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多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:現状と展望 斎藤 通紀 京都大学大学院医学研究科 機能微細形態学 科学技術振興機構 CREST/ERATO 資料80-2-2

多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研 …BV SC AP 132 hr 発生6日目胚 胚体外外胚葉を除く 臓側内胚葉を除く 胚体外胚葉(エピブラスト)からの始原生殖細胞様細胞誘導

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多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:現状と展望

斎藤

通紀

京都大学大学院医学研究科

機能微細形態学

科学技術振興機構

CREST/ERATO

資料80-2-2

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生殖細胞研究の意義(1)

生殖細胞(卵子及び精子)は、多細胞生物を構成する細胞群の中で、その遺伝情報・後成遺伝学的(エピジェネティック)情報を次世代に伝え、また新しい個体を形成しうる唯一の細胞である。生命の根幹を支える生殖細胞の特性とそれを規定するメカニズムの解明・再構成は、生命科学研究における最も根源的かつ重要な課題の一つと考えられる。

生殖細胞研究が包含する生命科学領域

細胞の多能性制御機構

細胞形質のエピジェネティック制御機構

ゲノム安定性制御機構

減数分裂機構(ゲノム多様性生成機構)

細胞の全能性獲得機構

細胞の雌雄決定機構

発生・生殖工学技術の開発

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生殖細胞研究の意義(2)

多能性幹細胞(ES/iPS細胞)から生殖細胞を作成する研究は、潜在

的に大量の生殖細胞作成を可能とし、生殖細胞の基礎研究を大きく促進する。これは他の生命科学領域に様々な波及効果を及ぼしうる。

ヒト多能性幹細胞からの生殖細胞作成が実現すれば、不妊、遺伝病、生殖細胞老化、生殖細胞癌を含む発癌等に対して、その予防医療や治療法を開発する知見をもたらすと考えられる。これは他の医学領域に様々な波及効果を及ぼしうる。

2010年

ノーベル医学・生理学賞

Robert G. Edwards

体外受精技術の開発

現在では、先進国における2-3%の新生児が体外受精による。

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生殖細胞は生命情報を継承する

始原生殖細胞(PGCs)

血液幹細胞

筋肉幹細胞

神経幹細胞

エピブラスト

胚盤胞

受精卵

卵子形成

精子形成

精原幹細胞

ES細胞

EG細胞

GS細胞mGS細胞

発生能の獲得

ゲノム情報の再編成・‘不死化’

発生プログラムの解放

生殖系列 vs 体細胞系列

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生殖細胞は、‘ゲノムの若返り、多様性、不滅性’を保証する。

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マウス多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:

現状と展望

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生殖細胞の発生は複雑である!

1)マウスにおける始原生殖細胞(PGCs)の発生

受精卵 8細胞期

E6.25 E7.0 E8.25

2細胞期

始原生殖細胞(PGCs)尿膜

極体

透明帯

雄性前核

雌性前核

前 後

中胚葉

胚体外胚葉

胚体外胚葉 中胚葉

胚体外外胚葉(胎盤)

頭部(神経上皮)

内胚葉(腸管)

心臓

体節

胚盤胞

(E4.5) E5.5

内部細胞塊

胚体外胚葉

胚体外外胚葉栄養外胚葉

原始内胚葉

胚盤胞

(発生3.5日目: E3.5)

内部細胞塊栄養外胚葉

胚体外外胚葉

臓側内胚葉

(エピブラスト)

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生殖細胞の発生は複雑である!

2)マウス始原生殖細胞(PGCs)から精子の発生

E7.0E7.5~9.5

E10.5~12.5E13.5~

出生後3日目(P3) P6

P8P10

P12P14

P20P25

出生

PGCsの決定 移動

精巣への移入

増殖の停止

増殖の再開

減数分裂の開始 精子形成

PGCs Gonocytes Spermatogonia Spermatocytes Spermatids Sperm

潜在的多能性の再獲得

ヒストン修飾の再編成

ゲノムインプリントの消去

ゲノムインプリントの再確立

small RNAによるゲノム機能制御

ゲノムDNA脱メチル化

精原幹細胞の確立

相同染色体の組み換え

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生殖細胞の発生は複雑である !

