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誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 障害者 雇用 平成30年5月25日発行・毎月1 回25日発行・通巻第489号 ISSN 0386-0159 No. 489 2018 6 6 月号 「花の手いれ」山口県・松 まつ よし かず さん LSC

障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

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Page 1: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています

障害者と雇用

平成30年5月25日発行・毎月1 回25日発行・通巻第489号 ISSN 0386-0159

No.4892018 6

6 月号

「花の手いれ」山口県・松まつ

尾お

仁よし

和かず

さん

グラビア

人材開発の視点で、職場定着と地域生活を実現

~アステラス総合教育研究所のグリーンサプライ支援室を訪ねて~

アステラス総合教育研究所株式会社、つくばLSC障害者就業・生活支援センター(茨城県)

会社のモットーは「あわてず・あせらず・あきらめず」

島根ナカバヤシ

サンワークス株式会社(島根県)

経営理念は「障害者・健常者が共存共栄できる会社」

有限会社真京精機(栃木県)

編集委員が行く

職場ルポ

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工藤修子

この絵は「音楽を絵で表現したものを見てみたい」という知人の一言から生まれました。

私がイメージする音楽ジャンル「ポップス」を画用紙と黒のペンのみで表現しています。

このほかにも「クラシック」、「ロック」などを描き分けた作品もあります。

ポップス

工藤修子(くどう のぶこ) 私は、20代前半で統合失調症の診断を受けました。服薬とマイペースな行動を心がけ、周囲の方々に支えられて、いまは就労継続支援B型事業所「ほ・だあちゃ」に通所しています。この事業所のように、「アート」に重きを置いている施設は、青森県ではまだまだ珍しいようです。もっと多彩な分野の就労支援事業所が増え、その人の得意分野を活かして社会とつながる、ということが当たり前な社会になれば嬉しいです。

文:工藤修子

特定非営利活動法人ドアドアらうんど・青森

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12

19

インフォメーション

エ ッ セ イ

国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練生募集のお知らせ/2018 年度「地方アビリンピック」開催地一覧/障害者の雇用をお考えの事業主の方へ 就労支援機器をご活用ください!

最終回 視覚障害者の就労に思う 有限会社アットイーズ 取締役社長 稲垣吉彦

15グ ラ ビ ア会社のモットーは「あわてず・あせらず・あきらめず」島根ナカバヤシ サンワークス株式会社(島根県) 写真/文:小山博孝

2

10N O T E

この人を訪ねて

職 場 ル ポ 4

経営理念は「障害者・健常者が共存共栄できる会社」有限会社真京精機(栃木県)文:清原れい子/写真:小山博孝

編集委員が行く 20

人材開発の視点で、職場定着と地域生活を実現~アステラス総合教育研究所のグリーンサプライ支援室を訪ねて~アステラス総合教育研究所株式会社、つくば LSC 障害者就業・生活支援センター(茨城県)編集委員 朝日雅也

多様な人財が成長できる企業でありたい 大東コーポレートサービス株式会社 品川サービス部次長 辻庸介さん

働く障害者をみんなで支えるために Vol.3専門的な支援機関との連携

障害者と雇用

◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(http://www.jeed.or.jp)

表紙の説明表紙の説明表紙の説明        「菖しょうぶ

蒲の花の線がきれいだったので、題材に選んで描きました。私は、線を描くのが好きなのですが、背景の景色を描くのがむずかしかったです。いまの仕事では、柳井市の民芸品“金魚ちょうちん”をつくっています」

(平成29年度障害者雇用支援月間ポスター原画募集 高校・一般の部高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞)

ニュースファイル

掲 示 板

28研究開発レポート障害のある人の職業生活を地域で支えるさまざまな機関・職種の連携や人材育成の課題障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門

第26回職業リハビリテーション研究・実践発表会(発表者募集のお知らせ)

26霞が関だより平成30年度 障害保健福祉部予算案の概要(1)厚生労働省 障害保健福祉部

No.4892018 6 月号

前頁

ポップス 作者:工藤修子(特定非営利活動法人ドアドアらうんど・青森)心のアート

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32

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2働く広場 2018.6

多様な人財が成長できる企業でありたい多様な人財が成長できる企業でありたい

――大東コーポレートサービスについて簡単に

ご紹介いただけますか。

辻 

弊社は、大東建託グループ各社から事務サ

ービス、印刷、ものづくりの三つの業務を中心

に、500種類を超える業務を請け負っていま

す。特例子会社として障害者を雇用して、一般

企業に負けないようなクオリティの製品をつく

ることを目ざして、今年14期目に入りました。

――辻さんはいつ入社したのですか。

辻 

会社としての形ができてきた2008︵平

成20︶年です。大学を卒業してから約2年間、

知的障害者の福祉作業所で仕事をした後、NP

O法人などで働いていました。「企業のなかで

障害者が活躍する、面白い職場がある」という

話を聞いて、こちらに来ました。みなさん、仕

事に対する姿勢も前向きで、「企業で働く人た

ちがこんなにいるのだ、こういう場所があるの

は素晴らしい」という感想を持ちました。

――一緒に仕事をするうえで、どんなことを大

切にしてきたのですか。

辻 

当初は、コミュニケーションをとることを

第一に考えました。お昼休みに何もしないのは

もったいないと思い、ボードゲームやカードゲ

ームを一緒にしたところ、言葉で表現するのが

むずかしい人も参加できました。「場を共有す

ることで、お互いの心が通じ合っていく」よう

なところがあり、そのうちに本音がポッと出た

り、仕事上では聞けない話をたくさん聞けるよ

うになりました。ゲームを通して互いに親しみ

がわき、輪ができていくことが面白かったです。

 

もう一つ興味深かったのは、例えば立体四目

並べや言葉遊びなどのゲームで、知的障害のあ

る社員に、健常の社員がまったく歯が立たない

ことがあるのです。そういう場面に出くわすと、

「障害とは何だろう」と考えざるを得ません。私

たちは、「障害」という言葉に惑わされていて、

社員一人ひとりの「能力=才能」を見逃してい

るのではないか、と気づかされました。

 ――社員の力を引き出すにはどんな工夫をして

いますか。

辻 

弊社には、創業以来の工夫をまとめた「8

つの工夫」というものがあります。まず第一に

掲げているのが、「障害種別にあてはめずに、

個人の能力に着目することが大事だ」というこ

とです。知的障害だからこの仕事、精神障害

だからこの仕事と一方的に決めつけるのではな

く、実際に作業を行ってもらい、個人の強みを

把握するようにしています。また、個別指導の

重視、手順書などのマニュアル化、指示の一本化、

優先順位や作業内容の「見える化」、明確な目

標設定、ほめて伸ばす指導でやる気を引き出す、

なども心がけています。

 「8つの工夫」の最後には、ミスを出さない仕組

みづくりがあります。特例子会社は障害者雇用

を推進しますが、会社組織ですので、品質にも

こだわりますし、特に事務系の業務ではミスな

大東コーポレートサービス株式会社 品川サービス部次長辻 庸介さん

〈つじ ようすけ〉 1977(昭和52)年、大阪府生まれ。2001(平成13)年、明治学院大学卒。福祉作業所、NPO法人に勤務後、2008年、大東コーポレートサービス株式会社入社。品川サービス部次長。〈大東コーポレートサービス株式会社〉2005年設立。社員数 346人( うち障害者 70人。約半数は知的障害者 )。2016年、大東ビジネスセンター株式会社と合併。拠点は、品川区 (本社 )、北九州市、浦安市。アパート、マンション、貸店舗などの建設、不動産仲介・管理などを行う大東建託株式会社の特例子会社。

ゲームからコミュニケーション

が深まった

個人の能力を見極める

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3 働く広場 2018.6

く行うことが必須になります。そのため、作業

工程を細分化することでミスを発見しやすくし、

社員の得意な部分を活かせるように工夫するこ

とで、仕事全体のクオリティを高めています。

――当機構が主催する「障害者雇用職場改善好

事例」において毎年優秀な成績を収めています。

何か秘訣があるのですか。

辻 

会社設立当初から「まず、やってみよう。

それでだめなら、改善しよう」という考えが浸

透しています。そのため現場では、大小さまざ

まな工夫改善が常時行われており、新しい職

域にも積極的にチャレンジしています。応募を

目的に改善をしているわけではないのですが、

日々の改善の結果が受賞につながっているので

はないか、と思っています。

  ――「障害を理解するためのハンドブック」を

つくったり、社内報で情報を発信していますね。

辻 

社員が働きやすい職場にするため、TQC

活動(※1)、社員旅行、家族連絡会などの社内イ

ベントを通じて、社員同士のコミュニケーション

がとりやすい環境づくりを行っています。

 

弊社は、大東建託グループのTQC活動の全

国大会で優勝したことがあります。その大会で

は、障害者雇用のノウハウをまとめたパンフレ

ットを成果物として作成しました。この優勝を

きっかけに、グループ全体に障害者雇用につい

て発信することができ、とてもよかったです。

――親会社への働きかけは、特例子会社として

は大切ですね。

辻 

親会社でも障害者雇用は進み、雇用率はグ

ループ全体で2・9%です。全国200以上ある

支店で、一支店につき一人の採用を目ざしていま

すが、近年では定着率がテーマになっています。

グループ全体として、障害者が活躍できる会社

にしていきたいという思いもあり、特例子会社

での採用はもとより、大東建託グループでの障

害者雇用の質をさらに高め、障害者の活躍の場

を広げていきたいと考えています。

 ――これからどんなことに力を入れたいですか。

辻 

100人の社員のうち、60人が障害者だっ

た特例子会社が、2016年に大東ビジネスセ

ンターと合併して社員数が300人を超え、障

害者の割合は20%ぐらいになりました。

 

合併相手は業務量が豊富で、障害者雇用の視

点からみても魅力的な仕事もあるので、その仕

事を障害者の職域として、どう工夫すれば取り

込んでいけるのか、挑戦のしがいがあります。

実際、本格的なシェアードサービス(※2)の業

務に取り組んでいる特例子会社は多くありませ

ん。シェアードサービスの拡大と障害者雇用推

進、両方を実現できる会社になるよう、まずは、

障害者の職域を広げていくことからはじめてい

きたいと考えています。

――「福祉」から「企業」へ転職。前向きに取

り組まれていますね。

辻 「企業での就労がむずかしい」といわれて

きた障害者が、「この会社なら働ける」といっ

て入社し活躍してくれているのが、とてもうれ

しいです。社会に出て働きたいという人が1人

でも増えてくれればと思います。

――仕事以外では何か趣味はお持ちですか。

辻 

大学卒業後にはじめた書道を続けていま

す。古典をベースにした現代書です。江戸から

明治に変わったとき、書を西洋の絵画と同じよ

うにとらえる人たちが出てきました。その魅力

を受け継ぎながら書くことに興味を持っていま

す。いつか書いてみたい好きな言葉があります。

岩崎航わたると

いう、自身が進行性の筋ジストロフィ

ーを抱えている現代詩人の詩です。﹃障がい者

は戦争のない/平和の中でのみ/生きていける

/だからこそ平和を担う/世界市民となれるは

ず﹄。この詩を読むと、特例子会社だからこそ

できる価値があるんだ、と勇気づけられます。

――最後に今後の目標をお聞かせください。

辻 

今期から5年間、障害者雇用だけでなく、

ダイバーシティを推進するプロジェクトを立上

げます。社内にはアルバイト、パート、短時間

勤務など、いろいろな条件で働く方がいます。

障害者・健常者がともに活躍できる会社、それ

ぞれが違う条件・環境・背景で働いていること

を認めあえる、ダイバーシティの会社を目ざし

ていければと思います。特例子会社が、障害者

雇用の会社という枠を超えて、多様な人たちが

活躍できる会社となることを目ざしたいと思っ

ています。

――ありがとうございました。

特例子会社から親会社へ発信

職域を広げ、

多様性を尊重した会社に

※ 1 TQC活動:総合的な品質管理を目的に、現場の問題発見から要因分析を行い、業務改善を図る活動※ 2 シェアードサービス:グループ会社の人事・総務・経理の仕事を一つに集約して利益を出していくこと

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4働く広場 2018.6

        

