4
[背景] TAFRO 症候群とは 2010 年高井らにより報告され, Thrombocytopenia(血小板減少症), Anasarca(全身浮腫, 胸腹 ), Fever(発熱), Reticulin fibrosis(骨髄の細網繊維化, 骨髄巨 核球増多), Organomegaly(臓器腫大, リンパ節腫大)を伴う全 身炎症性疾患で, リンパ組織病理像は多中心性 Castleman (MCD)と類似するが, 典型的な MCD とは臨床像が異なる. 今回, TAFRO 症候群の 2 症例を経験したので報告する. [症例] 1 例目は 30 歳代男性. 20xx 3 , 血小板減少, 不明 熱の精査目的で紹介入院. CT で全身リンパ節腫脹, 胸腹水 貯留, 下肢浮腫著明. 頸部リンパ節生検で形質細胞の浸潤と 血管の増生を認め, MCD 様の像を呈した. 骨髄は dry tap , 骨髄生検にて骨髄巨核軽度増加, 軽度線維化を認めた. CRP 13.31 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 26.4pg/ml と高値. Hgb 8.4g/dl と貧血で, 血小板は 1.7 /μl と著明に減少していた. ステロイド, tocilizumab で反応せ . Cyclosporin A, ステロイドパルス療法を開始. 血小板と 貧血が徐々に改善し 6 月退院. 11 , 発熱, 下肢浮腫, 血小 板減少が再燃し入院. ステロイドパルス療法と TPO 受容体 作動薬を併用, 下肢浮腫消失, CRP 陰性化, 血小板は改善傾 向となり 12 月退院. 以後外来にて経過観察. 2 例目は 60 歳代男性. 20xx 3 , 発熱, CRP 高値, 肝腫 , 肝障害を指摘され紹介入院. CT で全身リンパ節腫脹, 腹水貯留, 軽度肝脾腫を認め, 鼠径部リンパ節生検で形質細 胞の浸潤と血管の増生を認め, MCD 様の像を呈した. CRP 18.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は 8.4 /μl と減少していた. ステロイドパルス療法を開始し, tocilizumab 追加投与するも, 入院後急激に血小板減少が進 . 治療抵抗性で肺胞出血による呼吸不全で発症 43 日目に 死亡した. [考察] 2 症例は高度の血小板減少が持続し, 著明な炎症反応 や発熱, 貧血が見られた. リンパ節生検ではリンパ腫細胞の 増殖は無く悪性リンパ腫は除外され, MCD 様の像を呈した. IL-6 が高値を示したが tocilizumab は無効であった. 同様症 例を蓄積し臨床病理学的疾患単位としての検討とともに速 やかな診断と治療が必要と思われる. 連絡先 025-281-5151 TAFRO 2 西澤 幹則 1) 、小南 真由美 1) 、塚田 彩実 1) 、丸山 芽依 1) 、加藤 由衣 1) 、古田 美砂 1) 、阿部 2) 、高井 和江 2) 新潟市民病院臨床検査科 1) 、新潟市民病院血液内科 2) 108

EntryNo. 1218.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 は35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は8.4 万 /µl と減少していた

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Page 1: EntryNo. 1218.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 は35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は8.4 万 /µl と減少していた

【はじめに】多発性骨髄腫の診断は形質細胞の腫瘍性増殖

とM蛋白の存在を証明することでなされる。しかし多発性

骨髄腫の約 3%に、骨髄中に形質細胞の腫瘍性増殖を認め

るにもかかわらず血清・尿中にM蛋白が検出されない非分

泌型が存在する。今回、病的骨折を繰り返した非分泌型多

発性骨髄腫の一例を経験したので報告する。

【症例】67 歳、女性。現病歴:2015年 1月胸背部痛出現。

4月に近医を受診し骨粗鬆症、胸椎圧迫骨折と診断。5月よ

り当院整形外科でフォローアップされていたが、9月から

2016年 1月までに腰椎圧迫骨折、肋骨骨折、胸骨骨折を指

摘された。1年間で 10kgの体重減少があり、吐き気と食欲

不振および胸背部痛が増強してきたため当院リウマチ科を

受診。生化学検査で低免疫グロブリン血症を認めたため血

液内科に紹介、入院となった。

【入院時検査所見】血液学検査:WBC 6.7×109/L,RBC

3.65×1012/L,Hb 12.2g/dL, PLT 267×109/L

生化学検査:TP 6.2g/dL, Alb 4.0 g/dL, BUN 21.4 mg/dL,

Cre 0.46 mg/dL,Ca 8.8mg/dL,血清β2-MG 3.4 mg/dL

IgG 440mg/dL, IgA 28 mg/dL,IgM 22mg/dL,血清 IFE法(-),

尿 IFE法(-),遊離L鎖κ/λ比 0.23

【骨髄検査所見】NCC 12.1×104/μL, Megk 81/μL,

Plasma cells 59.6% 染色体検査:46,XX(20cells)

細胞表面マーカー (CD38ゲーティング):CD54+, CD56+,

CD138+, MPC-1+, cyλ-ch+

骨髄クロット免疫染色:CD138+, CD79+(一部), CD56+,

cyclinD1+,IgA+

【臨床経過】検査結果および臨床症状より非分泌型多発性

骨髄腫と診断され、レナリドミドとデキサメタゾンの併用

療法により寛解となり、現在外来にて経過観察中である。

【まとめ】本症例は正常免疫グロブリンが抑制されていた

ことが診断への契機となったが、血清総蛋白値がやや低下

していた以外に異常所見は認められず、非分泌型の早期診

断の難しさを痛感した。改めて多発性骨髄腫の病型・特徴

を認識するとともに、強い骨病変を認めた場合には本疾患

の可能性も視野に入れる必要があると思われる。

連絡先 024-925-1188 (内線 30303)

