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はじめに 東日本大震災(以下、「震災」という。)の発 災から4年を経過した現在、宮城県内の市町村では、 沿岸部の被災自治体を中心に各震災復興計画等に 基づいた復興への取組みが進められている。沿岸 部の自治体の復興は道半ばではあるものの、工場 や住宅などの再建が進行しているほか、被災した 市街地の嵩上げなどが進められており、新たなま ちの姿が徐々に見え始めている。 一方、内陸部の自治体では、震災に伴う人的・ 物的被害は沿岸部に比べれば小さかったものの、 総じて少子高齢化等による人口減少や基幹産業の 衰退・低迷、中心市街地の更なる空洞化などが進 行しており、従来から指摘されてきたこれらの課 題への効果的な対応策が見い出せていない状況が うかがわれる。 本レポートは、このような状況を踏まえ、本県 内陸部の幾つかの自治体を採り上げ、当該自治体 の経済産業の現状を概観し今後の成長の方向性に ついて検討したものである。今回は白石市、丸森 町に次ぐ3回目として登米市についてレポートする。 1.登米市の経済産業の現状 (1)人口動向 2014年12月末現在の登米市の人口は83,459人と なっており、県内35市町村中の順位は4位となって いる。2009年以降の推移(図表1)をみると、震災 の発災年以外は毎年600人台~800人台の減少(自然 増減:約600人減、社会増減:約100人~300人減) が続いており、ここ5年間で3,208人(3.7%)減と なっている。 当市の人口動向については、震災以降、社会動態 において大きな変化がみられる。社会動態の推移 (図表2)をみると、発災年においては被害が甚大 であった県内沿岸部の自治体からの転入者の増加 を主因として社会動態は転入超過に転じ、その後 は転出超過となったものの、転出超過幅は震災前 に比べ小幅な状況で推移している。 こうした状況を映じて、2010年から2014年まで の4年間での人口の減少数および減少率を県内の市 町村と比べると(図表3)、それらが大きい方から 数えて、減少数では女川町(3,025人減)に次いで 8位、減少率では塩釜市(3.2%減)に次いで23位 となっており、震災前(2006年から2010年までの 図表1 登米市の人口の推移 (各年12月末現在:人) 増 減 数 自然増減 社会増減 2009年① 86,667 ▲861 ▲532 ▲329 2010年 85,786 ▲881 ▲573 ▲308 2011年 85,650 ▲136 ▲678 542 2012年 84,810 ▲840 ▲670 ▲170 2013年 84,169 ▲641 ▲579 ▲62 2014年② 83,459 ▲710 ▲609 ▲101 ②-① ▲3,208 ▲3,208 ▲3,109 ▲99 資料:宮城県「住民基本台帳人口及び世帯数」(図表2,3も同じ。) 図表2 登米市の人口の社会動態の推移 (人) 社会増減 県内・県外移動別社会増減 転入者数・転出者数 転入者数 転出者数 県内 県外 職権記載 県内 県外 県内 県外 移動 移動 削除他 移動 移動 記載他 移動 移動 削除他 2008年 ▲750 ▲395 ▲383 28 1,594 946 555 93 2,344 1,341 938 65 2009年 ▲329 ▲102 ▲101 ▲126 1,742 956 660 126 2,071 1,058 761 252 2010年 ▲308 ▲151 ▲154 ▲3 1,542 915 592 35 1,850 1,066 746 38 2011年 542 617 ▲77 2 2,408 1,729 662 17 1,866 1,112 739 15 2012年 ▲170 ▲99 ▲74 3 1,763 1,084 668 11 1,933 1,183 742 8 2013年 ▲62 ▲49 ▲10 ▲3 1,919 1,240 659 20 1,981 1,289 669 23 2014年 ▲101 ▲36 ▲65 0 1,829 1,197 620 12 1,930 1,233 685 12 図表3 登米市の人口減少数・減少率の変化 (人、%) 人口減 少数 人口減 少率 2006~2010年 ▲4,162 3 ▲4.6 10 2010~2014年 ▲2,327 8 ▲2.7 23 注)順位は減少数、減少率が大きい方から数えた市町村別順位。 11 七十七銀行 調査月報 2015年7月号    調査レポート 登米市の経済産業の現状と今後の成長の方向性 調査レポート

調査レポート 登米市の経済産業の現状と今後の成長 …2010~2014年 2,327 8 2.7 23 注)順位は減少数、減少率が大きい方から数えた市町村別順位。

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Page 1: 調査レポート 登米市の経済産業の現状と今後の成長 …2010~2014年 2,327 8 2.7 23 注)順位は減少数、減少率が大きい方から数えた市町村別順位。

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調査レポート原稿(2015年7月)

