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45 日看管会誌 Vol. 16, No. 1, 2012 資料 The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 16, No. 1, PP 45-56, 2012 子育てのライフステージにある看護師の キャリア継続に関連する要因 Factors Related to Career Continuation among Nurses Raising Children 岩下真由美 1) 高田昌代 2) Mayumi Iwashita 1) Masayo Takada 2) Key words : career continuation, career development, female nurses, child-raising, qualitative research キーワード:キャリア継続,キャリア発達,女性看護師,育児,質的研究 Abstract The purpose of this study was to elucidate factors related to career continuation among nurses raising children. Participants were 11 female nurses raising children aged 8 or under working full-time at hospi- tals within the Kinki region. After receiving written consent for participation, we conducted semi- structured interviews and analyzed interview contents qualitatively and descriptively. Fifteen categories and 59 subcategories were identified in the analysis. To establish the rigor, participants were asked to review the results. As a core factor that determines whether nurses raising children continue their careers, we identified the category “striking a balance between work and child growth.” With respect to factors that serve as the foundation for career continuation, we identified the categories “emotional involvement with nurs- ing,” “the will to continue working,” and “being aware of emotional support.” With respect to factors that serve as back-up for career continuation, we identified the categories “consideration from cowork- ers,” “help from family,” and “available resources.” Receiving “consideration from coworkers,” such as from supervisors and colleagues, allowed nurses to “truly feel they are needed,” which gave them the strength to continue working within the organization. Yet, at the same time, we identified categories related to factors that prevented nurses from continuing their careers, such as “experiencing hardship in the workplace” and “experiencing hardship as a mother.” While these factors made it difficult to con- tinue working, “efforts to overcome difficulties” allowed participants to continue their nursing careers. Furthermore, factors implicated in growth as nurses and the discovery of value in their work were identi- fied in the following categories: “feeling consideration for others and gratitude,” “realization of personal growth through the process of child-raising,” “realization of the value of working,” and “realization of the meaning of one’s existence as a nurse raising a child.” These factors helped nurses develop their own practical working models. In order for nurses raising children to continue their careers, they must be respected as individuals, and working arrangements must be developed that consider the diverse working styles each has chosen to accommodate their individual needs. 要  旨 本研究の目的は,子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続に関連する要因を明 らかにすることである.研究参加者は近畿圏内の病院において正規職員として仕事をしている 8歳以下の子どもがいる女性看護師11名である.研究同意書にサインを得た後,半構造化面接 を行い,面接内容を質的記述的に分析した.その結果15カテゴリー59サブカテゴリーが抽出さ 受付日:2010年3月16日  受理日:2012年3月10日 1) 宝塚大学看護学部 Takarazuka University School of Nursing 2) 神戸市看護大学 Kobe City College of Nursing

子育てのライフステージにある看護師の キャリア継続に関連 …janap.umin.ac.jp/mokuji/J1601/10000005.pdf子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続のコアとなる要因として【子どもの成

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45日看管会誌 Vol. 16, No. 1, 2012

資料

The Journal of the Japan Academy of Nursing Administration and Policies Vol. 16, No. 1, PP 45-56, 2012

子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続に関連する要因

Factors Related to Career Continuation among Nurses Raising Children

岩下真由美 1)高田昌代 2)Mayumi Iwashita1) Masayo Takada2)

Key words : career continuation, career development, female nurses, child-raising, qualitative research

キーワード:キャリア継続,キャリア発達,女性看護師,育児,質的研究

Abstract The purpose of this study was to elucidate factors related to career continuation among nurses raising children. Participants were 11 female nurses raising children aged 8 or under working full-time at hospi-tals within the Kinki region. After receiving written consent for participation, we conducted semi-structured interviews and analyzed interview contents qualitatively and descriptively. Fifteen categories and 59 subcategories were identified in the analysis. To establish the rigor, participants were asked to review the results. As a core factor that determines whether nurses raising children continue their careers, we identified the category “striking a balance between work and child growth.” With respect to factors that serve as the foundation for career continuation, we identified the categories “emotional involvement with nurs-ing,” “the will to continue working,” and “being aware of emotional support.” With respect to factors that serve as back-up for career continuation, we identified the categories “consideration from cowork-ers,” “help from family,” and “available resources.” Receiving “consideration from coworkers,” such as from supervisors and colleagues, allowed nurses to “truly feel they are needed,” which gave them the strength to continue working within the organization. Yet, at the same time, we identified categories related to factors that prevented nurses from continuing their careers, such as “experiencing hardship in the workplace” and “experiencing hardship as a mother.” While these factors made it difficult to con-tinue working, “efforts to overcome difficulties” allowed participants to continue their nursing careers. Furthermore, factors implicated in growth as nurses and the discovery of value in their work were identi-fied in the following categories: “feeling consideration for others and gratitude,” “realization of personal growth through the process of child-raising,” “realization of the value of working,” and “realization of the meaning of one’s existence as a nurse raising a child.” These factors helped nurses develop their own practical working models. In order for nurses raising children to continue their careers, they must be respected as individuals, and working arrangements must be developed that consider the diverse working styles each has chosen to accommodate their individual needs.

