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喜界徳洲会病院 宮城 幹史 体動困難で救急搬入された 83歳男性

体動困難で救急搬入された · tiaの前駆 しばしばあり ときにあり まれ 発症 安静時(夜間、早 朝起床時) 日中活動時 多くは安静時 症状の発現

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喜界徳洲会病院 宮城 幹史

体動困難で救急搬入された83歳男性

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主訴:体動困難

現病歴:

平成22年12月9日、午前4時頃に尿意を訴

えて呼ぶ声に妻が気づいた。普段はトイレ歩行可能であったが、ベッドから起き上がれずにいた。様子を見ていたが症状軽快しないため救急要請。午前6時26分救急搬入となった。

救急搬入前日までは普段通り。頭痛、胸痛訴えなし。痙攣なし。

症例:83歳男性

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・慢性硬膜下血腫術後:平成21年1月

・パーキンソン症候群

・心房細動

・脊柱管狭窄症

・高血圧

常用薬:アムロジン、ゼストリル、ドプスカプセル、ユリーフ、ワーファリン(1.5)、ベシケア、メネシット、シンメトレル

既往歴

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ADL:小刻み歩行だがなんとかトイレ歩行可能。

排泄自立、食事自立。

認知症軽度あり。

喫煙:20本/day×30年

飲酒:ビール350ml/day

生活歴

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バイタルサイン:意識レベルJCS2、GCS E4V4M6、BP243/120、HR75、SpO2 97%(RA)、BT36.2℃

身体所見:眼瞼結膜貧血なし、呼吸音清、腹部平坦、軟、下肢の浮腫なし

神経学的所見:瞳孔3mm+/3mm+、眼球運動正常?、

右側への共同偏視あり?左口角下垂あり、舌変位なし、構音障害あり

MMT左上肢1/5、左下肢3/5、左上肢4/5、右下肢4/5、左Babinski反射陽性

NIHSS 11点

搬入時所見①

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ABG:pH 7.430

PCO38.4

PO2 82.3

HCO3 24.9

CRP 0.07mg/dl

WBC 8400 /μl

Hb 12.6 g/dl

Plt 28.1 万/μl

Labo data:

AST 21 IU/l

ALT 16 IU/l

LDH 246 IU/l

γ-GTP 42 IU/l

BUN 16.5 mg/dl

Cre 0.81mg/dl

Na 142 mEq/l

K 4.1 mEq/l

Cl 104 mEq/l

Glu 143 mg/dl HbA1c 6.0 %

PT-INR 1.26

ECG:Af rhythm、虚血性変化なし

搬入時所見②

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頭部CT 12/9

搬入時所見③

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胸部Xp

搬入時所見④

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頭部MRI 12/9

搬入時所見⑤

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心エコー:壁運動低下なし、TRⅠ°、MRⅡ°、僧房弁の逸脱なし

頸部血管エコー:頸動脈に狭窄やプラーク付着なし。

その他検査所見

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体動困難の精査目的に入院。画像所見上は明らかな脳梗塞像は認めなかったが、経過と身体所見から脳梗塞と診断。心房細動は認めていたが、ワーファリンを内服していたことと、MRAで明らかな脳動脈の描出不良を認めな

かったことから、アテローム血栓性脳梗塞と考え、オザグレルナトリウム、エダラボンで加療開始。

入院後経過①

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入院後より徐々に意識レベル低下を認め、入院当日の午後16時頃にはJCS200まで意識状態悪化したため、頭部CT再検。

出血性脳梗塞の所見は認めなかったが、右大脳半球の中大脳動脈領域にearly CT sigh

を疑わせるような所見を認めたため、心原性脳梗塞が疑われオザグレルナトリウムは中止とした。

入院後経過②

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頭部CT所見

12/9夕

12/9朝 入院後経過③

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頭部MRI所見 12/24

入院後経過④

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入院14日目頃からは徐々に意識状態改善を

認め、自発的に開眼、離握手可能、理解可能な発語を認めるまでに改善した。

入院後経過⑤

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CPSS(Cincinati Prehospital stroke Scale)

顔のゆがみ

(歯を見せるように、あるいは笑ってもらう)

・正常 顔面が左右対称 ・異常 片側が他側のように動かない

上肢拳上 (開眼させ、10秒間上肢を拳上させる)

・正常 両側とも同様に拳上、あるいはまったく挙がらない

・異常 一側が挙がらない、あるいは他側に比較して挙がらない

構音障害 (患者に話をさせる)

・正常 滞りなく正確に話せる

・異常 不明瞭な言葉、間違った言葉、あるいはまったく話せない

考察①MRI(DWI)なしで脳梗塞と診断できるか?

