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一橋論 叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 (1 2 2)
〔
博士
論文要旨〕
計画
経済と
社会主
義企
業
3 5 β
Ⅰ
論文の
課題と
方
法
こ
の
論文は
、
社会主義経済の
計画的運営を
能率
化する
上
で
の
制度的
・
理
論的問題に
関す
る
研究で
あ
る。
検討の
素材は
、
ソ
連
邦の
五
〇年代後半以
降六五
年経済改革に
い
た
る
経済制度と
経済
理
論で
あ
る。
主論文で
は、
国民
経済計画と
企
業計画
との
結合関
係や
企業計画の
体系的考察を
通し
て、
計画の
斉合性と
能率性を
保証するメ
カ
ニ
ズ
ム
を
検討し
た。
副論文で
は、
主論文の
理
論的
前
提と
な
る
投資計画の
配分基準を
考究し
た。
周
知の
よ
うに
、
社会主義経済
・
社会体制ほ
、
第二
次
大
戦
後、
歴
史に
影響力を
与え
る
世界体制の
一
方の
側と
して
、
はっ
き
り
と
位置づ
け
られ
る
よ
うに
なっ
た。
ソ
連邦に
お
い
て、
プロ
レ
タ
リ
ア
政権が
樹立さ
れ
て
か
ら
半世
紀を
経過し
た。
こ
の
時期は
、
二
つ
の
世界大戦と
国内戦な
ど
に
よ
るソ
連邦に
とっ
て
異常な
緊張と
闘い
の
時期で
は
あっ
た
が、
同時に
今日の
社会主義計画経済制度の
基
礎を
築い
た
時期で
も
あっ
た。
社会主義経済制度ほ
、
生
産手段の
社会化を
基盤に
し
て、
経済の
計画化と
人
間労働の
搾取か
らの
解
望
月
喜
市
放を
目
指すもの
で
あ
る。
こ
れ
は、
資本主義経済の
無政府生
産と
賃労働の
止
揚に
対
応して
、
社会主義経済が
志向す
る
基本原則で
あ
り、
こ
の
原則の
追求の
上に
、
人間が
経済運営の
主人
と
な
る
社
会(
エ
ン
ゲル
ス
)
が
約束され
る
の
で
あ
る。
こ
う
し
た、
社会主義経済に
対
する
い
わ
ば
歴史的課題に
対
し、
現実の
社会主義経済制度は
ど
の
よ
う
に
応え
て
い
るの
か。
社会主
義経済体制を
確立
し
苧三9
れ
ば、
万
事は
解決され
る
とい
う
期待
は、
今日で
は
もは
や
通用し
ない
。
生
産手段の
社会化は
、
こ
の
課
題解決の
前提に
すぎな
い。
こ
の
可能性を
現実性に
転化する
た
め
に
ほ、
社会主義経済の
法則性を
踏ま
え
た
科学的な
計画
・
管理
制
度と
、
こ
れ
を
支え
る
経
済理
論が
構築され
、
た
え
ずそ
れ
を
改善し
て
行か
ね
ば
な
ら
ない
。
こ
の
過程で
、
社
会主義経済に
特徴
的な
諸
問題が
発生
する
。
従
来の
わ
が
国の
社会主義経済の
研究は
、
経済制
度の
研究と
経
済理
論の
研
究と
が
必
ずし
も
十分に
結合し
て
い
な
かっ
た
よ
うに
思
わ
れ
る。
た
と
え
ば、
価値法則の
存在と
作用形態を
め
ぐ
る
討議の
中で
、
生
産物
一
般の
生
産を
組織する
メ
カ
ニ
ズ
ム
、
その
実現過程
曲町
の
社会主義的特殊性など
を、
理
論との
関わ
り
合い
に
お
い
て
そ
の
制度的側面を
解明
する
研究方法は
と
ら
れ
て
い
な
かっ
た。
ま
た
企
業会計制度や
経済制度の
詳細な
紹介ほ
あっ
て
も、
両者を
計画シ
ス
テム
とし
て
結合し
総合的に
捉え
る
試み
は、
なか
っ
た
よ
う
に
思
われ
る。
私の
研究は
、
も
と
よ
り
十分な
もの
と
は
い
い
が
た
い
が、
こ
うし
た
従
来の
研
究方法上の
間隙を
少しで
も
埋め
たい
とい
う意
図が
あっ
た。
し
た
がっ
て、
(
イ)
ソ
連邦の
経済
・
経営制
度
を
で
きる
だ
け
詳細に
跡づ
け、
それ
と
の
関連に
お
い
て
理
論
問題を
考え
るこ
と、
(
ロ
)
一
つ
の
現象を
シ
ス
テム
全体との
関連で
位
置づ
け
るこ
と
(
企
業の
指標群の
統一
的
考
察な
ど)
、
(
ハ
)
企業の
機構を
国民
経済計画との
関連で
促え
るこ
と
な
どの
諸点に
留意した
。
周
知の
よ
うに
、
ソ
連・
東欧圏の
経済計画
制度は
、
最近
発展途
上の
一
つ
の
転換期を
迎え
て
い
る。
問題を
ソ
連
邦に
限っ
て
み
る
と、
こ
こ
一
〇年近
くの
期間に
、
計画
化理
論の
関心は
主と
し
て
つ
ぎ
の
点に
集中して
き
た。
(
イ)
生
産効率をヨ
リ一
層高め
る
た
め
の
諸理
論の
開発
。
た
と
え
ば
労働生
産性の
測定とそ
の
引上
げ
問題
、
投資の
部門間
・
地
域間へ
の
配分基準に
関する
問
題な
ど、
(
ロ
)
企業活動の
物的刺激制度をヨ
川
合理
化する
こ
と
に
よ
り、
経済の
報
基礎細胞に
ヨ
リ一
層の
活力を
与える
問題
、
(
ハ
)
生
産手
段の
通
( 12 3) 彙
時・
適量の
律動的配置問題と
、
消費財市場の
動向に
見合う
生
産
を
誘導す
る
問題
。
つ
ま
り
流通過程の
改善問
題、
(
ニ
)
計
画
制
度
に
数学的手法や
情報処理の
自動化手段をヨ
リ
広汎に
適用するこ
と
に
よっ
て、
計画指令
・
情報伝達を
迅速化する
問題
。
私の
研究ほこ
うした
最近
の
動き
を
踏ま
え
て、
副論文で
は(
イ)
の
問題と
(
ニ
)
の
問題の
一
分野を
取扱い
、
主
論文で
は、
(
ロ
)、
(
ハ
)
、
(
ニ
)
の
問題に
関連さ
せ
て
問題を
展開し
て
い
る。
Ⅲ
主論文の
内容
社会主義経済制度の
基
本的
特徴の
一
つ
は、
国民
経済計画を
支
える
形で
、
企業計画
が
結合して
い
るこ
とで
あ
る。
社会主義経済
は、
い
わ
ば
「
一
企
業国家+
で
あ
り、
各企業は
そ
の
支店とい
う形
を
と
る。
こ
の
点で
、
個別
資本の
運動が
結果的に
総資本の
運
動と
し
て
把握さ
れ
る
資本主義体制と
は、
全くその
原理
を
異に
する
。
「
一
企業国家+
は、
全体と
して
経済価値の
回
収を
計り
、
物的バ
ラ
ン
ス
を
維
持し、
拡大再生
産を
施錠し
な
け
れ
ば
な
ら
ない
。
こ
の
限り
で
ほ、
個別企業は
、
個々
に
価値の
回
収を
計る
必
要は
な
い
よ
ぅに
考え
られ
る。
事実
、
戦時共産主義の
時期に
は、
国営企業は
その
生
産物を
無料で
国家に
引渡し
、
企業の
費用は
すべ
て
国家予
算に
よっ
て
賄わ
れ
た。
ま
た
今日に
至る
まで
、
欠損部門や
欠
損企
業が
、
か
な
り
の
割合で
存在しっ
づ
けて
き
た。
と
こ
ろ
が
企業の
成
立と
発展経過を
み
る
と、
企
業単位の
ホ
ズ
ラ
ス
チ
ョ
ー
ト
制度は
次
第に
発展整備さ
れ
て
き
た
し、
一
九六五
年の
経済改革もこ
の
延長
線上
に
あ
る
と
考え
るこ
とが
で
き
る。
ホ
ズ
ラス
チョ
ー
ト
は、
通常
独立採算制と
邦訳さ
れ、
個別企業ご
と
に
利潤を
確保す
る
制度と
し
て
理
解さ
れ
て
い
る。
し
か
し、
こ
の
制
度の
過去四
〇年近い
発展
過程を
眺めて
みる
と、
企業単位の
利潤追求機能は
、
そん
なに
明
ら
か
で
は
ない
。
こ
の
制度の
本質は
、
収入の
範囲内に
支出を
規制
▲7
する
原則的努力を
、
各企業に
要求す
るこ
とに
よ
り、
節約制度を
お
一 橋論叢 第 五 十 九巻 第 三 号 (1 2 4)
維持し
強化する
点に
あ
る
よ
うに
思わ
れ
る。
企業利潤は
、
あ
くま
で
も
目的で
は
な
く、
節約闘争を
組織す
る
上
で
の
手
段で
あっ
た
し、
今
後もこ
の
原則は
不
変で
あ
ろ
う。
こ
こ
に、
企業
利潤の
もつ
社会主義的特徴が
反映さ
れて
い
る
の
で
ある
。
社会主
義経済制度は
、
長期的
・
全体的視点か
ら、
物的生
産構
造と
成長率を
計画的に
決定する
制度で
あっ
て、
社会的価値補填
も
全体と
し
て
保
証さ
れ
れ
ば、
個別的に
多少の
欠損企
業が
存在し
て
も、
制度的に
許容さ
れ
るべ
き
もの
なの
で
あ
る。
第三
章と
第四
革で
は、
国民
経済計画と
企業計画
との
結合関係
を、
計画
作成
過程に
関連づ
けて
捉え
た。
経済計画を
たて
るに
あ
たっ
て
ほ、
つ
ぎ
の
諸
条件が
み
た
さ
れ
な
けれ
ば
な
ら
な
い
。
(
イ)
あ
る
企業の
生
産・
出荷計画は
、
同時に
他企業の
仕入
計画と
原材
料
供給(
生
産)
計画に
結合し
て
い
な
け
れば
な
らな
い。
し
か
もこ
の
企業間の
結合関係ほ
、
全体と
して
最も
能率的な
も
の
で
な
け
れ
ば
な
ら
ない
。
(
ロ
)
年々
の
生
産上の
バ
ラン
ス
と
能率を
保証
し
な
が
ら、
長期計画で
望まし
い
方向に
生
産構造を
誘導し
なけ
れ
ば
な
ら
ない
ヂ
軒)
上
級機関が
企業に
与え
る
生
産課題
は・〔
、
書生
産能カを
十分に
汲み
つ
くし
、
し
か
も
その
緊張度は
企業間に
お
い
て
平等な
もの
で
な
け
れ
ば
な
ら
な
い。
(
ニ
)
企業の
自発性を
尊重
し、
生
産性向
上
に
企業意欲を
組織し
な
け
れ
ば
な
ら
な
い。
(
ホ)
生
産さ
れ
た
消
費財は
、
住民の
需要に
量的に
も
質的に
も
応え
る
も
の
で
な
け
れ
ば
な
ら
ない
。
(
へ
)
計画指令は
、
十
分な
時
間
的
余
裕
を
もっ
て
伝達さ
れ、
指令相互間に
斉合性が
な
け
れ
ば
な
らな
い
。
こ
うし
た
諸条
件を
み
た
す生
産計画を
作成す
る
た
めに
ほ、
上
級
機関が
大枠指令を
決定し
そ
れ
を
下部
機関に
細分化する
過程で
、
おっ
J
全体と
部分の
要求と
可能性の
相互
交
流、
つ
ま
り
民主集中制が
保
証さ
れ
な
けれ
ば
なら
な
い。
こ
の
条件の
も
とで
各企業の
生
産計画
ほ、
経済全体の
計画に
有機的に
結合する
。
工
業企業の
生
産計屑は
、
「
技術工
業財務計画+
体系
を
構
成
す
る。
こ
の
計画シ
ス
テム
は、
生
産高指標を
中心
と
し
て、
互に
密接
な
関連を
もつ
指標群か
ら
なる
。
し
た
がっ
て、
一
つ
の
指標の
変更
ほ、
他の
一
連の
指標に
影響を
与える
。
こ
の
指標群は
、
その
管理
上の
機能に
従っ
て
計画指標
(
承
認
指
標と
計
算指標)
、
評価指標
、
刺激指標な
ど
に
顆別
するこ
と
がで
きる
。
企業計画体
系の
考
察に
引継い
て、
こ
の
体系の
い
わ
ば一
つ
の
病
理
現象と
し
て
従来か
ら
問題視され
て
きた
、
ア
ソ
ー
ト
メ
ン
ト
課題
の
人
為的歪曲問題を
と
り
釘
げ
る
(
第
五
章)
。
こ
の
問題は
、
リ
ー
ベ
ル
マ
ン
以
来の
い
わ
ゆ
る
「
利潤論争+
の一
論点を
構成する
もの
で
あ
り、
需要側(
企
業、
住
民)
の
真に
必
要な
生
産物の
生
産を
、
生産側に
どの
よ
うに
保証さ
せ
る
かに
関連した
問題で
あ
る。
こ
の
間題の
解決に
は、
(
イ)
上
級機関が
的確に
需要
側の
要求
を
捉えて
、
細か
く生
産企業の
品目を
規
制
する
か、
(
ロ
)
上
級機
関の
品目指令は
、
経済上
重
要な
大枠課題に
限定し、
その
枠内で
生
産企業が
需要側の
動向に
弾力的に
反
応するよ
うなメ
カ
ニ
ズ
ム
を
作り
上
げる
か
の
い
ずれ
か
が
必
要で
あ
る。
ソ
連
邦で
は、
従
来
(
イ)
の
方
法(
行政
的
方
法)
に
沿っ
て
制度上の
改善が
試み
ら
れ
て
き
た。
しか
し、
如何に
上
級機関が
需要側の
動向把捉に
努力し
て
も、
益々
複姫化しっ
つ
あ
る
生