要  旨 本研究の目的は,子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続に関連する要因を明らかにすることである.研究参加者は近畿圏内の病院において正規職員として仕事をしている8歳以下の子どもがいる女性看護師11名である.研究同意書にサインを得た後,半構造化面接を行い,面接内容を質的記述的に分析した.その結果15カテゴリー59サブカテゴリーが抽出さ

受付日:2010年3月16日  受理日:2012年3月10日1) 宝塚大学看護学部 Takarazuka University School of Nursing2) 神戸市看護大学 Kobe City College of Nursing

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Ⅰ.問題の所在

 ワーク・ライフ・バランス(以下WLBと略す)を実現するための取り組みは,今や社会の大きな課題となっている.資格を持ちながら就職していない潜在看護職員の離職理由としては,結婚や妊娠・出産・育児などのライフイベントが上位を占めて(日本看護協会専門職支援・中央ナースセンター事業部,2007)おり,岡本(2002)は「女性のライフイベントの中でも,仕事を続けるうえで影響が大きいのは出産や育児である」と述べている.「男性は仕事,女性は家事・育児」という性役割分担意識は徐々に薄らいできてはいるが,現実にはいまだ生活の中に深く根をおろしており(伊藤,2001),女性が仕事をする場合は,仕事も家事も育児もしなければならない現状がある.このようなことから,子育てのライフステージにある看護師がキャリアを継続することは容易いことではないと考えられる.しかし,育児をしながらキャリアを継続している看護師は限られた時間の中で看護の仕事に前向きに取り組み,その人たちが患者にかかわる姿勢は,育児の経験からかひと味違ったように思われた. これまでの看護師のキャリア発達に関する研究では,看護職のキャリア発達過程(草刈,1996)や,影響する因子(水野ら,2000),キャリア発達の構

造(グレッグら,2003)などが明らかにされている.しかし研究参加者は看護管理者をはじめとした様々なキャリア発達段階の人たちであり,子育てのライフステージにある看護師のみに焦点を当てたものではない.また子育てのライフステージにある看護師のみに焦点を当て,それらの看護師がどのような経験をし,なぜキャリアを継続できているのかを明らかにした研究は見当たらない.そこで本研究では,子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続に関連する要因を明らかにすることを目的とする.

Ⅱ.研究方法

1.研究デザイン 本研究は,半構造化面接法を用いた質的記述的研究である.

2.用語の定義・キャリア:職業に関連した活動と役割・ 子育てのライフステージにある看護師:0歳から8歳までの子育て(小学校2年生まで)をしながら仕事を継続している看護師をいう.8歳までとした根拠は,「小学校1~2年頃は,まだ幼児的

れた.分析結果の厳密性を確保するために,研究参加者に分析結果を確認した. 子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続のコアとなる要因として【子どもの成長と仕事の折り合い】というカテゴリーが抽出された.キャリア継続の基本となる要因として,【看護に対する思い入れ】,【仕事を続けようという意思】,および【精神的な後押しがあるという意識】というカテゴリーが抽出された.また,キャリア継続をバックアップする要因として,【職場からの配慮】,【家族からの手助け】,および【活用可能な資源】などのカテゴリーが抽出された.上司や同僚による【職場からの配慮】が得られることで,【自分が必要とされる実感】を持ち,これからもこの組織で働き続けようという気持ちにつながっていた.しかし同時に,キャリア継続を妨げる要因として【職場での苦悩の経験】というカテゴリーや【母親としての苦悩の経験】というカテゴリーも抽出された.これらは,仕事を続けていくことの妨げとなる要因であったが,自らが【困難を乗り越えるための努力】を行うことで,看護師というキャリアを継続していた.さらに看護師としての成長と仕事をすることの価値を導く要因として,【心配りや感謝の気持ち】,【育児を通しての成長の気づき】,【仕事をすることの価値の気づき】,および【育児をしている看護師の存在価値の気づき】というカテゴリーが抽出され,自らが実践モデルとして働くことに繋がっていた. 子育てのライフステージにある看護師のキャリアを継続させるためには,看護師を個人として尊重し,自己決定して選べるような働き方の多様性を考慮に入れた勤務形態を作ることが重要である.

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特徴が強く,親への依存性が大きい」(川出,1996,p.51)からである.

3.研究参加者 研究協力への同意が得られた近畿圏内の病院において正規職員として仕事をしている8歳以下の子どもがいる看護師11名である.

4.データ産出方法 インタビューガイド(表1)を用いて,育児を経験し仕事を継続するか否かを決定するまでの思いや経験,育児を経験する前と後での看護に対する思いや考え方の変化,今後の自己のキャリア発達について,インタビューをおこなった.

5.データ産出期間 2006年11月~2007年4月にかけて実施した.

6.分析方法 許可を得て録音した後,逐語録を作成し,データをまとまりのある意味にコード化した.コードを意味内容の類似性,相違性に基づき分類した.さらに分類したコードに共通性を発見・命名し,カテゴリー化した.分析結果の厳密性を確保するために,同意が得られた研究参加者に分析結果を確認した.

7.倫理的配慮 本研究は神戸市看護大学研究倫理委員会の審査を受けた上で実施している.研究参加者に対して,研究の目的・意義,研究への協力は本人の自由意志が最優先されること,研究の途中であっても辞退できること,研究参加者の発言内容によって周囲からから不利益な扱いを受けることのないように個人や病院の匿名性に配慮すること,今回の研究で得られた情報は研究以外の目的で使用しないことなどを明記した同意書を用いて説明し,同意を得た上で実施した.

Ⅲ.結果

1.研究参加者の概要 本研究参加者の年齢は30歳から39歳で,平均年齢

は34.7±3.2歳であった.経験年数は7年から17年で,平均経験年数は11.5±3.3年であった.職位は看護師長,主任,スタッフ等であった.家族形態は,11名全員が配偶者および子どもと同居していた(表2).

