20
1 実践のまとめ(第3学年 英語) 燕市立吉田中学校 教諭 吉澤 優 1 研究テーマ 既習事項を活用して自分の考えを英語で伝え合う生徒の育成 ~課題解決型学習での主体的な学び合いを通して~ 2 研究テーマについて (1) テーマ設定の意図 次期学習指導要領で求められる資質・能力を育成するために、アクティブ・ラーニング(以下、AL)によ る指導方法や評価方法の改善が求められている。ALとは「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授 業改善の視点である。特に中学校外国語では、①発達段階に応じた、コミュニケーション能力を養うための 一層の改善、②その際、学校、地域、他教科等での学習内容等と関連付けて、互いの考えや気持ちなどを英 語で伝え合う対話的な言語活動を重視した授業を充実させることが求められている。 このような動向を見据え、当校では、研究主題を「他者と協働し、課題を解決する生徒の育成 ~『教え 合う』学び合いから『交流』の学び合いを目指して~」とし、主体的・協働的な学びを通して知識・技能の 確実な定着と思考力・判断力・表現力の育成を目指している。そのため、普段の授業からペア等による教え 合いや交流場面を意図的に取り入れてきた。 しかし、3年生の担当しているあるクラスでは、英語を話すことが苦手と感じている生徒が学級の39%、 聞くことが苦手と感じている生徒が 42%いる。そのため、英語による交流場面では、その場で既習事項を 使って自分の考えを表現したり、相手の英語を理解し自分の意見を述べたりするような学びを深める段階ま でのコミュニケーション能力は十分に育っていない。英語を即興的に使うアウトプット量の増加、「相手の 言ったことを理解して自分の考えを述べる」「読んだことを基にして自分の考えを書く」等の技能を統合し た言語活動を増やしていくこと、パフォーマンス課題で英語で交流できる力を適切に測ることが課題である。 これらをふまえ、以下の手立てを講ずる。 ・普段から既習事項(英語の授業で習った知識・技能や、英語以外の学習、経験による知識・技能)を即興 的に活用したコミュニケーション活動を設定する。 ・生徒が主体的に、協働学習を進めなければ解決できない技能統合型の課題(タスク)設定する。 ・パフォーマンス課題をよりコミュニカティブにするために、実施方法や評価方法を改善する。 以上が達成されれば、生徒が英語の思考力や表現力を一層高めていくと考え、本テーマを設定した。 (2) 研究テーマに迫るために ① 既習事項(主に英語表現)を即興的に使う活動 以下のように、既習事項を活用して即興的に質問や意見を述べる場面を継続的に与える。 チャット…あるトピック(学校生活、私生活など)についてペアで会話を1~2分間継続する。 英作文のブレーンストーミング…テーマについて、既存の知識を使って考えを書きだす。 本文読解後の発問の工夫…本文に関連して、生徒自身の考えを述べさせる。(例:アマゾンの森林破壊に ついて読んだ後、What should we do to save the Amazon rain forest? と尋ねる。) 本文再生活動…本文の要約文を書く。与えられた絵に英文を書き込み、ポスターを作成する。 +1ダイアローグ…会話形式の英文を読んだ後、自分でオリジナルの英文を加え、ペアでスキットをする。 ② 4技能育成を意図した課題解決型学習 4技能を統合的に使い、生徒同士が学び合いながら課題解決に取り組むように単元構成を工夫する。単 元の終末課題として、プレゼンテーションやディスカッションなどのパフォーマンス課題を実施する。そ れに向けて、聞いたことを基に話す活動や、読んだことを基に書く活動を取り入れる(例えば、インタビ ュー活動で得た情報をレポートにまとめるなど。)。 また、教師は生徒が学びを深めるために、ジグソー 法などの主体的かつ協働を促す学習活動を取り入れる。課題解決に向けて交流する様子を見取り、発問し たり教材を提示したりする。

実践のまとめ(第3学年 英語)...1 実践のまとめ(第3学年 英語) 燕市立吉田中学校 教諭 吉澤 優 1 研究テーマ 既習事項を活用して自分の考えを英語で伝え合う生徒の育成

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1

実践のまとめ(第3学年 英語)

燕市立吉田中学校

教諭 吉澤 優

1 研究テーマ

既習事項を活用して自分の考えを英語で伝え合う生徒の育成

~課題解決型学習での主体的な学び合いを通して~

2 研究テーマについて

(1) テーマ設定の意図

次期学習指導要領で求められる資質・能力を育成するために、アクティブ・ラーニング(以下、AL)によ

る指導方法や評価方法の改善が求められている。ALとは「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けた授