病的骨折を繰り返した非分泌型多発性骨髄腫の一例

◎中村 美雪 1)、座間 槙 1)、中村 拓磨 1)、坂内 沙耶佳 1)、服部 祐太 1)、見付 祐子 1)、五十嵐 典子 1)、白石 満 1)

一般財団法人 太田綜合病院附属太田西ノ内病院 1)

EntryNo. 74

【緒言】1988年の西岡らの報告以来、多発性骨髄腫(以下MM)に合併した高アンモニア血症の症例報告が散見される。今回我々は、急速に進行する意識障害と高アンモニア

血症を呈し、死の転帰を辿ったMMの一例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

【症例】71歳、男性。【主訴】意識障害、歩行困難。

【現病歴】2005年から透析療法中である。2016年 1月、入浴時に失神・転倒し、それ以来急速に衰弱・認知症・歩行

困難が出現した。同年 2月、当院神経内科を受診し、その際に認知機能低下・歩行障害・羽ばたき振戦・高度の徐波

脳波・高 Ca血症を認めた。高 Ca血症を含む代謝性脳症が疑われ、腎臓・膠原病内科に紹介となった。

【既往歴】慢性腎不全、左腎臓癌。

【家族歴】特記事項なし。

【生活歴】2005年まで大酒家、喫煙歴なし。【血液検査所見】Hb 8.9g/dL、WBC 6,030/μL、PLT9.2×104/μL、UN 25.9mg/dL、CRE 6.00mg/dL、TP 5.6g/dL、

ALB 3.8g/dL、IgG 665mg/dL、IgA 33mg/dL、IgM 25mg/dL、Ca 12.3mg/dLを認めた。【臨床経過】透析で血清 Ca値は低下したが、意識状態に著変なく、アンモニアを測定したところ 82μg/dLと高値を示し、第 4病日には 260µg/dLまで上昇した。画像検査で肝硬変や門脈-大循環シャントを認めなかったが、末梢血塗抹標本で形質細胞を 2.5%認めた。骨髄塗抹標本では形質細胞を 38.4%認め、FCMで細胞質内κ鎖 96.4%、細胞室内λ鎖 3.7%とモノクローナルな増殖を認めたため、MMと診断された。細胞質内 IgG・ IgA・ IgM・ IgDのいずれも陰性であり、血清免疫電気泳動でM蛋白とBence-Jones蛋白は検出されず、免疫固定法でも明らかなM蛋白は認めなかった。BD療法により、意識状態が一時的に改善したが、第 16病日に永眠された。【考察】他に原因を認めず、治療でアンモニア値が改善し

たためMMに起因した高アンモニア血症と考えられた。【結語】高アンモニア血症を伴ったMMの一例を経験した。

連絡先:0258-28-3600(内線 2307)

急速進行性の意識障害と高アンモニア血症を伴った多発性骨髄腫の一例

◎野中 拓 1)、鈴木 恵美 1)、丸山 直子 1)、酒井 由美子 1)、佐藤 麻実 1)、吉原 彩乃 1)、田中 勇気 1)、山田 隆 1)

長岡赤十字病院 1)

EntryNo. 12

[背景] TAFRO症候群とは 2010年高井らにより報告され, Thrombocytopenia(血小板減少症), Anasarca(全身浮腫, 胸腹水), Fever(発熱), Reticulin fibrosis(骨髄の細網繊維化, 骨髄巨核球増多), Organomegaly(臓器腫大, リンパ節腫大)を伴う全身炎症性疾患で, リンパ組織病理像は多中心性 Castleman病(MCD)と類似するが, 典型的なMCDとは臨床像が異なる.今回, TAFRO症候群の 2症例を経験したので報告する.[症例] 1例目は 30歳代男性. 20xx年 3月, 血小板減少, 不明熱の精査目的で紹介入院. CTで全身リンパ節腫脹, 胸腹水貯留, 下肢浮腫著明. 頸部リンパ節生検で形質細胞の浸潤と血管の増生を認め, MCD様の像を呈した. 骨髄は dry tapで, 骨髄生検にて骨髄巨核軽度増加, 軽度線維化を認めた. CRP 13.31 mg/dlと炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6は 26.4pg/mlと高値. Hgb 8.4g/dlと貧血で, 血小板は 1.7万/µlと著明に減少していた. ステロイド, tocilizumabで反応せず. Cyclosporin A, ステロイドパルス療法を開始. 血小板と貧血が徐々に改善し 6月退院. 11月, 発熱, 下肢浮腫, 血小板減少が再燃し入院. ステロイドパルス療法と TPO受容体

作動薬を併用, 下肢浮腫消失, CRP陰性化, 血小板は改善傾向となり 12月退院. 以後外来にて経過観察. 2例目は 60歳代男性. 20xx年 3月, 発熱, CRP高値, 肝腫大, 肝障害を指摘され紹介入院. CTで全身リンパ節腫脹, 胸腹水貯留, 軽度肝脾腫を認め, 鼠径部リンパ節生検で形質細胞の浸潤と血管の増生を認め, MCD様の像を呈した. CRP 18.87 mg/dlと炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6は 35.6 pg/mlと高値. Hgb 7.8 g/dlと貧血で, 血小板は 8.4万/µlと減少していた. ステロイドパルス療法を開始し, tocilizumab追加投与するも, 入院後急激に血小板減少が進行. 治療抵抗性で肺胞出血による呼吸不全で発症 43日目に死亡した. [考察] 2症例は高度の血小板減少が持続し, 著明な炎症反応や発熱, 貧血が見られた. リンパ節生検ではリンパ腫細胞の増殖は無く悪性リンパ腫は除外され, MCD様の像を呈した. IL-6が高値を示したが tocilizumabは無効であった. 同様症例を蓄積し臨床病理学的疾患単位としての検討とともに速