2.カテゴリーの記述 データ分析の結果,15カテゴリー,59サブカテゴリーが抽出された(表3).以下,カテゴリーを【 】,サブカテゴリーを〈 〉,語りの内容を「 」で示す.1)キャリア継続のコアおよび基本となる要因 結果をもとに抽出されたカテゴリーの構造を検討し分析した結果,子育てのライフステージにある看護師は,やりたい看護があることで,子どもに関わる時間と仕事の内容をうまくコントロールして,仕事を続けていた.これは子育てのライフステージにある看護師に特徴的な現象である.このことから,〈子どもとの時間はその時々を大切にしている〉や〈子育てが一段落したらやりたいことにチャレンジしたいと考えている〉など【子どもの成長と仕事の折り合い】はキャリア継続のコア要因である.またキャリア継続の基本となる要因として【看護に対する思い入れ】,【仕事を続けようという意思】,【精神的な後押しがあるという意識】があった.これらは,

表1  子育てのライフステージにある看護師へのインタビューガイド

・出産後,あなたはご自身のキャリアの継続についてどのように考えましたか・ご自身のキャリアを継続することが困難であると思ったことはありましたか・ご自身のキャリアを継続することが困難であると思ったことはどんなことで,それをどのようにして乗り越えましたか・ご自身のキャリアを継続するために組織からどのような支援を受けましたか,そしてどのような支援が必要であると考えましたか・育児を経験する前と後では,ご自身のキャリア発達に対する考え方には何か変化がありましたか・育児を経験する前と後では看護に対する思いや考え方に何か変化がみられましたか・看護に対する思いや考え方に変化がみられたのは,なぜだと思いますか・育児を経験する前と後では看護ケアに何か変化がみられましたか・看護ケアに変化がみられたのはなぜだと思いますか・あなたが看護師であるということにはどのような意味がありますか・今後は自己のキャリアをどのように発達させていきたいと考えていますか

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看護は自分にとって意味のある仕事であると感じ,働き続けたいと思っていることを示していた.またその過程で,子どもをはじめとした家族,共に過ごしてきた患者,同じように育児をしながら仕事を続けている看護師や地域の人々から後押しされていると感じていた.(1)【子どもの成長と仕事の折り合い】 【子どもの成長と仕事の折り合い】は,自分が満足するまで仕事をやりたいという気持ちと,子どもに対しても満足のいく母親でありたいという気持ちが同時に存在するが,どちらも完全に満たされることのない苦しみの中で,それぞれの気持ちを譲り合い,自分が許せる範囲内での決着をつけながら,仕事を続けていこうとする姿勢を示している.経験年数10年の看護師は,やりたい仕事ができなくなり物足りないと思いながらもいつかはできる日が来ると信じて仕事を続けていた. 「子どもを産む前に比べると,本当にしたいことができな

くなりました.物足りない….でもね,今は優先順位をつけ

るとしたら,仕事よりも子どもが上なので,今は仕方がない

かなと思って,割り切って仕事をしていますね.まあ,もう

ちょっとして落ち着いたらやれる時期も…ずーっと子どもに

手がかかるわけじゃないし,やれる時期もくると思います」

(No.8)

(2)【看護に対する思い入れ】 【看護に対する思い入れ】は,看護という職業に対して愛着や好意的な感情を持っているとともに,責任を持って果たさなければならない自分に課せら

れた任務であるという意識を持っていることを示している.経験年数11年の看護師は,看護師の仕事の自分にとっての意味について次のように述べた. 「結局は自分の成長なのだろうなと思います.看護は,相

手に対してするだけじゃないですもんね.だから,ケアされ

ること.患者さんによってケアされる.人との出会いを通じ

てケアされているとすごく感じるので,そのことによって自

分自身が成長するということがあり,それがすごく大きいか

ら,看護師をこれからも続けていたいと思います」(No.6)

(3)【仕事を続けようという意思】 【仕事を続けようという意思】は,育児と家事だけの生活では満足しないことや看護師の仕事を中断したくない,専門性を高めたいなどの思いから,看護師という仕事を生涯にわたって継続していこうという意思があることを示している.クリニックで勤務している経験年数9年の看護師は,将来的にも中断することなく看護師というキャリアを継続したいと考えていた. 「スタッフの人数が少なかったら少ないだけ迷惑をかけら

れないでしょ?だから,行かないといけない.そこを埋めな

いといけないじゃないですか?でもそれをしてまで自分が働

きたいのかといったら,私は働きたいのよ.子どもに坐薬を

入れて熱を下げてまでして出勤するのは,他のスタッフに迷

惑をかけたくないからであり,私はそれをしてまで働きたい

と思っている.(中略)現在勤務しているクリニックは,第

一線を外れているかもしれないけど,私は辞めようとは思わ

ないし,働き続けたい」(No.5)

表2 研究参加者の背景

No. 年齢 性別 職位保有免許

経験年数

結婚年齢

子どもの数

育児休業

第1子 第2子 第3子

1 30歳代後半 女性 スタッフ 看護師 16 30 1 8ヶ月

2 30歳代後半 女性 主任 看護師 12 24 1 7ヶ月

3 30歳代後半 女性 スタッフ 看護師 17 29 2 7ヶ月 5ヶ月

4 30歳代前半 女性 スタッフ 看護師 7 25 2 0 0

5 30歳代前半 女性 スタッフ 看護師 9 24 2 0 0

6 30歳代前半 女性 スタッフ 看護師 11 26 2 0 0

7 30歳代前半 女性 主任 看護師 9 25 1 11ヶ月

8 30歳代前半 女性 スタッフ 看護師 10 29 1 7ヶ月

9 30歳代前半 女性 スタッフ 看護師 9 27 1 0

10 30歳代後半 女性 スタッフ 看護師 11 27 3 6ヶ月 6ヶ月 6ヶ月

11 30歳代後半 女性 師長 看護師 16 30 3 0 0 0

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表3 子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続に関連する要因 カテゴリー・サブカテゴリー一覧

カテゴリー サブカテゴリー

子どもの成長と仕事の折り合い

・子どもとの時間はその時々を大切にしている・子どもを産んでやりたい仕事はできなくなったが今は割り切っている・子育てが一段落したらやりたいことにチャレンジしたいと考えている・やりたい仕事よりも子育てへのサポートがあるところで勤めたいと思うようになった・子どもの小学校入学を節目に働き方を変えようと考えている

看護に対する思い入れ・看護師という仕事は自分にとって意味のある仕事である・人を相手とする看護師の仕事はやりがいがある・私という人間を確立するために看護師をしている

仕事を続けようという意思

・看護師というキャリアを継続しようと思っている(た)・育児と家事だけの生活では満足感にかけるため働きたい・今後も専門性を高めようと思っている・今後も同じ組織で働き続けようと思う・研修で学んだことを組織に還元しようと思う

