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京都産業大学益川塾 Maskawa Institute for Science and Culture (MISC) Kyoto Sangyo University 第5 Annual Report 2014 26

京都産業大学益川塾 - kyoto-su.ac.jp · 自然科学系博士研究員 杉山 弘晃 柴 正太郎 渡邊 篤史 自然科学系研究員 池田 憲明 2. 2 自然科学系の研究活動および研究業績

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京都産業大学益川塾

Maskawa Institute for Science and Culture

(MISC)

Kyoto Sangyo University

年次報告  第5報Annual Report 2014

平成26年度

はじめに

京都産業大学益川塾は、若手研究者に対し、「独立不羈の精神を堅持しつつ互いに切磋琢磨し、研究に専念し誇るべき成果を上げるとともに、生涯にわたり学問を継続するための揺るぎなき礎を築く場を提供」するとして平成 22年 4月に発足しました。以来 5年間、自然科学系は「素粒子の標準模型を越えて」を指針として掲げ、少ない構成員ながら活発な研究活動を進めて参りました。平成26年度は、4月よりメンバー 2名が入れ替わった博士研究員3名、研究員1名の計4名の塾生と、新たにお迎えした近畿大学の太田信義教授を含めた学内外の指導教授ら 6名の体制で活動しました。本報告書は平成26年度の塾生および指導教授の活動成果をまとめたものです。

益川塾は、国公立の諸機関に負けない研究成果を挙げるべく、設立当初から私立大学の互いの連携を大きな柱とし、第一歩として取り組んだ日本大学理工学部との協力は着実に実を結びつつあります。「日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム」を平成23年度より毎年企画し、日本大学(東京)と京都産業大学(京都)で交互に開催し、今年度第 4回「素粒子と時空 /現象から探る素粒子」は再び京都産業大学で開催しました。

以上のように基礎的な研究を推進すると共に、益川塾は広く市民に向けて科学の情報を発信する活動にも取り組んでいます。 特に、開設以来毎年開催してきた「益川塾シンポジウム」は、昨年度からは本学創立 50周年記念事業の一環としても開催されています。今年度は、11月に大阪コングレコンベンションセンターで、12月に東京ビッグサイトでと、2会場で開催されました。今年度は第 7回益川塾シンポジウム「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」と題し、2会場共に、高校生を対象とした「益川 敏英教授の特別授業」や「高校教諭と益川教授との特別セッション」を持ち、また、高校生および一般参加者 5- 600名へのJAXAの川口淳一郎氏の特別講演、および本学教授らを交えたパネルディスカッションのほか、全国 4- 50チームの高校生のポスターセッションも持たれ、益川塾塾生による特別ポスター発表、益川塾指導教授らによる講評や交流が行われました。本年はさらに、塾生が自発的に大学生・一般市民向けの気楽な「益川塾サイエンスカフェ」を始めました。第 1回「『小林・益川理論』って何だっけ?」、第 2回「不思議な粒子『ニュートリノ』」が開かれ、塾生全員と九後副塾頭も参加しました。本塾が更なる発展を遂げますように、今後とも皆様のご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

平成27年4月

京都産業大学益川塾塾頭益川 敏英

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目次

0. はじめに i

1. 本年度の構成員                     2

2. 自然科学系の研究活動および研究業績           3

2.1 自然科学系活動報告:個人研究 5

2.2 活動報告会の実施    16

2.3 原著論文等   17

2.4 国際会議・セミナー等での講演    18

2.5 外部資金等の獲得    22

2.6 その他の業績    22

3. セミナー・集中講義           25

4. 益川塾サイエンスカフェ 37

4.1 第1回「小林・益川理論って何だっけ?」 37

4.2 第2回「不思議な粒子『ニュートリノ』」 38

5. 京都産業大学 益川塾 第 7回シンポジウム (大阪会場) 39

「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」6. 京都産業大学 益川塾 第 7回シンポジウム (東京会場) 41

「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」7. 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム 43

-CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-

8. 塾頭の講演・広報活動・報道等 45

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2014年 4月 7日 入塾式

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1 本年度の構成員

塾頭 益川 敏英

副塾頭  柴 孝夫 九後 太一 (汰一郎) 福井 和彦

学内指導教授 原 哲也  外山 政文

学外指導教授 植松 恒夫 高杉 英一仲 滋文 太田 信義

自然科学系博士研究員 杉山 弘晃 柴 正太郎渡邊 篤史

自然科学系研究員 池田 憲明

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2 自然科学系の研究活動および研究業績

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2.1 自然科学系活動報告: 個人研究

本年度、自然科学系研究員が取り組んだ研究活動および研究について各研究員がまとめたものを以下に掲載する。

• 杉山 弘晃 (Hiroaki Sugiyama)

素粒子理論において『標準模型』と呼ばれている物理理論は、多くの実験結果を高精度で説明できる強力な理論である。近年、欧州のLHC実験においてヒッグス粒子の存在が確認されたことによって『標準模型』は一層確固としたものになっているが、いくつかの不満点を解消した新物理理論への昇華が望まれることに変わりはない。

ニュートリノは『標準模型』において質量ゼロとされていたが、スーパーカミオカンデを用いた大気ニュートリノ観測によってニュートリノ質量の存在が 1998

年に明らかにされている。特に、ニュートリノ質量が他の素粒子質量に比べて極端に軽いという事実により、その質量生成機構はニュートリノ特有の新機構と期待される。すなわち、ニュートリノ質量生成機構は『標準模型』を発展させるための重要な手がかりであるといえる。

『標準模型』を拡張した場合、新しいフェルミオン質量項が追加されることが多い。『標準模型』においてフェルミオン質量項はゲージ対称性の破れによって生成されることを念頭に置くと、新しいフェルミオン質量項は新しいゲージ対称性の破れによって生成されると考えるのが自然である。そこで論文 [MISC-2014-04]

では、U(1)B−Lゲージ対称性の破れによって新しいフェルミオン質量項(ニュートリノ質量項を含む)が生成されるような新物理模型を提案した。ゲージアノーマリーを消すようなB−L電荷を新粒子に割り振った場合に、暗黒物質候補粒子の安定性に活用可能な大域的U(1)対称性が現れるようになっている。さらに、その暗黒物質候補粒子を活用した量子効果によってニュートリノ質量が生成されるため、ニュートリノ質量の微小さも自然に説明可能である。この模型では、右巻きニュートリノのB−L電荷が他の新物理模型におけるものと異なっており、Z ′

粒子崩壊からの対生成が抑制されているため、他の模型との区別も可能となっている点が興味深い。

他方、ヒッグス粒子に関する研究も行なった。存在が確認されたヒッグス粒子は『標準模型』のヒッグス粒子と考えて無矛盾であるが、別の可能性も考えてみることは重要である。そこで、『標準模型』ではヒッグス粒子は SU(2)対称性の2重項から現れるが、2重項以外から現れたヒッグス粒子が発見されたのだという可能性を探究した。2重項の代わりに3重項と4重項を活用する新物理模型を

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構築し、フェルミオン質量を与える機構やローパラメーターを1にする条件等を明らかにした。スカラー3重項の存在によって、ニュートリノ質量もシンプルに導入される。この模型には、実験で発見されたヒッグス粒子の性質を再現可能な粒子が含まれており、実験結果に対する新たな解釈の可能性を与えることになる。この研究は、京都大学助教の津村浩二氏との共同研究であり、近々論文としてまとめ上げて公表予定である。

• 柴 正太郎 (Shotaro Shiba)

素粒子の標準模型は今やほぼ確立した理論と認識されており、それを超える理論を構築することが今後の物理学の発展には必要不可欠である。その有力な候補の一つが超弦理論であり、様々な観点から研究が行われている。超弦理論は 10次元以上の高次元時空において定式化される理論であり、これがもし本当に現実の物理を記述しているならば、高次元時空の中にどのように我々が認識する 4次元時空が組み込まれているのか、という疑問に明確に答えられるはずである。

超弦理論においては、基本的な自由度である弦の他に、ブレーンと呼ばれる高次元時空に広がる物体が必然的に存在することが知られている。私はこのブレーンがある種の安定な構造を創ることにより、高次元時空の中に我々の 4次元時空が現れているのであろうと考えている。このシナリオを具体的に描き出すためには、ブレーンのダイナミクスを様々な視点から調べる必要があり、本年度は以下の 2つの視点から研究を行った。

1. ゲージ理論のモジュライに注目したブレーンのダイナミクスの解析

ブレーンのダイナミクスは、ブレーン上で定義されるゲージ理論によって解析できることが知られている。ゲージ理論の解析は通常、弱結合領域で行われるが、例えばゲージ・重力対応を通してダイナミクスを調べたい場合、強結合領域で解析することが望まれる。そのため、結合定数を変えても物理が変わらない系で議論したり、格子化して数値計算したりと、特殊な方法で解析されることが多い。

