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土着天敵の増殖技術 : 捕食性テ ントウムシ類の増殖技術 523 特集号 : 土着天敵の増殖技術 ( 7 ) 捕食性テ トウ シ類の増殖技術 いわ 株式会社 クボタ 事業開発室 ア プラ ム シ捕食性テ ン ト ウ ム シ類を天敵資材 と し て開 し, 生物的防除を試みた例は古 く から知られている。 実際にアプラムシ個体群の密度抑制において, テントウ ムシ類の捕食圧はきわめて高く, 他の捕食性天敵 (クサ カゲロウ, ショクガタマパエなど), あ る い は寄生性天 (ア プラパチなど) と比べても高位となる 存在 であ る。 と こ ろ が, テ ン ト ウムシ類を防除資材と して実用化 す る 場合, 必要防除適期に十分量の個体を供給す る こ と が要 求される。 テ ン ト ウ ム シの集団越冬個体を一度に大 量採取するという方法も場合によっては可能であるが (HiPpodam converg仰ce な ど) , 最も確実な方法と し ては, 他の天敵資材 と 同 じ よ う に人為的に増殖させ, 定的な生産 ・ 供給を図る こ とである。 こ の場合, 餌の適 性は栄養性, 生産性, 保存性, 操作性 な ど に よ っ て 決 め ら れ る が, これらすべての点を満たしているものはな い。 これまでの飼料は次のよ う に大別でき る。 アブラ ム シ : 栄養的に十分だが供給に手聞がかかる 代替餌飼料 (昆虫などを主要タ ンパク源とする) : 栄養的に優れているがコ ス ト が高い ミ ツバチ 雄蜂児粉末 (岡田, 1970) , 鱗麹目昆虫卵 (I PERTI , 1972), プライン シ ュ リ ン プ耐久卵 (本 郷 ・ 大林, 1997) 合成飼料 (天然物, 食品等の組み合わせ) : 栄養的に不足部分が目立つ ハチミツ, ロイヤルゼリーなど (S MIRNOFF 1958, 花粉, 鳥レバー ( SM I TH 1960) , 16種の天然物混 (A TALLAH and NEWSOM, 1966) 一方, 筆者 ら は保存性 ・ 操作性 を さ ら に追求 し て い く 過程で, 生産性 (大量飼育) に優れたアブラムシ以外の 見虫 を ナ ミ テ ン ト ウ の代替餌 と し て 用 い る こ と がで き な いかを検討し, その結果, 生 き た コ ナ ガ幼虫 ・ 婦 を利用 できることが明らかとなった。 本文では, 日本で最も普 通種であ る ナ ミ テ ン ト ウとナナホシテン ト ウ の生態, Rearing Methods of Native Natural Enemies in ]apan : Aphidophagous Ladybird. By Tomoko IWASA (キ ー ワ ー ド : 土着天敵, テ ン ト ウ ム シ類 大量増殖, 代替 餌, コナガ IPM) 21 集方 法とともに, コナガを用いた方法を含めた増殖方法 を紹介する。 I 鞘麹 目 テ ン ト ウ ム シ 科 (CoccinelJidae) に属する 虫 は, わ が 国 に 約 160 種 が 生 息 し て お り (SASAJI 197 1) , その食性は食植性, 食菌性, 捕食性の三つに分 けられる。 天敵資材 と し て有効な も の は, アブラムシ カイガラムシを食べる捕食性であり, ナミテントウ, ナホシテントウはその代表種である。 ナミテントウ (肋onia n・dis ) (以下, ナミと称 す) は, 台湾からシベリアまで 広 く ア ジ ア に 分布 し , 本各地に生息している。 テ ン ト ウ ム シ 類 と い う 一般総称 と混同しないよう, 現在で は ナ ミ テ ン ト ウ と い う 和名が 使われている。 雌雄は上唇の色 (雌 : 黒色, 雄 : 淡色) , 腹部腹面 5, 6 (雌 : 5 節は角張 り 6 節の中央が隆起, 雄 : 平 た く 6 節 に 凹) の形態によって識別できる。 お, 近似種 に ク リ サ キ テ ン ト ウ (H yedoensis) がお り, 成虫で両種を区別するのは困難である。 しかし4 幼虫では, ナ ミ は腹部背面の 2 対の黄色剛毛が顕著であ るのに対し, ク リ サキ テ ン ト ウ の剛毛は黒色で突起の先 が枝分かれていないので区別 できる。 クリサキテントウ は春から初夏にマツで多く見られるが, その後の生態は 不明である。 ナミはアブラムシが多発生する時期に同調して4�7 月 と 9�1 1 月 に 多 く 見 ら れ, 一般に年3�4化である。 ほとんどの種類のアブラムシを捕食することができる が, 一部発育 に 適 さ な い 種 も あ る (岡本 ・ 佐藤, 1973) 。 11 月以降の温暖な日に越冬場所を目指して群飛し, のうろ, 岩の割れ目, 民家の 屋根 裏 な ど で翌年 3 月 ご ろ まで集団で越冬する。 ナナホシテントウ ( Coccinella sφlempuncta) (以 下, ナナホシと称す) は世界中に分布する。 ほぽ日本全 土 に 生息 す る C. Sψlempunctala B RUCKI MULSANT は, 州種の亜種 と さ れ鞘麹の斑紋が大 き い。 奄美から沖縄に 生息するナナホ シ は, 体サイズ・斑紋ともに小さいた め, コモンナ ナホシテ ン ト ウ と呼ばれている。 雌雄の判 別は難し 成虫の腹部腹面第 9 節表面形態 に よ っ て 判 別ができ, 雄は く ぽんでいるのに対し, 雌は平面になっ

