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論文〕 弘前大学経済研究第 25 31-40 2002 11 30B 食品廃棄物問題と「食品リサイクル法」の課題 1 .はじめに 本論文の目的は, 日本における食品廃棄物政 策の実態と課題を明らかにすることである。 「食品廃棄物j とは,「食品の製造,流通,消 費の各段階で生ずる動植物性の廃棄物であり, 具体的には.調理くず, 日切れ食品,食べ残し 等である」(食品廃棄物リサイク j レ研究会[7 ])。 それを利用可能用途から見ると,食べ残し等の 「可食部分」の廃棄と「不可食部分」の廃棄に分 けられ. 「可食部分jの廃棄は「食品ロス」と呼 ばれる (山本[9 ]) 食品廃棄物をとりまく問題状況は,以下のよ うな 2 つの側面を有している。 1 の側面は,「廃棄物処理問題としての食品 廃棄物問題」である。廃棄物の最終処分場の枯 渇とゴミの焼却処分によるダイオキシンの発生 などが問題とされる中で,企業や地方自治体に おける廃棄物処理コストの増加,食品廃棄物の 処分問題が大きくなってきているのである。 2 の側面は,「食糧問題としての食品廃棄物 問題」であり,食品廃棄物の中でも特に「食品 ロス」に関わる問題である。世界における飢餓 問題と飽食問題の併存,すなわち世界的な食糧 需給のアンバランスの問題としてである。そし て, 21 世紀に世界的な食糧不足が予測される中 で,可食部分の廃棄が問題とされているのであ る。 このような問題状況のなかで,食品廃棄物に 対する対策の重要性が認識され,国の政策とし ての食品廃棄物対策が取り組み始められ, 2000 5 月には「食品循環資源の再生利用等の促進 に関する法律」(以下,食品リサイクル法と省略) が成立した。 他方,現在, 日本における廃棄物問題が大き くなる中で\国の廃棄物政策に関する研究が進 められている。しかしその主たる対象は,容 器包装ゴミや家電ゴミのような工業製品であ り,「食品」という非工業製品に関する政策研究 は法制度の紹介にとどまっている 。 以上のような問題認識から,冒頭の課題を検 討するが,以下では, 2 で食品廃棄物の特質に ついて整理し, 3.では既存の調査結果から食品 廃棄物の定量的な把握を行う。 4. では, 日本 に おける食品廃棄物政策の検討を行い, 5 では呂 本における食品廃棄物政策の課題について考察 する。 2. 食品廃棄物の特性と利用上の特徴 廃棄物政策を組み立てる上では,その廃棄物 の物性や排出の特徴を踏まえた制度の組立が必 要になる。そのため,ここでは食品廃棄物の特 性と,発生や利用に関する特徴について見てい きたい。 (1 )食品廃棄物の特性 まず\食品廃棄物そのものと.その発生・排 出に関する特性を見ていきたい。 l の特徴は,流通過程での廃棄物の発生が みられるという点である。食品は腐敗性を伴う ため,廃棄物の発生が流通過程でも発生する。 このことは,最終消費過程での廃棄物発生の分 d

食品廃棄物問題と「食品リサイクル法」の課題human.cc.hirosaki-u.ac.jp/economics/pdf/treatise/25/...〔論文〕 弘前大学経済研究第25 号 31-40頁 2002年11

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〔論文〕 弘前大学経済研究第25号 31-40頁 2002年 11月30B

食品廃棄物問題と「食品リサイクル法」の課題

1 .はじめに

本論文の目的は, 日本における食品廃棄物政

策の実態と課題を明らかにすることである。

「食品廃棄物jとは,「食品の製造,流通,消

費の各段階で生ずる動植物性の廃棄物であり,

具体的には.調理くず, 日切れ食品,食べ残し

等である」(食品廃棄物リサイクjレ研究会[7])。

それを利用可能用途から見ると,食べ残し等の

「可食部分」の廃棄と「不可食部分」の廃棄に分

けられ. 「可食部分jの廃棄は「食品ロス」と呼

ばれる (山本[9])。

食品廃棄物をとりまく問題状況は,以下のよ

うな2つの側面を有している。

第 1の側面は,「廃棄物処理問題としての食品

廃棄物問題」である。廃棄物の最終処分場の枯

渇とゴミの焼却処分によるダイオキシンの発生

などが問題とされる中で,企業や地方自治体に

おける廃棄物処理コストの増加,食品廃棄物の

処分問題が大きくなってきているのである。

第 2の側面は,「食糧問題としての食品廃棄物

問題」であり,食品廃棄物の中でも特に「食品

ロス」に関わる問題である。世界における飢餓

問題と飽食問題の併存,すなわち世界的な食糧

需給のアンバランスの問題としてである。そし

て, 21世紀に世界的な食糧不足が予測される中

で,可食部分の廃棄が問題とされているのであ

る。

このような問題状況のなかで,食品廃棄物に

対する対策の重要性が認識され,国の政策とし

ての食品廃棄物対策が取り組み始められ, 2000

谷 実員

年5月には「食品循環資源の再生利用等の促進

に関する法律」(以下,食品リサイクル法と省略)

