4
【はじめに】血液型を決定する赤血球抗原は白血病や骨髄 異形成症候群などの疾患で一過性に抗原性が減弱すること が知られている。特に急性骨髄性白血病(以下 AML)にお ける報告では、治療後、患者本来の血液型に回復すること が多い。今回、我々は AML と診断された患者で抗 A 血清 との反応にフリーセルが認められ、疾患による A 抗原の減 弱と思われる症例を経験したので報告する。 【症例】68 歳女性、H27 10 月より頸椎偽痛風で当院整 形外科通院中、血液検査で異常を指摘され当院内科に紹介 となる。紹介時の検査では WBC9660/μLst1%seg9%lym69%mo18.5%)、HGB12.0g/dLPLT11.5×10/μLLDH242 IU/LCRP0.24mg/dLABO 血液型検査(試験管法、 スライド法)でオモテ試験抗 A(4+mf)、抗 B(0)、ウラ試験 A1 血球(0)B 血球(4+)となり、オモテ・ウラ不一致となっ た。RhD 陽性、不規則抗体検査陰性。カラム凝集法(Auto Vue Innova)では通常の A 型の判定であった。骨髄検査の 結果では NCC17.5×10/μLMGK15.0/μL 、芽球 75.4%、 ペルキシダーゼ陽性で AMLFAB 分類 M2 と診断された。 以上より、オモテ試験のフリーセルは AML による抗原性 の減弱によるものと考えられた。 【追加検査】レクチンとの反応は抗 A1 レクチン(1+)、抗 H レクチン(+)で共に低下している。A 型転移酵素活性は 64 倍(陽性対照 256 倍)と低下していた。FCM による抗 原解析の結果では、ABH 抗原が減弱した際に観察される陰 性領域と陽性領域にピークを認め、連続性のあるヒストグ ラムパターンが観察された。 【まとめ】今回の症例では血液型検査において試験管法と カラム凝集法で乖離がみられた。使用した Bio Vue ABD セットには反応増強剤が添加されている。通常は試験管法 に比較して 23 管強く反応するため、非常に弱い反応でも 検出ができる。しかし、今回のような極わずかなフリーセ ルは捉えることができなかった。現在、血液型検査を行っ ている 50%以上の施設で全自動輸血検査装置が使われるよ うになっているが、輸血検査時には疾患も考慮して検査法 を選択する必要があると考えられた。 連絡先 0186-52-3131(内線 2640) A 長岐 ゆい 1) 、田畑 由美 1) 、村上 春樹 1) 、河村 義雄 1) 独立行政法人 労働者健康安全機構 秋田労災病院 1) 【目的】ABO 血液型検査で異常反応を認めた場合、血液型や輸 血製剤決定のため様々な血清学的検査を行う必要がある。一 方、ABO 亜型に関する遺伝子異常が解明されてきたことによっ て、近年では補助的な検査として遺伝子解析も行われてきて いる。今回、血清学的検査で AB 亜型と判定された患者に対し て遺伝子検査を行い、稀な cisAB 型と同定された一例を報告 する。 【対象および方法】対象は 70 歳代、男性。膀胱がん手術のた め当院入院。ABO 式血液型は全自動輸血検査装置 AutoVue innova(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社) によるカラム凝集法と各種オモテ試験用とウラ試験用試薬を 用いた試験管法で判定した。追加検査は、各種レクチンとの 反応、抗 A および抗 B 被凝集価、血中糖転移酵素活性測定を 行った。遺伝子検査は、患者全血より抽出した DNA を用いて、 血液型転移酵素遺伝子 Exon6Exon7 をターゲットに PCR 法お よびダイレクトシークエンス法で解析した。 【結果】1.血清学的検査成績:オモテ検査は、カラム凝集法 で抗 A(4+)、抗 B(1+)であったが、試験管法を行ったところ抗 A(4+)、抗 B(mf)と判定された。ウラ検査は、カラム凝集法で A1 赤血球(0)B 赤血球(0)、試験管法では A1 赤血球(0)B 血球(w+)となった。また、抗 A1 レクチン(0)、抗 H レクチン (4+)で、抗 A 被凝集価は 128 倍、抗 B 被凝集価は2倍(対照 はそれぞれ 1,024 倍、512 倍)と低く、A 型および B 型糖転移 酵素活性はいずれも検出感度以下であった。以上、B の抗原性 が減弱していること、抗 A1 レクチンとの反応がないこと、転 移酵素活性が認められないことから AB 亜型を疑った。2.伝子検査成績:PCR 法によって O 型遺伝子特有の 261delG が確 認されたため、シークエンス解析を行った。その結果、 O02 cisAB01 の遺伝子を保有していることが示唆された。 【結語】血清学的検査で AB 亜型と判定された患者に遺伝子検 査を行ったところ、cisAB 型に特有の遺伝子配列を認めた。遺 伝子検査は、血清学的検査に加えることで有用な検査となる ことが確認された。 連絡先:011-611-2111(内線 3641cisAB 村井 良精 1) 、遠藤 輝夫 1) 、盛合 美加子 1) 、品川 雅明 1) 、東 恭悟 2) 、浅沼 康一 1) 、高橋 1) 札幌医科大学附属病院 検査部 1) 、同 病理部 2) 14 13

EntryNo. 89 13 EntryNo. 43HbA1cで、加えて男性ではTC、LDL-C、AST、ALT、 γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、 有意差のある項目に若干の違いがみられ、40

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Page 1: EntryNo. 89 13 EntryNo. 43HbA1cで、加えて男性ではTC、LDL-C、AST、ALT、 γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、 有意差のある項目に若干の違いがみられ、40