経営理念は「障害者・健常者が共存共栄できる会社」

(文)清原れい子 (写真)小山博孝

有限会社真京精機〒321-4406 栃木県真岡市京泉2203TEL 0285-83-3145 FAX 0285-82-0424

取材先データ

Keyword:特別支援学校、製造業、障害理解、職場環境の整備

― 有限会社真しん

京きょう

精機(栃木県)―

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5 働く広場 2018.6

全国アビリンピック栃木大会開会式の

プレゼンテーション映像で、障害者が働

く一企業の製造現場が紹介された。もの

づくりが海外に移転しているなか、その

企業に関心を持った。

真も

岡おか

鐵道の真岡駅から車で10分ほどの、

栃木県南東部の田園地帯に「有限会社真

京精機」がある。従業員数38人。そのう

ち12人いる知的障害者全員が、マシニン

グセンターと旋せん

盤ばん

のオペレーターとして

メイン業務に就く。

工場では、大手自動車メーカーのカー

エアコンの冷却部品をはじめ、海外で販

売される大型自動二輪の新機種に使われ

る部品、エレベーター内の重要部品など、

100分の1、1000分の1㎜単位の、

精密で高度な加工部品が製造されてい

る。「Shink

yo」のロゴ入

りの青いポロシ

ャツで、切せっ

削さく

工の作業を行う

人たちのだれに

障害があるのか、

見学者にはわか

らない。工場は

24時間体制で稼

働し、障害者も

夜勤を担当する。

経営理念は「障害者・健常者が共存共

栄できる会社」。「共存共栄」には、「世の

中に必要でない人は絶対にいない!」と

の思いが込められている。会社の理念、

障害者雇用には、3代目社長の武田浩之

さんの強い信念がのぞく。

「経営理念は専務時代に考えましたが、

自分への戒いましめ

でもあるのです。ものづく

りは、人をつくって、なんぼだと思いま

す。一人ひとりの特徴に合わせた仕組み

をつくれば、障害者も仕事ができます。

働くチャンスは、だれにでもある。会社

は、その人の短所を長所に変えるように

しなければいけない。工場で働く人たち

は、だれも障害者に見えないでしょう?」

量産品に固執せず、小ロット・高品質

の製品をつくり、出来上がった製品で勝

負する。

「不良品が出るのは仕組みが悪い。不

良品ができない仕組みを考えればいいの

です。売上げを上げるより、粗あら

利り

を上げ

るほうが大事です。また、最近の企業は、

よく『即戦力を』といいますが、定年ま

で30年も40年もあるのに、即戦力だけで

は息切れしてしまう。ゆっくりでいいで

はないですか」

といいつつ、武田さんはとてもエネル

ギッシュ。3代目として、順調に会社を

継いだと思いきや、今こん

日にち

までには倒産危

機のドラマがあった。

真京精機は1974(昭和49)年、武

田社長の祖父が近隣の主婦たちを雇用し、

農村工場としてスタートした。創業後ま

もなく、障害者が働き始めた。工場が遊

び場だった武田さんは、身体や知的に障

害がある人たちと、ごく自然に接しなが

ら育ってきた。

「小さいころから車いすや松葉づえにも

接していたので、自分には障害者とか健

常者という垣根がないかもしれません。

仕事をしていても、障害者とは意識して

いないですね」

何不自由なく育った武田さんは、取引

先の親会社で武者修業をした後、200

0(平成12)年に入社した。その数年後、

「来月、会社がつぶれます」と税理士から

告げられる。仕事は忙しく、残業続き。

なのに倒産?

そこで初めてわかったのは、

父親の古い経営体質だった。順調だった

日々が一変、軽トラックを運転し、専務

として会社の立て直しに奮闘することに

なる。

そのとき、他所でも仕事ができる人た

ちは退職していった。障害者も同様だっ

た。約50人いた従業員は16人にまで減り、

残ったのは高齢従業員と、掃除などの補

助作業をしていた障害者の人たちだった。

障害者を戦力にしなければ、会社は再建

        

経営理念は「障害者・健常者が共存共栄できる会社」

小ロット・高品質の

製品で勝負

障害者と試練を乗り越え、

いまがある

代表取締役社長の武田浩之さん

① 仕事に人を合わせるのではなく、仕事を人に合わせる② 治具を工夫し、ハンディキャップを長所に変える③ 業績を共有。社内表彰で、障害がある社員の 「がんばり」を評価する

POINTPOINTPOINT

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6働く広場 2018.6

「特別支援学校から実習に来る生徒さ

んたちは、素直で教育がしやすいです」 

 

近年は、在学中に職場実習をした特別

支援学校の卒業生が入社してくる。田中

さんは、「同じ学校を出たというつながり

は重要」と感じている。

「先輩が働く姿を見て、後輩が入ってき

ます。特別支援学校ではあいさつをしっ

かり教え、体力づくりを重視しているの

で、会社にとってもありがたいです」

特別支援学校の教員、障害者就業・生

活支援センター、家族とは定期的に連絡

をとっているが、生活面でトラブルに巻

き込まれる人もいる。通信機器を10数台

も契約させられたり、いわれるまま宗教

団体に勧誘されたり、出会い系サイトで

騙だま

されるなど、誘惑はかぎりない。田中

さんは、弱みにつけ込む世間に対する怒

りもある。

「仕事の指導のほうが楽ですね。社長が

朝礼で、お金の使い方なども教えていま

すが、なかなか浸透しづらい。何か問題

が起こったときは支援者に相談し、支援

者がいない人は家族を呼び、対策を話し

合います。家庭がしっかりしている障害

者ばかりではないので、親の代わりに叱

ることもありますよ」

障害者はパート雇用で、条件は健常者

できない。武田さんはその片腕として、

新入社員の田中康こう

司し

さんに「残ってほし

い」と懇願した。現在、統括部長を務め

る田中さんは専務の心意気を受け止め、

行動をともにする。

2人は現場で障害者にマンツーマンで

作業を教えながら、利き腕や体の大きさ

など一人ひとりに合わせて加工治じ

具ぐ

(※)

をつくった。無我夢中だった当時を、田

中さんが振り返る。

「工具も、ちょっとした長さの違いで使

いやすい、使いづらいがあるのです。そ

れが障害者の方だとより顕著に現れます。

そこで、このやり方だったらできるとい

う方法を考え、ハンディキャップを長所

に変えて、利益につながる作業ができる

ように教育しました。また、取引先が一

社のみのときもありましたが、専務が営

業に回ることで徐々に取引先も増え、障

害者が戦力になったことで業績も回復し

てきました」

現場は、田中さんたちに任された。

「専務が営業で外に出ていると、社内の

体制が弱くなったり、いろいろな問題が

出てきましたが、『内部はお前らに任せる』

と。専務はその姿勢を続けて、いいたい

ことも我慢しながら、いまに至っている

と思います」

かつては営業先に「障害者を雇って大

丈夫か」と不安そうに聞かれたが、それ

も過去の話。障害者がつくり出す高品質

の製品が取引先に認められるようになり、

武田さんは、会社案内に「障害者雇用」

を大きく掲げている。

「マシニングセンターで自動車部品をつ

くっている会社は、日本に星の数ほどあ

ります。うちの売りは何かと考えたとき、

企業の社会的責任が問われる時代に障害

者雇用をアピールしていけば、結果とし

てお客さんの信用も得られるのではない

か。障害者と健常者の垣根が自分にはな

かったので、そう、すんなり考えられま

した」

真京精機には、40年近く働く50代の知

的障害者もいれば、取材の日に入社した

人もいる。これまで就職希望の障害者は、

ほぼ全員を受け入れてきた。そこにも、

武田さんの信念がのぞく。

「面接ではいいことしかいわないので、

実際に仕事をしてみないと、できるかど

うかはわからない。雇用したら、仕事を

とってきて、その人の障害に合わせて、

短所を長所に変えるような仕組みを考え

ればいい。その人を仕事に合わせるので

はなくて、その人に仕事を合わせる。う

ちは考え方が逆なのです。だから、入社

後に辞める人はほぼいません」

これまでの経験から、武田さんの特別

支援学校への評価は高い。

人に合わせて、

仕事をつくる

働きたい人は、

みんな「労働者」

統括部長の田中康司さん(左)と、飛川真彦さん(右)

