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C O N T E N T S March 2019 No.26 今号の表紙 江戸時代から続く水路の一つ神田川。万世橋から 御茶ノ水渓谷に目を向けると、湯島キャンパスの 外観を眺めることができます。暖かくなってきたこ の季節。ちょっと出掛けてみませんか。 3 Bloom! 医科歯科大 No.26 2 Bloom! 医科歯科大 No.26 特集 1 ◎ 特別対談 ×東京医科歯科大学 学長 吉澤靖之 Yasuyuki Yoshizawa ソニー株式会社 常務(R & D メディカル事業担当) R & Dセンター長 勝本 徹 Toru Katsumoto 特別対談 特集 1 ◎ 特別対談 “産学×医工 ” 連携で 未来に新たな価値を 東京医科歯科大学とソニー包括連携のこれから 特集 2 組織×組織の産学連携を推進! オープンイノベーション機構 特別座談会 オープンイノベーション機構のこれからを考える 東京医科歯科大学のあらゆる英知を企業が利活用 オープンイノベーション制度 医療研究 最前線 未来医療を拓く アルツハイマー病の “超早期 ”の病態を解明 アミロイド凝集前の遺伝子治療の可能性も 難治疾患研究所/脳統合機能研究センター 神経病理学分野 岡澤 均教授 医療にかける思いを聞く ◎ 医科歯科人 医学部附属病院 脳神経外科 前原健寿 教授/診療科長 附属病院訪問 歯学部附属病院歯科技工部 Real Mode Studio リアルモードスタジオ 卒業生の今 ◎ 「活躍する医科歯科人」 金沢大学大学院 脳老化・神経病態学(脳神経内科学)教授 山田正仁医科歯科大生 file ◎ 「自ら問い、自ら導く学生たち」 歯学部歯学科 5 年 権藤理夢さん 医科歯科百景 日時計 中国人留学生(同窓生)寄贈 東京医科歯科大学 学長 吉澤靖之 ソニー株式会社 常務(R&D メディカル事業担当) R&D センター長 勝本 徹10 21

連携で未来に新たな価値を - Tokyo Medical and …/vol.26/taidan.pdf7 Bloom! 医科歯科大 No.26Bloom! 6 勝本よいのではないかと思うのです。 そういう意味でいうと、

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Page 1: 連携で未来に新たな価値を - Tokyo Medical and …/vol.26/taidan.pdf7 Bloom! 医科歯科大 No.26Bloom! 6 勝本よいのではないかと思うのです。 そういう意味でいうと、

C O N T E N T S

March 2019 No.26

今号の表紙 江戸時代から続く水路の一つ神田川。万世橋から御茶ノ水渓谷に目を向けると、湯島キャンパスの外観を眺めることができます。暖かくなってきたこの季節。ちょっと出掛けてみませんか。

3 Bloom! 医科歯科大 No.26 2Bloom! 医科歯科大 No.26

包括連携をきっかけに

人材交流がさらに活発化

吉澤 

ソニーと東京医科歯科大

学が包括連携協定を結んだのは

2011年のことですが、実は

2004年に本学内にラボス

ペースを設置しており、包括連

携協定以前からの実績がありま

東京医科歯科大学とソニーは、

2011年9月に包括連携協

定を締結。「ビジュアライズド・

メディスン」というビジョンを

掲げ、様々なプログラムを推進

してきた。共同研究をはじめ、

人材育成や留学生支援などを組

織対組織で推進。これまでの歩

みを振り返り、未来に向けてど

のように発展していくのか、ソ

ニー常務の勝本徹氏と東京医科

歯科大学の吉澤靖之学長が語

り合った。

したね。

 

