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― 39 ―ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
―― 実施例 ――
㈱イシバシエンタープライズ 石 橋 義 信中国電力㈱ 有 吉 修
温泉旅館におけるヒートポンプ給湯機の活用事例-ハイブリッド給湯の採用事例-
■キーワード/宿泊施設・給湯・ヒートポンプ・リニューアル
1.はじめに穏やかな瀬戸内海に臨むシーサイドホテル上関は,夕
陽を望む汐風呂温泉と瀬戸内の魚介類を生かした食事が
自慢で,折々の仕出し,ドライブの途中のお食事処,食
事付きの日帰り入浴,一般宿泊はもちろん太公望の一夜
の宿として広く利用されている。
お風呂はナトリウムを多く含んだ温泉で塩辛いが,無
色透明でさらっとした肌触りのお湯で,体が温まり肌に
よいと評判の温泉である。
当施設は平成2年に完成し,平成12年には浴室棟の
増改築が行われた。ソフト面ではいち早く送迎サービス
の開始,日帰り入浴の提案,全国でも珍しい宿泊温泉施
設でのデイサービスの開始と,時流に合わせて施設の整
備,サービスの充実が行われてきた。
旅館は大きな熱需要があるため,灯油焚の真空式温水
機が設置され,施設全体への給湯,温泉(冷泉)の加熱,
浴槽の循環加熱(ろ過加熱)に利用されている。
さまざまな形で変遷する社会情勢のなか,なんとか省
エネルギーを推進したい,環境対策(CO2削減)に貢献し
たいとここ数年悩んでおられたが,昨年,電気式給湯と
灯油焚の真空式温水機との併用システム(ハイブリッド
給湯)の提案を行った結果,灯油の高騰対策にもつなが
ることからご採用となった。
2.施設概要建 物 名 称 シーサイドホテル上関
所 在 地 山口県熊毛郡平生町尾国
建 物 用 途 ホテル
構造・規模 RC造,B1F,2F
延 床 面 積 1,163fl
施 設 概 要 和室6室,洋室1室,浴室,レストラン,
デイサービス
工 事 期 間 平成19年10月~平成19年12月
施 工 鹿島建設㈱,㈱中電工
写真-1 建物全景
― 40 ―ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
―― 実施例 ――
3.設備概要3-1 既設熱源設備
屋外機械室に灯油焚の真空式温水機581kW/h,温泉槽
2,500Î×2基,屋外に給湯用貯湯槽4,000Îが設置され
ている。
真空式温水機は2回路で給湯用貯湯槽の加熱,浴槽ろ過
加熱,チタン製熱交換器を経由して温泉槽の加熱を行って
いる。浴室は,朝の清掃時間を除いて一日中入浴可能で
あるため,浴槽ろ過装置も清掃時間以外は連続運転して
おり,加熱源である真空式温水機も長時間運転している。
・機器仕様
真空式温水機(2回路型) 581kW/h ×1基
給湯用貯湯槽 4,000Î ×1基
温泉槽 2,500Î ×2基
温泉昇温用熱交換器 174kW/h ×1台
浴槽用熱交換器 116kW/h ×2台
3-2 改修に至る経緯
宿泊施設という性格上,温熱の供給は欠かせない。
長年,貯湯槽の温度設定を天気予報や予約状況から判
断してこまめに変更したり,浴槽の設定温度を変えたり
と省エネルギーに努めてこられたが,なかなか結果が出
ていなかった。また環境対策(CO2削減)にも貢献したい
とも考えられていたが,何から取り組んでいいか見当が
つかないという状況であった。そのようななか,エネル
ギー費の変動が大きくなりはじめ,何らかの対策を早急
に講じる必要がでてきた。
平成18年ごろからいろいろと手を尽くして検討され
ておられたが,スペースにも投資金額にも限度があり,
抜本的な解決策がみつからない状況であったが,平成
19年6月に提案したハイブリッド給湯システムを,環
境性・経済性の高さから導入されるに至った。
3-3 導入設備
ハイブリッド給湯システムは既存のボイラシステムに
ヒートポンプ給湯機を増設し,ベース負荷をヒートポン
写真-2 万葉の泉 写真-3 給湯用貯湯槽
写真-4 真空式温水機
写真-5 温泉槽
― 41 ―
―― 実施例 ――
ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
プ給湯機でピーク負荷や不足分の追いかけを既存のボイ
ラで対応するシステムである。電気式と燃焼式の特徴を
生かすことにより省エネルギー化が可能になり,スペー
スやコストの面でも有利となる。当施設では浴槽(温泉)
負荷が大きいことが予想されたため,給湯用貯湯槽に対
しヒートポンプ給湯機を並列設置とし,加熱系統にも利
用できるよう(熱交換器経由)にしている。
営業休止は避けたいため,月1回の休業日を利用して
電気設備の分岐(停電)と給湯配管の分岐(給湯断水)を行
った。さらに停止時間を短くするために既設設備の改造
を最小限になるように計画した。
