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実効雨量と地域情報を用いた
土砂災害の危険性評価
信州大学大学院 大上俊之研究室
武田 拓也
はじめに
日本 ・急峻な山岳地形と脆弱な地質
長野県 ・四方を3,000m級の山々に囲まれている
長野県では土砂災害が頻発し,崩壊危険個所が多い
土砂災害 ・兆候を示す明確な現象が少ない
・突発的に発生することが多い
・土砂災害発生危険個所の把握
・災害の発生に備える 重要
研究目的: • 過去の崩壊個所における地域特性から崩壊危険個所を推定する
• 崩壊の危険性がある降水目安を設定
土砂災害の種類
土砂災害の種類
土石流
大量の水土砂が一体となって谷や斜面,河川などを一気に流れ落ちる現象
地すべり
地下水などの影響により斜面の一部が動き出す現象
がけ崩れ
速いスピードと大きな破壊力を持つ急傾斜が突然崩れ落ちる現象
表層面について考えるので,土石流とがけ崩れのみを取り扱う
土砂災害の原因
土砂災害:素因に誘因が作用して発生
素因: 地質,地形
土地利用
誘因: 豪雨
素因: それぞれの土地が持つ性質
誘因: 災害を発生させる引き金
崩壊の危険性が高い
本研究:
過去に発生した土砂災害個所の素因と誘因の組み合わせから,関係性が高いものを算出する
本研究の流れ
1 • 過去の崩壊個所データを災害種類別,地質別に分類
2 • 崩壊個所における地形情報の算出
3 • 崩壊個所における降水情報の算出
4 • 地形情報,降水情報から関係性を求める
5 • 関係性が高いものについて崩壊条件を算定する
6 • 崩壊条件を満たす崩壊危険個所を推定
7 • 崩壊発生基準線(Critical Line:CL)の設定
1. 過去の崩壊個所データ
土砂災害データをArcGISに組み込む
平成16年~23年の7年間における土砂災害データを用いる
50mメッシュ:平成16年に刊行
7年間に発生した土砂災害件数は350個所
崩壊が発生しやすい地域特性を満たす個所を抽出
土砂災害データ
・平成13年~23年の10年間に発生した土砂災害データ
・災害現象の種別,場所,規模,推定発生日時を記載
土砂災害発生個所
発生個所の特徴
• 中央構造線付近: がけ崩れが多く見られる
• 北アルプス: 土石流が多く見られる
1. 地質別の崩壊個所データの分類
20万分の1数値地質図幅集を用いる
長野県の地質を地層年代別に分類する
地質分類結果と特徴
長野県: ・第四紀層
・新第三紀層
飯田市~松本市西部: ・白亜紀
・ジュラ紀
崩壊個所の地質情報
<崩壊個所の地層分類結果>
この4つの崩壊個所の地形情報,降水情報を算出する
土石流 がけ崩れ
1. 土地利用の分類
土地利用細分メッシュデータを用いて長野県内の利用状況を分類
分類結果と特徴
<長野県> 森林が多い
都市部周辺:田,建物用地
崩壊個所の土地利用状況
<崩壊個所の土地利用分類結果>
森林,建物用地,農用地を用いて,評価を行う
土石流 がけ崩れ
研究対象
評価対象条件
崩壊要因:土石流 または がけ崩れ
地質情報:第四紀層 または 新第三紀層
土地利用情報:森林 または 建物用地 またはその他の農用地
この条件を満たす土砂災害発生個所は350個所中119個所
119個所から
地形と降水の関連性を求める
関連性の高い崩壊危険個所の推定
2.地形情報の算出
地質,土地利用条件を満たす崩壊個所から地形情報を算出
<地形情報>
斜面傾斜角
曲率
起伏
<算出方法>
1. 数値地図50mメッシュ(標高)をArcGISに組み込む
2. ArcGISを用いて長野県全域の地形情報を算出