我々は、そのような方法とは一線を画した、新たな解析方法を提案している。それは、ゲージ理論の真空解周りのモジュライに注目し、ビリアル定理などの簡単な仮定をおいて解析するというものである。特に、ブレーンが多数集まって創られるブラックブレーンの系に注目し、この方法で様々な熱力学量を計算することで、重力理論から知られている結果を正確に再現できることを示した。

特に、論文 [2014-MISC-06]では、ブレーンが交差した(ねじれの位置に置かれた)系について、この解析方法が有効であることを示した。さらに、論文 [2014-

MISC-07]では、コンパクトな空間においてブラックブレーンの系が起こす相転移についても、ゲージ理論の知識のみを用いて説明できることを示した。

2. M5ブレーン上の場の理論の定式化に向けた研究

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ブレーンが創り得る構造は様々であるが、最も自然に 4次元時空を実現するのは、M理論におけるM5ブレーンが交差した系ではないかと、私は考えている。この交差領域は必ず 4次元時空になることが知られており、4次元理論(標準模型に似た超対称理論)との関係も研究されている。

この議論の難点は、M5ブレーンのダイナミクスを記述するはずのゲージ理論が未だ定式化できていないことである。特に、M5ブレーンが複数集まったときにできるはずの非可換ゲージ群が何であるか解明できていない。私はこの問題を是非とも解決したいと思っている。

一つのアプローチは、このゲージ理論が持つべき性質を駆使することにより、理論が採用し得るゲージ群を調べることである。ところが、この理論の超対称性は特殊であり、そもそもゲージ場をどう定義するかも明確でなく、さらにM理論には結合定数のようなパラメータもないので制約が多く、議論は困難を極める。

もう一つのアプローチは、前述のモジュライを用いる方法である。実は、真空解のモジュライの個数を素朴にM5ブレーンの枚数と同じだとすれば、重力理論と合致する正しい物理量が得られることが分かっている。従って、この情報を頼りに、ゲージ理論に現れる相互作用の形をある程度予想することができるのだが、現時点ではまだ論文に発表できるような成果は得られていない。

他のアプローチも模索しつつ、今後も引き続き挑戦していきたいと考えている。

• 渡邊 篤史 (Atsushi Watanabe)

近年、宇宙より降り注ぐ高エネルギー (100TeV ∼ 2PeV)ニュートリノが Ice-

Cube実験により初めて観測され、宇宙観測の方法に大きなブレイクスルーがもたらされた。現在の素粒子論の進展にとって最も決定的な要素のひとつは、新たな実験的な情報である。過去を振り返ると、太陽ニュートリノや大気ニュートリノといった天然ソースのニュートリノは、素粒子論の発展に重要な役割を演じてきている。そこで、宇宙由来の高エネルギーニュートリノも、何とか素粒子の研究に利用することができないか?と考えたくなる。今年度は、この課題にフォーカスし、IceCubeにおける高エネルギーニュートリノを中心に研究を進めた。

今回発見された高エネルギーニュートリノのソースはわかっておらず、その点で過去の太陽、大気ニュートリノ実験のようにはいかないことはもちろんである。しかしながら、具体的なソース天体が何であるかに関わらず、標準的な物理のみを用いた天体由来のシナリオならば従わなければならない特徴もある。例えばニュートリノのスペクトラムは、ベキ則を基調とするはずであり、もしラインやディップのような特徴が観測されれば、標準的な物理のみを用いた説明は困難となる。また、到来するフレイバー比の情報も、標準的なシナリオからのずれが新物理を示唆する指針となりうる。ソース天体に関わらずに、とにかくパイオンや

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ケイオンの崩壊からニュートリノが作られるとすると、電子型、ミュー型、タウ型ニュートリノの比は、およそ 1:1:1の割合で地球上に到来すると期待され、この比からの著しいずれは、標準模型を超えた物理の存在を示唆する。

IceCubeが、3年間のデータを用いた解析結果を公表した後に、Palomares-Ruiz

らはその結果が示唆するフレイバー比の解析を行い、フレイバー比のベストフィットは 1:0:0であり、1:1:1は、spectral index γ の値が 2.0の場合には 92%CLでdisfavor されると主張した [Phys.Rev.Lett.113(2014)9,091103]。しかしながらこの解析は、30TeV以上のトラックイベントとシャワーイベント足し上げたトータルのカウントをフィットした解析で、エネルギー分布の情報が解析に含まれていなかった。

そこで私は、IceCubeの論文に基づいた同じ情報を使い、エネルギー分布の情報を取り入れたフレイバー比の解析を行った [arXiv:1412.8264]。天体由来のニュートリノフラックスをnαE

−γν (α = e, µ, τ) とモデルし、4つのパラメターne, nµ, nτ , γ

を動かしデータをフィットした。その結果、1:1:1の仮定、すなわち ne = nµ = nτ

の制限を課したモデルは、独立な nαと比べて遜色なく現在のデータをフィットできることが分かった。spectral index γのベストフィットは 2.7であり、典型的な予想 2.0に比べて若干ソフトな値が好まれている。また、固定した γ = 2.0のモデルは、1:1:1も独立な nαの場合もフィットは悪く、現在のデータを説明できないことが分かった。γ = 2.0と γ = 2.7のどちらの場合も、フレイバー比のベストフィットは 1 : 0.1 : 0であり、この点は Palomares-Ruiz らの結果とほぼ一致した。

今後の課題は、解析にGlashow共鳴の効果や、タウニュートリノが引き起こすDouble Bang イベントといった、トラックやシャワーと区別できるイベントトポロジーの情報を解析に取り入れることである。また、より一般的なフレイバー比の解析は、spectral indexとともに、ニュートリノと反ニュートリノの比をフローさせて行わなければならないことも明らかである。これらの課題を解決しつつ、IceCubeコラボレーションが個別に行わないが、しかし興味ある解析を行い、高エネルギーニュートリノと素粒子論の接点を探っていきたい。

• 池田 憲明 (Noriaki Ikeda)

物理理論、特に素粒子論、宇宙論において基本的な理論は場の理論、ゲージ理論である。場の理論にはゲージ理論には現在「くりこみ」「非摂動効果」などの数学的に正当化されない計算法が含まれており、「物理法則を数学的に矛盾なく構成できるか。自然界でなぜその法則が選ばれているか」という大きな 2つの問題がある。この2つの問題へのひとつのアプローチとして、物理理論の数学的に可能な構造の研究を主に「亜代数 (algebroid)」「亜群 (groupoid)」の観点からおこなった。

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ゲージ理論、特に位相的場の理論ではゲージ対称性として Lie 代数、Lie 群の拡張である Lie 亜代数、Lie 亜群が無矛盾なく可能である、ということが筆者らの研究により明らかにされつつある。特に高次元において複雑になる構造を明快に理解し、計算する方法としてシンプレクティック超多様体の理論にもとづいた構成法の有用性を推し進めている。Xiaomeng Xu 氏との共同研究である「Canonical functions, differential graded

symplectic pairs in supergeometry and Alexandrov-Kontsevich-Schwartz-Zaboronsky

(AKSZ) sigma models with boundaries」を今年度学術雑誌に発表した。この論文では、弦理論、M理論等において重要な、境界を持つ場合の高次元の位相的場の理論の構造を詳細に解析し、その数学的構造をシンプレクティック超多様体とそのラグランジアン部分多様体の構造として整理することを提唱した。この構造は場の理論の「bulk-boundary対応」の概念と対応することを発見した。WZW model の拡張、アノマリー条件のBV形式による拡張、弦理論のT双対への応用などの物理的な応用を考察した。現在はこの理論の量子化および、上記の超多様体理論を弦理論のT双対に応用する研究を進めている。研究活動においては、数学、物理の双方の研究会、学会に出席し上記の結果を発表し、さまざまな分野の研究者と意見交換をおこなった。またこちらからも新しい概念の提供をおこなった。また、東北大学のグループと私のアイデアをもとにした新しい共同研究が始まった。これらの交流から新しい見方がもたらされ、発展が期待される。今後、より具体的な物理の問題へのアプローチ、場の理論の基本的な問題への適用、双方の方向性から研究を発展させていく予定である。

• 九後 汰一郎 (Taichiro Kugo)

現在、自然界の基本相互作用を記述する揺るぎない基礎理論として確立している素粒子標準模型は、局所的 SU(3)×SU(2)×U(1)対称性に基づくゲージ理論であるが、その対称性は自発的に破れており、その破れには必ず真空エネルギーが付随している。特に、