業改善の視点である。特に中学校外国語では、①発達段階に応じた、コミュニケーション能力を養うための

一層の改善、②その際、学校、地域、他教科等での学習内容等と関連付けて、互いの考えや気持ちなどを英

語で伝え合う対話的な言語活動を重視した授業を充実させることが求められている。

このような動向を見据え、当校では、研究主題を「他者と協働し、課題を解決する生徒の育成 ~『教え

合う』学び合いから『交流』の学び合いを目指して~」とし、主体的・協働的な学びを通して知識・技能の

確実な定着と思考力・判断力・表現力の育成を目指している。そのため、普段の授業からペア等による教え

合いや交流場面を意図的に取り入れてきた。

しかし、3年生の担当しているあるクラスでは、英語を話すことが苦手と感じている生徒が学級の39%、

聞くことが苦手と感じている生徒が 42%いる。そのため、英語による交流場面では、その場で既習事項を

使って自分の考えを表現したり、相手の英語を理解し自分の意見を述べたりするような学びを深める段階ま

でのコミュニケーション能力は十分に育っていない。英語を即興的に使うアウトプット量の増加、「相手の

言ったことを理解して自分の考えを述べる」「読んだことを基にして自分の考えを書く」等の技能を統合し

た言語活動を増やしていくこと、パフォーマンス課題で英語で交流できる力を適切に測ることが課題である。

これらをふまえ、以下の手立てを講ずる。

・普段から既習事項(英語の授業で習った知識・技能や、英語以外の学習、経験による知識・技能)を即興

的に活用したコミュニケーション活動を設定する。

・生徒が主体的に、協働学習を進めなければ解決できない技能統合型の課題(タスク)設定する。

・パフォーマンス課題をよりコミュニカティブにするために、実施方法や評価方法を改善する。

以上が達成されれば、生徒が英語の思考力や表現力を一層高めていくと考え、本テーマを設定した。

(2) 研究テーマに迫るために

① 既習事項(主に英語表現)を即興的に使う活動

以下のように、既習事項を活用して即興的に質問や意見を述べる場面を継続的に与える。

チャット…あるトピック(学校生活、私生活など)についてペアで会話を1~2分間継続する。

英作文のブレーンストーミング…テーマについて、既存の知識を使って考えを書きだす。

本文読解後の発問の工夫…本文に関連して、生徒自身の考えを述べさせる。(例:アマゾンの森林破壊に

ついて読んだ後、What should we do to save the Amazon rain forest?と尋ねる。)

本文再生活動…本文の要約文を書く。与えられた絵に英文を書き込み、ポスターを作成する。

+1ダイアローグ…会話形式の英文を読んだ後、自分でオリジナルの英文を加え、ペアでスキットをする。

② 4技能育成を意図した課題解決型学習

4技能を統合的に使い、生徒同士が学び合いながら課題解決に取り組むように単元構成を工夫する。単

元の終末課題として、プレゼンテーションやディスカッションなどのパフォーマンス課題を実施する。そ

れに向けて、聞いたことを基に話す活動や、読んだことを基に書く活動を取り入れる(例えば、インタビ

ュー活動で得た情報をレポートにまとめるなど。)。 また、教師は生徒が学びを深めるために、ジグソー

法などの主体的かつ協働を促す学習活動を取り入れる。課題解決に向けて交流する様子を見取り、発問し

たり教材を提示したりする。

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2

生徒が主体的に課題に取り組めるように、課題の題材を既習事項(生徒がこれまでの学習や経験から身

に付けた知識等)や生徒の身近な物に関連付ける(課題のPersonalization)。つまり、自分、燕市、新潟

県、日本について考え、表現する課題を設定する。

③ 指導と評価の一体化

指導内容と、パフォーマンス課題、パフォーマンス・テストにおける評価の一体化を図るために、逆向

き設計で単元の指導計画とパフォーマンス課題、パフォーマンス・テストを作成する。単元の学習の始め

に、パフォーマンス課題、パフォーマンス・テスト、単元を通して生徒が身に付けるべき知識・技能の目

標、各授業の学習内容を一覧で示し、学習の見通しを教師と生徒が共有する(単元ごとのCAN-DOリス

ト)。単元が終わったらパフォーマンス・テストを実施し、思考・判断・表現を含めた各技能の運用能力

を評価し、指導と評価の一体化を図る。教師は、パフォーマンス課題、パフォーマンス・テストの評価を

ルーブリック形式で生徒に示し、振り返りを次の学習意欲へとつなげるように個別のフィードバックを与

え、生徒の主体的な学びを促す。

(3) 研究テーマにかかわる評価

① 既習事項を即興的に使うことに関わる評価(アンケート)

(あ)パフォーマンス課題で「相手の質問や意見を受けてさらに自分の考えを述べることができた。」と回

答する生徒が80%以上いる。

(い)パフォーマンス・テスト(スピーキング)で既習事項を使い、会話を90秒以上継続させることがで

きる生徒(ペア)が80%以上いる。

② 4技能育成を意図した課題解決型学習に関わる評価

(あ)パフォーマンス課題でグループ・プレゼンテーションができる生徒が 80%以上いる。

③ 指導と評価の一体化に関わる評価

(あ)「単元ごとのCAN-DOリストを用いて、見通しをもって学習を進めることができた」と回答する生徒

が80%以上いる。

3 単元と指導計画

(1) 単元名

海外の人に新潟を訪れるおすすめの時期を紹介しよう

(Unit 4 To Our Future Generations (New Horizon English Course 3)

(2) 本単元の目標

・新潟県を訪れる予定の外国人に、気候・災害、文化、行事等注意すべき点をふまえて訪れるべき時期を勧

めることができる。

・間違いをおそれずに、積極的に発表したり、相手に質問や意見を述べたりすることができる。

・防災や災害について書かれた英文を読み、内容を理解することができる。

(3) 単元の評価規準と判定基準

コミュニケーションへの関心・意欲・態度 表現の能力 理解の能力 言語や文化についての知識・理解

評価規準

間違いをおそれずに、積極

的に発表したり、相手に質

問したりすることができ

る。

注意点をふまえて名所

や行事を紹介する英文

を、まとまりのある内容

で書いたり、話したりす

ることができる。

教科書本文を読み、概

要と要点を理解するこ

とができる。

疑問詞+不定詞(how to

~)、[It is … (for 人) to ~]、

[want 人 to ~]を用いた文

の形式・意味・用法につい

て正しく理解することが

できる。

判定基準

紹介を発表するときに、つ

かえても最後まで発表で

きればA

CAN-DOリスト参照 CAN-DOリスト参照 英作文のときに、上記3つ

の言語事項のうち2つ以

上が文法的に正しく書け

ていればA

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3

「CAN-DOリスト」

技能 Speaking

(Spoken Production)

