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T 国際開発研究フォーラム .l 10 (1998. 7) Forumof nternatio η alDevelopmentStudies. 10July1998) 途上国の地域開発と多国籍企業 一一メキシコの「マキラドーラ J での実態調査を踏まえて一一 杉山悦子 RegionalDevelopmentinLDCsandMultinationalCorporation 一一-BasedonSurveyof faquiladora inMexico- SUGIYAMAEtsuko* Abstract Thispaper analyzestherelationship between regional development in LDCs and multinationalcorporations(MNCs),esp ciallyfocusingontheinfluenc ofMNCsupon local development und reconomic 'enclave condition which refers to a situation of poorly devεlopedlinks betweenMNCsandlocalsuppliers. There have been many arguments regarding the impact of private foreign direct invest- rnentandof theactivitiesof MNCson thedevelopmentof LDCs,as manyof them make an effort to attract the establishment of factories by M N Cs. The impact could turn out to beeither positiveornegative. It dependsonbothhowlVINCsoperateinaregionwhere they have xt nsivestakes and how th localsociety and firms react to them. Especially, inth caseof lVINCs operationinexportprocessingzones,whichisoftenof thelackof connectionwithlocaleconomyandineffectiveness in the developmentof theregion. Ev nunderth 巴‘enclave conditiontheimpactoflVINCs'pres nc isbynomeans negligible. Generally speaking, the establishment of firms gradually brings about changes intheregion suchas the shift in theindustrial structure and employment,the incr aseof population, the improvement of educational level and environmental prob ms.In addition, evidence from Asian economies shows that a certain clegre ofindustrial development has beenachievedoutof this enclave situation. The'enclave condition,therefore,could b a steptoward economicindependence. Taking acase studyof Maquiladora inTijuana,Mexico,thispaperattempts tofind out howand whatkinds of impact lVINCs have hadin Tijuanaand explores the pot ntial forashiftintothen xtphaseof conornicd velopment. 本名古屋大学大学院関際開発研究科博士諜程(後期諜程〉

途上国の地域開発と多国籍企業 · T国際開発研究フォーラム.l 10 (1998. 7) Forum of 正nternatioηal Development Studies. 10 〔July 1998) 途上国の地域開発と多国籍企業

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T国際開発研究フォーラム.l 10 (1998. 7) Forum of正nternatioηalDevelopment Studies. 10〔July1998)

途上国の地域開発と多国籍企業

一一メキシコの「マキラドーラJ での実態調査を踏まえて一一

杉山悦子

Regional Development in LDCs and Multinational Corporation

一一-Basedon Survey of百faquiladora’inMexico-

SUGIYAMA Etsuko*

Abstract

This paper analyzes the relationship between regional development in LDCs and

multinational corporations (MNCs), esp巴ciallyfocusing on the influenc巴 ofMNCs upon

local development und巴reconomic 'enclave’condition which refers to a situation of poorly

devεloped links between MNCs and local suppliers.

There have been many arguments regarding the impact of private foreign direct invest-

rnent and of the activities of MNCs on the development of LDCs, as many of them make

an effort to attract the establishment of factories by MN Cs. The impact could turn out to

be either positive or negative. It depends on both how lVINCs operate in a region where

they have巴xt巴nsivestakes and how th巴localsociety and firms react to them. Especially,

in th巴caseof lVINCs’operation in export processing zones, which is often of the lack of

connection with local economy and ineffectiveness in the development of the region.

Ev巴nunder th巴‘enclave’conditionthe impact of lVINCs' pres巴nc巴 isby no means

negligible. Generally speaking, the establishment of firms gradually brings about changes

in the region such as the shift in the industrial structure and employment, the incr巴aseof

population, the improvement of educational level and environmental prob!巴ms.In addition,

evidence from Asian economies shows that a certain clegre巴ofindustrial development has

been achieved out of this‘enclave’situation. The 'enclave’condition, therefore, could b巴

a step toward economic independence.

Taking a case study of ‘Maquiladora’in Tijuana, Mexico, this paper attempts to find

out how and what kinds of impact lVINCs have had in Tijuana and explores the pot巴ntial

for a shift into the n巴xtphase of巴conornicd巴velopment.

本名古屋大学大学院関際開発研究科博士諜程(後期諜程〉

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途上国の地域開発と多国籍企業

第 l節問題意識と本研究の罰的

近年,藍接投資を挺子として,自国の産業

の発展を白指そうと,多くの途上国が外国企

業の誘致に懸命になっており,外資政策は制

限的なものから開放的なものへと変化しつつ

ある。このような変化は,アジア諸国での誼

接投資を継起とした発展がある程度の成功を

叙めつつあるとし、う現状が世界的に認めら

れ,直接投資が受け入れ国の経済発展にとっ

て有益で、あるとし、う見解が一般的になされた

結果である。

しかしながら,途上国での多国籍企業の企

業活動は,しばしば進出地域に連関効果を余

り生み出すことがなく,地域経済や閣内経済

とは関連を持たない「飛び、地」を形成すると

も言われている。特に輸出加工区で、は,中間

財の輸入課税の免税措置がとられており,国

産化率に対する規制もないことからその傾向

が強い。このような「飛び地」状態における

多国籍企業の事業活動は,安価な労働力を利

用するだけで,閣内産業の発展には何の効果

ももたらさない搾取的な性格を持っと批判さ

れることもある。

しかし,一般的には企業がある地域に進出

することにより,その地域は否応なく変化を

するものである。地域の産業構造や就業構造

が変化し,それらの企業の活動を基礎とした

地域経済が形成される。その結果,進出企業

は地域振興を引き起こす起;爆剤のような存在

から,企業と社会は相互に影響しあうような

関係になると考えられる。従って,多国籍企

業の形成する「飛び、地」においても,その地

域の発展は多かれ少なかれ多国籍企業の影響

を受けているのではなし、かと考えた。さらに,

現在「飛び地」状態であったとしても,その

状態は現地産業と多国籍企業とが有機的なリ

ンケージを形成するための準備に必要な期間

ではないかと考える。

本稿では,上記の二点,つまり「飛び、地」

状態下での多国籍企業の影響力とはどのよう

なものであるのかということと,今後「飛び

地」状態から脱してし、く可能性を中心に,多

国籍企業と途上国の地域の発展との関係を明

らかにすることを目的としている。そのため,

「飛び地J 状態であると言われているメキシ

コの太平洋側にある北部国境地域ティファナ

市の「マキラドーラ」での実態調査を行い,

多国籍企業が地域の発展に何をもたらしてい

るのかを実証的に検証し,多国籍企業主f活用

した途上罰の発展とし、う経路を考察した。マ

キラドーラ企業は,中間財の国内調達率が 1.

3% (1996年) (INEGI 1997a)と{尽く,典型

的な「飛び地J 状態である。

本稿の構成は,まず,第 2節で多国籍企業

と受け入れ閣の経済成長に関する議論を行

い,外部の企業に依存することの問題点や「飛

び地」が形成されてしまう原因を検証したう

えで,「飛び地」下における多国籍企業の影響

にはどのようなものがあるのかを考察する。

第3節では,ケーススタディとして「飛び、地J

状態にあるティファナ市をとりあげ,文献と

実態調査をもとに分析する。第4節では,今

後のティファナやメキシコ現地企業の発展の

可能性についての考察を行う。

第 2節多臨籍企業を挺子とした経済成

長とその問題点

(1) 多国籍金業と受け入れ菌の経済成長

多国籍企業による直接投資が受け入れ国の

経済発展の機動力となりうる点は,ハーシュ

-152一

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マン CA.0. Hirschman 1958)の唱えた前方