【はじめに】血液型を決定する赤血球抗原は白血病や骨髄

異形成症候群などの疾患で一過性に抗原性が減弱すること

が知られている。特に急性骨髄性白血病(以下 AML)における報告では、治療後、患者本来の血液型に回復すること

が多い。今回、我々は AMLと診断された患者で抗 A血清との反応にフリーセルが認められ、疾患による A抗原の減弱と思われる症例を経験したので報告する。

【症例】68歳女性、H27年 10月より頸椎偽痛風で当院整形外科通院中、血液検査で異常を指摘され当院内科に紹介

となる。紹介時の検査ではWBC9660/μL(st1%、seg9%、 lym69%、mo18.5%)、HGB12.0g/dL、PLT11.5×10⁴/μL、LDH242 IU/L、CRP0.24mg/dL、ABO血液型検査(試験管法、スライド法)でオモテ試験抗 A(4+mf)、抗 B(0)、ウラ試験A1血球(0)、B血球(4+)となり、オモテ・ウラ不一致となった。RhD陽性、不規則抗体検査陰性。カラム凝集法(Auto Vue Innova)では通常の A型の判定であった。骨髄検査の結果では NCC17.5×10⁴/μL、MGK15.0/μL 、芽球 75.4%、ペルキシダーゼ陽性で AML、FAB分類M2と診断された。

以上より、オモテ試験のフリーセルは AMLによる抗原性の減弱によるものと考えられた。

【追加検査】レクチンとの反応は抗 A1レクチン(1+)、抗Hレクチン(w+)で共に低下している。A型転移酵素活性は64倍(陽性対照 256倍)と低下していた。FCMによる抗原解析の結果では、ABH抗原が減弱した際に観察される陰性領域と陽性領域にピークを認め、連続性のあるヒストグ

ラムパターンが観察された。

【まとめ】今回の症例では血液型検査において試験管法と

カラム凝集法で乖離がみられた。使用した Bio Vue ABDカセットには反応増強剤が添加されている。通常は試験管法

に比較して 2~3管強く反応するため、非常に弱い反応でも検出ができる。しかし、今回のような極わずかなフリーセ

ルは捉えることができなかった。現在、血液型検査を行っ

ている 50%以上の施設で全自動輸血検査装置が使われるようになっているが、輸血検査時には疾患も考慮して検査法

を選択する必要があると考えられた。

連絡先 0186-52-3131(内線 2640)

A抗原に減弱を認めた急性骨髄性白血病の一症例

◎長岐 ゆい 1)、田畑 由美 1)、村上 春樹 1)、河村 義雄 1)

独立行政法人 労働者健康安全機構 秋田労災病院 1)

EntryNo. 37

【目的】ABO 血液型検査で異常反応を認めた場合、血液型や輸

血製剤決定のため様々な血清学的検査を行う必要がある。一

方、ABO亜型に関する遺伝子異常が解明されてきたことによっ

て、近年では補助的な検査として遺伝子解析も行われてきて

いる。今回、血清学的検査で AB亜型と判定された患者に対し

て遺伝子検査を行い、稀な cisAB型と同定された一例を報告

する。

【対象および方法】対象は 70歳代、男性。膀胱がん手術のた

め当院入院。ABO式血液型は全自動輸血検査装置 AutoVue

innova(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス社)

によるカラム凝集法と各種オモテ試験用とウラ試験用試薬を

用いた試験管法で判定した。追加検査は、各種レクチンとの

反応、抗 Aおよび抗 B被凝集価、血中糖転移酵素活性測定を

行った。遺伝子検査は、患者全血より抽出した DNAを用いて、

血液型転移酵素遺伝子 Exon6、Exon7をターゲットに PCR法お

よびダイレクトシークエンス法で解析した。

【結果】1.血清学的検査成績:オモテ検査は、カラム凝集法

で抗 A(4+)、抗 B(1+)であったが、試験管法を行ったところ抗

A(4+)、抗 B(mf)と判定された。ウラ検査は、カラム凝集法で

A1赤血球(0)、B赤血球(0)、試験管法では A1赤血球(0)、B赤

血球(w+)となった。また、抗 A1レクチン(0)、抗 Hレクチン

(4+)で、抗 A被凝集価は 128倍、抗 B被凝集価は2倍(対照

はそれぞれ 1,024倍、512倍)と低く、A型および B型糖転移

酵素活性はいずれも検出感度以下であった。以上、Bの抗原性

が減弱していること、抗 A1レクチンとの反応がないこと、転

移酵素活性が認められないことから AB亜型を疑った。2.遺

伝子検査成績:PCR法によって O型遺伝子特有の 261delGが確

認されたため、シークエンス解析を行った。その結果、

O02と cisAB01の遺伝子を保有していることが示唆された。

【結語】血清学的検査で AB亜型と判定された患者に遺伝子検

査を行ったところ、cisAB型に特有の遺伝子配列を認めた。遺

伝子検査は、血清学的検査に加えることで有用な検査となる

ことが確認された。

           連絡先:011-611-2111(内線 3641)

血液型亜型患者に対し遺伝子検査を行い cisAB型と同定された一例について

◎村井 良精 1)、遠藤 輝夫 1)、盛合 美加子 1)、品川 雅明 1)、東 恭悟 2)、浅沼 康一 1)、高橋 聡 1)

札幌医科大学附属病院 検査部 1)、同 病理部 2)

EntryNo. 89

【はじめに】慢性肝疾患における肝臓の硬さの評価として、

せん断波を用いた shear wave elastography(SWE)、Virtual Touch Quantification(VTQ)、Transient elastography(Fibro Scan )などによる肝硬度測定が多くの施設で行われるようになってきた。当院でも昨年 6月の開院以降、消化器内科医師の指導の下、肝硬度測定を行ってきた。全国的に肝硬度測定