Speaking

(Spoken Interaction) Writing Reading

Descriptor

名所や行事について、注意

点をふまえて紹介するこ

とができる。

紹介する名所や行事につ

いて、90秒以上会話を継

続することができる。

名所や行事を紹介する英

文を、これまで習った語

句・表現を用いてまとまり

のある内容で英文を書く

ことができる。

教科書本文を読み、概要と

要点を理解することがで

きる。

評価

場面 授業の発表活動時 パフォーマンス・テスト時 定期テストの英作文 授業ワークシート

判定基準

Speaking

(Spoken Production)

Speaking

(Spoken Interaction) Writing Reading

・紹介する時期について、

絵など補助資料を用いて、

相手にわかりやすく発表

することができる。

・発表後、限られた質問に

対して理由や説明を加え

て適切に答えることがで

きる。

・紹介する名所や行事につ

いて、理由や説明を交えて

90秒以上会話を継続す

ることができる。

・質問したり、説明を求め

たり、勧めたりするなど、

自分から会話を始めるこ

とができる。

・紹介する時期について、

これまで習った語句・表現

を用いてまとまりのある

内容で7文以上(または

50 語以上)で書くことが

できる。

・全体の意味に支障をきた

すような誤りがなく、書く

ことができる。

・教科書本文とパラレルな

文章を読み、概要と要点を

問う質問に、正しく答える

ことができる。

・文章の内容をふまえて読

み手を納得させるように

自分の考えを述べること

ができる。

・紹介する時期について、

準備した原稿を基に相手

に発表することができる。

・発表後、限られた質問に

答えているが、理由や説明

はない。

・紹介する名所や行事につ

いて、60 秒以上会話を継

続することができる。

・質問等をするが、相手か

ら会話を始められること

が多い。

・紹介する時期について、

これまで習った語句・表現

を用いてまとまりのある

内容で3~4文で書くこ

とができる。

・全体の意味に支障をきた

すような誤りが1~2か

所ある。

・教科書本文とパラレルな

文章を読み、概要と要点を

問う質問に答えることが

できる。解答の記述に局所

的誤りが見られる。

・文章の内容をふまえて自

分の考えを述べようとし

ている。

(4) 単元の指導計画と評価計画(全 13時間、本時11時間目)

(時数) 学習内容 学習活動

□主な評価規準と方法

・留意点

1次

(1)

課の導入:本単元の目

標を理解し、単元の見

通しをもつ。

単元目標などについて、CAN-DOリストで確

認する。

ALTがイギリスに住む家族から受け取った

e-mailを読む。

e-mailについての質問に答える。

関心単元の見通しをもって学習に取

り組もうとしている。【観察】

理解 e-mail の内容を正しく理解して

いる。【ワークシート】

2次

(7)

【疑問詞 + 不定詞

(how to~)】の文構造・

意味・働きの導入と練

チャンツ、チャット

自分の特技(例:料理)について、相手もで

きるか尋ねたり、教え合ったりする。

【疑問詞 + 不定詞】で一つのまとまりになっ

ていること、「~のやり方」と説明するときに

使えることを理解する。

意欲90秒間チャットを継続してい

る。【観察】

理解相手の説明を聞き、大まかな内容

をメモしている。【観察・ワーク

シート】

【疑問詞 + 不定詞

(how to~)】の文構造・

意味・働きの定着

U4-SO教科書本文の

内容理解

前時の復習

教科書の口頭導入

内容理解問題

教科書本文の音読

導入で、生徒が避難訓練につい

て知っていることを引き出す。

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4

☆は単元のパフォーマンス課題に関わる授業

【It is … for ~ to -】

の文構造・意味・働き

の導入と練習

U4-SO小テスト

チャンツ、チャット

動作主を明らかにして、大切だと思うことに

ついて尋ね合い、報告する文章を書く。

「~することは…だ」と説明するときに【It is

~ to…】を使うこと、動作主を明らかにする

ときは【for + 人】を to不定詞の前に置くこ

とを理解する。

意欲90秒間チャットを継続してい

る。【観察】

表現会話活動で、英語だけでやり取り

している。【観察】

【It is … for ~ to -】

の文構造・意味・働き

の定着

U4-D教科書本文の内

容理解

前時の復習

チャンツ

教科書の口頭導入、内容理解問題

教科書本文の音読

イギリスの自然災害について考える。

表現ペアで、本文の暗唱をすることが

できる。【観察】

U4-RT1教科書の内容

理解

教科書の口頭導入、内容理解問題

教科書本文の音読

絵を用いてのstory retelling

理解本文の内容に合うように4コマ

の絵で再生している。【ワークシ

ート】

【want + (人) + to +

動詞の原形】の文構

造・意味・働きの導入

と練習

U4-RT1小テスト、チャット

キャンプで人にしてほしいことを伝え、キャ

ンプに一緒に行く人を決める。

wantと不定詞の間に[for + 人]がくると「人に

~してほしい」と言えることを理解する。

意欲90秒間チャットを継続してい

る。【観察】

表現会話活動で、英語だけでやり取り

している。【観察】

U4-RT2教科書の内容

理解

教科書の口頭導入、内容理解問題

教科書本文の音読

「未来の世代に伝えたいもの」について3文

以上考えを書く。

理解本文の内容理解の問題に正しく

答えている。【ワークシート】

3次

(4)

