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機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度β-1,3-1,6-グ ルカンの開発 誌名 誌名 応用糖質科学 ISSN ISSN 21856427 巻/号 巻/号 21 掲載ページ 掲載ページ p. 51-60 発行年月 発行年月 2012年2月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度β-1,3-1,6- …1 DAISO CO., LTD., 9 Otakasu-cho, Amagasaki, Hyogo 660-0842, Japan 2 SANYO FINE CO., LTD., 9 Otakasu-cho,

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機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度β-1,3-1,6-グルカンの開発

誌名誌名 応用糖質科学

ISSNISSN 21856427

巻/号巻/号 21

掲載ページ掲載ページ p. 51-60

発行年月発行年月 2012年2月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度β-1,3-1,6- …1 DAISO CO., LTD., 9 Otakasu-cho, Amagasaki, Hyogo 660-0842, Japan 2 SANYO FINE CO., LTD., 9 Otakasu-cho,

応用糖質科学第 2巻第 1号 51-60(2012) 三J~&.G

-受賞論文一

1. はじめに

Research and Development of s-1 ,3-1 ,6-Glucan from Black Yeast for a Functional Food Ingredient'

機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度。-133-1,6-グル力ンの開発*

(2011年 什 月 30日受付)

鈴木利雄 1,ぺ西川孝治¥中村誠司 1鈴木隆浩 2

(すずきとしお,にしかわこうじ,なかむらせいじ 3 すずきたかひろ)

Toshio Suzuki,1,仲 KojiNishikawa,1 Seiji Nakamura 1 and Takahiro Suzuki2

1 ダイソー株式会社 R&D本部新事業推進部660-0842 兵庫県尼崎市大高洲町 9番地

2 サンヨーファイン株式会社660-0842 兵庫県尼崎市大高洲町 9番地

1 DAISO CO., LTD., 9 Otakasu-cho, Amagasaki, Hyogo 660-0842, Japan 2 SANYO FINE CO., LTD., 9 Otakasu-cho, Amagasaki, Hyogo 660-0842, Japan

要旨 黒酵母 Aureobasidiumpullulans1A1株が, s-ク。ルカンの中でも免疫賦活活性の特に高い

s-1ム1,6目グノレカンを分泌産生することに注目し,高純度で低粘度な可溶イ七日ーlム1,6-クツレカン食品

素材『アクアsT:VIj]を開発した。次いで, ~アクア ßTMj]が腸管免疫に対する免疫賦活調節効果を

有することを確認した。具体的には,抗臆療活性ならびに抗癌転移活性を有すること,食物アレ

ルギー改善効果を有すること,便秘改善効果を有すること,抗ストレス効果を有すること, JJ易管

粘膜の保護作用や食後血糖の低減効果を有することを明らかにした。さらに,最近では胃潰療の

低減効果を確認するとともにヒートショックプロテイン70 (HSP70) の誘導効果を見出した。

キーワード 黒酵母, sグノレカン,腸管免疫,抗ストレス,ヒートショックプロテイン山

されつつある九

s-1,3-グ、ノレカンはキノコに含まれる成分として古くから

知られており,抗腫場活性があることが報告されている 1-4)。

レイシなどは漢方薬として伝承され,またスエヒロタケか

ら得られるシゾフイラン (Schizophyllan),シイタケから得

られるレンチナン (Lentinan) は,それぞれ戸】1,6分岐構造

を有するか1,3-グルカンを主成分としており,注射薬の抗癌

剤として現在も製造販売されている。

我々は黒酵母 Aureobasidiul11pullulansの 1菌株が, s-1リラ,3

グ、/ルレカンの中でで、も免疫賦活活性の特特'fにこ高しい、 s-1,3-1,6クツレカ

ンを分泌生産することに注目し,高純度で低粘度な可溶化

戸町1,3-1,6-グルカン食品素材を開発し,商品名『アクアsTMj]

として市場に提供している(表1)。既に『アクアsTMj]が

腸管免疫に対する免疫賦活調節効果を有すること 6.7)をはじ

めとして,抗腫場活性ならびに抗府転移活性を有すること 8)

食物アレルギー改善効果を有すること 9) 抗ストレス効果を

有すること 10) 腸管粘膜の保護作用 11)や食後血糖の低減効果

を有すること 12) その他 3 マダイを用いた養殖魚への抗病

性の強化に関して効果のあることも明らかにした 13)。 さら

に,最近では胃潰療の低減効果を確認するとともにヒート

ショックプロテイン 70(HSP70)の誘導効果を見出した14)。

キノコ由来以外の s-1,3-グノレカンとしては, s-1,6分岐構

造を有するパン酵母や黒酵母由来のものが知られている。

その他,分岐構造は有さず s-1,3結合と s-1,4結合の繰り返

し構造を主鎖に有するカラスムギや大麦由来のものや,

s-1,3結合と s-1,6結合の繰り返し構造を有するラミナラン

のような海草由来のものが知られている。しかし,免疫賦

活という観点からは,その分子レベルのメカニズムの詳細

解明がなされていないのが現状である。近年, s-1ム1,6グ

ノレカンに関してはマクロファージ上のレセプターが報告さ

れており,自然免疫を賦活する重要な抗原物質として注目

本稿では, ~アクアザMj]の生産法,安全性,そして種々

の生理機能について紹介する。特にストレスと免疫の関係

について詳細に報告するとともにヒトでの効果についても

紹介する。

*本原稿は,日本応用糖質科学会平成23年度大会の技術開発貰受賞講演で一部発表された。

州連絡先 (Tel.06-6409-0805, Fax. 06-6409-0794, E-mail: [email protected])