2004年といえば国立大学

が独立行政法人化した年で、大

学と企業によるこのような連携

は当時かなり先進的でした。共

同研究を進めるだけでなく、個

別の研究プロジェクトや私費留

学生をサポートしてもらうなど

多くの支援がありました。

勝本 

2004年に3号館のラ

ボスペースにライフサイエンス

研究部を設置して、2008年

特集 1 ◎ 特別対談“産学×医工” 連携で未来に新たな価値を

東京医科歯科大学とソニー包括連携のこれから

東京医科歯科大学学長

吉澤靖之Yasuyuki Yoshizawa

ソニー株式会社常務(R&D メディカル事業担当)

R&Dセンター長

勝本 徹氏Toru Katsumoto

特別対談

❷特集 1 ◎ 特別対談

“産学×医工” 連携で未来に新たな価値を

東京医科歯科大学とソニー包括連携のこれから

❽特集 2

組織×組織の産学連携を推進!オープンイノベーション機構

特別座談会オープンイノベーション機構のこれからを考える

⓬東京医科歯科大学のあらゆる英知を企業が利活用

オープンイノベーション制度⓮

医療研究 ★ 最前線 未来医療を拓く アルツハイマー病の “超早期”の病態を解明アミロイド凝集前の遺伝子治療の可能性も

難治疾患研究所/脳統合機能研究センター 神経病理学分野 岡澤 均教授

⓰医療にかける思いを聞く ◎ 医科歯科人

医学部附属病院 脳神経外科

前原健寿教授/診療科長

⓲附属病院訪問

歯学部附属病院歯科技工部 Real Mode Studio リアルモードスタジオ⓳

卒業生の今 ◎ 「活躍する医科歯科人」金沢大学大学院 脳老化・神経病態学(脳神経内科学)教授

山田正仁氏

⓴医科歯科大生 file ◎ 「自ら問い、自ら導く学生たち」

歯学部歯学科 5 年 権藤理夢さん

⓴医科歯科百景

日時計中国人留学生(同窓生)寄贈

東京医科歯科大学学長

吉澤靖之

ソニー株式会社常務(R&D メディカル事業担当)

R&D センター長勝本 徹氏

にはM&Dタワーに現在のラボ

スペースを増床しました。

 

私がメディカル担当に就任し

たのは2013年からですが、

社内ではかなり以前から医療分

野で貢献したいという考えが

あったようです。医師の方々と

議論して指導してもらう場が必

要だと感じていた時期、東京医

科歯科大学との連携の話が出て

締結に至ったと聞いています。

 

そのような経緯で協定を締結

したことから、ソニーの社員が

大学院の講義を受講したり、臨

床現場を見学したり、有意義な

機会を提供していただきました。

吉澤 

これまで本学の講義を受

けたソニーの社員の皆さんは、

現在いかがですか。

勝本 

1年コースを受講した大

学院特別研究生がこれまでに10

人近くいます。聴講した社員も

数十人になっているのではない

でしょうか。医療の知識や技術

を身に付けた社員の多くは各方

面で頑張ってくれています。

吉澤 

それはとても嬉しいこと

です。本学がお役に立てている

かどうか、ずっと気になってい

ました。包括連携協定以前は協

創する研究分野はもっと幅広

かったように思います。しかし、

協定以降は「ビジュアライズド・

メディスン」というビジョンが

定まり、研究サポートファンド

を組んでいます。共同研究の成

21

Page 2: 連携で未来に新たな価値を - Tokyo Medical and …/vol.26/taidan.pdf7 Bloom! 医科歯科大 No.26Bloom! 6 勝本よいのではないかと思うのです。 そういう意味でいうと、

5 Bloom! 医科歯科大 No.26 4Bloom! 医科歯科大 No.26

勝本 

私は研究開発の責任者で

もあるので、社内でもAI・

ディープラーニング関連のプロ

ジェクトは大いに重視していま

す。このテーマは、クオリティ

の高いデータが何より重要なの

ですが、自分たちでは医療用

データを持てないということが

常に課題としてあります。

吉澤 

本学に蓄積されているの

は患者さんのカルテデータだけ

でなく、病理診断に使った組織、

細胞など多岐にわたります。そ

れらの全てが今後大きな財産に

なっていくのは明らかで、その

ようなデータをきちんと扱うこ

とができるデータサイエンティ

ストの存在が重要になってくる

と考えています。

 