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Sensitivity and specificity of the CPSS in identifying patients with stroke.

Physicians Prehospital Care Providers

No.of Abnormalities

Sensitivity (95%CI)

Specificity (95%CI)

Sensitivity (95%CI)

Specificity (95%CI)

1 2 3

66(49-80) 26(14-43) 11(3-26)

87(80-92) 95(90-98) 99(95-100)

59(51-67) 27(21-35) 13(8-20)

88(86-91) 96(94-97) 98(96-99)

考察①MRI(DWI)なしで脳梗塞と診断できるか?

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脳卒中以外の疾患で脳卒中様発作を示すことのある疾患

1.慢性硬膜下血腫、硬膜外血腫

2.脳腫瘍の中への出血

3.脳腫瘍

4.静脈洞血栓症

5.脳炎、髄膜炎

6.低血糖症

7.非ケトン性高血糖性昏睡

8.下垂体卒中

9.てんかん発作とTodd麻痺 10.片麻痺性片頭痛 11.薬物中毒、毒物中毒 12.心筋梗塞 13.MELAS

考察①MRI(DWI)なしで脳梗塞と診断できるか?

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アテローム血栓性

心原性 ラクナ梗塞

TIAの前駆 しばしばあり ときにあり まれ

発症 安静時(夜間、早朝起床時)

日中活動時 多くは安静時

症状の発現 緩徐・階段状進行 突発完成 比較的緩徐

意識障害 一般的に軽く、ないことが多い

しばしば高度 原則としてない

片麻痺 発症時からあることが多い

発症時からあることが多い

通常ない

共同偏視 少ない 多い ない

既往歴合併症 高血圧、糖尿病、脂質異常症

心疾患、多臓器の塞栓症

高血圧

考察②:脳梗塞の病型は?

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日本脳卒中学会医療向上・社会保険委員会が提案するrt-PA静注療法の施設基準

(1) CTまたはMRI検査が24時間実施可能であること

(2)集中治療のため、十分な人員および設備を有すること

(3)脳外科的処置が迅速に行える体制が整備されていること

(4)実施担当医が日本脳卒中学会の承認する本薬使用のための講習会を受講し、その証明を取得すること

考察③:喜界島でrt-PAを使用できるか?

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rt-PA静注療法後の管理指針

【Ⅳ.症候性頭蓋内出血の処置】 初期治療 1.血圧管理:正常範囲まで降圧 2.呼吸管理 3.脳浮腫・頭蓋内圧管理 4.消化性潰瘍の予防 神経症候の進行性増悪および以下のCT所見を認めた場合、外科治療を考慮 1.局所圧迫徴候 2.被殻あるいは皮質下の中等度血腫 3.径3㎝を超す小脳出血 4.脳幹圧迫、水頭症

考察③:喜界島でrt-PAを使用できるか?

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・国内外のrt-PA使用の成績をまとめると、rt-PA静注後の症候性頭蓋内出血は1割未満で、3か月後に4割の患者が完全自立している一方、1-2割が死の転帰をとる。

・国立循環器病センターにおける、rt-PA投与を行った80例の治療成績は、急性期に4例(5%)に症候性頭蓋内出血を認め、3か月後までに2例(2%)が死亡している。

考察③:喜界島でrt-PAを使用できるか?

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・最も近い脳神経外科のある病院は鹿児島県立大島病院(奄美大島)

・H19年の統計では、沖縄

県に自衛隊のヘリを要請し、喜界島から患者を乗せて離陸するまで平均2時間50分(最短2時間10分)

・離陸して大島病院までが25分から30分

考察③:喜界島でrt-PAを使用できるか?

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・発症様式、既往、身体所見等を合わせて脳梗塞の診断、病型の診断が重要。

・いくら喜界島とはいえ、DWIも撮影できるMRIを。

・喜界島の現状でrt-PAを使用するのは

困難な面が多いが、治療の選択肢として患者・家族に説明すべきと考えられる。

まとめ

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ご清聴ありがとうございました