捕食性テントウムシ類の増殖技術jppa.or.jp/archive/pdf/51_11_21.pdf1993)。 コナガはプラスチックカップ(250ml) に人工 飼料を約1cmの厚さに入れて,卵シートを紙製フタ裏

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土着天敵の増殖技術 : 捕食性 テ ントウムシ類の増殖技術 523

特集号 : 土着天敵の増殖技術 ( 7 )

捕食性 テ ン ト ウ ム シ類の増殖技術いわ

株式会社 ク ボ タ 事業開発室 岩 佐 智 子

は じ め に

ア プ ラ ム シ捕食性テ ン ト ウ ム シ類 を 天敵資材 と し て 開

発 し , 生物的防除 を 試 み た 例 は 古 く か ら 知 ら れて い る 。

実際 に ア プ ラ ム シ個体群の密度抑制 に お い て , テ ン ト ウ

ム シ類の捕食圧 は き わ め て 高 く , 他の捕食性天敵 ( ク サ

カ ゲ ロ ウ , シ ョ ク ガ タ マ パエ な ど) , あ る い は 寄生性天

敵 ( ア プ ラ パ チ な ど) と 比べ て も 高位 と な る 存在 で あ

る 。 と こ ろ が, テ ン ト ウ ム シ類 を 防除資材 と し て 実用化

す る 場合, 必要防除適期 に 十分量の個体 を供給す る こ と

が要求 さ れ る 。 テ ン ト ウ ム シ の 集団越冬個体 を一度 に大

量採取 す る と い う 方法 も 場合 に よ っ て は 可能で あ る が

(HiPpodamia converg仰ce な ど) , 最 も 確実 な 方法 と し

て は, 他の天敵資材 と 同 じ よ う に 人為的に増殖 さ せ, 安

定的な生産 ・ 供給 を 図 る こ と で あ る 。 こ の場合, 餌の適

性 は 栄養性, 生産性, 保存性, 操作性な ど に よ っ て 決め

ら れ る が, こ れ ら す べ て の 点 を 満 た し て い る も の は な

い。 こ れ ま での飼料 は 次 の よ う に 大別で き る 。

ア ブ ラ ム シ : 栄養的 に 十分だが供給 に手聞がか か る

代替餌飼料 (昆虫 な ど を 主要 タ ンパ ク 源 と す る ) :