は広まりつつあるが、新潟県内にて肝硬度測定を行ってい

る施設はまだ少ない。今回は当院の肝硬度測定の方法と現

在までの結果、及び今後の課題について紹介する。

【検査方法】超音波装置は東芝社製 Aplio500(ver.6.0)。使用プローブはコンベックス型(周波数 3.5Mhz)を使用。SWEの測定法は、仰臥位にて後区域・前区域・内側区域・外側区

域を描出。各部位で 3カ所を計測し、計 12カ所の中央値をとる。体位やうっ血により計測値に変化があるのか比較す

るため左側臥位にても同様に 12カ所の計測を行い、下大静脈径も計測する。

【報告方法】当院では腹部超音波のレポートと共に肝硬度

レポートを作成している。検査後は計測した計 24カ所の値

を入力する。各部位の中央値や肝臓全体の中央値などは自

動で計算される。年齢と今までのデータに基づいた線維化

の基準値から、慢性肝疾患における肝細胞癌の発癌リスク

が求められ、検査結果として電子カルテの端末で確認する

ことができる。

【計測結果】平成 27年 6月 1日から平成 28年 5月 31日までで腹部超音波検査を受けた総数 481人。その中でウイルス性肝疾患(慢性肝炎・肝硬変)、NAFLD、その他(自己免疫性の肝障害など)で肝硬度を計測した人数 221人(男性121人、女性 100人)。現在までの結果については当日供覧したい。

【まとめ】SWEを用いた肝硬度測定は慢性肝疾患患者の肝線維化の評価に有用である。腹部超音波検査時に行える

SWEでの肝硬度測定は肝生検などに比べて低侵襲であり、簡便で繰り返し計測できる利点がある。肝硬度測定につい

ては現在研究段階であり、測定条件やエビデンスの確立の

ためさらなる検討と症例数が必要となる。

【連絡先】0257773200

当院における肝硬度測定について

◎瀧澤 瑠美 1)、柳沢 悦子 1)、湯本 裕美 1)、松川 沙織 1)、柳 真奈美 1)、渡邊 萌 1)、丸山 奈穂 1)、小林 弓夏 1)

新潟大学地域医療教育センター 魚沼基幹病院 1)

EntryNo. 119

〔目的〕

2015年度の一年間に行った当院人間ドック受診者の腹部超音波検査において、脂肪肝の有所見率が最も高いことが

分かった。脂肪肝は肥満や脂質・糖質の過剰摂取、過度の

飲酒などが原因といわれている。そこで、脂肪肝群と非脂

肪肝群において、肥満関連因子や生化学データ、飲酒習慣

について比較検討を行った。

〔対象・方法〕

対象は、2015年 4月 1日から 2016年 3月 31日までに、当院の人間ドックにて腹部超音波検査を受診した 344名(男性 226名、女性 118名)。脂肪肝群(男性 127名、女性 44名)と非脂肪肝群(男性 99名、女性 74名)の検査値について、男女別に統計処理を行った。数値データは、マ

ンホイットニーのU検定を用い P<0.05を有意差ありとした。 脂肪肝と飲酒習慣の関係については、問診から得られた

「時々・毎日飲む」飲酒群と「ほとんど飲まない」非飲酒

群について、カイ二乗検定にて統計処理を行い、P<0.05を有意差ありとした。

〔成績・結果〕

男女とも肥満度、BMI、腹囲、TG、HDL-C、LDL/HDL、HbA1cで、加えて男性では TC、LDL-C、AST、ALT、γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、有意差のある項目に若干の違いがみられ、40代 50代の男性で TG、AST、ALT、γGTPの有意差が認めらず、30代女性ではすべての項目で有意差が認められなかった。

飲酒習慣では、男性の脂肪肝群で有意差がみられた。

〔結語〕

脂肪肝群では、男女とも肥満、脂質、糖代謝に関連があ

ることが分かり、男性では肝機能、飲酒習慣との関連も認

められた。しかし、男女別年代別の解析では、すべてに有

意差が認められるわけではなく、数値に表れない脂肪肝の

存在が示唆された。脂肪肝の中には、病的意義の高いもの

もあり、数値に表れず自覚症状に乏しい「隠れ肥満」を腹

部超音波検査により早期に検出することは、異常値が出る

前に対策を促す積極的な保健指導に役立つと考える。

連絡先:0256-52-0701 (内線)330

当院人間ドックにおける脂肪肝とその関連検査についての検討

かもドックから第二報

◎石附 淑代 1)、諸橋 頼江 1)、芳賀 博子 1)

新潟県立加茂病院 1)

EntryNo. 43

14

13

Page 2: EntryNo. 89 13 EntryNo. 43HbA1cで、加えて男性ではTC、LDL-C、AST、ALT、 γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、 有意差のある項目に若干の違いがみられ、40

【目的】赤血球型検査ガイドラインでは、酵素法のみで検

出される抗体は臨床的意義の低い抗体と考えられている。

また、酵素法は初期の Rh系抗体、Lewis抗原に対する抗体の検出感度が高いが、非特異的反応も多い。今回、当院に

おける不規則抗体検出状況を検査方法別に調査し、酵素法

の臨床的意義ついて検討した。【対象・方法】2013年 9月~2016年 3月の期間に不規則抗体検査を実施した 24507件を対象とした。検査方法はカラム凝集法を用い、LISS間接抗グロブリン試験(IAT)とフィシン 2段法(Ficin法)で行った。検討内容は①抗体検出率、非特異的反応検出率、②抗体の

性状について検討した。【結果】①抗体が同定できたのは

588件で、検出率は 2.4%であった。非特異的反応は 560件で、うち 516件は酵素法でみられ全体の 2.1%であった。②特異性が同定できた 588件(326人)について実人数で抗体の検出状況を検討した。IAT(IATと Ficin法で検出された抗体を含む)に陽性は 54.9%(179/326)であった。内訳は抗Rh系 50.8%、抗M14.5%、抗 Dia8.4%、抗 Lewis系 7.8%、抗 Duffy系 5.6%、抗 Kidd系 4.5%、その他 8.4%であった。