産品目をこ
とご
と
く
詳細に
生
産
血勺
現場に
指令するこ
と
は、
不
可能で
は
ない
に
し
て
も
大変な
労力と
費用を
必
要と
する
に
ちが
い
ない
。
そ
の
上、
詳細な
品目別生
産能
力や
、
その
生
産組
織化
方法は
、
生
産現場が
一
番よ
く
知っ
て
い
る
の
で
あ
る。
し
た
がっ
て、
肝心
な
生
産上の
バ
ラン
ス
さ
え
上
級機関
で
統制する
こ
と
が
で
き
れ
ば、
細目に
つ
い
て
は、
生
産現場に
ま
か
せ
る
方が
は
る
か
に
能率的で
あ
る。
六五
年の
経
済
改
革ほ
、
(
ロ
)
の
方式に
踏み
切っ
たの
で
あ
る。
こ
の
場合
、
「
総生
産高指標+
を
中
心
と
す
を
企業活動の
指導・
評価方式は
、
品目
別生
産課題の
人為的歪曲を
促進する
こ
と
が、
すで
に
五
七
年頃か
ら
指
摘さ
れ
て
き
た。
そ
こ
で
「
商品生
産高指
標+
や
「
棟準加工
価値指標+
の
導入が
行な
わ
れ、
最近
ま
で一
連
の
部門や
企業で
採用さ
れ
て
き
た。
し
か
し、
こ
の
方
法は
制
度的に
複雑なこ
と、
問題の
積極的解決
策で
は
ない
こ
と
な
ど
の
理
由か
ら、
そ
の
支持を
失い
、
六五
年改訂制度で
は、
販売高指標と
利潤額
指標とが
利潤率指標と
組合わ
さ
れて
使
用さ
れ
る
こ
と
に
なっ
た。
第六
章で
は、
労働と
賃金計画の
考
察に
あて
られ
る。
計画
経済
制度で
は、
財の
生
産計画と
並
ん
で
労働力の
配置計画が
重
要な
一
分野を
構成する
。
本来なら
経済全体の
労働力配置計画か
ら
説き
報
お
こ
すべ
き
とこ
ろで
あ
る
が、
本論文で
は、
企
業内計画に
位置づ
( 1 25) 彙
け
ら
れ
る
労働と
賃金の
計画に
焦点を
絞るこ
と
と
し
た。
社会主義の
も
とで
の
賃金額は
、
労働力の
再生
産価値に
規制さ
れ
る
もの
で
は
な
く、
社会的生
産へ
の
参加の
程度に
応じた
分配額
を
表わ
す
もの
と
さ
れて
い
る。
つ
まり
労働の
質と
量に
応じた
社会
主義的分配原則は
、
こ
の
賃金制度に
よっ
て
貫徹さ
れ
る
建前に
な
っ
て
い
る
の
で
あ
る。
その
た
め
に、
賃
金
制
度は
、
(
イ)
労働必
要
基準量を
科学的に
決定す
る
ノ
ル
マ
制
度、
(
ロ
)
賃率制度(
技
能
等
叔
便
覧、
賃率等
親
表、
基
準
賃率)、
(
ハ
)
貸金形態と
体
系(
出
来
高賃金
、
時間
貸金
な
ど)
の
三
つ
の
部分か
ら
鏡
板さ
れて
い
る。
第七
草で
ほ、
企業内部に
留保され
、
自律的に
その
使用が
認め
られ
て
い
る
利潤部分の
刺激的機能に
つ
い
て、
考察し
た。
従来の
制度で
は、
企
業利潤が
十分に
企業活動を
刺激し
て
い
た
とは
い
え
ない
。
た
と
え
ば、
(
イ)
生
産能力と
此
較し
て、
ヨ
リ
低
い
生
産課題を
受取るこ
と
に
成
功し
た
企
業、
(
ロ
)
国家
予
算の
支
出が
保証さ
れ
る
生
産手
段を
、
余裕を
もっ
て
蓄積するこ
とに
成功
し
た
企業
、
(
ハ
)
機械化
・
オ
ー
ト
メ
ー
シ
ョ
ン
化の
進
ん
だ、
従
業
員数が
相対
的に
少ない
企業な
ど
ほ、
他の
条件が
等しい
な
ら
ば、
企
業の
生
産努力と
は
無関係に
一
人
当りプレ
、、
、
ア
ム
をヨ
リ
多く
獲
得する
機会に
恵主れ
て
い
た。
こ
うし
た
点を
、
六五
年改革で
は、
つ
ぎの
方法で
改善し
ょ
うと
試み
た。
(
イ)
に
対
し
て
は、
評価指
標とプレ
、、
、
ア
ム
支払い
の
計算基準を
改訂し
た。
(
ロ
)
に
対
し
て
は、
フ
ォ
ン
ド
使用料制
度を
新設し、
財政支軋の
代わ
りに
企
業の
白己
積立
資金制度と
銀行の
貸付金制度を
強
化し
た。
(
ハ
)
に
対
し
て
ほ、
企業利潤の
一
定此
率に
よる
内部留保制度を
改め
、
留保
利潤額を
貸金フ
ォ
ン
ド
額に
比
例させ
る
計算方式に
移行し
た。
こ
うし
た一
連の
改革を
、
ソ
連邦の
経済学者は
、
完全なホ
ズ
ラ
ス
チョ
ー
ト
制度の
導入
と
よ
ん
で
い
る。
こ
の
改革を
成功さ
せ
る
た
め
に
は、
以
上の
企業内部の
諸
問題の
解決の
外に
、
企業を
と
り
ま
く
外的諸条件の
整備
、
すな
わ
ち
資材-機械供給制度や
価
格体系
湖
一
橋論叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 ( 1 2 6)
の
改善が
必
要不
可欠で
ある
。.こ
れ
らの
点に
つ
い
て
は、
.「
結語+
の
部分で
若干の
指
摘を
行なっ
て
い
る。
最近の
一
連の
制度改革の
潮流の
一
つ
と
して
、
計画情報
・
報告
情報の
処理
を
迅速化する
た
め
に、
計画
・
管理
制度に
数学的手法
を
大幅に
導入
しょ
うとい
う
試み
が
存在する
。
こ
れは
、
分散的決
定を
集中的決定に
結合する
伝達機構の
整備問題とし
て、
計画
経
済制
度に
とっ
て
不
可欠の
も
の
で
あ
る。
第八
草で
は、
こ
うし
た
分
野の
具体的事例と
して
、
マ
ト
リ
ッ
ク
ス
・
モ
デル
に
よ
る
企業計画
の
作成方法
、
企業計画と
経済計画
との
結合
問
題を
考
察し
て
い
る。
こ
こ
で
問題に
な
る
の
は、
企業行動の
最適化
基準と
し
て、
ど
ん
な
指標を
採択すべ
き
か
とい
う点に
つ
い
て
で
あ
る。
こ
の
種の
指標
と
して
、
(
イ)
利潤率極大
、
(
ロ
)
商品
生
産
高=
販
売
高最
大、
(
ハ
)
生
産品目比
率ベ
ク
ト
ル
の
最大
、
(
ニ
)
操業度最大
な
ど
の
基準が
提起さ
れ
て
い
る。
改訂
制
度で
は、
(
イ)
と
(
ロ
)
の
混合
基準を
第一
順位と
し、
そ
れに
(
ハ
)
と
(
ニ
)
の
基準を
追加的に
考慮する
よ
うな
仕方で
、
企
業活動を
誘導し
て
い
る
よ
うに
み
え
る。
し
か
し、
ソ
連邦の
学者の
計算例で
も
わ
か
る
よ
うに
、
こ
れ
ら
の
基準が
互
に
両立
し
ない
こ
とが
、
往々
に
し
て
あ
り
うる
の
で
あ
る。
こ
の
場合
、
企業行動と
して
は
ど
の
基準を
優先させ
るべ
きな
の
か。
こ
の
点は
今後に
残さ
れ
た
課題で
あ
る。
Ⅲ
副論文の
内容
副論文は
、
社会主義制度の
も
と
に
お
け
る
投資配分の
最適基
準
を
追求し
た一
連の
論文か
ら
な
る。
こ
の
研究と
主論
文
と
の
関
係
舶
は、
つ
ぎの
と
お
り
で
あ
る。
3
第一
に、
こ
の
研究は
、
計画
経済制度を
支え
る
投
資配分の
理
論
的根拠を
追求し
た
もの
で、
国民
経済上
の
バ
ラン
ス
構造
は、
こ
の
種の
研
究を
抜き
に
し
て
は、
理
論的解決は
不可
能で
あ
る。
し
た
が
っ
て、
こ
の
研究は
主論文で
取扱
っ
た、
経済計画
と
企業計画の
結
合問題の
前提を
な
す
もの
で
ある
。
第二
に、
主論文の
一
論点
は、
企業行動を
有効に
刺激する
ホ
ズ
ラ
ス
チ
ョ
ー
ト
制度の
考察に
あて
ら
れ
たの
で
あ
る
が、
こ
の
制度を
ヨ
リ一
層改善する
た
めに
は、
適切な
価格制度と
、
それ
を
支え
る
価希理
論が
必
要で
あ
る。
投資効率基準の
研究は
、
こ
の
価椿理
論
と
不
可分に
結合して
発展し
て
き
た。
そ
し
て、
投資選択に
利用さ
れ
る
計算式
e
+
チ1
(Q‥
陣
取樽-
計‥
拓埼}
1‥
蒲億益蟹聾
倣)
が
「
生
産価
椅+
説を
支え
る
有力な
論拠と
して
利用さ
れ
て
い
るの
で
あ
る。
さ
て、
社会主義計画
経済の
も
と
で
は、
年々
の
総投資は
、
蓄積
率の
大枠内で
決定さ
れ、
そ
れ
が
各生
産部門に
配分さ
れ
る。
こ
の
場合
、
その
投資に
よっ
て
増加を
予
定さ
れ
る
生
産物相互の
バ
ラ
ン
ス
は、
い
わ
ゆ
るバ
ラ
ン
ス
方
法で
決定さ
れ
る
と
し
て
も、
同一
の
増
加バ
ラ
ン
ス
を
保証し、
投
資総額に
お
い
て
割当投資額の
範囲を
で
ない
一
連の
投資プロ
ジェ
ク
ト
の
な
かで
、
社会
的労働支出の
最小
を
保証する
プ
ロ
ジェ
ク
ト
選択問題が
発生
する
(
ノ
ポ
ジ
ロ
フ
の
問
題)
。
また
逆に
、
所与の
投資額の
範
囲で
、
投資プロ
ジ
ェ
ク
ト
を
適当に
選択するこ
と
に
よっ
て
生
産物の
比
率ベ
ク
トル
を
極大化
す
革
( 1 2 7) 彙
る
問題を
線型計画
法を
用い
て
解い
たの
は
カ
ン
ト
ロ
グィ
プ
チ
で
あ
っ
た。
ノ
ポ
ジ
ロ
フ・
モ
デル
に
つ
い
て、
や
や
詳し
く
検
討しょ
う。
こ
の
モ
デル
の
前提は
、
(
イ)
諏与の
投資額
、
(
ロ
)
そ
れに
よっ
て
保証
され
る
総生
産高は
一
定(
単一
生
産
物)
、
(
ハ
)
こ
の
生
産に
参
加
し、
凝資の
割当対
象と
なる
複数の
生
産単位(
た
と
え
ば
企
業)
が
存在する
。
(
ニ
)
各生
産単位は
、
投資量を
独立
変
数と
し、
社会
的労働支出量を
従属変数と
する
原点
に
関して
凸なる
減少曲線を
もつ
。
た
だ
し、
こ
の
曲線上の
各点
は、
すべ
て
同一
の
生
産高を
保
証す
る
もの
と
する
。
(
ホ)
各生
産単位で
投入さ
れ
る
投
資の
合
計
は、
こ
の
投資プ
ロ
ジェ
ク
ト
系に
割当て
られ
た
総投資額の
範囲内
に
あ
り、
各生
産単位で
保証
さ
れ
る
生
産高の
合計は
、
こ
の
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
系に
与え
ら
れ
た
生
産課題を
み
た
すも
の
と
する
。
以
上
の
前提の
も
と
で、
各生
産単位に
ど
の
よ
うに
投資を
割当て
れ
ば、
こ
の
プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
系の
消費する
社会的労働支出を
最小
化
で
き
る
か。
こ
れ
がノ
ポ
ジ
ロ
フ
の
問題設定で
あ
る。
こ
の
間題の
解
は、
各生
産単位の
もつ
曲線上
の一
点に
接する
接線の
勾配が
、
互
に
等し
く
な
る
よ
うな
投資額を
上
記の
制約投資額の
範囲内で
探す
こ
と
で
あ
り、
代数的に
は、
ラ
グ
ラン
ジ
1
の
未定係数簸で
解くこ
と
が
で
き
る。
こ
の
種の
問題を
実際に
適用する
に
当っ
て
は、
■集中的決定
方
式
と
分権的決定方式の
二
つ
の
管理
制度を
考え
る
こ
と
が
で
き
る。
前
者の
方式に
よ
れ
ば、
生
産単位の
計算デー
タ
を
すべ
て
中央に
集中
し、
そこ
で
え
ら
れ
た
最適解の
結果
、
つ
ま
り
全体と
し
て
最小
な
社
会的労働支出を
保証する
よ
うな
投資割当
額を
、
各生
産単位に
通
告し、
そ
れに
沿っ
て
各生
産単位が
行動す
るこ
とに
なる
。
こ
の
方
式の
長所は
、
分権的決定方
式に
比
較して
中央と
生
産単位との
試
行錯誤過程が
省略さ
れ
るこ
と
で
あ
るが
、
その
反面
、
一
つ
の
投資
プロ
ジ
ェ
ク
ト
系に
含ま
れ
る
生
産単位の
数が
増大すれ
ば
する
程、
デー
タ
の
収集と
そ
の
処理に
時間と
経費が
必
要と
なる
欠
点を
もっ
て
い
る。
こ
れ
に
対
し
て、
分散的決定方
式は
、
中央で
適
当な
投資
打歩(
投資効
率、
ノ
ル
マ
)
を
決め
、
こ
れ
を
各生
産単位に
示
すこ
とに
よっ
て、
最適解に
近づ
くプロ
セ.