3)マウス始原生殖細胞(PGCs)から卵子の発生

E7.0E7.5~9.5

E10.5~12.5E13.5~

PGCsの決定 移動

卵巣への移入

増殖の停止

第一減数分裂の開始

PGCs

潜在的多能性の再獲得

ヒストン修飾の再編成

ゲノムインプリントの消去 ゲノムインプリントの再確立ゲノムDNA脱メチル化

相同染色体の組み換え

出生

P5 P15~22

第一減数分裂複糸期での停止

と卵胞の成長排卵 受精

母性因子の蓄積

primordialfollicle

primaryfollicle

secondaryfollicle

Graafianfollicle

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多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成方法

ES細胞

iPS細胞始原生殖細胞(PGCs)

精子

卵子

12a

2b

発生学・幹細胞学 繁殖学・生殖学

1. ES/iPS細胞から配偶子を作成する場合も必ず始原生殖細胞

(あるいはそれに類似した細胞)を経由する。

2. よってES/iPS細胞から生殖細胞を作成する研究は、大きく

始原生殖細胞の前後、①と②に分けて整理できる。

(小倉淳郎, 080925文科省生命倫理委員会)

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これまでの方法の問題点

これまで報告されてきた多く(すべて)の方法では、ES細胞をランダムに

分化させ、その中で比較的後期の始原生殖細胞マーカーを発現する細胞を、試験管内誘導始原生殖細胞とし、それらをさらにランダムに分化させて、いくつかのマーカーを発現する細胞を、精子様細胞もしくは卵子様細胞と呼んできた。

その結果: 作成効率が低い

作成の再現性が著しく乏しい

中間産物である始原生殖細胞様細胞の品質評価が行われていない

最終産物(精子様もしくは卵子様細胞)が全く機能しない

という状態であった。

考えられる解決法: 生体内での生殖細胞発生機構に基づき、選択的にkey processを再現させ、機能的な始原生殖細胞を作成することが研究の第一歩である。

生体における始原生殖細胞発生機構の理解が不可欠

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我々の研究のこれまでの成果

1. 生殖系列の起源の同定

2. 生殖系列形成のシグナル原理の解明

3. 生殖系列決定に必須な転写調節因子の同定

4. 生殖系列決定過程にエピゲノムリプログラミングを誘導する機構が

内包されているという概念を樹立

5. 単一細胞マイクロアレイ法の開発

6. 多能性幹細胞を用いて生殖細胞形成過程の試験管内再構成

マウスを用いて:

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Blimp1-mVenus:stella-ECFP(BVSC)BV SC

AP

132 hr

発生6日目胚

胚体外外胚葉を除く

臓側内胚葉を除く

胚体外胚葉(エピブラスト)からの始原生殖細胞様細胞誘導

132時間培養(in GMEM+KSR with BMP4, LIF, SCF, BMP8b, EGF)

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非移植精巣

始原生殖細胞様細胞移植精巣

エピブラスト由来始原生殖細胞様細胞は移植により健常な精子及び子孫を形成

始原生殖細胞様細胞由来精子

始原生殖細胞様細胞由来精子による新生仔

(Ohinata et al., Cell, 2009)

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多能性幹細胞からの始原生殖細胞作成方法

ES細胞

iPS細胞エピブラスト 始原生殖細胞(PGCs)

1. ES/iPS細胞から生殖細胞形成能を有するエピブラスト様細胞を

誘導する(エピブラスト幹細胞の可能性)

2. エピブラスト様細胞(エピブラスト幹細胞)から始原生殖細胞様細

胞を誘導する

3. 始原生殖細胞を試験管内で増殖させる

これらが成功して初めて、

ES/iPS細胞からの配偶子作成実験がより

科学的に遂行できると考えられる。

(斎藤通紀, 090817文科省生命倫理委員会)

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ES細胞からのエピブラスト様細胞

(EpiLCs) の誘導

BV

BF

SC

ESCs day1 day2 day3EpiLC induction (ActA, bFGF, KSR)

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BF BV SC

Day

2D

ay 4

Day

6

ESC Day 0 Day 2 Day 4 Day 6

SC

BV

AP

PGC

-like

cel

l ind

uctio

n

エピブラスト様細胞

(EpiLCs) のからの始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) の誘導

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多能性幹細胞を用いた始原生殖細胞形成過程の試験管内再構成

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始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) からの精子形成

* 精子形成に至らなかった精細管

精子形成し、spermiationが見られる精細管 精細管内に形成された精子

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始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) からの子孫形成

PGCLCs由来精子による初期胚

PGCLCs由来

精子によるマウス産仔(左)とその成体(右)

PGCLCs由来

精子によるマウス産仔のインプリント

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iPS細胞由来始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) からの子孫形成

(Hayashi et al., Cell, 2011)

iPS細胞由来PGCLCs由来

精子による新生児

非精子形成精細管

精子形成精細管 iPS細胞由来の精子

iPS細胞由来精子による新生児はiPS細胞作成に用いたtransgeneを

有する。

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本研究成果のポイントと今後の展望

(1)生殖細胞形成機構のさらに詳細な解明。

(2)ES細胞から始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) を介して卵子を誘導する系の確立。