精神的な後押しがあるという意識

・家族が応援してくれているという意識がある・家族が働くことを認めてくれているという意識がある・共に過ごしてきた患者の存在は仕事を続ける上での支えである・育児をしている看護師に励まされているという意識がある・地域の人々に子どもを認めてもらっているという意識がある

職場からの配慮

・出産後は夜勤を考慮した配置転換がある・出産後は希望通りの配置転換であった・家族が病気の時には上司や同僚からの配慮があった・出産後夜勤の回数や時間に対する配慮がある(あった)・育児時間を確保するための組織や上司からの配慮がある・キャリア開発に向けて組織からの声かけがある

自分が必要とされている実感 ・上司や同僚の配慮により自分が必要とされていると実感した

家族からの手助け

・家族が家事をする・日常の育児の手助けがある・保育園の送り迎えをしてくれるサポーターがいる・子どもが病気の時にケアする人がいる・夜勤のときに育児をする人がいる

活用可能な資源 ・保育施設を利用している

職場での苦悩の経験

・育児休業をとりたくても取れなかった・上司や同僚には育児の大変さを理解してもらえていないと感じる・子どもの病気のために仕事を休むことで上司や同僚に気兼ねがあった・育児のためにやりたい仕事がやれないという歯がゆさから葛藤があった・時間的な限界があるために一杯一杯で仕事をしている・育児と勤務の調整がうまくいかない・組織は育児をしている看護師のキャリア発達を考慮していない

母親としての苦悩の経験

・子どもが病気の時でも仕事を優先することで自己嫌悪に陥る・子どもが病気の時,母親と職場での役割との間で葛藤がある・母親としての役割をはたせず子どもに対して罪悪感がある・子どもをみてもらうことで実母義父母に対して気がねがある・夫は日本の伝統的な性役割を重視していると思う

困難を乗り越えるための努力 ・子どもが病気の時には自ら困難を乗り越える努力をした・出産後,希望の配置がとおるよう自ら行動を起こした

心配りや感謝の気持ち ・子どものことで周囲への気遣いをしている・職場の人や家族に対して感謝の気持ちがある

育児を通しての成長の気づき

・相手の個性を尊重できるようになった・待てるようになった・相手に合わせた援助ができるようになった・患者との関わりがうまくいくようになった・患者をとりまく家族の思いがわかるようになった・小児の援助がわかった

仕事をすることの価値の気づき

・育児に比べて仕事は私を評価してくれる・仕事から帰ってからでも自己を向上させるための努力をしたいと思っている・仕事をすることで上手くストレスコーピングできている・効率的な時間の使い方に変わった

育児をしている看護師の存在価値の気づき

・育児を経験している看護師は医療の現場では必要であると思う・自らが働くことで管理者の意識をよい方向に変えたいと思う

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(4)【精神的な後押しがあるという意識】 【精神的な後押しがあるという意識】は,子どもをはじめとした家族,共に過ごしてきた患者,育児をしながら仕事をしている看護師,および地域の人々の応援が心理面での支えとなり,看護の仕事を続けていく上での後押しになっていると意識していることを示している.経験年数16年の看護師は,様々な困難を乗り越えて仕事を続けてこられたのは子どもの応援があったからだと考えていた. 「私が仕事を続けてこられた理由の1つはね,長男が,私

が看護師をしていることを好きでいてくれてるんですね.そ

れを学校で喋ってくれてるんです(涙ぐむ).『T病院でお母

さんは看護師している』と学校で言っているから,それを聞

いたときはすごく嬉しかったし,彼がそう思ってくれるので

あれば,T病院で看護師として働き続けるのもいいかなと

思っているんです.(中略)長女も看護師さんが好きなんで

すって(涙ぐむ).(中略)しんどいなと思うときでも仕事を

続けてこられたのは,子どもたちのパワーもあります.子ど

もの存在は大きいですね」(No.11)

2) キャリア継続をバックアップする要因と妨げる要因

 子育てをしながら看護師がキャリアを継続するためには【職場からの配慮】,【家族からの手助け】,および【活用可能な資源】などの支援があった.上司や同僚による【職場からの配慮】が得られることで【自分が必要とされている実感】を持ち,これからもこの組織で働き続けようという気持ちに繋がっていた.しかし同時に,〈子どもの病気のために仕事を休むことで上司や同僚に気兼ねがあった〉や〈育児のためにやりたい仕事がやれないという歯がゆさから葛藤があった〉など【職場での苦悩の経験】をしていた.さらに〈子どもが病気の時母親と職場での役割との間で葛藤がある〉や〈母親としての役割をはたせず子どもに対して罪悪感がある〉など【母親としての苦悩の経験】もしていた.これらは仕事を続けていくことの妨げとなる要因であったが,自らが【困難を乗り越えるための努力】を行うことで,看護師というキャリアを継続していた.(1)【職場からの配慮】 【職場からの配慮】は,育児をしながら仕事を続けていくために組織・上司・同僚からの支援や配慮が得られたことを示している.経験年数9年の看護師は,上司がライフスタイルに合わせた夜勤を組ん

でくれたことで,看護師というキャリアを継続することができていた. 「組織が夜勤をしないと常勤ではないということもあって

夜勤をしています.夜勤は2つ種類があるので,私はもう1

つの夜勤を取っていません.それは夕方から仕事してないと

いけないので,旦那とバトンタッチがうまく行きませんか

ら.家族のライフスタイルに合わないので,1つの夜勤を免

除してもらっています.ある程度,子どもが寝ている時に働

く分だけしかしてないんです(深夜勤務のみ)」(No.7)

(2)【自分が必要とされている実感】 【自分が必要とされている実感】は,育児をしながら仕事を続けていくために上司や同僚から配慮が得られたことで,自分は職場の中で必要とされていると感じたことを示している.経験年数16年の看護師は次のように述べた. 「夫の突然の入院と弟の子どもが病気になったことで,子