3. 崩壊個所における地形情報を求める
過去に発生した崩壊個所の地形的特徴を数値で把握し,崩壊の地形条件を求める
斜面傾斜角の概要
対象セルeを中心とする一辺がLの3×3の正方セルを考える
a~i:標高値
平均最大法を用いて
中心セルeのx,y方向の変化率から算出する
x方向の変化率:
y方向の変化率:
これらの変化率Rを用いて,傾斜角を算出する
斜面傾斜角の算出結果
算出結果の特徴
•長野,松本などの盆地,谷では値が低い
•北アルプスなどの山間地では値が大きい
曲率の概要
断面曲率と平面曲率から曲率を求める
曲率の値 正:凸型 負:凹型
曲率
断面曲率:
最大傾斜角方向の曲率
平面曲率:
最大傾斜角方向に対して直角方向の曲率
+
曲率の算出式
( Z4 + Z6 − 2Z5 + (Z2 + Z8 − 2Z5))/𝐿2 × 100
断面曲率と平面曲率
曲率:
断面曲率と平面曲率の組み合わせから曲率の形状を判別する
曲率の組み合わせ
凸型尾根型 凸型直線 凸型谷型
等斉尾根型 等斉直線 等斉谷型
凹型尾根型 凹型直線 凹型谷型
曲率の算定結果
算出結果の特徴
・盆地では値が0に近い値を取る
・谷部では負,尾根部では正の値を取る
起伏の概要
メッシュ毎に地形の凹凸を表す
起伏の値が大きい :凹凸量が大きい
小さい値が続く:平坦
ArcGIS:DEMのどの部分がどの部分の陰になるかを表す
影の有無で凹凸を表すことが出来る
起伏算出結果
算出結果の特徴
・盆地などの平坦な地域は値が一定
・山間地では値が一定ではなく,複雑な地形であることがわかる
3. 降水情報
1時間累積雨量と72時間半減期実効雨量を用いる
<1時間累積雨量>
• 1時間に降った雨の合計
• 気象庁が公開している1時間降水データを1時間累積雨量とする
<72時間半減期実効雨量>
• 過去に降った雨量の影響を時間とともに減少させて計算した雨量
Rt:時刻tの実効雨量, rt:時刻tの時間雨量
αt:減少係数, T:半減期(本研究では72)
実効雨量の算出
雨量観測所の降水データから崩壊個所の降水データを求める
<崩壊個所の実効雨量の算出手順>
1. 雨量観測所の一連の1時間累積雨量データを取得
2. 過去の崩壊個所における崩壊時までの一連の1時間累積雨量を算出
3. 1時間累積雨量から72時間半減期実効雨量を算出
一連の降水:降り始め以前に24時間の無降水期間がある降水
無降水 一連の降水 無降水
24時間以上 24時間以上
降り始め 降り終わり t
1. 雨量観測所の一連の1時間累積雨量の取得
雨量観測所の1時間雨量データの取得
長野県:面積が大きい
長野県を5地区(長野,松本,諏訪,軽井沢,飯田)に分割
分割方法:ティーセン法
崩壊が発生した個所の1時間累積雨量:
崩壊個所が属する地区内の観測所の降水データから, 内挿補間により算出
ティーセン法
・隣り合う点を結ぶ直線に垂直二等分線を引き,最近接領域を分割したもの
2. 過去の崩壊個所における崩壊時までの一連の1時間累
積雨量の算出
ArcGISの内挿補間機能のIDW法を用いて崩壊個所における降水情報を算出する
内挿補間:ある既知の数値データ列を基にして,そのデータ列の各区間
の範囲内を埋める数値を求める
IDW法:既知のデータ点との近さで補間値を重み付けする方法
4. 地形情報,降水情報から関係性を求める
過去の崩壊個所の地形データと 崩壊時刻における降水データとの関係性を相関を用いて求める
相関係数算出式
x’,y’はそれぞれデータx = {xi},y = {yi}の相加平均
)')('(1
yyxx ii