今後の展望

本研究成果のポイント

(1)ES/iPS細胞からエピブラスト様細胞

(EpiLCs) の誘導に成功

(2)エピブラスト様細胞

(EpiLCs) から始原生殖細胞様細胞

(PGCLCs)

の誘導に成功

(3)始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) は健常な精子及び子孫形成に貢献

(4)表面抗原による選択によりiPS細胞由来始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) から精子及び子孫を得ることに成功

(3)ES細胞から始原生殖細胞様細胞 (PGCLCs) を介して精子幹細胞を誘導する系の確立。

(4)マウス以外の哺乳類を用いた生殖細胞形成機構の研究

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第一減数分裂の開始

PGCs

出生

P5 P15~22

第一減数分裂複糸期での停止

と卵胞の成長排卵 受精

primordialfollicle

primaryfollicle

secondaryfollicle

Graafianfollicle

E7.0E7.5~9.5

E10.5~12.5E13.5~

P3 P6 P8 P10 P12 P14 P20 P25

PGCsの

決定 移動

精巣への移入

増殖の停止

増殖の再開

減数分裂の開始 精子形成

PGCs Gonocytes Spermatogonia Spermatocytes Spermatids Sperm

PGCsの

決定 移動

卵巣への移入

増殖の停止

出生

エピブラスト

多能性幹細胞からの始原生殖細胞作成は

配偶子作成に至る過程のほんの一部である

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ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)からの生殖細胞作成研究:

現状と展望(私見)

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ヒトES/iPS細胞からの生殖細胞作成研究の現状

生体内での生殖細胞発生過程を自由に研究できるマウスにおいてさえ、ようやくES/iPS細胞から始原生殖細胞をある程度論理的に誘導できるようになった段階

であり、ヒト細胞を用いた研究はさらに未熟な段階にある。

即ち、マウスにおいて既述した通り:

これまで報告されてきた多く(すべて)の方法では、ES細胞をランダムに分化させ、その中

で比較的後期の始原生殖細胞マーカーを発現する細胞を、試験管内誘導始原生殖細胞

とし、それらをさらにランダムに分化させて、いくつかのマーカーを発現する細胞を、精子

様細胞と呼んでいる。

その結果: 作成効率が低い

作成の再現性が著しく乏しい

中間産物である始原生殖細胞様細胞の品質評価が行われていない

最終産物(精子様)の品質が著しく脆弱に見える

というのが現状である。

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生体内での過程を研究できないヒトにおいては、試験管内でES/iPS細胞から

生殖細胞様細胞を誘導する際の道筋が乏しい

マウス・ラット以外のよりヒトに近い動物種(霊長類等)での研究の必要性

移植により機能を評価することの出来ないヒトにおいては、作成された細胞(例えば生殖細胞作成の第一段階である始原生殖細胞)の本質的な(機能的な)評価が出来ない。

霊長類をモデルとして、遺伝子発現・エピジェネティックプロファイルを徹底検証Deep sequencingによりゲノム配列を詳細に検討

ヒトES/iPS細胞からの生殖細胞作成研究の課題

ヒト多能性幹細胞(ES/iPS)の至適培養条件は未確立だと考えられる:

マウス・ラット以外の哺乳類では、現在のところ、十分なキメラ形成能を持つ多能性幹細胞の報告がない。ヒト多能性幹細胞がヒト胚のどのステージの細胞に相当するのか正確な知見が無い。

マウス・ラット以外のよりヒトに近い動物種(霊長類等)での研究の必要性多能性幹細胞培養条件の至適化

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ヒトES/iPS細胞からの生殖細胞作成に関する私見

平成21年2月9日発表の「ヒトES細胞などからの生殖細胞の作成・利用に

ついて」の(5)まとめの内容(平成22年5月文部科学省生命倫理・安全対策室「ヒト

ES細胞等からの生殖細胞の作成に関する指針について」に反映)が現時点にお

いては非常に妥当である。

「現時点において、人体への適用を伴わない基礎的研究について、まずはヒトES細

胞等からの生殖細胞の作成までを容認するとともに、当該生殖細胞からのヒト胚の作成

は当面行わないものとする。

なお、生殖細胞の作成を容認するに当たっては、その適切な管理の観点から、今後、当該生殖細胞の取り扱いの際の用件等について定める必要があり、文部科学

省において関係指針の整備を行うことが適当である。

一方、当該生殖細胞を用いたヒト胚の作成については、さらに慎重な検討を要するものであり、その是非については、今後の研究の進展や社会の動向等を十分勘案しつつ、必要に応じてあらためて検討すべき課題と考えられる」