登米市の経済産業の現状と今後の成長の方向性

はじめに

東日本大震災(以下、「震災」という。)の発

災から4年を経過した現在、宮城県内の市町村では、

沿岸部の被災自治体を中心に各震災復興計画等に

基づいた復興への取組みが進められている。沿岸

部の自治体の復興は道半ばではあるものの、工場

や住宅などの再建が進行しているほか、被災した

市街地の嵩上げなどが進められており、新たなま

ちの姿が徐々に見え始めている。

一方、内陸部の自治体では、震災に伴う人的・

物的被害は沿岸部に比べれば小さかったものの、

総じて少子高齢化等による人口減少や基幹産業の

衰退・低迷、中心市街地の更なる空洞化などが進

行しており、従来から指摘されてきたこれらの課

題への効果的な対応策が見い出せていない状況が

うかがわれる。

本レポートは、このような状況を踏まえ、本県

内陸部の幾つかの自治体を採り上げ、当該自治体

の経済産業の現状を概観し今後の成長の方向性に

ついて検討したものである。今回は白石市、丸森

町に次ぐ3回目として登米市についてレポートする。

1.登米市の経済産業の現状

(1)人口動向

2014年12月末現在の登米市の人口は83,459人と

なっており、県内35市町村中の順位は4位となって

いる。2009年以降の推移(図表1)をみると、震災

の発災年以外は毎年600人台~800人台の減少(自然

増減:約600人減、社会増減:約100人~300人減)

が続いており、ここ5年間で3,208人(3.7%)減と

なっている。

当市の人口動向については、震災以降、社会動態

において大きな変化がみられる。社会動態の推移

(図表2)をみると、発災年においては被害が甚大

であった県内沿岸部の自治体からの転入者の増加

を主因として社会動態は転入超過に転じ、その後

は転出超過となったものの、転出超過幅は震災前

に比べ小幅な状況で推移している。

こうした状況を映じて、2010年から2014年まで

の4年間での人口の減少数および減少率を県内の市

町村と比べると(図表3)、それらが大きい方から

数えて、減少数では女川町(3,025人減)に次いで

8位、減少率では塩釜市(3.2%減)に次いで23位

となっており、震災前(2006年から2010年までの

図表1 登米市の人口の推移 (各年12月末現在:人)

人  口 増 減 数自然増減 社会増減

2009年① 86,667 ▲861 ▲532 ▲329

2010年  85,786 ▲881 ▲573 ▲308

2011年  85,650 ▲136 ▲678 542

2012年  84,810 ▲840 ▲670 ▲170

2013年  84,169 ▲641 ▲579 ▲62

2014年② 83,459 ▲710 ▲609 ▲101

②-① ▲3,208 ▲3,208 ▲3,109 ▲99

資料:宮城県「住民基本台帳人口及び世帯数」 (図表2,3も同じ。 )

図表2 登米市の人口の社会動態の推移 (人)

社会増減県内・県外移動別社会増減

転入者数・転出者数

転入者数 転出者数県内 県外 職権記載 県内 県外 職 権 県内 県外 職 権移動 移動 削除他  移動 移動 記載他 移動 移動 削除他

2008年 ▲750 ▲395 ▲383 28 1,594 946 555 93 2,344 1,341 938 652009年 ▲329 ▲102 ▲101 ▲126 1,742 956 660 126 2,071 1,058 761 2522010年 ▲308 ▲151 ▲154 ▲3 1,542 915 592 35 1,850 1,066 746 38

2011年 542 617 ▲77 2 2,408 1,729 662 17 1,866 1,112 739 152012年 ▲170 ▲99 ▲74 3 1,763 1,084 668 11 1,933 1,183 742 8

2013年 ▲62 ▲49 ▲10 ▲3 1,919 1,240 659 20 1,981 1,289 669 232014年 ▲101 ▲36 ▲65 0 1,829 1,197 620 12 1,930 1,233 685 12

図表3 登米市の人口減少数・減少率の変化 (人、%)