が成立した。

他方,現在, 日本における廃棄物問題が大き

くなる中で\国の廃棄物政策に関する研究が進

められている。しかしその主たる対象は,容

器包装ゴミや家電ゴミのような工業製品であ

り,「食品」という非工業製品に関する政策研究

は法制度の紹介にとどまっている。

以上のような問題認識から,冒頭の課題を検

討するが,以下では, 2 で食品廃棄物の特質に

ついて整理し, 3.では既存の調査結果から食品

廃棄物の定量的な把握を行う。 4.では, 日本に

おける食品廃棄物政策の検討を行い, 5では呂

本における食品廃棄物政策の課題について考察

する。

2. 食品廃棄物の特性と利用上の特徴

廃棄物政策を組み立てる上では,その廃棄物

の物性や排出の特徴を踏まえた制度の組立が必

要になる。そのため,ここでは食品廃棄物の特

性と,発生や利用に関する特徴について見てい

きたい。

(1)食品廃棄物の特性

まず\食品廃棄物そのものと.その発生 ・排

出に関する特性を見ていきたい。

第 lの特徴は,流通過程での廃棄物の発生が

みられるという点である。食品は腐敗性を伴う

ため,廃棄物の発生が流通過程でも発生する。

このことは,最終消費過程での廃棄物発生の分

?d

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散化に加えて,廃棄物の発生場所がさらに分散

することを意味している。

また,このことは食品廃棄物の中でも,食品

ロスに大きく関係している。流通過程からの食

品廃棄物の発生は,農畜産物の市場構造 (食品

の動脈流通)に大きな影響を受けており(泉谷

[3]),いわば,「食品における動脈流通と静脈流

通の連関」が見られるのである。そのため,食

品廃棄物対策,特に食品ロス対策には,生産 ・

消費対策と同様に,流通対策も重視される必要

がある。

第2の特徴は,物性的なものである。食品廃

棄物は水分含有量が多いという点の他に,農畜

産物の腐敗性に規定されて,食品廃棄物そのも

のも腐敗性を有している。そのため, リサイ ク

jレ処理のための期間に制限が加わり,その処理

を延ばすためには,廃棄物の貯蔵コストが必要

となってしまう。

第3の特徴は,最終消費過程での廃棄物の発

生頻度が高いという点である。家庭や外食産業

における最終消費過程においては,家電や自動

車のような耐久消費財と比較して廃棄物の発

生頻度が高く,ほぼ毎日発生する。そのため,

廃棄物の腐敗性と複合して,処理を頻繁に行わ

なくてはならないことを意味する。このことは,

食品廃棄物の回収頻度が高くならざるを得ない

ことを意味しており,回収コストがより多く必

要となる。

(2)食品廃棄物の利用上の特徴

次に,食品廃棄物を利用する上で、の特徴につ

いて見ていきたい。

第 lの特徴は,動植物性の有機物である食品

廃棄物は,農地に還元し,微生物等による分解

過程を経て新しい生産基盤をっくり出すことが

できるという点である。この点が枯渇性資源を

用いた工業製品と異なる点である。この性格を

工業製品に適用する試みが,生分解性プラス

チックの開発である。

第2の特徴は,第 lの特徴を持つにも関わら

ず,農地への投入が新しい生産活動の基盤を作

るための「利用jなのか,過剰投入としての「廃

棄」なのかの境界があいまいであるという点で

ある。

第3の特徴は,毒物の濃縮問題がある。これ

も人聞が直接摂取する食品に特有の特徴であ

る。そのため,動脈流通部門での安全確保を確

立することが,静脈流通部門の確立に不可欠で

ある(工藤[4])。その点からも,「食品における

動脈流通と静脈流通の連関」が見られるのであ

る。

第4の特徴は, リユースが出来ないと言う点

である。廃棄物対策には,「レデユース」「リユー