連関効果・後方連関効果による「投資誘発」

が生み出され,途上国を不均整状態に踏み出

させるという点と,直接投資が一般的に途上

国に欠けている経営資源I)を一括して移転

するという点である。ハーシュマンは,外底

資本は民間部門における分散型の投資を集中

型に変化させたり,慣習的な投資を革新的な

ものに切り替えさせたりして,途上闘がしば

しば陥る低均衡状態を打破する力に優れてい

ると指捕している。

また,後者の点は,直接投資により単に資

金や生産機械設備のみが移転されるのではな

く,先進国企業の保有する生産技術や生産管

理,品質管理,マーケティング,経営方法な

どの経営資源が一括して移転され,それらを

学習する機会が得られることに着目したもの

である。このような経営資源の移転は,多掴

籍企業の進出当初には,親会社から現地子会

社への移転のみに留まっているであろうが,

時間の経過とともに国内全体に普及していく

可能性がある。現地企業と子会社との間に取

引が開始され,子会社から現地企業への技術

的なサポートを通じて,また現地企業が多悶

籍企業の手法を模倣することや,多国籍企業

の元従業員が新しく起業することにより,途

内に先進国企業の保有する経営資源が伝

播していくことも有り得る。その結果,自国

の産業が着実な発展をし,多国籍企業への過

度な依存を回避することも可能であるが,そ

のためには受け入れ国の企業が先進国の経営

資源にキャッチアップし,徐々に自国の経営

資源に代替していこうとする努力が必要とな

る(トラン 1992〕。

このように,多国籍企業の進出により,受

け入れ国経済の発展が{足される可能性はある

153

が,あくまでも可能性があるというだけであ

り,それが追随していないとしづ状況も多く

見受けられる。また,外部からの企業に依拠

する形での発展に対しての批判も存在する。

この批判の要点は,外部の企業に依存した開

発方式は「分工場経済J (branch-plant econ合

omies)をもたらしがちであり,地域経済の量

的拡大に成功しても,質の問題が生じるとい

う主張である(宮本他編 1990)。つまり,進出

工場は,域外本社のコントロール下にある自

立性の乏しい分工場で,その進出目的が抵賃

金・非熟練労働で,労働者に技術蓄積をもた

らすことが少ないうえ,分工場に地元の有能

な人材に活曜の場を提供するような職種(高

次のマネジメントや研究開発,マーケティン

グ,財務部門など〉を持たず,経済環境の変

化に対応する適応力や内発的なイノベーショ

ン能力がその地域内で形成されにくいという

ものである。さらに,本社や親工場や外部地

域との産業連関は活発でも,地域内産業連関

は弱く,当該地域の経済発展にはあまり貢献

しないと言われている。このような「分工場

経済」の問題は存在するが,たとえ外部依存

型開発でスタートしたとしても,それにより

数々の失敗が引き起こされながらも,多数の

地元企業が育成され,内発型地域開発への転

換が起こる可能性も有り得るのである。

例えば, 日本園内の後進地域であった北陸

地方の吉山一高岡地域は,明治以来電、源開発

や新産業都市建設計酷,テクノポリス計闘な

ど,外来型開発を進めてきた典型的な地域で

あるが,近年では機械・アルミ加工・医薬品

工業などで,技術・開発力をもっ地元企業が

多数育ってきており,地元に本拠をもっ中

堅・中小企業の発農を中心とした地域開発へ

移行しつつある(宮本他編 1990)。また,中部

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途上国の地域開発と多国籍企業

イタリアのボローニャ市(エミリア・ロマー

ニャチトりでは, 1970年代に分工場経済からス

タートし, 1980年代には中小企業を中心とし

た発展へ転換を遂げている(Wilson 1992,

Hatch 1987, Friedmann 1987)。このように,

外来型開発が長期にわたって行われることに

より,自立的な経済発展へのある穣のポテン

シヤノレが形成されるということを全く否定す

ることはできないだろう。

そのため,このような経済開発政策を使用

するとき考慮すべき,点は,受け入れ国自身が

自らの発展方向に関して明確なビジョンを持

ち,閤民全体がそれを理解し,より多くの利

点をそこから引き出していこうとすることが

重要である。その結果,現地金業が生産技術

や開発力の水準を国際競争力を持つまでに高

め,多国籍企業との有効な連関効果を幅広く

生み出し,自立的な活動を展開できるように

なるまでに成長することが大切であろう。し

かし,実際のところ,多国籍企業と現地企業

との有機的なリンケージを形成するために

は,その技術レベルの向上が必須の条件であ

り,技術的ギャップの大きい途上国の民族企

業ではかなり沼難なことである。さらにそこ

から自立的な発展まで導くことはかなりの年

月と努力が必要とされるものであろう。特に,

以下に考察する輸出加工区においては,多国

籍企業は地域経済と全くリンケージを持たな

い傾向があり,その効果は浸透していかず,

長期間にわたって地元企業の発展・成長の停

滞が継続されやすい。

(2) 輸出加工区における多掴籍企業の活動と

「飛ひ3也」の問題

途上国へ進出した多国籍企業でも輸出加工

区(ExportProcessing Zone)以外での活動

154

では,受け入れ国政府による国産化率の規制

や関税需壁に直面したり,製品の思内販売を

行っているため,比較的「飛び地」化するこ

とは避けられる。一方,輸出加工区において

は,生産した製品の調内競売が禁止されてお

り海外向けの生産に特化していることや,中

間財の免税での輸入が 100%許可されている

ことなどから特に「飛び、地」状態化しやすい

性格を持っていると言える九また,産業基盤

が脆弱で,裾野産業がほとんど発達していな

い途上国の場合では,最初から高品質で安師

な財を安定的に供給することはほとんど不可

能に近い。そのため,多国籍企業が現地企業

との下請け関係を結ぶ場合には,多国籍企業

が現地企業に技術的なサポートを行い,サプ

ライヤーとして育成する必要があるが,両者

の技術レベルの格差が聞けば聞くほど,技術

移転は困難になるうえ,時間が必要となる。

このため,本闘での生産においては外部のサ

プライヤーに生産を住せている中間期に関し

ても,進出先での操業では内部生産化してし

まっている場合も見受けられる。

「飛び、地J 問題が発生する原因は,多盟籍

企業と受け入れ国企業の技術水準の差,情報

不足という点であり,技術水準の差や現地企

業の品質の問題とし、う面を考えると,技術力

も含めた民間企業の経営能力の低さと密接な

関係にあると言える。この低い経営能力の問

題というのは,それらの企業の保有する経営

資源の蓄積不足にほかならない。この不足を

埋めるために多菌籍企業を活用することが考

えられるが,多国籍企業と現地企業とのつな

がりがほとんどない状態では,その効果を自

然発生的に期待することはできない。だから

といって,多国籍企業に国産化率を強要する

ことは,輸出加工区制度の下では不可能で、あ

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関 l 台湾・韓国・シンガポールの現地調達率

目50

45

40

35

30

25

20

15

10

主,..,/le-藍 J 古田一一層~『主

.... "' α 。抑制円守山句作 ωα富 :g :g :;; :;; :;; :;; :;; :;; :;; :;; :;; :;;

__,..」台湾 ー盤ト鶴霞 ー噛rーシンガポ…ル

(注〕シンガポーノレの現地調達率には,輸出方n工区内で生産された中間財も現地生産としてカウントされている。

(出所〕 Wilson(1992)

(初回出所) Dean Spinanger (1984)