どもの面倒を見てくれる人がいなくなり,師長さんに仕事の

継続が難しいという話をしたとき,『少しの間の勤務都合こ

となら支援できるので,都合が付けられ,もうちょっと頑

張ってもらえるんだったら,本当にいてほしい』と言われま

した.その時,必要とする人材と思われているんだなと思い

ました.(中略)師長さんや職場の同僚からの支援を受けて

嬉しかったですし,自分には価値があるんだなと強く感じま

した」(No.1)

(3)【家族からの手助け】 【家族からの手助け】は,育児をしながら看護師の仕事を続けていくために,夫・両親・兄弟姉妹から家事や子育てに対する手助けがあることを示している.経験年数10年の看護師は,子どもが病気の時にケアする人がいることで看護師というキャリアを継続することができていた. 「子どもが病気の時は,主人の両親とかも非常に協力して

くれるし,入院した時はうちの実家の母が,90過ぎて介護が

必要なおじいちゃんを施設にあずけてまでも,(地方から)

こっち出てきてくれたりとかしたので,周りの協力があった

ので,勤務交代をすることもなく,一日も休むことはありま

せんでした.(中断)子どもが保育園で熱を出した時は,主

人に(保育園から)電話がかかってきて,私が休みとかだっ

たら主人は私に電話をくれるし,私が仕事だったら,仕事中

に電話に出られないのは分かっているので,主人から両親に

電話してお迎えにいってもらって看病してもらっています」

(No.8)

(4)【活用可能な資源】 【活用可能な資源】は,育児をしながら看護師の

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仕事を続けていくために院内保育所・保育園・学童保育などの社会資源を利用していることを示している.経験年数11年の看護師は,自分の勤務時間に合わせて保育施設を利用していた.それに加えてお迎えという家族からのサポートを得ていた. 「学童保育を利用しています.学童保育のお迎えはお母さ

ん(義母)が行ってくださいます.(中略)学童保育は,最

長19時までだと思います.割と遅くまでみてくれるんです.

うちの保育所は特別かもしれないです.先生が一生懸命です

ね.(中略)低学年ですので,時間になったら親か家族がお

迎えにいかないといけないんです.お母さん(義母)が,保

育園まわって,学童によって帰ってくれます」(No.6)

(5)【職場での苦悩の経験】 【職場での苦悩の経験】は,育児をしながらキャリアを継続していくことの妨げとなるような職場での経験のことを示している.経験年数9年の看護師は,限られた時間の中で後輩への支援が行き届かず悔いが残っている状況について次のように述べた. 「(定時より)30分早く帰らないといけない(保育園のお迎

え)ために,極端に時間が限られているし,残って本当はこ

のこともして帰りたい.あの子(後輩)に指導もしないとい

けない.相談もうけているんだけど,もう,もう,もう,いっ

ぱい,いっぱい.『ごめん,時間がないから』と言って,帰っ

てしまって,後ろ髪を引かれることは多々あります」(No.7)

(6)【母親としての苦悩の経験】 【母親としての苦悩の経験】は,育児をしながらキャリアを継続していくうえで母親の立場からみた心の葛藤や悩みの経験を示している.経験年数11年の看護師は,子どもが病気の時に子どもを看病してあげたいという気持ちとスタッフに対する気兼ねとの間で葛藤があった. 「子どもの急な病気で早退しなければならないとき,子ど

もに対しては母親の代わりはいないと思うから,気持ちは他

人のことを看るよりは我が子のことをちゃんと看てあげたい

という思いでいっぱいいっぱいなんですけど,反面スタッフ

に対しては,気兼ねだとか色々あります.家族にどうしても

都合がつかないときはもう,みんなに頭下げています」

(No.10)

(7)【困難を乗り越えるための努力】 【困難を乗り越えるための努力】は,職場での役割や母親としての苦悩の経験があった場合に,自ら問題解決をはかり,困難を乗り越えるための行動を起こすことを示している.経験年数9年の看護師は

出産前に勤務していた部署に戻りたかったことから意図的に育児休業を取らなかった. 「産休のときだと看護部長室付けにならないんですよ.産

休だけのことなので,よっぽどのことがない限り,もとの部

署に戻れるっていうような形になっているので,出産後は病

棟には興味がなく,できれば元の部署に戻りたかったので,

育児休業を取りませんでした」(No.9)

3) 看護師としての成長と仕事をすることの価値を導く要因

 育児をしながら仕事をする中で,仕事を続けるためにバックアップをしてくれる人々に対して【心配りや感謝の気持ち】を抱き,患者をはじめとした人との関係性の中で〈相手の個性を尊重できるようになった〉,〈待てるようになった〉や〈患者をとりまく家族の思いがわかるようになった〉など,【育児を通しての成長の気づき】を実感していた.そして看護師として成長したことで,〈育児に比べて仕事は私を評価してくれる〉や〈仕事をすることで上手くストレスコーピングできている〉など【仕事をすることの価値の気づき】や,〈育児を経験している看護師は医療の現場では必要であると思う〉という【育児をしている看護師の存在価値の気づき】へと発展し,自らが実践モデルとして働くことに繋がっていた.(1)【心配りや感謝の気持ち】 【心配りや感謝の気持ち】は,様々な苦悩を経験しキャリアを継続していく中で,自分を取り巻く周囲の人々に対して配慮や心遣いをするとともに,感謝の気持ちを抱くことを示している.経験年数12年の看護師は,サポートする夫に対して感謝の気持ちを抱いていた. 「夫がサポートをしてくれることは,嬉しいし,感謝して

います.自分が仕事をしていく上で,すごくよいサポートし

てくれていますね.(中略)子どもは4歳になりましたが,

夫か私のどちらかがみていたので,今までに2,3回しか他

の人に預けたことはありません」(No.2)

(2)【育児を通しての成長の気づき】 【育児を通しての成長の気づき】は,育児をしながら看護の仕事を続けていく中で,自分自身が看護師として成長したと意識するようになったことを示している.経験年数10年の看護師は,自分が親になったことで,親が子どもを思う気持ちを理解することが可能になり,患者だけではなく患者の家族の