ス」「リサイクjレjの三つの形態がある。飲料容

器や通いコンテナのように,工業製品の一部で

は,同じ用途で廃棄物を用いる 「リユース」が

行われていたり,物性的には可能なものが多い。

しかし食品廃棄物の場合には,廃棄物そのも

のを人間の食糧として用いることは一部の品目

を除くと現在の日本では難しい。そのため, 「レ

デユース」か「リサイクjレ」のどちらかの手段

をとるしかなく,廃棄物対策の手法が工業製品

よりも限定されることとなる。

3. 食品鹿棄物の発生量

(1)食品廃棄物の発生総量とリサイクル状況

ここでは,食品廃棄物の発生状況について見

ていきたい。

表lには,食品廃棄物の排出主体別の発生量

を示した。

食品廃棄物は,排出主体別に見ると,①食品

製造業から発生するもの (産業廃棄物),②食品

製造業以外の事業者から発生するもの(事業系

一般廃棄物).③一般家庭から発生するもの (家

庭系一般廃棄物)に分けられる。

食品製造業から340万t,食品流通・外食業か

ら600万t,家庭からが990万t発生している。た

だし食品製造業からの廃棄物には,動植物性

残さのみが集計されており,食品産業からの産

業廃棄物のおよそ 7割を占める(牛久保[8])汚

泥は含まれていない。なお,食品製造業からの

。,uqd

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食品廃禁物問題と「食品リサイクル法」の課題

表 1 食品廃棄物の発生量とリサイクル率(1996年)

排出量 |リサイ クル

(百万tlI 率 i肥料化 |飼料化 |その他

廃棄物総量 I 478.9 産業廃棄物 I 426.o I 42.0% - --C)五i主~~-~物 "(i正瓦製這柔} | 玩 l・:1a-0%・ ・r ・14・ ・r --31・ ・r ・3・

ーでA9:.座奪一物ー一一一一一一一一一一一一一一一一一L... 5?.・? .. L ..旦1民一l 今 .L・e・....J 宇

うち食品廃棄物計 I 159 I ・a.-3% I o::i 事業系 (食品流通 ・外食業) I 6.o

家庭系 I 9.9

(資料)『平成11年度版食料 ・農業 ・農村白書』.農水省資料。(出所)厚生省調べ (1996年度)。

表 2 主要産業廃棄物の処理状況 (1996年)

(単位 %)

種 類再生利用 総排出量に

量比率 占める比率

燃えがら 35 0.8

汚泥 7 47 7

廃油 30 08

廃酸 20 l 0

廃アルカ リ 6 0 6

廃プラスチック類 24 l 6

紙くず 50 0 5

木くず 22 1.8

動 ・値物性残澄 48 09

金属くず 77 1 7

ガラス ・陶磁恕くず 37 1.6

鉱さい 79 5.9

建設廃材 71 15 2

動物の糞尿 75 17 8

ばいじん 53 2 0

合計/平均 37 100.0

(出所)「産業廃棄物の排出及び処理状況等について」 (厚生省産業廃棄物対策室)。(資料)環境事業団ホームページ http://www.jec.go.jp/recycle/info04 .ht:m.

廃棄物の総量は' 1000万tとなっている(1999年

度実績,環境省資料)。

それぞれの排出主体が各排出総量に占める割

合は,産業廃棄物では産業廃棄物総量の0.8%な

のに対して 一般廃棄物では総一般廃棄物の

30%を占めており,食品流通 ・外食が事業系一

般廃棄物の11%,家庭系が家庭系一般廃棄物の

19%を占めている。ここで一般廃棄物における

食品廃棄物が廃棄物処理の視点から問題とされ

る。

ただし,表2に示したように産業廃棄物の

内訳を見ると,その大部分を占めているのは汚

泥(48%)と建設廃材(15%),動物の糞尿(18%)

