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仏教民俗行事の自然調和について 色彩環境の分野から 五十嵐 (西 山短 期 大 学) 仏教行事のなかには,自然事物を背景にあるいはそれを取り入れて行わ れていることが多い。中でも迎講は,自然を舞台として現実に仏世界を現 出する仏教民俗行事として知られている。この来迎会を調査の対象に選ん で色彩環境の面から,自然との共生について察を試みた。 1 色彩学の分野にも環境をテーマにした研究報 告が多くなされるようにな っている。これらは基本的には自然との調和を目指すものであり,自然環 境をモチーフに選んでいることが少なくない。殊に自然の環境破壊を伴う 人為的構築物の建設には,自然環境と色彩的に調和したものでなければな らない時代となっている。現今,色の公害は,都市の環境に突然に現われ るバス電車等の交通機関,看板広告塔,マンションビルなどの建築物が住 民の反対運動によって社会問題化し,さわがしい騒色として不名誉な 市民権を得た。自然環境あるいは景観の色彩に関連して,色彩学がエコロ ジーに貢献できる可能性は大きい。 今回,仏教民俗行事の色彩調査を実施するなかで,自然を舞台とした迎 講を対象に興味ある結果が得られたので報告する。 迎講いわゆる来迎会は,二十五菩薩練供養とも呼称され,源信の始修を 121 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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仏教民俗行事の自然調和について色彩環境の分野から

五 十 嵐 之(西山短期大学)

仏教行事のなかには,自然事物を背景にあるいはそれを取り入れて行わ

れていることが多い。中でも迎講は,自然を舞台として現実に仏世界を現

出する仏教民俗行事として知られている。この来迎会を調査の対象に選ん

で色彩環境の面から,自然との共生について 察を試みた。

1 序 論

色彩学の分野にも環境をテーマにした研究報⑴

告が多くなされるようにな

っている。これらは基本的には自然との調和を目指すものであり,自然環

境をモチーフに選んでいることが少なくない。殊に自然の環境破壊を伴う

人為的構築物の建設には,自然環境と色彩的に調和したものでなければな

らない時代となっている。現今,色の公害は,都市の環境に突然に現われ

るバス電車等の交通機関,看板広告塔,マンションビルなどの建築物が住

民の反対運動によって社会問題化し,さわがしい 騒色 として不名誉な

市民権を得た。自然環境あるいは景観の色彩に関連して,色彩学がエコロ

ジーに貢献できる可能性は大きい。

今回,仏教民俗行事の色彩調査を実施するなかで,自然を舞台とした迎

講を対象に興味ある結果が得られたので報告する。

迎講いわゆる来迎会は,二十五菩薩練供養とも呼称され,源信の始修を

121仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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思想的根⑵