***fくeywords: Black yeast, s glucan, intestinal immunity, anti stress, heat shock protein

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第 1号 (2012)

2.2 sグルカンの回収・精製

戸グノレカンを含むl古養液は数千 mPa's以上の高粘度を示

すことから,容易に微生物を除去することが岡難であったo

Pク、ルカンは中性では三重らせんのリジッドな構造をとっ

ており 3 アノレカリ条件では一重らせんのランダムコイノレ構

造をとることを利用して 1) 培養液をアノレカリ条件にするこ

とによる低粘度化法を開発した。その結果,フィノレタープ

レスにより容易に除菌でき,さらに透析工程を経て,アル

コール沈澱法による,戸グノレカンを高純度に回収する量産化

に成功した。

エタノーノレ沈澱法により回収された pグルカンの定量は,

グルコースを標準物質としたフェノーノレ硫酸法により測定

した。構造解析は 13C_1H 2次元 NMRにより行った。すな

わち 4.8ppmと4.5ppmに現われる s-l,3結合と s-l,6結合

のC(1)田 Hシグナノレ積算値から,。ー1,3結合をま鎖に s-1,6結

合の側鎖を有していることが示され,その分岐度は 90%以

ヒの高分11皮度であることを確認した(図 2)。また,エキソ

型 s-1,3-クツレカナーゼによる酵素分解生成物の解析から,グ

有している 16)。従い,発酵工程においてアスコルビン酸の

安定維持は,日グノレカンの生産性と品質維持に重要なファク

ターである。

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12

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B

6

4

2

図1. 黒酵母のpグノレカン産生培養プロファイノレ

私I~f濃度はフェノールー硫酸法による測定値を示す。

120

第 2巻

アクアpのNMR解オ斤

60 80 100

培養時間(h)

応用糖質科学

40

図 2.

20

120

100

n

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u

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EBE)劇撰制

(QO)制送樋

2.1 発酵生産について

図 l に p グノレカンの発酵生産プロファイルを/~す。 A

pullurans 1A1 株(以後, lA1株と略す)は,好気的条件で

はショ糖を炭素源として培養した場合に,ショ糖はクツレ

コースとフラクトースに分解され,グ、ルコース次いでフラ

クトースの順に資化された。それに伴って日グルカンを産生

した。さらに,培地にアスコルビン酸を添加することによ

りその産生量は向上し安定した。そして, sグノレカンのj草生

にHい培養液の粘J.:!tは最終的には数千 mPa's以上にまで上

昇した。 1A1株は不完全菌に属し一般的には菌糸{みを呈す

るが,高生産時の菌形は酵同様を呈しており,これが黒酵

母の所以である。また本菌は培養後期に黒色のメラニンを

産生するが,アスコノレビン酸はその産生を抑制する効果も

我々は,黒酵母 A.pu/lu/ansによるs-1,3-1 ,6ーグルカンの発

酵生産に若手ーした。木発酵生産は,ショ:陪を単一の炭素源

とする食品として安全な培地で実施できたが,得られた培

養液は粘度が数千 mPa's(cp) に達した。そこで,金属塩

濃度, pH,そして温度条件等を調節するユニークな特殊処

理技術により 2 培養液の低粘度化に成功し,工業スケーノレ

において低粘度かっ高純度 s-1,3-1 ,6ク守ルカン(以後, sグ

ノレカンと略す)の安定な発酵生産法を確立した。

アクアロHHUン

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アクアp アクアp アクアp高純度ノξウダー 水溶液 発酵液

タ卜観 淡黄色 淡黄色 淡褐色

非結晶性粉末 透明 透明

戸1,3-1,6ークツレ 80%以上 2gIL 5gIL

カン(%)' 以上 以上

口"口 水分(%) 8.0%以下

質 pH 3.0以上4.0以下榊

特 20ppm以下 O.4ppm 以 F

ι~~七 批素'牟. 2ppm以下 O.2ppm以下

カドミウム山 0.1 ppm以 F

スズ叩 150ppm以下

大腸菌Vf 陰性 陰-r生

一般性関数 lOOO![/iVg以下 30![政mL以下

製法概略 培養液を除菌 同純度パ 府養j伎を

後,エタノール ウダーを 除菌後,

処理zによる精製 溶解した 透析,濃

粉末 7J<i州支 給した発

酵?i主

備考 オ(,納品ロットごとに上記品質規絡頃目の試

~)\1減績表を一吉[1提1[:\する。

有効成分s-1ム1,6-ク、/レカン含量を保守ι表は特性値で、あり 2

保証値で、はありません。H クエン酸にて pHf'J母撃。山ICP発光法

により測定。

『アクアsIMj]の製品および規絡

品名

表1.

.52・

2.

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鈴木他:機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度戸-1,3-1,6-クルカンの開発 .53・lHR$4kn. 1

}旧44らoh「 J ヰま;;:Js-16-

a>0.9 β一1,3-結合

図 3. 予測されるアクア戸の構造

表2. ~アクアßTMJI の食品および化粧品素材としての安全院

古式験項目 アクア P 種士J~ 評{山ー文、l象 結果

急性総口毒 アクア sl.7%7J<i容液 マウス LD 50 > 1360 iド1:試験 m凶(g(B.w.)

アクア日パウダー マウス LD 50 > 2500 (2%クソレカン粉末 m凶(g

(l'音養液十CDのスプ

レードライ))

281ヨ反復経 アクア Pパウダー ラット 5 ダkg (B.w.)