人口減少数 順 位 人口減少率 順 位

2006~2010年 ▲4,162 3 ▲4.6 10

2010~2014年 ▲2,327 8 ▲2.7 23

注)順位は減少数、減少率が大きい方から数えた市町村別順位。

11七十七銀行 調査月報 2015年7月号   

調査レポート

登米市の経済産業の現状と今後の成長の方向性

調査レポート

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4年間)の状況(減少数:3位、減少率:10位)に比

べると、相対的にも人口の減少テンポが大幅に緩

和されたことがうかがわれる。

このように震災後の当市の人口の減少テンポは

緩やかなものとなっている。ただし、災害公営住

宅の整備や被災家屋の再建が進むに従い、沿岸地

域からの転入の動きは落ち着いてくると考えられ

ることから、当市の人口動向は次第に震災前の状

況に復していくものと思われる。

また、表出していないが、2015年3月末現在の当

市の高齢化率(65歳以上人口÷総人口)は29.9%と

なっている。これを県内市町村と比べると、高齢

化率が高い方から数えて18位となっており、相対

的に当市の高齢化の進行度は中位となっている。

(2)就業者の動向

登米市の就業者の状況をみると、2010年における

登米市に常住する就業者数は39,412人となっている

(図表4)。うち登米市内で従業する者が31,040人

(構成比78.8%)、市外で従業する者が8,372人

(同21.2%)となっており、市内に常住する就業者

の約2割が市外で従業している状況となっている。

市外で従業する者の内訳は、隣接する栗原市や大崎

市を中心とした周辺市町や仙台市などの県内市町村

が7,082人、一関市など岩手県を中心とした県外が

443人となっている。

これを2005年と比べると、常住する就業者数は

4,186人減少したが、その内訳をみると市外で従業

する者が400人増加した一方で、市内で従業する者

が4,586人の減少となっており、市内で従業する者

の減少が市内に常住する就業者数の減少をもたら

している状況となっている。これは高齢化や後継

者難などから農業や卸売・小売業の従業者数の減

少が進んだことや、リーマンショック等による工

場の統廃合や減産などに伴い製造業の従業者数が

減少したこと、公共工事や住宅建築の低迷により

建設業の従業者数が逓減したことなどによるもの

である。

一方、2010年の登米市で従業する就業者数は、

36,974人となっており、うち登米市に常住する者

が31,040人(構成比84.0%)、市外に常住する者

が5,087人(同13.8%)となっている(図表5)。

市外に常住する者の内訳は、栗原市や石巻市など

周辺市町を中心とした県内市町村が4,628人、岩手

県を中心とした県外が459人となっている。これを

2005年と比べると、登米市で従業する就業者数は

市内に常住する者の減少により、3,709人減少した。

(3)産業動向

2010年度の登米市の市内総生産は2,135億円とな

っており、県内市町村別順位は大崎市(3,438億円)

に次いで4位となっている(次頁図表6)。これを

経済活動別にみると、製造業が340億円(構成比

15.9%)と最も大きく、次いで政府サービス生産

図表4 登米市の従業地別就業者数の変化  (人、%)

2005年 2010年 増減数

① ② 構成比 ②-①

登米市に常住する43,598 39,412 100.0 ▲4,186

就業者 (A)

登米市内で従業 35,626 31,040 78.8 ▲4,586

登米市外で従業 7,972 8,372 21.2 400

県 内 7,302 7,082 18.0 ▲220

栗 原 市 2,297 2,372 6.0 75

大 崎 市 1,340 1,254 3.2 ▲86

石 巻 市 1,099 1,210 3.1 111

仙 台 市 1,103 894 2.3 ▲209

涌 谷 町 414 346 0.9 ▲68

そ の 他 1,049 1,006 2.6 ▲43

県 外 670 443 1.1 ▲227

岩 手 県 587 404 1.0 ▲183

一 関 市 486 339 0.9 ▲147

藤 沢 町 45 37 0.1 ▲8

そ の 他 56 28 0.1 ▲28

そ の 他 83 39 0.1 ▲44

従業 地 不詳 0 847 2.1 847資料:総務省「国勢調査」(図表5も同じ。)

図表5 登米市の常住地別就業者数の変化  (人、%)

2005年 2010年 増減数

① ② 構成比 ②-①

登米市で従業する40,683 36,974 100.0 ▲3,709

就業者 (B)

登米市内に常住 35,626 31,040 84.0 ▲4,586

登米市外に常住 5,057 5,087 13.8 30

県 内 4,564 4,628 12.5 64

栗 原 市 1,573 1,597 4.3 24

石 巻 市 792 752 2.0 ▲40

大 崎 市 638 652 1.8 14

南 三 陸 町 451 414 1.1 ▲37

涌 谷 町 341 358 1.0 17

そ の 他 769 855 2.3 86

県 外 493 459 1.2 ▲34

岩 手 県 453 426 1.2 ▲27

一 関 市 374 361 1.0 ▲13

藤 沢 町 50 42 0.1 ▲8

そ の 他 29 23 0.1 ▲6

そ の 他 40 33 0.1 ▲7

従 業 地 不 詳 0 847 2.3 847

12    七十七銀行 調査月報 2015年7月号

調査レポート

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者が332億円(同15.6%)、不動産業が332億円

(同15.5%)、サービス業が317億円(同14.9%)

などとなっている。

2005年度と比べると、全体では87億円(3.9%)

