースに08年に自

動運転プラットフォームを開発し、以

来10年以上にわたって自動運転技術

を磨き上げてきた。

 無人運転の要となる、道路やエリア

の状況を網羅した高精度3次元地図

(ダイナミックマップ)や、ステレオカ

メラなど自動運転に必要となるハード

ウェアとソフトウェアを総合的に自社

開発しているのが強み。

 同社は、株式会社ブリヂストンとタ

イヤ性能試験の1つであるタイヤ騒音

試験走行における自動運転技術の開発

プロジェクトも進めている。既にブリ

 国交省が2018年12月に行なった8

件の実証実験のうち3件に同社が関

わった。18年12月には鴻池運輸株式

会社と成田国際空港で、丸紅株式会社

と19年1月に成田国際空港、3月には

中部国際空港で、それぞれ共同で実証

実験を実施した。丸紅とZMPは18年

12月に、空港における自動運転の事

業化を目的とした共同出資会社、

AIRO株式会社を設立している。

 鴻池運輸と丸紅はいずれも地上支援

業務を手掛けている企業であり、今回

ヂストンのテストコース内で有人自動

運転走行(レベル3)を達成しており、

2019年中にレベル4の実用化を目指

している。

 株式会社小松製作所と共同で、不整

地を走行するダンプカーの無人自動運

転走行実験にも取り組んでいる。これ

も、一般車両や歩行者が入らない制限

区域である工事現場で使うことを想定

しているため、早期の実用化が期待で

きる。

 ほかにも、18年8月には、タクシー

大手の日の丸交通株式会社と、公道で

の自動運転タクシーサービス実証を

行った。予約、走行、支払いなどすべ

てを無人で行うサービス実証で、緊急

時に備えて運転席にドライバーが乗車

したものの、自動運転システムがすべ

ての運転操作を実施した。東京・大手

町の高層ビルと六本木ヒルズ間を結ぶ

区間約5.3kmで、12日間に計約350人

の乗客を乗せ、合計95回運行した。

 空港やテストコースなどの制限区域

はそのスタッフが空港内を移動するた

めの車両で実証実験を行った。「所定

の場所で停止すること」「車線を維持

して走行すること」など20項目以上の

検証が行われ、ZMPの車両は全項目を

クリアした。

 ZMPの代表取締役社長の谷口恒氏

は、「2020年の東京オリンピック・パ

ラリンピックに合わせて、作業スタッ

フ用車両だけでなく、空港内で海外か

らのお客様をお出迎えするバスの無人

自動運転を実現させて、世界をアッと

特 集 自動運転が拓く未来

制限区域である空港の地上支援業務で自動運転車の実用化を目指す。カメラ、センサー、自動運転用コンピューターなどを自社開発。

作業スタッフや貨物で実績を積み、顧客輸送にもつなげたい考えだ。

空港の地上支援業務で自動運転車両の実用化見込む

株式会社ZMPCase2

「世界が注目する東京オリンピック・パラリンピックまでにレベル4の自動運転を実用化したい」と話す、谷口恒代表取締役社長

代表取締役社長 谷口 恒本社 東京都文京区小石川5-41-10設立 2001年1月売上高 12億300万円(2018年12月期)従業員数 110人(2019年3月現在)事業内容 自動運転技術開発用プラットフォーム及

びセンサー・システムの開発・販売、自動運転等の開発支援、物流支援ロボットの開発・販売など

https://www.zmp.co.jp/

Corporate Profi le

最大150m、水平110°の距離と視野のセンシングが可能なステレオカメラ「RoboVision®3」自動運転コンピューター「IZAC®」。自動車を公道で自動運転させることに特化して一から設計・開発した

空港での自動運転実証実験に使われた車両。18年12月には鴻池運輸株式会社と自動運転車両(左)で、19年1、3月には丸紅株式会社と小型EV場バス(下)で、それぞれ作業スタッフを運んだ

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2019 May SMBCマネジメント+ 13SMBCマネジメント+ 2019 May12 取材・文/菅野 武 右上の写真/柚木裕司