であり.この3者で8割近くを占めている。そ

33

のため.食品製造業から発生する動植物性残さ

は。他の種類と同じ程度の排出割合を占めてお

り,決してその割合が低いとはいえない。

また,発生量では,食品流通 ・外食からの発

生量より も,家庭系の発生量が多いが,発生主

体の数では,圧倒的に家庭の方が多いため,こ

れも単に発生量の過多から議論をすることは難

しい。

リサイ クル率に関しては(前掲表 1), 食品製

造業が48%と半分近くを リサイ クjレしている

のに対して,食品流通・外食,家庭では0.3%に

すぎない。この点でも一般廃棄物の食品廃棄物

が問題とされる。

しかし,前掲表2より産業廃棄物のリサイク

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2700

2

2

2

供給熱量、恒摂取熱量

l/人

1900 キロカ1700

1500

30.0

25.0

20.0額/

供15.0給

型書

量10.0

9も

5.0

日日

匡国差額/供給黙量

~"""" <bト古,"' .,., 'o'Q や やや やや 'Q<:; <{,ト 'll" 'Q"' 'Q'Q oP q,'¥- q,"'春、~a

-←供給勲量 -・-摂取熱量

図1 日本における供給熱量と摂取熱量

(出所)食料需給表,国民栄養調査。(資料)平成11年度食料 ・農業・農村白書付属統計表。

表3 流通段階別の食品ロス率

廃棄 食べ残し 計

世帯 4.8 29 7 7

単身世帯 54 2 l 7 5

2人世情 49 3 0 7 9

3人以上世帯 4.8 2.9 77

高齢者いない 6 l 3.2 93

高齢者いる 3 7 27 64

外食産業 。 5.1 5.1

一般飲食店 。 3.0 3.0

食堂 ・レストラン 。 3.6 3.6

その他の一般飲食店 。 2.4 2.4

旅館 ・その他の宿泊所 。 7.2 7.2

結婚妓露宴 。 23.9 23.9

宴会 。 15.7 15.7

食品小売業 1.1

食品卸売業 0.1

食品製造業 。(資料)平成12年度食品ロス統計調査結果の慨要 (2001年3月6日)注 1)廃棄とは。賞味期限切れによるものや,不可食部分の過剰除去を含む。

2)外食産業では.厨房内での廃棄は含めず食べ残しと作り置き商品の廃棄を対象。3)小売卸,製造業では,製造・加工段階での原材料廃棄は含めず,製品の廃棄を対象。

ル率をみると,平均が37%であり,他の品目と

比較すると.動植物性残さのリサイ クル率は平

均的な数値である。そのため,産業廃棄物と一

般廃棄物のリサイクjレ率を単純に比較してその

過多を議論することも限界があるだろう。

(2)食品口スの発生状況

廃棄物問題の視点からは,食品廃棄物総量の

発生量が問題となるが,食糧問題の視点からは,

食べ残しゃ賞味期限切れによる廃棄等の 「食品

ロス」の発生状況が重要になる。

まず. 日本全体としての食料供給量にしめる

食品ロスの割合に関しては,圏内への供給熱量

と国民の摂取熱量の差をみる方法しかない。こ

れは,異なった統計をもとに推計する方法であ

るため批判が出されているが(吉田[10]),一国

レベルでの廃棄割合を推計する方法は,これし

かないため.この数値を図 Iから確認しておき

たい。

これをみると' 1970年代からその差(廃棄割

34

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食品廃棄物問題と「食品リサイクル法Jの課題

合と考えられる)が順次増加し, 1960年代の

10%水準から,90年代後半には25%程度まで上

昇している。

また,農水省は2000年に「食品ロス統計」を実

施し,食品ロス率を推計している。

この調査結果を表3に示したが,表の「世帯」,

すなわち家庭では,廃棄率や食べ残し率は世帯

人数と相関がなく ,一般的にいわれる単身世帯

での廃棄の高さが現実には見られない。いわば,

世帯構成とは無関係に総食品ロス依存化が進ん

でいるという共通した現象が見られる。また,

従来から指摘されているが,「結婚披露宴や宴

会J等でのロス割合が極めて高くなっている。

しかし調査手法等の限界から,食品ロス統

計には, L、くつかの間題点が存在する。

第 1に,外食産業のロス率が低くなっている

が,外食産業では厨房内での廃棄は含めていな

いため,賞味期限切れや不可食部分の過剰除去

が把握されていない。特に,セントラルキチン

方式や加工食品に依存し,調理素材の整形のた

めに不可食部分の過剰除去が多いと考えられる

外食産業では,主要な食品ロスの部分が調査か

ら欠落していると考えられる。

第2に,食品流通業や製造業では,著しくロ

ス率が低いが,製造加工段階の原材料廃棄が含

まれておらず,製品のみの廃棄となっている。

アメリカで1995年に行われた食品ロス統計

では, 27%の食品ロスが発生していることが明

らかになっている (山本[9])。この数値は, 日

本の数値よりもかなり高いが,ここで、も小売業

段階が2%と過小にでていると考えられ,最終消

費段階でも 「外食消費」と「家庭消費」が一体

として調査されているという問題がある。

共通しているのは,全体として,食品流通部

門や外食部門でのロスを見えなくする結果と

なっている点である。

4.食品廃棄物政策の現状と問題点

(1)食品廃棄物政策の流れ

日本における食品廃棄物に関する対策は,