※治具:部品や工具を固定する道具のこと

真京精機の工場内

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7 働く広場 2018.6

る。「

品質面の管理、不良品を出さないため

の対策を考えて、いいものがつくれるよ

うに現場で指導しています」

社長とともに歩んできた2人に、社長

評を聞いた。

「ぶれない。“こうあるべきだ”という

ことは絶対曲げない。組織のトップはこ

うあるべきだということを明確に示して

くれています」と田中さんは絶大な信頼

を寄せる。

「社長は、従業員の生活まで考えてくれ

ています。厳しさの後ろに優しさが感じ

られます。いいづらいことも、その人の

ためを思ってアドバイスしてくれるので、

自分の成長につながっています。いい社

長だと思います」と飛川さん。会社の中

心メンバー3人の絆は深い。

武田さんは従業員全員に会社の業績を

伝え、年2回、社内表彰を行う。

「障害者のなかにはわからない人もいま

すが、決算の数字を教えています。ちゃ

んと儲かっているとか、あなたがいるか

ら会社は成り立っていると伝えるように

しています。生きがい、やりがいを持っ

てもらいたい。がんばったことが認めら

れれば、だれでもうれしいでしょう」

仕事の合間に、2人から話を聞いた。

と同じ。仕事ができれば昇給し、夜勤を

している人もいる。ここにも武田さんの

思いがある。

「障害者と思って雇うか、労働者と思っ

て雇うかの違いだと思います。お金がほ

しくて働きに来ている人は労働者だと見

れば、障害者も健常者も関係ないですよ。

その人が働きやすい環境をつくり、若干

でも昇給する。『世の中に必要でない人は

絶対いない!』という、うちのキャッチ

コピーがあります。働いていれば納税の

義務がありますから、社会の役に立って

いる」

田中さんも、障害者と働くことを大事

にしたいと考えている。

「健常者の技術者募集の求人を出すと、

ホームページを見て『障害者が多いね』

と敬遠する方もいますが、障害者が働い

ていることを理解してくれる人に入って

もらいたいと思います。うちの特色を、

大事にしたいです」

飛とび

川かわ

真彦さんは、倒産危機を乗り越え、

新たなスタッフが必要になった2007

年に入社した。品質保証と広報を担当す

あなたたちがいるから、

会社は成り立っている

真京精機の工場内

複雑に加工された製品

Page 10: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

8働く広場 2018.6

務をこなし、「作業はいちばんうまい」と

いわれるほどに成長した。一方で、「障害

者手帳を持っていなくても、明らかにメ

ンタルが不調と思える人もいる」と武田

さんは話す。

「手帳を持っていないグレーゾーンの人

のほうが、本人が自覚していない分、問

題が多いように感じます。障害者の人た

ちには『作業服はきちんと』という、社

会生活の基本から教育をするので、みな、

きちんとしています」

20代から代表取締役専務として会社経

営をになってきた武田さんは、父親を反

面教師として自ら体験しながら学び、2

017年に3代目社長に就任した。

「創業者のように取組んできたため、『初

代社長に近いよね』とよくいわれます。

ボンボンからいまのように気持ちが変わ

るまでは、相当苦労しました」

発する言葉には、実体験に裏打ちされ

た重みがある。健常者・障害者と区別せず、

労働者ととらえる。薄利多売路線を歩ま

ず、高品質なものをつくり、売上げより

粗利を重視する。設備をフル活用するた

め、工場は24時間稼働する。この会社に

障害者が入社すれば、定着率はほぼ10

0%。みな、まじめに働き、無断欠勤し

ない。そこには経営者としての冷徹な目

小柳裕ひ

基き

さん(22歳)は、職場実習を

経て4年前に入社した。「ここで働けそう

だと思いました。レンチを使うときの締

め方がむずかしかったです」

これまでにいろいろな作業を経験し、

半年前にマシニングセンターのオペレー

ターになった。

「得意なのは、いまの仕事です。気をつけ

ているのは、締め忘れをしないようにす

ることです。締め忘れは、ほぼないです」

動画を見るのが大好きで、スマートフ

ォンが手放せない。

「休みの日は遊びに行きます。デパート

で買い物をしたりします。ずっと働き続

けたいです」

久保野涼りょうさん(24歳)は、入社6年目

を迎える。

「高校3年生の夏休みに実習にきまし

た。小さいころから金属の部品を眺めて

いるのが好きだったので、ここで働きた

いと思いました。機械に材料をセットし

て、できたものを取り出す。加工したも

のがきちんと完成しているかを確認しま

す。つくっているのは、エレベーターの部

品だと聞いています。製品に傷をつけな

いように気をつけています」

「久保野さんはベテランなので、何でも

できる。レベルが高く、一つひとつの所作

がしっかりしている。細かい作業が得意

です」と田中さん。「彼は細かいものを丁

寧に仕上げるのが好きなので、ものすご

く丁寧になってしまう。『そこまでしなく

ていい』と納得させるのがたいへん」と

武田さんが明かす。

久保野さんも、いろいろな部署を経験

してきた。「挫折しないかぎりは、定年ま

で辞めないつもりです」という。

ほかには、ひきこもりだった人もいる。

4時間勤務で働き始め、いまは8時間勤

将来は、

寮をつくりたい

マシニングセンターのオペレーターとして活躍する小柳裕基さん

製品に傷をつけないよう丁寧に作業を進める久保野涼さん

Page 11: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

9 働く広場 2018.6

会社案内に障害者雇用をうたい、数々

の表彰状を載せているのは、信用できる

会社だと取引先に伝えたいから。経営コ

ンサルタントを雇わないのは、どこかの

会社の話をされても、実体験にはかなわ

ないと思っているから。弱みを強みに変

えるのではなく、元来ある〝強み〟をさ

らに伸ばそうと考える。

「メインは自動車部品のアルミの切削加

工ですが、『依頼があれば何でもやります』

と営業しています。うちには材料の切断、

加工とさまざまな工程がある。切断や洗

浄、製品検査で困っている会社があれば、

『ぜひやらせてください』と営業していま

す。会社が発展していくためには、人が

大事。昔の人がいうように、人・もの・

金という順番です。大手はロボットを入

れて量産していますが、莫大な設備投資

がかかります。うちは、いまの仕事がい

つ海外の工場に取って代わられるかわか

らないから、投資はできない。大手がで

きない小ロット品に目をつけて、人手で

やるしかないのです」

武田さんは社長として、会社の、そし

て障害者雇用の今後を見据えている。

「親がいなくなり、残された40~50代

の独身の障害者はどうなるのか。いまは

福祉制度がありますが、将来の国の財政

が不安定ですので、いずれうちで寮をつ

くりたいと思っています。寮に入ったら、

仕事が減ったから出て行け

とはいえない。永遠に仕事

を提供しなくてはいけな

い。自分に対するプレッシ

ャーにもなるので、それも

いいと思います」

プレッシャーをも楽しん

でいるかのように、そうい

い切れるのがすごい。

自らの信念で障害者を雇

用し、高品質の製品を世に

送り出す。ものづくりが海

外に移転をしているなかで、

障害者と「共存共栄」する

企業にエールを送りたい。

もあった。

「人件費を10%下げられれば、粗利が増

えます。むずかしいものを、人件費を抑

えてつくることがで

きれば、会社の体力

は上がります。うち

は古い機械を使って、

人件費も抑えて、高

品質のものをつくっ

ているのです」

障害者雇用の講演

を引き受けているの

も、ビジネスチャン

スにつながればとい

う思いがあるから。

マシニングセンターを操作して製品を加工する高橋智とも

一かず

さん。入社 10年目のベテランだ

実習中の新人に、ベテラン社員(左)がつきっきりで指導にあたる

指導マニュアル。機械などを工夫し、各自に合わせた指導をしている

マシニングセンターの操作盤。使用するボタン以外は、カバーがしてある

Page 12: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

10働く広場 2018.6

した。当初、リネン室で洗濯物をたた

む軽作業を行う予定でしたが、2階の

リネン室は車いすが使用できないため、

1階の事務室で事務補助の作業に就く

ことになりました。

 

障害者トライアル雇用の3カ月間は、

短時間ですが毎日出勤し、仕事帰りに

Melkに電話で報告することが日課

となりました。岩田さんに様子をたず

ねると「注意されることもありますが、

うまくやっています」という答えが返っ

てきました。しかし、Melkの職員

は「職場で注意されているようであれ

ば、事業主さんは困っているのかもしれ

 「社会福祉法人千寿会」が運営する

「特別養護老人ホームきくの郷」の事

務室で、電話対応や郵便物の取りまと

めなどを担当しているのが、岩田智とも

幸ゆき

さん(46歳)です。現在、車いすを利

用して仕事をする岩田さんは、20代の

ころに多発性硬化症を発症。転職のた

めに、地元のハローワークで求職活動を

はじめました。

 

ハローワークの難病サポーターが、岩

田さんとの相談を開始したのが就労支

援のはじまりです。当初、神奈川障害

者職業センター(以下「職業センター」)

のサポートを得ながら、すぐに就職し

たいと考えていましたが、岩田さんの症

状が進んだため、就職に向けては段階

的に進めていくことにしました。そこで、

ハローワークから岩田さんに、自宅近く

の就労移行支援事業所の活用について

提案があり、本人が自治体の福祉課と

相談し、「就労移行支援事業所Melk

本厚木office」(以下「Melk」)

に通所することになりました。

 

Melkに通いはじめた岩田さんは、

ほかの利用者同様、プログラムを利用し

て就労準備を進めました。しかし、病

気の進行による筋力低下のほか、とき

おり物事を忘れてしまう様子も見られ

ました。

 「『働きたい』という意欲が高かった岩

田さんは、病気の進行という不安を抱

えながら、モチベーションを保つための

支援が必要でした。そのため、本人が自

身の症状に対する理解を深めたうえで、

できる仕事をいっしょに探していきまし

ょう、と提案し支援の方向性が固まっ

ていきました」とMelkの寺てら

戸ど

さん。

 

その後、地域で障害者雇用に積極的

に取り組む「きくの郷」で、岩田さん

は障害者トライアル雇用の機会を得ま

専門的な支援機関との連携今回は、就労準備の段階から、ハローワークや支援機関などが

連携して支援にあたり、現在も職場定着支援を続けている事例を紹介します。支援にかかわった方々にお話をうかがいました。

取材協力/社会福祉法人千寿会(神奈川県高座郡寒川町)社員(契約社員など含む)220人、障害者社員8人(身体1人、精神5人、知的2人)、就労移行支援事業所Melk 本厚木offi ce

車いすで電話対応などの

事務を担当

働く障害者をみんなで支えるために Vol.3

状況に合わせて

支援の方向性を探る

岩田さんの支援ネットワークと役割

ハローワーク

 (職場)特別養護老人ホームきくの郷

就労移行支援事業所Me l k

神奈川障害者

職業センター

難病サポーター

医療機関

本人(岩田さん)

ジョブコーチ

・職業紹介・難病サポーターとの相談・地域の支援機関の 利用を提案

・上司や同僚から 業務上の配慮

・ジョブコーチを 派遣

・就労に向けた プログラム提供・就活準備支援・生活面などの相談・内容に合わせて 相談先をアドバイス

・ソーシャルワーカーによる 入退院手続き、制度利用の アドバイス・医師による治療

・本人から病状に ついての 相談を受ける・相談内容により 医療機関へ連絡

・事業主に職場環境の 工夫などをアドバイス・本人へ仕事について アドバイス

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11 働く広場 2018.6

位置に席を移動したり、電話の横に対

応時のセリフカードを置くなど、どれも

些細な工夫ですが、ジョブコーチが支援

に入ったことで、職場のみなさんは岩田

さんの状況や支援の必要性について、初

めて気づくことができたといいます。

  

先日、岩田さんがトイレ使用時に転倒

するというアクシデントがありました。

それまで岩田さんは、車いすから杖を使

ない」と考え、「きくの郷」にも様子を

たずねました。すると心配していた通り、

事業主が困っていることがわかりまし

た。そこで、Melkは本人と事業主に、

職業センターのジョブコーチの活用を提

案し、ジョブコーチによる支援を開始し

ました。

 

ジョブコーチは岩田さんの仕事の様子

を確認したうえで、職場環境の見直し

について事業主に提案しました。

 

具体的には、首を動かして振り向け

ない岩田さんのために、全体が見渡せる

何かあったときに気軽に

話せる人を持つこと

 社会全体で人間関係の希薄化が指摘

される時代、この「ちょっとした関係」

をつくり、保つことは容易ではありません。

 〝障害者〞という言葉は、枠組みを示

す名詞のため、人を一律に映してしま

う言葉だと思います。障害者も、年齢

相応の変化があることに加え、介護者

になるなど、健常者と同様、予想もし

なかった役割をになうことがあること

を忘れがちです。また、固定的な障害

だけでなく、精神障害や、本編のよう

な難病を発症した場合、病状の揺れや

進行もあったりします。

 このような長期的なステージのなか

で、外部の支援機関の役割の一つは「ち

ょっとした関係」をになうことである

と思います。例えば、ちょっと買い物

に出たときに知り合いと会って、「元気?

最近どうですか?」と言葉を交わし、笑

顔でさらっと別れるときもあれば、「え

ー、たいへん!

それじゃあ、明日ちょ

っと会いませんか?」となるときもある。

外部の支援機関と会社やご本人は、そ

んな「ちょっとした関係」を目ざせると

いいと思います。

 キーワードは、「抱え込まない・抱え

込ませない」ということです。認定NPO法人Switch

常務理事

小野彩香

仕事、生活、医療、支援の

分担が安心感につながる

って立ち上がり、トイレを使用していま

したが、転倒した際に起き上がることが

できないため、それ以降は施設利用者用

の車いすトイレを使用することで、転倒

の危険性を減らすことができました。し

かし、職場のみなさんは、同僚によるフ

ォローの限界を感じたといいます。

 「障害の有無にかかわらず、だれにで

もミスはありますから、職場内で仕事

のフォローはしますし、声かけや注意は

できます。しかし、体調や病状のこと

はよくわからないので、不安を感じま

す。先日のアクシデントの際は、すぐに

Melkさんと相談できたので安心し

ました。今回のようなアクシデントがあ

ったとき、相談できる支援機関があるの

はとても心強いです」と職員の飯島さん。

 

現在、岩田さんや事業所からの相談

事への対応はMelkが受けています。

相談内容に合わせて、職員が相談先に

ついてアドバイスをしています。

 「仕事に関することは、職業センター

を通じてジョブコーチに相談していま

す。病気のことについては、難病サポー

ターから医療機関につなぎ、ソーシャル

ワーカーが制度利用などについてアドバ

イスします。それぞれの分野の専門家

が効率よく支援できるので、どこか1

カ所に負担が偏ることなく、本人も職

場の方も安心できる、そんな支援がで

きていると思っています」と寺戸さんは

話してくれました。

★ 日常業務のことは職場内でフォロー

★ 抱え込まずに、専門の支援機関に相談

★ 生活面、医療など相談先を分担することで事業主も本人も安心

ポイント

訪問者にハンディキャップがあることを知らせ、理解と協力を求める

岩田さんをはさんで、Melk の寺戸さん(左)と「きくの郷」で事務作業を指導する

職員の飯島さん(右)

短期記憶が苦手なため、どこまで作業を行ったかわかるよう表示している

「特別養護老人ホームきくの郷」

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12働く広場 2018.6

訓 練 生 募 集 の お 知 ら せ

国立職業リハビリテーションセンター、国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、障害別に年間約10回の入所日を設けています。応募締切日や手続きなどの詳細については、お気軽にお問合せください。

○遠方の方については……国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、併設の宿舎が利用できます。国立職業リハビリテーションセンターでは、身体障害、高次脳機能障害のある方、難病の方は、隣接する国立障害者リハビリテーションセンターの宿舎を利用することができます。

国立職業リハビリテーションセンター  埼玉県所沢市並木4-2 職業評価課 04-2995-1712 http://www.nvrcd.ac.jp/ 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター  岡山県加賀郡吉備中央町吉川 7520 職業評価課 0866-56-9001 http://www.kibireha.jeed.or.jp/

お問合せ

 両センターでは、障害のある方の採用をお考えの事業主と連携し、個々の事業主の方のニーズや訓練生の障害特性などに応じた、特注型のメニューによる職業訓練を行っておりますのでご活用ください。ご利用いただく事業主の方には次のような支援も行っております。■ 障害特性に応じた特別な機器・設備の配備や作業遂行に関する支援方法のアドバイスなど、円滑な受入れに関する支援■ 雇入れ後の職場定着に向けた技術面でのフォローアップとキャリアプランづくりのための支援 詳細については… http://www.jeed.or.jp/disability/person/person07.html

国立職業リハビリテーションセンター国立吉備高原職業リハビリテーションセンター

~障害のある方々の就職に必要な職業訓練や職業指導を実施しています~

募集訓練コース

入所日など

事業主のみなさまへ

国立職業リハビリテーションセンター訓練系 訓練コース

メカトロ系

機械CADコース電子技術・CADコースFAシステムコース

組立・検査・物品管理コース建築系 建築 CADコース

ビジネス情報系

DTPコースWebコース

ソフトウェア開発コースシステム活用コース

視覚障害者情報アクセスコース会計ビジネスコースOAビジネスコース

職域開発系

物流・組立ワークコースオフィスワークコース販売・物流ワークコース

ホテル・アメニティワークコース

国立吉備高原職業リハビリテーションセンター訓練系 訓練コース

メカトロ系

機械CADコース電気・電子技術・CADコース

組立・検査コース資材管理コース

ビジネス情報系

OAビジネスコース会計ビジネスコース

システム設計・管理コースITビジネスコース

職域開発系

事務・販売・物流ワークコース厨房・生活支援サービスワークコース

オフィスワークコース物流・組立ワークコースサービスワークコース

○訓練の期間は……「システム設計・管理コース」、「ITビジネスコース」(ともに国立吉備高原職業リハビリテーションセンター)は2年間、そのほかの訓練コースは1年間の訓練です。

○対象となる方は……「ビジネス情報系」の「視覚障害者情報アクセスコース」(国立職業リハビリテーションセンター)、「ITビジネスコース」(国立吉備高原職業リハビリテーションセンター)は、視覚障害のある方を対象とし、「職域開発系」は、高次脳機能障害のある方、精神障害のある方、発達障害のある方、知的障害のある方を対象としています。そのほかの訓練コースは、知的障害のある方を除くすべての方が対象です。

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13 働く広場 2018.6

地方アビリンピック 検索

◆2018年度「地方アビリンピック」開催地一覧◆各都道府県における障害者の技能競技大会「地方アビリンピック」が下記の日程で開催されます。

詳細は、「地方アビリンピック」ホームページをご覧ください

都道府県 開 催 日 会 場

京 都 2月頃① 京都府立京都高等技術専門校/京都府立京都障害者高等技術専門校②京都府精神保健福祉総合センター

大 阪6月23日(土)①②③7月7日(土)①

①関西職業能力開発促進センター② 社会福祉法人 日本ライトハウス視覚障害リハビリテーションセンター③ 社会福祉法人 大阪市障害者福祉・スポーツ協会 大阪市職業リハビリテーションセンター