やかな診断と治療が必要と思われる. 連絡先 025-281-5151

TAFRO症候群の 2症例について

◎西澤 幹則 1)、小南 真由美 1)、塚田 彩実 1)、丸山 芽依 1)、加藤 由衣 1)、古田 美砂 1)、阿部 崇 2)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 25108

Page 2: EntryNo. 1218.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 は35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は8.4 万 /µl と減少していた

【はじめに】多発性骨髄腫の診断は形質細胞の腫瘍性増殖

とM蛋白の存在を証明することでなされる。しかし多発性

骨髄腫の約 3%に、骨髄中に形質細胞の腫瘍性増殖を認め

るにもかかわらず血清・尿中にM蛋白が検出されない非分

泌型が存在する。今回、病的骨折を繰り返した非分泌型多

発性骨髄腫の一例を経験したので報告する。

【症例】67 歳、女性。現病歴:2015年 1月胸背部痛出現。

4月に近医を受診し骨粗鬆症、胸椎圧迫骨折と診断。5月よ

り当院整形外科でフォローアップされていたが、9月から

2016年 1月までに腰椎圧迫骨折、肋骨骨折、胸骨骨折を指

摘された。1年間で 10kgの体重減少があり、吐き気と食欲

不振および胸背部痛が増強してきたため当院リウマチ科を

受診。生化学検査で低免疫グロブリン血症を認めたため血

液内科に紹介、入院となった。

【入院時検査所見】血液学検査:WBC 6.7×109/L,RBC

3.65×1012/L,Hb 12.2g/dL, PLT 267×109/L

生化学検査:TP 6.2g/dL, Alb 4.0 g/dL, BUN 21.4 mg/dL,

Cre 0.46 mg/dL,Ca 8.8mg/dL,血清β2-MG 3.4 mg/dL

IgG 440mg/dL, IgA 28 mg/dL,IgM 22mg/dL,血清 IFE法(-),

尿 IFE法(-),遊離L鎖κ/λ比 0.23  

【骨髄検査所見】NCC 12.1×104/μL, Megk 81/μL,

Plasma cells 59.6% 染色体検査:46,XX(20cells)

細胞表面マーカー (CD38ゲーティング):CD54+, CD56+,

CD138+, MPC-1+, cyλ-ch+

骨髄クロット免疫染色:CD138+, CD79+(一部), CD56+,

cyclinD1+,IgA+ 

【臨床経過】検査結果および臨床症状より非分泌型多発性

骨髄腫と診断され、レナリドミドとデキサメタゾンの併用

療法により寛解となり、現在外来にて経過観察中である。

【まとめ】本症例は正常免疫グロブリンが抑制されていた

ことが診断への契機となったが、血清総蛋白値がやや低下

していた以外に異常所見は認められず、非分泌型の早期診

断の難しさを痛感した。改めて多発性骨髄腫の病型・特徴

を認識するとともに、強い骨病変を認めた場合には本疾患

の可能性も視野に入れる必要があると思われる。

連絡先 024-925-1188 (内線 30303)

病的骨折を繰り返した非分泌型多発性骨髄腫の一例

◎中村 美雪 1)、座間 槙 1)、中村 拓磨 1)、坂内 沙耶佳 1)、服部 祐太 1)、見付 祐子 1)、五十嵐 典子 1)、白石 満 1)

一般財団法人 太田綜合病院附属太田西ノ内病院 1)

EntryNo. 74

【緒言】1988年の西岡らの報告以来、多発性骨髄腫(以下MM)に合併した高アンモニア血症の症例報告が散見される。今回我々は、急速に進行する意識障害と高アンモニア

血症を呈し、死の転帰を辿ったMMの一例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。

【症例】71歳、男性。【主訴】意識障害、歩行困難。

【現病歴】2005年から透析療法中である。2016年 1月、入浴時に失神・転倒し、それ以来急速に衰弱・認知症・歩行

困難が出現した。同年 2月、当院神経内科を受診し、その際に認知機能低下・歩行障害・羽ばたき振戦・高度の徐波

脳波・高 Ca血症を認めた。高 Ca血症を含む代謝性脳症が疑われ、腎臓・膠原病内科に紹介となった。

【既往歴】慢性腎不全、左腎臓癌。

【家族歴】特記事項なし。

【生活歴】2005年まで大酒家、喫煙歴なし。【血液検査所見】Hb 8.9g/dL、WBC 6,030/μL、PLT 9.2×104/μL、UN 25.9mg/dL、CRE 6.00mg/dL、TP 5.6g/dL、

ALB 3.8g/dL、IgG 665mg/dL、IgA 33mg/dL、IgM 25mg/dL、Ca 12.3mg/dLを認めた。【臨床経過】透析で血清 Ca値は低下したが、意識状態に著変なく、アンモニアを測定したところ 82μg/dLと高値を示し、第 4病日には 260µg/dLまで上昇した。画像検査で肝硬変や門脈-大循環シャントを認めなかったが、末梢血塗抹標本で形質細胞を 2.5%認めた。骨髄塗抹標本では形質細胞を 38.4%認め、FCMで細胞質内κ鎖 96.4%、細胞室内λ鎖 3.7%とモノクローナルな増殖を認めたため、MMと診断された。細胞質内 IgG・ IgA・ IgM・ IgDのいずれも陰性であり、血清免疫電気泳動でM蛋白とBence-Jones蛋白は検出されず、免疫固定法でも明らかなM蛋白は認めなかった。BD療法により、意識状態が一時的に改善したが、第 16病日に永眠された。【考察】他に原因を認めず、治療でアンモニア値が改善し

たためMMに起因した高アンモニア血症と考えられた。【結語】高アンモニア血症を伴ったMMの一例を経験した。

連絡先:0258-28-3600(内線 2307)

急速進行性の意識障害と高アンモニア血症を伴った多発性骨髄腫の一例

◎野中 拓 1)、鈴木 恵美 1)、丸山 直子 1)、酒井 由美子 1)、佐藤 麻実 1)、吉原 彩乃 1)、田中 勇気 1)、山田 隆 1)