減少した。内訳をみると、製造業が電子部品の増

産を主因に96億円増(増減率+39.2%、寄与度+

4.3㌽)となり、不動産業も9億円増(同+2.7%、

同+0.4㌽)となったが、他の産業部門は全て減少

した。特に、サービス業が47億円減(同▲12.8%、

同▲2.1㌽)となったほか、リーマンショックに伴

う利鞘の縮小等を背景に金融・保険業が33億円減

(同▲34.7%、同▲1.5㌽)、市役所職員の削減や

少子化に伴う小学校の統廃合等により政府サービ

ス生産者が31億円減(同▲8.4%、同▲1.4㌽)と

なるなど、大幅な落込みとなっている。

一方、特化係数をみると、登米市では、宮城県

および仙台市を除く県内市町村の双方に対して、

サービス業(特化係数:対宮城県0.8、対仙台市を

除く県内市町村0.9)の特化度がやや小さい一方、

農業(同5.4、同2.7)や建設業(同1.7、同1.3)、

政府サービス生産者(同1.3、同1.1)の特化度が

大きい状況となっており、とりわけ農業の特化度

の大きさが目立つ状況となっている。

以上から、登米市の産業動向を概括すると、同

市の基幹産業は市内総生産や特化係数からみると、

農業および製造業、建設業といえるが、農業およ

び建設業については、需要の減少などを背景に減

少傾向を辿っている。また、製造業については、

表出した期間については増加したが、総じてみる

と、電子部品を中心に世界的な需給動向などを反

映して振れの大きい動きとなっている。なお、政府サ

ービス生産者については、さらなる行政業務の効率化

が求められる状況が読み取れるものとなっている。

2.登米市の今後の成長の方向性

以上のように、登米市の人口および産業動向を

みると、人口と就業者数の減少が進む中、基幹産

業を含めて市内総生産が減少しており、厳しい状

況となっている。今後は本格的な人口減少社会の

到来に伴い、このような状況が加速度的に進行す

ることが懸念される。

経済成長率は、長期的には労働投入量、資本ス

トック量、TFP(全要素生産性)の三つの生産

要素の伸び率に規定されるが、人口減少や高齢化

が進行していく下では、労働投入量と資本ストッ

ク量は減少あるいは伸び悩むこととなる。したが

って、このような状況の中で経済成長を持続可能

なものとしていくためには生産性を引上げてこれ

らの落込みをカバーしていくことが不可欠となる。

因みに、登米市の生産性の状況をみると、図表7、

8のとおりとなる。図表7は、県内市町村の就業者

一人当たり市町村内総生産(2010年度:生産性の水

準)とその増減率(対2005年度比)をプロット(基準

値は宮城県の数値)したものである。ここでは登米

市は第2象限に位置し、伸び率(5.7%増)では宮城

県(3.0%減)を上回るものの、生産性の水準(5,774

千円)では宮城県(7,429千円)に及ばない状況とな

っている。市町村間における相対的な位置付けで

は、生産性の伸び率は10位となっているが、水準

では32位と極めて低位に位置している。

 

図表6 登米市の市内総生産の変化 (億円、%、%ポイント)

2005年度 2010年度  増    減 特化係数(2012年度)

構 成 比 実 額 増 減 率 寄 与 度 対宮城県 仙台市除く

農 業 131 105 4.9 ▲26 ▲19.9 ▲1.2 5.4 2.7

製 造 業 244 340 15.9 96 39.2 4.3 1.2 0.8

建 設 業 213 201 9.4 ▲12 ▲5.4 ▲0.5 1.7 1.3

電 気 ・ ガ ス ・ 水 道 業 52 49 2.3 ▲2 ▲4.5 ▲0.1 0.8 0.6

卸 売 ・ 小 売 業 213 186 8.7 ▲26 ▲12.3 ▲1.2 0.6 1.0

金 融 ・ 保 険 業 95 62 2.9 ▲33 ▲34.7 ▲1.5 0.7 1.1

不 動 産 業 323 332 15.5 9 2.7 0.4 1.0 1.0

運 輸 業 120 111 5.2 ▲8 ▲7.0 ▲0.4 1.1 1.0

情 報 通 信 業 59 54 2.5 ▲5 ▲9.0 ▲0.2 0.6 1.1

サ ー ビ ス 業 364 317 14.9 ▲47 ▲12.8 ▲2.1 0.8 0.9

政 府 サ ー ビ ス 生 産 者 363 332 15.6 ▲31 ▲8.4 ▲1.4 1.3 1.1

そ の 他 46 45 2.1 ▲1 ▲2.0 ▲0.0 0.8 0.8

市 町 村 内 総 生 産 2,221 2,135 100.0 ▲87 ▲3.9 ▲3.9 1.0 1.0注1)特化係数=(登米市のA産業の構成比)÷(宮城県のA産業の構成比)

 2)特化係数の「仙台市除く」は仙台市以外の県内市町村合計に対する特化係数。 資料:宮城県「市町村民経済計算」

13七十七銀行 調査月報 2015年7月号   

調査レポート

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また、図表8は、2010年度における当市の主な産

業の就業者一人当たり市内総生産を宮城県と比べ

たものである。これをみると農業および建設業

業は宮城県の水準を1~2割強上回っているが、一

方で製造業および卸売・小売業は3~4割程度下回

っており、これらが当市の生産性向上の足枷にな

っていることがうかがわれる。

このように当市の県内における生産性は低位に止

まっており、産業によりかなりのバラツキがみられ

る。今後の成長を促すためには、高い生産性を有す

る産業の生産性をさらに高めるとともに、生産性が

低い産業の生産性を改善する取組みが肝要となる。

具体的には、基幹産業である農業については、ブ

ランド化や6次産業化の推進により付加価値を高め

るとともに、卸売・小売業と連携した交流人口の

拡大などを通して、生産性の引上げを図ることが

効果的と考えられる。一方、製造業については、

自動車産業等の集積を推進し、付加価値の底上げ

を図ることなどが肝要になると思われる。

(1)農業の高付加価値化の推進

A.農業の概況

当市の農業の概況(図表9)をみると、まず、農

業就業人口(2010年)は、10,059人と市内総人口

の12.0%を占めており、総農家数は9,177戸と市内

総世帯数の36.7%に達している。つまり、当市で

は総人口の1割強、総世帯数の4割弱が農業生産に

携わっていることとなる。県全体の農業就業人口

比率が3.0%、農家世帯数比率が7.3%であること

からみても、当市が農業への特化度が極め高く、

また、当市の経済社会活動が農業と密接に結び付

いていることがうかがわれる。

また、主な農産物の県内シェアをみると、2013

年産の水稲収穫量(65,900t)が16.5%、夏秋キ

ャベツ出荷量(1,610t)が63.4%、夏秋きゅうり

(2,100t)が38.6%、畜産(2010年)では、肉用

牛飼養頭数(27,962頭)および豚飼養頭数

(56,139頭)がともに3割程度となっているなど、

いずれも高いシェアを有しており、当市が本県を

代表する農業地域であることが分かる。

図表8 登米市の主な産業の就業者一人当たり市内総

生産(2010年度) (千円)