1. 電弱対称性 SU(2)×U(1)の自発的破れを起こすHiggs凝縮:O((100 GeV)4

)2. 強い相互作用の SU(3) QCDにおけるカイラル対称性の自発的破れに伴う凝縮:O

((100 MeV)4

)の2種の真空凝縮が存在することは間違いない。そして真空凝縮の真空エネルギーは重力理論の枠内で考えると宇宙項と同じものである。ところが、現実のEinstein

重力は、これらの真空凝縮エネルギーを全く感じていない。逆に、最近のWMAP

等による宇宙背景放射の観測によれば、我々の宇宙には、これらよりも遥かに小

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さな、Higgs凝縮に比して 10−56、カイラル凝縮から見ても 10−44しかない、極めてかすかな宇宙項がある!、というのである。これが場の量子論とEinstein重力理論双方にまたがる最大の未解決問題である。

極めて困難なこの問題にはすぐには答えられないが、これの解決に向けた試みの一つとして考えられている “Massive Gravity”(有質量重力理論)に関連して、昨年度は2011年にde Rham-Gabadadze-Tolley (Phys. Rev. Lett. 106 (2011))によって提唱された重力変数の行列の平方根を含む質量項を持つ新しいmassive gravity

理論 ― dRGT理論 ― を研究し、平坦Minkowskyとは限らない任意の背景時空の上で重力テンソル場の第 6番目の(負計量)モード―いわゆるBoulware-Deser

(BD) ghost ― が現れないことを、近畿大学の太田信義教授(本益川塾学外指導教授)との共同研究で証明し、論文を発表した。今年度はその研究の発展として、dRGT理論を超対称な理論に拡張すること、すなわちMassive Supergravity (質量を持つ超重力理論)を構成するプロジェクトを始めた。超対称でない、元の dRGT理論は、5次元の 5脚場を使って書かれたmassless

の Einstein重力理論から出発して、5次元方向を離散的 2点からなる場合に、4

次元へ自明な次元縮減をして導けることが deRham-Tolleyら自身によって示されている。それでその超対称版も 5次元のmassless supergravity理論から、5次元方向を離散的にして次元縮減を行えば簡単に導けると思われたが、実は問題はそんなに簡単ではなかった。それは、5次元方向を離散化すると途端に超対称性が壊れること、さらに、次元縮減の際に decoupleさせるべき多重項の同定が難しいこと、などの理由でうまくいかない。現在の所、5次元を S1にとって次元縮減して、Kaluza-Kleinの n = ±1モードの、5次元方向パリティ変換の偶モードのみを取り出すという方法で、線形化されたレベルのMassive Supergravity作用と超対称変換則が得られた、という段階である。この結果は、中国やインドでの国際会議、日大理工・益川塾連携シンポジウムなどで報告した。Massive Supergravityとは別に、この宇宙項問題に関して、いくつかの基本的・初等的考察を行い、その報告を「数理科学」の特集号に寄稿し、また、阪大のワークショップで発表した。その内容の概略をここに記す。

1. Einstein重力理論の一意性: Planckエネルギーより低い領域での有効理論としては、Einstein重力理論が一意的であることが証明されている。

2. 問題の深刻さ: WMAP の観測した宇宙項を Λ0 と記せば、Higgs 凝縮が1056Λ0、カイラル凝縮がカイラル凝縮が 1044Λ0、である。もしこれらが、あらかじめ用意されていた宇宙定数 cで相殺しているとすると、その場合、c+ 1056Λ0 + 1044Λ0 + Λ0 が宇宙全体の真空エネルギーである。宇宙定数 c

は、先ずHiggs凝縮エネルギー 1056Λ0をほぼ完璧に相殺し、かつ、12桁下のQCDでのカイラル凝縮エネルギー 1044Λ0を相殺するためのエネルギーを残しておかねばならない。しかも、12桁下がって幽かに残っている相殺項で次のカイラル凝縮エネルギーを、また完璧に相殺してはダメで、ここ

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でも現在の宇宙項の観測値 Λ0は残して置かねばならないのでさらに 10−44

の精度での相殺である。こういう相殺項があるとはとても信じられない。

3. 対称性の自発的破れに伴う凝縮エネルギーと場の真空エネルギー: カイラル凝縮の際のクォーク-反クォーク対の凝縮エネルギーは、実はクォーク場の(フェルミオンの負エネルギーレベルが詰まったことによる)真空エネルギーとほぼ同じであることが示せる。しかもこの凝縮の場合は、(たとえば東島-Miranski近似の Schwinger-Dyson方程式アプローチで示せるように)対クォークの相対運動量について自然なカットがあり、有限に計算できる真空エネルギーである。

4. 量子重力は無関係: Planckエネルギーより高い領域で重力を記述する量子重力理論が何であるのかは、Planckエネルギーより遥かに低い領域でのHiggs

やカイラル凝縮の真空エネルギーを議論する際には、関係がない。一意的なEinstein重力理論で(必要であれば、その理論での量子効果も計算して)これらの宇宙項問題を考えれば良い。

5. あるべき解の形: Strong CP 問題が、Peccei-Quinn機構で axionの自由度で自動的に消されたように、宇宙項も同様なダイナミカルな相殺機構が必要だ。axionがCPの破れ項全体の位相 θ +Argmを感じて相殺していたように、宇宙項の全体を感じている重力場と超対称パートナーのGravitinoを含む超重力理論自体にその機構が隠されているのではないか?

• 原 哲也 (Tetsuya Hara)

宇宙が加速膨張していると観測されてからもう既に十数年近く経とうとしているが、その原因とされているDark Energy(DE)は、未だ良く理解されていない。Einstein が導入した宇宙定数であるのかどうかさえも良くわかっていない。それ故DEの状態方程式が時間と共に変化しているかどうかを観測で検出することが非常に重要となっており、それに向けて多くの仕事がなされている。理論としては、Quintessence Modelの枠組みで、ゆっくりポテンシャルを転がるスカラー場でDEを代表させ、その状態方程式の時間変化が研究されている。通常、状態方程式の時間変化は次のようなパラメーターで表されている。w(a) = w0+wa(1−a). w0

は現在の状態方程式、waはスケール因子 aによる微分である(wa = −dwQ/da)。

現在かなりw0は観測的に分かってきているが、waはまだ観測的にもよく分かっていない状態である。そのような状況ではあるが、状態方程式の時間変化のパラメーター空間を2階や 3階の微分 (wa2 = d2wQ/da

2, wa3 = −d3w/da3)を含む次のように広げることを考察した。

w(a) = w0 + wa(1− a) +1

2wa2(1− a)2 +

1

3!wa3(1− a)3.

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1階微分の量でさえ観測が困難とされている現在、2階、3階微分の量が観測されることは非常に困難と推測される。しかしながら、DEの性質を知る上ではこのような時間変化の高次の項は非常に重要な手がかりと考えられる。

単一のスカラー場に対して、多くのポテンシャルが、素粒子理論から提案されているが、ここでは Steinhardt et al. (1999)等が調べた典型的な逆冪型(V =

M4+αQ−α)と逆指数型 (V = M4 exp(βM/Q))のポテンシャルや、その混合型(V = M4+γ exp (βM/Q)/Qγ)、それ以外に PNGB型 (V = M4(cos(Q/f) + 1)))

やガウシアン型 (V = M4 exp(−Q2/σ2))等を考察する。

この研究の目的は、Quintessence の枠内でポテンシャルを仮定して、DEを研究することである。そして、その振る舞いを記述するパラメーターを増やすことによりDEの性質をより深く探索しようとしている。Qの振る舞いを記述する方程式が2階微分方程式であるので、Qと Qとポテンシャルが分かればその後、もしくはそれ以前が分かる。そして、今までの予測では、ポテンシャルを記述するのに必要なパラメーターが n個であれば、それらとQと Qを推定する n+2個の観測量があれば、パラメーターが定まり、それよりDEの振る舞いが分かると言う事になると思われる。この観測量を用いてパラメータを決定する手法を、上記の具体的なポテンシャルに適用し、そして今後は他のDEモデルにも適用する予定である。

• 外山 政文 (Masafumi Toyama)

  1. Source項及び時間に依存したポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式を高精度・高効率で解くアルゴリズムの開発を行った [1]。本アルゴリズムの特徴は、source項の時間積分に対してEuler-MacLaurin展開を導入し、シュレーディンガー方程式の時間発展演算の精度を大きく改善しているところにある。本研究では、開発したアルゴリズムの精度及び効率について2種類のプロセッサー上で数値実験を行い、アルゴリズムの有用性を示した。通常のシュレーディンガー方程式においても、ユニタリー時間発展演算子に基づいた陰的解法の一種である標準的なアルゴリズムが従来から知られているが、それには時間発展において波動関数のノルムは十分保存されるが、波動関数の位相(虚部/実部)が正確に得られないという欠点があることが分かっている。この欠点を解消するため、空間積分の改良に加えて、時間発展演算に対して Pade近似を導入し、時間発展演算の精度を大きく改善した高効率・高精度のシュレーディンガー方程式の数値解法アルゴリズムを 2007年に発表した [2]。これは、(∆x)2r−1、(∆t)2M(r, M:任意の正の整数)という空間及び時間精度を持ち、通常の Crank-Nicolson法の任意精度アルゴリズムへの一般化になっている。本研究で今回開発したアルゴリズムは、それをさらに source項及び時間に依存したポテンシャルを持つシュレーディンガー方程式に対して発展させたものである。