兵 庫 6月23日(土)①7月7日(土)②

① 港湾職業能力開発短期大学校神戸校②兵庫職業能力開発促進センター

奈 良 6月17日(日)①7月6日(金)②

①奈良県立盲学校(パソコン操作のみ)② 奈良県立高等技術専門校

和歌山 6月23日(土) 和歌山職業能力開発促進センター

鳥  取 6月28日(木) 鳥取県立福祉人材研修センター

島  根 7月14日(土) 島根職業能力開発促進センター

岡  山 6月30日(土) 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター

広  島 1 月頃 広島障害者職業能力開発校

山  口 10月13日(土)山口職業能力開発促進センター

徳 島 11月17日(土)①徳島職業能力開発促進センター②徳島ビルメンテナンス会館

香 川1月下旬、もしくは2月上旬

① かがわ総合リハビリテーションセンター②香川県立高松養護学校③香川県立香川中部養護学校

愛 媛 7月14日(土) 愛媛職業能力開発促進センター

高 知 6月30日(土) 高知職業能力開発促進センター

福 岡 6月9日(土) 国立県営福岡障害者職業能力開発校

佐 賀 1月頃

①佐賀職業能力開発促進センター (喫茶サービス以外)②村岡屋大和店 Wa café さかしめ (喫茶サービスのみ)

長 崎 7月8日(日) 長崎県立長崎高等技術専門校

熊 本 6月2日(土)6月3 日 (日)

①熊本職業能力開発促進センター②熊本県立技術短期大学校

大 分 10月頃 未定

宮 崎 7月7日(土) 宮崎職業能力開発促進センター 

鹿児島 7月22日(日)

① 鹿児島職業能力開発促進センター(義肢・家具・木工以外)② 国立・県営鹿児島障害者職業能力開発校(義肢・家具・木工)

沖 縄 7月21日(土)沖縄職業能力開発大学校

※2018年5月8日現在 ■については、予定または未定になります

開催地によっては、開催日や種目などで会場が異なります参加選手数の増減などにより、変更する場合があります

都道府県 開 催 日 会 場

北海道 10月13日(土)北海道職業能力開発促進センター

青 森 9月中旬~下旬(うち2日間)

①青森職業能力開発促進センター②ホテル青森

岩 手 7月1日(日) 岩手県立産業技術短期大学校

宮 城 7月14日(土)宮城職業能力開発促進センター

秋 田 7月11日(水)秋田市にぎわい交流館Aあ う

U(エリアなかいち)

山 形 7月10日(火)山形ビッグウイング

福 島 11月頃 福島職業能力開発促進センター

茨 城7月21日(土)~7月22日(日)12月1日(土)

茨城県職業人材育成センター

栃 木 7月14日(土) 栃木職業能力開発促進センター

群 馬 7月7日(土) 群馬職業能力開発促進センター

埼 玉 7月14日(土) 国立職業リハビリテーションセンター

千 葉 11月17日(土)千葉職業能力開発短期大学校

東 京 2月頃  東京障害者職業能力開発校

神奈川 10月25日(木)10月27日(土)

国立県営神奈川障害者職業能力開発校

新 潟 9月1日(土) 新潟市総合福祉会館

富 山 7月28日(土) ①富山市職業訓練センター②富山県技術専門学院

石 川 10月21日(日)石川職業能力開発促進センター

福 井 7月8日(日) 福井県立福井産業技術専門学院

山 梨 9月30日(日 ) 山梨職業能力開発促進センター

長 野 7月21日(土) 松本市総合体育館

岐 阜 7月7日(土) 東海職業能力開発大学校

静 岡 7月7日(土)①静岡市清水文化会館マリナート② 静岡市東部勤労者福祉センター 清水テルサ

愛 知7月8日(日)①7月15日(日)②7月21日(土)③

① 学校法人 珪けい

山ざん

学園 専門学校  日本聴能言語福祉学院(義肢)②大成研修センター (ビルクリーニング)③ 中部職業能力開発促進センター

三 重 12月頃 未定

滋 賀 11月頃 ①滋賀職業能力開発短期大学校②滋賀職業能力開発促進センター

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14働く広場 2018.6

▲ ▲

就労支援機器をご活用ください!障害者の雇用をお考えの事業主の方へ

中央障害者雇用情報センターでは、障害者を雇用している、または雇用しようとしているみなさまに

無料で 就労支援機器の貸出し を行っています。

「就労支援機器」とは障害者の就労を容易にするための機器のことで、例えば視覚障害者を対象とした拡大読書器(コントラストを高めたり、写真などを拡大し見えやすく表示するもの)、聴覚障害者を対象とした会議用拡聴器といったものがあります。

就労支援機器をホームページでもご紹介しています

検索

検索

http://www.kiki.jeed.or.jp/

就 労 支 援 機 器 の ペ ー ジ

●書類や写真などを拡大表示する機器です。●コントラストや色調の変更も可能なため より見やすく調整することができます。●卓上型、携帯型など活用シーンに合わせて 選択できます。

申請書を記入し、メールまたは郵送でご提出ください※申請書はホームページよりダウンロード

できます

お問合せ先

〒130-0022 東京都墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階TEL 03-5638-2792 E-mail [email protected]

中央障害者雇用情報センター

決定内容を通知し、機器を配送します 機構契約業者が回収にうかがいます

障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主など※国、地方公共団体・独立行政法人等は除く

原則、6カ月以内 ※職場実習やトライアル雇用の際も利用できます

就労支援機器を常設にて展示しているほか、説明会を随時開催しています

申請書の提出 貸出し決定 貸出しの終了・回収

拡大読書器

貸出しの対象となる事業主

貸出し期間

貸出しの流れ

補聴システム(集音システム) ノイズキャンセラー

パーテーション

●マイク(送信機)が拾った音を直接、 補聴器や人工内耳に届けるシステムです。●聞きたい音を大きくできるので就労の あらゆる場面で有効に使用できます。

●視覚的・聴覚的な刺激を低減させること で、周囲の状況に影響されずに集中でき

る環境を整えます。

▲以上は一例です

受信機

マイク送信機

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グラビア

写真 /文 小山博孝

会社のモットーは

「あわてず・あせらず・あきらめず」

島根ナカバヤシ サンワークス株式会社(島根県)

島根ナカバヤシ サンワークス株式会社 〒691-0031 島根県出雲市東福町498-1TEL 0853-63-3875 FAX 0853-63-3508

島根ナカバヤシ株式会社 〒693-0058 島根県出雲市矢野町391-3TEL 0853-21-7755 FAX 0853-22-5986

取材先データ

Page 18: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

島根ナカバヤシ

サンワークス株式会社の

ランチタイムが始まった。みなさん、それぞれ

お弁当を広げ、おしゃべりをしながら楽しい

時間を過ごしている。このなかに、仲よく並ん

で食事をする2人がいる。小川広ひ

輝き

さん、友ゆ

花か

さん夫妻(ともに知的障害)だ。同じ会社で

働いて8年目になる2人は、出雲養護学校高

等部の在学中に知り合い、3年前に結婚した。

島根ナカバヤシ

サンワークスは、地域への

社会貢献の一環として、障害者の雇用促進の

ため、島根ナカバヤシ株式会社が2010(平

成22)年に設立した、島根県で第一号の特例

子会社だ。社名の「サンワークス」は、「太

陽のように暖かいイメージで、複数の仕事を

こなす」という思いを込めて名づけられた。

現在、障害者16人(知的障害15人、精神障

害1人)が、2人の社員とともに、島根ナカ

バヤシ平田工場で業務サポートを受けながら

働いている。仕事内容は、フォトブックの作成、

ファイル製品の生産、手帳の縫製作業、生徒

手帳などのビニールカバーの生産、ペイント

塗装などの色見本帳の作成と、多岐にわたる。

社長の倉く

橋はし

真しん

悟ご

さんは「地元の障害者雇用

の窓口を広げ、障害者とともに働く地元密着

の会社として、社のモットーである“あわてず・

あせらず・あきらめず”で、やってきました。

これから、規模もさらに大きくするとともに、

サンワークスでつくるものを積極的にアピー

ルして、みなさんが自立できるようにしてい

きたい」と、抱負を語ってくれた。

3年前に結婚して、一緒に働く小川広輝さん(28 歳)、友花さん夫妻。昼食も、いつも一緒だ

島根ナカバヤシの平田工場島根ナカバヤシでつくられる手帳などの製品

サンワークスのマーク。障害者の社員が作成した

フォトブック製作を担当する小川広輝さん。会社設立時から働いている

島根ナカバヤシ サンワークス社長の倉橋真悟さん

サンワークスでの朝礼の様子

16働く広場 2018.6

Page 19: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

学生証のホルダー製作をする小川友花さん

さまざまなフォトブックがつくられる フォトブック製作を担当する小川広輝さん。会社設立時から働いている

社員の指導にあたる園山英俊さん(左) サンワークスでの朝礼の様子

17 働く広場 2018.6

Page 20: 障害者 雇用 - JEED · 日々の改善の結果が受賞につながっているので目的に改善をしているわけではないのですが、域にも積極的にチャレンジしています。

生徒手帳のカバーに、学校のマーク入れ作業をする高見飛あ す か

鳥さん

製本機を担当する堀内拓哉さん(28 歳)。障害者サッカーの日本代表選手としても活躍していた

Z ファイルの製作をする出で

羽わ

里り

奈な

さん(左)と、小林千ち

紘ひろ

さん(右)

色見本帳用のインクの調合 インテリア関係、ペイント塗料、試薬などの色見本帳の製作

18働く広場 2018.6

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19 働く広場 2018.6

稲垣

吉彦

有限会社アットイーズ

取締役社長

「通勤は大丈夫ですか?」

 私が視覚障害者として就職活動をした20年

ほど前もそうであったが、この質問は現在でも

視覚障害者の面接試験の際に、高頻度で聞か

れる質問である。特に、視覚障害者の駅ホーム

からの転落事故の報道を目にする機会が少な

くない昨今、採用を検討する企業からすれば、

安全配慮義務を履行するという観点からも必

要な質問なのかもしれない。

 しかしながら、私が視覚障害者として就職

活動をしていたころ、この質問をされるといつ

も腹立たしく感じていたことを思い出す。そも

そも「通勤に不安を感じているような状態で、

通勤をともなう就職活動をする人がいると思

うのか」と、逆に聞き返してみたい衝動に駆ら

れたこともある。当時の私は、その感情を押し

殺して「特に問題なく通勤は可能だと思いま

す」と、当たり障りのないことを、何食わぬ顔

で答えていたのである。

  視覚障害者の就労支援にかかわっている現

在、私自身でこの回答を評価すると、辛うじて

及第点の60点だと思う。「通勤は問題ない」と

表明はしているものの、そこに何の根拠も示し

てはいない。むろんこの質問は、面接官からす

れば本人に「通勤は問題ない」といわせること

が目的である場合も少なくはないと思うが、

視覚障害当事者からすれば、その根拠を示す

ことで自己アピールの絶好の機会となり得る

質問なのである。

 就職活動を始める前に、何らかの形で歩行

訓練を受けたことがある視覚障害者は少なく

ないと思う。歩行を含めた移動に際して、目か

ら得る情報量の少なさを、触覚や聴覚など、

ほかの感覚や白杖という道具を駆使して補う

術を身に着けるのが〝歩行訓練〞である。つま

り、「見えている人とは違う方法で、安全を担

保する技術を身に着けている」ということが、

「通勤は問題ない」という根拠になり得るので

ある。この根拠を明示できれば合格点の80点

といったところだろうか。

 ここから派生的に、見えている人と同じ方

法でできないことがあったとしても、見えなく

てもできる方法を探ったり、それをするために

必要な視覚障害を補うための各種ツールを駆

使する技術を身に着けていることをアピール

できれば、面接官により強い印象を残すこと

ができる100点満点の回答となるのではな

いかと思う。

  昨今のIT技術の進歩により、一般に視覚障

害者の職域は広がったといわれている。そのた

め、基本的なITスキルは視覚障害者が就労

する際は、職種を問わず、いまや必須のスキル

となっている。

 そして、歩行スキルも必須である。近年、在

宅勤務をする人も増えてはいるが、多くの場

合、就労には通勤をともなう。採用する側とし

ては、当然「安全に通勤できるのか」、あるいは

「社内の移動は単独で大丈夫なのか」など、視

覚障害者の移動に関して心配は尽きない。

 弱視(ロービジョン)の視覚障害者の場合

は、見えづらさを補うスキルも必要であろ

う。視覚障害者の採用に際して、見えること

を求めることはナンセンスだとは思うが、残

存視力を有効に活用できる技術を身につけて

いれば、それは大きなアドバンテージであ

る。自分の見え方を正確に把握したうえで、

ルーペや拡大読書器、タブレット端末などを

適切に活用したい。

 何より、私が視覚障害者の就労に際して最

も重要と考えるスキルは、やはりコミュニケー

ションスキルである。見えている・見えていな

いにかかわらず、一般的に大切なスキルである

ことはいうまでもないが、一緒に働く人たちと

の相互理解が深まれば、視覚障害を補うため

に必要な援助を的確に引き出すことが可能と

なり、それが自らの職務遂行能力の向上にも

つながるのである。

視覚障害者の就労に思う

いながき よしひこ 1964(昭和39)年、千葉県に生まれる。1988年、明治大学政治経済学部経済学科卒業後、京葉銀行に入行。1996(平成8)年、視覚障害をきっかけに同行を退職し、筑波技術短期大学情報処理学科へ入学。2006年、視覚障害補償機器の販売とサポートを主要業務とする有限会社「アットイーズ」を設立。同年8月に『見えなくなってはじめに読む本』を出版。現在、筑波技術大学保健科学部情報システム学科非常勤講師と、東京視覚障害者生活支援センターの職業指導員を兼務している。