1990年代後半から本格的に検討が開始され,

2000年5月には食品リサイクjレ法が成立してい

る。ここでは, 90年代後半からの食品廃棄物政

策に関わる政策の流れについて見ておきたい。

まず, 1997年5月に農林水産省は,食品産業

における環境対策を促進するために「食品流通

審議会食品環境専門委員会」(委員長,小山周三・

セゾン総合研究所所長)を設置した。そして,

99年7月に 「今後の食品産業環境対策の推進の

方向について」を公表している。そこでは, 「食

品廃棄物のリサイ クjレに取り組む新たなシステ

ムの構築」の必要性を指摘している。農林水産

省では,この報告を踏まえて, 1999年9月に 「食

品廃棄物リサイクル研究会」(座長:小山周三・

セゾン総合研究所所長)の第 l回研究会を開催

し, 2000年3月に「食品廃棄物の発生抑制とリサ

イクルの推進方向について(食品廃棄物リサイ

クル研究会報告)Jを公表している。

このような農林水産省単独の動きと並行し

て.生物系廃棄物 (生ゴミ,食品産業汚泥,畜

産副産物,生活排水汚泥等)のリサイクjレを推

進するために98年 1月から関係団体,関係省庁

(環境庁,農林水産省,通商産業省,建設省)に

よる 「生物系廃棄物リサイクjレ研究会」(座長ー

茅野充男 ・有機質資源化推進会議副会長)が設

置され, 99年2月に報告書「生物系廃棄物のリ

サイクルの現状と課題」を公表している。さら

に,有機性資源(生ゴミ,食品産業廃棄物,家

畜排植物,下水汚泥等)の循環利用に取り組む

ために,99年8月に 「有機性資源循環利用推進

協議会J(座長内藤正明・京都大学大学院工学

研究科教授)が,有機性資源の循環利用に関わ

る10省庁 ・15団体によって設置され' 99年11月

に「有機性資源循環利用の促進のための基本方

針」を取りまとめている (以上,詳しくは泉谷

[3]を参照)。

さらに, f食品リサイクル法」制定後の2001年

6月には農林水産省で,家庭系の生ゴミを対象

とした「家庭系食品廃棄物リサイクjレ研究会j

(座長・牛久保明邦・東京農業大学教授)が設置

され, 2002年3月には「家庭系食品廃棄物リサイ

5

ηJ

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クjレ研究会j報告が出されているI)。

(2)「食品リサイクル法」の概要

次に, 2001年5月から施行された食品リサイ

クル法について検討していきたい。なお,食品

リサイクjレ法の制定の後,第3条第 l項の規定

により, 2001年5月30日に「食品循環資源の再

生利用等の促進に関する基本方針」 (以下,「基

本方針Jと略)が制定されている。

①目的と手法

その「目的」は,「食品循環資源の再生利用並

びに食品廃棄物等の発生の抑制及び減量に関し

基本的な事項を定めJ,「食品関連事業者による

食品循環資源の再生利用を促進するための措置

を講ずることにより,食品に係る資源の有効な

利用の確保及び食品に係る廃棄物の排出の抑制

を図るとともに,食品の製造業等の事業の健全

な発展を促進」することである(第 l条)。

そこでの「食品廃棄物等」とは,食品の加工・

流通 ・外食部門から発生する動縞物性の廃棄物

であり,具体的には①「食品が食用に供された

後に,又は食用に供されずに廃棄されたものJ

(食品ロス)と,②「食品の製造,加工又は調理

の段階において副次的に得られた物品のうち食

用に供することができないもの」となっている。

また,そのうちの「有用なもの」を「食品循環

資源」と呼んでいる(第2条)。

なお,食品製造業で大量に発生する汚泥に関

しては,「加工過程等において生ずる泥状の動植

物性残さについては,『食品循環資源』の対象に

含める」が,「排水処理過程で、生じる排水処理汚

泥は,J「重金属や異物混入が避けられない」た

め対象外としている(青森県[I])。

この目的のために「発生抑制J「減量化J「再

生利用Jの3つの手段が挙げられている。まず,

「再生利用Jとは,①「自ら又は他人に委託して

1)股林水産省プレスリリース, 2001年6月22日,家庭系

食品廃棄物リサイクル研究会の設置及び第 l回研究会の開

催について。及び 「環境新聞J2002年3月20日号, 環境新聞

社ホームぺージ, http://www .kankyo・news.co・jp/k-omo.htrn#032()-l。

36

食品循環資源を肥料.飼料その他政令で定める

製品の原材料として利用することJ,②「食品循

環資源を肥料,飼料その他前号の政令で定める

製品の原材料として利用するために譲渡するこ

と」となっている。「制令第176号」では,肥料,

飼料の他に,「油脂及び油脂製品j,発電用の「メ

タン」利用を定めている。

なお,「減量」とは,「脱水,乾燥その他の主

務省令で定める方法により食品廃棄物等の量を

減少させることをいうJ(第2条)。

②法律の対象と義務

法律の対象となる「食品関連事業者」とは,

①「食品の製造,加工,卸売又は小売を業とし

て行う者J(食品製造業,食品流通業),②「飲

食業その他食事の提供を伴う事業として制令で

定める者」 (飲食業・外食産業)である(第2条)。

排出量が最も多い家庭系食品廃棄物は,「品質の

確保が極めて難しい」ため,「義務的な再生利用

等から除外」している(山田[11])。

具体的な目標は,「食品関連事業者Jは,先の

3つの手段のいず、れか,あるいは組み合わせて.