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  2. 今話題になっている「量子チェシャ猫」の問題について調べた。2013年に

アハラノフ等は光子のマッハ-ツェンダー干渉計を用いた思考実験により、「量子チェシャ猫」[3]というパラドキシカルな問題を提起した。2014年には光子ではなく物質粒子である中性子による検証実験が行われ、肯定的な実験結果が出された [4]。それ以来、この問題に対して肯定的見解や否定的見解が錯綜した形で様々な議論が展開されて来たが、依然としてこの問題についての一致した見解が得られていないという状況にあると考える。この問題の根源は、アハラノフにより提唱されて来た「弱値」と言う量が持つ奇妙な性質に在り、この「量子チェシャ猫」という問題は、従って「弱値・弱測定で実在が問えるか」という根本的問題に帰着するとも言える。本研究では、この中性子による実験検証論文について詳細な分析を行い、弱値・弱測定が「量子チェシャ猫」状態の実在性を語っていると言えるかどうかを調べた。具体的には、中性子の経路に余分な磁場をかけ干渉計全体の状態を崩すことにより、中性子の経路やスピンの全ての成分の弱値が意味のある振る舞いを示すかどうかを詳しく調べた。そして、磁場がゼロの極限での中性子の経路やスピンの弱値が持つ意味を理解するのに有益な幾つかの事実を明らかにした。この問題は次年度に向けて更に研究を継続していく。

[1] W. van Dijk and F.M. Toyama, Phys. Rev. E 90, 063309 (2014).

[2] W. van Dijk and F.M. Toyama, Phys. Rev. E 75, 036707 (2007).

[3] Y. Aharonov, et al., Quantum Cheshire Cats. New J. Phys. 15, 113015

(2013).

[4] T. Denkmayr, et al., Nature Communications, DOI: 10.1038/ncomms5492,

(2014).

• 植松 恒夫 (Tsuneo Uematsu)

標準模型において自発的対称性の破れで素粒子に質量を与えるメカニズムに登場するヒッグス粒子は 2012年 7月にCERNの陽子・陽子衝突型加速器 LHCで、質量が 125GeV付近に見つかりその後の解析でスピン・パリティが 0+であることや、結合定数が標準模型と矛盾しないことが確認された。LHCの実験で観測されているヒッグス粒子の 2個の光子への崩壊モードに着目すると、その逆の過程として、2光子が衝突・融合することでヒッグス粒子を生成することが考えられる。2光子の衝突を実験で実現する過程としては、電子・陽電子や電子・光子の衝突での 2光子融合反応が考えられる。

そもそも、電子・陽電子衝突ではハドロン・コライダーのような始状態でパートン分布による不定性が伴わないため、よりクリーンなヒッグス粒子生成が可能である。e+e−衝突では treeレベルで e++ e− → Z∗ → Z+H がゴールデン・チャンネルと呼ばれる生成プロセスであるが、それに加えて、2光子融合過程を通し

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てのヒッグス粒子生成 (γγ → H) に興味が持たれる。具体的には、e+e− 衝突実験で、片方の電子 (陽電子) に大きい運動量の遷移 (仮想光子の質量の 2乗Q2が大)を与え、single taggingするプロセスがあり、これについては、昨年度Physics

Letters Bに論文を発表し、イギリスやロシアでの国際会議で結果を報告した。

すなわち、上記の過程は仮想光子 γ∗と on-shellに近い光子 γとの衝突過程と見なすことができ、トップ・クォークやWボソンが回る三角ループのグラフが散乱振幅に寄与する。他のオプションとして、e−e− 、e−γ、γγなどのコライダーが考えられる。特に、重要な過程として、高強度の光子ビームが電子とレーザー光線を衝突させたときの逆コンプトン効果で得られる。この光子 γと電子 e−が衝突する過程でのヒッグス粒子の生成を、(1)仮想光子-実光子融合過程(γ∗γ-fusion)、(2)Zボソン-実光子融合過程(Z∗γ-fusion)、(3)Wボソン-νe1ループ過程(Wνe-

one-loop process)での散乱振幅およびそれを構成する遷移形状因子を求め、さらに eγ → eHの微分断面積を解析した。その結果は、Phys. Rev. Dに発表した。

上記の研究成果については、2014年 11月に台湾の中央研究院に招かれた際に物理研究所のセミナーで講演を行った。さらに、これまで、長年研究を続けている光子構造関数の摂動QCDに基づくNNLO(Next-to-next-leading order)での高次効果の結果と今後の課題について、同研究所で開催された “Mini-Workshop on

QCD”で講演した。今後取り組むべき課題としては、偏極光子構造関数のNNLO

オーダーでの解析、またx = 1付近での光子構造関数の対数的振る舞いの再足し上げなどが挙げられる。また、このWorkshopを企画した、同研究所のHsiang-nan

Li教授およびポスドクの北殿義雄氏との議論は大変有益であった。

• 高杉 英一 (Eiichi Takasugi)

クォークとレプトン両系におけるCPの破れの位相を予言できる模型の構築を、昨年度に引き続き行い、2つの模型について考察を行った。(1)クォークとレプトンの混合が一つの複素位相で記述される階層的な質量項をもった模型昨年度に引き続きU(1)×Z2の対称性(拡張Frogatt-Nielsen(FN)型)に基づき導出されたクォークとレプトンの質量項の解析を行った。この模型では、2つのU(1)場(FN場)があり、それらの場の真空期待値の相対位相がCPを破る位相となる(結合定数はすべて実と仮定)。U(1)チャージはSU(5)の分類に従い、Z2パリティーに関しては、クォーク系とレプトンでは異なったものを与えた模型である。昨年度の解析では、混合に関してはうまく再現できるが、クォークとレプトンの質量に関しては、第 1世代は大きな値を予言した。これを解決するために、湯川結合の大きさをシステマティックに変えることで、混合と質量ともに実験とよくあう結果を得た。1つの位相でクォークとレプトンの CPを破る位相が導出できることから、予言されたレプトン混合でのディラック角は信ぴょう性が高いと期待している。(2)CPを破る位相を予言するレプトンの質量項の構築

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私どもが 2000年に行った仕事を再度解析した。この仕事では、ある対称性に基づきニュートリノの質量項を導いた(ただし、荷電レプトンの質量項は対角的と仮定)。この質量行列を対角化する行列(ニュートリノ混合行列)はTri-maximal

mixingを実直行行列で変換したものあり、直接の結果として |V2i| = |V3i| を得、その結果 θ23 = π/4で δCP = ±π/2を予言した。この事実(µ − τ 対称性)は、2003年になってGrimusや他の人たちに指摘された。また、実験とあう混合を実現するために、どのような対称行列で回転させればよいかを議論し、その過程で現在 Tri-Bimaximal(TB)と呼べれている混合(Harrison-Perkins-Scottが 2002

に指摘)を見つけた。現実の混合はTB混合をわずかに変形させたものであるので、実験値にあう混合を簡単に導出できることをしめした。これまでは、2000年の仕事であるが、さらに進めて荷電レプトンの質量項の構成、また具体的にどのような回転をすれば δ = π/2または−π/2が得られるかを考察した。また、実験で θ23 = π/4が否定された場合には、どのように模型を修正すればよいか、その際予言されるディラック位相がどのように δCP = ±π/2から変更されるかについて検討を行った。

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2.2 活動報告会の実施

自然科学系では、平成 27年 3月 2日に本年度の活動報告会を各人 30分の研究会形式で行い、活発な意見交換や議論がなされた。発表者と発表題目のリストは以下のとおりである。

1. 九後 汰一郎,

“宇宙項問題をめぐって”

2. 高杉 英一,

“CPの破れを予言する質量行列”

3. 植松 恒夫,

“Higgs Production in e-γ collision and Transition Form Factor”

4. 原 哲也,

“Time variation of the equation of state for dark energy”

5. 柴 正太郎,

“場の理論に基づくブレーンのダイナミクスの研究”

6. 渡邊 篤史,

“A flavored model of astrophysical neutrinos in IceCube”

7. 杉山 弘晃,

“今年度の研究および社会貢献活動”

8. 池田 憲明,

“2014年度活動報告”

9. 外山 政文,

“Grover型の量子探索アルゴリズムの幾つかの側面 ー多重位相整合 対 単一位相整合 ー”, “弱値・弱測定で実在を語れるか? ー中性子干渉計における量子チェシャ猫ー”

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2.3 原著論文等

• Misc-2014-No.

1. Covariant Approach to the No-ghost Theorem in Massive Gravity,

Taichiro Kugo and Nobuyoshi Ohta,

PTEP 2014 (2014) 4, 043B04 (arXiv:1401.3873 [hep-th]).