ス
が
開始さ
れ
る。
各生
産単
位で
ほ、
社会的労働支出に
こ
の
投資打歩を
含む
総費用(
較
差
支
出)
が
最小
化する
点を
求め
、
そ
れ
に
必
要な
投資額を
中央に
申請
する
。
中央で
は、
各生
産単位か
ら上
っ
て
き
た
投
資必
要額の
合計
を、
投入
可
能な
投資総額と
比
較し
、
前
者が
こ
の
範囲をこ
えな
い
で、
こ
れに
一
番近
く
なる
よ
うに
、
投資打歩を
調整する
。
こ
うし
て、
数回の
試行錯誤の
の
ちに
、
最通解を
保証する
投資打歩と
個
別的投
資額とが
同時に
決定さ
れ
る。
こ
の
方式の
長所は
、
生
産単
位が
多数の
易合に
、
少な
い
経費で
最適解に
到達し
うるこ
と
で
あ
る
が、
決定に
至る
時間的
浪費を
最小
化する
情報伝達制度を
整
備
し
な
け
れば
な
らな
い。
し
か
し、
こ
の
方式で
は、
最適投資配分の
決定と
、
最適投資打歩と
が、
同時決定で
あ
るか
ら、
ノ
ポジ
ロ
フ
の
い
うよ
うに
、
あ
ら
か
じ
め
決定さ
れ
た
標準投資効率γ
を
含む
計
算式Q
+
チ→
の
最小
化を
目標とし
て、
各生
産単位が
投
資配分を
決定する
わ
け
に
はい
か
ない
。
カン
ト
ロ
グィ
プ
チ
の
線型計画モ
デ
一
⊥
ル
は、
こ
の
難点を
一
定の
限度内で
回
避する
こ
と
に
成
功
し
て
い
討
一 橋論叢 第五 十 九 巻 第 三 号 ( 1 28)
る。
ノ
ポジ
ロ
フ・
モ
デル
の
実際的効用は
、
投
資プ
ロ
ジェ
ク
ト
系
内に
あ
る
生
産単位が
か
な
り
多数で
ある
か、
不
特
定
多数の
場
合
に、
γ
の
値を
適当に
定める
こ
と
に
よっ
て、
許容さ
れ
る
投資額の
近
傍で
投資効率を
最大に
する
可能性を
もつ
点に
あ
る。
ノ
ポ
ジ
ロ
フ
理
論の
も
う一
つ
の
特徴は
、
彼の
理
論が
い
わ
ゆ
る
「
生
産価格+
説の
一
つ
の
支柱と
なっ
て
い
る
息に
ある
。
彼の
主張
に
よ
れば
、
Q
+計・
→
の
計算方式こ
そ、
社会主義的な
生
産
価
蒋で
あ
り、
こ
の
価格の
も
と
で
始め
て
投資の
最適配分が
保証さ
れ
る
と
い
う。
しか
し、
私は
こ
の
説に
賛成し
ない
。
なん
と
なれ
ば、
彼の
理
論の
有効性は
、
社会的労働支出に
比
例し
た
価蒋体系(
つ
ま
り
資本
打
歩を
含ま
な
い
価
格)
の
存在を
抜き
に
して
ほ、
考えら
れ
な
い
か
ら
で
あ
る。
ソ
連邦の
最近の
価格政
策は
、
価樽論争の
系譜か
らい
え
ば、
「
生
産価格+
方式に
き
わ
めて
近い
政策を
打出し
て
い
る
とい
わね
ば
な
ら
な
い。
し
か
し、
こ
れ
は
企業の
ホ
ズ
ラス
チョ
ー
ト
制度の
強化策
と
の
関連で
採択さ
れ
た
政策で
あっ
て、
ノ
ポジ
ロ
フ
理
論の
政策的
帰結と
考え
るべ
き
で
は
ない
。
すなわ
ち、
従来の
「
生
産価椅+
説
を
整理
す
る
と、
か
な
り
早い
時期に
ア
ト
ラ
ス
な
ど
が、
企業内の
生
産手段の
凍結現
象を
除去する
た
めに
利潤率指標を
企業の
活動評
価指標と
し
て
利用すべ
きこ
と
を
論じ
、
その
系譜の
上
に、
フ
ォ
ン
ド
有償制(
フ
ォ
ン
ド
使用
料、
資金
貸
付
制
度)
な
ど
が
主張さ
れ、
こ
うした
料金支払い
を
保証す
る
価格制度と
し
て、
「
生
産価格+
説
が
主張さ
れ
て
き
た
の
で
あ
り、
そ
れ
と
と
もに
も
う一
つ
の
流れ
と
し
て、
ノ
ポジ
ロ
フ
の
「
較差支出説+
に
立脚する
「
生
産価格+
説が
あ
る
の
で
あ
る。
こ
の
両者が
果し
て
同一
の
「
生
産価
格+
に
帰着す
朗3
る
か
ど
うか
に
つ
い
て
の
理
論的検討は
ま
だ
行な
わ
れ
て
い
ない
が、
私見に
よ
れ
ば
両
者が
一
致する
公
算は
少ない
。
い
ずれ
に
し
て
も
社会主義経済の
も
とで
の
あ
るべ
き
価格形成原
理の
追求は
、
こ
ん
ご
に
残さ
れ
た
重
要な
課題で
あ
る。
〔
博士
論
文審
査要旨〕
論文
題目
「
計画
経
済と
社
会主
義企
業+
論文
審査
担
当
者
都
留
重
人
石
川
滋
関
恒
義
l
こ
の
論文は
、
ソ
連の
社会主義的計画制度が
斉合
性およ
び
能率
性と
い
う観点か
ら
どの
よ
うに
運営さ
れ
て
い
る
か
とい
う
問題に
か
ん
する
研究で
あ
る。
こ
の
間題の
研究は
、
わ
が
国で
は
も
ち
ろん
、
ソ
連に
お
い
て
さ
え、
ま
だ
全面的な
段階に
たっ
し
て
い
る
と
はい
え
ない
。
し
た
がっ
て
著
者は
、
そ
れに
い
た
る一
倍
梯と
し
て、
第一
に、
研究課題を
企業の
計画
、
管理が
現実に
ど
の
よ
うに
動い
て
い
る
か
を
具体的
・
制度
的に
跡づ
け
るこ
とに
重
点を
お
き、
第二
に
そ
の
なか
か
ら、
国民経
済計画と
企業計画との
相互
関連お
よ
び
計画
指標シ
ス
テム
の
有機的な
関連とい
う理
論的問題を
抽出するこ
と
に
努めて
い
る。
資料的素材は
、
主と
し
て一
九六二
年以
降の
「
利
潤論争+
を
契機と
し
て
実施さ
れた
一
九六
五
年秋の
国営企業管理
制度改革の
前後に
集
中して
い
る。
著者は
主論文の
ほ
かに
副論文
と
して
、
投資効率論争に
関連する
一
連の
論
文を
提
出し
て
い
る
が、
こ
れら
は、
上
述の
第二
の
問題の
純理
論的側面に
直接関連す
る
もの
で
あ
り、
し
た
が
っ
て
こ
れ
らの
諸成果も
、
審査に
あ
た
り
あ
わ
せ
評価する
こ
と
が
適当で
あ
る
と
考え
た。
▲
ソ】
主論文の
構成を
革別に
示
すと
次の
とお
りで
あ
る。
第1
章
・社
会主義企業の
概
念
第2
革
企業と
国民
経済
第っ
J
章
国民
経済の
計画制
度
第4
章
企業計画の
体
系
第5
革
ア
ソ
ー
ト
メ
ン
ト
課
題と
実現問題
第6
革
労働と
賃金計画
第7
革
企業利潤の
刺激的機能
第8
草
企業計画へ
の
数学的手法の
通用
結語
い
わ
ゆる
「
利潤論争+
の
政策的帰結に
関する
覚書
ま
た
副論文は
次の
五
篇で
あ
る。
(1 2 9) 彙
4 3 2 1
線型計画の
一
問題
ソ
連邦に
お
ける
投資効率決定法に
つ
い
て
い
わ
ゆ
る
投資効率の
諸問題
カ
ン
ト
ロ
ビ
プ
チ
の
線型計画モ
デル
と
投資効率測定論に
つ
い
て
5
社会主
義の
も
とで
の
生
産価格説批判
主論文と
副論文の
特徴を
以
下要約し
て
の
ぺ
る。
主
論文の
第1
革お
よ
び
第2
草は
、
ソ
連邦社会主義制度の
特徴
を
社会主義企
業の
もつ
権限と
機能を
と
お
し
て
考
察し
た
もの
で、
全体の
概念的な
枠組を
与
えた
も
の
と
み
な
し
て
よい
。
記述は
ソ
連
お
よ
び
日
本の
学者の
議論を
再整理
する
とい
う
形で
おこ
な
われ
て
い
る。
著者の
観点の
最大の
特徴は
、
中央計画
当局が
決定し、
それ
に
企業が
従属し
な
け
れ
ば
な
ら
ない
計画
指令の
拘束
性と
、
企業の
自
主性の
助長を
ね
ら
うホ
ズ
ラ
ス
チ
ョ
ー
ト
制(
独
立
採
算制)
との
関
係に
つ
い
て
の
見方に
ある
とい
っ
て
よ
い。
そ
れ
は
ま
た、
ホ
ズ
ラ
ス
チ
ョ
ー
トの
い
ち
じ
る
しい
強化を
は
か
っ
た一
九
六
五
年改革の
意義
に
か
ん
する
著者の
評価の
しか
た
に
もか
か
わ
る
問題で
あ
る。
著者
の
解釈に
よ
れ
ば〔
社会主義経済制度は
、
山
中央計画当局が
、
物
的視点か
ら一
定の
成長率と
産業構造の
展望の
も
と
に
産業を
計画
化する
制度で
あっ
て、
惚
個別企業の
採算制は
、
計画的な
拡大再
生
産を
達成する
た
めの
手段で
あ
り、
そ
れ
じ
たい
が
目的と
なる
も
の
で
は
な
く、
・伽こ
の
採算制はあ
く
まで
も
企業の
生
産費節約闘争
を
組織化する
た
めの
制度で
ある
。
こ
の
制度の
強化に
よっ
て、
個
別企業の
利潤追求を
土
台と
する
市場経済の
復活を
誘発す
るこ
と
を
警告し
な
け
れ
ば
な
ら
ず、
その
た
め
に
は
大枠指定に
よ
る
品目
別
生
産指令の
よ
うな
計画の
拘束が
い
ぜ
ん
と
し
て
必
要で
あ
る。
以
上
の
よ
うな
解釈は
、
著者が
一
九六
五
年改革は
従
来の
計画方法を
基
(
J
本的に
か
え
た
もの
で
は
な
く、
そ
の一
つ
の
攻長を
く
わ
だて
た
もの
潔
一 橋論 叢 第五 十 九 巻 第 三 号 (1 3 0)
で
あ
るに
すぎ
ない
とみ
なし
て
い
るこ
と
を
示
唆して
い
る。
第3
章お
よ
び
第4
章は
、
中央計画当局に
よ
る
品目
別
生
産数量
の
算定方
法と
そ
れの
企
業へ
の
伝達の
仕方お
よ
び
実現の
方法に
つ
い
て、
制度的記述を
おこ
なっ
た
もの
で
ある
。
中央計画当局に
よ
る
品目
別生
産計画の
作製は
、
部門連関バ
ラ
ン
ス
表を
利用す
る
総
合
物財バ
ラン
ス
方法と
、
よ
り
詳細な
、
生
産現場の
情報に
も
とづ
く
個別
物
財バ
ラン
ス
表の
積上
げ
方
法の
二
つ
に
よ
り、
相互
点検的
に
進め
ら
れる
。
前者の
方
法が
用い
ら
れ
る
よ
うに
なっ
たの
は一
九
六二
年計画以
降の
こ
とで
あ
る
が、
企業の
生
産活動は
、
中央計画
当局か
ら
指令さ
れる
承認指標と
、
そ
れ
に
も
とづ
い
て
企業自身が
制定する
計算指標との
計画的導きの
もと
に
遂行さ
れ
る。
その
ほ
か
企業の
活動に
影響を
与
える
指標と
して
は、
企業の
成
績を
はか
る
ため
の
評価指標
、
その
成績い
か
んに
よっ
て
報奨を
与
え
る
基準
を
示
す刺激指標な
ど
が
あ
る
が、
著者はこ
れ
らの
指標群に
つ
い
て
の
詳細な
あ
とづ
けを
試み
て
い
る。
第5
章ほ
、
中央計画の
意図が
承認指標の
欠陥の
た
めに
企業次
元で
実現さ
れ
が
たい
仕組み
に
なっ
て
い
る
重
要な
ケー
ス
の一
つ
と
し
て、
ア
ソ
ー
ト
メ
ン
ト
課題の
実現問題を
と
り
あ
げ、
さ
らに
一
九
五
七
年以
来、
その
欠陥を
改良する
た
めに
逐次と
り
あ
げ
て
き
た
承
認指標改
訂の
試み
に
か
ん
し
分析を
企て
た
もの
で
あ
る。
従
来の
中
央計画に
よ
る
総生
産高指標の
達成に
は
人為的歪曲が
と
も
ない
が
ちで
あ
り、
需要(
企
業・
消
費者)
に
十分お
う
じ
え
ない
と
い
うこ
と
が
し
ばし
ば
生じ
た
の
で
あ
る
が、
こ
の
傾向
を
是正
し
ょ
うと
し
て、
一
九
五
七
年以
来とら
れ
た
各種の
措置の
う
ち、
著者が
詳説し
て
い
るの
は、
企業の
た
て
る
細目
別品日生
産
計
画に
か
ん
す
る
監
細っJ
査、
報告制度(
モ
ス
ク
ワ
都
市
国
民
経
済会
議
の
試み)
、
消
費者の
需要動向を
反映する
商業機関の
直接注文生
産に
よ
る
方
式(
企業
合同ポ
ル
シ
ェ
ビ
チ
カ
の
試み)
な
どの
直接的
措置の
ほ
か、
総生
産
高指標の
か
わ
りに
採用され
た
新指標の
い
くつ
か
で
あ
る。
その
よ
うなも
の
と
し
て、
商品生
産高指標(
捻生
産
高よ
り
仕
掛
品
残
高の
変
化
分を
除い
た
額の
指標)
、
標準加工
価値指標(
さ
ら
に
基
礎
原
材
料
部
分を
除い
た
額の
指標)
お
よ
び
原価指標が
と
りあ
げ
ら
れ、
最後に
一
九五
九
年改革に
よ
る
販売高指標が
、
以
上の
工
夫に
よっ
て
もい
ぜ
ん
と
して
解決しな
い
欠点を
除く
試み
を
代表する
もの
と
して
吟味さ
れ
る。
第6
章で
と
り
あ
げ
ら
れた
労働と
貸金に
か
ん
する
計画は
、
労働
力の
国民
経済的な
適切
な
配
置を
ど
うして
実現する
か、
その
た
め
の
貸金総額あ
る
い
は
賃率の
決定を
どの
よ
うに
お
こ
な
うか
、
と
い
う問題分野をふ
く
むが
、
主と
し
て一
九
六五
年改革以
後の
労働生
産性向上
計画
、
従業員数計画
、
賃金
計画等に
つ
い
て
計画手続の
細目の
解明に
努めて
い
る。
第7
章は
、
集団的およ
び
個人的な
報奨を
用い
て
企業の
生
産活
動を
国家計画の
意図す
る
方向に
むか
わ
せ
る
刺激制度に
つ
い
て
の
考察に
あて
られ
る。
その
重
点は
、
従
来の
企業フ
ォ
ン
ド・
プレ
、、
、
ア
ム
制度の
もつ
欠点の
全面的な
改良を
ほ
かっ
た一
九六五
年改革
制
度の
刺激機能に
指向さ
れ
る。
こ
の
新制度で
は、
各種の
報奨は
企業利潤を
源泉と
す
る
奨励フ
ォ
ン
ド一
本に
し
ぼ
ら
れ
る。
著者
は、
こ
の
さい
、
新しい
刺激制度が
計画意図に