ら5カ年の第2期がスタート。2020年

度をメドに歩行者や信号のない高速道

路でのレベル3(緊急時のみドライ

バーが操作する)自動運転を実用化す

る技術を完成させ、さらに3カ年をか

けて一般道でレベル3の自動運転技術

の実用化を目指している。

 東京都のお台場地区と羽田空港、両

者を結ぶ高速道路を含む臨海地域を実

験フィールドとして整備を行い、19

年10月から各種実証実験を進めてい

く計画だ。

 内閣府は、自動走行システム(SIP-

adus)研究開発の一環として、大型路

線バスへの自動運転技術の適用につい

て実証試験を進めている。「次世代都

市交通」というテーマのもと、「交通量

の多い公道で多くの旅客を輸送する公

共交通において、自動運転技術の実用

化の可能性を探ることを目的にしてい

る」と、政策統括官(科学技術・イノ

ベーション担当)付政策調査員の杉江

薫氏は言う。

 バスが公共交通の主役になっている

ことから実証実験の場として沖縄県を

選定し、2017年3月から12月まで、

小型バスなどを用いて既に3回の実証

実験を実施した。その結果、ドライバー

の補助がないレベル4の無人自動運転

を実用化するにはまだ時間がかかると

判断し、自動運転支援技術を部分的に

導入した、レベル2の早期実用化に目

標を定めた。

 今年1月から3月にかけて、4回目の

実証実験として、国内で初めて大型路

線バス車両を用いた自動運転支援技術

の実証実験を行った。目的は、バス停

にすき間なくぴったり停止する「正着

制御技術」と、急発進・急停車で乗客

に負担をかけないようにする「加減速

最適制御技術」という2つの運転支援

技術の検証にある。

すくなり、乗降時の体力的な負担が減

るうえ、乗降時間の短縮にもつながる。

 また、加減速最適制御によって揺れ

が少ない快適な車内を実現することは、

高齢者や、大きな荷物を持つ観光客に

とって乗り心地向上につながる。路線

バスに関連した事故の中では、車内で

の転倒事故が比較的多く、加減速制御

によって、同事故の防止も期待できる

という。

バス事業者にもメリット2020年度にも実用化の可能性

 一方、バス事業者にとっては、運転

手の操作負担が減らせるため、ストレ

ス・疲労の低減につながる。また、周

囲に気を配りやすくなるため事故の発

生率の低減も期待できる。新人運転手

を早期に現場に投入しやすくなるなど、

運転手不足への対策にもなる。

 今回の実験に参加した運転手からは

「人間ではなかなかあそこまでぴった

りと止められない」「運転が楽になる」

と運転支援技術を高く評価する意見が

 那覇空港と、県南の豊見城市にある

アウトレットモール「あしびなー」、道

の駅「豊崎」の3つに仮バス停を設置し

て、往復約18kmの幹線道路を1日往

復6便のダイヤで14日間、運行した。

観光客も住民も利用することの多い路

線バスが実際に走っていることから、

このルートを選んだという。

 駐車車両を避けるハンドル操作や、

信号での停止・発進操作はドライバー

多かった。一方で、「機械にすべてま

かせるのは少し不安」「ここまで機械

にやられてしまうと、自分の技量が衰

えてしまうかも」という意見もあった。

 技術面だけでなく、自動運転の実用

化に向けては、利用者への認知や社会

的受容性を高めることも大切になる。

今回の実証実験はそこを重視して、国

内での自動運転の実証実験としては、

これまでにない規模となる一般利用者

1,000人に目標を設定した。

 バスの利用を無料にしたこともある

が、事前登録と当日利用を合わせて実

際の利用者は1,200人を超えた。内訳

は県内住民が約8割、県外が約2割。「こ

れだけの規模の実証実験は過去に例が

ない」と杉江氏は手ごたえを感じてい

る。

 正着制御技術は今後も改良を続け、

2020年度をメドに都営バスで実用化

する方向で内閣府と東京都が調整を進

めている。SIP-adusプロジェクト全体

としては2019年3月までの第1期が終

了し、1年間が重なる形で18年4月か

が行い、通常走行中の車線維持・加減

速制御は自動運転システムが行った。

バス停が近づくと、車体に取り付けた

前方・側方カメラやLiDAR(レーザーセ

ンサー・スキャナー)が、バス停の位置

や人を検出してハンドル・ブレーキな

どを自動操作し、乗客が乗り降りしや

すい位置に正確に停車する。

 正着制御により、高齢者や車いす利

用者でも安全かつスムーズに乗車しや

特 集 自動運転が拓く未来

停留所にぴったり止まる「正着制御」や「加減速制御」について交通量の多い路線バスへの実用化にメドをつけた。

高齢者などが安全に乗り降りできる公共交通の実現を目指す。

公道を走る大型路線バスに運転支援技術を段階的に導入

内閣府Case3

「自動運転支援技術の導入で公共交通の課題解決に貢献したい」と話す杉江薫内閣府政策統括官付政策調査員

自動運転走行ルート

那覇空港と県南のアウトレットモール、道の駅を結ぶ路線で自動運転支援技術を導入した大型バスを運行。14日間で1,200人の利用者があった

ゆいレール

ゆいレール

赤矢印手動運転区間

漫湖

那覇空港3F正着制御

正着制御正着制御

安次嶺

赤嶺

瀬長

豊崎

那覇空港

道の駅豊崎

アウトレットモールあしびなー

実証実験に使用したバス(上)。運転手は走行中の大部分をシステムに任せ、作業負担が軽減する(右上)。設置した仮バス停にぴったり止まったところ。バス停の高さを高くすることで乗降がスムーズにできる(右下)

加減速制御加減速制御