長岡赤十字病院 1)

EntryNo. 12

【はじめに】Hepatocyte nuclear factor 4α(HNF4α) は内胚葉器官の分化に関わる転写因子で、選択的プロモーター

(P1、P2)の使用により異なるアイソフォームが生じる。これまでの検討では P1プロモーター由来のアイソフォームを認識する抗 HNF4α-P1抗体、P2プロモーター由来のアイソフォームを認識する抗 HNF4α-P2抗体を用いて正常組織におけるそれぞれの発現分布が確認されている。さらに腫

瘍組織で確認された発現パターンの変動は発癌過程に関与

している可能性も示唆されている。膵管内乳頭粘液性腫瘍

(IPMN )は膵管内に乳頭状増殖を特徴とする粘液産生性腫瘍で、良性(IPMA)から悪性(IPMC)、まで様々な段階を示す。発生機序は不明な点も多く「通常型膵癌」とは異な

る疾患群である。診断は ERCP等による膵液採取で IPMN の悪性度の判定を行い、治療へと反映させるが、細胞形態

での悪性度判定は時に困難である。そこで今回、IPMNにおける HNF4α-P1、P2の発現の変動の有無を確認し、悪性度との関連を検討した。

【方法】新潟大学医歯学総合病院で外科的切除された

IPMN 32例、膵管癌 15例 計 47例を対象とした。標本は型通りホルマリン固定パラフィン包埋切片で作製し抗

HNF4α-P1、抗 HNF4α-P2、抗MUC1、抗MUC2、抗 CDX-2、抗MUC5AC、抗MUC6を一次抗体とする免疫組織化学染色を行った。

【結果】HNF4α-P2は全ての症例において発現を確認した。一方、HNF4α-P1は IPMAに比して IPMCでの発現が高く、膵管癌においても高率に発現がみられた。

【考察】正常膵組織においては HNF4α-P2発現、HNF4α-P1非発現である。腫瘍化により HNF4α-P1、P2の発現変動が生じたと考えた。また、膵管癌および IPMCは IPMAより発現率が高いことから悪性度との関連が示唆された。

【結論】HNF4α-P1の発現の変化は IPMNにおいて悪性度への変化を示唆するものと考えた。

連絡先 025-227-0953

HNF4αの発現による膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN)の悪性度分類の検討

◎山田 健太郎 1)、大沼 睦 1)、宮下 真平 1)、宮ノ越 裕理 1)、岩渕 三哉 1)、須貝 美佳 1)

新潟大学医学部保健学科 検査技術科学専攻 1)

EntryNo. 139

[背景] TAFRO症候群とは 2010年高井らにより報告され, Thrombocytopenia(血小板減少症), Anasarca(全身浮腫, 胸腹水), Fever(発熱), Reticulin fibrosis(骨髄の細網繊維化, 骨髄巨核球増多), Organomegaly(臓器腫大, リンパ節腫大)を伴う全身炎症性疾患で, リンパ組織病理像は多中心性 Castleman病(MCD)と類似するが, 典型的なMCDとは臨床像が異なる.今回, TAFRO症候群の 2症例を経験したので報告する.[症例] 1例目は 30歳代男性. 20xx年 3月, 血小板減少, 不明熱の精査目的で紹介入院. CTで全身リンパ節腫脹, 胸腹水貯留, 下肢浮腫著明. 頸部リンパ節生検で形質細胞の浸潤と血管の増生を認め, MCD様の像を呈した. 骨髄は dry tapで, 骨髄生検にて骨髄巨核軽度増加, 軽度線維化を認めた. CRP13.31 mg/dlと炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6は 26.4pg/mlと高値. Hgb 8.4g/dlと貧血で, 血小板は 1.7万/µlと著明に減少していた. ステロイド, tocilizumabで反応せず. Cyclosporin A, ステロイドパルス療法を開始. 血小板と貧血が徐々に改善し 6月退院. 11月, 発熱, 下肢浮腫, 血小板減少が再燃し入院. ステロイドパルス療法と TPO受容体

作動薬を併用, 下肢浮腫消失, CRP陰性化, 血小板は改善傾向となり 12月退院. 以後外来にて経過観察. 2例目は 60歳代男性. 20xx年 3月, 発熱, CRP高値, 肝腫大, 肝障害を指摘され紹介入院. CTで全身リンパ節腫脹, 胸腹水貯留, 軽度肝脾腫を認め, 鼠径部リンパ節生検で形質細胞の浸潤と血管の増生を認め, MCD様の像を呈した. CRP18.87 mg/dlと炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6は 35.6 pg/mlと高値. Hgb 7.8 g/dlと貧血で, 血小板は 8.4万/µlと減少していた. ステロイドパルス療法を開始し, tocilizumab追加投与するも, 入院後急激に血小板減少が進行. 治療抵抗性で肺胞出血による呼吸不全で発症 43日目に死亡した. [考察] 2症例は高度の血小板減少が持続し, 著明な炎症反応や発熱, 貧血が見られた. リンパ節生検ではリンパ腫細胞の増殖は無く悪性リンパ腫は除外され, MCD様の像を呈した. IL-6が高値を示したが tocilizumabは無効であった. 同様症例を蓄積し臨床病理学的疾患単位としての検討とともに速

やかな診断と治療が必要と思われる. 連絡先 025-281-5151

TAFRO症候群の 2症例について

◎西澤 幹則 1)、小南 真由美 1)、塚田 彩実 1)、丸山 芽依 1)、加藤 由衣 1)、古田 美砂 1)、阿部 崇 2)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 25 110

109

Page 3: EntryNo. 1218.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 は35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は8.4 万 /µl と減少していた

