20
衛星データ解析による農事暦を活用した 灌漑必要水量の推定 2011年2月23日 ○小槻峻司 1 田中賢治 2 小尻利治 2 浜口俊雄 2 1 京都大学大学院 工学研究科 2 京都大学防災研究所

衛星データ解析による農事暦を活用した 灌漑必要水量の推定 · 2014. 8. 13. · 衛星データ解析による農事暦を活用した 灌漑必要水量の推定

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衛星データ解析による農事暦を活用した灌漑必要水量の推定

2011年2月23日

○小槻峻司1

田中賢治2 小尻利治2 浜口俊雄2

1京都大学大学院 工学研究科2京都大学防災研究所

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発表内容

気圏陸面過程解析により全球陸域の灌漑必要水量を推定灌漑必要水量を推定

1. 全球における農事暦作成

水圏陸圏2. 物理過程に根差した

農業水需要量の推定

1) GEWEX: http://www.gewex.org/

農業水需要量の推定

) p // g g/

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背景(1) : 灌漑農地の増加

世界の食糧生産世界の食糧生産

灌漑農地面積

今後,灌漑農地は更に増加すると予測されるが

に対

する比

更 増 す 測全球での統計値が少ない

穀物収穫量耕作面積

961年

の値

2) 国連食糧農業機関 (FAOSTAT) 

19

灌漑必要用水の推定手法の確立が必要

耕作地のわずか16%の灌漑地から40%の穀物が生産がされている

の確立が必要

穀物 産

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背景(2) : 物理過程解析の必要性

降水量の変化予測(現在/21世紀末)気温の上昇予測

気温の変化予測(現在‐21世紀末)

3)  IPCC第4次報告書(http://www.ipcc.ch/)

気候変動により,陸域の水循環や

MRI‐AGCM20出力結果

気候変動により,陸域の水循環や農業水需要はどう変化するのか

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背景(3) : 全球解析の意義

気温の上昇予測(現在‐21世紀末)

気候変動は耕作適地を大きく変化させる可能性が高い大きく変化させる可能性が高い

気候変動 の適応策を考える上では年耕作回数

どう影響を与えるか

気候変動への適応策を考える上では全球に適用可能なモデルが必要

1) 今の状態での将来予測1) 今の状態での将来予測2) 他の作物への転換3) 耕作時期の変化

4) Siebert et al.

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これまでの研究

水需要: どれくらい水が必要か?水供給: その水は供給できるのか?

何を特定する必要があるのか?

INPUT 降水量等の気象条件降水

INPUT  :  降水量等の気象条件

①蒸発散量

② 蒸発散量(水資源量の特定)

① 農業水需要量の推定

②時空間的変動(河川流下)

③農業水需要③ 空間分布の変化(河川流下)

水需要 水供給 (河川流下)

5) Oki and Kanae

解像度20kmで全球陸域の水循環をモデル化

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陸域の水循環解析(修論)

陸面過程モデル : SiBUC

地表面での鉛直方向の

水の挙動を解析

出力出力・蒸発散・灌漑要求水量・貯留水量など

月蒸発散量

降水

蒸発散

流出モデル : Hydro‐BEAM

月蒸発散量

蒸発散

水平方向の水の挙動を解析

データの引き継ぎ

出力・河川流量・貯水池貯留量

水の移動

引き継ぎ など

月平均河川水量

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本研究の目的

水需要: どれくらい水が必要か?水供給: その水は供給できるのか?

降水何を特定する必要があるのか?