最終回■

面接試験でよくある質問

アピールすべきポイント

就労に際して身に着けておきたいスキル

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20働く広場 2018.6 20

Keyword:職場環境の整備、障害理解、特例子会社、障害者就業・生活支援センター

人材開発の視点で、職場定着と地域生活を実現~アステラス総合教育研究所のグリーンサプライ支援室を訪ねて~

埼玉県立大学教授 朝日雅也

アステラス総合教育研究所株式会社、つくばLSC障害者就業・生活支援センター(茨城県)

取材先データ

アステラス総合教育研究所株式会社御幸が丘グリーンサプライ支援室〒305-8585 茨城県つくば市御幸が丘21 つくば研究センターTEL 029-863-6338 FAX 029-860-6355

つくばLSC障害者就業・生活支援センター〒305-0882 茨城県つくば市みどりの中央29-5TEL 029-847-8000  FAX 029-875-3574

編集委員から 法定雇用率が改定されたことによって、企業の障害者雇用のさらなる量的確保に関心が高まっている。同時に安定的な雇用継続のためには、障害のある従業員をいかに職場にとってかけがけのない存在にしていくのか、事業所の「育成力」が問われてくる。それが、定着を促進し、障害者雇用の質を高めていくことになる。大手製薬会社の特例子会社としてその使命に取り組む職場を訪ねた。

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21 働く広場 2018.6

とつ」(同社ホームページより)とする考

えに基づき、特例子会社であるアステラ

ス総合教育研究所を設置している。この

研究所では、グループ内の人材開発に関

するトータルコンサルティング、最適な研

修プログラムと研修環境の提供を行って

いる。

具体的には、アステラス製薬グループ

会社を顧客とした研修部門と、業務的に

は若干の重なりを持ちつつ、障害のある

スタッフが職場のニーズに沿った幅広い

業務を担当する部門から構成されており、

アステラス製薬グループにおける障害者

雇用の牽引力にもなっている。従業員数

は企業全体で、約7000人(※国内グ

ループ会社合計)。特例子会社で全社の雇

用障害者数の約4割を占めている。

グリーンサプライ支援室は、アステラ

ス総合教育研究所の本部(東京都中央区

日本橋本社)、焼や

津づ

工場(静岡県)、そし

て今回訪問したつくば研究センターの3

カ所に設置。つくば事業所が、最も早い

2011(平成23)年4月の開設だ。

和栗さんは、日本橋グリーンサプライ

支援室・御幸が丘グリーンサプライ支援

室の二つの室長を兼務している。

  障害のある従業員は「グリーンスタッ

フ」と呼ばれている。3事業所における

と、支援スタッフの蓮は

見み

雅まさ

人と

さんが出迎

えてくれた。

今回の取材のコーディネーターでもあ

る蓮見さんは、高齢者ケアサービスや特

別支援学校での経験を活かし、障害のあ

るスタッフの支援にあたっている。蓮見

さんの案内で、すでにプレゼンテーショ

ンの準備も整ったミーティングルームへ。

室長の和わ

栗ぐり

三みつ

雄お

さんと、茨城県のつくば

圏域を担当する「つくばLSC障害者

就業・生活支援センター」(以下「つくば

LSC」)生活支援担当の君き

山やま

智ち

恵え

子こ

さん

が笑顔で歓迎してくれた。

 アステラス製薬は、「障がいのある方々

が活躍できる場を提供すること、自立し

た日常生活や社会生活を営むことができ

る社会を実現することを社会的責任のひ

21

 つくばエクスプレス線「研究学園」駅

から車で約5分。周囲を豊かな緑に囲ま

れた環境のなか、広々とした敷地が目に

飛び込んでくる。豊かな植

しょく

栽さい

に溢あ

れる公

園のような「アステラス製薬

つくば研究

センター」。このなかに、今回取材するア

ステラス総合教育研究所株式会社の「御み

幸ゆき

が丘グリーンサプライ支援室」がある。

受付で担当者を待っていると、可憐な

花に彩られたプランターにウェルカムボー

ドが。近づいてみると、そこには本日の取

材先であるグリーンサプライ支援室のス

タッフの名前が添えてある。作業の担当

者からの、歓迎の思いと仕事への責任感

が事業所の正面を飾る植栽に溢れている。

障害のあるスタッフが自信に満ちて仕

事に取り組んでいる様子を想像している

① 企業内での育成により適切な職場定着を実現② 多様な業務展開による職場全体の一体感の醸成③ 職場と障害者就業・生活支援センターとの連携による

生活支援への展開

POINTPOINTPOINT

受付コーナーで

プランターが出迎え

障害者雇用の中核、

グリーンサプライ支援室

グリーンスタッフ

人材開発の視点で、職場定着と地域生活を実現~アステラス総合教育研究所のグリーンサプライ支援室を訪ねて~

御幸が丘グリーンサプライ支援室長の和栗三雄さん

御幸が丘グリーンサプライ支援室 支援スタッフの蓮見雅人さん

蓮見さん(右)から説明を受ける朝日編集委員(中央)と、つくばLSC障害者就業・生活支援センターの君山智恵子さん(左)

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22働く広場 2018.6

採用・配置状況は図1に示す通りだ。

直近に開設された日本橋事務所では、

本部業務の特質に加え、精神障害者雇用

への取組みを反映してか、グリーンスタッ

フ6人中、精神障害のあるグリーンスタッ

フが4人と、その割合が高い。障害者雇

用に関する社会的ニーズにも対応した発

展過程を示しているともいえる。

  ア

ステラス総合教育研究所は、グルー

プ内事業所への研修プログラムの企画運

営とともに、それぞれの事業所における

多様な業務を展開している。

つくば事業所の業務は、リサイクル廃

棄物の回収、落ち葉清掃、雑草の引抜き、

リユース品の整備、花か

卉き

の栽培と管理、

22

花壇の手入れ作業などについても、研究

所のスタッフに参加を呼びかける。こう

した具体的な作業を通じて、相互に知り

合い、理解しあうことにつながっていく。

焼津事業所では作業服のクリーニングや

作業靴の洗濯など、日本橋の本部事業所

では、会議室の清掃やアンケート集計な

ど、それぞれの事業所の特徴に沿った職

種が工夫されている。

アステラス総合教育研究所では、売上

げが発生する作業はなく、スタッフの人

件費は親会社が負担する。その分、内製

化と職務の開発が欠かせないと思われる。

そのための設備投資も効果的な戦略が求

められるようだ。花の栽培のための温室

設置などは、その一例であろう。

そのようななか、昨年から研究活動に不

可欠な実験用チューブのナンバリングと巡

機密文書の分別・廃棄など、実に多岐に

わたる。また、社内では文房具のリユー

ス推進に向けたポイント制がとられてい

るのだが、そのポイントでもらえる社内

奨励グッズの〝ロゴ入りトートバッグ〟も、

グリーンスタッフがミシン工芸で製作して

いる。

植樹苗の栽培は、アステラス製薬が社

会貢献活動として行う地元の筑波山での

植林に用いられる。元になるどんぐりの

実拾いももちろん、グリーンスタッフの手

による。ただし、研究所のスタッフにも呼

びかけ、ボランティアとして植樹苗の栽

培に共同して取り組む。

公園を思わせる敷地内の木々に隣接し

て、どんぐりの芽吹きを待つ小さな苗な

床どこ

を案内していただく。「ここで、どんぐり

の苗を育てているのか」と思わず感嘆。

多彩な業務内容

アステラス製薬 つくば研究センター

研究所の内外に飾られる花

出典:取材時説明資料を基に著者改編

(2018年4月1日)

図1 グリーンサプライ支援室の組織体制とグリーンスタッフの採用状況

アステラス総合教育研究所株式会社(本社:東京都中央区日本橋)

グリーンスタッフ:19人*全員が知的障害者

支援員:6人

2011年4月開設 2014年10月開設 2016年4月開設

グリーンサプライ支援室(茨城県つくば市)

グリーンサプライ支援室(静岡県焼津市)

企画部 業務管理部

グリーンサプライ支援室(東京都中央区日本橋)