日投与吉式訪食 (5w悦) /day

問題なし

皮膚感作性 アクア sO.2%水溶液 モノレモット 問題なし

誌験

皮膚一次mlj アクア sO.2, 0.5%水 モルモッ卜 問題なし

i鮒生同験 溶液

11良粘膜刺激 アクア sO.2%水溶液 ラット 問題なし

性副験

連続皮膚刺 アクア s0.2, 0.5%水 モルモット 問題なし

激.,生前験 溶液

ヒトパッチ アクアFローション ヒト 問題なし

前h'fri (0.2%クソレカン水溶

i夜60%出己合)

高純度。グ‘/レカン

2%ο0%1,3-BG 7J<i容

i向

ノレコースとゲンチオビオースを生成物として確認し,図 3

に示す構造であると推定した。産生する pグノレカンの分子量

は,プルランを標準物質とし,水酸化ナトリウムを展開溶

媒とするゲルクロマトグラフィ一分析により,数万~30 万

の低分子戸グルカンであることが明らかとなった。また,本

。グノレカンは一部スノレホ酢酸基により置換されており,その

合量はイオウ原子の元素分析の結果から約 0.1%と推測さ

れた16)。興味深いことに,このようにして得られた可溶化 P

グ、/レカンは,水溶液中では一部超微粒子(く200nm)を形成

していることも明らかとなり,腸管免疫の賦活化に有効な

粒子サイズであることが示唆された1)。そこで我々はその特

徴・効果を実証すべく,後述する生理機能について検討を

進めた。

2.3 安全性について

戸グルカンを産生する黒酵母 A.pu/lulansの府養液は食経

験があり,増粘安定斉IJとして「既存食品添加物j に登録さ

れ,食品に利用されている安全な素材である。2004年 6月

の厚生労働省財団法人 H木食品化学研究振興財団による

「既存添加物の安全性の見直しに関する調査研究」において,

90日間以との反復投与試験および変呉原性試験で問題ない

こと(陰性であること)が報告され,食品としての安全性

が改めて証明されている 17)。我々も本 s-l,3-1,6-グノレカン食

品素材『アクア日TMJIが安全性の高い食品で、あること,さら

に化粧品素材としても安全であることを線認した(表 2) 。

このように,我々は黒酵母由来の高純度かっ低粘度のpクール

カン食品素材を提供することになった。

3. ß-1 , 3-1 , 6-グル力ン『アクア日TM~ の生理機能について

我々 は, ~アクア戸TM .ß (以後,アクア戸と略す)による

動物を用いた経口投与実験において,種々の生問機能を確

認し,新たな機能を見出した(図的 。以下これらについて

紹介する。

3.1 腸管免疫賦活効果について6.7)

アクアpのJI易管免疫賦活・調節効果に閲しては,日木大学

資源、生物科学部の上野川教授らとのマウスを用いた動物実

験により評イ附した。

マウスの P巳yer's patch (パイエノレ板)に由来するリンパ

球を用いた細胞レベルの invitro実験では,アクア戸濃度

が, 0~200 問/mL において量依存的にイムノグロプリン A

(IgA)の産生が見られ, パン酵母由来のザイモサン (ZYM)

や細菌の炎症性物質 (LPS) と比して高い賦活効果が見られ

た(図 5)。同時に,インターロイキン(JL)-5や IL-6の

サイトカンイン産生も確認できた。 111 VIνo実験では,アク

ア戸をマウスに 7 日間日マウス kg あたり 10~20 mg経

IJ投与 し,8日目にマウスのパイエノレ板由来のリンパ球をtIll

グ守EE、3璽〉匂霊う(き重う〈盈D免疫力のアップ ストレスの低減 下痢の低減 保湿機能アップ抗腫舟田抗がん転移 便秘の改善効果 胃潰嬉低減 バリア機能改普

アレルギの低減 食後血絡の低減 HSP70の誘導 肌のJ、リ改善

メヲポ改善

図4. アクアpの種々の生理機能

350 判ド

調ド

ぎ250ム 上 * OJ

主 200

~ 100 語"円』 ~_D; Glu 0 Glu 50 Glu 100 Glu 200 LPS20 Zym100

アクアF添加量(同/mU

図 5. アクア戸による IgAの産生 (il1vilm)

Gluはアクアs,Zymはノ寸ン酵母由来の戸グノレカンであるザ

イモサン, LPSは細菌由来の炎症性物質を示す。〉く 0.05

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。正常マウス Colon26移植マウス

o 0 25 50 アクア日投与量(mg/kg)

正常マウス Colon26移値マウス

o 0 25 50

アクアo投与量(mg/kg)

アクア戸の経口摂取による抗腫療効果(a)および抗癌転移効果(b)図 7.

アクア日の総会口投与における IgAの産生

(川 νivo)

半pく 0.05

図 6.

5

A-寸uge也叫辛苦〉O

ス OVAを役与したマウス 。正常マウス

o 0.25 0.5 1.0 0 0 0.25 0.5

アク7s含有率(%) アクア日含有率(%)

アクア戸の経口摂取による卵白アルブミン (OVA)特異的 IgEの抑制効果

3

2

80 70 60

UJ 50 豆)40 3語30

20 10 0 正常マ

O

EJlINF-y陽性細胞

ρ<0.05

正常マウス Colon26移植マウス

o 0 25 50 アクアF投与量(mg/kg,p.o.)