2006年度までに「再生利用等jの実施率を年間排

出量の20%に向上させることである。また,2001

年度時点でこの目標を上回る事業者は,現在の

実施率を維持向上させることを目標とする(「基

本方針J),としている。

食品関連事業者は,食品廃棄物の発生量,再

生利用量について2001年度から最低 l年単位で

記録を行い,その算出の基礎となる資料を整理

し,地方農政局または食糧事務所が「事業規模

等から見て.多量に食品廃棄物等を発生させて

いると見込まれる食品関連事業者について,定

期的な検査を行っていく」としている(青森県

[l])。

目標に対する取り組みには適用除外事業所は

ないが,年間lOOt以上の排出事業者(「政令」に

よる)で再生利用等への取組が「著しく不充分

であると認めるときは」,主務大臣は「必要な措

置をとるべき旨の勧告Jを行うことができ,「そ

の勧告に従わなかったときは,その旨を公表」

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食品廃棄物問題と 「食品リサイクル法」の課題

でき,その後も「正当な理由がなくてその勧告

に係わる措置をと らなかった場合」には,「その

勧告に係わる措置をとるべきことを命ずること

ができる」(第9条)。そして,この命令に違反

した者には 「50万円以下の罰金が科せられるj

(第26条)。

このlOOt以上の対象事業者は, 1万6,000業者

で\食品関連事業者約100万業者の1.6%である

が,食品廃棄物全体の約6割を排出している(青

森県[l])。

③再生利用等促進のための制度

これら再生利用等を促進するために,①「登

録再生利用事業者」の登録,②「再生利用事業

計画」の認定制度が新たに導入された。

まず,「再生利用jを促進するためには,「食

品循環資源の再生利用事業を行う事業者の育成

等が重要であJる(山田[11])という観点から,

「登録再生利用事業者」の登録制度が新たに設け

られた。

これは,「食品循環資源を原材料とする肥料,

飼料」,その他政令で定める製品(具体的には「油

脂及び油指製品」,「メタン」)(これらを 「特定

肥飼料等」としている)の 「製造を業として行

う者jで\一定の要件を満たす者は,「その事業

場について,主務大臣の登録を受けることがで

きる」 (第10条)というものである。これによっ

て,「食品関連事業者にと っては,再生利用を確

実に実施し得る優良な委託先の選定が容易にな

る」 (山田[11])とされている。

また,「『再生利用』の促進には,リサイクjレ

製品の利用までを含めた,計画的かっ当事者相

互の連携が確保された再生利用の実施を促進」

することが必要である(山田[11])という認識

から,「再生利用事業計画」の認定制度が新たに

設けられた。

この制度は,排出者,再生利用製造業者,利

用者の三者によって計画されるものであり, ①

食品関連業者(「食品関連事業者又は食品関連事

業者を構成員とする事業協同組合その他の政令

で定める法人」)は,②特定肥料等の製造業者

37

(「特定肥飼料等の製造を業として行う者」)と③

特定肥料等の利用者(「農林漁業者」「又は農林

漁業者を構成員とする農業協同組合その他の政

令で定める法人」)と共同して 「再生利用事業の

実施」及びその「事業により得られた特定肥飼

料等の利用に関する計画jを作成し,主務大臣

に提出し,認定を受けることが出来る,という

ものである。 主務大臣は,一定の要件を満たし,

「再生事業計画を確実に実施することができる

と認められ」,「製造量に見合う利用を確保する

見込みが確実であるj場合には,これを認定す

る(第18条)。

これらの登録は任意であるが.登録を受ける

ことで,「手続きの簡素化を図る観点からJ,「肥

料取締法」「飼料安全法」に規定された製造,販

売等の届け出が不要になる他 (農水省[5]),「廃

棄物処理法」の特例として,「市町村の区域を越

えて再生利用事業を行う者の事業場まで一般廃

棄物を運搬する場合に,運搬先市町村の許可」

が不要になる(山田[11])。

(3)食品廃棄物政策の問題点

食品リサイクjレ法の制定により,これまでと

比較すると,食品廃棄物に対する取り組みは大

きく進展したといえる。しかし,食品リサイク

jレ法にも今後の取り組みを進める上で\いくつ

かの課題が存在する。

ここでは,その問題点について見ていきたい。

まず;第 lに挙げられるのは,「食品廃棄物等」

として,食品製造業.食品流通業,外食産業,

家庭のそれぞれから発生する食品廃棄物を一括

して lつの法律で規制しているという点であ

る。また,不可食部分と可食部分も区別せずに

規制している。

これらの各発生源によって,「発生要因」や「発

生形態J,「発生する廃棄物の内容」,「社会に与

える影響」は異なっている。そのため,食品廃

棄物政策を考える上では,物性や技術的側面の

みから考えるのではなく(例えば,「有機性廃棄

物」一般.「生物系廃棄物J一般),これら発生

源別に政策を組み立てる必要があるだろう。