【はじめに】ヒートショックプロテイン 72(HSP72)は様々なストレス負荷により血中濃度が増加する。様々な疾

患でも血中濃度が上昇し、血清 HSP72濃度が高い急性心筋梗塞患者の患者ほど冠動脈の血栓数が多く重症化すると報

告されている。しかし、この疾患における HSP72が増加する臨床的意義は不明な点が多い。心筋梗塞では血管内に形

成されたプラークの破綻がきっかけとなって血栓が形成さ

れる。この血栓形成には血小板凝集が大きく関与し、血小

板凝集を活性化する物質としてアデノシン二リン酸

(ADP)が知られている。本研究では、HSP72の血栓形成への関与を明らかにする目的で、ボランティア血漿に

ADPを添加する血小板凝集検査を行い、HSP72が血小板凝集に与える影響を検討したので報告する。

【方法】同意を得たボランティアの 3.8%クエン酸ナトリウム採血液から 800rpm,20分遠心し白血球含有多血小板血漿(PRP)を分取した。血小板凝集能測定装置はMCM HEMA TRACER 712を使用した。血小板活性化剤としてADP(Sigma-Aldrich社製)を用い、PRPに ADPを単独添

加した場合と ADPと共にリコンビナント HSP72(Enzo Life Sciences社製)を添加した場合を比較した。血小板凝集は、反応開始から 6分間の血小板最大凝集率として測定した。本研究は北里研究所病院倫理委員会の審査を得て実施した。

【結果】PRPに 10 µmol/L ADPを添加し血小板凝集が起こること確認した。添加する ADPを 1 μmol/Lと低濃度に設定し、HSP72 10 μg/mLで変化させたところ、1 μmol/LADP単独添加よりも血小板最大凝集率が増加した。しかし、HSP72 単独添加では血小板凝集は見られなかった。【結論】ボランティア血漿を用いた本研究において、

ADPと HSP72の共存により血小板凝集が促進した。血小板凝集が少ない低濃度(1 μmol/L)の ADP添加時でもHSP72が共存することで血小板凝集が増大した。このことから、低濃度の ADPが存在する状態で、血中 HSP72が増加すると血小板凝集が惹起され血栓形成が促進されるので

はないかと考えられる。

連絡先:025-779-4511

アデノシン二リン酸とヒートショックプロテイン 72の共存による血小板凝集への影響

ボランティア血漿を用いての検討

◎鎌田 裕 1)、樺沢 政也 1)、阿部 隼也 1)、小林 浩二 1)、五十嵐 康之 1)、笹岡 悠一 1)、小菅 優子 1)、鈴木 英明 1)

北里大学保健衛生専門学院 臨床検査技師養成科 1)

EntryNo. 137

[はじめに] 血栓性微小血管症(TMA)の基本的な病態は, 血小板主体の微小血栓形成, 細小動脈,毛細血管の内皮細胞障害である. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP), 溶血性尿毒症症候群(HUS), 非典型 HUS(aHUS)の他に, 二次性に発症するTMAがある. 交通外傷後の出血性ショックで輸血後, 急激な溶血性貧血と腎不全, 血小板減少が出現し, 破砕赤血球(RBCF)の著明な増加を認めた TMAの一例を経験したので報告する.[症例] 80歳代, 女性, 高血圧あり, 認知症なし. 入院当日, 交通外傷により骨盤骨折, 腹壁血腫, 頭部打撲血腫を認め, 動脈塞栓術施行. 出血性ショックで RBC6U, FFP 6U, PC10Uを輸血.不規則性抗体陰性, 直接クームス陰性であった. 輸血前の検査は Hb10.0g/dL, PLT19.3万/µL, LDH449IU/L, Cre0.89で FDPは 1073μg/mLと異常高値であった. 1日目, LDH1298IU/L, Cre2.36と上昇. PLT8.8万/µL (RBC干渉フラッグ有)減少し, 原因不明の溶血性貧血と腎不全が出現しほぼ無尿となる. 2日目, PLT13.0万/µL(RBC干渉フラッグ有)を示したが,

RBCFの混入のない ADVIA(二次元測定法)は PLT4.2万/µLと著減. 夜間休日対応で血小板数は本日まで偽高値を報告. ADAMTS13活性は 65.8%と低下なく, ADAMTS13インヒビター 0.5未満 BUで陰性. 透析を開始する.4日目, Hb6.4g/dL, PLT2.4万/µL, LDH2852IU/L, Cre5.34, RBCF28.8%と進行し, 多動不穏など神経症状が出現した. FDP37.3μg/mL, Fib302mg/mLで DICは終息傾向, CH50 39.9U/mLと正常, 血液培養陰性より aHUSは否定的であり, 急性 TMAと診断された. 血漿交換 5日間実施後, 血液検査所見は著明に改善, PLT13.6万/µL, LDH387IU/Lとなり, 無尿状態は脱した. 30日目には, PLT22.1万/µL, Cre1.05, RBCF1.4%と TMAは軽快, 退院となった. [まとめ] 本例は交通外傷で輸血後 RBCFが 28.8%と著増した重症な TMAであったが, 速やかな透析, 血漿交換が奏功し救命できた貴重な症例であった. 今回, 夜間休日での対応で, RBCFが血小板測定に影響を及ぼし, 偽高値での報告となったため, 職員全員に研修会を開催, RBC干渉フラッグ出現時の対応を周知徹底した.     連絡先(025)281-5151

交通外傷後に発症した血栓性微小血管症(TMA)の一例

◎加藤 由衣 1)、小南 真由美 1)、塚田 彩実 1)、石川 彩花 1)、丸山 芽依 1)、西澤 幹則 1)、古田 美砂 1)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 60