INPUT : 降水量等の気象条件

①蒸発散量① 農業水需要量の推定

INPUT  :  降水量等の気象条件

② 蒸発散量(水資源量の特定)③ 空間分布の変化(河川流下)

① 農業水需要量の推定

②時空間的変動(河川流下)

③農業水需要③ 空間分布の変化(河川流下)

水需要 水供給

(河川流下)

5) Oki and Kanae

全球陸域の農業水需要量を推定

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究 的と背景

研究手法

1. 研究の目的と背景

2. 研究手法

3 適用結果3. 適用結果

4. 結論と今後の課題

農業必要水量の推定手法農業必要水量の推定手法

全球適用へのデータセット

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灌漑の表現

canopy

P

E

Prec

Evap

1.陸面過程の物理解析により水位(水田)や土壌水分(畑地)を追跡

wD TWS SMs

Evap

D

discontinuationDw

Ex) 水田の水位追跡式

Surface layer

Root zone

W1

W2

D1

D2

Q12

Q23

Edc1

Edc2

TWS: 地表面総貯留量SM :土壌水分量SMs:飽和土壌水分量

Recharge zoneW3 D3Q3Dw : 水深

2.作種・農事暦により定められた水位調節概念図規定値を超過した場合に,取水・排水をするとモデル化

水位調節概念図

( )opt

opt

Win W Dw SMs SM

Wout Dw W

Win: 灌漑要求水量灌漑要求水量Wout :灌漑排水量Wopt:最適水深

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衛星データを活用した農事暦作成

NIR REDNDVINIR RED

2期作地点のNDVI年変化(タイ)植生大

NIR RED

NIR : 近赤外領域の反射率

RED : 赤外領域の反射率(植物が吸収)

衛星データの時系列変化から各作物の農期を特定

植生小

1月1日の農事暦(小麦) 7月1日の農事暦(小麦)

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全球適用へのデータセット

各国の小麦耕作比率全球灌漑面積率

国統計値をベースに作物毎の

各国の小麦耕作比率 (FAOSTAT)全球灌漑面積率 (Doll et al.)

国統計値をベ スに作物毎の灌漑土地利用マップを作成

扱う作物1. 春小麦2. 冬小麦稲

4. 大豆5. 綿花トウ シ3.稲 6. トウモロコシ

小麦の灌漑面積率

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適用結果

究 的と背景1. 研究の目的と背景

2. 研究手法

3 適用結果

流域への適用‐ 観測データを基本とした,再現計算

3. 適用結果

4. 結論と今後の課題

観測デ タを基本とした,再現計算

全球陸域への適用‐ GCM出力値を用い,気候値解析

‐ 現在気候での検証と,気候変動推計

GCM出力期間 (MRI‐AGCM20)月灌漑必要水量(現在気候値)

GCM出力期間 (MRI AGCM20)

‐現在気候(1979‐2003年)

‐世紀末気候(2075‐2099年)

月灌漑必要水量(現在気候値)

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Chao Phraya River (タイ)

灌漑取水効果の検証

-降水量-解析流量(灌漑取水あり)-解析流量 (灌漑取水なし)

灌漑取水効果の検証

BhumibolDam

C.2

解析流量 (灌漑取水なし)-観測流量

Sirikit Dam

※貯水池放流量を境界条件として使用

‐灌漑要求水量‐空間的分布‐灌漑必要水量の発生時期

が再現されている気象強制力:観測雨量,H08,JRA25n土地利用 :Agro‐SEADが再現されている 土地利用 :Agro‐SEAD 

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全球灌漑要求水量

年平均灌漑要求水量(現在気候値) 国統計値との比較

2

3

t]

年降水量の比較(GCM‐GPCCC&APHRO)

0

1

2

mat

ed [

log 1

0Gt]

推定値は実行灌漑面積が一致するように補正

-2

-1

0

Est

ima

月灌漑要求水量変化の国比較

-2-2 -1 0 1 2 3

AQUASTAT [log10Gt]

成果灌漑要求水量の全球分布を推定

ウズベキスタンブラジル

‐灌漑要求水量の全球分布を推定‐統計値と,概ね一致‐時系列の灌漑要求水量を出力

(本研究の付加価値)‐再現計算による確認が必要

ベトナム

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気候変動の影響推計

全球陸域での気候値による比較全球陸域での気候値による比較‐ GCM出力値から,気候値を算出‐ 現在気候:1979‐2003年,将来気候(2075‐2099年)現在気候 年,将来気候( 年)‐ 解析期間の気候値(平均値)による比較