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第2に挙げられるのは, 20%の削減目標の評

価である。この点に関しては,坂口[6]は,「す

でに高い率を達成している企業と達成していな

い企業が共同で『再生利用事業計画』を立てれ

ば, - -努力せず目標が達せられてしまう」と

いう点を指摘している。

また, 20%の目標値では.食品製造業に対する

規制が空洞化しているという点である。前掲表

lで見たように,平均的にみると,食品製造業

のリサイクル率は50%近くになっており, 20%

のリサイクjレ目標では,製造業は実質的に法の

対象事業者に含まれない。しかし食品製造業

の原料は輸入農水産物に大きく依存しており,

後述するように.現状でリサイク/レを進めるこ

とは,海外からの輸入有機物を圏内農地に大量

に還元する必要性を発生させる。そのため,食

品製造業の中でも特に輸入原材料に過度に依存

した部門に関しても,廃棄物発生抑制対策が必

要となる。

第3に挙げられるのは, 日本の食品廃棄物政

策の最大の特徴は, ゴミの発生そのものを抑え

るのではなく,発生したゴミをいかにリサイク

ルするかという「リサイクjレ対策」が重視され

ている点である。「基本方針」では,発生の抑制

は最優先事項とされている。しかし食品リサ

イクル法では' 2006年度を目標に20%の削減を

求めているが,この削減方法は.「リサイクjレ」

「発生抑制」「減量化」のいずれの手法をと って

も良いことになっている。

そして,そのリサイクjレでは,堆肥化 ・飼料

化によるリサイクル,すなわち農業 ・農村にお

ける利用が推進されている。 2001年度の農林水

産省関係予算案でも,食品リサイクjレ推進とし

て,「食品リサイクル技術開発事業」 2億1,000

万円,「食品リサイクル施設先進モデル実証事

業」 16億2,500万円,「食品残さ等飼料化システム

モデル事業J6,000万円,「未利用資源、リサイクjレ

システム確立事業J6億1,500万円と, 主要なも

ので約25億円が食品廃棄物のリサイクル技術の

開発に計上されている(「日本農業新聞J2000年

12月23日付)。

現実にも,食品産業の個 の々企業や市民レベ

jレでは,食品廃棄物の堆肥化 ・飼料化にむけた

様々な取り組みが行われており,この点は積極

的に評価する必要がある。しかし,生産された

堆肥の利用が.需要と供給のそれぞれが求める

質や量,そして地理的な議離によって様々な困

難を抱えており,作られた堆肥が利用されない

という問題が起きている。例えば,ホテル ・

ニューオータこでは, 99年5月からコンポスト

プラントを稼働させ, 1ヶ月分の生ゴミ約

150tから20tの堆肥を生産しているが,堆肥は

余りぎみであり,ホテル内の庭園やハーブ園で

利用しているという(「毎日新聞」 1999年8月26

日付)。

さらに重要な点は,個々の主体が独自に行う

「リサイ クノレ」にむけた努力が食品廃棄物を発生

を拡大し,全体としての地域ごとの有機物収支

の不均衡を拡大させているという点である。

まず,食品廃棄物のいわゆる「リサイクjレj

による農地への還元は,いわゆる「循環型農業」

とは全く異なる。なぜならば,一方では大量の

輸入飼料,輸入食料に依存した食料供給が行わ

れており,他方では専作的な野菜 ・畑作経営が

大量の食料を全国に供給し,聞場の有機物が流

出している。

このような輸入飼料,輸入食料に依存した食

料供給,すなわち海外からの膨大な有機物の流

入が行われている中では,有機性廃棄物の農地

への投入は,第 1に,国内の農地にはそもそも

過剰な有機物量の投入である。そして,第2に

は,過剰化する有機物の不足する農地への「移

動」であり, 一定の「範囲」内での物質循環の

構築という「循環型農業Jではない。そこでは,

圧倒的な供給過剰状態の下で\地域的に発生す

る有機物の過剰と不足を,人為的に調整する活

動と限定してとらえる必要がある。

そのため, リサイクjレを進めることで,予定

調和的に地域における有機物収支の均衡が達成

できるものではない。さらにリサイクjレという

手法による問題の一時的な「解消」は,大量の

飼料や食料の輸入によって引き起こされた日本

pu

n《υ

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食品廃棄物問題と「食品リサイクル法」の課題

における有機物収支の錯乱を,より拡大再生産

する条件を作り出している側面もある。

さらに,農業生産の担い手が脆弱する中では,

農地が有機性廃棄物の単なる廃棄場になる危険

性がある。現在でも畜産経営では自家農地への

家畜糞尿の還元が行われているとはいうもの

の,畜産経営の一部では,実質的には農地が家

畜糞尿の廃棄場になっている場合がある。特に,

臼本の畜産においては,家畜の飼養頭数に対し

て絶対的に農地面積が少ないため,家畜糞尿の

処理問題が畜産地帯で大きな問題となってい

る。

このような問題は,食品リサイクjレ法の制定

によって,さ らに拡大する可能性がある。なぜ

ならば,前述したように,食品リサイクjレ法で