☆ 既習事項を活用する課

題解決型の活動①

「新潟を訪れるおすすめ

の時期について、行事、

食べ物、気候の観点から

アイディアをふくらま

せる」

ALTが受け取ったe-mailを再度読み、課題

の内容を理解する。

ALTによる発表のモデルを見てタスクのゴ

ールを再認識する。

名所の「行事」「食べ物」「気候」についてエ

キスパートグループでマッピングする。

マッピングをもとに、ジグソーグループで説

明できるように練習する。

英語版の新潟県の観光HPや紹

介動画を見せる。

関心マッピングで多様な意見を書き

だしている。【観察・ワークシー

ト】

表現トピックについてまとまりのあ

る5文以上の英文を書いている。

【ワークシート】

☆ 既習事項を活用する問

題解決型の活動②

「おすすめの時期を決

め、プレゼンの原稿作

成と練習をする。」

ジグソーグループでエキスパート活動の結果

を発表し合い、それぞれの特徴を整理する。

グループで話し合って、おすすめする時期を

選び、原稿を作成する。

グループで1つの原稿にまとめたら、教師の

点検を受ける。

関心グループでの話合いに積極的に

参加している。【観察・ワークシ

ート】

表現グループで1つの発表原稿を書

くことができる。【ワークシート】

☆ 既習事項を活用する課

題解決型の活動③

「プレゼン練習会」

本時

異なるグループのメンバー同士で発表する。

1.5往復以上のやり取りを意識して質疑応

答をする。

相互評価や教師のフィードバックを参考に発

表原稿を修正する。

表現発音、アイコンタクト、ジェスチ

ャーなどデリバリーに気を付け

て、発表している。

理解他者の発表を聞き、大まかな内容

を理解している。

☆ 既習事項を活用する課

題解決型の活動④(パフ

ォーマンス・課題)

「プレゼン本番」

「海外の人におすすめの新潟を訪れる時期」

についてグループ毎に発表する。

ALTからの質問に1人ずつ答える。

発表を相互評価する。

動画を撮り、ALTの家族に見てもらう。

表現名所や行事について、注意点をふ

まえて相手が納得するように紹

介することができる。

4次(1)

パフォーマンス・テス

「海外の人におすすめの日本を訪れる時期」

について、ALTの前でペアでディスカッショ

ンをする。

テストの自己評価をする。

単元の振り返りをする。

表現紹介する名所や行事について、ア

ドバイスや注意点をふまえて9

0秒以上会話を継続することが

できる。

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5

4 単元と生徒

(1) 単元構成

① 題材について

本単元は、英文の避難訓練のお知らせ、防災に関しての登場人物の対話、さらに被災地の流木で製作さ

れたバイオリンと、その演奏リレーについてのエピソードからなる教材である。本校では避難訓練時にア

メリカを中心に行われているシェイク・アウト訓練も取り入れて訓練を行っている。災害時の身の守りか

た、助け合い方について、実生活で英語が必要になる可能性もあることを認識させたい。言語材料は、疑

問詞+不定詞、It is … (for + 人) + 不定詞/ want + (人)+不定詞が扱われる。これらを理解し、課題

解決型の言語活動で表現できるようにさせたい。

② 言語活動について

本単元の目標は「新潟県を訪れる予定の外国人に、気候・災害、文化、行事など注意すべき点をふまえ

て訪れるべき時期を勧めることができる。」である。そのために「やり方やすべきこと、人にとって必要な

ことや難しいこと、人にしてほしいことを述べることができる」必要がある。その文法事項として疑問詞+

不定詞、It is … (for + 人) + 不定詞/ want + (人)+不定詞を使用場面を意識した言語活動の中で習

得、活用させたい。これらは新しい文法事項のようであるが、疑問詞、to不定詞、wantなどは既習事項の

ため、復習を取り入れれば、生徒の理解を促すことができるだろう。

コミュニケーション活動では、例を豊富に示し、説明するインプットの活動だけでなく、実際の場面を

想定したアウトプットの活動も取り入れたい。例えば「人に自分の特技のやり方(コツ)を教えよう」と

いう課題で疑問詞+不定詞を使わせるなど、実際のコミュニケーションに関連付けて文法事項を活用させる。

また、生徒の課題である即興的な英語による対話の能力を高めるために、自分の聞きたいことを質問し、

その答えに対して英語で反応をしたり、さらに質問や意見を述べたりして対話が続くようにチャット(決

められたテーマについて自由に話し合う活動)で継続的に指導する。

単元末の課題として課題解決型の活動を構成する。情報を発信する相手を意識させるために、ALT に協

力してもらい、イギリスに住む家族からのe-mailの内容に対し、ビデオレターで返信する課題を設定する。

2年生では燕市を紹介する発表活動を行ったが、今回は気候、災害、食べ物、行事などの面で相手に注意

してほしいことをふまえて訪れてほしい時期を紹介する。そのため、本単元で習った言語材料を活用した

り、より多くの内容を扱ったりするため、一人では解決できない課題となる。そこで、「知識構成型ジグソ

ー」の手法を参考に言語活動を構成するなどして、生徒が主体的かつ協働して英文を練り上げる場面を設

定する。発表活動では、少人数のグループ同士で発表し合うことで、発表技術の向上や、聴く力の向上を

図りたい。作成した英文(またはビデオレター)はイギリスに送り、コメントを返信してもらうことで、

実際の使用場面に近い言語活動を構成する。

③ 本校の研究主題との関わり

本校の研究主題は「他者と協働し、課題を解決する生徒の育成 ~「教え合う」学び合いから「交流」

の学び合いを目指して~」であり、ALの視点を取り入れ、授業改善を行っている。普段の音読や宿題の

答え合わせなどで互いに教え合う風土をつくる。既習事項を活用する課題解決型学習を構成し、学習の過

程で自分の意見を伝え合う交流場面を設定して思考力や表現力の高まりを目指したい。

(2) 生徒について(男子15名 女子17名 計32名)