グリーンスタッフ:20人*知的障害者中心、重複もあり

支援員:6人

グリーンスタッフ:6人*精神障害者中心

支援員:3人

敷地内では、さまざまな花の育成、管理をしている

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23 働く広場 2018.623

回補充の業務も開始。直接、研究所の仕

事をになうなど、業務を拡大した。見事

な仕事の切り出しに感心する。

 グリーンサプライ支援室の特徴は、「手

厚い支援体制」。グリーンスタッフ3~5

人に対し、1人の支援スタッフを配置。

今回、取材のコーディネーターを務めて

くださった蓮見さんもその1人だ。

支援スタッフは、業務配分案を作成す

るとともに、グリーンスタッフの業務面や

メンタル面などについて幅広いサポートを

直接行うことが特色。トラブルシューティ

ングや課題改善策を提案する責任も負う。

例えば、「対話のスタイル」。何かミス

があったとしても、それを責めるのではな

く背景を探るスタイルである。笑顔で向

き合うことを大切に、グリーンスタッフの

「強み」を見出していく方法でもある。

もうひとつがグリーンスタッフの「重荷」

を取り除くアプローチ。障害者の職場定

着を図るうえで、生活上の課題への適切

な対応が求められる。和栗さんは、「グリ

ーンスタッフは、親兄弟など家族との関

係、金銭問題、交友関係の悩み、SNS

などネット上のトラブルなど、人知れず

ストレスを抱えていることが少なくない」

と指摘する。もちろん、自ら課題を表出

するスタッフばかりではない。その際には、

こうした「重荷」を取り除くという姿勢

が重要となる。

グリーンスタッフも当然、千差万別だ。

多くの支援を要する人もいれば、そうで

ない人もいる。「適切な支援と適切な仕組

みがあれば、障害のある人の力は大きく

伸びる」と和栗さん。相手を思う心と支

援の技術が重なり合って初めて、グリー

ンスタッフの成長が確実になる。

さらには、支援スタッフには「チーム

ディスカッションによる正解の探索と質の

担保を求めている」と和栗さん。自分の

支援が正しいと、必ずしも思わないでほ

しいという。「相手の心を開かなければ何

も始まらない」と、支援スタッフもまた、

育てられ、自らそのキャリアを確実に積

み上げているのである。

 障害のある人の就労支援については、

キャリア発達支援の観点から、事業主や

同僚も、その成長とともに歩んでいくこ

とが重要である。障害の種類や軽け

重ちょうにか

かわりなく、だれもが、よりむずかしい

仕事にチャレンジしていきたいと思うの

は、ごく当たり前のことである。

グリーンサプライ支援室では、「社会

性」、「対人的スキル」を含め、さまざま

な能力が周囲の指導や本人の努力によっ

て向上することを信じて、日々取組むこ

とを「指導(育成)方針」としている。

「障害があるから仕方ないのではなく、ど

こまで可能性を追求していけるかだ」と、

和栗さんは強調する。例えば、「自閉症」

と診断されている人の個性は尊重するが、

「個性だから、できなくても仕方ない」と

いう考え方には留めない。無理を強いる

ことはないが、職場のなかでの可能性を

引き出していくこともまた、支援者とし

て欠かせない視点だ。

もう一つが、厳しいながらも楽しく、

働きがいのある職場をつくること。技能

の質、向上の幅の拡充を期待して「挑戦」

してもらうことを意識している。

さらには、支援者のみではなく、多様

な立場の人々がかかわる体制を実現し、

本人の成長をうながすこと。必要に応じ

て、事業所、家族(主に親)との三者面

談も行う徹底ぶりだ。加えて、支援機関

の担当者を交えた「育成会議」を開催し

ている。職場定着上のさまざまな課題の

解決に向けた情報交換や討議を行ってい

ることが推察されるが、あえて「育成会議」

と称するところに、目前の課題解決に留

めず、グリーンスタッフの成長を確信する

強い思いが伝わってくる。

グリーンサプライ支援室の開設当初は、

半期に一度は育成会議を実施することを

必要とする事例もあったが、8年目に入

ってから開催回数は3分の1ほどに減少

しているという。グリーンスタッフの成長

手厚い支援体制で

成長を促進

能力向上への確信

アステラス製薬 つくば研究センター

グリーンサプライ支援室 広い研究所内を走るバスの停留所などの花の管理も、グリーンサプライ支援室が行っている

研究所の内外に飾られる花

敷地内では、さまざまな花の育成、管理をしている

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24働く広場 2018.6

とともに、支援の量や質も変化している。

逆に、つくばLSCとの連携機会は増え

ている。例えば、「グリーンスタッフが医

療機関を受診した」といった情報は、ダ

イレクトに事業所には伝わりにくい。生

活面にかかわる情報を得て、本人にも適

切な方法で確認していくことが、事業所

が職場定着支援を行ううえで大きな手が

かりになる。

 従来の障害者雇用、特に知的障害者の

雇用については、特別支援学校卒業時に

就職する若年者のケースが多いためか、

生活の基盤については、家族との暮らし

が前提になっていたともいえる。

しかしながら、雇用が継続すると、親

なき後の生活基盤の確保が重要課題にな

る。和栗さんは、「親のサポートがないた

めに就労できなくなった」では、障害の

ある本人、家族、事業所にとっても大き

な損失であると強調する。

そこで、グリーンサプライ支援室では、

1週間のグループホーム体験プログラム

を実施。つくばLSCや、社会福祉法人

創志会が運営するグループホームの協力

を得て実現させたものだ。当初は、グリ

ーンサプライ支援室の介入が大きかった

が、つくばLSCと創志会との連携によ

って、現在ではグループホームからの通

24

勤者も出ており、ショートステイを活用

する人もいるなど、グリーンスタッフの「自

立」の状況に応じた生活支援が実現して

いる。

君山さんが所属するつくばLSCは、

創志会が運営している。「障害があろうが、

なかろうが誰もが安心して暮らせる社会

の構築を目指して」が運営法人の理念で

ある。君山さんは障害者就業・生活支援

センターで勤務する前には、企業で障害

者の支援者としての勤務経験がある。事

業所の思いを理解したうえで、福祉的支

援が可能なエキスパートだ。もともと創

志会は、精神障害者の地域支援の実績が

豊富な法人だが、グリーンサプライ支援

室との連携を通じて、知的障害のある人

たちへの支援力を確実に積み重ねている。

就業場面と生活場面は切り離せないと

いいながら、特に生活の概念が広範にわ

たることから、実際の雇用現場では役割

分担も簡単ではない。

グリーンサプライ支援室とつくばLSC

は、役割を二者択一的に切り分けるので

はなく、段階に応じてそれぞれ支援対象

者の強みを引き出して、連携した生活支

援の枠組みを形成している。

 グリーンサプライ支援室における育成

の仕組みを和栗さんにうかがったところ、

図2に示す4点があげられた。

まずは、支援スタッフによる日々の指

導である。企業で働くためには、身だし

なみ、姿勢、態度などを身につけること、

業務スキルを身につけて多くの業務をこ

なし、組織の成果に貢献することなどが

あるが、最も必要なことは「仕事を通じ

て個々人が総合的な成長を果たし、自立

に向けて着実に前進すること」。すなわち、

「仕事を通して、グリーンスタッフの個々

の成長をうながすこと」だという。

グリーンスタッフの育成の仕組みが、親

会社のトップダウンによる方針ではなく、

現場からの発信が承認された内容である

からこそ、地に足の着いたキャリア発達

支援が展望できたといえるのではないだ

ろうか。

 毎月1回、業務時間内に実施されてい

る「月次研修」も、グリーンスタッフの育

成を確実に行うための仕組みとして機能

している。

1回あたり2時間。プログラムも多彩

だ。例えば、2017年6月のテーマは、

「危険予知トレーニング」だった。日本橋

事業所のスタッフが講師となって、危険

予知に関するSST(社会生活技能訓練)

に取り組んだ。また、同年には「自立」

というテーマの研修が2回あった。従来は、

障害者就業・生活支援センター

との連携による生活支援

育成を確実にする仕組み

多様な研修機会と

ユニークなプログラム

機密文書の回収・分別作業出典:取材時説明資料を基に著者改編

図2 グリーンサプライ支援室におけるグリーンスタッフ育成の仕組み

支援スタッフによる根気強い日々の指導

多様な月次研修

責任範囲の変化、拡大(上記に連動した報酬システム)

定期面談による達成支援

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25 働く広場 2018.6

る仕組み。そして、それに連動した報酬

システムを組み入れることによってキャ

リアアップに向けたモチベーションとし

ても機能している。

ただし、業務拡大の仕組みを単に提示

するのではなく、きめ細かな定期面談に

よる達成支援を図っていることも特筆に

値する。面談は、目標面談、フォロー面談、

評価面談の3段階。「設定した目標が達成

できたか」について、確認しながら展開

しているのである。

 つくば研究センターは、従業員の大半

が研究者。「精密に正確さを求める」のが

研究センターの文化である。もちろんそ

の重要性は変わらないが、こうした文化

のもとで知的障害のある従業員は研究者

と一緒に働けるのか。和栗さんは、長い時

間をかけて信頼獲得に努めたという。

それがいまでは「グリーンスタッフは、

この研究所に欠かせない存在になったの

では……」という。研究所のスタッフから

「一緒に仕事をしているという気持ちにな

って、勇気を与えられた」という趣旨の

手紙が支援室に寄せられたことも。ここ

に至るまで、研究一筋の歩みのなかでは、

グリーンスタッフのような障害のある人た

ちとの交流は、ほとんどなかったのかもし

れない。ましてやともに学び、働く機会も、

おそらく少なかったことと推察される。

障害のあるグリーンスタッフが、支援

を受けながら職場に定着していくだけで

なく、障害のない従業員もまた、グリー

ンスタッフとともに活動する機会を通し

て、職場のインクルージョンを実感するの

ではないだろうか。

 和栗さんの「研究スタッフは、障害の

ある人と一緒に働くことを歓迎してくれ

ます」という言葉が印象的だ。障害者雇

用率制度は、たしかに雇用へのきっかけ

かもしれないが、そこに留まらず可能性

をどう広げていくかが問われる。職場定

着支援と意気込まずに、一人ひとりを大

切に育てていくことが、結果的に安定し

た職業生活の実現につながっている。特に、

つくば事業所では、花か

卉き

の栽培・管理や

植樹苗の栽培など、植物とかかわる業務

が多いだけに、グリーンスタッフを育てる

ことは、可能性に満ち溢れた草木を丁寧

に育てることともつながってくる。

グリーンサプライ支援室は、「グリーン」

に例えられる「みずみずしさ」を、事業

所のみならず、障害者雇用というフィー

ルドに供給する「サプライヤー(供給者)」

なのかもしれない。

25

自立に関するDVDを鑑賞するプログラ

ムもあったが、現在では、体験が重視さ

れている。家族からの自立も含めて、従

業員同士でディスカッションを行い、その

様子を録画。後日、家族に集まってもらい、

その動画を上映するなど家族の理解をう

ながすための工夫も行われている。

 グリーンスタッフの努力と支援スタッフ

の支援により、業務スキルが向上し、信

頼が獲得される。すると、次に重要にな

るのが新規業務を担当する機会の提供で

ある。それは、同時に責任範囲の拡大に

もつながっていく。そしてやがて組織への

貢献度の拡大にもつながり、結果的に自

己肯定感の向上へと導かれる。

こうした好循環を実現するため、グリ

ーンサプライ支援室では、全46業務(2

017年11月時点)について、業務ごと

に難易度を決め(ポイント化)、業務分

担一覧を策定・管理している。例えば、

前出の「どんぐり拾い」は難易度0・1

で全員がクリア。逆に温室業務の「水や

り」は状況によって加減を要することか

ら難易度3といった具合である。同じ難

易度の業務でも、「リーダー役がになえ

る」人には加点するなど、ポイントは賞

与に反映される。特定の業務に固定する

のではなく、責任範囲を変化、拡大させ

取材を終えて

企業ならではの厳しさも

職場のインクルージョンの

実現

書類などの紙類をシュレッダーにかけてリサイクル発泡スチロール、空き缶も整理してリサイクルに

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26働く広場 2018.6

厚生労働省 障害保健福祉部

 特別児童扶養手当及び特別障害者手当等の支給を行う。 

①障害者虐待防止の推進    

地域生活支援事業等(493億円)の内数

都道府県や市町村で障害児・障害者虐待の未然防止や早期発見、迅速な対応、

その後の適切な支援を行うため、地域の関係機関の協力体制の整備、家庭訪問、

関係機関職員への研修等を実施するとともに、障害児・障害者虐待の通報義

務等の制度の周知を図ることにより、支援体制の強化を図る。

②障害児・障害者虐待防止・権利擁護に関する人材養成の推進

14百万円

国において、障害児・障害者の虐待防止や権利擁護に関して各都道府県で

指導的役割を担う者を養成するための研修等を実施する。

③成年後見制度の利用促進のための体制整備

地域生活支援事業等(493億円)の内数

成年後見制度の利用に要する費用の補助や法人後見に対する支援等を行う

ことにより、成年後見制度の利用促進を図る。

重度障害者の地域生活を支援するため、重度障害者の割合が著しく高いこ

と等により訪問系サービスの給付額が国庫負担基準を超えている市町村に対

する補助事業について、小規模な市町村に重点を置いた財政支援を行うとと

もに、従前額保障の廃止に伴う超過負担の増加に対して、経過措置として財

政支援を行う。

強度行動障害を有する者等に対し、適切な支援を行う職員の人材育成を進

めるため、都道府県による強度行動障害支援者養成研修(基礎研修及び実践

研修)を実施する。

医療的ケア児による保育所等の利用を促進するモデル事業を実施するとと

もに、ICTを活用し外出先でも適切な医療を受けられる体制の整備を図る。

このほか、障害福祉サービス等報酬改定において、医療的ケア児の受入れを

促進するため、障害児通所支援事業所等における看護職員を加配している場

合の加算の創設等を行う。

①「心のバリアフリー」を広める取組の推進

地域生活支援事業等(493億円)の内数

 

様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようと

コミュニケーションをとり、支え合う「心のバリアフリー」を広めるための取組

を推進する。

②障害福祉従事者等に対する共生社会の基本理念の普及啓発【新規】9百万円

 

障害福祉従事者や事業経営者等が改めて共生社会の基本理念等を学び、そ

れを実践につなげていくことを目的とした研修を実施する。

1 

障害福祉サービス等の確保、地域生活支援などの障害児・障害者支援の推進

1兆8419億円

○障害福祉サービス等の確保、地域生活支援等

 ①障害児・障害者に対する良質な障害福祉サービス、障害児支援の確保

 

1兆3317億円

障害児・障害者が地域や住み慣れた場所で暮らすために必要な障害福祉サ

ービスや障害児支援を総合的に確保する。

②障害福祉サービス等報酬改定         

(改定率)+0・47% 

 

報酬改定については、障害者の重度化・高齢化への対応、医療的ケア児への

支援や就労支援サービスの質の向上などの課題に対応し、また、「自立生活援

助」など法改正により創設された新サービスの報酬を設定することなどを総合

的に勘案。

なお、食事提供体制加算(経過措置)については、食事の提供に関する実

態等について調査・研究を十分に行った上で、今後の報酬改定において対応を

検討することとし、今回の改定では継続する。

意思疎通支援や移動支援など障害児・障害者の地域生活を支援する事業に

ついて、地域の特性や利用者の状況に応じ、事業の拡充を図る。また、地域生

活支援事業に含まれる事業やその他の補助事業のうち、国として促進すべき

事業について、「地域生活支援促進事業」として位置付け、質の高い事業実施

を図る。

障害者等の社会参加支援や地域生活支援を更に推進するため、就労移行支

援事業等を行う日中活動系事業所やグループホーム、障害児支援の拠点とな

る児童発達支援センター等の整備を促進するとともに、防災体制等の強化を

推進する。

さらに、長期入院精神障害者の地域移行を進める観点からも、グループホ

ームの設置を一層推進する。

心身の障害の状態を軽減し、自立した日常生活等を営むために必要な自立

支援医療(精神通院医療、身体障害者のための更生医療、身体障害児のため

の育成医療)や障害児入所施設等を利用する者に対する医療を提供する。また、

自立支援医療の利用者負担のあり方については、引き続き検討する。

1良質な障害福祉サービス、障害児支援の確保

3障害福祉サービス提供体制の整備(社会福祉施設等施設整備費)72億円

5特別児童扶養手当、特別障害者手当等       

1637億円

6障害児・障害者虐待防止、権利擁護などに関する総合的な施策の推進

7重度訪問介護等の利用促進に係る市町村支援      

10億円

8強度行動障害を有する者の支援を行う職員の育成

地域生活支援事業等(493億円)の内数

※「働く広場」では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています

4障害児・障害者への良質かつ適切な医療の提供

2452億円

平成30年度 障害保健福祉部予算案の概要(1)

2地域生活支援事業等の拡充【一部新規】

493億円

(参考)【平成29年度補正予算案】

○社会福祉施設の耐震化・防災対策等 80億円

 障害者支援施設等の防災対策を含めた障害福祉サービス等の基盤整備の推進のた

め、施設の耐震化やスプリンクラーの設置、グループホームの整備等に必要な経費

を補助する。

9医療的ケア児に対する支援【一部新規】       

1・8億円

10共生社会の実現に向けた取組の推進

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27 働く広場 2018.6

 