るというジレンマが存在する。その上,多国

籍企業はグローパル戦略のもと企業内貿易に

基づく国際分業化体制を布き,各生産工程を

最も安髄で高品質のものを生産できる地域に

振り分け,一括して生産主ど行う傾向が近年生

じている。この体制下において,閣内企業と

のリンケージを形成するインセンティブは少

なくなりがちであるし,輸入中間財に免税措

置が施されている輸出加工区の場合には,そ

れはさらに減少してしまうのである。

リンケージが生じにくいとしづ性格を持つ

輪出加工区ではあるが,だからといってその

可能性が全くないわけで、はなし、。国 1は,台

湾、,韓関,シンガポールの輪出加工区におけ

る中間財の現地調達率を設立当初から 1970

年代末まで示したものであるが,台湾,韓国

では上昇傾向を示し,シンガポールで、は設立

当初より 40%以上の高いレベノレで開始して

いることを表している。また, 1980年代後半

には,マレーシアにおいても電気・電子産業

の臼系企業による現地調達率が上昇しており

(1989年に 32.5%),企業間・産業開におい

てリンケージが形成されつつあることが分か

-155

る(青木 1992)九これらアジア諸国の現地調

達率は,備えばメキシコの輸出加工区での現

地調達率の 1~2%と比べると格段の差があ

り,アジア諸国における多額籍企業子会社と

現地企業とのリンケージが生じていることが

確認でき,輪出加工底といえどもその現地調

達率の上昇度合いは国際的な経済環境や受け

入れ留の環境によって左右されていることが

分かる。

(3)輸出加工区における「飛ひo地J での多国

籍金業の影響

「飛び地J下での多国籍企業の影響は,産

業連関によるものがほとんど含まれないため

罷られたものとならざるをえなし、。しかし,

その影響が地域にとってプラスにもマイナス

にも働いていないと結論づけるのは早計であ

る。何故なら,「社会における企業の位置づけ

は対立的な存在でもないし,単なる全体と部

分の関係でもない。もっと複雑に絡み合って

いる。(中略〉個々の企業は独自の意図と機能

を持って自主的に活動しているが,実際には

社会を構成する他のさまざまな組織や個人と

情報を交換しながら,社会全体の調和を組み

込んだかたちで活動し(ときには一時的な逸

脱行為はあるが〉,結果として社会全体の秩序

を創出しているということになる〈佐藤

1997)Jからである。つまり,社会と企業とい

うのは再帰的な関係であり,ある社会に存在

している企業は社会の影響を受けざるをえな

いし,社会も企業の影響を受けざるをえない。

そして,当該地域は,文化的にも社会的にも

両者のものが混ざりあったものへと徐々に変

化していくと考えられる。

それでは,輪出加工区における多国籍企業

の進出はどのような影響を与えているのか。

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途上国の地域開発と多国籍企業

まず,輪出加工亙は政府の外資政策の一環で

あるため,政府により,多国籍企業を誘致す

るために最低限必要な産業インフラ及び社会

インフラが最初の段階で整備される。その結

果,電気・水道・道路・下水などや工業用地

の造成,時には学校・病読などが用意される

のである。つまり,輸出加工区が閣内の後進

地域に創設される場合には,それまで利用で

きなかった公共サービスが当該地域において

利用可能となる。企業数が増加し,輸出加工

区での活動が活発化するに従い,それらのイ

ンフラは不足してくる可能性もあるが,立地

している企業からの税収入がある場合には,

それを活用して必要とされるインフラを拡充

していくことが可能となる。

また,地域の製造業が活発化することも考

えられる。それまで,例えば農業中心の経済

で、製造業の発達がなかった地域において,外

国企業中心ではあるが製造業が発達すること

となる。そして,製造業の活発化に伴い,建

設業が活性化することも考えられる。また,

製造業の発達により,第ニ次産業での労働力

が増加することとなり,地域の就業構造に変

化を与える。

輸出加工区では労働集約的な産業が多く,

霞接的な雇用創出効果が期待できるうえ,イ

ンフォーマル経済に属する不安定な収入しか

得られなかった労働者に安定的な給与が保証

された職場を提供することになる。さらに,

よい資格や高い学歴を持っていることは,多

国籍企業での就職に際し有利となることが多

く,そこでの従業員だけでなく地域全体が教

育に対する重要性を認識するようになる。そ

の結果,地域の教育水準が高まっていくこと

も考えられる。換言すれば,多閤籍企業が設

立し,そこに質の高い職が存在することは,

156

途上国の人々に教育に対するインセンティブ

を与え,人的資源の発展を促進することもあ

るだろう。

また,輸出加工区での多国籍企業の活動は

国際競争にさらされていることから,ある程

度の労働生産性を備えることが必要である。

そのため,それらの産業に従事する労働者の

賃金は,従来の産業と比べて高い生産性にみ

あった高賃金となり,閣内の他地域の人々を

輪出加工区に引きつける。そして,国内人口

移動が起こり,当該地域に労働者が流入して

くる。労働者の流入は,地域の人口増加をも

たらし,地域の活性化につながる一方,イン

フラや公共サービスの不足への圧力をかけ,

都市化問題や環境問題を深刻化させるマイナ

スの要素もある。さらに,環境問題に関して

は,工場の設立やその活動そのものが問題を

引き起こす原因となる場合もあるであろう。

ローカノレリンケージを持たない「飛び、地」

型の企業でも現地の人々へ企業内人材教育を

通じて技術移転は行われている。輸出加工区

では,労働集約的なものが多く,単純作業の

反覆でしかないとしづ批判もあるが,輸出市

場向け生産では,生産工程における規格化と

標準化の徹鼠による品質管理が厳しく求めら

れる。その結果, OJTや外部の教育機関や本

閤親会社への派遣も含めた教育や訓練によ

り,輸入代替工業化政策の下ではあまり考慮

されてこなかった品質管理などの新技術や生

産技術や近代的な経営方式などが習得され,

熟練の蓄額や経営能力の向上がなされる。多

国籍企業子会社内で R&Dが実施されている

場合には,現地従業員も研究開発に参加する

機会を得て,さらに高いレベルの技術習得が

可能である。このような企業内人材教育にお

いて,従業員達の能力向上へのインセンティ

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ブとなるのは,徐々に多国籍企業内の人事で

現地化が進められることであり,昇進の可能

性が従業員に提示されていることであろう。

現地の人材が成長するに従い,現地従業員を

より責任の重いポストにつけることが可能と

なる。そうすると,現地従業員はより大きな

責任を任され,より成長するとし、う好循環が

生まれる。

これらの人材の成長とともに,受け入れ関

が技術力を高めるには,そこで培われた技術

や知識が受け入れ国全体に広まっていくこと

が必要である。「飛び地」経済で、は,多間籍企

業が現地企業とのリンケージを欠いているた

め,現地企業への誼接的な技術移転はなされ

ていないため,このような技術の普及は実現

されていない。しかし,多国籍企業の従業員

が退職し,起業するというスピン・オフ効果

が期待できる。ディコンティ CM.A. Diconti

1992)は,メキシコの多酪籍企業からのスピ

ン・オフした人々のインタビュー調査を行い,

その結果,多額籍企業内で培った経験や蓄積

した技術が新しい事業におし、て,重要な役割

を持っていることを確認した。このように企

業内での人材教育による人的資源の向上は,

今後の産業連関を形成してし、く上で重要な要

となっている。

その他,多国籍企業子会社がフイランソロ

ピー活動や必要なインフラ〈例えば,従業員

住宅など〉に投資を行うといった受け入れ地

域への貢献活動がなされる場合もある。欧米

社会,ことに米国においては,企業のフイラ

ンソロピー活動は活発になされており,それ

らの地域に進出した他国籍の企業もまた同様

の活動を行うことが地域より要請される。こ

の要請に応えることは,企業が地域社会との

摩擦を避け円滑に事業活動を展開していく上

157

で必要なものである。途上国の場合では一般

的に地元企業の発達が遅れているため,その

ようなJ損習はあまり一般化していないかもし

れない。しかし,多国籍企業が本国の企業活

動において一般化している慣習を,途上国内

でも展開することも十分考えられることであ

る。このような貢献がなされ,地域にとって

どの程度の影響を与えるかということは,そ

の貢献活動の規模や種類によって左右される

であろう。

また,多留籍企業が園内に存在し事業活動

しているため,受け入れ居内で有機的なリン

ケージを作ろうとする産業援興政策がより行

われやすくなることも考えられる。つまり,

多国籍企業が盟内に存在していることによ

り,閣外に設立している食業よりは接近しや

すくなっているのである。政府により,多国

籍企業の地域リンケージ形成への働きかけが

なされ,地元企業開のネットワーク形成が図

られ,見本市の開催などによって地元企業の

紹介が行われることによって,徐々にでも多

聞籍企業子会社と地元企業との聞の塩根が低

くなっていくような可能性を生み出してい

る。しかし,両者の技術的な格差は大きいた

め,この可能性が実現するかどうかは現地企

業と政荷の努力の程度に依存している。

「飛び地」状態にある輪出加工区における

多閤籍企業の影響には,上記のようなものが

考えられるが,次節では,実際にどのような

インパクトを与えているのかを,メキシコの

ティフアナ市の発展と多国籍企業が中心とし

て活動しているマキラドーラ 4)との関係に

ついて分析を試みた。

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途上国の地域開発と多国籍企業

第 3節ケーススタディ:ティファナの

発展とマキラドーラの成長

(1) ティファナの概況

ティファナ市(Tijuana)は,メキシコの西

北部に位置するパノ、・カリフォルニア州 5市

(Municipio〕のうちの lつの都市である。

ティファナは米国との国境沿いに位置し,サ

ン・イシドロ(SanYsidoro)とオタイ・メサ

〔OtayMesa)という 2つの国境ゲートが関

かれている。ティファナとサン・ディエゴ闘

の距離は25km,戸ス・アンジェルスとの距

離はZOOkmときわめて近接しており,経済

的にも米閣の影響を受けやすい環境にある。

ティファナの 1995年現在の人口は約 100万

人で,パノ、・カリフォノレニア州の中でもっと

も多くの人口を持つ都市となっている(表

l〕。また,メキシコ全土で見ても,メキシコ

シティ,グアダラハラ,モンテレイに次ぐ第

4の都市となっている。

近年のティファナ経済を見てみると,何度

かの浮き沈みは見られるものの, GDP(GRP)

の成長率というマクロ的な指標からは, 1980

年代のメキシコ経済の危機的状態にもあまり

影響されることなく, 1970年代から 90年に

かけて,テ 4ブアナの経済成長率は 3.8%と,

顕調に成長をしている(表 2)。また,一人当

たり所得も他地域と比べると高く, 1990年で

は,パノ、.カリフォルニア州の 11%,メキシ

コ全土の 17%も上回っており,メキシコ・シ

表 l 人Clと人口成長率

(単位:二千人・%)