一方 Ficin法のみ陽性は 45.1%(147/326)であった。内訳は抗Lewis系 59.2%、抗 Rh系 36.0%、抗 P1が 4.8%であった。Ficin法のみ陽性の抗 Rh系では、その後 IAT陽性が 8件、Ficin法のみ持続して陽性が 12件、感度以下が 16件、検査依頼無しが 17件であった。Ficin法のみ持続して陽性を示した 12件中 5件は PEG間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)陽性であった。【考察】今回の検討で臨床的意義のある抗体

は IATで検出できていた。Ficin法のみで同定された不規則抗体の 6割以上は臨床的意義の低い抗体であり、非特異的反応も多いことが確認できた。また、Ficin法のみで検出された抗 Rh系の多くは IAT陽性に移行しなかった。このことから、酵素法を省略することは可能で精査にかかる時間

とコストの削減につながると考える。しかし、少数ではあ

るが IAT陽性に移行した抗体、PEG-IATで陽性になった抗体もあることから、溶血性輸血副作用を見逃さないために、

交差適合試験は 3日以内に採血された検体で、PEG-IATのような高感度な方法で行う必要がある。

[連絡先]024-925-1188(内線 30332)

不規則抗体検査における酵素法の臨床的意義について

◎根本 円 1)、渡辺 隆幸 1)、神山 龍之介 1)、星 雅子 1)、大澤 裕美 1)、橋本 はるみ 1)、石井 佳代子 1)、白石 満 1)

一般財団法人 太田綜合病院附属太田西ノ内病院 1)

EntryNo. 72

【はじめに】Kell系抗原は免疫原性が高く、欧米において抗 Kは溶血性輸血副作用や胎児新生児溶血性疾患の原因として報告が多く、ABO/Rhに次いで重要な抗原系とされている。一方日本人においては 100%が kk型であることから、K抗原による免疫の機会は皆無に等しく、抗 K検出率は低い。今回、血管免疫性芽球性リンパ腫(以後 AITL)患者から抗 Kが同定された症例を経験したので報告する。【症例】68歳男性。#1.悪性リンパ腫疑い#2.不明熱#3. CO PDにて当院内科に紹介。既往歴は肝内結石切除術、肺気腫、甲状腺

腫、複数回のイレウス。【検査結果】初回検査:ABO血液型オモテ検査:抗 A(0)抗 B(4+)。ウラ検査:A1赤血球(3+)B赤血球(1+)。オモテ・ウラ不一致のため精査。ウラ検査の加温により、オモテ・ウラ一致 B型と判定。直接抗グロブリン試験(以後 DAT):抗 C3dのみ陽性。抗体解離試験:陰性。不規則抗体スクリーニング(以後 SCR)はカラム法にて陽性。抗体同定検査は、カラム法 Ficin・ IAT全て陽性の為同定不能。試験管法 60分 IATにて SCRは陰性。2週間後:DAT:抗 C3dのみ陽性。SCR、抗体同定検査は

カラム法にて微弱な抗 Kを同定した。B型 kk型血球を用いた吸着後の血漿にも抗 Kを同定。その後、患者が退院するまで反応は徐々に弱まっているが、血漿中にはカラム法

でのみ抗 Kが検出され続けた。【考察】本邦で検出される抗 Kは細菌等の感染が関与しているとされているが、カラム法のみでの検出の為ミミッキング抗体を疑い、kk血球で吸着を行ったが吸着されず否定された。患者は過去に輸血

歴はあるものの、日赤が集約される前の新潟県で 30年前にK抗原陽性の血液が輸血されたことは考えにくく、AITLによる免疫異常の一環で、HIV抗体検査において見られる偽陽性同様に、本症例も K抗原に交差反応を生じる蛋白の関与や、寒冷凝集素の上昇が観察されることから、過去の報

告同様に何らかの細菌感染による抗 K産生が疑われる。しかしながら日本もグローバル化しており、海外での輸血経

験を持つ患者や、2世・ 3世といった K抗原陽性献血者の存在も考慮する必要がある。このようなことから、抗体同

定を実施する場合、先入観なく適切に実施することを心が

けるべきであると考える。連絡先 025-266-5111

抗 Kが検出された一症例

◎見辺 典子 1)、小林 健太 1)、郷 裕昭 2)、阿部 千尋 1)

新潟県立がんセンター新潟病院 1)、新潟県立中央病院 2)

EntryNo. 62

【はじめに】当院における過去 5年分の不規則抗体検出状況について調査したので報告する。【対象と方法】2011年4月 1日から 2016年 3月 31日までに行った不規則抗体検査 40,893件を対象とした。輸血管理システムにて、不規則抗体検査の陽性率、実患者数における検出率、及び不規則

抗体別の検出数について性別ごとに集計した。【検査方法】

不規則抗体スクリーニング検査は全自動輸血検査装置を使

用し、ビーズカラム凝集法を用いて間接抗グロブリン試験

(LISS-IAT法)と酵素法(フィシン 2段法)にて検査を行った。陽性の場合は、間接抗グロブリン試験を中心とした

試験管法にて同定検査を行い、不規則抗体の特異性を決定

した。【結果】5年間における不規則抗体検査の総検査件数 40,893件の内、陽性となった件数は 920件であり、不規則抗体陽性率は 2.25%であった。実患者数では 34,727例(男性 15,319例、女性 19,408例)、この内不規則抗体陽性の実患者数は 416例(男性 154例、女性 262例)であり、実患者数における不規則抗体検出率は 1.20%であった。性別での割合は、男性 1.01%、女性 1.35%であった。不規則