登米市 宮城県 差 異

農 業 2,048 1,644 404

製 造 業 5,199 7,634 ▲2,434

建 設 業 5,323 4,613 710

卸売・ 小売 業 3,508 5,436 ▲1,929

総 生 産 5,774 7,429 ▲1,655

図表7 宮城県内市町村の就業者一人当たり市町村内総

   生産および同増減率(2005年度対2010年度)   

注)2010年度に特定企業等の増産等により市町村内総生産が大

  幅に上振れした松島町を除いて掲載。

資料:宮城県「県民経済計算」「市町村民経済計算」、

総務省「国勢調査」(図表8も同じ。)     

5000 6000 7000 8000 9000 10000 11000 12000 13000

就業者一人当たり市町村内総生産(千円:2010年度)

-40

-30

-20

-10

0

10

20

30就業者一人当たり市町村内総生産増減率(%)

宮城県 仙台市

白石市

名取市

角田市

多賀城市

岩沼市

登米市

栗原市

大崎市

蔵王町

柴田町

亘理町

七ケ浜町

利府町

大和町

大衡村

加美町

女川町

南三陸町

図表9 登米市の農業の概況 (人、戸、%)

登 米 市 宮 城 県

農 業 就 業 人 口 ① 10,059 70,869総 人 口 ② 83,969 2,348,165

農業就業人口比率 ①÷② 12.0 3.0総 農 家 数 ③ 9,177 65,633

総 世 帯 数 ④ 25,002 901,862

販 売 農 家 数 比 率 ③÷④ 36.7 7.3

(t、頭、%)

登 米 市 県内シェア水 稲 収 穫 量 65,900 16.5春 キ ャ ベ ツ 出 荷 量 346 29.3夏 秋 キ ャ ベ ツ 出 荷 量 1,610 63.4冬 春 き ゅ う り 出 荷 量 1,630 34.0夏 秋 き ゅ う り 出 荷 量 2,100 38.6乳 用 牛 飼 養 頭 数 2,525 10.2肉 用 牛 飼 養 頭 数 27,962 30.7豚 飼 養 頭 数 56,139 28.4