.NK陽性細胞

ρ<0.05 400

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1

(司一由

-LE由』

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議型寝起墜

50

効呆を検討した。

その結果,マウス経口投与試験では, 50 mg/kgの低濃度

において有意 (pく 0.05) に原発臆蕩抑制と肝臓への癌転移

抑制効果を明らかにした(図 7)。さらに,腸管でのその作

用機構を明らかにするために 3 小腸を中心とするJJ易管免疫

機能を検討したところ,インターフエロン Y(INF-y) 陽性

細胞数が顕著に増加していた。すなわち,小腸粘膜組織か

らの INF-y産生の増強を通して,抗腫蕩および抗癌転移効果

を発揮したものと推測した。ナチュラルキラー (NK)活性

も増強する傾向が見られた(図 8)。その他,臆蕩移摘に伴

うマウス胸腺の減弱や体重低下なども抑制されており,

クア日が免疫活性を増強することが示された。

このように,高純度の戸グノレカンが,経口投与において腸

管免疫を活性化することにより INF-yの産生と NK活性を

増強して,抗腫蕩活性と抗癌転移活性を示すことを笑記し

たのは本研究が初めてである。

図 9.

アクアpの経口使取による小腸粘膜の

IFN-y陽性細胞およびNK陽性細胞数

図 8.

3.3 抗 I型アレルギー効果について9)

I型アレノレギーに対するアクアpの効果について,愛媛大

学大学院医学研究科の阪中教授らとの共同研究により検討

を行った。

マウスにアクアp含有飼料 (0,0.25, 0.5および 1.0%)

を試験期間中(37日間)自由摂取させた。 16目白および 30

日目に 3mg卵白アルブミン (OVA) 生理食塩溶液を腹腔

内投与し, 37日目に OVA15 mgを経口投与することによ

り, OVA食物アレルギーを誘導させた。その結果,アレ

ルギー誘導により増加した OVA特異的 IgEが,アクア0の

自由摂取により抑制されており, 1%含有飼料マウスでは有

出し,その IgA産生量を測定した。アクアpは腸管免疫に作

用して腸管の免疫組織であるパイエノレ板などのリンパ球を

活性化するとともに,腸管での種々のサイトカイン類や IgA

の産生誘導を促進することを明らかにした(図 6)。

さらにアクア戸による腸管免疫の賦活効果は,乳酸菌との

併用でも相乗効果が認められた。111 vitro実験において,ア

クアpと植物性乳酸菌である LactobacillusplantarunJ とを,

マウス腹腔より抽山したリンパ球へ与えたところ, IgA ~主生

を相乗的に高めることも明らかにした18)。

以上の結果から,アクア日が経口投与において腸管免疫に

作用し,腸管のパイエル板由来のリンパ球を活性化すると

ともに,腸管での種々のサイトカイン類や IgA産生誘導を

促進することを明らかにした。腸管は免疫の最重要リンパ器

官として知られており,その大きさはヒ卜ではテニスコート

一面分といわれている。腸管は,外界からの感染の第一線

の砦として草要で,その免疫機能の活性化は細菌やウイル

ス感染予防との関係が深し、。最終的にはJJ易管免疫から全身

免疫を賦活することが示唆されており, ウイノレスや細菌の

感染予防剤として利用が期待される。

3.2 抗腫蕩および抗癌転移効果について8)

愛媛大学大学院医学研究科の阪中教授らとの共同研究に

より,アクアpの抗腫場および抗癌転移効果について検討を

行った。10,000細胞数の colon26癌細胞をマウス料臓に移

植し,原発腫療に対する抗腫湯効果と肝臓への癒転移抑制

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鈴木他:機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度 s-1,3-1司 6-グルカンの開発 .55・

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Zω〈)霞向山総定出回以臨-一同

:意な減少が見られた(凶 9)。

また牌臓リンパ球で、は, INF-y, IL 12産生増加の Thl有意

な応答が見られ,さらに小腸粘膜組織において, CD8陽性,

INF yl湯十tおよび IgAI場性細胞の増加が見られた(図 10)。

これより,アクア戸は OVA摂取による食物アレノレギ一反応

に対して,その原因となる OVA特異的 IgE産生抑制し, Thl

応答に傾倒するメカニズムにより,抗 I型アレノレギー効果

を示すことが明らかになった。また OVAにより誘導された

食物アレルギーに対して減弱 した腸管免疫システムを

CD8-T細胞, IgA I場性細胞,そして INFy陽↑生細胞を増加さ

せることにより,細菌やウイルスの進入から防御している

ことが示唆された。

3.4便秘改善効果について 19)

アクアpの花粉症への抑制効果について,担内モニターア

ンケー卜を実施検討中lこ3 偶然に被験者らに便秘改善効果

を見出すことができた。そこで,モノレヒネ誘導による便秘

改普を指標にそのメカニズムの検討を行った。モルヒネは,

オピオイド受容体をブロックすることから,腸管の!嬬動運

動を止めることにより便秘を引き起こすことが知られてい

る20)。

そこで,ラットに便通抑制作用のあるモノレヒネを経μ投

100

録~ 80 ln'1 てコ

事さ 60ト的

cb W 40 O~ U 20

日正常マウス OVAを摂取させたマウスo 0 0.25 0.5 1.0

140 議 120害容 100

量豊 80~~ 60 干 δLL、J

Z 40 20 O 正常マウス。

100

起重量き‘ 680 0

王5川EEL¥2Z 40

EtSS1とqユ 20

ポ 200

図10. アクアpの経口摂取による小腸粘膜の

CD8-T細胞 INF-y陽性高IIIJ泡および IgA陽

性細胞数

与して,カノレミンという色素を排便マーカーとして用いて,

色素が便中に出てくるまでの時間をアクア戸投与群と非投

与群で比較した。アクアp投与若手では,ラット kgあたり 30

mgで有意に使の遅延を改善して,便通改善効果が得られた

(図 11)。一方, 300mgで量依存的な効巣が見られなかっ

たことや,低粘度化していない高分子の pグルカンでは効果

は見られなかった。これは低粘度な s-グノレカンであるアク

ァpが,腸管において作用しやすいことを示唆している。

3.5 自律神経系への作用について 19)