2. Effects on sin θ12 from perturbation of the neutrino mixing matrix

with the partially degenerated neutrino masses,

Takeshi Araki and Eiichi Takasugi,

PTEP 2014(2014) 5,053B05 (arXiv:1402.7188[hep-ph]).

3. Higgs boson production in e and real γ collisions,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, Ken Sasaki and T. Uematsu,

Phys.Rev. D90 (2014) 033015 (arXiv:1403.4703 [hep-ph]).

4. Neutrino mass and dark matter from gauged U(1)B−L breaking,

S. Kanemura, T. Matsui and H. Sugiyama,

Phys. Rev. D 90 (2014) 1, 013001.

5. Discrimination of Models Including Doubly Charged Scalar Bosons

by Using Tau Lepton Decay Distributions,

Hiroaki Sugiyama,

arXiv:1406.0240 [hep-ph].

6. Microstates of D1-D5(-P) black holes as interacting D-branes,

T. Morita and S. Shiba,

arXiv:1410.8319 [hep-th].

7. Moduli dynamics as a predictive tool for thermal maximally su-

persymmetric Yang-Mills at large N ,

T. Morita, S. Shiba, T. Wiseman and B. Withers,

arXiv:1412.3939 [hep-th].

8. A flavored model of astrophysical neutrinos in IceCube,

Atsushi Watanabe,

(arxiv:1412.8264 [astro-ph.HE]).

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• その他

1. Canonical functions, differential graded symplectic pairs in super-

geometry and Alexandrov-Kontsevich-Schwartz-Zaboronsky (AKSZ)

sigma models with boundaries,

Noriaki Ikeda and Xiaomeng Xu,

Journal of Mathematical Physics 55 (2014) 113505, arXiv:1301.4805.

2. Time variation of Equation of State for Dark Energy,

T. Hara, R. Sakata, Y. Muromachi, and Y. Itoh,

Prog. Theor. Exp. Phys. (2014), 113E01,

arXiv:1409.2726 [astro-ph].

3. Analytic time-dependent solutions of the one-dimensional

Schrodinger equation,

W. van Dijk, F.M. Toyama, S.J. Prins and K. Spyksma,

Am. J. of Phys. 82, 955 (2014).

4. Numerical method for the solution of the Schrodinger equation

with source terms or time-dependent potential,

W. van Dijk and F.M. Toyama,

Phys. Rev. E 90, 063309 (2014).

5. Higgs production in two-photon process and transition form fac-

tor,

Norihisa Watanabe, Yoshimasa Kurihara, T. Uematsu and Ken Sasaki,

Proc. of the XXI International Workshop High Energy Physics and Quan-

tum Field Theory, June 23rd–30th, 2013, Saint Petersburg Area, Russia.

PoS (QFTHEP 2013) 040.

2.4 国際会議・セミナー等での講演

《国際会議・国内研究会における招待講演》

1. 渡邊 篤史, “Dark matter and U(1)’ symmetry for the right-handed neutri-

nos”, 新潟における素粒子論研究とその展開 2010-2014、新潟大学駅南キャンパスときめいと、2014年 4月 19日.

2. Atsushi Watanabe, “U(1)’ for neutrino mass, dark matter, stability of the

electroweak scale”, FLASY2014, Jun. 17, 2014, Brighton, UK.

3. 渡邊 篤史, “Geometry-free neutrino masses in curved spacetime”, 第三回次世代の加速器ニュートリノ実験ワークショップ、京都大学、2014年 6月22日.

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4. T. Kugo, “Massive (Super)gravity”, Hangzhou Workshop on Gravitation

and Cosmology, Hangzhou, Huagang HNA Resort, Sept. 3–6, 2014, China.

5. T. Kugo, “Massive Gravity and Supergravity”, 3rd International Confer-

ence “New Trends in Field Theories”, Banaras Hindu University, Nov. 1–5,

2014, Varanasi, India.

6. Tsuneo, Uematsu, “QCD and Photon Structure -NNLO Effects and Re-

maining Isuues-” Mini-workshop on QCD, Institute of Physics, Academia

Sinica, Taipei, Taiwan (於:中央研究院 物理研究所 台北 台湾)2014年 11

月 24-25日.

7. 池田 憲明, “groupoid gauge theory の moment map と量子化”、量子化の幾何学 2014、早稲田大学、2014年 12月 20日.

8. 杉山 弘晃, “Radiative Neutrino Mass Models”, The 12th meeting of new

Higgs working group, 新ヒッグス勉強会第 12回定例会, 富山大学, 2015年1月 11日.

9. Hiroaki Sugiyama, “Radiative Neutrino Mass Models”, The 2nd Toyama In-

ternational Workshop on ”Higgs as a Probe of New Physice 2015” (HPNP2015),

Feb. 12, 2015 Univ. of Toyama, Japan.

10. Noriaki Ikeda, “Supergeometry of Topological Sigma Models, Higher Struc-

tures and Physical Applications,” Workshop on Strings, Membranes and

Topological Field Theory, Mar. 3–5, 2015, Tohoku University.

《国際会議における発表》

1. Shotaro Shiba, “Analysis of black branes in field theory via p-soup model”,

YITP Workshop ”Strings and Fields”, Jul. 26, 2014, Yukawa Institute for

Theoretical Physics, Japan.

2. Hiroaki Sugiyama, “Neutrino Mass and Dark Matter from Gauged U(1)B−L

Breaking”, Summer Institute 2014 –Phenomenology of Elementary Particles

and Cosmology–, Aug. 25, 2014, Fuji-Yoshida, Japan.

3. Atsushi Watanabe, “Ultra-High Energy Neutrinos and the Glashow reso-

nance”, Summer Institute 2014 –Phenomenology of Elementary Particles

and Cosmology–, Aug. 27, 2014, Fuji-Yoshida, Japan.

4. Hiroaki Sugiyama, “The zero Higgs doublet model”, The 11th meeting of

new Higgs working group, Oct. 19, 2014, Univ. of Toyama, Japan.

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5. Hiroaki Sugiyama, “Zero Higgs Doublet Model”, KEK Theory Meeting on

Particle Physics Phenomenology (KEK-PH2014), Oct. 21, 2014, Tsukuba,

Japan.

6. Shotaro Shiba, “Microstates of D1-D5(-P) black holes as interacting D-

branes”, KEK Theory Workshop 2015, Jan. 29, 2015, KEK Theory Center,

Japan.

《国内研究会における発表》

1. 杉山 弘晃, “Dependence of the leptonic decays of H± on the neutrino mix-

ing angles θ13 and θ23 in models with neutrinophilic charged scalars”, 第三回 次世代の加速器ニュートリノ実験ワークショップ, 京都大学, 2014年 6月22日

2. 池田 憲明, “BV-BFV and AKSZ Formalisms of Current Algebras”, Yukawa

Institute Workshop, Strings and Fields, 京都大学基礎物理学研究所、2014

年 7月 25日

3. 渡邊 篤史, “Dark matter and U(1)’ symmetry for the right-handed neutri-

nos” (ポスター),素粒子物理学の進展 2014、京都大学基礎物理学研究所、2014年 7月 31日.

4. 九後 太一, “Massive Gravity and Massive Supergravity”, 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム、京都産業大学、むすびわざ館、2014年 11

月 8日-9日

5. 池田 憲明, “場の理論、弦理論に現れる Lie亜群”, 日大理工・益川塾連携素粒子物理学シンポジウム、京都産業大学、むすびわざ館、2014年 11月 8

日-9日

6. 九後 太一, “宇宙項問題をめぐって”, 研究会「素粒子論の展望:80年代、90

年代から未来へ」、大阪大学豊中キャンパス、物理学専攻H棟H701講義室、2015年 2月 14日

《他大学・他の研究機関におけるセミナー講演》

1. 柴 正太郎, “A new look at instantons and large-N limit”,

日本大学, 2014年 4月 16日.

2. 渡邊 篤史, “暗黒物質と右巻きニュートリノに対するU(1)’対称性”,

日本大学素粒子論研究室, 2014年 5月 14日.

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3. 渡邊 篤史, “Dark matter and U(1)’ symmetry for the right-handed neutri-

nos”, 九州大学素粒子論研究室, 2014年 5月 16日.

4. 渡邊 篤史, “暗黒物質と右巻きニュートリノに対するU(1)’対称性”,

埼玉大学素粒子論研究室, 2014年 5月 23日.

5. 九後 太一, “Stuckelberg-BRST Approach to the No-Ghost Theorem in Mas-

sive Gravity”, 東京工業大学・素粒子論研究室、2014年 05月 28日.

6. 杉山 弘晃, “Phenomenology in the Higgs triplet model”,

京都大学, 2014年 6月 11日.

7. 池田 憲明, 集中講義: “Introduction to Topological Field Theory and Su-

pergeometric Construction”, 東北大学理学部, 2014年 9月 23日-25日.