ヒートポンプ給湯機は,給湯用貯湯槽に対し真空式温
水機と並列となるように設置,給湯用貯湯槽から温泉加
熱系統と浴槽循環加熱系統を分岐した。
ヒートポンプ給湯機の容量は大きくすればするほど真
空式温水機の運転時間の低減がはかれるが,イニシャル
コストも高くなる。なるべく運転時間が長くなるように
写真-6 温泉昇温用熱交換器
写真-7 ヒートポンプ給湯機
写真-8 熱交換器
給湯�Ⅰ�Ⅱ�HRHSS
4040
40
ST-3
PP-4
HP-2HP-1
PP-2
PP-1
QU-1
(QU-1内蔵)�
PP-3
B-1
A重油�
給水�ST-4
温泉水�
ST-2ST-1
50
50
EX-1
HEX-1
HEX-2
50
5050
50
5050 65
5050 65
5050
5050
50
50
凡例�B-1:真空式温水機(既設)�ST-1:給湯用貯湯槽(既設)�ST-2,3:温泉槽(既設)�EX-1:温泉昇温用� 熱交換器(既設)�QU-1:ヒートポンプ給湯機�HEX-1,2:熱交換器��
加熱�
温泉�
図-1 熱源まわりフロー図
― 42 ―ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
―― 実施例 ――
計画したほうが投資効果が大きくなるため,50kW(20馬
力相当)を1台とした。
また,加熱系統の熱交換器はチタン製とし,耐久性に
考慮した。
・機器仕様
ヒートポンプ給湯機(R407C) 50kW×1台
熱交換器(チタン製) ×2基
加熱用循環ポンプ(一次) ×1台
〃 (二次) ×1台
4.更新後の運用実績平成19年の12月末に完成後,ただちに運転を開始し,
以降約1年特に問題もなく稼働している。真空式温水機
はほとんど停止しており,ピーク時の追いかけ運転と本
体の温度維持のための運転のみとなっている。その結果,
灯油の使用量は年間を通してほぼ前年比で約1/5(20%)
で推移しており,当初の予想どおりの効果を上げてい
る。
当施設は宿泊・レストランの営業と合わせてデイサー
ビスを行っているため,電気使用量・温熱使用量ともに
午後一番と夕方に二つの山がある。そのためデマンド対
策が当初より課題だった。ヒートポンプ給湯機は随時,
運転を行うためデマンドを押し上げることが懸念されて
いたので,夏季のピーク時にはヒートポンプ給湯機の運
転を停止させ,デマンドのアップを防ぐように計画して
いた。
停止時間を長くすると削減効果が少なくなる。詳細に
試算した結果,削減効果に問題ない範囲でデマンドアッ
プを行うこととし,2月より10kW程度契約電力を上げ
ることになった。
夏季の空調用エアコンの運転管理をこまめに行ってい
ただいたこともあり,特に問題なく夏のピーク時期に対
応できた。
灯油を80円/Î固定で試算してみると,油代は前年に
比べて1/4となっており,電力料金はヒートポンプの
運転により増加しているものの,当初の試算どおり年間
150万円のコスト削減が達成できそうである。それどこ
ろか昨年の春以降の急激な油高騰の影響もあまり受ける
こともなく,早めの導入が功を奏したのではないかと考
えている(図-2,図-3参照)。
浴室は夜間も入浴可能となっているため,電力量は約
30%増と当初の予想よりは多めで推移している。これ
は24時間稼働の施設であり,ヒートポンプ給湯機の運
転が長いこと,機器設置状況から思ったより放熱が多め
であることなどが考えられ,運転管理方法も含めて今後
の検討ポイントと考えている。
5.おわりに高効率のヒートポンプ機器の導入は,今後の省エネル
ギー・省CO2の大きな柱と期待されている。
新築であればスペースの問題もコストの問題も織り込
んでの計画が可能だが,既設のリニューアルでは重要な
この二つのポイントに大きな制約があり,ハイブリッド
給湯はそのための最適な手法ではないかと考えている。
現在,当施設に採用したシステム以外で,さまざまな
ハイブリッドシステムが提言されているが,既設設備を,
運用状況を含め十分に調査検討して計画することが,機
能低下の防止やメリット達成の条件となる。
もちろん,投資金額をどれだけ抑えられるかが最終判
断になることは肝に命ずる必要がある。
最小のコストで最大のメリットを生み出すハイブリッ
ドシステムは今後も普及が期待される。
最後に,当システム導入にあたり,ご理解とご協力を
いただいたシーサイドホテル上関さま,鹿島建設㈱さま,
その他の関係各位の方々に,誌面をお借りしてお礼申し
あげます。
100.0�
80.0�
60.0�
40.0�
20.0�
0.0�
�
(%)�
2006 2007
油料金�
(年度)�
電気料金�
図-2 光熱水費の割合(1~9月の合計)
電気(HP)�77%�
削減分�2%�
灯油(ボイラ)�21%�
一次エネルギー使用量(割合):1~9月分�
図-3 導入後の一次エネルギー使用量(割合)