前項の便秘改善効果のメカニズムを明らかにする目的で,

アクア戸の十二指腸投与による自律神経への作用について

検討を行った。この研究は株式会社 ANBASの永井先生(大

阪大学名誉教授)の協力を得て行った。自律神経とは,内

臓・血管・リンパ腺などに広く分布する神経で,消化・排

池・内分泌などの生命維持に必要な機能を調節している。

この 自律神経系は,体を活発に動かす時に働く活動型の交

感神経と,休息、型の副交感神経により相互作用によりコン

トローノレされている。なお,消化活動は副交感神経により允

進調節され,消化系臓器が活発に働くことが知られている。

絶食のラットに麻酔をかけた状態で腹部を聞き,アクアp

を 1~10μg/mL 濃度に溶解した水溶液を十二指腸から投与

した。胃の自律神経系に電極をセットし,その電位により

宵の自律神経系の興奮度を測定した。その結果,図 12に示

すように,胃の副交感神経が水を投与した;場合よりも有意

にJc進されることが石

15

14 1 -

f 、13ぷこ

距 12

密 11烈省主 10 +

埋il 9

*本*

7 コントモルヒネ 30 300 30 300 ロール (高分干)(高分子)(低分子)(低分干)

アクア日投与量(mg/kg)

図11. アクアPの経口摂取によるモノレヒネ誘導便秘の排便改善

*p<0.05, **p<O.O 1

p < 0.0005

時間(分) 時間(分)

図12. アクアpの経口摂取による自律神経系に与える影響

Page 7: 機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度β-1,3-1,6- …1 DAISO CO., LTD., 9 Otakasu-cho, Amagasaki, Hyogo 660-0842, Japan 2 SANYO FINE CO., LTD., 9 Otakasu-cho,

.56.

善努J呆との関連が深く,アクアpを摂取することにより, 自

律神経系において副交感神経優位な状態を引き起こしてい

ることが判明した。また,ストレスを制御している副腎に

対しても同織の方法で,自律神経の興奮状態を測定した結

巣,高IJ腎では交感神経の興奮度を減衰した(図 12)。すな

わち,ストレスの緩和lを示唆する効果が得られ,後述のア

クア F のストレス低減効果で、詳~:11Iに検討された。 アクア p

の免疫系,内分泌系,そして自律神経系における作用メカ

ニズムは,大変興味深いものと考えられた。

3.6 食後血糖低減効果について 12)

メタボリツクシンドロームなどの作活習慣病に対する関

心が高まり,戸グノレカンのコレステローノレ低下作用やIW_糖|二

昇抑制作用への注目が集まっている。米|主|では,オーツ麦

l到来および大変由来の pグノレカンに対して,冠状動脈心疾患

のリスク軽減効果の表示が許可されている。キノコ類,酵

母,海藻由来の 0グノレカンについても,血糖上昇抑制効果に

ついて言及されているが,詳細な研究報告は少ない。そこ

で,クツレコース経口投与後の血粉値上昇に対するアクア戸の

影響について,愛媛大学大学院医学研究科の木村先生との

共同研究により検討した。

アクアpを l日あたりそれぞれ 50,100, 200および500

mg/kgマウスとなるように,朝晩 (7・00および 19:00)言1-2回2

7日間経口投与した。 8日目に 4時間以上の絶食後,アクア

p含有水溶液に次いで、クソレコース水熔液(Ioomg/0_2 mLlマ

ウス)をそれぞれ経口投与した。クールコース投与前 (0分),

投与後 15,30, 60および 120 分 l こ j毛 I的J!I~から微量採血し,

血糖値を測定した。

その結果,コントローノレ群で、はIIll精値は投与後 30分まで

上昇し,その後低下した。アクアs50mg/l宅投与群では,血

粉{直はグ、ルコース投与後 15分まで、上昇し, 30分後には血

糖値の低 I~ が見られ,投与後 60 分の血糖値はコントローノレ

群と比較して有意に低下していた(図 13)0 100 mg/kgおよ

び 200mg/kg投与群では,ク、/レコース投与後 15分から 30

分の血締値の上昇はわずかで,その後血糖値は低下し,投

与後 60分の血税{値はコントローノレ群と比較して有意に低

400

300 ー」てコロ3

E ~200

垣書軍司

一-0一一コントロール

--ーアクアs50 mg/kg

一寸「ーアクア日 100mglkg

一一金一一アク 7s200 mg/kg

一一口一一アウ 7s500 mglkg

OL ・o 30 60 90 120

時間(分)

図 13. アクアpの経口摂取による食後血粉低減効果

応用糖質科学第 2巻第 1号 (2012)

下していた。しかし, 500mg/kg投与群ではグルコース投与

後 15分から 30分にlIu新値がわずかに低ドしたが,投与後

60分に再び上昇した後,緩やかに血糖は低下した。

一方上記の投与試験に変えて,アクアp含有水溶液 (O.I~

1.0%) を用いた 7日間の自由摂取飲水試験も行った。 8日

間の糖負荷試験時にインスリン濃度の測定(グノレコース投

与後 15分後の値)を行ったところ,食後JIlL糖の上昇が拘]え

られる傾向とともに,血中のインスリン濃度が有意に低下

することを観察した。このように食後血糖値またはインス

リン濃度の低 Fが観察されたことから,アクア戸を食事に組

み合わせることで,食後血糖値やインスリン分泌量のコン

トロールに効果があることが示唆された。ヲ|し、てはメタボ

リツクシンドロームの低減に効果が期待で忌る。

4.ストレスと免疫調節効果について10)