8. 池田 憲明, “Lie Groupoids in Quantum Field Theories and String Theo-

ries”, 東北大学理学部, 2014年 9月 25日.

9. 九後 太一, 集中講義:「ゲージ場の量子論」,

奈良女子大学・理学部、2014年 11月 19日–21日

10. 柴 正太郎, 「弦理論から現実の物理へ」,

工学院大学,2014年 11月 20日.

11. 九後 太一, “Massive Gravity and Supergravity”,

奈良女子大学・素粒子論研究室、2014年 11月 21日.

12. Tsuneo Uematsu, “Transition Form Factor for Higgs Production in Two-

Photon Process” Institute of Physics, Academia Sinica, Taipei, Taiwan,

(於:中央研究院 物理研究所 台北 台湾)2014年 11月 21日.

13. 九後 太一, “Massive Gravity and Supergravity”,

東京大学・駒場素粒子論研究室、2014年 12月 10日.

14. 柴 正太郎, “Analysis of black branes in field theory via p-soup model”,

京都大学, 2014年 12月 10日.

15. 高杉英一, 「ニュートリノレスββ崩壊入門」,

富山大学, 2015年 1月 22日.

16. 九後 太一, “Massive Gravity and Supergravity”,

名古屋大学 E研、H研、QG研究室、2015年 2月 3日.

17. 柴 正太郎, “Analysis of black branes in field theory via p-soup model”,

近畿大学, 2015年 2月 12日.

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《学会一般講演》

1. 兼村晋哉, 松井俊憲, 杉山弘晃, 「B − Lゲージ対称性の自発的破れによるニュートリノ質量生成と暗黒物質の模型」, 日本物理学会 2014年秋季大会,

佐賀大学, 2014年 9月 18日.

2. Shotaro Shiba, Takeshi Morita, Toby Wiseman and Benjamin Withers,

“Analysis of black branes in field theory via p-soup model”, 日本物理学会 2014年秋季大会,佐賀大学, 2014年 9月 18日.

3. Manfred Lindner, Daniel Schmidt, 渡邊 篤史, “暗黒物質とニュートリノ –

U(1)′対称性を軸とした標準模型の拡張について” 日本物理学会 2014年秋季大会, 佐賀大学, 2014年 9月 18日.

4. 池田 憲明、“AKSZシグマ模型の境界条件と BV形式の一般化”, 日本物理学会 2014年秋季大会, 佐賀大学, 2014年 9月 19日.

5. 杉山弘晃, 津村浩二, 「A model without Higgs doublets」, 日本物理学会2014年秋季大会, 佐賀大学, 2014年 9月 21日.

6. Shotaro Shiba, Takeshi Morita, Toby Wiseman and Benjamin Withers,

“Moduli as a predictive tool for thermal strongly coupled large-N maxi-

mally supersymmetric gauge theory”, 日本物理学会第 70回年次大会, 早稲田大学, 2015年 3月 22日.

2.5 外部資金等の獲得

1. 科学研究費基盤研究(B)「標準模型を越えて統一理論へ」(H24年度∼H26年度、課題番号24340049)、研究代表者 九後 太一、H25年度経費 4,574,833

2.6 その他の業績

• 九後 汰一郎, 「素粒子論からみた重力」数理科学  2014年 9月号 No.615, 特集:「重力の謎と魅力」

• Takeshi Morita and Shotaro Shiba, ”Thermodynamics of black M-branes

from SCFTs,” 第 9回素粒子メダル奨励賞, 2014年 11月 18日.

• 杉山弘晃,

「素粒子の質量、宇宙の質量」,

 神山天文台天文学講座, 京都産業大学, 2014年 5月 17日.

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• 杉山弘晃,

「小林・益川理論って何だっけ?」,

 益川塾サイエンスカフェ, 京都産業大学, 2014年 7月 26日.

• 渡邊篤史,

「不思議な粒子『ニュートリノ』」,

 益川塾サイエンスカフェ, 京都産業大学, 2014年 10月 11日.

• Yusuke Shimizu, Morimitsu Tanimoto, Atsushi Watanabe,

“Breaking Tri-bimaximal Mixing and Large θ13”,Progress of Theoretical Physics 126: 81-90, (2011).

日本物理学会第 20回論文賞, 2015年 3月 23日.

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3 セミナー・集中講義

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益川塾セミナー・集中講義• 平成26年5月21日講演者: 中山 和則 (東大)

タイトル: Chaotic inflation after BICEP2

講演内容:最近BICEP2実験が宇宙背景放射のBモードの発見を報告した。これが真実なら、インフレーションのエネルギースケールが決定されたことになり、中でも Chaotic inflationと呼ばれるシンプルな模型が観測結果をよく説明する。本講演では、Chaotic inflationを引き起こすいくつかの模型や、超対称性理論への制限など、現象論的な観点からBICEP2の示唆を議論された。

中山氏によるセミナーの様子

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• 平成26年6月4日講演者: 横谷 洋 (富山大)

タイトル: Naive-T-odd asymmetry in W+jet events at the LHC

講演内容:Wボソン生成過程において、 Wボソンの崩壊に現れるレプトンの角分布を見ることで生成機構を詳細に調べることが出来る。特に、レプトン角分布の中にパリティ奇の特徴を持つ成分があり、この成分は散乱振幅の吸収項から生ずることが知られている。本講演では、QCDの one-loopレベルの摂動計算を用いてこの効果を解析し、LHC実験におけるW+jetイベントにおいて大きなアシンメトリーが期待できること、現在の観測データを用いて実証可能であること等を議論していただいた。

横谷氏によるセミナーの様子

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• 平成26年6月26日講演者: 渡辺 悠樹  (U. of California, Berkeley)

タイトル: ローレンツ対称性がない場合のEnglert-Brout-Higgs機構

講演内容:自発的対称性の破れやそれに伴って現れる南部・ゴールドストーンボソン、さらにはゲージ対称性の場合のEnglert-Brout-Higgs機構などは、いずれも長い研究の歴史があり良く理解されてきた。しかしひとたびローレンツ対称性という強い縛りを外してしまうと途端に一般的にどのようなことが起こるのかが自明ではなくなってしまう。本講演では、ローレンツ対称性を仮定しない場合の南部・ゴールドストーンボソンの数や分散関係についてのレビューの後、 Englert-

Brout-Higgs機構について詳しく議論していただいた。特に非可換な対称性の保存電荷に関わる微妙な問題や、自発的な空間回転対称性の破れが弱結合領域では避けられない事などが議論された。

渡辺氏によるセミナーの様子

28

• 平成26年7月2日講演者: 永田 夏海  (Kavli IPMU)

タイトル: 非加速器精密測定実験による高スケール超対称性の探索

講演内容:LHCにおける超対称粒子直接探索の結果、および 126 GeVのヒッグス質量は、超対称性のスケールが電弱スケールと比べて高いという可能性を示唆している。この場合、LHC等の加速器実験で模型を探索することが非常に難しくなる。一方で、非加速器精密測定実験は、加速器実験で到達しうるよりも遥かに高いスケールまで感度を持ちうることが知られている。これらの実験を用いて模型を調べるためには、高精度の実験が必要なだけでなく、理論側でも精密な計算が求められる。本講演では、精密測定実験を用いて高スケール超対称性を探ることを主題として、最近改善された理論計算のいくつかを紹介していただき、将来実験への展望も議論していただいた。

永田氏によるセミナーの様子

29

• 平成26年8月6日講演者: 前川 展祐  (名古屋大)

タイトル: E6 Grand Unified Theory and Family Symmetry with

Spontaneous CP Violation

講演内容:大統一理論は、3つの力を統一するだけではなく、物質をも統一するという理論的な魅力を持っている。また、それぞれの統一に対して実験的なサポートも存在しているので、素粒子の標準模型を超える理論として最も有望な理論と言える。E6大統一理論の重要な特徴の 1つは、SU(5)大統一理論においては仮定に過ぎなかった「10場に関係する湯川行列は 5場のものよりも大きな質量階層性を持つ」という、観測的に望ましい状況が自然に導出されることである。本講演では、その結果として、たった 1つの質量行列の階層性から、標準模型における様々な質量行列の階層性を実現でき、「そのたった 1つの質量行列の階層性を世代対称性の自発的な破れによって実現することで、3世代のクォーク、レプトンを1つが 2つの場に統一しつつ、現実的なクォーク、レプトンの質量や混合角を実現する」、という理論について解説していただいた。その理論では、この世代対称性により、超対称性CPおよびフレーバー問題を解決でき、更に世代対称性を破るヒッグス場の真空期待値に消去できない位相があると、自発的にCP対称性を破る理論になる。つまり、小林・益川位相の起源が説明できる。最後に、LHC

でヒッグス質量が決定された影響についてもコメントしていただいた。

前川氏によるセミナーの様子

30

• 平成26年9月22日講演者: 藤間 崇  (Durham U.)