州全体 Tijuana割合叫 人口成長率叫 チ!? Tijuana

1950 227 65 28.8%

1950-60 8. 3% 9.3% 1960 520 166 31.9%

1960 70 5.1% 7.2% 1970 870 341 39.1%

1970-80 3. 0% 3.0% 1980 1,178 461 39.2%

1980-90 3. 4% 4.8% 1990 1 661 747 45.0%

1990-95 4. 8% 5.7% 1995 2 112 992 46.9%

(注〕* 1 ティファナの人口の州人口に点める割合

* 2 人口成長率rは,以下の式にて算出。 r=ln(期終の人口/期初の人口〉/年数

〈出所〕 INEGI(1996)

表2 GRP (GDP)平均成長率と一人当たり所得成長家

GRP (GDP)平均成長率〔%) 1970 80 1980-90 1970 90

ティファナ

パハ・カリフォノレニア州

メキシコ

3.8

5.3

6.6

3.8

1.3

1. 7

3.8

3.3

4.1

一人当たり所得成長率(%) 1970-80 1980 90 1970-90

ティファナ

パノ、・カリフォノレニア州

メキシコ

0. 7 -1.1 0.4

2.2 -1.5 0.4

3.2 -0.3 1.5

(出所) Salvador Mendoza Higuera他(1993〕

158-

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国2 州別マキラドーラの成長(事業所数・労働者数・付加価値額〉

マキラドーラ事業所数推移

3000

2500

2000

1500

1000

500

。1985 1990 1995 1996

マキドーラ付加価値推移(単位千ベソ-1994年悩絡〉

35,000

25,000

20,000

15,000

10,000

5,000

。1980 1985 1990 1995 1996

ティ,タパスコ,ヌエボレオンに次ぐ国内第

4位であった(Higuera, Valenzuela, and

Zepeda 1993)。しかし, 80年代には人口の増

加率が高く 4.6%となったため(表 1〕,経済

成長は人口増加についていけず,一人当たり

所得は減少額向であった〈表 2)。ティファナ

の物価は他地域と比べると高いこともあ

り5),経済成長が必ずしも住民の厚生を高め

ていたとは言いがたい。

(2) ティファナのマキラド…ラの成長とその

影響

マキラドーラはティファナにどのような影

響を与えたのであろうか。初めに,ティフア

ナのマキラドーラ成長の状況について簡単に

述べた後,前節で、述べた「飛び地」下におけ

マキドーラ労働者数推移(単位:千人〕

800 '

700 I

600

500

400 i

300

200

100 。1985 1990 1995 1996

むその他

包ソノラ

店コアウイラ!§]タマウリパス

日チワワ

際ノζノ、・カリフォノレニア

(出典) INEGI (1997a)

る多聞籍企業の影響に関して,文献や統計

データ及び筆者が現地において行った臼系企

業でのインタビュー調査をもとにティファナ

において確認できたものを以下に考察してい

しなお,インタピュー調査は, 1997年 8月

末から 9月初めにかけて日系電気電子企業3

社 CA社, B社, C社と名付ける〉に対して

行ったものであり,企業の概要については,

節末の表?を参照願いたい。

1996年現在,ティファナのマキラドーラ

(以下,マキラ〉企業6)の設立数や雇用数は

メキシコ全体でみてもかなり多く,ティファ

ナがマキラ企業にとって魅力のある町である

ことがわかる。陸 2は,メキシコ内のマキラ

企業の設立数,雇用人数,付加価値額を 1980

年から 96年まで示したものであるが,ティ

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途上国の地域開発と多国籍企業

ファナの属するパノ、・カリフォルニアチト|は企

業数で 32.9%。雇用数で 21.1%,付加価値額

の22.7%を占めている。さらにティフアナ

は,ノミハ・カリフォルニア州内において 70%

以上の雇用と付加価値額を占めており,最も

マキラ企業が活動しているところである

(INEGI 1997a)。マキラ企業の多くは米国系

の多国籍企業によるものであるが,近年,日

系およびアジア系の企業の進出も増加してい

る。特にティファナには,日系の電気・電子

産業(特にテレビ〉のメーカーが多く進出し

ており,主に北米市場向けのテレビ生産の一

大拠点となっている状況である7)。

北部盟境地域のマキラ産業の中間財の国内

調達率は 1.3%(1996年〉と低く,多くの企

業が園内企業とのリンケージをほとんとや持た

ず,連関効果を生み出さない「飛び地」状態

となっている。テ 4 ファナにおいても同じよ

うな状況が観察され,圏内企業と大規模なマ

キラ企業である多国籍企業子会社との塩恨は

依然として高い。ティファナ在中の日系企業

も,ティファナやメキシコ国内からの部品調

達率は少なく, ローカノレザンケージはほとん

ど作られていないのが現状であるが, 日系企

業が数多く集中していることから,マキラ企

業開での部品供給の取引が行われている。イ列j

えば,ムツテックはプラスチック部品の生産

を行っているが,サンヨーや松下,日立など

のティブアナ内で操業している企業との取引

を行っている(Wilson1992)。しかし,ムツ

テックはその製品の原材料のほとんどを日本

もしくは米国からの輸入に頼っている。この

ように,ティファナに存在している日系マキ

ラ企業の多くも経済的な「飛び地J を形成し

ており,現地企業とのリンケージはほとんど

ない状態となっている。

160

インタビュー調査を行った 3社でも,中間

財の現地調達率は{尽く,ほとんど連関関係を

生み出していなかった。そのため,現地企業

に対する技術指導なども全く行われていない

状態である。ローカルリンケージとして観察

できたのは,日系マキラ企業問での中間財の

取引である。例えば, B社はティフアナ内の

マキラ企業へ製品を納品している。また, C

社では,プラスチックの成形も社内で行われ

おり,ティファナ内の別のテレビのセット

メーカーヘテレピのキャビネット部分を納品

している。さらに,|可社の進出に伴い臼本で

中間財を供給していた企業が 7~ 8社もティ

ファナへ進出しているという。 A社において

も,日本で取引関係にある企業に対して,テ

スト操業を行う場合に向社内の敷地や人員の

使用を認め,その企業が実際のマキラ進出に

踏み切るのをサポートしていた。このように,

臼系マキラ企業に関しては,マキラ企業間で

のローカルネットワークが形成されつつあ

る。この傾向はさらに, 2001年のマキラ制度

廃止に伴い,各企業の現地調達率引き上げ努

力がなされるに従い強化されていくことが予

測できる。

次に,マキラがティファナにどのような影

響を与えてきたのかをl阪に見ていくこととす

る。

1. インフラストラクチュア

まず,インフラ閣であるが,政府は確かに

企業の誘致のためにインフラの整備を最初の

段階で行った。その結果,多くの企業が進出

をし,飛躍的にその設立数が増加していった。

しかし,マキラの成長やティファナの都市と

しての成長が速すぎたため,もしくは政府の

対応が遅れたため,現在のティフアナの主要

な問題はインフラの不足である。政府は,イ

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ンフラのさらなる拡充をしているがその多く

は企業誘致のためのものであり,住民の生活

のためのインフラはなおざりになっており,

水道・電気・下水などの基本的な生活インフ

表3 就業;儲造の変化 0970・90年〉単位 %

男 女

1970 1990 1970 1990

農業 12.0 2.1 3.8 0.3

工業 33.5 40.2 28.8 38.0

商業 19.1 18.6 17.0 19.3

サーピス業 35.4 39.0 50.5 42.3

CIHl!fr〕IXand XI Population Censuses. 1970 and 1990.