そ
う方向に
企業を
導く
た
めに
は、
販売高
、
と
くに
利潤が
企業の
生
産活動の
評価手
段と
し
て
適切
で
あ
るよ
うに
価棉形成が
おこ
な
わ
れて
い
な
けれ
ば
な
ら
ない
こ
と
を
強調する
。
新制度の
下
で
並
行的に
企て
られ
て
い
るの
ほ
企業卸売価格の
改訂で
あ
る
が、
その
要旨と
原則の
考察ほ
「
結語+
に
お
い
て
お
こ
な
わ
れ
て
い
る。
著者は
、
こ
の
よ
うな
利潤
を
中心
とし
た
刺激制度に
よっ
て、
社会的利益と
企業お
よ
び
個人
の
利益と
の
調和が
ほ
か
ら
れ
る
可能
性を
認める
が、
他方で
ほ
その
よ
り
どこ
ろ
と
な
る
価格が
競争的市場で
成立
する
価格と
異な
る
と
い
う点
、
新制度が
市場メ
カニ
ズ
ム
に
経済の
運営を
ゆ
だ
ね
る
もの
で
な
い
とい
う点で
、
強い
留保をつ
けて
い
る。
第
皇早
は
制
度改革と
関連して
導入さ
れ
た
数
学
的
方
法に
つ
い
て、
主と
し
て
マ
ト
リッ
ク
ス
・
モ
デル
に
よ
る
企
業計画の
作成方
法
を
紹
介し
た
もの
で
あ
る。
企業計画に
お
け
る
最適化基準と
して
山
利潤率最大
、
仏
殿売高最大
、
愉
生
産品日比
率ベ
ク
トル
最大
、
仙
操業度最大
、
など
が
あ
げ
ら
れ
る
が、
こ
ら
れの
基準ほ
一
般的に
は
相互に
両立
し
え
ない
こ
と
が
指摘さ
れ
て
い
る。
副論文は
、
社会主義制度の
も
と
に
お
け
る
投資配分の
最適基
準
を一
貫して
追
求し
て
い
るの
で
あ
る
が、
主と
して
ノ
ポ
ジ
ロ
フ
や
カ
報
ン
三グ
…チ
の
数学的方法の
紹介と
検討に
あ
て
ら
れ
て
い
る。
( 1 3 1) 彙
副論文に
つ
い
て、
と
くに
主論文との
関連で
重
要と
思わ
れ
る
点
ほ、
ノ
ポジ
ロ
フ
に
よ
る
「
生
産価格+
説に
た
い
し
て
著者が
批判的
な
見解を
示
し
て
い
るこ
とで
ある
。
最近の
ソ
連の
価格政
策が
→
生
産価棉+
方式に
き
わ
めて
近い
政策を
うち
だ
し
て
い
るこ
と
を
認め
な
が
ら
も、
それ
は
ホ
ズ
ラス
チ
ョ
ー
ト
制度の
強度の
強化策との
関
連で
採択さ
れて
い
るの
で
あっ
て、
ノ
ポジ
ロ
フ
理
論と
結合して
う
ちだ
さ
れ
た
もの
で
ない
こ
とを
指摘し
、
ノ
ポジ
ロ
フ
の
立
場で
は
労
働支出の
最小
化とい
う課題が
達成不
可能に
な
る
と
主
張
し
て
い
る。
3
ゎ
が
国に
お
ける
従来の
社会主
義経済に
かん
する
研究は
、
マ
ル
ク
ス
など
の
命題か
ら
あ
るべ
き
社
会主義像を
作りだ
し、
こ
の
観点
か
ら
現実
、
の
社会主義を
理
論的に
検討する
とい
う方向を
と
る
ば
あ
い
が
多い
の
で
あ
る
が、
こ
れに
た
い
して
著者の
立
場は
まこ
と
に
対
照的で
あ
る。
著者ほ
、
資本主義圏
とい
う制約さ
れ
た
日
本の
条件
の
なか
で、
可能な
か
ぎ
り
原資料に
あた
り、
忠実に
資料に
て
ら
し
て
現実の
ソ
連の
歩み
を
あ
とづ
ける
とい
う具体的な
観点の
な
か
か
ら、
理
論
的問題を
抽出する
とい
う方向を
とっ
て
い
る。
こ
の
よ
う
な
客
観的な
態度は
、
日
本の
社会主義経済研究の
水準か
らみ
て
貴
重
で
あ
る
とい
うこ
と
がで
きよ
う。
その
よ
うな
立
場か
ら
抽出さ
れ
た
主要な
理
論的問題と
して
次の
二
つ
を
指摘する
こ
と
が
で
き
る。
第一
は、
国民
経済計画と
企業計
画との
相互
関連を
、
部門連関バ
ラ
ン
ス
と
個別物財バ
ラ
ン
ス
の
有
機的な
関連を
とお
し
て
あ
き
ら
か
に
す
る
とい
う問題で
ある
。
こ
の
間題に
つ
い
て
は、
著者は
わ
が
国に
お
い
て
は
今
ま
で
に
な
く
系
統
的・
体系的な
説明
を
与
え
て
い
る。
第二
は、
計画お
よ
び
管理の
能
率性を
高め
る
た
め
に、
ソ
連に
お
い
て
は
毎年の
よ
うに
計画
指
標を
改良するこ
と
が
試み
ら
れ
て
い
るの
で
あ
る
が、
こ
れ
ら
の
指楔の
理
肺
一 橋論叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 (1 3 2)
論的な
意味と
役割ない
しは
限界とい
うもの
を
統一
的に
位
置づ
け
まと
め
て
い
る
と
い
うこ
と
で
あ
る。
著
者の
研究がこ
れ
ら二
つ
の
問
題と
真剣に
取組ん
だこ
と
ほ、
わ
が
国の
社会主義経済学の
水準を
一
歩前
進させ
た
もの
と
して
評価するこ
と
が
で
き
よ
う。
著者は
ソ
連の
社会主義計画をあ
とづ
けな
が
ら、
そ
の
主
要な
基
調を
物動計画と
民
主集中制の
管理
機構の
確立に
あ
る
と
し、
こ
の
基本線は
現在お
こ
な
わ
れ
て
い
る
諸改
革の
な
かで
も一
貫し
て
受け
つ
が
れ
て
い
るこ
と
を
指摘して
い
る。
こ
の
点に
つ
い
て
は、
ソ
連に
お
い
て
もま
た
日
本の
研究者の
あい
だで
も、
か
な
ら
ずし
も
意見の
一
致を
見て
い
な
い
と
こ
ろ
で
あっ
て、
著者の
よ
うな
立場は
、
集中制の
側面を
強調する
も
の
と
し
て
受け
と
ら
れ
が
ちで
ある
。
だ
が
著者ほ
、
企業の
能率性を
高める
と
い
う意味で
の
分権的
傾向の
増大に
は
はっ
き
り
と
肯定的な
態度を
示
して
い
る
わ
けで
、
た
だこ
の
よ
うな
傾向が
自由市場の
導入に
ま
で
進むこ
とに
反対の
意向を
表明
し
て
い
るの
で
ある
。
そ
うい
う
観
点か
ら、
著
者はこ
の
よ
うな
分権的傾向の
増大と
並
行して
、
価格
形成の
管理
機構も
ま
た
十分に
確立さ
れ
るこ
と
が
必
要で
ある
と
指
摘して
い
る。
こ
の
価格機構は
資漁の
有効な
配分を
保証
する
もの
で
な
け
れ
ば
な
らな
い
が、
そ
うい
う意味で
「
生
産価格+
は
適当で
は
な
い
と
し
り
ぞ
け
られ
て
い
る。
そ
の
場合
、
どの
よ
うな
価格基準
が
よい
の
か
と
い
う点に
な
る
と、
著著の
見解は
か
な
ら
ずし
も
明
確
で
は
ない
。
ふつ
う生
産価格説と
価値説と
が
ある
が、
著者は
か
な
甜3
ら
ずし
も
価値説をと
っ
て
い
る
わ
け
で
は
な
く、
そ
れ
以
外の
基準を
指向し
て
い
る
よ
うに
思われ
る。
しか
し、
こ
の
点の
解明
が
まだ
十
分に
熟し
きっ
て
い
る
と
はい
い
が
たい
。
著者の
研究過程を
あ
とづ
け
て
見れ
ば、
は
じめ
の
うち
は、
投資
効率を
め
ぐる
数学的方法の
研究に
主力が
そ
そ
が
れ
て
い
た
わ
け
で、
こ
の
部分が
今回の
副論文を
構成し
て
い
る
とい
っ
て
よ
い
。
と
こ
ろ
で、
こ
の
よ
うな
理
論的研究が
今回
の
主論
文の
な
かに
か
な
ら
ずし
も
有効な
形で
お
りこ
ま
れて
い
ると
は
い
い
が
たい
が、
社会主
義諸国そ
れ
じ
た
い
が
現に
こ
の
種の
理
論と
政策の
結び
付
け
に
か
ん
し
模索状態に
ある
こ
と
を
思うと
、
や
む
を
え
ない
面も
あ
り、
む
し
ろ
著者が
今後の
研究に
お
い
て
価格形成
問題等の
検討を
い
っ
そ
う
深化さ
せ
るこ
と
が
期待さ
れ
る。
こ
の
よ
うに
な
垂展開を
要する
問題を
の
こ
し
て
はい
る
が、
計画
経済と
社会主業企業との
関係に
つ
い
て、
著者の
主論文な
ら
び
に
副論文
ぺ
日
本の
学界に
一
つ
の
すぐ
れ
た
貢献を
なし
た
も
の
と
見
な
し
うるの
で、
審査員ほ
著者に
た
い
す
る
所定の
試験の
結果を
も
考え
あ
わ
せ
て、
著
者が
一
橋大学経済学博士の
学位を
うける
に
催
す
る
もの
と
判断する
。
昭
和四二
年一
〇月三
〇日
〔
博士
論文要旨〕
Ec
O
ロO
mi
O
D2
諾-
○
廿
日2
日ti
n
A∽
i
呂
汐詔勺
gt
才の
(
ア
ジ
ア
の
視点か
らみ
た
経済開発)
A
総
轄
1
こ
の
論文は
、
ア
ジ
ア
開発途上
国の
「
開発初期条件+
の
特
殊性と
、
それ
が
こ
れ
ら
諸国の
経済開発の
過程に
及ぼ
す影響
、
お
よ
び
そ
れに
有効に
対
処する
た
め
に
要請さ
れ
る
特殊な
経済戦略の
塑に
か
ん
する
研究の
中間的成果を
記述し
た
もの
で
ある
。
(
「
開
発
初
期
条件+
と
は、
開発途上
国が
開
発の
初
期
時点
に
お
い
て、
歴
史
的
事実
とし
て
担わ
さ
れ
て
い
る
経
済
的、
社
会
的お
よ
び
制
度的
等の
開
発
制約条
件をい
う)
。
2
研究対
象と
し
て
の
ア
ジ
ア
開発途上
国ほ
、
イン
ド・
中国お
よ
び
台湾を
主と
し
て
い
るが
、
その
ほ
か、
比
較可
能な
統計資料の
報
入
手し
うる
限り
に
おい
て、
その
他諸国を
も
包含し
て
い
る。
こ
れ
( 13 3) 彙
らの
諸国の
「
開発初期条件+
とそ
の
開発過程
へ
の
影響お
よび
要
請さ
れ
る
戦略は
、
仔細に
検討すれ
ば
決し
て一
様で
ほ
ない
が、
そ
の
中か
ら
ア
ジ
ア
開発途上
国に
共通する
もの
を
抽出し
、
定型化す
る
た
め
の
努力が
払わ
れ
た。
他方こ
の
よ
うに
し
て
定
型
化さ
れ
た
「
開発初期条件+
等が
どの
よ
うに
特殊で
あ
るか
を
明らか
に
す
る
石
ノ
滋
に
は、
それ
を
すで
に
開発を
完了
し
た
現代先
進国の
か
つ
て
の
開発
段階の
「
開発初期条件+
等と
比
較し
な
け
れば
な
らな
い。
こ
の
論
文で
は、
そ
の
よ
うな
もの
と
して
、
日
本の
明治維新以
降の
開
発段
階に
お
ける
そ
れ
が
重
点
的に
と
り
あ
げ
られ
た。
3
こ
の
よ
うに
研究の
経験的素材を
限定し
た
結果と
し
て、
こ
の
論文は
一
面に
おい
て、
日
本の
開発経験と
の
比
較に
お
け
る
現代
ア
ジ
ア
開発途上
国の
経済開発の
考察と
い
う外観を
もつ
に
い
たっ
て
い
る
が、
こ
の
論文の
含意と
して
は、
そ
れ
が
同時に
現代先進諸
国の
開発経験との
比
較に
お.ける
現代開発途上
国の
経済開発の
考
察と
い
う意義を
担うもの
で
ある
こ
とが
期待さ
れ
て
い
る。
より
限
定し
て
い
うな
ら
ば、
こ
の
論文ほ
仙
現代開発途上
国の
「
開発初期条
件+
は、
現代先
進国の
過
去の
開発段階に
お
ける
そ
れ
と
比
較し
て、
多くの
点で
著し
く
異っ
て
い
る。
惚
こ
の
よ
うな
相異の
相殺さ
れ
た
結果と
して
、
現代の
経済開
発の
過葎は
過去の
そ
れ
よ
り
も
迄かに
困
難
と
な
る
傾向
が
あ
る。
3 βア
一 橋論叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 ( 1 3 4)
例
過去の
経済開発の
経験
、
ない
し
は
そ
れ
を
要約した
過去の
経済開発の
戦略方式は
、
現代開発途上
国が
開発過程の
困難
を
克服するた
めの
直接的教訓と
ほ
な
り
難い
か
も
知れ
ない
。
と
い
う基本的
仮説に
そ
うて
進め
られ
た
が、
論文の
結論は
現代ア
ジ
ア
開発途上
国の
経
済開発と
日
本の
経験と
の
比
較に
か
ん
する
限
り、
こ
の
仮説が
肯定さ
れ
るこ
と
を
示唆して
い
る。
こ
の
仮説を
更
に
開発途上
国一
般と
現代先進国の
開発経験
一
般と
の
比
較に
おい
て
検証す
るこ
と
は、
筆者に
残さ
れ
た
今後の
課題で
ある
。
B
章節別構成
第1
章
初期条
件
1
序言
2
経済開発の
絵過
程
3
ア
ジ
ア
開発途上
の
初期条件
4
必
要成長率と
可能成長率
補論
現代経済開発を
記述する
単純な
構造模型
第2
章
基礎投資と
農
業開発戦略
l
ア
ジ
ア
農業の
初期条件
2
潅漑と
肥料
1「
先導的投入+
の
分析
3
基礎投資の
た
めの
経済的条件
4
肥料投入の
た
め
の
経済的条件
補論
先導的
投入の
国別検討
23+T
第4
革
12
追
加労働投入の
農業産出に
た
い
する
寄与
労働の
自家雇
用に
か
ん
する
農家の
行動
農家労働力の
総雇用と
その
構造
農工
間の
純資源移転
序言
純
資渡移転の
対
照的な
型
3 6 ∂
第3
革
l
貴家
労働と
低雇用
序言
3
純資汲移転の
決定要因
補論
純資漁移転の
決定要因に
か
ん
する
模型的分析
第5
草
技術進歩と二
重
構造的工
業発展
1
現代工
業開発の
初期条
件
2
規模構造と
経済進歩
3
家内工
業セ
ク
タ
ー
と
産業選択
4
エ
場工
業セ
ク
ター
と
大規模生
産の
利益
5
結論
C
草別要旨
第1
革
現代経済開発の
諸問題をその
「
開発初期条件+
の
特