抗体別の検出数では、抗 Leaが最も多く 160例(33.1%)、次いで抗 E:124例(25.7%)、抗M:33例(6.8%)であった。高頻度抗原に対する抗体は、8例(1.9%)で検出され、全例が単独の抗 Jraであった。性別ごとの検出数は、男性では抗 Leaが最も多く 69例(41.1%)、次いで抗 E:32例(19.0%)、抗M:13例(7.7%)、抗 P1:10例(6.0%)であり、女性では、抗 E:92例(29.2%)、抗Lea:91例(28.9%)、抗 D:33例(10.5%)、抗M:20例(6.3%)であった。また、複数抗体が検出された患者は、44例(10.6%)で、個数の内訳は 2個:39例、3個:4例、4個:1例であった。組み合わせは抗 Eと抗 cが最も多かった。【まとめ】不規則抗体検出率は男性に比べて女

性の方が 1.34倍高く、検出された抗体は男女間で差がみられた。また、不規則抗体の検出頻度や抗体の種類はこれま

での報告と同様の傾向であった。連絡先—022-293-1172

当院における不規則抗体検出状況について

◎冨樫 未共 1)、原田 恵里香 1)、成田 弘 1)

独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター 1)

【はじめに】輸血部門は 24時間体制が求められており、検査の標準化やヒューマンエラーの防止が期待できる全自動

輸血検査機器が普及している。今回、全自動輸血検査機器

Erytra(ET)と当院で使用している AutoVueInnova(AV)の比較検討を行ったので、結果を報告する。

【方法】対象は 2015年 10月から 2016年 1月の 4ヶ月間に検査依頼があった血液検体(ABO/Rh血液型検査 794件、不規則抗体検査 731件)および凍結保存された不規則抗体陽性検体 16件とした。ETと AVを用いて ABO/Rh血液型検査、不規則抗体検査を実施した。不規則抗体検査につい

ては、間接抗グロブリン法のみを比較対象とした。

【結果】オモテ検査における反応強度の一致率は、抗 Aで100%(794/794件)、抗 Bで 98.5%(792/794件)、抗 Dで100%(794/794件)であった。抗 Bとの反応強度が不一致を認めた 2件は、ETで 3+、AVで 4+と判定された 1件とETで 3+(抗 ABとの反応は 3+MF)、AVでMFと判定された1件であった。ウラ検査における反応強度の一致率は、

A1血球で 92.6% (734/793件)、B血球で 86.0%(682/793件)で

あった。ETで A1血球との反応が 1+と判定された 14件中9件は AVで 2+と判定され、B血球との反応についても同様の傾向が認められた。不規則抗体検査における判定結果

の一致率は 99.3%(726/731件)であり、判定結果が不一致を示した 5件は ETのみ陽性が 2件、AVのみ陽性が 3件であった。AVのみ陽性であった 3件中 2件は、冷式抗体による反応であった。不規則抗体陽性検体を対象とした不規則

抗体検査について、判定結果の一致率は 87.5%(14/16件)であった。判定結果が不一致を示した 2件は冷式抗体であり、AVのみ陽性であった。【まとめ】ABO/Rh血液型検査と不規則抗体検査におけるETと AVの判定結果および反応強度は概ね良好な一致率であった。ETは、ウラ検査で弱反応を示す検体との反応性がAVよりも若干弱い傾向が認められた。不規則抗体検査では、AVは ETより冷式抗体による反応が多く見られた。

連絡先 0166-69-3364

全自動輸血検査機器 Erytraと AutoVueInnovaの比較検討について

◎渡辺 直樹 1)、高橋 裕之 1)、河原 好絵 1)、花田 大輔 1)、大塚 浩平 1)、田中 希実音 1)、友田 豊 1)、藤井 聡 1)

旭川医科大学病院 1)

EntryNo. 90

15

Page 3: EntryNo. 89 13 EntryNo. 43HbA1cで、加えて男性ではTC、LDL-C、AST、ALT、 γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、 有意差のある項目に若干の違いがみられ、40

【目的】赤血球型検査ガイドラインでは、酵素法のみで検

出される抗体は臨床的意義の低い抗体と考えられている。

また、酵素法は初期の Rh系抗体、Lewis抗原に対する抗体の検出感度が高いが、非特異的反応も多い。今回、当院に

おける不規則抗体検出状況を検査方法別に調査し、酵素法

の臨床的意義ついて検討した。【対象・方法】2013年 9月~2016年 3月の期間に不規則抗体検査を実施した 24507件を対象とした。検査方法はカラム凝集法を用い、LISS間接抗グロブリン試験(IAT)とフィシン 2段法(Ficin法)で行った。検討内容は①抗体検出率、非特異的反応検出率、②抗体の

性状について検討した。【結果】①抗体が同定できたのは

588件で、検出率は 2.4%であった。非特異的反応は 560件で、うち 516件は酵素法でみられ全体の 2.1%であった。②特異性が同定できた 588件(326人)について実人数で抗体の検出状況を検討した。IAT(IATと Ficin法で検出された抗体を含む)に陽性は 54.9%(179/326)であった。内訳は抗Rh系 50.8%、抗M14.5%、抗 Dia8.4%、抗 Lewis系 7.8%、抗 Duffy系 5.6%、抗 Kidd系 4.5%、その他 8.4%であった。

一方 Ficin法のみ陽性は 45.1%(147/326)であった。内訳は抗Lewis系 59.2%、抗 Rh系 36.0%、抗 P1が 4.8%であった。Ficin法のみ陽性の抗 Rh系では、その後 IAT陽性が 8件、Ficin法のみ持続して陽性が 12件、感度以下が 16件、検査依頼無しが 17件であった。Ficin法のみ持続して陽性を示した 12件中 5件は PEG間接抗グロブリン試験(PEG-IAT)陽性であった。【考察】今回の検討で臨床的意義のある抗体