拠とする。僧都伝には, 厳院の東南に精舎を建立し,金色の

丈六弥陀仏を安んじ,これを花台院と号す。すなわちその地勢に就きて来

迎行者の講を修す。菩薩聖衆は左右に圍遶し,伎楽供養,歌詠讃嘆するこ

と,すでに年事となる。 とあるように,自然のなかでしかもその地勢環

境を生かした来迎引接の行事として出発したことがわかる。

来迎会は,二十五菩薩等の菩薩面を着け,衣裳を纒い,持物楽器を携え

て,娑婆堂と本堂に架かる来迎橋を渡御する会式で,行列は色彩きらびや

かで異彩を放ち,往生人を迎え,あるいは極楽往生を願う者をして,極楽

世界の情景に浴させたであろうことは想像に難くない。現在迎講は,現行

非現行を含め二十ケ寺を優に越⑶

え,近年,長岡京・総本山光明寺において

は,西山国師七百五十回遠忌を期して新装復興している。時期を同じくし

て,關信子氏は, 迎講阿弥陀像Ⅱ⑷

に,当麻寺が氏寺から当麻曼荼羅信

仰の寺へ移行する背景として,迎講の本尊阿弥陀像造立に言及し,像造立

が仁治3年(1242)から寛元3年(1245)までと推論し,それは丁度西山

国師證空が当麻寺参詣の寛喜元年(1229)より連なる時期であることから,

当麻寺の迎講も證空の始修であろう可能性を指摘していることである。奇

しくも西山派における行道会は,光明寺を含め数ケ⑸

寺がこれを執行してい

ることは,慶事に価しよう。

さて,今回迎講を代表する二ケ寺として,歴史的発祥を原点とする当麻

寺と,中将姫霊跡である和歌山有田・得生寺の練供養行道の色彩標本調査

から,色彩の収集と自然環境調和を測定し,イメージ言語による多変量解

析を実施した。

2 色彩の収集と測定

当麻寺(A)と得生寺(B)の迎講の自然環境6色(空の青2色,木々の

122 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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緑2色,地面の2色)を含む測色は,標準色との色比較 JISZ8723規格

による視感測⑹

色から標本を収集し,誘目性上位36色を選定,これをマンセ

ル表示系の色彩カードに同定する。この表示誤差は,△H(色相),△V

(明度)それに△C(彩度)それぞれ2.5,1.0,2.0を越えない範囲でよい

一致を見ている。(表1)

最初のグラフは,色相環による調和を見たもので5Yを中心に景観色の

特⑺

徴とされるYRに集中した分布が得られ,色相角の総合的調和を形成し

ている。(図1A B)

次に図2は,色相明度の関係を示したもので,現地における自然環境の

6色(前述)を含む36個のデータは,曲線のナチュラル・シーケンス(自

表1 色彩標本

A B

1 5R5/14 7.5R5/14

2 7.5R5/14 5G8/4

3 5G7/8 5BG8/2

4 5G6/6 5G7/2

5 N9 5BG6/2

6 N8.5 5BG4/2

7 10YR7/14 10PB3/12

8 2.5YR6/12 N9

9 2.5Y7/10 5PB4/12

10 2.5GY8/10 2.5RP3/10

11 7.5Y8/12 7.5Y8/12

12 2.5P3/12 5Y8/14

13 10YR7/10 2.5Y8/14

14 5PB4/12 2.5Y7/10

15 2.5Y8/12 5YR6/10

16 5Y5/6 7.5R4/12

17 5YR7/8 10B5/6

18 5PB3/10 2.5YR5/8

A B

19 10GY7/4 2.5YR6/12

20 5G8/2 10BG5/6

21 10Y9/8 7.5G5/8

22 2.5GY9/6 2.5RP3/10

23 10Y5/6 7.5Y8/8

24 2.5Y7/14 N7

25 Gold Gold

26 10GY4/4 10YR7/14

27 7.5G4/2 2.5Y5/4

28 7.5PB3/12 5YR7/14

29 2.5Y4/2 5R4/14

30 2.5Y8/10 2.5Y8/12

31 5PB6.5/7.5 5PB6.5/7.5

32 5B7.5/2 5B7.5/2

33 5G4.5/9 5G4.5/9

34 5GY7/12 5GY7/12

35 5Y7/2.5 5Y7/2.5

36 7.5YR9/3 7.5YR9/3

123仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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然配⑻

列)の3トーンに対応してよく一致していることがわかる。ナチュラ

ル・シーケンスは,自然界の配列が滑らかな山型曲線で構成される分布曲

線で,色調の目になじむことを要求している。自然の色は,全てこの曲線

上に分布するとされる。図より,ABどちらも良好な色彩調和と共に,自

然配列を完成していることが明瞭となった。自然環境を背景に人為的に構

築された練供養の色彩調和は,図らずも自然界の色の順列に沿った自然配

列をなしている。最近の色彩学における研究成⑼

果は,景観評価における色

彩の役割の重要性を指摘している。迎講は,数十分間の演出ながら周辺の

自然環境と良い色彩調和を呈し,来世を指向する仏世界の演出と現世の自

然環境とが良く融和している。

3 イメージ調査

二寺院の行事から収集した色彩標本を用いてイメージ調査を試み,コン

A B

図1

124 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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図2

125仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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ピュータによる多変量解析を行うことにより,その潜在的イメージ因子群

を抽出した。標本は主調色として収集同定した36色の色彩カード(35×

43㎟)をパネルに貼布する。パネルは300×320㎟のN9の白紙に貼布順は

ランダムに選んでいる。色彩の収集は,平成元年5月14日(練供養正当日)

以来今年まで数⑽

回に及び,午後1時から4時の間に実施した。

作成した標本パネルABを被験者の西山短期大学環境学受講生23名に提

示し,20語のイメージ言語で評定させる。イメージ言語は,小林重順らに

よる日本人の共通に大切にしている感性言語の上位20個を採用した。被験

者には,この調査目的,色彩パネルの内容については説明せず,それぞれ

のパネルのイメージを7段階の評価で答えさせた。この調査は,平成10年

7月1日当学の外光の入る広い教室で実施した。

4 多変量解析と 察

多変量解析は,多くの変量をもつ情報を少数個の潜在的因子の推定によ

って行うものでパーソナルコンピュータによる因子分析を用いて因子数を

抽出し解析を行うものである。因子数は,固有値と累積寄与率から求めら

れ,因子数の抽出が直交回転後の因子負荷量の解析を可能にする。

当麻寺と得生寺における20イメージ言語の基本統計量を表2に示す。平

値が絶対値0.2以上で,イメージ言語の全体に占める比率は,当麻寺で

45.4%,得生寺で50.0%と大きい刺激値をもつ。因子分析は,これらの変

数間の関係を成立させる潜在因子を決定する方法であるから,上述の顕在

的統計量の情報を圧縮する必要がある。表3は,固有値と寄与率それに累

積寄与率である。表より,固有値に対する累積寄与率の傾斜が50%を越え

る所で大きく減少していることから,当麻寺は第三因子まで,得生寺は,

詳細に観察すると第二因子まで抽出することが決定される。これを主因子

126 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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法の因子負荷量で見ると,それぞれの因子数にわたって因子負荷量の分布