最近様々なところで,ストレスやストレス社会という 言

葉が使われ,深刻な社会現象との関係、が報告されている。

過度になると胃潰療や精神疾病の原因になることも報告さ

れている21)。そもそもストレスは,人間のf;fが外界から受

ける色々な刺激に刻して反応するメカニズムを系統立てて

考えるために, R Sclycにより打ち立てられた学説である。

Scly巴らにより,ストレスは自律神経系とホルモン系に大き

な影響を与えることが知られていたが,ストレスは免疫系

に対しても大きな影響を与えることが示唆されている。

我々は,愛媛大学大学院医学研究科の阪仁1:1教J受らとの共

同研究により,アクアpがマウスを刑いた経口投与実験によ

り,顕著なストレス改善効果を持つことを見出した。さら

に,ストレスが免疫に与える影響についても明らかにした。

4.1 マウスへのストレス負荷と免疫評価法

強制絶食および強制拘束ストレス負荷を与えたマウスに

対して,アクアPがどのような影響を与えるか,について検

討を行った。マウスは l週間の順化飼育後, 7~またはアク

ァs(25, 50または 100mg/kgマウス)を 7日間連続で,

毎朝経口投与された。強制拘束は,通気孔をつけた 50mL

プラスチックチューブを用い,投与 3,5および 7日目の

19:00から翌朝 7・00まで 12時間行った。拘束鮮として,強

制絶食拘束群(その期間は餌と水を与えず,かっ強制拘束

を行う)の他に,比較のために強制絶食群(拘束はしない

がその期間は餌と水を与えなし、)を設け,飲食自由な正常

群(コントローノレ)と比較した。7日目(3回目の強制拘束

実施後)の拘束解除と同時に,エーテル麻酔下で無菌的に

牌臓を摘出し,下大静脈から採血を行った。採取した血液

は遠心分離して血艇を分離し,血中コルチコステロン濃度

の測定を行っ た。牌臓細胞を分離し,コンカナパリン A

(ConA)を 10μg/mLになるように加えて CO2インキュベー

タ (370

C,5%C02) でi音養した。 48時間後, .t音養上清を回

収し,培養液中の IL-12および IL-6の定量を行った。また

IJ中臓細胞からリンパ球を分離し, NK活性測定に供した。

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トでの効果を 2試験区ブラインドクロスオーバー試験によ

り検討した。被験者 28名に 2週間ドリンク (100mgア

クアp含有ドリンク,またはプラセボドリンク)を摂取して

頂き,飲み始め週間後, 2週間後に自覚的なストレス症

状を示すアンケート (VAS試験)と,唾液中のストレスマー

カーの測定を行った。その結果,アクア0の摂取により,唾

液中のコノレチコステロンは有意に減少した。さらに,疲労

感を主とするストレスを緩和させる働きがあることが示唆

された(図 15)。これはアクア戸の効果が,ヒトで実証さ

れた例である。

+57+

NK活性測定は, NK感受性のマウスリンパ腫細胞 YAC-1を

蛍光標識して標的細胞を調整し,得られたマウスリンパ球

とYAC-1細胞を 100:1になるようにマルチウエノレフ。レート

に加え, CO2インキュベータで 2時間培養した。回収した

培養上清の蛍光強度を測定し,標識 YAじl細胞の総蛍光強

度に対する割合を NK活性とした。

鈴木他:機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度 β1司 3-1,6-グルカンの開発

4.3 アクア Fによる免疫機能改善効果

牌臓細胞から分泌される IL-12は,絶食拘束ストレスによ

って著しく低下した。これは拘束ストレスにより,免疫機

能が著しく影響をうけることが明らかとなった。牌臓重量

は,強制絶食群および強制絶食拘束群において正常群より

有意に低 |ζしていた。

これに対してアクアp経口投与群では,絶食拘束ストレス

による IL-12低下を改善した(図 16)。特に 100mg/kg投

与群では, IL-12分泌量が絶食拘束群に比べて有意に上昇し

た。また,コンカナパリン Aで刺激した牌臓細胞において

も同様の結果が得られた。このアクアpの免疫機能改善効果

は, IL-6分泌量においても効果が認められた。なお,拘束

ストレスによる牌臓重量の低下改善に対しては,アクア戸投

与群に大きな差は見られなかった。

また,牌臓から分離したリンパ球の NK活性においても 3

4.2 アクア日によるストレス低減効果

ストレス度の指標である血中コノレチコステロン濃度は,

拘束ストレス(強制絶食拘束群)によって正常群よりも有

意に上昇し,強制絶食群だけでも増加する傾向が見られた。

これに対し,アクア戸投与群では,コノレチコステロン濃度の

上昇を抑制する傾向が見られた。特に 50mg/kg投与群では,

絶食拘束群および絶食群と比較して,有意なlIll中コノレチコ

ステロン濃度の上昇抑止が見られ,ストレスを改善する効

果が見られた(図 14) 。この結果,アクア戸 は3 マウスの

拘束ストレスに対して,経仁l投与により有意に改善効果を

示すことが実証された。

この結果を受けて,我々は社内ボランティアを募り, ヒ

300

....J

E cl E

:¥ 200

ロlトr<

2100 ...:>

円-グルカン群ロプラセボ群 1

(a) 0.5

ぜ0.45ロ3:::l-

型0.35

7、Tト=ミ 0.25n

0.4

0.3 。

アクアpの経口摂取による血中コルチコステロン量へ

の影響

図 14.