ラを初め,道路・住宅なども不足状態である。

さらに,道路では舗装道路であっても,状態

が悪く穴が開いてしまっていたりするのが現

状である。政府の行うインフラへの投資は,

長期的な計画性を欠いた緊急処置的なもので

あり,状況が悪化してどうにもならなくなっ

た場合に対J;Gするとし、う後手に由ってしまっ

ている(TonatiuhGuillen Lopez 1993)。こ

のようなインフラ不足は,新たな企業進出に

とっての足物!となっているが,住宅の多くが

丘設地域に建設されているため,それの設備

を整備するのには非常にコストがかかるとい

う問題に誼面している。

表 4 ティファナの部門別製造業 (1993年〉

木製品・木材・家具 207 9.4% l()] 8,778 9.6% 1,895 767 215 9.3%

~;L~ ・印刷・ Hlll& 211 9.6% 117 2,403 2.6% 1 028 153 46 2.0%

化学・石油誘導品叫 93 4.2% 50 10' 519 11.5% 8,134 445 270 11.7%

230 10.4% 120 2,868 3.1% 1, 914 192 83 3.6% 本5

*L1]加l数は1988'.tドから1993王子の5年間のIHJに機加した数 本2]終j1:はl'D]ベソ キ3ゴム・プラスチックなど *;右主!1

誘導ふを除く *'この数は機宿保護のため名目告されている。これは、食業設立数が少ないためである。cw所) INEGI(l996〕

霊祭5 7 キラドーラの雇用人数推移と地1加率

年 企業数雇用人数 年 企業数雇用人数 f年 企業数雇用人数 そF 増加率

1974 101 9,276 1982 124 14,959 1990 414 59,870 1974 80 4.8%

1975 99 7,844 1983 131 17 423 1991 466 60,896 1981-85 11.6%

1976 93 7,795 1984 148 23,046 1992 515 68,960

1977 92 7, 111 1985 192 25,913 1993 531 77,943

1986-90 13.7%

1990-96 10.1%

1978 95 8,778 1986 238 30,248 1994 502 85,521

1979 101 10,899 1987 297 38,575 1995 477 93,899

1980 111 12,342 1988 355 49,545 1996 529 111, 807

1981 124 14 482 1989 436 58,029

〔}知芳) 1974年~79年はず.D. Proffitt, III 099..J). 1981~96年はINEGI(1997a〕

161

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途上国の地域開発と多国籍企業

2. ティファナの製造業の発達

ティファナの主な産業は観光業と製造業で

あり,労働人口構造が示すとおり,工業とサー

ビス業の割合が多くをしめている(表 3〕。

ティファナのマキラでは,電気・電子機器,

輸送機器,石油化学製品,プラスチック,金

属製品,農薬品などの生産が行われているが,

1993年のティファナの製造業の資料(表 4)

