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核膜孔複合体・核膜形成過程のイメージング
船越 智子、渡邊 愛、今本 尚子
背景と目的
核膜は遺伝子発現の場を作るダイナミックな膜構造体である。近年では、核機能と核の構築の
問題と密接に関連することが示唆され、その重要性に注目が集まりつつある。しかし、動物細胞
においては、核膜形成の機序やその分子メカニズムについてもいまだわかっていない点が多い。
核膜に存在する も顕著な構造体である核膜孔複合体は、総重量およそ100MDaにも及ぶ、約
30種類のポリペプチド鎖から形成された巨大なタンパク質複合体である。我々はこれまでこの核
膜孔複合体に着目し、その挙動から、ヒト増殖細胞において細胞周期に依存して規則的に変化す
る核膜サブドメイン“pore-free”領域が存在することを見つけた。核膜サブドメインは核膜が新生
される細胞分裂期、telophaseで形成された後、G1初期以降に解消されることを明らかにしている1)。核膜の構造変化の生理的意味に興味が持たれる一方で、こうした核膜サブドメイン形成の分
子基盤が不明であり、解析の端緒もつかめていなかった。 “pore-free”領域には核膜裏打ちタンパク質であるAタイプラミンやemerinが濃縮されている一
方で、BタイプラミンやLBR(laminB receptor, LBR)が排除されている。そこで、核膜孔複合体
構成するタンパク質、核膜の各サブドメインに局在する核膜タンパク質であるemerinやLBRに蛍
光タンパク質のタグを付け、細胞内で発現させて安定発現株を作製し、ライブイメージングを基
盤とした解析法を開発することとした。これらの安定発現株では核膜孔や核膜がラベルされ、そ
のダイナミクスをライブ観察することが可能となった。これらを利用し、核膜が新生される分裂
期に着目した形成機構の生化学的解析が可能な試験管内再構成系の樹立を目指した。また、核膜
孔複合体構成因子の安定発現株作成の過程で、核膜孔複合体膜タンパク質であるPOM121が核膜
孔形成に加え、核膜タンパク質の核内膜への輸送過程を追跡するための良いプローブになり得る
ことを見出した。POM121は核膜孔複合体形成や安定化に必須であり、核膜構造維持にも関わっ
ている3)。POM121の細胞内局在を規定する分子内領域を同定するとともに、間期における核膜
孔形成や、核膜タンパク質の輸送過程を解析する手法を開拓することを目標とした。
成 果
1.試験管内核膜再構成系の樹立
得られた安定発現株のライブ観察では、細胞分
裂期で POM121、LBR、emerin は、細胞質に広が
る同じ膜状の構造に局在し、核膜形成時に分裂期
染色体腕部に同時にターゲットする。その後、
emerin のみが速やかにキネトコア近傍、染色体“コ
ア”領域に集積することで核膜サブドメインが形
成される(図 1-A)。これらの細胞から細胞膜透過
性のセミインタクト分裂期細胞を調製し、細胞抽
出液と反応させたところ、セミインタクト細胞内
の POM121、LBR、emerin の3者が metaphase 染色図1) 核膜タンパク質の局在変化
LBR / Emerin / Tubulin Cytosol ( + ) , ATP (+)
5 min 10 min 20 min 30 min 40 min 60 min
Cytosol ( - )
60 min 60 min
ATP (-)
LBR / Emerin
A) Live
B) In vitro0 min 3 min 6 min 9 min 12 min
Cytosolfluorescently labeled LBR & Emerin
+ ATP
semi-intact mitotic cell
-121-
体腕部へ先ず同時にターゲットし、その後 emerin のみがコア領域へ強く集積するという、生細胞で見
られた核膜サブドメイン形成反応を試験管内で再現することができた(図 1-B)。核膜の metaphase 染
色体腕部へのターゲットと emerin のコア領域への集積は、いずれも細胞抽出液の可溶性成分と ATP
に依存する(図 1-B)。Metaphase 以降の染色体周辺には既に核膜が形成され始めているが、興味深い
ことに LBR は、反応時間経過にともなってさらに集積し、その場合は ATP 依存だが細胞質成分を必
要としない。細胞質成分の依存性は分裂期の進行状態によって異なる可能性を示唆している。
私たちは、細胞分裂期において因子の染色体ローディングに核-細胞質間輸送因子の関与を示して
いる3)。核—細胞質間の物質輸送には運搬体である Importin ファミリーと、その方向性を規定する Ran
によって制御さることが良く知られている。POM121 分子内には核移行を担う複数の塩基性アミノ酸
から構成される核移行を担うクラスター、NLS(nuclear localization siganl)が複数存在する(以下参
照)ことから Importin 因子との相互作用が予想された。実際に Importin は POM121 と免疫沈降に
よって共沈され、その相互作用は POM121 の NLS が担っていることがわかった。試験管内反応系に
Importin を過剰添加すると POM121 の染色体ローディングが阻害された。以上の結果は前核膜構造の
染色体ローディングへの核-細胞質間輸送因子の関与を示している。
2.POM121 分子内機能領域の同定 POM121 の細胞内局在を規定する分子内領域を同定するために、複数の POM121 断片領域や変異体
に蛍光タンパク質タグを付けて細胞に発現させ、それらの細胞内局在を観察した。POM121 内に存在
する複数の塩基性アミノ酸クラスターが核局在を規定する NLS として機能し得ることを見出した。
Ran の温度感受性変異株 tsBN2 に蛍光タグした POM121 の NLSs を含む領域を発現させ、非許容温度
下での局在を観察したところ、核膜ではなくその周辺部の細胞質中に存在し、それらが許容温度への
シフトによって核膜へ移行した。この結果は
Pom121 の核膜・核膜孔への局在化が Ran の制御を
受ける可能性を示している。上記の分裂期染色体へ
のローディングだけでなく、間期における核膜・核
膜孔形成にも核-細胞質間輸送因子が関与している
かもしれない。
この NLSs 以外に、核膜局在化活性を示す約 130
アミノ酸領域を同定した。全長 POM121 の免疫沈
降によって複数の核膜孔複合体構成因子が
POM121 と相互作用することが示されており、これ
らが核膜局在化領域と結合することで、効率よく
POM121 が核膜へ局在することが考えられる。
これら NLSs のアミノ酸置換変異体と核膜局在化領域欠損変異体は核膜に局在できなくなる(図 2)。
NLSs の核膜孔複合体形成における必要性が分裂期と間期で異なることを示す結果も得ており、現在、
間期における核膜孔複合体・核膜の形成にどのような因子が必須であるかを明らかにするため、RNAi
を組合せたライブイメージング解析を新たに進めている。
参考文献
[1] Maeshima, K. et al., J. C. Sci, 119., No., 4442-4451 (2006).
[2] Funakoshi, T. et al., FEBS Lett., 581, 4910-4916 (2007).
[3] Tahara, K. et al., J. C. Biol., 180, 493-505 (2008).
Pom121-Venus Pom121(NLSsmut)-Venus Pom121(NE)-Venus
FG-repeats(NLSs)
小胞体
1 1249
核内膜
核外膜
核膜 核質
図2) 局在を規定するPOM121分子内領域
A) POM121分子の模式図
B) NLSs変異体、核移行領域欠失変異体の細胞内局在
-122-