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立場に立った見方や考え方ができるようになったと意識していた. 「結婚して家族を持ったときには変化はなかったんですけ

どね.子どもを産んでから家族とかのかかわりというのが,

すごく目につくようになりました.自分の中ではすごく大事

なポジションです.患者の家族が今こういうふうに思ってい

るのだろうとか考えるようになったのは,たぶん自分が親に

なってからだと思います.『子どもが事故にあった両親はこ

んなふうに思っているだろうな』とか,例えば自殺されたか

たに対して,親は『こんなばかで』って言っていますけど,

『でも私の子どもみたいなこんな時代もあっただろうし,そ

ういう子育てをやってきた人達なんだろうな』って,そうい

うふうに見てしまっているのかもしれないですけどね.本当

に子どもを産んで変わったことがいっぱいあるんですよ」

(No.8)

(3)【仕事をすることの価値の気づき】 【仕事をすることの価値の気づき】は,育児をしながら仕事をすることは自分自身に良い影響をもたらしていることから,仕事をすることに価値を見つけたことを示している.経験年数11年の看護師は,職場と家庭双方でうまくストレスコーピングできていると考えていた. 「家があって家庭があって子どもがいると,職場のストレ

スも家ではらされるし,家のストレスも職場で発散できると

いう,なんかこう,職場の環境がよいといい具合になると思

うんですよ.今ほんとそうなので.(中略)独身の時はね.

もうそのまま職場のストレスを家に持って帰ってずっと悩ん

でいたりとか,患者さんのことずっと考えていたりとかあっ

たけど,子どもの面倒をみていると考える暇がないので」

(No.6)

(4) 【育児をしている看護師の存在価値の気づき】

 【育児をしている看護師の存在価値の気づき】は,育児を経験して人として成長した看護師が看護実践の場で働くことは,意義深いと意識していることを示している.経験年数9年の看護師は,自分自身が成長したという経験から,育児を経験している看護師は医療の現場では必要であると考えていた. 「子育てを経験した看護師は医療の現場では絶対必要だと

思います.(中略)子どもを産んだら,それだけでも経験と

して1つ増えるし,独りで生活しているのとは異なり色々考

えるので,子どもをめぐることで分野が広がり,自分自身の

視野も広がると思う.(中略)子どもと一緒にいるとほとん

ど計画どおりにはいかず,つぶされることが多いし,その中

でやりくりしていくというのもあるから,世界が広がり,今

まで以上に広い目で見れて,広い目で人に対応ができると思

うんです」(No.9)

Ⅳ.考察

1.キャリア継続の基本となる要因 看護という職業に初めて就き,その後,結婚・妊娠・出産・育児という女性のライフイベントを機に離職が多く見られる中で(日本看護協会専門職支援・中央ナースセンター事業部,2007),子育てのライフステージにある看護師は,【看護に対する思い入れ】が明確であった.具体的には,看護師の仕事の自分にとっての意味は「自分自身の成長」であったり,「心地よい自分でいること」であったり,「生きがい」であったり,各々が仕事に対して独自の意味を持っていた.また看護の仕事にやりがいや好意的な気持ちを抱いたり,責任をもって果たさなければならない自分に課せられた任務であると意識したりしていた.このことは,看護の仕事に対して「充実感」,「満足感」や「生きがい」を抱きながら働いている(堀孔,2003;齋藤,2005;眞壁ら,2007)ことや,看護という職業が好きであり(青木ら,2005),「看護の仕事が好きで楽しい,一生続けたい」とやりがいを感じながら働いている(齋藤,2005)ことなどを支持する結果であると考えられた.これは看護師というキャリアに対して心理的アタッチメントが生じていると考えられる.コミットメントとは,関わり合いや傾倒,愛着などの意味を持つ心理的な態度である(酒井ら,2004).矢野ら(2004)の調査では,既婚女性看護師は看護師という仕事にコミットメントしていることが明らかになっている.子育てのライフステージにある看護師は【看護に対する思い入れ】という情緒的な要素(Allen & Meyer,1993)があり,そのことが基本となって仕事を続けることが可能になっていたと考えられた.看護実践を向上させるためには,看護師の看護というキャリアへのコミットメントは重要不可欠であり(グレッグ,2005),このような【看護に対する思い入れ】がある看護師が実践の場で働くことは,看護の質の向上につながると考えられる.本研究参加者の調査時点の年齢は30から39歳で,看

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護師経験年数が7から19年であったことから,Schein(2000)のいう「中期キャリア」であると考えられた.組織の中でアイデンティティを確立し,自分自身のみならず他者をも含めた高度な責任を引き受けることや,家庭・自己・仕事という3つの領域を調和させ将来的なキャリア計画を立てるという課題がある(Schein,2000).育児をしながら仕事をする中で,専門性を高めたいと考えるとともに,組織目標を意識しながら研修に参加し,研修で学んだことを組織で活かしていく必要があると考えていた.そして,自分自身が専門的な知識や技術を獲得することで,その専門領域の看護実践をすることができて,病院の収益にもつながると考えていた.つまり,組織がどのような目標や方針をもって取り組んでいるのかを意識しながら,自分のやりたい看護の実現に向けて仕事をしていたと考えられる.このような組織へのコミットメントを強めるためには,組織と個人の目的や価値観の一致を重視すべきであり(Ingersoll ら,2002),子育てのライフステージにある看護師は,組織の目標や理念を理解し,自分自身が獲得した専門的な知識や技術を同じ組織で働き続けながら,看護実践に反映しようとしていた.組織目標を意識しながら,今後も仕事を続けていく上で専門性を高めていこうという意思のもとに仕事をすることは重要であり,組織もまた個人のキャリアプランを支援する必要がある. 「精神的な後押し」というものは物理的に何かがあることではなく,応援として聞こえてくるものや,後ろ盾になってくれるという目に見えないものの意識である.本研究において,その「後押しという意識」が看護師の心の支えになっていることが明らかになった.子どもをはじめとした家族,共に過ごしてきた患者,同じように育児をしながら仕事を続けている看護師や地域の人々からの【精神的な後押しがあるという意識】をしていることで,仕事を続けることができていたと考えられる.家庭生活と仕事とのバランスがうまくとれているほど仕事に対する愛着や価値意識が強く,生きがい感や精神的充実感も高いことが明らかになっている(羽田野ら,2004)ことや,家庭生活から得られるものが,職業に対する肯定的態度を促進するのではないかと推測される(矢野ら2004)ことからも言えるように,家族からの【精神的な後押しがあるという意識】は,

子育てのライフステージにある看護師が仕事を続けていく上で必要不可欠な要因であることが示唆された.