地域における相談支援等の指導的役割を果たす主任相談支援専門員(仮

称)を養成するための研修を実施するとともに、主な配置先となる基幹相談支

援センターの設置促進を図るための方策の検討等を行う。

  

重度訪問介護の利用者が大学等に修学するに当たって必要な身体介護等

を、大学等における支援体制が構築されるまでの間において提供する。

 

障害者施策全般にわたり解決すべき課題について、現状と課題を科学的に

検証・分析し、その結果を政策に反映させていくため、調査・研究等への補助

を拡充する。

○障害児・障害者の自立及び社会参加の支援等

   

芸術文化活動(美術、演劇、音楽等)を通した障害者の社会参加を一層推進

するため、地域における障害者の芸術文化活動を支援(相談、研修、ネットワ

ークづくり等)する仕組みを全国に展開するとともに、全国障害者芸術・文化

祭開催県にコーディネーターを配置し、各地域でのサテライト開催との連携促

進を図る。

  

多様な障害者のニーズを的確にとらえた障害者自立支援機器などの開発

(実用的製品化)の促進を図るとともに、導入好事例の展開による実用的製品

の普及促進を行う。

  

視覚障害者に対する点字情報等の提供、手話通訳技術の向上、盲ろう者向

け通訳・介助員養成の支援や電話リレーサービスの実施等により、障害児・障

害者の社会参加の促進を図る。

 

失語症者向け意思疎通支援者の全国的な派遣体制を構築するため、「失語

症者向け意思疎通支援者養成研修」を創設し、全国での失語症者向け意思疎

通支援者の養成を図る。

 2 

地域移行・地域定着支援などの精神障害者施策の推進   

212億円

(※地域生活支援事業計上分を除く)

 

精神障害者が地域の一員として安心して自分らしい暮らしをすることができ

るよう、住まいの確保支援を含めた精神障害にも対応した地域包括ケアシステ

ムの構築を目指す。このため、障害保健福祉圏域ごとの保健・医療・福祉関係

者による協議の場を通じて、都道府県等と精神科病院、その他医療機関、地域

援助事業者、市町村などとの重層的な連携による支援体制を構築し、地域の

課題を共有した上で、地域包括ケアシステムの構築に資する精神障害者を医療

へつなげるための支援等を行うアウトリーチ活動や仲間の立場で支援しあうピ

アサポート活動等の取組を推進する。

 

精神疾患のある救急患者や、精神疾患と身体疾患を併発している救急患者

が、地域で適切に救急医療を受けられるよう、関係機関(警察、消防、一般救

急等)との連携を図りながら、引き続き体制を整備する。

  

大規模自然災害・事故等における心のケアの対策を推進するため、引き

続き災害時の危機管理体制を整備するとともに、災害派遣精神医療チーム

(DPAT)の活動能力を高める専門家人材の育成を行う。

 

また、災害などを通じて生ずるPTSD(心的外傷後ストレス障害)などに

対する精神保健活動の充実に資する取組を推進する。

 

心神喪失者等医療観察法に基づく医療を円滑に行うため、指定入院医療機

関の地域偏在の解消など医療提供体制を引き続き整備するとともに、入院対

象者の安全確保のために、スプリンクラーの整備を行う。

 

また、指定医療機関の医療従事者等を対象とした研修や指定医療機関相互

の技術交流等により更なる医療の質の向上を図る。

  

てんかんの治療を専門的に行っている医療機関を「てんかん診療拠点機関」

として指定し、関係機関との連携・調整等の実施及び各診療拠点機関で集積

された知見の評価・検討を行うため「てんかん診療全国拠点機関」を設け、て

んかんの診療連携体制を整備する。

  

摂食障害の治療を専門的に行っている医療機関を「摂食障害治療支援セン

ター」として指定し、関係機関との連携・調整等の実施及び各支援センターで

集積された知見の評価・検討を行うため「摂食障害全国基幹センター」を設

け、摂食障害の診療連携体制を整備する。

  

医療保護入院者の地域生活への移行を促進する観点から、相談支援事業所

等における退院支援の体制整備を支援する。

 

相談支援事業所に所属する相談支援専門員(アドボケーター)が、非同意入

院患者のいる病院を訪問し、退院に向けた意思決定支援や退院請求などの入

院者が持つ権利行使の援助等を行うための人材養成を行う。

2精神科救急医療体制の整備     

 

17億円

5てんかんの地域診療連携体制の整備       

   

7百万円

6摂食障害治療体制の整備               

10百万円

8意思決定支援等を行う者に対する研修の実施【新規】  

5百万円

2障害者自立支援機器の開発の促進【一部新規】   

1・5億円

1精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築【一部新規】5・6億円

   

(うち地域生活支援事業等5・2億円ほか)

4心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に関する

医療提供体制の整備の推進             

180億円

7相談支援事業所等(地域援助事業者)における退院支援体制確保

地域生活支援事業等(493億円)の内数

3災害時心のケア支援体制の整備

 

62百万円及び地域生活支援事業等(493億円)の内数

1芸術文化活動の支援の推進

2・8億円(うち地域生活支援事業等71百万円ほか)

4失語症者向け意思疎通支援者の養成【新規】

地域生活支援事業等(493億円)の内数

12重度訪問介護利用者の大学等の修学支援【新規】

地域生活支援事業等(493億円)の内数

3障害児・障害者の社会参加の促進           

28億円

11主任相談支援専門員(仮称)の養成等【新規】      

14百万円

13障害者施策に関する調査・研究の推進     

4億円

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28働く広場 2018.6

障害のある人の職業生活を地域で支える

さまざまな機関・職種の連携や人材育成の課題

 

近年、障害者の就労ニーズの高まりに応じる

ため、各地域で支援体制づくりや関係者の人材

育成について、さまざまな取組みが行われてい

ます。そのような取組みは従来の狭い意味での

「就労支援」の範囲を超え、障害者の就職前か

ら就職後までの医療、生活、教育・訓練、職場

での雇用管理などといったさまざまな課題に対

して、多様な関係機関・専門職がかかわるもの

となっています。

 

従来、「インフォーマル」に行われているこ

とが多い、このような地域での多様な取組みか

らその成果や課題を汲く

み取っていくため、障害

者職業総合センター研究部門では、2015年

末に「障害者の就労支援ニーズの拡大に応える

関係機関・専門職の現状と課題に関する調査」

を実施し、障害者の就労や生活の支援にかかわ

る保健医療、福祉、教育、労働の関係機関・職

種3054人からの回答を得ました。

 

回答を詳細に分析した結果、このような地域

関係機関による「就労支援」が効果を上げてい

る状況や逆に困難となっている状況、また、こ

れらさまざまな分野にわたる支援者が効果的な

「就労支援」を実施しやすくなる条件が明らか

になりました。「就労支援」は、障害者や事業

主の視点からだけでなく、「地域の支援体制や

支援者の人材育成の課題」の視点からも取り組

んでいくことが重要となっているのです。

1 効果的な障害者就労支援の全体像

 

地域の医療・福祉・教育などの関係分野から

就労支援に移行するにあたって、関係分野にお

いて十分に「職業準備性」を高めてから就労支

援に進むという「T

rain

→Place

」モデルと、逆

に就労への移行が非常に低い現実をふまえ、む

しろ早期に就職を目ざし実際の職場で訓練をす

るという「Place

→Train

」モデルが対立的に考

えられることが多くあります。

 

しかし、今回の調査結果によると、実際に効

果を上げている「就労支援」は、下図に示すよ

うに、その両面を総合的に備えているものであ

ることが明らかになりました。すなわち、成果

を上げている「就労支援」においては、就職前

の早い段階から、地域関係機関が連携して、本

人側には職業情報の提供、強みや興味の把握、

障害者職業総合センター研究部門 

社会的支援部門

生活と就労の一体的相談支援といった就職を目

ざした支援と並行して、就職後にどんな課題が

想定されるのかをふまえたアセスメントに基づ

いて、事前に障害理解や対処スキルなどを獲得

するための支援が実施され、それらの支援が就

職後まで一体的に実施されていました。また、

企業や職場のニーズ把握や相談対応の取組みも

就職を目ざす支援の一環として行われ、さら

に、就職後には障害者本人と職場の両者に対す

るフォローアップ体制がとられていました。

職業情報提供

分野・機関・職種によらない効果的な障害者就労支援の基本的枠組み

企業・職場への支援

職業情報提供

就職活動 採用

障害理解・対処の準備

職業評価 障害理解・対処・家族支援 自己管理支援

就職前から職場で発生する課題をふまえた支援 就職後

就職後の障害管理・対処

解決・軽減される職業的課題

就業継続強み・

興味の把握

就労・生活の一体的相談

「職業人」としての一般の就職支援

地域でのフォローアップ体制

障害や病気をふまえた本人支援

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29 働く広場 2018.6

地域支援の課題から見た障害者就労問題

 

しかし、効果的な「就労支援」のあり方は近

年急速に発展したので、必ずしも前述したよう

な共通理解が普及しないまま就労支援が実施さ

れているため、それによって障害者就労の課題

が発生している状況も明らかになりました。

 

就職前の支援では、医療や福祉の分野では、

就職後の課題を想定せずに機能回復訓練や作業

訓練を実施していることが多く、職業情報提供

や就労・生活の一体的相談、強み・興味の把握も、

職場で発生する可能性のある課題をふまえた本

人の職業評価や支援も十分ではなく、地域と連

携した企業との関係づくりもないことが多かっ

たのです。「T

rain

→Place

」といっても、この

ような就職前の支援や訓練では、「職業準備性」

は向上しませんし、就職活動につながりにくく

なります。

 

逆に、就労移行支援事業所などでは、近年の

障害者求人の増加を追い風に、「就労支援」が

総合的に実施されていますが、ここでも就職後

の課題をふまえたアセスメントや、本人の障害

に対する理解を深めたり、対処スキルを習得す

るための支援が不十分である状況が明らかにな

りました。そのため、定着支援・就業継続の課

題が発生してから、ジョブコーチや企業、障害

者就業・生活支援センターなどが、アセスメン

トや本人への支援を実施している状況も見られ

ました。また、就職後に本人と事業主が困った

ときの支援体制も未整備であることが多かった

のですが、効果的な就労支援に取り組んでいる

支援者は、実際の就労支援の成功体験によっ

て「就労支援は障害者本人にも雇用する企業に

とっても益となる成果を生む」という信念を

持っていることも、取組み促進の重要な要因と

なっていました。

4 

おわりに 

 

障害者に対する就労支援を効果的に実施する

ポイントは地域で十分に共有されていないこと

が多く、そのことが、「就労支援」の地域差や

支援者の異動などによる地域ネットワークの不

安定さの要因となってきたことも否いな

めません。

 

今回明らかとなった、地域の関係機関が「就

労支援」に取り組む際の留意点や、効果的支援

に向けた共通認識をふまえ、当センターでは「障

害や疾病のある人の就労支援の基礎知識~誰も

が職業をとおして社会参加できる共生社会に向

けて」を作成しました。地域で「就労支援」に取り

組む関係者の共通基盤としてご活用ください。

のです。このような「Place

→Train

」の就労支

援では、就職はできても就職後に課題が発生し、

本人も事業主も負担が大きく、就業継続も困難

となります。

3 

多職種連携や人材育成のポイント

 

そもそも、就労支援を専門としない関係分野

の支援者に、効果的な「就労支援」の取組みが

できているのはどんな状況でしょうか? 