殊性との
関連に
お
い
て
理
解し
ょ
うと
する
本論文の
視点を
明
確な
らし
め
る
た
め、
本章で
ほ
ま
ず経済開発の
総過程に
か
ん
する
筆者
の
分析枠組が
示
さ
れ
る。
そ
れほ
「
経済開発の
特殊初
期
条
件+
、
「
経済開発の
普遍的メ
カニ
ズ
ム
+
お
よ
ぴ
「
経
済
開
発の
特
殊
戦
略+
とい
う三
本の
柱と
その
嫡互
作用に
よっ
て
組み
立
て
ら
れ
る。
(
真
申の
柱は
伝
統
的
経
済理
論の
涜れ
か
ら
産ま
れ
た
今
日
の
大
部
分
の
経
済開
発
理
論が
多か
れ
少か
れパ
ー
シ
ャ
ル
な
接近
を
試み
て
い
る
領域で
あ
る
が、
そ
れ
らの
理
論の
基
本
的
前提と
さ
れ
て
い
る
「
開発
初
期
条
件+
が
現
代
先
進
諸
国の
開
発段
階に
お
け
る
そ
れ、
あ
る
い
は
その
部
分
的修
正
に
す
ぎ
ない
とこ
ろに
、
こ
れ
ら
の
多く
の
理
論
とそ
れ
か
ら
生
れ
る
政
策提
案の
限
界が
ある
よ
うに
思
わ
れ
る。
)
次に
現
代後進諸国の
「
開発初期条件+
が
か
つ
て
の
そ
れ
と
異る
もの
で
あ
る
らし
い
こ
と
が、
ア
ジ
ア
開発途上
国に
か
ん
し
て、
六
項(
一
人あ
た
り
国
民
所
得、
人口
・
労働力
、
農業生
産
性、
工
業
技術
、
外
国
貿
易、
社
会
制
度)
に
絞っ
て
検討さ
れ
る。
最後に
、
こ
の
よ
うな
「
開
発初期条
件+
の
相異が
開発過程に
及ぼ
す
影響の
ち
がい
を
総合的
に
判定する
手段と
して
「
必
要成長率+
(
そ
れ
ぞ
れの
国
の
開
発
を
成
功
さ
せ
る
に
必
要
な
国
民
所
得成
長
率)
と
「
可能成長率+
と
い
う
概
念が
案出され
、
現代開発途上
国で
ほ
か
つ
て
の
開発途上
国に
比
べ
て
前者が
より
高く
後者が
よ
り
低く
な
る
傾向が
あ
り、
そ
の
結果
と
し
て
開発戦略の
新た
な
エ
夫の
な
い
か
ぎ
り
「
可
能
成
長
率+
は
「
必
要成長率+
に
お
い
つ
か
な
く
な
る
お
それ
が
ある
こ
とが
指摘さ
れ
る。
第2
草
本草は
農業に
か
ん
する
ア
ジ
ア
の
開発初期条件の
一
部
と
して
第1
革で
と
り
あ
げ
ら
れ
た
耕
境の
著
し
い
減
少、
潅漑
・
排
報
水・
洪水防禦な
ど
の
基
礎投資の
著しい
お
くれ
が、
農業生
産力の
( 1 3 5) 彙
上
昇を
ど
の
よ
う
に
制約する
かに
つ
い
て
検討し
た
も
の
で
あ
る。
い
ま
耕境の
減少を
動か
し
難い
もの
と
する
なら
ば、
開発過程で
必
要
と
さ
れ
る
農業増産は
、
既存耕地の
土地
生
産性を
上
昇さ
せる
こ
と
を
主た
る
手
段と
し
て
進むほ
か
ない
。
しか
し
土
地
生
産
性の
上
昇
ほ、
同じ
く
初期条件に
よっ
て
与え
ら
れ
た
基
礎投資の
お
くれ
を
取
り
戻すこ
とに
よっ
て
初め
て
可
能と
なる
の
か、
あ
る
い
は
そ
れ
は
明
治以
降日
本の
農業発展の
経
験と
して
い
わ
れ
る
よ
うな
肥
料増投
・
品種改良そ
の
他の
農法
進歩さ
え
行わ
れ
れ
ば、
基礎投資な
し
に
も
可能で
あ
る
か。
そ
も
そ
も
ア
ジ
ア
開発途上
国の
支配的な
農
業生
産
関数の
璽お
よ
ぴ
その
上
向
転移の
型は
ど
の
よ
うな
も
の
で
あ
る
か。
筆者は
第2
節に
お
け
る
こ
の
よ
うな
問題の
検討に
さい
し
て、
次の
よ
うな
生
産関
数型を
仮定して
出発する
。
ま
ずア
ジ
ア
の
低生
産性
水準の
農業(
親
米反
収に
つ
い
て
二・
三
ト
ン
以
下)
に
お
い
て
ほ、
諸投入
間の
補完性が
著し
くつ
よ
く、
ま
た
そこ
で
は
水供給が
制限
的要因に
な
り
易い
。
さ
らに
生
産関数の
上
向
転移は
、
水供給の
コ
ン
トロ
ー
ル
を
目的と
する
基礎投資の
進展を
媒介と
して
初めて
可
能と
な
る。
諸投入
間の
一
つ
の
補完的
結合の
型
が、
そ
れ
に
よっ
て、
よ
り
生
産性の
大き
い
新し
い
補完的結合の
型に
転移する
。
基
礎投資物が
一
定の
水準に
ま
で
増加し
た
後に
おい
て
(
米反
収二
・
三
ト
ン
以
上の
生
産
性水
準)
、
肥
料増投
・
品種改良その
他の
農
法
進
歩の
措置が
土
地
生
産性上
昇の
先導的役割を
果し
始める
が、
他
の
諸投入
、
なか
ん
ずく
水供
給と
の
補完的関係ほ
解消せ
ず、
肥料
増按等に
よ
る
生
産性上
昇が
一
定の
段階に
到達する
と、
再び
基礎
投資が
上
向転移の
契機と
し
て
あ
ら
わ
れ
る。
筆者は
生
産性発展の
各段階に
お
い
て
こ
の
よ
うな
転移変数と
して
の
役割を
担う
投入
を
「
先導的投入+
と
名づ
け、
こ
の
「
先
導的投入+
と
そ
の
交
替に
か
ん
する
以
上
の
仮定が
正
当で
あ
る
か
ど
うか
を、
第一
に
ア
ジ
ア
開発
途上
国の
地
域間
・
クロ
ス
・
セ
ク
シ
ョ
ン
資料に
おい
て、
第二
に
日
9
本・
朝鮮
・
台
湾の
歴史的系列資料に
よ
り、
第三に
戦後の
ア
ジ
ア
朗
一 橋論 叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 ( 1 3 6)
開
発途上
国の
時系列資料
・
開発計画
資料に
よ
り、
また
第四
に
少
数国の
利用可能な
肥料実験資料に
よ
り
検証す
るこ
と
を
企て
た。
結論と
して
、
少く
と
もア
ジ
ア
の
低生
産水準の
農
業発展段階に
つ
い
て
は、
こ
の
仮定が
妥当する
よ
うに
思わ
れ
る。
先導的投入
の
役割が
技術的に
はこ
の
よ
うな
型で
潅漑その
他の
基礎投資
、
つ
い
で
肥料増設等に
よっ
て
担われ
る
と
し
て
も、
現
実
に
その
よ
う
な
先導的投入
が
そ
れ
ら
を
必
要と
して
い
る
国、
地
域で
行わ
れ
るか
ど
うか
を
決定する
の
は
経済的条
件の
い
か
ん
に
か
か
る。
基礎投
資は
一
般に
ほ、
そ
の
経済的ベ
ネフ
ィ
ッ
ト
との
比
較に
お
け
るコ
ス
ト
が
高く
、
また
巨額の
まと
まっ
た
資本投下量を
必
要
と
する
。
し
か
し
同一
目
的の
基
礎投資を
実現する
た
め
の
プロ
ジェ
ク
ト
に
技術的な
選択の
余地
が
残さ
れて
お
り、
その
選択の
い
か
ん
で
国家はコ
ス
上向と
巨額の
資本出費を
回
避で
きる
。
しか
し
こ
れ
は
単な
る
技術選択で
な
くて
農家部門の
組織
・
制度退択の
問題で
も
あ
る。
こ
の
着眼
が、
第3
節で
は、
政府実施の
大・
中型プロ
ジ
ェ
ク
ト、
政府助
成・
民
間実施の
小
型プロ
ジェ
ク
ト
の
間の
選択問
題と
し
て
主と
して
分析さ
れ
る。
他方
、
肥料増投の
産出効率が
高
く
かつ
速効的で
あ
り、
また
所要資本ほ
可分割的で
あ
る
か
ら、
支
配的な
小
農の
私的事
業と
して
実施容易で
ある
とい
わ
れる
が、
第
4
節で
は
そ
の
よ
うに
産出効率が
高い
に
もか
か
わ
ら
ず(
今日
の
化
学
肥
料
購入
価蒋の
下
で
は、
ア
ジ
ア
開発
国に
お
ける
そ
の
効
率は理
論上は
日
本の
戦
前期
よ
り
も
更
に
高い
)
、
実際に
その
実
現
が
困
難
で
ある
理
由が
、
支配的な
農家の
貯
蓄・
借入
れ・
負
債
勘定に
即
し、
また
農家の
行動
・
制度的要因に
即し
て
検討さ
れ
る。
基礎的
投
資と
同じ
く、
肥料増投も
ま
た
政府が
国民
経済的観点に
立っ
て
柑(
J
処理
すべ
き
問題で
あり
、
そ
の
た
め
に
は
直接間接に
公共資金の
追
加支出を
必
要と
するこ
と
が
結論とし
て
指摘さ
れ
る。
第3
草
本章は
ア
ジ
ア
開発途上
国の
開発初期条
件の
一
つ
と
し
て
第1
章で
示さ
れ
た
過
剰労働とい
う事実を
、
そ
れ
が
集中し
て
存
在す
るセ
ク
タ
ー
で
あ
る
農家部
門に
おい
て
吟味する
こ
と
を
目的と
し
て
い
る。
吟味は
ア
ジ
ア
開発途上
国の
農家経済調査を
使用し
た
主と
し
て
経験的な
それ
で
ある
が、
最近
の
開発理
論の
一
分野で
過
剰労働の
定義や
その
存在の
有無が
論争的な
課題と
なっ
て
い
るこ
とを
念頭に
お
く
な
ら
ば、
過剰労働とい
う事実を
初期条件の
一
つ
に
かか
げる
こ
と
白体が
問題で
あ
り、
い
ずれ
に
せ
よ、
本章の
実証
研究の
前提と
し
て
こ
の
論争に
た
い
す
る
明
確に
叙述さ
れた
枠組を
もつ
こ
と
が
必
要で
あ
る。
そ
れ
は
第3
節に
主と
し
て
示
さ
れる
が、
筆者の
立
場を
要約すれ
ばこ
うで
あ
る。
山
開発途上
諸国の
過剰労
働に
つ
い
て
の
経済的に
有意義な
測定指標は
、
家族成員が
生
存維
持的に
近
い
生
清水準の
下に
あ
り、
か
つ
そ
の
労働成員の
総就業時
間が
利用可能な
就業時間に
比べ
て
巴g
n-
P。
呂t
に
低い
か
ど
うか
に
求め
るぺ
きで
ある
。
こ
こ
に
含意さ
れ
て
い
る
過
剰
労
働の
定
義
ほ、
家族労
働成員の
就業可能機会が
、
最
低
限
界供
給
価
格(
後
述)
よ
り
低く
ない
労働報酬水準に
お
い
て、
そ
れ
が
就
業し
たい
と
希望する
就
業時間数に
充た
ない
こ
と
で
あ
る。
最近
の
過
剰労働に
かん
する
議論で
は、
家族
労働成
員の
一
部が
家族企業を
離れ
た
と
き、
家族企業の
総生
産高が
実際に
減少す
る
か
ど
うか
に
過剰労働
の
定義とそ
の
測定指標が
求め
ら
れ
て
い
る。
わ
れ
わ
れの
単純化さ
れた
過剰労働の
理
論的定式ほこ
の
基準を
も
充し
う
る
け
れ
ど
も、
実際的視角か
ら
は
(
兵家
兼
業が
過
剰労
働の
一
つ
の
有
効
な
対
策で
あ
る
こ
と
を
考
察に
入
れ
て)
こ
の
基準に
は
問題が
あ
り、
い
ずれ
に
せ
よ
そ
れ
は
経済的に
有意義な
定義
・
測定
指標
だ
と
は
思わ
れ
な
い。
仏
農家の
過剰労働の
有無を
き
め
る
条
件の
一
つ
とし
て
は、
第
2
章で
み
た
よ
うな
農業生
産に
か
ん
す
る
制限的な
生
産関数の
存在
を
考
慮する
こ
とが
決定的に
重
要で
あ
る。
農家自己
労働の
供給
関
数に
関連して
限界生
産力がゼ
ロ
に
低下
す
る
点まで
労働供給が
行
わ
れ
る
か、
ある
正
の
水準で
供給が
停止
する
と
い
う
問
題が
あ
る
が、
こ
れは
実証の
課題で
あ
り、
理
論的に
は
その
い
ずれ
で
も
過
剰
労働の
ケー
ス
を
排除する
条
件と
は
な
ら
ない
。
し
か
し
わ
れ
わ
れの
実証研究で
は、
労働供給は
限界生
産力が
あ
る
正の
水準(
働く
さ
い
の
エ
ネル
ギ
ー
消
費
量と
休
息
する
さ
い
の
そ
れ
と
の
差額
に
相
応
す
る
よ
う
な生
理
学
的
最
低必
要
水
準プ
ラ
ス
心
理
的
最
低必
要
水
準)
で
停止
す
ると
み
る
方が
、
関連す
る
他の
情況と
調和的で
あ
る
よ
うに
思わ
れ
る。
俳
農村に
存在す
る
畠
業労働市場で
の
賃金水準とこ
の
最低労働供給価希の
水準と
が
どの
よ
うな
関係に
ぁ
か
れ
て
い
る
か
は
実証容易で
ない
が、
前
者が
後者よ
り
高い
とし
て
も、
そ
れ
ほ
週
報
剰労働の
存在を
直ちに
否定す
る
根拠とは
な
ら
ない
。
農村の
農
業
( 1 3 7) 彙
労働市場は
一
般的に
著し
く
不
完全で
あっ
て、
雇用を
求め
る
もの
の
雇用獲得の
確率は1
よ
り
小
さ
く、
成立する
賃金は
多分に
制度
的要因をふ
く
むと
思わ
れ
る。
ま
た
農家労働力の
雇用が
比
較的
一
般化するの
は
農繁期に
限ら
れ
る
よ
う
に
み
え
る。
第3
革の
本論は
以
上
の
立
場に
そ
う検討に
あて
ら
れ
る。
第2
節
で
は
農業生
産関数の
制限性が
労働投入
と
産出高
、
お
よ
び
労働投
入
と
他投入の
関係に
つ
い
て
吟味さ
れる
。
ア
ジ
ア
諸国の
国際クロ
ス
セ
ク
シ
ョ
ン
資料で
はヘ
ク
ター
ル
あた
り
労働投入
量は
西ベ
ン
ガ
ル
・
マ
ドラ
ス
の
年間約
一
〇〇日
か
ら日
本の
五
〇〇日
以
上
に
い
た
る
ち
ら
ばり
が
ある
が、
そ
れ
は
他投入
なか
ん
ずく
潅漑投入の
増大
と
平行し
、
かつ
ヘ
ク
ター
ル
あた
り
農業収入の
増大を
招来して
い
る。
各国の
規模グル
ー
プ
別ク
ロ
ス
・
セ
ク
シ
ョ
ン
資料を
あ
わせ
考
察して
、
労働投入
量を
他
投入
を
伴うこ
と
なく
増大し
て
も、
限ら
れ
た
産出効果しか
も
た
ら
し
え
ない
こ
と
が
示
唆さ
れ
る。