栄養的 に優れて い る が コ ス ト が高 い

ミ ツ バ チ雄蜂児粉末 ( 岡 田 , 1970) , 鱗麹 目 昆 虫卵

(IPERTI, 1972) , プ ラ イ ン シ ュ リ ン プ 耐 久 卵 (本

郷 ・ 大林, 1997)

合成飼料 (天然物, 食品等の組み合わ せ) :

栄養的 に 不足部分が 目 立 つ

ハ チ ミ ツ , ロ イ ヤ ル ゼ リ ー な ど (SMIRNOFF, 1958,

花 粉, 鳥 レ バ ー (SMITH, 1960) , 16 種 の 天 然 物 混

合 (ATALLAH and NEWSOM, 1966)

一方, 筆者 ら は保存性 ・ 操作性 を さ ら に 追求 し て い く

過程で, 生産性 (大量飼育) に優れた ア ブ ラ ム シ以外の

見虫 を ナ ミ テ ン ト ウ の代替餌 と し て 用 い る こ と がで き な

い か を検討 し , そ の結果, 生 き た コ ナ ガ幼虫 ・ 婦 を利用

で き る こ と が明 ら か と な っ た 。 本文 で は , 日 本で最 も 普

通種であ る ナ ミ テ ン ト ウ と ナ ナ ホ シ テ ン ト ウ の生態, 採

Rearing Methods of Native Natural Enemies in ]apan : Aphidophagous Ladybird. By Tomoko IWASA

( キ ー ワ ー ド : 土着天敵, テ ン ト ウ ム シ類, 大量増殖, 代替餌,コ ナ ガ, IPM)