摂取0週 摂取2遇

摂取時間

(b)

0.2

0.8

0.4

。(f) 〈〉

喜一0.2

一0.4

0.2

0.6

一0.6

一0.8

,.0

f

~-:::­w主量I!u 6 2主'0どと..Jg'

警N ~ +酷¥ドノ」

~I'(d 二£

机J 2 「:実z、ノ

J之、R入円

8

ストレス評価項目

図 15. アクア 3含有ドリンク摂取によるヒ卜

でのストレス改善効果

(a)コルチゾール量推移, (b)摂取 2週スト

レス VASアンケー卜。うく0.05,料pく0.01

-

a

n

u

--ハU

群-帯一切附

bE聞

ud

ME拘一、,,加

2量

-

nU剣

t

-Etttsnnv

nuhノア

正常群|

4

~ 3 戸(

唱で曲

折J'a)漁 QくRる

千五324ョε~N 耳E六醤Z生且

正常群 i

アクア戸の経口摂取による拘束ストレス負荷マウスの免疫賦活効果

図 16.

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+58+

10

* * r一一一一一一一ー-圃 .... ロNK活性 ド一一一 三一一一一-1ーー8 I守 F

auマ

制十同一

v-z

。正常群拘束ストレスアクアβ アクアB アクアβ

負荷 (25m似日臼m休日 (1∞mg/kg)

し一一一アクアS投与群一一J

図I7. アクア日の経口摂取による拘束ストレス負荷マウス

のNK活性への効果

絶食群および絶食拘束群において著しい低下が見られたが,

50 mg/kgおよび 100mg/kg投与群では,絶食拘束ストレス

による NK活性の低下を有意に改善した(図17)。

以上のように,拘束ストレスを繰り返すことにより,血

中コノレチコステロン量の増加,牌臓重量の減少,牌臓から

のサイトカインCrL-6および IL-12)産生量の低下, NK活

性の低下が見られた。これに対してアクアpの経口投与によ

り,拘束ストレスによる血中コノレチコステロン量の増加を

阻止し,サイトカイン産生の低下, NK 活性の低下について

も阻止することができた。まとめると,コノレチコステロン

は,マウスにとってストレス暴露により上昇するマーカー

であることから,アクア戸が強度なストレスの低減に関与し

ていることが明らかになった。また拘束ストレスは,サイ

トカイン産生やNK活性のような免疫機能を低下させたが,

アクア日の経口投与により,拘束ストレス負荷で引き起こさ

れる免疫力の低下を改善することも確認できた。3.5で自律

応用糖質科学第 2巻第 1号 (2012)

神経系へのアクアpの影響について記述したように,アクア

Pは交感神経を減弱し,副交感神経を優位にすることから,

アクアpが3 自律神経系から免疫系に関して広くその効果を

有していること,そしてそれらの両系が関連し,インナーバ

ランスを保っていることが示唆された。アクア戸の内分泌系

への作用メカニズムも,やがて明らかにできると考えている。

5. 胃腸粘膜の保護効果について什,14)

アクア戸を経口投与することによって,胃腸粘膜の保護効

果を見出した。本効果は,胃腸粘膜に対して, sグ/レカンが

直接的な薬剤への接触を妨げることから起こると考えられ

たが,ヒートショック プロテイン 70(HSP70)の誘導産生と

ムチン多糖の産生促進に起因することが明らかとなった14)。

5.1 腸管粘膜保護作用について川

経口抗癌剤 UFTの副作用低減に関するアクアpの効果に

ついて,愛媛大学大学院医学研究科の木村先生との共同研

究により検討した。既に 3.2においてアクア日の抗腫蕩効果

について報告したので木検討では 3 その方法を基に UFT投

与による影響を検討した。

UFT投与では,その副作用の lつである下痢の発症が見

られたが,アクア日を併用したマワスでは,マウス kgあた

り 25~100 mgの経口投与において,下痢の発症を抑える効

果が明らかになった。 さらに小腸粘膜の組織状態を調べた

ところ 3 アクア日経口投与群では,顕著に腸管粘膜の損傷を

抑える効果を確認することができた(図 18) 0

5.2 胃潰蕩の低減とヒートショックプロテイン 70

(HSP70)の産生14)

アクアPによる胃潰場低減効果については,熊本大学薬

学部の水島教授と共同研究を行った。アクア戸を,マウス

①正常マウス

④癌移植+アクア日+UFT

(25 mg/kg)

100ぃm

⑤癌移植+アクアs+UFT(50 mg/kg)

②癌移植+UFT

⑥癌移植+アクアs+UFT(100 mg/kg)

図18. アクアpの経口摂取による UFT副作用に対する小腸粘膜保護効果

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鈴木他:機能性食品素材に向けた黒酵母由来高純度。-1,3-1,6-グルカンの開発 +59・アクア日 (200mg/kg)投与Vehicle

2.5

2

1.5

0.5

{gaga回EE一E-NONZ

一OEユ}

桜山間中1

泳、仏什B

腎えてロH川

。100%ヱタノール

+アク7s (200mg/kg)投与100%エタノール投与口v凶 icle

函 アクア日 (200mg/kg)役与

.100%ヱタノール殺与

. 100%エタノール+アクア日 (200mg/kg)投与

エタ ノール刺激に対する 宵粘膜での ミエロペノレオキシ図 19.

アクアpの経口摂取によるムチンJffi生充進図 21.

