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Μεταπτυχιακά 名古屋大学大学院文学研究科 教育研究推進室年報 Vol. 9 16 本稿は,2014 11 19 日開催の教育研究推進室 FD の記録である。この報告は,昨今,剽窃,盗用などの 研究不正が社会的に問題となっていることを背景とし て,著作権に関する問題についての意識・理解を共有 することを目的としたもので,筆者が,2014 10 17 日に開催された文化庁・愛知県教育委員会主催「著 作権セミナー」に参加して得た情報を提供しようとす るものである。報告内容は,当該セミナーにおいて配 布された,文化庁長官官房著作権課編『著作権テキス ト~初めて学ぶ人のために~平成26 年度』(2014 年) に基づいている。 まず,上記テキストに従って著作権の内容を概観 し,著作物の複製(コピー,画像掲載)等には著作権 者の許諾が必要であることを確認した(テキスト19 頁)。次いで,例外的な無断利用ができる場合のう ち,大学での教育や研究に密接に関わる,「教育機関 における複製」,「引用」について論及した。いずれの 場合においても,許諾なしでの利用には一定の条件が 必要であることを指摘し,無断利用が認められない場 合についても触れた(テキスト6567 頁・7778 頁)。 問題の生じやすい場面として,画像・図・写真の著 作権の問題について説明し,美術作品等の製作者の著 作権保護期間が終了していても,写真撮影者の著作権 (撮影機関または作品所有者に譲渡されている場合も ある)を所有する者の許諾を得ることが必要な場合が あることに注意を促した。また,学問領域によって社 会的慣行が異なる場合があり,著作権法より高いハー ドルを設けている場合は,著作権法上は問題なくて も,社会的にトラブルになる可能性があり,逆に著作 権法よりハードルが低い場合,実態として行われてい ることが著作権法に抵触する可能性があり,こうした ことに留意が必要であることにも触れた。 さらに,教員の論文のみならず,学生の論文(投稿 論文・学位論文)・教材の WEB 上公開・試験問題・ 広報誌等でも著作権の処理が重要であることを述べ, 特に学生の論文における不正行為を防ぐために,学生 に対する著作権教育が重要であることを強調した。 また,社会的慣行の問題に関する当日の質問に対 し,後日,メールにて補足説明を行い,著作権所有者 (機関)が,画像等の複製・使用の許諾申請について, 所定の手続を求めている場合があるので,当該機関が どのような規定を設けているのかを確認する必要があ ることを述べた。 なお,『著作権テキスト』については, http://www.bunka.go.jp/chosakuken/text/pdf/h26_text.pdf 著作権教材については, http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index_4_9.html を参照されたい(いずれも文化庁長官官房著作権課)。 以下,参考として,「教育機関における複製」,「引 用」が認められる条件について掲げる。 ○教育機関において複製が認められる条件 営利を目的としない教育機関であること 授業等を担当する教員等やその授業等を受ける学 習者自身がコピーすること 授業の中でそのコピーを使用すること 必要な限度内の部数であること すでに公表されている著作物であること その著作物の種類や用途などから判断して,著作 権者の利益を不当に害しないこと(ソフトウェアや ドリルなど,個々の学習者が購入することを想定し て販売されているものをコピーする場合等は対象外) 慣行があるときは「出所の明示」が必要 ○引用が認められる条件 すでに公表されている著作物であること 「公正な慣行」に合致すること 報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範 囲内」であること 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確 であること カギ括弧などにより「引用部分」が明確になって いること 引用を行う「必然性」があること 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行が あるとき) 【以上,『著作権テキスト』より引用】 大学教育と著作権 古尾谷知浩 名古屋大学文学研究科 大学院教育の国際化に向けて

大学教育と著作権 - lit.nagoya-u.ac.jp · 17日に開催された文化庁・愛知県教育委員会主催「著 作権セミナー」に参加して得た情報を提供しようとす

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Μεταπτυχιακά 名古屋大学大学院文学研究科 教育研究推進室年報 Vol. 9

16

 本稿は,2014年11月19日開催の教育研究推進室 FD

の記録である。この報告は,昨今,剽窃,盗用などの研究不正が社会的に問題となっていることを背景として,著作権に関する問題についての意識・理解を共有することを目的としたもので,筆者が,2014年10月17日に開催された文化庁・愛知県教育委員会主催「著作権セミナー」に参加して得た情報を提供しようとするものである。報告内容は,当該セミナーにおいて配布された,文化庁長官官房著作権課編『著作権テキスト~初めて学ぶ人のために~平成26年度』(2014年)に基づいている。 まず,上記テキストに従って著作権の内容を概観し,著作物の複製(コピー,画像掲載)等には著作権者の許諾が必要であることを確認した(テキスト3~19頁)。次いで,例外的な無断利用ができる場合のうち,大学での教育や研究に密接に関わる,「教育機関における複製」,「引用」について論及した。いずれの場合においても,許諾なしでの利用には一定の条件が必要であることを指摘し,無断利用が認められない場合についても触れた(テキスト65~67頁・77~78頁)。 問題の生じやすい場面として,画像・図・写真の著作権の問題について説明し,美術作品等の製作者の著作権保護期間が終了していても,写真撮影者の著作権(撮影機関または作品所有者に譲渡されている場合もある)を所有する者の許諾を得ることが必要な場合があることに注意を促した。また,学問領域によって社会的慣行が異なる場合があり,著作権法より高いハードルを設けている場合は,著作権法上は問題なくても,社会的にトラブルになる可能性があり,逆に著作権法よりハードルが低い場合,実態として行われていることが著作権法に抵触する可能性があり,こうしたことに留意が必要であることにも触れた。 さらに,教員の論文のみならず,学生の論文(投稿論文・学位論文)・教材のWEB上公開・試験問題・広報誌等でも著作権の処理が重要であることを述べ,特に学生の論文における不正行為を防ぐために,学生に対する著作権教育が重要であることを強調した。

 また,社会的慣行の問題に関する当日の質問に対し,後日,メールにて補足説明を行い,著作権所有者(機関)が,画像等の複製・使用の許諾申請について,所定の手続を求めている場合があるので,当該機関がどのような規定を設けているのかを確認する必要があることを述べた。 なお,『著作権テキスト』については,http://www.bunka.go.jp/chosakuken/text/pdf/h26_text.pdf

著作権教材については,http://www.bunka.go.jp/chosakuken/index_4_9.html

を参照されたい(いずれも文化庁長官官房著作権課)。 以下,参考として,「教育機関における複製」,「引用」が認められる条件について掲げる。○教育機関において複製が認められる条件1 営利を目的としない教育機関であること2 授業等を担当する教員等やその授業等を受ける学習者自身がコピーすること

3 授業の中でそのコピーを使用すること4 必要な限度内の部数であること5 すでに公表されている著作物であること6 その著作物の種類や用途などから判断して,著作権者の利益を不当に害しないこと(ソフトウェアやドリルなど,個々の学習者が購入することを想定して販売されているものをコピーする場合等は対象外)

7 慣行があるときは「出所の明示」が必要○引用が認められる条件1 すでに公表されている著作物であること2 「公正な慣行」に合致すること3 報道,批評,研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること

4 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること

5 カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること

6 引用を行う「必然性」があること7 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき) 【以上,『著作権テキスト』より引用】

大学教育と著作権

古尾谷知浩 名古屋大学文学研究科

Ⅰ  大学院教育の国際化に向けて