一一一 21

集方法 と と も に , コ ナ ガ を 用 い た 方法 を 含 め た 増殖方法

を紹介す る 。

I 生 態

鞘麹 目 テ ン ト ウ ム シ 科 (CoccinelJidae) に 属 す る 昆

虫 は, わ が 国 に 約 160 種 が 生 息 し て お り (SASAJI,

1971) , そ の食性 は食植性, 食菌性, 捕食性 の 三 つ に 分

け ら れ る 。 天敵資材 と し て有効な も の は, ア ブ ラ ム シ,

カ イ ガ ラ ム シ を食べ る 捕食性 で あ り , ナ ミ テ ン ト ウ , ナ

ナ ホ シ テ ン ト ウ は そ の代表種で あ る 。

ナ ミ テ ン ト ウ (肋rmonia a勾In・dis) (以下, ナ ミ と 称

す) は, 台湾か ら シ ベ リ ア ま で広 く ア ジ ア に 分布 し , 日

本各地 に 生息 し て い る 。 テ ン ト ウ ム シ類 と い う 一般総称

と 混同 し な い よ う , 現在で は ナ ミ テ ン ト ウ と い う 和名が

使われて い る 。 雌雄 は 上唇 の 色 (雌 : 黒色, 雄 : 淡色) ,

腹部腹面 5, 6 節 (雌 : 5 節 は 角 張 り 6 節 の 中央が隆起,

雄 : 平 た く 6 節 に 凹) の 形 態 に よ っ て 識別 で き る 。 な

お , 近似種 に ク リ サ キ テ ン ト ウ (H. yedoensis) が お

り , 成虫で両種 を 区別 す る の は 困難 で あ る 。 し か し 4 齢

幼虫 で は , ナ ミ は腹部背面 の 2 対の黄色剛毛が顕著で あ

る の に 対 し , ク リ サ キ テ ン ト ウ の 剛毛 は黒色で突起の先

が枝分かれて い な い の で区別 で き る 。 ク リ サ キ テ ン ト ウ

は春か ら 初夏 に マ ツ で多 く 見 ら れ る が, そ の後の生態 は

不明であ る 。

ナ ミ は ア ブ ラ ム シ が 多 発 生 す る 時期 に 同 調 し て 4�7

月 と 9�1 1 月 に 多 く 見 ら れ, 一般 に 年 3�4 化 で あ る 。

ほ と ん ど の 種類の ア ブ ラ ム シ を 捕食 す る こ と が で き る

が, 一部発育 に 適 さ な い種 も あ る (岡本 ・ 佐藤, 1973) 。

1 1 月 以 降の温暖 な 日 に 越冬場所 を 目 指 し て 群飛 し , 木

の う ろ , 岩の割れ 目 , 民家の 屋根裏 な ど で翌年 3 月 ご ろ

ま で集団で越冬す る 。

ナ ナ ホ シ テ ン ト ウ ( Coccinella sφlempunctal,σ) (以

下, ナ ナ ホ シ と 称す) は世界中 に 分布す る 。 ほ ぽ 日 本全

土 に 生息す る C. Sψlempunctala BRUCKI MULSANT は , 欧

州種の亜種 と さ れ鞘麹 の斑紋が大 き い。 奄美か ら 沖縄 に

生息す る ナ ナ ホ シ は, 体サ イ ズ ・ 斑紋 と も に 小 さ い た

め, コ モ ン ナ ナ ホ シ テ ン ト ウ と 呼 ばれて い る 。 雌雄の判

別 は難 し し 成虫の腹部腹面第 9 節表面形態 に よ っ て判

別がで き , 雄 は く ぽんでい る の に対 し , 雌 は 平面 に な っ

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524 植 物 防 疫 第 51 巻 第 1 1 号 (1997 年)