夕、、ーゼ活性

ミエロパーオキシダーゼ活性は,胃粘膜損傷の指標であり,活性

が高いほどt負傷が大きいことをホす。

シダーゼ (MPO)活性を測定した。胃の MPO活性は, 臼IUI

球による炎症性反応を示しており,その指標となる。すな

わち MPO活性は,刺激性の胃傷害において重要な指標役割

を果たしている。図 19から分かるように,エタノーノレ投与

により MPO活性は増大したが,日グノレカンの事前投与によ

り, MPO活性の増大は大きく抑えられ, アクア日投与によ

り関傷害が低減していることを示している。

5.2.2 胃粘膜における HSP70及びムチン産生量の測定

宵粘膜の保護因子である HSP70およびムチン産生量に与え

るアクア9の作用を検討した。HSP70産生の評価は,免疫

組織化学的解析のために,間傷害誘発 4時間後の宵の切片

を抗 HSP70抗体により 染色し,蛍光顕微鏡で観察した。結

巣を図 20に示す。胃粘膜上での HSP70の発現は, エタノ

ーノレ刺激により増大し, アクア日の事前投与により一層増大

アクア日 (200mg/kg)投与Vehicle

した。

ムチン産生の評価は,胃傷害誘発 4時間後の胃サンプノレ

を, PAS染色し,蛍光顕微鏡で観察した。結果を図21に示

す。胃粘膜におけるムチン産生量は,エタノ ールの経口投

与により減少したが,日グノレカンの事前経口投与によりその

減少が抑制 され,正常量に回復した。また,エタノーノレを

投与せず,アクアpのみを投与した場合に,ムチン量は増大

100%エタノール

+アクア日 (200mg/kg)投与100%エタノール投与

した。

このように,アクア0の経口投与により,エタノールによ

り誘発させた胃損傷(胃潰一場)を低減することが明らかと

なった。その防御メカニズムは,HSP70の誘導産生とムチ

ン産生量の増大による胃粘膜の保護効果で、あることが明ら

かとなった。このように日グノレカンが HSP70を誘導産生す

ることは初めての報告である。

おわりに

我々は,独自の発酵生産技術と精製技術の開発により,

高純度の口I溶化 s-1,3-1 ,6-クソレカン素材『アクアsTM~ を開

6.

(6~8 週齢,雄) に,それぞれ kg 体重あたり 0 , 5, 20, 50,

100, 200 mg経口投与し 時間後に胃傷害 (胃潰場)を誘

発させるため, 100%エタノーノレをマウス kgあたり 5mL経

口投与した。次いで, 胃傷害誘発の 4時間後に開腹して胃

を切除し,出血性損傷 (hemorrhagicdamage) のスコアをつ

けた。出血性損傷のスコ アの計算は, Imm四角の全ての創

傷の面積を測定し,全ての腎損傷インデックスを与える値

を合計した。その結果,胃内へ 100% エタノ ーノレを経口投

与すると重大な腎傷害を引 き起こしたが,アクア戸は用量依

存的に胃傷害を抑制した(図 19~21) 。

5.2.1 ミエロペルオキシダーゼ活性

胃傷害誘発 4時間後のマクスを深エーテル麻酔下に死亡

させ,胃を解剖し,冷生理食塩水で洗浄し 3 小切片に切断

した。各切片サンプノレをホモジナイズし, ミエロペルオキ

アクア9の経口摂取による HSP70産生誘導効果図 20.

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+60・発し市場に提供している。 ~アクアßTMJIの生理機能は,ま

ず腸管免疫を賦活・調節することに起因するものと考えら

れる。さらに,分子レベノレにおいて, ~アクア戸TMJI と Toll-like

レセプターおよび Dectin1との免疫賦活機能における相互

作用の科学的証明が待たれるところである 17,22)。一方,自律

神経系にもレセプターを介して作用し,ストレスの改善な

どの種々の生玉虫機能に効果を有すことが示唆された。今後

は3木戸グノレカンの免疫賦活機能との相互作用メカニズムだ

けでなく,さらには自律神経系や内分泌系との作用メカニ

ズムについても科学的証明が必要である。高純度の可溶化 P

クツレカン素材『アクアsTMJIが,ストレスの多い現代社会と

高齢化社会に向けた有効な健康食品素材として,そしてヱ予

防医学分野への有用性に富む機能性食品素材として認めら

れることを期待する。最近では,アクア日はその三重ラセン

状の特徴ある構造から,ナノサイズのバイオマテリアルと

して,また止血剤や DDSとして医療分野への応用が注目さ

れているお)。

謝辞

本研究遂行に関して終始ご指導賜り,日七時激励を頂きま

したました大阪市立大学名誉教授 南浦能至先生に深くお

礼申しよげます。また腸管免疫に関する研究でご指導いた

だきました東京大学名誉教授, 日本大学生物資源科学部教

授 よ野川修一先生に深謝し、たします。また,種々の生理

機能に関する研究でご指導いただきました愛媛大学大学院

医学研究科教授 阪中雅広先生, 同講師 木村善行先生,

石川県立大学生物資源工学研究所教授 山本憲二先生,慶

庭、義塾大学大学院薬学研究科教授 水鳥 徹先生に感謝い

たします。そして木研究に関してご指導いただきました諸

先生方に感謝し、たします。最後に p 木開発にご協力頂きま

したタγ ソー株式会社ならびに DS ウエノレフーズ株式会社

の皆様に感謝し、たします。

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ける血糖値および血中インスリン濃度に及ぼす黒酵回

(AllI・官obasidillll1pullulans IAJ)から単離した水溶性低分子

の分岐鎖 s-I,6-結合を有する s-I,3-0ーグノレカンの影響 医

学と薬学,61,115-119(2009)

13)石丸克也,鈴木利雄,古川喜朗 3 村田 修,熊井英7k・"黒田幸

母"AlIreobasidiulllPllllulalls lAl株産生 Pーグノレカンのマダイ

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18)城戸優英 3 鈴木幸Ij雄,和田 潤ョ山本憲二 AureobasidiL川 1

pulllllans lAl の産生する pグノレカンと乳酸菌体による IgA

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(2009)

19)鈴木降浩,中村誠司ョ鈴木利雄 黒酵母由来高純度

か(1ふ1,6)ーグノレカン摂取に