第3
節で
は
農家の
自己
労働供給に
か
ん
する
吟味が
行わ
れ
る
が、
実証は
充
分に
な
しえ
て
い
な
い。
し
か
し
自己
労働の
限界供給価格が
正で
あ
り、
また
そ
の
水準が
と
くに
基礎投
資活動に
さ
い
し
て
人
口
的
要
因、
政府の
補助
金支出に
よっ
て
変化する
ら
し
い
こ
と
が
示
さ
れ
る。
第4
節で
は
盤家の
非農業労働と
需給を
ふ
くむ
農家
労働の
総
体と
して
の
需給と
その
結果と
して
の
雇用規
模の
吟
味が
行わ
れ
る。
結論は
上
に
定
義し
た
形の
過剰労働が
存在するこ
と
に
肯定的
で
ある
。
初期条件の
他の
一
つ
と
して
の
高い
人口
増加率を
考え
あ
わせ
る
と、
こ
の
過剰労働の
解消策はそ
れ
自体と
し
て
ア
ジ
ア
開発
途上
国の
急務で
あ
る
と
思わ
れる
が、
そ
れ
は
長期的に
は工
業化
・
都市化の
方向に
求め
るぺ
き
で
あ
る
とは
い
え、
差当
っ
て
は
小
型プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
に
よ
る
基
礎投資の
拡大とそ
れ
に
よ
る
土
地
生
産性の
上
昇が
唯一
の
出路で
あ
る
こ
と
が
示
唆され
る。
第4
章
こ
の
事は
以
上の
2
革で
個別
的に
吟味し
た
ア
ジ
ア
開発
一・
⊥
途上
国の
特殊開発初期条件とそ
の
開発過濯に
及ぼ
す
影
響、
お
よ
3 7
一 橋 論叢 第 五 十九 巷 第 三 号 ( 1 3 8)
び
そこ
か
ら
要請さ
れる
開発戦略の
諸
問題を
畠工
間の
純資源移転
と
い
う観点か
ら
総合的に
検討しょ
うと
試み
た
もの
で
ある
。
畠工
間資漁移転の
問題は
、
従来は
むし
ろ
機能的に
析出さ
れた
盛業セ
ク
タ
ー
の
産み
出す
貯蓄が
国民
経済の
工
業化の
過程に
おい
て
工
業
化資金の
どの
よ
うな
割合を
負担すべ
き
か、
と
いっ
た
形で
論ぜ
ら
れ
て
き
た。
エ
業化資金の
主要部分が
農業に
よ
る
貯
蓄に
よっ
て
賄
わ
れ
た
古
典的ケー
ス
と
して
、
し
ば
し
ば
戦前五
年計画期の
ソ
連や
明治期の
日
本の
経験が
提示さ
れ
た。
し
か
し
現代開発途上
国の
特
殊な
初期条件の
下で
、
果して
こ
の
よ
うな
古典的ケー
ス
が
期待し
うる
で
あ
ろ
う
か、
その
下で
は
逆に
エ
業か
ら
農業へ
の
資金純供与
が
工
業化の
必
要条件と
なる
の
で
は
な
い
か、
とい
うの
が
こ
の
研究
の
基本的仮説で
あ
る。
実証
的検討の
準備と
して
第2
節前半で
ま
ず、
農業で
な
く
患家
を
枠と
する
純資渡移転の
概念と
定義式が
与
え
ら
れ、
つ
い
で
こ
れ
に
そ
う
て
月
本・
台湾
・
中国お
よ
び
イン
ドの
統計的吟味が
行わ
れ
た。
統計
資料が
多か
れ
少か
れ
不
備で
あっ
て、
確認す
るこ
との
困
難な
推計に
依存して
い
る
か
ら、
結論は
暫定
的で
あ
る
が、
日
本を
除い
て
こ
れ
らの
国々
で
は
開発の
進展と
と
も
に
農家の
純資源移転
の
方向
は
流出か
ら
流入へ
、
な
い
し
は
流出額の
減少とい
う
傾向を
示
し
た
ら
しい
こ
とが
示さ
れ
る。
明
治期の
日
本に
つ
い
て
も、
利用
可
能な
推計資料
、
統計資料を
統合し
た
吟味の
結果と
して
、
上
述
の
定説が
必
ずし
も
確定的な
もの
で
な
い
こ
と
が
示
唆さ
れる
。
第3
節はこ
の
よ
う
な
帰結の
理
論的吟味に
あ
て
ら
れ
る。
その
一
つ
の
試
み
と
し
て、
第1
章に
おい
て
「
可能成長率+
と
「
必
要成長率+
の
関係を
吟味する
ため
に
用い
られ
た
単純な
構造模型を
利用する
吟
乃3
味が
行わ
れ
る。
こ
の
模型は
農工
両セ
ク
ター
を
分割し
た
模型で
あ
り、
さ
ら
に
開発初期条件の
ちが
い
を
明示
的に
反映
さ
せる
こ
と
の
で
き
る
模型で
あ
るか
ら、
そ
の
数学的解析と
、
さ
らに
数字例に
も
とづ
く一
種の
シ、
、
、
ユ
レ
ー
シ
ョ
ン
に
よっ
て、
開発初期条件の
ちが
い
が
農工
間純
資源移転に
ど
の
よ
うな
影響を
与
え
る
か
を、
模型の
単純化さ
れた
前提が
もた
ら
す
限界の
枠内に
おい
て
で
は
ある
が、
究明するこ
とが
可能で
ある
。
こ
の
結論ほ
現
代開発途上
国の
開発
初期条
件の
下
で
はか
つ
て
の
開発途上
国の
そ
れの
下に
お
ける
よ
り
も、
農
業の
純
資渡流出の
幅は
よ
り
狭く
、
あ
る
い
ほ
純資源流入が
生
ずる
傾向が
あ
るこ
と
を示
し
て
い
る。
こ
の
模型の
前提か
ら
除外
さ
れ
た
諸
要因の
及ぼ
す
影響に
つ
い
て、
さ
ら
に
追加的な
検討が
行
わ
れ
た
が、
以
上の
結論は
そ
の
まま
有効で
あ
る
よ
う
に
思わ
れ
る。
政策的示
唆と
して
、
現代開発諸国は
開発初期段
階に
お
い
て
む
し
ろ
積極
的に
農
業へ
の
純資源移転を
企て
るこ
と
に
よっ
て
その
生
産
性の
よ
り
急速な
上
昇を
はか
り、
農家セ
ク
タ
ー
の
純
資源移転の
方
向が
逆転する
可能性の
ある
次の
発展段階へ
の
よ
少
速か
な
移行を
狙うぺ
き
だ
と
指
摘さ
れ
る。
第5
草
本章は
現代開発途上
国の
開発初期条
件が
製造工
業セ
ク
ター
の
発展に
与
える
影響と
そ
こ
か
ら
要請さ
れ
る
戦略に
か
ん
し
て一
つ
の
考察を
企て
た
もの
で
ある
。
第1
埼の
序論で
は、
開発初
期条件の
中で
と
くに
製造工
業に
直接関係す
る
最近の
工
業技術進
歩と
世
界貿易構造の
変化に
つ
い
て
の
吟味が
行わ
れ
る。
前者に
か
ん
し
て
ほ
と
くに
そ
れが
重
化学工
業部門に
お
ける
最適設備規模の
巨大化を
伴い
つ
つ
あ
る
こ
と
が
強調さ
れる
。
後者は
開発途上
国の
伝統的輸出生
産物で
あ
る一
次
産品(
除
石
油)
の
相対
的な
需要の
停滞お
よ
び
新興輸出品で
あ
る
繊維
製晶に
た
い
する
先進国市場の
制限と
、
そ
れ
に
由来する
開
発途上
国の
工
業品と
くに
生
産財
・
資
本財分野の
輸入
代替の
傾向を
指す
が、
ア
ジ
ア
の
開発途上
国の
統
計資料を
日
本の
戦前期の
そ
れ
と
比
較して
み
ると
、
こ
の
よ
うな
初
期条件の
反
映は
次の
二
点に
お
い
て
顕著で
あ
る。
第一
に
前者の
総
輸入
額に
お
ける
資本財輸入
の
比
重ほ
後者に
比べ
て
著
し
く
高い
(
日
本の
輸
出
用工
業原
料を
除い
て
も
同
様
で
あ
る)
。
第二
に
前者
の
製造工
業に
お
ける
機械
・
金属
・
化
学工
業の
構造比
率は
後者の
類似の
発展段階に
比べ
て
か
な
り
高い
(
こ
こ
で
はホ
フ
マ
ン
払
則は
も
はや
適用し
に
くく
なっ
て
い
る)
。
こ
の
よ
う
な
情
況
を
前
節ま
で
に
述べ
た
他の
開発初期条件の
影響に
照して
考察すると
次の
よ
う
な
含意が
あ
らわ
れ
る。
そ
れ
は
今日の
開発途上
国が
国際的に
競争
力を
もつ
形で
エ
業化を
進め
よ
うと
する
と、
その
た
めの
資金必
要
量はか
つ
て
の
開発途上
国に
此
し
ょ
り
大き
く
なる
傾向が
あり
、
農
業開発の
た
め
の
所要資金と
あ
わ
せ
て
近
代化セ
ク
ター
の
資金需要
は
よ
り
緊迫し
た
もの
と
な
ろ
うとい
うこ
と
で
あ
る。
さ
らに
国際競
報
争カを
も
ち
うる
エ
業部門の
労働吸
収
力は
相
対
的に
よ
り
低い
か
ら、
エ
業化に
伴う過剰労働問題の
解
決の
見通
し
は
よ
り
遠の
か
ざ
(1 3 9) 彙
る
を
え
ない
。
エ
業化の
過程は
、
い
つ
の
時代に
お
い
て
も
家内工
業
と工
場工
業、
在来(
ない
し
時
代
お
く
れの
)
技術と
先
進技術
、
資
本使用的と
労働使用的の
対
照で
特
徴づ
け
ら
れる
二
重
構造的発展
の
過程で
ある
が、
以
上
の
よ
うな
現代開発途上
国の
諸条件の
下で
は、
政府は
その
結果とし
て
よ
り
き
わ
だっ
た
二
重
構造が
招来さ
れ
る
よ
うな
多元
的、
重
層的な
技術と
経済組
織の
選択を
進め
るこ
と
を
余儀な
く
さ
れて
い
る
よ
うに
思わ
れ
る。
序論に
お
け
るこ
の
よ
う
な
考察に
つ
づ
い
て、
こ
の
よ
うな
技術と
組
織の
選択の
基準を
明ら
か
に
す
るこ
と
が
問題と
なる
。
第2
、
3、
4
節は
、
こ
の
間題を
検討す
る
た
めの
準備と
して
、
現実の
製造工
業に
お
い
て
技術の
選択が
どの
よ
うに
して
行われ
て
き
た
か
を
考察する
。
考察は
、
明ら
か
に
行動様式を
異に
する
家内
工
業セ
ク
ター
とエ
場工
業セ
ク
タ
ー
を
分割し
、
その
各々
に
つ
い
て
独立に
進め
ら
れる
。
と
り
あ
げた
国は
工
場統計表が
利用可能な
限
り
で
の
ア
ジ
ア
開発途上
諸国で
あ
り、
現代先進諸国で
は
ほ
とん
ど
日
本に
限ら
れ
る。
依拠し
た
統計資料は
主と
し
て
エ
場統計表で
あ
り、
し
か
も
その
調査
項目で
もっ
と
も
信顧の
お
け
る
雇用量とそ
の
規模階層間分布が
と
りあ
げ
られ
る。
僅か
で
あ
る
がe
ロg
訂e
e
ユゴ
g
計r
t
P
が
利用さ
れ、
エ
場統計表に
よ
る
た
めの
不備
を
補っ
た。
家
内工
業セ
ク
ター
の
分析か
ら
は、
その
全工
業に
お
け
る
比
重が
経済
成長と
と
もに
減少して
い
く
傾向
、
し
か
し
な
が
ら
家内工
業セ
ク
タ
ー
内部の
エ
業部門別構成は
経済成長に
も
か
か
わ
ら
ず比
較的安定
し
て
い
る
傾向等が
検出さ
れ
た。
こ
れ
らの
背
後に
あ
る
要
因と
し
て、
家内工
業セ
ク
タ
ー
の
選択し
うる
技術の
型が
次の
二
つ
の
条件
に
よ
り
制約さ
れ
て
い
る
こ
と
が
示
さ
れ
た。
第一
ほ
そ
の
技術の
採用
に
必
要な
資本量が
家族企業の
エ
面し
うる
量をこ
えて
は
な
らぬ
こ
と、
他方で
は
その
技術の
下で
稼
得し
うる
収入が
最低限家族の
生
っ
J
計維持に
役立
ち
うる
も
の
で
な
く
て
は
な
らぬ
こ
と
で
ある
。
エ
場セ
3 7
一 橋論叢 第 五 十 九 巻・
第 三 号 ( 1 4 0)
ク
ター
で
ほ
支配的な
技術の
型が
工
業部門別に
異る
こ
と
が
ほ
ぼ
明
ら
かに
さ
れ
た。
大まか
に
いっ
て、
そ
れ
は
資本
・
労働の
き
わ
め
て
代替的な
技術型を
もつ
エ
業部
門と
その
代替性が
著し
く
小さ
い
技
術型を
もつ
工
業部門に
分けら
れ
る。
後者に
ほ
装置産業お
よ
び
ア
セ
ン
ブ
リ
ー
型加工
産業と
呼ば
れ
る
ほ
と
ん
ど
すべ
て
の
業種が
含ま
れ、
設備
・
資本に
か
ん
する
大規模生
産の
利益
が
顕著で
あ
る。
し
た
がっ
て
こ
れ
らの
部門で
は
そ
の
部門を
選択す
るこ
と
は、
一
定の
技術を
選択する
こ
とと
ほ
と
ん
ど
同義と
な
る
傾向が
あ
る。
以
上の
考察が
示
唆する
とこ
ろ
は、
全産業に
つ
き一
本の
、
し
か
も
資本
・
労働の
著し
く
代替的な
生
産関数を
前提し
て
進め
ら
れ
る
今日の
開
発理
論に
支配的な
技術選択の
議論は
、
開発の
実践
的課題に
その
ま
ま
援用し
て
は
危険だ
とい
うこ
と
で
あ
る。
技術選択ほ
ま
ず家内
工
業・
工
場工
業の
両セ
ク
タ
ー
に
分け
て
考究すべ
き
で
あ
り、
工
場
工
業セ
ク
ター
で
は
産業選択が
ほ
ぼ
技術選択に
相通
ずる
業種を
分
離すべ
き
で
あ
る。
現代開発途上
国の
資金需給
、
労働需給の
諸条
件を
背景と
する
な
ら
ば、
こ
の
よ
うな
産業選択=
技術選択と
なる
業種は
超重
点的に
決定され
るぺ
きで
あ
り、
その
他の
産業部門に
お
い
て
は、
家
内工
業部門の
保護
・
育成
・
発展がつ
よ
く
進め
られ
な
けれ
ば
な
ら
な
い。
D
参考
論文に
つ
い
て
1
参考論文1
、
2
は
開発初期条件と
そ
の
衝撃を
中心
と
する
本論文の
基本的
枠組を
用い
て
開発過程の
国民
経済を
説明
す
る
構
造モ
デル
を
立
案し
、
中国経済の
長期展望を
試み
た
もの
で
ある
。
2
参考論文2
は
本論文第4
革の
実証部分に
採用し
た
筆者の
指β
中国に
お
ける
農工
間純資源移
転の
推計作業を
詳述し
た
もの
で
あ
る。
資料吟味の
ほ
か
方迭上の
追加的考察
、
分析帰結の
含意に
つ
い
て
の
考察がふ
く
まれ
る。
〔
博士
論文事査要旨〕
論文
題目
E
8ロ○
日訂
ロe
くe-
○
七
日e
n
:ロ
A巴
呂
冨→
葛e
?