[背景]濾胞性リンパ腫(FL)の治療経過中に末梢血中に小型リンパ球で切れ込み,捻じれ,核膜不整で核異型の強い異常リンパ球が出現し,FLと成人 T細胞白血病(ATL)の同時発症と診断された症例を経験したので報告する.[症例]76歳女性 [主訴]両下肢の痺れ,脱力感 [既往歴]子宮筋腫 [現病歴]20xx年 8月両腋窩下に神経痛,11月歩行障害が出現.翌年 1月当院脳神経内科に精査入院.歩行困難,神経障害進行.CTで多発リンパ節腫大(左中咽頭,左頸部,左鼠径,前縦隔)を認め,LDH 358U/L,sIL-2R3120U/mLと高値より悪性リンパ腫を疑い左扁桃と左頚部腫瘤生検を施行.組織からは確定診断に至らず,左鼠径部リンパ節生検で FL grade3(CD20+,CD10+,BCL-2+),stageⅣAと診断され血液内科転科となる.R-TCOP療法,髄注MTX+AraC+sPSLを併用施行し,CTにて左扁桃腫大消失,左頚部リンパ節 85%以上縮小.移動可能となり捉まり立ち自立まで回復,脊髄病変残存.部分寛解であったが神経症状改善傾向となり 7月退院.外来受診時,異常リンパ球が 12%出現.sIL-2R 3085U/mLと上

昇し FLの再発が疑われた.しかし異常リンパ球の細胞形態は N/C比大,くびれや捻じれを有し,クロマチン濃度の増量,核膜不整が見られ成熟小リンパ球様であり,末梢血 FCMでは CD2:97.4%,CD3:92.6%,CD5:93.1%,CD25:20.4%,CD4:85.6%,CD8:10.5%と CD4優位の Tリンパ球が主体であった.8月の入院時検査で HTLV-1抗体陽性,末梢血 CCR4蛋白FCM陽性,HTLV-1プロウイルス DNAサザンブロット陽性であり,初診時の左扁桃生検組織の追加染色で CCR4蛋白の陽性より ATLと診断された.モガムリズマブ投与開始し,2回投与後には ATL細胞は消失し下肢の痺れも改善された. 9月退院,外来で治療継続し 8回まで終了,以後経過観察となる.[まとめ]本症例は FL治療中に ATLを発症した極めて稀な症例と思われた.経過より FLと ATLの同時発症で R-TCOP 治療により抵抗性の ATL細胞が耐性を獲得し出現したと思われる.日常検査で鏡検による正確な ATL細胞の検出は診断・治療効果の判定に重要であると思われた.                 連絡先 025-281-5151

濾胞性リンパ腫と成人 T細胞白血病を同時発症した一例

◎古田 美砂 1)、小南 真由美 1)、石川 彩花 1)、丸山 芽依 1)、加藤 由衣 1)、西澤 幹則 1)、阿部 崇 2)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 19

【はじめに】ATLは HTLV-1感染によって引き起こされ,flower cellを特徴とする白血病である.今回我々は,高HTLV-1抗体価と flower cell様細胞 が出現し ATLとの判定に苦慮した PTCL(末梢性 T細胞リンパ腫)を経験したので報告する.【症例】80歳 男性.2015年 12月頃より体幹部と四肢に痒みを伴う発赤疹が出現したため前医受診入院

し,全身の表在リンパ節腫脹(+),sIL-2R 28400 U/mLと高値のため前医にてリンパ節生検を実施.その病理検査に

て PTCL-NOSの診断を受け,加療目的で当院,血液内科に紹介となった.【初診時検査所見】WBC 6900/μL(Neut 94%,Eo 2%,Mo 2%,Ly 1%,flower cell様 1%),Hgb 13.9g/dL, PLT 20万/μL.AST 36 IU/L,ALT 24 IU/L, ALP 589 IU/L, LDH 289 IU/L,Ca 8.5 mg/dL,sIL-2R 22806U/mL.【経過】当日,末梢血に少ないながら flower cell様細胞がみられ,sIL-2R異常高値であり,ATL が疑われ HTLV-1抗体検査が実施され,8192倍と高値であった.当院の病理検査においては,PTCL-NOSと診断され CHOP療法を開始.治療開始 7日目の末梢血からは,flower cell様細

胞は見られなくなった.HTLV-1 DNA検査及び CCR4検査結果は共に陰性であり,ATLではなく,HTLV-1キャリアとされた.現在では,5コース目の CHOP療法が開始されており経過も良好,CT検査においても腫脹リンパ節の縮小を認めている.【考察】HTLV-1抗体が陽性,末梢へのflower cellが出現すれば通常 ATLと診断される.しかし,希に HTLV-1抗体が陽性でありながら,ATLではない成熟型 T細胞リンパ腫が存在することがある.ATLと確定するには,その腫瘍細胞中に HTLV-1が証明されなければならない.本症例では,臨床像が HTLV-1抗体を保有し,flower cell様細胞を認めたが,HTLV-1 DNA陰性,CCR4検査が陰性であり,その他の検査所見や病理学的検査から,

HTLV-1 キャリアの PTCLとされた.【まとめ】本症例のように HTLV-1抗体を保有し,flower cell様細胞がみられたが HTLV-1 DNAは陰性と ATLではない成熟型 T細胞リンパ腫も存在する.日常の検査を行うにあたり,疾患関連検

査の選択及び結果を十分吟味し,総合的に判断していくこ

とが重要だと思われた.連絡先 0242-75-2100(内線 1116)

高 HTLV-1抗体価と flower cell様細胞が出現し ATLとの判定に苦慮した PTCLの 1症例

◎志賀 永一 1)、鈴木 沙織 1)、渡部 文彦 1)、渡部 和也 1)、芳賀 徹 1)、平野 常邦 1)

公立大学法人 福島県立医科大学会津医療センター 1)

EntryNo. 8

112

111

Page 4: EntryNo. 1218.87 mg/dl と炎症反応が強く, 免疫グロブリンは正常, IL-6 は35.6 pg/ml と高値. Hgb 7.8 g/dl と貧血で, 血小板は8.4 万 /µl と減少していた