て い る 。

ナ ナ ホ シ は ナ ミ よ り 早 く 3 月 ご ろ か ら 活動 を 開 始す

る 。 ナ ミ と 同様 に ア ブ ラ ム シ の発生 と 同 調 し て 4�5 月

と 9�10 月 に成虫が現れ繁殖す る 。 冬 は 数頭~数十頭の

小 さ な集団で枯れ葉や イ ネ 科草本の綬元で越冬す る 。

E 採 集 方 法

両種 と も , 春 と 秋の ア プ ラ ム シ 多発生場所 を探す と 容

易 に採集 す る こ と がで き る 。 ナ ミ は 4 月 中旬 に は ク ロ マ

ツ , モ ミ ジ, パ ラ な ど に 見 ら れ, そ の 後 コ ム ギ, ヤ ナ

ギ, ム ク ゲ な ど, 秋 に は カ ナ ム グ ラ , ク リ な ど の ほ か,

ア ブ ラ ム シ が発生 し て い る 多種の草本 ・ 木本植物上で見

つ け る こ と がで き る 。 真夏 に は ア プ ラ ム シ 自 体が少 な く

採集 は 困難であ る が, ラ イ ト ト ラ ッ プ を 用 い て夜間採集

す る こ と は で き る 。 マ ツ での採集 は , 類似種の ク リ サ キ

テ ン ト ウ で あ る 可能性があ る た め 注意が必要であ る 。

一方, ナ ナ ホ シ は春先 に ア プ ラ ム シ の発生 し た カ ラ ス

ノ エ ン ド ウ を探す と ほ ぼ間違 い な く 見 つ 砂 る こ と がで き

る 。 そ の後は草本植物 に 多 く 見 ら れ る 。 夏 は ナ ミ よ り 早

く 6 月 ご ろ に は 姿 を 消 し て し ま う が, 晩秋の ヨ モ ギ な ど

に も 見 る こ と がで き る 。

特 に ナ ミ は大 き な越冬集団 を作 る の で, 冬季 に大量採

取で き る 。 越冬成虫 は採集個体 を紙な ど の緩衝材 と と も

に ま と め て プ ラ ス チ ッ ク 容器 な ど に 入 れ て 4�6 か 月 間

冷蔵庫で保存す る こ と が可能で あ り , そ れ以外の時期 も

成虫 は 1 か 月 以 内 な ら 低湿状態で保存で き る 。 幼虫採集

は共食いが起 こ り や す く , 餌 を 確保す る 必要があ る 。 ま

た 両種 と も 7 月 以降採集 し た 個体 に は, 寄生蜂 に 侵 さ れ

て い る こ と があ る の で十分注意す る 。

皿 増 殖 方 法

1 ナ ミ テ ン ト ウ の増殖

筆者 ら は , 人工飼料 を 用 い て 累代飼育 し て い る コ ナ ガ

(Plutella 砂lostella) を 利 用 し て , ナ ミ の 大量増殖に つ

い て検討 し た 。 コ ナ ガ の人工飼料 は コ ム ギ匪芽 ・ ダイ ズ

粉末 を 主成分 と し , シ ョ 糖, 無機塩混合物, ビ タ ミ ン混

合物, 防腐剤 を寒天で固 め た も の で あ る (ASANO et al. ,

1993) 。 コ ナ ガ は プ ラ ス チ ッ ク カ ッ プ (250 m l) に 人 工

飼料 を約 1 cm の 厚 さ に 入 れ て , 卵 シ ー ト を紙製 フ タ 裏

面 に の り 付 げ し , ふ化幼虫か ら 踊 ま で餌の追加 ・ 交換な

し で飼育す る 。 飼育条 件 は . 250C. 60%Rh. 長 日 (16

L-8 D) と し た 。

飼育方法の基本 は, コ ナ ガ幼虫がふ化 し た 容器 に ナ ミ

ふ化幼虫 1 頭 を 接種 し , そ の ま ま ナ ミ が嫡化す る ま で飼

育 す る 。 こ の 方 法 の 利 点 は, ナ ミ の 発 育 期 間 (ふ 化

~煽) と , コ ナ ガ の発育期間 (ふ化~羽化) が ほ ぼ同 じ

であ る た め (約 1 1 日 間) . ナ ミ 幼虫 は発育 を 続 け る コ ナ

ガ幼虫 を擬食 し て , コ ナ ガが羽化す る 前 に 踊化す る こ と

がで き る 点 に あ る 。 こ の場合, ナ ミ 1 頭 に対 し コ ナ ガふ

化幼虫約 100 頭 を 接種す る と , コ ナ ガ を 追加補給す る こ

と な し ナ ミ を蝋 ま で飼育す る こ と がで き る 。 ア プ ラ ム

シ を餌 と し た 場合の発育 と 比較 し た と こ ろ , コ ナ ガ の み

で 20 世代 の 累代飼育 し た も の で も ア ブ ラ ム シ に よ る も

の と 同等 の 発育率, 発育期間で, し か も 大型の成虫が得

ら れた (表-1) 。 こ の こ と か ら , コ ナ ガ は 栄養 的 に も 好

適な餌で あ る こ と が明 ら か と な っ た 。

大量増殖 を 目 的 と す る 集団飼育で は , 餌不足 と 共食い

に よ る 発育率の減少が大 き な 問題 と な っ た 。 一定サ イ ズ

の容器 内 で は 飼育可能 な コ ナ ガ 数が限 ら れ て し ま う た

め, 捕食数の調査 を も と に餌の追加 を 行 う と と も に , 個

体聞 の緩衝 を な る べ く 避 け る 工夫が必要で あ る 。 箱形容

器 (22 X 16 X 5 cm) に コ ナ ガ 人工飼料 と 緩衝材 と し て

パ ラ フ ィ ン紙 を 丸 め て 入れ, こ の上 に コ ナ ガ卵 シ ー ト を

置 い て ふ化 さ せ る 。 コ ナ ガ の ふ化 1 日 後 に ナ ミ ふ化幼虫

約 100 頭 を 接種す る 。 餌不足が生 じ る 7 日 後 と 10 日 後

に , コ ナ ガ 4 齢幼虫 を補充 し て 踊 ま で保存す る (図ー1) 。

こ の補充 を 行 う こ と で, 発育期間, 発育率, 成虫体重の

いずれ も が著 し く 改善 さ れた 。

採卵 を す る た め に は. 3�4 齢 の コ ナ ガ幼虫 を 入 れ た

プラ ス チ ッ ク カ ッ プ に , ナ ミ 成虫 を十数頭入 れ て 10 日

以上飼育 し た 後, 同様の カ ッ プに 5 対ずつ移す。 フ タ の

内側に産卵素材 と し て 凹凸 の あ る 厚紙 を 張 り 付 げ て お く

こ と に よ っ て , 約 80% の卵塊 を 採卵 す る こ と が で き る 。

産卵素材 を 用 い る こ と に よ り , 採卵 の効率化 と 共食い 回

避が可能 と な っ た が, 卵塊 を 長時間

表- 1 モ モ ア カ ア プ ラ ム シ と コ ナ ガ を餌 と し た場合の ナ ミ テ ン ト ウ の発育状況 放置 し て お く と 親 に よ る 共食 い の頻