個人的にはロボットにも期待

しています。親しみやすい見た

目のロボットが患者さんの問診

をして、聞いたことが全部カルテ

に反映されて、次に医療人が追

加問診するシステムがあっても

“産学×医工”連携で未来に新たな価値を 東京医科歯科大学とソニー包括連携のこれから

特集 1 特別対談

果も出てきていますね。

勝本 

ソニーは映像と音声が得

意な会社ですから、その分野か

ら始めてみようということでビ

ジュアライズド・メディスンを

打ち出しました。

 

実際に世に出た成果では、例

えばヘッドマウントディスプレ

イ(HMD)があります。3D映

像を見ながら内視鏡手術がで

きる装置ですね。この製品の開

発には臨床に携わる医師の方々

と共同研究した成果が大いに活

用されており、医療用製品とし

て現場に多く導入されていま

す。誘電コアグロメーター(血

液凝固計)も、以前のラボの頃

から共同研究しており、もうす

ぐビジネスとして軌道に乗りそ

うです。

大学の医療ビッグデータと

企業のAI技術を融合

勝本 

当社にとってこの包括連

携は、人材育成、人材交流への

影響がとても大きいと思いま

す。クリニカルサミット研究会

では、様々な分野の有識者とセ

ミナー形式で討議するのです

が、このサミットがとても有意

義でした。2014年は「ゲノム

の今後、メディカルイメージン

グの最先端、フローサイトメー

ターの応用」というテーマで、

1年間にわたって幅広く学ばせ

てもらいました。

吉澤 

本学の教員もどんどん参

加するといいですね。

勝本 

私は毎回出席しています

が、非常に丁寧に教えてもらえ

るのでありがたく思っていま

す。クリニカルサミット研究会

で得た知見は、その後にとても

生きています。

吉澤 

大学側は、情報関連の分

野でソニーの力をお借りできれ

ばと考えています。先の大学院

改組により先制医療学コース、

先制医歯理工学コースを設置

し、医療ビッグデータとAIを

活用した先制医療、個別化医療

を推進するリーダーの育成を目

指しています。そのような分野

で講師をお願いするなどAI領

域でも共同研究できるとよいで

すね。

勝本 

弊社でもデータ解析や

ディープラーニングなど、AI

関連の人材は積極的に採用して

おり、社内の人材育成にも取り

組んでいます。

吉澤 

最先端のテクノロジーに

ついて教育するならば、企業な

どで実務経験のある人にぜひお

願いしたい。医療ビッグデータ

については、疾患バイオリソー

スセンターと長寿・健康人生推

進センターにデータが集まる仕

組みが構築されています。

 

さらに、関連病院からの医療

データやウェアラブルデバイスで

患者さんから集めたデータもク

ラウド上に蓄積して解析するな

ど、“インテリジェントホスピタ

ル”を目指しているところです。

産学連携の先には私たちが目指すインテリジェントホスピタルがあります

イメージング技術をメディカルの分野でも

活用することで社会貢献していきます

Page 3: 連携で未来に新たな価値を - Tokyo Medical and …/vol.26/taidan.pdf7 Bloom! 医科歯科大 No.26Bloom! 6 勝本よいのではないかと思うのです。 そういう意味でいうと、

7 Bloom! 医科歯科大 No.26 6Bloom! 医科歯科大 No.26

よいのではないかと思うのです。

勝本 

そういう意味でいうと、

最近米国のメディカルスクール

で看護師の実習に使える遠隔シ

ステムを作れないかという話が

ありました。今の技術なら会話

の内容も認識できるので、看護

師さんや患者さんの発言を自動

的に文字に置き換えて、さらに

意味を解析することも可能で

す。

吉澤 

将来、診療ロボットとし

て応用できるようになると嬉し

いですね。

組織対組織の産学×医工連携で

社会貢献を果たしていく

勝本 

これまでのソニーの歴史

を振り返ってみても、新規事業

の立ち上げでは、外部と連携し

たケースが成功しています。

 