注1)農業就業人口、総農家数は、2010年2月1日現在。

  総人口、総世帯数は、2010年10月1日現在。

  水稲収穫量、春・夏秋キャベツおよび冬春・夏秋きゅう

  りの出荷量は2013年産。

  乳用牛・肉用牛・豚の飼養頭数は2010年2月1日現在。

 2)農業就業人口とは、15歳以上の農家世帯員のうち、調査

  期日前1年間に農業のみに従事した者または農業と兼業

  の双方に従事したが、農業の従事日数の方が多い者。

  農家とは、経営耕地面積が10a以上または農産物販売金

  額が15万円以上の世帯。

資料:農林水産省「世界農林業センサス」「作物統計調査」

  「畜産統計調査」、総務省「国勢調査」

14    七十七銀行 調査月報 2015年7月号

調査レポート

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他方、当市の農産物の販売金額規模別経営体数

構成比(2010年、図表10)をみると、販売金額1百

万円未満の経営体数構成比が相対的に低い一方、

20百万円以上の構成比は全国には及ばないものの、

東北地方や宮城県を上回る状況となっており、こ

れらが先述した産業別にみた就業者一人当たり市

内総生産において、農業の生産性が宮城県に比べ

高いことの要因の一つになっていると考えられる。

一方、図表11に示したように、当市における

2005年から2010年にかけての農業就業者数は、全

体で24.2%(3,218人)減少したが、これを年齢階

層別にみると、15~29歳の若手就農者の減少率

(68.0%)の大きさが目立つ状況となっている。宮

城県、東北地方、全国と比べても、当該年齢階層

の減少幅が大きい状況となっており、如何にして

若手就農者の減少に歯止めを掛けるかが当市の農

業の大きな課題になっていることがうかがわれる。

B.ブランド化や6次産業化による農業の高付加価

値化の推進と若手就農者の就業支援の強化

このように当市は県内有数の穀倉地帯となって

いるほか、野菜および、稲藁等の利用により稲作

と有機的に結び付いた肉用牛や豚の一大産地とな

っている。

また、当市ではこれらの農産物のうち特定の基

準をクリアしたものを「登米ブランド認証品」と

して認証する独自のブランド認証制度を設けてお

り、仙台牛、黒毛和種、宮城野豚、油麩を始めと

した登米産品がブランド化されている。今後は、

これらのブランド品の生産と販路の拡大を推進す

ることにより、登米ブランドのより一層の浸透を

図ることが期待される。

他方、当市では6次産業化への先進的な取組みが

数多くみられる。当市における6次産業化への取組

状況を六次産業化・地産池消法に基づく事業計画

の認定状況(2015年5月末現在、次頁図表12)からみ

ると、認定事業者数は15事業者と、県全体(66事業

者)の2割強を占め、市町村別認定者数では1位とな

っている。

主な事業内容をみると、登米産品を原料とした

加工品の製造・販売やレストラン・直売所の設

置・経営などとなっており、これらの展開を通し

て農業の高付加価値化を図るものとなっている。

このように当市は6次産業化への取組みにおいて

も本県のリーダー的存在となっており、このよう

な先進的な取組みが当市の農業の生産性の向上に

寄与している面が大きいものと思われる。

もっとも、図表10で示したように、農産物の販

売金額からみた当市の農業の経営規模は、販売金

額20百万円以上の階層では全国に及ばない状況に

あり、規模拡大とそれに伴う生産性の引上げ余地

がなお十分にあると考えられる。従って、今後は

登米産品のブランド化を一層推進するとともに、

認定事業者等を重点的に育成・支援することによ

り、農業の生産力と生産性の向上を図ることが求

められよう。

また、これらの取組みは農業の魅力向上や雇用

創出にも寄与し、当市の課題である若手就農者対

策にも結び付くと思われる。なお、若手就農者の

就農支援については、研修や農地の賃借・取得に

係る経費の補助を中心とした既存の担い手育成支

援事業に加え、UIJターン対象者に対する様々

な支援施策との連携を図ること、あるいは、UI

Jターン対象者に対する上乗せ支援措置等を講じ

ることなどにより、当市での就農のインセンティ

ブを高めることなどが効果的と考えられる。

図表10 農産物販売金額規模別経営体数構成比(2010年)

注)凡例の販売金額規模区分(○~○)は「○以上○未満」。

資料:農林水産省「世界農林業センサス」

0 60 70 80 90 100

登 米 市

宮 城 県

東北地方

全  国

51.8

58.7

51.7

58.9

37.3

30.9

35.6

26.4

5.4

5.3

7.6

6.8

2.9

3.0

3.24.5

2.7

2.2

1.9

3.5

1百万円未満 1~5百万円10~20百万円

5~10百万円

20百万円以上

(%)

図表11 年齢階層別農業就業者数の推移 (人、%)

登 米 市 増減率(2010年÷2005年)

2005年 2010年 増減率 宮城県 東 北 全 国

総 数 13,277 10,059 ▲24.2 ▲28.5 ▲21.6 ▲22.3

15~29歳 1,071 343 ▲68.0 ▲58.2 ▲50.6 ▲53.7

30~39  328 297 ▲9.5 ▲27.0 ▲25.3 ▲29.3

40~49  829 471 ▲43.2 ▲50.3 ▲43.0 ▲38.9

50~59  2,246 1,661 ▲26.0 ▲26.6 ▲21.8 ▲25.3

60歳以上 8,803 7,287 ▲17.2 ▲23.5 ▲16.8 ▲16.9

資料:農林水産省「農林業センサス」「世界農林業センサス」

15七十七銀行 調査月報 2015年7月号   

調査レポート

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(2)地域資源を活かした交流人口の拡大

A.交流人口(観光客入込数)の現状と課題

1995年以降の登米市の観光客入込数の推移(図

表13)をみると、多少の振れはみられるものの、

増加傾向で推移しており、2013年の指数(1995年

=100)は197(入込数:258万人)と1995年に比べ

概ね倍増している。

これを主要観光地点別にみると、次頁図表14の

通りとなる。まず、市内4カ所に立地している「道

の駅」の入込数の推移(図表14-①)をみると、

「林林館」および「米山」が増加基調を辿ってい

るほか、「津山」および「みなみかた」は高水準

で推移している。この結果、2013年における道の

駅合計の入込数は115万人となっており、市内の入

込数に占める割合は44.7%と約5割に達しているな

ど、道の駅が当市における誘客の核施設として入

込数の増加を牽引していることがうかがわれる。

図表13 登米市の観光客入込数の推移(1995年=100)

資料:宮城県「観光統計概要」(図表14、15も同じ。)

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

1995    2000     05     10 11 12 13

登米市入込数登米市宿泊者数

宮城県入込数宮城県宿泊者数

登米市の実数 (万人)

1995年 2013年

入 込 数 131 258

宿泊者数 1.4 2.6

図表12 六次産業化・地産池消法に基づく登米市の認定事業者一覧(2015年5月末現在:認定年度順)