度が高 く な る の で. 1 日 2 回採卵 を

行 う と 回 収量 は 多 く な る 。 産 卵 は

20 日 以 上 継 続 し . 1 日 平 均 20�25

卵/1 頭 を 得 る こ と が で き る 。 回 収

し た 卵 は乾燥 し な い よ う に , 水分 を

含 ま せ た 脱脂綿な ど を 入れた プラ ス

餌昆虫発育率 (%) 発育 日 数 成虫体重 (mg)

調査世代 供試虫数ふ化~羽化嫡化 羽化 雌 雄

ア プ ラ ム シ 1 世代 目 19 90 90 17 . 4 :t 0 . 5 32 29 コ ナ ガ 1 世代 目 24 100 96 16 . 9 士 0 . 9 48 39

10 世代 田 34 100 100 17 . 2 :t 0 . 4 45 38 20 世代 目 30 93 90 1 6 . 7 :t 0 . 7 41 35

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土着天敵の糟殖技術 : 捕食性テ ントウムシ類の増殖技術 525

コ ナ ガ

図 - 1 コ ナ ガ を 用 い た ナ ミ テ ン ト ウ の集団飼育

チ ッ ク 容器 に 保存す る 。 卵期 聞 は 250Cで約 3 日 で あ る 。

2 ナ ナ ホ シ テ ン ト ウ の増殖

ナ ナ ホ シ の幼虫 は, ナ ミ と 同様 に コ ナ ガ を 用 い た 方法

で飼育す る こ と が可能で あ る 。 た だ し , ナ ナ ホ シ成虫 に

コ ナ ガ を 与 え た場合, 産卵 は抑制 さ れ る た め , 現在の と こ

ろ コ ナ ガ を 用 い て 累代飼育す る 方法 は 確立 し て い な い。

最 も 効率 的 な 飼育 は, ア ブ ラ ム シ を 用 い る 方 法 で あ

る 。 ア プ ラ ム シ が寄生 し た 植物 を 飼育容器 に入れ全発育

態 を 飼育で き る 。 採卵 は ア ル ミ ホ イ ル を二つ 折 り に し て

入れて お く と , 70% の卵塊 を 回収す る こ と がで き る (高

橋, 1986) 。 冷凍 し た ア プ ラ ム シ を 用 い る こ と も で き る

が, 過湿 に な り や す い の で注意が必要で あ る 。

人工飼料 を 用 い た ナ ナ ホ シ の飼育で は, ミ ツ バ チ雄蜂

児粉末 (DP) を 用 い る 方法 が 最 も 優れ て い る 。 こ の 方

法 は ナ ミ , ナ ナ ホ シ ほ か 14 種 の テ ン ト ウ ム シ 類 を 飼育

す る こ と がで き る (NIIJIMA et al . , 1986) 0 9 cm シ ャ ー レ

内 に DP と 給水用 ス ポ ン ジ を ガ ラ ス 板 な ど に の せ て 与

え , 1�2 日 置 き に 餌 と 水 の 交 換 を す る 。 飼 育 は

20�250C, 休眠 を 避 け る た め長 臼 条件で行 う 。 幼虫 は共

食い を 避 け る た め発育 に 合わ せ て 密度 を 下 げ る 。 通常,

成虫 を 1 対ずつ シ ャ ー レ に 入れて 採卵 を行 う 。 ナ ナ ホ シ

では幼虫飼育お よ び成虫 の産卵が と も に難 し し 累代飼

育 は 4 世代 ま で し か成功 し て い な い。 飼育密度 を下げ十

分な餌量 を与 え る と と も に , 幼虫 を餌の上 に 置い て摂食

し や す く す る , な ど の工夫が必 要 で あ る (NIIJIMA and

KAWASHITA, 1982) 。 ま た , 終齢期 や 採卵時 に ア プ ラ ム シ

を与 え る と , 発育 ・ 産卵が向上す る 。