が推定されるが明瞭でない。そこでバリマックス直交回転によって因子負

荷量を算出し,絶対値0.4以上で他の因子負荷量が0に近い因子を分析す

る。変数が一つの因子にのみ大きい因子負荷量をもつ必要性から因子の所

属する因子群が明確になる。表4より,当麻寺の第Ⅰ因子は,1かわいい,

3自然な,5上品な,第Ⅱ因子は,7おちついた,14家庭的な,16素朴な,

19清楚な,20のどかな,第Ⅲ因子は,8優雅な,11楽しい,12健康な,15

のびのびした,で構成される三次元的意味空間に3群に分布し,得生寺で

表2 基本統計量

イメージ語 A 平 分散 B 平 分散

か わ い い X(1) -0.7273 3.2554 X(1) -0.2273 2.7554

さわやかな X(2) -0.1818 3.2035 X(2) - .2727 2.7792

自 然 な X(3) 0.0000 2.8571 X(3) -0.0909 2.2771

新 鮮 な X(4) 0.0909 3.2294 X(4) 0.0000 2.3810

上 品 な X(5) -0.4091 3.0152 X(5) 0.3182 2.2273

理 知 的 な X(6) -0.4545 1.4978 X(6) 0.0909 1.1342

おちついた X(7) 0.3636 3.2900 X(7) -0.0909 1,7056

優 稚 な X(8) 0.0455 2.7121 X(8) 0.3182 1.0844

や さ し い X(9) 0.4545 2.0693 X(9) 0.5000 1.6905

親しみやすい X(10) 0.2727 1.7316 X(10) 0.9091 2.2771

楽 し い X(11) -0.1364 3.0758 X(11) 0.5000 2.6429

健 康 な X(12) -0.0909 2.5628 X(12) 0.6364 1.2900

平 和 な X(13) 0.8636 2.0281 X(13) 0.5455 1.9740

家 庭 的 な X(14) 0.1364 2.4091 X(14) 0.1818 2.1558

のびのびした X(15) -0.1818 2.8225 X(15) 0.1818 2.2511

素 朴 な X(16) 0.5000 3.7857 X(16) 0.2273 1.8983

シンプルな X(17) 0.3636 2.7186 X(17) -0.1364 3.2662

清 潔 な X(18) 0.0000 2.7619 X(18) 0.2273 0.6602

清 楚 な X(19) 0.0455 2.5217 X(19) 0.0455 1.9502

の ど か な X(20) 0.5455 3.4978 X(20) -0.0455 2.6169

127仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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は,第Ⅰ因子は,5上品な,6理知的な,8優雅な,14家庭的な,18清潔

な,19清楚な,20のどかな,第Ⅱ因子は,1かわいい,2さわやかな,3

自然な,10親しみやすい,11楽しい,16素朴な,で二次元意味空間の2群

に分布する。そこで両寺の共通因子群命名を行うと,当麻寺のI群と得生

寺のⅡ群は,共通因子名として ナチュラル と命名し,当麻寺のⅡ群と

得生寺のⅠ群は共通因子群として やすらか と命名し,当麻寺のⅢ群は,

すこやか とした。(図3A B)

命名の3因子群は,環境の二側面である恵与,阻害的側面のうち,恵与

表3 固有値・寄与率

A 固有値 寄与率 累積寄与率 B 固有値 寄与率 累積寄与率

1 5.6538 28.2692 28.2692 1 6.6921 33.4604 33.4604

2 3.9800 19.8997 48.1689 2 2.7863 13.9316 47.3920

3 2.8815 14.4076 62.5765 3 2.5434 12.7171 60.1092

4 1.6911 8.4556 71.0321 4 1.6816 8.4078 68.5170

5 1.2777 6.3886 77.4208 5 1.4023 7.0114 75.5284

6 1.1182 5.5909 83.0117 6 1.0630 5.3150 80.8434

7 0.9055 4.5274 87.5392 7 0.9927 4.9636 85.8070

8 0.5340 2.6700 90.2091 8 0.6531 3.2656 89.0726

9 0.5038 2.5190 92.7281 9 0.6354 3.1771 92.2497

10 0.4219 2.1093 94.8375 10 0.3706 1.8531 94.1027

11 0.2565 1.2824 96.1198 11 0.3183 1.5916 95.6943

12 0.2293 1.1464 97.2662 12 0.2963 1.4813 97.1755

13 0.1431 0.7156 97.9818 13 0.2058 1.0288 98.2044

14 0.1330 0.6652 98.6470 14 0.1646 0.8232 99.0275

15 0.1038 0.5191 99.1661 15 0.0741 0.3706 99.3982

16 0.0750 0.3750 99.5411 16 0.0452 0.2262 99.6244

17 0.0463 0.2317 99.7728 17 0.0353 0.1764 99.8008

18 0.0222 0.1112 99.8840 18 0.0172 0.0858 99.8866

19 0.0131 0.0654 99.9494 19 0.0118 0.0590 99.9456

20 0.0102 0.0508 100.0000 20 0.0109 0.0546 100.0000

128 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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的側面におけるキーワードに極めて近似していることから,環境の因子と