によると,金属製品・機械・設備産業の占め

る割合が食業数,雇用数,そして付加価値生

産額においても高く,マキラ産業が製造業全

般において重要な位置を占めていることが伺

える。これらのマキラの成長は,ティフアナ

の就業構造にも変化を与えており,工業部門

に従事する労働者の割合は 1970年から何年

の間に男女ともに増加し(表3〕,第二次産業

が中心的な役割を担いつつある。 1990年の工

業部門での労働者数に占めるマキラでの労働

者の割合は 60.2%までになっている。

3.雇用機会の提供と人口増加

次に,雇用の創出効果であるが,マキラプ

ログラムは,ブラセロプログラム終了に伴う

北部国境地域の失業者対策として制定された

ものであった。しかし,プログラム開始当時

の雇用は主に若い女子工員をにや心としてなさ

れていたため,ブラセ戸プログラムの終結に

よって失業してしまった人々にとっての就職

先となったかどうかははっきりとは分からな

い(Kusel1989)。しかし, 1974年から 80年

の間にマキラの悪用人数は 4.8%増加し, 80

年以降には10%以上の増加となり(表U,労

働人口に占めるマキラでの雇用人口は, 1980

年で 9%であったのが, 90年には 22.9%まで

増加した。さらに, 1980年代のメキシコ経済

の危機的な状況下で他の部門における雇用が

減少した時にでも,マキラでの麗用は減少す

162

ることはなく,ティファナの失業率は園内平

均よりも低く,労働者にとって安定的な職場

を提供していたと考えられる。このようにマ

キラ産業はティファナにとって雇用創出源と

して大きな役割を果たしており, 1980年から

90年までの労働人口の増加の 47.3%はマキ

ラ産業によるものであった。

また,マキラで、支払われる賃金は調内最低

賃金よりも高いことが多く,特にティブアナ

の場合は特に労働力不足や高い離職率等の問

題があるため,マキラの賃金の水準は比較的

高く設定されている。 1994年において,政府

が制定するティファナ地域の最低賃は日給

15.27ぺソ 8)であったが,ティフアナでのマ

キラ労働者の平均賃金は日給 35.5ぺソ( 7ド

ル程度〕であった(βorderLink 1994)。イ

ンタビュー調査を行った各企業の賃金は, C

社では末端の女子直接工員の場合に月給で

280~ 300ドル程度で、あった。また, B社の賃

金も福利厚生のための支出を含めて,時間給

で約2ドノレで、あった。一方,間接人員に対す

る給料は高く,米国主主の給料を支払っている。

これらの企業は,同地域内の他のマキラ企業

の提供している賃金や福利厚生と間程度のも

のを提供することとし, 1994年の通貨危機の

際,メキシコベソは暴落する結果となったが,

そのときのマキラ企業の賞金への対応もま

た,他の企業の出方を見て同レベルに賃金調

整を行うとし、う対応の仕方であった。

福利厚生の細かし、内容はそれぞれの企業で

異なっているが,昼食や朝食の会社補填や,

長期雇用者への退職金制度(ち社で3カ月分

の給料, C社では300ドノレ〉,健康保険への加

入,クリスマスパーティなどのイベントや通

勤パスのサービスなどが行われている。この

ような高い賃金や福利厚生は,この地域の住

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民の厚生向上に役立っているのではないだろ

うか。しかし,マキラの賃金もメキシコ経済

の変動をあおりを受けるため,必ずしも

傾向にあるとは雷いがたいが,就業している

限りは給料が保証されており,安定的な生活

をjさることができる。 ,マキラでの賃金

の上昇は進出企業にとっての国際競争力を失

わせる結果となる可能性も高く,企業撤退な

どが発生する可能性も秘めている。

マキラによる就業機会と相対的な高賃金

は,陣内の他地域からテイブアナへの人口移

動を挺した。 1970i'f三から 90年にかけて,メキ

シコでは年率 2.5%の成長であったが,ティ

ブアブーでは 3.8%と高い。そうした就業を求

める移民の流入の結果,ティファナの年齢別

人口分布は,メキシコ国内の他地域と比べる

と, 15裁から 64歳までの経済活動人口の割

合が多くなっている九メキシコ経済が危機

的状況であった 1980年代でも,ティブアナで

は,マキラ企業や建設業などでは労働力不足

が開題であったうえ,より高い教育を受けた

都市出身の移民者が増加していると指摘され

ている(CanalesC. 1993)。 1986年の調査で

は,人口増加の 60%が関内からの移民による

ものであり, 1990年の人口統計ではティブア

ナの人口のうち移民の割合はおよそ 60%ま

で、に~とっており, こhはパハ・カリフォノレニ

ア列、iやメキシコと比べてみてもかなり高い数

表6 人仁lの特徴 (1990年〉

Tijuana リ・/'I メキシコ

総人ね(千人) 747.4 1 660.9 81,249.6

都市人口率 98.9% 90.9% 71.3% 移民*人ロネ 58.2% 45.0% 17.2%

労働参加率 51.0% 49.4% 43.0%

*仕l1'.:f也以外の土地で生活している人々Ul:llfr) XI Population and Housing Censns, 1990

163

字である〔表 6)。

マキラでの麗舟機会の存在は,ティファナ

において社会的な影響も与えている。例えば,

マキラ企業に就職するためには,一般よりも

高い教育水準を持っていることが有利となる

ため,人々の教脊への関心を高めるような効

果をもっているようで,ティファナの教育水

準はメキシコ罰内平均よりも高く,マキラで

の麗用機会がある程度は教育拡充への意識を

高めたと考えられる 10)。また,マキラは多くの

女性労働者を雇用しており,ティフアナにお

いても女子の雇舟の割合は 1980年まで約

75%と多かった。近年では男性の労働者の割

合が増加し,女性労働者の割合は減少しつつ

ある。しかし,マキラが女性の労働者にとっ

て重要な就職先の…つであることは,工業部

門に従事する女性労働者の割合が高いことか

らも推測できる。このような女子の震用の増

加は,女性の地位向上や出産率の低下なども

もたらしており,ティブアナの自然増加数自

体は先進盟主主の抵い水準にある11l (Canales

c. 1993)。

4. 急激な都市化と環境問題

しかし,このような 80年代のマキラ急成長

とティファナの急激な都市化は,先にも述べ

た通りインフラに対する圧力を高める結果と

なり,都市の公共サービス等の不足状態を悪

化させることとなったので、ある。また,大気

汚染や水質汚染,産業廃棄物の処理といった

環境に関する問題も発生している。しかし,

どの産業がそのような公害を発生させている

のかに関する調査は不十分で、はっきりしてい

ないため,マキラ産業と公害問題との関係を

はっきりさせることは今後の課題となってい

る。調査した工場では,公害を外へまき散ら

さない対策が実施されており, IS014000シ

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途上国の地域開発と多国籍企業

リーズの取得を白標とし,環境問題に対する

配慮がそれぞれなされていた。このようにマ

キラ企業による操業は国際標準をクリアして

いる場合もあり,環境破壊の輸出というほど

には,その操業を通じて地域の環境に悪影響

を与えていないと推測できる。ただし,この

調査では,実際に空気の汚れなどを計測した

りはしていないため,これらの対策が本当に

何の公害も生み出していないという結論は導

けない。

5.企業内人材教育と企業の現地化

前述の通り,マキラ制度が開始した墳は労

働集約的な組立産業が中心となっていたが,

現在では,その活動分野も従来の伝統的な組

立工程だけでなく加工工程へと拡大しつつあ

る(Proffitt,III 1994〕。これらの産業の輸出

パフォーマンスから判断して,国際競争力が

維持されているというのは,単なる未熟練労

働だけでなく,ある程震の熟練や技能形成が

必要とされていると判断できる。 1996年現

在, 10万人以上の労働者がマキラ企業におけ

る社内研修やOJTを通じて,製造業での技

能を身につける機会を得ることが可能となっ

ている。調査企業においても,労働集約的な

組立工程のみではなく,自動化が進行し,プ

ラスチックの成形や印刷などの工程〔B社,

C社〉や研究開発(A社, C社〕なども行わ

れていた。そして,一部のメキシコ人労働者

は研究開発や高度な機械操作,プログラミン

グなどに従事していた。

調査食業の直接工員への教育は,入社時に

レクチャーを少し行い,その後OJTにて行

うとし、う方式を 3社とも採用している。レク

チャーの内容は,生産への基本的な態度,取

り扱い部品の説明,従業員規則などであるが,

C社では同社のモットーなど企業文化も教育

されていた。その他, kaizen活動 CB社〉や