W 品質管理 法

天敵利 用 の進ん だ欧米で も , テ ン ト ウ ム シ類の利用場

面は少な し 品質管理法 も 定 ま っ て い な い。 コ ナ ガ を 用

い た ナ ミ の 飼育 で は , 20 世代 ま で飼育 し で も 世代 の 経

過に 伴 う 発育の低下 は認め ら れて い な い う え , 病気な ど

も 発生 し て い な い。 集団飼育に お い て も 個体飼育 と 同等

の発育 を 示 し て い る 。 テ ン ト ウ ム シ の 飼育で最 も 注意す

べ き 点 は , 前述の よ う に共食 い の 回避であ る 。 こ の た め に

過密飼育 に よ る 餌不足や発育 の バ ラ

ツ キ を 避 仇 脱皮, 嫡化時の ス ト レ

ス を 緩和 さ せ る こ と が必要であ る 。

コ ナ ガ を与 え た ナ ミ の ア プ ラ ム シ

捕食能力 は, 野外採集個体 と 同等で

あ っ た が, 最 も 重要 な項 目 の一 つ で

あ る 野外放飼後の探索能力 や捕食量

に対す る 評価 は大変難 し し こ れ ら

の 点か ら も 品質管理方法の確立 は今

後の重要な課題 と い え る 。

V 利 用 法

ア プ ラ ム シ捕食性テ ン ト ウ ム シ類 は , す で に 実用 化 さ

れて い る 他の天敵資材 ( ク サ カ ゲ ロ ウ , シ ョ ク ガ タ マ パ

エ な ど) に比べ き わ め て 捕食量が多 い た め , 能力 の 高 い

重要 な 天敵 で あ る に も か か わ ら ず, 大量増 殖 の 問 題 か

ら , テ ン ト ウ ム シ類 に よ る 防除効果試験の例 は 少 な い 。

し か し, 施設栽培作物 ( メ ロ ン, ナ ス , イ チ ゴ な ど) で

良好な結果 も 報告 さ れて お り , 実用化が期待 さ れ る 。

一方, 捕食性テ ン ト ウ ム シ類の成虫行動特性, 体サ イ

ズ お よ び発育期聞は, ア ブ ラ ム シ の 密度制御 に 適 し て い

な い と す る 報告 も あ る が (DIXON, 1996) , 大量増殖法が

確立す れ ば少数の放飼で長期 間 ア プ ラ ム シ 密度 を抑 え る

永続的な天敵利 用 で は な く , ア ブ ラ ム シ 多発時 に 大量放

飼 を 行 う 生物農薬的利用 が十分可能 で あ る 。

捕食性テ ン ト ウ ム シ類の大量生産が技術的 に 可能 と な

っ た 現在, IPM プ ロ グ ラ ム の ー管理技術 と し て , 大食

漢 の テ ン ト ウ ム シ が十分活躍 で き る 道 が聞 け た と い え

る 。 今後の進展 に期待 し た い。

引 用 文 献1 ) ASANO, S. et al . ( 1993) : Appl. Ent. Zool. 28 ( 4 ) :

513�524. 2) ATALLAH. Y. h. and 1. P. NEWSOM ( 1966) : J . Econ.

Ent. 59 : 1 1 73-1179. 3) DIXON , A. F. G. ( 1996) : 応動昆 40 ( 3 ) : 185-190. 4) 本郷智明 ・ 大林延夫 ( 1997) :向上 4 1 ( 2 ) : 101-105. 5) !PERTl, G. J . and J . D. AUNAL ( 1972) : Ann. Zool. Ecol.

Anim. 4 ( 4 ) : 555-567. 6) NIIJIMA, K. and T. KAWASHITA ( 1982) : 玉川大農研報

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