は IATで検出できていた。Ficin法のみで同定された不規則抗体の 6割以上は臨床的意義の低い抗体であり、非特異的反応も多いことが確認できた。また、Ficin法のみで検出された抗 Rh系の多くは IAT陽性に移行しなかった。このことから、酵素法を省略することは可能で精査にかかる時間

とコストの削減につながると考える。しかし、少数ではあ

るが IAT陽性に移行した抗体、PEG-IATで陽性になった抗体もあることから、溶血性輸血副作用を見逃さないために、

交差適合試験は 3日以内に採血された検体で、PEG-IATのような高感度な方法で行う必要がある。

[連絡先]024-925-1188(内線 30332)

不規則抗体検査における酵素法の臨床的意義について

◎根本 円 1)、渡辺 隆幸 1)、神山 龍之介 1)、星 雅子 1)、大澤 裕美 1)、橋本 はるみ 1)、石井 佳代子 1)、白石 満 1)

一般財団法人 太田綜合病院附属太田西ノ内病院 1)

EntryNo. 72

【はじめに】Kell系抗原は免疫原性が高く、欧米において抗 Kは溶血性輸血副作用や胎児新生児溶血性疾患の原因として報告が多く、ABO/Rhに次いで重要な抗原系とされている。一方日本人においては 100%が kk型であることから、K抗原による免疫の機会は皆無に等しく、抗 K検出率は低い。今回、血管免疫性芽球性リンパ腫(以後 AITL)患者から抗 Kが同定された症例を経験したので報告する。【症例】68歳男性。#1.悪性リンパ腫疑い#2.不明熱#3. CO PDにて当院内科に紹介。既往歴は肝内結石切除術、肺気腫、甲状腺

腫、複数回のイレウス。【検査結果】初回検査:ABO血液型オモテ検査:抗 A(0)抗 B(4+)。ウラ検査:A1赤血球(3+)B赤血球(1+)。オモテ・ウラ不一致のため精査。ウラ検査の加温により、オモテ・ウラ一致 B型と判定。直接抗グロブリン試験(以後 DAT):抗 C3dのみ陽性。抗体解離試験:陰性。不規則抗体スクリーニング(以後 SCR)はカラム法にて陽性。抗体同定検査は、カラム法 Ficin・ IAT全て陽性の為同定不能。試験管法 60分 IATにて SCRは陰性。2週間後:DAT:抗 C3dのみ陽性。SCR、抗体同定検査は

カラム法にて微弱な抗 Kを同定した。B型 kk型血球を用いた吸着後の血漿にも抗 Kを同定。その後、患者が退院するまで反応は徐々に弱まっているが、血漿中にはカラム法

でのみ抗 Kが検出され続けた。【考察】本邦で検出される抗 Kは細菌等の感染が関与しているとされているが、カラム法のみでの検出の為ミミッキング抗体を疑い、kk血球で吸着を行ったが吸着されず否定された。患者は過去に輸血

歴はあるものの、日赤が集約される前の新潟県で 30年前にK抗原陽性の血液が輸血されたことは考えにくく、AITLによる免疫異常の一環で、HIV抗体検査において見られる偽陽性同様に、本症例も K抗原に交差反応を生じる蛋白の関与や、寒冷凝集素の上昇が観察されることから、過去の報

告同様に何らかの細菌感染による抗 K産生が疑われる。しかしながら日本もグローバル化しており、海外での輸血経

験を持つ患者や、2世・ 3世といった K抗原陽性献血者の存在も考慮する必要がある。このようなことから、抗体同

定を実施する場合、先入観なく適切に実施することを心が

けるべきであると考える。連絡先 025-266-5111

抗 Kが検出された一症例

◎見辺 典子 1)、小林 健太 1)、郷 裕昭 2)、阿部 千尋 1)

新潟県立がんセンター新潟病院 1)、新潟県立中央病院 2)

EntryNo. 62

【はじめに】当院における過去 5年分の不規則抗体検出状況について調査したので報告する。【対象と方法】2011年4月 1日から 2016年 3月 31日までに行った不規則抗体検査 40,893件を対象とした。輸血管理システムにて、不規則抗体検査の陽性率、実患者数における検出率、及び不規則

抗体別の検出数について性別ごとに集計した。【検査方法】

不規則抗体スクリーニング検査は全自動輸血検査装置を使

用し、ビーズカラム凝集法を用いて間接抗グロブリン試験

(LISS-IAT法)と酵素法(フィシン 2段法)にて検査を行った。陽性の場合は、間接抗グロブリン試験を中心とした

試験管法にて同定検査を行い、不規則抗体の特異性を決定

した。【結果】5年間における不規則抗体検査の総検査件数 40,893件の内、陽性となった件数は 920件であり、不規則抗体陽性率は 2.25%であった。実患者数では 34,727例(男性 15,319例、女性 19,408例)、この内不規則抗体陽性の実患者数は 416例(男性 154例、女性 262例)であり、実患者数における不規則抗体検出率は 1.20%であった。性別での割合は、男性 1.01%、女性 1.35%であった。不規則

抗体別の検出数では、抗 Leaが最も多く 160例(33.1%)、次いで抗 E:124例(25.7%)、抗M:33例(6.8%)であった。高頻度抗原に対する抗体は、8例(1.9%)で検出され、全例が単独の抗 Jraであった。性別ごとの検出数は、男性では抗 Leaが最も多く 69例(41.1%)、次いで抗 E:32例(19.0%)、抗M:13例(7.7%)、抗 P1:10例(6.0%)であり、女性では、抗 E:92例(29.2%)、抗Lea:91例(28.9%)、抗 D:33例(10.5%)、抗M:20例(6.3%)であった。また、複数抗体が検出された患者は、44例(10.6%)で、個数の内訳は 2個:39例、3個:4例、4個:1例であった。組み合わせは抗 Eと抗 cが最も多かった。【まとめ】不規則抗体検出率は男性に比べて女