n
i
n
i
i
n
i
i yyxx1
2
1
2 )'()'(
実効雨量と各地形データの散布図
第四紀層の土石流崩壊個所
実効雨量と各地形データの散布図
第四紀層のがけ崩れ崩壊個所
実効雨量と各地形データの散布図
新第三紀層の土石流崩壊個所
実効雨量と各地形データの散布図
新第三紀層のがけ崩れ崩壊個所
相関算出結果
相関係数を算出し,関連性を求める
第四紀層・土石流 第四紀層・がけ崩れ
新第三紀層・土石流 新第三紀層・がけ崩れ
相関係数の値が1に近い
→地形と降水の関係性が強い
相関係数の値が0に近い
→地形と降水の関係性が弱い
第四紀層における土石流崩壊の危険性を評価する
研究条件を満たした個所
研究条件
崩壊要因:土石流
地質 :第四紀層
研究条件を満たす崩壊個所と地形情報・降水情報
5. 関係性が高いものについて崩壊条件を算定
崩壊の危険性が高い地形条件を求める
<崩壊条件の設定方法>
地形情報の最大値と最小値を崩壊条件とする
6. 崩壊条件を満たす崩壊危険個所を推定
ArcGISを用いて崩壊条件を満たす地域を求める
崩壊危険個所の算出手順
1. 各地形条件を満たす地域を求める
傾斜角
曲率
起伏
2. 全ての地形条件を重ね合わせる
3. 算出した地形条件に,第四紀層の 分類図と土地利用図を重ね合わせる
崩壊危険個所の推定結果
崩壊危険個所推定結果
伊那盆地東部,八ヶ岳,長野市
北部に危険個所が多数存する
長野盆地周辺は崩壊危険個所が少ない
本研究と長野県が公表している
土石流危険渓流位置図との比較
上田,佐久周辺
・本研究では市街地の北部に危険個所がある
・市街地の南部では危険個所がない個所がある
CLの設定方法
CL:
注意すべき領域や警戒すべき領域の境界線
災害が発生する確率が高くなる目安
CLの設定:
縦軸:短期降水指標(1時間累積雨量)
横軸:長期降水指標(72時間半減期実効雨量)
→土壌中の水分量を評価し,土砂災害の起こりやすさを表す
スネーク曲線を描くことでCLの設定を行う
スネーク曲線
• 降水の実況の線
• 土砂災害危険度指標図に降水を時系列で結んだもの
土砂災害危険度指標図
崩壊個所における一連の降水のスネーク曲線を 土砂災害危険度指標図に描く
崩壊時刻における土砂災害危険度指標図
7. 崩壊発生基準線(Critical Line:CL)の設定
CLの設定手順
1. 崩壊非発生降水のスネーク曲線を描く
2. 図から特徴を見つける
短期降水の最大値:20mm
短期降水の上位4つが15mm以上
長期降水:80mmが最大値
CL設定結果
崩壊非発生降水範囲
→崩壊が発生しにくい
崩壊発生時刻の降水情報の値が大きい
→崩壊が発生しやすい
・長期降水量が少ない
・短期降水量が多い
地中に降水が溜っていない
→崩壊しにくい
結論
1. 崩壊が発生しやすい地質,土地利用
地質: 第四紀層,新第三紀層
土地利用: 森林,建物用地,その他の農用地
2. 素因と誘因で関係性が見られたもの
第四紀層における土石流崩壊
3. 崩壊危険個所
長野市北部,八ヶ岳周辺,中央構造線付近で多く見られた
4. CLの設定
地形情報の算出に用いるデータ
数値地図50mメッシュ(標高)
2万5千分の1地形図の等高線から計測・計算し求めた数値標高モデル(DEM)
2次メッシュを経度方向及び緯度方向に200等分して得られる格子の中心点の標高値を記録している
DEMデータの用途
地形を三次元表現する鳥瞰図の作成
電波到達域や視通の確認
傾斜分類などの地形解析
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