タイトル: スカラー暗黒物質の対消滅から生じるガンマ線

講演内容:宇宙に暗黒物質が存在することはほぼ明らかであるが、その性質は未だによく分かっていない。暗黒物質の性質を調べるための一つのアプローチとして、暗黒物質の対消滅により生成される粒子を観測することが挙げられる。特に生成粒子が鋭いエネルギースペクトルを示すガンマ線であれば、暗黒物質の性質を決める重要な情報となりうる。本講演では、新粒子としてベクトル的フェルミオンとスカラー粒子を導入した模型の中で、スカラー粒子を暗黒物質としたときに対消滅により放出されるガンマ線の特徴について解説していただいた。この模型では暗黒物質の二体対消滅が強く抑制される。その結果、三体の対消滅過程から生じるガンマ線が重要となり、既存の模型よりも強いガンマ線スペクトルが期待される。

藤間氏によるセミナーの様子

31

• 平成26年10月7日講演者: 溝口 俊弥  (KEK)

タイトル: E7に基づく九後・柳田世代統一模型のF理論による実現について

講演内容:世代統一 (family unification)とは、現実に観測されているすべてのクォークとレプトンを、ある単純群をターゲット空間とする超対称非線形シグマモデルの南部・ゴールドストーンボゾンの超パートナーと同一視する考え方である。特に、ターゲット空間を E7/((SU(5)xSU(3)xU(1))に選ぶと(九後・柳田模型)、ちょうど 3つの SU(5)の 10+5+1(に加えて 1つの 5)表現の多重項が得られ、現実に観測されているような「非平行」な三世代を実現する非常に魅力的なものとなる。ところが、このような模型を超弦理論によって実現することは今までなされておらず、またゲージ場と結合した際のアノマリーも問題であった。本講演では、この九後・柳田模型は、F理論と呼ばれる超弦理論の枠組みにおいて自然に実現されることが示された。さらにアノマリーの存在は、F理論への埋め込みにおいて全フラックスが 0でないことの反映であり、モノドロミーが自明になるよう付加的に 7-ブレーンを考えることにより (stable degeneration)、アノマリーは自然に相殺されることを議論していただいた。

溝口氏によるセミナーの様子

32

• 平成26年11月17日講演者: 花田 政範  (京大 基研)

タイトル: 超対称ゲージ理論の数値シミュレーションとゲージ重力対応

講演内容:マルダセナの予想したゲージ重力対応が正しければ、超対称ゲージ理論を用いて超弦理論を(少なくともある特定の時空の周りでは)非摂動的に定義する事が出来る。また、格子QCDを用いてハドロンの物理を第一原理から記述できるのと同様にして、超対称ゲージ理論のコンピューターシミュレーションによって量子重力を第一原理に基づいて調べる事も出来るはずである。超対称ゲージ理論のシミュレーション手法(超対称ゲージ理論の格子正則化など)はここ 10

年ほどで飛躍的に進展し、超弦理論と関連する様々な理論が実際にシミュレーションできるようになっている。本講演では、超対称ゲージ理論のシミュレーション手法を非専門家向けに簡単に解説して頂いた後、マルダセナ予想がゲージ理論の1/N補正と超弦理論の量子補正を含んだレベルで正しい事を示唆する最新のシミュレーション結果について説明していただいた。

花田氏によるセミナーの様子

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• 平成26年12月8日講演者: Antonio De Felice  (京大 基研)

タイトル: Massive (bi)gravity, and modified gravity models

講演内容:同氏が最近研究を進めている、massive gravityと massive bigravityのコンテクストにおける修正重力理論についてレビューしていただいた。「質量を持った重力子を、物理的に意味のある理論としてどのように定式化できるか?」という問題は、古くから研究されている難問である。その定式化についての様々な可能性を、非専門家にも分かりやすく解説していただいた。

De Felice 氏によるセミナーの様子

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• 平成27年1月26日講演者: 渡利 泰山  (Kavli IPMU)

タイトル: 超弦理論のコンパクト化でのフレーバー構造について

講演内容:超弦理論をある種の多様体にコンパクト化することによって、素粒子の標準模型に現れているフレーバー構造を再現しようという試みは、超弦理論が提唱されて間もない頃から続けられている。しかしながら、超弦理論には解がたくさんありすぎるため、その中でなぜ標準模型の設定が選ばれているのか、説得力のある議論は構築できていない。このセミナーでは、超弦理論の非摂動的な定式化の一つである F理論に注目し、F理論に登場する 7ブレーンが構造を作る系を考えた。そして、Calabi-Yau 4-fold

にコンパクト化することで 4次元時空を作り、標準模型のフレーバー構造との対応が議論された。特に、素粒子の質量を決める湯川行列の性質や、右巻きニュートリノの性質がどのように再現し得るか、詳しい説明がなされた。また、F理論が持つ真空解を統計的に眺める議論についても紹介された。

渡利氏によるセミナーの様子

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• 平成27年2月2日講演者: 三嶋 剛  (東大)

タイトル: 電子 g-2に対する非摂動QEDの寄与

講演内容:電子 g-2に対するQEDの寄与の計算では、相互作用を摂動的に取り入れる計算手法が成功していると言える。現在では相互作用の 10次つまり5ループまでの計算が完成しており、この寄与を含めた標準モデル予言値は電子 g-2の測定値とよく合致している。本講演では、これまで考えられてきた寄与に加えて、非摂動的QEDによる寄与が存在することが議論された。非摂動的QEDによる寄与は、内線の電子・陽電子対の束縛状態による寄与とクーロン散乱による寄与の2つである。これらの寄与の大きさは 結果的には現在の電子 g-2の不確かさの範囲内に収まっているが、結合定数懼の次数は5ループの寄与と同じであることが分かった。これらの寄与の具体的な計算手法や妥当性について議論していただいた。

三嶋氏によるセミナーの様子

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4 益川塾サイエンスカフェ4.1 第1回「小林・益川理論って何だっけ?」

平成 26年 7月 26日、京都産業大学益川塾サイエンスカフェ「小林・益川理論って何だっけ?」が神山天文台サギタリウスホールで開催され、四国や東海など遠方からの一般参加者や、学部学生、大学院生など 13名が参加した。

「小林・益川理論について講演する

杉山博士研究員

参加者からの質問に回答する

九後副塾頭

 益川塾サイエンスカフェの開催は、塾生からの提案があり開催にいたったもので、第1回目となる今回は、塾頭の益川敏英教授が 2008年にノーベル物理学賞を受賞した「小林・益川理論」について杉山弘晃博士研究員が、物理を勉強していなくても理解できるよう解説した。

 講演後、お茶を飲みながら参加者と塾生が科学について話し合い「小林・益川理論」に関する質問だけでなく、物理に関して普段疑問に思っていたことや、「素粒子のあいだに働く力に関して」など高度な質問もあったが、塾生らができるだけわかりやすく説明を行い、参加者からは「大変わかりやすかった」「もっと小林・益川理論について知りたい」などの意見があった。

 また、益川塾副塾頭の九後太一理学部教授からは、自身が大学院生時代の小林先生、益川先生との関係や湯川秀樹先生を始め、素粒子理論に関わる日本の科学者の話しもあり、参加者から「貴重な話を伺うことができた」と感謝の言葉が聞かれた。

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4.2 第2回「不思議な粒子『ニュートリノ』」

平成 26年 10月 11日、益川塾サイエンスカフェ「不思議な粒子『ニュートリノ』」が神山天文台サギタリウスホールで開催され、一般参加者や、学部学生、大学院生など 16名が参加した。

講演を行う渡邊博士研究員

講演後の意見交換

 益川塾サイエンスカフェは、平成26年 7月に第 1回が行われたイベントで、第 2回目となる今回は、素粒子、宇宙、天文、地球科学などの分野で重要な役割を果たす素粒子「ニュートリノ」について渡邊篤史博士研究員が講演を行った。

 講演後は参加者からの質問や意見を聞きながら、参加者と塾生が科学について話し合った。

 質問は、「ニュートリノ」に関してだけではなく、「粒子のスピンとは何か?」や「暗黒物質と暗黒エネルギーの違い」などについてもあり、塾生が分かり易く説明したり、参加者同士で意見交換したりするなど終始和やかな雰囲気で行われた。参加者からは「大変わかりやすかった」、「次は弦理論や、大統一理論、電弱理論について知りたい」といった意見が寄せられた。

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5 京都産業大学益川塾第7回シンポジウム(大阪会場)

「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」

平成 26年 11月 3日、大阪コングレコンベンションセンターにおいて、益川塾第7回シンポジウム「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」が開催され、約 520人が参加した。