2. キャリア継続をバックアップする要因と妨げる要因

 子育てのライフステージにある看護師がキャリアを継続していくためには,職場や家族,そして保育施設という社会資源からのバックアップが必要不可欠な条件といえるものである.そのため,いずれか一つのバックアップが欠如すれば,キャリア継続が困難になると考えられる.看護師の特徴的な就業として夜勤がある.現在の7対1看護体制においては,1か月の夜勤時間は平均72時間以内で,1カ月最低2回の以上の夜勤ができなければ夜勤要員としてみなされない(日本看護協会編,2008).夜勤ができないと正規職員として雇用されない病院の場合は,研修等の機会を得ることが難しいパートタイムの選択しかなくキャリア形成が困難となる.看護師がキャリアを継続するためには雇用の安定化に向けて,組織や上司が夜勤の希望を聞き,WLBを共に考えることが重要であると考える.また出産後は,組織の都合により人員が不足している部署に配置転換されることが多く,個人のキャリア発達が考慮に入れられていない現実がある.出産後,職場に復帰するときに看護師は,家族が増えたという生活の変化に伴うストレスを抱えている.その上に職場が変更となれば,その変化によるストレスを同時に抱え込むことになる.社会的ストレスが増すと重大な健康障害を起こしやすく(Holmes & Rahe,1967),キャリア発達過程に対する影響因子として「配置転換」がある(水野ら,2000)ことから考えると,看護師が職場復帰する際には,出産前の部署への配置転換という組織からの配慮が,仕事のスムーズな走り出しにつながると考える. 子どもは保育園に通いはじめると,他の園児から感染して突発的な病気に罹りやすいため,子どもの病気で急遽休まざるを得ないことが多くなる.そのような時には,「お互いさま」と言って同僚は快く仕事を引き受けてくれていた.友人,サポートシステムとしての同僚とよい人間関係を保つことで組織コミットメントは強まる(McNeese-Smith,2001)と報告されているように,職場のこのような「お互

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いさま」という許し合いは看護師にとって大きな支援であり,その職場で必要とされていると身を持って感じる瞬間となる.「師長さんや職場の同僚からの支援を受けて嬉しかったですし,自分には価値があるんだなと強く思いました」という発言に表現されていた.このような【自分が必要とされている実感】は,仕事への意欲となり,この組織で働き続けようという気持ちに繫がっていたと考えられる. 【母親としての苦悩の経験】の例としては,家族から日常の家事や育児の手助けがあるとはいえ,子どもに対して母親としての役割が果たせていないという後ろめたさがあった.子どもが病気の時は,常に母親としての役割と職場での役割との間で葛藤を抱きながら仕事を続けていたことが伺えた.これらのことは,石上ら(2006)の調査結果と同様であった.しかし,就労継続を妨げる要因があった場合でも,家族の急な病気のときには養育者のコーディネートを行なったり,産後は,組織の人員配置についての情報収集に努め,育児と仕事を両立できる部署へ配置されるようタイミングを見計らって復帰したりしていた.また環境変化を回避するため出産前の部署に戻れるよう意図的に育児休業を取らなかったりするなど,自らが【困難を乗り越えるための努力】をしたことにより,同じ組織でキャリアを継続することが可能になっていた.すなわち問題解決的な対処行動をとったり,他人の権利を尊重しながら自分の権利を守るというアサ-ティブな行動をとったりすることは,仕事を続ける上で必要な能力であると考える.

3. 看護師としての成長と仕事をすることの価値を導く要因

 看護師はキャリアを継続していく中で,バックアップしてくれる職場の人々や家族に対して【心配りや感謝の気持ち】を抱いていた.このように,職場や家族などの周囲の人々に対して心配りや感謝をすることで,それらの人々との人間関係が良くなり,心地よく仕事ができる.心地よく仕事ができることにより職場や家族などの周囲の人々への感謝の気持ちを抱くことになる.こういった相互作用がキャリア継続の要因であると考えられる.人間関係の中で権利を主張することも重要であるが,感謝や心配りがなければ殺伐とした人間関係となる.この

ような人間関係を円滑にしつつ,自己実現に向けて日々努力するように調整していくという人間としての成長が見受けられた.【心配りや感謝の気持ち】に加えて,患者をはじめとした人との関係性の中で自分自身の【育児を通しての成長の気づき】を実感していた.育児を経験して〈相手の個性を尊重できるようになった〉や〈待てるようになった〉など,看護師として成長すると同時に人間としても成長していたと考えられた.子育ては自分育て(岡本,1997)と言われているように,自分自身が成長する機会であるとされている(柏木,1995).本研究参加者も,育児をしながら仕事を続けていく中で,育児から得た経験が他者との関わりに役立っていた.柏木(1995)は,子育てにより「柔軟さ」,「自己抑制」,「視野の広がり」,「自己の強さ」を身につけ成長する(柏木,1995;岡本1997)としていることから,子育てのライフステージにある看護師は,看護師として成長すると同時に人間としても成長していたと考えられる. さらに,【心配りや感謝の気持ち】や【育児を通しての成長の気づき】という自分自身の経験を通して,【仕事をすることの価値の気づき】や育児を経験して人として成長した看護師が看護実践の場で働くことは,意義深いという【育児をしている看護師の存在価値の気づき】に繋がっていたと考えられた.看護実践を評価するものとして,クリニカルラダーや診療報酬などがあるが,中でも現在の入院基本料は,患者対看護師の人数でしか評価されておらず,高い技能を持つ看護師でも,技能の低い看護師でも同じ報酬額である.そのために利益を上げようとする医療サービスがとる行動としては,安い人件費で十分な技能を持たない看護職を投入することが考えられる.このことは看護サービスの質の低下を招くだろう.子育てのライフステージにある看護師に付加価値をつけることで,組織の中でこれまで以上に子育てのライスステージにある看護師を活用する機会を増やし,キャリア中断を阻止すると共に,潜在看護師の減少に繋げることが重要である.