NRTの各大領域の各観点では全国平均値を上回っている。しかし、「聞くこと」の正答率が全国平均値と最

も差が小さく、語や文を正確に聞き取る練習や依頼に適切に応じる場面を設定した言語活動で聞く力を付け

る練習を必要とする。また、中領域別診断で個別支援が必要もいる。

授業中は活動に真面目に取り組み、教師の英語での指示を理解することができる。ゲーム性のある活動で

は活発に英語でやり取りをする一方で、英語の会話活動が得意な生徒とそうでない生徒の差が大きい。話合

い活動で自分の考えを英語で述べ合う力が未熟なため、内容を十分に練り上げることができない。また、本

文の英問英答や、自由度の高いコミュニケーション活動で、英文を考えて話したり書いたりする場面になる

と、既習事項を応用する力に課題がある。

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6

5 本時の構想(指導13時間、本時 11時間目)

(1) 本時のねらい

① 新潟を訪れるおすすめの時期のプレゼンを、質疑応答を含めて英語で行うことができる。

② 相手の発表を聞いて理解し、質問やコメントを述べることができる。

(2) 展開の構想(手立て)

本時では、「海外の人に新潟を訪れるおすすめの時期を紹介しよう」という課題に向けて、練習、発表、振

り返りを行う(資料1)。生徒はエキスパート活動、ジグソー活動で発表に向けて準備をしてきた。書いた原

稿を発表し、他者の発表を聞いて質問やコメントをする、という技能統合型の活動を通して、総合的に生徒

の英語力向上を図る。特に、本時では相互評価や自己評価をもとに生徒が主体的に発表の表現力を高めてい

くことをねらいとする。

① 課題の焦点化

まず、同じテーマについて発表する3~4人グループで発表練習を行う。このとき、発表の工夫点を全

体で確認することで、課題への焦点化を図る。その後異なるグループ同士で、1グループ持ち時間4分で

発表、質疑応答、相互評価を行う。発表活動後、相互評価シートのコメントを持ち寄り、発表の仕方や英

文の内容、質疑応答での受け答え方について振り返らせ、次の課題に向けて主体的に改善を図らせる。

② 協働学習を促すファシリテーターとしての教師の支援

発表活動では、①司会者②タイム・キーパー③質問者を基本として1人1役を与え、協力して活動が行

えるようにする。また、英語を使って一連の活動が行えるように、司会者には進行のセリフを英語で言わ

せる。質問者にはスムーズに質疑応答での対話が行えるように、質疑応答に役立つ表現集を与える(資料

2)。質疑応答の最中は、対話に困難を抱えているグループを中心に、質問の視点や、応答に対するリアク

ションの表現等をアドバイスしながら机間支援する。支援したグループのやりとりをクラス全体にモデル

として紹介し、アドバイスを与える。その後再度話し合わせ、さらに質の高い対話ができるように支援す

る。

発表後、各自が発表の相互評価で得た結果をグループ内で報告し合う場面では、発表の向上や英文の練

り合いに必要な視点(内容面)について机間支援を行う。最後に話し合ったことをクラス全体で発表させ、

良い発表の仕方や内容について共有する。

(3) 展開

時間 主な学習活動 教師のはたらきかけ ALT

□評価 ○支援

◇留意点

2

①挨拶をする。

②本時の流れと目標を確認す

る。

①挨拶をする。

②本時の目標と流れをPPT

で説明する。

①挨拶をする。

②曜日・日付・天気を英語で

質問する。

◇生徒はあらかじめ4人組

で座っておく。

10 ①教師のモデルを聞く。

②グループで発表のポイントを確認しながら練習をする。

①ALTのモデルを聞かせ、生徒から発表のポイントを引き出す。

(声量、発音、アイコンタクト、ジェスチャー、スピード、+1)

②練習の指示を出す。

③ALTと分担して机間支援を行う。

①発表のモデルを示し、ポイントを説明する。

②JTL と分担して机間支援を行う(主に発音)

○最初は不十分なモデルを示し、発表で大切なポイント(声量、アイコンタクト、ジェスチャーなど)に気付かせる。

○練習の道具として、ボイスレコーダーを1班に1つ与える。

23 ①役割分担を決める(司会、

質問、計時)。

②1グループ質疑応答を含

め、4分間で発表を行う。

予想される生徒の発話例

<発表内容について>

A: Have you ever been

there in summer?

①発表の流れをスクリーン

に提示して説明する。

②指示を出し、発表を始めさ

せる。

③JTLとALTで分担し

て質疑応答のやり取りを

中心に机間支援をする。

④発表者がセリフを言えな

かったり、質問に答えられ

①JTLと分担して質疑応

答のやり取りを中心に机

間支援をする。

②生徒からの質問に答える。

○発表の流れは拡大して黒

板脇に貼る。

(資料3)

表・話既習事項を適切に用

いて意味が通じるよ

うに発表しているか。

(観察)

関・意相手の発表に対して

自分なりの質問や意

Goal:発表を通してより相手に伝わる発表の仕方や内容を考えよう。

予想される生徒の発話: 「この表現は発音に気を付けて発表しよう」 「ここでジェスチャーを使った方がいいかな。」

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7

③相互評価カードを記入し、

次のグループが発表する

(向かい合っている生徒同

士で評価する)。

④グループを変え、同じ手順

で発表をする。

B: Yes, I have. It was fun

for me to climb Mt.

Yahiko. How about you?

A: Oh, no, I haven’t. I

want to go there someday.

<発表方法について>

A: Your voice is very clear.

B: Thank you.