事 業 者 名 事   業   概   要

農業生産法人株式会社 顧客目線による農産物の商品開発と加工、既存直売所のリニューアル、宅配・移動販売によ

オジマスカイサービス る新たな販売ルートの構築により、経営の多角化を図り、利益向上・農業経営の改善を図る。

農業生産法人有限会社 新たに加工施設を整備し、乳酸菌発酵の生サラミ等の新商品の製造・販売、自社レストラン

伊豆沼農産 メニューの開発を行い、雇用・研修生の育成につなげる。

芳泉農園組合で生産する米を活用し、餅加工品の開発を行い、既存販路に加え、ネット販売を取り入

れる。

有限会社PFTサービス有機栽培等により生産したササニシキを精米・真空パック化し、国内販路に加え、海外の高

級寿司店や百貨店等へ販路開拓を行い、本格的に輸出に取組む。

千葉忠畜産株式会社自社飼育の黒毛和牛を原料としてドライエージングビーフ(乾燥熟成した牛肉)、保存ビーフ(レ

トルト・真空包装)の新商品を開発し、自社の焼肉店・直売所、首都圏のホテル等へ販売する。

有限会社おっとちグリ 独自の無化学肥料栽培技術により生産した高品質野菜を原料に、野菜パウダーを開発・製造

ーンステーション し、促進事業者の販売チャネルを活かした国内外の販路構築を展開する。

わかば農場株式会社自社生産したもち米、長沼の養殖ヌカエビ、椎茸等を活用した餅、煎餅、味噌加工品等を開

発・製造し、ネット販売や通販、首都圏等への販路開拓を実施する。

株式会社近藤農産自社生産の米、大豆を利用し、多種類の餅、味噌、麹の加工・製造を行い、既存販路に加え、

ネット販売による販路拡大を図る。

株式会社カレントセラー自社生産した米、大豆を利用した加工品(ビタミン米、パックごはん、みそパウダー)を開

発し、医療機関等に販路開拓を行い、農業経営の改善を図る。

有限会社久保畜産自社生産のブランド豚(島豚)を利用した加工品(ウインナー、メンチカツ)を開発すると

ともに、焼肉レストラン事業に取組むことにより、農業経営の改善を図る。

株式会社サンフルーツ 自社生産の果実(ブルーベリー、モモ、リンゴ)を使用したジェラート類、野菜を使用した

・ファーム 惣菜を製造し、道の駅等に販売することで、付加価値を取込み農業経営の改善を図る。

株式会社縄文ファーム自社生産の卵・鶏肉を使用した料理を開発し、レストランを整備して提供する。レストラン

に農産ショップコーナーを設け鶏肉・卵を販売し、収益向上・経営の多角化を実現する。

株式会社ワンズ自社生産の椎茸、アスパラガス、ラズベリーを使用した加工品(香り塩、ジャム、惣菜)を

製造し、ネット販売に取組むことにより、農業経営の改善を図る。

農業生産法人株式会社 トルコギキョウを使用した花束、プリザーブド加工品を開発・販売することによって、付加

石ノ森農場 価値を取込み農業経営の改善を図る。

米・米ファーム合同会社当社構成員が生産したヤーコンの特性(フラクトオリゴ糖・ポリフェノール等を多く含む)

を活かし加工品(惣菜・菓子)の製造・販売を行い、高付加価値化と農業経営の改善を図る。

資料:宮城県HP

16    七十七銀行 調査月報 2015年7月号

調査レポート

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また、図表14-②の各地点の入込数については、

柳津虚空蔵尊および長沼温泉ロトヴィーナス、平

筒沼ふれあい公園の3地点は横ばいあるいは微増で

推移しており、長沼フートピア公園は相対的に入

込数は多いが、イベント開催の有無等に伴い振れ

が大きい動きとなっている。

一方、当市登米町地域は明治時代に建てられた

洋風建築物が現存する「みやぎの明治村」として

知られているが、図表14-③に示したように、そ

の代表的施設である教育資料館、警察資料館、水

沢県庁記念館などの入込数は2006年頃をピークに

減少に転じ、震災以降は施設や設備の損壊等によ

り休館を余儀なくされたことなどから激減してい

る状況となっている。ヒアリングによると、施設

の復旧に伴い足元では徐々に回復傾向にあるもの

の、依然として厳しい状況となっている。

また、伊豆沼・内沼、チャチャワールドいしこ

し、横山不動尊、花菖蒲の郷公園、石ノ森章太郎

ふるさと記念館の5地点(図表14-④)については、

減少傾向を辿っており、入込数はここ10年余りで4

~9割程度減少した。

このように当市の観光客入込数の動向をみると、

全体の入込数は増加傾向にあるものの、その内訳

をみると、道の駅が堅調な反面、既存の観光地点

図表14 登米市の主要観光地点別観光客入込数の推移

図表14-① 図表14-②

図表14-③ 図表14-④

0

2

4

6

8

10

12

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

教育資料館

警察資料館

水沢県庁記念館

懐古館

伝統芸能伝承館

(万人)

0

10

20

30

40

50

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

長沼フートピア公園

平筒沼ふれあい公園

柳津虚空蔵尊

長沼温泉ロトヴィーナス

(万人)

0

10

20

30

40

50

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

道の駅「みなみかた」

道の駅「林林館」

道の駅「津山」

道の駅「米山」

(万人)

0

2

4

6

8

10

12

2001 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13

伊豆沼・内沼

横山不動尊

石ノ森章太郎ふるさと記念館

チャチャワールドいしこし

花菖蒲の郷公園

(万人)