益川教授の高校時代について

質問をする高校生

研究活動について説明する高校生の

話を熱心に聞き入る川口教授

 今回のシンポジウムでは、高校生を対象とした「益川教授による特別講義」や「高校教諭と益川教授との特別セッション」を開催、また高校生と一般の参加者を対象とした独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニアフェロー宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 川口淳一郎教授による基調講演「はやぶさが開く、太陽系大航海時代の幕開け」および川口教授、益川教授らによるパネルディスカッションが行われた。 開会にあたり、京都産業大学 大城 光正 学長は「本学の学章はサギタリウスをモチーフにしている。ぜひ今回のシンポジウムが、参加された方々の更なる雄飛につながるシンポジウムになることを祈念したい」と述べた。

 益川教授による特別講義では、高校生から「研究で行き詰ることが無かったか」「高校時代はどのように過ごされていたのか」「CP対称性の破れについて」などの質問があった。益川教授は「憧れを持つことで成長することができる。」また、「答えが出ないときには、なぜ答えが出なかったのかを徹底的に考えること、考え抜くことが大事である」と述べた。 

川口教授の基調講演では、「惑星探査機はやぶさ」でのエピソードを交えながら、最新の宇宙分野でのニュースを取り上げた。さらにその中で川口教授は、糸川 英夫博士から受け継いだ「こうすれば出来る、やれる理由を探すこと」の大切

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さを語った。

高校生による口頭発表にはポスターセッション参加校から 3校が選ばれ、研究活動の発表を行った。その後、研究の内容について、益川教授、川口教授からアドバイスなどもあり、高校生にとって貴重な体験となった。なお、口頭発表のあった国立米子工業高等専門学校が京都産業大学 益川塾頭賞を受賞した。

パネルディスカッションでは、パネラーとして川口教授、益川教授、渡部 義弥大阪市立科学館 天文学担当学芸員、河北 秀世 神山天文台長が登壇し、コーディネーターはフリーアナウンサーの関根 友実さんが務めた。ディスカッションの中で、科学者として研究を進めていくとセレンディピティ(思いがけない発見)が多くある、不完全なこと分からないことを楽しむ気持ちを大事にしてもらいたい、答えが無いことが面白いことで答えが無いことは日常茶飯事である、自分で興味関心を掘り起こしてく喜びを感じてもらいたい、といった意見が出され、来場している高校生に向けたメッセージが送られた。 その他、シンンポジウムでは高校生 41チームがポスターセションを行い、来場者に自分たちの研究活動について熱心に説明を行っていた。

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6 京都産業大学益川塾第7回シンポジウム(東京会場)

「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」

平成 26年 12月 14日、東京ビッグサイトにおいて、益川塾第7回シンポジウム「科学へのロマンと挑戦 ~宇宙の謎に迫る~」が開催され、約 600人が参加した。

益川塾頭賞の表彰式で愛知県立

岡崎高等学校へ表彰状と副賞が贈られた

自分たちの研究活動を説明する高校生と、

参加者で賑わうポスターセッション会場

 今回のシンポジウムでは、11月に開催された大阪会場同様に、高校生を対象とした「益川 敏英教授の特別授業」や「高校教諭と益川教授との特別セッション」を開催、また、独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)シニアフェロー 川口 淳一郎 教授による基調講演「はやぶさから伝えたい、創る力の育て方」およびパネルディスカッションが行われた。

 益川教授による特別授業では、高校生から「暗黒物質はあると思われるか、またあると思われる場合、なぜ採取することができないのか」「研究を進める上で大切なこととして、研究課程と研究結果、どちらが大事だと思われるか」などの質問があった。益川教授は「小、中、高校は基礎体力をつけている時期である。高校生後半は、将来について考える時期であるので、同じ世代の友人とともに徹底的に議論をしてもらいたい。互いに議論をすることで、切磋琢磨できる。議論が出来る仲間を作ることが生涯の友となるだろう」と応援メッセージを送った。

また、川口教授の基調講演では「惑星探査機はやぶさ」でのエピソードを交えながら、はやぶさ2打ち上げなどの最新の宇宙分野でのニュースを取り上げ、ユーモアを交えながらの講演となった。その中で川口教授は「自分たちを信じて、やれる理由を探して挑戦する。そうすることで、創造が生み出され世界初が実現する」と語った。

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続いて高校生による口頭発表が行われ、ポスターセッション参加校から 3校が研究活動の発表を行い、愛知県立岡崎高等学校が京都産業大学 益川塾頭賞を受賞した。 ポスターセッション会場では高校生が研究活動について説明を行い、参加者からの質問に熱心に答える姿が見られ、参加者からは高校生の研究のレベルが高く素晴らしかった、今後に期待するといった声が多く聞かれた。

パネルディスカッションでは、川口教授、益川教授、科学ジャーナリストの瀧澤 美奈子さん、米原 厚憲 理学部准教授が登壇した。高まる宇宙への関心や宇宙の謎、魅力について、それぞれが経験した苦労や挑戦した経験などの話しも交えてディスカッションが行われた。憧れを持つこと、真似をすることによって、憧れの人との違いや自分の思っていたこととの違いを知ることになる。そのための第一歩を踏み出す勇気を持つこと、そこから自分の目指すべき方向を知ることになるなどの意見が出され、来場している高校生に向けたメッセージが送られた。

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7 日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム-CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-

平成 26年 11月 8、9日、「日本大学理工学部・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム -CST & Maskawa Institute Joint Symposium on Particle Physics-」が開催された。

挨拶をする益川 塾頭

研究発表を行う柴 博士研究員

 このシンポジウムは、日本大学理工学部物理学科の素粒子論研究室と京都産業大学益川塾が連携し、素粒子物理学の最近の話題を取り上げ、研究報告と討論を行い、研究の進展と研究者の交流を促すことを目的としたものである。

 これまで本シンポジウムは、第 1回と第 3回は日本大学理工学部駿河台キャンパスにて、第 2回は京都産業大学壬生校地「むすびわざ館」にて開催されてきた。第 4回となる今回は、再び京都産業大学むすびわざ館に於いて、国内から 4人の講師を招き開催された。

  8日には益川塾頭が挨拶を行い、本シンポジウムの基本理念となっている『私立大学の連携』について、「私学連合という大きな目標に向けて、日大と京産大の連携という小さなところからやってきたが、これまでの連携の成果を総括して、そろそろ次のフェーズに向けた構想を考えていく時期にきていると思う」と語られた。

また、8日には九後 副塾頭による “Massive supergravity”の講演が、9日には柴 博士研究員により、第 9回素粒子メダル奨励賞を受賞した研究に関する “場の理論によるブラックブレーンの解析と p-soupモデル”の講演が行われた。

招待講師を含め、両日で合計 15人の講師による講演等が行われたシンポジウムには、本学益川塾関係者、日本大学関係者および他大学の教員・学生等、約 40

名が参加し、活発な議論や意見交換が行われ充実したものとなった。

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以下にシンポジウムのプログラムを添付する。

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8 塾頭の講演・広報活動・報道等

《講演・対談等》

1. 2014年 4月 7日 益川塾入塾式

2. 2014年 10月 18日 ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム

3. 2014年 11月 3日 京都産業大学 益川塾 第7回シンポジウム(大阪会場)

4. 2014年 11月 8日 第 4回日大理工・益川塾連携 素粒子物理学シンポジウム

5. 2014年 12月 14日 京都産業大学 益川塾 第7回シンポジウム(東京会場)

6. 2015年 2月 4日 大分県立大分舞鶴高等学校 特別講演会

《新聞・雑誌等掲載記事》

1. 2014年 7月 8日 京都新聞 夕刊 8面

「日本パグウォッシュ会議」第 61回世界大会記者会見

2. 2014年 8月 30日 読売新聞 夕刊 5面

ジュニアプレス「日本・アジア青少年サイエンス交流事業高校生

特別コース」特別授業

3. 2014年 9月 17日 毎日新聞 朝刊 11面

そこが聞きたい「戦争と科学者の責任は」

4. 2014年 11月 4日 読売新聞 朝刊 38面

益川塾 第7回シンポジウム「科学へのロマンと挑戦~宇宙の謎に

迫る~」(大阪会場)

5. 2014年 11月 13日 読売新聞 朝刊 12面

ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「次世代へのメッセージ」

6. 2014年 11月 23日 朝日新聞 朝刊 27面

核といのちを考える

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7. 2014年 11月 26日 朝日新聞 朝刊 13面

耕論「何のための英語入試改革」

8. 2015年 1月 17日 読売新聞 朝刊 28面

益川塾 第 7回シンポジウム「科学へのロマンと挑戦~宇宙の謎に

迫る~」(大阪会場 東京会場 採録)

9. 2015年 2月 19日 毎日新聞 朝刊 26面

古くて新しいモノ、コト、ヒト

10. 2015年 3月 11日 中國新聞 朝刊 6面

核と科学者

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京都産業大学益川塾 2014年度年次報告書 第5報

発行   2016年 3月

発行者  京都産業大学益川塾

     〒603‐8555 京都市北区上賀茂本山

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