【はじめに】ヒートショックプロテイン 72(HSP72)は様々なストレス負荷により血中濃度が増加する。様々な疾

患でも血中濃度が上昇し、血清 HSP72濃度が高い急性心筋梗塞患者の患者ほど冠動脈の血栓数が多く重症化すると報

告されている。しかし、この疾患における HSP72が増加する臨床的意義は不明な点が多い。心筋梗塞では血管内に形

成されたプラークの破綻がきっかけとなって血栓が形成さ

れる。この血栓形成には血小板凝集が大きく関与し、血小

板凝集を活性化する物質としてアデノシン二リン酸

(ADP)が知られている。本研究では、HSP72の血栓形成への関与を明らかにする目的で、ボランティア血漿に

ADPを添加する血小板凝集検査を行い、HSP72が血小板凝集に与える影響を検討したので報告する。

【方法】同意を得たボランティアの 3.8%クエン酸ナトリウム採血液から 800rpm,20分遠心し白血球含有多血小板血漿(PRP)を分取した。血小板凝集能測定装置はMCM HEMA TRACER 712を使用した。血小板活性化剤としてADP(Sigma-Aldrich社製)を用い、PRPに ADPを単独添

加した場合と ADPと共にリコンビナント HSP72(Enzo Life Sciences社製)を添加した場合を比較した。血小板凝集は、反応開始から 6分間の血小板最大凝集率として測定した。本研究は北里研究所病院倫理委員会の審査を得て実施した。

【結果】PRPに 10 µmol/L ADPを添加し血小板凝集が起こること確認した。添加する ADPを 1 μmol/Lと低濃度に設定し、HSP72 10 μg/mLで変化させたところ、1 μmol/L ADP単独添加よりも血小板最大凝集率が増加した。しかし、HSP72 単独添加では血小板凝集は見られなかった。【結論】ボランティア血漿を用いた本研究において、

ADPと HSP72の共存により血小板凝集が促進した。血小板凝集が少ない低濃度(1 μmol/L)の ADP添加時でもHSP72が共存することで血小板凝集が増大した。このことから、低濃度の ADPが存在する状態で、血中 HSP72が増加すると血小板凝集が惹起され血栓形成が促進されるので

はないかと考えられる。

連絡先:025-779-4511

アデノシン二リン酸とヒートショックプロテイン 72の共存による血小板凝集への影響

ボランティア血漿を用いての検討

◎鎌田 裕 1)、樺沢 政也 1)、阿部 隼也 1)、小林 浩二 1)、五十嵐 康之 1)、笹岡 悠一 1)、小菅 優子 1)、鈴木 英明 1)

北里大学保健衛生専門学院 臨床検査技師養成科 1)

EntryNo. 137

[はじめに] 血栓性微小血管症(TMA)の基本的な病態は, 血小板主体の微小血栓形成, 細小動脈,毛細血管の内皮細胞障害である. 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP), 溶血性尿毒症症候群(HUS), 非典型 HUS(aHUS)の他に, 二次性に発症するTMAがある. 交通外傷後の出血性ショックで輸血後, 急激な溶血性貧血と腎不全, 血小板減少が出現し, 破砕赤血球(RBCF)の著明な増加を認めた TMAの一例を経験したので報告する.[症例] 80歳代, 女性, 高血圧あり, 認知症なし. 入院当日, 交通外傷により骨盤骨折, 腹壁血腫, 頭部打撲血腫を認め, 動脈塞栓術施行. 出血性ショックで RBC6U, FFP 6U, PC10Uを輸血.不規則性抗体陰性, 直接クームス陰性であった. 輸血前の検査は Hb10.0g/dL, PLT19.3万/µL, LDH 449IU/L, Cre0.89で FDPは 1073μg/mLと異常高値であった. 1日目, LDH1298IU/L, Cre2.36と上昇. PLT8.8万/µL (RBC干渉フラッグ有)減少し, 原因不明の溶血性貧血と腎不全が出現しほぼ無尿となる. 2日目, PLT13.0万/µL(RBC干渉フラッグ有)を示したが,

RBCFの混入のない ADVIA(二次元測定法)は PLT4.2万/µL と著減. 夜間休日対応で血小板数は本日まで偽高値を報告. ADAMTS13活性は 65.8%と低下なく, ADAMTS13インヒビター 0.5未満 BUで陰性. 透析を開始する.4日目, Hb6.4g/dL, PLT2.4万/µL, LDH2852IU/L, Cre5.34, RBCF28.8%と進行し, 多動不穏など神経症状が出現した. FDP37.3μg/mL, Fib302mg/mLで DICは終息傾向, CH50 39.9 U/mLと正常, 血液培養陰性より aHUSは否定的であり, 急性 TMAと診断された. 血漿交換 5日間実施後, 血液検査所見は著明に改善, PLT13.6万/µL, LDH387IU/Lとなり, 無尿状態は脱した. 30日目には, PLT22.1万/µL, Cre1.05, RBCF1.4 %と TMAは軽快, 退院となった. [まとめ] 本例は交通外傷で輸血後 RBCFが 28.8%と著増した重症な TMAであったが, 速やかな透析, 血漿交換が奏功し救命できた貴重な症例であった. 今回, 夜間休日での対応で, RBCFが血小板測定に影響を及ぼし, 偽高値での報告となったため, 職員全員に研修会を開催, RBC干渉フラッグ出現時の対応を周知徹底した.     連絡先(025)281-5151

交通外傷後に発症した血栓性微小血管症(TMA)の一例

◎加藤 由衣 1)、小南 真由美 1)、塚田 彩実 1)、石川 彩花 1)、丸山 芽依 1)、西澤 幹則 1)、古田 美砂 1)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 60