云っても良いであろう。迎講のバックとなる自然事象の青空,木々の緑,

地面の色彩のわずか6点を加えるのみの都合36色標本パネルによるイメー

ジ調査は,多変量解析によって潜在的3及び2因子群を構成し,しかも環

境のキーワードを表わす可能性を意味している。また やすらか 因子は,

前回調査した当麻曼荼羅変相図の潜在因子群 やすらか と良い一致を見

る。浄土のやすらかさを標 する安堵安心感を潜在する結果となった。き

らびやかで異彩を放ち,瑞容奇相とまでいわれる菩薩行道の練供養は,潜

在的に浄土のやすらかさを内包しているのである。

表4 回転による因子負荷量

A 1 2 3 共通性 B 1 2 共通性

X(1) 0.8075 -0.2825 0.3297 0.8406 X(1) -0.0966 0.8550 0.7403

X(2) 0.6115 -0.2307 0.6386 0.8350 X(2) -0.0613 0.7990 0.6421

X(3) 0.8585 0.0208 0.1372 0.7563 X(3) 0.1648 0.7400 0.5747

X(4) 0.4111 0.0816 0.5782 0.5100 X(4) 0.5525 0.5506 0.6084

X(5) 0.7560 -0.1334 0.2886 0.6727 X(5) 0.7432 -0.2460 0.6128

X(6) 0.0433 0.1202 0.2619 0.0849 X(6) 0.6371 -0.0301 0.4068

X(7) 0.2498 0.7734 -0.0531 0.6634 X(7) -0.2662 0.0333 0.0720

X(8) 0.1998 -0.2622 0.7628 0.6906 X(8) 0.5266 0.2197 0.3255

X(9) 0.6619 0.3875 0.1221 0.6032 X(9) 0.5244 0.6654 0.7177

X(10) 0.3594 0.4546 0.5939 0.6652 X(10) -0.0191 0.4343 0.1890

X(11) 0.1184 0.2179 0.7960 0.6951 X(11) 0.0702 0.5766 0.3374

X(12) -0.0357 -0.2287 0.7691 0.6451 X(12) 0.2638 0.1027 0.0801

X(13) 0.1420 0.0612 0.2028 0.0650 X(13) 0.4292 0.5157 0.4501

X(14) -0.0508 0.6571 -0.0333 0.4354 X(14) 0.7091 0.3276 0.6101

X(15) -0.1542 0.1446 0.7569 0.6176 X(15) 0.4988 0.4584 0.4589

X(16) 0.0737 0.8577 0.0021 0.7411 X(16) 0.1100 0.5092 0.2714

X(17) 0.7075 0.3700 -0.3218 0.7411 X(17) 0.4492 0.5967 0.5578

X(18) 0.5800 0.5390 -0.2214 0.6760 X(18) 0.7030 -0.0079 0.4942

X(19) -0.2653 0.6727 0.2663 0.5938 X(19) 0.7273 0.2770 0.6058

X(20) 0.0428 0.8226 0.3327 0.7892 X(20) 0.7563 0.1873 0.6071

固有値 4.1515 4.0447 4.1249 12.3211 固有値 4.7466 4.6158 9.3624

129仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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図3

A 回転による因子負荷量のプロット図

130 仏教民俗行事の自然調和について(五十嵐 之)

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今回の調査は,対象とする練供養に,周辺の自然の事象6標本を加えた

色彩標本より解析したものである。自然の色標本は数点とわずかながら,

殆んどのデータが自然配列(ナチュラル・シーケンス)と良い一致を見,ま

た完成させる役割を果している。色彩調和は,良い調和感が得られ,景観

の環境色に類似している。

迎講のルーツとされる降誕会あるいは下って稚児行列も自然環境の中で

行われる行事である。また堂宇内で行われる法会の荘厳も,わずかではあ

るが自然事物(花,草木など)で構成されていることも少なくない。仏画

の中に自然が描かれていることもしばしば見られる。この調査結果からも

自然環境に沿った色彩調和が一つの示唆を与えていると推論したい。すな

わち,自然環境の中で行われる迎講は,自然配列に沿った色彩環境で構成

図3

B 回転による因子負荷量のプロット図

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され,自然事象が色彩的に加わってこそ,その存在理由が意味を持つとす