t
-
孟(
ア
ジ
ア
の
視点か
ら
み
た
経
済開
濁)
論文
審査
担
当
者
板
垣
典一
村
政
祐
次
大
川一
司
l
本論
文ほ
、
西欧型先進国の
そ
れ
と
は
異な
る
現代ア
ジ
ア
的後進
国に
特
有な
「
開
発初期条件+
と
い
う最も
基本的な
視点か
ら、
開
発の
理
論と
政策に
関する
新なる
接近
方法と
新な
る
考察座標を
提
示せ
ん
と
試みた
もの
で、
著者の
多年に
わ
た
る
諸研究の
集大成に
もとづ
く
理
論的
・
実証的研究で
あ
る。
本論文の
特色は
、
方
法的に
こ
れ
を
み
れ
ば、
第一
に、
初期条件
を
中核と
し
た
開
発問題考案の
包括的な
枠覿を
構築し
、
こ
れ
に
も
とづ
い
て
個別課
題(
後述)
へ
の
理
論的接近
と
仮説の
設定を
する
こ
と、
第二
に、
初期条件を
形成する
主要因の
イン
パ
ク
ト
が、
開
発過
程に
あ
た
え
る
影響を
実証的に
追求し
て、
仮説の
テス
ト
をお
こ
な
うこ
と、
さ
らに
第三
に、
こ
うし
て
確認さ
れた
問題に
有効に
対
処する
た
めに
要請さ
れ
る
特殊な
開発戦略を
提案する
こ
と、
こ
の
三つ
の
相互
連関的な
作業と
し
て、
示さ
れ
て
い
る。
ま
た、
その
特色を
内容的に
み
れ
ば、
こ
の
研究の
方法的基礎を
な
し
て
い
る
初期条件の
特殊性に
関す
る
概念規定の
明確化と
、
そ
れ
に
も
とづ
く
基礎的な
枠組の
理
論
的
展
開(
第1
革)
、
そし
て
そ
の
枠組に
よっ
て
展開さ
れ
た
基礎投資と
農業開
発戦略(
第2
章)
、
貴家
労働と
低雇用(
第3
章)
、
農工
間の
純
資漁移
転(
第4
章)
、
技術
進歩と二
重
構造
的工
業発展(
第5
章)
、
とい
う
四
つ
の
課
題
に
わ
けた
研
究成果の
記述が
こ
れ
で
あ
る。
一
見し
て
明か
な
よ
う
に、
こ
れ
らの
課題は
産業別に
は
農業と
エ
業の
二
大部門と
部門間
依
存関係を
とり
あ
げ、
要素別に
は
雇用
・
投資お
よび
技術進歩を
追
求し
て
い
るか
ら、
問題設定は
網羅的で
ない
と
して
も、
そ
の
範
囲は
か
な
り
広くか
つ
重
点的で
あ
る。
外国貿易ない
し
国際収支問
題(
援
助・
協
力を
ふ
く
む)
は、
独立の
課題に
なっ
て
い
ない
が、
第1
章お
よ
び
第5
章で
問題の
提議と
若干の
分析の
展開の
あ
る
こ
と
を
指摘し
て
お
か
ね
ば
な
ら
ない
。
実証的研
究の
対
象と
して
は、
イン
ド、
中国お
よび
台湾が
開発
報
途上
国と
し
て
主と
して
と
り
あ
げ
られ
て
い
る
が、
デー
タの
ゆる
す
( 1 4 1) 嚢
か
ぎ
り、
そ
の
他の
ア
ジ
ア
諸国を
包含し
、
ア
ジ
ア
開発途上
国に
共
通する
も
の
を
抽
出・
定形化する
よ
うに
努力さ
れ
て
い
る。
他方
、
こ
れ
らと
対
比
さ
れ
る
先進国の
経験に
つ
い
て
は、
日
本の
明
治維新
以
降の
開発段階に
お
け
る
それ
が
主と
し
て
と
り
あ
げ
られ
て
い
る。
著者が
本研究の
方法的視点と
し
て、
開発初期条件を
とり
あ
げ
たの
は、
ア
ジ
ア
開発途上
国の
そ
れ
と、
先進
国の
そ
れ
と
の
相違
が、
前者の
開発を
後者に
くらべ
て
逸か
に
困
難に
し、
こ
の
困難を
克服す
るた
めに
は、
先
進国の
経験ほ
必
ずし
も
直接的な
教訓と
は
な
り
に
くい
で
あ
ろ
う、
と
する
仮説に
も
とづ
い
て
い
る。
そ
し
て、
本研究の
結論と
して
ほ、
こ
の
仮説ほ
日
本の
経験と
の
比
較に
か
ん
する
か
ぎ
り
肯定さ
れ
る
こ
と
を、
示
唆し
て
い
る。
lI
本論文の
構成を
章節別に
示すと
次の
とお
りで
あ
る。
第1
革
初期条件
1
序言
2
経済開発の
捻過程
3
ア
ジ
ア
開発途上の
初期条件
4
必
要成長率と
可能成長率
禰論
現代経済開発を
記
述す
る
単純な
構造模型
第2
章
基礎投資と
農業開発戦略
1
ア
ジ
ア
農業の
初期条
件
2
潅漑と
肥料--「
先導的投入+
の
分析■
3
基礎投資の
た
めの
経済的条件
4
肥料投入の
た
めの
経
済的条件
補論
先導的投入
の
国別
検討
第3
章
農家労働と
低雇用
1
序言
2
追加労働投入の
農
業産出に
た
い
する
寄与
3 7 5
一 橋論叢 第五 十 九 巻 第 三 号 ( 1 4 2)
3
労働の
自家雇用に
か
ん
する
兵家の
行
動
4
農家労働力の
総雇用と
その
構造
第4
草
魚工
間の
絶賛漁
移転
1
序言
2
純資漁移転の
対
照的な
型
3
純資源移転の
決定要因
補論
純資漁移転の
決定要因に
か
ん
する
模型的分析
第5
章
技術進歩と二
重
構造
的工
業発展
1
現代工
業開発の
初期条件
2
規模構造と
鮭済進歩
3
家
内工
業セ
ク
ター
と
産業選択
4
エ
場工
業セ
ク
ター
と
大規模生
産の
利益
5
結論
以
下
本論文の
特徴を
各
章ご
とに
要約して
述べ
る。
第1
草ほ
、
ア
ジ
ア
に
お
け
る
経済開発の
諸問題を
、
その
特殊な
初期条件と
の
関連に
お
い
て
分析す
るこ
と
を
ね
ら
い
と
し
て
い
る
本
論文の
視点を
明
確に
する
た
めに
、
経済開発の
総過准に
関する
著
者の
分析枠組を
示し
て
い
る。
その
基礎的な
枠組は
、
山
経済開
発
の
特
殊初期条件
、
仏
経済開発の
普遍的メ
カ
ニ
ズム
、
お
よ
び
矧
経
済開発の
特殊戦略
、
と
い
う三
本の
柱と
その
相互
作用に
よっ
て
組
み
立て
ら
れ
て
い
る。
初期条件と
は、
開発途上
国が
開発の
初期の
時点に
お
い
て
歴史
的事実と
し
で担わ
さ
れて
い
る
経済的
、
社会的お
よ
び
制度的諸条
件をい
う。
こ
の
概念規定に
もと
づ
い
て
次の
六
項目が
重
点的に
と
り
あ
げ
られ
る。
一
人あ
た
り
国民
所
得の
低水準
、
人口・
労働力の
閃(ノ
J
速い
増加率
、
小
農的農業の
低生
産性
、
エ
業技術進歩に
関する
特
殊条件(
第5
革に
関
して
後述)
、
外国貿易
発展に
関
する
困
醍、
お
よ
び
変化に
たい
する
制度的
、
社会的適応の
殊
殊性で
ある
。
普
遍的メ
カニ
ズ
ム
は、
経済主体の
ビ
ヘ
ー
ビ
ア
の
在
り
方、
部
門
間
(
商品
間を
ふ
く
む)
の
物的
、
技術的バ
ラン
ス
関係お
よ
び
貨幣的
バ
ラン
ス
の
関係の
三つ
か
ら
なる
。
著者に
よ
れ
ば、
こ
れ
は
伝統的
な
経済理
論の
流れ
を
く
むこ
んに
ちの
大部分の
経済理
論が
追求し
て
きた
領域だ
が、
そ
れ
ら
が
多か
れ
少な
か
れ
部分的な
接近
に
と
ど
まっ
て
い
る
の
は、
そ
れ
ら
が
現代先進諸国の
開発段階に
お
け
る
初
期条件も
し
く
ほそ
の
部分的修正
を
基本前
経と
し
た
た
め
で
あっ
て、
そ
れ
らの
理
論と
そ
れ
か
ら
導か
れた
開発戦略に
は
お
の
ずか
ら
限界が
あ
る
と
され
る。
こ
の
よ
うな
著者の
着
眼
か
ら、
「
必
要成
長
率+
(
経
済
開発
それ
自
体を
可
能な
ら
し
める
た
めに
達成
さ
る
ぺ
き
、、
、
ニ
マ
ム
の
国
民
所
得
成
長率)
と
「
可能成長率+
の
二
つ
の
概念の
導入
に
よっ
て、
開
発初期条件の
特殊性が
開発過程に
お
よ
ぼ
す
影
響を
、
捻合的に
判定する
手段が
あ
た
え
ら
れ
る。
こ
うして
+
先進
国の
経験との
比
較に
おい
て、
ア
ジ
ア
の
開発途上
国で
は、
前者が
高く
後者が
低く
、
その
間の
ギヤ
ァ
プ
が
大き
く
な
る
傾向があ
り、
した
がっ
て
な
ん
ち
かの
新しい
型の
開発戦略が
その
た
妙に
必
要で
あ
るこ
と
が、
指摘さ
れ
る。
補論の
モ
デル
ほ
方式
的に
はフ
ェ
ル
ドマ
ン
・
ドマ
ー
ル
系統に
属
す
る
が、
上
述の
著者の
構想に
も
とづ
きか
つ
賃金財供給を
も
制限
的要因と
して
取扱っ
て
い
る
と
い
う特徴を
もつ
。
こ
れ
は
記述
的に
報( 1 4 3) 彙
本草で
の
構想を
よ
り
明か
に
して
い
る。
第2
章以
下の
展開は
、
前述の
枠組に
依存して
精力的に
お
こ
な
ゎ
れ
て
い
て、
と
くに
そ
の
実証的研究の
部分は
施大で
こ
れ
を
正
確
に
要約する
こ
と
は、
必
ずし
も
容易で
は
ない
。
し
か
し、
各章ご
と
■に、
仙
著者の
歴史的考察ない
し
着想
、
惚
理
論的接近
と
仮説の
設
定、
価
実証
的研
究に
よ
る
仮説の
テス
ト、
お
よ
び
他
開発戦略の
提
案の
四
点に
要約して
述べ
る
こ
と
が
可能で
あ
ろ
う。
第2
章は
、
小
農的魚業の
開発に
お
け
る
基
礎
投
資(
潅
漑、
排
水、
洪
水
防
禦
等へ
の
投資を
著
者
はか
く
よ
ぶ)
の
重
要
性に
着眼
し、
その
不
足に
よ
る
生
産力向
上の
制約と
い
う
事実が
、
農業に
関
する
初期条件の
最も
重
要な
相違と
して
、
ア
ジ
ア
周発途上
国と
日
本の
経験との
あい
だに
認め
られ
る、
と
い
う
考察を
骨子
と
する
。
明
治以
降日
本の
農業発展で
重
要な
貢献を
し
た
優良品
種の
導入
・
肥料増
投、
それ
に
と
も
な
うそ
の
他の
農法進歩とい
う
型の
ア
ジ
ア
開発途上
国の
農業へ
の
導入の
有性効を
主張する
考え
方が
あ
る。
著者の
研究ほこ
の
考え
方の
批判と
して
生ま
れ
た。
理
論的なセ
ッ
ティ
ン
グ
は、
小
農的農業に
お
ける
詔投入
要素間に
は
強い
補完性
が
み
ら
れ
る
と
して
、
そ
の
よ
うな
形の
制限的な
生
産
関
数を
前
提
し、
その
シ
フ
ト
変数の
役割を
演ずる
と
み
な
さ
れ
る
も
の
を、
「
先
導的投入+
と
規定するこ
とに
よっ
て
あた
え
られ
て
い
る。
こ
の
よ
ぅ
な
投入
の
交替に
関す
る
仮説を
、
虚業発展に
関し
て
段階論的含
意を
もっ
て
設定し
、
その
テス
ト
を
ア
ジ
ア
開発途上
国の
地
域間
・
ク
。
ス
.