性の方が 1.34倍高く、検出された抗体は男女間で差がみられた。また、不規則抗体の検出頻度や抗体の種類はこれま

での報告と同様の傾向であった。連絡先—022-293-1172

当院における不規則抗体検出状況について

◎冨樫 未共 1)、原田 恵里香 1)、成田 弘 1)

独立行政法人 国立病院機構 仙台医療センター 1)

EntryNo. 47

【はじめに】輸血部門は 24時間体制が求められており、検査の標準化やヒューマンエラーの防止が期待できる全自動

輸血検査機器が普及している。今回、全自動輸血検査機器

Erytra(ET)と当院で使用している AutoVueInnova(AV)の比較検討を行ったので、結果を報告する。

【方法】対象は 2015年 10月から 2016年 1月の 4ヶ月間に検査依頼があった血液検体(ABO/Rh血液型検査 794件、不規則抗体検査 731件)および凍結保存された不規則抗体陽性検体 16件とした。ETと AVを用いて ABO/Rh血液型検査、不規則抗体検査を実施した。不規則抗体検査につい

ては、間接抗グロブリン法のみを比較対象とした。

【結果】オモテ検査における反応強度の一致率は、抗 Aで100%(794/794件)、抗 Bで 98.5%(792/794件)、抗 Dで100%(794/794件)であった。抗 Bとの反応強度が不一致を認めた 2件は、ETで 3+、AVで 4+と判定された 1件とETで 3+(抗 ABとの反応は 3+MF)、AVでMFと判定された1件であった。ウラ検査における反応強度の一致率は、

A1血球で 92.6% (734/793件)、B血球で 86.0%(682/793件)で

あった。ETで A1血球との反応が 1+と判定された 14件中9件は AVで 2+と判定され、B血球との反応についても同様の傾向が認められた。不規則抗体検査における判定結果

の一致率は 99.3%(726/731件)であり、判定結果が不一致を示した 5件は ETのみ陽性が 2件、AVのみ陽性が 3件であった。AVのみ陽性であった 3件中 2件は、冷式抗体による反応であった。不規則抗体陽性検体を対象とした不規則

抗体検査について、判定結果の一致率は 87.5%(14/16件)であった。判定結果が不一致を示した 2件は冷式抗体であり、AVのみ陽性であった。【まとめ】ABO/Rh血液型検査と不規則抗体検査におけるETと AVの判定結果および反応強度は概ね良好な一致率であった。ETは、ウラ検査で弱反応を示す検体との反応性がAVよりも若干弱い傾向が認められた。不規則抗体検査では、AVは ETより冷式抗体による反応が多く見られた。

連絡先 0166-69-3364

全自動輸血検査機器 Erytraと AutoVueInnovaの比較検討について

◎渡辺 直樹 1)、高橋 裕之 1)、河原 好絵 1)、花田 大輔 1)、大塚 浩平 1)、田中 希実音 1)、友田 豊 1)、藤井 聡 1)

旭川医科大学病院 1)

EntryNo. 90

18

17

Page 4: EntryNo. 89 13 EntryNo. 43HbA1cで、加えて男性ではTC、LDL-C、AST、ALT、 γGTP、血糖で有意差が認められた。年代別の解析では、 有意差のある項目に若干の違いがみられ、40

【はじめに】膀胱癌は無症候性肉眼的血尿により発見され

ることが最も多い。当院検査科では、2013年 4月より50歳以上の尿潜血反応陽性(1+以上)検体を、尿沈査鏡検(Sternheimer染色)し異形細胞の有無を確認している。今回、尿潜血反応陽性から発見された膀胱癌の症例と尿沈

渣検査、尿細胞診成績の比較をしたので報告する。

【症例・経過】60歳代男性。内科外来通院。泌尿器症状

なし 。2014年 7月の定期検査で尿潜血反応(1+)。依頼は尿沈渣検査なしであったが、確認のため尿沈渣染色鏡検

を実施した。核型不整で、核クロマチン増量、N/C比の高い異型を疑う細胞が認められたため、主治医へ院内メール

にて報告。後日、尿細胞診の依頼があり、結果は ClassⅤ尿路上皮癌疑いであった。

【尿沈渣検査、尿細胞診成績の比較】対象・方法:2013年5月~2014年 12月までの期間、尿沈渣検査、尿細胞診を同時に実施した 1,160件を対象とした。尿沈渣鏡検は JCCLSGP1-GP4に準拠し、尿細胞診は外部委託となっている。細胞診陽性は、ClassⅢ以上とした。

結果:陰性、陽性合わせると、一致率 91%だった。尿沈渣鏡検で異型細胞報告数は 94件だったが、うち 31件(33%)は ClassⅠ.Ⅱ、63件(67%)は ClassⅢ,Ⅳ,Ⅴであった。細胞診陽性(ClassⅢ,Ⅳ,Ⅴ)での異型細胞報告数は 132件中63件(47.7%)だった。また、細胞診陽性検体 132件の尿潜血反応陽性率は 62%だった。【まとめ】今回の症例は、尿沈渣検査の依頼がなく、尿潜

血反応(1+)により膀胱癌を発見することができた。中高年で尿潜血陽性の場合、尿沈渣鏡検による異型細胞の確認

が重要と考えられた。

尿沈渣、尿細胞診成績の一致率も良好で、初期スクリーニ

ングに適していると思われた。しかし、尿細胞診陽性検体

の尿潜血反応陰性例が 38%もあり、尿潜血反応に固執せず、注意深い沈渣鏡検が重要であると考えられた。             

連絡先 0182-32-5001(264)