4.子どもの成長と仕事の折り合い 看護師は育児をしながら仕事を続けていく中で,自分が満足するまで仕事をやりたいという気持ちと,子どもに対しても自分が満足のいく母親であり

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たいという気持ちが同時に存在し,どちらも完全に満たされることはなく苦しんでいた.そのような中で,それぞれの気持ちを互いに譲り合って,自分の中で自分が許せる範囲内で,気持ちの上での決着をつけながらキャリアを継続していこうとしていた.将来的にやりたい仕事があるために,現在のところは子どもの成長と仕事の内容をうまくコントロールして,仕事を続けていた.研究参加者に分析結果を示し,カテゴリーの関連性を確認してもらった結果,【子どもの成長と仕事の折り合い】は子育てのライフステージにある看護師のキャリア継続のコア要因であると考えられた.日本看護協会の「看護職確保定着推進事業」は,事業推進のVision として,「専門職として働きがいのある条件の整備」とともに「生活者としての適切なWLBの実現」を掲げている(日本看護協会編,2007).しかしこれらのことに先駆けて,子育てのライフステージにある看護師は,組織の中で「時差出勤」,「フレックスタイム」や「夜勤の選択」などを組織や上司にお願いし,自らが仕事と生活を調和させていた.すなわち,自らがWLBの先駆者となって行動していたと考えられる.中年の看護師(11年から22年の実践をしてきた31歳以上50歳以下の看護師)のキャリア発達を促進するためには,本人だけではなく,その子どもに対する組織からの援助も重要であり(Shindul-Roth-schild,1995),女看護師が9割以上を占める病院において,キャリア継続のためには,院内保育所や病児保育などの設置が必要である.加えて個を尊重した人材管理が必要である.これまでのように,夜勤がない部署や夜勤が少ない外来などに配置転換するだけでは限界がある.したがって,家族からの手助けや社会からの支援の程度に合わせた個別的な組織からの支援が必要になってくると考える.つまり,看護師自身を個人として尊重し,自身が意思決定をして選べるような働き方の多様性を考慮に入れた勤務形態をつくる必要があると考える.これらのことにより,多くの看護師が個人の努力だけに頼らず,自分の生き方と働き方を調和させることができると考える.子育てのライフステージにある看護師を組織において活用することで,ある一定の年齢層だけが欠如するのではなく,まんべんない年齢層の看護師たちがそれぞれの経験年数に見合った役割を発揮することに繋がるのではないかと考える.その

ことが看護師の定着となり,質の高い看護を提供することにも繋がると考えられた.

Ⅴ.結論

1.子育てのライフステージにある看護師は【看護に対する思い入れ】,【仕事を続けようという意思】,および【精神的な後押しがあるという意識】がキャリア継続の基本的な要因となっており,【子どもの成長と仕事の折り合い】をつけながら仕事を続けていた.2.【職場からの配慮】,【家族からの手助け】,および【活用可能な資源】などのバックアップがあることで仕事を続けることができていた.3.【職場からの配慮】があることで【自分が必要とされている実感】を持ち,これからもこの職場で働き続けようという気持ちに繋がっていた.4.子育てをしながら仕事を続けていく中で,【職場での苦悩の経験】や【母親としての苦悩の経験】などの妨げ要因があった場合でも,自らが【困難を乗り越えるための努力】をしていた.5.様々な苦悩を経験しサポートを得る中で,自分を取り巻く周囲の人々に対して【心配りや感謝の気持ち】を抱き,人との相互関係の中で【育児を通しての成長の気づき】を実感していた.さらにそれは【仕事をすることの価値の気づき】や【育児をしている看護師の存在価値の気づき】へと発展し,自らが実践モデルとなって働くことに繋がっていた.

Ⅵ.本研究の限界

 本研究は機縁法で研究参加者を探したために,所属している組織が自治体病院や財団法人など比較的福利厚生が整っている病院に偏り,そのことは研究結果にも影響した可能性がある.また,データ収集方法は研究参加者1名につき1回のインタビューであり,観察方法を併用する方法や複数回のインタビューを行う方法に比べて,得られるデータの量や内容は限られたものである.さらに,本研究は育児と仕事を両立している看護師のみに焦点を当てたも

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のである.子育てのライフステージにある看護師がキャリアを継続する方法を検討するためには,育児のためキャリアを中断している看護師にもインタビューをすることにより,今回の研究結果が補完されると考える.加えて看護管理者にもインタビューを行い,彼らの期待や考え方を明らかにすることで,より効果的な支援のあり方が導き出されるのではないかと考える.

謝辞:研究参加者の皆様,ならびに御指導いただきました先生方に感謝いたします. なお本研究は2008年度神戸市看護大学大学院修士論文を加筆修正したものである.研究結果の一部は第13回日本看護管理学会学術集会で発表した.

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責任著者 岩下真由美 宝塚大学看護学部看護学科〒530-0012 大阪市北区芝田 1-13-16E-mail [email protected]

Correspondence: Mayumi IwashitaTakarazuka University School of Nursing1-13-16, Shibata, Kita-ku Osaka 530-0012 [email protected]