る。次に因子分析の結果は,二ケ寺の迎講が,潜在因子評価として三次あ

るいは二次元意味空間で, ナチュラル , やすらか それに すこやか

因子群で構成され,それは丁度自然環境のキーワードに近似する言語概念

を意味している。環境学は,地球をとりまく自然環境破壊と人間生活の危

機感から誕生した学問といわれる。それは,科学技術,自然認識の無知か

ら生じたものではなく,人類社会の致命的欠陥からもたらされたものだと

いわれている。かの南方熊楠は,神社の森林の伐採が生態系の混乱を招き,

人間の心の暴挙までも引き起しかねないことを苦慮し,時の川村和歌山県

知事に宛てた書簡に, 諸草木相互の関係はなはだ密接錯雑致し,近ごろ

はエコロギーと申し,この相互の関係を研究する特種専門の学問さえ出で

来たり云々。 と、心の環境にまで及ぼす影響を危惧している。それは,

自然事象に心を慮る ナチュラル 性であり,心の やすらか で すこ

やか な状態を希求するものであろう。迎講の色彩収集調査から直ちに決

論付けることは出来ないが,現実の自然事物の存在が仏世界を演出構築す

る上で,共生の役割を担っていることを指摘したい。

結びにかえて

迎講という浄土教発祥の原点に遡る伝統的仏教民俗行事の色標本より色

彩学的に種々の解析を試みた。当麻寺と得生寺の行道会の色彩調和は良好

である上に,景観の特徴である5Yをピークに自然配列を構成している。

周辺の自然環境と良い調和感を呈し,ここに来世の仏世界が現世の自然感

と融和共生していると認識した。次にイメージ調査における多変量解析は,

潜在的三次元,二次元意味空間として位置付けられ, ナチュラル 、 や

すらか それに すこやか の命名因子群で構成され,しかも環境のキー

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ワードに近似する。自然環境の6つの色標本は,自然配列を補足し完成さ

せる役目を果しており,自然環境の中で行われてこそ,この迎講はその効

果が如何なく発揮されるのであろう。自然事物の存在が,仏世界を演出す

る主要な役割を果すと同時に,現実の自然環境がフィードバックして仏世

界の心の反映として共生の役割を担っていることに注目したい。

⑴ 例えば小林重順 エコロジカルカラーの調査方法―東大・小石川植物園の

四季色の研究― ( 日本色彩学会誌 21号,日本色彩学会,平成9年)

八木克全他 色彩環境に対する感性評価の検討 ( 日本色彩学会誌 21号,

日本色彩学会,平成9年)

⑵ 伊藤唯真 来迎会―その思想的周辺― ( 当麻寺来迎会民俗資料緊急調査

報告書 元興寺仏教民俗資料研究所,国書刊行会,昭和50年)

⑶ 民間念仏信仰の研究資料編 (仏教大学民間念仏研究会編,隆文館,昭和

41年)

⑷ 關信子 〝迎講阿弥陀像" Ⅱ―当麻寺の迎講阿弥陀像― ( 佛教藝術

223号,毎日新聞社,平成7年)

⑸ 総本山光明寺は平成8年11日26日新装復興,有田・得生寺は毎年5月14日,

中興開山明秀上人以来,法如二十五菩薩練供養大会式を執行,飛保・曼荼羅

寺では明治11年まで修行の由,加古川・西方寺では,享保以来の曼荼羅会に

平成元年5月3日より中将姫二十五菩薩練供養会式を得生寺より請来復興し

ている。

⑹⑺ 新編色彩科学ハンドブック (日本色彩学会編,平成10年)

⑻ 細野尚志他 デザインの色彩 (日本色研事業、平成6年)

⑼ 松浦邦男他 景観測色の基礎研究 1計器による測色実験,2視感による

測色実験 ( 日本色彩学会誌 21号,平成9年)

中山和美他 火力発電所の景観における色彩計画の重要性 ( 日本色彩学会

誌 20号,平成8年)

⑽ 五十嵐 之 二十五菩薩練供養の多変量解析による色彩学的 察―当麻寺

と得生寺について― ( 西山学報 第38号,平成2年)

小林重順他 日本人の色彩嗜好 ( 日本色彩学会誌 ,13巻2号,平成元

年)

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五十嵐 之 獨湛曼荼羅のイメージ調査における多変量解析 ( 西山学

報 第41号,平成5年)

岩槻紀夫( 生活環境論 南江堂,平成3年)

南方熊楠全集 (七巻,平凡社,昭和46年)

赤田光男他 民俗学を学ぶ人のために (鳥越皓之編 世界思想社,平成

元年)

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