17七十七銀行 調査月報 2015年7月号   

調査レポート

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が総じて不振な状況となっている。なお、当市の

宿泊者数の推移をみると、2013年の指数は185(宿

泊者数:2万6千人)となっており、1995年に比べ

増加したが、この間の動きをみると、宿泊者数の

絶対数が少ないこともあり、変動がかなり大きい

ものとなっている。

また、当市を訪れた教育旅行における宿泊学校

数および宿泊生徒数の推移(図表15)をみると、

2013年は53校・1,208人となっている。震災に伴う

落込みからは徐々に回復傾向にあるものの、直近

のピークである2008年(124校・2,676人)に比べ

ると5~6割減となっているなど、教育旅行の宿泊

状況についても厳しいものとなっている。

B.交流人口の拡大に向けて

①道の駅と既存の地域資源との回遊性の強化

元来、道路利用者の休憩施設として設置された

「道の駅」は、その後単なる休憩施設としての機

能のみならず、特産物や観光資源を活かした集客

機能を併せ持つ地域の交流拠点へと進化してきて

いる。中にはそれ自体が観光の目的地となってい

るものも現れているなど、今や「道の駅」は交流

人口の拡大を通して、地域の雇用と付加価値を創

出する中核的な施設となっている。

前述したように、当市内の4つの道の駅は、正に

当市における交流人口拡大の拠点となっている。

当市の交流人口の更なる拡大のためには、これら

の道の駅を結節拠点として、市内の様々な地域資

源を結ぶ回遊ルートを整備・強化することが効果

的と考えられる。図表14で示したようなみやぎの

明治村の歴史的建造物、ラムサール条約(特に水

鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条

約)の登録湿地である伊豆沼・内沼および蕪栗

沼・周辺水田などのほか、環境保全米や登米産牛、

北上川の天然うなぎ、油麩丼、「はっと」を使っ

たはっと料理など、当市は、歴史、史跡、自然、

食に係る貴重で魅力的な地域資源の宝庫となって

いる。これらの地域資源を道の駅をコネクターと

して結び付け、ストーリー性を持たせた回遊ルー

トを整備・強化することにより、交流人口の拡大

と市内での需要の増加を図ることが期待される。

②地域資源のブラッシュアップと情報発信の強化

交流人口の維持・拡大を図るためには、これら

の地域資源をブラッシュアップし、新たな価値の

発掘・創造を通して、今日的な意義付けを行うこ

とが肝要である。地域資源の意義付けは、時代の

変遷に伴い変えるべきものもあることから、それ

を踏まえた地域資源の再資源化が求められる。

また、情報発信の強化も重要である。近年、I

CTの進展に伴い情報の発信ツールが多様化して

いるが、こうした中で交流人口を拡大するために

は、ターゲットを明確にした情報発信の強化が必

要になると思われる。例えば、教育旅行をターゲ

ットにするのであれば、そこに的を絞った様々な

セールスプロモーションを集中的に実施すること

が効果的と考えられる。つまり、誘客対象ごとの

オーダーメイドの誘客活動を展開することが肝要

になると思われる。

(3)自動車関連製造業の集積促進

当市の製造業生産額は市内総生産の1割強を占め

ており、製造業は当市の付加価値の稼ぎ頭の一つと

なっている。当市の製造業は、(株)登米村田製作所

や(株)スタンレー宮城製作所等の電子部品や迫リコ

ー(株)等の一般機械、食料品などが主要業種となっ

ており、これらを中心に多くの付加価値と雇用を生

み出している。一方、電子部品等は世界的な需給動

向に左右され、生産額の振れが大きい傾向にある。

従って、生産額の安定化と付加価値の上積みを図る

ためには、当市の製造業を支えるもう一つの柱とな

る業種を振興することが求められる。

近年、自動車産業の県内への集積が進む中、当

市においても、トヨテツ東北(株)や浅井鉄工(株)

が新たに立地したほか、(株)スタンレー宮城製作

所が自動車機器の生産を見据えた新工場の建設に

着手するなど、自動車関連企業の立地が進んでい

る。このような企業立地が進展し、自動車産業の

図表15 登米市の教育旅行宿泊状況

0

500

1000

1500

2000

2500

3000

宿泊生徒数(人)

0

50

100

150 宿泊学校数(校)

2007 08 09 10 11 12 13

37

124

83

83

48 57 53

県外学校生徒

県内学校生徒

18    七十七銀行 調査月報 2015年7月号

調査レポート

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集積に結び付けば、これらが当市の製造業を牽引

する新たな柱になると考えられる。

当市はトヨタ自動車東日本(株)の完成車組立工

場である宮城大衡工場と岩手工場の中間に位置し、

高速道路網とのアクセスも良好であるなど、自動

車産業の集積には絶好のロケーションにある。ま

た、当市では自動車関連企業の立地を見込んで市

内2カ所に新たな工業団地の整備を進めている。こ

のような立地環境や誘致施策が企業立地を後押し

すると見込まれるが、今後も自動車産業の集積を

目指した重点的な取組みが期待される。

おわりに

当市は、本県内陸部の様々な魅力が集積した地

域資源の宝庫といえる。このような地域資源を効

果的に活用し基幹的な産業を中心に生産性を向上

させれば、持続的な成長は十分に可能と思われる。

問題は如何にして地域資源を「効果的に」活用す

るのかということである。その基本的な考え方や

具体的な方策等については、本レポートでも幾つ

かを取り上げ検討したが、今後は官民が連携して

具現化に向けた取組みを行うことにより、当市が

持続的な成長を遂げていくことを期待したい。

【教育資料館・旧登米高等尋常小学校校舎】

【 登 米 市 の 地 域 資 源 】

【水沢県庁記念館】

みやぎの明治村の観光施設群

【警察資料館】

【伝統芸能伝承館・森舞台】 【登米懐古館】 【春蘭亭】

19七十七銀行 調査月報 2015年7月号   

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【柳津虚空蔵尊】 【道の駅津山・もくもくランド】 【横山不動尊】

【平筒沼ふれあい公園】 【道の駅米山】 【興福寺】

【道の駅みなみかた】 【花菖蒲の郷公園】 【長沼フートピア公園】

【長沼温泉・ヴィーナスの湯】 【伊豆沼農産くんぺる】 【登米市伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター】

【チャチャワールドいしこし】 【油麩丼】 【登米産牛】

注)チャチャワールドいしこし、油麩丼、登米産牛の写真は宮城県観光課提供。

登米市の多様で魅力的な地域資源

20    七十七銀行 調査月報 2015年7月号

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