小集団活動 cc社〉などが実施されており,

直接工員が生産性・品質向上に対する意識を

向上するようになされていた。 OJT以外の教

育では,一般の労働者向けのものは少ないが,

チームリーダーやライン長などに対しての教

育は力が入れられており,米国の大学や他企

業の提供する外部の教育機関へ派遣し教育を

受けさせている。マネージャーや技術者・技

能者への教育も行われており,必要な場合に

は日本への派遣も行っている。

前部において,人材育成において,昇進の

可能性が提示され,企業内の人事が現地化さ

れていくことがインセンティブとして有効で

あると述べた。昇進に関しては,誼接工員の

場合には,経験を積み熟練を高めることで

チームリーダーに昇格している例は見受けら

れた。生産におけるチームリーダーの責任は

重く,品質管理やOJTなどの任務を負って

いた。しかし,直接工員と技能者,技術者間

の職務分担ははっきりと分かれており,それ

ぞれのための人員を雇用するとし、う方式がと

られており,職聞を越えた仕事に就くことは

ない。階級社会であるメキシコでは,大卒の

技術者と専門学校卒の技能者との間には意識

的な差がかなりあるため,それを乗り越えて

技能者が技術者の仕事をする事はないとい

うl九また,直接工員は低学歴である場合が多

く,メンテナンス工まで育て上げるにはかな

りの時間と努力が必要となってしまうのであ

る。離職率が高いため,どの工場においても

従業員の多能工化は思lられておらず,人材教

育へのインセンティブを阻害し,昇進制度に

も影響をあたえているのではないだろうか。

調査企業のうち最も人事面での現地化が進

んでいたのはB社で,メキシコ工場はメキシ

-164-

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コ人のみで操業され,メキシコ人の工場長が

通常の運営に関しては責任を負っていた。し

かし,この工場は分工場的な性格を帯びてお

り,新製品生産開始時における生産・製造技

術などのほかには意思決定権はなく,メキシ

コ人責任者は意見を述べる麓度にとどまって

いる。一方, A社とC社では,日本人社長が

常駐し,日本人従業員も働いているが, B社

と比べるとより多くの裁量権を保有してお

り,臼本本社の意思決定に従う部分もあるが,

独自で自主的な活動も問時に行っていた。こ

のように, L、ずれの工場においても,メキシ

コ人従業員が最終的な決定権まで、担ってはお

らず, 日本人がその決定権を担っている。し

かし,生産管理や総務部門などのその他の工

場運営に関する部門においてかなりの現地化

が行われているという印象をうけた。現地化

の推進に関してのネックは,顧客が日本人で

あることや本社内の国際化が進行していない

ため,言語的な問題があることが特に指摘さ

れた。

6. スピン・オフによる起業

インタビュー謂査をおこなった日系マキラ

は,技術者やマネージャークラスの従業員に

対する教育は特に積極的に行われているが,

そのようにして得られた技術と経験をもと

に,スピン・オフし,自ら企業を設立した従

の例は過去に存在していなかった。この

原因として, C社ではメキシコでの資金調達

の閤難さを挙げている。このことも要因の一

つであろうが,メキシコの現地企業と部品の

耳元引を全くしようとしないマキラ企業の姿勢

もスピン・オフを阻む要因のーっとなってし、

る。また,成功者の前剥が全くないため,起

業に対するリスクも大きく感じられ,なかな

か経営者として独り立ちをすることに踏み切

れないのかもしれない。このような問題は存

在しているが,今後のスピン・オフの可能性

が全くないというわけで、はない。ティファナ

内のマキラ企業は増加しており,従業員数も

増加しているため,各企業内で多国籍企業の

保有する洗練された経営手法や高度な技術を

身に付けた従業員もまた増加している。その

ため,今後この中からスピン・オフを行う従

業員が出ることも有り得るからである 13)。

7. 地域社会への利益の還元

地域社会への貢献で、は, A社, B社では自

主的に利益を還元していこうとしづ姿勢は見

られなかったが, C社では,売り上げの 0.1%

を地域社会へ貢献することをモットーとして

おり,独自で寄付活動を行っていた。 A社,

B社は独自の寄付活動は行っていないが,日

本マキラドーラ協会 CJa pan Maquiladora

Association : JMA)に所属しており,そこ

からの寄付活動に隠接的に参加しているとい

う状況である。

ティファナはインフラ不足の問題と陸部し

ているが,それらに対する投資は3社とも行

われていなかった。しかし,マキラ企業の社

会インフラへの投資が全く行われていないと

いうことではない。現地でのインタビュー調

査によると,マキラ企業の中には,従業員舟

の住宅や橋,医院などを建設し,社会インフ

ラに投資を行っている企業も存在するとい

う。

8. ティファナの産業政策

ティファナという地域は,マキラ企業が進

出する以前には製造業の発達がほとんどな

く,進出時に中間財の生産を行えるような企

業が存在していなかった。マキラ制度は,陣

内経済の発展不均衡を軽減するためにとられ

た政策で,主な目的は雇用創出効果をねらっ

165-

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途上国の地域開発と多国籍企業

たものであった。マキラは,メキシコの安価

な労働力と免税での中間財の輸入,米国の

マーケットとの近接さを利点として成長し,

当初の政府の目的は達成したと言える。メキ

シコ政府は,自動車産業やコンピュータ産業

などの分野において閣内企業の育成をすべく

閤産率の取り決めを行い,それらの分野に進

出してきた多国籍金業に協力を求めるという

ことを行ってきたが,マキラへの進出企業を

挺子として閣内企業の成長を促すような具体

的で有効な政策はとられることがなく,ティ

ファナなど北部国境地域におけるマキラ企業

の独壇場が形成される結果となった。また,

その結果,マキラ企業の「飛び地」的な状態

が長期にわたって継続されることとなった。

ティファナにおいても,政府による低金利で

の貸し出しゃ圏内サプライヤーを紹介するエ

キスポなどのノミックアップなどの試みはなさ

れているが,現在の状況から判断して,それ

ほどの効を奏していないと言える。

(3) まとめ

3社のインタビュー調査において,マキラ

が労働集約的で安価な労働力のみを利用する

産業だけではなく,生産工程における自動化

が進行していることや,組立工程以外の加工

工程にも着手していることが確認できた。ま

た,マキラ企業内では人材教育が活発に行わ

れていることや現地化も進行しつつあること

などが確認でき,優秀な人材が育成されつつ

あることも分かった。しかし,一方で,これ

らのマキラ企業の輸入品の使用度合いが高

く,現地民族企業との関わりがなく,地域経

済との関わりの少なさが確認できた。また,

最近の傾向としては,日系マキラ企業間での

中間財取引が増加しており,日本で部品を生

-166

産している企業のマキラ進出がなされてい

る。それらの企業は,日本で取引関係のあっ

た企業だけで、なく,他のマキラ内の企業との

取引も行っており,マキラ企業が現地調達を

望む一方,地元企業との技術的なギャップや

情報不足のため,両者間のリンケージ形成が

困難となっていることを裏付けている。

このような状況の中では,やはりマキラ企

業がティファナに与えた影響もリンケージが

形成されている状態と比較すれば大きなもの

ではない。さらに,マキラは,人口の急激な

増加,住民の教育水準の向上,人口圧力によ

る都市化時題の発生,環境問題,製造業の発

達,就業構造の変化などに対して影響を与え

たと考えられるが,このすべてがマキラとい

う要素のみで生じたとは言えない。つまり,

マキラの成長や,米関との地理的距離,メキ

シコ経済の不振などティファナという地域を

取り巻く様々な環境が絡み合って,これまで

のティファナの発展に影響を与えているので

ある。例えば,移民の流入による人口の高い

増加率やティフアナの教背水準がメキシコ全

土の平均と比べて高いということも述べた

が,国境に位置し,米国での就業の可能性が

あるためマキラ企業の存夜だけで、起こった結

果であるとは言えない。また,ティファナに

移住してきた人の多くはサービス業や商業,

マキラ以外の製造業などに就くことが多く,

マキラで就業する人々の割合は,移民労働者

の 9%にしか過ぎなかった(Canales C.

1993)。つまり,マキラ会業内で{動く人々の多

くはティファナ生まれで、あり,移住者の占め

る割合はそれほど多くない。これは推測でし

かないが,マキラ企業での就業にはある程度

の学援が必要となるため,南部の低開発地域

から移住してきたその資格を保持しない人々

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表7 調査企業概要

A担:

累積投資額 IN$ 9帆 000

株主構成 l米国法人l州出資。

主要生産品目 l電子νンジ胴圧トラ γ

ス・各稜低周波変成器・

高周波変成器・電源器機

生産実績(金額〉 I 45百万 US$(1996年会計

年度:米国本社との総

計〕

従業員数 365名

湾住職率 rn間〉 9.7%

製品輸出率 メキシコ国内で生産した

ものの80%が米国,その

他20%がブラジルへ輪出

される。

製品販売先 輸出先:製品の販売は,

米国本社に100%納品。主

にうた閣外内の日系家電企

業の海外工場に納品され

ている。

原材料の現地調達率 米国・メキシコとあわせ

て80%程度。メキシコで

の材料調達率は,絡やス

キットなどのみ。

原材料の調達先 米関,臼本,東南アジア

など

日本人従業員数 5名

筏本人従業員の職位 社長~マネ ジャーま

で。

(出所〕筆者作成

はその部門での就業が困難なためかもしれな

し、。

最後に,マキラ企業がティファナに与えた

影響を考察する上で,今回の謂査では企業を

訪問しインタビューを行うとし、う方式をとっ

たため,企業僻から見た地域社会との関わり

しか見れていないとも考えられる。例えば,

B社 C社

5,000US$K 600万ドノレ(資本金〉

米国法人100%出資。 米国法人100%出資。

アンテナ,ジャック板, カラーテレビ・ブロジェ

コントローノレノミネル, クションテレピ・カラー

キーボード,スイッチ, テレビシャーシー

リモコンユニット

32百万 US$ 466百万 US$(1995年実

綴〕

422名 25781<,

3.55% 3~5%

100%。ただし,ティファ メキシコ器内で生産した

ナ|勾のマキラへの納品有 ものの80%が米国,その

り(リモコンは90%程度 他20%がブラジノレへ輪出

ティファナ内の企業に納 される。

IJ仁口1。ノ\。

米関。圏内販売先はなし 輸出が99%を占める。メ

〔マキラ企業を除く〉。 キシコシティの間社工場

iへの融品を行っている。

1%未満。(段ボールなど 段ボールなどのみ。

のみ〉

米民, 日本,台湾他 米国・東南アジア・日本

など。

。名 18名

なし 支任者やマネージャー。

技術開発担当者など。

工場が設立されている地域は,インフラも

備されていることが多く,中産階級の住宅地

となっていた。また,アイスクリームやタコ

スなどの移動式の屋台などが工場の休み時聞

をめがけて工場を訪問し,蕗品の販売を行っ

ていた。工場の周りには,工場が立ち並んで、

はいるが,食品を販売しているような店舘は

167

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途上国の地域開発と多国籍企業

なく,多くの直接工員が休み時間にそれらを

利用していた。本当に「飛び、地」を形成して

いるマキラ企業の地域社会への影響を調べる

には,こういった状況も考慮に入れたより広

範な調査が必要であり,今後の課題としてい

きたい。

第4節結 語

本稿では,多圏籍企業と地域の発展への関

連と「飛び、地」下における多国籍企業の地域

に与える影響について,メキシコのティファ

ナ地域をケーススタディとして検証した。「飛

び地」とし、う状況では,多国籍企業の持つ発

展のためのエンジンとしての効果が限られた

ものであり,その状況を打開するような努力

がどれほどなされるかが今後の発展の鍵を

援っている。そこで,ヌド稿のまとめとして今

後のティファナの発展の可能性について述べ

る。

ティファナにおいて,今後,現地企業が自

立的な活動を展開していくようになるかどう

かについて,はっきりとした兆候は今回の調

査では残念ながら見られなかった。例えば,

有能なマネージャーがマキラにおいて育成さ

れつつあるものの,オーナーになろうとする

はほとんどおらず,メキシコ人の企業家精

神の欠如をかし、ま見た。また,既存の民族企

業においても,さらにレベルアップを閤り,

事業を拡大していこうとしづ意欲があまり見

られないという状態である 14)。しかし,ティ

ファナの安定的な成長のため,やはり必要と

なってくるのは現地の企業が成長し,多国籍

企業とのローカルリンケージを形成していく

一方,自立的な活動を行えるようになること

であろう。というのは,ティフアナの産業で

は商業やサービス業が大きな割合を占めてい

るが,それらは米国からの観光客に依存して

いる状態であり,米国経済の好不況によって

左右され,安定的な成長を必ずしも約束して

いないからだ。また,近年,ティファナにお

いて,インフラや労働力の不足,地代の上昇,

労働争議などマキラ企業の集中化に伴うコス

トデメリットが発生しつつあり,それを避け

るために同州内にあるメヒカリ市に進出する

企業も増加しているとし、う状況である 15)(『日

本経済新開』1997年 11月13臼朝刊〉。このよ

うな状況のため,今後ティフアナのマキラの

成長が鈍化することも考えられるのである。

それで、は,ティファナでマキラ企業の「飛

び地」的な状態が長期にわたって継続されて

いる原因はどのようなものか。マキラ金業が,

現地サプライヤーからの部品調達に関する決

定権を保持していないということも考えられ

るが,それよりも重大な問題は,現地サプラ

イヤーに,マーケットリサーチや広告,販売

促進といったマーケット戦略の能力ないこと

や全般的な技術力が不足していること,営業

規模の小さいことなどの問題である。その結

果,彼らは,マキラ産業が必要とする中間財

に関する情報や要求される品質に対する情報

などが得られず,中間財の質と納期に関する

認識が不足したままの状態である。また,た

とえその情報が手に入ったとしても,現在の

食業の技術力では,それらの中間財の生産は

かなり難しい状態である。

2001年のマキラドーラ制度魔止後,多国籍

企業がどのように事業を拡大していくかを正

確に予測することは罰難である。しかし, 日

系マキラに関しては, NAFTA域外からの財

には関税が付加されるようになるため,域外

から輸入している中間財を現地サプライヤー

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からの供給へと変更していくことがし、くらか

は進行していくと予測される。その過程にお

いて,現地の畏族企業がいかにしてマキラ企

業のサプライヤーとして成長していくことが

できるかどうかが,今後の自立的な発展を促

す鍵となるであろう。しかし,セット・メ

カーの進出に伴い,本国で下詰け関係や耳元引

関係のあった企業が相次ぎメキシコにも進出

している。これらの企業は,メキシコの現地

企業と比べて,格段に技術力や生産管理能力,

~た,セットメーカーとの信頼関係をもって

おり,それらの企業を押しのけて民族企業が

最初から供給会社となることは事実上不可能

である。そのため,部品供給のために進出し

てきた企業が生産していない財を生産する

か,ニ次下請け,三次下請けなどの位翠から

スタートすることで,ある程度多留籍企業子

会社との関わりを持つ可能性が残されてい

る。

,ティファナの場合には,園内の交通

インフラが不整備のため,中間財調達の新規

開拓をする際に米国企業主ど選択することもお

おいに考えられる。つまり,米国の部品メー

カーなどが現在アジアから輸入している部品

などの供給を行うという可能性もある。そう

なると,メキシコ企業と米関部品メーカーと

が競争してし、かなければならないとし、う状況

が生まれることとなる。技術的なレベルにお

いては,米国企業の方に優位性があると考え

られるが,賃金ではメキシコ制が安備な分だ

け有利である。このように,アジア諸国から

輸入している部品の現地生産へのシフトは,

一概にメキシコにとって不利とし、う状況では

ないが,技術力の差を考えるとあまり明るい

ものでもない。

インタビューで、のヒアリングfこよると,メ

キシコ政府は,台湾がコンピュータ生産の一

大拠点となり民族企業の成長を促したのと向

様に,メキシコがテレビ生産の一大拠点化し

経済全体が発展する事を望んでいるとし、う。

ティフアナは,多くの日系企業がテレビの生

を行っている地域であり,この意味で重要

な戦略地域となっている。メキシコ政府は,

現在も外資系企業の誘致を熱心に行っている

が,台湾のような経済発展を望むとするなら

むしろ国内企業の育成にもっと自を向けるべ

きである。これまでのところ,メキシコ政府

による圏内サプライヤーの発達を手助けする

継続的なプログラムはなく,中小企業振興政

策は現在まで効を奏したことはなかった。銀

行の金利も利益が得られると期待できるほど

低くなく,政府の檎助プログラムは小競模の

現地製造業企業にはあまり知られていなかっ

た。そして, 1994年の債務危機以来,中小企

業の多くは瀕死の状態であると言われてい

る。このような状況下で,メキシコ政府がマ

キラを閣内の発展の触媒として利用しようと

するならば,政的による低金利での貸し出し

ゃ国内サプライヤーを紹介するエキスポ,さ

らに工業試験所の設置や技術支援などのパッ

クアップを行い,企業閣のローカノレリンケー

ジをうまく作り出していく必要がある。

ローカルリンケージは,同じ部門のそれぞ

れの企業が相互連関をもち協力しあうような

ネットワ…クを作り出すことで形成されてい

くIへそのため,大規模な外資系企業とメキシ

コの中小企業や零細企業では,技術レベ/レや

品賞,納期面での正確さなどの様々な点にお

いて,要求水準が著しく異なっており,最初

からローカルリンケージを生み出すのは関難

であろう。そこで,現地の中小企業聞や民族

系の小規模なマキラ企業との間でのネット

169-

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途上国の地域開発と多国籍企業

ワークをうまく作り,情報交換や相互扶助を

行うことによって全体的なレベルの底上げを

行っていくようにすることが最初の一歩とし

て考えられる。また,多国籍企業の現地産・

国内産の部品需要があることもネットワーク

形成の一回であるため,多国籍企業と現地調

達率に関する交渉を行い, ローカノレリンケー

ジ作りを働きかけることも必要であろう。

一迂

1 )経営資源とは,企業が経常活動を行う擦に必要

とするものであり, ヒト・モノ・カネ・情報といっ

た資源のことである。

2)閣内経済への波及効果を輸出加工区に期待する

来事態に対して,懐疑的な見解も草子夜する。それ

によると,輸出加工区は本来,「飛び地」的純二絡を

当初から賦与されたもので,それによって外資が

導入でき輸出や雇用が胤z大できれば日擦は十分に

達成されたことになると考える。その場合,後方

連l*l効果を通じて国内経済への波及をオとめること

は確かに望ましいが,輸出加工区のヌド;設ではない

とも言われている。(藤森編 1978)

3)マレーシアでは,電気・電子産業の生産の 90%

が自由貿易区の外資系企業でなされている。この

現地調達率には,現地企業も含まれているが,{自

に日系金業や欧米企業,アジア諸国の金苦笑も合ま

れている。 il/id逮企業数のうち現地企業数の占める

割合は, 49.7%(1988年〉と最大であった。マレー

シアで,このようなリンケージカリ移成されたのは,

1980年代の円高により日本からの調達コストが

上昇したために,生産に必要な原材料・部品・コ

ンポーネントなどを現地調達に、ンフトさせたため

であった。

4)マキラドーラとは,メキシコの保税加工制度の

名称で、ある。 1965年に米国との国境沿い幅 20km

以内と国内の一部の地域に保税加工工場設置を許

可したことに始まる。現在では,メキシコ・シティ

を除くどの地域にも設立可能となっている。〔丸谷

170

1989)また,マキラドーラ制度は, 2001年に廃止

されることが NAFTAにより決定されている。

5) 1996年 12月の物価水擦は, 1994年を 100とす

ると,ティブアナの物倒は 213.350で,メキシコ

平均は 200.388であった。ティファナのこの数字

はメキシコ国内の都市の中で最も高い数字であ

る。 (INEGI1997b〕

6〕メキシコのマキラドーラは,現地資本で、の設立

も可能であるため,マキラドーラ=多国籍企業と

は一概には震えない。しかし,マキラドーラ企業

の多くは外資系のま託業の子会社もしくは合弁会社

であることと,資料との制約より,ここでは,マ

キラドーラを多国籍企業の活動として見なし,分

析を進めることとする。

7)そのほかメキシコ内には,三菱がメヒカリに東

芝がシウダ・フプレスに進出し,テレビ生産を行っ

ている。

8〕最低気金は,政府により 3つの地区に区分され,

設定されている。ティファナは最も治\\,、賃金の設

定となっているA地区に属している。敢11¥;fi金は,

年に 1~3l'il改定され発表される。 1997年 1月に

制定されたA池区の絞低賃金はEl給 26.45ベソと

なっている。

9 ) 1990年の 15~64歳の人仁!の占める割合は,メ

キシコ国内王子;均が 57.2%,テイブアナが 61.0%で

あった。(XIPopulation Census 1990〕。

10)しかし,教育水準が高くなっているのは,労働

者の流入と同様に,マキラドーラだけが喜空間では

ないと思われる。テイブアナでは,ティブアナに

民住しながら米国内で勤務する労{勤務も労働人ね

の8%程度:おり,彼らの方が賃金はおい。これも

また,教育へのインセンティブとなっていると考

えられる。

11)ティファナの急激な人口増加は, ~tに移民の流

入によって起こったものである。

12)しかし, C社で、は研修のため,大卒技術者も現

場の作業を行わせている。

13) c社の技術野自発部門の係長はj今後C社を退社

することは考えていないが,将来,友人と共同で

会社を設立してみたしリと将来の夢を話してくれ

7こ。

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14)筆者の現地でのインタビューによると,ある日

系金粂が,部品供給先を求めて 10社に交渉合行っ

たところ, 1社のみが技術力の向上を隠り,新製

品の生産務手にとりかかろうとしづ姿勢を見せた

としづ。他の 9社は,現状のままで満足しており,

それ以上の卒業の発展を望まなかった。

15)メヒカリの地代は10%~20%ティファナより

も安く,価格競争力を維持したい企業は少しでも

コストを低く押さえたいため,メヒカリの方が進

出先として魅力のある地域となりつつある。メヒ

カヲには 1997:if三に,ソニー, NEC,大字電子, LG

電子,エイサーなどの日系,アジア系の食業が,

粉次いで、既存工場の設係拡大や新規投資を行って

おり,その総綴は 2fjなドノレにものぼっている。

16〕第2節で述べたイタリアのボローニャ市の分工

場経済からの転換における重姿な姿索は,中小食

主義集団の効果的なネットワークの形成であった。

このネットワークのや心的存在となっている迎合

体は,方日躍するi隣人全業の財務会計,給与に関す

る基本的サーピ、スの他にも広範なサービスを提供

しており,小規模であることの柔軟性を利用しな

がら,様々な分野における企業の共同化合促して

いる。また,州と自治体もこの連合体を産業政策

の中心に据えて,その発展を支援するような政策

なとっている。このような民間金業のネットワー

クの形成とそれに対する地方政府の支援により,

この地方は関係競争力を持つ自律的な都市経済を

持つようになっており(宮本他綴 1990〕,企業の

ネットワークを形成することは現地企業発展に

とってE主主きであると考える。

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謝辞

本稿の執筆にあたっては,企業の方々は忙

中にもかかわらず,インタビュー調査に了寧

に応じてくださった。また,横浜国立大学経

営学部の児佐善和先生にはティファナ地域の

日系企業に関する貴重な情報を教えていただ

いた。この場において,厚くお礼の言葉を申

し上げたい。

172-