A: But if you speak more

slowly, your presentation

will be great.

A: Thanks. I’ll try.

なかったりする場合は、他

の生徒が助けてもいいこ

とを伝える。

⑤支援したグループの中で、

他のモデルになりそうな

やり取りを紹介したり、分

からない表現等について

全体で確認したりする。

⑥時間があれば、グループを

変えて2回目の発表をさ

せる。

見を述べて1.5往復

以上のやり取りを行

っているか。(観察)

○質問がなかなか出ないグ

ループは、表現を教え合っ

たり、表現集を見るように

アドバイスしたりする。

10 ①各自の相互評価を持ち寄

り、班長が司会をし、発表

の仕方や英作文の見直しを

する。

②必要に応じて修正、改善案

を赤ペンでワークシートに

記入する。

①話合いの指示を出す。

②ALTと分担し、話合いに

必要な視点(主に発表の仕

方、内容)から机間支援を

する。

③数名の生徒に話合いの結

果を全体に発表させ、フィ

ードバックを与える。

①JTLと話合いに必要な

視点(主に発表の仕方、内

容)から机間支援をする。

関・意グループの話合いに

積極的に参加し、協力

してプレゼンの改善

を行っているか。

(観察・ワークシート)

5 ①自己評価をする。

評価がAとなる記述例

「仲間と協力して発表から

質疑応答まで行うことがで

きた。質問に対して理由を

加えて答えることができ

た。相手の発表から新しい

表現を学んだ。次回は発音

とジェスチャーをより意識

して発表したい。」

②挨拶をする。

①自己評価カードを配付し、

記入するように指示を出

す(資料)。

②ワークシートを集め、次時

の課題を提示する。

③挨拶をする。

①机間支援し、生徒から質問

があれば答える。

②ワークシートを集める。

③挨拶をする。

(4) 評価

① 習得した知識や技能を活用して、質疑応答を含めてプレゼンを英語で行うことができる。(表現の能力)

② 相互評価や自己評価をふまえて、発表の仕方や英文を修正しようとする。(関心・意欲・態度)

6 実践を振り返って

(1) 課題提示からグループ発表まで

単元の始めに、Unit 4のCAN-DOリストを使って各観点の到達目標や毎授業の学習内容を示した(資料4)。その中でもパフォーマンス課題の部分にはアンダーラインを引き、最終的に求められる目標を生徒と共有した。また、パフォーマンス課題のワークシートを使い、具体的に何が達成できればよいか、ルーブリック形式で評価基準を示すと同時に、ALT が家族から受け取った e-mail を読ませ、相手意識を高めた(資料1)。

次に、「新潟を訪れるのにおすすめの季節」について英作文を作成させるために、以下のようなALTが書いたモデル文(Exemplar)を生徒に提示した。

【ALTが書いた英作文のモデル文】

Many foreign people enjoy going to Tokyo. But do you know when to visit there? I think that spring is

the best season to visit Tokyo. There are three reasons for this.

First, the weather in spring is not too hot or too cold. Do you know that summer in Japan is very hot

and humid? I think that it is hard for tourists to enjoy their vacation if the weather is too hot. So I want

you to enjoy visiting Tokyo in spring.

Second, do you know about cherry blossom? Tokyo has many cherry trees. You can enjoy looking at

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図1:モデル文分析の代表例

beautiful cherry blossom if you visit in spring. It is fun for Japanese people and tourists to watch the

cherry blossoms with their friends.

Finally, you can see many traditional events in this season. Sensoji temple has many events and

festivals during spring. So there is always something interesting for visitors to do.

As I said, spring is the best season to visit Tokyo. So I want you to visit in spring and enjoy your

vacation in Japan.