セ
ク
シ
ョ
ン
の
デー
タ、
日
本・
朝鮮
・
台湾の
時系列デー
タ、
お
よ
び
ア
ジ
ア
開発途上
国の
戦後に
関す
る
時系列デー
タ
等を
利用して
お
こ
なっ
て
い
る。
先導的投入
は、
第一
段階で
潅漑等の
基礎投資で
あ
り、
第二
段階で
そ
れ
は
技術進歩に
裏づ
け
られ
た
優
良品
種の
使用
・
肥料増投(
肥
培
管理
)
へ
移行す
る
とい
う仮説は
テ
ス
ト
の
結
果ほ
ぼ
妥当する
と
結論する
。
開発戦略へ
の
そみ
適用に
つ
い
て
は、
経済的視点か
ら
周
到な
検
討が
おこ
なわ
れ
て
い
る
が、
と
くに
基礎投資の
型に
つ
い
て、
政府
実施の
大中型プロ
ジェ
ク
ト
と
政府助
成・
民
間実施の
小
型プ
ロ
ジ
ェ
ク
ト
の
間の
選択の
問題と
し
て
それ
を
分析し
て
い
る
点が
注目さ
れ
る。
基礎投資に
要す
る
巨額の
資本出費と
その
コ
ス
上向の
回
避
は、
小
型プロ
ジ
ェ
ク
ト
の
有効実施に
見出さ
れ
る
可能性が
指摘さ
れ
る。
第3
革は
前
章との
関連で
い
え
ば、
農業に
お
ける
追加労働投入
の
産出効果を
追求し
た
もの
、
第1
章との
関連で
い
えば
、
重
要な
初期条件の
一
つ
で
あ
る
過剰労働と
その
増加の
問題を
論じ
た
もの
と
みら
れ
る。
過
剰労働は
農業に
主と
して
存在し
か
つ
速い
労働力
増加率と
工
業の
雇用増加に
限度の
あ
る
状態(
第5
章)
で
は、
そ
れ
は
増加の
傾向を
もつ
で
あ
ろ
う。
耕地
拡
張が
一
般に
限
度に
きて
い
る
と
き、
その
増加が
単位面積当り
労働投入の
増加と
なり
うる
可能性
、
か
つ
そ
れ
が
産出効果を
も
た
ら
し
うる
条件
、
を
明か
に
す
る
こ
と
は
きわ
め
て
重
要で
あ
る。
に
も
拘ら
ずこ
の
よ
うな
研究ほ
従
来ほ
と
ん
ど
為さ
れ
て
い
ない
、
とい
う点に
著者の
問題意識と
着限
が
あ
る。
こ
の
問
題へ
の
接近に
は、
ま
ず数カ
国に
つ
い
て
利用可能
な
農家経
済調査に
依る
事実の
確認の
た
め
の
分析か
ら
は
じ
まっ
て
い
る。
し
か
し
なが
ら、
こ
れ
ま
で
過剰労働の
概念と
その
通用は
論
抑
一 橋論 叢 第 五 十 九 巻 第 三 号 (1 4 4)
争的テー
マ
で
あっ
た
こ
とに
顧み
、
著者は
独
自の
定
義を
与
えて
そ
れ
に
よっ
て
過
剰労働の
存在自体の
検証を
試み
よ
うと
する
。
「
家
族成員の
生
活が
生
存維持的水準に
近
く、
かつ
そ
の
労働成員の
縁
故業時間が
利用可能な
就
業時間に
比べ
て
明確に
低い
と
き+
、
そ
れ
は
存
在する
と
定義さ
れ
る。
著者に
よ
れ
ばこ
の
定義は
、
こ
れ
ま
で
広く
行わ
れて
きた
限界生
産物に
直接関連さ
せ
た
定義よ
り
も
適
切で
あ
り、
農家兼
業形態を
も
包括し
うる
有意義な
規定で
あ
る。
第2
草で
前提し
た
制
限的生
産関数に
か
くて
労働投入
の
ど
へ
ー
ビ
ア
ー
を
結合し
て
フ
レ
ー
ム
をつ
くる
。
実証的接近は
三
部分か
ら
な
る。
第一
に、
労働投入
と
産出高お
よ
び
非労働投入
(
た
と
え
ば
潅漑
投
入)
の
間の
関係に
つ
い
て
の
吟
味、
第二
に、
農家の
自己
労働供給の
ど
へ
ー
ビ
ア
一
に
関する
追求
、
そ
し
て
第三
に、
貴家の
労働を
農業と
兼業の
両
者を
ふ
く
む
総体と
し
て
の
需給関係に
おい
て
と
ら
えて
おニ
)
な
う
雇用規模の
吟味で
あ
る。
主な
結論は
相互に
関連し
た
次の
二
つ
の
事実の
指摘に
見出さ
れ
る。
第一
に、
ア
ジ
ア
開発途上
国で
は
日
本に
く
らぺ
、
単位面積
当り
労働投入が
著し
く
低い
が、
そ
の
増大は
基礎投
資と
併行して
可能と
な
り
かつ
産出効果を
も
ち
うる
。
第二
に、
か
か
る
状態との
関連に
おい
て
過剰
労働の
存在が
肯定さ
れ
る。
戦略は
か
くて
長期
的に
は
エ
業化に
求め
ざ
る
を
え
ない
が、
当面労働投入
を
多く
と
も
な
う小
型プロ
ジェ
ク
ト
の
推進が
と
り
わ
け
有効で
あ
る
と
する
。
第4
章「
農工
問の
純資漁移転+
の
着眼点ほ
明か
で
ある
。
著者
は、
日
本の
明
治期に
お
ける
経験が
、
貯蓄
・
投資の
部門間バ
ラ
ン
ス
に
お
い
て
農業か
らエ
業へ
の
流出と
い
う型を
と
り、
それ
が
その
初期の
経済発展を
さ
苧乙
た
重要な
要因で
あっ
た
とい
う
事実ない
乃クJ
し
主
張(
著者はこ
れ
を
古
典
的
ケー
ス
とよ
ぷ)
に
対し
て、
その
統
計的実証が
包括的な
形で
は
完結し
て
い
ない
の
で
は
ない
か、
ま
た
そ
れ
が
おこ
な
われ
て、
そ
の
事実の
正
当性が
認め
ら
れ
た
と
して
も、
初期条件の
相違か
ら
して
、
著者が
問題■と
する
諸
国で
は
か
かる
型
ほ
妥当し
ない
の
で
は
ない
か
とい
う問題
意
識に
出
発す
る。
ま
ず
農業で
な
く
農家を
基準と
する
概念の
拡
張とア
カ
ウン
ティ
ン
グ
に
関する
定式化が
与え
ら
れ、
純資源移転の
計測に
た
い
する
フ
レ
ー
ム
が
周
到に
用意さ
れ
る。
次に
関係デー
タの
貧困とい
う実情に
も
か
か
わ
ら
ず、
日
本、
台湾
、
中国お
よ
び
イン
ドに
関する
統計的吟
味が
多くの
仮定的
解釈の
も
とに
多大の
努力を
払っ
て
おこ
な
わ
れ
る。
暫定的結論は
日
本い
がい
の
国に
つ
い
て
次の
よ
うで
あ
る。
開
発の
進展に
と
も
なっ
て
農家の
純
資源移転の
方向は
農家
外へ
の
流
出か
ら
流入へ
ない
しほ
流出額の
減少とい
う傾向を
もっ
た
ら
し
い
と。
次に
第l
章の
補論に
示さ
れ
たモ
デル
を
利
用して
、
こ
の
実証
的命題の
理
論的吟味が
お
こ
な
わ
れ
る。
こ
の
作業は
、
単純化の
た
めモ
デル
か
ら
除外され
た
諸要因の
効果に
つ
い
て
の
追
加的な
検討■
をも
含め
て
おこ
な
わ
れ
る
が、
その
結果は
前述の
命題を
支
持する
と
して
い
る。
最後に
開発戦略と
して
、
「
開発の
初期段
階に
お
い
て
は、
む
しろ
積極的に
農業へ
の
純
資源移転を
企て
て、
そ
の
生
産
性の
よ
り
急速な
上
昇を
ほ
か
る+
こ
と
を
著者ほ
示
唆する
。
最後の
第5
章はエ
業発展に
関する
著者の
見解を
展開する
。
こ
ん
に
ちの
阻発途上
国の
工
業化をめ
ぐる
初期条件が
、
現代先進諸
国の
かつ
て
の
経験の
そ
れ
と
著し
く
相違する
と
い
う事実の
重
要性
報彙)-
ヽ)41(
の
認識か
ら
出発する
。
重
化学工
業部門に
お
ける
最適設備規模の
巨大
化、
開発途上
国の
伝統的輸出品(
石
油を
除く
第一
次
産
品)
へ
の
需要の
相対
的停滞
、
新興輸出品で
あ
る
繊維品に
たい
する
先
進国の
市場制限
、
そ
し
て
開発途上
国の
製造業に
お
ける
中間財
・
資本財の
輸入
代替傾向等
、
こ
れ
ら
相互に
関連す
る
諸事実に
注目
する
。
こ
れ
ら
は
近
代的工
業化の
た
めの
投
資必
要量を
大き
くし、
労働吸
収力を
低く
する
の
に、
他方き
び
しい
過剰労働問
題を
もつ
とい
う点に
問題所在の
焦点
を
合せ
る。
実証的研究は
、
技術の
選択に
閲し
家内工
業セ
ク
ター
とエ
場工
業セ
ク
タ
ー
に
分
割して
、
デー
タ
の
許すか
ぎ
り
詳細に
す
すめ
ら
れ
る。
エ
易統計表に
関して
雇用量と
その
規模階層間の
分布が
主と
し
て
吟味され
る。
エ
場工
業セ
ク
ター
で
の
主な
指
摘は
、
「
資
本・
労働の
き
わめ
て
代替的な
技術型を
もつ
部門と
その
著し
く
小
さい
技術璽をもつ
部門に
二
分され
る+
こ
と、
家
内工
業に
つ
い
て
ほ、
「
家族企業と
し
て
の
制約が
技術選択に
関し
て
存在する+
こ
と
で
あ
ろ
う。
開発戦略とし
て
は
多元的
、
重
層的な
技術と
経済組識の
選択が
提案され
る。
資本
・
労働の
代替性の
い
ちじ
る
し
く
小
さい
、
その
意味で
産業選択=
技術選択で
ある
よ
うな
製造工
業は
超重
点
的に
決定さ
れ
るこ
と、
その
他の
部門で
は
家
内工
業の
育成
・
発展をつ
●
よ
く
進め
るこ
と
が
望ま
しい
と
さ
れ
る。
ⅠⅠⅠ
以
上、
本論文の
主要内容と
して
要約し
た
著者の
理
論的
・
実証
的研究の
帰結は
、
い
ずれ
も
稀れ
に
み
る
細心
周
密な
討究の
成果と
し
て、
き
わ
め
て
高く
評価すべ
き
もの
と
考え
る。
全体を
通じ
て
著
者の
な
し
と
げた
業績の
長所を
要括す
れば
、
次の
ご
と
く
で
あ
る。
1
著者は
、
ア
ジ
ア
開発途上
国の
経済開発問題へ
の
独創的な
接近
を
試み
て、
開
発の
理
論と
政策に
関する
斬新な
仮説の
設定と
その
経験的検証に
お
い
て、
固着な
成果を
あ
げ
た。
すなわ
ち
著者
は、
現代先進国の
それ
とは
違っ
た
ア
ジ
ア
開発途上
国に
特有な
開
発初期条件の
存在を
重
視し
、
その
特殊性を
基礎的な
事実発見を
もっ
て
基礎づ
け、
こ
れ
を
基
軸と
する
理
論的考察の
た
めの
座標を
構築し
、
新な
る
分析視点と
接近
方法に
関する
方
法上の
革新を
な
し
と
げた
。
2
実証面の
研究の
前提と
なる
個別的なフ
レ
ー
ム
と
仮説の
設
定に
お
い
て、
近
代理
論の
分析用具を
、
ア
ジ
ア
開発途上
国の
問題
とい
う
未だそ
の
通用不
十
分な
分野で
、
可能な
限り
有効に
生
か
す
こ
とに
成功し
た。
3
研究の
実証面に
関する
綿密周
到な
努力は
抜群で
あっ
て、
開発途上
国に
関す
る
デー
タ
の
蒐集
、
整理
、
加工
は
も
ちろ
ん、
そ
れ
ら
と
日
本の
デー
タと
の
対比
研究に
お
い
て
も、
すぐ
れ
た
成果を
も
た
ら
し
た。
4
主要な
問題解決に
関する
有効な
開発戦略を
、
ア
ジ
ア
的コ
ン
テ
ク
ス
ト
に
適合的な
形で
明確に
うち
出すこ
とに
よっ
て、
政策
面に
もユ
ニ
ー
ク
な
貢献を
なし
た。
と
り
わ
けこ
れ
らの
提案が
、
こ
れ
ま
で
の
「
正
統的+
思考の
批判の
形を
とっ
て
い
る
点に
特徴を
も
つ
。
∂7 9
一 橋論 叢 第五 十 九 巻 第三 号 (1 4 6)
実の
とこ
ろ、
・本論文の
材料と
なっ
た
既発表の
個別研究は
、
す
で
に
内外の
専門家の
あい
だ
で
注目さ
れ
て
い
た
もの
が
多い
。
い
ま
本論文に
よ
る
体系的な
考察に
よっ
て
こ
の
分
野に
お
け
る
著者の
地
歩は
ゆる
ぜ
な
く
確立さ
れた
とい
ぇ
与つ
。
けれ
ど
も
著者も
自ら
認めて
い
る
よ
うに
、
挑戦的課題の
性質も
深くひ
ろが
り
も
大きい
。
こ
んご
なお
い
っ
そ
う拡充
・
発展を
期待
すべ
き
問題点が
残さ
れ
て
い
るの
は、
当然の
こ
と
か
もし
れ
ない
。
と
り
わ
け
本論文の
内容に
直接に
関係する
若干の
諸点に
つ
い
て
指
摘すれ
ば
次の
ご
と
くで
ある
。
第一
に、
枠組の
中核を
な
して
い
る
初期条件の
概念は
、
著者も
述べ
て
い
る
よ
うに
、
経済的
、
社会的お
よ
び
制度的要因を
ふ
く
む
とこ
ろの
、
そ
れ
自体き
ゎ
め
て
広汎な
内容を
もつ
。
開発の
起点で
前期か
ら
所与
とし
て
うけとっ
た
条件
、
開
発途上で
生
じて
くる
条
件、
一
国に
とっ
て
の
内的条件と
外的条件
、
さ
らに
はそ
れ
らの
な
か
に
は
開発を
阻む
条
件も
あれ
ば、
開発を
促進する
条件も
ある
。
本論文で
は、
開発を
困難と
する
条件が
主と
し
て
と
り
あ
げ
ら
れ、
た
と
え
ば
農業技術に
関する
進歩
、
等の
プ
ラ
ス
の
条件は
あ
げ
ら
れ
て
い
ない
。
した
がっ
て
初期条件の
概念に
関する
い
っ
そ
う明
確な
規定と
そ
れ
らの
内的作用関連の
包括的な
考察の
た
め
に、
さ
ら
に
立ち
入っ
た
吟味検討が
望ま
れ
る。
第二
に、
こ
の
分野の
研究が
強い
デー
タ
ネッ
ク
に
当面し
て
い
る
事情は
十分に
理
解さ
れ
る
が、
本論
文が
その
制限の
な
か
で、
一
般
的・
共通的な
もの
の
抽出を
い
さ
さ
か
ね
らい
すぎた
感が
あ
る。
著
者自身が
次の
課題と
して
もつ
類型化へ
の
接近の
過程に
お
い
て、
こ
の
点が
将来顧慮さ
れ
るこ
と
が
望まれ
る。
第三
に、
開発戦略に
つ
い
て
の
提案は
、
主と
し
て
個別
問
題に
関
して
その
都度明確に
述べ
ら
れ
て
い
る
が、
個別戦略間の
相互
関係
と、
その
全体に
お
ける
個別戦略の
地
位に
関する
総合的叙述は
、
必
ずし
も
十分とは
い
えない
。
こ
の
点に
つ
い
て
もこ
ん
ご
の
拡充を
期待し
たい
。
以上
、
い
っ
そ
うの
解明と
拡充を
の
ぞ
み
たい
点は
残さ
れて
い
る
が、
そ
れ
らほ
、
本論文がこ
の
分野に
お
ける
卓越し
た
業績と
して
内外の
高い
評価に
催するこ
と
を、
い
さ
さ
か
も
損
うも
の
で
は
な
ヽ
○
-
V
著者に
たい
して
なさ
れ
た
所定の
試験の
結果を
あわ
せ
考え
て、
審査員は
、
著者が
一
橋大学経済学博士の
学位を
うける
に
催する
もの
と、
判断する
。
昭
和四二
月一
一
月二
〇日
β8 ¢