ソニー損害保険はもともと

ソニー・プルデンシャル生命と

いうジョイントベンチャーです

し、ソニー・ミュージックエン

タテインメントもCBSとの

ジョイントが始まりでした。イ

メージング分野では、レンズ交

換一眼レフカメラもコニカミノ

ルタから資産譲渡を受け、大き

な事案に育ちつつあります。

 

そしてメディカルについては、

やはり東京医科歯科大学と一緒

にできたということがとても大

きいのです。

吉澤 

今の社会で進めようとし

ているオープンイノベーション

というのは、グローバリゼー

ションの影響があります。グ

ローバルに広がる世界の中で勝

ち抜くには、会社の中に閉じこ

もったクローズドイノベーショ

ンでは難しいでしょうね。

勝本 

ソニーはオリジナルなプ

ロダクトで評価してもらってい

るところもありますが、スター

トアップ企業を買収して、ソ

ニーブランドで大きくなったも

のもたくさんあります。

吉澤 

東京医科歯科大学もソ

ニーブランドに名を連ねる時が

来るでしょうか。ただ、東京医

科歯科大学だけ、ソニーだけ、

という閉じた世界では限界があ

るでしょう。私たちが目指すイ

ンテリジェントホスピタルも、

ソニーと本学だけでは実現でき

ません。

勝本 

そうですね。医療機器の

中でも当社はイメージング領域

が得意ですが、X線やMRIな

ど当社では手掛けていない分野

もたくさんあります。そのよう

に適材適所で関わっていくこと

がますます重要になるでしょう。

吉澤 

そうなると、産学連携の

形も随分変わってくるはずです

し、変えていかなければいけない

と考えています。企業とプロジェ

クトごとに個別に連携するので

はなく、基礎研究から一緒に取

り組んで新しい研究分野を創成

する段階や、実用化を目指す段

階、実用化が目前となった段階

など、それぞれのフェーズで連

携していく。そのような段階を

ふまえて社会貢献するのです。

勝本 

私たち企業にとっても、

社会貢献は避けられないもので

す。もはや利益だけ追求する企

業はどんどん淘汰されてしまい

ます。そんな中にあって医療分

野は非常に大きなテーマです。

包括連携を結ぶ前の私たちは医

療業界のお作法もわかっていな

い状態でしたから、ここで学ば

せてもらって本当に良かったと

思っています。

吉澤 

本学がオープンイノベー

ション機構という組織を立ち上

げることができたのも、ソニー

との包括連携協定という実績が

あったからです。私たちの中に

もソニーとの取り組みを通じて

蓄積された知識や経験がありま

すから、ソニーともさらに組織

対組織で、未来に向けた産学、

医工連携を推進できればと考え

ています。本日はどうもありが

とうございました。

“産学×医工”連携で未来に新たな価値を 東京医科歯科大学とソニー包括連携のこれから

特集 1 特別対談

ソニー(TMDUオープンラボ)

細胞・血液分析(誘電分光)先端光イメージング

遺伝子解析細胞イメージング評価

低侵襲医療センター

循環器内科

医学部附属病院手術部

糖尿病・ 内分泌・代謝内科

難治疾患研究所

腎泌尿器外科

眼科

医学部附属病院検査部

小児科

呼吸器内科

包括連携プログラム「ビジュアライズド・メディスン」における連携 ソニー、東京医科歯科大学が有する全ての研究分野・開発分野・技術力が主体となり、相互に組織が協働できるテーマに取り組める体制となっている。従来型の特定テーマに絞った産学連携の枠に収まらない協業を実現可能にすることが狙いだ。