モデルを示した後、「構成」「内容」「言語」の観点からモデル文の分析を4人班で行った。分析には「まな

ボード」を教具として使用した。生徒は話し合いながら、自分たちの考えた英文の特徴をまなボードに記入

していた。1学期のパフォーマンス課題の時にも行ったことがあるため、「段落の始めは4字空ける」「First,

Second, Thirdが使われている」など段落の特徴に気付いた班が多かった。その後、各班に結果を報告させ、

教師が構成、内容、言語の観点から不足分を補うことで、モデル文に含まれている英作文の要点を確認した。

次の授業でよくまとめができている班の例を印刷、配付した(図1)。

エキスパート活動では、異なる班のメンバーと班を作り、「行事・活動」「食べ物」「天候」の観点から季節

ごとの特徴について考えたことをマッピングした。教師が想定している以上に新潟について知らないことが

多いことが予想されたため、各班に新潟県ホームページからダウンロードした観光情報を与えた。

ジグソー活動では、エキスパート活動で話し合った結果

を報告し合い、各季節の特徴をまとめ、班で紹介する季節

を1つに絞った。その後、英作文のアウトラインをワーク

シートに記入した。分からない単語や語句は教科書、辞書

で調べさせた。生徒の中には既習の「Presentation 2 修

学旅行」の表現を参考にする者もおり、既習事項をスパイ

ラルに使用する場面を設定できたと考える。班で作成した

アウトラインを基に、自分の発表部分について英作文を書

かせ、チェック表に従って自己評価させた(資料1)。教師

が添削して英作文を返却し、グループ発表までに原稿の清

書とポスターを完成させてくるように指示を出した。

(2) 授業(グループ発表)の実際

授業の始めに本時の目標と流れを提示することで、授

業者と生徒が目標を共通理解して授業を始めることがで

きた。ALTのモデルを見せる場面では、発表の仕方が悪

いモデルを先に見せたことで、話す時に大切なポイント

(声量、アイコンタクト、ジェスチャーなど)をスムー

ズに生徒から引き出すことができた。また、前時にボイ

スレコーダーを使って原稿の音読練習をした時に棒読み

の生徒が多かったことから、イントネーションを意識す

るようにALTからアドバイスをしてもらった。ボイスレコーダーを使っての練習では、十分に時間をとるこ

とができなかったものの、生徒は声の大きさやイントネーションを意識して練習をしていた。その後の発表

練習では、原稿に頼って発表することが予想されたため、再びALTからアイコンタクトとジェスチャーを注

意して練習するように助言してもらった。下書きを終えたばかりだったので、ほとんどの生徒が原稿を読む

ので精一杯であった。

次に、グループ同士で発表をさせた。発表する季節が異なるように教師側でグループ相手を指定した。グ

ループ同士の発表では、聞き手に司会者、タイムキーパー、質問者を分担させることで、各自が役割を自覚

して発表活動を行っていた。ほとんどの発表グループは、練習したことをふまえて、声の大きさやジェスチ

ャーに気を付けて発表していた。しかし、ポスターの裏面に書かれた原稿を各自手に持って発表させたこと

もあり、原稿に頼って発表する生徒が多かった。発表するときは発表者以外の生徒にポスターを持たせたり、

メモを持たせたりすることで、できるだけ原稿に頼らないで発表させるべきであった。

発表時間は2分で適切であったが、質疑で対話が続いたため、予想以上に時間がかかり、実際は評価カー

ドの記入も含めて5分程かかった。しかし、質疑のヒントカードを与えたことや、これまでにチャットやス

ピーチ活動で継続してきた成果の表れとも考えられる。実際の質疑応答では、以下のような生徒同士のやり

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図3:パフォーマンス・テストの項目別達成率

取りがあった。

<質疑応答の場面での生徒のやり取り>

生徒 A:Can you play fireworks?

生徒 B:花火は playじゃなくて haveじゃなかった?

生徒 A:いや、持つじゃなくてするっていう意味。

生徒 C:Handy fireworksって言えばいいのかな?

9月頃に行ったスピーチ活動では、質問をすることですら困難を抱えていたが、上記のように自分から質

問をし、さらには他の生徒と教え合う場面も見られるようになった。

グループ発表の後、ALTがモデルとなるグループを指名し、全体の前で発表させ、良い点を確認した。声

の大きさやアイコンタクトについてフィードバックを全体に行うことができた。

英作文の修正では、始めに他グループから受け取った相互評価カード(主にアドバイスやコメント)を読

ませてから原稿を見直す指示を出した。以下に生徒の記述例を示す。

英作文の修正は3分ほどしか時間がとれなかった。最後2分で授業の振り返りをさせ、次時の連絡をして

授業を終えた。今回の授業では発表活動を中心に行い、次時で英作文の修正をすることにした。

その次の授業で、ALT とクラス全体の前でグループ発表を行った。ALT にはグループに対して質問をし

てもらった。生徒には聞き取りのワークシートを与え、他グループの発表を聞き、その内容についてメモを

とらせ、アドバイスやコメントを書かせた。

(3) 研究テーマにかかわって

研究テーマに関する評価結果は以下のとおりである。

① 既習事項を即興的に使うことに関わる評価(アンケート)