比較 素比較要素‐ 利用可能水量

灌漑要求水量‐ 灌漑要求水量‐ 河川流況 -

将来気候値

現在気候値

農事暦,耕作作物,灌漑面積は同じと仮定し気候変動のみによる影響を推定する

気候変動の影響

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灌漑必要水量への影響

年灌漑要求水量の差

180

200 160 160国別灌漑必要水量の変化

100

120

140

160

180

re2

[Gt]

80

100

120

140

re2

[Gt]

80

100

120

140

re2

[Gt]

将来増加

20

40

60

80

100

Futu

re2

20

40

60

80

Futu

re2

20

40

60

80

Futu

re2

将来減少

0

20

0 20 40 60 80 100 120 140 160

Present [Gt]

0 0 20 40 60 80 100 120 140 160

Present [Gt]

0 0 20 40 60 80 100 120 140 160

Present [Gt]

20 20 20

・ 灌漑要求水量は,全球で増加.・ 稲作地帯や,綿花栽培地帯で顕著. 15

2 [G

t]

15

2 [G

t]

15

2 [G

t]

将来増加

気温の上昇に伴い,多くの国で灌漑要求水量は増加傾向 5

10

Futu

re2

[ 5

10

Futu

re2

[ 5

10

Futu

re2

[

将来減少

0 0 5 10 15 20

Present [Gt]

0 0 5 10 15 20

Present [Gt]

0 0 5 10 15 20

Present [Gt]

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陸域水循環への影響

利用可能水量の差年灌漑要求水量の差

利用可能水量(mm) =降水量(mm) –蒸発散量(mm)

5

/s] mindisc

6

/s] mindisc

6

/s] mindisc

6

/s] maxdisc

河口の流況変化

利用可能水量(mm) = 降水量(mm) –蒸発散量(mm)

水需要側の変化

需要:灌漑要求水量の増加供給:利用可能水量の増加するが

将来増加

1

2

3

4

dis

c [l

og10

,m3/

s] mindisc

4

4.5

5

5.5

dis

c [l

og10

,m3/

s] mindisc

4

4.5

5

5.5

dis

c [l

og10

,m3/

s] mindisc

3.5

4

4.5

5

5.5

h di

sc [l

og10

,m3/

s] maxdisc水需要側の変化

供給:利用可能水量の増加するが,季節変化が顕著になる.

→ 長期水資源管理がより重要となる将来減少

-3

-2

-1

0

1

ture

min

mon

th d

is

2

2.5

3

3.5

ture

min

mon

th d

is

2

2.5

3

3.5

ture

min

mon

th d

is

1.5

2

2.5

3

3.5

futu

re m

ax m

onth

d

□最大月流量□最小月流量

→ 長期水資源管理がより重要となる-4

-3

-4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5

futu

r

preset min month disc [lon10,m3/s]

1

1.5

1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6

futu

r

preset min month disc [lon10,m3/s]

1

1.5

1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6

futu

r

preset min month disc [lon10,m3/s]

1

1.5

1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6

fut

preset max month disc [lon10,m3/s]水供給側の変化

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成果と課題

成果:全球陸域でのモデル化と解析– 灌漑必要水量の解析

– 気候変動の影響推計気候変動 影響推計

課題 今後の展望課題,今後の展望– 再現計算

– 作物成長モデル(温暖化により変化)

– 気候変動の影響評価

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今後の課題

月平均河川流量(現在気候) 月灌漑要求水量(現在気候)月平均河川流量(現在気候) 月灌漑要求水量(現在気候)

水供給側の解析 水需要側の解析

気候変動が空間的・時間的にどう水需要ストレスを与えるか?作物選択や耕作時期の変化でどう回避できるか?作物選択や耕作時期の変化でどう回避できるか?