[背景]濾胞性リンパ腫(FL)の治療経過中に末梢血中に小型リンパ球で切れ込み,捻じれ,核膜不整で核異型の強い異常リンパ球が出現し,FLと成人 T細胞白血病(ATL)の同時発症と診断された症例を経験したので報告する.[症例]76歳女性 [主訴]両下肢の痺れ,脱力感[既往歴]子宮筋腫 [現病歴]20xx年 8月両腋窩下に神経痛,11月歩行障害が出現.翌年 1月当院脳神経内科に精査入院.歩行困難,神経障害進行.CTで多発リンパ節腫大(左中咽頭,左頸部,左鼠径,前縦隔)を認め,LDH 358U/L,sIL-2R3120U/mLと高値より悪性リンパ腫を疑い左扁桃と左頚部腫瘤生検を施行.組織からは確定診断に至らず,左鼠径部リンパ節生検で FL grade3(CD20+,CD10+,BCL-2+),stageⅣAと診断され血液内科転科となる.R-TCOP療法,髄注MTX+AraC+sPSLを併用施行し,CTにて左扁桃腫大消失,左頚部リンパ節 85%以上縮小.移動可能となり捉まり立ち自立まで回復,脊髄病変残存.部分寛解であったが神経症状改善傾向となり 7月退院.外来受診時,異常リンパ球が 12%出現.sIL-2R 3085U/mLと上

昇し FLの再発が疑われた.しかし異常リンパ球の細胞形態は N/C比大,くびれや捻じれを有し,クロマチン濃度の増量,核膜不整が見られ成熟小リンパ球様であり,末梢血 FCMでは CD2:97.4%,CD3:92.6%,CD5:93.1%,CD25:20.4%,CD4:85.6%,CD8:10.5%と CD4優位の Tリンパ球が主体であった.8月の入院時検査で HTLV-1抗体陽性,末梢血 CCR4蛋白FCM陽性,HTLV-1プロウイルス DNAサザンブロット陽性であり,初診時の左扁桃生検組織の追加染色で CCR4蛋白の陽性より ATLと診断された.モガムリズマブ投与開始し,2回投与後には ATL細胞は消失し下肢の痺れも改善された. 9月退院,外来で治療継続し 8回まで終了,以後経過観察となる.[まとめ]本症例は FL治療中に ATLを発症した極めて稀な症例と思われた.経過より FLと ATLの同時発症で R-TCOP治療により抵抗性の ATL細胞が耐性を獲得し出現したと思われる.日常検査で鏡検による正確な ATL細胞の検出は診断・治療効果の判定に重要であると思われた.                 連絡先 025-281-5151

濾胞性リンパ腫と成人 T細胞白血病を同時発症した一例

◎古田 美砂 1)、小南 真由美 1)、石川 彩花 1)、丸山 芽依 1)、加藤 由衣 1)、西澤 幹則 1)、阿部 崇 2)、高井 和江 2)

新潟市民病院臨床検査科 1)、新潟市民病院血液内科 2)

EntryNo. 19

【はじめに】ATLは HTLV-1感染によって引き起こされ,flower cellを特徴とする白血病である.今回我々は,高HTLV-1抗体価と flower cell様細胞 が出現し ATLとの判定に苦慮した PTCL(末梢性 T細胞リンパ腫)を経験したので報告する.【症例】80歳 男性.2015年 12月頃より体幹部と四肢に痒みを伴う発赤疹が出現したため前医受診入院

し,全身の表在リンパ節腫脹(+),sIL-2R 28400 U/mLと高値のため前医にてリンパ節生検を実施.その病理検査に

て PTCL-NOSの診断を受け,加療目的で当院,血液内科に紹介となった.【初診時検査所見】WBC 6900/μL(Neut94%,Eo 2%,Mo 2%,Ly 1%,flower cell様 1%),Hgb 13.9g/dL, PLT 20万/μL.AST 36 IU/L,ALT 24 IU/L,ALP 589 IU/L, LDH 289 IU/L,Ca 8.5 mg/dL,sIL-2R22806U/mL.【経過】当日,末梢血に少ないながら flower cell様細胞がみられ,sIL-2R異常高値であり,ATL が疑われ HTLV-1抗体検査が実施され,8192倍と高値であった.当院の病理検査においては,PTCL-NOSと診断され CHOP療法を開始.治療開始 7日目の末梢血からは,flower cell様細

胞は見られなくなった.HTLV-1 DNA検査及び CCR4検査結果は共に陰性であり,ATLではなく,HTLV-1キャリアとされた.現在では,5コース目の CHOP療法が開始されており経過も良好,CT検査においても腫脹リンパ節の縮小を認めている.【考察】HTLV-1抗体が陽性,末梢へのflower cellが出現すれば通常 ATLと診断される.しかし,希に HTLV-1抗体が陽性でありながら,ATLではない成熟型 T細胞リンパ腫が存在することがある.ATLと確定するには,その腫瘍細胞中に HTLV-1が証明されなければならない.本症例では,臨床像が HTLV-1抗体を保有し,flower cell様細胞を認めたが,HTLV-1 DNA陰性,CCR4検査が陰性であり,その他の検査所見や病理学的検査から,

HTLV-1 キャリアの PTCLとされた.【まとめ】本症例のように HTLV-1抗体を保有し,flower cell様細胞がみられたが HTLV-1 DNAは陰性と ATLではない成熟型 T細胞リンパ腫も存在する.日常の検査を行うにあたり,疾患関連検

査の選択及び結果を十分吟味し,総合的に判断していくこ

とが重要だと思われた.連絡先 0242-75-2100(内線 1116)

高 HTLV-1抗体価と flower cell様細胞が出現し ATLとの判定に苦慮した PTCLの 1症例

◎志賀 永一 1)、鈴木 沙織 1)、渡部 文彦 1)、渡部 和也 1)、芳賀 徹 1)、平野 常邦 1)

公立大学法人 福島県立医科大学会津医療センター 1)

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