(あ) パフォーマンス課題で「相手の質問や意見を受けてさらに自分の考えを述べることができた。」と回

答する生徒が80%以上いる。

グループ発表後の授業アンケートでは、「相手の質問や意見を受けてさらに自分の考えを述べることが

できた。」と答えた生徒が 57%であった。質疑応答がグループに対する質問であったため、必ずしも全

員に質問に答える機会があったわけでないことが主な原因と考えられる。クラス発表でも、ALTから

の質問に全グループが英語で答えることができたが、自分の考えを加えて答えるグループは少なかった。

(い)パフォーマンス・テスト(スピーキング)で既習事項を使い、会話を 90秒以上継続させることができ

る生徒が80%以上いる。

パフォーマンス・テストでは、「外国人が日

本を訪れるおすすめの季節について、ALT

の前でペアで会話を 90秒以上続ける」という

課題を与えた(資料5)。評価項目に以下の4

点を設定した。①Long utterance:単語や語

句をつなげてより長く話しているか②Clear

speech:声の大きさ、発音に気をつけて明確

に 話 し て い る か ③ Conversation

Strategies:会話方略を使い、会話を 90秒以

上継続しているか④Content:内容がよく準

備されているか。各項目の達成率は、図3の

とおりである。既習事項を活用し、会話を 90

秒以上継続できた生徒は全体の約 60%であ

った。

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② 4技能育成を意図した課題解決型学習に関わる評価

(あ)パフォーマンス課題でグループ・プレゼンテーションができる生徒が80%以上いる。

エキスパート活動とジグソー活動を通して全員が英作文を書くことができた。授業で英作文が終わら

なかった生徒もいたが、グループのメンバーに教えてもらいながら、グループ発表当日までに完成させ

ることができた。グループ発表当日は、最初にボイスレコーダーを使い、音声面に集中して練習を行い、

次にジェスチャーやアイコンタクトなどデリバリーの面に注意して練習を行うことで、全グループが発

表から質疑応答までを英語で行うことができた。授業の振り返りカードでは「班の人と協力して、分か

らない所をなくせることができた。もっと、イントネーションやジェスチャーをよくしていきたい。」「す

ぐに質問・コメントを言えるようにしたいです。ジェスチャーをつけられるようにしたいです。」と意欲

的に改善しようとすることが伺える記述がみられた。結果として、クラス発表当日も、全グループが質

疑応答までを英語で行うことができた。以下はグループ発表の英文とポスターの例である。

【グループ発表の英文例(原文のまま)】

③ 指導と評価の一体化に関わる評価

(あ)「単元ごとのCAN-DOリストを用いて、見通しをもって学習を進めることができた」と回答する生徒

が80%以上いる。

2学期末の授業アンケートでは「CAN-DO リストで見通しをもって学習に取り組むことができた」

の項目で肯定的回答が 90%であった。Unit 4の単元の始めから、グループ・プレゼンテーションまで、

単元ごとの CAN-DO リストを使用した。単元を通して授業の始めで本時の目標を確認することや、授

業の終末で自分の達成度を振り返らせる際に有効であった。単元の最後の授業で単元全体の振り返りを

記述させると、単元で身に付けた知識、技能を次の学びに生かそうとする記述が多く見られた。

【Unit 4 CAN-DOリストの生徒記述例】

・トム先生(ALT)の家族への紹介文を班で考えたり、協力して発表したりして大変ではあったけど、や

り終えたら楽しかったです。英語の発音に気を付けたり、ジェスチャーを入れたりして発表できました。

・うまく伝えられたときもあったけど、そうでないときもあった。次はもう少し単語とか文とかも言える

ようになりたい。

・Unit 4の文章を理解することができた。自分の意見を言って会話をもっと続けられるようになりたい。

また、1学期から定期テストにパフォーマン

ス・テストとして英作文を出題してきた。1学期

に比べ、英作文における得点率の上昇が見られた

(図4)。11 月のテストでは、構成、内容、正確

さの観点のうち、構成(段落の始めが4字下げて

あり、5文以上の英文で書かれているかについて

3点満点で評価)の得点率が 77.6%で、1学期に

比べ大きく上昇した。単元の最終目標や評価から

指導計画を考えるバックワード・デザインによる

授業を進めることで、生徒に身に付けさせたい力

に一定の効果があることが分かった。

Do you know when to visit Niigata? We think summer is the best season to

visit Niigata for your family. We have three reasons.

First, we would like to tell you about a big event in Niigata. It is Nagaoka

fireworks display. They’re beautiful and powerful. We’re moved to see them. A lot of

people come there every year. If you have never seen fireworks, you should go to

Nagaoka fireworks display.

Second, do you know about famous food in Niigata? For example, kakigori. You can eat it at a

festival. It is cold and sweet. I think Kadoya’s kakigori is the best.

Third, summer is sunny and very hot in Niigata. I know what to do then. It is watching the

fireworks. So I want you to enjoy visiting Niigata in summer.

As we said, summer is the best season to visit Niigata. We want you to enjoy sightseeing in Niigata.

図4:定期テスト英作文の得点率の推移

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(4) 今後の課題

① 即興的に英語を活用する活動の継続

4月からチャットやスピーチ活動を通して即興的に英語を活用する場面を与えてきた。しかし、今回

のような内容面で複雑な話題については英語でやり取りをする力は十分に身に付いていない。英語で考

え、英語でやり取りができるようになるには多くの時間と訓練が必要である。そのために、50分の授業

の中で、生徒が英語を使う時間や場面を最大限に確保していきたい。同時に、英会話の表現や方略がし

っかりと身に付くように教材研究も行いたい。思考力の観点から考えると、国語科と連携を図り、話合

い活動やディスカッションを指導計画に取り入れるなど、母語による言語能力を高めていく必要性もあ

ると考える。

② CAN-DOリストの整備

バックワード・デザインで単元構成を考え、単元ごとに CAN-DO リストを作成して生徒に示すこと

は、教師と生徒双方にとってメリットがある。特に、生徒が見通しをもって学習に取り組めることは、

次期学習指導要領で求められる主体的な学びにつながると考える。パフォーマンス課題のモデル分析も

生徒の課題解決のために有効であった。さらに指導と評価の一体化を図るためにも、年間の CAN-DO

リストの見直しを継続することが不可欠である。単元の指導が終わる度に、生徒の授業の取組みや振り

返りの記述、パフォーマンス課題の達成度を参考に、年間の CAN-DO リストの修正、改善を行い、英

語科で共有することで、次年度の年間指導計画へつなげたい。

③ 生き生きと英語を使う生徒を育成するために

生徒の身近なことに関連付けて課題設定を行うことで、多くの生徒が意欲的かつ主体的に課題に取り

組むことができた。一方で「難しくて大変だった」と感想を述べた生徒も少なくなかった。結果として、

全体としては課題がやや高度であった。そのため、公開授業後の協議会で「発表場面の生徒の表情が硬

い」という指摘を受けた。理想は、どの生徒も、生き生きと、楽しそうに英語を学習する授業展開であ

る。そのために、より生徒の実態やニーズを正確に把握し、内容や難易度が適切な課題や学習活動を構

成することを心掛けていきたい。また、教師自身が英語力を高めていくことで、より生き生きと英語で

授業を行う力を身に付け、生徒が理想とする英語使用者の身近なモデルになるために自己研鑽に励んで

いきたい。

<参考・引用文献>

佐藤 一嘉 (2012) 『フォーカス・オン・フォームでできる! 新しい英文法指導アイデアワーク 中学3年』

東京:明治図書

(2014) 『ワーク&評価表ですぐに使える! 英語授業を変えるパフォーマンス・テスト中学3年』

東京:明治図書

東京大学 (2015)『協調学習 授業デザインハンドブック-知識構成型ジグソー法の授業づくり-』東京大学 大

学発教育支援コンソーシアム推進機構

文部科学省 『中学校学習指導要領』

(2015)『論点整理』

山本 崇雄 (2015)『はじめてのアクティブ・ラーニング! 英語授業』東京:学陽書房

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