分析

結果からは、各機関の役割や支援の枠組みが再

認識されていること、地域において多職種連携

による成功体験に基づき、就労支援の意義の共

通認識ができている状況であることが明らかに

なりました。

 

従来、障害者支援では日常生活や地域生活な

どの「生活支援」が中心で、「就労支援」とは

別のものとされることが一般的でした。しかし、

効果的な「就労支援」に取り組んでいる機関で

は、職業生活も生活支援の一環としてとらえ、

障害者一人ひとりの生活ニーズに合わせた支援

を提供しようという意向が強く見られました。

さらに、職業生活を支えるためには、単に障害

者本人の作業指導だけでなく、職場環境の整備

や本人の強み・興味をふまえた職業紹介を行う

など、多職種が連携してアセスメントと支援を

継続的に実施するケースマネジメントの取組み

が重要であることを認識していました。

 

また、地域の関係者のなかには、「障害者雇

用を進めることは企業にとっても本人にとって

も負担なことである」と考えている場合もある

http://www.nivr.jeed.or.jp/research/kyouzai/kyouzai52.html

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30働く広場 2018.6

これまで再利用がむずかしい部品は廃棄してい

たが、長さが中途半端なチェーンやその軸、バ

ルブとナイロンひもなどを組み合わせ、キーホ

ルダーやブレスレッドなどをつくった。

 

キーホルダーは税込300円、ブレスレット

は700円から。インターネットショッピング

にも出品。特にチェーンのキーホルダーの人気

が高い。

  「パーソルホールディングス株式会社」(渋谷

区)の特例子会社で、障害者雇用支援事業を手

がける「パーソルチャレンジ株式会社」(港区)

は、厚生労働省の「障害者のサテライトオフィ

ス勤務導入推進事業」を受託した。

 

障害者の就労環境の選択肢を広げるため、障

害者が安定的に能力を発揮することができる勤

務場所としてのサテライトオフィスの在り方を

検証し、マニュアル化。さらに検証結果に基づ

き、多様なサテライトオフィスモデルを企画・

開発していく。

  

企業の人事・採用担当者が知っておくべきこ

とをまとめた「発達障害のある方と働くための

教科書」(石井京子、池嶋貫二、林哲也、大滝岳た

光みつ

馬場実智代共著・日本法令)が出版された。

 

千葉県は、障害者がつくった菓子を販売する

「はーとふるボックス」を県庁内に3カ所オー

プンした。

 

障害者がつくった商品は、障害者が作業す

る事業所内や地域イベントでの販売がほとん

どだったため、新たな売り場を確保するため、

2016(平成28)年に「はーとふるボックス」

を導入したが、県内では民間企業2カ所に留ま

っていた。

 

販売所拡大のため県庁に開設した「ボックス」

は無人購買システムで、クッキーやドーナツな

どが並ぶ。週1回、「NPO法人

千葉県障害者

就労事業振興センター」が商品を補充する。

  「ジェフユナイテッド市原・千葉」は、千葉

市と協働して、障害者がつくる製品の販路を拡

大する「JOプロジェクト 

シーズン3」を開

始した。

 

障害者施設で就労する障害者の工賃向上と、

製作するグッズを通じて障害者への理解促進を

図るプロジェクトとして、2016年シーズン

から千葉市内の障害者施設が製作するオリジナ

ルグッズをオフィシャルショップ「12JEF」

で販売。シーズン3を迎えた今年、販売品の総

入れ替えを行った。商品は、チームカラー「黄・

緑・赤」を基調とした「ビーズブレスレット」(税

菓子購入で障害者支援

千葉

統合失調症の患者、家族向け

「薬物治療ガイド」を公開

生活情報

地方の動き

プロサッカークラブが

障害者のグッズ販売を応援

千葉

「発達障害のある方と働くための教科書」

本紹介

サテライトオフィス勤務導入を推進

東京 働く

自転車不要部品で障害者がグッズ製作

北海道 込300円)、「ラッキーストラップ」(200円)、

「ティッシュカバー」(400円)など14製品。

  「一般財団法人日本神経精神薬理学会」は、

統合失調症の患者家族向けの「統合失調症薬物

治療ガイドー患者さん・ご家族・支援者のため

にー」をホームページ上で公開した。

 

統合失調症の治療に使う抗精神病薬は適切

に使うことが不可欠だが、医師によってばらつ

きがあり、日本では海外に比べて複数の種類の

抗精神病薬を併用する、多剤投与が問題にな

っていた。同学会では、国内外の過去の医学論

文を検証し、一度に使う抗精神病薬を1種類に

限定することを基本とした、医師向け指針を

2015年に作成。その後も改訂を重ねてきた。

 

今回のガイドは、指針の内容を患者や家族、

支援者に普及させるのがねらい。患者や家族と、

医師以外の医療関係者、法律家なども交えて話

し合い、わかりやすいように解説を加えた。

統合失調症薬物治療ガイド

検索

  

障害者たちが放置自転車などを整備し、新し

い自転車に再生している「ホープ再生自転車販

売」(札幌市)は、不要になった部品でキーホ

ルダーなどを製作、販売を始めた。

 

障害者就労支援事業を行っている「NPO法

生活相談サポートセンター」(札幌市)が運営。

ワントゥージェフ

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31 働く広場 2018.6

 

発達障害に関する知識(定義、障害・治療の内容と対応のし

かたなど)、コミュニケーションと雇用管理のポイントなどを解

説するとともに、職場での悩み事をもとにしたQ&Aにより、

発達障害者への会社・職場としての適切な対応、就業上の合理

的配慮や必要な支援、労務管理の方法なども解説。また、人材

の定着、就労継続、協働などに役立つノウハウも取り上げている。

A5判232ページ、2160円。

  

41歳で脳梗塞を発症し、高次脳機能障害になった鈴木大介さ

んが、飛躍的に回復するまでをまとめた「脳は回復する 

高次

脳機能障害からの脱出」(新潮新書)を出版した。

 

鈴木さんは、社会からドロップアウトした人たちを取材し、「最

貧困女子」などの著書があるライター。リハビリを重ねて日常

生活に復帰するが、「小銭が数えられない」、「イライラから抜け

出せない」、「人混みを歩けない」、「会話ができない」など、で

きないことだらけの日々から、いかにして飛躍的な回復を遂げ

たのかを綴っている。新書判271ページ、886円。

  「仕事が怖い!」、「ものを捨てるのが怖い!」、「トイレが怖

い!」、「買い物が怖い!」などの恐怖と戦ってきた、漫画家の

みやざき明日香さんが、自身の半生を描いたコミックエッセイ、

「強迫性障害です!」(星和書店)を出版した。

 

ドアノブを壊すほどガチャガチャと戸締りを確認してしまう

「確認強迫」、人にけがをさせていないか気になる「加害強迫」、

苦手な数字を見ると動けなくなる「縁起強迫」など、さまざま

な病状をもつ著者が、発症のきっかけ、精神科にかかるまでの

いきさつ、診断と通院、漫画家としてデビューを飾るも症状と

苦闘する日々を、当事者ならではの感性で描く。A5判192

ページ、1296円。

「脳は回復する」

「強迫性障害です!」

広告ページのため掲載しておりません。

『働く広場 電子版』

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32働く広場 2018.6 32

次号予告

この人を訪ねて

社会福祉法人素王会の理事長で、アトリエ

インカーブ(大阪府)のクリエイティブディレ

クターとして、高齢者・児童・障害者の空間デ

ザインや、ソーシャルデザインを提案し続けて

いる今中博之さんに、お話をうかがいます。

職場ルポ 

医療機関のコンサルティングをベースに、医

業経営をトータルサポートする総合メディカル

株式会社(福岡県)を取材。障害者が幅広く

活躍する職場の様子などをお伝えします。

グラビア

スキャナ関連の開発・製造シェア国内No.1の

株式会社PFU(石川県)を取材。障害者雇

用を進めるにあたり、現場での工夫や取組みを

紹介します。

編集委員が行く

武田牧子編集委員が、株式会社キトー(山梨

県)を訪問。独自の雇用プランを策定し、積極

的に障害者雇用に取り組み、雇用定着を目ざす

現場を取材しました。

本誌を購入するには――

●定期購読は、インターネットからのお申し込みが便利です。バックナンバーも購入できます。

●(株)廣済堂にお申し込みいただいても購入できます。1冊ずつの購入も受けつけます。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822

インターネットから定期購読検索富士山マガジンサービス

編 集 委 員(五十音順)

あなたの原稿をお待ちしていますあなたの原稿をお待ちしています

埼玉県立大学教授

株式会社 FVP代表取締役

山陽新聞社会事業団専務理事

一般社団法人Shanti 

あきる野市障がい者就労・生活支援センター長

株式会社ダイナン 経営補佐

東京通信大学教授

有限会社まるみ代表取締役社長

横河電機株式会社

朝 日 雅 也

大塚由起子

阪 本 文 雄

武 田 牧 子

原  智 彦

樋 口 克 己

松 爲 信 雄

三 鴨 岐 子

箕 輪 優 子

■ 声̶障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。

  ●発 行ーー独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構  発行人ーー企画部長 小林 淳 編集人ーー企画部次長 中村雅子〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉 3-1-2  電話 043-213-6216(企画部情報公開広報課)ホームページ http://www.jeed.or.jp  メールアドレス [email protected]●発売所ーー株式会社 廣済堂 〒105-8318 港区芝浦1-2-3 シーバンスS館13階 電話 03-5484-8821  FAX 03-5484-8822

6月号

定価(本体価格129円+税) 送料別平成30年5月25日発行無断転載を禁ずる

・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。

 職業リハビリテーション研究・実践発表会は、職業リハビリテーションに関する研究成果、実践報告の発表のほか、特別講演、パネルディスカッションなどを行うもので、毎年1回開催しています。昨年11月に開催した発表会には 1,156 人の方が参加されました。(昨年度の概要はこちら→http://www.nivr.jeed.or.jp/vr/vrwebreport.html) 今年度の発表会は、平成 30年 11月8日(木)、11月9日(金)の2日間、東京都江東区有明の東京ビッグサイトで開催する予定です。現在発表者を募集しています。詳細は障害者職業総合センター研究部門ホームページをご覧ください。 なお、当日の参加者については、8月中旬にホームページなどで募集する予定です。

(発表者募集のお知らせ)第26回職業リハビリテーション研究・実践発表会

検索障害者職業総合センター

雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当の方 ぜひご覧ください!

メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索

※カメラで読み取ったリンク先が http://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.html であることを確認のうえアクセスしてください。

雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当の方 ぜひご覧ください!

詳しくは

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事例集の送付を希望される方は、下記までお問い合わせください。

職場改善好事例集 29この事例集は、当機構のホームページでもご覧いただけます。 検索

雇用開発推進部 雇用開発課TEL 043-297-9515 FAX 043-297-9547

「身体障害、難病のある方などの雇用促進・職場定着に取り組んだ職場改善好事例集」のご紹介

当機構では、事業所における障害者雇用と職場定着を進めるため、雇用管理や職場環境の整備などさまざまな改善・工夫を行った障害者雇用職場改善好事例を募集し、優秀な事例を表彰しています。2017(平成 29)年度は、視覚障害、聴覚障害や内部障害など

の身体障害、難病のある方などの雇用促進に取り組んだ職場改善好事例を募集しました。このたび、入賞事業所の事例を「身体障害、難病のある方などの雇用促進・職場定着に取り組んだ職場改善好事例集」としてとりまとめました。障害者の雇用促進と職場定着のためにぜひご活用ください。

 最優秀賞(厚生労働大臣賞)の株式会社キトーの事例から

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6月号 平成30年5月25日発行 通巻489号

毎月1回25日発行 

定価(本体価格129円+税)

 職場定着の支援の強化が求められていることや研修の受講ニーズが増大していることをふまえ、平成30 年度から以下の通り、ジョブコーチ養成のための研修体系の見直しと研修機会の拡充を図ります。

訪問型・企業在籍型職場適応援助者支援スキル向上研修の受講機会を拡充します。

個別ケースに対する効果的な支援方法の助言や問題解決に有用な情報の提供を行います。

(全国の地域障害者職業センターで実施)

支援困難性の高い個別ケースに対する効果的な支援方法の助言や援助全般のマネジメントに役立つ助言および情報の提供を行います。(全国の地域障害者職業センターで実施)

平成 29 年度

平成 29 年度

スケジュール 開催回数

平成 29 年度

平成 29 年度 平成 30 年度

講義風景

平成 30 年度

平成 30 年度 平成 30 年度

➡ ➡

◎千葉市(幕張):年3回 開催

◎その他の地域:年1回(昨年度:高松市) 

◎東京 10 人 ◎大阪 7人◎その他 5人  

 8月期:幕張会場、大阪会場 10 月期:幕張会場 12 月期:幕張会場、大阪会場 2月期:幕張会場

第2回:平成 30 年11月 幕張会場

第3回:平成 31年2月  大阪会場

平成30年6月以降に申込を受けつける研修

平成30年6月以降に申込を受けつける研修

◎千葉市(幕張):年6回開催◎その他の地域:年2回(大阪市)

◎東京 40 人 ◎大阪 20 人◎埼玉、千葉、神奈川、京都、兵庫 16 人◎その他 6人  

連続する 4 日間に見直し

◎千葉市(幕張)で 年 2 回開催◎新たに大阪市で 年1回開催

前期 ・後期を合わせて5日間

◎千葉市(幕張)で 年1回開催

 訪問型・企業在籍型職場適応援助者養成研修の受講機会を大幅に拡充します。養成研修

支援スキル向上研修 養成研修修了者サポート研修

支援スキル向上研修修了者サポート研修

集合研修の開催回数を増やします

研修の開催回数を増やし、スケジュールを見直します

一部の地域障害者職業センターでは実技研修の 1 回あたりの受入れ人数を増やし、開催回数を年 6 回に増やします

JEED専門職員研修 検索

<お問い合わせ先 > 職業リハビリテーション部研修課 TEL 043-297-9095 E-mail:[email protected]

ジョブコーチ養成のための研修体系の見直しと研修機会の拡充ご案内

各研修の詳しい日程や申込受付期間、受講要件手続きなどはホームページをご覧ください。

NEW!

NEW!

NEW!

NEW!

ステップ2ジョブコーチの実務経験のある方

ステップ 1ジョブコーチを目ざす方

障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター全国の地域障害者職業センター

全国の地域障害者職業センター障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター全国の地域障害者職業センター

職場適応援助者支援スキル向上研修

ジョブコーチとしての支援スキルの向上

支援スキル向上研修修了者サポート研修支援スキル向上研修修了者の困難性の高い支援の実践ノウハウの習得

養成研修修了者サポート研修

養成研修修了者の困難性の高い支援の実践ノウハウの習得

職場適応援助者養成研修

ジョブコーチ支援をする際に必要な知識・技術の修得

職場適応援助者(ジョブコーチ)