は廃棄物処理法の特例が認められており,市町

村の区域を超えて再生利用事業を行う者の事業

場まで一般廃棄物を運搬する場合に,運搬先市

町村の許可が不要だからである。このような特

例は,食料市場の広域化に対応して, リサイク

jレの範囲を広域化し, よりリサイクノレをしやす

くする条件になると同時に,無秩序な越境移動

は,有機物収支の地域的あるいは国内での不均

衡の拡大と,農地の有機性廃棄物の廃棄場化を

招く危険性を大きくしている。

この問題を解決する方策として,食品廃棄物

の生分解性プラスチックでの利用や,バイオガ

スでの利用等が指摘され,研究開発が推進され

ている。しかし生分解性プラスチックでの利

用も最終的には廃棄され,投入する農地を必要

とする。仮に.原料の内外価格差のもとで,輸

入原料に依存した生分解性プラスチックが大量

に利用された場合には,「廃棄物問題の有機化」

が発生する危険性もある。バイオガスにおいて

も,エネjレギーをとった後のメタン発酵消化液

は最終的に農地に還元する必要がある(北海道

バイオガス研究会[2])。

このように,食品廃棄物のリサイクルは,市

民レベルや個別企業レベjレでの取り組みを行う

時には問題は見えないが,国の政策として大規

模に行うには様々な限界があると考えられる。

39

5. おわりに

これまで検討してきたように, 日本の食品廃

棄物政策には様々な限界があり,多くの課題が

残されているといえる。最後に,食品廃棄物政

策の課題として,以下の3点を挙げておきたい。

第 lに,廃棄物の発生抑制対策を制度的に行

う必要がある。そのためには,廃棄物の発生主

体別に発生原因を解明する必要がある。例えば,

食品ロスに関しては,食品の流通過程に廃棄物

発生の要因が存在する。そのため,発生主体別

の発生原因の解明と,食品の動脈流通とリ ンク

した規制が必要となるだろう。

第2に,食料 ・飼料自給率の向上が必要であ

り,有機物フローの国境管理が必要となるだろ

う。この条件がなければ,市民レベルや個別企

業レベルで行われている食品廃棄物のリサイ ク

jレの取り組みは,現在の食料 ・飼料輸入による

有機物収支の国内的・国際的な不均衡を拡大さ

せ,農地を有機性廃棄物のゴミ捨て場にしてし

まう危険性があるからである。そのためには,

第 lの点と同様に, 「食品における動脈流通と静

脈流通の関連」を重視した政策が必要であろう。

第3に,発生した有機性廃棄物をし、かに物質

循環の経路にのせるかというリサイクjレシステ

ムの取り組みが重要になる。

そこでは,コスト負担の問題や解決すべき

様々な技術的な課題も多いが,重要なのは,調

整主体の必要性とその調整主体が有機物循環の

プロセス全体を把握し. コントロールできるよ

うな「狭しリ範囲でのリサイクjレの取り組みの

必要性である。そのためには.基本的には有機

性廃棄物の越境移動の制限が必要である。また,

広域的な調整が必要な場合には.その地域の発

生量と受け入れ可能量を明確にし調整を行う

必要がある。農村部では個々の農家の取り組み

では地域における有機物収支が計測できないた

め,農協や地方自治体の役割が重要となろう。

さらに,そこで必要とされるリサイ クル処理

は規模の経済が働くと考えられるものの,発生

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源と利用者の地理的分散性を考えた場合大型

の施設による集中的な処理ではなく,小規模な

施設の分散した立地がより効率的であると考え

られる。

参考文献

[ 1 J青森県『青森県の食品関連事業者のためのわかり

やすい食品リサイクル法』 2002年3月。

[ 2 J北海道バイオガス研究会監修『バイオガスシステ

ムによる家畜ふん尿の有効活用』酪農学園大学エク

ステンションセンター, 2002年 3月。

[3]泉谷虞実 「浪費型市場構造の転換」(中嶋信・神田

健策編著 『21世紀食料・農業市場の展望』筑波書房,

2001年)。

[4]工藤昭彦「循環型社会形成に向けた 『食』と『農』

の法制度的枠組み」『農業と経済』 2002年7月号。

[5]農林水産省『食品関連事業者のための食品リサイ

クル法』食品産業センター, 2002年。

40

[6]坂口洋一 『循環共存型社会の環境法』青木書店.

2002年。

[7]食品廃棄物リサイク/レ研究会 「食品廃棄物の発生

抑制とリサイクルの推進方策について」 2000年3

月。

[8]牛久保明邦「食品産業廃棄物の実態と再資源化」

『園場と土壌』 355, 1999年 1月。

[9]山本憲孝「食品ロスを考える視点と米国での取組

の現状」『フードシステム研究』 10(1996)。

[10]吉田泰治「『供給』と『接取』の差について」(『食

糧管理月報』第39巻第3号 1987年)。

[11]山田明徳「食品循環資源の再生利用等の促進に関

する法律について」(『ジュリス ト』No.1184, 2000

年)。

[付記]本論文は.文部科学省科学研究費補助金

研究「食品廃棄物対策と畜産糞尿対策の整合

化のための制度構築に関する研究J(課題番

号 14760139)の成果の一部である。