尿潜血反応陽性から発見された膀胱癌の症例

尿沈渣検査、尿細胞診成績の比較

◎和賀 幸子 1)、佐々木 絹子 1)、長瀬 智子 1)

市立横手病院 1)

EntryNo. 87

【はじめに】

赤痢アメーバ症は赤痢アメーバ原虫を病原体とする感染

症で、シストに汚染された飲食物等を経口摂取することで

起きる。病変を形成する部位により腸管アメーバ症と腸管

外アメーバ症に大別される。今回、腸管アメーバ症を起こ

した患者便検体より、赤痢アメーバ栄養型を確認し、アメ

ーバ性大腸炎の確定診断へと繋がった症例を経験したので

報告する。

【症例】

44歳男性。主訴は粘血便、発熱。既往歴は梅毒、B型肝炎。3日前より粘血便、発熱が出現し当院外科外来を受診した。血液検査では、白血球 17,100/μl、CRP13.83mg/dlと炎症所見を認めた。腹部 CTで直腸や盲腸に炎症が疑われ下部消化管内視鏡を施行した。直腸に限局する著明な浮腫、タコ

イボ状から不整形まで多様な糜爛と潰瘍あり。内視鏡的に

アメーバ直腸炎を疑い、便を直接塗抹法にて検鏡し赤血球

を貪食するアメーバ原虫栄養型が確認できたため、アメー

バ性大腸炎と診断され入院となった。診断後、患者本人よ

り同性愛者であると情報を得て、免疫学的検査が行われ

HIV抗体陽性であった。しかし、当院では HIVの治療、ケア体勢が十分ではないため転院となった。

【考察】

日本において、赤痢アメーバ症は性感染症や施設内での

集団感染が多く報告されている。性感染症としては、男性

同性愛者の患者が大多数だが、異性間での性的接触によっ

て感染している男性・女性患者が増加しているのが最近の

動向である。また、男性同性愛者では HIV、肝炎ウイルス、梅毒などの性感染症が通常より高頻度でみられることに留

意する必要がある。本症例を比較すると、男性同性愛者で

性感染症の既往など患者背景が一致していたことは診断の

裏付けと感染経路の推定に役立ったと考えられる。

【結語】

臨床と検査室の連携により患者便検体から赤痢アメーバ

栄養型を検出し早期診断へと繋がり、未診断の HIVを拾い上げることができた症例である。

連絡先 0254-53-2141

アメーバ性大腸炎と診断された男性同性愛者の 1例

◎市野瀬 収 1)、山田 光幸 1)、横田 浩 1)、伴田 美穂 1)、東 美幸 1)

JA新潟厚生連 村上総合病院 1)

EntryNo. 110

【はじめに】自己免疫性溶血性貧血は、病型により(温式)自己免疫性溶血性貧血(以下 AIHA)、寒冷凝集素症(以下 CAD)、発作性寒冷血色素尿症(以下 PCH)に分類される。AIHAの年間発症率は 100万人対 1~5人と比較的まれな疾患とされており、その中でも PCHは約 1%と極めてまれな疾患である。PCHは主に小児発症の報告が多く、成人の症例報告は少ない。今回、成人発症の PCHで特異的な血液像を呈したので報告する。【症例】60歳代 女性 

【主訴】血尿 黄疸【現病歴】201X年 3月 3週目から下痢。3月 30日寒冷曝露後に悪寒,赤ワイン色の血尿を認め近医受診。膀胱炎と診断されるも、友人より「顔が黄色い」と指

摘され、総合病院内科を受診。間接ビリルビン優位の黄疸,LD上昇,網赤血球の増加した貧血を認め、直接抗グロブリン試験陽性で AIHAが疑われ、4月 3日当院血液内科に紹介入院した。【入院時検査所見】WBC:11.6×109/L,RBC:2.81×1012/L,Hb:8.7g/dl,PLT:400×109/L,Reti:4.2%,AST:26IU/L,ALT:22IU/L,LD:623IU/L,T-Bil:2.9㎎/dl,D-Bil:0.2㎎/dl,CRP:1.0㎎/dl,ハプトグロビン:2㎎/dl未満,直

接抗グロブリン試験:陽性(広範囲:2+,抗 IgG:-,抗C3bC3d:2+),間接抗グロブリン試験:陰性。また、視診で黄疸を認め、触診にて肝脾腫は認めなかった。

【臨床経過】AIHAの診断で翌日よりプレドニゾロン(以下PSL):65㎎/day(1㎎/㎏)開始。さらに精査を実施。NAPスコア:323,NAP:99%,砂糖水試験:陰性,HAM試験:陰性,Donath-Landsteiner試験(以下 D-L試験):陽性,寒冷凝集:256倍,C3:112㎎/dl,C4:19㎎/dl,抗核抗体:40未満,血清中の抗体:抗 PPk,P血液型 P1(P1+P+Pk‐)型(関東甲信越ブロック血液センターにて精査),末梢血液像にて好

中球に赤血球が付着する所見を認めた。以上の結果より

PCHと診断された。PCHは、寒冷曝露しなければ溶血しないため、PSLを早期に減量できると考え、4/11~30mg/day、4/18~15mg/day、4/25~5mg/day、5/2~offとしたが現在まで再燃していない。【まとめ】成人発症の PCHは稀であるため、D-L試験陽性でも CADの約 15%で偽陽性を示す報告もあることから、PCHと確定するには血液像の所見も有用であった。    連絡先:025-522-7711(内線 2555) 

成人発症の発作性寒冷血色素尿症の一例

◎高橋 政江 1)、髙橋 奈津子 1)、土屋 綾 1)

新潟県立中央病院 1)

EntryNo. 7819